説明

支線固定具およびこれを用いたアンテナ固定構造

【課題】 施工作業が容易で、かつ優れた耐久性および強度が得られる支線固定具と、こ
れを使用したアンテナ固定構造とを提供する。
【解決手段】線材の一端に、住宅建物7に固定する末端金具4が設けられ、当該線材の他端に、屋根70上に設けられたアンテナ5から延設された支線6と連結する環状部3が設けられた支線固定具1であって、なまし線21を芯とし、その周囲に複数本の撚り硬線22が設けられてさらに同心撚りされ、その外周全体に樹脂材料のコーティング層23が形成された樹脂コート複合撚り線2が、線材として用いられたものである。この支線固定具1によるアンテナ5の固定構造であって、末端金具4が住宅建物7にビス固定され、屋根70上に設けられたアンテナ5から延設された支線6が環状部3と連結されてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根に設置したアンテナを支持するために架け渡した支線を固定する支線固定具と、これを用いたアンテナ固定構造とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、切妻屋根や寄棟屋根の住宅建物において、屋上にテレビアンテナなどを設置する場合は、屋根上に設けた屋根用架台にアンテナを固定し、これら架台およびアンテナと、住宅建物に固定した支線固定具との間に支線を張って、台風などの強風でもアンテナが吹き飛ばされないようにしていた。
【0003】
この際使用する支線固定具は、ワイヤの両端にそれぞれ輪を形成し、ワイヤの端部は円筒金属を用いて工具でかしめられていた。一方の輪に保持筒を内嵌めし、保持筒外周の環状溝に輪を回動自在に保持し、保持筒に釘を挿入し、釘の先端よりパッキンを嵌め、他方の輪およびワイヤ中央部を保護チューブで被覆した構成となっていた。
【0004】
この支線固定具によって支線を固定する際は、まず、地上側から住宅建物の屋根の軒先等に支線固定具をビス固定していた。
【0005】
そして、当該支線固定具の自由端側と、アンテナに架け渡した支線とを、アンテナ施工時に屋根上に乗った作業員が、屋根上側から接続していた。
【0006】
上記施工作業の際、支線固定具は、地上側から固定するのに対し、当該支線固定具の自由端側と、アンテナに架け渡した支線との接続は、屋根上で行うため、支線固定具の自由端を、屋根上から作業員が引き寄せる際、非常に危険を伴っていた。
【0007】
そこで、従来より、支線固定具の自由端側を屋根上側に位置させるために、屋根上からワイヤーが垂れ下がらないようにする止め部材を設けた支線固定具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平4−11370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来の支線固定具を用いた場合であっても、止め部材よりも先端側は自重によって垂れ下がるため、止め部材よりも先端側の長さを長く残した場合は、作業員が屋根上から引き寄せる際、簡単に引き寄せることはできない。止め部材よりも先端側の長さを短くした場合は、支線固定具を地上側から固定する際、屋根側に身を乗り出して支線固定具の固定位置から離れた位置に止め部材を取り付けなければならず、これも作業の危険性が懸念されることとなる。
【0010】
また、上記従来のワイヤ固定具は、保持筒を内嵌めしたり、保護チューブを被覆したりしているが、雨水がこれら保持筒や保護チューブと、ワイヤとの間隙に残ってしまう。そして、この残った雨水によって、ワイヤが電解腐食してしまうことが懸念される。
【0011】
そのため、十分な引張強度を確保し、かつ、電解腐食にもたえ得る程度の太さとした太いなまし線を2本撚りにしたものを使用することも行われているが、この場合、逆に固くなりすぎて柔軟性に欠けるため、支線の取り回しが煩わしくなる。
【0012】
本発明は係る実情に鑑みてなされたものであって、施工作業が容易で、かつ優れた耐久性および強度が得られる支線固定具と、これを使用したアンテナ固定構造とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の支線固定具は、線材の一端に、住宅建物に固定する固定部が設けられ、当該線材の他端に、屋根上に設けられたアンテナから延設された支線と連結する連結部が設けられた支線固定具であって、なまし線を芯とし、その周囲に複数本の撚り硬線が設けられてさらに同心撚りされ、その外周全体に樹脂材料のコーティング層が形成された樹脂コート複合撚り線が、線材として用いられたものである。
【0014】
また、支線固定具は、0.5〜1.5mmのステンレス製なまし線を芯とし、その周囲に、0.075〜0.35mmのステンレス製硬線を4〜12本撚りした撚り硬線を4〜8本用いてさらに同心撚りされ、外径が1.75〜3.5mmとなるようにコーティング層が形成された樹脂コート複合撚り線を具備し、一端は、環状部を形成した状態で金具でカシメ止めされ、他端は、ビス固定用の末端金具がカシメ止めされてなるものであってもよい。
【0015】
さらに、支線固定具は、樹脂材料がポリアミド樹脂からなり、コーティング層中にUVカット剤が含まれてなるものであってもよい。UVカット剤がカーボン粉末であってもよい。
【0016】
上記課題を解決するための本発明のアンテナ固定構造は、上記した支線固定具によるアンテナ固定構造であって、末端金具が住宅建物にビス固定され、屋根上に設けられたアンテナから延設された支線が環状部と連結されてなるものである。
【0017】
また、上記アンテナ固定構造において、外周全体が樹脂材料でコーティングされたコーティング層が形成された樹脂コート撚り線を支線として用いたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によると、なまし線を芯とし、その周囲に複数本の撚り硬線が設けられてさらに同心撚りされ、その外周全体に樹脂材料のコーティング層が形成された樹脂コート複合撚り線を、線材として用いているので、簡単に可撓変形させることができ、かつ、その形状を維持することができる。したがって、一端の固定部を住宅建物に固定した後、他端を、屋根上に設けられたアンテナの方向に折り曲げて簡単に取り回すことができる。また、この他端にアンテナからの支線を連結する場合も、アンテナの方向を向くように折り曲げられた樹脂コート複合撚り線の形状が維持されているので、簡単に引き寄せて支線と連結することができる。
【0019】
また、樹脂コート複合撚り線は、その外周全体を樹脂材料でコーティングしてコーティング層を形成しているので、雨などの水分がなまし線や撚り硬線に触れて電解腐食を起こすことも無く、優れた耐久性および強度を得ることができる。
【0020】
本発明のアンテナ固定構造によると、優れた耐久性および強度で支線を張ることができる。また、外周全体が樹脂材料でコーティングされたコーティング層を形成した樹脂コート撚り硬線を支線として使用した場合は、支線を容易に張ることができるので、緩みがなく安全性に優れた施工ができる。また、コーティング層によって撚り硬線の外周全体を被覆しているので、支線の耐久性および強度も向上することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る支線固定具の全体構成の概略を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る支線固定具における、樹脂コート複合撚り線の部分の断面図である。
【図3】本発明に係るアンテナ固定構造の全体構成の概略を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る支線固定具を住宅建物の軒下部に固定した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1は支線固定具1の全体構成の概略を示し、図2は同支線固定具1の樹脂コート複合撚り線の部分の断面図を示し、図3は支線固定具を用いたアンテナ固定構造に関するのもである。
【0024】
この支線固定具1は、樹脂コート複合撚り線2の一端に環状部3を形成し、他端に末端金具4を設けて構成されている。
【0025】
樹脂コート複合撚り線2は、図2に示すように、なまし線21の周囲に7本撚りの撚り硬線22を6本設け、これら6本の撚り硬線22で、前記なまし線21を芯にして同心撚りした後、外周全体に、樹脂材料のコーティング層23を形成して構成されている。
【0026】
なまし線21としては、例えば、直径φ0.8mmのSUS304からなるものを用いることができる。ただし、このなまし線21としては、特に上記したものに限定されるものではなく、各種ステンレス合金製のものを使用することができる。また、太さとしては0.5mm〜1.5mm、さらに好ましくは0.6mm〜1.0mmの範囲のものを使用することができる。0.5mm未満の場合は可撓変形させた後、その形状を十分に維持することができず、1.5mmを越える場合は、可撓変形させ難くなるとともに、樹脂コート複合撚り線2が過剰に太くなり過ぎてしまう。
【0027】
7本撚りの撚り硬線22としては、直径φ0.2mmのSUS304からなる硬線22aを撚ったものを使用することができる。ただし、この撚り硬線22としては、特に上記7本撚りに限定されるものではなく、各種撚り数の撚り硬線22を使用することができる。したがって、硬線22aについても、特に上記したものに限定されるものではなく、各種ステンレス合金製のものを使用することができる。また、太さとしては0.075mm〜0.35mm、さらに好ましくは0.1mm〜0.3mmの範囲のものを使用することができる。0.075mm未満の場合は十分な引張強度を得ることができず、0.35mmを越える場合は、可撓変形させてもその形状を維持し難くなるとともに、樹脂コート複合撚り線2が過剰に太くなり過ぎてしまう。
【0028】
また、撚り硬線22は、なまし線21を芯にして周囲に6本設けて同心撚りした複合撚り線としているが、このなまし線21を芯にして周囲に設ける撚り硬線22の数としては、特に6本に限定されるものではなく、4本〜8本程度で複合よりするものであってもよい。また、撚り硬線22の撚り数自体も、7本撚りとなっているが、4本〜12本程度の撚り硬線22であってもよい。
【0029】
コーティング層23は、上記複合撚り線の表面に樹脂材料からなるコーティングを設けて樹脂コート複合撚り線2の外径が2.5mmとなるように構成される。このコーティングは、ディンピングによって形成するものであてっもよいし、熱収縮性を有する筒状のチューブ内に複合撚り線を挿通し、外側から加熱してチューブを熱収縮させてコーティング層23を形成するものであってもよい。ただし、雨水などとの接触による電解腐食を防止する意味では、ディンピングなどによって確実に隙間無くコーティング層23を形成することが好ましい。このコーティング層23の厚みとしては、特に限定されるものではないが、薄すぎると切れて内部の撚り線22が露出し易くなり、厚すぎると樹脂コート複合撚り線2の外径が過剰に太くなり、樹脂材料のコストも嵩むこととなる。したがって、0.5mm以下の範囲で用途に応じて適宜調整される。
【0030】
コーティング層23を構成する樹脂材料としては、各種のポリアミド樹脂を用いることができる。この樹脂材料中には、UVカット剤が添加されていてもよい。この場合、UVカット剤としては、酸化チタンやカーボンなどの粉末を挙げることができる。
【0031】
環状部3は、上記した樹脂コート複合撚り線2の一端を環状にしてその一端を筒状のカシメ金具31でカシメ止めすることによって形成される。この環状部3は、アンテナ5からの支線6を係止させることができる大きさであれば特にその環の大きさは限定されるものではない。
【0032】
末端金具4は、座金41から筒状のカシメ部41aが延設されており、このカシメ部41aには、上記した樹脂コート複合撚り線2の他端部がカシメ止めされる。座金41にはビス42が挿通され、挿通側には、ゴム製パッキン43が設けられている。なお、この末端金具4は、住宅建物7に固定するために構成されたものであれば、上記したような形状に限定されるものではなく、例えば、上記環状部3と同様に構成され、住宅建物7に固定される金具(図示省略)と連結するようにしたものであってもよい。
【0033】
このようにして形成される支線固定具1は、全長60cm〜80cmの範囲で形成したものを構成することができる。また、引張強度としては、30〜350Kgfの範囲で所望のものを形成することができる。100〜300Kgfの引張強度となるように形成したものを使用することがより好ましい。ちなみに、上記した直径φ0.8mmのSUS304からなるなまし線21の周囲に、直径φ0.2mmのSUS304からなる硬線22aを7本撚りした撚り硬線22を6本設けて複合撚りした後、カーボン粉末を配合したナイロン樹脂のコーティング層23を形成した直径φ2.5mmのナイロンコート複合撚り線2を用いて長さ70cmに構成した支線固定具1では、引張強度250Kgfが得られた。また、施工時に折り曲げた状態を維持することができた。
【0034】
次に、上記支線固定具1の施工手順について説明する。
【0035】
まず、住宅建物7の垂木や鼻隠し板などの軒下部71に支線固定具1の末端金具4を固定する。この固定は、作業員が地上からはしごなどを使って軒下部71にゴムパッキン43を介して座金41を当接し、ビス42で固定することによって行うことができる。
【0036】
ついで、支線固定具1の環状部3側が、屋根70の上のアンテナ5の方向に向くように、支線固定具1の樹脂コート複合撚り線2を折り曲げる。この際、支線固定具1は、芯になまし線21を使用した樹脂コート複合撚り線2によって構成されているので、簡単に折り曲げることができ、しかもこの折り曲げ状態を維持することができる。
【0037】
その後、屋根70の上にアンテナ5とこのアンテナ5を支持する架台51とを設け、このアンテナ5に架け渡した支線6を、支線固定具1の環状部3と連結する。この際、支線固定具1は、環状部3がアンテナ5の方向を向いているため、作業員は、屋根70の上からでも容易に環状部3を引き寄せることができ、簡単に支線6と支線固定具1の環状部3とを連結することができる。連結後は、支線固定具1と支線6との間に締結部材8などを設けてこの締結部材8を締め込むことによって支線6を張る。この際、支線固定具1は、なまし線21を芯にして撚り硬線22を複合撚りしているため、十分な引張強度を確保することができ、しかも、外周全体を樹脂材料のコーティング層でコーティングしているので、電解腐食を防止して優れた耐久性を確保することができる。
【0038】
なお、支線6としては、一般に使用されている番線を使用しても良いが、外周全体に樹脂材料のコーティング層を形成した樹脂コート撚り硬線(図示省略)を使用してもよい。番線を使用した場合は、番線にクセが付いていることが多いため、しっかりと張ってもクセが取れずに緩むことが懸念されるが、樹脂コート撚り硬線の場合は、このようなクセが付いていないため、緩むことなく簡単に張ることができる。この樹脂コート撚り硬線(図示省略)の撚り線を構成する硬線の大きさや数、撚り方などについては特に限定されるものではなく、支線固定具1に使用されいてる樹脂コート複合撚り線2と同等の引張強度を有するものが使用される。
【0039】
このようにして構成したアンテナ固定構造によると、優れた耐久性および強度で支線6を張ることができる。また、外周全体が樹脂材料でコーティングされたコーティング層を形成した樹脂コート撚り線を支線6として使用した場合は、支線6を容易に張ることができるので、緩みがなく安全性に優れたアンテナ固定構造とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る支線固定具は、アンテナ設置時の支線を住宅建物に固定する際に用いられる。
【符号の説明】
【0041】
1 支線固定具
2 樹脂コート複合撚り線
21 なまし線
22 撚り硬線
3 環状部
4 末端金具
5 アンテナ
51 架台
6 支線
7 住宅建物
70 屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材の一端に、住宅建物に固定する固定部が設けられ、当該線材の他端に、屋根上に設けられたアンテナから延設された支線と連結する連結部が設けられた支線固定具であって、
なまし線を芯とし、その周囲に複数本の撚り硬線が設けられてさらに同心撚りされ、その外周全体に樹脂材料のコーティング層が形成された樹脂コート複合撚り線が、線材として用いられたことを特徴とする支線固定具。
【請求項2】
0.5〜1.5mmのステンレス製なまし線を芯とし、その周囲に、0.075〜0.35mmのステンレス製硬線を4〜12本撚りした撚り硬線を4〜8本用いてさらに同心撚りされ、外径が1.75〜3.5mmとなるようにコーティング層が形成された樹脂コート複合撚り線を具備し、
一端は、環状部を形成した状態で金具でカシメ止めされ、他端は、ビス固定用の末端金具がカシメ止めされてなる請求項1記載の支線固定具。
【請求項3】
樹脂材料がポリアミド樹脂からなり、コーティング層中にUVカット剤が含まれてなる請求項1または2記載の支線固定具。
【請求項4】
UVカット剤がカーボン粉末である請求項3記載の支線固定具。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1に記載の支線固定具によるアンテナ固定構造であって、
末端金具が住宅建物にビス固定され、屋根上に設けられたアンテナから延設された支線が環状部と連結されてなることを特徴とするアンテナ固定構造。
【請求項6】
外周全体が樹脂材料でコーティングされたコーティング層が形成された樹脂コート撚り線を支線として用いた請求項5記載のアンテナ固定構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−26967(P2013−26967A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162136(P2011−162136)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(501390965)大阪コートロープ株式会社 (9)
【出願人】(511180363)株式会社エヌビー (1)
【Fターム(参考)】