説明

撥水性コーティング膜、その製造方法及びそれを備えた機能性材料

【課題】 様々な材質の基材及び様々な表面構造を有する基材表面において、特殊な処理を要することなく、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜を形成することが可能な撥水性コーティング膜の製造方法を提供すること、並びに、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜及びそれを備えた機能性材料を提供すること。
【解決手段】 平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)と、溶媒(C)とを含有しており、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である第一の組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗布して耐摩擦性下地膜を形成する第一の工程と、
平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)と、溶媒(c)とを含有しており、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である第二の組成物を前記耐摩擦性下地膜の前記基材と反対側の面上に塗布した後に乾燥させて超撥水性仕上げ膜を形成する第二の工程と、
を含むことを特徴とする撥水性コーティング膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性コーティング膜の製造方法、並びに、撥水性コーティング膜及びそれを備えた機能性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フッ素樹脂やシリコーン樹脂等を用いてコーティングするといった化学的処理により、金属、ガラス、紙、布、プラスチック等の基材表面に撥水性を付与することが行われており、例えば、フッ素樹脂を用いたコーティングによって水接触角が約120°の撥水性の基材表面が得られることが知られている。
【0003】
また、基材表面に微細な凹凸構造を形成する方法や、このような基材表面の微細な凹凸構造の形成と上記のコーティング処理とを組み合わせた方法によって、水接触角が150°以上となるような超撥水性を基材表面に付与することも行われている。
【0004】
例えば、特開平3−215570号公報(特許文献1)には、表面張力が32dyn/cm以下の疎水性微粉末と吸水率0.5%以下の樹脂からなる塗膜を得る方法が記載されており、水接触角が170°の塗膜が開示されている。また、特開平7−328532号公報(特許文献2)には、少なくとも表面が疎水性である平均粒子径1nm〜1mmの微粒子と樹脂塗膜とからなり、該微粒子が該樹脂塗膜表面積の20%以上の領域に露出されて固着されるように撥水性被膜を製造する方法が記載されており、水接触角が160°以上の撥水性被膜が開示されている。
【0005】
また、特開平10−259037号公報(特許文献3)には、基体上に凹凸形状をなす透明シリカ膜を熱処理により形成する方法が記載されており、水接触角が140°以上の撥水性被膜が開示されている。さらに、特開平7−197017号公報(特許文献4)には、固体表面の少なくとも一部に、大きい周期の凹凸構造が形成されその凹凸構造が前記周期より小さい周期の凹凸構造を含む多段構造を有し、その表面積増倍因子が5以上である撥水表面を機械加工や電気めっき等を用いて形成する方法が記載されており、表面の水接触角が174°以上である固体が開示されている。さらに、特開平8−323280号公報(特許文献5)には、電気伝導性を有する基材表面において、分子内に疎水基を有する反応性モノマー又はオリゴマーを電解酸化重合等によって重合させ、疎水基を有するポリマーからなる微細な凹凸構造を基材表面に形成させる撥水性付与方法が記載されており、水接触角が150〜160°程度の超撥水表面が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜5に記載の塗膜等を製造する従来の方法においては、水接触角140°以上の撥水性が得られているものの、耐摩擦性が十分でなく、少し擦った程度でも撥水性が著しく低下してしまうという問題を有しており、また、特定の微細な凹凸構造を形成するためには機械加工処理、電気めっき処理、加熱処理といった特殊な処理を要する場合や、基材が限定される場合があるという問題も有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−215570号公報
【特許文献2】特開平7−328532号公報
【特許文献3】特開平10−259037号公報
【特許文献4】特開平7−197017号公報
【特許文献5】特開平8−323280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、様々な材質の基材及び様々な表面構造を有する基材表面において、特殊な処理を要することなく、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜を形成することが可能な撥水性コーティング膜の製造方法を提供すること、並びに、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜及びそれを備えた機能性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、粒子径が特定範囲の大粒子径微粒子を用いて凹凸構造を有する耐摩擦性の下地膜を形成した後に粒子径が特定範囲の疎水性の小粒子径微粒子を用いてさらに微細な凹凸構造を有する超撥水性の仕上げ膜を形成することによって、特殊な処理を要することなく耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜が得られるようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の撥水性コーティング膜の製造方法は、平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)と、溶媒(C)とを含有しており、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である第一の組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗布して耐摩擦性下地膜を形成する第一の工程と、
平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)と、溶媒(c)とを含有しており、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である第二の組成物を前記耐摩擦性下地膜の前記基材と反対側の面上に塗布した後に乾燥させて超撥水性仕上げ膜を形成する第二の工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の撥水性コーティング膜は、平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)の不揮発分とを含有し、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である耐摩擦性下地膜と、
前記耐摩擦性下地膜上に形成されており、平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)の不揮発分とを含有し、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である超撥水性仕上げ膜と、
を備えることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明の機能性材料は前記撥水性コーティング膜を備えることを特徴とするものである。
【0013】
前記本発明の撥水性コーティング膜の製造方法及び前記本発明の撥水性コーティング膜において、微粒子(a)としては、オルガノシロキサン骨格を導入した疎水性シリカ化合物からなる微粒子を用いることが好ましい。
【0014】
前記本発明の撥水性コーティング膜の製造方法及び前記本発明の撥水性コーティング膜において、
前記耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)が1〜80g/mであり、
前記超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)が0.005〜5g/mであることが好ましい。
【0015】
また、このような担持量(I)と、担持量(II)との量比(I:II)は、100:0.1〜100:10であることが好ましい。
【0016】
なお、本発明によって上記目的が達成されるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の撥水性コーティング膜の製造方法においては、粒子径が特定範囲にある大粒子径の微粒子(A)が形成する凹凸表面が、疎水性で粒子径が特定範囲にある小粒子径の微粒子(a)によって均一に覆われるため、微細な凹凸構造及び微粒子(a)の有する疎水性によって超撥水性を発揮する撥水性コーティング膜が得られる。このようにして得られた撥水性コーティング膜を摩擦した場合、膜表面の微粒子(A)によって形成される凸部付近に付着している微粒子(a)は剥がれる可能性があるものの、大部分の微粒子(a)は微粒子(A)によって形成される凹部に残留して剥がれることがないため、摩擦後も疎水性の微粒子(a)が形成する凹凸構造が維持され、高撥水性を持続することが可能になると本発明者らは推察する。
【0017】
また、本発明の撥水性コーティング膜の製造方法においては、超撥水性の仕上げ膜を形成する前に下地膜を形成するため、表面に凹凸を有するような基材表面に撥水性コーティング膜を形成する場合においても特別な処理を要することなく均一な仕上げ膜を形成することが可能となり、さらに、このような2層構造であることにより、耐溶剤性が低い基材表面に撥水性コーティング膜を形成する場合においても基材表面からの溶出物による仕上げ膜の撥水性の低下を抑制することが可能となると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、様々な材質の基材及び様々な表面構造を有する基材表面において、特殊な処理を要することなく、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜を形成することが可能な撥水性コーティング膜の製造方法を提供すること、並びに、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜及びそれを備えた機能性材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の撥水性コーティング膜の製造方法について説明する。本発明の撥水性コーティング膜の製造方法は、平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)と、溶媒(C)とを含有しており、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である第一の組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗布して耐摩擦性下地膜を形成する第一の工程と、
平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)と、溶媒(c)とを含有しており、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である第二の組成物を前記耐摩擦性下地膜の前記基材と反対側の面上に塗布した後に乾燥させて超撥水性仕上げ膜を形成する第二の工程と、
を含むことを特徴とするものである。以下、本発明の撥水性コーティング膜の製造方法を第一の工程と第二の工程とに分けて説明する。
【0021】
(第一の工程:耐摩擦性下地膜形成工程)
第一の工程は、平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)と、溶媒(C)とを含有しており、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である第一の組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗布して耐摩擦性下地膜を形成する工程である。
【0022】
このような第一の工程において用いる微粒子(A)は、微粒子により基材表面に凹凸構造を形成させるためのものである。このような微粒子(A)の材料としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等の有機材料や、活性炭;珪酸塩;アルミナ、親水性シリカ、疎水性シリカ、ジルコニアなどの金属酸化物;珪藻土;ガラス等の無機材料、及びこのような有機材料と無機材料とからなる複合材料が挙げられる。これらの材料の中でも粒子の疎水性と硬度の観点から、有機材料又は無機材料を用いることが好ましく、有機材料としては、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂からなる微粒子がより好ましい。また、無機材料としては、疎水性シリカ、アルミナが好ましい。これらの材料からなる微粒子は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
このような微粒子は、市販品として入手可能であり、例えば、シリコーン樹脂からなる微粒子であるX−52−875(信越化学(株)製)、トレフィルR−900(東レ・ダウコーニング(株)製);活性炭からなる微粒子である粒状白鷺WHA(日本エンバイロケミカルズ(株)製);フェノール樹脂からなる微粒子であるLPS−300C(リグナイト(株)製)が挙げられる。
【0024】
前記微粒子(A)の平均粒子径は15〜500μmの範囲にあることが必要である。前記平均粒子径が前記下限未満では、耐摩擦性下地膜表面の凹凸構造の形成が不十分となって摩擦により超撥水性仕上げ膜が剥がれてしまい、他方、前記上限を超えると、樹脂組成物(B)による微粒子(A)の固定が困難となって耐摩擦性下地膜の耐摩擦性が低下すると共に、微粒子(A)が形成する凸部の最上部近辺の摩擦される範囲が広がるため超撥水性仕上げ膜が摩擦により剥がれ易くなり、耐摩擦性が低下する。また、このような微粒子(A)の平均粒子径は、同様の観点で、より高い効果が得られる傾向にあることから、15〜200μmであることが好ましく、15〜100μmであることがより好ましい。なお、このような微粒子(A)の粒子径はレーザ回折式/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0025】
第一の工程において用いる樹脂組成物(B)は、基材の表面に対して微粒子(A)を担持するためのバインダーとして機能するものである。このような樹脂組成物は、樹脂成分のみからなるものであっても、樹脂成分と溶媒とからなる溶液又は乳化分散液であってもよい。前記樹脂成分としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂及びこれらを2種以上組み合わせた樹脂が挙げられる。これらの樹脂成分の中でも、耐摩擦性、撥水性の観点からシリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂であることが好ましく、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂であることが特に好ましい。また、前記溶媒としては、水、有機溶剤が挙げられ、前記有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等の炭素数1〜8の脂肪族アルコール類;n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、n−デカン、ミネラルターペン、テレピン油、イソパラフィン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール等のエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類が挙げられる。さらに、このような樹脂組成物には、必要に応じて硬化剤、触媒等の添加成分が含まれていてもよい。これらの添加成分を含有する場合は、樹脂成分100質量部に対して添加成分が10質量部以下であることが好ましい。なお、本発明において、樹脂組成物(B)の不揮発分とは、本発明により得られる撥水性コーティング膜において揮発せずに残存する樹脂組成物(B)中の成分を意味し、通常は樹脂成分及び必要に応じて添加された添加成分が相当する。
【0026】
このような樹脂組成物は市販品として入手可能であり、例えば、KR−400(信越化学(株)製、シリコーン樹脂)、X−7096(日華化学(株)製、ウレタン樹脂)、ネオステッカー1700(日華化学(株)製、ポリウレタン樹脂)、Terrific GC−100B((株)グローケミカル製、エポキシ樹脂)、UNIKA RESIN 380−K(ユニオン化学工業(株)製、メラミン樹脂)が挙げられる。
【0027】
第一の工程において用いる溶媒(C)は、微粒子(A)及び樹脂組成物(B)を分散させるための分散媒として機能する溶媒である。前記溶媒としては特に限定されないが、実質的に不活性なものが好ましく、水及び有機溶剤が挙げられる。前記有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等の炭素数1〜8の脂肪族アルコール類;n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、n−デカン、ミネラルターペン、テレピン油、イソパラフィン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール等のエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類が挙げられる。このような溶媒としては、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、基材や前記樹脂組成物(B)に合わせて適宜選択することができる。また、pH調整剤としての酸及び/又はアルカリ等をさらに含んでいてもよい。
【0028】
第一の工程において用いる第一の組成物(耐摩擦性下地膜形成組成物)は、前記微粒子(A)と、前記樹脂組成物(B)と、前記溶媒(C)とを含有している。
【0029】
前記第一の組成物においては、微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)は25:75〜70:30である。基材表面を凹凸にする微粒子(A)の量及び耐摩擦性をより向上させる樹脂組成物(B)の量が両立することによって優れた耐摩擦性を有する耐摩擦性下地膜が得られるため、微粒子(A)の樹脂組成物(B)の不揮発分に対する質量比が前記下限未満では、微粒子(A)が樹脂組成物(B)に埋もれて良好な凹凸構造が形成できず、他方、前記上限を超えると、微粒子(A)が摩擦等によって下地膜から容易に脱落してしまい、良好な耐摩擦性下地膜を形成できない。また、このような質量比(A:B)は、同様の観点で、より高い効果が得られる傾向にあることから、30:70〜60:40であることが好ましい。
【0030】
また、前記第一の組成物における微粒子(A)の含有量は、第一の組成物中に1〜50質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることが特に好ましい。微粒子(A)の含有量が前記下限未満では、耐摩擦性下地膜の表面の凹凸構造の形成が不十分となって耐摩擦性が低下する傾向にあり、他方、微粒子(A)の含有量が前記上限を超えると、樹脂組成物(B)による微粒子(A)の固定が困難になって耐摩擦性が却って低下する傾向にある。
【0031】
前記第一の組成物においては、溶媒(C)の配合量は特に限定されず、採用する塗布方法等に応じて適宜選択されるが、第一の組成物中に10〜95質量%であることが好ましい。
【0032】
なお、前記第一の組成物は、微粒子(A)、樹脂組成物(B)及び溶媒(C)の他に、目的により紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤等の添加剤を更に含有していてもよい。このような添加剤を含有する場合は、添加剤の含有量は第一の組成物中に3質量%以下であることが好ましい。
【0033】
前記第一の組成物を得る方法は特に限定されないが、均一な凹凸構造を形成する観点から、第一の組成物が微粒子(A)、樹脂組成物(B)及び溶媒(C)をこれらの均一分散物として含有するように混合する方法であることが好ましく、例えば、微粒子(A)、樹脂組成物(B)及び溶媒(C)を混合後、ホモミキサー等により分散する方法が好ましい。
【0034】
本発明にかかる第一の工程においては、前記第一の組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗布して耐摩擦性下地膜を形成する。前記基材としては、特に限定されず、例えば、ガラス、金属、紙類、セラミックス、セメント材、合成樹脂、繊維、塗装面等の様々な材質からなる基材及び様々な表面構造を有する基材を挙げることができる。
【0035】
なお、本発明の撥水性コーティング膜においてより優れた耐摩擦性を得るためには、前記第一の組成物を塗布する前に、前記基材の表面を清浄化し、基材表面から有機物の汚染物を実質的に除去しておくことが好ましい。前記清浄化の方法は特に限定されず、基材の材質によっても異なるが、例えば、アセトンやエタノール等の有機溶媒を使用した溶媒により洗浄することが好ましい。
【0036】
前記第一の組成物を塗布する方法としては特に限定されず、従来の塗布方法を適宜採用することができる。このような塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、エアガン若しくはエアレスガン塗装機によるコーティング;エアゾールスプレー若しくはトリガースプレー形態によるスプレーコーティング;ディップコーティング;フローコーティング;スピンコーティング;バーコーティング;ロールコーティングなどの方法が挙げられる。
【0037】
前記第一の組成物の塗布量は、本発明により得られる乾燥後の撥水性コーティング膜の耐摩擦性下地膜において、微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)が1〜80g/mとなる塗布量であることが好ましく、5〜50g/mとなる塗布量であることがより好ましい。塗布量が前記下限未満では、塗布量が少なすぎて耐摩擦性の良好な下地膜を得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐摩擦性の向上率が少なく経済的ではないと共に、厚塗りしたために耐摩擦性下地膜にひびが発生する傾向にある。
【0038】
本発明にかかる第一の工程において、微粒子(A)の形成する凹凸表面に微粒子(a)を付着し易くするという観点から、前記塗布の後に第一の組成物を乾燥することが好ましい。前記乾燥方法としては特に限定されず、本発明においては加熱せずに乾燥することも可能である。すなわち、従来の撥水性コーティング膜の製造方法においては一般に加熱が必要であったが、本発明における第一の組成物を用いた場合には、常温での乾燥で同様の効果を得ることができる。なお、耐摩擦性下地膜を形成する時間をより短縮させるという観点からは、60〜180℃程度で5〜60分間程度乾燥することが好ましい。
【0039】
(第二の工程:超撥水性仕上げ膜形成工程)
第二の工程は、平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)と、溶媒(c)とを含有しており、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である第二の組成物を前記耐摩擦性下地膜の前記基材と反対側の面上に塗布した後に乾燥させて超撥水性仕上げ膜を形成する工程である。
【0040】
このような第二の工程において用いる微粒子(a)は、疎水性の微粒子であり、撥水性コーティング膜の最表面に超撥水性の微細な凹凸構造を形成させるためのものである。このような微粒子(a)の材料としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の疎水性の、あるいは疎水化された有機材料や、疎水性シリカ、アルミナ等の疎水性の、あるいは疎水化された無機材料、及びこのような有機材料と無機材料とからなる複合材料が挙げられる。これらの材料の中でも超撥水性を発現させる観点から、特にオルガノシロキサン骨格を導入した疎水性シリカ化合物を用いることが好ましい。これらの材料からなる微粒子としては1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0041】
このような微粒子としては、市販品として入手可能であり、例えば、ヘキサメチルジシラザンやジメチルジクロロシラン等で疎水化表面処理されたシリカからなる微粒子が挙げられる。前記ヘキサメチルジシラザンで疎水化表面処理されたシリカからなる微粒子としては、アエロジルRX−50、アエロジルRX−200、アエロジルRX−300(日本アエロジル(株)製)やレオロシールZD−30ST、レオロシールHM−20L、レオロシールHM−30S((株)トクヤマ製)が挙げられる。前記ジメチルジクロロシランで疎水化表面処理されたシリカからなる微粒子としては、アエロジルR974、アエロジルR976(日本アエロジル(株)製)が挙げられる。
【0042】
前記微粒子(a)の平均粒子径は5〜500nmの範囲にあることが必要である。前記平均粒子径が前記下限未満では、微粒子が細かくなり過ぎて超撥水性を発現させるための適正な凹凸構造が形成できず超撥水性の発現が困難となり、他方、前記上限を超えると、塗布した場合に均一な被膜が形成できず超撥水性の発現が困難になる。また、このような微粒子(a)の平均粒子径は、同様の観点で、より高い効果が得られる傾向にあることから50〜300nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。なお、このような微粒子(a)の粒子径はレーザ回折式/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0043】
第二の工程において用いる樹脂組成物(b)は、耐摩擦性下地膜の表面に対して微粒子(a)を担持するためのバインダーとして機能するものである。このような樹脂組成物は、樹脂成分のみからなるものであっても、樹脂成分と溶媒とからなる溶液であってもよい。前記樹脂成分としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂及びこれらを2種以上組み合わせた樹脂が挙げられる。これらの樹脂成分の中でも、耐摩擦性、撥水性の観点からシリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂が好ましい。また、前記溶媒としては有機溶剤が挙げられ、前記有機溶剤としては、例えば、前記樹脂組成物(B)において有機溶剤として挙げたものと同様のものが挙げられる。このような樹脂組成物には、さらに、必要に応じて硬化剤、触媒等の添加成分が含まれていてもよい。これらの添加成分を含有する場合は、樹脂成分100質量部に対して添加成分が10質量部以下であることが好ましい。なお、本発明において、樹脂組成物(b)の不揮発分とは、本発明により得られる撥水性コーティング膜において揮発せずに残存する樹脂組成物(b)中の成分を意味し、通常は樹脂成分及び必要に応じて添加された添加成分が相当する。
【0044】
このような樹脂組成物は市販品として入手可能であり、例えば、SH8011(東レ・ダウコーニング(株)製、シリコーン樹脂)、アキュゾール820(ロームアンドハース(株)製、アクリル樹脂)、タマノル100S(荒川化学工業(株)製、アルキルフェノール樹脂)、ペンセルD−125(荒川化学工業(株)製、ロジンエステル樹脂)が挙げられる。
【0045】
第二の工程において用いる溶媒(c)は、微粒子(a)及び樹脂組成物(b)を分散させるための分散媒として機能する溶媒であり、有機溶剤であることが好ましい。前記有機溶剤としては特に限定されず、上記溶媒(C)で挙げた有機溶剤と同様の有機溶剤を用いることができる。このような溶媒としては、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、耐摩擦性下地膜や前記樹脂組成物(b)に合わせて適宜選択することができる。また、pH調整剤としての酸及び/又はアルカリ等をさらに含んでいてもよい。
【0046】
第二の工程において用いる第二の組成物(超撥水性仕上げ膜形成組成物)は、前記微粒子(a)と、前記樹脂組成物(b)と、前記溶媒(c)とを含有している。
【0047】
前記第二の組成物においては、微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)は15:85〜99:1である。コーティング膜の最表面を超撥水性の微細な凹凸にする微粒子(a)の量及び耐摩擦性をより向上させる樹脂組成物(b)の量が両立することによって優れた耐摩擦性を有する超撥水性仕上げ膜が得られるため、微粒子(a)の樹脂組成物(b)の不揮発分に対する質量比が前記下限未満では、微粒子(a)が樹脂組成物(b)に埋もれて良好な凹凸構造が形成できず、他方、前記上限を超えると、微粒子(a)が摩擦等によって仕上げ膜から容易に脱落してしまい、良好な超撥水性仕上げ膜を形成できない。また、このような質量比(a:b)は、同様の観点で、より高い効果が得られる傾向にあることから、50:50〜90:10であることが好ましく、60:40〜80:20であることがより好ましい。
【0048】
また、前記第二の組成物における微粒子(a)の含有量は、第二の組成物中に1〜50質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることが特に好ましい。微粒子(a)の含有量が前記下限未満では、超撥水性仕上げ膜表面の凹凸構造の形成が不十分となって超撥水性が低下する傾向にあり、他方、微粒子(a)の含有量が前記上限を超えると、微粒子(a)の増加に伴う撥水性の向上効果が少なくなる傾向にある。
【0049】
前記第二の組成物においては、溶媒(c)の配合量は特に限定されず、採用する塗布方法等に応じて適宜選択されるが、第二の組成物中に10〜99質量%であることが好ましい。
【0050】
なお、前記第二の組成物は、微粒子(a)、樹脂組成物(b)及び溶媒(c)の他に、目的により紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤等を更に含有していてもよい。このような添加剤を含有する場合は、添加剤の含有量は第二の組成物中に3質量%以下であることが好ましい。
【0051】
前記第二の組成物を得る方法は特に限定されないが、第二の組成物は、微粒子(a)、樹脂組成物(b)及び溶媒(c)をこれらの均一分散物として含有していることが好ましく、例えば、微粒子(a)、樹脂組成物(b)及び溶媒(c)を混合後、微粒子化処理によって微粒子(a)を微粒子化分散させる方法が好ましい。微粒子(a)の分散不良により凝集微粒子が混在すると、超撥水性仕上げ膜の超撥水性及び耐摩擦性が低下する傾向にある。前記微粒子化処理としては、特に限定されず、ホモジナイザー、アルチマイザー、ナノマイザー、コロイドミル、ビーズミル、サンドミル、ホモミキサー、超音波ホモジナイザーをそれぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いて微粒子を分散させる方法が挙げられる。
【0052】
本発明にかかる第二の工程においては、前記第二の組成物を前記耐摩擦性下地膜の前記基材と反対側の面上に塗布した後に乾燥させて超撥水性仕上げ膜を形成する。
【0053】
前記第二の組成物を塗布する方法としては特に限定されず、前記第一の組成物を塗布する方法で挙げた方法と同様の方法を適宜採用することができる。
【0054】
前記第二の組成物の塗布量は、本発明により得られる乾燥後の撥水性コーティング膜の超撥水性仕上げ膜において、微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)が0.005〜5.0g/mとなる塗布量であることが好ましく、0.01〜1.0g/mとなる塗布量であることがより好ましい。塗布量が前記下限未満では、塗布量が少なすぎて超撥水性を発現する膜を得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、超撥水性の向上率が少なく経済的ではないと共に、厚塗りしたために超撥水性仕上げ膜が剥がれ易くなる傾向にある。
【0055】
本発明にかかる第二の工程において、前記第二の組成物の乾燥方法としては特に限定されず、溶媒が揮発すればよく、第一の工程において挙げた乾燥方法と同様、加熱せずに乾燥する方法を採用することもできる。なお、超撥水性仕上げ膜を形成する時間をより短縮させるという観点からは、60〜180℃程度で5〜60分間程度乾燥することが好ましい。
【0056】
以上、前述した製造方法によって、微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分とを含有し、第一の組成物の不揮発分として得られる耐摩擦性下地膜と、微粒子(a)及び樹脂組成物(b)の不揮発分を含有し、第二の組成物の不揮発分として得られ、前記耐摩擦性下地膜上に形成される超撥水性仕上げ膜とを備える撥水性コーティング膜が得られる。
【0057】
本発明の撥水性コーティング膜の製造方法においては、前記耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)と、前記超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)との量比(I:II)が100:0.1〜100:10の範囲であることが好ましい。前記担持量(I)に対する前記担持量(II)の割合が前記下限未満では、超撥水性仕上げ膜による超撥水性の発現が不十分となる傾向及び摩擦後の撥水性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、摩擦後の撥水性を維持することが困難となる傾向にある。
【0058】
次に、本発明の撥水性コーティング膜について説明する。本発明の撥水性コーティング膜は、平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)の不揮発分とを含有し、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である耐摩擦性下地膜と、
前記耐摩擦性下地膜上に形成されており、平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)の不揮発分とを含有し、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である超撥水性仕上げ膜と、
を備えることを特徴とするものである。
【0059】
本発明の撥水性コーティング膜の製造方法は特に限定されないが、例えば、前述した本発明の撥水性コーティング膜の製造方法によって得ることができる。
【0060】
本発明に用いられる微粒子(A)、樹脂組成物(B)、微粒子(a)及び樹脂組成物(b)としては、前述した撥水性コーティング膜の製造方法において微粒子(A)、樹脂組成物(B)、微粒子(a)及び樹脂組成物(b)として挙げたものとそれぞれ同様のものを用いることができる。
【0061】
また、本発明にかかる耐摩擦性下地膜において、微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)及び微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)は、それぞれ前述のとおりである。
【0062】
本発明にかかる耐摩擦性下地膜において、微粒子(A)の含有量は、前述した撥水性コーティング膜の製造方法における微粒子(A)の第一の組成物中の含有量と同様の観点から、耐摩擦性下地膜中に25〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることが特に好ましい。
【0063】
また、本発明にかかる超撥水性仕上げ膜において、微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)及び微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)は、それぞれ前述のとおりである。
【0064】
本発明にかかる超撥水性仕上げ膜において、微粒子(a)の含有量は、前述した撥水性コーティング膜の製造方法における微粒子(a)の第二の組成物中の含有量と同様の観点から、超撥水性仕上げ膜中に15〜99質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましく、60〜80質量%であることが特に好ましい。
【0065】
また、本発明の撥水性コーティング膜において、前記耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)と、前記超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)との質量比(I:II)は、前述のとおりである。
【0066】
次に、本発明の機能性材料について説明する。本発明の機能性材料は、前記本発明の撥水性コーティング膜を備えることを特徴とするものである。
【0067】
本発明の機能性材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、前述の本発明の撥水性コーティング膜の製造方法において挙げたものと同様の基材の表面に前述の本発明の撥水性コーティング膜を形成することによって得ることができる。
【0068】
本発明の撥水性コーティング膜は、上記のように様々な基材に対して耐摩擦性の撥水性を付与することができるため、特異的に超撥水、防汚、防水、防雪、防氷、防霜、防錆、防藻、防菌、防カビ等の機能を奏する各種の本発明の機能性材料を得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
各実施例及び比較例において、微粒子(A)及び微粒子(a)の粒子径は、レーザ回折式/散乱式粒度分布測定装置(製品名「LA−920」、(株)堀場製作所製)にて測定し、百分率積算値が50%の粒子径(メジアン粒子径)を平均粒子径(μm又はnm)とした。また、樹脂組成物(B)及び樹脂組成物(b)の不揮発分(質量部)は、各樹脂組成物5gをオーブン(製品名「パーフェクトオーブンSPH−201」、エスペック(株)製)にて105℃で3時間加熱した後の残存量(g)から算出した各樹脂組成物における不揮発分の割合(質量%)より換算した。なお、実施例及び比較例において、「部」は、特に言及しない限り「質量部」を意味する。
【0071】
また、各実施例及び比較例により得られたコーティング膜を試料として、以下の水接触角の評価試験、撥水性の評価試験及び耐摩擦性の評価試験を行った。
【0072】
<水接触角の評価試験>
携帯式接触角計(製品名「PG−X」、(株)マツボー製)を用い、蒸留水滴下量を2.5μLとして試料表面の水の静的接触角を計測した。
【0073】
<撥水性の評価試験>
以下の水滴試験、水滴易動度試験を実施し、試料表面の撥水性を評価した。
【0074】
a.水滴試験
水平に置いた試料表面を横切る線上に数滴の水を落とし、これらの水滴の接触角を計測して、試料表面の撥水性を下記の基準に基づいて評価した。
A:まとまった、真球に近い、きらきら輝きのある水滴が主として存在し、145°以上の優れた接触角を有する。
B:僅かに広がった、真球から少しくずれた、輝きのある水滴が主として存在し、140°以上145°未満の良好な接触角を有する。
C:広がっていて、平らな小さい水滴が主として存在し、140°未満の接触角を有する。
【0075】
b.水滴易動度試験
前記水滴試験に次いで、試料表面に置かれた複数の水滴の線と平行な位置にある試料のへり部をゆっくりと持ち上げた。水滴が傾いた表面を流れ始める時の角度又は持ち上げられたへりの水平な支持面からの高さを測定した。角度又はへり部の高さが小さいほど試料表面の撥水性と接触角が良好であり、下記の基準に基づいて評価した。
A:0°以上10°未満の傾き(0以上2cm未満のへり部高さ)
B:10°以上20°未満の傾き(2以上3.5cm未満のへり部高さ)
C:20°以上30°未満の傾き(3.5以上5cm未満のへり部高さ)
D:30°以上の傾き(5cm以上のへり部高さ)。
【0076】
<耐摩擦性の評価試験>
摩擦試験を実施した後、上記水接触角の評価試験及び撥水性の評価試験を行って摩擦試験後の試料表面の撥水性を評価した。前記摩擦試験はJIS L−8049に準拠し、学振型摩擦試験器(製品名「摩擦試験器 標準型」、昭和重機(株)製)を用い、荷重200g、接触面をナイロン布、往復摺動運動回数を100回として行った。
【0077】
各実施例及び比較例においては、微粒子(A)、樹脂組成物(B)、微粒子(a)、樹脂組成物(b)としてそれぞれ以下のものを用いた。
【0078】
<微粒子(A)>
(A)−1 X−52−875(信越化学(株)製)
シリコーン樹脂(不揮発分:100質量%)
(A)−2 LPS−300C(リグナイト(株)製)
フェノール樹脂(不揮発分:100質量%)
(A)−3 粒状白鷺WHA(日本エンバイロケミカルズ(株)製)
活性炭(不揮発分:100質量%)
(A)−4 トレフィルR−900(東レ・ダウコーニング(株)製)
シリコーン樹脂(不揮発分:100質量%)
(A)−5 球状白鷺X7100H(日本エンバイロケミカルズ(株)製)
活性炭(不揮発分:100質量%)
(A)−6 トレフィルR−902A(東レ・ダウコーニング(株)製)
シリコーン樹脂(不揮発分:100質量%)。
【0079】
<樹脂組成物(B)>
(B)−1 X−7096(日華化学(株)製)
ウレタン樹脂エマルジョン(不揮発分:38質量%)
(B)−2 ネオステッカー1700(日華化学(株)製)
エステル系ポリウレタン樹脂エマルジョン(不揮発分:38質量%)
(B)−3 KR−400(信越化学(株)製)
シリコーンレジン(不揮発分:100質量%)
(B)−4 Terrific GC−100A((株)グローケミカル製)
硬化剤(不揮発分:17質量%)
Terrific GC−100B((株)グローケミカル製)
エポキシ樹脂(不揮発分:46質量%)
(B)−5 UNIKA RESIN 380−K(ユニオン化学工業(株)製)
メラミン樹脂(不揮発分:80質量%)
UNIKA CATALYST 3−P(ユニオン化学工業(株)製)
触媒(不揮発分:42質量%)。
【0080】
<微粒子(a)>
(a)−1 レオロシールZD−30ST((株)トクヤマ製)
オルガノシロキサン改質シリカ(不揮発分:100質量%)
(a)−2 アエロジルRX−50(日本アエロジル(株))
オルガノシロキサン改質シリカ(不揮発分:100質量%)。
【0081】
<樹脂組成物(b)>
(b)−1 SH8011(東レ・ダウコーニング(株)製)
シリコーンレジン(不揮発分:50質量%)
(b)−2 アキュゾール820(ロームアンドハース(株)製)
アクリル樹脂(不揮発分:100質量%)
(b)−3 タマノル100S(荒川化学工業(株)製)
アルキルフェノール樹脂(不揮発分:100質量%)
(b)−4 ペンセルD−125(荒川化学工業(株)製)
ロジンエステル樹脂(不揮発分:100質量%)。
【0082】
(実施例1)
先ず、微粒子(A)として(A)−1(5部)、樹脂組成物(B)として(B)−1(20部(不揮発分の質量換算で7.5部))、イソプロピルアルコール(45部)、イオン交換水(30部)を予備混合した後、ホモミキサー(製品名「T.K.HOMODISPER」、特殊機化工業(株)製)にて攪拌処理(10分間)を施して不揮発分が12.5質量%の白色液状の第一の組成物を得た。得られた微粒子(A)の平均粒子径は40μmであった。
【0083】
次いで、微粒子(a)として(a)−1(1部)、樹脂組成物(b)として(b)−1(0.5部)、イソプロピルアルコール(98.5部)を予備混合した後、超音波ホモジナイザー(製品名「US−600T」、(株)日本精機製作所製、)にて微粒子化処理(1分間)を施して不揮発分が1.5質量%の半透明液状の第二の組成物を得た。得られた微粒子(a)の平均粒子径は160nmであった。
【0084】
次いで、基材として市販のガラス板(12cm×12cm)を準備した。ガラス板表面は残留物を除去するためにアセトンを用いて洗浄した。
【0085】
次いで、上記第一の組成物をオートフィルムアプリケーター(製品名「PI−1210」、テスター産業(株)製)にて、コーティング膜形成後の耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量が15g/mとなるように上記基材の片面に塗布し、105℃で10分間乾燥を行い、耐摩擦性下地膜を形成した。
【0086】
得られた耐摩擦性下地膜上に、上記第二の組成物をトリガースプレー(製品名「TS800−1」、椿本興業(株)製)にて、コーティング膜形成後の超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量が0.15g/mになるように塗布し、室温で20分間乾燥して超撥水性仕上げ膜を形成せしめ、撥水性コーティング膜を得た。
【0087】
(実施例2〜25及び比較例1〜9)
実施例1で用いた微粒子(A)、樹脂組成物(B)、微粒子(a)及び樹脂組成物(b)の組み合わせを、それぞれ以下の表1〜表6に記載の組み合わせに代えた以外は実施例1と同様にして、実施例2〜25及び比較例1〜9のコーティング膜を得た。
【0088】
以下の表1〜6に、実施例1〜25及び比較例1〜9で得られたコーティング膜の組成及び評価結果をまとめて示す。表1〜6において、*1は「微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量」、*2は「微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量」として示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【0095】
表1〜表4に示した実施例1〜25の評価結果から明らかなように、本発明の撥水性コーティング膜の製造方法により得られた撥水性コーティング膜は、摩擦試験前はいずれも水接触角が150°以上であり、超撥水性を有していることが確認された。また、これらの撥水性コーティング膜は水滴試験、水滴易動度試験においても良好な結果を示した。さらに、実施例1〜25で得られた撥水性コーティング膜に対する耐摩擦性の評価試験においては、摩擦試験後の水接触角の値が摩擦試験前に比べてわずかに低下したものの、いずれの撥水性コーティング膜も摩擦試験後において140°以上の高い水接触角を維持していた。また、これらの撥水性コーティング膜は水滴試験及び水滴易動度試験においても「A」又は「B」の評価結果を示し、本発明の撥水性コーティング膜の製造方法により得られた撥水性コーティング膜は、摩擦後においても高撥水性を維持していることが確認された。
【0096】
一方、表5〜表6に示した比較例1〜9の結果から明らかなように、耐摩擦性下地膜単独の場合(比較例2)、超撥水性仕上げ膜単独の場合(比較例3)、あるいは微粒子(A)、微粒子(a)、各微粒子と各樹脂組成物との質量比のいずれかが本発明の構成から外れる場合(比較例4〜9)において、得られたコーティング膜は、摩擦試験前でも超撥水性を有さないか、又は摩擦試験後に撥水性が著しく低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明によれば、様々な材質の基材及び様々な表面構造を有する基材表面において、特殊な処理を要することなく、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜を形成することが可能な撥水性コーティング膜の製造方法を提供すること、並びに、耐摩擦性に優れた撥水性コーティング膜及びそれを備えた機能性材料を提供することが可能となる。
【0098】
また、これらの撥水性コーティング膜及び機能性材料は、従来の撥水性コーティング膜で得られなかった耐摩擦性の撥水性を発揮するため、これに付随して耐摩擦性に優れた防汚、防水、防雪、防氷、防霜等の機能を発揮することが可能となる。さらに、本発明の撥水性コーティング膜及び機能性材料は建築物外壁材や建築物内壁材等の各種建築材や建装材、屋根材、碍子、電線管、電線用ケーブル、電線ダクト、道路標識等の掲示板、レドーム膜、アルミフィン、アンテナ、各種素材のフェンスや塀、テント、防水コンクリート、農業用フィルム、オーディオ・ビデオ機器、電子部品や機械部品のケース(容器)等に用いることができ、非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)と、溶媒(C)とを含有しており、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である第一の組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗布して耐摩擦性下地膜を形成する第一の工程と、
平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)と、溶媒(c)とを含有しており、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である第二の組成物を前記耐摩擦性下地膜の前記基材と反対側の面上に塗布した後に乾燥させて超撥水性仕上げ膜を形成する第二の工程と、
を含むことを特徴とする撥水性コーティング膜の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子(a)が、オルガノシロキサン骨格を導入した疎水性シリカ化合物からなる微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の撥水性コーティング膜の製造方法。
【請求項3】
前記耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)が1〜80g/mであり、
前記超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)が0.005〜5g/mであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の撥水性コーティング膜の製造方法。
【請求項4】
前記耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)と、前記超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)との質量比(I:II)が100:0.1〜100:10であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の撥水性コーティング膜の製造方法。
【請求項5】
平均粒子径が15〜500μmの微粒子(A)と、樹脂組成物(B)の不揮発分とを含有し、前記微粒子(A)と前記樹脂組成物(B)の不揮発分との質量比(A:B)が25:75〜70:30である耐摩擦性下地膜と、
前記耐摩擦性下地膜上に形成されており、平均粒子径が5〜500nmであり且つ疎水性である微粒子(a)と、樹脂組成物(b)の不揮発分とを含有し、前記微粒子(a)と前記樹脂組成物(b)の不揮発分との質量比(a:b)が15:85〜99:1である超撥水性仕上げ膜と、
を備えることを特徴とする撥水性コーティング膜。
【請求項6】
前記微粒子(a)が、オルガノシロキサン骨格を導入した疎水性シリカ化合物からなる微粒子であることを特徴とする請求項5に記載の撥水性コーティング膜。
【請求項7】
前記耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)が1〜80g/mであり、
前記超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)が0.005〜5g/mであること、
を特徴とする請求項5又は6に記載の撥水性コーティング膜。
【請求項8】
前記耐摩擦性下地膜における微粒子(A)と樹脂組成物(B)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(I)と前記超撥水性仕上げ膜における微粒子(a)と樹脂組成物(b)の不揮発分との単位面積当たりの総担持量(II)との質量比(I:II)が100:0.1〜100:10であることを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載の撥水性コーティング膜。
【請求項9】
請求項5〜8のうちのいずれか一項に記載の撥水性コーティング膜を備えることを特徴とする機能性材料。

【公開番号】特開2012−20248(P2012−20248A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160942(P2010−160942)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】