撥水性構造体およびその製造方法
【課題】微小空間において微量の液体を輸送する撥水性構造体を提供する。
【解決手段】撥水性構造体(2)は、微細な凸部(104)が形成された撥水領域を表面に備える撥水性構造体であって、撥水領域の面積に対する凸部(104)の頂面領域の面積の割合が液体の輸送方向に向かって高くなる。
【解決手段】撥水性構造体(2)は、微細な凸部(104)が形成された撥水領域を表面に備える撥水性構造体であって、撥水領域の面積に対する凸部(104)の頂面領域の面積の割合が液体の輸送方向に向かって高くなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cassieモードでの撥水性を有する撥水性構造体が知られている。Cassieモードは、液面が入り込めない多数の空隙の存在によって液滴と固体面とが点接触する撥水モードである。撥水性能の高さは接触角の大きさによって表される。Cassieモードでは、撥水領域面積に対する接触領域面積の割合が低くなるほど接触角が大きくなる。150°を超える接触角を得られる性質は超撥水性といわれる。
特許文献1には、シリコン基板の表面にフォトリソグラフィー法によって微細な凹凸を形成することによって撥水性構造体を形成する方法が開示されている。微細な凹凸によって構造体に撥水性を付与する場合、凸部の横断面幅を小さくするほど撥水性能が高まる。シリコンをエッチングする際のデザインルールにおいては、エッチング工程における保護膜の最小幅を1μm以上とすることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−226570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述したとおり、撥水領域面積に対する接触領域面積の割合が低くなるほど接触角が大きくなるため、エッチング工程における保護膜の最小幅を可能な限り狭く設計することが望ましい。しかし、エッチング工程における保護膜の最小幅を狭くすればするほど、パターンの乱れが顕在化し、撥水性能がばらつくという問題がある。
また、生物工学の分野などでは、微小空間において微量の液体を輸送する技術が必要とされている。
【0005】
本発明は、微小空間において微量の液体を輸送する撥水性構造体を提供することを目的の1つとする。
また本発明は、撥水性構造体の撥水性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するための撥水性構造体は、微細な凸部が形成された撥水領域を表面に備える撥水性構造体であって、前記撥水領域の面積に対する前記凸部の頂面領域の面積の割合が液体の輸送方向に向かって高くなる。
撥水領域の面積に対する凸部の頂面領域の面積の割合に勾配を持たせることによって、その割合が高い方向へと液体を輸送することができる。そしてこのような凸部は、フォトリソグラフィ法を用いることによって容易に形成することができる。すなわち、本発明によると、微小空間において微量の液体を輸送できる安価な撥水性構造体を実現することができる。
【0007】
(2)液体を滴状態で輸送するには、大きな接触角を維持しつつ、輸送方向に向かって接触角を小さく変化させなければならない。したがって、上流側における撥水性能は高ければ高いほど望ましい。
そこで上記目的を達成するための撥水性構造体において、前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満の直柱体形であることが好ましい。
【0008】
(3)上記目的を達成するための撥水性構造体において、前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満のシリコンからなる直柱体形の芯部と、前記芯部を覆うポリテトラフルオロエチレンからなる表層部とを備えてもよい。
本発明によると、撥水性能をさらに高めることができる。
【0009】
(4)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法は、保護膜をシリコン層の表面に形成する工程と、前記保護膜から露出している前記シリコン層の領域をエッチングすることによって凸部を形成する工程と、前記凸部が形成された前記シリコン層を熱酸化する工程と、熱酸化によって形成された酸化膜を除去する工程と、を含む。
本発明によると、熱酸化と酸化膜の除去とによって、シリコンのエッチング工程のデザインルールに比べて細い凸部を形成できるため、撥水性構造体の撥水性能を高めることができる。またシリコンの熱酸化工程における酸化膜の膜厚制御性は極めて高いため、撥水性能のばらつきが小さな撥水性構造体を製造することができる。
【0010】
(5)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記保護膜によって覆われる領域の面積密度が液体の輸送方向に向かって高くなってもよい。
本発明によると、微小空間において微量の液体を輸送できる撥水性構造体を安価に製造することができる。
【0011】
(6)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記シリコン層を熱酸化する工程において、酸化されずに残る領域の横断面最小幅が1μm未満になるまで熱酸化してもよい。
本発明によると、撥水性構造体の撥水性能をさらに高めることができる。
【0012】
(7)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記凸部を形成する工程において、前記保護膜から露出している領域を垂直方向にエッチングしてもよい。
頂面縁部がなだらかに落ち込む凸部に比べると、頂面縁部が垂直に落ち込む凸部の方が頂面角部における接触面積が小さくなる。したがって本発明によると、撥水性構造体の撥水性能をさらに高めることができる。
【0013】
(8)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記保護膜は、格子形の連続領域を覆う膜でもよい。
格子形の連続領域を覆う保護膜を用いてシリコン層をエッチングすると、格子形の凸部を形成することができる。凸部を格子形にすると、凸部と液面とに囲まれた空隙に気体を閉じこめることができる。気体が閉じこめられた空隙には、液面は入り込むことができない。Cassieモードでの撥水性は、液面が入り込めない空隙の存在によって得られるため、本発明によると、撥水性構造体の撥水性能をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる模式図である。
【図7】本発明の実施形態にかかるグラフである。
【図8】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図9】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図10】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図11】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0016】
本発明による撥水性構造体の製造方法の実施形態を図1から図6に基づいて説明する。図4および図5に示す撥水性構造体1はシリコン基板100からなり、板形の基部106と微細な凸部104とが形成されている。
【0017】
図5において基部106の表面領域にはハッチングが付されている。図5に示すように凸部104は平面視が格子形の直柱体である。図6に示すように格子形の壁を構成している凸部104の間に形成される凹部(ハッチングが付されている領域)は、液滴200と基部106の表面100aとの間に空隙を確保する。この空隙が液滴200によって密封されると、液滴200が空隙内に侵入しにくくなる。したがって、凸部104の間に形成される凹部の幅Gは撥水性構造体1に接触する液滴の直径よりも十分狭くなるように10μm以下に設定することが好ましい。通常存在する液滴の直径は数十μm以上あるので凸部104の間に形成される凹部の幅Gが10μm以下であれば、液滴200と基部106の表面100aとの間に確実に空隙が確保される。
【0018】
基部106の表面100aからの凸部104の高さHは数μmに設定され、通常は1μm以上あれば十分である。凸部104と液滴200との接触面積が小さいほど撥水性が高まるため、凸部104の幅Wは狭ければ狭いほど好ましい。例えば凸部104の幅Wを1μm未満として、凸部104の間に形成される凹部の幅Gより十分狭く設定することにより、極めて高い撥水性能を実現できる。
【0019】
凸部104の間に形成される凹部の幅Gを狭く、凸部104の幅Wをさらに狭くして撥水性を高めようとすれば、フォトリソグラフィ法を用いることになるが、フォトリソグラフィ法の解像度にも限界がある。そこで本実施形態では、以下に説明するようにフォトリソグラフィ法と熱酸化法とを併用して高い撥水性能を持つ撥水性構造体1を形成する。
【0020】
まずはじめに単結晶シリコンからなる基板100を準備する。基板100の結晶方位は任意である。次に図1に示すように、基板100の一方の主面に所定形状の保護膜R1を形成する。保護膜R1は、フォトレジスト等からなり、凸部104の原形の平面視に対応する格子形の連続領域を覆うパターンに形成される。
【0021】
次に図2に示すように、保護膜R1の開口直下の基板100の領域を垂直方向にエッチングする。その結果、保護膜R1のパターンと同一パターンの横断面を有する凸部の原形102が形成される。このとき基板100はエッチングによって形成される側壁と基板100の主面101が垂直になる反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)法を用いる。反応性イオンエッチング法としては、例えば、C4F8プラズマによる保護ステップと、SF6プラズマによるエッチングステップを短く交互に繰り返すボッシュプロセスを用いる。本工程で形成される凸部の原形の間に形成される凹部の幅gは、完成状態における凹部の目標幅Gよりも小さく設定しておく。後続工程における熱酸化と酸化膜の除去とによって凹部は目標幅Wまで拡幅するからである。
【0022】
次に、保護膜R1を除去し基板100を900℃〜1200℃程度の雰囲気において熱酸化する。加湿酸化、水蒸気酸化、パイロジェニック酸化等のウェット酸化法がドライ酸化法よりも酸化レートが速いため好ましい。熱酸化の結果、図2に示す酸化前の凸部の原形102の表面102aから内部への酸素の拡散によって形成される内方拡散領域103aと、酸化前の凸部の原形102の表面102aより外側に成長する酸化シリコンによって形成される膨張領域103bとからなる酸化膜103が図3に示すように形成される。内方拡散領域103aの深さd1と膨張領域103bの深さd2の比は4:6〜6:4程度となり、2つの領域の深さはほぼ等しくなる。
【0023】
図4に示すように凸部の原形102の側面102aと基部106の表面100aとが垂直に交わる交線近傍では、その交線から等距離に位置する点の集合が酸化膜103と非酸化領域104dとの界面104bを構成する。したがって、凸部の原形102の基端部では、酸化膜103と非酸化領域104dとの界面104bがフレア面になる。このフレア面の曲率半径は内方拡散領域103aの厚さと等しくなるため、熱酸化の処理時間によって決めることができる。
【0024】
熱酸化の処理時間は、凸部の原形102の内部に酸化されずに残る非酸化領域104dの厚さtが凸部104の目標厚さと等しくなるように設定する。図7に示すように、シリコンの酸化膜厚は熱酸化の処理時間の平方根に比例する。すなわち、熱酸化の処理時間が長くなるほど酸化膜厚の制御性が向上する。また熱酸化の酸化レートはばらつきが小さいため、処理時間に応じた酸化膜厚を精度良く見積もることができる。したがって凸部の原形102を凸部104の目標幅Wよりも十分厚く形成しておき、酸化膜を十分厚く形成した後に酸化膜を除去すれば、幅が1μm未満の極めて薄い凸部104を高い寸法精度で形成することも可能である。つまり、凸部104の目標幅Wすなわち非酸化領域104dの幅よりも酸化膜を十分厚く形成するとよい。ただし、酸化せずに残す非酸化領域104dの幅を1μm未満にするならば、熱酸化の処理時間が不必要なまでに長くならないように、酸化前の凸部の原形102の幅wは5μm未満にしておくことが望ましい。一方、酸化炉の温度が安定するまでは酸化膜厚の制御性が低いため、熱酸化の処理時間を少なくとも1時間以上に設定できるように凸部の原形102の幅wを目標よりも十分厚く形成しておく必要がある。
【0025】
また熱酸化の処理時間を十分長く設定すると、ボッシュプロセスによって形成されたスキャロップの凹凸を平滑にならして凸部104の側面を滑らかに形成することもできる。さらに酸化温度を低く設定すると(例えば900℃以下)、酸化膜の粘度が高くなり圧縮応力が上がるため、細い部分ほど酸化レートが落ち、その結果、酸化前の凸部の原形102の側面の傾斜を垂直方向に補正することも可能である。
【0026】
次に、図4に示すように酸化膜103を除去する。酸化シリコンからなる酸化膜103はフッ酸(HF)または希フッ酸(BHF)によって除去すればよい。例えば希フッ酸で酸化膜103を大部分除去した後に、残った薄い酸化膜103を蒸気フッ酸によって完全に除去するとよい。酸化膜103を完全に除去すると、非酸化領域104dが完成形の凸部104として露出する。凸部104が基部106から突出する高さHはエッチングの深さと内方拡散領域103aの深さによって決まり、任意に設定することが可能である。すなわち凸部104の幅Wに対する高さHの比は、Deep−RIE法を用いることによって非常に大きく(100以上)設定することも可能である。
【0027】
凸部104の幅Wと凸部104の間の凹部の幅Gとによって撥水性構造体1の撥水性能が決まる。すなわち、平面視において凸部104の頂面104cが単位面積あたりに占める割合が小さくなるほど、撥水性構造体1の撥水性能が向上する。上述した製造方法によると、フォトリソグラフィ法と熱酸化法とを併用することによって、フォトリソグラフィ法の限界を越えて、凸部104の間の凹部の幅Gを狭く、凸部104の幅Wをより狭くすることができるため、極めて高い撥水性能を有する撥水性構造体1を製造することができる。
【0028】
具体的には、上述の製造方法によって得られる撥水性構造体1では、汎用的な半導体プロセスを組み合わせることによって容易に115°以上の接触角θが得られ、170°以上の接触角θを得られる超撥水性能を実現することも可能である。
【0029】
また凸部104の基端部側面は基部106に向かって広がるフレア面になるため、基部106の表面100aと凸部104の基端部側面とがフレア面を介して段差無くなだらかに連続する。したがって、破損しにくい凸部104を形成できる。凸部104の基端部側面の縦断面における曲率半径は、前述したとおり熱酸化の処理時間によって決まり、熱酸化の処理時間を長くするほど大きくなる。したがって、熱酸化の処理時間を長くするほど凸部104は破損しにくくなる。
【0030】
また、凸部104の幅Wは、凸部の原形102の幅と熱酸化の処理時間とによって決まるところ、Deep−RIEによって10μm以上の高さの凸部の原形102を形成するとしても凸部の原形102の幅を1μm程度にまで狭めることが可能であり、酸化膜は数μm程度の厚さに形成することが可能である。そして酸化膜の厚さは数nmの公差で制御することができる。また、シリコンは細くなればなるほど曲げ強度が顕著に高まることが知られ、凸部104の曲げ強度は薄ければ薄いほど高まる。したがって、上述した方法によって製造すると、基部106から突出する高さHが10μm以上、幅Wが1μm未満、アスペクト比(h/w)10以上の破損しにくい凸部104を歩留まり良く形成することも可能である。
【0031】
なお、酸化膜を除去した後に凸部104の先端部のみに異方性ウェットエッチングを実施すると、凸部104を先鋭化することができる。このようにして凸部104を先鋭化すると、先端の曲率半径を10nm以下に形成することも可能である。
【0032】
2.第二実施形態
凸部104の平面視パターンは保護膜R1によってどのように形成することも可能である。そこで本実施形態では、平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合を特定方向に単調増加させる例を説明する。図8から図10においても凸部104の間の凹部の領域にハッチングが付されている。
【0033】
図8に示す撥水性構造体2において、凸部104の幅Wは一定であるが、凸部104の間の凹部の幅Gは一定方向に向かって徐々に狭くなる。このため、平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が一定方向に向かって単調増加する。したがって、撥水性構造体2の撥水性能は一定方向に向かって単調減少する。撥水性構造体2の表面に付着する液滴は、撥水性能がより低い領域、すなわち接触角が小さくなる領域に向かって移動するため、図8に示す輸送方向に向かって移動することになる。
【0034】
図9に示す撥水性構造体3において、凸部104の間の凹部の幅Gは一定であるが、凸部104の幅Wは一定方向に向かって徐々に広くなる。撥水性構造体3においても同様に、平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が一定方向に向かって単調増加するため、撥水性構造体3の表面に付着する液滴は、図9に示す輸送方向に向かって移動することになる。
【0035】
図10に示す撥水性構造体4には、互いに独立している複数の凸部104が形成されている。それぞれの凸部104は円柱形である。凸部104の中心軸が等間隔の格子点に配列されている場合、凸部104の直径を一定方向に向かって増加させることによって平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が増加する。同一直径の円柱形の凸部104を不等間隔の格子点に配列する場合、格子点間隔が狭まる方向に向かって、単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が増加する。図10に示す撥水性構造体4においては、同一直径の円柱形の凸部104を不等間隔で配列し、さらに円柱形の凸部104の直径を一定方向に向かって増加しているため、撥水性構造体4の表面に付着する液滴は図10に示す輸送方向に向かって移動することになる。
【0036】
このように液滴を輸送できる撥水性構造体2,3,4の用途としては、微小空間において混合、反応、分離、検出などの化学操作をするためのチップであるマイクロタス(μ−TAS)等が考えられる。
【0037】
撥水性構造体2,3,4は、第一実施形態において説明した保護膜R1が単位面積あたりに占める割合を、液滴の輸送方向に向かって単調増加させることによって形成できる。液滴を輸送しようとする距離が長くなるほど上流側の撥水性能と下流側の撥水性能の差を大きくしなければならない。また下流側においても液滴が停滞しない程度の撥水性能が必要である。したがって上流側の撥水性能が高いほど、液滴輸送の自由度が高まる。このような場合、上流側に形成される凸部104の幅Wはできる限り狭いことが望まれるため、1μm未満に設定することが特に好ましい。
【0038】
3.第三実施形態
図11に示す撥水性構造体5は、基部106と、第一実施形態及び第二実施形態の凸部104に相当する芯部107と、ポリテトラフルオロエチレンからなる表層部108とを備えている。表層部108は芯部107および基部106を覆っている。したがって、撥水性構造体5の凸部109は、芯部107とその表面を覆う表層部108とからなる。表層部108を形成することによって、表層部108の厚さ分だけ凸部109の頂面109cの面積が増大する。したがって、芯部107の幅Wは1μm未満に設定することが望ましい。ポリテトラフルオロエチレンからなる表層部108を備えることによって撥水性構造体5の撥水性能はさらに向上する。
【0039】
3.他の実施形態
本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば凸部を形成するために反応性イオンエッチング法を用いる例について説明したが、凸部は等方性エッチングによって形成しても良いし、異方性エッチングによって形成しても良い。また凸部の形状として、格子形の壁と円柱を例示したが、先鋭化した針や多角柱やドームなど、様々な形態が考えられる。
また、上記実施形態で示した材質や寸法やエッチング方法やパターン転写方法はあくまで例示であるし、当業者であれば自明である工程の追加や削除や工程順序の入れ替えについては説明が省略されている。
【符号の説明】
【0040】
1,2,3,4,5…撥水性構造体、100…基板、102…原形、102…凸部の原形、103…酸化膜、103a…内方拡散領域、103b…膨張領域、104…凸部、104b…界面、104c…頂面、104d…非酸化領域、106…基部、107…芯部、108…表層部、109…凸部、109c…頂面、200…液滴、R1…保護膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cassieモードでの撥水性を有する撥水性構造体が知られている。Cassieモードは、液面が入り込めない多数の空隙の存在によって液滴と固体面とが点接触する撥水モードである。撥水性能の高さは接触角の大きさによって表される。Cassieモードでは、撥水領域面積に対する接触領域面積の割合が低くなるほど接触角が大きくなる。150°を超える接触角を得られる性質は超撥水性といわれる。
特許文献1には、シリコン基板の表面にフォトリソグラフィー法によって微細な凹凸を形成することによって撥水性構造体を形成する方法が開示されている。微細な凹凸によって構造体に撥水性を付与する場合、凸部の横断面幅を小さくするほど撥水性能が高まる。シリコンをエッチングする際のデザインルールにおいては、エッチング工程における保護膜の最小幅を1μm以上とすることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−226570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述したとおり、撥水領域面積に対する接触領域面積の割合が低くなるほど接触角が大きくなるため、エッチング工程における保護膜の最小幅を可能な限り狭く設計することが望ましい。しかし、エッチング工程における保護膜の最小幅を狭くすればするほど、パターンの乱れが顕在化し、撥水性能がばらつくという問題がある。
また、生物工学の分野などでは、微小空間において微量の液体を輸送する技術が必要とされている。
【0005】
本発明は、微小空間において微量の液体を輸送する撥水性構造体を提供することを目的の1つとする。
また本発明は、撥水性構造体の撥水性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するための撥水性構造体は、微細な凸部が形成された撥水領域を表面に備える撥水性構造体であって、前記撥水領域の面積に対する前記凸部の頂面領域の面積の割合が液体の輸送方向に向かって高くなる。
撥水領域の面積に対する凸部の頂面領域の面積の割合に勾配を持たせることによって、その割合が高い方向へと液体を輸送することができる。そしてこのような凸部は、フォトリソグラフィ法を用いることによって容易に形成することができる。すなわち、本発明によると、微小空間において微量の液体を輸送できる安価な撥水性構造体を実現することができる。
【0007】
(2)液体を滴状態で輸送するには、大きな接触角を維持しつつ、輸送方向に向かって接触角を小さく変化させなければならない。したがって、上流側における撥水性能は高ければ高いほど望ましい。
そこで上記目的を達成するための撥水性構造体において、前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満の直柱体形であることが好ましい。
【0008】
(3)上記目的を達成するための撥水性構造体において、前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満のシリコンからなる直柱体形の芯部と、前記芯部を覆うポリテトラフルオロエチレンからなる表層部とを備えてもよい。
本発明によると、撥水性能をさらに高めることができる。
【0009】
(4)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法は、保護膜をシリコン層の表面に形成する工程と、前記保護膜から露出している前記シリコン層の領域をエッチングすることによって凸部を形成する工程と、前記凸部が形成された前記シリコン層を熱酸化する工程と、熱酸化によって形成された酸化膜を除去する工程と、を含む。
本発明によると、熱酸化と酸化膜の除去とによって、シリコンのエッチング工程のデザインルールに比べて細い凸部を形成できるため、撥水性構造体の撥水性能を高めることができる。またシリコンの熱酸化工程における酸化膜の膜厚制御性は極めて高いため、撥水性能のばらつきが小さな撥水性構造体を製造することができる。
【0010】
(5)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記保護膜によって覆われる領域の面積密度が液体の輸送方向に向かって高くなってもよい。
本発明によると、微小空間において微量の液体を輸送できる撥水性構造体を安価に製造することができる。
【0011】
(6)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記シリコン層を熱酸化する工程において、酸化されずに残る領域の横断面最小幅が1μm未満になるまで熱酸化してもよい。
本発明によると、撥水性構造体の撥水性能をさらに高めることができる。
【0012】
(7)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記凸部を形成する工程において、前記保護膜から露出している領域を垂直方向にエッチングしてもよい。
頂面縁部がなだらかに落ち込む凸部に比べると、頂面縁部が垂直に落ち込む凸部の方が頂面角部における接触面積が小さくなる。したがって本発明によると、撥水性構造体の撥水性能をさらに高めることができる。
【0013】
(8)上記目的を達成するための撥水性構造体の製造方法において、前記保護膜は、格子形の連続領域を覆う膜でもよい。
格子形の連続領域を覆う保護膜を用いてシリコン層をエッチングすると、格子形の凸部を形成することができる。凸部を格子形にすると、凸部と液面とに囲まれた空隙に気体を閉じこめることができる。気体が閉じこめられた空隙には、液面は入り込むことができない。Cassieモードでの撥水性は、液面が入り込めない空隙の存在によって得られるため、本発明によると、撥水性構造体の撥水性能をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる模式図である。
【図7】本発明の実施形態にかかるグラフである。
【図8】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図9】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図10】本発明の実施形態にかかる平面図である。
【図11】本発明の実施形態にかかる断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0016】
本発明による撥水性構造体の製造方法の実施形態を図1から図6に基づいて説明する。図4および図5に示す撥水性構造体1はシリコン基板100からなり、板形の基部106と微細な凸部104とが形成されている。
【0017】
図5において基部106の表面領域にはハッチングが付されている。図5に示すように凸部104は平面視が格子形の直柱体である。図6に示すように格子形の壁を構成している凸部104の間に形成される凹部(ハッチングが付されている領域)は、液滴200と基部106の表面100aとの間に空隙を確保する。この空隙が液滴200によって密封されると、液滴200が空隙内に侵入しにくくなる。したがって、凸部104の間に形成される凹部の幅Gは撥水性構造体1に接触する液滴の直径よりも十分狭くなるように10μm以下に設定することが好ましい。通常存在する液滴の直径は数十μm以上あるので凸部104の間に形成される凹部の幅Gが10μm以下であれば、液滴200と基部106の表面100aとの間に確実に空隙が確保される。
【0018】
基部106の表面100aからの凸部104の高さHは数μmに設定され、通常は1μm以上あれば十分である。凸部104と液滴200との接触面積が小さいほど撥水性が高まるため、凸部104の幅Wは狭ければ狭いほど好ましい。例えば凸部104の幅Wを1μm未満として、凸部104の間に形成される凹部の幅Gより十分狭く設定することにより、極めて高い撥水性能を実現できる。
【0019】
凸部104の間に形成される凹部の幅Gを狭く、凸部104の幅Wをさらに狭くして撥水性を高めようとすれば、フォトリソグラフィ法を用いることになるが、フォトリソグラフィ法の解像度にも限界がある。そこで本実施形態では、以下に説明するようにフォトリソグラフィ法と熱酸化法とを併用して高い撥水性能を持つ撥水性構造体1を形成する。
【0020】
まずはじめに単結晶シリコンからなる基板100を準備する。基板100の結晶方位は任意である。次に図1に示すように、基板100の一方の主面に所定形状の保護膜R1を形成する。保護膜R1は、フォトレジスト等からなり、凸部104の原形の平面視に対応する格子形の連続領域を覆うパターンに形成される。
【0021】
次に図2に示すように、保護膜R1の開口直下の基板100の領域を垂直方向にエッチングする。その結果、保護膜R1のパターンと同一パターンの横断面を有する凸部の原形102が形成される。このとき基板100はエッチングによって形成される側壁と基板100の主面101が垂直になる反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)法を用いる。反応性イオンエッチング法としては、例えば、C4F8プラズマによる保護ステップと、SF6プラズマによるエッチングステップを短く交互に繰り返すボッシュプロセスを用いる。本工程で形成される凸部の原形の間に形成される凹部の幅gは、完成状態における凹部の目標幅Gよりも小さく設定しておく。後続工程における熱酸化と酸化膜の除去とによって凹部は目標幅Wまで拡幅するからである。
【0022】
次に、保護膜R1を除去し基板100を900℃〜1200℃程度の雰囲気において熱酸化する。加湿酸化、水蒸気酸化、パイロジェニック酸化等のウェット酸化法がドライ酸化法よりも酸化レートが速いため好ましい。熱酸化の結果、図2に示す酸化前の凸部の原形102の表面102aから内部への酸素の拡散によって形成される内方拡散領域103aと、酸化前の凸部の原形102の表面102aより外側に成長する酸化シリコンによって形成される膨張領域103bとからなる酸化膜103が図3に示すように形成される。内方拡散領域103aの深さd1と膨張領域103bの深さd2の比は4:6〜6:4程度となり、2つの領域の深さはほぼ等しくなる。
【0023】
図4に示すように凸部の原形102の側面102aと基部106の表面100aとが垂直に交わる交線近傍では、その交線から等距離に位置する点の集合が酸化膜103と非酸化領域104dとの界面104bを構成する。したがって、凸部の原形102の基端部では、酸化膜103と非酸化領域104dとの界面104bがフレア面になる。このフレア面の曲率半径は内方拡散領域103aの厚さと等しくなるため、熱酸化の処理時間によって決めることができる。
【0024】
熱酸化の処理時間は、凸部の原形102の内部に酸化されずに残る非酸化領域104dの厚さtが凸部104の目標厚さと等しくなるように設定する。図7に示すように、シリコンの酸化膜厚は熱酸化の処理時間の平方根に比例する。すなわち、熱酸化の処理時間が長くなるほど酸化膜厚の制御性が向上する。また熱酸化の酸化レートはばらつきが小さいため、処理時間に応じた酸化膜厚を精度良く見積もることができる。したがって凸部の原形102を凸部104の目標幅Wよりも十分厚く形成しておき、酸化膜を十分厚く形成した後に酸化膜を除去すれば、幅が1μm未満の極めて薄い凸部104を高い寸法精度で形成することも可能である。つまり、凸部104の目標幅Wすなわち非酸化領域104dの幅よりも酸化膜を十分厚く形成するとよい。ただし、酸化せずに残す非酸化領域104dの幅を1μm未満にするならば、熱酸化の処理時間が不必要なまでに長くならないように、酸化前の凸部の原形102の幅wは5μm未満にしておくことが望ましい。一方、酸化炉の温度が安定するまでは酸化膜厚の制御性が低いため、熱酸化の処理時間を少なくとも1時間以上に設定できるように凸部の原形102の幅wを目標よりも十分厚く形成しておく必要がある。
【0025】
また熱酸化の処理時間を十分長く設定すると、ボッシュプロセスによって形成されたスキャロップの凹凸を平滑にならして凸部104の側面を滑らかに形成することもできる。さらに酸化温度を低く設定すると(例えば900℃以下)、酸化膜の粘度が高くなり圧縮応力が上がるため、細い部分ほど酸化レートが落ち、その結果、酸化前の凸部の原形102の側面の傾斜を垂直方向に補正することも可能である。
【0026】
次に、図4に示すように酸化膜103を除去する。酸化シリコンからなる酸化膜103はフッ酸(HF)または希フッ酸(BHF)によって除去すればよい。例えば希フッ酸で酸化膜103を大部分除去した後に、残った薄い酸化膜103を蒸気フッ酸によって完全に除去するとよい。酸化膜103を完全に除去すると、非酸化領域104dが完成形の凸部104として露出する。凸部104が基部106から突出する高さHはエッチングの深さと内方拡散領域103aの深さによって決まり、任意に設定することが可能である。すなわち凸部104の幅Wに対する高さHの比は、Deep−RIE法を用いることによって非常に大きく(100以上)設定することも可能である。
【0027】
凸部104の幅Wと凸部104の間の凹部の幅Gとによって撥水性構造体1の撥水性能が決まる。すなわち、平面視において凸部104の頂面104cが単位面積あたりに占める割合が小さくなるほど、撥水性構造体1の撥水性能が向上する。上述した製造方法によると、フォトリソグラフィ法と熱酸化法とを併用することによって、フォトリソグラフィ法の限界を越えて、凸部104の間の凹部の幅Gを狭く、凸部104の幅Wをより狭くすることができるため、極めて高い撥水性能を有する撥水性構造体1を製造することができる。
【0028】
具体的には、上述の製造方法によって得られる撥水性構造体1では、汎用的な半導体プロセスを組み合わせることによって容易に115°以上の接触角θが得られ、170°以上の接触角θを得られる超撥水性能を実現することも可能である。
【0029】
また凸部104の基端部側面は基部106に向かって広がるフレア面になるため、基部106の表面100aと凸部104の基端部側面とがフレア面を介して段差無くなだらかに連続する。したがって、破損しにくい凸部104を形成できる。凸部104の基端部側面の縦断面における曲率半径は、前述したとおり熱酸化の処理時間によって決まり、熱酸化の処理時間を長くするほど大きくなる。したがって、熱酸化の処理時間を長くするほど凸部104は破損しにくくなる。
【0030】
また、凸部104の幅Wは、凸部の原形102の幅と熱酸化の処理時間とによって決まるところ、Deep−RIEによって10μm以上の高さの凸部の原形102を形成するとしても凸部の原形102の幅を1μm程度にまで狭めることが可能であり、酸化膜は数μm程度の厚さに形成することが可能である。そして酸化膜の厚さは数nmの公差で制御することができる。また、シリコンは細くなればなるほど曲げ強度が顕著に高まることが知られ、凸部104の曲げ強度は薄ければ薄いほど高まる。したがって、上述した方法によって製造すると、基部106から突出する高さHが10μm以上、幅Wが1μm未満、アスペクト比(h/w)10以上の破損しにくい凸部104を歩留まり良く形成することも可能である。
【0031】
なお、酸化膜を除去した後に凸部104の先端部のみに異方性ウェットエッチングを実施すると、凸部104を先鋭化することができる。このようにして凸部104を先鋭化すると、先端の曲率半径を10nm以下に形成することも可能である。
【0032】
2.第二実施形態
凸部104の平面視パターンは保護膜R1によってどのように形成することも可能である。そこで本実施形態では、平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合を特定方向に単調増加させる例を説明する。図8から図10においても凸部104の間の凹部の領域にハッチングが付されている。
【0033】
図8に示す撥水性構造体2において、凸部104の幅Wは一定であるが、凸部104の間の凹部の幅Gは一定方向に向かって徐々に狭くなる。このため、平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が一定方向に向かって単調増加する。したがって、撥水性構造体2の撥水性能は一定方向に向かって単調減少する。撥水性構造体2の表面に付着する液滴は、撥水性能がより低い領域、すなわち接触角が小さくなる領域に向かって移動するため、図8に示す輸送方向に向かって移動することになる。
【0034】
図9に示す撥水性構造体3において、凸部104の間の凹部の幅Gは一定であるが、凸部104の幅Wは一定方向に向かって徐々に広くなる。撥水性構造体3においても同様に、平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が一定方向に向かって単調増加するため、撥水性構造体3の表面に付着する液滴は、図9に示す輸送方向に向かって移動することになる。
【0035】
図10に示す撥水性構造体4には、互いに独立している複数の凸部104が形成されている。それぞれの凸部104は円柱形である。凸部104の中心軸が等間隔の格子点に配列されている場合、凸部104の直径を一定方向に向かって増加させることによって平面視の単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が増加する。同一直径の円柱形の凸部104を不等間隔の格子点に配列する場合、格子点間隔が狭まる方向に向かって、単位面積あたりに凸部104の頂面104cがしめる割合が増加する。図10に示す撥水性構造体4においては、同一直径の円柱形の凸部104を不等間隔で配列し、さらに円柱形の凸部104の直径を一定方向に向かって増加しているため、撥水性構造体4の表面に付着する液滴は図10に示す輸送方向に向かって移動することになる。
【0036】
このように液滴を輸送できる撥水性構造体2,3,4の用途としては、微小空間において混合、反応、分離、検出などの化学操作をするためのチップであるマイクロタス(μ−TAS)等が考えられる。
【0037】
撥水性構造体2,3,4は、第一実施形態において説明した保護膜R1が単位面積あたりに占める割合を、液滴の輸送方向に向かって単調増加させることによって形成できる。液滴を輸送しようとする距離が長くなるほど上流側の撥水性能と下流側の撥水性能の差を大きくしなければならない。また下流側においても液滴が停滞しない程度の撥水性能が必要である。したがって上流側の撥水性能が高いほど、液滴輸送の自由度が高まる。このような場合、上流側に形成される凸部104の幅Wはできる限り狭いことが望まれるため、1μm未満に設定することが特に好ましい。
【0038】
3.第三実施形態
図11に示す撥水性構造体5は、基部106と、第一実施形態及び第二実施形態の凸部104に相当する芯部107と、ポリテトラフルオロエチレンからなる表層部108とを備えている。表層部108は芯部107および基部106を覆っている。したがって、撥水性構造体5の凸部109は、芯部107とその表面を覆う表層部108とからなる。表層部108を形成することによって、表層部108の厚さ分だけ凸部109の頂面109cの面積が増大する。したがって、芯部107の幅Wは1μm未満に設定することが望ましい。ポリテトラフルオロエチレンからなる表層部108を備えることによって撥水性構造体5の撥水性能はさらに向上する。
【0039】
3.他の実施形態
本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば凸部を形成するために反応性イオンエッチング法を用いる例について説明したが、凸部は等方性エッチングによって形成しても良いし、異方性エッチングによって形成しても良い。また凸部の形状として、格子形の壁と円柱を例示したが、先鋭化した針や多角柱やドームなど、様々な形態が考えられる。
また、上記実施形態で示した材質や寸法やエッチング方法やパターン転写方法はあくまで例示であるし、当業者であれば自明である工程の追加や削除や工程順序の入れ替えについては説明が省略されている。
【符号の説明】
【0040】
1,2,3,4,5…撥水性構造体、100…基板、102…原形、102…凸部の原形、103…酸化膜、103a…内方拡散領域、103b…膨張領域、104…凸部、104b…界面、104c…頂面、104d…非酸化領域、106…基部、107…芯部、108…表層部、109…凸部、109c…頂面、200…液滴、R1…保護膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凸部が形成された撥水領域を表面に備える撥水性構造体であって、
前記撥水領域の面積に対する前記凸部の頂面領域の面積の割合が液体の輸送方向に向かって高くなる、
撥水性構造体。
【請求項2】
前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満の直柱体形である、
請求項1に記載の撥水性構造体。
【請求項3】
前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満のシリコンからなる直柱体形の芯部と、前記芯部を覆うポリテトラフルオロエチレンからなる表層部とを備える、
請求項1または2に記載の撥水性構造体。
【請求項4】
保護膜をシリコン層の表面に形成する工程と、
前記保護膜から露出している前記シリコン層の領域をエッチングすることによって凸部を形成する工程と、
前記凸部が形成された前記シリコン層を熱酸化する工程と、
熱酸化によって形成された酸化膜を除去する工程と、
を含む撥水性構造体の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜によって覆われる領域の面積比率が液体の輸送方向に向かって高くなる、
請求項4に記載の撥水性構造体の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン層を熱酸化する工程において、酸化されずに残る領域の横断面最小幅が1μm未満になるまで熱酸化する、
請求項4または5に記載の撥水性構造体の製造方法。
【請求項7】
前記凸部を形成する工程において、前記保護膜から露出している領域を垂直方向にエッチングする、
請求項4から6のいずれか一項に記載の撥水性構造体の製造方法。
【請求項8】
前記保護膜は、格子形の連続領域を覆う膜である、
請求項4から7のいずれか一項に記載の撥水性構造体の製造方法。
【請求項1】
微細な凸部が形成された撥水領域を表面に備える撥水性構造体であって、
前記撥水領域の面積に対する前記凸部の頂面領域の面積の割合が液体の輸送方向に向かって高くなる、
撥水性構造体。
【請求項2】
前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満の直柱体形である、
請求項1に記載の撥水性構造体。
【請求項3】
前記凸部の少なくとも一部は、横断面最大幅が1μm未満のシリコンからなる直柱体形の芯部と、前記芯部を覆うポリテトラフルオロエチレンからなる表層部とを備える、
請求項1または2に記載の撥水性構造体。
【請求項4】
保護膜をシリコン層の表面に形成する工程と、
前記保護膜から露出している前記シリコン層の領域をエッチングすることによって凸部を形成する工程と、
前記凸部が形成された前記シリコン層を熱酸化する工程と、
熱酸化によって形成された酸化膜を除去する工程と、
を含む撥水性構造体の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜によって覆われる領域の面積比率が液体の輸送方向に向かって高くなる、
請求項4に記載の撥水性構造体の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン層を熱酸化する工程において、酸化されずに残る領域の横断面最小幅が1μm未満になるまで熱酸化する、
請求項4または5に記載の撥水性構造体の製造方法。
【請求項7】
前記凸部を形成する工程において、前記保護膜から露出している領域を垂直方向にエッチングする、
請求項4から6のいずれか一項に記載の撥水性構造体の製造方法。
【請求項8】
前記保護膜は、格子形の連続領域を覆う膜である、
請求項4から7のいずれか一項に記載の撥水性構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−82352(P2012−82352A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230890(P2010−230890)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料」プラズマ研究会 PST−10−001〜008、2010年5月7日発行
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料」プラズマ研究会 PST−10−001〜008、2010年5月7日発行
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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