説明

撮像装置及び画像形成装置

【課題】 高強度であって、低反射かつ防塵性に優れる多孔質体を用いた、撮像装置を提供する。
【解決手段】 レンズからの被写体像を、光学フィルタを通して撮像素子上に結像させるための撮像装置であって、三次元的に互いに連通する孔を有する多孔質体を、少なくとも前記光学フィルタの、前記撮像素子とは反対側に有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵埃等の異物付着を抑える多孔質体を用いた、撮像装置及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等の撮像装置では、撮影光束をCCDやC−MOS等の撮像素子で受光し、その撮像素子から出力される光電変換信号を画像データに変換して、メモリカード等の記録媒体に記録する。
【0003】
このような撮像装置では、撮像素子の被写体側に、ローパスフィルタや赤外線カットフィルタが配置されている。特にレンズ交換可能な一眼レフデジタルカメラでは、シャッタ等の機械的な作動部がローパスフィルタ等の光学フィルタ近傍に配置されており、それらの作動部から発生した塵埃等の異物が、ローパスフィルタ等に付着することがある。また、レンズ交換時に、レンズマウントの開口から塵埃等がカメラ本体内に入り込み、これが付着することもある。ローパスフィルタ等の光学フィルタに塵埃が付着すると、その付着部分が黒い点となって撮影画像に写り込んでしまい、撮影画像の品質を低下させてしまうことがある。
【0004】
この問題を解決する従来の技術として、特許文献1には、撮像素子の被写体側に防塵膜を設け、これを圧電素子で振動させることにより塵埃を除去する技術が開示されている。また、特許文献2には、表面にコートを施し、塵埃等が付着しにくくする技術が開示されている。
【0005】
また、電子写真複写機・電子写真プリンタ等の画像形成装置では、感光体にレーザー光を露光して静電潜像を形成する。そして、この静電潜像をトナーで現像し、得られるトナー画像をシート状の記録媒体上に転写した後、定着装置によりトナーを加熱定着することで記録媒体上に画像形成を行なう。
【0006】
このような画像形成装置では、画像情報に基づいてレーザー光を発光する光源、光源から発光されたレーザー光を偏向走査する回転多面鏡、回転多面鏡により偏光走査されたレーザー光を感光体上で結像させるfθレンズ、反射ミラー等を筺体内に有する。そして、筺体内の開口部より感光体にレーザー光を射出する光学装置を有する。レーザー光路上に汚れが発生すると画像上の汚れに対応する部分に画像抜けが生じ、画像の品質を低下させてしまうことがある。このため、筺体を密封することで、埃やトナー等の侵入を防止し、レーザー光を出射する筺体の開口部に透明な防塵ガラスを取り付け、そこにシャッターを設けることで防塵ガラスの汚れを防止する装置が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−204379号公報
【特許文献2】特開2006−163275号公報
【特許文献3】特開平11−167080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1では、防塵幕を振動させて異物を除去する方法であり、防塵膜に付着した異物を除去するためには大きなエネルギーを必要とし、構造も複雑になる。
【0009】
特許文献2に記載されているような、表面にコートを施し塵埃等が付着しにくくする方法では、光学性能を維持するために反射防止膜として何層も光学膜を形成しなければならない。
【0010】
特許文献3の、シャッターを設ける方法では、傷が付きやすく構造も複雑になる。
【0011】
また、従来技術ではいずれも満足のいく塵埃除去を行なうことができず、さらなる塵埃の低減が求められている。
【0012】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、高強度であって、低反射かつ防塵性に優れている多孔質体を用いた、撮像装置及び画像形成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の撮像装置は、レンズからの被写体像を、光学フィルタを通して撮像素子上に結像させるための撮像装置であって、三次元的に互いに連通する孔を有する多孔質体を、少なくとも前記光学フィルタの、前記撮像素子とは反対側に有することを特徴とする。
【0014】
本発明の画像形成装置は、光を照射して画像を形成するために用いられる光学装置を有する画像形成装置であって、前記光学装置に設けられる防塵ガラスの少なくとも一部が、三次元的に互いに連通する孔を有する多孔質体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度であって、低反射かつ防塵性にも優れている多孔質体を用いた撮像装置及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の撮像装置を説明する図。
【図2】本発明の多孔質体を説明する電子顕微鏡観察図。
【図3】防塵効果を表わすグラフ。
【図4】液架橋を説明する図。
【図5】孔径、骨格径を説明する図。
【図6】本発明の光学部材を説明する図。
【図7】本発明の撮像装置に備わる異物除去装置の一例を示す図。
【図8】圧電素子の一例を示す図。
【図9】本発明の圧電素子の振動原理の一例を示す図。
【図10】本発明の撮像装置に備わる異物除去装置の振動原理を示す模式図。
【図11】本発明の画像形成装置を説明する図。
【図12】空孔率を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。ただし、発明の範囲を限定するものではない。
【0018】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態として、多孔質体を用いた撮像装置、具体的には、レンズからの被写体像を、光学フィルタを通して撮像素子上に結像させるための撮像装置について説明する。図1は、本発明の撮像装置の一実施形態を示す図である。図1において、6は撮像装置であり、31は、撮像装置6に取り外し可能なレンズである。デジタル一眼レフカメラ等の撮像装置では、撮影に使用する撮影レンズを焦点距離の異なるレンズに交換することにより、様々な画角の撮影画面を得ることができる。4は撮像素子である。5は多孔質体であり、32はローパスフィルタ、33は赤外線カットフィルタである。撮像素子4は、パッケージ(不図示)に収納されており、このパッケージはカバーガラス(不図示)にて撮像素子を密閉状態で保持している。そして、取り外し可能なレンズ31内の結像光学系から撮像素子6に至る光路中には、撮像素子4上に物体像の必要以上に高い空間周波数成分が伝達されないように結像光学系のカットオフ周波数を制限するローパスフィルタ32が設けられている。また、赤外線カットフィルタ33も形成されている。ローパスフィルタや赤外線カットフィルタ等の光学フィルタと、カバーガラスとの間は、両面テープ等の密封部材にて密封構造となっている(不図示)。これにより撮像装置外部あるいは撮像装置内部で発生した塵埃が、これら光学フィルタとカバーガラスとの間に入り込まないようになっている。本実施形態においては、光学フィルタとして、ローパスフィルタおよび赤外線カットフィルタを両方備える例について記載するが、ローパスフィルタおよび赤外線カットフィルタのいずれか一方であってもよい。多孔質体が基材上に膜として一体に形成されていてもよい。基材は、水晶からなるローパスフィルタ32であってもよいし、石英ガラス、コーニング社の7059ガラス、日本電気硝子のネオセラムN−0等の耐熱ガラスであってもよい。耐熱ガラスとは、多孔質体を形成させるプロセスに耐えられる基材を指し、多孔質体との熱膨張のマッチングや、膜厚の調整を行ってもよい。多孔質体5は、少なくとも、光学フィルタの、撮像素子4と反対側に配置される。言い換えれば、光学フィルタの、取り外し可能なレンズ31に近い側に配置される。つまり、取り外し可能なレンズの取り付け部付近という環境に配置される。この環境は、シャッター等の機械的な作動部が近傍に配置されており、それらの作動部から発生した塵埃等の異物が、ローパスフィルタ等に付着することがある。また、レンズ交換時に、レンズマウントの開口から塵埃等がカメラ本体内に入り込み、これが付着することもある。このように、塵、埃、汚れ等が入り込みやすく、また、異物と接触しやすく傷つきやすい。もちろん、この多孔質体を撮像装置内の、塵埃が付きやすい、いかなる場所に配置することも可能である。また、多孔質体に振動等を与えて異物を除去するための異物除去装置を備えることも可能である。
【0019】
次に、本発明の多孔質体ついて説明する。図2は、多孔質体表面の電子顕微鏡観察図である。図2において、符号1は孔であり、ガラス内部(紙面垂直方向)に向かって、紙面水平方向に曲がりながら連通した孔が形成されている。符号2は、孔を形成する骨格であり、例えば酸化ケイ素から構成される。図2は、多孔質体表面の電子顕微鏡観察図であるが、ガラス内部においても、同様の孔、骨格が形成されている。本明細書においては、図2に示すような、ガラス内部(紙面垂直方向)に向かって、紙面水平方向にも曲がりながら連通した孔を、三次元的に互いに連通する孔と称する。また、図2に示すような、骨格2、つまり三次元的に(紙面垂直方向および水平方向に)複雑に曲がりながら繋がりあったスピノーダル構造である。スピノーダル構造とは、後述するように、スピノーダル型の相分離由来の多孔構造のことである。本発明の多孔質体は、三次元的に複雑に曲がりながら繋がりあう骨格によって、三次元的に互いに連通する孔を形成する。言い換えれば、三次元的に連続した網目状の孔を有する。このような特徴的な形状の多孔質体は、例えば、少なくとも2種類の相に相分離した相分離ガラスの少なくとも1種類の相を除去することにより得られる。
【0020】
なお、三次元的に互いに連通し、網目状の孔を有する本発明の多孔質体は、膜厚方向だけでなく、膜厚方向に垂直な方向に対しても骨格(孔以外の部分)が密に存在するため、十分な強度が得られる。例えば、多孔質体に付着した異物を、人間(あるいは機械)が直接触れて除去する場合が考えられるが、少なくとも、ゴム、繊維などのクリーニング部材を用いて除去しても、表面構造に変化が起らない程度の強度は十分に得られる。
【0021】
図3は、表面に孔のないシリカガラスと本発明の多孔質体に対して、測定前(初期)、25KPa、50KPaのエアー圧をかけた後に表面に付着していたゴミの個数を測定し、それをグラフ化したものである。表面に孔のないシリカガラスに対して、本発明の多孔質体は、そもそも初期(エアー圧をかける前)からゴミの付着が少ないことがわかる。本発明の多孔質体が、優れた防塵効果を有する理由としていくつか考えられる。表面に孔のないシリカガラスはガラス表面全体に塵、埃、汚れ等を吸引する力が発生する。しかし、本発明の多孔質体は、多孔質体の骨格部分のみに吸引力が発生する。よって吸引力を弱めることができると考えられる。また、本発明の多孔質体の孔は、内部に向かって三次元的にからみあい互いに連通しており、通気性に優れている。このことも、表面への塵、埃、汚れ等の吸着を防止する作用があると考えられる。また、本発明の多孔質体は、液架橋による吸着力を弱める作用により、優れた防塵効果を発揮する。
【0022】
図4は、液架橋による吸着力を模式的に示したものである。物体71と埃72間に液体73があると、物体71と埃72間に液架橋が形成され、その液架橋の空気界面の内側と外側で圧力が異なり、液側の圧力の方が低い。気側の圧力が大気圧に等しい場合、液側の圧力が大気圧より低い負圧となる。この負圧は、式(1)で表わされることが知られている。また、吸引力は式(2)で表わされることが知られており、負圧pに面積Sをかけた値となる。ここで、R1は、物体71と埃72の間に形成される液体73の空気界面の曲率半径であり、R2は物体71と液体73の接触領域の半径である。また、Sは表面の面積S0と孔の比率αとの積で表される。
【0023】
【数1】

【0024】
【数2】

【0025】
図4(a)は、物体71の表面が平滑な面である場合を示し、R2は埃の半径Rとなる。図4(b)は物体81が多孔質体である場合を示し、この場合R2は多孔質体の骨格径の半分R´となる。
【0026】
吸引力を小さくするためには、R2をR1の値に近づけること、つまり、物体71(もしくは81)と液体73の接触面積を小さくすればよい。図4(b)では、R1は、接触部の凹凸および表面での毛細管凝縮により決まるが、およそ10nmに近いと考えられる。そして、本発明の多孔質体では、R2は埃のサイズ2Rではなく、骨格径2R´によって定義され、骨格径2R´は、埃のサイズ2Rに対して小さい。このため、R2はR1と同じくらい小さくなるため、式(1)で示すようにpの絶対値が小さくなり、吸引力を低下させることができる。また、空孔率を上げることによっても低下させることができる。
【0027】
上述のように、本発明の多孔質体が、強度を保ち、かつ、防塵の効果を得るためには、多孔質体表面の骨格径の平均が、5nm以上80nm以下であることが望ましい。さらに好ましくは、骨格径の平均が5nm以上50nm以下であることが望ましい。本発明における骨格径の平均とは、多孔質体表面の骨格を複数の楕円で近似し、近似したそれぞれの楕円における短径の平均値であると定義する。具体的には、例えば図5(b)にしめすように、多孔質体表面の電子顕微鏡写真を用い、骨格2を複数の楕円13で近似し、それぞれの楕円における短径14の平均値を求めることで得られる。少なくとも30点以上計測し、その平均値を求める。なお、計測は、多孔質体全体である必要はなく、所望の領域で行えばよい。平均骨格径が5nmよりも小さいと、形成するのが難しくなり、また、平均骨格径が80nmよりも大きいと、防塵効果が低下する傾向にある。平均骨格径が50nm以下であると、より高い防塵効果を発揮する。
【0028】
また、多孔質体表面の孔径の平均が、5nm以上500nm以下、特に10nm以上100nm以下、さらには15nm以上80nm以下であることが望ましい。本発明における孔径の平均とは、多孔質体表面の孔を複数の楕円で近似し、近似したそれぞれの楕円における短径の平均値であると定義する。具体的には、例えば図5(a)にしめすように、多孔質体表面の電子顕微鏡写真を用い、孔1を複数の楕円11で近似し、それぞれの楕円における短径12の平均値を求めることで得られる。少なくとも30点以上計測し、その平均値を求める。
【0029】
さらに、機械的性質を考慮すると、多孔質体の空孔率が、通常は10%以上80%以下、特に20%以上75%以下であることが望ましい。本明細書における空孔率とは、多孔質体表面の面積を1とした場合の孔の割合であると定義する。具体的には、図1で示すような多孔質体からなる多孔質体表面の電子顕微鏡写真を用い、骨格部分と孔部分とで2値化する処理を行ないその比率から求める。空孔率が80%以下であると、機械的性質が発揮でき、且つ防塵機能も発現される。
【0030】
その中、反射防止機能が必要とされる時、空孔率を大きくすると、空気との界面での反射が低減される。この場合、空孔率は、30%以上、より好ましくは、50%以上が望ましい。本発明の多孔質体は、三次元的に複雑に曲がりながら繋がりあう骨格を有しているため、空孔率を上げても強度が落ちない。よって、強度を保ったまま屈折率を下げることができる。このように、優れた反射防止性能を持ちながら、かつ表面に触れても傷つくことのない強度をもつ多孔質体を提供することが可能となる。
【0031】
多孔質体の形状は、特に制限されず、例えば板状の多孔質体、曲面を有する多孔質体、多孔質体が基材上に形成されている形態が挙げられる。これらの形状は、適宜選択することができる。基材は、石英ガラス、コーニング社の7059ガラス、日本電気硝子のネオセラムN−0、サファイア、水晶等の耐熱性のある基材を用いることができる。水晶からなるローパスフィルタに直接、多孔質体を形成する形態も好適に用いることができる。優れた反射防止性能を有するため、別途反射防止膜を設ける必要はなく、表面に反射防止効果及び防塵効果の優れた光学性能を有する光学部材を得ることが可能となる。
【0032】
次に、多孔質体が基材上に一体に形成されている形態について、その概略的な構成を以下に説明する。この形態を本明細書では光学部材と称する。図6において、光学部材101は、基材103上に、第一の実施形態で説明した三次元的に互いに連通する孔を有する多孔質体102を有している。ただし、本発明では、多孔質体102のみからなる光学部材を排除するものではない。
【0033】
光学部材101は、表面に三次元的に互いに連通する孔を有する多孔質体102を有するため、高い表面強度と、高い空孔率を兼ね備えた表面特性を有し、防塵性能も高い。また、光学部材101は、基材103を用いることにより、より高い強度を達成することができる。さらには、基材上に多孔質体を形成しているため、多孔質体の厚さを制御できる。なお、必要に応じて、前記多孔質体全体または一部分で、孔の空孔率が連続的、または断続的に変化してもよい。
【0034】
この光学部材は、多孔質体と基材との境界が明確なために、光学部材として使用する際にサンプルごとのばらつきが少なくなり、高い設計精度を実現することができる。また、詳しくは後述するが、製造時の熱処理条件(相分離を発生させる熱処理条件)を任意に変更することで、目的に応じた孔を持つ多孔質体を形成可能である。
【0035】
この光学部材は、スピノーダル構造の骨格を有し、多孔質体表面と基材とが連続した孔を通じて連続的につながっている。したがって、任意の孔径、任意の基材を使用することで基材の特徴とスピノーダル構造を活かした様々な応用展開が可能である。
【0036】
前記多孔質体の厚さは特に制限はしないが、好ましくは0.05μm以上200.00μm以下であり、より好ましくは0.10μm以上50.00μm以下である。0.05μmよりも小さいとスピノーダル構造の形成が困難になる傾向があり、また、200.00μmよりも大きいと、多孔質体を形成させるのに、製造コストが高くなる恐れがある。
【0037】
基材の形状は、多孔質体が形成できるのであれば、いかなる形状の基材でも使用することが可能である。基材の形状は曲率を有しているものでもよい。
【0038】
前記基材の軟化温度は、後述する前記多孔質体のスピノーダル構造を形成する相分離加熱温度以上であることが好ましく、さらに好ましくは相分離加熱温度に100℃を加算した温度以上であることが好ましい。ただし、基材が結晶の場合は溶融温度を軟化温度とする。軟化温度が多孔質体のスピノーダル構造を形成する温度よりも低いと、相分離の熱処理工程時に基材の変形するため、好ましくない。なお、スピノーダル構造を形成する相分離加熱温度とは、前記スピノーダル構造の多孔質体(多孔質ガラス層)を形成する温度のうち、最大温度を表す。
【0039】
前記基材は、ガラス層のエッチングに対する耐性があることが好ましい。
【0040】
光学部材は、空孔率を制御することで任意に屈折率を変化させ、さらには多孔質体(多孔質ガラス層)の厚さを任意に変化させることができる。
【0041】
本発明の撮像装置は、上述したように異物除去装置を備えていてもよい。図7(a)、(b)は、その異物除去装置470の一例を示す概略図である。異物除去装置470は、振動部材410、圧電素子430に接続されるフレキシブルプリント基板420、密閉部材450と呼ばれる固定部材とにより構成されていて、撮像素子等を備えた支持体501に設置されている。圧電素子430と振動部材410は、図7(b)に示すように圧電素子430の第1の電極面で振動部材410の板面に固着される。また、圧電素子430の第2の電極面437の一部にはフレキシブルプリント基板420が電気的に接続され、圧電素子430に電源から交番電圧を印加できるようになっている。詳細は後述するが、この交番電圧を印加することで振動部材410を振動させる。この異物除去装置470が本発明の多孔質体に接触されて設けられると、本発明の多孔質体は、塵、埃、汚れ等の異物が付着しづらく、さらに、異物除去装置により振動等を与えることにより効率的に異物を除去することができる。
【0042】
図8は、異物除去装置が備える圧電素子430の一例を示す図である。圧電素子430は圧電材料431と第1の電極432と第2の電極433より構成され、第1の電極432と第2の電極433は圧電材料431の板面に対向して配置されている。図中右側(c)の圧電素子430の手前に出ている第1の電極432が設置された面を第1の電極面436、図中左側(a)の圧電素子430の手前に出ている第2の電極432が設置された面が第2の電極面437である。ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば図8に示すように第1の電極432が第2の電極面437に回りこんでいても良い。さらに第2の電極面にセンシング用等に利用される第3の電極等があってもよい。
【0043】
第1の電極432と第2の電極433は、厚み5nmから5000nm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。第1の電極432と第2の電極433は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、第1の電極432と第2の電極433は、それぞれ異なる材料であってもよい。
【0044】
図9は、異物除去装置が備える圧電素子430の動作原理の一例を示す図である。圧電素子430は圧電材料431があらかじめ第1の電極面436の垂直方向に分極されており、電源から第1の電極432と第2の電極433とに高周波数の電圧が印加できるようになっている。圧電素子430は、電界方向435の矢印が示す方向に発生する交番電界により生じる圧電材料431の伸縮歪みにより、圧電素子430の長さ方向に伸縮振動が発生する。圧電素子の長さ方向の伸縮振動の大きさは、圧電セラミックスの圧電横効果に起因した圧電変位の大きさと密接に関係している。なお、符号434は分極方向を表す。
【0045】
図10は本発明の異物除去装置470の振動原理の一例を示す模式図である。便宜上、図には圧電素子430と振動部材410のみ図示している。図10(a)は左右一対の圧電素子430に同位相の交番電圧を印加して、振動部材410に定在波の面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子430は圧電材料431の分極が圧電素子430の厚さ方向に向きを同じくしており、異物除去装置470は7次の振動モードで駆動している。ここで、本発明の振動モードとは、振動部材の面外振動により作り出すことができる複数の節部や腹部をもつ複次の定在波や、節部や腹部がある時間に対し振動部材410の長さ方向に移動する進行波を指す。
【0046】
図10(b)は左右一対の圧電素子430に位相が180°反対である逆位相の交番電圧をフレキシブルプリント基板420を介して印加して、振動部材410に定在波の面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子430は圧電材料431の分極が圧電素子430の厚さ方向に向きを同じくしており、異物除去装置470は6次の振動モードで駆動している。このように、本実施形態の異物除去装置470は、少なくとも2つの振動モードを効果的に使い分けることで振動部材410の表面に付着した塵埃をより効率的に除去できる。
【0047】
しかし、本発明で使用できる異物除去装置470は必ずしもこのような振動モードのみで駆動するものではない。例えば、一個の圧電素子430が振動部材410に備えられていればよく、また、左右一対の圧電素子430は圧電材料431の分極が圧電素子430の厚さ方向に向きを同じにしなくてもよい。さらに、前述した6次や7次の振動モードではなく、例えば18次や19次の振動モード等別の振動モードを利用してもよいし、3種類以上の振動モードを利用してもよい。なお、図10では、定在波の振動モードを用いて振動原理を示したが、任意の周波数と任意の位相を制御し、定在波ではなく進行波を用いた振動モードを用いてもよい。ただし、異物除去装置470が不快な音を発生しないように、振動部材410に発生させる面外振動の共振周波数は可聴域外となるような固有モードを選ぶことが好ましい。
【0048】
なお、異物除去装置470は、図1で表した撮像装置の撮像素子4と、多孔質体5の間であればどの位置に配置されていてもよい。例えば、多孔質体5に振動部材410が接触するように設けられていてもよいし、ローパスフィルタ32に振動部材410が接触するように設けられていてもよいし、赤外線カットフィルタ33に振動部材410が接触するように設けられていてもよい。特に、多孔質体5に接触して設けられる場合には、上述したように、より効率的に異物を除去することができる。なお、異物除去装置470の振動部材410が多孔質体5やローパスフィルタ32、赤外線カットフィルタ33などの光学フィルタと一体形成されていてもよい。また、振動部材410が多孔質体5で構成されていてもよいし、ローパスフィルタ32、赤外線カットフィルタ33などの機能を有していてもよい。
【0049】
(第二の実施形態)
次に、第一の実施形態で説明した多孔質体を用いた画像形成装置、具体的には、光を照射して画像を形成するために用いられる光学装置を有する画像形成装置について説明する。
【0050】
図11は、画像形成装置の一例をしめす。図11において、21は画像読取装置もしくはパーソナルコンピュータ等から送られてきた画像情報に基づいてレーザー光を感光ドラムに照射するための光学装置である。22は感光ドラムに摩擦帯電されたトナーで感光ドラム上にトナー像を形成する現像器である。23は感光ドラム上のトナー像を転写用紙に搬送するための中間転写ベルトである。24はトナー像を形成する用紙を格納する給紙カセットである。25は用紙上に転写されたトナー像を熱により用紙に吸着させる定着器である。26は定着された転写用紙を積載する排紙トレイである。27は感光ドラムに残ったトナーを清掃するクリーナーである。28は、前記光学装置の構成部品であるミラーやレンズ等の光学部材にトナーや埃が付着しないように感光ドラムへのレーザー光の照射口に配置される防塵ガラスである。
【0051】
画像形成は、光学装置21によって、画像情報に基づいてレーザー発光した光を感光ドラム上に照射することで、帯電器により帯電された感光ドラムに像を形成する。その後、現像器22内でトナーを像に付着させることで感光ドラム上にトナー像が形成される。トナー像は感光ドラム上から中間転写ベルト23上に転写され、給紙カセット24から搬送された用紙にトナー像を再度転写することで画像が用紙に形成される。用紙上に転写された画像は定着器25によりトナーを定着され、排紙トレイ26上に積載される。光学装置21は、画像情報に基づいてレーザー光を発光する光源、光源から発光されたレーザー光を偏向走査する回転多面鏡、回転多面鏡により偏光走査されたレーザー光を感光体上で結像させるfθレンズ、反射ミラー等の光学部材を筺体内に有する。前記光学装置を構成するミラーやレンズ等の光学部材に塵、埃、トナー等の汚れが付着しないように、前記筺体の、感光ドラムへのレーザー光の照射口には防塵ガラス28が設けられる。現像器などから飛散したトナーが防塵ガラスに蓄積するとレーザー光の光量落ちや白抜け等の画像不良となってしまう。そこで、本発明の画像形成装置に配される防塵ガラスは、少なくとも一部に、第一の実施形態で説明した多孔質体を用いる。多孔質体が基材上に膜として一体的に形成されていてもよい。基材は、石英ガラス、コーニング社の7059ガラス、日本電気硝子のネオセラムN−0、サファイア、水晶等の耐熱性のある基材が好適に用いられる。
【0052】
画像形成装置に好適に用いるためには、実施形態1と同様の理由で、多孔質体表面の骨格径の平均が、5nm以上80nm以下、更に好ましくは、骨格径が5nm以上50nm以下であることが望ましい。また、多孔質体表面の孔径の平均が、5nm以上500nm以下、特に10nm以上100nm以下、さらには15nm以上80nm以下であることが望ましい。さらに、多孔質体の空孔率が、通常は10%以上80%以下、特に20%以上75%以下であることが望ましい。
【0053】
反射防止機能が必要とされる時、空孔率を大きくすると、空気との界面での反射が低減される。この場合、空孔率が30%以上、より好ましくは、50%以上が好ましい。
【0054】
本発明の多孔質体は、塵、埃、汚れ等が付着しづらいという優れた特徴を有しているが、シャッター等を取り付けることにより、感光ドラムへの照射が必要ない時は、トナー等の汚れ、塵、埃から防塵ガラスを保護する形態も用いることができる。また、汚れをふき取るためのクリーニング機構を取り付けることも可能である。本発明の多孔質体は、高強度であるため、シャッター、クリーニング機構等による、多孔質体への衝撃にも耐えることができる。また、本実施形態の画像形成装置は上述した異物除去装置を備えていてもよい。
【0055】
(製造方法)
以下、本発明の多孔質体を製造するための製造方法について述べる。まず、多孔質体のみからなる部材の製造方法について述べる。本発明の多孔質体は、例えば、少なくとも2種類の相に相分離した相分離ガラスの少なくとも1種類の相を除去することにより得られる。
【0056】
相分離性母体ガラスの材質としては、例えば、酸化ケイ素系母体ガラスとして酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物、酸化ケイ素−リン酸塩−アルカリ金属酸化物などが挙げられる。なかでも、酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物の硼珪酸系ガラスを相分離性母体ガラスに用いることが好ましい。
【0057】
相分離性母体ガラスの製造方法は、上記組成となるように原料を調製し、各成分の供給源を含む原料を加熱溶融し、必要に応じて所望の形態に成形することにより製造することができる。加熱溶融するための溶融加熱温度は、原料組成等により適宜設定すれば良いが、通常は1350から1450℃、特に1380から1430℃の範囲とすることが好ましい。本明細書においては、原料を溶融させるための加熱を溶融加熱と称することにする。
例えば、上記原料として炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を均一に混合し、1350から1450℃に加熱し溶融させれば良い。この場合、原料は、前記のとおりアルカリ金属酸化物、酸化ホウ素及び酸化ケイ素の成分を含むものであればどのような原料を用いても良い。
【0058】
また、多孔質ガラスを所定の形状にする場合は、相分離性の母体ガラスを合成した後、概ね1000から1200℃の温度下で管状、板状、球状等の各種の形状に成形すれば良い。例えば、上記原料を溶融して、母体ガラスを合成した後、溶融温度から温度を降下させて1000から1200℃に維持した状態で成形する方法を好適に採用することができる。
【0059】
一般的には、相分離性の母体ガラスを加熱処理することにより、母体ガラスを相分離させる。「相分離」とは、たとえば母体ガラスに酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物の硼珪酸系ガラスを用いた場合、ガラス内部で酸化ケイ素リッチ相とアルカリ金属酸化物−酸化ホウ素リッチ相とに、nmスケールで相分離を起こさせることを意味する。相分離のための相分離加熱温度は400から800℃とし、相分離加熱時間は通常数時間から100時間の範囲内において、得られる多孔質ガラスの孔径等に応じて適宜設定することができる。本明細書においては、母体ガラスを相分離させるための加熱を相分離加熱と称することにする。
【0060】
このように相分離加熱工程より得られる相分離性ガラスを酸溶液と接触させることにより酸可溶成分を溶出除去させる。酸溶液としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸等を好ましく用いることができ、酸溶液は通常は水を溶媒とした形態で好適に使用することができる。酸溶液の濃度は、通常は0.1から2mol/L(0.1から2規定)の範囲内で適宜設定すれば良い。この酸溶液に接触させる酸処理工程(エッチング処理工程)では、その酸溶液の温度を室温から100℃の範囲とし、処理時間は1から50時間程度とすれば良い。その後、水による洗浄処理を経て酸化ケイ素による骨格を持つ多孔質体が得られる。水による洗浄処理工程における水の温度は、一般的には室温から100℃の範囲内とすれば良い。水による洗浄処理工程の時間は、対象となるガラスの組成、大きさ等に応じて適宜定めることができるが、通常は1から50時間程度とすれば良い。
【0061】
なお、相分離加熱工程において、母体ガラスの表面に酸処理で除去できない酸化ケイ素リッチ相の層が形成される場合がある。この場合では、研磨などにより酸化ケイ素リッチ相の層を除去してから酸処理することが好ましい。研磨手段としては、CeOの粉を用いた鏡面仕上げが好ましい。
【0062】
また、相分離加熱処理や酸処理を経ないで本発明の多孔質体を製造することも可能である。この方法は、4重量%以上20重量%以下の酸化ナトリウム、10重量%以上40重量%以下の酸化ホウ素、50重量%以上80重量%以下の酸化ケイ素を混合する工程を有する。次に、前記混合した材料を加熱して、溶融させ、冷却して、相分離した母体ガラスを得る工程と、前記母体ガラスを、再び加熱することなく水と接触させて多孔質体を得る工程とを有している。
【0063】
上記の母体ガラスを水と接触させる水洗処理をすることにより多孔質体を得ることができる。この方法では、前記母体ガラスを前記組成範囲に特定することにより、母体ガラスを相分離加熱処理や酸処理を経ることなく水洗処理することだけで多孔質体からなる多孔質体を得ることができる。この製造方法において用いる混合材料および母体ガラスの好ましい組成は、酸化ナトリウムの含有量は通常4重量%以上20重量%以下であり、特に4.5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。酸化ホウ素の含有量は通常10重量%以上40重量%以下であり、特に12重量%以上35重量%以下であることが好ましい。酸化ケイ素の含有量は通常50重量%以上80重量%以下であり、特に58重量%以上75重量%以下であることが好ましい。
【0064】
特定組成を採用することにより、相分離加熱処理や酸処理を必要とすることなく、水洗処理のみで多孔質体を得ることができる。一般的に、相分離ガラスの表面に、エッチングしにくい層が形成されるが、研磨の機械的な手段、フッ酸、アルカリ水溶液でエッチングする化学的な手段より、取り除かれてから、酸の水溶液でエッチングを行う。好ましく水洗処理は、通常中性領域の水を使用し、50℃以上100℃以下の温度の水溶液に浸漬して行う。水洗処理の時間は1から50時間程度とすれば良い。
【0065】
また酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系の母体ガラスにおいて、酸化ナトリウム、酸化ホウ素および酸化ケイ素の合計の含有量が、相分離ガラスの全体に対し95重量%以上100重量%以下であることを特徴とする。母体ガラスには、上記3成分系酸化物以外に、3成分以上の酸化物を含んでいてもよい。たとえば、酸化ケイ素系母体ガラスとして酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物−(アルカリ土類金属酸化物,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム)、酸化チタン系母体ガラス(酸化ケイ素−酸化ホウ素−酸化カルシウム−酸化マグネシウム−酸化アルミニウム−酸化チタン)、希土類系母体ガラス(酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物−(酸化セリウム,酸化トリウム,酸化ハフニウム,酸化ランタン))などが挙げられる。3成分以上の第4成分としては、例えば酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、アルカリ土類金属酸化物などが挙げられるが、それらに限定するものではない。第4成分の含有量は5重量%未満である。
【0066】
上記の組成範囲の酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系相分離ガラスは、加熱処理や酸処理を行うことなく水洗処理のみであっても、一般的な製造方法で作製したものと同様の多孔質体を得ることができる。
【0067】
次に、基材上に多孔質体(多孔質ガラス層)の製造方法について説明する。
【0068】
基材上に多孔質体(多孔質ガラス層)を形成するためには、基材上に、少なくとも多孔質ガラス生成原料を混合溶融して得られた基礎ガラスを主成分とするガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成する工程を有する。そして、前記ガラス粉末層を前記ガラス粉末のガラス転移点以上で熱処理して相分離した相分離ガラス層を得る工程と、前記相分離ガラス層をエッチングして、連続した孔を有するスピノーダル構造の多孔質ガラス層を得る工程を有している。
製造方法の一例として、印刷法、真空蒸着法、スパッタ法、スピンコート法、ディップコート法などガラス層形成が可能な全ての製造方法が挙げられ、本発明の構造を達成可能な製造方法であればいずれの製造方法を使用してもよい。
【0069】
本発明は、基材上の多孔質体にスピノーダル構造を形成することが必須である。スピノーダル構造の形成には、ガラスの緻密な組成制御が必要であり、一度ガラス組成を確定したのちに、ガラス粉末を作成し、融合することで膜形成をする製膜方法が、容易に組成制御ができる点で優れている。
【0070】
本発明においては、ガラス粉末層を前記ガラス粉末のガラス転移点以上で熱処理して相分離した相分離ガラス層を得ることができる。ガラス粉末のガラス転移点よりも低い温度では、ガラス粉末の融合が進行せず層形成がなされない。一方で、ガラス粉末を単純に熱処理するだけでは、相分離がなされず、スピノーダル構造の多孔質体(多孔質ガラス層)を形成することができない場合がある。
【0071】
本発明者らは、鋭意検討の結果、スピノーダル構造の形成を妨げる現象は、ガラス粉末の熱処理における結晶化が原因の一つであることを見出し、熱処理条件を緻密に制御することによって、本発明の課題を解決することを見出した。すなわち、ガラスの相分離現象は非晶質状態で起こるため、ガラス粉末を融合し、多孔質体(ガラス層)を形成する際には非晶質状態を維持しながら、層形成する熱処理方法を選択する必要があると考えられる。非晶質状態を維持しながら、層形成する熱処理方法としては、非晶質状態が維持可能ないかなる手段を用いてもよい。一例を挙げると、結晶化温度以下の温度で熱処理をすることで結晶核形成を抑制する手法や、ガラスの高温(結晶化温度以上)での溶融状態から急冷することで結晶核形成を抑制する手法が挙げられる。
【0072】
以下、本発明の多孔質体(多孔質ガラス)生成原料を混合溶融して得られた基礎ガラスを主成分とするガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成する工程の実施形態について説明する。具体的には、基材上に、少なくとも多孔質ガラス生成原料を混合溶融して得られた基礎ガラスを主成分とするガラス粉末および溶媒を含有するガラスペーストを塗布した後、前記溶媒を除去してガラス粉末層を形成する。ガラス粉末層を形成する方法の一例として、印刷法、スピンコート法、ディップコート法などが挙げられる。
【0073】
以下にガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成する方法として、一般的なスクリーン印刷法を用いた方法を例示しながら説明する。
スクリーン印刷法では、ガラス粉末をペースト化しスクリーン印刷機を使用して印刷されるため、ペーストの調製が必須である。
また、本発明の多孔質体(多孔質ガラス層)はガラスの相分離によって形成されるため、ガラスペーストに使用されるガラス粉末は相分離可能な相分離性母体ガラスを用いるのが好ましい。
【0074】
本発明のスピノーダル構造を形成する相分離性母体ガラス基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化ケイ素系ガラスI(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物)、酸化ケイ素系ガラスII(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物−(アルカリ土類金属酸化物,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム))、酸化チタン系ガラス(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−酸化カルシウム−酸化マグネシウム−酸化アルミニウム−酸化チタン)などが挙げられる。それらの中でも、酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物のホウケイ酸系ガラスが好ましい。
【0075】
さらには、ホウケイ酸系ガラスにおいて、酸化ケイ素の割合が50.0重量%以上80.0重量%以下、特に55.0重量%以上75.0重量%以下の組成のガラスが好ましい。酸化ケイ素の割合が上記の範囲であると、骨格強度が高い相分離ガラスを得やすい傾向にあり、強度が必要とされる場合に特に有用である。
【0076】
相分離性母体ガラスの製造方法は、上記組成となるように原料を調製するほかは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、各成分の供給源を含む原料を加熱溶融し、必要に応じて所望の形態に成形することにより製造することができる。加熱溶融する場合の加熱温度は、原料組成等により適宜設定すれば良いが、通常は1300から1450℃、特に1320から1430℃の範囲が好ましい。
例えば、上記原料として酸化ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を均一に混合し、1300から1450℃に加熱溶融すれば良い。この場合、原料は、上記のアルカリ金属酸化物、酸化ホウ素及び酸化ケイ素の成分を含むものであればどのような原料を用いても良い。
【0077】
また、相分離性母体ガラスを所定の形状にする場合は、相分離性母体ガラスを合成した後、概ね1000から1200℃の温度範囲で管状、板状、球状等の各種の形状に成形すれば良い。例えば、上記原料を溶融して相分離性母体ガラスを合成した後、溶融温度から温度を降下させて1000から1200℃に維持した状態で成形する方法を好適に採用することができる。
【0078】
結晶化しやすい相分離ガラスにおいては、溶融温度から温度を降下させる際には、急冷させる手段を用いることが好ましい。急冷することでガラス中の結晶核の形成を抑制することができ、非晶質の均質なガラス層を形成しやすくなり、相分離がなされやすくなる。
【0079】
ペーストとして使用するためには、ガラスを粉砕してガラス粉末を得る。粉砕方法は、特に方法を限定する必要がなく、公知の粉砕方法が使用可能である。粉砕化方法の一例として、ビーズミルに代表される液相での粉砕方法や、ジェットミルなどに代表される気相での粉砕方法が挙げられる。
【0080】
ガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成するには、上記ガラス粉末を含有するペーストを用いて形成する。ペーストには、上記ガラス粉末と共に、熱可塑性樹脂、可塑剤、溶剤等を含有する。
【0081】
ペーストに含有されるガラス粉末の割合としては、30.0重量%以上90.0重量%以下、好ましくは35.0重量%以上70.0重量%以下の範囲が望ましい。
【0082】
ペーストに含有される熱可塑性樹脂は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分である。熱可塑性樹脂として、ポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース等が使用可能である。これら熱可塑性樹脂は、単独あるいは複数を混合して使用することが可能である。
【0083】
ペーストに含有される前記熱可塑性樹脂の含有量は、0.1重量%以上30.0重量%以下が好ましい。0.1重量%よりも小さい場合は乾燥後の膜強度が弱くなる傾向にある。30.0重量%よりも大きい場合はガラス層を形成する際にガラス中に樹脂の残存成分が残りやすくなるため、好ましくない。
【0084】
ペーストに含有される可塑剤として、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等があげられる。これらの可塑剤は、単独あるいは複数を混合して使用することが可能である。
【0085】
ペーストに含有される可塑剤の含有量は10.0重量%以下が好ましい。可塑剤を添加することで、乾燥速度をコントロールすると共に、乾燥膜に柔軟性を与えることができる。
【0086】
ペーストに含有される溶剤として、ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等が挙げられる。前記溶剤は単独あるいは複数を混合して使用することが可能である。
【0087】
ペーストに含有される溶剤の含有量は、10.0重量%以上90.0重量%以下が好ましい。10.0重量%よりも小さいと均一な膜が得難くなる傾向にある。また、90.0重量%を超えると均一な膜が得難くなる傾向にある。
【0088】
ペーストの作製は、上記の材料を所定の割合で混練することにより行うことができる。
【0089】
基材上に、ペーストをスクリーン印刷法を用いて塗布した後、ペーストの溶媒成分を乾燥・除去することで、ガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成することができる。また、目的とする膜厚にするために任意の回数、ガラスペーストを重ねて塗布、乾燥してもよい。
【0090】
溶媒を乾燥・除去する温度、時間は使用する溶媒に応じて適宜、変更することができるが、熱可塑性樹脂の分解温度より低い温度でレべリング工程を設け、表面を平坦にすることが好ましい。
【0091】
次に、前記ガラス粉末層の樹脂を分解させて、前記ガラス粉末のガラス転移点以上で熱処理して相分離した相分離ガラス層を得る工程を行う。
この間に、ガラス粉末どうしが融着し、相分離させ、相分離ガラス層が形成される。
相分離のうちには、細孔が非連続なバイノーダル型相分離と、孔が連続なスピノーダル型相分離が存在する。
その中でも、スピノーダル型相分離構造により得られる多孔質ガラスの孔は表面から内部にまで連結した三次元網目状の貫通連続細孔であり、熱処理条件を変えることで任意に空孔率を制御することが可能である。また、三次元網目状の貫通連続孔であるため、高い表面強度を有している。
熱可塑性樹脂の分解温度は、差動型示差熱天秤(TG−DTA)などを使用して測定することが可能である。
【0092】
ガラス粉末を融合する際には、樹脂の炭素成分を残さないように適宜脱バインダー工程を設ける。また、ガラス粉末を融合する際には、ガラス粉末のガラス転移点以上で、より好ましくはガラスの軟化温度領域で熱処理することが好ましい。ガラス転移点よりも低い場合、ガラス粉末の溶融が進行せず、ガラス層が形成されない傾向にある。
【0093】
ガラス粉末を熱処理する熱処理温度は、例えば200℃以上1000℃以下とし、加熱処理時間は通常1時間から100時間の範囲内において、得られる多孔質ガラスの孔径等に応じて適宜設定することができる。このガラス粉末を熱処理する工程内に相分離する工程も含まれる。
【0094】
また、前記熱処理温度は一定温度である必要はなく、温度を連続的に変化させたり、異なる複数の温度段階を経てもよい。
【0095】
次に、前記相分離ガラス層をエッチングして、連続した孔を有するスピノーダル構造の多孔質体(多孔質ガラス層)を得る工程を行う。
【0096】
上記の加熱処理工程より得られる相分離ガラス層の非骨格部分を除去することで多孔質ガラス層を得る。
非骨格部分を除去する手段は、水溶液に接触させることで可溶相を溶出することが一般的である。水溶液をガラスに接触させる手段としては、水溶液中にガラスを浸漬させる手段が一般的であるが、ガラスに水溶液を塗布するなど、ガラスと水溶液が接触する手段であれば何ら限定されない。
水溶液としては、水、酸溶液、アルカリ溶液など、可溶相を溶出可能な既存の如何なる溶液を使用することが可能である。
【0097】
また、用途に応じてこれらの水溶液に接触させる工程を複数種類選択してもよい。
【0098】
一般的な相分離ガラスのエッチングでは、非可溶相部分への負荷の小ささと選択エッチングの度合いの観点から酸処理が好適に用いられる。酸溶液と接触させることによって、酸可溶成分であるアルカリ金属酸化物−酸化ホウ素リッチ相が溶出除去される一方で、非可溶相は安定性を損なうことなく、高い選択エッチング性が得られる。
【0099】
酸溶液としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸が好ましい。酸溶液は通常は水を溶媒とした水溶液を用いるのが好ましい。酸溶液の濃度は、通常は0.1から2.0mol/Lの範囲内で適宜設定すれば良い。場合によっては、水のみでもよい。
酸処理工程では、酸溶液の温度を室温から100℃の範囲とし、処理時間は1から500時間程度とすれば良い。
【0100】
一般に、酸溶液やアルカリ溶液などで処理(エッチング工程1)をした後に水処理(エッチング工程2)をすることが好ましい。水処理を施すことで、多孔質ガラス骨格への残存成分を除くことができ、より安定性が高い多孔質体(多孔質ガラス)が得られる傾向にある。
水処理工程における温度は、一般的には室温から100℃の範囲が好ましい。水処理工程の時間は、対象となるガラスの組成、大きさ等に応じて適宜定めることができるが、通常は1から50時間程度とすれば良い。
【0101】
また、本発明では必要に応じて複数回のエッチング工程を行なうことができる。
【実施例】
【0102】
まず、本発明の実施例1から実施例3における各種の評価方法を示す。
【0103】
<ガラス粉末のガラス転移点(Tg)の測定方法>
本発明におけるガラス粉末のガラス転移点(Tg)は、差動型示差熱天秤(TG−DTA)により測定されるDTA曲線において測定される。測定装置として、たとえばThermoplus TG8120(リガク社)を使用することができる。
具体的には、白金パンを使用して室温から昇温速度10℃/分で加熱してDTA曲線を測定した。前記曲線において、吸熱ピークにおける吸熱開始温度を接線法により外挿して求め、ガラス転移点(Tg)とした。
【0104】
<結晶化温度測定方法>
本発明におけるガラス粉末の結晶化温度は、下記のようにして算出される。
ガラス粉末を300℃で1時間熱処理を行う。得られたサンプルをX線回折構造解析装置(XRD)にて評価し、結晶によるピークが確認されない場合は、新たなガラス粉末を50℃高い350℃で1時間熱処理を行いXRDで評価した。
結晶が確認されるまでこの動作を繰り返し、結晶によるピークが確認された温度を結晶化温度とした。測定装置として、たとえばXRDとしてRINT2100(リガク社)を使用することができる。
【0105】
<空孔率測定方法>
電子顕微鏡写真の画像を骨格部分と孔部分とで2値化する処理を行った。具体的には走査電子顕微鏡(FE−SEM S−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて骨格の濃淡観察が容易な10万倍(場合によっては5万倍)の倍率で多孔質ガラスの表面観察を行う。
観察された像を画像として保存し、画像解析ソフトを使用して、SEM画象を画像濃度ごとの頻度でグラフ化する。図12は、スピノーダル相分離構造の多孔質の画像濃度ごとの頻度を示す図である。図12の画像濃度の下矢印で示したピーク部分が前面に位置する骨格部分を示している。
ピーク位置に近い変曲点を閾値にして明部(骨格部分)と暗部(孔部分)を白黒2値化する。黒色部分の面積の全体部分の面積(白色と黒色部分の面積の和)における割合について全画像の平均値を取り、空孔率とした。
【0106】
<孔径、骨格径測定方法>
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて、5万倍、10万倍、15万倍の倍率で像(電子顕微鏡写真)を撮影した。撮影した画像から多孔質の孔部分の幅を30点以上計測し、その平均をして孔径とした。
また、同様にして骨格部分の幅を30点以上計測し、その平均をして骨格径とした。
【0107】
<ガラス層の厚さ測定方法>
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて、1万から15万倍の倍率でSEMの像(電子顕微鏡写真)を撮影した。撮影した画像から基材上のガラス層部分の厚さを30点以上計測し、その平均値をガラス層の厚さとした。
【0108】
<主元素の測定方法>
基材を構成する主元素及び、多孔質ガラス層を構成する主元素の測定には、例えばX線光電子分光装置(XPS)を用いて構成元素の定量分析を行うことで求めることができる。測定装置としてはESCALAB 220i−XL(Thermo Scientific社製)を用いる。
具体的な測定方法を説明する。はじめに、本発明の構造体の最表面の元素分析をXPSにて行うことで、多孔質ガラス層を構成する主元素を分析する。
次いで、最表面のガラス層を研磨などの任意の方法により取り除き、ガラス層がなくなっていることをSEMなどにより確認した後に、再度XPS測定することで基材の主元素を分析する。もしくは、構造体の断面の基材部分をXPS測定することで、基材の主元素を分析することが可能である。
【0109】
<表面反射率の測定方法>
レンズ反射率測定機(USPM−RU III、オリンパス株式会社製)を用いて、波長550nmでの表面反射率を測定した。
【0110】
以下に実施例を示して本発明を説明するが、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0111】
(実施例1)
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO:Al2O=7.3:27.2:62.5:3.0(重量%)組成比で均一に混合した。そして、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、7.3NaO・27.2B・62.5SiO・3.0Al(重量%)組成の母体ガラスを540℃で50時間熱処理した。表面層を取り除くために、ガラスを表面研磨した。80℃に温めた1N硝酸に30時間浸漬し、イオン交換水でリンスし、多孔質ガラス層を得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察した結果を図6に示す。スピノーダル構造が形成されていることがわかった。骨格径:40nm、空孔径:30nm、空孔率:35%であった。
また、得られた多孔質体に吸水させ、吸水に伴う割れを確認したが、割れはみられなかった。
また、得られた多孔質ガラスと多孔質体ではないシリカガラスを大気中に2時間暴露させた後、2cm×2cm領域での埃を写真撮影し、その数を数えたところ、多孔質体ではないシリカガラスは666個付着していたのに対して、得られた多孔質ガラスには43個付着していた。
また、得られた多孔質ガラスの表面反射率は、0.6%であった。
【0112】
(実施例2)
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO:Al=9:30.5:59:1.5(重量%)組成比で均一に混合した。そして、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、9NaO・30.5B・59SiO・1.5Al(重量%)組成の母体ガラスを560℃で25h相分離処理を行った。表面層を取り除くために、ガラスを表面研磨した。80℃に温めた1N硝酸に50時間浸漬し、イオン交換水でリンスし、多孔質ガラス層を得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様にスピノーダル構造が形成されていることがわかった。骨格径:35nm、空孔径:50nm、空孔率:55%であった。
また、得られた多孔質ガラスと多孔質体ではないシリカガラスを大気中に2時間暴露させた後、2cm×2cm領域での埃を写真撮影し、その数を数えたところ、多孔質体ではないシリカガラスは754個付着していたのに対して、得られた多孔質ガラスには55個付着していた。
また、得られた多孔質ガラスの表面反射率は、0.5%であった。
【0113】
(実施例3)
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO=9.3:28.8:62.9(重量%)組成比で均一に混合した。そして、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、9.3NaO・28.8B・62.9SiO(重量%)組成の母体ガラスを580℃で40H熱処理し、相分離させた。表面層を取り除くために、ガラスを表面研磨した。80℃に温めた1N硝酸に50H浸漬し、イオン交換水でリンスして、多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様にスピノーダル構造が形成されていることがわかった。骨格径:45nm、空孔径:50nm、空孔率:50%であった。
また、得られた多孔質ガラスと多孔質体ではないシリカガラスを大気中に2時間暴露させた後、2cm×2cm領域での埃を写真撮影し、その数を数えたところ、多孔質体ではないシリカガラスは350個付着していたのに対して、得られた多孔質ガラスには36個付着していた。
また、得られた多孔質ガラスの表面反射率は、0.6%であった。
【0114】
次に、本発明の実施例4から実施例9における実施方法および評価方法を示す。
【0115】
<ガラス粉末1の作製例>
仕込み組成が、SiO− 64重量%、B 27重量%、NaO 6重量%、Al 3重量%になるように、石英粉末、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、及びアルミナの混合粉末を白金るつぼを用いて、1500℃、24時間溶融した。その後、ガラスを1300℃に下げてから、グラファイトの型に流し込んだ。大気中で、約20分間放冷した後、500℃の徐冷炉に5時間保持した後、24時間かけて冷却させた。得られたホウケイ酸塩ガラスのブロックをジェットミルを使用して、平均粒径が4.5μmになるまで粉砕を行い、ガラス粉末1を得た。
ガラス粉末1の結晶化温度は800℃であった。
【0116】
<ガラス粉末2の作製例>
仕込み組成が、SiO− 63.0重量%、B 28.0重量%、NaO 9.0重量%になるように、石英粉末、酸化ホウ素、および酸化ナトリウムの混合粉末を使用する以外は、ガラス粉末1と同様の方法で、ガラス粉末2を得た。
ガラス粉末2の結晶化温度は750℃であった。
【0117】
<ガラスペースト1の作製例>
ガラス粉末1 60.0質量部
α−ターピネオール 44.0質量部
エチルセルロース(登録商標 ETHOCEL Std 200(ダウ・ケミカル社製))
2.0質量部
上記原材料を撹拌混合し、ガラスペースト1を得た。ガラスペースト1の粘度は31300mPa・sであった。
【0118】
<ガラスペースト2の作製例>
ガラス粉末1の代わりにガラス粉末2を使用する以外は、ガラスペースト1と同様の方法でガラスペースト2を得た。ガラスペースト2の粘度は38000mPa・sであった。
【0119】
<基材1乃至4の例>
石英基板(株式会社飯山特殊硝子社製、軟化点1700℃)を基材1とした。
サファイア基板(テクノ・ケミックス有限会社製、融点2030℃)を基材2とした。
ガラス基板(登録商標7059 コーニング社製、軟化点844℃)を基材3とした。
ガラス基板(登録商標 S−TIM 1 株式会社オハラ社製、軟化点699℃)を基材4とした。
なお、いずれの基板も大きさは50mm×50mmの大きさに切断した厚さ1.1mmのものを、鏡面研磨したものを3枚ずつ使用した。
【0120】
<構造体1の作製例>
前記ガラスペースト1を基材1上にスクリーン印刷により塗布した。印刷機はマイクロテック社製、MT−320TVを使用した。また、版は#500の30mm×30mmのベタ画像を使用した。
次いで、100℃の乾燥炉に10分間静置し、溶剤分を乾燥させた。製膜された膜の膜厚をSEMにて測定したところ10.00μmであった。
この膜を熱処理工程1として昇温速度20℃/minで700℃まで昇温し、1時間熱処理した。その後に、熱処理工程2として降温速度10℃/minで600℃まで降温し、600℃、50時間熱処理し、膜最表面を研磨して相分離性ガラス層1を得た。
前記相分離性ガラス層1を、80℃に加熱した1.0mol/Lの硝酸水溶液中に浸漬し、80℃にて24時間静置した。次いで、80℃に加熱した蒸留水中に浸漬し、24時間静置した。溶液からガラス体を取り出し、室温にて12時間乾燥して基材上に多孔質ガラス膜が形成された構造体1を得た。
SEMで膜厚を観察したところ、膜厚が7.00μmで均一な膜の形成が確認された。構造体の1の製造条件を表1に示す。得られた構造体1の各評価の測定結果を表2に示す。
【0121】
<構造体2の作製例>
前記相分離性ガラス層1を作製する際の膜最表面の研磨時間を延長する以外は、構造体1と同様にして基材上に多孔質ガラス膜が形成された構造体2を得た。SEMで膜厚を観察したところ0.09μmであった。得られた構造体2の各評価の測定結果を表2に示す。
【0122】
<構造体3乃至5の作製例>
表1に記載の作製条件に変更する以外は、前記構造体1と同様にして基材上に多孔質ガラス膜が形成された構造体3乃至5を得た。得られた各構造体の測定結果を表2に示す。
【0123】
<構造体6の作製例>
使用する基材を基材1から基材2に変更する以外は、前記構造体1と同様にして基材上に多孔質ガラス膜が形成された構造体6を得た。得られた構造体6の測定結果を表2に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
(実施例4)
得られた構造体1を下記評価手段にて評価した。
【0127】
<細孔構造の評価>
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて、1万から15万倍の倍率でSEMの像(電子顕微鏡写真)を撮影した。撮影した画像から、スピノーダル型相分離による連続した細孔構造を判断した。
ランクA:スピノーダル型相分離による連続した細孔構造が確認される。
ランクB:スピノーダル型相分離による連続した細孔構造が確認されない
<構造体の歪み評価>
構造体の歪みの評価を、下記判断基準で行った。平坦な台の上に構造体を乗せ、構造体の反りがあるか否かで歪みの判断を行った。
ランクA:構造体の反りが確認されない。
ランクB:構造体の反りが確認される。
【0128】
<強度の評価>
得られた構造体の向かい合う辺のそれぞれ10mm部分を固定し、構造体中央に10mm×10mmの面積の100gの重りを乗せて、構造体が破壊されるか否かで構造体の強度を評価した。
ランクA:構造体が破壊されない。
ランクB:構造体が破壊される。
【0129】
<膜密着性の評価>
得られた構造体の多孔質ガラス層部分と基材との界面をSEMを用いて観察し、膜密着性を評価した。評価基準は下記のとおりである。
なお、装置は(株)日立ハイテクノロジー社製、電界放出形走査電子顕微鏡S−4800(商品名)を使用し、加速電圧:5.0kV、倍率:150000倍で観察を行った。具体的には、多孔質ガラス層の骨格部分と基材との界面が観察されるか否かで膜密着性を判断した。
ランクA:多孔質ガラス骨格部分と基材との界面が観察されない。
ランクB:多孔質ガラス骨格部分と基材との界面が明確に観察される。
【0130】
<防塵評価>
構造体4の一枚と、5cm×5cmの多孔質体ではないシリカガラスを大気中に4時間暴露し、その後、20×20mm領域を撮影し、その埃の数を数えた。
ランクA:シリカガラス上の個数に対し、1/10以下。
ランクB:シリカガラス上の個数に対し、1/10より多く1/5より小さい。
ランクC:シリカガラス上の個数に対し、1/5以上。
【0131】
(実施例5乃至9)
構造体2乃至6を実施例4と同様の評価手段にて評価した。評価結果を表3に記す。
【0132】
【表3】

【0133】
(実施例10)
母体ガラスを520℃で80時間熱処理して相分離した以外は、実施例1と同じで工程で多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様、スピノーダル構造が形成されていることがわかった。骨格径:10nm、孔径:20nm、空孔率:35%であった。
得られた多孔質ガラスと多孔質体ではないシリカガラスを大気中に2時間暴露させた後、2cm×2cm領域での埃を写真撮影し、その数を数えたところ、多孔質体ではないシリカガラスは620個付着していたのに対して、得られた多孔質ガラスには20個付着していた。
また、得られた多孔質ガラスの表面反射率は、0.8%であった。
【0134】
(実施例11)
母体ガラスを600℃で30時間熱処理して相分離した以外は、実施例1と同じで工程で多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様、スピノーダル構造が形成されていることがわかった。骨格径:70nm、孔径:60nm、空孔率:60%であった。
得られた多孔質ガラスと多孔質体ではないシリカガラスを大気中に2時間暴露させた後、2cm×2cm領域での埃を写真撮影し、その数を数えたところ、多孔質体ではないシリカガラスは620個付着していたのに対して、得られた多孔質ガラスには100個付着していた。
また、得られた多孔質ガラスの表面反射率は、0.5%であった。
【0135】
(実施例12)
母体ガラスを470℃で25時間熱処理して相分離した以外は、実施例1と同じで工程で多孔質ガラスを得た。しかし、相分離ガラスが弱く、乾燥時で割れ安かった。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様、スピノーダル構造が形成されていることがわかった。骨格径:2nm、孔径:6nmであった。
得られた多孔質ガラスと多孔質体ではないシリカガラスを大気中に2時間暴露させた後、2cm×2cm領域での埃を写真撮影し、その数を数えたところ、多孔質体ではないシリカガラスは623個付着していたのに対して、得られた多孔質ガラスは175個付着していた。骨格径が小さく、2つ以上の骨格に跨って埃が吸着されたため、実施例10又は11よりも埃の付着が多くなったと考えられる。
【0136】
(実施例13)
母体ガラスを610℃で50時間熱処理して相分離した以外は、実施例1と同じで工程で多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様、スピノーダル構造が形成されていることがわかった。骨格径:100nm、孔径:100nm、空孔率:70%であった。
得られた多孔質ガラスと多孔質体ではないシリカガラスを大気中に2時間暴露させた後、2cm×2cm領域での埃を写真撮影し、その数を数えたところ、多孔質体ではないシリカガラスは600個付着していたのに対して、得られた多孔質ガラスには180個付着していた。
【0137】
以上のことから、スピノーダル型構造を有する構造体は、高強度、かつ、高い防塵効果を有することがわかった。また、骨格径が、5nm以上80nm以下を有する構造体は、高い防塵効果を有していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズからの被写体像を、光学フィルタを通して撮像素子上に結像させるための撮像装置であって、
三次元的に互いに連通する孔を有する多孔質体を、前記光学フィルタの、前記撮像素子とは反対側に有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記多孔質体表面の骨格径の平均が5nm以上80nm以下であることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記多孔質体表面の骨格径の平均が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項4】
前記多孔質体表面の孔径の平均が5nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の撮像装置。
【請求項5】
前記多孔質体の空孔率が10%以上90%以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項記載の撮像装置。
【請求項6】
前記多孔質体は酸化ケイ素による骨格を有することを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の撮像装置。
【請求項7】
前記多孔質体は、少なくとも2種類の相に相分離した相分離ガラスの少なくとも1種類の相を除去することにより得られることを特徴とする請求項1乃至6いずれか一項記載の撮像装置。
【請求項8】
前記光学フィルタは、ローパスフィルタおよびまたは赤外線カットフィルタであることを特徴とする請求項1乃至7いずれか一項記載の撮像装置。
【請求項9】
前記多孔質体が、水晶または石英ガラスの表面に一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至8いずれか一項記載の撮像装置。
【請求項10】
光を照射して画像を形成するために用いられる光学装置を有する画像形成装置であって、
前記光学装置に設けられる防塵ガラスが、三次元的に互いに連通する孔を有する多孔質体であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
前記多孔質体表面の骨格径の平均が5nm以上80nm以下であることを特徴とする請求項10記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記多孔質体が、耐熱ガラスの表面に一体に形成されていることを特徴とする請求項10または11記載の画像形成装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−33225(P2013−33225A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126379(P2012−126379)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】