説明

撮像装置

【課題】広い温度領域において被写体の判別しやすさを損なうことなく撮影モードを切り換える。
【解決手段】デイモード時には、映像信号処理部5は、SS、IRIS、AGC及び画面輝度から被写体輝度情報Yを算出し、温度算出部9は、撮像素子3の温度Tを算出する。次に、切り換え閾値Th設定部8は、温度Tに応じて第1の切り換え閾値Thdnを算出し、設定する。Y<Thdnが成立する場合は、映像信号出力部6における撮影モードがデイモードからナイトモードに切り換わる。ナイトモード時には、同様にして切り換え閾値Th設定部8は、温度Tに応じて第2の切り換え閾値Thndを算出し、設定する。Y>Thndが成立する場合は、撮影モードがナイトモードからデイモードに切り換わる。第1、第2の切り換え閾値Thdn、Thndは、T0<Tの領域においては温度Tが高いほど高い値となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像手段により得られた映像信号を、撮影モードを切り換えてカラー映像または白黒映像で出力することが可能な撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像装置は一般に、入射光を結像するレンズと、レンズにより結像した光学像を電気信号に変換する撮像素子と、該撮像素子から得られた電気信号に対し信号処理を施すことにより映像信号を得る信号処理手段とを有している。
【0003】
通常、撮像素子としてCCDセンサまたはCMOSセンサを一枚だけ備えて撮像装置を構成する場合、すなわち、単板式のセンサとして構成する場合は、色分解を行う色フィルタとして、画素ごとに異なる色のものがセンサ上に設けられる。
【0004】
赤(R)、緑(G)、青(B)の色信号を得るには、それぞれR、G、Bに対応する光の帯域を透過させるR、G、Bの原色フィルタを用いる場合と、マジェンタ(Mg)、シアン(Cy)、イエロー(Ye)、Gの補色フィルタを用いる場合とがある。上記のいずれの色フィルタも染料もしくは顔料を用いて目的の色を透過させるようにその分光透過特性が設計されているが、近赤外領域でも一定の透過率を有する。
【0005】
また、撮像素子の光電変換部は主にシリコン(Si)等の半導体で構成されているため、光電変換部の分光感度特性は波長の長い近赤外光まで感度を有している。従って、色フィルタが設けられた撮像素子から得られた信号は近赤外領域の光線にも反応している。
【0006】
一方、人間の色に対する感度特性である色覚特性及び明るさに対する感度特性である比視感度特性については、その感度波長は、可視域といわれる380nmから780nmまでである。従って、700nmより長波長域ではほとんど感度を有さない。そこで、撮像装置の色再現性を人間の色覚特性に適切に合わせるためには、撮像素子の前に近赤外領域の光線を通過させない視感度補正用の赤外光除去フィルタ(以後、「IRCF」と記す)を設ける必要があった。
【0007】
従来、被写体輝度が低下した場合、感度が足りずノイズが増加し、被写体が判別しにくくなってしまう。そのため、IRCFを光路から除去し、近赤外領域の光線を通過させ、感度アップを行う撮影モードが存在する。この撮影モードとしては、カラー映像を出力するデイモードと、白黒映像を出力するナイトモードとがある。近赤外領域の光線を通過させると色バランスが崩れるため、デイモードからナイトモードに撮影モードを切り換える。デイモード、ナイトモードの切り換えを自動で行う機能もあり、これはオートデイナイト(以後、「ADN」と記す)と呼ばれる。
【0008】
カラー映像(デイモード)から白黒映像(ナイトモード)への切り換えは、被写体の輝度を用いて行われる。被写体輝度は、カメラのAEデータ(シャッタスピード、IRIS(絞り)、AGC(Automatic Gain Control)、画面輝度)に基づき決定される。被写体輝度と予め設定された撮影モードの切り換え閾値Thとを比較し、被写体輝度が切り換え閾値Th以下の場合、撮影モードをナイトモードにする。さらに、バリフォーカルレンズにおいてIRCFの挿抜機構がないレンズ機構を備えたものでは、IRCFの挿抜をすることなく、撮影モードの切り換えにおいて、単に出力する映像をカラー映像から白黒映像に切り換えるだけの撮像装置もある。これは、感度は上がらないが、カラー成分にのるノイズが除去できるからである。
【0009】
このように、なるべくカラー映像(デイモード)で撮影するが、照度が低下してノイズが多くなり、被写体の判別ができないようになるとナイトモードにして、感度のアップを行うというのが、基本的なADNの考え方である。例えば、下記特許文献1の撮像装置では、入射光量に応じて撮影モードを切り換えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−120202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の撮像装置では、撮影モードの切り換えにおいて、被写体のノイズ感等は考慮されていない。すなわち、撮像素子は、高温時には暗電流等の影響でノイズが増加する。一般的に暗電流は8°Cで約2倍になるといわれている。従って、高温時には撮像素子のノイズが増加するため、被写体輝度が同一で且つカメラのAEデータが同じであっても、常温時に比し被写体の判別しやすさが損なわれてしまう。例えば、同一被写体輝度の映像について、図6(a)に常温時、図6(b)に高温時の映像例を示す。図6(b)の例では、被写体が判別にしにくくなっている。
【0012】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、広い温度領域において被写体の判別しやすさを損なうことなく撮影モードを切り換えることができる撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の撮像装置は、撮像光学系により結像した被写体像を電気的映像信号に変換する撮像手段と、前記撮像手段の温度を把握する把握手段と、被写体輝度を算出する算出手段と、前記撮像手段により得られた映像信号を、カラー映像で出力する第1のモードと白黒映像で出力する第2のモードとを択一的に切り換えていずれかの撮影モードで出力する出力手段と、前記把握手段により把握された前記撮像手段の温度に基づいて切り換え閾値を設定する設定手段と、前記算出手段により算出された被写体輝度と前記設定手段により設定された切り換え閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、前記出力手段における前記撮影モードを切り換えるよう制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、広い温度領域において被写体の判別しやすさを損なうことなく撮影モードを切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る撮像装置の構成を示すブロック図である。
【図2】デイモード時処理のフローチャートである。
【図3】ナイトモード時処理のフローチャートである。
【図4】切り換え閾値の設定例を示す図である。
【図5】切り換え閾値の設定例の変形例を示す図である。
【図6】常温時、高温時の同一被写体輝度の映像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る撮像装置の構成を示すブロック図である。この撮像装置は、例えば、映像信号を出力するビデオカメラとして構成されるが、これに限られない。本撮像装置は、撮像レンズ(撮像光学系)1、IRCF2、撮像素子(撮像手段)3、AD変換部4、映像信号処理部(算出手段)5を備える。撮像素子3は、被写体像を電気的映像信号に変換するCCD個体撮像素子等でなるが、CMOSセンサであってもよい。撮像レンズ1から入射した光は、撮像素子3の受光面上に結像する。撮像素子3で電気的映像信号に変換されて出力されたアナログ信号はAD変換部4でデジタル信号に変換される。
【0018】
映像信号処理部5は、AD変換部4から出力されたデジタル信号に、色変換、AE(自動露出)処理、WB(ホワイトバランス)処理、信号処理された映像の階調変換を行うγ処理等、諸々の画像処理を行う。そして、処理済みの映像信号を映像信号出力部(出力手段)6に出力する。映像信号処理部5はまた、撮影モードの判定に使用される被写体輝度情報Yを算出する。被写体輝度情報Yはシャッタスピード(以後、SS)、IRIS、AGC及び画面輝度から算出される。映像信号出力部6は、カラー映像または白黒映像の出力を択一的に切り換えて、いずれかの映像を出力する。
【0019】
映像信号出力部6において選択可能な撮影モードには「第1のモード」としてのデイモードと「第2のモード」としてのナイトモードとがある。デイモードは、映像信号処理部5から出力された映像信号をカラー映像で出力するモードである。ナイトモードは、映像信号処理部5から出力された映像信号を白黒映像で出力するモードである。
【0020】
本撮像装置はまた、制御部(制御手段)7、切り換え閾値Th設定部(設定手段)8、温度算出部(把握手段)9、IRCF制御部10を備える。温度算出部9は、撮像素子3の温度を把握する。温度算出部9が撮像素子3の温度を把握するための機構は問わない。例えば、撮像素子3の温度を直接的に検出する温度センサを設け、当該温度センサの出力から撮像素子3の温度が把握されるようにしてもよい。あるいは、撮像素子3とは離間した位置(例えば、撮像レンズ1、不図示の基板、あるいは装置内面等)の温度を検出する温度センサを設けると共に、その温度センサの配設位置と撮像素子3の温度との差の相関関係を予め求めておく。そして、当該温度センサの検出値と上記相関関係とから、撮像素子3の温度を算出によって把握するようにしてもよい。
【0021】
切り換え閾値Th設定部8は、後述するように、温度算出部9により把握された撮像素子3の温度に応じて切り換え閾値Thを算出する。制御部7は、映像信号処理部5で算出された被写体輝度情報Yと切り換え閾値Th設定部8により設定された切り換え閾値Thとを比較し、その比較結果に基づいて、映像信号出力部6における撮影モードの判定を行う。そして、判定に従って、映像信号出力部6における撮影モードを切り換えるよう制御する。
【0022】
IRCF2は、撮像素子3の前側位置に挿抜可能に構成される。IRCF制御部10は、制御部7からの指示によりIRCF2の挿抜を行う。撮影モードがデイモードの場合は、IRCF制御部10は、IRCF2を光路(撮像素子3の前側)に挿入する。これにより、近赤外領域の光が通過することなく、映像としてはカラー映像が出力される。被写体輝度情報Yが小さくなって撮影モードがナイトモードとなると、撮像素子3が近赤外域にも感度を有することを利用し、IRCF制御部10は、IRCF2を光路から抜く(撮像素子3の前側から外す)。これにより、近赤外領域の光が通過し、映像としては白黒映像が出力される。IRCF2を抜くことで、撮像素子3が近赤外域の光も受光するので、感度が向上する。
【0023】
仮に、従来と同様に、被写体輝度情報Yがある閾値より高いとデイモード、低いとナイトモードが選択されるとする。しかし、撮像素子3のノイズは高温になるほど増加するため、固定的な閾値で撮影モードを切り換えたとしても、温度によって映像が大きく異なってしまう。例えば、図6(a)、(b)に、それぞれ常温時、高温時の同一被写体輝度の映像を示す。デイモードで撮影している場合に、常温であれば図6(a)に示すように被写体の判別はできる映像となる。しかし、従来は、高温となっても被写体輝度情報Yが変化しない限りデイモードのままで撮影が続けられてしまうため、図6(b)に示すような、被写体が判別できない映像になってしまう。
【0024】
そこで、本実施の形態では、撮像素子3の温度に応じて切り換え閾値Thを設定し、被写体が判別できない映像状態にならないように撮影モードを切り換える。以降、このような撮影モードの切り換え制御の態様を説明する。
【0025】
図2は、デイモード時処理、図3は、ナイトモード時処理のフローチャートである。図2のデイモード時処理は撮影モードがデイモードである最中に繰り返し実行され、図3のナイトモード時処理は撮影モードがナイトモードである最中に繰り返し実行される。
【0026】
まず、デイモードからナイトモードへの切り換えについて説明する。図2のデイモード時処理において、まず、映像信号処理部5は、SS、IRIS、AGC及び画面輝度から被写体輝度情報Yを算出する(ステップS201)。次に、温度算出部9は、撮像素子3の温度T(°C)を算出する(ステップS202)。次に、切り換え閾値Th設定部8は、温度算出部9により算出された温度Tに応じて切り換え閾値Th(ここでは後述する第1の切り換え閾値Thdn)を算出し、設定する(ステップS203)。すなわち、切り換え閾値Th設定部8は、不図示の記憶部を備え、算出した第1の切り換え閾値Thdnを、制御部7が参照可能なように記憶部に保持する。
【0027】
ここで、切り換え閾値Thは、「第1の閾値」としての第1の切り換え閾値Thdnと「第2の閾値」としての第2の切り換え閾値Thndの2つに分けて設定される。第1の切り換え閾値Thdnは、デイモードからナイトモードに切り換える際に用いられ、第2の切り換え閾値Thndはナイトモードからデイモードに切り換える際に用いられる。デイモード時処理(図2)では第1の切り換え閾値Thdn、ナイトモード時処理(図3)では第2の切り換え閾値Thndが設定される。図4(a)にその例を示す。
【0028】
図4(a)は、切り換え閾値Thの設定例を示す図である。横軸に撮像素子3の温度T、縦軸に切り換え閾値Thの値をとる。切り換え閾値Th設定部8は、基準温度T0(°C)(例えば常温時)における第1の基準閾値ThdnBS、第1の係数Kdnを記憶している。第1の係数Kdnは、温度に対して現れる映像のノイズ感等から予め求められた係数である。本実施の形態では、第1の係数Kdnは定数とする。ステップS203において、切り換え閾値Th設定部8は、下記数式1により第1の切り換え閾値Thdnを算出し、それを設定する。
【0029】
[数1]
Thdn=ThdnBS+Kdn×(T−T0)
ただし、T≦T0の領域においては、一律にThdn=ThdnBSとする。これらにより、第1の切り換え閾値Thdnは、T≦T0の領域においては一定の値ThdnBSとなり、T0<Tの領域においては温度Tが高いほど高い値となる。
【0030】
次に、図2のステップS204では、制御部7は、ステップS201で算出された被写体輝度情報YとステップS203で設定された第1の切り換え閾値Thdnとを比較し、Y<Thdnが成立するか否かを判別する。その判別の結果、Y<Thdnが成立する場合は、制御部7は、映像信号出力部6における撮影モードをデイモードからナイトモードに切り換えるよう制御する(ステップS205)。その後本処理を終了させる。一方、前記ステップS204の判別の結果、Y≧Thdnである場合は、制御部7は、映像信号出力部6における撮影モードの切り換えを行うことなく本処理を終了させる。
【0031】
次に、ナイトモードからデイモードへの切り換えについて説明する。図3のナイトモード時処理において、ステップS301、S302では、図2のステップS201、S202と同様の処理を実行する。
【0032】
次に、切り換え閾値Th設定部8は、温度算出部9により算出された温度Tに応じて第2の切り換え閾値Thndを算出し、それを制御部7が参照可能なように記憶部に保持することで設定する(ステップS303)。切り換え閾値Th設定部8は、基準温度T0における第2の基準閾値ThndBS、第2の係数Kndを記憶している。第2の基準閾値ThndBSは、第1の基準閾値ThdnBSよりも大きい。第2の係数Kndは、温度に対して現れる映像のノイズ感等から予め求められた係数である。本実施の形態では、第2の係数Kndは第1の係数Kdnより大きい定数とする。ステップS303において、切り換え閾値Th設定部8は、下記数式2により第2の切り換え閾値Thndを算出し、それを設定する。
【0033】
[数2]
Thnd=ThndBS+Knd×(T−T0)
ただし、T≦T0の領域においては、一律にThnd=ThndBSとする。これらにより、第2の切り換え閾値Thndは、T≦T0の領域においては一定の値ThndBSとなり、T0<Tの領域においては温度Tが高いほど高い値となる。
【0034】
次に、図3のステップS304では、制御部7は、ステップS301で算出された被写体輝度情報YとステップS303で設定された第2の切り換え閾値Thndとを比較し、Y>Thndが成立するか否かを判別する。その判別の結果、Y>Thndが成立する場合は、制御部7は、映像信号出力部6における撮影モードをナイトモードからデイモードに切り換えるよう制御する(ステップS305)。その後本処理を終了させる。一方、前記ステップS304の判別の結果、Y≦Thndである場合は、制御部7は、映像信号出力部6における撮影モードの切り換えを行うことなく本処理を終了させる。
【0035】
切り換わり時の被写体輝度Yが異なり、AGC等が異なっている場合があることから、図4(a)の例では、Kdn<Kndとした。従って、T0<Tの領域において、第2の切り換え閾値Thndよりも第1の切り換え閾値Thdnの方が、傾きが大きくなっている。
【0036】
また、ThdnBS<ThndBSであり、常に、Thdn≦Thndとなっている。これにより、撮影モードの切り換えに関し、一定のヒステリシスが設けられ、切り換え制御のハンチングが防止されている。
【0037】
図2、図3の処理によると、図4(a)に示すように、デイモード時には、被写体輝度情報Yが第1の切り換え閾値Thdnを下回るとナイトモードに切り換わる。一方、ナイトモード時には、被写体輝度情報Yが第2の切り換え閾値Thndを超えるとデイモードに切り換わる。
【0038】
本実施の形態によれば、第1の切り換え閾値Thdn、第2の切り換え閾値Thndは、いずれも、T0<Tの領域においては温度Tが高いほど高い値に設定される。これにより、高温になるほどナイトモードが選択されやすくなるので、高温になるほど暗電流等の影響で増加する撮像素子3のノイズを効果的に抑制することができる。よって、広い温度領域において被写体の判別しやすさを損なうことなく撮影モードを切り換えることができる。
【0039】
また、同一の温度Tに対して、第1の切り換え閾値Thdnよりも第2の切り換え閾値Thndの方が高い値に設定されるので、切り換え制御のハンチングを防止することができる。
【0040】
ところで、T≦T0の領域において第1の切り換え閾値Thdnや第2の切り換え閾値Thndを一定値とすることは必須でなく、上記数式1、2で算出された値をそのまま適用してもよい。その場合には例えば、基準温度T0を、常温よりも十分に低い温度に設定することで、T≦T0の領域においても閾値Thdn、Thndの大小が逆転することがない。あるいは、ThdnBS<ThndBSとし、且つ第1の係数Kdn、第2の係数Kndを同一の値としてもよい。そのようにすれば、図4(b)に示すように、閾値Thdn、Thndの傾きが同じとなり、T≦T0の領域においても閾値Thdn、Thndの大小が逆転することがない。
【0041】
ところで、基準温度T0を常温よりも十分に低い温度に設定した場合、T0<Tの領域における撮影モードの切り換え制御のヒステリシスを、主に係数Kdn、Kndの値の差異によって設けるようにしてもよい。その場合は、仮に、ThdnBS=ThndBSとしたとしても、実質的にヒステリシスを設けることは可能である。
【0042】
なお、本実施の形態では、実質的には、切り換え閾値Thを、撮像素子3の温度Tと基準温度T0との温度差(T−T0)に応じて設定したが(図4(a))、温度Tの値に応じて設定するようにしてもよい。
【0043】
また、本実施の形態では、係数Kdn、Kndを固定値とし、切り換え閾値Thは、T0<Tの領域においては温度差(T−T0)に比例したが、これに限られない。図5(a)〜(e)に示すように、各種の変形例が考えられる。
【0044】
図5(a)、(c)、(e)は、温度Tに対する第1の切り換え閾値Thdnの設定例を示す。図5(b)、(d)は、それぞれ図5(a)、(c)に対応する第1の係数Kdnの設定例を示す。図5(a)〜(e)に示す変形例では、代表として、第1の切り換え閾値Thdn及び第1の係数Kdnの設定例を図示するが、第2の切り換え閾値Thnd及び第2の係数Kndについても同様に考えることができる。これらの変形例では、T0<Tの領域においてのみ図示している。ただし、T≦T0の領域における閾値Thdn、Thndの設定の態様については、図4(a)で説明したのと同様に、一定値とする態様、あるいは上記数式1、2で算出された値をそのまま適用する態様をとることができる。
【0045】
回路系等の影響で、映像において高温時にのみ特にノイズ変化が多く、低温時にはノイズ変化が小さいことがある。その場合には、切り換え閾値Thを低温時に比べ高温時に大きく変化させることで対応できる。このような例を図5(a)に示す。図5(b)に示すように、基準温度T0より高い所定温度Txを境に第1の係数Kdnを切り換える。T≦TxではKdn=K1、Tx<TではKdn=K2に設定する。K1<K2であり、第1の切り換え閾値Thdnの算出は上記数式1によってなされる。
【0046】
これによると、図5(a)に示すように、温度Tが所定温度Txより高い領域では所定温度Txより低い領域に比べ、温度Tの変化に対する第1の切り換え閾値Thdnの変化の度合いが大きくなる。これにより、所定温度Txより高い高温時にノイズを効果的に抑制することができる。所定温度Txは、ノイズが急に大きくなるような温度の変化点に設定するのがよい。
【0047】
また、ノイズの表れが、温度差(T−T0)によって変化するような場合には、温度差(T−T0)乃至温度Tにより第1の係数Kdnを変化させてもよい。例えば、図5(d)に示すように、基準温度T0以上において、温度Tが高いほど、第1の係数Kdnを大きい値に設定する。例えば、第1の係数Kdnは、Kdn=A×T(Aは定数)なる式によって設定される。第1の切り換え閾値Thdnの算出は上記数式1によってなされる。
【0048】
これによると、図5(c)に示すように、基準温度T0以上の領域において、温度Tが高いほど、温度Tの変化に対する第1の切り換え閾値Thdnの変化の度合いが大きくなる。従って、高温となるほどノイズを効果的に抑制することができる。
【0049】
また、一般的に暗電流は、8°Cの温度上昇で約2倍になるといわれている。そのため、温度差(T−T0)が8°C増加したことに応じて、切り換え閾値Thの増加量が2倍になるように設定してもよい。例えば、図5(e)に示すように、基準温度T0以上の領域において、温度Tがある温度から8°C増加することに対して第1の切り換え閾値ThdnがN1だけ増加する。温度Tがそこからさらに8°C増加することに対して第1の切り換え閾値ThdnがN2だけ増加する。温度Tがそこからさらに8°C増加することに対して第1の切り換え閾値ThdnがN3だけ増加する。このとき、変化量N2は変化量N1の2倍、変化量N3は変化量N2の2倍となるように第1の切り換え閾値Thdnが設定される。
【0050】
つまり、少なくとも基準温度T0以上の領域において、温度Tの8°Cの変化に対する第1の切り換え閾値Thdnの変化の量(増加量)が、温度Tが8°Cだけ増加する毎に2倍となるようになっている。これは、例えば、下記数式3によって実現される。Bは定数である。第1の係数Kdnは用いない。
【0051】
[数3]
Thdn=ThdnBS+B×2(T−T0)/8
図5(e)の例によれば、温度上昇によって大きくなる暗電流による影響を考慮してノイズを効果的に抑制することができる。
【0052】
なお、上記実施の形態では、感度アップを図るため、IRCF制御部10を設けてIRCF2の挿抜を制御可能に構成した。しかし、高温でのノイズを抑制して被写体の判別しやすさを確保する観点に限れば、IRCF2の挿抜を行う機構は必須でない。
【0053】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 撮像レンズ
3 撮像素子
5 映像信号処理部
6 映像信号出力部
7 制御部
8 切り換え閾値Th設定部
9 温度算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像光学系により結像した被写体像を電気的映像信号に変換する撮像手段と、
前記撮像手段の温度を把握する把握手段と、
被写体輝度を算出する算出手段と、
前記撮像手段により得られた映像信号を、カラー映像で出力する第1のモードと白黒映像で出力する第2のモードとを択一的に切り換えていずれかの撮影モードで出力する出力手段と、
前記把握手段により把握された前記撮像手段の温度に基づいて切り換え閾値を設定する設定手段と、
前記算出手段により算出された被写体輝度と前記設定手段により設定された切り換え閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、前記出力手段における前記撮影モードを切り換えるよう制御する制御手段とを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記撮影モードが前記第1のモードであるときに前記算出された被写体輝度が前記設定された切り換え閾値を下回ると前記出力手段における前記撮影モードを前記第2のモードに切り換えると共に、前記撮影モードが前記第2のモードであるときに前記算出された被写体輝度が前記設定された切り換え閾値を超えると前記出力手段における前記撮影モードを前記第1のモードに切り換えるよう制御し、前記設定手段は、少なくとも前記把握された前記撮像手段の温度が基準温度より高い場合において、前記把握された前記撮像手段の温度が高いほど前記切り換え閾値を高い値に設定することを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記設定手段は、少なくとも前記把握された前記撮像手段の温度が前記基準温度より高い場合において、前記把握された前記撮像手段の温度が高いほど、該温度の変化に対する前記切り換え閾値の変化の度合いが大きくなるように該切り換え閾値を設定することを特徴とする請求項2記載の撮像装置。
【請求項4】
前記設定手段は、少なくとも前記把握された前記撮像手段の温度が前記基準温度より高い場合において、前記把握された前記撮像手段の温度の8°Cの変化に対する前記切り換え閾値の変化の量が、前記把握された前記撮像手段の温度が8°Cだけ増加する毎に2倍となるように前記切り換え閾値を設定することを特徴とする請求項3記載の撮像装置。
【請求項5】
前記設定手段は、少なくとも前記把握された前記撮像手段の温度が前記基準温度より高い場合において、前記基準温度より高い所定温度に対して、前記把握された前記撮像手段の温度がより高い領域ではより低い領域に比べ、前記把握された前記撮像手段の温度の変化に対する前記切り換え閾値の変化の度合いが大きくなるように該切り換え閾値を設定することを特徴とする請求項2または3記載の撮像装置。
【請求項6】
前記設定手段は、前記切り換え閾値を、前記撮影モードを前記第1のモードから前記第2のモードに切り換える際に用いる第1の閾値と、前記撮影モードを前記第2のモードから前記第1のモードに切り換える際に用いる第2の閾値とに分けて設定し、前記把握された前記撮像手段の同一の温度に対して、前記第1の閾値よりも前記第2の閾値の方を高い値に設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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