説明

撥水性ポリエステル複合繊維

【課題】優れた撥水性能と十分な強度を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性が低下が少なく、風合いにも優れた従来にない複合繊維を提供する。
【解決手段】芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、放射状に4〜48個の凸部を有する異型度が1.1〜2.5、単糸繊度が0.1〜3.0dtexの異型断面繊維でかつ特定のエステル反応性シリコーンをポリエステル全重量に対し2〜40重量%含有する撥水性ポリエステルを鞘成分とする複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたる使用においても撥水性の低下がなく、工程安定性に優れた各種衣料、資材用途に好適に使用できる撥水性ポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステル繊維は多くの優れた特性を有するがゆえに合成繊維として広く使用されており、近年益々スポーツ用、カジュアル用に向けて撥水機能やよりヌメリ感の付与など、更なる高機能化および風合いの改良が求められている。
【0003】
従来より撥水機能の付与は、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着せしめて、撥水処理を施す方法が広く行われている。しかしながら、これらの加工処理で得られた布帛には撥水性はあるものの、耐久性が低く、布帛の使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。一方、十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると布帛の風合いが硬くなるという問題点がある。そのためにポリエステル繊維のスポーツウェア分野等撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されていた。
【0004】
布帛としての撥水性を付与する為には、化学的な撥水性の付与以外に形態によっても付与することが可能である。即ち空気層を緻密に配置することにより、いわゆる蓮の葉構造やサトイモの葉のような構造を持たせることによって撥水性を発現させることができる。その為細繊度化した撥水糸を高密度に織り込んで緻密な構造にすることも従来試みられてきたが、繊維自体の撥水性が不十分の為十分な性能が得られていない。
【0005】
これに対して、特開昭62−238822号公報にはフッ素系樹脂を溶融混練して得られた繊維が提案され、特開平2−26919号公報にはフッ素系重合体微粒子を練り込んで得られた繊維が提案されている。また、特開平9−302523号公報および特開平9−302524号公報ではテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオリドの共重合体を撥水成分としてポリエステルに含有した繊維が提供されている。しかしながら、フッ素樹脂は一般に融点と分解点が近いため、長期のランニングでは分解熱劣化したポリマーが影響して、安定して良好な糸質の繊維を得ることが困難である。また、加熱によるフッ化水素の発生により装置を劣化させてしまう危険性がある。
【0006】
さらに特開平4−343770号公報、特開平5−106171号公報等では特定の有機ポリマーを介してフッ素変性シリコーンをポリエステル繊維表面に結合することにより撥水性繊維とする試みが開示されている。この場合繊維の撥水性はある程度高耐久性になるものの、やはり繊維は硬いものとなり、布帛にした時も風合いが硬くなってしまい又ヌメリ感も低下するという欠点や、フッ素化合物を用いることによる環境負荷の増大の問題がある。
【0007】
更に、特開2005−105424号公報には特定のエステル反応性シリコーンを含有(共重合含む)させることにより鞘部ポリエステルに撥水性を付与することが開示されている。しかしながら高撥水性とするためには添加量を多くすることが必要であり、そのため細繊度とすると強度が低下するという問題があった。
【0008】
又が特開2008−248444号公報にはシリコーン微粒子をポリエステルに添加する技術が開示されているが、高撥水性とするためには添加量を増やす必要があり、そのため細繊度にすると強度が低下するという問題があった。
上述の通り、十分な撥水性と実用耐久性を有し、工程安定性、生産性、さらにはやわらかさなど風合いにも優れた撥水性ポリエステル繊維が強く望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−238822号公報
【特許文献2】特開平2−26919号公報
【特許文献3】特開平9−302523号公報
【特許文献4】特開平9−302524号公報
【特許文献5】特開平4−343770号公報
【特許文献6】特開平5−106171号公報
【特許文献7】特開2005−105424号公報
【特許文献8】特開2008−248444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術の有する課題を克服した、優れた撥水性能と十分な強度を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性が低下が少なく、風合いにも優れた従来にない複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、このような問題を解決するため検討した結果、繊維表面に凸部を有する異型断面繊維でかつ撥水ポリマーを鞘成分とする複合繊維によって達成されることを見出した。
【0012】
即ち、本発明によれば、
芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維、
a)鞘部を構成するポリエステルが下記式(1)で表されるエステル反応性シリコーンをポリマー重量に対し2〜40重量%含有すること。
b)繊維軸に直交する断面の外周部に4〜48個の凸部を有しており、その異型度が1.1〜2.5、単糸繊度が0.1〜3.0dtexであること。
c)繊維の鞘/芯比率が70/30〜5/95の範囲であること。
【化1】

又、鞘部ポリエステルが、該ポリエステルの酸成分に対して下記式(2)で表される含金属リン化合物(a)を0.1〜3モル%及び該含金属リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルのアルカリ土類金属化合物(b)を(a)と(b)とを予め反応させることなく添加されたポリエステルとした後アルカリ減量されてなるポリエステルである撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維、
【化2】

(式中、R及びRは一価の有機基であってR及びRは同一でも異なってもよく、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
特定のエステル形成性シリコーンを含有する特定断面形状の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維、また更にそれに特定方法により繊維表面に微細孔を形成させることにより、シリコーンによる撥水性だけでなく、水滴と繊維の接触面積が低下し、繊維表面の水滴が転がり易くすることができ、シリコーン含有量が少なくても繊維及び布帛に優れた撥水性を付与することが出来る。および高強度で独特の風合い、深色性を併せ持つポリエステル複合繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維について詳述する。
本発明の撥水性ポリエステル複合繊維は、芯鞘型構造の複合繊維である。鞘部を構成するポリマーは、撥水性を発現する為、後述の通り、エステル反応性シリコーンを含有するポリエステルである必要があり、芯部を構成するポリマーは、特に限定されないが、エステル反応性シリコーンを含有しない鞘部と同種のポリエステルであることが製糸性の面から好ましい。
【0015】
本発明の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維を構成するポリマーは、ポリエステルを主体としてなり、芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールから形成される成分を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールを繰り返し単位とするポリエステルは対応する芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体ならびにジオールとから合成されるポリエステルであって、汎用樹脂としてその物性を損なわない範囲で目的に応じて他の成分が共重合されていても良い。エステル形成誘導体とは炭素数1〜6個の低級アルキルエステル、炭素数6〜12個の低級アリールエステル、酸ハロゲン化物を挙げることができる。主たる繰り返し単位とは、ポリエステルを構成する全繰り返し単位中70モル%がその芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールから形成される成分で構成されていることを表している。
【0016】
その芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、無水フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、または5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸ジメチルなどを挙げることができる。またエステル形成性誘導体としては、上記のようなジメチルエステルその他の低級アルキルエステル以外に、酸塩化物を用いても良い。これらの中でも特に、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸ジメチルまたは2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを用いることが好ましい。
【0017】
またジオールとして、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、またはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどを挙げることができ、特にエチレングリコール、1,3−プロピレングリコールまたは、1,4−ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0018】
これらのジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体ならびにジオールはそれぞれ1種ずつを単独で用いても、2種以上を併用してもどちらでも良い。またこれらの好ましい組み合わせから得られるポリエステルである、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレート、ポリテトラメチレンー2,6−ナフタレートが本発明のポリエステルに好ましく用いられる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0019】
本発明の芯鞘型撥水性ポリエステル複合繊維を構成する鞘部ポリエステルには撥水性を付与する為、上述したポリエステルに下記式(1)で示されるエステル反応性シリコーンを共重合させたポリエステルを使用することが必要である。
【0020】
【化3】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
Rのアルキル基は炭素数18個以下、エステル反応性シリコーンの数平均分子量は10000以下であり、好ましくは300以上6000以下であることが好ましい。数平均分子量が10000より大きい場合は、ポリエステルとの相溶性が低下し、ポリエステル中に均一に存在させることが困難となる。
【0021】
さらに該エステル反応性シリコーンは、鞘部ポリエステルに対して2〜40重量%含有されることが必要である。2重量%未満の場合には、繊維として十分な撥水性が得られず、40重量%を超える場合には、ポリエステルの有する物性が損なわれ、繊維としての強度が低下し、単糸3.0dtex以下の繊維が製造困難となるばかりか、長期間のランニング時に安定した生産が困難となる。好ましくは2〜30重量%、更に好ましくは2〜20重量%である。
【0022】
ここでエステル反応性シリコーンを含有するとは、エステル反応性シリコーンがポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれ共重合されている状態と、ポリエステルとは化学結合せずにブレンド状態で存在する状態の双方を含んでいることを指す。共重合されていない成分はブレンド状態でポリエステル中に安定に存在し、繊維化での悪影響を及ぼさない。この理由は、エステル反応性シリコーンが共重合されたポリエステルが、未反応のエステル反応性シリコーン部分を安定化するのではないかと推定している。
【0023】
本発明ではポリエステルが含有しているエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して20〜50重量%であることが好ましい。20%未満ではブレンド状態のエステル反応性シリコーンのポリエステル中への分散性が悪化し、製糸性が低下し、50%を超える場合は物性が損なわれ、製糸性が低下し、毛羽が発生するなどの原因となる。エステル反応性シリコーンの共重合量は、エステル反応性シリコーンの全重量に対して好ましくは25〜40重量%である。
【0024】
本発明のエステル反応性シリコーン共重合ポリエステルを得る方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法と、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応や又はテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行い、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造する方法があるが、どちらの方法でも可能である。エステル反応性シリコーン化合物の添加時期は、共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量によって上記共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の割合を調整することができる。
【0025】
本発明の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維の別の態様として、鞘部ポリエステルが、該エステル反応性シリコーンの他に、該ポリエステルを構成する酸成分に対して0.1〜3モル%の下記式(2)で表される含金属リン化合物(a)および該含金属リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルのアルカリ土類金属化合物(b)を(a)と(b)とを予め反応させることなく添加され、かつアルカリ減量されたものも好ましい態様として挙げることができる。
【0026】
【化4】

(式中、R及びRは一価の有機基であってR及びRは同一でも異なってもよく、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【0027】
上記含金属リン化合物は通常正リン酸または対応する正リン酸エステル(モノ、ジ、またはトリ)と所定量の対応する金属の化合物とを溶媒の存在下加熱反応させることによって容易に得られる。この際の溶媒として対象ポリエステルの原料として使用するグリコールを使用することが好ましい。
【0028】
上記含金属リン化合物の添加量は鞘部ポリエステル酸成分に対して0.1〜3モル%とする必要がある。0.1モル%未満ではアルカリ減量による表面の凹凸が少なく撥水性が低下する。又3モル%を超える場合には、得られた繊維の強度が十分でなく、その後の織編工程にて安定した繊維製品の製造が困難となる。
【0029】
上記含金属リン化合物と併用するアルカリ土類金属化合物としてはアルカリ土類金属の有機カルボン酸塩、例えば酢酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、安息香酸塩、フタル酸塩、ステアリン酸塩などが挙げられる。
【0030】
上記含金属リン化合物とアルカリ土類金属化合物は予め反応させることなく前述のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルの反応系に添加する必要がある。こうすることによって不溶性粒子をポリエステル中に均一な超微粒子状態で生成せしめることができる。予め外部で上記含金属化合物とアルカリ土類金属化合物を反応させて不溶性粒子とした後にポリエステル反応系に添加したのではポリエステル中の不溶性粒子の分散性が悪くなり最終的にアルカリ減量して得られるポリエステル繊維表面の凹凸が少なく撥水性が低下し且つ染色後の色の深みや鮮明性が得られ難い。
【0031】
本発明の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維は、単糸が繊維軸に直交する断面において外周部に4〜48個の凸部を有することが必要で、凸部は繊維軸中心から放射状に形成されていることが好ましく、場所による撥水性能に差が出にくくするため、繊維表面で等間隔で配置されている歯車形状とすることが好ましい。
【0032】
ここで凸部が4個未満の場合、繊維単糸表面に形成される空隙が少なくまた幅広くなり、撥水性能を発現し難くなり、凸部形成効果を得ることができず、凸部が48個を超える場合は、逆に繊維表面に形成される凹凸が細かくなりすぎ、水滴に対する空隙形成効果が低下する。凸部の好ましい範囲は6個〜24個である。
【0033】
又本発明の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維は、単糸断面の下記式で表される異型度が1.1〜2.5とすることが必要である。異型度が1.1未満の場合、繊維表面の凸部形成による空隙形成効果が得られ難く、異型度が2.5を超えると凸部が延伸や後加工中に分割などフィブリル化を起こして品位の低下を招くため、1.2〜2.0が好ましい範囲である。なお、本発明の異型度はは以下の方法によって求められる。
(異形度)=L1/L2
ただし、L1:繊維横断面の外接円の直径
L2:繊維横断面の内接円の直径
【0034】
本発明の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維は、織編物とした際の柔らかさを際立たせる為に、単糸繊度が0.1〜3.0dtexであることが必要である。0.1dtex未満の複合繊維を製造することは事実上困難であり、また、3.0dtexを越えると単糸が太くなることにより、柔らかい風合いは得られず撥水性能も低下する。好ましい範囲は0.5〜1.5dtexである。
【0035】
また、複合繊維の鞘/芯の比率は、70/30〜5/95の範囲が好ましい。70/30より鞘が多くなると、物性面での低下が著しく、生産性が低下し、細繊度のものを得ることも困難となる。5/95を超えると鞘の厚みが薄くなりすぎ、制御が困難となる他、鞘が破れ芯が露出することにより、撥水性が低下したり染色斑の原因となる可能性が高い。さらに好ましくは50/50〜10/90であり、ことさらに40/60〜20/80であることが特に好ましい。
【0036】
本発明の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維は公知の複合紡糸装置を用いて、例えば図1に示すような口金を用いて公知の方法で製糸することができるが、芯部のポリエステルを適切に選択することにより、例えば、鞘部と同種でエステル反応性シリコーンを含有しないものとすることにより、物性面での強度が確保することができるので、紡糸速度を上げて効率よく生産することができる。例えば、芯鞘型複合繊維として溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸後、一旦巻き取らず直接延伸、熱処理する方法などが挙げられる。その他1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し延伸する方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などが好ましく挙げられ、細繊度の繊維の生産性、安定性に優れたものとできる。
【0037】
このようにして得られた撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維からその一部を除去するには、必要に応じて延伸熱処理又は仮撚加工等を施した後、好ましくは布帛にした後、公知のアルカリ減量装置によりアルカリ化合物の水溶液で処理することにより容易に行うことができる。
【0038】
ここで使用するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等をあげることができる。なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0039】
かかるアルカリ化合物の水溶液の濃度は、アルカリ化合物の種類、処理条件によって異なるが、通常0.01〜40重量%の範囲が好ましく、特に0.1〜30重量%の範囲が好ましい。処理温度は常温〜100℃の範囲が好ましく、処理時間は1〜4時間の範囲で通常行われる。また、このアルカリ化合物の水溶液の処理によって溶出除去する量は、繊維重量に対して2重量%以上の範囲にすべきである。
【0040】
なお、本発明の方法により得られるポリエステル繊維には、必要に応じて任意の添加剤、例えば触媒、着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤等が含まれていても良い。
【0041】
このようにして得られる繊維を使用した織編物は、優れた撥水性能を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等による撥水性の低下がなく、且つ風合いにも優れたものとなる。
特に鞘部ポリエステルに含金属リン化合物及びアルカリ土類金属化合物を添加した後アルカリ減量処理したものは表面に微細孔を有し、良好な撥水性とともに独特のヌメリ感、風合いを有し且つ繊維及び布帛の染色鮮明性、深色性が向上する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における各項目は下記の方法で測定した。
【0043】
(1)強度
20℃、65%RHの雰囲気下で、引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度とした。
【0044】
(2)接触角(繊維の撥水性)
ソフト性で用いた布帛と同等のものからポリエステル繊維を抜き出した後単糸を採取し、協和界面科学(株)社製自動微小接触角測定装置「MCA−2」を使用し、蒸留水を使用して繊維の単糸表面上に500plの蒸留水を滴下したときの繊維と水滴との接触角をθ/2法にて測定し、接触角が大きいほど撥水性に優れると判断した。
【0045】
(3)撥水性(布帛の撥水性)
ソフト性評価に用いたものと同等の布帛を用いて、JIS L−1092のスプレー試験法に準じ、ただし時間を10分間として、布帛の濡れ具合に対する点数表示による評価を行った。
100点:表面に湿潤や水滴が付着していないもの
90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴が付着しているもの
80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤があるもの
70点:表面の半分以上が湿潤し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの
50点:表面全体が湿潤したもの
0点:表面および裏面が全体に湿潤を示すもの
【0046】
(4)含有シリコーン化合物量:
1H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有している変性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についても1H−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合している変性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。また変性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0047】
(5)紡糸性:
紡糸工程における紡糸性について、以下の4段階評価で表した。
◎:毛羽発生・糸切れが無く、非常に良好。
○:やや毛羽の発生があるものの糸切れが無く良好。
△:やや毛羽の発生があり、糸切れが発生(1〜2回/hr)
×:毛羽が発生・糸切れが多発(3回/hr以上)
これらの評価の中で○以上が実用的に使用可能な評価結果である。
【0048】
(6)ソフト性
各実施例および比較例で得られたポリエステル繊維を経糸および緯糸に使用して、目付75g/m2の平織物を製織し、定法により精錬、乾燥した後、180℃でヒートセットした。さらにこの一部を用いて減量率25%となる様にアルカリ減量をして布帛を得た。この布帛を用いて、5人のパネラーによる官能評価を行い、
3: 全員が極めて良好と判定したもの、
2: 3人以上が良好と判断したもの、
1: 3人以上が不良と判定したものを(不良)
と、三段階にランク付けした。
【0049】
(7)ヌメリ感
ソフト性評価に用いたものと同等の布帛を用いて、5人のパネラーによる官能評価を行い、3: 全員が極めて良好と判定したもの、
2: 3人以上が良好と判断したもの、
1: 3人以上が不良と判定したものを(不良)
と、三段階にランク付けした。
【0050】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式(I)のRがエチル基、n=9である化合物、チッソ社製FM−DA11)10重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温し、精製するメタノールを系外に除去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部および重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応させ、シリコーン含有ポリエステルを得た。得られたポリエステルの固有粘度は0.65であった(35℃、オルソクロロフェノール中)。
【0051】
このポリエステルを、水分率70ppm以下となるまで乾燥した後、溶融温度300℃で押出機にて溶融し、他方エステル反応性シリコーン化合物を用いずに重合した固有粘度0.64(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレートを、同様の水分率となる様に乾燥した後、図1に示す凸部を12ケ有する単糸断面形状となるような吐出孔を36孔有する紡糸口金から、鞘/芯の重量比が30/70となるように紡出し、油剤付与後紡糸速度1000m/で引き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を予熱温度90℃、延伸倍率2.6倍、熱セット温度180℃にて延伸熱セットを実施し、単糸繊度2.0dtex、総繊度72dtexの12個の放射状凸部を有する断面からなるマルチフィラメントを得た。
得られた繊維を使用してタフタ織物を作成し、分散染料を使用して染色した後、80℃、3.5%水酸化ナトリウム水溶液にて処理することにより減量率30%で減量を行った。得られた布帛は撥水性に優れたものであり、しなやかでヌメリ感のある風合を有していた。
得られたマルチフィラメントの物性を表1に示す。
【0052】
[実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、比較例3]
実施例1において凸部の個数を8個、6個、0個、3個、84個とした吐出孔を用いた以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られたマルチフィラメントの物性を表1に示す。
本発明の範囲内である実施例2、3においては、撥水性、風合いを両立するものを得ることができたが、凸部を有さない比較例1や凸部の個数の少ない比較例2、凸部の数が範囲を超えて多い比較例3においては、風合い面では良好であるものの、撥水性は劣るものとなった。
【0053】
[比較例4〜5]
実施例1において実施例1においてエステル反応性シリコーンをそれぞれ、0部、1部とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。
得られた芯鞘複合型マルチフィラメントの物性を表1に示す。
エステル反応性シリコーンを含有しない比較例4、および含有量の少ない比較例5においては強度や工程安定性には優れるが、撥水性がみられず、またヌメリ感が全く感じられないものとなった。
【0054】
[比較例6]
実施例1と同様の方法で、単糸繊度を5dtexとしたものを比較例6として行った。
得られたマルチフィラメントの物性を表1に示す。単糸繊度が範囲を超えて大きい為、撥水性において凸部形成効果を発現できず、風合いの面でも若干劣るものとなった。
【0055】
[比較例7]
実施例3で口金吐出孔形状を変更し、異型度を3.5として行ったものを比較例7として表1に示す。
このものは異型度が高すぎる為にかえって撥水性が低くなるばかりか製織時に割れが発生し、織物の風合いとしてがさついたものとなり、染色性も部分的に斑となり品位に欠けるものであった。
【0056】
[比較例8]
実施例1でシリコーン含有ポリエステルのみを用いて同様に製糸したものを表1に示す。これは撥水性能や風合いは良いものの糸の強度が低く、織物物性としても劣るものとなった。
【0057】
[実施例4]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)、エステル反応性シリコーン(チッソ製FM−DA11)10部をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から230℃まで昇温して生成するエタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。続いて得られた反応生成物に、0.5部のリン酸トリメチル(テレフタル酸ジメチルに対して0.693モル%)と0.31部の酢酸カルシウム1水塩(リン酸トリメチルに対して1/2倍モル)とを8.5部のエチレングリコール中で120℃の温度において全還流下60分間反応せしめて調整したリン酸エステルカルシウム塩の透明溶液9.31部に室温下0.57部の酢酸カルシウム1水塩(リン酸トリメチルに対して0.9倍モル)を溶解せしめて得たリン酸ジエステルカルシウム塩と酢酸カルシウムとの混合透明溶液9.88部を添加し、重合缶に移した。次いで1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から285℃まで昇温した。その後、1mmHg以下の減圧下、重合温度285℃で更に3時間、合計4時間30分重合し、固有粘度は0.62のポリエステルを得た(35℃、オルソクロロフェノール中)。
【0058】
このポリエステルを、水分率70ppm以下となるまで乾燥した後、溶融温度300℃で押出機にて溶融し、実施例1と同様に図1に示す12ケの凸部を有する単糸断面形状となるような吐出孔を36孔有する紡糸口金から紡出し、油剤付与後紡糸速度1000m/で引き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を予熱温度90℃、延伸倍率2.6倍、熱セット温度180℃にて延伸熱セットを実施し、単糸繊度2.0dtex、総繊度72dtexの12個の放射状凸部を有する断面からなるマルチフィラメントを得た。
ここで得られた繊維を使用してタフタ織物を作成し、分散染料を使用して染色した後、80℃、3.5%水酸化ナトリウム水溶液にて処理することにより減量率30%で減量を行った。得られた布帛は撥水性に優れたものであり、しなやかでヌメリ感のある風合を有していた。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
高い耐久性を有する撥水性を有し、風合いに優れたポリエステル布帛として、テント地や手術衣などの資材用途、および、スポーツ用、カジュアル用、紳士婦人スーツ等の衣料用として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の撥水性ポリエステルを得るための紡糸口金の吐出孔の形状の例。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維。
a)鞘部を構成するポリエステルが下記式(1)で表されるエステル反応性シリコーンをポリエステル全重量に対し2〜40重量%含有すること。
b)繊維軸に直交する断面における外周部に4〜48個の凸部を有し、その異型度が1.1〜2.5、単糸繊度が0.1〜3.0dtexであること。
c)繊維の鞘/芯比率が70/30〜5/95の範囲であること。
【化1】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【請求項2】
鞘部を構成するポリエステルが、該ポリエステルの酸成分に対して下記式(2)で表される含金属リン化合物(a)を0.1〜3モル%及び該含金属リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルのアルカリ土類金属化合物(b)を(a)と(b)とを予め反応させることなく添加された後アルカリ減量されてなるポリエステルである請求項1記載の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【化2】

(式中、R及びRは一価の有機基であってR及びRは同一でも異なってもよく、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【請求項3】
エステル反応性シリコーンのうちポリエステルと共重合しているものがエステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲である請求項1〜2いずれかに記載の撥水性芯鞘型ポリエステル複合繊維。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−138508(P2010−138508A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314354(P2008−314354)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】