説明

攪拌機の運転方法

【課題】繊維状夾雑物が、攪拌機の攪拌羽根に付着することによる過負荷によって攪拌機を停止しなければならなくなる頻度を減少することができるようにした攪拌機の運転方法を提供すること。
【解決手段】電動機1にて回転駆動される駆動軸2に攪拌羽根3を配設して構成した攪拌機Aの運転方法において、攪拌機Aの運転中に少なくとも1日に1回、数秒〜数分停止する時間を設けることにより、駆動軸2の回転が停止する時に、攪拌羽根3に付着した繊維状夾雑物を攪拌羽根3から離脱させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌機の運転方法に関し、特に、下水処理、化学処理、食品製造等に使用される攪拌機において、毛髪等の繊維状夾雑物が、攪拌機の攪拌羽根に付着することによる過負荷によって攪拌機を停止しなければならなくなる頻度を減少することができるようにした攪拌機の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場に流入する汚水は、下水処理槽内に導かれ、下水処理槽内に配設した攪拌機にて攪拌され、好気性処理を行うようにしている。この曝気機として、電動機にて回転駆動される駆動軸に攪拌羽根を配設して構成した攪拌機が汎用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、下水処理槽内に流入する汚水には、汚物と共に毛髪等の繊維状夾雑物が混入しており、この繊維状夾雑物が攪拌機の攪拌羽根に付着するようになる。
特に、攪拌対象の汚水中に毛髪等の繊維状夾雑物が高濃度で存在する場合、攪拌羽根に付着した繊維状夾雑物に、さらに、周囲の繊維状夾雑物が付着し、繊維状夾雑物が塊状に成長するようになる。
そして、攪拌機の攪拌羽根に毛髪等の繊維状夾雑物が付着すると、攪拌羽根による水流発生能力が減少するとともに、過負荷によって攪拌機を停止しなければならなくなる。
【0004】
また、攪拌機の攪拌羽根に付着した毛髪等の繊維状夾雑物の除去作業は、作業者が手作業で行うため、攪拌機を停止しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−6232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、下水処理、化学処理、食品製造等に使用される攪拌機において、繊維状夾雑物が、攪拌機の攪拌羽根に付着することによる過負荷によって攪拌機を停止しなければならなくなる頻度を減少することができるようにした攪拌機の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の攪拌機の運転方法は、電動機にて回転駆動される駆動軸に攪拌羽根を配設して構成した攪拌機の運転方法において、攪拌機の運転中に少なくとも1日に1回、数秒〜数分停止する時間を設けることにより、駆動軸の回転が停止する時に、攪拌羽根に付着した繊維状夾雑物を攪拌羽根から離脱させるようにすることを特徴とする。
【0008】
この場合において、攪拌機の運転時間及び停止時間を、それぞれタイマを用いて設定するようにすることができる。
【0009】
回転方向の前縁側を曲率が急変しないなだらかな曲線で形成した攪拌羽根を用いるようにすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の攪拌機の運転方法によれば、攪拌機の運転中に少なくとも1日に1回、数秒〜数分停止する時間を設けることにより、駆動軸の回転が停止する時に、攪拌羽根に付着した繊維状夾雑物を慣性力や攪拌羽根の周りを流れ続ける水流より洗い流されることによって攪拌羽根から離脱させることができる。これにより、攪拌羽根に付着した繊維状夾雑物が塊状に成長することを未然に防止することができ、攪拌羽根による水流発生能力を良好に維持しながら、過負荷によって攪拌機を停止しなければならなくなる頻度を低減又はなくし、長期間に亘って攪拌機を連続運転することができる。
【0011】
また、攪拌機の運転時間及び停止時間を、それぞれタイマを用いて設定するようにすることにより、攪拌機の制御を簡易に行うことができる。
【0012】
また、回転方向の前縁側を曲率が急変しないなだらかな曲線で形成した攪拌羽根を用いるようにすることにより、攪拌羽根に繊維状夾雑物が付着しにくくするとともに、攪拌羽根に付着した繊維状夾雑物を攪拌羽根から離脱させやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の攪拌機の運転方法を適用する攪拌機の一例を示す正面縦断面図である。
【図2】同攪拌機の攪拌羽根を示す底面図である。
【図3】本発明の攪拌機の運転方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の攪拌機の運転方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図2に、本発明の攪拌機の運転方法を適用する攪拌機の一例を示す。
この攪拌機Aは、下水処理場等に設置された下水処理槽内の所定位置に垂設して使用されるもので、下端部に攪拌羽根3を配設した駆動軸2を、水面上に配置する電動機1にて回転駆動するとともに、この攪拌羽根3との間に予め定めた距離をあけて、その外周を覆う外筒4を外嵌するようにし、かつ必要に応じて外筒4の上方位置に整流マウンド5を配設して構成する。
【0016】
この外筒4は、ラッパ状に上端が開拡した形状で、その開拡した上端外周部に形成される吸込口41より槽内汚水を吸い込み、下端の開口した排出口42とより底層内に吐出するように形成する。
したがって、この攪拌機Aは、電動機1を駆動することによって駆動軸2を介して攪拌羽根3を外筒4内で回転させると、外筒4の上端外周部の吸込口41より下水処理槽内の汚水を外筒4内に吸い込み、汚水を、攪拌した後、攪拌羽根3の水流発生力にて下端の排出口42とより下水処理槽の底層に向かって吐出するようにする。この場合、外筒4の上方位置に配設した整流マウンド5により、汚水を、吸込口41より均一に吸い込み、外筒4内を経て排出口42へ円滑に導くようにする。
【0017】
ところで、攪拌対象の汚水中に毛髪等の繊維状夾雑物が高濃度で存在する場合、攪拌羽根に付着した繊維状夾雑物に、さらに、周囲の繊維状夾雑物が付着し、繊維状夾雑物が塊状に成長するようになる。
【0018】
これに対処するため、図3のフローチャートに示すように、攪拌機Aの自動運転中に少なくとも1日に1回、数秒〜数分停止する時間を設けるようにする。
【0019】
より具体的には、図3のフローチャートにおいて、攪拌機Aの所定の運転時間経過を検知するために、24時間タイマを用い、攪拌機Aの自動運転中に24時間に1回(又は数回)、攪拌機Aの電動機1を停止するようにする。
そして、攪拌機Aの電動機1の停止時間を設定するタイマを用い、攪拌機Aの所定の停止時間、具体的には、数秒〜数分程度経過後、攪拌機Aの運転を再開する。
なお、攪拌機Aの攪拌運転は、24時間の連続運転を基本としているが、1日86400秒のうち、数秒〜数分程度の停止時間による処理に対するデメリットは、停止中においても水流は慣性力で流れ続けることとも相俟って、実質的にはない。
また、複数台の攪拌機Aを使用して処理を行う場合には、各攪拌機A毎にタイマを設置、設定し、各攪拌機Aの停止時間をずらせるようにすることが好ましく、これにより、処理に対するデメリットを一層少なくすることができる。
【0020】
このように、攪拌機Aの運転中に少なくとも1日に1回、数秒〜数分停止する時間を設けることにより、駆動軸2の回転が停止する時に、攪拌羽根3の回転方向の前縁側に鞍状に付着した毛髪等の繊維状夾雑物を慣性力や攪拌羽根3の周りを流れ続ける水流より洗い流されることによって攪拌羽根3から離脱させることができる。
【0021】
この場合、攪拌羽根3に、図2(a)に示すような、回転方向の前縁側を曲率が急変しないなだらかな曲線で形成した攪拌羽根を用いることにより、図2(b)に示すような、同曲率が急変する(角部Eのある)攪拌羽根を用いた場合と比較して、攪拌羽根3に毛髪等の繊維状夾雑物が付着しにくくするとともに、攪拌羽根3に付着した毛髪等の繊維状夾雑物を攪拌羽根から離脱させやすくすることができる。
【0022】
ところで、毛髪等の繊維状夾雑物が攪拌羽根3の回転方向の前縁側に鞍状に付着する現象は、その現象が発生している状態を確認することが難しいことから、検討がなされていなかった。これは、攪拌機Aを停止しても、攪拌羽根3の回転方向の前縁側に鞍状に付着した毛髪等の繊維状夾雑物は攪拌羽根3から離脱してしまい、この現象を確認することができなかったためである。
しかし、攪拌機Aは、通常、過負荷によって攪拌機Aを停止しなければならなくなるまで24時間連続して稼働するようにしているため、攪拌羽根3に付着した毛髪等の繊維状夾雑物が塊状に成長することになっていた。
このように、本発明の攪拌機の運転方法は、従来検討されていなかった、攪拌羽根3の回転方向の前縁側に鞍状に付着した繊維状夾雑物を、攪拌羽根3から離脱させるためのものである。
ちなみに、毛髪等の繊維状夾雑物が攪拌羽根3の回転方向の前縁側に鞍状に付着する現象は、攪拌機Aを、通常の減速時間の100倍以上、具体的には、約1時間もの時間をかけて緩停止し、しかも停止直後に羽根付近に水流を起こさないように、水中カメラ等で観察することによって確認できた。
【0023】
これにより、攪拌羽根3に付着した毛髪等の繊維状夾雑物が塊状に成長することを未然に防止することができ、攪拌羽根3による水流発生能力を良好に維持することができる。
また、攪拌羽根3に付着した毛髪等の繊維状夾雑物が塊状に成長することがないため、過負荷によって攪拌機Aを停止しなければならなくなる(例えば、電動機1の定格電流値を超えて過電流値となり、電動機1が自動的に過電流検出で停止する)頻度を低減又はなくし、長期間に亘って攪拌機Aを連続運転することができる。
なお、攪拌羽根3から離脱した毛髪等の繊維状夾雑物は、攪拌羽根3の周りを流れ続ける水流より洗い流されることによって攪拌羽根3の周りに滞留することがないため、攪拌機Aの運転を再開しても、再度攪拌羽根3に付着することはない。
【0024】
本件出願人は、毛髪等の繊維状夾雑物の付着時間を短くするために、繊維状夾雑物の濃度を通常の下水処理場に流入する汚水の100倍程度に高く設定した模擬汚水を用いた実験水槽において、攪拌機Aの電動機1の電流値の変化を調べる実証実験を行った。
その結果、対策を施さずに攪拌機Aを連続運転した場合、攪拌機Aの電動機1の電流値が漸増する現象が発生したのに対して、本発明の攪拌機の運転方法を適用した場合、攪拌機Aの電動機1の電流値は、一定状態を維持することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の攪拌機の運転方法は、繊維状夾雑物が、攪拌機の攪拌羽根に付着することによる過負荷によって攪拌機を停止しなければならなくなる頻度を減少することができるという特性を有していることから、下水処理に用いられる攪拌機の用途に好適に用いることができるほか、例えば、化学処理、食品製造等に使用される攪拌機の用途にも広く用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
A 攪拌機
1 電動機
2 駆動軸
3 攪拌羽根
4 外筒
5 整流マウンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機にて回転駆動される駆動軸に攪拌羽根を配設して構成した攪拌機の運転方法において、攪拌機の運転中に少なくとも1日に1回、数秒〜数分停止する時間を設けることにより、駆動軸の回転が停止する時に、攪拌羽根に付着した繊維状夾雑物を攪拌羽根から離脱させるようにすることを特徴とする攪拌機の運転方法。
【請求項2】
攪拌機の運転時間及び停止時間を、それぞれタイマを用いて設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の攪拌機の運転方法。
【請求項3】
回転方向の前縁側を曲率が急変しないなだらかな曲線で形成した攪拌羽根を用いるようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の攪拌機の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−240230(P2011−240230A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113244(P2010−113244)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】