説明

改善された効率を有する結核ワクチン

本発明は、結核に対して保護免疫作用を提供する新規組換えワクチンに関する。さらに本発明は、新規組換え核酸分子、前記核酸分子を含有するベクター、前記核酸分子でトランスファーした細胞および前記核酸分子によってコードされるポリペプチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に結核に対して保護免疫作用を提供する新規組み換えワクチンに関する。
【0002】
マイコバクテリウム ツベルクロシス(mycobacterium tuberculosis、以下M.tuberculosisとする)によって引き起こされる結核(TB)は、依然として世界的な問題であるといえる。世界の人口の三分の一が、M.tuberculosis(Kochi 1991)に感染していると推定される。多くの国において、TB制御のための唯一の手段は、M.bovis bacille Calmette-Guerin (BCG)によるワクチン注射である。しかしながら、TBに対するBCGの全ワクチン効率は約50%であり、その際、種々のフィールド試験においては0〜80%の範囲で異なる(Roche et al., 1995)。したがって、BCGは、たとえば遺伝子工学技術によって、より良好なTB制御のためのワクチンを提供するために改善される必要がある(Murray et al., 1996; Hess and Kaufmann, 1993)。多薬剤耐性M.tuberculosis菌株の拡がりは、さらに新規TBワクチン(Grange, 1996)の緊急的必要性を示す。
【0003】
M.tuberculosisは、休止マクロファージの食胞内で複製された細胞内細菌に属し、したがってTBに対する保護は、T−細胞介在性免疫に依存する(Kaufmann. 1993)。しかしながら、マウスおよびヒトにおける試験においては、マイコバクテリアが抗原特異的に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII−またはクラスI−制限CD4およびCD8T細胞をそれぞれ刺激することが示されている(Kaufmann, 1993)。
【0004】
MHCクラスI−制限CD8T細胞の重要な役割については、β2−ミクログロブリン(β2m)欠損マウスにより、試験的M. tuberculosis感染を制御することが証明された(Flynn et al., 1993)。これらの変異マウスはMHCクラスIを欠損しており、機能的CD8細胞を作り出すことができない。M. tuberculosis感染とは対照的に、β2m−欠損マウスは、BCGワクチン菌株の一定の感染量を制御する能力を有する(Flynn et al., 1993; Ladel et al., 1995)。さらに、β2m−欠損マウスのBCGワクチン接種は、その後M. tuberculosis感染後の生存率を延長させるのに対し、BCG免疫化C57BL/6はTB耐性である(Flynn et al., 1993)。M. tuberculosisとBCGとの間のこの異なるCD8T細胞依存性は、以下のように説明することができる:M. tuberculosis抗体は、BCGからの抗原よりも細胞質に対する良好なアクセスを達成し、それによって、より顕著なMHCクラスIの発現を導く(Hess and Kaufmann, 1993)。したがって、より効果的なCD8T細胞応答が、M. tuberculosisにより生じる。これは、近年、BCGよりもむしろ、刺激されたM. tuberculosisによる抗原細胞(APC)の感染による、不適切な抗原、オボアルブミンの増加したMHCクラスI発現によって支持されている(Mazzaccaro et al., 1996)。
【0005】
M. tuberculosisの分泌されたタンパク質は、MHCクラスI発現のための抗原の重要な源となる。近年、分泌された抗原Ag85AをコードするDNAワクチンが、MHCクラスI−制限CD8T細胞応答を誘発することが報告され、この場合、この細胞応答は、TBに対する防御に寄与するものである(Huygen et al., 1996)。一般に、M. tuberculosisの分泌タンパク質抗原での免疫化が、モルモットおよびマウス中でTBに対する保護を誘導することは、証拠の蓄積となった(1995; Andersen, 1994)。したがって、BCGに基づく改善されたTBワクチンの開発に関する重要課題は、感染したAPCの細胞質に対して分泌されたBCG−特異的抗体のアセンブリの増加である。引き続いてのこれらの分泌タンパク質から誘導されたペプチドの、MHCクラスI発現経路への移行は、TB予防のためにすでに存在するBCG特異的免疫応答を強化するものである。
【0006】
L. monocytogenesのファゴリソソームによる放出は、リステリア抗体のMHCクラスI抗原発現を促進する特有の機序を示す(Berche et al., 1987: Portnoy et al., 1988)。リステリオライシン(Hly)、孔形成スルフヒドロル−活性細胞溶解素は、ファゴリソソーム胞から、ホスト細胞の細胞質へのL. monocytogenes微生物の放出に必要不可欠なものである(Gaillard et al., 1987; Portnoy et al., 1988)。近年、この放出機能をBacillus subtilisへトランスファーし、かつSalmonella ssp. 菌株を弱毒化させた(Bielecki et al., 1991; Gentschev et al., 1995; Hess and Kufmann, 1997)。無芽胞性B.subtilis突然変異菌株によるか、あるいは、Salmonella ssp.中でのHly発現は、細菌の、ファゴリソソームからJ774マクロファージ様細胞の細胞質への放出を生じさせる(Bielecki et al., 1991; Gentschev et al., 1995; Hess and Kaufmann, 1997)。
【0007】
WO99/101496およびHessら(1998)によれば、生物学的に活性のリステリオライシン融合タンパク質を分泌する組換えMycobacterium bovisが開示されている。これらのM. bovis菌株は、種々の動物モデル中でTBに対して効果的なワクチンを示した。
【0008】
本発明によれば、Hlyはウレアーゼ欠損BCG菌株中で発現した。これらのウレアーゼ欠損BCG菌株は、ファゴソーム中で増加したHly活性を示し、それによりエンドソーム膜において改善された孔形成を示すことによって、優れた免疫保護活性を導く。さらに、ウレアーゼ欠損BCG−Hly菌株は、増大した免疫保護に寄与しうるアポトーシス過程において含まれる。したがって、ウレアーゼ欠損BGC菌株は、さらに改善されたワクチン能力を有する。さらに、驚くべきことに、ウレアーゼ欠損BCG菌株が、BCG親菌株と比較して増加した安全なプロフィールを示し、これにより特に、免疫不全患者のワクチンに特に適していることが見いだされた。
【0009】
本発明の第1の実施態様は、細菌細胞、特にウレアーゼ欠損型であり、かつ(a)ポリペプチドからの少なくとも1個の領域、その際、ポリペプチド領域は、ほ乳類における免疫応答を誘導する能力を有するものであって、および(b)ファゴリソソームによる放出領域を含有する融合ポリペプチドをコードする組換え核酸分子を含有する、マイコバクテリム細胞である。好ましくは細胞は、本発明による核酸分子を発現する能力を有する。さらに好ましくは、細胞は、融合ポリペプチドを分泌する能力を有し、および/または、MHCクラスI制限抗原認識に適した形で提供される。
【0010】
本発明の細菌細胞はウレアーゼ欠損細胞、特にグラム陰性またはグラム陽性細菌細胞、好ましくはマイコバクテリウム細胞である。ウレアーゼ欠損は、ウレアーゼサブユニットをコードする1個または複数個の細胞性核酸分子、特にウレアーゼサブユニットAをコードするureA、ウレアーゼサブユニットBをコードするureBおよび/またはウレアーゼサブユニットCをコードするureCを、部分的または完全に不活性化することによって達成されてもよい。マイコバクテリウム、特にM.bovisおよびM.tuberculosis中のureA、ureBおよびureCの配列およびそれによってコードされるタンパク質については、Reyratら(1995)およびClemensら(1995)により記載されている(これらは参考のために示す)。
【0011】
好ましくは、ウレアーゼ欠損細菌株系は、ウレアーゼサブユニット中の1個またはそれ以上のヌクレオチドの削除および/または挿入によって得られ、この場合、これらのサブユニットは、核酸配列および/またはその発現制御配列をコードするものである。削除および/または挿入は相同組換え、トランスポゾン挿入または他の方法によって生じさせることができる。
【0012】
特に好ましい実施態様において、ureC配列は、たとえば選択マーカー遺伝子によって分断されるureC遺伝子を含有する自殺ベクターを構築し、標的細胞を、ベクターを用いて形質転換し、かつウレアーゼネガティブ表現型を有するマーカーにポジティブな細胞を選択するためにスクリーニングをおこなうことによって不活性化させる。これらの方法についてはReyrat ら(1995)により記載されている。
【0013】
本発明の細胞は、好ましくは、M.bovis 細胞、M.tuberculosis 細胞、特に弱毒化されたM.tuberculosis細胞または他のマイコバクテリウム、たとえば、M.microti、M. smegmatis、M.canettii、M. MarinumまたはM.fortuitumまたはマイコバクテリウムである。これに関しては、Reyrat ら(1995)により記載されている。
【0014】
本発明のマイコバクテリウム細胞は、組換え核酸分子、たとえば配列番号1中の核酸分子を含有する。この核酸分子は、シグナルペプチドコーディング配列(ヌクレオチド1〜120)、免疫原領域をコードする配列(ヌクレオチド121〜153)、ペプチドリンカーコーディング配列(ヌクレオチド154〜210)、ファゴリソソーム領域をコードする配列(ヌクレオチド211〜1722)、他のペプチドリンカーコーディング配列(ヌクレオチド1723〜1800)およびランダムペプチドをコードする配列(ヌクレオチド1801〜1870)を含有する。相当するアミノ酸配列は配列番号2に示す。
【0015】
核酸配列は、ポリペプチドからの少なくとも1個の免疫原領域を含有する。免疫原領域は、マイコバクテリウム属の微生物、好ましくはM.tuberculosisまたはM.bovisに由来する。この領域は少なくとも6個、好ましくは少なくとも8個のアミノ酸の長さを有する。免疫原領域は、好ましくは天然のマイコバクテリウムポリペプチドの一部分である。しかしながら、本発明の範囲内においてはさらに改質化された免疫原領域であってもよく、この場合、これらは、1個またはそれ以上のアミノ酸の置換、欠失および/または付加によって天然の免疫原領域から導き出されるものである。
【0016】
しかしながら、免疫原領域は、マイコバクテリウム抗原に制限するものではなく、かつ自己抗原、腫瘍抗原および病原体抗原、たとえば一般にはウイルス抗原、パラサイト抗原、細菌抗原およびこれらの免疫原フラグメントから選択することができる。適した腫瘍抗原のための特別な例は、ヒト腫瘍抗原、たとえばp53腫瘍抑制遺伝子産物(Houbiers et al., 1993)およびメラノサイト分化抗原、たとえばMelanA/MART-1およびgp100(van Elsas et al., 1996)である。適したウイルス抗原のための特別な例は、ヒト腫瘍ウイルス抗原、たとえばヒドパピローマウイルス抗原、たとえば抗原E6およびE7(Bosch et al., 1991)、インフルエンザウイルス抗体、たとえばインフルエンザウイルス核タンパク質(Matsui et al., 1995; Fu et al., 1997)またはレトロウイルス抗原、たとえばHIVウイルス、たとえばHIV−抗原p17、p24、RTおよびEnv(Harrer et al., 1996; Haas et al., 1996)である。適したパラサイト抗原のための特別な例は、プラスモディウム抗原、たとえば肝特異抗原(LSA-1)、限局性ポロゾイトタンパク質(CSまたは対立突然変異体cp26またはcp29)、トロンボスポンジン関連アモナイモスタンパク質(TRAP)、スポロゾイトトレオニンおよびPlasmodium falciparum(Aidoo et al., 1995)、Toxoplasma 抗原からのアスパラギン濃縮タンパク質(STARP)、たとえばToxoplasma gondiiからのp30(Khan et al., 1991; Bulow and Boothroyd, 1991)である。適した細菌性抗原のための特別な例は、レジオネラ抗原、たとえばLegionella pneumophilaからの主要分泌タンパク質(Blander and Horwitz, 1991)である。
【0017】
免疫原領域は、ほ乳類における免疫応答を誘発する能力を有する。この免疫応答は、細胞介在型免疫応答である。しかしながら、好ましくは、免疫原領域は、T細胞介在型免疫応答、より好ましくはMHC−クラスI−制限CD8T−細胞応答を誘発する能力を有する。
【0018】
免疫応答を誘発する能力を有する領域は、より好ましくは、M.bovisまたはM.tuberculosisからの免疫原ペプチドまたはポリペプチドまたはこれらの免疫原フラグメントから選択される。適した抗原の特別な例は、M.tuberculosisからAg85B(p30)、M.bovis BCGからのAg85B(α−抗原)(Matsuo et al., 1988)、M.tuberculosisからのAg85A(Huygen et al,m 1996)およびM.tuberculosisからのESAT−6(Sorensen et al., 1996, Harboe et al., 1996およびAndersen et al., 1995)である。より好ましくは、免疫原領域は、抗原Ag85Bに由来する。より好ましくは、免疫原領域は、配列番号2中のaa.41からaa.51までの配列を含む。
【0019】
本発明による組換え核酸分子は、さらにファゴリソソームによる放出領域、すなわち、ファゴリソソームからほ乳類細胞のサイトゾルへの融合ポリペプチドの放出を提供するポリペプチド領域を含有する。好ましくは、ファゴリソソームによる放出領域は、リステリアファゴリソソーム性放出領域であり、この場合、これらはUS5733151に記載されている(参考のために示す)。より好ましくは、ファゴリソソームによる放出領域は微生物L.monocytogenesに由来する。より好ましくは、ファゴリソソーム領域は:(a)配列番号1に示したヌクレオチド211〜1722を含有するヌクレオチド配列、(b)(a)からの配列と同様のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列および(c)ストリンジェントな条件下で(a)または(b)からの配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列、から選択された核酸分子によってコードされる。
【0020】
配列番号1中で示されたヌクレオチド配列とは別に、本発明はさらにこれとハイブリダイズする核酸配列を含有する。本発明において、用語「ハイブリダイゼーション」は、Sambrook ら(Molecular cloning. A laboratory manual., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989), 1.101-1.104)に記載されている。本発明によれば、用語「ハイブリダイゼーション」は、ホジティブなハイブリダイゼーションシグナルが、1×SSCおよび0.1%SDSで55℃で、好ましくは62℃で、かつより好ましくは68℃で1時間に亘っての洗浄後、好ましくは1時間に亘って0.2×SSCおよび0.1%SDSで、55℃、好ましくは62℃およびより好ましくは68℃で1時間に亘っての洗浄の後であっても、観察することができるものである。このような洗浄条件下で、配列番号1としてのヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列は、本発明による好ましいヌクレオチド配列をコードするファゴリソソーム性放出領域である。
【0021】
前記のようなファゴリソソーム性放出領域をコードするヌクレオチド配列は、直接的に、リステリア微生物または任意の組換え型の源、たとえば、前記のような相当するリステリア核酸分子またはこれらの変異型を含有する組換えE.Coli細胞から、直接的に得ることができる。
【0022】
好ましくは、融合ポリペプチドをコードする組換え核酸分子は、シグナルペプチドコーディング配列を含有する。より好ましくは、シグナル配列は、マイコバクテリア、好ましくはM.bovis、たとえば天然のM.bovisシグナル配列中で活性のシグナル配列である。適したシグナル配列の好ましい例は、ヌクレオチド1〜120からの配列番号1中に示されたAg85Bシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列である。
【0023】
さらに、免疫原領域とファゴリソソーム性放出領域との間に供給されるべきペプチドリンカーが好ましい。好ましくは、前記ペプチドリンカーは、5〜50アミノ酸の長さを有する。より好ましくは、配列番号1のヌクレオチド154〜210として示されるリンカーをコードする配列であるか、あるいは、遺伝子コードの変性を考慮してこれに相当する配列である。
【0024】
核酸配列は、組換えベクター上に配置されてもよい。好ましくは組換えベクターは、原核細胞ベクターであり、すなわち、原核細胞中での複製および/または遺伝的組込みのための要素を有するベクターである。好ましくは、組換えベクターは、発現制御配列と操作的に結合させた本発明による核酸分子を有する。発現制御配列は、好ましくは、マイコバクテリア、好ましくはM.bovis中で活性の発現制御配列である。ベクターは、染色体外ベクターであるか、あるいは、染色体中への組込みに適したベクターである。このようなベクターの例は当業者に公知であり、たとえば以前に、Sambrookらにより記載されている。
【0025】
本発明の他の実施態様において、ウレアーゼ欠損型細菌細胞、たとえばマイコバクテリウム細胞、好ましくはM.bovis細胞が提供されるが、この場合、これらは、ファゴリソソーム放出ペプチドまたはポリペプチドをコードする、少なくとも1個の核酸分子を含有するものである。ファゴリソソーム放出ペプチドまたはポリペプチドが、抗体と融合しない場合であっても、驚くべきことに、改善された免疫特性が観察された。
【0026】
本発明による他の態様によって提供される組換え細菌細胞は、少なくとも1個の他の組換え型、たとえば、ほ乳類中での免疫応答を誘導する能力を有するペプチドまたはポリペプチドをコードする異種核酸分子を含む。これらの他の免疫原ペプチドまたはポリペプチドは、マイコバクテリウム抗原から選択されてもよいか、あるいは、広い意味では、自己抗原、腫瘍抗原、病原菌抗原またはこれらの免疫原フラグメントから選択するものであってもよい。他のペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸分子は、同様のベクター上で融合遺伝子として位置していてもよい。しかしながら、たとえばさらに異なるプラスミド上で、融合遺伝子とは別個に位置しているか、あるいは、染色体中に組込まれていてもよい。
【0027】
驚くべきことに、本発明によるマイコバクテリウム細胞は、感染細胞、たとえばマクロファージ中での細胞内残存性を有し、この場合、これらは、組換え核酸分子を含有しない相当する天然のマイコバクテリウム細胞の細胞内残存性と同等またはそれを下廻るものである。
【0028】
さらに本発明は活性剤として、前記細胞を、場合によっては製薬学的認容性の希釈剤、キャリアおよびアジュバントと一緒に含有する医薬組成物に関する。好ましくは、組成物は、ほ乳類、好ましくはヒトへの投与に適した生菌ワクチンである。実際に選択されるワクチン接種経路は、ワクチンベクターの選択に依存する。投与は、単回量または間隔をおいて反復して達成されてもよい。適した容量は種々のパラメータ、たとえばワクチンベクター自身または投与経路に依存する。粘膜表面への投与(たとえば、眼、鼻腔内、口腔内、胃、腸管、直腸、膣内または尿管)であるか、あるいは、非経口的経路による投与(たとえば、皮下、皮内、筋内、静脈内または腹膜内)が選択されてもよい。
【0029】
さらに本発明は、前記組換え細菌細胞を製造するための方法に関する。第1の実施態様によれば、この方法は(i)ウレアーゼ欠損細菌細胞、特にマイコバクテリウム細胞を提供し、(ii)組換え核酸分子を前記細菌細胞中に挿入し、この場合、前記核酸分子は、(a)ポリペプチドからの少なくとも1個の領域、その際、前記領域は、ほ乳類における免疫応答を誘発する能力を有するものであり、かつ、(b)ファゴリソソーム性放出領域を含有する、融合ポリペプチドをコードするものであり、かつ(iii)工程(ii)で得られた細胞を適した条件下で培養する工程を含む。好ましくは、前記核酸分子を発現する能力を有する細胞が得られる。より好ましくは、細胞はM.bovis細胞である。
【0030】
他の実施態様によれば、この方法は(i)ウレアーゼ欠損細菌細胞、特にマイコバクテリウム細胞を提供し、(ii)組換え核酸分子を前記細菌細胞中に挿入し、この場合、前記核酸分子は、ファゴリソソーム放出ペプチドまたはポリペプチドをコードするものであって、かつ(iii)工程(ii)により得られた細胞を適した条件下で培養する工程を含む。
【0031】
好ましい場合には、本発明の方法は、少なくとも1個の他の組換え核酸分子を細菌細胞中に挿入することを含み、その際、他の組換え核酸分子は、ほ乳類において免疫応答を誘発しうるペプチドまたはポリペチドをコードするものである。
【0032】
最後に本発明は、組換え細胞を、製薬学的有効量で、製薬学的に認容性の希釈剤、キャリアおよび/またはアジュバントと一緒に配合することを含む、生菌ワクチンの製造方法に関する。
【0033】
2個の異なる動物モデル(例3)において試験された、ウレアーゼ欠損細菌細胞の高い安全性によって、本発明の生菌ワクチンは、免疫不全患者群、たとえば、HIV感染患者群または免疫抑制剤治療を受けている患者群への投与に特に適している。特に好ましい実施態様において、本発明の生菌ワクチンは、免疫不全患者群のための結核ワクチンとして使用される。
【0034】
他の好ましい実施態様において、生菌ワクチンは腫瘍ワクチン、たとえば表在性膀胱ガンに対するワクチンとして使用される。本発明のさらに好ましい実施態様において、生菌ワクチンは、獣医学領域において、特にリステリア、副結核症またはウシ結核に対するワクチンとして使用される。
【0035】
本発明はさらに以下の図面および配列表によって例証される。
図1:マウス結核のエーロゾルモデルでの、rBCG ureC Hlyの保護活性を示す図。BALB/cマウスを1×10CFUの rBCG ureC Hly、BCG P ureCまたは天然のBCG“パスツール”を用いてi.v.で免疫化した。120日後のワクチン処理動物について、エーロゾルによるH37Rv(200個微生物/肺)を用いて試験した。感染器官(脾臓および肺)の細菌負荷量を、感染後30日、60日および90日に評価した。それぞれのバーは10個体の動物を示す。
図2:肺(図2a)または脾臓(図2b)中の微生物量を示す。Rag1-/-マウスを、BCG親菌株系(wt)またはrBCG ureC Hly菌株系(urea-Hly)を用いて感染させた。感染器官の細菌負荷量は感染後30日、60日および90日に評価した。
図3:BGC“パスツール”およびrBCG delta ureC Hlyで感染させたSCIDマウスの生存率を示す。
配列番号1:本発明による核酸分子のヌクレオチド配列を示す。
配列番号2:配列番号1の核酸分子の相当するアミノ酸配列を示す。
【0036】
実施例
例1 ウレアーゼ欠損BGC Hly菌株の製造およびマウスモデルでの試験
1.BCG delta ureC のウレアーゼ活性の不活性化
Hlyタンパク質(rBCG-Hly)を含有するBCG菌株の保護活性を改善するために、ウレアーゼ活性を欠失させた。
ウレアーゼ欠損突然変異体を得るために、Reyratらは、カナマイシンマーカー(aph 遺伝子)によって分断されたureC 遺伝子を含有する自殺ベクターを構築した。このコンストラクトの2個の微生物をSacI処理により線状化し、かつM.bovis BCG中にエレクトロポレーションした。カナマイシン耐性形質転換体を、ウレアーゼネガティブ表現系についてスクリーニングした(たとえば、Reyratら、1995)。
【0037】
2.マイコバクテリムE.coliシャトル表現ベクターpMV306:Hlyの構築
ファゴソーム放出機能を、BGC Pasteur (1173 P3) delta ureCにトランスファーするために(L.monocyte遺伝子 EGD Sv 1/2aのHlyにより介在される)、E.Coli−マイコバクテリウムシャトルベクターを使用した。組込みプラスチドpMV306、ベクターpMV361 の前駆体により、Hlyの安定な染色体発現が可能となった。
hly-hlyA(E.coli pHly152-特異的溶血素A)ORFをコードするpILH-1由来1.7kb PstI DNAフラグメントを、プラスミドpAT261のPstI部位に挿入した。分泌されたタンパク質の発現のためのこの得られた遺伝子融合コードは、BGC特異的Ag85Bシグナルペプチドにより上清に対して向けられる。コンストラクトは、pAT261:Hlyと称され、そのXbaI-SalI DNA発現カセットは、hsp60マイコバクテリウムプロモーターの転写制御下で、その後に、親pMV306ベクター中に挿入するために使用し、コンストラクトPMV306:Hlyが得られる。双方のマイコバクテリウム発現プラスチド中のhly-特異的挿入部位のDNA配列を試験した。成熟Hly融合タンパク質は、融合のN末端で30aaおよびC末端で52aaから構成されると推定され、この場合、これらは、E.coliのHlyAに部分的に属する。
【0038】
3.マウスモデル中の保護能力
発現ベクターpMV306:Hlyを、ウレアーゼ欠損BCG菌株パスツール(BCG P ureC)にトランファーした。得られた菌株は、rBCG ureC Hlyをデザインした。このウレアーゼ欠損マイコバクテリウム菌株の保護活性について、マウス結核モデル中で親BCGパスツールおよびBCGパスツールureCと比較したものを図1に示した。驚くべきことに、rBCG ureC Hlyが、それぞれの時点(30日後)においてすでに改善した保護を導き、この場合、これらは全観察期間に亘って(90日まで)継続することが見いだされた。
【0039】
rBCG ureC Hlyでのさらに長時間に亘っての保護試験を実施した。BALB/cマウスは、rBCG ureC Hly、rBCG-Hlyまたは親BCGを用いて、i.v.によりワクチン接種し、かつ、120目にM.tuberculosis H37Rvを用いてのエーロゾル攻撃をおこなった。RBCG-Hlyおよび親BCGは、M.tuberculosis H37Rvに対する比較可能な保護を、90日目に導いた。これとは極めて対照的に、rBCG ureC Hlyによる改善された保護が、すでに攻撃後30日目から開始する早期の時点で導かれた。さらに、この増大した保護は、全観察期間に亘って継続し、かつ、肺においては攻撃後90日目で、天然のマウスと比較した場合に2logCFUを上廻って、かつ親BCGでワクチン接種したマウスと比較した場合には1logCFUを上廻ってのM.tuberculosis H37Rv負荷量の減少を示した。
【0040】
同様な結果が、厳密に単離されたM.tuberculosis Beijingでの試験後に得られた。BALB/Cマウスを、rBCG ureC Hly, BCG-Hlyまたは親BCGでi.v.免疫化し、かつ120日目にM.tuberculosis Beijingを用いてエーロゾルにより攻撃した。BCG ureC Hlyでのワクチン処理は、M.tuberculosis Beijingに対して、すでに早期の時点で(30日目)で改善された保護を導き、かつこの保護は、攻撃後90日までの全観察期間に亘って継続した。親BCGでワクチン処理した場合と比較して、rBCg ureC Hlyでのワクチン処理は、肺中で、M.tuberculosis Beijingの1logCFUの減少を導いた。
【0041】
例2 モルモットでのM.tuberculosis H37Rvに対する長期間の保護
マウスはすでにM.tuberculosisに対してかなりの耐性を示したことから、より感受性の高い動物モデルとしてモルモットを使用し、rBCG ureC Hlyのワクチン能力に対しての試験をおこなった。モルモットをそれぞれマイコバクテリウムワクチン菌株、rBCG ureC Hlyまたは親BCGで、皮下注射により免疫化し、かつ体重増加およびCFUをM.tuberculosis H37Rvでのエーロゾル攻撃後に評価した。rBCG ureC Hlyで免疫化したモルモットは、120日まで親BCG菌株でワクチン処理した動物と同様の体重増加を示したが、その一方で、非ワクチン処理動物は、体重増加がみられないことにより示されるTBの羅患が明らかであった。
【0042】
CFU分析前の肺および脾臓の視覚的試験は、BCG免疫化モルモットからの双方の器官の表面上の結核結節が、BCG ureC Hly ワクチン接種動物と比較してより大きくかつより多いことが示された。
【0043】
例3 BCG ureC Hlyの安全性評価
TおよびB細胞中のRag1-/マウス欠損を、BCG親菌株(wt 野生型)またはrBCG ureC Hly菌株の10個の微生物を用いて感染させた。肺および脾臓中での微生物の存在を観察した。rBCG ureC Hlyの顕著に減少したCFUは、肺(図2a)中で観察された。脾臓において、rBCG ureC Hlyでの感染後のわずかなCFUの減少が、親BCGでの感染と比較して観察された(図2b)。
【0044】
さらに、BCG uerC Hlyの安全性については、免疫不全SCIDマウス中で試験した。
【0045】
この目的のために、SCIDマウスに、rBCG ureC Hly または親BCG菌株を用いて、10〜10個の微生物を静脈注射した。親菌株を接種したマウスについては注射後25日目までに死亡し、rBCG ureC Hlyで接種したマウスは、注射後150日まで生存していた(図3)。
【0046】
これらの試験は、BCG ureC Hlyが、親BCG菌株と比較して高い安全性を有することを証明するものである。
【0047】
【化1】

【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
【化4】

【0051】
【化5】

【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】マウス結核のエーロゾルモデルでの、rBCG ureC Hlyの保護活性を示す図
【図2a】肺中の微生物量を示す図
【図2b】脾臓中の微生物量を示す図
【図3】BGC“パスツール”およびrBCG delta ureC Hlyで感染させたSCIDマウスの生存率を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリペプチドからの少なくとも1個の領域、その際、前記ポリペプチド領域はほ乳類における免疫応答を誘導する能力を有するものであり、および(b)ファゴリソソーム性放出領域を有する、融合ポリペプチドをコードする組換え核酸分子を含有する、ウレアーゼ欠損型細菌細胞。
【請求項2】
少なくとも1個の細胞性ウレアーゼサブユニットをコードする核酸配列が、不活性化されている、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
少なくとも細胞性ウレアーゼCサブユニットをコードする配列が、不活性化されている、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
ファゴリソソーム性放出領域がリステリアファゴリソソーマル放出領域である、請求項1に記載の細胞。
【請求項5】
ファゴリソソーム性放出領域が、
(a)配列番号1に示すヌクレオチド211〜1722を含有するヌクレオチド配列、
(b)(a)からの配列として同様のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、および
(c)ストリンジェントな条件下で、(a)または(b)からの配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列、
から選択された核酸分子によってコードされる、請求項1に記載の細胞。
【請求項6】
免疫応答を誘導する能力を有する領域が、MHCクラスI−制限されたCD8T細胞応答を誘導する能力を有するペプチドまたはポリペプチドである、請求項1に記載の細胞。
【請求項7】
免疫応答を誘導する能力を有する領域が、マイコバクテリウムポリペプチドである、請求項1に記載の細胞。
【請求項8】
免疫応答を誘導する能力を有する領域が、マイコバクテリウム抗原Ag85B(M.tuberculosis)、Ag85B(M.bovis)、Ag85A(M.tuberculosis)およびESAT−6(M.tuberculosis)またはこれらの免疫原フラグメントから選択される、請求項7に記載の細胞。
【請求項9】
免疫応答を誘導する能力を有する領域が、抗原Ag85Bまたはこれらの免疫原フラグメントである、請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
融合ポリペプチドが、シグナルペプチド配列に由来する、請求項1に記載の細胞。
【請求項11】
ペプチドリンカーが、免疫応答誘導領域とファゴリソソーム領域との間に位置する、請求項1に記載の細胞。
【請求項12】
核酸分子が操作的に発現制御配列と結合されている、請求項1に記載の細胞。
【請求項13】
発現制御配列が前記細胞中で活性である、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
核酸分子がベクター上に位置する、請求項1に記載の細胞。
【請求項15】
マイコバクテリウム細胞である、請求項1に記載の細胞。
【請求項16】
マイコバクテリム ボビス(Mycobacterium bovis)細胞である、請求項16に記載の細胞。
【請求項17】
ウレアーゼ欠損であり、かつファゴリソソーム放出ペプチドまたはポリペプチドをコードする、少なくとも1個の組換え核酸分子を含有する、細菌細胞。
【請求項18】
ほ乳類における免疫応答を誘導する能力を有するペプチドまたはポリペプチドをコードする、少なくとも1個の他の組換え核酸分子を含有する、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
マイコバクテリウム細胞である、請求項18に記載の細胞
【請求項20】
マイコバクテリム ボビス(Mycobacterium bovis)細胞である、請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
免疫応答を誘導する能力を有する領域またはペプチドまたはポチペプチドが、自己抗原、腫瘍抗原、ウイルス抗原、パラサイト抗原、細菌抗原およびこれらの免疫原フラグメントから選択される、請求項1から17までのいずれか1項に記載の細胞。
【請求項22】
少なくとも1個の組換え核酸分子を発現する能力を有する、請求項1から17までのいずれか1項に記載の細胞。
【請求項23】
少なくとも1個の核酸分子によってコードされるポリペプチドを分泌する能力を有する、請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
感染させたマクロファージ中で細胞内残存性を有し、この場合、これは、天然のマイコバクテリウム細胞の細胞内残存性と同等またはこれを下廻る、請求項1または23に記載の細胞。
【請求項25】
活性剤として、請求項1または17に記載の細胞を、場合によっては製薬学的に認容性の希釈剤、キャリアおよびアジュバントと一緒に含有する、医薬組成物。
【請求項26】
粘膜表面への投与または非経口的投与に適した生菌ワクチンである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
請求項1または17に記載の細胞を製薬学的に有効量で、製薬学的に認容性の希釈剤、キャリアおよびアジュバントと一緒に配合することを特徴とする、生菌ワクチンの製造方法。
【請求項28】
(i)ウレアーゼ欠損型細菌細胞を提供し;
(ii)組換え核酸分子を細菌細胞中に挿入し、その際、融合ポリペプチドをコードする核酸分子は、(a)ポリペプチドからの少なくとも1個の領域、その際、前記領域はほ乳類における免疫応答を誘導する能力を有するものであり、および(b)ファゴリソソーム性放出領域を含有し、かつ、
(iii)(ii)により得られた細胞を適した条件下で培養する、
工程を含む、請求項1に記載の組換え細菌細胞を製造するための方法。
【請求項29】
細胞が、M.bovis細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
(i)ウレアーゼ欠損型細菌細胞を提供し;
(ii)組換え核酸分子を細菌細胞中に挿入し、その際、前記核酸分子はファゴリソソーム性放出ペプチドまたはポリペプチドをコードするものであり、かつ、
(iii)(ii)により得られた細胞を適した条件下で培養する、
工程を含む、請求項17に記載の組換え細菌細胞を製造するための方法。
【請求項31】
少なくとも1個の他の組換え核酸分子を細菌細胞中に挿入することを含み、その際、他の組換え核酸分子は、ほ乳類における免疫応答を誘導する能力を有するペプチドまたはポリペプチドをコードする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
免疫応答を誘導する能力を有する領域またはペプチドまたはポリペプチドが、自己抗原、腫瘍抗原、ウイルス抗原、パラサイト抗原、細菌抗原およびこれらの免疫原フラグメントから選択される、請求項28または30に記載の方法。
【請求項33】
生菌ワクチンを製造するための、請求項1から24までのいずれか1項に記載の細菌細胞の使用。
【請求項34】
免疫不全患者へのワクチンを製造するための、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
HIV感染患者のためのワクチンを製造するための、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
腫瘍ワクチンを製造するための、請求項33に記載の使用。
【請求項37】
表在性膀胱癌に対するワクチンを製造するための、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
獣医学領域におけるワクチンを製造するための請求項33に記載の使用。

【図1】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−524367(P2007−524367A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505250(P2006−505250)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004345
【国際公開番号】WO2004/094469
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
【Fターム(参考)】