説明

擬似嘔吐物およびそれに用いられる擬似嘔吐物用組成物

【課題】擬似嘔吐物の存在確認を確実かつ簡便に行いやすい擬似嘔吐物およびそれに用いられる擬似嘔吐物用組成物を提供する。
【解決手段】本発明の擬似嘔吐物用組成物は、リボフラビン、フラビンヌクレオチド、およびフラビンアデニンジヌクレオチドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフラビン化合物を含有する。また、本発明の擬似嘔吐物は、本発明の擬似嘔吐物用組成物と水を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院や介護施設等での嘔吐物の除去作業の訓練等に好適に用いることができる擬似嘔吐物、およびそれに用いられる擬似嘔吐物用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病院や介護施設等では、患者や入居者が体調を崩したりして嘔吐する場合がある。このような施設では看護師や介護士等が嘔吐物の除去作業をするのが一般的であるが、嘔吐物の処理に不慣れな者もいる。床等に撒かれた嘔吐物が適切に除去されなければ、悪臭の発生源になったり、見た目にも不快感を与える場合もある。さらに、ノロウィルス感染者の嘔吐物には大量のノロウィルスが含まれるため、病院や介護施設等でノロウィルス感染者が嘔吐した場合、その嘔吐物を適切に除去しなければ、ノロウィルス感染が病院や介護施設内で拡大するおそれがある。
【0003】
従来、嘔吐物の処理剤が知られ、この処理剤の効果確認に用いられる擬似嘔吐物として、水20部、ウイスキー2部、酢2部、サラダオイル1部、カップ麺5部を混合して得られた擬似嘔吐物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−79197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
病院や介護施設等では、嘔吐物の除去作業に不慣れな者であっても嘔吐物の除去作業を確実に行えるようにするためには、事前に擬似嘔吐物を用いて除去作業の訓練を行っておくことが重要である。しかし、特許文献1に開示される擬似嘔吐物を用いて除去作業の訓練を行った場合、見た目除去されたように見えても、実際に適切に除去されているか確認することは難しい。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、擬似嘔吐物の存在確認を確実かつ簡便に行いやすい擬似嘔吐物およびそれに用いられる擬似嘔吐物用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決することができた本発明の擬似嘔吐物用組成物とは、リボフラビン、フラビンヌクレオチド、およびフラビンアデニンジヌクレオチドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフラビン化合物を含有するところに特徴を有する。また、本発明の擬似嘔吐物とは、本発明の擬似嘔吐物用組成物と水を含有するところに特徴を有する。
【0008】
本発明の擬似嘔吐物用組成物は、使用時に水を加えることにより擬似嘔吐物とすることができる。そして、擬似嘔吐物用組成物がフラビン化合物を含有していれば、擬似嘔吐物に紫外線照射することによりフラビン化合物が黄色に蛍光発光して、擬似嘔吐物の存在を確認することができる。従って、擬似嘔吐物を用いて嘔吐物の除去作業の訓練を行った場合、適切に擬似嘔吐物が除去できたことの確認を確実かつ簡便に行えるようになる。
【0009】
本発明の擬似嘔吐物用組成物は、前記フラビン化合物を0.5mg/kg以上(リボフラビン換算)含有することが好ましい。擬似嘔吐物用組成物がフラビン化合物を0.5mg/kg以上含有していれば、水を加えて得られる擬似嘔吐物を紫外線照射することにより、擬似嘔吐物が十分な強度で蛍光発光しやすくなり、擬似嘔吐物の確認が容易になる。
【0010】
本発明の擬似嘔吐物用組成物は、さらに、デンプン系乾燥食品を含有することが好ましい。擬似嘔吐物用組成物がデンプン系乾燥食品を含有していれば、水を加えることにより、より実際の嘔吐物に近い性状の擬似嘔吐物を得やすくなる。
【0011】
本発明の擬似嘔吐物用組成物は、さらに、デキストリン、アルギン酸、キサンタンガム、およびグアーガムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。擬似嘔吐物用組成物がデキストリン、アルギン酸、キサンタンガム、およびグアーガムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有すれば、得られる擬似嘔吐物の粘度を高めつつ、擬似嘔吐物がゲル化するのを防ぎやすくなる。従って、より実際の嘔吐物に近い性状の擬似嘔吐物を得やすくなる。
【0012】
本発明はまた、擬似嘔吐物を散布する工程と、散布された前記擬似嘔吐物に紫外線を照射して前記フラビン化合物を蛍光発光させる工程を有する擬似嘔吐物の確認方法を提供する。本発明の擬似嘔吐物の確認方法を用いれば、嘔吐物の除去作業の訓練を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の擬似嘔吐物およびそれに用いられる擬似嘔吐物用組成物はフラビン化合物を含有しているため、紫外線照射することによりフラビン化合物が黄色に蛍光発光して、擬似嘔吐物の存在を確認することができる。従って、擬似嘔吐物を用いて嘔吐物の除去作業の訓練を行った場合、擬似嘔吐物の確認を確実かつ簡便に行える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の擬似嘔吐物は、病院や介護施設等での嘔吐物の除去作業の訓練等に好適に用いられるものである。例えば、ノロウィルス感染者の嘔吐物には大量のノロウィルスが含まれ、病院や介護施設等でノロウィルス感染者が嘔吐した場合、その嘔吐物を適切に除去しなければノロウィルス感染が病院や介護施設内で拡大するおそれがある。ノロウィルス感染者はバケツ等の容器に嘔吐できるとは限らず、床等に嘔吐物を撒き散らしてしまう場合もあり得る。また、嘔吐物は床の上の限られた範囲内に嘔吐されるとは限らず、壁や家具等の物陰に飛散する可能性もある。従って、嘔吐物の除去作業に不慣れな者は、嘔吐物を適切に除去することが難しいのが現状である。嘔吐物の除去作業に不慣れな者であっても嘔吐物の除去作業を確実に行えるようにするためには、事前に擬似嘔吐物を用いて除去作業の訓練を行っておくことが重要である。本発明の擬似嘔吐物は、そのような除去作業の訓練に好適に用いられるものである。
【0015】
本発明の擬似嘔吐物は、リボフラビン、フラビンヌクレオチド、およびフラビンアデニンジヌクレオチドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフラビン化合物を含有する。リボフラビンはビタミンB2の別名であり、下記に示す化学式で表される。リボフラビンは紫外線照射により黄色に蛍光発光するため、擬似嘔吐物がリボフラビンを含有していれば、紫外線照射することにより擬似嘔吐物の存在を確認することができる。
【0016】
【化1】

【0017】
フラビンヌクレオチド(FMN)は、リボフラビンのイソアロキサジン環の10位のNの側鎖の水酸基末端にリン酸が結合(縮合)した化合物である。フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)は、リボフラビンのイソアロキサジン環の10位のNの側鎖の水酸基末端にアデノシン2リン酸が結合(縮合)した化合物である。FMNやFADもリボフラビンと同様に紫外線照射により黄色に蛍光発光するため、擬似嘔吐物がFMNやFADを含有していても、紫外線照射することにより擬似嘔吐物の存在を確認することができる。リボフラビンは生体内でFMNやFADの形で存在する場合もあるため、リボフラビンを生体由来で得る場合は、リボフラビンをFMNやFADの形で得ることが簡便な場合もある。
【0018】
リボフラビン、FMN、FADのフラビン化合物は水に溶解するため、これらのフラビン化合物は擬似嘔吐物に均一に混合することが容易になる。従って、これらのフラビン化合物を指標にして擬似嘔吐物の存在を確認することができるようになる。さらに、リボフラビン、FMN、FADのフラビン化合物はビタミンB2として摂取されるものであるため、擬似嘔吐物が誤って口に入っても、これらのフラビン化合物により健康が害されるおそれもない。
【0019】
本発明の擬似嘔吐物は、特に次の点で優れた効果を有する。例えば、擬似嘔吐物を床に散布して、その後散布した擬似嘔吐物を拭き取ることにより嘔吐物の除去作業の訓練をする場合、擬似嘔吐物を拭き取ることにより完全に擬似嘔吐物を除去できたか、単純な目視(紫外線照射をしない目視)で確認することは難しい。また、擬似嘔吐物を拭き取る作業中に擬似嘔吐物が乾いてしまうと、擬似嘔吐物を目視で確認しにくくなる。特に、ノロウィルス感染者の嘔吐物が乾燥すると、ノロウィルスが空気中を漂って感染が広がりやすくなり好ましくない。また、擬似嘔吐物が壁や家具の物陰に飛散した場合も、擬似嘔吐物の存在を確認しにくくなる。しかし、本発明の擬似嘔吐物は、リボフラビン、FMN、およびFADよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフラビン化合物を含有するため、擬似嘔吐物が乾燥したり物陰に飛散した場合でも、紫外線照射により黄色に蛍光発光して、その存在を容易に確認することができる。
【0020】
擬似嘔吐物は、フラビン化合物をリボフラビン換算で0.1mg/L以上含有することが好ましく、0.4mg/L以上含有することがより好ましく、0.8mg/L以上含有することがさらに好ましい。擬似嘔吐物がフラビン化合物を0.1mg/L以上含有していれば、擬似嘔吐物を紫外線照射することにより、擬似嘔吐物が十分な強度で黄色に蛍光発光して、擬似嘔吐物の存在を確認しやすくなる。擬似嘔吐物のフラビン化合物の含有量の上限は特に限定されない。しかし、フラビン化合物が必要以上に多く含まれていてもコスト増を招くだけであり、擬似嘔吐物のフラビン化合物の含有量は例えば1g/L以下(リボフラビン換算)であればよい。
【0021】
フラビン化合物のリボフラビン換算の含有量とは、フラビン化合物としてFMNまたはFADが含まれる場合に、FMNまたはFADのリボフラビンとしての含有量を意味する。例えば、FMNの含有量に376/456(リボフラビンの分子量/FMNの分子量)を乗ずることで、FMNのリボフラビン換算の含有量が求められる。なお、フラビン化合物としてリボフラビンが含まれる場合は、そのままリボフラビンの含有量を用いればよい。
【0022】
本発明の擬似嘔吐物は、上記説明したように、少なくともリボフラビン、FMN、およびFADよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフラビン化合物を含有すればよく、それ以外の成分は特に限定されない。擬似嘔吐物はさらに任意の食品を含有してもよく、非食品系の物質(例えば、ポリビニルアルコール等の高分子、セメントミルク等の無機物)を含有してもよい。なお、擬似嘔吐物は流動性を有することが好ましく、少なくとも水を含有することが好ましい。
【0023】
しかし、擬似嘔吐物は、使用前においては、水分量が減らされて、固体の擬似嘔吐物用組成物として取り扱うようにすることが好ましい。このように擬似嘔吐物を擬似嘔吐物用組成物として扱えば、擬似嘔吐物用組成物は擬似嘔吐物よりも嵩が減り、取り扱い性が向上する。また、長期保存も容易になる。
【0024】
擬似嘔吐物用組成物は、使用時に水を加えることにより擬似嘔吐物とすることができる。つまり、擬似嘔吐物は、擬似嘔吐物用組成物と水を含有するものである。
【0025】
擬似嘔吐物用組成物は、リボフラビン、フラビンヌクレオチド、およびフラビンアデニンジヌクレオチドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフラビン化合物を含有する。擬似嘔吐物用組成物がフラビン化合物を含有することの効果は上記述べたとおりである。
【0026】
擬似嘔吐物用組成物に配合するフラビン化合物としては、乾燥ビール酵母等の乾燥酵母を用いることが好ましい。乾燥酵母にはリボフラビン等のフラビン化合物が多く含まれ、比較的安定してフラビン化合物が存在する。また乾燥酵母は、乾燥状態のフラビン化合物として、入手も容易である。
【0027】
擬似嘔吐物用組成物は、フラビン化合物に加え、デンプン系乾燥食品を含有することが好ましい。擬似嘔吐物用組成物がデンプン系乾燥食品を含有していれば、水を加えることにより、より実際の嘔吐物に近い性状の擬似嘔吐物を得やすくなる。
【0028】
デンプン系乾燥食品としては、乾燥したデンプン系食品であれば特に限定されず、可食状態のデンプン系食品を乾燥したものが好ましい。特に好ましくは、デンプン系食品を凍結乾燥(フリーズドライ)したものが用いられる。乾燥処理として凍結乾燥処理を用いれば、凍結乾燥したデンプン系食品に水を加えることにより、速やかに乾燥前の状態に復元されやすくなる。また、水を加えることでデンプン系食品特有の粘り気も発現しやすくなり、得られる擬似嘔吐物に適度な粘度が付与されて、より実際の嘔吐物に近い性状となりやすくなる。
【0029】
デンプン系食品としては、デンプンを含む食品であれば特に限定されないが、実際の嘔吐物の性状に近づけるために、粒状または塊状のデンプン系食品が好ましい。デンプン系食品としては、例えば、米飯、米粥、パン、マッシュポテト、トウモロコシ粥、パスタ等が挙げられる。
【0030】
擬似嘔吐物用組成物は、使用時に水を加えることにより擬似嘔吐物とすることができるが、擬似嘔吐物用組成物に加える水の量は、得られる擬似嘔吐物の粘度等の性状が実際の嘔吐物に近くなるように適宜調整すればよい。例えば、擬似嘔吐物用組成物に加える水の量は、擬似嘔吐物用組成物の質量の5倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、50倍以下が好ましく、25倍以下がより好ましい。擬似嘔吐物用組成物に加える水の量が擬似嘔吐物用組成物の質量の5倍以上であれば、得られる擬似嘔吐物が十分な流動性を有しやすくなる。擬似嘔吐物用組成物に加える水の量が擬似嘔吐物用組成物の質量の50倍以下であれば、適度な粘度を有する擬似嘔吐物を得やすくなる。
【0031】
擬似嘔吐物用組成物のフラビン化合物の含有量は、リボフラビン換算で0.5mg/kg以上が好ましく、2mg/kg以上がより好ましく、4mg/kg以上がさらに好ましく、10mg/kg以上が特に好ましい。擬似嘔吐物用組成物がフラビン化合物を0.5mg/kg以上含有していれば、水を加えて得られる擬似嘔吐物を紫外線照射することにより、擬似嘔吐物が十分な強度で蛍光発光しやすくなる。擬似嘔吐物用組成物のフラビン化合物の含有量の上限は特に限定されない。しかし、フラビン化合物が必要以上に多く含まれていてもコスト増を招くだけであり、擬似嘔吐物用組成物のフラビン化合物の含有量は例えば5g/kg以下(リボフラビン換算)であればよい。
【0032】
擬似嘔吐物用組成物中のデンプン系乾燥食品の配合量は、水を加えて得られる擬似嘔吐物の性状が実際の嘔吐物に近くなるように適宜調整すればよい。擬似嘔吐物用組成物中のデンプン系乾燥食品の配合量は、例えば、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。
【0033】
擬似嘔吐物用組成物は、増粘剤を含有していてもよい。擬似嘔吐物用組成物から得られる擬似嘔吐物が実際の嘔吐物と比較して粘度が低すぎる場合は、擬似嘔吐物用組成物は増粘剤を含有することが好ましい。
【0034】
増粘剤としては、デキストリン、アルギン酸、キサンタンガム、およびグアーガムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。例えば、増粘剤として、寒天、ゼラチン、ペクチン等を用いた場合、得られる擬似嘔吐物がゲル化して流動性が大きく低下しやすくなるため好ましくない。しかし、増粘剤として、デキストリン、アルギン酸、キサンタンガム、およびグアーガムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いれば、得られる擬似嘔吐物の粘度を高めつつ、擬似嘔吐物がゲル化するのを防ぎやすくなる。従って、より実際の嘔吐物に近い性状の擬似嘔吐物を得やすくなる。また、デキストリン、アルギン酸、キサンタンガム、グアーガムは食品添加物として用いられており、擬似嘔吐物や擬似嘔吐物用組成物が誤って口に入っても、これらの化合物により健康が害されるおそれもない。
【0035】
擬似嘔吐物用組成物は、上記示したフラビン化合物、デンプン系乾燥食品、増粘剤に加え、さらに他の成分も含有してもよい。擬似嘔吐物用組成物は、実際の嘔吐物に近い擬似嘔吐物が得られるように、適宜成分を調整してもよい。
【0036】
本発明の擬似嘔吐物用組成物の使用方法の一例を説明する。本発明の擬似嘔吐物用組成物は、水を加えることにより、本発明の擬似嘔吐物が得られる。
【0037】
擬似嘔吐物は床等に散布した後、散布された擬似嘔吐物に紫外線照射して、擬似嘔吐物に含まれるフラビン化合物を蛍光発光させることにより、擬似嘔吐物の存在を確認することができる。このようにすることで、本発明の擬似嘔吐物および擬似嘔吐物用組成物を、嘔吐物の除去作業の訓練に使用することができる。すなわち、擬似嘔吐物の確認方法は、擬似嘔吐物を散布する工程(散布工程)と、散布された擬似嘔吐物に紫外線を照射してフラビン化合物を蛍光発光させる工程(紫外線照射工程)を有する。
【0038】
散布工程では、適当な容器に入れた擬似嘔吐物を広範囲に撒き散らしてもよいし、狭い範囲(例えば、20cm×20cm程度の範囲)に広げてもよい。あるいは、実際の嘔吐状況を再現すべく、擬似嘔吐物を口に含んで吹き出してもよい。擬似嘔吐物は、実際に嘔吐物の除去が必要な状況を想定して、室内の床等に散布すればよい。
【0039】
紫外線照射工程では、散布された擬似嘔吐物に紫外線を照射する。紫外線の照射はブラックライト等を用いればよい。一般的なブラックライトは、例えば300nm〜400nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する。擬似嘔吐物に紫外線を照射することにより、擬似嘔吐物に含まれるフラビン化合物が励起されて黄色に蛍光発光する。その結果、擬似嘔吐物の存在を確認することができる。
【0040】
嘔吐物の除去作業の訓練を想定して、散布工程と紫外線照射工程の間に、散布した擬似嘔吐物を除去する工程(除去工程)を設けてもよい。除去工程では、散布した擬似嘔吐物を収集したり、乾拭きしたり、水拭きしたりすることにより、散布した擬似嘔吐物を除去すればよい。なお、水拭きは、消毒液を用いて拭くことも含まれる。
【実施例】
【0041】
(1)擬似嘔吐物の調製と散布
フラビン化合物として乾燥粉末状のビール酵母(ヤクルトヘルスフーズ株式会社販売、「ビール酵母(粉末)」)12gと、デンプン系乾燥食品として米粥6gと、増粘剤として乾燥粉末状のデキストリン2gとを配合して、擬似嘔吐物用組成物20gを調製した。擬似嘔吐物用組成物には、フラビン化合物が15.5mg/kg(リボフラビン換算)含まれていた。これに水200mLを加えて撹拌することにより、フラビン化合物を1.55mg/Lで含有する擬似嘔吐物を得た。容器に入れた擬似嘔吐物を1.5mの高さから樹脂製の床に落として散布したところ、擬似嘔吐物は2m×2m程度の範囲に広がった。
【0042】
(2)擬似嘔吐物の除去と紫外線照射による確認
(2−1)乾拭きした場合
上記(1)のように散布された擬似嘔吐物の周囲を新聞紙で囲むとともに、擬似嘔吐物に新聞紙をかぶせた後、擬似嘔吐物を新聞紙とともにかき集めて、これをビニル袋に収容した。次いで、擬似嘔吐物が散布された領域をキッチンタオルで乾拭きした。目視で確認したところ、擬似嘔吐物はきれいに除去されていた。ブラックライト(SPECTRONICS CORPORATION社製、SPECTROLINE EN-280L/J)を用いて擬似嘔吐物が散布された床に紫外線を照射したところ、床の一部に黄色の蛍光発光が確認された。従って、擬似嘔吐物が完全に除去できずに、一部拭き残りができてしまったことが分かった。
【0043】
(2−2)水拭きした場合
上記(1)のように散布された擬似嘔吐物の周囲を新聞紙で囲むとともに、擬似嘔吐物に新聞紙をかぶせた後、擬似嘔吐物を新聞紙とともにかき集めて、これをビニル袋に収容した。次いで、擬似嘔吐物が散布された領域に水を撒き、そこにキッチンタオルをかぶせた後、このキッチンタオルで床を水拭きした。目視で確認したところ、擬似嘔吐物はきれいに除去されていた。ブラックライト(SPECTRONICS CORPORATION社製、SPECTROLINE EN-280L/J)を用いて擬似嘔吐物が散布された床に紫外線を照射したところ、黄色の蛍光発光は確認されなかった。従って、擬似嘔吐物は完全に除去されたことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の擬似嘔吐物および擬似嘔吐物用組成物は、病院や介護施設等での嘔吐物の除去作業の訓練等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボフラビン、フラビンヌクレオチド、およびフラビンアデニンジヌクレオチドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフラビン化合物を含有することを特徴とする擬似嘔吐物用組成物。
【請求項2】
前記フラビン化合物を0.5mg/kg以上(リボフラビン換算)含有する請求項1に記載の擬似嘔吐物用組成物。
【請求項3】
さらに、デンプン系乾燥食品を含有する請求項1または2に記載の擬似嘔吐物用組成物。
【請求項4】
さらに、デキストリン、アルギン酸、キサンタンガム、およびグアーガムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項3に記載の擬似嘔吐物用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の擬似嘔吐物用組成物および水を含有することを特徴とする擬似嘔吐物。
【請求項6】
請求項5に記載の擬似嘔吐物を散布する工程と、
散布された前記擬似嘔吐物に紫外線を照射して前記フラビン化合物を蛍光発光させる工程を有することを特徴とする擬似嘔吐物の確認方法。