説明

改変されたトランスポーター発現を経由してエチルカルバメートの生産を最小化させる酵母の機能的な増強

【課題】低減したエチルカルバメート濃度を有する醗酵飲料及び発酵食品を生産するプロセスを提供する。
【解決手段】醗酵条件下において尿素トランスポーターを発現して活発に尿素を酵母細胞に輸送するように機能的に増強された酵母ストレインを使用する。該酵母を醗酵条件下において細胞内性の尿素分解酵素活性を発現するように増強してもよい。尿素トランスポーターは、例えば、DUR3pであり得るし、尿素分解酵素活性はDUR1,2pであり得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
エチルカルバメートは、ウレタンとしても知られており、発酵食品及び醗酵飲料への酵母の使用からの直接的な副生成物として形成される。例えば、エチルカルバメート(おそらく発癌性物質である)の形成は、ブドウのマスト(ワイン)の醗酵において、尿素とエタノールの反応によって起こる。
【0002】
DUR1,2の恒常的な(constitutive)発現を経由して尿素を分解する酵母ストレインは、低い(low)エチルカルバメートの濃度の醗酵飲料又は醗酵食品を製造することに使用することができる(Coulon et al., 2006, Am. J. Enol. Vitic.: 113 - 124)。
【0003】
サッカロミセス・セレビシエにおいて、DUR3遺伝子は、ある条件下で酵母細胞に尿素を活発に輸送する尿素トランスポーター(DUR3p)をコードする。DUR3遺伝子の転写は、通常、窒素カタボライト抑制(NCR)を受ける(ElBerry et al., 1993, J. Bacteriol. 175: 4688 - 4698; Goffeau et al., 1996, Science 274 (5287), 546-547; Johnston et al., 1994, Science 265 (5181), 2077-2082)。このことは、炭水化物を利用する酵母細胞における窒素代謝に関与する同化(アナボリック:anabolic)酵素及び異化(カタボリック:catabolic)酵素の調節ネットワークのたった1つの側面である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、一部分において、醗酵条件下において尿素トランスポーター(DUR3など)を発現して、酵母細胞に尿素を活発に輸送するように形質転換した酵母ストレインを使用して、醗酵飲料又は醗酵食品におけるエチルカルバメート濃度の低減を提供する製品及びプロセスに関する。酵母を、醗酵条件下において細胞内性の尿素分解酵素活性(DUR1,2など)を発現するように改変することもできる。
【0005】
本発明は、一部分において、醗酵条件下においてDUR3を発現する(例えば、恒常的に)ように形質転換した新規の酵母ストレイン、並びに、酵母が醗酵条件下においてDUR3を発現するようにする(例えば、恒常的に)酵母ストレインの機能的な増強方法、及び、醗酵飲料又は醗酵食品におけるエチルカルバメートの低減のための前記酵母ストレインの使用を提供する。
【0006】
本発明の他の実施形態において、DUR1,2及びDUR3を恒常的に発現するように形質転換した新規の酵母ストレイン、そして、醗酵飲料又は醗酵食品におけるエチルカルバメートの低減のための前記酵母ストレインの使用が提供される。
【0007】
本発明の更なる実施形態では、DUR3pを継続的に(continually)発現するように形質転換した酵母ストレイン、そして、DUR3p及び尿素アミドリアーゼ(尿素カルボキシラーゼとアロファン酸ヒドロラーゼの両方の活性を含有する)の双方を継続的に発現するように形質転換した酵母ストレインが提供される。
【0008】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下で尿素を継続的に取り込むように形質転換した酵母ストレインが提供される。この実施形態において、前記酵母はDUR3を恒常的に発現することができる。
【0009】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下で尿素を継続的に取り込み、かつ、分解するように形質転換した酵母ストレインが提供される。この実施形態において、前記酵母ストレインはDUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現することができる。
【0010】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において尿素トランスポーターの発現の窒素カタボライト抑制が低減するように前記酵母ストレインを形質転換することを含む酵母ストレインの改変方法が提供される。この実施形態において、前記尿素トランスポーターがDUR3によってコードされていても良いし、前記尿素トランスポーターがDUR3pであっても良い
【0011】
本発明の更なる実施形態では、DUR3を恒常的に発現するように酵母ストレインを改変する方法が提供される。この実施形態において、前記方法が1/2TRP1-PGKp-DUR3-PGKt-kanMX-1/2TRP1カセットのTRP1ローカス(locus)への組込みを含んでも良い。この実施形態において、前記方法が、DUR3pをコードするコーディング配列を含む新規の核酸で前記酵母ストレインを形質転換することを含んでも良い。この実施形態において、前記方法が、窒素カタボライト抑制を受けないプロモーターを含む組換え核酸で前記酵母を形質転換することを含んでもよい。
【0012】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下においてDUR3、又は、DUR1,2及びDUR3の両方を(例えば、恒常的な発現によって)発現する方法など、上述のように機能的に増強した酵母ストレインの使用による醗酵飲料又は醗酵食品の作製方法が提供される。
【0013】
本発明の更なる実施形態では、DUR3、又は、DUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現して、醗酵飲料又は醗酵食品におけるエチルカルバメートの濃度を低減する形質転換酵母ストレインの使用が提供される。この実施形態において、醗酵飲料又は醗酵食品はワインであり得るし、エチルカルバメートの低減された濃度が30ppb未満であり得る。
【0014】
本発明の更なる実施形態では、DUR3、又は、DUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現する形質転換酵母ストレインを使用して製造された低減したエチルカルバメート濃度を有する醗酵飲料又は醗酵食品が提供される。この実施形態において、醗酵飲料又は醗酵食品がワインであり得るし、エチルカルバメートの低減された濃度が30ppb未満であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、DUR3の遺伝子カセットを示す。
【0016】
【図2】図2は、S・セレビシエのDUR3pのタンパク質配列(SEQ ID NO:7)を示す。
【0017】
【図3】図3は、S・セレビシエのDUR3のコーディング配列(SEQ ID NO:8)を示す。
【0018】
【図4】図4は、DUR1,2の開始コドンで終了するDUR1,2遺伝子の上流領域の部分の配列を示す(SEQ ID NO:9)。2つの推定上のNCRエレメントGATAA(G)ボックス(1つは−54から−58に位置し、他方は−320から−324に位置する)及び推定上のTATAAボックスは、ハイライトされている。
【0019】
【図5】図5は、DUR3遺伝子の上流領域の部分の配列を示す(SEQ ID NO:10)。
【0020】
【図6−1】図6−1は、DUR3p(sequence NP_011847.1(SEQ ID NO:7))と、7つの他のタンパク質(sequence NP_595871.1 (SEQ ID NO:11)、XP_452980.1 (SEQ ID NO:12)、NP_982989.1 (SEQ ID NO:13), XP_364218.1 (SEQ ID NO:14)、XP_329657.1 (SEQ ID NO:15)、NP_199351.1 (SEQ ID NO:16)及びNP_001065513.1 (SEQ ID NO:17))との間のホモロジーを表す複数の(multiple)タンパク質配列のアライメントを示す。
【図6−2】図6−2は、図6−1の続きのアライメントを示す。
【図6−3】図6−3は、図6−2の続きのアライメントを示す。
【図6−4】図6−4は、図6−3の続きのアライメントを示す。
【図6−5】図6−5は、図6−4の続きのアライメントを示す。
【図6−6】図6−6は、図6−5の続きのアライメントを示す。
【図6−7】図6−7は、図6−6の続きのアライメントを示す。
【0021】
【図7−1】図7は、DUR3p(SEQ ID NO:7)と、サッカロミセス・ポンベの尿素トランスポーター(おそらく)(SEQ ID NO:11)とのBLAST比較を表し、コンセンサス配列を示す。他の実施形態において、本発明の尿素トランスポーターは、S・セレビシエのDUR3p配列、S・ポンベの尿素トランスポーター、又は図7に示したコンセンサス配列との比較において、多様な度合いの同一性(適切に整列させた場合の80%の同一性など)を有することができる。
【図7−2】図7−2は、図7−1の続きの配列を示す。
【図7−3】図7−3は、図7−2の続きの配列を示す。
【0022】
【図8】図8は、シャルドネワインの中でのワイン酵母ストレイン522、522DUR1,2[522EC−についての他の名称]、522DUR3、及び522DUR1,2/DUR3[522EC−DUR3についての他の名称]の醗酵プロファイル(重量の減少)を示す。シャルドネワインに最終的にOD600=0.1まで接種し、醗酵が完了するまで(〜300時間)20℃でインキュベートした濾過していないケローナシャルドネのマストから生産した。醗酵は3回ずつ実行し、データを平均化した;エラーバーは標準偏差を示す。
【0023】
【図9】図9は、本発明のDUR3のセルフクローニングカセットの模式図である。
【0024】
【図10】図10は、kanMXマーカーを使用してセルフクローニングleu2-PGK1p-kanMX-PGK1p-DUR3-PGK1t-leu2カセットのS・セレビシエ産業ストレインへのLEU2ローカスへの組込み、次にPGK1プロモーターの直列反復配列の組換えによってマーカーを欠失させることの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願において直接的に定義されていない任意の用語は、本発明の技術分野において理解されるような、その用語から一般的に連想される意味を有すると理解されるべきである。ある用語は、本発明の実施形態の構成物(ないしは、組成物)、装置、方法及び同様のものが記載され、そしてどのようにそれらを作製するまたは使用するかが記載されることで、以下において、あるいは明細書内の他の場所において議論され、実施者に追加的なガイダンスを提供する。同一のものが1つを上回る呼び方で呼ばれ得ることがわかるだろう。従って、他の言い回しや同義語が、本願において議論されるいずれか1つ以上の用語について使用され得る。用語が推敲されているか否か、あるいは本願において議論されているか否かについては、重要性はない。いくつかの同義の、あるいは代用可能な方法、物質及び同様のものが提供される。1つ又はほんの少しの同義語あるいは同等の言葉の記載(recital)は、それが明白に記載されていない限り、他の同義語あるいは同等の言葉の使用を除外しない。明細書における例の使用(用語の例を含む)は、例示のみを目的とし、本発明の実施形態の範囲及び意味を制限するものではない。
【0026】
本願において記載される場合には、「酵母ストレイン」は、サッカロミセス・セレビシエのストレインであり得る。他の実施形態において、本発明は、例えば、S・バヤナス(bayanus)酵母ストレイン又はスキツォサッカロミセス(Schizosaccharomyces)酵母ストレインを利用することができる。
【0027】
他の視点において、本発明は、醗酵に使用され、種々の製品(醗酵飲料又は醗酵食品など)を製造する酵母ストレインに関連する。「醗酵飲料又は醗酵食品」は、ワイン、ブランデー、ウィスキー、蒸留酒、エタノール、酒、シェリー、ビール、パン生地製品((ないし、練り粉製品:dough)、パン、酢又は醤油であり得るが、それらに限定されない。
【0028】
種々の視点において、本発明は遺伝子の改変及び組換え遺伝子の使用に関連する。この文脈において、用語「遺伝子」とは、その普通の定義のとおりに使用され、機能上(ないし作動的に)リンクされた(operatively linked)核酸配列の群を意味する。本発明の文脈において、遺伝子の改変とは、当該遺伝子内の、機能上リンクされた種々の配列のいずれか1つの改変を含み得る。(遺伝子発現において)「機能上リンクされた(operatively linked)」とは、特定の配列が直接的又は間接的のいずれかで相互作用し、遺伝子発現の媒介(mediation)又は調節(modulation)など、それらの意図された機能を実行することが意味として表される(以下では、「機能上リンクされ」と称する)。機能上リンクされた配列の相互作用は、例えば、次いで(in turn)核酸配列に相互作用するタンパク質によって媒介され得る。
<なお、「機能上リンクされ(operatively linked)」とは、プロモーターがコーディング配列の発現をもたらす関係も意味する。従って、「DUR3pをコードするコーディング配列が窒素カタボライト抑制を受けないプロモーターに機能上リンクされていること」は、「DUR3pをコードするコーディング配列の発現が、窒素カタボライト抑制を受けないプロモーターによってもたらされること」と言い換えることもできる。>
【0029】
本発明の文脈において、「プロモーター」は、転写調節領域が目的の配列に機能上リンクされる場合には、所望の空間的な(spatial)、あるいは時間的な(temporal)パターンに、そして所望の程度まで目的のヌクレオチド配列の転写を媒介する又は調節することができるヌクレオチド配列を意味する。転写調節領域及び目的の配列は、転写調節領域によって媒介又は調節されるべき目的の配列の転写が可能となるように機能的に連結される(connected)場合には、当該転写調節領域及び目的の配列は「機能上リンクされている(operably linked)」と言える。いくつかの実施形態において、転写調節領域は、機能上リンクされるように、目的の配列と同じ鎖(strand)に位置し得る。いくつかの実施形態において転写調節領域は、目的の配列の5’に位置することができる。そのような実施形態において、転写調節領域は、目的の配列の5’に直接的に[連結]してもよいし、あるいはこれらの領域の間に介在配列があっても良い。いくつかの実施形態において、転写調節配列は、目的の配列の3’に位置することができる。転写調節領域及び目的の配列の機能上のリンケージ(operable linkage)が、転写調節領域に結合すべき(転写活性化タンパク質のような)適切な分子を必要としても良く、従って、本発明はインビトロ又はインビボのいずれにおいてもそのような分子が提供される実施形態を包含する。
【0030】
本発明の種々の遺伝子及び核酸配列は、組換え配列であり得る。用語「組換え」は何かが組換えられていることを意味し、核酸構築物に関しては、当該用語は、ある(some)ポイントで互いに結合され(joined)、分子生物学的な技術の仕方によって生産された核酸配列から構成される分子を意味する。用語「組換え」は、タンパク質又はポリペプチドに関連する場合には、分子生物学的な技術の仕方によって作られた組換え核酸構築物を使用して発現されるタンパク質又はポリペプチドの分子を意味する。用語「組換え」は、遺伝子の組成(genetic composition)に関連して用いられる場合には、天然に生ずる親ゲノムにおいては生じない、新たなるアレルの組み合わせを有する配偶子(gamete)、子孫、細胞又はゲノムを意味する。組換え核酸構築物は、それが自然には連結されない核酸配列(あるいは、自然には異なる場所で連結される核酸配列)に連結される(あるいは、連結するように操作される)ヌクレオチド配列を含むことができる。従って、「組換え体」としての核酸構築物に関しては、核酸分子が遺伝子操作を使用して人の介在によって操作されていることを示す。
【0031】
組換え核酸構築物は、例えば、形質転換によって宿主細胞に導入することができる。そのような組換え核酸構築物は、同一の宿主細胞種由来の配列、又は異なる宿主細胞種由来の配列を含むことができ、単離して宿主の種の細胞に再導入される。
【0032】
組換え核酸配列は、宿主細胞の最初の形質転換の結果としてか、あるいは、後の組換え及び/又は修復イベントの結果として、宿主細胞ゲノムに組み込むことができる。あるいは、組換え配列は、染色体外の(extra-chromosomal)エレメントとして維持することもできる。そのような配列を、例えば、形質転換酵母ストレインなどの生命体を、突然変異導入、マスマッチング、又はプロトプラスト融合によって行われるストレイン改良プロセスのためのスタートのストレインとして使用することによって再生産することもできる。本発明の組換え配列を保存する結果として得られたストレインはそれら自体が本願で使用される用語のとしての「組換え体」とみなされる。
【0033】
本発明の種々の視点において、核酸分子は、例えば、Itakura et al.米国特許番号4,598,049、Caruthers et al. 米国特許番号4,458,066、そして、Itakura et al. 米国特許番号4,401,796、及び4,373,071などに開示の技術を使用して化学的に合成することができる。そのような合成核酸は、それら自体、本願で使用される用語のとしての「組換え体」である(分子の構成パーツを組み合わせる連続的ステップの生産物である)。
【0034】
形質転換とは、細胞によって保有(carried)された遺伝的な物質を1つ以上の外来性の核酸の細胞に取り込ませて変化させるプロセスである。例えば、酵母は、種々のプロトコルを使用して形質転換することができる(Gietz et al., 1995)。そのような形質転換は、細胞の遺伝的な物質への外来性の核酸の取り込みによって、あるいは、細胞を外来性の核酸に曝すことによる細胞の内在性の遺伝的な物質における変化によって生じ得る。形質転換体又は形質転換した細胞は、外来性の核酸の取り込みを介して機能的に増強された細胞、又は細胞の子孫である。本願でこれらの用語が使用される場合には、これらの用語は、それ以降の世代の細胞にも存在し得る他の突然変異又は変化とは無関係に所望の遺伝的変化がそれ以降の細胞世代を通じて保存される形質転換細胞の子孫に適用される。
【0035】
ワイン作製に使用するための形質転換した宿主細胞は、例えば、ブルゴビン(RC212 サッカロミセス・セレビシエ)、ICV D−47 サッカロミセス・セレビシエ、71B−1122 サッカロミセス・セレビシエ、K1V−1116 サッカロミセス・セレビシエ、EC−1118 サッカロミセス・バイヤス、Vin13、Vin7、N96及びWE352のようなサッカロミセス・セレビシエ又はスキツォサッカロミセスのストレインを含み得る。酵母ストレインについての商業上の供給源は、Lallemand Inc.(カナダ)、AB Mauri(オーストラリア)、Lesaffre(フランス)など、多々存在する。
【0036】
種々の実施形態において、本発明の諸々の視点では、DUR3の尿素輸送活性などの尿素輸送活性を有する内在性又は異種性の酵素を使用することができる。同様に、いくつかの実施形態において、本発明の諸々の視点では、DUR1,2pの尿素カルボキシラーゼ活性及びアロファン酸ヒドロラーゼ活性などの尿素分解活性を有する内在性又は異種性の酵素を使用することができる。これらの酵素は、例えば、DUR3p又はDUR1,2pと相同(homologous)であるか、関連する活性を有するDUR3p又はDUR1,2pの領域と相同であり得る。
【0037】
配列間(天然のDUR3p又はDUR1,2p、あるいは天然のDUR3又はDUR1,2の核酸配列、そして本発明において使用されるその他のタンパク質又は核酸の配列など)の相同性の度合いは、配列を適切に整列(アライン)させたときの同一性のパーセンテージとして表現することができ、配列間の正確なマッチ(matches)の出現率を意味する。同一性比較のための配列の最適なアライメントは、種々のアルゴリズム、例えば、Smith and Waterman, 1981,Adv. Appl. Math 2: 482の局所的ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444の類似度サーチ方法、そしてこれらアルゴリズムのコンピュータによる実行(Genetics Computer Group, Madison, WI, U.S.A.のウィスコンシンジェネティックスソフトウェアパッケージのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTAなど)によって実行することができる。配列のアライメントは、Altschulet al., 1990, J. Mol. Biol. 215: 403-10に記載されたBLASTアルゴリズム(公表されたデフォルト設定を使用)を使用して実行することも可能である。BLAST解析を実行するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationから(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/でインターネットを介して)入手可能である。BLASTアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さの1つのワードとアラインさせたときに、マッチするか、あるいはいくつかのポジティブな値としての閾値スコアTを満足する問い合わせ配列(query sequence)中の長さWの短いワードを同定することによってハイスコア配列対(HSPs)を最初に同定することを含む。Tは、近接ワードスコア閾値と称する。最初の近接ワードヒット(複数)は、より長いHSPsを発見するサーチを開始するためのシーズ(seeds)としての役割を果たす。該ワードヒット(複数)は、累積アライメントスコアが増大可能である限り、個々の配列に沿って両方向に拡張(進行)される。各方向におけるワードヒットの拡張は、以下のパラメータを充足したときに停止する:累積アライメントスコアが最大達成値から量Xだけ低下すること;1つ以上のネガティブなスコアを与える残基アライメントの蓄積に応じて累積スコアがゼロ以下になること;又は、いずれかの配列の末端に到達すること。BLASTアルゴリズムのパラメータW、T及びXは、アライメントの精度及び速度を決定する。BLASTプログラムは、核酸の両方のストランドの比較については、デフォルト設定として以下の値を使用することができる:ワード長(W)として11、BLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)、アライメント(B)として50、期待値(expectation)(E)として10(期待値(E)は、他の実施形態では1、0.1、0.01、0.001又は0.0001に変えることができる。つまり、0.1より遥かに大きいE値では機能的に類似の配列を同定することができないかもしれないが、0.1〜10の間のE値は短い領域の類似性についての低い(lower)有意性を有するヒット(複数)を調べることには有用である。)、M=5、N=4[sic,−4]。タンパク質の比較については、BLASTPは、以下のデフォルト設定を用いて使用することができる:G=11(ギャップを開くためのコスト);E=1(ギャップを拡張するためのコスト);E=10(期待値、この設定では、規定のアライメントスコアSと等しいかより良いスコアを有する10個のヒットが、サーチされるものと同じサイズのデータベースに偶然に現れることが予測される;E値を増加あるいは減少させてサーチの厳密性を変えることができる);W=3(ワードサイズ、デフォルト値は、BLASTNついては11であり、他のblastプログラムついては3である)。BLOSUMマトリックスは、関連するタンパク質内のコンセンサスブロック間で生ずることが知られている置換の頻度に基づくアライメント内の各位置についての確率スコアを与える(assigns)。BLOSUM62(ギャップ存在コスト=11;残基当りのギャップコスト=1;ラムダ比=0.85)の置換マトリックスは、BLAST2.0ではデフォルトで使用される。PAM30(9, 1, 0.87);PAM70(10, 1, 0.87);BLOSUM80(10, 1, 0.87);BLOSUM62(11, 1, 0.82)及びBLOSUM45(14, 2, 0.87)などの種々の他のマトリックスをBLOSUM62の代わりに使用することができる。BLASTアルゴリズムを用いたときの2つの配列間の統計的類似性の1つの尺度(measure)は、最少和確率(smallest sum probability)(P(N))であり、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列の間でのマッチが偶然に生じるであろう確率の指標を提供する。本発明の他の実施形態においては、ヌクレオチド又はアミノ酸配列は、テスト配列の比較において最小和確率がおよそ1未満、好ましくはおよそ0.1未満、より好ましくはおよそ0.01未満、最も好ましくはおよそ0.001未満であれば、実質的に同一であるとみなされる。
【0038】
いくつかの実施形態の中で、本発明の核酸及びタンパク質の配列(複数)は、DUR3p又はDUR1,2p、あるいはDUR3又はDUR1,2の核酸配列と実質的に同一であるといったように、実質的に同一であり得る。そのような配列の実質的な同一性は、適切にアラインされたときの同一性のパーセンテージ(例えば、50%超、80%〜100%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る)に反映され得、遺伝子ターゲッティング基質の場合には、遺伝子ターゲッティング基質の一部とターゲット配列の一部との同一性を意味し、その度合いの同一性は相同的な対合、そして組換え及び/又は修復を促進し得る。2つの核酸配列が実質的に同一であることの他の指標は、当該2つの配列が互いに、適度にストリンジェントな条件下で、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることである。適度にストリンジェントな条件下でのフィルタに結合した配列へのハイブリダイゼーションは、例えば、0.5MのNaHPO、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mMのEDTAの中で65℃で行い、そして、0.2xSSC/0.1%SDSで42℃で洗浄するというような条件で行うことができる(Ausubel, et al. (eds), 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Green Publishing Associates, Inc., and John Wiley & Sons, Inc., New York, p.2.10. 3参照)。あるいは、ストリンジェントな条件下でのフィルタ結合配列へのハイブリダイゼーションは、例えば、0.5M NaHP0、7%SDS、1mM EDTAの中で65℃で行い、そして、0.1xSSC/0.1%SDSで68℃で洗浄するというような条件で行うことができる(上記Ausubel, et al. (eds), 1989参照)ハイブリダイゼーション条件は、目的の配列に応じて既知の方法に従って修正してもよい(Tijssen, 1993, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology- - Hybridization with Nucleic Acid Probes, Part I, Chapter 2 “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays”, Elsevier, New York参照)。一般的には、ストリンジェント条件は、所定のイオン強度及びpHにおける特定の配列についての熱融解温度よりおよそ5℃低くなるように選択される。ストリンジェントハイブリダイゼーションのための洗浄は、例えば、少なくとも15分、30分、45分、60分、75分、90分、105分、又は120分であり得る。
【0039】
DUR3又はDUR1,2などのポリペプチドの構造に、当該ペプチドの生物学的機能を実質的に変化することなく幾つかの修正及び変更を加えて、生物学的に等価なポリペプチドを得ることができることは、本発明の分野において良く知られている。本発明の1つの視点では、尿素輸送活性を有するタンパク質は、保存的アミノ酸置換による天然のDUR3配列と異なるタンパク質を含み得る。同様に、尿素カルボキシラーゼ及び/又はアロファン酸ヒドロラーゼ活性を有するタンパク質は、保存的アミノ酸置換による天然のDUR1,2配列と異なるタンパク質を含み得る。本願において使用する場合に、用語「保存されたアミノ酸置換」とは、タンパク質の所与の位置における1つのアミノ酸の他のアミノ酸への置換を意味し、この置換は関連する機能を実質的に喪失させること無く行われる。そのような改変体を作製する際には、アミノ酸残基などの置換を、側鎖置換基の相対的類似性、例えば、サイズ、電荷、疎水性、親水性等に基づいて実行することができるし、そのような置換は、ルーチン的なテストにより、タンパク質の機能に対するそれらの影響についてアッセイすることができる。
【0040】
いくつかの実施形態において、保存されたアミノ酸置換を行っても良く、この実施形態では、アミノ酸残基は類似の親水性値(例えば、±2.0の範囲内の値)を有する他のアミノ酸残基に置換することによって実行することができる。そのような実施形態では、以下のものがおよそ−1.6の疎水性親水性指標を有するアミノ酸であり得、Tyr(−1.3)又はPro(−1.6)がアミノ酸残基に割り当てられる(詳細は米国特許番号4,554,101参照。この文献は引用を持って本書に繰り込まれその開示内容は本書に記載されているものとみなす):Arg(+3.0);Lys(+3.0);Asp(+3.0);Glu(+3.0);Ser(+0.3);Asn(+0.2);Gln(+0.2);Gly(0);Pro(−0.5);Thr(−0.4);Ala(−0.5);His(−0.5);Cys(−1.0);Met(−1.3);Val(−1.5);Leu(−1.8);Ile(−1.8);Tyr(−2.3);Phe(−2.5)及びTrp(−3.4)。
【0041】
他の実施形態において、保存されたアミノ酸置換を行っても良く、この実施形態では、アミノ酸残基は類似の疎水性親水性指標(例えば±2.0の範囲内の値)を有する他のアミノ酸残基で置換される。そのような実施形態では、個々のアミノ酸残基には、以下のように、その疎水性及び電荷特性に基づいた疎水性親水性指標を割り当てることができる:Ile(+4.5);Val(+4.2);Leu(+3.8);Phe(+2.8);Cys(+2.5);Met(+1.9);Ala(+1.8);Gly(−0.4);Thr(−0.7);Ser(−0.8);Trp(−0.9);Tyr(−1.3);Pro(−1.6);His(−3.2);Glu(−3.5);Gln(−3.5);Asp(−3.5);Asn(−3.5);Lys(−3.9)及びArg(−4.5)。
【0042】
他の実施形態において、保存されたアミノ酸置換を行っても良く、この実施形態では、アミノ酸残基を同じクラスの他のアミノ酸残基で置換される。アミノ酸は、以下のように、非極性、酸性、塩基性及び中性の各クラスに分類される:非極性:Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Pro、Met;酸性:Asp、Glu;塩基性:Lys、Arg、His;中性:Gly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyr。
【0043】
他の実施形態において、保存されたアミノ酸の変化には、親水性又は疎水性、サイズ又は容積、又は電荷を考慮した変化を含む。アミノ酸は、一般に、主としてアミノ酸側鎖の特性に基づいて、疎水性又は親水性として特徴付けることができる。Eisenberg et al(J. Mol. Bio. 179: 125-142, 184)の規格化されたコンセンサスな疎水性スケールに基づくと、疎水性アミノ酸はゼロより大きい疎水性を示し、親水性アミノ酸はゼロ未満の親水性を示す。遺伝的にコードされた疎水性アミノ酸にはGly、Ala、Phe、Val、Leu、Ile、Pro、Met及びTrpが含まれ、遺伝的にコードされた親水性アミノ酸にはThr、His、Glu、Gln、Asp、Arg、Ser及びLysが含まれる。非遺伝的にコードされた疎水性アミノ酸にはt−ブチルアラニンが含まれ、非遺伝的にコードされた親水性アミノ酸にはシトルリン及びホモシステインが含まれる。
【0044】
疎水性又は親水性アミノ酸は、それらの側鎖の特徴に基づいて更に細分類することができる。例えば、芳香性アミノ酸は、少なくとも1つの芳香環又はヘテロ芳香族環を含有する側鎖を有する疎水性アミノ酸であり、−OH、−SH、−CN、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−NO、−NH、−NHR、−NRR、−C(O)R、−C(O)OH、C(O)OR、−C(O)NH、−C(O)NHR、−C(O)NRRなどの1つ以上の置換基を含み得る。これらの置換基において、Rは、独立して、(C1−C6)アルキル、置換(C1−C6)アルキル、(C1−C6)アルケニル、置換(C1−C6)アルケニル、(C1−C6)アルキニル、置換(C1−C6)アルキニル、(C5−C20)アリール、置換(C5−C20)アリール、(C6−C26)アルカリール(alkaryl)、置換(C6−C26)アルカリール、5−20員ヘテロアリール、置換5−20員ヘテロアリール、6−26員アルクヘテロアリール(alkheteroaryl)又は置換6−26員アルクヘテロアリールである。遺伝的にコードされた芳香族アミノ酸には、Phe、Tyr、及びTrpが含まれる。
【0045】
無極性アミノ酸とは、生理的なpHで非帯電であり、かつ2つの原子間の共有電子対が一般的に当該2つの原子の各々によって等しく保持される結合を有する側鎖(即ち側鎖は極性ではない)を有する疎水性アミノ酸である。遺伝的にコードされた無極性アミノ酸には、Gly、Leu、Val、Ile、Ala及びMetが含まれる。無極性アミノ酸は、脂肪族炭化水素側鎖を有する疎水性アミノ酸である脂肪族アミノ酸を含むように更に細分類することができる。遺伝的にコードされた脂肪族アミノ酸には、Ala、Leu、Val及びIleが含まれる。
【0046】
極性アミノ酸とは、生理的なpHで非帯電であるが、2つの原子間の共有電子対が一方の原子に偏って保持される1つの結合を有する側鎖を有する親水性アミノ酸である。遺伝的にコードされた極性アミノ酸には、Ser、Thr、Asn及びGlnが含まれる。
【0047】
酸性アミノ酸とは、7未満の側鎖pKa値を有する親水性アミノ酸である。酸性アミノ酸は、典型的には、水素イオンの放出により生理的なpHで負に帯電した側鎖を有する。遺伝的にコードされた酸性アミノ酸には、Asp及びGluが含まれる。塩基性アミノ酸とは、7より大きい側鎖pKa値を有する親水性アミノ酸である。塩基性アミノ酸は、典型的には、ヒドロニウムイオンの受容(association)により生理的なpHで正に帯電した側鎖を有する。遺伝的にコードされた塩基性アミノ酸には、Arg、Lys及びHisが含まれる。
【0048】
上述の分類は絶対的なものではなく、1つのアミノ酸が2つ以上のカテゴリーに分類し得ることは、当業者であれば理解することができる。更に、アミノ酸は、特定のアッセイにより又は予め同定されたアミノ酸との比較により、既知の挙動及び/又は特徴的な化学的、物理的又は生物学的な特性に基づいて分類することもできる。
【0049】
本発明の種々の視点において、宿主の尿素輸送活性及び尿素分解活性は、例えば、ワイン発酵条件下などの発酵条件下で所望のレベルになるように調節することができる。用語「発酵条件(fermentation conditions又はfermenting conditions)」は、サッカロミセス・セレビシエなどの生命体が発酵によってエネルギーを生産する条件、すなわち発酵が行われる培養条件を意味する。広義には、酸素の不在下で微生物の成長のためのエネルギーを産生できる嫌気反応がすべて含まれる。発酵のエネルギーは、基質レベルのリン酸化によって供給される。発酵においては、ある有機化合物(エネルギー源)が電子のドナー(供与体)としての役割を果たし、他の有機化合物が電子アクセプタ(受容体)である。例えば、炭水化物、アミノ酸、プリン及びピリミジンなどの種々の有機基質を発酵に使用することができる。1つの視点では、本発明は、炭水化物を発酵させて、エチルアルコールを生産することができる生物(酵母など)に関連する。
【0050】
ワインの発酵では、マスト(ブドウ汁)の培養条件は、出発物質として使用されるジュースによって決められる。例えば、ブドウジュースの主成分は、グルコース(典型的にはおよそ75〜150g/L)、フルクトース(典型的にはおよそ75〜150g/L)、酒石酸(典型的にはおよそ2〜10g/L)、マレイン酸(典型的にはおよそ1〜8g/L)及び遊離アミノ酸(典型的にはおよそ0.2〜2.5g/L)である。しかしながら、実質的にはどの果物または糖生成植物(sugary plant)の液汁(sap)であっても、炭水化物のエチルアルコールへの変換が主反応であるプロセスにおいて、アルコール飲料に加工することができる。
【0051】
ワイン酵母は、典型的には、およそ3.2〜4.5の範囲のpHで増殖及び発酵し、およそ0.85の最小水分活性(又はおよそ88%の相対湿度)を必要とする。発酵は、自発的に進行させてもよいが、予め発酵させたマストを接種することによって開始することもできる(その場合には、ジュースに、10〜およそ10cfu/mL(ジュースあたり)の個体数の酵母を接種することができる)。マストに通気して、酵母の個体数を増加させてもよい。ひとたび発酵が始まると、一般的には、嫌気条件が二酸化炭素の急速な生産によって維持される。発酵温度は、通常、10℃〜30℃であり、発酵プロセスの期間は、例えば、数日間から数週間に拡張させることができる。
【0052】
1つの視点では、本発明は、発酵アルコール飲料中のエチルカルバメートの濃度を低減させることが可能な酵母ストレインを提供する。例えば、本発明は、40ppb(μg/L)未満、35ppb(未満)、30ppb(未満)、25ppb(未満)、20ppb(未満)、15ppb(未満)、10ppb(未満)又は5ppb(未満)(又は50ppb〜1ppbの間のいずれかの整数値)の濃度のエチルカルバメートを有するワインを提供することに使用することができる。他の実施形態では、本発明は、およそ500ppb未満、400ppb(未満)、300ppb(未満)、200ppb(未満)、150ppb(未満)、100ppb(未満)、90ppb(未満)、80ppb(未満)、70ppb(未満)、60ppb(未満)、50ppb(未満)、40ppb(未満)、30ppb(未満)、20ppb(未満)又は10ppb(未満)(又は500ppb〜10ppbの間のいずれかの整数値)の濃度のエチルカルバメートを有する栄養強化ワイン又は蒸留酒を提供することに使用することができる。
【0053】
他の実施形態では、本発明は、ブドウマスト中の低減された尿素濃度を維持することが可能な酵母ストレインを提供することができる。例えば、尿素濃度を、およそ15mg/L(未満)、10mg/L(未満)、5mg/L(未満)、4mg/L(未満)、3mg/L(未満)、2mg/L(未満)又は1mg/L未満に維持することができる。
【0054】
1つの視点では、本発明は、醗酵条件下で所望のレベルの尿素分解活性を有する発酵生命体の自然変異体を選択するための方法を提供する。例えば、DUR3のNCRが欠失している酵母株を選択することができる。酵母の突然変異及び選択プロトコルの一例としては、2000年10月31日にMortimer et al.に発行された米国特許番号6,140,108を参照されたい。そのような方法では、酵母ストレインをエチルメタンスルホネート、亜硝酸又はヒドロキシルアミンなどの突然変異誘発物質で処置して、塩基対置換を有する突然変異体を作製することができる。改変した尿素分解活性を有する突然変異体は、例えば、適切な培地でプレーティングすることによってスクリーニングすることができる。
【0055】
他の実施形態では、部位特異的な突然変異導入を採用して、宿主における尿素輸送活性又は尿素分解活性のレベルを変えることができる。例えば、部位特異的な突然変異導入を採用して、DUR3又はDUR1,2 プロモーターなどの酵母のプロモーターからNCR媒介エレメント(mediating elements)を除去することができる。例えば、図4に示すような、ネイティブなDUR1,2プロモーター配列におけるGATAA(G)ボックスを、削除又は置換改変することができる。1つの実施形態では、例えば、一方又は両方のGATAAボックスを、GをTで置換して改変し、配列をTATAAにすることができる。部位特異的な突然変異導入方法は、例えば、Rothstein, 1991; Simon and Moore, 1987; Winzeler et al., 1999、及びNegritto et al., 1997に開示されている。他の実施形態では、S・セレビシエにおいてNCRを媒介するGln3p及びGat1pをコードする遺伝子を突然変異させて、NCRを調節することもできる。その際には、選択又は遺伝子操作されてNCRが欠失したプロモーターを、醗酵条件下におけるDUR3の発現を媒介するように、DUR3のコーディング配列に機能上リンクさせることができる。
【0056】
本発明の酵母ストレインの相対的な尿素輸送活性又は尿素分解酵素活性は、形質転換していない親ストレインと相対的に測定することができる。例えば、本発明の形質転換酵母ストレインは、醗酵条件下において親ストレインよりも大きい(greater)尿素輸送活性又は尿素分解活性を有するもの、又は、例えば、親ストレインの活性の少なくとも150%、200%、250%、300%、400%又は500%など、同一の醗酵条件下において親ストレインの活性よりも幾分大きな(some greater)割合の活性を有するものが選択され得る。同様に、本発明の組換え核酸によって発現又はコードされた酵素の活性は、それらが由来する非組換え配列と相対的に決定して、同様の倍率の活性を有するストレインを使用することができる。
【0057】
本発明の1つの視点では、DUR3ポリペプチドの調節された発現を媒介する異種性のプロモーター配列の制御下にDUR3コーディング配列又はそのホモログを有する組換え核酸分子を含むベクターを提供することができる。そのようなベクターを提供するために、S・セレビシエからのDUR3オープンリーディングフレーム(ORF)を、組換えDUR3遺伝子の発現を調節する発現カセットを含有するプラスミドに挿入することができる。組換え分子を選択された酵母ストレインに導入して、改変した尿素輸送活性を有する形質転換したストレインを提供することができる。他の実施形態では、S・セレビシエなどの宿主におけるネイティブなDUR3コーディング配列のホモログの発現に、ネイティブなプロモーターを他のプロモーターで置き換えることによって影響を与えることもできる。付加的な調節エレメントを、内在性のコーディング配列を利用する組換え発現カセットを構築することに使用することもできる。組換え遺伝子又は発現カセットを、S・セレビシエなどの宿主の染色体DNAに組込むこともできる。
【0058】
本発明の他の側面で使用するプロモーターは、PGK1又はCAR1プロモーターなどの適するネイティブなS・セレビシエのプロモーターから選択することができる。そのようなプロモーターは、PGK1及びCAR1ターミネーターなどの付加的な調節エレメントと一緒に使用することができる。種々のネイティブ又は組換え型のプロモーターを使用することができ、その場合にはプロモーターは、選択された条件下(ワイン製造条件下など)での尿素分解活性(DUR1,2活性など)の発現を媒介するように選択又は構築される。種々の恒常的なプロモーターを、例えば、DUR3のコーディング配列に機能上リンクすることができる。
【0059】
本発明の1つの視点によれば、宿主の尿素輸送(取り込み)活性を調節する組換え核酸で形質転換した宿主(酵母ストレインなど)を用いた炭水化物の発酵方法(ワインの発酵方法など)が提供される。例えば、DUR3遺伝子のNCRを、ワイン製造酵母ストレインにおける尿素の取り込みを増強するように調節することができる。本発明のこの視点によれば、ブドウのマストの発酵を、該酵母ストレインを用いて、エチルカルバメートが限定された量しか産生されないように実行することができる。
【0060】
本願においては、本発明の種々の実施形態を開示したが、当業者の通常の一般知識に従って、本発明の範囲内において種々の適合化・改変を行うことができる。そのような改変には、実質的に同じ仕方で同じ結果を達成するために、本発明の任意の視点を既知の均等物(equivalent)で置換することが含まれる。数値範囲には、その範囲を定義している数値も含まれる。本願明細書において、用語「含む(comprising)」は、開放型(open-ended)の用語として使用され、実質的には、語句「〜を含むが、それらに限定されない(including, but not limited to)」に等しく、用語「含む(comprises)」は、これに対応する意味を有する。本願における文献の引用を、そのような文献が本発明の先行技術であることの認証として解釈するべきではない。個々の刊行物それぞれが本願において引用によって取り込まれるべきであることが特段かつ個々に示されている場合や、本願において十分に定義されている場合には、本願明細書において引用したすべての刊行物(特許及び特許出願を含むがこれらに限定されない)は、引用によって本願に繰り込まれる。本発明は、上述のような、そして、実施例及び図面に示した実質的に全ての実施形態及びバリエーションを含む。
【0061】
本発明の1つの実施形態では、醗酵条件下において尿素トランスポーターの発現の窒素カタボライト抑制を低減するように形質転換した酵母ストレインが提供される。例えば、尿素トランスポーターはDUR3によってコードされていてもよく、該尿素トランスポーターはDUR3pであり得る。
【0062】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において、尿素トランスポーターの発現と尿素分解酵素の発現の両方の窒素カタボライト抑制を低減するように形質転換した酵母ストレインが提供される。尿素トランスポーターはDUR3によってコードされていてもよく、尿素分解酵素はDUR1,2によってコードされていてもよく、尿素トランスポーターはDUR3pであり得、尿素分解酵素は尿素カルボキシラーゼ/アロファン酸ヒドロラーゼであり得る。
【0063】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において尿素を継続的に取り込むように形質転換された酵母ストレインが提供される。酵母は、例えば、DUR3を恒常的に発現する。
【0064】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において尿素を継続的に取り込みかつ尿素を分解するように形質転換した酵母ストレインが提供される。この実施形態において、酵母ストレインは、DUR1,2とDUR3の両方を恒常的に発現することができる。
【0065】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において尿素トランスポーターの発現の窒素カタボライト(異化代謝産物)抑制を低減させるように酵母ストレインを形質転換することを含む酵母ストレインの改変方法が提供される。尿素トランスポーターは、例えば、DUR3によってコードされていてもよく、尿素トランスポーターはDUR3pであり得る。
【0066】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において尿素トランスポーターの発現及び尿素分解酵素の発現の窒素カタボライト抑制を低減させるように酵母ストレインを形質転換することを含む酵母ストレインの改変方法が提供される。尿素トランスポーターはDUR3によってコードされていても良く、該尿素分解酵素はDUR1,2によってコードされていてもよく、尿素トランスポーターはDUR3pであり得、該尿素分解酵素は尿素カルボキシラーゼ又はアロファン酸ヒドロラーゼであり得る。
【0067】
本発明の更なる実施形態では、DUR3を恒常的に発現するように酵母ストレインを改変する方法が提供される。該方法は、1/2TRP1-PGKp-DUR3-PGKt-kanMX-1/2TRP1カセットのTRP1ローカスへの組込みを含むことができる。あるいは、該方法は、DUR3pをコードするコーディング配列を含む組換え核酸を用いて前記酵母ストレインを形質転換することを含むことができる。あるいは、該方法は、窒素カタボライト抑制を受けないプロモーターを含む組換え核酸を用いて前記酵母を形質転換することを含むことができる。
【0068】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において尿素トランスポーターの発現窒素カタボライト抑制を低減させるように形質転換した酵母ストレインを使用する醗酵飲料又は醗酵食品の製造方法が提供される。尿素トランスポーターはDUR3によってコードされていても良く、尿素トランスポーターはDUR3pであり得る。
【0069】
本発明の更なる実施形態では、醗酵条件下において尿素トランスポーターの発現及び尿素分解酵素の発現の両方の窒素カタボライト抑制を低減させるように形質転換した酵母ストレインを使用する醗酵飲料又は醗酵食品の製造方法が提供される。尿素トランスポーターはDUR3によってコードされていても良く、前記尿素分解酵素はDUR1,2によってコードされていても良い。尿素トランスポーターはDUR3pであり得るし、前記尿素分解酵素は尿素カルボキシラーゼ又はアロファン酸ヒドロラーゼであり得る。
【0070】
本発明の更なる実施形態では、DUR3を恒常的に発現して醗酵飲料又は醗酵食品におけるエチルカルバメートの濃度を低減させる形質転換した酵母ストレインの使用が提供される。
【0071】
本発明の更なる実施形態では、DUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現して醗酵飲料又は醗酵食品におけるエチルカルバメートの濃度を低減させる形質転換した酵母ストレインの使用が提供される。
【0072】
本発明の更なる実施形態では、DUR3を恒常的に発現して30ppb未満のエチルカルバメート濃度を有するワインを生産する形質転換した酵母ストレインの使用が提供される。
【0073】
本発明の更なる実施形態では、DUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現して30ppb未満のエチルカルバメート濃度を有するワインを生産する形質転換した酵母ストレインの使用が提供される。
【0074】
本発明の更なる実施形態では、DUR3を恒常的に発現する形質転換した酵母ストレインを使用して生産された低減したエチルカルバメート濃度を有する醗酵飲料又は醗酵食品が提供される。
【0075】
本発明の更なる実施形態では、DUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現する形質転換した酵母ストレインを使用して生産された低減したエチルカルバメート濃度を有する醗酵飲料又は醗酵食品が提供される。
【0076】
本発明の更なる実施形態では、DUR3を恒常的に発現する形質転換した酵母ストレインを使用して生産された30ppb未満のエチルカルバメート濃度を有するワインが提供される。
【0077】
本発明の更なる実施形態では、DUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現する形質転換した酵母ストレインを使用して生産された、30ppb未満のエチルカルバメート濃度を有するワインが提供される。
【実施例】
【0078】
本発明は、以下の実施例を参照して記載されるが、それら実施例に限定されない。採用された実験手順の記載は、実施例の後に続く。
【実施例1】
【0079】
サッカロミセス・セレビシエのワインストレインのDUR3遺伝子のクローニング及び恒常的な(constitutive)発現。
【0080】
クローンの選択のために、抗生物質耐性マーカーkanMXを使用した。酵母ストレインUC Davis 522(Montrachet)、Prise de Mousse(EC1118)及びK7−01(酒酵母)を、DUR3単独、又はDUR1,2及びDUR3の両方を恒常的に発現するように形質転換した。広範囲にわたるテスト(extensive testing)は、形質転換した酵母が実質的にそれらの親ストレインと同等であることを示している。すなわち、遺伝子的かつ代謝的な改変は、意図されたDUR3、又はDUR1,2及びDUR3の両方の恒常的な発現のみである。
【実施例2】
【0081】
DUR3遺伝子カセットを用いた酵母の形質転換
【0082】
酵母をPGK1のプロモーター及びターミネーターシグナルの制御下にDUR3遺伝子を含有する組換え核酸で形質転換した。PGK1プロモーターはNCRを受けない。DUR3遺伝子カセット−1/2TRP1-PGKp-DUR3-PGKt-kanMX-1/2TRP1
【実施例3】
【0083】
減少したエチルカルバメートの出現を確立するための組換え酵母を用いた醗酵実験
【0084】
DUR3の恒常的な発現は、アルギニン代謝の副生成物として排泄された尿素を再吸収するが、ブドウのマストの中に天然に存在する尿素も吸収する酵母ストレインを創造する。エチルカルバメートの有意な低減が522DUR3酵母ストレインに曝されたワインにおいて見られ(〜81%)、25及び13%の低減がK7DUR3及びPDMDUR3酵母ストレインそれぞれに曝された後に見られた(表1のデータ)。恒常的にDUR3を発現する酵母が、恒常的にDUR1,2を発現する酵母と同じ程度に効率的にエチルカルバメート濃度を低減させることも示されている。
【0085】
DUR1,2及びDUR3の両方の恒常的な発現の組み合わせは、552及びK7酵母ストレインにおいてDUR1,2又はDUR3のいずれか単独とおよそ同じ程度までエチルカルバメートを減少させる。しかしながら、PDMEC−DUR3(DUR1,2及びDUR3)は、PDMDUR3(DUR3)又はPDMEC(DUR1,2)ストレインのいずれか単独よりも大きな(greater)程度にワインのマストにおけるエチルカルバメートを減少させることができる酵母ストレインの例である。
【実施例4】
【0086】
選択可能マーカーの除去を可能にするセルフ−クローニングカセット
【0087】
図9及び10は、形質転換した酵母の選択の次に、直列反復配列(direct repeats)の組換えを経由した抗生物質耐性マーカーの除去を可能にするDUR3遺伝子のカセットleu2-PGK1p-kanMX-PGKp-DUR3-PGK1t-leu2(以下に記載のようにこの実施例で使用される)を表す。
【0088】
形質転換した酵母の選択の次に、直列反復配列の組換えを経由した抗生物質耐性マーカーの除去を可能するPGK1のプロモーター及びターミネーターシグナルの制御下にDUR3遺伝子を含む組換え核酸で酵母を形質転換した。PGK1プロモーターはNCRを受けない。DUR3遺伝子カセット−leu2-PGK1p-kanMX-PGKp-DUR3-PGK1t-leu2。4つのストレイン(CY3079、Bordeaux Red、そしてDUR1,2形質転換ストレインD80ec-及びD254ec-)をleu2-PGK1p-kanMX-PGKp-DUR3-PGK1t-leu2カセットで形質転換した。これは、D254ec-について55個のストレイン、D80ec-について125個のストレイン、Bordeaux Redについておよそ200個のストレイン、CY3079についておよそ300個のストレインを産出した。およそ1ストレイン当たりおよそ20〜60個のクローンをミニ醗酵のために選択し、EC低減を決定した。2つのCY3079のクローンは実験室条件下で94.2%及び46.5%のEC低減を有し、3つのBordeaux Redのクローンは57.6%〜64.9%のEC低減を有し、D80ec-クローンは60.8%−66.1%のEC低減を有し、2つのD254ec-クローンは87.5%及び75.1%のEC低減を有した。
【0089】
[上述の実施例において採用した実験手順]
pHVX2D3の作製
【0090】
恒常的なPGK1プロモーター及びターミネーターシグナルの制御下にDUR3を置くために、DUR3のORFをpHVX2にクローニングした。それらの5’末端に構築されたXho1制限酵素サイトを含有する以下のプライマーを使用してDUR3のORFを522ゲノムDNAから増幅した:
DUR3forXho1 (5'-AAAACTCGAGATGGGAGAATTTAAACCTCCGCTAC-3') (SEQ ID NO:1)
DUR3revXho1 (5'-AAAACTCGAGCTAAATTATTTCATCAACTTGTCCGAAATGTG-3') (SEQ ID NO:2)。
【0091】
PCRの後に、0.8%アガロースゲルで可視化し、PCR精製(Qiagen, USA - PCR Purification Kit)して、PCR産物(挿入配列)及びpHVX2(ベクター)の両方をXho1で消化した(Roche, Germany)。消化されたベクターをSAP(Fermentas, USA)で処理して再び環状化することを防止した後、挿入配列、及び直線化したSAP処置ベクターをオーバーナイトで22℃で連結させ(T4DNAライゲース - Fermentas, USA)、ライゲーション混合液(5μL)を使用してDH5α(登録商標)コンピテント細胞(Invitrogen, USA)を形質転換し、次に100μg/mLアンピシリン(Fisher, USA)添加のLB(Difco, USA)プレート上で成長させた。形質転換体コロニーの中で無作為に選択されたもの由来のプラスミドを取得し(Qiagen, USA - QIAprep Spin Miniprep kit)、EcoR1(Roche, Germany)によって消化し、内側−外側のプライマーを使用してPCRを行って、所望の挿入配列を有するプラスミドを確認した。結果として得られたPGK1p-DUR3-PGK1tを含有するプラスミドをpHVX2D3と命名した。
【0092】
pHVXKD3の作製
【0093】
kanMXマーカーをXho1及びSal1を用いた二重消化を経由してpUG6から得た。消化の後、1500bpのkanMXのバンドをゲル精製し(Qiagen, USA - Gel Extraction Kit)、直線化したSAP処置pHVX2D3のSal1サイトに連結した。ライゲーション混合液(5μL)を使用してDH5α(登録商標)コンピテント細胞を形質転換し、LB−アンピシリン(100μg/mL)の上で成長させた。組換えプラスミドを、24個の無作為に選択したコロニーから単離したプラスミドのHindIII(Roche, Germany)消化によって確認した。結果として得られたPGK1p-DUR3-PGK1t-kanMXを含有するプラスミドは、pHVXKD3と命名した。
【0094】
pUCTRP1の作製
【0095】
BamH1そして次にApa1サイトをそれらのそれらの5’末端に各々含有するTRP1に特異的なプライマーを使用して、TRP1のコード領域を522ゲノムDNAからPCR増幅した:
BamH1Apa1TRP1ORFfwd(5'-AAAAAAGGATCCAAAAAAGGGCCCATGTCTGTTATTAATTTCACAGG-3')(SEQ ID NO:3)
BamH1Apa1TRP1ORFrev(5'-AAAAAAGGATCCAAAAAAGGGCCCCTATTTCTTAGCATTTTTGACG-3')(SEQ ID NO:4)。
【0096】
増幅の後、精製し、定量し、〜750bpのフラグメントを直線化したSAP処置pUC18のBamH1(Roche, Germany)サイトに連結した。組換えプラスミドを最初に青/白スクリーニング(50μg/mLのXgalを添加したLB−アンピシリンでの成長)を介して確認し、次にHindIII/EcoR1消化を介して確かめた。結果として得られたTRP1を含有するプラスミドは、pUCTRP1と呼ばれる。
【0097】
pUCMDの作製
【0098】
pHVXKD3の中に配置されたPGK1p-DUR3-PGK1t-kanMXカセットをカセットに特異的なプライマーを使用してpHVXKD3プラスミドDNAから増幅した:
pHVXKfwdlong(5'-CTGGCACGACAGGTTTCCCGACTGGAAAGCGGGCAGTGAG-3') (SEQ ID NO:5)
pHVXKrevlong(5'-CTGGCGAAAGGGGGATGTGCTGCAAGGCGATTAAGTTGGG-3') (SEQ ID NO:6)。
【0099】
増幅の後、精製し、定量し、直線化したSAP処置pUCTRP1の平滑状のEcoRV(Fermentas, USA)サイトへのライゲーションを促進するために、〜6500bpの平滑末端のPCR合成フラグメントをポリヌクレオチドキナーゼで処理した(New England Biolabs, USA)。
【0100】
組換えプラスミドを最初にE−lyse解析を使用して確認し、その後にApa1(Stratagene, USA)/Sal1消化を経由して確かめた。手短に言えば、E−lyseは、アガロースゲルのウェル内にコロニーを溶解し、次に電気泳動することによって、プラスミドDNAの存在について大多数のコロニーを効率的にスクリーニングする。より明確には、選択培地にパッチング(patching)した後、コロニーの小さな(small)アリコットを5μLのTBEバッファーに懸濁し、次に、10μLのSRLバッファー(25%v/vスクロース、50μg/mLRNase、1mg/mLリゾチーム)と混合した。ピペッティングによって混合した後、細胞懸濁液を0.2%(w/v)SDS−0.8%(w/v)アガロースゲルのウェルに載せた。ウェル内の細胞懸濁液が細胞の溶解を示すクリア状態(clear)になった後(〜30分)、DNAを20Vで45分、次に80Vで45分間電気泳動した。最後に、SYBR(登録商標)Safe (Invitrogen, USA)で要求されているようにゲルを染色した。
【0101】
直線状のDUR3カセットのS・セレビシエへの形質転換及び形質転換体の選択
【0102】
6536bpのDUR3カセットをApa1(Stratagene, USA)を使用してpUCMDから切り出し、0.8%アガロースゲルで可視化した。ゲルから、予測された6536bpのバンドを分離し、抽出した(Qiagen, USA - Gel extraction kit)。抽出の後、精製し、ナノドロップND−1000分光光度計(Nanodrop, USA)を使用して定量し、250ngの直線状のカセットを使用してS・セレビシエのストレインである522、522EC−、PDM、PDMEC−、K7及びK7EC−を形質転換した。酵母ストレインをリチウム酢酸/ポリエチレングリコール/ssDNA法を使用して形質転換した。形質転換の後、300μg/mLのG418(Sigma, USA)を添加したYPDプレートに蒔く前に30℃のYPDに2時間放置して回復させた。プレートは30℃でコロニーが出現するまでインキュベートした。
【0103】
ケローナシャルドネ(Calona Chardonnay)
【0104】
ろ過していないシャルドネブドウのジュース(23.75 Brix, pH 3.41,アンモニア 91.6 mg/L, FAN 309.6 mg/L)をオカナガンバレー(Okanagan Valley)のケローナワインヤード(Calona Vineyards)から取得し、改変した酵母の接種のために使用した。鮮度良く線画されたYPDプレートから、親ストレイン(522、PDM、K7及びK9)及び適切な機能的に増強されたストレインの単一コロニーを5mLのYPDに接種し、オーバーナイトで成長させた(30℃、ロータリーホイール)。細胞を50mLのYPDに継代し(OD600 = 0.05)、再びオーバーナイトで成長させた(30℃、180rpmシェイカーバス)。細胞を遠心分離(5000rpm、4℃、5分間)によって取得し、50mLの滅菌水で一度洗浄した。細胞のペレットを5mLの滅菌水に再懸濁し、OD600を測定した。ケローナワインヤード、ケロウナ(Kelowna)、BC、カナダから得たろ過していないシャルドネのジュース200mLで満たした滅菌した250mLのショットボトル(Schott bottles)に、最終的にOD600=0.1まで、接種することに細胞懸濁液を使用した。滅菌水で満たされた滅菌した(70% v/v エタノール)蒸気ロックで無菌的に密閉した。密閉したボトルを20℃でインキュベートし、毎日重量を測定してCOの生産をモニタした。データをエクセルにプロットして醗酵プロファイルを作製した。醗酵の終了時において、細胞を遠心分離によって除去し(5000rpm、4℃、5分間)、〜50mLのワインを滅菌した50mLのショットボトルにデカントした。ボトルを70℃のウォーターバス内で正確に48時間インキュベートしてECの産出を最大限にし(maximize)、次に4℃でGC/MS解析まで保管した
【0105】
SPME及びGC−MSによるワイン内のエチルカルバメートの定量
【0106】
シャルドネワインを70℃で48時間加熱して、エチルカルバメートの産出を促進させた。10−mLのワインサンプルを20−mLのサンプルバイアルにピペットで入れた。小さい(small)磁石の攪拌子及び3gのNaClを加え、バイアルをPTFE/シリコンのセプタム(septum)でキャップした。バイアルを22℃でスターラーの上に置き、攪拌で15分間平衡化するようにした。SPMEファイバー(65μm カーボワックス/ジビニルベンゼン)を使用する前に250℃で30分間慣らした(conditioned)。サンプルの平衡化の後に、ファイバーをヘッドスペース(headspace)に挿入した。30分後、ファイバーをサンプルバイアルから除去し、インジェクションポートに15分間挿入した。ブランクのランを各サンプルのランの前に実行した。定量は、外部の(external)標準的な方法を使用して行った。12%(v/v)エタノール及び1mM酒石酸をpH3.1で含有する蒸留したHOの中で0.1mg/mLでエチルカルバメート(Sigma-Aldrich, Milwaukee, WI)標準保存溶液を調製した。5、10、20、40、90μg/LのEC濃度のもので検量標準(calibration standards)を調製した。標準溶液を冷蔵庫の中で4℃で保管した。ワインの中のエチルカルバメートは、5973N Mass Selective Detectorにインターフェース接続されたAgilent 6890N GCを使用して定量した。60m x 0.25mm(内径)、0.25μm(厚さ)のDBWAX fused-silica open tubular column(J&W Scientific, Folsom, CA)を採用した。キャリアガスは、36cm/sのコンスタントな流速の超高純度のヘリウムであった。インジェクター及びトランスファーラインの温度は250℃にセットした。オーブンの温度は、最初は2分間70℃にセットし、次に、8℃/分で180℃まで上昇させ、3分間保持した。温度は、次に、20℃/分づつ220℃まで増加し、15分間保持するようにプログラムした。全体のラン時間は、35.75分であった。インジェクションモードは、5分間のスプリットレスであった(パージフロー:5mL/分、パージ時間:5分間)。MSは、電子衝撃イオン化法を用いて選択イオンモニタリング(selected ion monitoring: SIM)モードで実施した;MS quadの温度は150℃であり、MS sourceの温度は230℃であった。溶媒ディレイは8分であった。特異的なイオン44、62、74、89が100ミリ秒のドウェルタイムでモニタされた。Mass 62を信頼のおける(authentic)EC標準のマススペクトルに対する定量に使用した。
【0107】
醗酵プロファイルを図8に示し、機能的に増強されたストレインとコントロールストレインによって産出したエタノールの最終的な量を表2に示す。
【0108】
ワイン作製の間のエチルカルバメート低減の概要
酒酵母ストレイン(K7、K7EC−(8)、K7DUR3、K7EC−DUR3)、そしてワイン酵母ストレイン(522、522EC−、522DUR3、522EC−DUR3、PDM、PDMEC−、PDMDUR3、PDMEC−DUR3)によって濾過されていないケローナシャルドネマストから生産されたシャルドネワインの中のエチルカルバメート(μg/L)をGC/MSによって定量した。醗酵が完了するまで(〜300時間)20℃でインキュベートした。
EC−DUR1,2の恒常的な発現
DUR3DUR3の恒常的な発現
EC−DUR3DUR1,2及びDUR3の組み合わせられた恒常的な発現
[表1]





【0109】
シャルドネワインの中でのワイン酵母ストレイン(522、522DUR1,2[522EC−についての他の名称]、522DUR3、及び522DUR1,2/DUR3[522EC−DUR3についての他の名称])によるエタノールの生産。エタノール含有量(%v/v)は、醗酵の終了時にLCによって測定した。醗酵プロファイルを図3[sic, 図8]に示す。統計的な有意性についてデータを2要因ANOVA解析を使用して解析した(p≦0.05)。
[表2]

s:p≦0.05で有意、n:有意でない

【特許請求の範囲】
【請求項1】
醗酵条件下において尿素トランスポータータンパク質の遺伝子発現の窒素カタボライト抑制を低減するように形質転換した酵母ストレイン。
【請求項2】
尿素トランスポーターがDUR3によってコードされていることを特徴とする請求項1に記載の酵母ストレイン。
【請求項3】
尿素トランスポーターがDUR3pであることを特徴とする請求項1に記載の酵母ストレイン。
【請求項4】
醗酵条件下において尿素分解酵素の遺伝子発現の窒素カタボライト抑制を低減するように更に形質転換した請求項1〜3のいずれか一項に記載の酵母ストレイン。
【請求項5】
尿素分解酵素がDUR1,2によってコードされることを特徴とする請求項4に記載の酵母ストレイン。
【請求項6】
尿素分解酵素が尿素カルボキシラーゼ/アロファン酸ヒドロラーゼ又は尿素アミドリアーゼであることを特徴とする請求項4に記載の酵母ストレイン。
【請求項7】
醗酵条件下において継続的に尿素を取り込むように形質転換した請求項1〜6のいずれか一項に記載の酵母ストレイン。
【請求項8】
酵母が恒常的にDUR3を発現するように形質転換されていることを特徴とする請求項7に記載の酵母ストレイン
【請求項9】
醗酵条件下において継続的に尿素を取り込み、かつ継続的に尿素を分解するように形質転換した請求項4の酵母ストレイン。
【請求項10】
酵母ストレインがDUR1,2及びDUR3を恒常的に発現するように形質転換されていることを特徴とする請求項9に記載の酵母ストレイン。
【請求項11】
醗酵条件下において尿素トランスポーターの遺伝子発現の窒素カタボライト抑制を低減するように酵母ストレインを形質転換することを含む酵母ストレインの改変方法。
【請求項12】
尿素トランスポーターがDUR3によってコードされていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
尿素トランスポーターがDUR3pであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
酵母ストレインを、醗酵条件下において尿素分解酵素の遺伝子発現の窒素カタボライト抑制を低減するように更に形質転換することを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
尿素分解酵素がDUR1,2によってコードされていることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
尿素分解酵素が尿素カルボキシラーゼ、アロファン酸ヒドロラーゼ又は尿素アミドリアーゼであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
酵母ストレインがDUR3を恒常的に発現するように形質転換されていることを特徴とする請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
酵母ストレインがDUR3pをコードするコーディング配列を含む組換え核酸で形質転換されていることを特徴とする請求項11〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
DUR3pをコードするコーディング配列が窒素カタボライト抑制を受けないプロモーターに機能上リンクされていることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
醗酵条件下において請求項1〜10のいずれか一項に記載の酵母ストレインを維持して、低減したエチルカルバメートの濃度を有する醗酵飲料又は醗酵食品を生産することを含む醗酵飲料又は醗酵食品の作製方法。
【請求項21】
低減したエチルカルバメートの濃度を有する醗酵飲料又は醗酵食品を生産するための請求項1〜10のいずれか一項に記載の形質転換した酵母ストレインの使用。
【請求項22】
醗酵飲料又は醗酵食品が30ppb未満のエチルカルバメート濃度を有することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
醗酵飲料又は醗酵食品が30ppb未満のエチルカルバメート濃度を有することを特徴とする請求項21に記載の使用。
【請求項24】
醗酵飲料又は醗酵食品がワインであることを特徴とする請求項20又は22に記載の方法。
【請求項25】
醗酵飲料又は醗酵食品がワインであることを特徴とする請求項21又は23に記載の使用。
【請求項26】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の形質転換した酵母ストレインを使用して生産された低減したエチルカルバメートの濃度を有する醗酵飲料又は醗酵食品。
【請求項27】
ワインであることを特徴とする請求項26に記載の醗酵飲料又は醗酵食品。
【請求項28】
30ppb未満のエチルカルバメート濃度を有する請求項27に記載のワイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図6−6】
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【図6−7】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−516085(P2011−516085A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504290(P2011−504290)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000481
【国際公開番号】WO2009/127050
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(300066874)ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア (24)
【Fターム(参考)】