説明

摺動部材およびその製造方法

【課題】 画像形成装置内での転写パッドとしての使用に適した、優れた密着性と滑り性とを有する摺動部材を提供する。
【解決手段】 超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子の焼結体である多孔体1を含み、摺動面5として多孔体1の表面を備えた摺動部材10において、摺動面5の粒子占有率を50%以下、表面粗さRaを2.0μm以下とする。摺動部材10は、UHMWPE粒子の焼結体を切削加工して得た多孔体を加熱し、摺動面5を加熱前に比べて平滑化して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材に関し、特に電子写真方式の画像形成装置内において用いられる摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器分野をはじめとする各分野での技術の革新に伴い、摺動部材への要求は多様化している。例えば、印刷分野においては、より高精度で高速な印刷が求められている。これらの要求を満たすために、中間転写ベルトを用いたベルト転写方式による印刷が幅広く採用されている。電子写真方式の画像形成装置においては、最初に感光ドラムなどの感光体に静電潜像が記録される。次に、感光体にトナーを付着させることによってトナー像が形成される。その後、トナー像は中間転写ベルトに転写される。最後に、トナー像は紙に転写される。
【0003】
感光体上のトナー像を中間転写ベルトに転写する際および中間ベルトに転写されたトナー像を紙に転写する際には、トナー像を確実に転写させる必要がある。トナー像の確実な転写を補助するために、種々の工夫がなされている。例えば特許文献1では、中間転写ベルトの裏面側から摺動部材である転写パッドを押しつけることによって、中間転写ベルトを紙に密着させる技術が開示されている。このように中間転写ベルトと紙とを密着させることで、確実な転写が行われる。この転写パッドは表面をフッ素樹脂コーティングすることによって滑り性を向上させている。
【0004】
超高分子量ポリエチレンは、耐摩耗性に優れ、摩耗しても粉体が発生しにくい特性を有する。特許文献2には、超高分子量ポリエチレンの表面の平滑性を活かした葉書が開示されている。また、特許文献3には、超高分子量ポリエチレン粒子の焼結体を用いた摺動部材が開示されている。この摺動部材は、回転する記録メディア(例えばMO)とその支持体との間に配置されて用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−311907号公報
【特許文献2】実公平4−7169号公報
【特許文献3】特開2004−310943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような表面をフッ素樹脂でコーティングした転写パッドには、転写パッドと中間転写ベルトとが摩耗する際に、コート材やパッドの一部が欠落するという問題がある。特許文献3に開示されている超高分子量ポリエチレンの焼結体を用いた摺動部材は、低い摩擦係数を有しており、滑り性には優れている。しかし、本発明者が検討したところによると、この摺動部材は、画像形成装置内で用いる摺動部材としては適していない。これは、摺動部材の表面の凹凸が大きすぎるため、中間転写ベルトを紙に十分に密着させることができないためである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、超高分子量ポリエチレン粒子の焼結体を用いた摺動部材であって、良好な密着性および滑り性を有する摺動部材を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、超高分子量ポリエチレン粒子の焼結体である多孔体を含み、摺動面として前記多孔体の表面を備えた摺動部材であって、前記超高分子量ポリエチレン粒子の頂部により規定される前記多孔体の最表面からの深さが20μmとなる前記多孔体の内部面における粒子占有率が50%以下であり、前記表面の表面粗さRaが2.0μm以下である、摺動部材、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐摩耗性を有するとともに、相手材の接触面に対する良好な密着性および滑り性を有する摺動部材を得ることができる。本発明の摺動部材を画像形成装置の転写パッドに用いると、画像の確実な転写を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の摺動部材の一実施形態を示す断面図
【図2】本発明の摺動部材の別の実施形態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、超高分子量ポリエチレンはUHMWPEと表記する。
【0012】
本発明の摺動部材は、UHMWPE粒子の焼結体である多孔体を含み、この多孔体の表面が中間転写ベルトなどの接触部材と摺動する摺動面となる。この摺動面の粒子占有率は50%以下であり、表面粗さRaは2.0μm以下である。粒子占有率は、摺動部材の表面近傍(具体的には表面からの深さが20μmとなる多孔体の内部面)において粒子が占める面積比率であり、表面を撮影した画像を、2値化処理することにより測定できる。表面粗さRaは、JIS B0601に規定されている。粒子占有率が50%を超える場合、摺動部材と接触部材(相手材)とが接触する面積が大きくなり過ぎて、良好な滑り性が得られない。また、摺動面の表面粗さRaが2.0μmを超える場合、滑り性は良好になるものの、面の凹凸が大きくなり過ぎて、接触部材に対する十分な密着性が得られない。
【0013】
摺動面の粒子占有率は、好ましくは20%以上50%以下、さらに好ましくは25%以上45%以下である。摺動面の表面粗さRaは、好ましくは1.0μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以上1.8μm以下である。
【0014】
本発明の摺動部材は、帯電性を低下させるために、UHMWPE粒子の焼結体である多孔体がカーボンブラックに代表される導電性微粒子をさらに含むことが好ましい。具体的には、摺動面の表面抵抗率は1×106Ω/□以下が好ましく、1×105Ω/□以下がさらに好ましい。摺動面の表面抵抗率が大きい場合、摺動部材と中間転写ベルトとの摩擦によって生じる帯電を効果的に軽減できなくなり、帯電状態が不安定になる。帯電状態が不安定になると、トナー像を中間転写ベルトに転写する際に、トナーが飛び散ってしまい、印刷物に汚れが発生することがある。
【0015】
UHMWPE粒子に導電性微粒子としてカーボンブラックを添加する場合、カーボンブラックの添加量は、質量基準でUHMWPE粒子100部に対し、0.5部以上10部以下が好ましく、1部以上5部以下がさらに好ましい。カーボンブラックの添加量が0.5部を下回る場合は、摺動面において所望の表面抵抗率を得ることが難しい。他方、10部を上回ると、摺動部材からのカーボンブラックの脱落が起こりやすくなる。
【0016】
なお、UHMWPE粒子の焼結体は多孔体であり、無孔の場合に比べて表面積が広いので、添加したカーボンブラックは効率的に保持される。すなわち、多孔体であるUHMWPE粒子の焼結体と微粒子であるカーボンブラックという組み合わせによって、UHMWPEに起因する耐摩耗性、密着性および滑り性とカーボンブラックに起因する帯電防止性という両材料の特長を両立させることができる。
【0017】
また、摺動部材の帯電を軽減させるために、UHMWPE粒子への導電性微粒子の添加とともに、あるいはUHMWPE粒子への導電性微粒子の添加に代えて、摺動部材の摺動面に界面活性剤を存在させてもよい。
【0018】
図1は、本発明の摺動部材の一例を示す断面図である。摺動部材10は、単一のUHMWPE多孔質シート1からなり、このシート1の表面が摺動面5となる。ただし、本発明の摺動部材10は、2以上のUHMWPE多孔質シート1が積層されてなる積層体であってもよい。
【0019】
摺動部材10(UHMWPE多孔質シート1)の厚さは、0.1mm以上3.0mm以下が好ましく、さらには0.15mm以上2.0mm以下が好適である。薄すぎるとシートとしての剛性(弾性)が低くなりすぎ、相手材に対する密着性が得がたくなるおそれがあり、厚すぎると逆にシートとしての剛性が高くなりすぎ、シートが変形し、相手材へ追従することによる密着性が得がたくなることがある。
【0020】
図2は、本発明の摺動部材の別の一例を示す断面図である。摺動部材11は、UHMWPE多孔質シート1、バリア層3、および粘着層2がこの順に積層された積層体であり、この積層体の最外層に配置されるUHMWPE多孔質シート1の表面が摺動面5となる。粘着層2は摺動部材11を他の部材上に固定する役割を担う。バリア層3は、長期間にわたる使用中に粘着層2を構成する粘着剤が多孔質シート1内の空孔を通って摺動面5に染み出すことを防止する。粘着層2は、アクリル系、シリコーン系などの各種粘着剤を用いて構成できる。バリア層3は、各種の樹脂シートを用いることができるが、特許文献3に記載されているとおり、溶融粘度が5kPa・s〜500kPa・Sである熱可塑性樹脂、特に架橋ポリエチレンからなる樹脂シートが好適である。多孔質シート1とバリア層3とは、例えば熱融着により一体化するとよい。ただし、粘着剤の染み出しを防止する必要がない使用形態においては、粘着層2をUHMWPE多孔質シート1に直接積層しても構わない。
【0021】
図2に示したとおり、摺動部材は、UHMWPE多孔質シートが最外層となるように配置されている限り、その他の層や部材をさらに含んでいてもよい。
【0022】
摺動面における粒子占有率と表面粗さRaとを同時に調整するための手段の一つは、焼結体の製造に用いるUHMWPE粒子の粒子径を適切に選択することである。しかし、量産されているUHMWPE粒子は、そのサイズが限られている。また、UHMWPE粒子を焼結したままの表面は、凹凸が大きすぎる傾向にあり、密着性が不足する傾向にある。このような事情から、摺動面における粒子占有率と表面粗さRaとをともに所望の範囲内とするためには、UHMWPE粒子の焼結体を切削加工してシート状成形体を得る工程を実施するとともに、シート状成形体を加熱することにより、その表面をさらに平滑化する工程を実施することが好ましい。
【0023】
以上の観点に基づき、本発明は、その別の側面から、本発明の摺動部材の製造に適した方法として、以下の製造方法を提供する。すなわち、本発明の摺動部材の製造方法は、UHMWPE粒子の焼結体である多孔体を含み、摺動面として前記多孔体の表面を備えた摺動部材の製造方法であって、UHMWPE粒子群を焼結して前記UHMWPE粒子の焼結体を得る第1工程と、前記焼結体を切削加工して、前記摺動面となる表面を形成するとともに当該表面を備えた多孔体を得る第2工程と、前記多孔体を加熱して、当該多孔体の前記摺動面となる表面を加熱前と比較して平滑化する第3工程と、を含む、摺動部材の製造方法である。
【0024】
上記第2工程から得られた多孔体は、上記の粒子占有率が50%以下であることが好ましい。しかし、このような多孔体は、その表面粗さRaが2.0μmを上回ることが多い。この場合は、上記第3工程により、表面粗さRaを2.0μm以下にまで低下させる。第3工程における平滑化は、通常、粒子占有率を引き上げる。したがって、第3工程は、粒子占有率が50%以下に維持されながら表面粗さRaが2.0μm以下に低下する条件で実施することが好ましい。第3工程における加熱温度は、110℃以上160℃以下が好適であり、シート状成形体に加える圧力は、0.05MPa以上0.8MPa以下が好適である。
【0025】
多孔体の表面が平滑化すると、平滑化前と比較して、表面の表面粗さRaが低くなり、密着性に優れた多孔体を得ることが容易となる。なお、本明細書では、「平滑化」を、具体的には、表面粗さRaの値が低くなることを意味する用語として使用する。
【0026】
上記第1工程におけるUHMWPE粒子群の焼結には、水蒸気焼結を用いることが好ましい。水蒸気焼結は、焼結するべきUHMWPE粒子群を容器内に配置した後、その容器内を減圧し、水蒸気を導入した状態で上記粒子群を焼結して一体化することにより実施できる。水蒸気焼結を行うと、均一な多孔構造を有する大型の成形体を得やすく、得られた大型の成形体を切削加工することで、任意の厚さのシートを精度良く得ることができる。
【0027】
上記第2工程では、焼結体が切り開かれて形成された表面が摺動面として形成される。この表面を大きく平滑化すべき場合には、上記第3工程において、多孔体の表面を金属板などの部材(以下、「平滑化部材」という)の表面に接触させながら、好ましくは圧力を加えて押しあてながら、加熱するとよい。平滑化部材は、多孔体を接触させる表面として、接触させる多孔体の表面よりも平滑である表面を有し、多孔体の加熱温度よりも高い融点を有する材料からなる部材が好ましく、具体的には、1)アルミニウム板、ステンレス板などの金属板、2)UHMWPEよりも融点が高い樹脂(例えばポリエチレンテレフタラート(PET)やポリイミド(PI))からなる樹脂板が適している。すなわち、多孔体の摺動面となる表面は、金属板または樹脂板の表面に接触させながら加熱して平滑化することが好ましい。
【0028】
ただし、平滑化部材として、UHMWPEのシート状成形体(多孔体)を用いることもできる。具体的には、第3工程は、UHMWPEの多孔体の積層体を、必要に応じて加圧しながら、加熱して実施することができる。すなわち、多孔体の表面と接触される樹脂板は、UHMWPEからなる樹脂板であってもよい。
【0029】
UHMWPE粒子群を構成するUHMWPE粒子の平均粒子径は100μm以上160μm以下が好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径はレーザー回折法による測定値を用いることとする。
【0030】
上記型としては、焼成時の熱伝導性を高めるために、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の金型を用いることが好ましい。また、型の内壁には、鏡面仕上げなどを施すことによって、表面を平滑化しておくことが好ましい。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
質量基準で、UHMWPE粒子(平均粒子径130μm)100部に対し、カーボンブラック(Cabot社製Vulcan XC72R)の粉末を3部の割合で攪拌混合して、黒色に着色された粉体を得た。この黒色粉体を外径500mm、高さ600mmの金型に充填した。この金型を金属製耐圧容器に入れ、容器内を1000Paまで減圧した。その後、容器内に加熱された水蒸気を導入し、165℃で6時間加熱した。その後、容器内を徐冷し、円筒状の焼結体を得た。この焼結体を、切削加工厚を0.21mmに設定した旋盤を用いて切削加工して、多孔体であるシート状成形体を得た。シート状成形体の厚みは0.21mmであった。次いでシート状成形体を200mm×200mmに裁断した。裁断したシートを10枚積層し、積層体を得た。積層体を2.5kgf/cm2で加圧しながら120℃で120分間加熱した。加熱後、積層体を構成するシートのうち最外層の2枚以外からシート1枚を取り出し、厚さ0.2mmのUHMWPE多孔質シートからなる摺動部材を得た。
【0032】
(実施例2)
200mm×200mmで厚さが1mmのアルミニウム板上に、実施例1と同様にして得た加熱前のシート状成形体を2枚積層させた。その上に同サイズのアルミニウム板を配置し、さらにその上にシート状成形体を2枚積層させた。同様の作業を繰り返し、表面および裏面がアルミニウム板であり、シート状成形体が計10枚、アルミニウム板が計6枚の積層体を得た。この積層体に2.5kgf/cm2の圧力を加え、120℃で120分間加熱した。加熱後、積層体を構成する10枚のシートからシート1枚を取り出し、厚さ0.2mmのUHMWPE多孔質シートからなる摺動部材とした。なお、得られた摺動部材のアルミニウム板に接触していた面を下記の評価の対象である摺動面とした。
【0033】
(実施例3)
UHMWPE粒子にカーボンブラックの粉末を添加しない点と、最終的に得られたUHMWPE多孔質シートの焼結体を界面活性剤水溶液に浸し、乾燥するという工程を加えた点以外は実施例1と同様の方法で、厚さ0.2mmのUHMWPE多孔質シートからなる摺動部材を得た。
【0034】
(比較例1)
実施例1における円筒状の焼結体を、切削加工厚を0.2mmに設定した旋盤を用いて切削加工して、厚さ0.2mmのUHMWPE多孔質シートからなる摺動部材を得た。
【0035】
(比較例2)
実施例1のUHMWPE粒子100部に対してカーボンブラックの粉末を15部(質量基準)添加して、黒色に着色された粉体を得た。この黒色粉体8gを、底面積が200mm×200mmで3mmの深さを有するステンレス製の金型に充填した。そして、この上から199mm×199mm×1mmのステンレス板を乗せ、180℃で15分間加熱し、UHMWPE粒子の焼結体を得た。この焼結体を10kgf/cm2、200℃で10分間加圧する工程を2回繰り返し、厚さ0.22mmの無孔のUHMWPEシートを形成し、これを摺動部材とした。
【0036】
(比較例3)
200mm×200mmで厚さが1mmのアルミニウム板上に、実施例1と同様にして得た加熱前のシート状成形体を1枚積層させた。その上に同サイズのアルミニウム板を配置し、さらにその上にシート状成形体を1枚積層させた。同様の作業を繰り返し、表面および裏面がアルミニウム板であり、シート状成形体が計10枚、アルミニウム板が計11枚の積層体を得た。この積層体を、10kgf/cm2の圧力でプレスしながら、130℃で240分間加圧し、最外層のUHMWPE多孔質シート(厚さ0.19mm)を取り出して、摺動部材とした。
【0037】
(比較例4)
比較例1のUHMWPE粒子(平均粒子径130μm)の代わりにUHMWPE粒子(平均粒子径160μm)を用いた点と、比較例1における容器内に加熱された水蒸気を導入した際の加熱温度を165℃から160℃に変更した点以外は、比較例1と同様の方法で、厚さ0.2mmのUHMWPE多孔質シートからなる摺動部材を得た。
【0038】
実施例1〜3と比較例1〜4のシートにつき、次のようにして表面の粒子占有率、表面粗さ、表面抵抗率、動摩擦係数、および密着状態を調べた。
【0039】
[粒子占有率]
まず3次元光学プロファイラで得られたシートの表面を撮影した。そして、撮影した画像を画像解析ソフト「ImageJ,Igor」によって画像処理(2値化処理)した。次いで2値化処理後の画像から粒体部分を抽出した。最後に抽出した粒体部分の面積を用いて次式によって得られたシート表面の粒子占有率を算出した。なお、抽出した粒体部分の面積は、表面から深さ20μmにおける粒子の占有面積に相当する。
α=S1/S0
α:得られたシートの粒子占有率(%)
S1:2値化処理後における粒体部分を示す部分の面積(m2
S0:全測定面積(m2
【0040】
[表面粗さ]
触針式表面粗さ計((株)東京精密製 サーフコム550A)を用いて、得られたシートの表面のJIS B0601の規定による表面粗さRaを測定した。測定条件は先端径250μm、速度0.3mm/sec、測定長4mmとした。
【0041】
[表面抵抗率]
ロレスタ低抵抗率計(三菱化学製MCP−T610型)を用い、JIS K7194に準拠する方法で、得られたシートの表面の表面抵抗率を測定した。条件はそれぞれリミッタ電圧:90V、測定時間:10sec、測定プローブ:ASP、4端子4探針法で測定した。
【0042】
[動摩擦係数]
摩擦係数測定機(バウデンレーベン型摩擦係数測定装置;「Peeling/Slipping/Scratching TESTER HEIDEN−14」HEIDEN社製)を用いて測定を行った。まず、市販の厚さ25μmのポリイミドフィルムを3mm×20mmに切り取り、両面テープを介して切り取ったポリイミドフィルムの表面を10mmφの鋼球の表面に接着した。次いで、定盤上に得られたシートを配置した。そして、定盤上に配置した得られたシートの上にポリイミドフィルムを接着した鉄球を載せた。ポリイミドフィルムを接着した鉄球を介して、得られたシートにその表面に直交する方向に荷重200gを加えつつ、得られたシートの表面に平行な方向にストローク長50mm、移動速度600m/minで得られたシートの上を往復移動させた。この時の移動方向とは反対方向にかかる摩擦力を測定した。そして、動摩擦係数を次式で算出した。
μ=F/N
μ:動摩擦係数
F:摩擦力(g)
N:荷重(g)
【0043】
[密着状態の確認]
得られたシートの表面上に厚さ20μmのアルミニウム箔を置き、これらを1kgf/cm2×2m/minの条件で加圧回転しているシリコーンゴムコートされたニップロール間に通した。この時にアルミニウム箔にシートの表面形状に起因する凹凸が転写されているか否かを目視で確認し、転写跡が見られない状態を密着性良好、転写跡が明らかに確認される状態を密着不良と判定した。
【0044】
実施例1〜3と比較例1〜4のシートにつき、上記のようにして表面の粒子占有率、表面粗さRa、表面抵抗率、動摩擦係数、および密着状態を測定した結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表面の粒子占有率が100%である比較例2と、多孔体構造を有し表面の粒子占有率が50%以下である実施例1〜3の動摩擦係数を比較すると、比較例2の動摩擦係数は実施例1〜3の動摩擦係数に対して、高い値を示した。また、多孔体構造を有するものの表面の粒子占有率の高い比較例3の動摩擦係数も、実施例1〜3の動摩擦係数に比べて高い値を示した。すなわち、実施例1〜3におけるシートは良好な滑り性を有していることが分かる。
【0047】
また、表面の粒子占有率が低いものの表面粗さRaが大きい比較例1および4と、表面粗さRaが2.0μm以下である実施例1〜3の密着状態を、密着状態の判断の指標となる試験によって比較した。比較例1および4のシートを用いた場合、実施例1〜3のシートを用いた場合よりも、アルミニウム箔面に対する密着性は劣っていた。すなわち、実施例1〜3におけるシートは良好な密着性を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、従来の摺動部材よりも滑り性が高く、かつ密着性が高い摺動面を有する摺動部材を提供できる。本発明の摺動部材は、画像形成装置の転写パッドとして特に有用である。この転写パッドは、本発明による摺動部材を備え、この摺動部材の摺動面が、中間転写ベルトの一方の面が画像保持媒体(例えば、紙)と接触して中間転写ベルトが担持するトナー像が画像保持媒体の表面に転写されるように、中間転写ベルトの他方の面側から、走行する中間転写ベルトを押圧する。ただし、本発明の摺動部材は、紙に転写されずに中間ベルト上に残ったトナーを除去するブレードなどとしても活用し得る。
【符号の説明】
【0049】
1 超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)多孔質シート
2 粘着層
3 バリア層
5 摺動面
10,11 摺動部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレン粒子の焼結体である多孔体を含み、摺動面として前記多孔体の表面を備えた摺動部材であって、
前記超高分子量ポリエチレン粒子の頂部により規定される前記多孔体の最表面からの深さが20μmとなる前記多孔体の内部面における粒子占有率が50%以下であり、
前記表面の表面粗さRaが2.0μm以下である、摺動部材。
【請求項2】
前記表面の粒子占有率が20%以上50%以下であり、
前記表面の表面粗さRaが1.0μm以上2.0μm以下である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記多孔体が導電性微粒子を含み、
前記摺動面の表面抵抗率が1×106Ω/□以下である、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
画像形成装置の内部に配置される転写パッドであって、
請求項1に記載の摺動部材を備え、
前記摺動部材の摺動面が、中間転写ベルトの一方の面が画像保持媒体と接触して前記中間転写ベルトが担持するトナー像が前記画像保持媒体の表面に転写されるように、前記中間転写ベルトの他方の面側から、走行する前記中間転写ベルトを押圧する、転写パッド。
【請求項5】
超高分子量ポリエチレン粒子の焼結体である多孔体を含み、摺動面として前記多孔体の表面を備えた摺動部材の製造方法であって、
超高分子量ポリエチレン粒子群を焼結して前記超高分子量ポリエチレン粒子の焼結体を得る第1工程と、
前記焼結体を切削加工して、前記摺動面となる表面を形成するとともに当該表面を備えた多孔体を得る第2工程と、
前記多孔体を加熱して、当該多孔体の前記摺動面となる表面を加熱前と比較して平滑化する第3工程と、を含む摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記超高分子量ポリエチレン粒子群を水蒸気焼結して前記焼結体を得る、請求項5に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項7】
前記超高分子量ポリエチレン粒子群を構成する超高分子量ポリエチレン粒子の平均粒子径が100μm以上160μm以下である、請求項5または6に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項8】
前記多孔体の前記摺動面となる表面を金属板または樹脂板の表面に接触させながら加熱して平滑化する、請求項5〜7のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−158886(P2011−158886A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252961(P2010−252961)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】