説明

摺動面の加工方法及び鋳鉄素材

【課題】 キサゲ加工に代わる簡単な加工で高い潤滑性が得られる摺動面を得ること
【解決手段】 FCD450の球状黒鉛鋳鉄により工作機械のベッドを鋳造し、その摺動面を機械加工により平面に研削する。ベッドに載せるコラムの摺動面も同様に平面研削する。摺動面には球状黒鉛が現れており、この摺動面に対してウォータージェットを噴射し、摺動面の球状黒鉛を除去する。この球状黒鉛が5μm〜80μmの範囲の大きさであるため、球状黒鉛除去後の微小凹部の大きさも略同じとなる。この微小凹部が潤滑油の油溜りとなるので当該摺動面の間に油膜が均一に形成され、摺動面に高い潤滑性を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工を省略した工作機械等の摺動面の加工方法及び鋳鉄素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄は晶出する黒鉄を球状にした鋳鉄であり、高い機械的性質、振動吸収性能を有することから工作機械の構造部材として多用されている。工作機械のテーブルやコラム等の摺動面に用いる場合には、その表面にキサゲ加工を施すことで機械的な精度を向上させ、キサゲ面のくぼみが油溜りとなって潤滑性を向上させる。これにより、工作機械の位置決め精度が向上しテーブルやコラム等の高速移動が可能となる。
【0003】
しかしながら、摺動面にキサゲを行うには熟練技能者による加工が必要であり、加工に手間がかかるという問題点がある。一方、キサゲ作業を省略すると、油溜りができないために摺動抵抗が高くなるという問題点がある。また、キサゲを省略する代わりに浅皿状凹部を機械加工により多数形成した摺動面が知られているが(特許文献1参照)、このような複雑な摺動面の加工には時間と手間がかかるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−211333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明の目的は、キサゲ加工に代わる簡単な加工で高い潤滑性が得られる摺動面を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摺動面の加工方法は、鋳鉄からなり球状黒鉛が表面に現れた摺動面に対してウォータージェットにより前記球状黒鉛を除去して多数の微小凹部を形成することを特徴とする。即ち、ウォータージェットの衝撃により摺動面に露出している球状黒鉛が除去され、この球状黒鉛が剥がれた部分に多数の微小凹部が形成される。また、バフ研磨等により摺動面に鏡面仕上げを施すようにしても良い。その場合、例えば鏡面仕上げによる表面粗さを最大高さ0.1μm以下の範囲とする。
【0007】
また、本発明の鋳鉄素材は、球状黒鉛の形状及び大きさの微小凹部を表面に多数有する球状黒鉛鋳鉄からなる摺動面を有することを特徴とする。更に、この摺動面は鏡面仕上げされ、好ましくは表面粗さを最大高さ0.1μm以下の範囲とすることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
球状黒鉛鋳鉄を用いて工作機械のベッドを鋳造し、その摺動面を切削加工及び研削加工により平面に仕上げる。この研削された摺動面には球状黒鉛が一定の面積割合で現れる。この球状黒鉛が現れた摺動面に対してウェータージェットを噴射し、当該球状黒鉛を除去する。これにより、球状黒鉛の形状や大きさを有する微小凹部が摺動面に多数形成される。この微小凹部の大きさは晶出した球状黒鉛の大きさに依存し、その長さ、深さとも数μm〜数十μmとなる。
【0009】
ウォータージェットの噴射には所定の噴射圧力が得られる高圧ポンプを用い、ウォータージェットガンの先端から所定の噴射圧力で水を噴射するものとする。また、ウォータージェットの噴射圧力を調整して摺動面の残留応力を緩和されることもできる。このような微小凹部を有する摺動面に対し、所定の粘度を有する潤滑油を介して、同様の微小凹部を有する摺動面又は微小凹部やキサゲの窪みを有しない平滑な摺動面を重ね合わせる。この重ね合わせた状態で、微小凹部が潤滑油の油溜りとなるので当該摺動面の間に油膜が均一に形成され、摺動面に高い潤滑性を与えることができる。
【0010】
以上のように本発明の摺動面の形成方法によれば、摺動面に表れた球状黒鉛をウォータージェットにより除去することで、摺動面に微小凹部を多数形成できる。この微小凹部は機械加工により形成するものではなく、所定圧のウォータージェットを噴射することで形成されるので、摺動面に何らの機械加工を施す必要がない。また、機械加工により加熱されないので摺動面の機械的性質に全く影響を与えない。
【0011】
更に、球状黒鉛を除去した後の摺動面に焼入れ、研磨加工等の表面処理を施しても良い。摺動面への焼入れは高周波焼入れ又はレーザ焼入れにより行う。当該焼入れにより球状黒鉛鋳鉄の基地組織の一部又は全部がフェライト組織からパーライト組織に変わり摺動面の硬度が高くなる。
【0012】
研磨加工には、例えば焼成アルミナを油脂に混合した研磨剤を使ったバフ研磨を用いる。バフ研磨により鏡面加工を施した場合、潤滑油には動粘度が高いものを用いる。例えば、40℃における動粘度の中点粘度が60以上のものを用いる。表面粗さ(Rmax)は、0.05S以上0.4S以下の範囲で選定するが、0.1S以下とするのが好ましい。これにより、すべり抵抗の低減、位置決め精度の向上、高速駆動による加工時間の短縮を図ることができる。
【0013】
上記のように形成した摺動面は、工作機械のベッドのみならず、コラム等の各摺動面に用いることができる。また、工作機械以外の機械(例えば軸受け)にも広く適用できるものである。なお、摺動面の球状黒鉛を効率的に除去し当該球状黒鉛の形及び大きさをした微小凹凸が摺動面に形成できるようであれば、ウォータージェット以外の方法で球状黒鉛を除去しても良い。
【実施例】
【0014】
FCD450の球状黒鉛鋳鉄により工作機械のベッドを鋳造し、切削加工により平面とされた摺動面を研削する。ベッドに載せるコラムの摺動面も同様に平面研削する。この研削加工により表面粗さ(Rmax)が3.2S程度となる。また、摺動面には球状黒鉛が現れており、この摺動面に対してウォータージェットを噴射する。噴射圧力は50MPa程度とする。ウォータージェットにより摺動面の球状黒鉛が除去され、この球状黒鉛が5μm以上80μm以下の範囲の大きさであるため、球状黒鉛除去後の微小凹部の大きさも略同じとなる。
【0015】
球状黒鉛を除去した後、摺動面には高周波焼入れを行う。高周波焼入装置により摺動面の表面を高周波誘導により所定温度まで加熱して焼入れ層を形成する。続いて、焼入処理後の摺動面に対して0.3μmのアルミナによるバフ研磨を施し、表面粗さ(Rmax)を0.1μm以下とする。その上で当該摺動面に対し、動粘度が40℃で85以上170ミリ平方メートル/秒の潤滑油を介在させる。表面粗さと潤滑油の動粘度の関係及びその効果は、特許4228078号公報に開示されている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状黒鉛鋳鉄からなり且つ球状黒鉛が表面に現れた摺動面に対し、所定の圧力でウォータージェットを噴射することにより前記球状黒鉛を除去し、摺動面に多数の微小凹部を形成することを特徴とする摺動面の加工方法。
【請求項2】
前記摺動面の球状黒鉛を除去した後、摺動面に鏡面仕上げを施すことを特徴とする請求項1に記載の摺動面の加工方法。
【請求項3】
前記鏡面仕上げによる表面粗さを最大高さ0.1μm以下の範囲とする請求項2に記載の摺動面の加工方法。
【請求項4】
球状黒鉛の形状及び大きさの微小凹部を表面に多数有する球状黒鉛鋳鉄からなる摺動面を有することを特徴とする鋳鉄素材。
【請求項5】
前記摺動面は鏡面仕上げされていることを特徴とする請求項4に記載の鋳鉄素材。
【請求項6】
前記鏡面仕上げによる表面粗さを最大高さ0.1μm以下の範囲とする請求項5に記載の鋳鉄素材。



【公開番号】特開2011−235409(P2011−235409A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109721(P2010−109721)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(504151594)株式会社友鉄ランド (6)