説明

支持型多孔質ゲルを含む安定な複合材料

本発明は、複数の孔が延在している支持部材及び前記支持部材の孔内にあってその孔を塞いでいるマクロ多孔質架橋ゲルからなり、前記架橋ゲルには中性の直鎖もしくは分枝鎖状で、架橋されておらず、実質的に水不溶性である安定化ポリマーが閉じ込められている安定な複合材料に関する。安定化ポリマーが存在すると、複合材料は乾燥後その細孔性及び形態を十分に保持できる。本発明は、上記した安定な複合材料の作成方法及びその使用にも関する。安定な複合材料は、例えばクロマトグラフィーを含めた濾過または吸着による物質の分離のため、合成における支持体として使用するため、または細胞増殖用支持体として使用するために適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化ポリマーを閉じ込めている支持型マクロ多孔質架橋ゲルを含む安定な複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
通常「スネ−ク・イン・ア・ケージ(snake-in-a cage)」または「スネーク・ケージ(snake-cage)」システムと称されているポリマー鎖とゲルの組合せは今までに報告されており、これらの組合せは各種目的を達成するために使用されてきた。
【0003】
1957年に、Hatchらはスネーク・ケージ高分子電解質と称されている新タイプのイオン交換樹脂を開示した(Hatchら,Industrial and Engineering Chemistry,49:1812−19(1957))。この化合物は固定電荷を有する架橋ポリマーネットワークから構成され、該ネットワーク内には反対の電荷を有する線状高分子電解質が物理的に閉じ込められている。この研究で使用されている架橋ネットワークは市販されているカチオン性樹脂のDowex 1であり、この樹脂が“ケージ”を構成し、この中に線状アニオン性ポリマー“スネーク”が閉じ込められている。スネーク・ケージ樹脂から作成した両性ポリマー組成物は後に米国特許第3,875,085号に開示された。
【0004】
上記スネーク・ケージ高分子電解質は幾つかの独特の特性を有しており、この点で従来のイオン交換樹脂とは異なっている。これらの特性の1つがアニオン及びカチオンを電解質の水溶液から同時に可逆的に吸着することである。吸着された電解質はその後水で洗浄するだけで除去され得る。従来のイオン交換樹脂とは異なり、スネーク・ケージ樹脂は濃厚溶液中では膨潤し、希薄溶液中では収縮する。
【0005】
中性ケージ中に高分子電解質を閉じ込める試みは複数なされたが、これらの試みは、高分子電解質がケージネットワークにグラフト化されていないかまたは高分子電解質が架橋されてない限りいずれも失敗に終わった。グラフト化または架橋がなければ、高分子電解質は中性のケージ形成ポリマーからほぼ完全に抽出され得る。前記システムの1例では、膜を介する水蒸気輸送を強化するためにイオン架橋した高分子電解質をポリ(ビニルアルコール)ゲル中に閉じ込めた(国際特許出願公開第02/38257号)。また、架橋なしでは高分子電解質は水中に放置したときに中性ポリ(ビニルアルコール)ゲルから抽出され得る。
【0006】
今までに報告されているスネーク・イン・ケージシステムは、ここで検討するマクロ多孔質ゲルではなく高密度ポリマーゲルから構成されていることに注目されたい。
【0007】
ゲルネットワーク中に疎水性ポリマーを封入することによりヒドロゲルの機械的特性を改善することもNagaoka(Polymer Journal,21:847−850(1989))により報告されている。親水性架橋ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)から構成され、酢酸セルロース、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルクロリド)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリウレタンまたはポリスチレンの疎水性ポリマーを封入しているヒドロゲルを合成し、医学用途(光学レンズ)での使用について評価し、これらの分野で現在使用されているポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)と比較した。上記ヒドロゲルは、特定量の疎水性ポリマーをジエチレングリコールジメタクリレート (架橋剤)を含むN−ビニル−2−ピロリドン(モノマー)中に溶解し、重合させるスネーク・イン・ケージ法を用いて合成した。引張強度、破断点伸び、初期引張弾性率及びHO含量の測定値に基づくと、酢酸セルロースまたはポリ(メチルメタクリレート)を含むヒドロゲルはポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)よりも優れていた。厚さ100μmのヒドロゲルを介する500nmの可視光の透過率は98%以上であり、ヒドロゲルはポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)の透水度よりも10倍以上の透水度を示した。このスネーク・イン・ケージヒドロゲルの光透明度が高いことから、ゲルは光学レンズとして機能するのに必要があるように均質であったことが分かる。論文に記載されている透水度からも、ダルシー流体力学的透過率に換算した報告の透水度が1.2×10−20のオーダーであったとの結論が確認される。このように低い透過率は、Mikaら(Industrial and Engineering Chemistry Research,40:1694−1705(2001))が以前に報告した非常に密なゲル充填膜の透過率に匹敵し、よってこれらのゲルはここに開示されているものとは異なるクラスの材料に該当する。
【発明の開示】
【0008】
1態様で、本発明は、複数の孔が延在している支持部材;及び前記支持部材の孔内にあってその孔を塞いでいるマクロ多孔質架橋ゲルからなり、前記架橋ゲルには実質的に水不溶性であるが水膨潤性である安定化ポリマーが閉じ込められている複合材料を提供する。
【0009】
本明細書では、閉じ込められた安定化ポリマーを含む上記複合材料を「安定な複合材料」と称する。本発明において「安定化ポリマー」を含む複合材料の言及には2つ以上の安定化ポリマーを複合材料中に含む実施形態も包含される。
【0010】
別の態様で、本発明は、本明細書に記載されている安定な複合材料を用いる物質の分離方法を提供する。
【0011】
別の態様で、本発明は、化学合成を生起させる孔中の固相として安定な複合材料を使用する固相化学合成方法を提供する。
【0012】
別の態様で、本発明は、微生物または細胞の増殖を生起させる孔中の固体支持体として安定な複合材料を使用する微生物または細胞の増殖方法を提供する。
【0013】
更に別の態様で、本発明は、本明細書に記載されている複合材料の作成方法をも提供し、その方法は、
a)i)マクロ多孔質ゲルを形成すべく組み合わせ得るモノマーと架橋剤に加えて安定化ポリマー;またはii)マクロ多孔質ゲルを形成すべく組み合わせ得る架橋性ポリマーと架橋剤に加えて安定化ポリマー;の溶液または懸濁液を支持部材の孔中に導入し、
b)前記したモノマーと架橋剤または前記したポリマーと架橋剤を反応させて、支持部材の孔を塞ぎ且つ安定化ポリマーを閉じ込めるマクロ多孔質架橋ゲルを形成する
ことを含む。
【0014】
更なる態様で、本発明は、サイズの異なる2つ以上の物質が流体中に溶解または懸濁して含有されてなる溶液または懸濁液のクロマトグラフ濾過方法を提供し、その方法は、(a)最小サイズの物質は本明細書に記載されている安定な複合材料を通過するがより大きい物質はその複合材料中を通過しないように前記流体を前記複合材料中に通し、(b)次に大きいサイズの物質が複合材料中を通過するように応答性多孔質ゲル中の孔のサイズを増加させるために環境条件を変化させることを含む。
【0015】
「閉じ込められている(entrapped)」とは、安定化ポリマーがマクロ多孔質架橋ゲルに共有結合することなくそのゲル内に保持されていることを意味する。閉じ込められた安定化ポリマーはマクロ多孔質ゲルに対して親和性を有しており、これは安定化ポリマーがマクロ多孔質ゲルから別の相を形成しないがこのマクロ多孔質ゲル内に含まれていることを意味する。
【0016】
「実質的に水不溶性であるが水膨潤性」は、安定化ポリマーは水または水溶液中に余り溶解しないが、水と接触したときに容積を増加させるのに十分な溶解性を依然として保持していることを意味する。閉じ込められた状態及び水不溶性であるので、水または水溶液を複合材料中に通したとき安定化ポリマーはゲル内に実質的に保持される。
【0017】
マクロ多孔質ゲルは支持体の孔を横方向に、すなわち複合材料中の流れの方向に対して実質的に直角方向に塞いでいる。「塞ぐ」は、使用時複合材料中を通る本質的にすべての液体がマクロ多孔質ゲルを通過しなければならないことを意味する。この条件を満たすような量までマクロ多孔質ゲルを含んでいる孔を有する支持部材が塞がれていると見なされる。液体がマクロ多孔質ゲルを通過する条件を満たしているならば、支持部材の空隙容積がマクロ多孔質ゲルで完全に占有されている必要はない。
【0018】
多孔質支持部材、すなわちホストは親水性であっても疎水性であってもよく、例えば膜、クロマトグラフ床または濾過床の形態であってもよい。支持部材はマクロ多孔質ゲルを支持するように機械的強度を与える。マクロ多孔質ゲルの水流に対する抵抗は小さく、複合材料を横切る圧力の低下は少なくして高い流量を得ることができる。また、マクロ多孔質ゲルはクロマトグラフ及び濾過用途において複合材料の分離機能を与える。
【0019】
ゲルは液体媒体中で膨潤する架橋ポリマーネットワークである。膨潤液体によりポリマーネットワークが崩壊するのが防止され、よってネットワークは液体を保持する。
【0020】
ゲルは通常、形成されるポリマーネットワークに対する良溶媒であり且つポリマーネットワークを膨潤させる溶媒中でモノマー及び多官能性化合物(架橋剤)を重合させることによりまたは架橋性ポリマーを架橋させることにより得られる。前記ネットワーク中のポリマー鎖はネットワークの容積全体にわたり均一に分布していると推定され得、メッシュサイズとして公知の鎖間の平均距離は架橋密度により決まる。架橋剤の濃度が高くなると、ゲル中の架橋結合密度も高くなり、よってゲル中のメッシュサイズはより小さくなる。メッシュサイズが小さくなると、ゲルを介する液体流に対する抵抗がより高くなる。架橋剤の濃度が更に高くなると、ゲルの成分が凝集し始め、ゲル中のポリマー密度が高い領域とポリマー密度が低い領域が生ずる。そのようなゲルはいわゆるミクロ不均質の状態を呈している。この凝集により、通常液体は主にゲル中のポリマー密度が低い領域中を流れるのでゲルは液体に対して高い透過率を示す。ゲルの低密度領域は排水領域と規定され、高密度集合体は非排水領域と称される。ゲルを不良溶媒中またはポロゲンの存在下で形成すると、ポリマーが本質的に存在しない領域が生じ得る。これらの領域を本明細書中では「マクロ孔」と呼ぶ。
【0021】
本発明の特殊複合材料の流体力学的(ダルシー)透過率を基準材料と比較することができる。基準材料は、複合材料のものと同一の支持部材の孔に複合材料のゲルと本質的に同一の化学組成及び類似の質量を有する均質ゲル、すなわち同一モノマーから構成され、良好溶媒中で形成したが、ゲルは均質のままであってポリマー密度の高い及び低い領域への凝集が生じない程度にしか架橋されていないゲルを充填することにより得られる。マクロ多孔質ゲルを有する複合材料は、対応の基準材料の流体力学的(ダルシー)透過率よりも少なくとも1桁高い流体力学的(ダルシー)透過率を示し、幾つかの場合には透過率は少なくとも2桁高いまたは3桁も高いことさえある。本明細書中では、対応の基準材料よりも少なくとも1桁高い流体力学的(ダルシー)透過率を有する本発明の複合材料は10以上の透過率比を有していると言われる。
【0022】
透過率比は複合材料中のマクロ孔のサイズと密接に関連している。限外濾過のようなサイズ排除分離の場合、透過率比は10にかなり近いことがあり得る。より大きなマクロ孔を使用する吸着、合成または細胞増殖のような他の用途では、幾つかの実施形態で透過率比は100以上または1000以上の値にさえ達し得る。幾つかの例では、均質ゲルの流体力学的透過率は参照により本明細書に組み入れるA.M.Mika及びR.F.Childs,Calculation of the hydrodynamic permeability of gels and gel−filled microporous membranes,Ind.Eng.Chem.Res.,40:1694−1705(2001)の教示に従って計算することができる。これは、入手可能な特定ゲルポリマーのデータを頼りにしている。
【0023】
流体力学的透過率から、細孔容積/孔の湿潤表面積の比として規定される流体力学的半径を導くことができる。流体力学的半径は、流体力学的(ダルシー)透過率から例えば参照により本明細書に組み入れるJ.Happel及びH.Brenner,Low Reynolds Numbers Hydrodynamics,レイデンに所在のNoordhof of Int.Publ.(1973年)発行,p.393に記載されているカーマン−コズニー式を用いて計算することができる。コズニー定数の値を仮定することが必要であり、この計算の目的で本発明者らは5と仮定する。マクロ多孔質ゲルを含む本発明の複合材料は、対応の基準材料の流体力学的半径よりも3倍以上大きい流体力学的半径を有することが判明した。
【0024】
流体力学的透過率の定義から、厚さが同一の2つの複合材料は同一圧力で透過率比と同じ比の流体力学的流束を有すると予想され得る。
【0025】
ゲル中のマクロ孔のサイズは数nm〜数百nmの広範囲に及び得る。好ましくは、複合材料の多孔質ゲル成分は約10〜約3000nmの平均サイズ、30〜80%の気孔率及び多孔質支持部材の厚さに等しい厚さを有する。幾つかの実施形態では、マクロ孔の平均サイズは、例えば10〜1500nm、好ましくは25〜1500nm、より好ましくは50〜1000nmであり、マクロ孔の最も好ましい平均サイズは約700nmである。
【0026】
本発明で使用されるマクロ多孔質ゲルは、支持部材の非存在下では自立性でないことがあり、乾燥したときその細孔性が変化したり、失われることさえあり得る。多孔質支持部材内にマクロ多孔質ゲルを導入することにより、マクロ多孔質ゲルに機械的強度が付与される。マクロ多孔質ゲルを使用することにより、生体分子のように大きな分子がマクロ孔に進入でき、前記分子を含有する溶液は高い流束でゲルを横断することができる複合材料が作成される。
【0027】
「応答性複合材料」は、特定環境条件を変化させることによりコントロールされ得る孔径を有するマクロ多孔質ゲルを含む複合材料を意味する。
【0028】
支持型多孔質ゲルを含む複合材料は、参照により本明細書に組み入れる2004年2月2日に出願した米国特許出願第10/769,953号に既に記載されている。
【0029】
一般的特徴
好ましくは、マクロ多孔質ゲルは支持部材内に固定されている。用語「固定」はゲルが支持部材の孔内に保持されていることを意味するが、この用語は必ずしもゲルが支持部材の孔に化学的に結合されていることを意味すると限定されるものではない。ゲルは、実際にホスト、すなわち支持部材に化学的にグラフトされているのではなくホストの構造部材で網にかけ、相互に絡み合わせることによってゲル上に負荷された物理的拘束によって保持され得るが、幾つかの実施形態ではマクロ多孔質ゲルは支持部材の孔の表面にグラフトされるようになっていてもよい。
【0030】
マクロ孔は支持部材の孔を塞いでいるゲル中に存在しているので、マクロ孔は支持部材の孔よりも小さくなければならないと理解される。従って、複合材料の流れ特性及び分離特性はマクロ多孔質ゲルの特性に依存するが、多孔質支持部材の特性には殆ど依存しない。ただし、当然支持部材中に存在する孔のサイズは勿論ゲルのマクロ孔のサイズよりも大きいこととする。複合材料の細孔率は、主にモノマーまたはポリマー、架橋剤、反応溶媒及び任意に使用されるポロゲンの種類及び量により調節される細孔率を有するゲルを支持部材に充填することにより適合され得る。支持部材の孔は同じマクロ多孔質ゲル材料で塞がれているので、複合材料の特性の高度の一貫性が達成され、特定の支持部材ではこれらの特性は全部でないにしても大部分マクロ多孔質ゲルの特性により決まる。最終結果は、本発明により複合材料のマクロ孔サイズ、透過率及び表面積がコントロールされることである。
【0031】
複合材料中のマクロ孔の数は支持材料中の孔の数によって決まらない。マクロ孔は支持部材中の孔よりも小さいが、複合材料中のマクロ孔の数は支持部材中の孔の数よりもかなり多くてもよい。上記したように、マクロ多孔質ゲルの孔サイズに対する支持部材の孔サイズの影響は通常極く僅かである。支持部材が孔サイズ及び孔サイズ分布に大きな差を有している場合及び非常に小さい孔サイズと狭い孔サイズ分布範囲を有する多孔質ゲルが求められている場合は例外である。これらの場合では、支持部材の孔サイズ分布が大きく変化してもマクロ多孔質ゲルの孔サイズ分布は余り影響されない。よって、これらの状況ではやや狭い孔サイズ範囲の支持部材を使用することが好ましい。
【0032】
複合材料の特性はマクロ多孔質ゲルの平均孔径を調節することにより調和させることができる。サイズ排除による限外濾過のような幾つかの目的のためには、小さい孔が必要とされる場合がある。高反応速度を伴なう化学合成用の固体支持体として使用するような他の目的のためには、大きい孔が必要とされる場合がある。マクロ孔のサイズは主に架橋剤の種類及び濃度、ゲルを形成する溶媒(類)の種類、重合開始剤または触媒の量、及び任意に存在するポロゲンの種類及び濃度に依存する。
【0033】
通常、架橋剤の濃度を高くすると、ゲル中のマクロ孔のサイズも大きくなる。例えば、多官能化合物(類)(架橋剤)対モノマー(類)のモル比は約5:95〜約70:30、好ましくは約10:90〜約50:50、より好ましくは約15:85〜約45:55であり得る。
【0034】
マクロ多孔質ゲルの成分は液体ビヒクルを用いて支持部材の孔の中に導入され、現場重合または架橋のための溶媒選択は多孔質ゲルを得る際に役割を果たす。通常、溶媒または溶媒混合物は広い範囲の濃度でモノマーと多官能性化合物;または架橋性ポリマーと架橋剤を溶解させなければならない。溶媒がゲルポリマーの良溶媒である場合、細孔性はポロゲンによってのみゲル中に導入され得る。しかしながら、熱力学的に不良な溶媒または非溶媒である溶媒が存在する場合にはこの溶媒はポロゲンとして作用する。良溶媒〜不良溶媒〜非溶媒の溶媒からゲルポリマーに対する親和性が異なる溶媒を異なる比で組み合せることにより、細孔性及び孔寸法の両方を変化させることができる。通常、溶媒または溶媒混合物が不良であればあるほど、マクロ孔の細孔率及びサイズは大きくなる。現場重合用の溶媒または溶媒混合物は不良溶媒を好ましくは約0%〜約100%、より好ましくは約10%〜約90%含む。ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)に対する良溶媒の例は水及びN,N−ジメチルホルムアミドである。不良溶媒の例にはジオキサン、炭化水素、エステル及びケトンが含まれる。ポリ(アクリルアミド)に対する良溶媒の例は水である。不良溶媒の例にはジオキサン、アルコール(例えば、メタノール)、N,N−ジメチルホルムアミド、炭化水素、エステル及びケトンが含まれる。使用される溶媒が水と混和性であることが好ましい。
【0035】
重合を非溶媒または不良溶媒を含む液体ビヒクルを用いて実施する場合、得られる構造は多くの場合凝集ミクロスフェアのクラスターから構築されており、このクラスターがマクロ多孔質ゲルの本体を形成している。このような材料中の孔はクラスター間に位置する空隙(マクロ孔)、クラスター中のミクロスフェア間の空隙(メソ細孔)及びミクロスフェア自体の内部の孔(ミクロ孔)からなる。
【0036】
ポロゲンは広義には孔生成用添加剤と記載され得る。ゲル形成反応において使用され得るポロゲンの例には熱力学的に不良な溶媒、抽出可能ポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)、界面活性剤または塩が含まれる。ポロゲンは当業界で公知であり、当業者は発明の才能を働かせることなく標準的な実験手法を用いて所望の複合材料中に使用するためのマクロ多孔質ゲルを調製するの適したポロゲンを決めることができる。
【0037】
所与の条件下で得られる多孔質ゲルの構造パラメーターを正確に予測する簡単な方法はないが、幾つかのガイダンスを与えるために定性的方法が利用可能である。通常、1つ以上のモノマーと架橋剤の重合による多孔質ゲル形成のメカニズムは、第1ステップとしてポリマー鎖を凝集して核を形成することを含む。この核と残存溶液の両方で重合を継続させるとミクロスフェアが形成される。このミクロスフェアのサイズは溶液から新しく析出した核及びポリマーを捕捉することにより大きくなる。ある点で、ミクロスフェアは大きなクラスター中で互いに相互連結されるようになり、マクロ多孔質ゲルの本体が形成される。溶媒の性質が不良であれば、ゲル形成プロセス中での核形成はより速く起こる。重合開始剤の濃度が高い場合のように形成された核の数が非常に多い場合には、より小さい孔が予想され得る。しかしながら、核の数がより少なく、反応速度が核がより大きく成長するような場合には、ゲル中にはより大きな孔が形成される。架橋剤の濃度が高いと、通常核形成がより速く起る。しかしながら、核がモノマーで膨潤し、成長し、クラスターに合体し得るように高度に架橋されることがある。こうなると、孔が非常に小さくなり得る。重合を進行させるのに各種方法があり、重合条件がゲル多孔質構造に影響を及ぼし得るので、多種多様の構造を得ることができるが、各構造についての条件は実験的に決める必要がある。
【0038】
1実施形態では、複合材料は、複数の孔が延在している支持部材;及び複合材料中を通る液体がマクロ多孔質架橋ゲル中を通過しなければならないように前記支持部材の孔内にあってその孔を塞いでいるマクロ多孔質架橋ゲルからなり、前記架橋ゲルには実質的に水不溶性であるが水膨潤性である安定化ポリマーが閉じ込められている。前記マクロ多孔質架橋ゲルは、マクロ多孔質ゲルがポリマーの凝集により規定されるポリマー密度が高い領域及び本質的にポリマーがない領域(この領域がマクロ孔を規定する)を含むように1つ以上のモノマー/ポリマーを十分量の1つ以上の架橋剤と反応させることにより形成される。
【0039】
1つの好ましい実施形態では、支持部材中の孔は約0.1〜約25μmの平均サイズを有する。別の好ましい実施形態では、マクロ多孔質架橋ゲル中のマクロ孔は約25〜約150nmの平均サイズを有し、マクロ多孔質ゲルは30〜80%の気孔率を有する。
【0040】
複合材料を用いる分離
本発明の幾つかの実施形態で、複合材料は、例えば濾過しようとする液体を複合膜中に通し、液体からの1つ以上の成分の分離を非荷電マクロ多孔質ゲル中でサイズ排除により行う濾過操作において分離媒体として用いられる。この分離は、荷電マクロ多孔質ゲルを使用する荷電分子のドナン排除(Donnan exclusion)により更に改善され得る。マクロ多孔質ゲルが固定電荷を含み、溶質の電荷を適切に調整することができるならば、溶質はそのサイズ勾配に逆らっても分離することができる。例えばタンパク質の混合物を含有している溶液の場合、該混合物中のタンパク質の1つがその等電点にあり、他のタンパク質が膜の電荷と同じ符号の電荷を保持するpH値を選択すると、他のタンパク質は膜との電荷反発のため保持液中に留めておくことができる。分画の条件を適合させることにより、同じサイズのタンパク質に対しても良好な選択性を得ることができる。
【0041】
マクロ多孔質ゲル中に反応性官能基を存在させることによっても分離を行うことができる。これらの官能基は、生体分子または生体分子イオンを含めた分子またはイオンに対して親和性を有するリガンドまたは他の特異的結合部位を有するように使用され得る。特定の分子またはイオンを含有する液体を複合材料中に通すと、リガンドまたは特異的結合部位がこの分子またはイオンと相互作用して、十分に分子またはイオンを吸着する。幾つかの場合には、その後例えばゲルのマクロ孔に通す溶媒の種類を変えることにより複合材料の周りの環境を変化させると捕捉された分子またはイオンをその後脱着させることも可能である。結合部位は荷電基をも含むことができる。
【0042】
マクロ多孔質ゲルの組成
マクロ多孔質ゲルは、適当なサイズのマクロ孔を有する架橋ゲルを形成するために1つ以上の重合性モノマーと1つ以上の架橋剤;または1つ以上の架橋性ポリマーと1つ以上の架橋剤を現場で反応させることにより形成され得る。適当な重合性モノマーにはビニル基またはアクリル基を含有するモノマーが含まれる。ドナン排除のためには、少なくとも1個の極性及び/またはイオン性官能基、またはイオン性基に変換され得る官能基を含有するビニルモノマーまたはアクリルモノマーが使用され得る。生体親和性のためには、少なくとも1個の反応性官能基を含有するビニルモノマーまたはアクリルモノマーが使用され得る。好ましい重合性モノマーにはアクリルアミド、塩化2−アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム、N−アクリルオキシスクシンイミド、N−アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、2−アミノエチルメタクリレート塩酸塩、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩、ブチルアクリレート及びメタクリレート、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート及びメタクリレート、N−[3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、n−ドデシルアクリレート、n−ドデシルメタクリレート、ドデシルメタクリルアミド、エチルメタクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート及びメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート及びメタクリレート、グリシジルアクリレート及びメタクリレート、n−ヘプチルアクリレート及びメタクリレート、1−ヘキサデシルアクリレート及びメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート及びメタクリレート、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリレート及びメタクリレート、メタクリルアミド、無水メタクリル酸、塩化メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム、2−(2−メトキシ)エチルアクリレート及びメタクリレート、オクタデシルアクリルアミド、オクチルアクリルアミド、オクチルメタクリレート、プロピルアクリレート及びメタクリレート、N−イソ−プロピルアクリルアミド、ステアリルアクリレート、スチレン、4−ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、N−ビニル−2−ピロリドンが含まれる。特に好ましいモノマーには塩化ジメチルジアリルアンモニウム、アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(AMPS)、塩化(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム(APTAC)、アクリルアミド、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、4−スチレンスルホン酸及びその塩、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ジアリルアミン並びに塩化ジアリルアンモニウムが含まれる。
【0043】
架橋剤は、例えば少なくとも2個のビニル基またはアクリル基を含有する化合物であり得る。架橋剤の例にはビスアクリルアミド酢酸、2,2−ビス[4−(2−アクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリルオキシフェニル)プロパン、ブタンジオールジアクリレート及びジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート及びジメタクリレート、1,10−ドデカンジオールジアクリレート及びジメタクリレート、1,4−ジアクリロイルピペラジン、ジアリルフタレート、2,2−ジメチルプロパンジオールジアクリレート及びジメタクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート及びジメタクリレート、N,N−ドデカメチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン、グリセロールトリメタクリレート、グリセロールトリス(アクリルオキシプロピル)エーテル、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N’−オクタメチレンビスアクリルアミド、1,5−ペンタンジオールジアクリレート及びジメタクリレート、1,3−フェニレンジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート及びジメタクリレート、ポリ(プロピレン)ジアクリレート及びジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート及びジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジアクリレートまたはジメタクリレート、ジアリルジグリコールカーボネート、ポリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、N,N’−ジメタクリロイルピペラジン、ジビニルグリコール、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、1,1,1−トリメチロールエタントリメタクリレート、1,1,1−トリメチロールプロパントリアクリレート、1,1,1−トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビニルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート及びジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート及びジメタクリレート、アルコキシル化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、アルコキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、芳香族ジメタクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート及びジメタクリレート、エトキシル化ビスフェノールジアクリレート及びジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート及びジメタクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化グリセリルトリアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ジ−トリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、エトキシル化ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタアクリレートエステル、ペンタエリトリトールテトラアクリレート及びカプロラクトン変性ジペンタエリトリトールヘキサアクリレートが含まれる。特に好ましい架橋剤にはN,N’−メチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジアクリレート及びジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート及びジメタクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートが含まれる。
【0044】
マクロ多孔質ゲル中のモノマー濃度は調製したマクロ多孔質ゲルのレジリエンスに影響を及ぼし得る。モノマー濃度が低いと自己支持性でないマクロ多孔質ゲルを生じ得る。そのような非自己支持性ゲルは、より大きな吸着容積を有するゲルを生じ得るので吸着剤として有利である。幾つかの実施形態では、モノマー濃度は60%以下、例えば約60、50、40、30、20、10または5%である。
【0045】
架橋性ポリマーを使用する場合、マクロ多孔質ゲルを形成するために支持体中で架橋性ポリマーを溶解し、架橋剤と現場で反応させ得る。適当な架橋性ポリマーにはポリ(エチレンイミン)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(ビニルベンジルクロリド)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリ(アリルアミン)、ビニルピリジンと塩化ジメチルジアリルアンモニウムのコポリマー、ビニルピリジンと塩化ジメチルジアリルアンモニウムまたは塩化(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムとグリシジルアクリレートまたはメタクリレートのコポリマーが含まれ、これらの中でポリ(エチレンイミン)、ポリ(塩化ジアリルアンモニウム)及びポリ(グリシジルメタクリレート)が好ましい。モノマーの代りに架橋性ポリマーを使用すると、場合により架橋剤の濃度を低下させる必要がある。低い架橋剤濃度でゲル中の大きいサイズの孔を維持するためには、マクロ多孔質ゲルを調製するのに使用する混合物にポロゲンを添加してもよい。
【0046】
架橋性ポリマーと反応させるための架橋剤は、架橋しようとするポリマー中の1個以上の原子または基と反応し得る反応性の基(例えば、ポリアミンの窒素原子と反応し得るエポキシ基またはアルキル/アリールハライド、または現場で架橋しようとするグリシジル基含有ポリマーのアルキル/アリールハライドまたはエポキシ基と反応し得るアミン基)を2個以上含有する分子から選択される。適当な架橋剤にはエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、1,3−ジブロモプロパン、1,4−ジブロモブタン、1,5−ジブロモペンタン、1,6−ジブロモヘキサン、α,α’−ジブロモ−p−キシレン、α,α’−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモ−2−ブテン、ピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタンが含まれる。
【0047】
また、アミノ、ヒドロキシル、カルボン酸、カルボン酸エステルまたはエポキシ基のような反応基を含有するポリマーをビニル基を導入するための試薬で修飾し、その後重合開始剤で処理することにより重合してマクロ多孔質ゲルを形成させることもできる。導入され得る適当なビニル基の例にはビニルベンゼン誘導体、アリル誘導体、アクリロイル及びメタクリロイル誘導体が含まれる。幾つかの場合では、ビニル置換ポリマーの架橋を別のモノマー(例えば、アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、アクリル酸及びメタクリル酸並びにその塩)を導入することにより促進させてもよい。
【0048】
マクロモノマーをモノマーまたは架橋剤として使用することもできる。マクロモノマーは、マクロモノマーをモノマーまたは架橋剤として作用させ得るように1個の(一官能性モノマー)または複数の(架橋剤)反応性基を多くの場合その末端に有しているポリマーまたはオリゴマーでもあり得る。モノマーの場合、各マクロモノマー分子はマクロモノマー分子中の唯一のモノマー単位を反応させることにより最終ポリマーの主鎖に結合する。マクロモノマーの例にはポリ(エチレングリコール)アクリレート及びポリ(エチレングリコール)メタクリレートが含まれ、多官能マクロモノマーの例にはポリ(エチレングリコール)ジアクリレート及びポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートが含まれる。マクロモノマーは好ましくは約200Da以上の分子量を有する。
【0049】
中性ヒドロゲル、荷電ヒドロゲル、高分子電解質ゲル、疎水性ゲル及び中性機能性ゲルを含めた多くのマクロ多孔質ゲルが調製され得る。
【0050】
選択したゲルが水を膨潤液体媒体とする中性ヒドロゲルまたは荷電ヒドロゲルであるならば、生ずる支持型マクロ多孔質ゲルは通常極めて親水性である。良好な流れ特性を与え、膜に対して防染傾向を付与するので親水性複合材料が好ましい。適当なヒドロゲルの例にはポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシメチルアクリレート)、ポリ(エチレンオキシド)、アクリル酸またはメタクリル酸とアクリルアミド,イソプロピルアクリルアミドまたはビニルピロリドンのコポリマー、アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸とアクリルアミド,イソプロピルアクリルアミドまたはビニルピロリドンのコポリマー、塩化(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムとアクリルアミド,イソプロピルアクリルアミドまたはN−ビニルピロリドンのコポリマー、塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリルアミド,イソプロピルアクリルアミドまたはビニルピロリドンのコポリマーの架橋ゲルが含まれる。好ましいヒドロゲルには架橋ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)及びポリ(ビニルピロリドン)、並びに中性モノマー(例えば、アクリルアミドまたはN−ビニルピロリドン)と荷電モノマー(例えば、アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸または塩化ジアリルジメチルアンモニウム)の架橋コポリマーが含まれる。
【0051】
マクロ多孔質ゲルは高分子電解質からなるように選択され得る。荷電ヒドロゲルと同様に、高分子電荷質ゲルは親水性複合材料を提供し、ゲルは電荷をも有している。高分子電解質ゲルは、例えば架橋ポリ(アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)及びその塩、ポリ(アクリル酸)及びその塩、ポリ(メタクリル酸)及びその塩、ポリ(スチレンスルホン酸)及びその塩、ポリ(ビニルスルホン酸)及びその塩、ポリ(アルギン酸)及びその塩、ポリ[(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩、ポリ(4−ビニル−N−メチルピリジニウム)塩、ポリ(ビニルベンジル−N−トリメチルアンモニウム)塩、ポリ(エチレンイミン)及びその塩から選択され得る。好ましい荷電ゲルには架橋ポリ(アクリル酸)及びその塩、ポリ(メタクリル酸)及びその塩、ポリ(アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)及びその塩、ポリ[(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩及びポリ(4−ビニルピリジニウム)塩が含まれる。
【0052】
荷電ゲルと高分子電解質ゲルの違いの1つは、高分子電解質ゲル中の繰り返しモノマーは電荷を有しているが、荷電ゲルでは電荷がポリマー中にランダムに分布している共重合単位中に存在していることである。高分子電解質ゲルまたは電荷を有する荷電ゲル中のコポリマーを形成するために使用されるモノマーは通常電荷含有基を有しているが、ゲル化後プロセス(例えば、窒素含有基の四級化)において帯電されるようになり得る電荷非含有基であってもよい。帯電されるようになり得るポリマーの例にはポリ(4−ビニルピリジン)が含まれ、これは各種のアルキル及びアルキルアリールハライドを用いて四級化され得る。適当なアルキルハライドには最大8個の炭素原子を有するもの、例えばヨウ化メチル、臭化エチル、臭化ブチル及び臭化プロピルが含まれる。適当なアルキルアリールハライドにはベンジルハライド、特に塩化ベンジル及び臭化ベンジルが含まれる。帯電されるようになり得る他のポリマーはポリ(ビニルベンジルクロリド)であり、これは各種のアミン、例えば低級アルキルアミンまたは芳香族アミン(例えば、トリエチルアミン、ピリジン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、N−メチルピロリジン及びN−メチルピペリジン)及び低級ヒドロキシアルキルアミン(例えば、トリエタノールアミン)を用いて四級化され得る。帯電されるようになり得る更に別のポリマーはポリ(グリシジルメタクリレート)またはポリ(グリシジルアクリレート)であり、これは各種アミン、例えば、低級アルキルアミン(例えば、ジエチルアミン及びトリエチルアミン)、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、N−メチルピロリジン及びN−メチルピペリジンと反応させ得る。或いは、グリシジル部分を例えばアルカリ金属亜硫酸塩(例えば、亜硫酸ナトリウム)と反応させることによりスルホン酸基に変換させることもできる。当業者は電荷を有しているかまたは帯電させ得るその他のポリマーがあることを認識している。
【0053】
マクロ多孔質ゲルは、有機溶媒(例えば、炭化水素、特にヘキサンのような液体パラフィン)中で分離できる疎水性モノマーを含むように選択され得る。疎水性マクロ多孔質ゲルを調製するためには、スチレン及びその誘導体(例えば、p−t−ブチルスチレンのようなアルキル置換スチレン誘導体)のような疎水性モノマーが使用され得る。これらのモノマーのコポリマーを使用することもできる。
【0054】
疎水性モノマーを含むマクロ多孔質ゲルを用いると、孔を通過する流体から分子を疎水性相互作用により捕捉することができる。
【0055】
上記したように、マクロ多孔質ゲルはリガンドまたは他の特異的結合部位を結合させるのに使用され得る反応性官能基を含むようにも選択され得る。これらの官能性マクロ多孔質ゲルは、リガンドまたは他の特異的結合部位を結合させるのに使用され得る官能基(例えば、エポキシ、無水物、アジド、反応性ハロゲンまたは酸クロリド基)を有している架橋ポリマーから調製され得る。その例には架橋ポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリ(アクリルアミドオキシム)、ポリ(無水アクリル酸)、ポリ(無水アゼライン酸)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(ヒドラジド)、ポリ(アクリロイルクロリド)、ポリ(2−ブロモエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルメチルケトン)が含まれる。導入され得る官能基は抗体または抗体断片或いは化学模擬体(例えば、染料)の形態を取り得る。分子(例えば、幾つかのタンパク質とは結合するが他のタンパク質とは結合しないように選択したアフィニティリガンド)間でサイズに有意な差がないとしても、機能性ゲルは他の分子に対しては非反応性でありながら活性部位に結合させることにより特定の分子に対して優先的に結合し得るので、機能性ゲルは生体分子の精製または分離において魅力的である。反応性基を介して多孔質ゲルに結合し得るアフィニティリガンドにはγ−グロブリン及び免疫グロブリンを分離するためのアミノ酸リガンド(例えば、L−フェニルアラニン、トリプトファンまたはL−ヒスチジン)、異なる培地から免疫グロブリンを分離するための抗原及び抗体リガンド(例えば、モノクローナル抗体、タンパク質A、組換えタンパク質A、タンパク質Gまたは組換えタンパク質G)、アルブミン及び各種酵素を分離するための染料リガンド(例えば、シバロンブルーまたはアクティブレッド)、各種培地からヒスチジン、リゾチームまたはトリプトファンのような各種タンパク質を分離するための金属アフィニティリガンド(例えば、イミノジ酢酸(IDA)リガンドとCu2+、Ni2+、Zn2+またはCo2+の複合体)が含まれる。
【0056】
応答性マクロ多孔質ゲル
環境条件の変化に応答してコンホメーションを変えるポリマーは公知である。前記ポリマーの特性をマクロ多孔質ゲルに組み入れることにより動的孔サイズを有する複合材料が得られる。マクロ多孔質ゲルを形成するモノマーまたはポリマーの少なくとも1つが孔サイズの変化を促進させる化学構造を有している以外、応答特性を有する複合材料は上記した複合材料と実質的に同一である。
【0057】
マクロ多孔質ゲルの孔サイズは、支持部材とマクロ多孔質ゲル間の物理学的関係により変化する。複合材料は3つの別個のゾーン、すなわち(a)理想的には形が変わらない支持部材;(b)支持部材の孔を「塞いでいる」混和マクロ多孔質ゲル;及び(c)水または溶媒が充填されており、ゲルポリマーが全くまたは殆ど存在していないゲルのマクロ孔内の容積;を有していると記載され得る。圧力下で水流がゲルのマクロ孔を介して生じ、複合材料を介する流束はマクロ多孔質ゲル中の孔の数、その孔の半径及び複合材料を介するマクロ多孔質ゲル中の孔の流路のくねり度に関連している。
【0058】
マクロ多孔質ゲルの膨潤度は環境刺激により変化するので、マクロ多孔質ゲルが占有している全容積は支持部材により規定される一定全容積により拘束される。マクロ多孔質ゲルの全容積は支持部材により拘束されるので、ゲルの容積含有率は必然的にゲル中のマクロ孔によって規定される領域に広がる。マクロ孔の数及びそのくねり度はマクロ多孔質ゲルの容積含有率が変化しても本質的に一定のままであるので、マクロ孔の直径または半径それ自体が変化しなければならない。マクロ多孔質ゲル、すなわち構造体化ゲルが拘束されていないならば、環境的に誘発させた変化により膨潤ゲルの全容積が変化する。よって、この非拘束の場合環境的に変化させてもマクロ多孔質ゲルの孔サイズをコントロール可能に変化させる変化は生じない。
【0059】
マクロ多孔質ゲルの容積変化の背後にある理由は、ゲルを形成するポリマー構造間の相互作用、すなわちポリマー鎖とゲルへ拡散する溶媒または溶媒中に存在する溶質間の相互作用に関連している。ゲルが占有している容積の変化はマクロ多孔質ゲルを形成するポリマー鎖が採用しているコンホメーションと関連している。ポリマー鎖の自然な傾向はそれ自体の周りをコイリングすることであり、これにより容積の小さいゲルが生じる。ゲル内のポリマー鎖を操作してアンコイリングし、より硬質の主鎖を形成し得るならば、ゲルの全容積は増大する。このように、応答性複合材料に加えられる環境刺激により影響を受けるのがコイリング/アンコイリングである。
【0060】
孔の容積変化は「連続」であっても「不連続」であってもよい。連続的容積変化は、引き金となる環境条件の比較的大きな変化に対して、膨潤状態と崩壊状態の間の転移付近に少なくとも1つの安定な容積が存在する場合に起る。好ましくは、連続的容積変化は膨潤状態と崩壊状態間の多数の安定な転移容積を経る。ゲル中の不連続的容積変化は、引き金となる環境条件の極めて小さい変化(例えば0.1pH単位未満または0.1℃未満)で起る膨潤状態から崩壊状態への可逆的転移により特徴づけられる。不連続的容積変化を示すゲルは「相転移」ゲルと呼ばれ、そのようなゲルを有しているシステムまたはデバイスはしばしば「化学バルブ」と呼ばれている。好ましくは、本発明のこの実施形態に従う応答性マクロ多孔質ゲルはゲルの孔サイズをコントロールするために利用され得るばらばらの安定容積を経て「連続的」容積変化を受ける。
【0061】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変化させるのに使用され得る環境刺激としては、pH、特定イオン、イオン強度、温度、光、電場及び磁場が挙げられる。各刺激の影響及び該刺激に反応するモノマーの例を以下により詳細に記載する。
【0062】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変化させるのに利用することができる1つの刺激は、ゲルの孔中に通す溶液のpHである。ゲルが弱酸または弱塩基を含むならば、溶液のpHの変化はゲルの孔サイズに影響を及ぼす。そのような場合、ゲル内のポリマー鎖がそれ自体の周りをコイリングする自然な傾向はポリマー鎖の長さに沿う荷電基(弱酸性または弱塩基性の基)間の反発により釣り合う。ポリマー鎖に沿う電荷の量が変動するとポリマー鎖のコンホメーションが大きく変化し、これによりゲルが占有している容積が変化する。溶液のpHを変化させると荷電基のイオン化度が変化するので、pH変化はポリマー鎖に沿う反発の量をコントロールするのに有効である。弱酸性基を含むゲルはpHが低くなるにつれてイオン化されにくくなり、ゲルは収縮する。逆に、弱塩基はpHが低くなるにつれてイオン化されやすくなり、ポリマー鎖は伸長したり延伸して膨潤ゲルを生じる。
【0063】
弱酸性官能基を有するモノマーの例にはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、4−ビニル安息香酸、ビスアクリルアミド酢酸及びビス(2−メタクリルオキシエチル)ホスフェートが含まれる。弱塩基性官能基を有するモノマーの例には2−アミノエチルメタクリレート塩酸塩、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩、2−(tert−ブチルアミノ)エチルメタクリレート、ジアリルアミン、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、1−ビニルイミダゾール及び4−ビニルピリジンが含まれる。グリシジルメタクリレート誘導化ヒアルロネート−ヒドロキシエチルアクリレートをベースとするヒドロゲルもpH応答性の複合材料を作成するために使用され得る。[参照により本明細書に組み入れるM.Inukai,Y.Jin,C.Yomota,M.Yonese,Chem.Pharm.Bull.,48:850−854(2000)]。
【0064】
pH変化は強酸や強塩基のイオン化度に殆ど影響を及ぼさず、よってpHを激変させると上記官能基を含むゲルの孔サイズ変化に影響を及ぼし得る。
【0065】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変化させるために利用され得る別の刺激は、ゲルの孔中に通す溶液の塩濃度である。pH変化と同様に、塩濃度を変化させると弱酸性または弱塩基性の基を含むマクロ多孔質ゲル中の孔サイズが変化する。しかしながら、この孔サイズが変化する理由は僅かに異なる。イオン性溶質を添加すると、イオン対を形成することによりゲル中のポリマー鎖上にある荷電基を遮蔽することができる。これにより、隣接する荷電基間のクーロン反発力が低下し、ポリマー鎖がコイル状コンホメーションに戻る。塩濃度を高くすると弱酸基と弱塩基基の両方が遮蔽される。従って、例えば複合材料中に通すバルク溶液に濃厚塩溶液を添加することにより塩濃度を高くすると、追加イオンの遮蔽効果により孔サイズが増大する。或いは、例えば複合材料中に通すバルク溶液を希釈することにより達成されるようにして塩濃度を低下させると、遮蔽は小さくなり、孔サイズは小さくなる。
【0066】
強酸基及び強塩基基は遊離イオン種の存在によっても遮蔽されるので、塩濃度の変化はこれらの基を含むマクロ多孔質ゲルでも用いることができる。
【0067】
弱酸基または弱塩基基を有するモノマーの例は上にリストされている。強酸官能基を有するモノマーの例には2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、ナトリウム2−メチル−2−プロペン−1−スルホネート、ナトリウムスチレンスルホネート及びナトリウムビニルスルホネートが含まれる。強塩基官能基を有するモノマーの例には塩化2−アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム、塩化ジアリルジメチルアンモニウム、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム及び塩化3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムが含まれる。
【0068】
最初は荷電官能基を持たないが、代わりに重合後処理においてイオン性またはイオン化可能部分に変換され得る反応性基を有するマクロ多孔質ゲルにイオン官能基(弱/強酸及び塩基)を導入してもよい。反応性基を有する適当なモノマーには無水アクリル酸、アリルグリシジルエーテル、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、クロロスチレン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリロイルクロリドが含まれる。例えば、グリシジルアクリレートまたはメタクリレート基を含むマクロ多孔質ゲルは弱塩基官能性を導入するためにはジエチルアミンで処理され得、強酸(スルホン酸)官能性を導入するためにはイソプロパノール/水混合物中亜硫酸ナトリウムで処理され得る。
【0069】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変化させるために使用され得る別の刺激はゲルの温度である。マクロ多孔質ゲルの温度を変化させるには種々の方法が利用可能であり、その1つがマクロ多孔質ゲルの孔中に流す液体の温度を変化させることである。温度依存性ゲルの全ゲル容積の変化もゲルを形成するポリマー鎖のコイリングまたはアンコイリングのコントロールによるが、ゲルの収縮または膨張はポリマー鎖上の荷電基の存在とは関連していない。温度依存性ゲルの場合、ポリマー鎖の溶媒和量がポリマー鎖のコンホメーションをコントロールする。低温ではポリマー鎖は溶媒和され、これによりポリマー鎖が延長コンホメーションになる。温度を高くすると、エントロピック脱溶媒和が起り、ポリマー鎖がコイリングし、収縮する。従って、温度を上昇させるとゲル中の孔サイズは大きくなり、温度を低下させると孔サイズは小さくなる。
【0070】
疎水性モノマーを含むマクロ多孔質ゲルは、疎水性官能基を有するポリマーに対して溶媒和効果が明らかに認められるので、温度依存性システムで用いるのに最も適している。疎水官能基を有するモノマーの例にはN−(プロピル)アクリルアミド、N−(tert−ブチル)アクリルアミド、ブチルアクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、2−エチルブチルメタクリレート、n−ヘプチルアクリレート、n−ヘプチルメタクリレート、1−ヘキサデシルアクリレート、1−ヘキサデシルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート及びN−(n−オクタデシル)アクリルアミドが含まれる。熱応答を示すゲルは硫酸化ヒアルロン酸ベースのゲルからも調製することができる(参照により本明細書に組み入れるR.Barbucci,R.Rappuoli,A.Borzacchiello,L.Ambrosio,J.Biomater.Sci.−Polym.Ed.,11:383−399(2000)を参照されたい)。
【0071】
光は応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変化させるために使用することができる別の刺激である。光誘発変化はゲルを形成するポリマー鎖の主鎖または側鎖中の光異性化による。光異性化により、コンホメーション及び局部双極子モーメントのいずれかが変化するかまたは光誘発電子移動反応によりイオン化度が変化する。光制御システムにおいて使用するのに適しているモノマーの1つのタイプは照射時にトランス−シス異性化を受け得る不飽和官能基を含むものである。シス−トランスコンホメーション変化及び双極子変化を受ける光応答性モノマーの例には4−(4−オキシ−4’−シアノアゾベンゼン)ブタ−1−イルメタクリレート、6−(4−オキシ−4’−シアノアゾベンゼン)ヘキサ−1−イルメタクリレート、8−(4−オキシ−4’−シアノアゾベンゼン)オクタ−1−イルメタクリレート、4−[ω−メタクリロイルオキシオリゴ(エチレングリコール)]−4’−シアノアゾベンゼン、4−メタクリロイルオキシ−4’−{2−シアノ−3−オキシ−3−[ω−メトキシオリゴ(エチレングリコール)]プロパ−1−エン−1−イル}アゾベンゼン、及びメソゲン基及び光互変異性パラ−ニトロアゾベンゼン基を含有するメタクリレートモノマーが含まれる。モノマーの代りに架橋剤中に光応答性部分を導入することも可能である。シス−トランスコンホメーション変化及び双極子変化を受ける光応答性架橋剤の例には4,4’−ジビニルアゾベンゼン、N,N’−ビス(β−スチリルスルホニル)−4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ビス(メタクリロイルアミノ)アゾベンゼン、4,4’−ジメタクリロイルアゾベンゼン及びビス((メタクリロイルオキシ)メチル)スピロベンゾピランが含まれる。
【0072】
ゲルの孔サイズは、マクロ多孔質ゲルに電場または電流をかけることによっても変化させることができる。電気化学的電流変化に対するゲルの応答は上記したpH系に密接に関係している。この密接な関係は、水系中に電気化学的電流を通すと「水分割」反応が生じ、この反応により水系のpHが変化するという事実による。例えば本発明の複合材料のいずれかの端部に電極を配置することにより電流を複合材料中に通すことができる。電極に電流差を加えると、水分子が分離され、各電極でのH及びHOの濃度が上昇する。上記したように、pHの変化を利用して弱酸または弱塩基官能性を含むマクロ多孔質ゲルの孔サイズをコントロールすることができる。このコントロールは官能基のイオン化とゲルを形成しているポリマー鎖のコイリング/アンコイリング間の関係に関連している。弱酸性モノマー及び弱塩基性モノマーの例は上掲されている。
【0073】
電場の変動によるゲル容積の変化は、例えば参照により本明細書に組み入れるS.Murdan,J.Control.Release,92:1−17(2003);及びM.Jensen,P.B.Hansen,S.Murdan,S.Frokjaer,A.T.Florence,Eur.J.Pharm.Sci.,15:139−148(2002)に記載されているように既に知見されている。電場の印加によりゲルの容積が変化する正確なプロセスはまだ十分明らかにされていないが、容積変化それ自体は文献に詳しく記載されている。コンドロイチン−4−スルフェート(CS)は電場の変動に応答するモノマーの1例である。
【0074】
幾つかの実施形態で、複数の刺激に応答するゲルを与えるために各種刺激応答系を組み合せてもよい。そのような組合せ系の例は荷電ポリマー(弱/強酸または塩基)と疎水性モノマーを組み合せることにより作成され得る。この組合せから得られるマクロ多孔質ゲルは塩濃度の変化、溶液pHの変化(弱酸または弱塩基を使用する場合)及び温度の変化に対して応答を示す。異なるモノマーを組み合せると、1つの特定刺激に応答するモノマーの濃度はゲル中では低くなるので、その刺激に対するゲルの応答性は低くなる。
【0075】
種々の刺激をマクロ多孔質ゲルに加えたときにそのゲルによって表される応答の大きさは多くの各種因子に依存する。そのいくつかについて以下に述べる。
【0076】
マクロ多孔質ゲルの応答は架橋剤の濃度に依存する。通常、架橋剤の濃度を高くすると、応答性ゲル中のマクロ孔のサイズも大きくなるが、孔サイズの変化の範囲は狭くなる。この関係はかなり単純で、ゲル内の架橋濃度が高くなると応答性ゲルが利用可能なコイリング及びアンコイリングの量が制限されるからである。架橋剤(類)対モノマー(類)のモル比は約5:95〜約40:60、好ましくは約7.5:92.5〜約10:90、より好ましくは約10:90〜約25:75であり得る。
【0077】
特定の刺激はゲルを形成するポリマー鎖のコンホメーションにより効果的な影響を及ぼすので、それらの刺激は当然ゲルにおいて広い範囲の応答を引き出す。例えば、pHまたは温度の変化により適当なマクロ多孔質ゲルから強い応答が引き出されるが、塩濃度及び光度の変化により引き出される応答は若干小さい。
【0078】
ゲル中の応答性モノマーの濃度もゲルが示す応答のレベルに影響を及ぼす。好ましくは、応答性マクロ多孔質ゲルは1つ以上の応答性モノマー及び1つ以上の中性モノマーから構成される。環境条件の変化に対して非常に強い応答を有する系において中性モノマーの存在は重要である。なぜならば、そのような系は多くの場合孔サイズの不連続的な応答を示す(バルブ効果)からである。中性モノマーの添加は応答を弱めるので、孔サイズの変化をよりコントロールすることができる。好ましくは、応答性マクロ多孔質ゲル中の中性モノマーのモル比対応答性モノマーのモル比は5:95〜95:5、より好ましくは25:75〜75:25、さらに好ましくは40:60〜60:40である。適当な中性モノマーにはアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−アクリルオキシスクシンイミド、2−アクリルアミド−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−1−メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドンが含まれる。
【0079】
多孔質支持部材
支持部材を形成するのには各種材料を使用し得る。しかしながら、セルロースやその誘導体の一部のような材料は別として、材料の大部分はかなりまたは比較的疎水性である。疎水性濾過膜は、より高い膜汚染傾向を招く恐れがあるので通常水系で使用するには望ましくない。ミクロ孔質膜を作成するためにはより不活性で安価なポリマー、例えばポリオレフィン(例えば、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ビニリデンジフロリド))が使用され得るが、これらの材料は非常に疎水性である。本発明の幾つかの実施形態では、支持部材が疎水性であっても複合材料中を介する液体の流れは主にゲルのマクロ孔で生ずるので複合材料で見られる汚染度に影響を及ぼさない。
【0080】
幾つかの実施形態では、多孔質支持部材は高分子材料から作られており、平均サイズが約0.1〜約25μm及び気孔率が40〜90%の孔を含んでいる。支持部材としては多くの多孔質基体または膜を使用することができるが、支持体は好ましくは高分子材料であり、疎水性ではあるが低コストで入手可能なポリオレフィンがより好ましい。熱誘導相分離(TIPS)、すなわち非溶媒誘導相分離により作成した伸張ポリオレフィン膜が挙げられる。セルロースやその誘導体のような天然ポリマーを含めた親水性支持体を使用することもできる。適当な支持体の例にはPall Corporation製SUPOR(登録商標)ポリエーテルスルホン膜;Gelman Sciences製Cole−Parmer(登録商標)テフロン(登録商標)膜、Cole−Parmer(登録商標)ナイロン膜、セルロースエステル膜;Whatman(登録商標)フィルター及びペーパーが含まれる。
【0081】
幾つかの他の実施形態では、多孔質支持体は織繊維材料または不織繊維材料(例えば、ポリプロピレンのようなポリオレフィン)から構成される。ポリプロピレン不織材料の例はHollingsworth and Vose CompanyからTR2611Aとして市販されている。前記織繊維または不織繊維支持部材はTIPS支持部材よりも大きい孔サイズを有し得、幾つかの例では最高約75μmの孔サイズを有し得る。支持部材中の孔が大きいと、マクロ多孔質ゲル中に大きいマクロ孔を有する複合材料を形成することができる。大きいマクロ孔を有する複合材料は、例えばその上で細胞増殖を行うことができる支持体として使用され得る。セラミックベース支持体のような非高分子性支持部材も使用することができる。この多孔質支持部材は各種形状及びサイズを取り得る。
【0082】
幾つかの実施形態では、支持部材は、厚さが約10〜約2000μm、より好ましくは10〜1000μm、最も好ましくは10〜500μmの膜の形態である。他の実施形態では、例えば積重ねることにより複数の多孔質支持体ユニットを組み合せてもよい。1つの実施形態では、マクロ多孔質ゲルを多孔質支持体の孔内で形成する前に多孔質支持膜のスタック(例えば、2〜10枚の膜)を組み立てもよい。別の実施形態では、1つの支持部材ユニットを用いて複合材料膜を形成し、これを積重ねた後使用する。
【0083】
複合材料の作成
本発明の複合材料は単純な1ステップ方法により作成することができる。幾つかの例では、この方法では反応溶媒として水または他の良溶媒(例えば、メタノール)が使用され得る。この方法は、より簡単に連続的に製造する可能性をもたらす迅速プロセスを用いるという利点を有している。複合材料は潜在的に安価でもある。
【0084】
本発明の複合材料は、例えば1つ以上のモノマー、1つ以上のポリマーまたはこれらの混合物;1つ以上の架橋剤;場合により1つ以上の開始剤;及び場合により1つ以上のポロゲンを1つ以上の適当な溶媒中で混合することにより作成され得る。調製した溶液が均質であることが好ましいが、僅かに不均質な溶液を用いてもよい。次いで、混合物をゲル形成反応を生起させる適当な多孔質支持体中に導入する。ゲル形成反応用に適した溶媒の例には水、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、エタノール、N−メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトニトリル、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルアセトアミド、プロパノール及びメタノールが含まれる。着火性を減らし、製造を容易にするので高沸点を有する溶媒を使用するのが好ましい。また、溶媒が低毒性を有しており、使用後溶媒を容易に廃棄できることも好ましい。そのような溶媒の例はジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)である。
【0085】
幾つかの実施形態では、溶媒として二塩基性エステル(二塩基性酸の混合物のエステル)を使用することができる。二塩基性エステル(DBE)は、ポリアクリルアミドモノマーを主成分とするゲルを調製するのに特に適している。この溶媒系は、本質的に完全に水混和性である他の溶媒とは異なり、水に余り溶解しないという予期せぬ特徴を有している。水混和性溶媒は加工後の溶媒除去の点でしばしば有利であるが、ある場合ではDBEのような水不混和性溶媒は揮発性、着火性及び毒性である溶媒(例えば、ジオキサン)の良好な代替物である。
【0086】
幾つかの実施形態では、ゲル形成反応の成分は室温において自然に反応してマクロ多孔質ゲルを形成する。他の実施形態では、ゲル形成反応は開始させなければならない。ゲル形成反応は公知の方法、例えば熱活性化またはU.V.照射により開始させ得る。反応を光開始剤の存在下でU.V.照射により開始させることがより好ましい。なぜならば、この方法はゲル中により大きなマクロ孔を生成することが判明しており、熱活性化方法と比較してゲル形成反応を促進させるからである。多数の適当な光開始剤を使用することができ、中でも2−ヒドロキシ−1[4−2(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン(Irgacure 2959)及び2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(DMPA)が好ましい。他の適当な光開始剤にはベンゾフェノン、ベンゾイン及びベンゾインエーテル(例えば、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインメチルエーテル)、ジアルコキシアセトフェノン、ヒドロキシアルキルフェノン、α−ヒドロキシメチルベンゾインスルホン酸エステルが含まれる。熱活性化では熱開始剤の添加が必要である。適当な熱開始剤には1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO(登録商標)触媒88)、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム及び過酸化ベンゾイルが含まれる。
【0087】
反応をU.V.照射により開始させる場合には、ゲル形成反応の反応物に光開始剤を添加し、モノマー、架橋剤及び光開始剤の混合物を含んでいる支持部材に波長250nm〜400nmのU.V.光を数秒〜数時間照射する。ある種の光開始剤では、重合を開始させるために可視波長光が使用され得る。重合を開始するには、支持部材はUV光が支持体を透過できるように使用する波長において低い吸光度を有していなければならない。好ましくは、支持体及びマクロ多孔質ゲル試薬に350nmで数秒〜最長2時間照射する。
【0088】
好ましくは、熱重合は60〜80℃で数分〜最長16時間行う。
【0089】
重合速度がマクロ多孔質ゲル中に得られるマクロ孔のサイズに影響を及ぼす。上記したように、ゲル中の架橋剤の濃度を十分な濃度まで増加させると、ゲルの成分は凝集し始めてポリマー密度の高い領域とポリマーが殆どまたは全くない領域が生じ、後者の領域が本明細書中では「マクロ孔」と呼ばれる。重合速度によって影響を受けるのがこのメカニズムである。光重合における光度が低いときのように重合をゆっくりと行うと、ゲル成分の凝集に時間がかかり、よってゲル中により大きな孔が生ずる。或いは、高い光度の光源を使用するときのように重合を高速で行うと、凝集するのに余り時間がかからず、より小さな孔が生ずる。
【0090】
複合材料を作成したら、未反応成分及び支持体内に固定されていないポリマー及びオリゴマーを除去するために各種溶媒で洗浄され得る。複合材料を洗浄するのに適した溶媒には水、アセトン、メタノール、エタノール及びDMFが含まれる。
【0091】
複合材料の使用
本発明の複合材料は、液体をゲルのマクロ孔に通す多種多様の用途において使用され得る。マクロ孔を通過させる液体は、例えば細胞懸濁液または凝集物懸濁液のような溶液または懸濁液から選択することができる。
【0092】
幾つかの実施形態では、複合材料は分離を実施するために使用され得る。使用には限外濾過や精密濾過系のようなサイズ排除分離が含まれる。本発明の複合材料は、利用可能な孔サイズが広範囲であり、異なる孔サイズを有する複合材料を容易に作成できることから前記タイプの用途において有利である。幾つかの実施形態では、サイズ排除分離のために用いられる複合材料が完全には占有されていないこと、すなわち複合材料中を流れる全てまたは実質的に全ての液体がマクロ多孔質ゲル中を流れるが、支持部材の空隙容積がマクロ多孔質ゲルにより完全には占有されていないことが好ましい。空隙容積が完全に占有されておらず、支持部材の第1主表面またはその近隣のマクロ多孔質ゲルの密度が支持部材の第2主表面またはその近隣の密度よりも高い複合材料は非対称であるとみなされる。
【0093】
マクロ多孔質ゲルが電荷を有している実施形態では、マクロ孔表面電荷と制御されたマクロ孔サイズを組み合せることによりドナン型排除分離に使用され得る複合材料が作成される。これらの場合では、高電荷密度と高水流(流束)を有する複合材料が作成される。高電荷密度と高透過率の組合せは高イオン交換能力を有する複合材料を与えることにより、例えば金属イオンの吸着において有用であり得る。後記実施例は、これらの複合材料がタンパク質や他の関連分子の回収にも使用され得、本発明の複合材料が高い結合能力を発揮することを立証している。
【0094】
本発明の複合材料は、生体分子(例えば、タンパク質)が複合材料のマクロ孔中にあるリガンドまたは結合部位と特異的相互作用を有し得るので溶液から生体分子を分離するためにも適している。この特異的相互作用には静電的相互作用、親和性相互作用または疎水性相互作用が含まれ得る。分離され得る生体分子または生体イオンを含めた分子またはイオンの例にはアルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン)のようなタンパク質及びリゾチームが含まれるが、ウイルスや細胞のような超分子凝集物の分離にも使用され得る。分離され得る他の生体分子の例にはヒト及び動物起源のγ−グロブリン、ヒト及び動物起源の免疫グロブリン(例えば、IgG、IgMまたはIgE)、タンパク質Aを含めた組換えまたは天然起源のタンパク質、合成または天然起源のポリペプチド、インターロイキン−2及びその受容体、酵素(例えば、ホスファターゼ、デヒドロゲナーゼ)、モノクローナル抗体、トリプシン及びそのインヒビター、異なる起源のアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン、鶏卵アルブミン等)、シトクロムC、免疫グロブリン、ミオグロブリン、組換えヒトインターロイキン、組換え融合タンパク質、核酸由来産物、合成または天然起源のDNA及びRNA、並びに小分子を含めた天然産物が含まれる。生体分子の分離は殆どゲルのマクロ孔中で起こるが、ゲル自体内でも速度は遅いが起こり得る。
【0095】
幾つかの複合材料は可逆的吸着剤として使用され得る。これらの実施形態では、ゲルのマクロ孔またはメッシュ(ミクロ孔)中に吸着されている物質(例えば、生体分子)をマクロ多孔質ゲル中に流す液体を変えることにより放出させることができる。吸着されている物質の取り込み及び放出の点でゲルの特性をコントロールするためにゲル組成の変化が使用され得る。本発明の複合材料の別の利点は膜の形態で作成することができ、膜ベースの生体分子の回収は現在慣用されている一般的な充填カラムクロマトグラフィー法よりも容易に規模を拡大でき、労働集約も低く、より迅速であり、資本コストも低いことである。
【0096】
幾つかの複合材料は化学合成または細胞増殖用の固体支持体としても使用され得る。これらの方法のために必要とされる反応物質または栄養素を複合材料のマクロ孔中に連続的に流すこともできるし、マクロ孔の内部に残留させ、その後押し出すこともできる。1つの実施形態では、複合材料をペプチドの段階的産生において使用され得る。そのような用途では、アミノ酸をマクロ孔表面に結合させ、その後アミノ酸溶液をマクロ孔中に通してペプチド鎖を製造する。その後、形成されたペプチドを適当な溶媒をマクロ孔中に通すことにより支持体から脱離させることができる。このタイプの合成を実施するのに現在用いられている支持体は遅い拡散特性を与える小孔を有するビーズから構成されている。本発明の複合材料はより均一な孔構造を有しており、液体流が制御拡散されない貫通孔を有している。
【0097】
用途分野にはバイオテクノロジーも含めた製薬、食品、飲料、ファインケミカル及び金属イオンの回収が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
応答性複合材料の使用
好ましくは、応答性マクロ多孔質ゲルを含む複合材料(応答性複合材料)はサイズ排除メカニズムに基づいて流体成分を分画するために使用される。このメカニズムにより、濾過デバイスの孔に接近する分子または粒子の対流及び拡散に対して立体障害が働く。輸送に対する障害はフィルター中の孔半径対分子または粒子半径の比に相関している。この比が1:1に近づくと、分子または粒子は濾過デバイスにより完全に保持される。孔半径を変化させることにより、サイズの異なる分子または粒子はその孔を通過でき、サイズによる分画が達成される。
【0099】
応答性複合材料は、該材料の孔が狭い孔サイズ分布を有しているのでサイズ排除メカニズムにうまく適合する。これは、従来の限外濾過膜/精密濾過膜で通常可能な場合よりも分子量が非常に近似している分子をサイズ排除分離できることを意味する。幾つかの実施形態では、本発明の応答性複合材料により分離される分子間のサイズの差は約0.9nmくらい小さくてもよい。他の実施形態では、分解能は約0.5nmくらい小さい。幾つかの公知の限外濾過膜は狭い孔サイズ分布を有する(例えば、持つトラック膜)が、その膜はコストがかかり、流束が比較的低いという欠点を有している。
【0100】
複合材料が親水性である実施形態では、分子が複合材料に殆どまたは全く吸着されないので複合材料はタンパク質のサイズ分離にうまく適合している。通常、タンパク質は非特異的結合しやすい。よって、応答性複合材料は多成分タンパク質混合物をタンパク質画分のサイズのみに基づいてばらばらの画分に分離するのに適している。排他的サイズ排除法によるタンパク質の分離は、タンパク質の非特異的結合または変性さえももたらすさえあり得る他の物理化学的効果(例えば、静電気電荷効果、静電気二重層効果及び疎水的相互作用効果)と一緒にサイズの差を用いる当業界で公知のタンパク質の分離方法とは異なる。従って、サイズ排除によるタンパク質の分離のために複合材料を使用すると、不可逆的結合によるタンパク質の変性またはそのロスが避けられる。本発明の応答性複合材料を用いるタンパク質の分離は、タンパク質と分離媒体間に強い相互作用を伴なわず、治療用タンパク質回収の経済面で重要な因子である高い総合効率でタンパク質を回収できる非常に適切な方法である。
【0101】
応答性複合材料を用いる分離の1例は、ヒト免疫グロブリンG(IgG)(サイズ160kDa)からのヒト血清アルブミン(HSA)(サイズ60kDa)の分離である。サイズに基づくタンパク質の分離は一定環境条件において可能である。(例えば、弱酸または弱塩基官能基を有するゲルを含む供給物中の低塩濃度で)膨潤状態または部分膨潤状態の応答性マクロ多孔質ゲルを用いると、低分子量を有するタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)は複合材料中を自由に透過することができるが、高分子量を有するタンパク質(例えば、ヒト免疫グロブリンG)は保持され得る。一定環境条件で操作する場合、限外濾過法により2つの生産物流が生じ、この一定環境モードは二成分混合物、すなわち一方のタンパク質から別のタンパク質を分画するのに適している。
【0102】
本発明の応答性複合材料は、該応答性複合材料の動的孔サイズ能力を利用するサイズに基づくベース分離を用いて2つ以上の生成物流を生成するために使用され得る。この多成分分離は、環境条件の変化に応答する膜の孔サイズの変化が緩やかであるので可能である。このモードで(すなわち、環境条件を変化させて)操作する場合、この方法は多タンパク質混合物からタンパク質を分離するのに適している。この方法では、応答性ゲルの環境を適切に変化させることにより環境を階段的にまたは徐々に変化させる。例えば、二成分または三成分バッファー系を用いて濾過プロセスを実施するために使用されるバルク媒体のpHを変化させることにより、孔サイズを変化させ得、その結果サイズに基づく逐次分離を行うことができる。段階変化モードで操作すると、各ステップにおいて1つの画分が生じ、各画分はその次の画分よりも小さいタンパク質を含んでいる。n個の画分を生成する場合、これらの(n−1)個は透過液中で得られ、n番目の画分は保持液中に残る。
【0103】
上記した多成分分離は限外濾過膜及びナノ濾過膜の全く新しい使用を表す。このタイプの多成分分離はクロマトグラフ濾過とも呼ばれる。この新しいタイプの分離の幾つかの具体的用途には以下のものが含まれる:
(a)鶏卵白成分の分画;
(i)リゾチーム(分子量14,100);
(ii)オボアルブミン(分子量47,000);
(iii)アビジン(分子量68,300);
(iv)コンアルブミン(分子量80,000);
(b)ヒト血漿タンパク質の分画;
(i)ヒト血清アルブミン(HSA;分子量67,000);
(ii)ヒト免疫グロブリンG(HIgG;分子量155,00);
(iv)他のヒト免疫グロブリン(例えばHIgM;分子量>300,000);
(c)デキストランの分子量別画分への分画;
(d)PEGの分子量別画分への分画;
(e)ポリマーの分子量別画分への分画;及び
(f)ミクロンサイズ粒子のサイズ別画分への分画。
【0104】
本発明の複合材料はバルク物質の分離に非常に適しているが、より少ない容積規模での成分の分離にも使用され得る。例えば、応答性複合材料は生化学物質(例えば、抗体、他の生理活性タンパク質、ホルモン、多糖類及び核酸)を分析前に分離するために使用され得る。現在用いられている多くの生体特異的分析方法(例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA))は、ポリスチレンなどの固体表面(ELISA法の場合)または合成膜(免疫ブロット法の場合)への上記した物質(例えば、抗体、抗原、リガンド及び基質アナログ)の結合またはそれらの物質と生体特異的に相互作用する物質の結合に基づいている。これらの検査の検出限界は多くの場合デバイス(例えば、マイクロウェルプレートや平らなシート膜のブロット区分)中の有効表面積により限定される。物質を固体表面に結合することにより付加される別の限界は、検査の基となっている生体特異的認識に影響を及ぼす立体障害の可能性である。溶液相認識及び結合に頼っている生体特異的分析方法(例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA))も利用可能である。これらの方法は多くの場合、分析しようとする物質を保持し、濃縮するために多孔質合成膜の使用を頼りにしている。しかしながら、これらの膜の透過率の固定された性質は限定要因になると思われる。応答性複合材料を用いると、分析しようとする物質を含有している溶液からの物質の順次除去を助け、固定透過率の膜では実現不可能な分析を助ける。また、応答性膜はアッセイを干渉しそうな物質の検査溶液からの除去を促進するために利用することもできる。
【0105】
応答性複合材料はサイズ排除分離に用いるのに特に適しているが、にもかかわらずマクロ多孔質ゲル中に適当なモノマーまたはポリマーを配合することによりドナン型分離及び特異的結合分離に用いることができる。
【0106】
複合材料の応答性は、使用後(複合材料から作られている)膜の孔を開け、その後その環境変化を逆転させることにより孔をその初期の値に戻して再調整することができる。孔を開くと、汚れ物質を除去することにより膜が容易にクリーニングされ、これにより膜の有効使用期間が長くなる。
【0107】
安定化ポリマー及び安定な複合材料
マクロ多孔質ゲル含有複合材料の幾つかの実施形態において、特に非常に親水性のマクロ多孔質ゲルの場合、マクロ多孔質ゲルを乾燥させるとゲルの特性が変化する。場合により、複合材料を乾燥させるとゲルに亀裂の形のダメージが生じ、マクロ多孔質ゲルの有効孔径がランダムにコントロール不能に変化する。複合材料の長期間貯蔵、操作または輸送を乾燥サンプルを用いて実施することが好ましいので、複合材料を再湿潤させたときに多孔性及び形態が保持されることが望ましい。乾燥に起因してゲルがダメージを受けるという問題は通常乾燥前にゲルに保湿剤(例えば、グリセロール)を導入することにより解決されてきた。保湿剤を存在させた結果として生じる恐れがある膜貯蔵中の微生物増殖を防ぐために、抗菌成分も通常添加されている。これらの添加剤は使用前に洗い出す必要があるので多くの場合望ましくなく、幾つかの抗菌性添加剤(例えば、アジ化ナトリウム)は黄銅取付部品に対して腐食性である。従って、公知の処理を避けながらも貯蔵、輸送及び組立てのためにダメージや寸法変化を与えずに乾燥され得る複合材料を提供する解決法が要望されている。
【0108】
今回、実質的に水に不溶であるが水に膨潤する安定化ポリマーを架橋マクロ多孔質ゲルに添加することにより安定な複合材料が得られることを知見した。この安定化ポリマーはマクロ多孔質ゲルネットワーク中に捕捉されるが、該ゲルネットワークに共有結合されていない。ポリマー鎖がゲルネットワーク中に捕捉されると乾燥時にゲルが崩壊及び亀裂するのが防止され、複合材料は元の形態に迅速に再湿潤され得る。
【0109】
安定化ポリマーの水不溶性/水膨潤性の相対バランスは、溶媒とポリマー特性の関係である3次元凝集パラメータδを用いて調べることができる(D.Rabelo,F.M.B.Coutinho,Polym.Bull.,33:479(1994);D.Rabelo,F.M.B.Coutinho,Polym.Bull.,33:487(1994);D.Rabelo,F.M.B.Coutinho,Polym.Bull.,33:493(1994))。3次元凝集パラメータは、式:
δ=δ+δ+δ
に従って分散性相互作用δ、双極性相互作用δ及び水素結合相互作用δからの寄与を考慮している。3次元ダイアグラムでは、溶媒及びポリマーは2点で示され、溶媒−ポリマー親和性はこれらの2点からの距離dで表され得る(D.Rabelo,F.M.B.Coutinho,Polym.Bull.,33:479(1994)):
=4(δd1−δd2+(δp1−δp2+(δh1−δh2
添え字1及び2はそれぞれ溶媒及びポリマーを示す。
【0110】
多くの凝集パラメータが文献に記載されている(A.F.M.Barton,CRC Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters,第2版,フロリダ州ボカラトンに所在のCRC Press(1991年)発行)。入手できないパラメータはHoftyzer−Van Krevelen及びHoy(E.A.Grulke,Polymer Handbook,第4版,J.Brandrup,E.H.Immergut,E.A.Grulke編,ニューヨークに所在のWiley−Interscience(1999年)発行,第VII章,p.675;D.W.Van Krevelen,Properties of Polymers,第2版,アムステルダムに所在のElsevier(1976年)発行,第7章,p.129)に従う原子団寄与方法を用いて推定され得る。多官能性ポリマーの場合、n寄与原子団の平均凝集パラメータは以下の式に従って計算され得る(D.Rabelo,F.M.B.Coutinho,Polym.Bull.,33:487(1994)):
【数1】

【0111】
φは容積含有率を示し、添え字iは分散性相互作用の種類(d、p及びh)を示す。
【0112】
文献(D.Rabelo,F.M.B.Coutinho,Polym.Bull.,33:479(1994))は、良溶媒はd<10.0、中間溶媒は10.0<d<12.7、不良溶媒はd>12.7と規定している。
【0113】
本明細書中、安定化ポリマーと水の親和性は記号d(HO)で表され、これは溶媒が水の場合の上記親和性パラメータ(affinity parameter)を示す。本発明の安定化ポリマーは好ましくは12〜40、より好ましくは12〜25のd(HO)値を有する。
【0114】
安定化ポリマーの水不溶性と水膨潤性のバランスは、適当なモノマーまたはコモノマーを選択することにより各種ポリマーで達成され得る。幾つかの場合、求められているバランスは、水との相互作用が弱いモノマー(コモノマー)、例えば強い双極子モーメントを有するモノマーまたは水素結合を形成する能力を有する中性モノマーを1つ以上用いることにより達成される。アミド基を有する中性モノマーがこのカテゴリーに入る。他の場合には、水不溶性/水膨潤性の所要バランスを有するポリマーを得るために疎水性を有するコモノマーが親水性モノマー、例えば荷電モノマーと組み合わされ得る。
【0115】
安定化ポリマーの例にはセルロース誘導体、例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、2−ヒドロキシエチルセルロース及びエチルセルロースが含まれる。安定化ポリマーの更なる例にはポリエステル、例えばポリ(エチレンアジペート)、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(DL−ラクチド)及びポリ(dl−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)(EVAL)(例えば27、32、38または44モル%のエチレン含量を有するもの);ポリアミド、例えばポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6/6)及びポリ(ヘキサメチレンセバカミド)(ナイロン6/10);ポリアクリレート、例えばポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)及びポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート);ポリヒドロキシスチレン(ポリ(4−ビニルフェノール);芳香族ポリ(エーテルスルホン);40%加水分解されたポリ(ビニルアルコール)(Mowiol 40−88)が含まれる。安定化ポリマーの更なる例には水不溶性の部分帯電ポリマー、例えばスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK,<86% スルホン化)、スルホン化ポリ(フェニレンオキシド)(S−PPO,<70% スルホン化)、スルホン化ポリスルホン(S−PS;<70% スルホン化)、アミノ化ポリスルホン(<70% アミノ化)、部分アミノ化ポリ(フェニレンオキシド)(Q−PPO;<70% アミノ化)、部分プロトン化またはアルキル化ポリ(4−ビニルピリジン)(Q−P4VP;<30% プロトン化またはアルキル化)及び中性モノマーと帯電モノマーのコポリマー(例えば、5、10、15または20重量%のアクリル酸を含有し得るポリ(エチレン−コ−アクリル酸))が含まれる。好ましい安定化ポリマーはエチレン−コ−ビニルアルコールコポリマーまたは酢酸セルロースである。
【0116】
あるセルロース誘導体(例えば、酢酸セルロース)の水不溶性/水膨潤性バランスは、ポリマーのアセチル化度によりコントロールされ得る。幾つかの場合には、約29〜約61重量%のアセチル化度が好ましい。
【0117】
安定化ポリマーは直鎖でも分枝鎖のいずれでもよいが、幾つかの場合には分枝鎖ポリマーが好ましい。なぜならば、ゲルとの絡み合い量が多いために分枝鎖ポリマーがマクロ多孔質ゲル内により容易に保持されるからである。更に、安定化ポリマーは好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは40,000〜150,000の分子量を有する。しかしながら、必要な分子量及び分枝鎖量はマクロ多孔質ゲルの種類、安定化ポリマーの種類及び複合材料を介して溶出される溶媒の種類により決定されるので、安定化ポリマーの分子量の上記範囲は限定的でないと意図する。安定化ポリマーは実質的に水不溶性であるが水膨潤性であるという要件を満たす限り、本発明の一部として含まれる。
【0118】
安定化ポリマーを僅かに架橋することができるが、架橋レベルは安定化ポリマーがマクロ多孔質ゲルと同一の相中に残るという要件と釣り合わされる。架橋量が多くなって安定化ポリマーの別の相が生ずることは避けなければならない。
【0119】
好ましくは、安定化ポリマーは複合材料中にマクロ多孔質ゲル中のモノマー、架橋剤及びポリマーの合計量に基づいて5〜50重量%の量で存在する。より好ましくは、安定化ポリマーは5〜30重量%、更に好ましくは10〜25重量%の量で存在する。
【0120】
安定化ポリマーを含む複合材料の作成を助けるために、複合材料はマクロ多孔質ゲルを調製するために使用する溶媒中に可溶性であることが好ましい。安定化ポリマーは温度の上昇に対してかなり安定であるので、安定化ポリマーの溶解を助けるためにマクロ多孔質ゲルを調製するために使用した溶媒を加熱してもよい。
【0121】
安定化ポリマーはゲルを機械的に安定化させるだけでなくポロゲンとしても作用するという別の役割を果たすことも判明した。安定化ポリマーのこの2つの役割は、複合材料の使用前に洗い出され、その後廃棄せざるを得ない材料の量が減らせる点で特に魅力的である。
【実施例】
【0122】
以下の実施例は本発明を説明するために提示する。しかしながら、各実施例に記載されている具体的な詳細は説明のために選ばれ、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでないと理解される。通常、別段の記載がない限り実験は同様の条件下で実施した。
【0123】
実験
(使用した材料)
使用したモノマーはアクリルアミド(AAM)、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(AMPS)、塩化(3−アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウム(APTAC)、塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TRIM)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及びN−ビニルピロリドン(NVP)であった。使用した架橋性ポリマーは平均分子量(MW)が25000Daの分枝鎖ポリ(エチレンイミン)(BPEI)、平均分子量が200、1000、2000、4000及び10000Daのポリ(エチレングリコール)(PEG)及び平均分子量が6000Daのポリ(アリルアンモニウム塩酸塩)(PAH)であった。BPEIに対して使用した架橋剤はエチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)であった。使用した安定化ポリマーはエチレン−コ−ビニルアルコールコポリマー(EVAL)及び酢酸セルロース(CA)であった。使用した高分子プロゲンは平均分子量が8000Daのポリ(エチレングリコール)(PEG)であった。
【0124】
使用した溶媒はアセトン(Ac)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、2−プロパノール(IPA)、シクロヘキサノール(CHX)、ジクロロメタン(CHCl)、脱イオン水、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ドデカノール(DDC)、グリセロール、メタノール、1−オクタノール及び1−プロパノールであった。
【0125】
使用したフリーラジカル重合開始剤は2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(Irgacure(登録商標)2959)、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(DMPA)及び1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO(登録商標)触媒88)であった。
【0126】
使用したタンパク質はウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム、ヒト血清アルブミン(HSA)及びヒト免疫グロブリン(HIgG)であった。
【0127】
使用した他の化学物質はアクリロイルクロリド、塩酸、アジ化ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4−モルホリンエタンスルホン酸(MES)及びバッファー(トリスバッファー)であった。
【0128】
使用した多孔質支持体は3M Company製の平均孔径が0.45μm、厚さが125μm及び細孔率が85容積%のポリ(プロピレン)熱誘導相分離(TIPS)膜PP1545−4、3M Company製の平均孔径が0.9μm、厚さが87μm及び細孔率が84容積%のPP1183−3X、及びHollingworth & Vose Company製の平均孔径が6.5μm、厚さが250μm及び細孔率が89.5容積%の不織メルトブローンポリ(プロピレン)TR2611Aであった。
【0129】
(複合材料の作成)
本発明の複合材料は以下の一般的な方法により作成することができる。秤量した支持部材をポリ(エチレンテレフタレート)(PET)またはポリ(エチレン)(PE)シートの上に置き、このサンプルにモノマーまたはポリマー溶液を加えた。次いで、サンプルに別のPETまたはPEシートを被せ、余分の溶液を除去するためにサンドイッチ上にゴムローラを動かした。波長350nmの光を10〜120分間照射するかまたはサンドイッチを60〜80℃で2時間加熱することにより重合を開始してサンプル中で現場でゲル形成した。照射は、通常長さ12インチのランプ4本を約1.5インチ離間させて備えており、約0.1ワット/インチの出力エネルギーで365nmの光を発光するシステムを用いて実施した。このシステムには熱を放散させるための小型ファン(他の温度コントロール手段はない)が設けられていた。被照射サンプルはランプから約5インチ離して配置した。予形成したポリマー及び現場架橋を用いてゲルを形成する場合には、架橋反応が完了するまでサンドイッチを室温に通常2〜16時間放置した。得られた複合材料を適当な溶媒または一連の溶媒で十分に洗浄し、細菌の増殖を防止するために0.1重量%のアジ化ナトリウム水溶液中に保存した。支持体中に形成されたゲルの量を測定するため、サンプルを真空中室温で恒量まで乾燥させた。ゲル取り込みによる質量増加を乾燥ゲルの付加質量/多孔質支持体の初期質量の比として計算した。或いは、複合材料は70〜80℃のオーブンにおいて60分間乾燥させた。
【0130】
幾つかの例では、乾燥させた複合材料の再湿潤を研究した。この研究では、サンプルを水面上に平らに置き、その後サンプルが完全に湿らすのに要する時間を測定した。サンプルを水中に15分間放置し、その後質量及び寸法を再び測定した。再湿潤サンプルの流体力学的透過率を再び試験した。
【0131】
(流束の測定)
サンプルを水で洗浄した後複合材料を介する水の流束を測定した。標準的な方法として、直径7.8cmのディスク形態のサンプルを厚さ3〜5mmの焼結グリッド上に載せ、一定圧力下で圧縮窒素が供給されているセルに組み込んだ。セルに脱イオン水または別の供給溶液を充填し、所望の圧力を加えた。特定時間内に複合材料を通過した水を予秤量した容器に回収し、秤量した。実験はすべて室温、透過液出口で大気圧下で実施した。各測定は±5%の再現性を得るべく3回以上繰り返した。
【0132】
水流束[QH2O(kg/m・時)]を以下の関係式から計算した:
【数2】

【0133】
上記式中、mは水サンプルが収容されている容器の質量であり、mは容器の質量であり、Aは有効膜表面積(38.5cm)であり、tは時間である。
【0134】
本発明の複合材料は、非充填型支持部材の水流束値よりも小さい水流束値を有し得、用途に応じて流束は約1/2〜約1/数百に低下させ得る。限外濾過用途では、流束は約1/10〜約1/数百に低下させ得る。
【0135】
膜の流体力学的ダルシー透過率[k(m)]は以下の式から計算した:
【数3】

【0136】
上記式中、ηは水の粘度(Pa・s)であり、δは膜の厚さ(m)であり、dH2Oは水の密度(kg/m)であり、ΔP(Pa)は流束[QH2O]を測定したときの圧力差である。
【0137】
膜の流体力学的ダルシー透過率を用いて多孔質ゲル中の孔の平均流体力学的半径を概算した。流体力学的半径[r]は細孔容積対孔濡れ表面積の比と定義され、J.Happel及びH.Brenner,Low Reynolds Number Hydrodynamics,レイデンに所在のNoordhof Int.Publ.(1973年)発行,p.393に記載されているカーマン−コズニー式から求められ得る:
【数4】

【0138】
上記式中、Kはコズニー定数であり、εは膜の細孔率である。細孔率0.5<ε<0.7の場合のコズニー定数Kは≒5である。膜の細孔率は、支持体の細孔率からゲルポリマーの容積を差し引くことにより概算した。
【0139】
(タンパク質の吸着/脱着実験)
タンパク質吸着実験を2種のタンパク質、すなわちウシ血清アルブミン(BSA)及びリゾチームを用いて実施した。膜の形態の正帯電複合材料を用いる実験では、膜サンプルをまず蒸留水、その後トリスバッファー溶液(pH=7.8)で順次洗浄した。吸着ステップでは、直径7.8cmの単膜ディスクの形態の複合材料サンプルを、水流束測定のために使用した上記セル中の厚さ3〜5mmの焼結グリッド上に載せた。バッファー溶液1mlあたり0.4〜0.5mgのBSAを含有しているBSA溶液をセルに注いで複合材料に対して5cmのヘッド圧を与えた。BSA溶液を更に添加することにより5cmの静水圧を一定に保った。この方法の改変では、セルを圧縮窒素で加圧した。流量は、透過液の量を時間の関数として秤量することにより測定した。典型的な値は1〜5ml/分で変化した。透過液サンプルを2〜5分間隔で収集し、280nmでのUV分析により分析した。この吸着ステップの後、セル中の複合材料をトリスバッファー溶液(約200ml)で洗浄し、脱着は5cmのヘッド圧または圧縮窒素の一定圧力下で1M NaClを含有するトリスバッファー溶液を用いて実施した。透過液サンプルは2〜5分間隔で収集し、BSA含量について280nmでのUV分析により試験した。
【0140】
負帯電複合材料の場合には、0.5g/Lの濃度でリゾチームをMESバッファー溶液(pH=5.5)中に含む溶液をBSA及び正帯電材料について上記した方法と同様の方法で使用した。ここでもタンパク質吸着中の流量は1〜5ml/分に保った。タンパク質を脱着させる前に、膜にバッファー溶液(200ml)を通すことにより膜を洗浄した。タンパク質の脱着は、1M NaClを含有しているMESバッファー溶液(pH=5.5)を用いてBSAの脱着について上記した方法と同様にして実施した。収集サンプル中のリゾチーム含量は280nmでのUVスペクトル分光分析により測定した。
【0141】
他の例のタンパク質吸着試験では、直径19mmの複膜スタックをPall Corporation製Mustang(登録商標)Coin Device中に置き、タンパク質溶液は蠕動ポンプを用いて一定流量で膜スタックに対してデリバリーした。上記した方法と同一の方法で透過液画分を収集し、分析した。タンパク質の脱着は上記した方法と同様にして実施した。ただし、緩衝化1M NaClを重力または圧縮窒素圧の代りに蠕動ポンプを用いて膜スタックに対してデリバリーした。
【0142】
(タンパク質分離実験)
タンパク質−タンパク質分画方法における本発明の応答性複合材料の分離特性を試験するために使用した実験方法は、Ghoshと彼の同僚が開発し、いずれも参照により本明細書に組み入れるR.Ghosh及びZ.F.Cui,Analysis of protein transport and polarization through membranes using pulsed sample injection technique,Journal of Membrane Science,175(1):75−84(2000);R.Ghosh,Fractionation of biological macromolecules using carrier phase ultrafiltration,Biotechnology and Bioengineering,74(1):1−11(2001);及びR.Ghosh,Y.Wan,Z.F.Cui及びG.Hale,Parameter scanning ultrafiltration:rapid optimisation of protein separation,Biotechnology and Bioengineering,81:673−682(2003)に記載されているパルス式注入限外濾過法及びその誘導法に基づくものである。使用した実験設備は、R.Ghosh,Y.Wan,Z.F.Cui及びG.Hale,Parameter scanning ultrafiltration:rapid optimisation of protein separation,Biotechnology and Bioengineering,81:673−682(2003)に記載されているパラメーター走査型限外濾過に使用したものに似たものであった。
【0143】
限外濾過実験では二元キャリヤ相系を使用した。すべての応答性複合材料実験における出発キャリヤ相は低塩濃度(通常、5〜10mM NaCl)のものであった。これらの実験のすべてにおいてキャリヤ相を高塩濃度(通常、1M NaCl)のものに切り換えた。膜モジュール内の塩濃度の変化は透過液流の導電率を観察することにより追跡し得る。膜間圧の変化から、塩濃度の変化による膜の流体力学的透過率の変化に関する知見が得られた。
【0144】
実施例1
本実施例では、本発明の複合材料を作成するためにマクロ多孔質ゲルとして使用され得る非支持型多孔質ゲルの形成を示す。
【0145】
75%水溶液としての塩化(3−アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウム(APTAC)モノマー(3.33g)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)架橋剤(0.373g)及びIrgacure(登録商標)2959光開始剤(0.0325g)をジオキサン:ジメチルホルムアミド:水(容積比71:12:17)混合物(25ml)中に溶解状態で含有している溶液を調製した。この溶媒混合物において、ジオキサンは不良溶媒であるが、DMF及び水は良溶媒である。こうして、0.58モル/Lの全モノマー濃度(APTAC及びBIS)が得られた。架橋度はAPTACに基づいて20モル%であった。この溶液5mlをガラス製バイアル中に入れ、350nmのUV光を2時間照射した。白色ゲルが形成され、これを脱イオン水で十分に洗浄して反応溶媒を交換し、未反応モノマーまたは可溶性オリゴマーを除去した。
【0146】
形成されたゲルは機械的に非常に弱かった。このゲルのサンプルを、ゲルの乾燥を防ぐためにサンプルチャンバーに水蒸気を存在させながら低真空走査電子顕微鏡を用いて調べた。図1に示す顕微鏡写真は暗い孔だらけの領域を有しており、これからマクロ多孔質ゲルが形成されたことが分かる。
【0147】
実施例2
本実施例では、実施例1に記載した組成を有するモノマー溶液をポリ(プロピレン)多孔質支持体PP1545−4のサンプルに加える本発明の正帯電複合材料の作成方法を示す。この複合材料は、350nmのUV光を2時間照射して上記した一般的な方法に従って作成した。重合の後、複合材料を脱イオン水で48時間洗浄した。
【0148】
得られた複合材料の乾燥後の質量増加は107重量%であり、水流束は50kPaで1643±5kg/m・時であり、ダルシー透過率は9.53×10−16であった。
【0149】
ゲルを取り込んだ複合材料の形態を実施例1に記載した方法と同一の方法でESEMを用いて調べた。図2に示すESEM顕微鏡写真は、マクロ多孔質ゲルがホスト膜の中に取り込まれていたことを示す。この顕微鏡写真は図1に示した非支持型マクロ多孔質ゲルに類似した構造を示しており、ミクロ孔質支持部材の痕跡は殆どない。
【0150】
実施例3
本実施例では、本発明の弱酸官能基を有する負帯電複合材料の作成方法を示す。
【0151】
真空蒸留したメタクリル酸(MAA)モノマー(5.50g)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド架橋剤(0.4925g)及びIrgacure(登録商標)2959光開始剤(0.1503g)をジオキサン:DMF(容積比9:1)溶媒混合物(25ml)中に溶解して、出発モノマー溶液を調製した。複合材料は、ポリ(プロピレン)PP1545−4支持体及び上記した光重合についての一般的な方法を用いて作成した。照射時間は2時間とし、得られた膜をDMFで24時間洗浄した後脱イオン水で48時間洗浄した。得られた乾燥膜の質量増加は231重量%であり、水流束は50kPaで4276±40kg/m・時であり、ダルシー透過率は2.64×10−15であった。
【0152】
この複合材料のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を上に概説した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて試験した。この実験で使用したタンパク質の濃度は10mM MESバッファー(pH5.5)中0.5g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4ml/分に調節した。透過液中のリゾチーム濃度対透過液容積のプロットを図3に示す。単膜ディスクでも比較的急勾配のブレークスルー曲線が得られ、これから膜における孔サイズ分布が均一で狭いことが分かる。この複合材料は42.8mg/mlのブレークスルーリゾチーム結合能力を有している。1M NaClを含有するバッファー溶液を用いた脱着実験により、タンパク質の回収率は83.4%であったことが分かった。
【0153】
実施例4
本実施例では、実施例3に記載したタイプの弱酸官能基を有する複合膜の水流量(流束)に対する全モノマー濃度及び溶媒混合物の影響を示す。
【0154】
表1にリストされている化学組成のモノマー溶液及び多孔質支持体PP1545−4を用いて一連の複合膜(MAA1〜MAA5)を作成した。実施例3に記載した作成方法を使用した。
【表1】

【0155】
表1から分かるように、本発明の複合材料の水流量(流束)は溶液中へのモノマー添加量を調節することにより適合させることができる。均質ゲルではゲル密度が高くなった後透過率が低くなる典型的な傾向が見られるのは逆に、この一連の膜では質量増加が大きくなると流束も大きくなる。溶媒混合物中の不良溶媒(ジオキサン)の濃度を増加させると流束が更に増加する(サンプルMAA3及びMAA5を比較されたい)。
【0156】
実施例5
本実施例では、本発明の強酸官能基を有する負帯電複合材料の作成方法を示す。
【0157】
2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(AMPS)モノマー(2.50g)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド架橋剤(0.372g)及びIrgacure(登録商標)2959架橋剤(0.0353g)をジオキサン:HO(容積比9:1)混合物(25ml)中に溶解して含む溶液を使用した。この溶液及び支持体PP1545−4から上記した一般的な方法に従う光重合を用いて複合材料を作成した。照射時間は350nmで1時間とした。重合後、膜を脱イオン水で48時間抽出した。得られた膜の質量増加は74.0重量%であり、水流束は50kPaで2559±40kg/m・時であり、ダルシー透過率は1.58×10−15であった。
【0158】
実施例6
本実施例では、強酸官能基を有する複合膜の水流量に対する溶媒混合物の組成及び架橋度の影響を更に示す。表2にリストされている化学組成を用い、一般的な作成方法及び実施例5と同じ照射条件に従って一連の複合膜(AMPS1〜AMPS5)を作成した。
【表2】

【0159】
この表から分かるように、溶媒中のポリマーの溶解度と複合膜の水流束の関係に関して実施例4に記載したのと同様のパターンが観察された。AMPS2とAMPS4の比較から、複合膜の水流量(流束)は架橋度によっても調節できることが分かる。
【0160】
実施例7
本実施例では、本発明の負帯電複合材料への中性コモノマーの導入の影響を示す。
【0161】
2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(1.750g)、アクリルアミド(0.485g)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド架橋剤(0.868g)及びIrgacure(登録商標)2959光開始剤(0.044g)をジオキサン:DMF:HO(容積比8:1:1)混合物(25ml)中に溶解状態で含有している溶液を調製した。この溶液及び支持体PP1545−4から上記した一般的な方法に従う光重合を用いて複合材料を作成した。照射時間は350nmで1時間とした。重合後、膜を脱イオン水で48時間抽出した。
【0162】
得られた膜の質量増加は103重量%であり、水流束は100kPaで7132±73kg/m・時であり、ダルシー透過率は4.40×10−15であった。
【0163】
実施例8
本実施例では、本発明の正帯電複合材料を作成する1つの方法を示す。
【0164】
モル比5:1の塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)モノマー及びN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)架橋剤を37重量%の水、45重量%のジオキサン及び18重量%のDMFを含有する溶媒混合物中に溶解させることにより15重量%溶液を調製した。光開始剤Irgacure(登録商標)2959をモノマー質量に対して1%の量で添加した。
【0165】
この溶液及び支持体PP1545−4から上記した一般的な方法に従う光重合を用いて複合材料を作成した。照射時間は350nmで30分間とした。ポリエチレンシート間から複合材料を取り出し、水及びトリスバッファー溶液で洗浄し、水中に24時間保存した。
【0166】
上記したサンプルに類似のサンプルを数個作成し、平均して複合材料の質量増加を概算した。この処理で支持体は元の重量の42.2%増加した。
【0167】
この方法により作成した複合材料の水流束は70kPaで2100〜2300kg/m・時であり、ダルシー透過率は9.87×10−16であった。
【0168】
複合材料のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。この実験で使用したタンパク質の濃度は50mM トリスバッファー中0.4g/Lであった。流量は2〜4ml/分であった。透過液中のBSA濃度対透過液の容積のプロットを図4に示す。この複合材料のBSA結合能力は48〜51mg/mlであった。BSA脱着は78〜85%の範囲であることが判明した。
【0169】
実施例9
本実施例では、実施例6で使用した荷電モノマーに中性モノマーを添加することによりタンパク質結合能力を実質的に増加させ得ることを示す。
【0170】
80:20の比で塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)及びアクリルアミド(AAM)を63重量%のジオキサン、18重量%の水、15重量%のDMF及び4重量%のドデカノールを含有する溶媒混合物中に溶解させることにより10重量%溶液を調製した。このモノマー溶液にN,N’−メチレンビスアクリルアミド架橋剤を添加することにより40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure(登録商標)2959をモノマーの全質量に対して1%の量で添加した。
【0171】
この溶液及び支持体PP1545−4から上記した一般的な方法に従う光重合を用いて複合材料を作成した。照射時間は350nmで20分間とした。複合材料をポリエチレンシート間から取り出し、水、トリスバッファー溶液で洗浄し、水中に24時間保存した。
【0172】
上記したサンプルに類似のサンプルを作成し、複合材料の質量増加を概算するために使用した。この処理で支持体は元の重量の80%増加した。
【0173】
この方法により作成した複合材料の水流束は70kPaで250kg/m・時の範囲であり、ダルシー透過率は1.09×10−16であった。
【0174】
この複合材料のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。タンパク質濃度は50mM トリスバッファー溶液中0.4g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4ml/分に調節した。この複合材料は104mg/mlのBSA結合能力を有していた。
【0175】
実施例10
本実施例では、予形成したポリマーの架橋による支持型多孔質ゲル複合材料の形成を示す。
【0176】
3つの別々の溶液を以下の組成で調製した:(A)メタノール(50ml)中25,000Daを有する分枝鎖ポリ(エチレンイミン)(BPEI)(20g)、(B)メタノール(50ml)中〜10,000Daを有するポリ(エチレングリコール)PEG(20g)、及び(C)メタノール(5ml)中エチレングリコールジグリシジルエーテル(0.324g)。
【0177】
(A)2ml、(B)3ml及び(C)5mlから構成される3つの溶液の混合物を調製した。生じた溶液の一部をバイアル中に一晩静置して相分離を観察した。上側の透明ゲル層の形態の試験から、該ゲル層がマクロ多孔質であったことが分かった。
【0178】
同じ混合溶液を一般的な方法に記載した手法によりポリ(プロピレン)支持体PP1545−4サンプル上に塗布した。この膜を2枚のポリ(エチレンテレフタレート)シートの間に挟み、一晩放置した。この複合材料を室温においてメタノールで24時間抽出し、95%の質量増加が観測された。この複合材料の水流束は100kPaで6194kg/m・時であり、ダルシー透過率は4.89×10−10であった。
【0179】
この複合材料の動的タンパク質吸着能力を、上記の一般的な説明中に記載した単膜ディスクの方法においてBSA溶液(0.4mg/ml)を用いて測定した。この複合材料はブレークスルー前68mg/mlの能力を有していた。
【0180】
実施例11
本実施例では、グリシジルメタクリレート(GMA)及び架橋剤として使用したエチレンジメタクリレート(EDMA)を現場重合して作成した複合材料の流体力学的特性に対するモノマー混合物の組成及び重合条件の影響を示す。使用した溶媒はドデカノール(DDC)、シクロヘキサノール(CHX)及びメタノールであった。多孔質ポリプロピレン支持膜PP1545−4及び現場重合の2つの開始モードを上記した一般的な方法に従って使用した。光重合モードでは、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(DMPA)を光開始剤として使用し、熱重合は1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)により開始した。いずれのモードでも、重合は2時間実施した。
【0181】
重合条件及び多孔質ポリ(グリシジルメタクリレート−コ−エチレンジアクリレート)を含む複合材料の特性を表3に示す。
【表3】

【0182】
この一連の複合材料において得られた質量増加は重合混合物中の全モノマー濃度に比例している。膜AM612、AM615及びAM619は高濃度のモノマーを用いて作成したが、膜AM614及びAM616ではモノマー濃度は約半分に減らした(表3)。
【0183】
膜間圧100kPaで測定した純水流束が高い値(表3)であることから、孔充填材料がマクロ多孔質であることが分かる。純水流束、よって流体力学半径はその質量増加だけでなく、重合モードによっても影響される。図5に示すように、流体力学半径は質量増加の線形関数であり、その勾配はその重合モードに依存する。熱重合における負の勾配の絶対値は光重合した複合材料の2倍である。これは、同じ質量増加では光重合した複合材料は熱重合した複合材料よりも大きい孔を有していることを意味する。このように、熱重合よりも速く進む光重合はより大きい孔を生ずる。いずれの重合の場合でもモノマー転化率は実際上同じ(類似の質量増加)であるので、疎水性によるかまたは重合物に対する微細な閉じ込めを作ることによるポリ(プロピレン)支持体の存在が孔形成及び孔充填材料の最終構造に影響を及ぼす。
【0184】
溶媒をドデカノール/シクロヘキサノール(9/91)から他の溶媒よりもより安価且つ環境的により許容されるメタノールに変えることにより、非常に高い流束を有する複合材料が得られた(膜AM619、表3)。この複合材料は濃厚モノマー混合物から作成され、その流束は質量増加が膜AM619のほぼ半分である膜AM614のそれに匹敵した。
【0185】
本実施例及び以下の実施例は本発明の幾つかの複合材料の特徴を示す。モノマー及び溶媒の組成及び濃度を変えることができるので、様々な多孔質構造を有する安定な複合材料を作成することができる。表3に示すように、このようにして大きな孔を有する複合材料を作成することができる。
【0186】
実施例12
本実施例では、本発明の複合材料の流体力学的特性に対するモノマー混合物の組成の影響を更に示す。
【0187】
ポリ(プロピレン)支持膜の孔中にアクリルアミド(AAM)及び架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)を現場光重合により形成した多孔質ポリ(アクリルアミド)ゲルを含む一連の複合材料を上記した一般的な方法に従って作成した。使用した多孔質支持部材はポリ(プロピレン)TIPS膜PP1545−4であった。光開始剤としては2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(DMPA)または1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(Irgacure(登録商標)2959)を使用した。照射は350nmで2時間行った。孔充填溶液の組成及び得られた複合材料の特性を表4に要約する。
【表4】

【0188】
膜AM606〜AM609は非常に類似のモノマー濃度(12.0〜14.4重量%)及び類似の比較的高い架橋度(モノマーの16.8〜18.0重量%)を用いて作成した。これらの複合材料で得られた質量増加も非常に類似していた。図6に示すように、孔充填溶液中の全モノマー濃度と光重合後に得られる質量増加の間には比例関係がある。
【0189】
非溶媒なしの水溶液から作成した複合材料(AM606)中の架橋度が高いと、比較的高い透過率が得られる。驚くべきことに、直鎖ポリ(アクリルアミド)に対する不良溶媒であるメタノールまたはグリセロールをこの直鎖ポリマーに対する良好溶媒である水に添加すると、ダルシー透過率及びそれに基づいて計算した流体力学的半径が大幅に低下する。透過率の低下はメタノールよりもグリセロールの方が大きく、溶液中のグリセロールの量と共に大きくなる。
【0190】
不良溶媒の混合物(例えば、N,N’−ジメチルホルムアミド及び1−プロパノールまたは1−オクタノール)の使用並びに架橋度及び全モノマー濃度の更なる増加を膜AM610、AM611及びAM617において試験した。表4に示すように、これらすべての複合材料では溶媒の1つとして水を用いて作成した複合材料と比較して実質的により高い透過率及び流体力学半径が得られる。これは全モノマー濃度を上昇させたにもかかわらず起り、膜AM610及びAM617におけるモノマー濃度は溶媒の1つとしての水を用いて作成した膜中のモノマー濃度の2倍以上である。他の溶媒をAM610の1−プロパノールからAM617の1−オクタノールに変化させても透過率及び流体力学半径は実質的に増加する。
【0191】
膜AM610の表面の顕微鏡像を図7(AFM)及び図8(ESEM)に示す。比較のため、発生期の多孔質支持部材のESEM像も図8に示す。いずれの像も部材表面を覆う多孔質相分離ゲルを示しており、認識できる支持部材要素は見られない。
【0192】
膜AM611はDMF及び1−プロパノールを用いて作成したが、その全モノマー濃度はAM610のちょうど半分位であった。膜AM611は非常に高い流束を示し、流体力学半径はAM610の3倍である。この膜の表面のESEM像を図9に示す。膜表面上に数個のスポットで形成されてはいるが、膜からは離れているバルクゲル(下側の像)に似ている非常に多孔質のゲル構造(上側の像)が示されている。
【0193】
膜AM610とAM611の表面の比較を図10に示す。これら2つのゲル中の構造部材のサイズの大きな差が明確に見える。
【0194】
本実施例で作成した複合材料は限外濾過膜として役立ち得る。複合材料の孔サイズ、よってその分離特性が広い範囲の値を得るためにコントロールされ得ることが分かった。
【0195】
実施例13
本実施例では、本発明の複合材料を通る水流量(流束)に対する支持部材の孔サイズの影響を示す。
【0196】
孔サイズが0.45μm及び0.9μmである2枚のポリプロピレン支持膜PP1545−4及びPP1183−3Xを用いて、39.4重量%のグリシジルメタクリレート及び9.2重量%のエチレンジアクリレートをメタノール中に含有する、すなわちモノマー混合物中に48.6重量%のモノマー及び18.9重量%のエチレンジアクリレート(架橋剤)を有する同一モノマー混合物を用いて複合材料を作成した。使用した光開始剤はモノマーの1.3重量%の量のDMPAであった。
【0197】
この複合材料は上記した一般的な方法に従って作成した。照射時間は350nmで2時間とした。得られた複合材料をメタノール及び脱イオン水で順次洗浄した。複合材料を100kPaでの水流束について試験して、ダルシー透過率及び流体力学半径を計算した。結果を表5に示す。
【表5】

【0198】
このデータは両複合材料の流体力学半径も実験誤差の範囲内で同じであることを示しており、これらの複合材料が類似の構造のマクロ多孔質ゲルを含んでいることが実証される。
【0199】
実施例14
本実施例では、本発明の複合材料を作成するための架橋剤として使用され得るポリ(エチレングリコール)(PEG;分子量4000、2000、1000及び200)ジアクリレートの合成を示す。
【0200】
使用した合成方法は、参照により本明細書に組み入れるN.Ch.Padmavathi,P.R.Chatterji,Macromolecules,29:1976(1996)に記載されている方法に従う。250ml容積の丸底フラスコにおいてPEG4000(40g)をCHCl(150ml)中に溶解させた。このフラスコに別々にトリエチルアミン(2.02g)及びアクリロイルクロリド(3.64g)を滴下した。最初反応温度を氷浴を用いて0℃に3時間コントロールし、その後反応物を室温まで加温して、12時間維持した。反応混合物を濾過して沈殿したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。次いで、濾液を過剰量のn−ヘキサン中に注いだ。濾過し、室温で乾燥することにより、無色の生成物(PEG4000ジアクリレートと呼ばれる)を得た。
【0201】
同一方法を他の分子量を有するPEGを用いて使用した。PEG対アクリロイルクロリドのモル比は上記PEG400の場合と同一に保った。
【0202】
実施例15
本実施例では、リゾチームに対して高い吸着能力を有する負帯電複合材料を作成するための別の方法を示す。
【0203】
モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(AMPS)(0.6g)及びアクリルアミド(AAM)(0.4g);架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)(0.25g)及び実施例14で得たPEG4000ジアクリレート(1.0g);及び光開始剤としてIragure(登録商標)2959(0.01g)をジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)及び水(容積比80:10:10)からなる溶媒(10ml)中に含有する溶液を調製した。
【0204】
膜の形態の多孔質ポリ(プロピレン)支持部材(PP1545−4)を使用し、複合材料は一般的な方法により作成した。照射は350nmで20分間実施した。重合後、複合材料を脱イオン水で24時間十分に洗浄した。
【0205】
得られた複合材料の乾燥後の質量増加は113.2重量%であり、水流束は100kPaで366±22kg/m・時であり、ダルシー透過率は2.26×10−16であった。
【0206】
この複合材料のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を上に概説した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。この実験で使用したタンパク質の濃度は10mM MESバッファー(pH5.5)中0.5g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4ml/分に調節した。透過液中のリゾチーム濃度対透過液の容積のプロットを図11に示す。比較的急勾配のブレークスルー曲線が得られることが分かる。この複合材料は103.9mg/mlのリゾチーム結合能力を有していた。脱着実験から、タンパク質の回収率は64.0%であることが分かった。
【0207】
実施例16
本実施例では、実施例15と同じ公称ポリマー組成を有するが非常に高い流体力学的流量(流束)及び良好なリゾチーム取り込み能力を有する負帯電複合材料の作成を示す。
【0208】
モノマー溶液は、実施例15で調製した溶液をアセトンで質量比1:1で希釈することにより調製した。
【0209】
膜の形態の多孔質ポリ(プロピレン)支持部材(PP1545−4)を使用し、複合材料は一般的な方法に従って作成した。照射時間は2時間とした。重合後、複合材料を脱イオン水で24時間十分に洗浄した。
【0210】
得られた複合材料の乾燥後の質量増加は51.1重量%であり、100kPaでの水流束は6039±111kg/m・時であり、ダルシー透過率は3.73×10−15であった。
【0211】
この複合材料のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を上に概説した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。この実験で使ったタンパク質の濃度は10mM MESバッファー(pH5.5)中0.5g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4ml/分に調節した。透過液中のリゾチーム濃度対透過液の容積のプロットを図12に示す。比較的急勾配のブレークスルー曲線が得られることが分かる。この複合材料のリゾチーム結合能力は75.4mg/mlであった。脱着実験から、タンパク質の回収率は65.0%であることが分かった。
【0212】
実施例17
本実施例では、非常に高い流束を有するがタンパク質結合能力が低い負帯電複合材料を作成するための別の方法を示す。
【0213】
モノマー溶液は、実施例15で調製した溶液をアセトンで質量比1:2で希釈することにより調製した。
【0214】
膜の形態の多孔質ポリ(プロピレン)支持部材(PP1545−4)を使用し、複合材料は上記した一般的な方法に従って作成した。UV重合は2時間実施した。重合後、複合材料を脱イオン水で24時間十分に洗浄した。
【0215】
得られた複合材料の乾燥後の質量増加は34.4重量%であり、100kPaでの水流束は12184±305kg/m・時であり、ダルシー透過率は7.52×10−15であった。
【0216】
この複合材料のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を上に概説した単膜ディスクについての一般的な方法により調べた。(この実験で使ったタンパク質の濃度は10mM MESバッファー(pH5.5)中0.5g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4ml/分に調節した。)透過液中のリゾチーム濃度対透過液の容積のプロットを図13に示す。比較的急勾配のブレークスルー曲線が得られることが分かる。この複合材料のリゾチーム結合能力は53.5mg/mlであった。脱着実験から、タンパク質の回収率は99.0%であることが分かった。
【0217】
実施例15、16及び17は、ホスト膜中への多孔質ゲルの充填をコントロールすることが可能であり、よって規定圧力(実施例にあるデータでは100kPa)での水流束をコントロールすることが可能であること及びリゾチームの取り込み量は取り込まれた多孔質ゲルの質量と相関していることを示している。
【0218】
実施例18
本実施例では、マクロモノマーを使用する良好なタンパク質吸着能力及び良好な流束の両方を有する負帯電膜の作成を示す。
【0219】
2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(AMPS)(0.6g)、アクリルアミド(AAM)(0.4g)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)(0.25g)、Irgacure(登録商標)2959(0.01g)及び実施例14で得たPEG2000マクロモノマー(1.0g)をジオキサン−(DMF)−水(容積比80:10:10)混合物(10ml)中に溶解状態で含有しているモノマー溶液を調製した。
【0220】
膜の形態のミクロ孔質ポリ(プロピレン)支持部材(支持体PP1545−4)及び上記した一般的な方法を使用した。照射時間は20分とした。重合後、この膜を脱イオン水で24時間十分に洗浄した。
【0221】
得られた膜の乾燥後の質量増加は108.4重量%であり、水流束は100kPaで1048±4kg/m・時であり、ダルシー透過率は6.47×10−16であった。
【0222】
この膜のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を上に概説した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。比較的急勾配のブレークスルー曲線が得られた。この膜は88.7mg/mlのリゾチーム結合能力を有していた。脱着実験から、タンパク質の回収率は64.0%であることが分かった。
【0223】
実施例19
本実施例では、上記実施例18と組み合せて膜のタンパク質結合能力及び流れ特性が適合され得ることを更に示す。
【0224】
モノマー溶液は、実施例18で調製した溶液をアセトンで質量比1:1で希釈することにより調製した。
【0225】
膜の形態の多孔質ポリ(プロピレン)支持部材(支持体PP1545−4)及び上記した複合材料についての一般的な方法を使用した。照射時間は90分間とした。重合後、膜を脱イオン水で24時間十分に洗浄した。
【0226】
得られた複合材料の乾燥後の質量増加は45.7重量%であり、100kPaでの水流束は7319±180kg/m・時であった。
【0227】
この膜のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を上に概説した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。比較的急勾配のブレークスルー曲線が観察された。この膜は63.4mg/mlのリゾチーム結合能力を有していた。脱着実験から、タンパク質の回収率は79.3%であったことが分かった。
【0228】
実施例20
本実施例では、本発明の複合材料のタンパク質結合能力に対する中性コモノマーの影響を示す。
【表6】

【0229】
ストック溶液S1〜S4の対応希釈溶液を用い、上記した一般的な作成方法に従うことにより複合膜M1〜M4を作成した。使用した多孔質支持体はPP1545−4であり、照射時間は90分間とした。重合終了後、複合膜を脱イオン水で24時間洗浄した。
【0230】
複合膜の特性及びタンパク質結合能力を調べ、結果を表7に示す。高分子電解質ゲルの電荷密度は膜へのタンパク質吸着に有意な影響を及ぼすことが明らかである。
【表7】

【0231】
実施例21
本実施例では、本発明の複合材料のタンパク質結合能力に対する架橋剤として使用した多官能性マクロモノマー(PEGジアクリレート)の鎖長の影響を示す。
【0232】
2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(AMPS)(0.6g)、アクリルアミド(AAM)(0.4g)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)(0.10g)、Irgacure(登録商標)2959(0.01g)及び実施例14で得た分子量の異なる(200、1000、2000、4000)PEGジアクリレート(1.0g)をジオキサン−DMF−水(容積比80:10:10)混合物(10ml)中に溶解状態で含有している一連のストック溶液を調製した。次いで、これらのストック溶液をアセトンで質量比1:1で希釈した。これらの溶液からポリ(プロピレン)支持体PP1545−4を用い、上記した一般的な作成方法に従って一連の複合膜を作成した。照射時間は90分に設定した。重合完了後、複合膜を脱イオン水で24時間洗浄した。
【0233】
複合膜の物性及びタンパク質結合能力を単膜ディスクについての一般的な方法に従って調べた。表8に示した結果は複合膜のゲル構造がタンパク質吸着に対して実質的な影響を及ぼすことを明確に示している。多分、これはマクロ孔表面近くの、タンパク質がゲル層中にある深さで侵入し得る非常にルーズな構造が形成され得るゲル構造に関連している。別の可能性は、より長い鎖のPEGジアクリレートを使用することにより表面が若干ファジイであるために表面積が増大し、よってタンパク質が利用可能な吸着部位がより多くなることである。
【表8】

【0234】
実施例22
本実施例では、正帯電マクロ多孔質ゲルを含む本発明の複合材料を作成するための繊維状不織支持体の使用を示す。
【0235】
80:20の比の塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)及びアクリルアミド(AAM)を65重量%のジオキサン、18重量%の水及び17重量%のDMFを含有する溶媒混合物中に溶解させることにより10重量%溶液を調製した。このモノマー溶液にN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)を添加して、40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure(登録商標)2959を全モノマー質量に対して1%の量で添加した。
【0236】
繊維状不織ポリプロピレン支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に置き、モノマー溶液を充填した。次いで、支持体に別のポリエチレンシートを被せ、得られたサンドイッチを2つのゴムローラー間で移動させてモノマー溶液を孔の中へ押し込み、余分の溶液を除去した。重合を生起させるために充填支持体に350nmの光を20分間照射した。複合材料をポリエチレンシート間から取り出し、水、トリスバッファー溶液で洗浄し、水中で24時間保存した。2つのサンプルを用いて複合材料の質量増加を概算した。この処理で支持体は元の重量の45%増量した。
【0237】
この方法で作成した複合材料の水流束は70kPaで2320kg/m・時の範囲であった。
【0238】
この複合材料の単層のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単膜ディスクについての一般的方法及び多膜スタックについての一般的方法を用いて調べた。膜スタックは、7層の膜を1.75mmの全厚さで含んでいた。いずれの実験でも、タンパク質濃度は50mM トリスバッファー溶液中0.4g/Lであり、使用したタンパク質溶液の流量は3.1±0.1ml/分であり、蠕動ポンプによりデリバリーした。BSAに対するブレークスルー能力は、単膜実験では64mg/mlであり、多膜スタック実験では55±2mg/mlであった。
【0239】
実施例23
本実施例は、本発明の正帯電複合材料を作成する際の2つのモノマーの混合物の使用を示す。
【0240】
50:50の比の塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)及び塩化(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム(APTAC)を65重量%のジオキサン、18重量%の水及び17重量%のDMFを含有する溶媒混合物中に溶解させることにより10重量%溶液を調製した。このモノマー溶液にN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)を添加して40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure(登録商標)2959を全モノマー質量に対して1%の量で添加した。
【0241】
不織ポリプロピレン支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に置き、モノマー溶液を充填した。その後支持体に別のポリエチレンシートを被せ、得られたサンドイッチを2つのゴムローラー間で移動させてモノマー溶液を孔の中へ押し込み、余分の溶液を除去した。重合を生起させるために充填支持体に350nmの光を20分間照射した。複合材料をポリエチレンシート間から取り出し、水、トリスバッファー溶液で洗浄し、水中に24時間保存した。
【0242】
この方法で作成した複合材料の水流束は70kPaで2550kg/m・時の範囲であった。2つのサンプルより求めた質量増加は45%と判明した。
【0243】
この単層複合材料のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。この膜に濃度0.4g/LでBSAを50mM トリスバッファー溶液中に含む溶液を流量2〜4ml/分でデリバリーした。この複合材料のブレークスルー能力は40mg/mlであった。
【0244】
実施例24
本実施例では、実施例23で使用した荷電モノマーの混合物への中性モノマーの添加の影響を示す。
【0245】
40:40:20の比の塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)、塩化(3−アクリルアミド−プロピル)トリメチルアンモニウム(APTAC)及びアクリルアミド(AAM)を65重量%のジオキサン、17重量%の水及び18重量%のDMFを含有している溶媒混合物中に溶解させることにより15重量%溶液を調製した。このモノマー溶液にN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)を添加して20%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure(登録商標)2959を全モノマー質量に対して1%の量で添加した。
【0246】
不織ポリプロピレン支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に置き、モノマー溶液を充填した。次いで、支持体に別のポリエチレンシートを被せ、得られたサンドイッチを2つのゴムローラー間で移動させてモノマー溶液を孔の中へ押し込み、余分の溶液を除去した。重合を生起させるために充填支持体に350nmの光を20分間照射した。複合材料をポリエチレンシート間から取り出し、水、トリスバッファー溶液で洗浄し、水中に24時間保存した。
【0247】
この方法で作成した複合材料の水流束は70kPaで550kg/m・時であり、質量増加(2つのサンプルを用いて測定)は65重量%であった。
【0248】
この単層複合材料のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単膜ディスクについての一般的方法により調べた。この膜に濃度0.4g/LでBSAを50mM トリスバッファー溶液中に含む溶液を流量3.5〜4ml/分でデリバリーした。この複合材料のブレークスルー能力は130mg/mlであった。
【0249】
実施例25
本実施例では、予形成したポリマーの架橋による非支持型正帯電マクロ多孔質ゲルの形成を示す。
【0250】
ポリ(アリルアミン塩酸塩)PAHの10%溶液を、該ポリマーを60%の水及び40%のイソプロパノール(2−プロパノール)を含有する溶媒混合物中に溶解させることにより調製した。6.67N NaOHを添加することによりポリマーを部分的に(40%)脱プロトン化した。この溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)を添加して40%(モル/モル)の架橋度を得た。PAHのアミン基とEDGEのエポキシ基の間で架橋反応させてゲルを形成するために溶液を室温に3時間保持した。3時間後、すべての未反応化学物質を浸出させるためにゲルを水浴中に入れた。
【0251】
この湿潤ゲルのサンプルをESEMを用いて調べた。図14に示す顕微鏡写真は、約70〜80μmの孔径を有するマクロ多孔質ゲルが形成されたことを示している。この湿潤ゲルは機械的に非常に弱かった。
【0252】
実施例26
本実施例では、不織繊維支持体中に取り込まれるマクロ多孔質ゲルの調製を示す。
【0253】
ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)の10重量%溶液を実施例25と同様にして調製した。このポリマーを実施例25に記載されているように部分的に脱プロトン化し、EDGEを添加し、この溶液を2枚のポリエチレンシート間に配置した不織ポリプロピレン膜支持体TR2611Aのサンプルに適用した。得られたサンドイッチを2つのゴムローラー間で移動させてポリマー溶液を支持体の孔の中へ押し込み、均一に広げ、余分の溶液を除去した。溶液充填支持体サンプルを、架橋反応を生起してゲルを形成するために室温で3時間保持した。その後、複合材料をサンドイッチから取り出し、未反応化学物質を浸出させるために水浴に12時間入れた。
【0254】
得られた複合膜の湿潤サンプルをESEMを用いて調べた。図15に示す顕微鏡写真は、複合膜が繊維状不織支持部材中にマクロ多孔質ゲルを有していることを示している。このゲルの平均孔径は約25〜30μmであった。膜厚さは800μmであり、100kPaで測定した水流束は592kg/m・時であった。この複合材料は約10mg/mlというかなり低いBSA結合能力を示した。
【0255】
実施例27
本実施例では、本発明の複合膜によるタンパク質吸着とPall Corporation製の市販Mustang(登録商標)Coin Qの比較を示す。
【0256】
実施例22で作成した複合材料を、実施例22に記載した試験プロトコルに従って7層の膜を1.75mmの全厚さで含む多膜スタックで試験した。Mustang(登録商標)Coin Qも同一条件下で試験した。膜スタックは、湿潤状態の膜サンプルの7層を互いの上に配置することにより作成した。組み立てた膜スタックを軽く圧縮して余分の水を除去した。次いで、膜スタックを60〜70℃のオーブン中で少なくとも30分間加熱した。得られた膜スタックの乾燥状態の厚さは1.8〜1.9mmであった。この方法により、複数の膜層が相互にくっついているスタックが得られた。図16に示す結果から、いずれのシステムも同じような性能を発揮することが分かる。
【0257】
実施例28
本実施例では、多孔質支持部材及び該支持体の孔を塞いでいる均質ゲルを含む基準複合材料の流体力学的(ダルシー)透過率を示す。この均質ゲルは熱力学的に良好な溶媒を使用して得、その均質性は同時に形成した同じ組成の非支持型ゲルの透明度に基づいて評価した。常に不透明であったマクロ多孔質ゲルとは対照的に、濁りのない透明なゲルは均質であると推定された。
【0258】
(A)グリシジルメタクリレートベースの均質ゲルを充填した複合材料
グリシジルメタクリレート−コ−エチレングリコールジメタクリレート(GMA−コ−EDMA)の均質ゲルを含む複合材料は、溶媒として1,4−ジオキサン及びモノマー混合物中4.7重量%のEDMA(架橋剤)を用い、異なる全モノマー濃度で作成した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545−4及び本発明の複合材料を作成するための一般的方法を使用した。光開始剤としてDMPAを用い、照射は350nmで120分間実施した。膜の流体力学的透過率を測定し、流体力学的透過率[k]とPP1545−4支持体中にポリ(GMA−コ−EDMA)均質ゲルを含む複合膜の質量増加の関係についての実験式を導いた。式は以下の通りである:
k=3.62×10×G−9.09
この透過率の測定値と上式からの計算値との差は±3%未満であることが判明した。その後、この実験式を異なる質量増加での基準複合材料の透過率を計算するために使用した。
【0259】
(B)ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)ベースの均質ゲルを充填した複合材料
塩化ジアリルジメチルアンモニウム−コ−メチレンビスアクリルアミド(DADMAC−コ−ビス)の均質ゲルを含む複合材料は、溶媒として水及びモノマー混合物中1.0重量%のビス架橋剤を用い、異なる全モノマー濃度で作成した。トリトンX−114界面活性剤をメタノール/水(60/40)混合物中に含有する2重量%溶液中にポリ(プロピレン)支持体PP1545−4サンプルを16時間浸漬した後空気中で乾燥させることにより、前記支持体サンプルに前記界面活性剤をコーティングした。均質ゲル充満膜を作成するために本発明の複合材料の一般的な作成方法を使用した。光開始剤としてIrgacure(登録商標)2959を使用し、照射は350nmで30〜40分間実施した。一連の膜の流体力学的透過率を測定し、ダルシー透過率[k]と質量増加[G]の関係についての実験式を導いた:
k=2.09×10−12×G−4.01
(C)アクリルアミドベースの均質ゲルを充填した複合材料
均質ポリ(アクリルアミド)−コ−メチレンビスアクリルアミド(AAM−コ−ビス)の流体力学的透過率を、Kapurら,Ind.Eng.Chem.Res.,35:3179−3185(1996)に記載されているゲル透過率とゲルポリマー容積含有率の実験的な関係式から概算した。この式によれば、ポリ(アクリルアミド)ゲルの流体力学的透過率kゲルは4.35×10−22×φ−3.34(ここで、φはゲル中のポリマー容積含有率である)である。同じ論文において、Kapurらはゲルの流体力学的透過率と同一ゲルを充満した多孔質膜の流体力学的透過率の関係を示している。この関係によれば、膜の透過率kは(ε/τ)×kゲル(ここで、εは支持体の細孔率であり、τは支持体孔のくねり度である)である。孔くねり度は、所与の細孔率に対するコズニー定数[K]すなわちK=5と直円筒毛細管に対するコズニー定数すなわちK=2の比として概算され得る。よって、細孔率0.85のポリ(プロピレン)支持体PP1545−4の場合、この比(ε/τ)は0.85/2.5=0.34である。
【0260】
ポリマー容積含有率[φ]は、ポリ(アクリルアミド)の部分比容積[ν]とポリ(プロピレン)の密度[ρ]を用いて質量増加に換算され得る。これらのパラメーターの値は、Polymer Handbook,Brandrupら編,第VII章,ニューヨークに所在のWiley and Sons(1999年)発行に記載されている。よって、ポリマーが孔のφ含有率を占有しているゲルが細孔率εのポリ(プロピレン)支持体に充填されてなる複合材料の質量増加は、
【数5】

【0261】
により与えられる。
【0262】
上記式をKapurらの式と組み合せると実験的な関係が与えられ、これから異なる質量増加[G]での基準複合材料の流体力学的透過率[k]を計算することができる。組み合せた式は以下の通りである:
k=1.80×10−12×G−3.34
この式は、ρ=0.91g/cm;ε=0.85;ν=0.7cm/g;(ε/τ)=0.34に対して正当である。
【0263】
(D)ポリ(AMPS)ベースの均質ゲルを充填した複合材料
2−アクリルアミド−2−プロパン−1−スルホン酸−コ−メチレンビスアクリルアミド(AMPS−コ−ビス)の均質ゲルを含む複合材料は、溶媒として水及びモノマー混合物中10.0重量%のBIS架橋剤を用い、異なる全モノマー濃度で作成した。トリトンX−114界面活性剤をメタノール/水(60/40)混合物中に含有する2重量%溶液中にポリ(プロピレン)支持体PP1545−4サンプルを16時間浸漬した後空気中で乾燥させることにより、前記支持体に前記界面活性剤をコーティングした。均質ゲル充満膜を作成するために本発明の複合材料の一般的な作成方法を用いて作成した。光開始剤としてIrgacure(登録商標)2959を使用し、照射は350nmで60分間実施した。一連の膜の流体力学的透過率を測定し、ダルシー透過率[k]と質量増加[G]の関係についての実験式を導いた:
k=2.23×10−16×G−1.38
(E)ポリ(APTAC)ベースの均質ゲルを充填した複合材料
塩化(3−アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウム−コ−メチレンビスアクリルアミド(APTAC−コ−ビス)の均質ゲルを含む複合材料は、溶媒として水及びモノマー混合物中10.0重量%のビス架橋剤を用い、異なる全モノマー濃度で作成した。トリトンX−114界面活性剤をメタノール/水(60/40)混合物中に含有する2重量%溶液中にポリ(プロピレン)支持体PP1545−4サンプルを16時間浸漬した後空気中で乾燥させることにより、前記支持体に前記界面活性剤をコーティングした。均質ゲル充満膜を作成するために本発明の複合材料の一般的な作成方法を使用した。光開始剤としてIrgacure(登録商標)2959を使用し、照射は350nmで60分間実施した。一連の膜の流体力学的透過率を測定し、ダルシー透過率[k]と質量増加[G]の関係についての実験式を導いた:
k=9.51×10−16×G−1.73
(F)ポリ(エチレンイミン)ベースの均質ゲルを充填した複合材料
エチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)で架橋した分枝鎖ポリ(エチレンイミン)の均質ゲルを含む複合材料は、異なる濃度のBPEIメタノール溶液を用いて作成した。使用した架橋度は10モル%であった。ポリ(プロピレン)支持体PP1545−4及び実施例10に記載した架橋性ポリマーの現場架橋による複合材料の一般的な加工方法を用いた。溶液中のPEI濃度を変化させることにより異なる質量増加を有する一連の膜を作成した。膜のダルシー透過率を測定し、透過率[k]と質量増加[G]の関係を表わす実験式を導いた。式は以下の通りである:
k=4.38×10−14×G−2.49
【0264】
実施例29
本実施例では、本発明の支持型マクロ多孔質ゲルを含む複合材料のダルシー透過率と本発明で使用した多孔質支持部材を塞ぐ均質ゲルを含む基準複合材料の透過率の比較を示す。
【0265】
比較を以下の表9に示す。
【表9】

【0266】
実施例30〜37
これらの実施例では、アクリル酸(AA)(イオン性モノマー)、アクリルアミド(AAM)及び架橋剤としてのトリメチロールプロパントリアクリレート(TRIM)の光開始フリーラジカル重合を用いる本発明の応答性複合材料の作成方法を示す。アクリル酸対アクリルアミドのモル比は1:1であり、すべての実験において溶媒として1,4−ジオキサンを使用した。モノマー溶液の組成及び重合条件を表10に示す。重合後、応答性複合材料を脱イオン水で約16時間洗浄した。
【表10】

【0267】
支持部材中に形成されるゲルの量は、充填に利用可能な細孔容積、モノマー混合物の全濃度及び重合における転換度に依存する。図17には、支持体TR2611Aを用いて得た質量増加が全モノマー濃度の関数としてプロットされている。データは直線の範囲内に入るように概算され得(R=0.97)、各サンプルについて同程度の転換度であることが分かる。実験値は、支持体中の細孔容積及びモノマー濃度から概算した理論値に非常に近い。これから、転換度が100%に近いこと及び適用した光条件では10分の照射時間で十分であることが示唆される。予想されるように、PP 1545−4支持体の細孔率がTR2611A支持体よりも大きい(85容積%対79.5容積%)ために、PP 1545−4支持体を用いて得た質量増加はTR2611A支持体を用いて得た質量増加よりも高かった。
【0268】
実施例38
本実施例では、実施例30の応答性複合材料のイオン相互作用に対する応答性を示す。この目的で、複合材料を異なるpH及び/または塩濃度を有する溶液を用いて流束を100kPaで測定することにより試験した。膜AM675で観察されるpHを約3(1mM HCl)から約12(1mM NaOH)に変えたときに起る流束の典型的な変化を図18に示す。この図から、1mM HClで測定した流束は1mM NaOHで測定した流束よりもほぼ100倍大きいことが分かる。このような膜の挙動についての理由は、マクロ多孔質ゲルの酸成分のイオン化度が変化するためである。高pH(1mM NaOH)では、酸成分のカルボキシル基がイオン化され、ポリマーネットワーク弾性の中和力と膜の支持部材により与えられる閉じ込めが釣り合うまで静電気反発力によりポリマー鎖がアンコイルされ、伸張する。膨潤ポリマー鎖によりゲル中の孔容積及び孔半径が小さくなる。低pH(1mM HCl)では、カルボキシル基は中性のカルボン酸基に変換され、静電力は消え、ゲルは収縮(崩壊)し、その結果ゲル中の孔が大きくなる。支持部材が存在すると、ゲルが全体として(すなわち、非支持型バルクゲルで起るであろうプロセスから)崩壊し、孔が塞がれるのが防止される。よって、支持体の存在により、ゲルの流体力学的特性が変化する方向が反転する。純水流束を測定する場合、得られる測定値は水のpH(〜5.5)における平衡イオン化からの距離に依存する。最初の水流束は平衡状態で測定されると仮定され得る。酸または塩基の添加直後、ゲルは水との平衡状態からかけ離れ、純水流束はイオン化形態(NaOH後)または中性形態(HCl後)での流束に近づけることによりこの状態を反映している。
【0269】
1mM HClで測定した流束対1mM NaOHで測定した流束の比が膜応答性(MR)の尺度として採用されてきた。実施例30〜37に記載した膜で得た結果を表11に示す。
【表11】

【0270】
表11の結果から、本発明の複合膜のイオン相互作用に対する応答性はモノマー混合物の全濃度及び架橋度によってもコントロールされ得ることが分かる。モノマー濃度が高くなると、環境変化に対する膜感度は悪くなる。架橋度を高くしたときも同じような影響が見られる。
【0271】
実施例39
本実施例では、本発明の応答性複合材料をベースとする膜のタンパク質を分画する能力を示す。ケーススタディとして治療用タンパク質のヒト血清アルブミン(HSA)及びヒト免疫グロブリンG(HIgG)の分離を選んだ。ヒト血漿は多数の治療用タンパク質の製造用出発原料であり、血漿タンパク質と呼ばれている。これらの中で最も豊富なものがHAS及びHIgGであり、いずれも大量に製造されている。これらのタンパク質は通常、高い製造処理量が得られるが分離に関する分割能が乏しい沈殿ベース方法により分画されている。限外濾過のような膜ベース方法は高い処理量及び高い分割能の両方を与える可能性を有している。
【0272】
2枚の本発明の応答性マクロゲルを含む複合膜、すなわち2枚の膜AM695(表10と11を参照)を上記血漿タンパク質の分離の適合性について試験した。ここで検討する実験では、所望の方法でタンパク質−タンパク質を分離するために、すなわち膜モジュールから順次遊離させるために、膜の孔サイズを塩濃度を変化させることにより変化させた。pHのような他の環境条件を用いても同じような目的を十分に達成できる。
【0273】
限外濾過実験では二元キャリヤ相系を使用した。すべての実験において出発キャリヤ相は低塩濃度(通常、5〜10mM NaCl)のものであった。すべての実験においてキャリッド相は高塩濃度(通常、1M NaCl)のものに切り換えた。膜モジュール内の塩濃度の変化は透過液流の導電率を観測することにより追跡され得る。膜間圧の変化により、塩濃度の変化による膜の流体力学的透過率の変化についての見解が得られた。図19は、膜間圧及び導電率の変化を透過液塩濃度の関数として(図19A及びB)、膜間圧の変化を透過液導電率の関数として(図19C)示す。この実験では塩濃度を直線的に連続的に上昇させた。観察された膜間圧は透過液塩濃度に関連しており、孔径の変化を反映している。
【0274】
ヒト血清アルブミンとヒト免疫グロブリンの混合物を用いて実験を実施した。限外濾過を低塩濃度(すなわち、10mM)で開始した。この条件では、ヒト血清アルブミンは透過したが、ヒト免疫グロブリンGは殆ど全部保持された。その後塩濃度を上昇させると、孔径が大きくなった(定透過液流束限外濾過における圧力低下から明らかである)。これにより、ヒト免疫グロブリンGが膜を透過した。よって、環境条件を変化させることによりサイズの異なるタンパク質を同じ膜を介して順次透過させることができた。もし初期の混合物がヒト免疫グロブリンよりもかなり大きいタンパク質も含んでいたならば、塩濃度の変化を適切にコントロールすることにより3種のタンパク質(すなわち、ヒト血清アルブミン、ヒト免疫グロブリン及びかなり大きいタンパク質)を分画することができるであろう。ここで得られる3つの画分のうちの2つは透過液中にあり、第3の画分は保持液中にあるであろう。
【0275】
2つの膜AM694を用いて得た結果を図20、21及び22に示す。図20はHIgGの限外濾過で得た結果を示す。この図から明らかなように、低塩濃度では、たとえあるとしても非常に少量のHIgGしか透過しなかつた。しかしながら、塩濃度を上昇させると、HIgGが膜モジュールから放出された。塩濃度の上昇によるTMPの低下は孔径が増大したためであった。
【0276】
図21に示す結果はHSAの限外濾過で得た。この図から明らかなように、低塩濃度であってもHSAは自由に膜を透過した。塩濃度を上昇させると、HSAの透過がやや増えることが判明した。
【0277】
図22はHSA/HIgGの限外濾過で得た結果を示す。低塩濃度では、HSAのみが透過した。HSAが膜モジュールからほぼ完全に除去されるまで限外濾過を続けた。その後塩濃度を上昇させることによりHIgGが放出された。
【0278】
実施例40
本実施例では、高いタンパク質結合能力を有する本発明の正帯電複合材料の作成方法を示す。
【0279】
モル比1:0.32:0.1の塩化(3−アクリルアミドプロピル)−トリメチルアンモニウム(APTAC)、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド及び架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを10重量%の水、60重量%のジ(プロピレングリコール)メチルエーテル及び30重量%のジメチルホルムアミド(DMF)を含有する溶媒混合物中に溶解させることにより15重量%溶液を調製した。光開始剤Irgacure(登録商標)2959をモノマーの質量に対して1%の量で添加した。
【0280】
繊維状不織ポリプロピレン支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に配置し、モノマー溶液を充填した。次いで、支持体に別のポリエチレンシートを被せ、得られたサンドイッチ状を2つのゴムローラー間で移動させてモノマー溶液を孔の中に押し込み、余分の溶液を除去した。支持体に350nmの光を5分間照射した。その後、複合材料をポリエチレンシート間から取り出し、水及びトリスバッファー溶液で洗浄し、水中に24時間保存した。
【0281】
上記方法により数個のサンプルを作成し、その後サンプルを乾燥し、秤量した。複合材料の平均質量増加は出発支持部材の最初の重量の55.7%であった。
【0282】
上記複合材料の多膜スタックのタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単層複合材料についての一般的な方法を用いて調べた。試験した膜スタックは4層の膜を1.05mmの全厚さで含んでいた。使用したタンパク質溶液は濃度0.4g/Lでタンパク質を25mM トリスバッファー溶液中に含む溶液であり、このタンパク質溶液の流量は150kPaで5.0ml/分であった。BSAに対するブレークスルー能力は281mg/mlであった。その後の脱着工程において、約85%のBSAが回収された。
【0283】
実施例41
本実施例では、TRIMで架橋されており、HEMA−TRIMネットワークにより閉じ込められたEVAL安定化ポリマーを含有するマクロ多孔質ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)ゲルを含む典型的な複合材料の特性を例示する。
【0284】
使用した支持部材はポリ(プロピレン)不織布(TR2611A)であり、10.0重量%のHEMA、10.1重量%のTRIM、2.8重量%のEVALを60重量%の2−プロパノール及び40重量%の水を含有する溶媒混合物中に含むモノマー溶液を使用した。この溶液に光開始剤をモノマーの1重量%に等しい量添加した。溶液を上記した一般的方法に従って支持部材に適用した。照射は30分間実施した。得られた複合材料を脱イオン水を数回取り替えながら十分に洗浄し、サンプルを水透過率について試験した。2つのサンプルを70〜80℃で乾燥し、秤量し、その質量及び寸法を調べた。その後、サンプルを15分間再湿潤させた。その後、サンプル質量及び寸法を測定し、複合材料を水透過率について試験した。ゲルの取り込みによる質量増加は163±6重量%であることが判明した。乾燥前及びその後の複合材料の特性を表12に示す。
【表12】

【0285】
上表に示したデータから、寸法及び流体力学的透過率は乾燥前及びその後で実験誤差範囲内で同一に保持されたことが判明した。
【0286】
本実施例に従って作成した複合材料の乾燥前及びその後の顕微鏡写真を図23A及び23Bに示す。図23A及び23Bの顕微鏡写真は、HEMA−TRIM複合材料表面の概観に差がないことを示している。
【0287】
実施例42
本実施例では、孔半径の異なる安定な複合材料が同一のゲル化学を用いて作成され得ることを示す。
【0288】
5.0重量%のHEMA、5.0重量%のTRIM及び3.1重量%のEVALを60重量%の2−プロパノール及び40重量%の水を含有する溶媒混合物中に含むモノマー溶液を調製し、この溶液に光開始剤をモノマーの1重量%に等しい量添加した。溶液を多孔質支持部材に適用し、350nmの波長で30分間照射した。得られた複合材料を脱イオン水で十分に洗浄し、その寸法を測定し、その後複合材料を流体力学的透過率について試験した。70〜80℃で1時間乾燥させた後、複合材料を秤量し、その寸法を測定した。再湿潤させた複合材料を流体力学的透過率について調べた。結果を表13に示す。
【表13】

【0289】
上記データから、モノマー濃度を低下させると孔半径が大きい複合材料が作成され得ることが分かる。孔半径は、実施例41の複合材料の409nmから本実施例の複合材料の566nmに増大した。複合材料の寸法及び性能は誤差範囲内で安定のままである。
【0290】
実施例43
本実施例では、各種ゲル化学が安定な複合材料を作成するために使用され得ることを示す。
【0291】
2−プロパノール/水(重量%で3/2)中に9.9重量%のNVP、10.2重量%のTRIM及び2.1重量%のEVALを含有するモノマー溶液及び2−プロパノール/水(重量%で3/2)中に10.0重量%のアクリル酸、10.0重量%のTRIM及び2.2重量%のEVALを含有するモノマー溶液を調製した。これらの溶液に光開始剤をモノマーの1重量%に等しい量添加した。溶液をTR2611A多孔質支持部材に適用した。サンプルに350nmの波長の光を30分間照射した。得られた複合材料を脱イオン水で十分に洗浄し、その寸法を測定し、その後複合材料を流体力学的透過率について試験した。70〜80℃で1時間乾燥した後、複合材料を秤量し、その寸法を測定した。再湿潤した複合材料を流体力学的透過率について試験した。結果を表14に示す。
【表14】

【0292】
上記データは、安定化ポリマーとしてEVALを閉じ込めたポリ(N−ビニルピロリドン)ゲル及びポリ(アクリル酸)ゲルを含む複合材料は乾燥し、再湿潤させても安定であることを示している。複合材料の寸法及び性能の変化は実験誤差の範囲内である。
【0293】
図24A及びBには、乾燥NVP−TRIM複合材料の表面を2つの倍率で示す。これらの図は、図23に示すよりも実質的に小さい孔を有する非常に均質な多孔質ゲルを示している。この所見は、各複合材料の透過率及び流体力学的半径の測定値とうまく一致している。
【0294】
実施例44
本実施例では、各種安定化ポリマーが安定な複合材料を提供するために使用され得ることを示す。
【0295】
10.0重量%のHEMA、9.9重量%のTRIM、2.8重量%の(アセチル化度39.7重量%及び分子量50000Daを有する)酢酸セルロース及び光開始剤(1重量%のHEMAモノマー及びTRIMモノマー)をアセトン中に含有する溶液をTR2611A支持部材に適用した。次いで、支持部材を30分間照射した後、水で十分に洗浄した。初期複合材料及び乾燥複合材料の寸法及び透過率を表15に示す。
【表15】

【0296】
上記した他の複合材料と同様に、乾燥により誘発される寸法及び性能の変化は誤差の範囲内である。
【0297】
実施例45
本実施例には、マクロ多孔質ゲル中に安定化ポリマーを存在させないと、乾燥時に透過率の劇的変をもたらす均質またはミクロ不均質ゲルが支持部材の孔に形成され得ることを示す。
【0298】
10.0重量%のHEMA、10.0重量%のTRIM及び光開始剤(1重量%のHEMAモノマー及びTRIMモノマー)を2−プロパノール/水(重量比で3/2)混合物中に含有する溶液をTR2611A支持部材に適用した。サンプルに350nmの波長の光を30分間照射した後、水で十分に洗浄した。初期複合材料及びオーブン乾燥した複合材料の寸法及び透過率を表16に示す。
【表16】

【0299】
透過率データが示すように、安定化ポリマーの非存在下で形成したゲルは架橋度が高いために均質であるかまたはミクロ不均質である。透過率は、上記実施例の複合材料の透過率よりも2桁〜3桁低い。マクロ多孔質ゲルを乾燥させると、サンプルが大きく収縮し、透過率は2桁以上上昇する。
【0300】
図25A及びBに示すように、安定化ポリマーなしで作成し、その後乾燥させたHEMA複合材料は実施例41の複合材料とは異なる。マクロ多孔質ゲル中の大きな亀裂が図25Aで見られ、高い倍率(図25B)はゲル中に孔が見られないことを示している。
【0301】
実施例46
本実施例では、非水溶性安定化ポリマーの代わりに水溶性ポリマーを使用すると多孔質であるが不安定な複合材料が生ずることを示す。
【0302】
多孔質HEMAゲルを含む複合材料を作成するために、4.2重量%のHEMA、4.2重量%のTRIM、11.1重量%のPEG(分子量8,000)及び光開始剤(1重量%のHEMAモノマー及びTRIMモノマー)をジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)及び35重量%の水を含有する溶媒混合物中に含む溶液を使用した。この溶液をTR2611A支持部材に適用し、350nm波長の光を30分間照射した。得られた支持部材を水で十分に洗浄し、オーブンで70〜80℃で1時間乾燥させる前及びその後に透過率について試験した。複合材料の寸法及び性能を表17に示す。
【表17】

【0303】
流体力学的孔半径の初期値から分かるように、PEGはポロゲンとして機能し、PEGなしで作成した類似の複合材料(実施例45)よりも1桁大きい孔半径を有する複合材料が生じた。しかしながら、PEGポリマーは水に非常に可溶性であり、洗浄ステップ中に複合材料から洗い流された。PEGの損失は、溶液のモノマー濃度のみに基づいて計算した理論値に近い値を示した質量増加の計算により確認された。。乾燥すると、透過率が1桁以上変化し、流体力学的孔半径が変化した。
【0304】
図26は、PEGをポロゲンとして使用して上で作成した乾燥HEMA−TRIM複合材料の表面を示す。ゲル中に目に見える亀裂が生じ、これがゲル流体力学的透過率の測定値が増加した理由である。
【0305】
実施例47
本実施例では、水中に長期間放置した後の複合材料の安定性を示す。
【0306】
実施例41及び実施例44に従って作成したサンプルを乾燥し、その後脱イオン水中に7日間置いた。その後、複合材料の寸法を測定し、その透過率を試験した。次いで、複合材料をオーブンにおいて乾燥し、秤量した。結果を表18に示す。
【表18】

【0307】
表18のデータから、複合材料を乾燥し、次いで再湿潤させた後質量のロスはなく、安定化ポリマーも洗い流されないことが分かる。複合材料の質量増加は、支持体孔容積、モノマー溶液濃度及び安定化ポリマーから予測されるよりも僅かに大きいことが判明した。予想される質量増加よりも大きいのは、多分モノマー溶液を手動適用中支持体表面上に少量のゲル層が残存した結果であった。長期間浸漬時に透過率の僅かな(〜5%)低下が観察されたことはマクロ多孔質ゲルの拘束膨潤を反映している。
【0308】
実施例48
本実施例では、環境変化に応答性の安定な複合材料を作成するために安定化ポリマーが使用され得ることを示す。
【0309】
実施例43で作成した(アクリル酸を含む)複合材料の100kPaでの流束を異なるpHを有する溶液を用いて測定した。使用した溶液は約3のpH(1mM HCl)及び約12のpH(1mM HaOH)を有していた。1mM HClで測定した流束対1mM NaOHで測定した流束の比が膜応答(MR)の尺度として採用されてきた。この複合材料では、膜応答MR=264と測定された。
【0310】
実施例49
本実施例では、距離dにより測定されるポリマー−溶媒親和性を概算するために使用される計算結果を示す。
【表19】

【0311】
表19のデータによれば、3つのポリマーはすべて水不溶性であり、水に対する親和性はEVALが最高で、ポリスルホンが最低である。
【0312】
本明細書中に掲載した参考文献はすべて、各参考文献が具体的に参照により本明細書に組み入れられると記載されているのと同程度に参照により本明細書に組み入れられる。
【0313】
本明細書及び添付の請求の範囲中で使用されている単数形は、別段の方法で明確に記載されていない限り複数の言及を含むと留意しなければならない。別段の記載がない限り、すべての技術用語及び科学用語は本発明が属する業界の当業者が通常理解しているのと同じ意味を有する。
【0314】
当業者は、添付の請求の範囲に記載されている本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく多くの変化、修飾及び改変を加えることができると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0315】
【図1】マクロ多孔質ポリ(APTAC)ゲルの低真空走査型電子顕微鏡(ESEM)像である。
【図2】膜の形態の支持部材中に取り込まれたマクロ多孔質ポリ(APTAC)ゲルのESEM像である。
【図3】上記実施例3で作成した膜のリゾチーム吸着曲線である。膜容積は0.467mlである。
【図4】上記実施例8で作成した膜のBSA吸着曲線である。
【図5】光開始多孔質ゲル含有膜及び熱開始多孔質ゲル含有膜での流体力学半径を質量増加の関数として表わすグラフである。ゲルはポリ(グリシジルメタクリレート−コ−エチレンジアクリレート)であり、溶媒はドデカノール(DDC)/シクロヘキサノール(CHX)9/91である。
【図6】複合膜の作成中における質量増加を全モノマー濃度の関数として表わすグラフである。
【図7】AM610膜の表面のAFM像である(走査面積:100μm)。
【図8】発生期の表面(上)及びAM610の表面(下)のESEM像を示す(倍率:5000×)。
【図9】AM611膜の表面のESEM像を示す(倍率:上−5000×、下−3500×)。
【図10】膜AM610(上)及び膜AM611(下)のESEM像を示す(倍率:5000×)。
【図11】実施例15で作成した膜のリゾチーム吸着曲線である。膜容積は0.501mlである。
【図12】実施例16で作成した膜のリゾチーム吸着曲線である。膜容積は0.470mlである。
【図13】実施例17で作成した膜のリゾチーム吸着曲線である。膜容積は0.470mlである。
【図14】実施例25の生成物である湿潤マクロ多孔質ゲルのESEM像である。
【図15】実施例26の生成物である繊維状不織支持部材中の湿潤ミクロ多孔質ゲルのESEM像である。
【図16】タンパク質(BSA)吸着試験における実施例22の複合材料の多膜スタックを使用した結果をグラフで示す。
【図17】複合材料の質量増加に対するモノマー濃度の影響をグラフで示す。
【図18】圧力100kPaでの複合材料を介する流束に対するイオン相互作用の影響をグラフで示す。
【図19】の膜間圧及び透過液導電率の変化を透過液中の塩濃度の関数として(A及びB)、膜間圧の変化を透過液導電率(塩濃度)の関数として(C)グラフで示す。
【図20】実施例39で実施したHIgG限外濾過についての膜間圧、導電率及び吸光度の関係を示す。
【図21】実施例39で実施したHSA限外濾過についての導電率と吸光度の関係を示す。
【図22】実施例39で実施したHSA/HIgG限外濾過についての膜間圧、導電率及び吸光度の関係を示す。
【図23】実施例41に従って作成した2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を主成分とする安定な複合材料の顕微鏡像を示す。図23Aは乾燥前の複合材料のサンプルを示し、図23Bは乾燥後の複合材料のサンプルを示す。
【図24】実施例43に従って作成したN−ビニルピロリドン(NVP)を主成分とする複合材料の顕微鏡像を示す。図24A及び24Bは同一材料であるが、異なる倍率での像を示す。
【図25】実施例45に従って作成したが、安定化ポリマーを含有していないHEMAを主成分とする複合材料の顕微鏡像を示す。図25A及び25Bは同一材料であるが、異なる倍率での像を示す。
【図26】実施例46に従ってポリ(エチレングリコール)(PEG)をポロゲンとして使用して作成したHEMAを主成分とする複合材料の顕微鏡像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔が延在している支持部材及び前記支持部材の孔内にあってその孔を塞いでいるマクロ多孔質架橋ゲルからなり、前記架橋ゲルには実質的に水不溶性であるが水膨潤性である安定化ポリマーが閉じ込められている複合材料。
【請求項2】
安定化ポリマーは約12〜約40の親和性パラメータd(HO)を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
安定化ポリマーは約12〜約25の親和性パラメータd(HO)を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
安定化ポリマーは架橋されていない請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
安定化ポリマーは5,000〜500,000の分子量を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
安定化ポリマーはマクロ多孔質ゲルと安定化ポリマーの合計重量に基づいて5〜50重量%の量存在している請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
安定化ポリマーはマクロ多孔質ゲルと安定化ポリマーの合計重量に基づいて10〜25重量%の量存在している請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
安定化ポリマーはマクロ多孔質ゲルを調製するために使用される溶媒中に可溶性である請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
安定化ポリマーはセルロース誘導体、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)(EVAL)、ポリヒドロキシスチレン(ポリ(4−ビニルフェノール)、芳香族ポリ(エーテルスルホン)、40%加水分解されているポリ(ビニルアルコール)(Mowiol 40−88)、部分荷電ポリマー、または中性モノマーと荷電モノマーのコポリマーである請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
安定化ポリマーは酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、2−ヒドロキシエチルセルロース及びエチルセルロースから選択されるセルロース誘導体である請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
安定化ポリマーはポリ(エチレンアジペート)、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(DL−ラクチド)及びポリ(dl−ラクチド−コ−グリコリド)から選択されるポリエステルである請求項9に記載の複合材料。
【請求項12】
安定化ポリマーはポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6/6)及びポリ(ヘキサメチレンセバカミド)(ナイロン6/10)から選択されるポリアミドである請求項9に記載の複合材料。
【請求項13】
安定化ポリマーはポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)及びポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート)から選択されるポリアクリレートである請求項9に記載の複合材料。
【請求項14】
安定化ポリマーは27、32、38または44モル%のエチレン含量を有するポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)である請求項9に記載の複合材料。
【請求項15】
安定化ポリマーはスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK;<86% スルホン化)、スルホン化ポリ(フェニレンオキシド)(S−PPO;<70% スルホン化)、スルホン化ポリスルホン(S−PS;<70% スルホン化)、アミノ化ポリスルホン(<70% アミノ化)、アミノ化ポリ(フェニレンオキシド)(Q−PPO;<70% アミノ化)、及びプロトン化またはアルキル化ポリ(4−ビニルピリジン)(Q−P4VP;<30% プロトン化またはアルキル化)から選択される部分荷電ポリマーである請求項9に記載の複合材料。
【請求項16】
安定化ポリマーはポリ(エチレン−コ−アクリル酸)コポリマーである中性モノマーと荷電モノマーのコポリマーである請求項9に記載の複合材料。
【請求項17】
ポリ(エチレン−コ−アクリル酸)コポリマーは5、10、15または20重量%のアクリル酸を含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項18】
安定化ポリマーはエチレン−コ−ビニルアルコールコポリマーまたは酢酸セルロースである請求項1に記載の複合材料。
【請求項19】
酢酸セルロースは29〜61%のアセチル化度を有する請求項18に記載の複合材料。
【請求項20】
濾過しようとする液体を請求項1に記載の複合材料中に通すことを含むサイズ排除濾過方法。
【請求項21】
液体は細胞懸濁液または凝集物懸濁液である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
荷電材料を含有している液体を請求項1に記載の複合材料中に通すことを含み、前記複合材料はマクロ多孔質ゲル上に電荷を有しているドナン排除分離方法。
【請求項23】
生体分子または生体イオンを含有している液体を請求項1に記載の複合材料中に通すことを含み、前記複合材料はマクロ多孔質ゲル上に生物分子に対して特異的な相互作用を示す結合部位を有している生体分子または生体イオンを液体から吸着させる方法。
【請求項24】
生体分子または生体イオンはアルブミン、リゾチーム、ウイルス、細胞、ヒト及び動物起源のγ−グロブリン、ヒト及び動物起源の免疫グロブリン、合成または天然起源のポリペプチドを含めた組換えまたは天然起源のタンパク質、インターロイキン−2及びその受容体、酵素、モノクローナル抗体、トリプシン及びその阻害剤、シトクロムC、ミオグロブリン、組換えヒトインターロイキン、組換え融合タンパク質、核酸由来産物、合成または天然起源のDNA、及び合成または天然起源のRNAからなる群から選択される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
特異的相互作用は静電的相互作用である請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
特異的相互作用は親和性相互作用である請求項23または24に記載の方法。
【請求項27】
特異的相互作用は疎水性相互作用である請求項23または24に記載の方法。
【請求項28】
第1反応物質を有する液体を請求項1に記載の複合材料中に通すことを含み、第2反応物質は複合材料のマクロ孔中にある固相化学合成方法。
【請求項29】
複数の孔が延在している支持部材及び前記支持部材の孔内にあってその孔を塞いでいるマクロ多孔質架橋ゲルからなり、前記架橋ゲルには実質的に架橋されておらず、実質的に水不溶性であるが水膨潤性である安定化ポリマーが閉じ込められている複合材料の作成方法であって、
a)i)マクロ多孔質ゲルを形成すべく組み合わせ得るモノマーと架橋剤及び安定化ポリマー;またはii)マクロ多孔質ゲルを形成すべく組み合わせ得る架橋性ポリマーと架橋剤及び安定化ポリマー;の溶液または懸濁液を支持部材の孔中に導入し、
b)前記したモノマーと架橋剤または前記したポリマーと架橋剤を反応させて、支持部材の孔を塞ぎ且つ安定化ポリマーを閉じ込める架橋マクロ多孔質ゲルを形成する
ことを含む前記方法。
【請求項30】
安定化ポリマーは約12〜約40の親和性パラメータd(HO)を有する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
安定化ポリマーは約12〜約25の親和性パラメータd(HO)を有する請求項29に記載の方法。
【請求項32】
安定化ポリマーは架橋されていない請求項29に記載の方法。
【請求項33】
安定化ポリマーは約5,000〜約500,000の分子量を有する請求項29に記載の方法。
【請求項34】
安定化ポリマーは(i)モノマーまたはポリマー、(ii)架橋剤及び(iii)安定化ポリマーの合計重量に基づいて5〜50重量%の量で溶液中に存在している請求項29に記載の方法。
【請求項35】
安定化ポリマーは(i)モノマーまたはポリマー、(ii)架橋剤及び(iii)安定化ポリマーの合計重量に基づいて10〜25重量%の量で溶液中に存在している請求項29に記載の方法。
【請求項36】
安定化ポリマーは支持部材の孔中に導入される溶液中に可溶性である請求項29に記載の方法。
【請求項37】
安定化ポリマーはセルロース誘導体、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)(EVAL)、ポリヒドロキシスチレン(ポリ(4−ビニルフェノール)、芳香族ポリ(エーテルスルホン)、40%加水分解されているポリ(ビニルアルコール)(Mowiol 40−88)、部分荷電ポリマー、または中性モノマーと荷電モノマーのコポリマーである請求項29に記載の方法。
【請求項38】
安定化ポリマーは酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、2−ヒドロキシエチルセルロース及びエチルセルロースから選択されるセルロース誘導体である請求項37に記載の方法。
【請求項39】
安定化ポリマーはポリ(エチレンアジペート)、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(DL−ラクチド)及びポリ(dl−ラクチド−コ−グリコリド)から選択されるポリエステルである請求項37に記載の方法。
【請求項40】
安定化ポリマーはポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6/6)及びポリ(ヘキサメチレンセバカミド)(ナイロン6/10)から選択されるポリアミドである請求項37に記載の方法。
【請求項41】
安定化ポリマーはポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)及びポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート)から選択されるポリアクリレートである請求項37に記載の方法。
【請求項42】
安定化ポリマーは27、32、38または44モル%のエチレン含量を有するポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)である請求項37に記載の方法。
【請求項43】
安定化ポリマーはスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK;<86% スルホン化)、スルホン化ポリ(フェニレンオキシド)(S−PPO;<70% スルホン化)、スルホン化ポリスルホン(S−PS;<70% スルホン化)、アミノ化ポリスルホン(<70% アミノ化)、アミノ化ポリ(フェニレンオキシド)(Q−PPO;<70% アミノ化)及びプロトン化またはアルキル化ポリ(4−ビニルピリジン)(Q−P4VP;<30% プロトン化またはアルキル化)から選択される部分荷電ポリマーである請求項37に記載の方法。
【請求項44】
安定化ポリマーはポリ(エチレン−コ−アクリル酸)コポリマーである中性モノマーと荷電モノマーのコポリマーである請求項37に記載の方法。
【請求項45】
ポリ(エチレン−コ−アクリル酸)コポリマーは5、10、15または20重量%のアクリル酸を含む請求項44に記載の方法。
【請求項46】
安定化ポリマーはエチレン−コ−ビニルアルコールコポリマーまたは酢酸セルロースである請求項29に記載の方法。
【請求項47】
酢酸セルロースは29〜61%のアセチル化度を有する請求項46に記載の方法。
【請求項48】
サイズの異なる2つ以上の物質が流体中に溶解または懸濁して含有されてなる溶液または懸濁液のクロマトグラフ濾過方法であって、
(a)最小サイズの物質は請求項1に記載の複合材料を通過するがより大きい物質はその複合材料中を通過しないように前記流体を複合材料中に通し、
(b)次に大きいサイズの物質が複合材料中を通過するように応答性多孔質ゲル中の孔のサイズを増加させるために環境条件を変化させる
ことを含む前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公表番号】特表2008−501808(P2008−501808A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513639(P2007−513639)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000880
【国際公開番号】WO2005/120701
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(505309051)マクマスター ユニバーシティー (3)
【Fターム(参考)】