説明

撚り線導体及び撚り線導体の製造方法

【課題】可撓性の向上を図り、配線時の取り回しを容易にするとともに、配線に掛かる作業時間の短縮を図り、さらには端末側の接続先の損傷防止や緩み防止を図ることが可能な、撚り線導体及び撚り線導体の製造方法を提供する。
【解決手段】圧縮撚り線導体1は、この内側を後焼鈍部2にし且つ外側を前焼鈍部3にしてなる。後焼鈍部2は、素線4を複数層に撚り合わせた後に焼鈍を施してなる導体部分である。一方、前焼鈍部3は、撚り合わせの前に素線4に対し焼鈍を施してなる一又は複数層の導体部分である。このような圧縮撚り線導体1は、後焼鈍部2を形成する後焼鈍部形成工程S1と、前焼鈍部3を形成する前焼鈍部形成工程S2とを含んで製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線やケーブルに用いられる撚り線導体と、この製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
撚り線導体を絶縁体で覆ってなる絶縁電線や、撚り線導体を絶縁体及び保護被覆(シース)で覆ってなるケーブルは、例えば低圧幹線や配電盤等に用いられている。撚り線導体としては、下記特許文献1など各種提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−262812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低圧幹線や配電盤等に用いられる絶縁電線やケーブルにあっては、このうち撚り線導体の公称断面積が例えば250sq、325sq以上となる比較的太物の場合、狭い場所での配線作業が多く、人手による曲げや、曲げを維持した状態で端末処理を実施しなければならなかった。これは、盤の設計上、配線作業が非常に困難な場合であっても実施しなければならなかった。
【0005】
また、狭い場所で仮に配線をすることができたとしても、曲げ時の負荷や曲げ等に掛かる時間によって作業者が疲労してしまうことがあった。この他、曲げたケーブルは跳ね返りの力が強く、曲げたケーブルが作業者の手から離れた場合には、ケーブル端末を接続する端子台の破損が生じてしまうという虞があった。また、跳ね返りの力が強いと、ボルトやナット締めの部分に緩みが生じ易くなってしまうという虞があった。
【0006】
本願発明者は、上記問題点の解消にあたり、撚り線導体に改善の余地があると考えている。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、可撓性の向上を図り、配線時の取り回しを容易にするとともに、配線に掛かる作業時間の短縮を図り、さらには端末側の接続先の損傷防止や緩み防止を図ることが可能な、撚り線導体及び撚り線導体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の撚り線導体は、中心の素線に対し複数の層を形成するよう複数の素線を撚り合わせてなり、且つこの撚り合わせの後に焼鈍がなされてなる後焼鈍部と、該後焼鈍部の外側に一又は複数の層を形成するよう予め焼鈍がなされた複数の素線を撚り合わせてなる前焼鈍部と、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の本発明の撚り線導体は、請求項1に記載の撚り線導体に係り、前記後焼鈍部の層数を3層とするとともに、前記前焼鈍部の層数を1層〜3層としてなることを特徴とする。
【0010】
また、上記課題を解決するためになされた請求項3記載の本発明の撚り線導体の製造方法は、後焼鈍部を形成する後焼鈍部形成工程と、前焼鈍部を形成する前焼鈍部形成工程とを含み、前記後焼鈍部形成工程は、中心の素線に対し複数の層を形成するよう複数の素線を撚り合わせる後焼鈍第一工程と、該後焼鈍第一工程の撚り合わせの後に焼鈍を施す後焼鈍第二工程とを含み、前記前焼鈍形成工程は、前記前焼鈍部の形成用となる複数の素線に対し予め焼鈍を施す前焼鈍第一工程と、複数の焼鈍素線を前記後焼鈍部の外側に一又は複数の層を形成するよう撚り合わせる前焼鈍第二工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
以上のような特徴を有する本発明によれば、撚り線導体はこの内側を後焼鈍部にし且つ外側を前焼鈍部にしてなる。内側の後焼鈍部は、中心の素線に対し複数の層を形成するように複数の素線を撚り合わせてなる。そして、この撚り合わせの後に焼鈍を施してなる。後焼鈍部は、素線を複数層に撚り合わせた後に焼鈍を施してなる導体部分である。一方、前焼鈍部は、予め焼鈍を施した複数の素線を用いて後焼鈍部の外側に撚り合わせてなる。前焼鈍部の撚り合わせは、一又は複数の層を形成するようにしてなる。前焼鈍部は、撚り合わせの前に素線に対し焼鈍を施してなる一又は複数層の導体部分である。本発明の撚り線導体は、後焼鈍部及び前焼鈍部を有することにより、可撓性の向上を図ることが可能になる。
【0012】
本発明によれば、後焼鈍部はこの層数を3層とすることが好ましく、この3層の素線数は例えば37本になる。一方、前焼鈍部はこの層数を1層〜3層とすることが好ましく、1層の場合は、撚り線導体全体の素線数が例えば61本になる。また、2層の場合は、撚り線導体全体の素線数が例えば91本になる。また、3層の場合は、撚り線導体全体の素線数が例えば127本になる。本発明の撚り線導体は、圧縮を施してなる例えば円形の圧縮撚り線導体や、単なる撚り合わせとなる例えば円形の撚り線導体になる。
【0013】
尚、本発明に係る撚り線導体は、この最外層、すなわち前焼鈍部の一番外側となる層の撚りピッチを100%とした時に、最外層よりも内側の層を100%以下の撚りピッチにすることを特徴に挙げてもよいものとする。また、圧縮撚り線導体とする場合に、この撚りピッチを圧縮外径の20±2倍程度とすることを特徴に挙げてもよいものとする。さらに、圧縮時の導体圧縮率を2〜4%とすることを特徴に挙げてもよいものとする。撚り線導体に関し、上記最外層はS撚りであるものとする。素線に関しては、全て同一径であってもよいし、異径であってもよいものとする。
【0014】
ここで、上記圧縮撚り線導体や単なる撚り合わせとなる撚り線導体に関しこれを特徴づけてみると、「請求項1又は請求項2に記載の撚り線導体に係り、前記後焼鈍部及び前記前焼鈍部の各層の状態を、圧縮状態又は非圧縮状態に形成してなる」と特徴づけることができる。この特徴によれば、用途等に応じて圧縮又は非圧縮の撚り線導体として提供することが可能になる。圧縮撚り線導体の場合は、径を小さくすることが可能になる。一方、非圧縮の撚り線導体の場合は、より一層可撓性の向上を図ることが可能になる。
【0015】
また、上記圧縮撚り線導体や単なる撚り合わせとなる撚り線導体に関し製造方法として特徴づけてみると、「請求項3に記載の撚り線導体の製造方法に係り、前記後焼鈍部形成工程及び前記前焼鈍部形成工程は、必要に応じて圧縮を施す第三工程を含む」と特徴づけることができる。この特徴によれば、用途等に応じて圧縮又は非圧縮の撚り線導体として製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された本発明によれば、後焼鈍部と前焼鈍部とを有する撚り線導体とすることにより、可撓性の向上を図ることができるという効果を奏する。これにより、絶縁電線やケーブルとしての可撓性も向上させることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、可撓性の良好な撚り線導体にすることから、これを用いて絶縁電線やケーブルを形成すると、配線の取り回しを容易にすることができるという効果や、配線に掛かる作業時間の短縮を図ることができるという効果、さらには、端末側の接続先の損傷防止や緩み防止を図ることができるという効果を奏する。
【0017】
請求項2に記載された本発明によれば、例えば公称断面積250sqや、325sq以上の比較的太物の絶縁電線やケーブルに用いることが好適な撚り線導体として提供することができるという効果を奏する。
【0018】
請求項3に記載された本発明によれば、可撓性の向上を図り、配線時の取り回しを容易にするとともに、配線に掛かる作業時間の短縮を図り、さらには端末側の接続先の損傷防止や緩み防止を図ることが可能な撚り線導体の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の撚り線導体及び製造方法を示す図であり、(a)は圧縮撚り線導体の側面図(前焼鈍部を1層で形成)、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は圧縮撚り線導体の製造方法に係るフローチャートである(実施例1)。
【図2】撚りピッチに係る説明図である。
【図3】圧縮撚り線導体の他の例を示す図であり、(a)は前焼鈍部を2層で形成した断面図、(b)は前焼鈍部を3層で形成した断面図である。
【図4】可撓性試験を示す図であり、(a)は負荷時の撓み量に係る模式図、(b)は負荷解放後の撓み量に係る模式図である。
【図5】本発明の他の例となる撚り線導体及び製造方法を示す図であり、(a)は撚り線導体の側面図(前焼鈍部を1層で形成)、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は撚り線導体の製造方法に係るフローチャートである(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
撚り線導体は、この内側を後焼鈍部にし且つ外側を前焼鈍部にしてなる。後焼鈍部は、素線を複数層に撚り合わせた後に焼鈍を施してなる導体部分である。一方、前焼鈍部は、撚り合わせの前に素線に対し焼鈍を施してなる一又は複数層の導体部分である。このような撚り線導体は、後焼鈍部を形成する後焼鈍部形成工程と、前焼鈍部を形成する前焼鈍部形成工程とを含んで製造される。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照しながら実施例1を説明する。図1は本発明の撚り線導体及び製造方法を示す図である。また、図2は撚りピッチに係る説明図、図3は圧縮撚り線導体の他の例を示す図、図4は可撓性試験を示す図である。
【0022】
以下の説明において、具体的な形状、材料、数値、数量等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができるものとする。
【0023】
図1(a)及び(b)において、引用符号1は圧縮を施してなる本発明の撚り線導体、すなわち圧縮撚り線導体を示している。この圧縮撚り線導体1は、図示しない絶縁体で覆って絶縁電線にしたり、或いは、図示しない絶縁体及び保護被覆(シース)で覆ってケーブルにしたりするものである。上記絶縁電線やケーブルは、例えば低圧幹線や配電盤等に用いられるものである。圧縮撚り線導体1は、この内側を後焼鈍部2にするとともに、後焼鈍部2の外側を前焼鈍部3にしてなる導体構造を有している。
【0024】
圧縮撚り線導体1は、一般的な軟銅であって、導電性を有している。圧縮撚り線導体1は、圧縮前において断面円形状に形成される素線4を複数有している。圧縮撚り線導体1を構成する素線4は、後焼鈍部2、前焼鈍部3の違いにより、「後」か「前」の焼鈍が全て施されるようになっている。本実施例の素線4は、圧縮撚り線導体1の公称断面積が250sq、325sq〜1000sqとなるような素線径(例えば2.3mm〜3.2mm)のものが用いられている。素線4は、特に限定するものでないが、直径が全て同じものが用いられている(異径であってもよいものとする。例えば、後焼鈍部2と前焼鈍部3とで異径にするなど)。
【0025】
後焼鈍部2及び前焼鈍部3は、それぞれ複数の素線4により構成されている。先ず後焼鈍部2について説明をし、次いで前焼鈍部3について説明をする。
【0026】
後焼鈍部2は、中心となる1本の素線4を有している。この中心の素線4を中心素線5とすると、後焼鈍部2は、中心素線5を中心に4つの層を有している。すなわち、第1層部6、第2層部7、及び第3層部8とを有している。第1層部6、第2層部7、及び第3層部8は、複数の素線4の撚り合わせにより形成されている。
【0027】
第1層部6は、中心素線5に対しこの周囲に6本の素線4を層状に撚り合わせて形成されている。また、第2層部7は、第1層部6に対しこの周囲に12本の素線4を層状に撚り合わせて形成されている。さらに、第3層部8は、第2層部7に対しこの周囲に18本の素線4を層状に撚り合わせて形成されている。後焼鈍部2は、素線4の総数が37本で構成されている。
【0028】
後焼鈍部2は、中心素線5、第1層部6、第2層部7、及び第3層部8の構成になるように複数の素線4を撚り合わせた後に、所定の条件で焼鈍を施すことにより形成されている。また、後焼鈍部2は、所定の条件で圧縮を施すことにより形成されている。複数の素線4は、圧縮が施されることにより、断面円形となる形状から例えば図示のような形状に変形するようになっている。
【0029】
前焼鈍部3は、上記の如く後焼鈍部2の外側に形成されている。具体的に、前焼鈍部3は、素線4に対し予め所定の条件で焼鈍を施すことにより焼鈍素線(便宜上、素線4として図示する)を形成し、この焼鈍素線を後焼鈍部2の外側で撚り合わせることにより形成されている。前焼鈍部3は、本実施例において1つの層を有している。この1つの層は、第4層部9であって、後焼鈍部2に対しこの周囲に24本の素線4(焼鈍素線)を層状に撚り合わせて形成されている。本実施例の前焼鈍部3は、第4層部9のみで構成されることから、素線4の総数が24本になっている。前焼鈍部3は、所定の条件で圧縮を施すことにより形成されている。
【0030】
第4層部9は、本実施例において、圧縮撚り線導体1の最外層となっている。最外層は、この撚り合わせがS撚りとなっている。尚、最外層よりも内側の層の撚り合わせに関しては、最外層と同じ撚り合わせ(S撚り)が好ましいものとする(Z撚りを含めてもよいものとする)。これは、内側の各層間の摩擦を減らして可撓性の向上に寄与させるためである。
【0031】
最外層の撚りピッチ(ピッチ:図2の寸法P参照)は、これを100%とした時に、内側の各層の撚りピッチが100%以下となるように設定されている。圧縮撚り線導体1は、圧縮を施してなる撚り線導体であり、撚りピッチは圧縮外径の20±2倍程度となるように設定されている。この他、圧縮に関しては、圧縮時の導体圧縮率が2〜4%となるように設定されている。
【0032】
本実施例の前焼鈍部3は、上記の如く第4層部9のみで形成されているが、この限りでないものとする。例えば、図3(a)に示す如く第4層部9及び第5層部10にて前焼鈍部3′を形成したり、図3(b)に如く第4層部9、第5層部10、及び第6層部11にて前焼鈍部3″を形成したりしてもよいものとする。
【0033】
上記前焼鈍部3′の場合は、この前焼鈍部3′と後焼鈍部2とにより圧縮撚り線導体1′が形成されるものとする。また、上記前焼鈍部3″の場合は、この前焼鈍部3″と後焼鈍部2とにより圧縮撚り線導体1″が形成されるものとする。
【0034】
上記構成及び構造において、圧縮撚り線導体1は次のような工程を順に経て製造(形成)されている。すなわち、図1(c)に示す如く、後焼鈍部形成工程S1と前焼鈍部形成工程S2とを順に経て製造されている(以下、図1全体を参照するものとする)。
【0035】
後焼鈍部形成工程S1は、後焼鈍部2を形成する工程であって、この後焼鈍部形成工程S1は、中心の素線4(中心素線5)に対し複数の層(第1層部6、第2層部7、及び第3層部8)を形成するように複数の素線4を撚り合わせる後焼鈍第一工程と、後焼鈍第一工程の撚り合わせの後に焼鈍を施す後焼鈍第二工程とを含んでる。また、後焼鈍部形成工程S1は、撚り合わせの後に、又は、焼鈍後に圧縮を施す後焼鈍第三工程(第三工程)を含んでいる。
【0036】
前焼鈍部形成工程S2は、前焼鈍部3を形成する工程であって、この前焼鈍形成工程S2は、複数の素線4に対し予め焼鈍を施して焼鈍素線を形成する前焼鈍第一工程と、後焼鈍部2の外側に第4層部9を形成するように複数の焼鈍素線(素線4)を撚り合わせる前焼鈍第二工程と、圧縮を施す前焼鈍第三工程とを含んでいる。
【0037】
前焼鈍部形成工程S2が完了すると、素線4の総数が61本となる圧縮撚り線導体1の形成が完了する。
【0038】
ここで、以上のような圧縮撚り線導体1を用いて形成されたケーブルに関し、この柔らかさについて判定をしてみることにする。ケーブルの柔らかさについては、図4に示す如くの試験装置21を用いるものとする。
【0039】
図4において、試験装置21は、所定の高さを有する台22と、この台22に設けられるケーブル保持部23と、重り24と、図示しない撓み量測定治具とを備えて構成されている。ケーブル保持部23には、試料としてのケーブル25の一端が保持されている。ケーブル25は、圧縮撚り線導体1の公称断面積が250sq、325sqとなるもので、この全長が1000mmに形成されている(図4及び表1参照。以下同様)。このようなケーブル25は、ケーブル保持部23を支点とし他端までの距離Lが700mmとなる部分で保持されている。ケーブル25の他端に設ける重り24は、80Nの荷重のものが用いられている。ケーブル25は、十分に真直した状態のもの、且つ、巻き癖の影響を除去したものが用いられている。この他、ケーブル25は、試験温度23±5℃の室温に24時間以上保管されたものが用いられている。
【0040】
ケーブル柔らかさを判定するにあたり、先ず、図4(a)に示す如くケーブル25の他端に重り24を取り付け、30秒後の高さの撓み量(負荷時の撓み量)を測定する。これは負荷時の撓み量から、ケーブル25が容易に曲がるか否かを見るものである。次に、図4(b)に示す如く重り24を取り外し、30秒後の負荷解放後の撓み量を測定する。これはケーブル25の曲げ時の癖つけが容易であること、また、ケーブル25の跳ね返りが小さいことを見るものである。
【0041】
柔らかさの指標[単位mm]を、負荷時の撓み量[単位mm]+負荷解放後の撓み量[単位mm]とすると、表2に示す如くの結果が得られる。そして、従来品を比較例として挙げて比べてみると、約1.3倍(30%増)の違いがあることが分かる。従って、十分に柔らかさを確保していると判定することができる。
【0042】
上記ケーブル25が容易に曲がることに関し、小さな力で曲がることは、作業者への負荷を軽減し、作業性及び施工性の向上を図ることができると言える。また、上記ケーブル25の曲げ時の癖つけが容易であることに関し、作業性の向上を図ることができると言える。また、上記ケーブル25の跳ね返りが小さいことに関し、作業を安全に行うことができ、且つ、ケーブル25の跳ね返りによる端子台の破損、端子のボルト締め付け不良等を防止することができると言える。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
以上、図1ないし図4を参照しながら説明してきたように、本発明によれば、後焼鈍部2と前焼鈍部3とを有する圧縮撚り線導体1とすることにより、従来と比べ可撓性の向上を図ることができるという効果を奏する。これにより、絶縁電線やケーブルとしての可撓性も向上させることができるという効果を奏する。
【0046】
また、圧縮撚り線導体1は、可撓性の良好な撚り線導体となることから、これを用いて絶縁電線やケーブルを形成すると、配線の取り回しを容易にすることができるという効果や、配線に掛かる作業時間の短縮を図ることができるという効果(1分/本の時間短縮を図ることができる)、さらには、端末側の接続先の損傷防止や緩み防止を図ることができるという効果を奏する。
【実施例2】
【0047】
以下、図面を参照しながら実施例2を説明する。図5は本発明の他の例となる撚り線導体及び製造方法を示す図である。
【0048】
図5において、引用符号31は本発明の撚り線導体を示している。この撚り線導体31は、図示しない絶縁体で覆って絶縁電線にしたり、或いは、図示しない絶縁体及び保護被覆(シース)で覆ってケーブルにしたりするものである。上記絶縁電線やケーブルは、例えば低圧幹線や配電盤等に用いられるものである。撚り線導体31は、この内側を後焼鈍部32にするとともに、後焼鈍部32の外側を前焼鈍部33にしてなる導体構造を有している。
【0049】
撚り線導体31は、一般的な軟銅であって、導電性を有している。撚り線導体31は、断面円形状に形成される素線34を複数有している。撚り線導体31を構成する素線34は、後焼鈍部32、前焼鈍部33の違いにより、「後」か「前」の焼鈍が全て施されるようになっている。本実施例の素線34は、撚り線導体31の公称断面積が250sq、325sq〜1000sqとなるような素線径(例えば2.3mm〜3.2mm)のものが用いられている。素線34は、特に限定するものでないが、直径が全て同じものが用いられている(異径であってもよいものとする。例えば、後焼鈍部32と前焼鈍部33とで異径にするなど)。
【0050】
後焼鈍部32及び前焼鈍部33は、それぞれ複数の素線34により構成されている。先ず後焼鈍部32について説明をし、次いで前焼鈍部33について説明をする。
【0051】
後焼鈍部32は、中心となる1本の素線34を有している。この中心の素線34を中心素線35とすると、後焼鈍部32は、中心素線35を中心に4つの層を有している。すなわち、第1層部36、第2層部37、及び第3層部38とを有している。第1層部36、第2層部37、及び第3層部38は、複数の素線34の撚り合わせにより形成されている。
【0052】
第1層部36は、中心素線35に対しこの周囲に6本の素線34を層状に撚り合わせて形成されている。また、第2層部37は、第1層部36に対しこの周囲に12本の素線34を層状に撚り合わせて形成されている。さらに、第3層部38は、第2層部37に対しこの周囲に18本の素線34を層状に撚り合わせて形成されている。後焼鈍部32は、素線34の総数が37本で構成されている。
【0053】
後焼鈍部32は、中心素線35、第1層部36、第2層部37、及び第3層部38の構成になるよう複数の素線34を撚り合わせた後に、所定の条件で焼鈍を施すことにより形成されている。
【0054】
前焼鈍部33は、上記の如く後焼鈍部32の外側に形成されている。具体的に、前焼鈍部33は、素線34に対し予め所定の条件で焼鈍を施すことにより焼鈍素線(便宜上、素線34として図示する)を形成し、この焼鈍素線を後焼鈍部32の外側で撚り合わせることにより形成されている。前焼鈍部33は、本実施例において1つの層を有している(2つや3つの層を有してもよいものとする)。この1つの層は、第4層部39であって、後焼鈍部32に対しこの周囲に24本の素線34(焼鈍素線)を層状に撚り合わせて形成されている。本実施例の前焼鈍部33は、第4層部39のみで構成されることから、素線34の総数が24本になっている。
【0055】
第4層部39は、本実施例において、撚り線導体31の最外層となっている。最外層は、この撚り合わせがS撚りとなっている。最外層の撚りピッチは、これを100%とした時に、内側の各層の撚りピッチが100%以下となるように設定されている。
【0056】
上記構成及び構造において、撚り線導体31は次のような工程を順に経て製造(形成)されている。すなわち、図5(c)に示す如く、後焼鈍部形成工程S11と前焼鈍部形成工程S12とを順に経て製造されている(以下、図5全体を参照するものとする)。
【0057】
後焼鈍部形成工程S11は、後焼鈍部32を形成する工程であって、この後焼鈍部形成工程S11は、中心の素線34(中心素線35)に対し複数の層(第1層部36、第2層部37、及び第3層部38)を形成するように複数の素線34を撚り合わせる後焼鈍第一工程と、後焼鈍第一工程の撚り合わせの後に焼鈍を施す後焼鈍第二工程とを含んでる。
【0058】
前焼鈍部形成工程S12は、前焼鈍部33を形成する工程であって、この前焼鈍形成工程S12は、複数の素線34に対し予め焼鈍を施して焼鈍素線を形成する前焼鈍第一工程と、後焼鈍部32の外側に第4層部39を形成するように複数の焼鈍素線(素線34)を撚り合わせる前焼鈍第二工程とを含んでいる。
【0059】
前焼鈍部形成工程S12が完了すると、素線34の総数が61本となる撚り線導体31の形成が完了する。
【0060】
以上、図5を参照しながら説明してきたように、本発明によれば、後焼鈍部32と前焼鈍部33とを有する撚り線導体31であり、実施例1の圧縮撚り線導体1に対し圧縮の行程を行わないだけであることから、圧縮撚り線導体1と同様に可撓性の向上を図ることができるという効果を奏する。これにより、絶縁電線やケーブルとしての可撓性も向上させることができるという効果を奏する。撚り線導体31は、圧縮撚り線導体1に比べ若干径が大きくなるものの、圧縮撚り線導体1よりも柔らかくなるのは言うまでもない。
【0061】
撚り線導体31は、可撓性の良好な撚り線導体となることから、これを用いて絶縁電線やケーブルを形成すると、配線の取り回しを容易にすることができるという効果や、配線に掛かる作業時間の短縮を図ることができるという効果、さらには、端末側の接続先の損傷防止や緩み防止を図ることができるという効果を奏する。
【0062】
この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
1…圧縮撚り線導体(撚り線導体)
2…後焼鈍部
3…前焼鈍部
4…素線
5…中心素線(中心の素線)
6…第1層部(層)
7…第2層部(層)
8…第3層部(層)
9…第4層部(層)
31…撚り線導体
32…後焼鈍部
33…前焼鈍部
34…素線
35…中心素線(中心の素線)
36…第1層部(層)
37…第2層部(層)
38…第3層部(層)
39…第4層部(層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心の素線に対し複数の層を形成するよう複数の素線を撚り合わせてなり、且つこの撚り合わせの後に焼鈍がなされてなる後焼鈍部と、
該後焼鈍部の外側に一又は複数の層を形成するよう予め焼鈍がなされた複数の素線を撚り合わせてなる前焼鈍部と、
を有する
ことを特徴とする撚り線導体。
【請求項2】
請求項1に記載の撚り線導体において、
前記後焼鈍部の層数を3層とするとともに、前記前焼鈍部の層数を1層〜3層としてなる
ことを特徴とする撚り線導体。
【請求項3】
後焼鈍部を形成する後焼鈍部形成工程と、前焼鈍部を形成する前焼鈍部形成工程とを含み、
前記後焼鈍部形成工程は、中心の素線に対し複数の層を形成するよう複数の素線を撚り合わせる後焼鈍第一工程と、該後焼鈍第一工程の撚り合わせの後に焼鈍を施す後焼鈍第二工程とを含み、
前記前焼鈍形成工程は、前記前焼鈍部の形成用となる複数の素線に対し予め焼鈍を施す前焼鈍第一工程と、複数の焼鈍素線を前記後焼鈍部の外側に一又は複数の層を形成するよう撚り合わせる前焼鈍第二工程とを含む
ことを特徴とする撚り線導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−227088(P2012−227088A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95824(P2011−95824)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】