説明

改良されたウイルス精製法

【課題】改良されたウイルス(具体的には、レオウイルス)の精製方法の提供。
【解決手段】感染性ウイルスは、細胞培養物から界面活性剤を用いて抽出することができ、高力価のウイルスが得られる。ウイルスは、その後、濾過およびカラムクロマトグラフィーのような簡単な工程によって精製することができる。本発明にしたがって調製されたウイルスおよびウイルスを含む組成物もまた提供される。本発明は、小規模および大規模のいずれのウイルス生産にも適用することができる、細胞培養物からウイルスを抽出し精製する改良された方法に関する。この方法には、細胞培養物に界面活性剤が直接添加される、簡単な抽出工程が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養物からウイルスを抽出する方法に関する。具体的には、この方法は哺乳動物(ヒトを含む)への臨床投与に適している形態で感染性ウイルスを抽出するために有用である。
【背景技術】
【0002】
(参考文献)
【0003】
【数1】

【0004】
【数2】

【0005】
【数3】

(発明の背景)
ウイルスによって引き起こされる膨大な数の疾患が原因で、ウイルス学は重点的に研究されている分野となっている。ウイルスタンパク質を単離し精製するため、ワクチンを作成するため、あるいは、実験室での研究用の感染性ウイルスを提供するためにウイルスを効率よく生産することは常に求められている。最近、新規のウイルス治療の開発には、さらに、感染性ウイルスの効率的な生産の必要性が必然的に伴う。
【0006】
レオウイルス治療はウイルス治療の一例である。レオウイルスは、多数の細胞に結合することができる二本鎖のRNAウイルスである。しかし、ほとんどの細胞は、レオウイルスには感染しにくく、その細胞受容体に対するレオウイルスの結合によってはこれらの細胞の中でのウイルスの複製またはウイルス粒子の生産は生じない。これが、おそらく、レオウイルスがいずれの特定の疾患にも関係していることが明らかになっていないことの理由である。
【0007】
ras腫瘍遺伝子で形質転換された細胞はレオウイルスに感染しやすくなるが、形質転換されていない対応する細胞はそうではない(非特許文献1)。例えば、レオウイルス耐性NIH 3T3細胞が活性化させられたRasまたはSos(Rasを活性化させるタンパク質)で形質転換された場合には、レオウイルス感染が促進される。同様に、レオウイルス感染に耐性があるマウス線維芽細胞も、EGF受容体遺伝子またはv−erbB腫瘍遺伝子(いずれもras経路を活性化させる)でのトランスフェクションの後には感染しやすくなる(非特許文献2;非特許文献3)。したがって、レオウイルスは、Ras経路が活性化させられている細胞に選択的に感染し、その中で複製することができる。
【0008】
ras腫瘍遺伝子は、哺乳動物の腫瘍の大部分について主要な原因となっている。ras遺伝子自体の活性化変異が、ヒト腫瘍全体の約30%において生じており(Bos,1989)、主に、膵臓ガン(90%)、散発性結腸直腸ガン(50%)、および肺ガン(40%)、ならびに骨髄性白血病(30%)において生じている。ras経路においてrasの上流または下流にある複数の因子の活性化もまた腫瘍に関係している。例えば、HER2/Neu/ErbB2または上皮細胞増殖因子(EGF)受容体の過剰発現は、乳ガンにおいて一般的であり(25〜30%)、そして血小板由来増殖因子(PDGF)受容体またはEGF受容体の過剰発現は、神経膠腫および膠芽細胞腫において一般的である(40〜50%)。EGF受容体およびPDGF受容体はいずれも、それらのそれぞれのリガンドに結合するとrasを活性化させることが知られており、そしてv−erbBは細胞外ドメインを欠失している構成的に活性化されている受容体をコードする。
【0009】
多数のヒト腫瘍がプロトオンコジーンrasの遺伝子変化または高いRas活性の主な原因であるので、レオウイルス治療は、このような症状についての新規のうまくいきそうな治療方法である(非特許文献4)。レオウイルス治療はRas関連腫瘍細胞に対する選択性が高く、正常な細胞は感染していないままにする。この治療方法には広い用途があり、ヒトおよびヒト以外の動物のいずれにおいても使用することができる。
【0010】
臨床投与に適しているレオウイルスを生産するためには、培養された細胞の中でレオウイルスを迅速に効率よく生産する方法が必要である。さらに、培養された細胞からウイルスを精製するための伝統的な方法は面倒で時間がかかり、それによってウイルス生産のコストがあまりに高くなってしまう。したがって、改良されたウイルスの精製方法もまた必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Strong J.E.,et al.,「The molecular basis of viral oncolysis:usurpation of the Ras signaling pathway by reovirus」,EMBO J.(1998)17:p.3351−3362
【非特許文献2】Strong J.E.,et al.,「Evidence that the Epidermal Growth Factor Receptor on Host Cells Confers Reovirus Infection Efficiency」,Virology(1993)197(1):p.405−411
【非特許文献3】Strong J.E.,and P.W.Lee,「The v−erbV oncogene confers enhanced cellular susceptibility to reovirus infection」,J.Virol.(1996)70:p.612−616
【非特許文献4】Coffey,M.C.et al.,「Reovirus therapy of tumors with activated Ras pathway」,Science(1998)282:p.1332−1334
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、小規模および大規模のいずれのウイルス生産にも適用することができる、細胞培養物からウイルスを抽出し精製する改良された方法に関する。この方法には、細胞培養物に界面活性剤が直接添加される、簡単な抽出工程が含まれる。その後、細胞の破片は、例えば、濾過または遠心分離によって抽出混合物から取り除くことができる。得られたウイルス懸濁液は、クロマトグラフィー方法によってさらに濃縮および/または富化させることができる。本発明にしたがって調製されたウイルスは、ウイルスタンパク質の精製、予防接種、宿主細胞の感染、および臨床投与を含む任意の目的のために使用することができる。
【0013】
したがって、本発明の1つの態様により、以下の工程を含む、細胞の培養物からウイルスを生産する方法が提供される:
(a)ウイルスに感染した細胞の培養物を提供する工程;
(b)培養物に界面活性剤を添加し、細胞溶解物を生じさせるための期間インキュベートすることによって、細胞からウイルスを抽出する工程;
(c)細胞の破片を取り除く工程;ならびに
(d)ウイルスを回収する工程。
【0014】
任意の方法を、工程(c)において細胞の破片を取り除く(すなわち、細胞溶解物を明澄化させる)ために使用することができる。この方法は、好ましくは、ウイルスと細胞溶解物中の他の構成成分との間のサイズまたは密度の差に基づく簡単な方法(例えば、濾過または遠心分離)である。さらに好ましくは、濾過(具体的には、段階的濾過)が使用される。適切な段階的濾過には、より大きな孔サイズを有するプレフィルターと、その後に、プレフィルターの孔サイズよりも小さい孔サイズを有する少なくとも1つの別のフィルターが含まれる。好ましい実施形態においては、細胞の破片は、以下の工程を含む段階的濾過によって取り除かれる:
(1)5μMまたは8μMの孔サイズを有するプレフィルターを通して濾過する工程、および
(2)工程(1)の後に、3μMおよび0.8μMの孔サイズを有する連結フィルター(combination filter)を通して濾過する工程。
【0015】
別の好ましい実施形態においては、上記工程(2)には、工程(1)の後に、0.8μMの孔サイズを有するフィルターを通して濾過する工程が含まれる。
【0016】
細胞溶解物は、状況に応じて、BENZONASE(登録商標)エンドヌクレアーゼまたは他のDNA切断酵素で処理して、長い粘着性のある細胞性DNAを細かくすることができる。濾過によって細胞の破片を取り除いた後、濾液を必要に応じて濃縮して、ウイルス懸濁液の容量を減少させることができる。ウイルスの濃縮に適している任意の方法(好ましくは、限外濾過または透析(接線流濾過を含む))を使用することができる。例示的な方法としては、平板枠組み(Plate and Frame)システムと中空繊維(Hollow Fiber)システムが挙げられる。より好ましくは、中空繊維システムが使用される。好ましい実施形態においては、中空繊維システムでの透析には、300kDaの分子量カットオフを有する中空繊維カートリッジの使用が含まれる。
【0017】
本発明の方法は、任意のウイルス(好ましくは、非被包性ウイルスであり、最も好ましくは、レオウイルス)の生産に適用することができる。レオウイルスは、好ましくは、哺乳動物レオウイルスであり、より好ましくは、ヒトレオウイルスであり、なおより好ましくは、血清3型レオウイルスであり、最も好ましくは、Dearing株レオウイルスである。レオウイルスは組み換え体レオウイルスであり得る。組み換え体レオウイルスは、細胞(例えば、哺乳動物細胞または鳥類細胞)の、異なるサブタイプのレオウイルスでの同時感染によって作成することができる。組み換え体レオウイルスは自然界に存在しているものである場合も、また自然界には存在しないものである場合もある。組み換え体レオウイルスは、2種類以上のレオウイルス株(具体的には、Dearing株、Abney株、Jones株、およびLang株からなる群より選択される2種類以上のレオウイルス株)に由来し得る。組み換え体レオウイルスはまた、血清型の異なるもの(例えば、血清1型レオウイルス、血清2型レオウイルス、および血清3型レオウイルスからなる群より選択される)からのレオウイルスの混ぜ合わせによって生じる場合もある。組み換え体レオウイルスには、自然界に存在している変異体コートタンパク質をコードする配列、または変異したコートタンパク質をコードする配列が含まれる場合がある。
【0018】
本発明で使用される細胞培養物には、所望されるウイルスの生産に適している任意の細胞が含まれ得る。レオウイルスについては、細胞は、好ましくは、ヒト胚腎臓細胞293(HEK293)細胞またはそれらに由来する細胞(具体的には、懸濁培養物中での増殖に適応させられたHEK293細胞)である。
【0019】
この方法には、状況に応じて、イオン交換クロマトグラフィーの工程が含まれる。この場合、ウイルスは、適切な条件下でイオン交換樹脂に結合させることによって富化させられる。その後、ウイルスは、適切な溶出溶液を使用してイオン交換体から溶出させられる。イオン交換体と結合/溶出条件の選択は、精製されるウイルスに応じて様々であろう。レオウイルスについては、陰イオン交換体とおよそ7.0〜9.0のpHが最も有効である。pHは好ましくは、約7.5から約8.5であり、最も好ましくは、約8.0である。好ましくは、イオン交換はリン酸緩衝液(例えば、50mMのリン酸ナトリウム、pH7.2)中で行われる。結合/溶出緩衝液にはマグネシウム塩が含まれないことが好ましい。
【0020】
ウイルスはまた、サイズ排除クロマトグラフィーを使用することによっても精製することができる。サイズ排除クロマトグラフィーは、好ましくは、リン酸緩衝液(例えば、50mMのリン酸ナトリウム、pH7.2)中で行われる。さらに、サイズ排除クロマトグラフィーは、マグネシウム塩が存在しない条件で行うことができる。具体的には、イオン交換クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせを使用することができる。1つの実施形態においては、レオウイルスは、陰イオン交換体を使用して精製され、その後、サイズ排除クロマトグラフィーによって精製される。
【0021】
本発明の別の態様により、本明細書中に記載される方法のいずれかにしたがって精製されたウイルスを含む組成物が提供される。組成物は、好ましくは、臨床投与に適しており、ヒトへの臨床投与に特に適している。より好ましくは、組成物には、薬学的に許容される賦形剤および/または担体が含まれる。
【0022】
本発明の別の態様によって、以下の工程を含む、感染性レオウイルスを生産する方法が提供される:
(a)レオウイルスに感染させたHEK293細胞の培養物を提供する工程;
(b)TRITON(登録商標)X−100(オクトキシノール−9から10)を培養物に添加し、約25℃から約37℃でインキュベートすることによって細胞からウイルスを抽出する工程;
(c)BENZONASE(登録商標)エンドヌクレアーゼで工程(b)による混合物を処理する工程;
(d)濾過によって細胞の破片を取り除く工程;
(e)限外濾過または透析によって濾液を濃縮する工程;
(f)イオン交換クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせによってレオウイルスを精製する工程;ならびに
(g)レオウイルスを回収する工程。
【0023】
この方法にしたがって回収されたレオウイルスを含む組成物(具体的には、薬学的に許容される賦形剤および/または担体をさらに含む組成物)もまた提供される。
【0024】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面と以下の記載に示される。本発明の他の特徴、目的、および利点は、記載事項および図面から、さらには、特許請求の範囲から明らかであろう。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞の培養物からのウイルスの生産方法であって、以下:
(a)該ウイルスに感染した細胞の培養物を提供する工程;
(b)該培養物に界面活性剤を添加し、そして細胞溶解物を得るための期間インキュベートすることによって、該細胞からウイルスを抽出する工程;
(c)細胞の破片を取り除く工程;および
(d)該ウイルスを回収する工程、
を包含する、方法。
(項目2)
前記細胞の破片が濾過によって取り除かれる、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記細胞の破片が段階的濾過によって取り除かれる、項目1に記載の方法であって、該方法は、以下:
(1)5μMまたは8μMの孔サイズを有するプレフィルターを通して濾過する工程、および
(2)工程(1)の後に、3μMと0.8μMの孔サイズを有する連結フィルターを通して濾過する工程、
を包含する、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、前記細胞の破片は、以下:
(1)5μMまたは8μMの孔サイズを有するプレフィルターを通して濾過する工程、および
(2)工程(1)の後に、0.8μMの孔サイズを有するフィルターを通して濾過する工程、
を含む段階的濾過によって取り除かれる、方法。
(項目5)
DNA切断酵素で前記細胞溶解物を処理する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目6)
濾液を濃縮する工程をさらに包含する、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記濾液は透析によって濃縮される、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記透析が、300kDaの分子量カットオフを有する中空繊維カートリッジを用いて行われる、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記ウイルスが非被包性ウイルスである、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記ウイルスがレオウイルスである、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記レオウイルスが哺乳動物のレオウイルスである、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記哺乳動物のレオウイルスがヒトレオウイルスである、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記ヒトレオウイルスが血清3型ウイルスである、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記血清3型レオウイルスがDearing株である、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記レオウイルスが組み換え体レオウイルスである、項目10に記載の方法。
(項目16)
前記細胞がヒト胚腎臓293(HEK 293)細胞である、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記HEK 293細胞が懸濁液の中で増殖させられる、項目16に記載の方法。
(項目18)
陰イオン交換クロマトグラフィーによってウイルスを精製する工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目19)
イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせによって前記ウイルスを精製する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記イオン交換が陰イオン交換体を使用して行われる、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記イオン交換がサイズ排除クロマトグラフィーの前に行われる、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーが、マグネシウムが存在しない条件で行われる、項目19に記載の方法。
(項目23)
前記イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーにおいてリン酸緩衝液が使用される、項目19に記載の方法。
(項目24)
前記リン酸緩衝液に、50mMのリン酸ナトリウム、pH7.2が含まれる、項目23に記載の方法。
(項目25)
項目1にしたがって回収されたウイルスを含む、組成物。
(項目26)
臨床投与に適している、項目25に記載の組成物。
(項目27)
薬学的に許容される賦形剤および/または担体をさらに含む、項目26に記載の組成物。
(項目28)
感染性レオウイルスの生産方法であって、以下:
(a)レオウイルスに感染したHEK293細胞の培養物を提供する工程;
(b)オクトキシノール−9から10を該培養物に添加し、約25℃から約37℃でインキュベートすることによって、該細胞からウイルスを抽出する工程;
(c)DNA切断酵素で工程(b)による混合物を処理する工程;
(d)濾過によって細胞の破片を取り除く工程;
(e)限外濾過または透析によって濾液を濃縮する工程;
(f)イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせによってレオウイルスを精製する工程;ならびに
(g)該レオウイルスを回収する工程、
を包含する、方法。
(項目29)
工程(f)は、アニオン交換クロマトグラフィーおよびその後のサイズ排除クロマトグラフィーを含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
項目28に記載の方法にしたがって調製されたレオウイルスを含む、組成物。
(項目31)
薬学的に許容される賦形剤および/または担体をさらに含む、項目30に記載の組成物
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、レオウイルスの限外濾過/透析(UF/DF)材料の、150cm/hでの分離を示す。材料を、HR5_200 Sepharose 4 Fast Flowカラム上で50mMのリン酸塩(pH7.2)、5%のグリセロールに緩衝液交換した。0.30CVの試料を載せた。0.37 CV〜0.62 CVから溶出された空隙容量を回収した。x軸はCV;y軸は280nmでのミリ吸光度単位。
【図2】図2は、Akta Explorer 100上で50cm/hでの、予備精製した材料のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)での分離を示す。緩衝液A:50mMの酢酸ナトリウム、pH5.6、5%のグリセロール。緩衝液B:A+1Mの塩化ナトリウム。x軸はml;y軸は280nmでのミリ吸光度単位。A280 CMの線は、1mlのHiTrap CM Sepharoseカラムからの溶出プロフィールを示し、A280 SPの線は、1mlのHiTrap SP Sepharoseカラムからの溶出プロフィールを示す。
【図3】図3は、種々のHiTrap陰イオン交換カラム上でのSECで予備精製したレオウイルスの分離を示す。流速;50cm/h。緩衝液A:25mMのTrisCl(pH7.2)、5%のグリセロール。緩衝液B:A+1Mの塩化ナトリウム。10 CV勾配を材料を溶出させるために流した。x軸はml;y軸は280nmでのミリ吸光度単位。A280nmによって検出した場合の溶出プロフィールは以下とした:A280 DEAE=DEAE Sepharose Fast Flow;A280 Q XL=Q Sepharose XL,ANX High Sub=ANX high sub;Q HP=Q Sepharose HP。
【図4】図4は、HR5_100 Q Sepharose HPカラム上で50cm/hでの、5〜10%のブレイクスルーによる動的結合能力の決定を示す。12より大きいCVを載せ、その後、ブレイクスルーを観察した。緩衝液A:50mMのリン酸ナトリウム(pH7.2)、5%のグリセロール。緩衝液B:50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)、5%のグリセロール、2Mの塩化ナトリウム。1Mの塩化ナトリウムまでの10CVの直線勾配を使用し、その後、2Mの塩化ナトリウムまで、5 CV工程を続けた。ウイルス画分(ウイルス活性)をRT−PCRおよびウェスタンブロッティングによって決定した。y軸は280nmでのmAU;x軸はmlでの容量。
【図5】図5は、Q Sepharose HP上でのレオウイルスの捕捉の簡単なスケールアップのための段階的プロトコールの開発を示す。Aekta Explorer 100に繋いだHR5_100 Q Sepharose HPカラム上で希塩酸でpH7.2に調整した5 CVのUF/DFレオウイルスの精製。緩衝液A:50mMのリン酸ナトリウム(pH7.2)、5%のグリセロール。緩衝液B:50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)、5%のグリセロール、2Mの塩化ナトリウム。段階的勾配:5 CVについての12%のB(洗浄)、5 CVについての25%のB(溶出)、5 CVについての50%のB(再生)、および2 CVについてのCIP(1Mの水酸化ナトリウム、その後の100%のBの5 CV)。Y軸:mAU、x軸:mlでの容量。ウイルスを含む画分をreo+で示す。
【図6】図6は、Q Sepharose HP上でのレオウイルスの捕捉の8倍のスケールアップを示す。HR10_100 Q Sepharose HPカラム上で希塩酸でpH7.2に調整した10 CVのUF/DFレオウイルスの精製。緩衝液A:50mMのリン酸ナトリウム(pH7.2)、5%のグリセロール。緩衝液B:50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)、5%のグリセロール、1Mの塩化ナトリウム。段階的勾配:5 CVについての12%のB(洗浄)、5 CVについての25%のB(溶出)、5 CVについての50%のB(再生)、および2 CVについてのCIP(1Mの水酸化ナトリウム、その後の100%のBの5 CV)。Y軸:mAU、x軸:mlでの容量。ウイルスは、約5mlの容量の、画分B3/2中に溶出された。
【図7】図7は、HR10_200 Sepharose 4 Fast Flow 20mlカラム上でのウイルス画分の精製の第2工程の8倍のスケールアップを示す。0.25 CVを載せた(図6に示す画分B3/2)。線流速:150cm/h。緩衝液:PBS,5%のグリセロール。
【図8】図8Aは、以下についての銀染色した4〜12%のSDS PAGEゲルを示す:レーン1:Q Sepharose HP精製後のウイルス画分、レーン2:CsCl精製した標準物、レーン3:2倍に希釈したSEC精製した最終物質。図8Bは、精製手順の4〜12%のSDS PAGEのクマシー染色したゲルを示す。レーン1:出発材料、レーン2:Q Sepharose材料、レーン3:2倍希釈したCsCl材料、レーン4:希釈していないCsCl材料、レーン5:SEC精製した材料。図8Cは、TCID50によって決定したレオウイルスの回収率の表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、小規模および大規模のいずれのウイルス生産にも適用することができる、細胞培養物からウイルスを抽出し精製する改良された方法に関する。この方法には、細胞培養物に界面活性剤が直接添加される、簡単な抽出工程が含まれる。その後、細胞の破片は、例えば、濾過または遠心分離によって抽出混合物から取り除くことができる。得られたウイルス懸濁液は、クロマトグラフィー方法によってさらに濃縮および/または富化させることができる。本発明にしたがって調製されたウイルスは、ウイルスタンパク質の精製、予防接種、宿主細胞の感染、および臨床投与を含む任意の目的のために使用することができる。
【0027】
本発明がさらに詳細に記載される前に、本出願で使用される用語は、特に断りのない限りは、以下のように定義される。
【0028】
定義
本明細書中で使用される場合は、「接着細胞」は、細胞培養物中において培養容器に接着している細胞を意味する。接着細胞の例としては単層細胞が挙げられ、これは、培養容器の表面上に1層の細胞を形成する細胞である。「懸濁細胞」または「細胞浮遊液」は、細胞培養物中で培養容器には接着しない細胞を意味する。懸濁細胞は、培養培地が培養プロセスの間中攪拌され続ける培養である「回転培養(spin culture)」において増殖させることができる。
【0029】
本明細書中で使用される場合は、「環境温度」は、約10℃から約30℃の間の温度を意味する。環境温度は、好ましくは、約15℃から約30℃であり、より好ましくは、約20℃から25℃であり、そしてもっとも好ましくは、約25℃である。
【0030】
本明細書中で使用される場合は、「細胞結合型(cell associated)」ウイルスは、ウイルスがその中で生産される細胞の一部に付着するかまたは細胞の一部に捕捉されるウイルスを意味する。したがって、ウイルスは、宿主細胞が溶解する前は細胞結合型である。細胞の溶解が始まっても、ウイルスは崩壊した細胞の一部に付着したまま、または崩壊した細胞の一部に捕捉されたままである場合もあり、細胞に結合したままであり得る。しかし、ウイルスが培地に放出されて遊離させられると、これはもはや細胞結合型ではない。「無細胞型(cell free)ウイルス」は、細胞結合型ではないウイルスである。
【0031】
本明細書中で使用される場合は、「細胞培養物」または「細胞の培養物」は、それらの培養条件で見られるような培養された細胞の集団を意味する。具体的には、細胞培養物には、細胞と培養培地が含まれる。ペレット状の細胞は、それらが再び、培養条件下にある培養培地の中に置かれでもしない限りは、細胞培養物とは見なされない。
【0032】
本明細書中で使用される場合は、「細胞溶解」は、細胞の細胞膜の破裂と、その後の細胞の内容物の全てまたはその一部の放出を意味する。
【0033】
本明細書中で使用される場合は、物質の「臨床投与」は、生物の健康状態を改善または維持するために、生存している生物の体の任意の部分を物質と接触させることを意味する。
【0034】
本明細書中で使用される場合は、ウイルスを「回収する」は、先にウイルスに感染させられた細胞培養物から生産されたウイルスを分離する行為を意味する。ウイルスは、通常、ウイルスから細胞の破片を分離し、そしてウイルスを含む部分を集めることによって回収される。状況によっては、ウイルスはさらに、可溶性物質から、例えば、遠心分離によって分離することができる。
【0035】
本明細書中で使用される場合は、「培養条件」は、細胞の培養に使用される条件を意味し、これには、温度、培養容器のタイプ、湿度、培養容器内で使用されるCO2または任意の他の気体の濃度、培養培地のタイプ、培養される細胞の初期密度、および細胞がウイルスに感染している場合には、初期感染多重度が含まれるが、これらに限定はされない。
【0036】
本明細書中で使用される場合は、「細胞変性効果」は、感染した宿主細胞に対する損傷である。細胞変性効果は、細胞が外見において膨張して顆粒状になり、細胞塊が破裂することによって示される。細胞変性効果を示す細胞はまた、生存している細胞の計数において染色色素を取り込む。
【0037】
本明細書中で使用される場合は、「界面活性剤」は、親水性部分と疎水性部分を有する物質である。界面活性剤は、好ましくは、合成の化合物であり、より好ましくは、生分解性の合成の化合物である。本発明に有用な界面活性剤は、破裂した細胞の内容物の放出を促進するように、細胞膜の破裂を増進する。
【0038】
本明細書中で使用される場合は、細胞は、細胞膜が破裂させられ、細胞内容物の少なくとも一部が細胞から放出されると、「破裂」させられる。細胞は、例えば、凍結解凍、超音波処理、または界面活性剤での処理によって破裂させることができる。
【0039】
本明細書中で使用される場合は、ウイルスを「抽出する」は、細胞結合型ウイルスを無細胞型ウイルスに変える行為を意味する。
【0040】
本明細書中で使用される場合は、「HEK 293細胞」は、293(ATCC番号CRL−1573)と指定されたヒトの胚腎臓細胞株またはその誘導体を意味する。例えば、293/SF細胞(ATCC番号CRL−1573.1)は、血清を含まない培地の中で増殖するように適応させられたHEK 293細胞である。他の培養条件下で増殖するように適応させられたHEK 293細胞、あるいは、外因性DNAで形質転換されるHEK 293細胞の任意の種または誘導体もまた、この形質転換体が本発明に記載される効率的なレオウイルスの生産をサポートする細胞の能力を損なわない限りは、本発明において意図される。
【0041】
本明細書中で使用される場合は、細胞培養物への界面活性剤の添加後の「インキュベート」は、一定の期間の間、細胞培養物を界面活性剤と混合させる行為を意味する。
【0042】
本明細書中で使用される場合は、「感染多重度」、すなわち「MOI」は、細胞と接触させるためにウイルスが使用された場合には、細胞の数に対するウイルスの数の比を意味する。
【0043】
本明細書中で使用される場合は、「非被包性ウイルス」は、非被包性を有していないウイルスである。例えば、非被包性ウイルスは、アデノウイルス科(Adenoviridae)(例えば、アデノウイルス)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)(例えば、ポリオウイルス)、レオウイルス科(Reoviridae)(例えば、レオウイルス)、パポバウイルス科(Papovaviridae)(例えば、パピローマウイルス)、パルボウイルス科(Parvoviridae)(例えば、キラムラットウイルス)、またはイリドウイルス科(Iridoviridae)(例えば、tipula iridescentウイルス)に属する任意のウイルスであり得る。
【0044】
本明細書中で使用される場合は、「レオウイルス」は、自然界に存在しているものであるか、修飾されたものであるか、または組み換え体であるかにはかかわらず、レオウイルス属に分類される任意のウイルスを意味する。レオウイルスは、二本鎖のセグメント化されたRNAゲノムを含むウイルスである。ビリオンは60〜80nmの直径であり、2つの同心のキャプシドの殻を有する。これらはそれぞれ、20面体である。ゲノムは、10〜12の不連続なセグメントの二本鎖RNAからなり、ゲノム全体のサイズは16〜27kbpである。個々のRNAseグメントの大きさは様々である。3つの異なるが関連しているレオウイルスのタイプが、多くの種から回収されている。これらの3つのタイプの全てが共通している補体結合抗原を有する。
【0045】
ヒトレオウイルスは3つの血清型から構成される:1型(Lang株、すなわち、T1L)、2型(Jones株、T2J)、および3型(Dearing株またはAbney株、T3D)。これらの3つの血清型は、中和アッセイとヘマグルチニン阻害アッセイ(例えば、Fields,B.N.et al.,1996)に基づいて容易に同定することができる。
【0046】
レオウイルスは、自然界に存在しているものである場合も、また、修飾されている場合もある。レオウイルスは、それが自然界での供給源から単離でき、そして実験室においてヒトによって意図的に修飾されていない場合には「自然界に存在している」ものである。例えば、レオウイルスは、「現場の供給源(field source)」、すなわち、レオウイルスに感染したヒトに由来し得る。
【0047】
レオウイルスは、2種類以上の遺伝的に異なるレオウイルスに由来するゲノムセグメントの組み換え/混ぜ合わせによって生じる、組み換え体レオウイルスであり得る。レオウイルスのゲノムセグメントの組み換え/混ぜ合わせは、少なくとも2種類の遺伝的に異なるレオウイルスでの宿主生物の感染後に、自然界で生じる場合がある。組み換え体ビリオンはまた、例えば、遺伝的に異なるレオウイルスでの感染に対して許容状態にある宿主細胞の同時感染によって、細胞培養物中で作成することもできる(Nibert et al.,1995)。
【0048】
したがって、本発明によって、2種類以上の遺伝的に異なるレオウイルス(ヒトレオウイルス(例えば、1型(例えば、Lang株)、2型(例えば、Jones株)、および3型(例えば、Dearing株またはAbney株))、ヒト以外の哺乳動物のレオウイルス、または鳥類レオウイルスを含むが、これらに限定はされない)に由来するゲノムセグメントの混ぜ合わせによって得られる組み換え体レオウイルスが意図される。本発明によって、さらに、少なくとも一方のもとのウイルスが遺伝子操作されているか、1つ以上の化学合成されたゲノムセグメントを含むか、化学的もしくは物理的な突然変異誘発物質で処理されたか、またはそれ自体が組み換え事象の結果である、2種類以上の遺伝的に異なるレオウイルスに由来するゲノムセグメントの混ぜ合わせによって生じる組み換え体レオウイルスが意図される。本発明によって、さらに、化学的突然変異誘発物質(硫酸ジメチルおよび臭化エチジウムを含むが、これらに限定はされない)、物理的突然変異誘発物質(紫外線および他の形態の放射線を含むが、これらに限定はされない)の存在下で組み換えを受けた組み換え体レオウイルスが意図される。
【0049】
本発明によって、さらに、1つ以上のゲノムセグメントに欠失または重複を含む組換え体レオウイルスが意図される。これには、宿主細胞のゲノムとの組み換えの結果としてのさらなる遺伝情報が含まれるか、または、合成の遺伝子が含まれる。
【0050】
レオウイルスは、変異したコートタンパク質(例えば、σ1)の、ビリオンの外側のキャプシドへの組み込みによって修飾することができる。このタンパク質は、置換、挿入、または欠失によって変異させることができる。置換には、自然界に存在しているアミノ酸に代わる異なるアミノ酸の挿入が含まれる。挿入には、1つ以上の位置でのタンパク質へのさらなるアミノ酸残基の挿入が含まれる。欠失には、タンパク質の中の1つ以上のアミノ酸残基の欠失が含まれる。このような変異は、当該分野で公知の方法によって作成することができる。例えば、コートタンパク質の1つをコードする遺伝子のオリゴヌクレオチド部位特異的突然変異誘発によって、所望される変異体コートタンパク質の作成を生じることができる。レオウイルスに感染した哺乳動物細胞(例えば、COS1細胞)の中でのインビトロでの変異したタンパク質の発現によっては、レオウイルスのビリオン粒子への変異したタンパク質の組み込みが生じるであろう(Turner and Duncan,1992;Duncan et al.,1991;Mah et al.,1990)。
【0051】
本明細書中で使用される場合は、「細胞の生存性」または「なおも生存している細胞の割合」は、集団の中の細胞変性効果を示さない細胞の割合(%)である。
【0052】
本明細書中で使用される場合は、「ウイルス感染」は、細胞へのウイルスの侵入と、その後の細胞内でのウイルスの複製を意味する。
【0053】
方法
本発明者らは、HEK 293細胞の中でのレオウイルスの増殖方法を以前に開発した(米国特許出願公開番号20020037576)。レオウイルスは、HEK 293細胞の中で複製し、感染の直後に細胞の中で高力価のウイルスを生じ、これによって、レオウイルスの簡単で効率的な生産方法を提供する。加えて、HEK 293細胞を、大量に培養することができる懸濁液の中で増殖するように適応させ、そして本発明者らは大量生産方法を開発した。懸濁培養物からレオウイルスを単離するために、本発明者らは、最初に、従来方法にしたがってウイルス粒子を抽出し、精製した。簡単に説明すると、細胞を、凍結解凍によって破裂させ、FREON(登録商標)(1,1,2−トリクロロ−1,1,2−トリフルオロ−エタン)で3回抽出した。その後、ウイルス粒子をCsCl勾配と限外濾過によって精製した。しかし、このプロトコールは、大規模なウイルスの生産については面倒であり、時間がかかりすぎた。
【0054】
したがって、本発明者らは、レオウイルスを抽出するための簡略化した方法を開発した。HEK 293細胞培養物を界面活性剤とともに短時間インキュベートすることによって、高レベルの感染性レオウイルスが抽出物中に放出されることを発見した。その後、ウイルスを、サイズまたは密度の差に基づく簡単な分離方法(例えば、濾過、透析、またはサイズ排除)を用いて細胞の破片から分離することができ、そして得られたウイルスはレオウイルス治療に使用することができる。本発明にしたがって生産されたレオウイルスは、ヒトへの投与に適しており、そしてこのプロトコールは、界面活性剤の存在下で細胞を破裂させることについてのFDAによる推奨と一致している。
【0055】
本発明者らは、予備実験において4種類の界面活性剤を試験した:非イオン性界面活性剤オクトキシノール−9から10(TRITON(登録商標)X−100)、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(NONIDET(登録商標)P40またはNP−40)、およびポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート(TWEEN(登録商標)20)、ならびに、イオン性界面活性剤デオキシコール酸ナトリウム。これらの4種類の界面活性剤の全てが細胞を溶解させ、そしてバックグラウンドのレベルを上回って感染性ウイルス粒子を放出させることができたが、TRITON(登録商標)X−100が最も有効であった。他の界面活性剤(具体的には、細胞を破裂させるために一般的に使用されているもの)を同様に本発明で使用できることが意図される。これらの他の界面活性剤の例としては、他のTRITON(登録商標)界面活性剤、他のTWEEN(登録商標)界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、TWEEN(登録商標)80)、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸リチウム、および塩化ドデシルトリメチルアンモニウムが挙げられる。
【0056】
これらの結果もまた、界面活性剤による抽出が、ウイルスの抽出のための標準的な手順である凍結解凍よりも効果的であり得ることを示している。加えて、レオウイルスが高度に細胞に結合しているVero細胞から鳥類レオウイルスを抽出するためには、蒸留された脱イオン水が、凍結解凍、FREON(登録商標)(1,1,2−トリクロロ−1,1,2−トリフルオロ−エタン)での抽出、またはトリプシン処理よりも効果的であったことが報告されている(Drastini et al.,1992)。本発明によって、より迅速で便利であり、なおも効果的なアプローチが提供される。なぜなら、これには、蒸留水を用いる方法に必要な細胞のペレット化とその後の再懸濁の必要はないからである。
【0057】
高濃度の塩(例えば、塩化グアニジン)を、界面活性剤の代わりに本発明で使用できることが意図される。しかし、高濃度の塩よりも界面活性剤を使用することが好ましい。
【0058】
したがって、本発明により、細胞培養物からウイルスを抽出する、迅速で簡単な方法が提供される。界面活性剤は、懸濁培養物に、または接着細胞の培地に対して直接添加することができる。いずれの場合にも、培地を迅速に取り除く必要はない。さらに、細胞を破裂させるか、またはウイルスを抽出する以外の手段(例えば、凍結解凍、または超音波処理)は必要ない。
【0059】
本発明の重要な特徴は、抽出手順を、環境温度で、または環境温度よりも高い温度で行うことができることである。従来、ウイルスの抽出と精製は、タンパク質の構造と機能を保存するために低温(通常は、0〜4℃)で行われる。同じ理由のために、プロテアーゼ阻害因子もまた、通常は、抽出溶液に含められる。したがって、本発明のプロトコールを、プロテアーゼ阻害因子を全く使用することなく高温で行うことができることは驚くべきである。実際、37℃のような高温で、25℃の温度とほぼ同量の感染性ウイルスが得られた。結果として、ウイルスの抽出は、温度を変化させる必要なく、細胞培養物に直接界面活性剤を添加し、そしてウイルスを放出させるために培養物を攪拌し続けることによって、行うことができる。あるいは、本発明にしたがうウイルスの抽出のためには温度を一定に保つ必要はないので、この手順は、環境温度が場所によって変わっても、また、同じ場所で時間と共に変化しても、環境温度で行うことができる。
【0060】
抽出の後、ウイルスは、例えば、ウイルスと抽出物中の他の構成成分との間でのサイズまたは密度の差に基づいて精製することができる。具体的には、濾過または遠心分離を、ウイルスから細胞の破片を取り除くために使用することができる。濾過条件を最適化するために、本発明者らは、いくつかの様々な抽出用界面活性剤の存在下での種々のフィルターの効果を試験した(実施例1)。段階的濾過のプロトコールが最も有効であることが立証された。したがって、比較的大きな孔サイズ(例えば、5μMまたは8μM)を有するプレフィルターが、抽出混合物から大きな断片を取り除くために最初に使用され、その後、小さい孔サイズのフィルター(例えば、3μMのフィルターおよび0.8μMのフィルターを含む連結フィルターユニット)が使用される。プレフィルターがない場合には、抽出混合物は、フィルターをすぐに詰まらせ、これによって材料と時間のいずれもが無駄になる。別の実施形態においては、5μMまたは8μMのプレフィルターの工程の後に、0.8μMの1つの孔サイズを有する1つのフィルターを使用することができる。
【0061】
濾過後に回収された容量に基づいて、実施例1に示されるように、ウイルスの抽出のために1%のTRITON(登録商標)X−100を使用することが好ましい。加えて、酢酸セルロース膜フィルターは硝子繊維膜フィルターよりも優れている。なぜなら、酢酸セルロース膜フィルターは、多量の抽出混合物を濾過することができ、大量生産により適しているからである。
【0062】
ウイルスの生産の目的に応じて、ウイルスを含む濾液を濃縮することが所望される場合がある。限外濾過/透析を使用する濃縮工程が、実施例2および4に示される。実施例2には、2種類の限外濾過/透析システム(Pall Filtronの平板枠組みカセット(Plate and Frame Cassette)とA/G Technologyの中空繊維カートリッジ(Hollow Fiber Cartridge))が試験された。結果は、これらの2種類のシステムは、それらの操作速度または損失容量の程度においては同等であるが、中空繊維カートリッジは操作がより容易であったことを示している。実施例4では、結果は、300kDaの分子カットオフを有する中空繊維カートリッジによって、その後の精製のために良好な材料が提供されることを示している。
【0063】
ウイルスは、その表面電荷に基づいてさらに精製することができる。それぞれのウイルスは様々な表面タンパク質を有する(これによって、任意の所定のpHにそれらの表面電荷が決定される)ので、精製に適している条件を個々のウイルスについて決定しなればならない。実施例3には、レオウイルスについての最適なイオン交換条件の決定が説明される。したがって、様々な樹脂を含むイオン交換カラムが、抽出されたレオウイルス調製物を精製するために種々のpHで使用され、上記のように濾過され、そして濃縮された。結果は、pH 7.0〜8.5のANX SEPHAROSE(登録商標)を含む弱い陰イオンカラムが最も有効であることを示している。pHは、約7.5または8.0であることが好ましく、最も好ましくは、約8.0である。
【0064】
ウイルスはまた、大きさの差に基づいて、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーで精製することもできる。レオウイルスについては、イオン交換クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせが特に有効である。好ましくは、陰イオン交換カラムが、サイズ排除クロマトグラフィーの前に使用される。結合/溶出緩衝液中のマグネシウム塩を回避することもまた好ましい。Trisをベースとする緩衝液ではなく、リン酸緩衝液を使用することにより、結合および選択性が改善する。他のクロマトグラフィー方法(例えば、親和性または疎水性相互作用に基づくクロマトグラフィー)もまた、適切である場合には使用することができる。したがって、カラムクロマトグラフィーを、良好な収量、純度、および拡張性を達成するために、CsCl密度勾配超遠心分離に代わる有効なものとして採用することができる。
【0065】
本発明の方法は、HEK 293細胞以外の細胞(マウスL929細胞、Vero細胞、およびチャイニーズハムスター卵巣細胞を含むが、これらに限定はされない)を使用するレオウイルスの生産に適用することができる。本発明の方法が、同様に他のウイルス(特に、他の非被包性ウイルス)にも適用されることが意図される。他のウイルスの精製に適している条件は、当業者であれば本明細書の開示に基づいて決定することができる。本発明の方法を使用して調製することができるウイルスとしては、以下のファミリーのウイルスが挙げられるが、これらに限定はされない:ミオウイルス科(myoviridae)、シフォビラーダ科(siphoviridae)、ポドウイルス科(podpviridae)、テクティウイルス科(teciviridae)、コルチコウイルス科(corticoviridae)、プラズマウイルス科(plasmaviridae)、リポスリクスウイルス科(lipothrixviridae)、フセロウイルス科(fuselloviridae)、ポックスウイルス科(poxviridae)、イリドウイルス科(iridoviridae)、フィコドナウイルス科(phycodnaviridae)、バキュロウイルス科(baculoviridae)、ヘルペスウイルス科(herpesviridae)、アデノウイルス科(adenoviridae)、パポバウイルス科(papovaviridae)、ポリドナウイルス科(polydnaviridae)、イノウイルス科(inoviridae)、ミクロウイルス科(microviridae)、ジェミニウイルス科(geminiviridae)、サーコウイルス科(circoviridae)、パルボウイルス科(parvoviridae)、ヘパドナウイルス科(hepadnaviridae)、レトロウイルス科(retroviridae)、シクトウイルス科(cyctoviridae)、レオウイルス科(reoviridae)、ビルナウイルス科(birnaviridae)、パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)、ラブドウイルス科(rhabdoviridae)、フィロウイルス科(filoviridae)、オルトミクソウイルス科(orthomyxoviridae)、ブンヤウイルス科(bunyaviridae)、アレナウイルス科(arenaviridae)、レビウイルス科(leviviridae)、ピコルナウイルス科(picornaviridae)、セキウイルス科(sequiviridae)、コモウイルス科(comoviridae)、ポティウイルス科(potyviridae)、カルシウイルス科(calciviridae)、アストロウイルス科(astroviridae)、ノダウイルス科(nodaviridae)、テトラウイルス科(tetraviridae)、トンブスウイルス科(tombusviridae)、コロナウイルス科(coronaviridae)、グラビウイルス科(glaviviridae)、トガウイルス科(togaviridae)、およびバルナウイルス科(barnaviridae)。
【0066】
組成物
本発明の方法にしたがって調製されたウイルスを含む組成物もまた提供される。これらの組成物は、ウイルスタンパク質の単離および特性決定、ワクチンの生産、または、組成物に感染性ウイルスが含まれる場合には、ウイルスのストックとして、あるいは臨床投与において使用することができる。
【0067】
臨床投与の目的のためには、組成物は、通常、賦形剤と混合されるか、賦形剤で希釈されるか、または担体(これは、薬学的組成物としての、カプセル、小袋、紙容器または他の容器(WO99/08692A1)の形態であり得る)の中に封入される。薬学的に許容される賦形剤が希釈剤としての役割を担う場合は、これは固体の物質であっても、半固体の物質であっても、または液体の物質であってもよく、これは、有効成分についての媒介物(vehicle)、担体、または媒体として作用する。したがって、組成物は、錠剤、丸剤、散剤、トローチ剤、小袋に入った薬、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、エマルジョン、液剤、シロップ剤、エアゾール(固体として、または液体の媒体中のもの)、例えば10重量%までの活性のある化合物を含む軟膏、軟ゼラチンおよび硬質ゼラチンカプセル、坐剤、滅菌の注射可能な液剤、および滅菌のパッケージされた散剤の形態であり得る。
【0068】
適切な賦形剤のいくつかの例としては、乳糖、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、滅菌生理食塩水、シロップ、およびメチルセルロースが挙げられる。処方物にはさらに、潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイル);湿潤剤:乳化剤および懸濁剤;保存剤(例えば、安息香酸メチルおよびプロピルヒドロキシ安息香酸);甘味剤;ならびに香味剤を含めることができる。本発明の組成物は、当該分野で公知の手順を使用することによる患者への投与後に、有効成分の迅速な放出、徐放、またはゆっくりとした放出を提供するように処方することができる。
【0069】
レオウイルスが投与される経路、ならびに、処方物、担体、または媒介物は、標的細胞の位置ならびにタイプに応じて様々であろう。多種多様の投与経路を使用することができる。例えば、接触可能な固形の新生物については、レオウイルスを新生物への直接の注射によって投与することができる。造血系新生物については、例えば、レオウイルスを静脈内または脈管内に投与することができる。体内の容易には接触できない新生物(例えば、転移)については、レオウイルスは、哺乳動物の体全体に全身的に輸送することができ、それによって新生物に達することができる様式で(例えば、静脈内または筋肉内に)投与される。あるいは、レオウイルスは、1つの固体の新生物に直接投与することができ、これはその後、転移に、体全体を通じて全身的に運ばれる。レオウイルスはまた、皮下、腹腔内、髄腔内(例えば、脳腫瘍について)、局所(例えば、黒色腫について)、経口(例えば、口腔腫瘍または食道腫瘍について)、直腸(例えば、結腸直腸腫瘍について)、膣(例えば、子宮頸腫瘍または膣腫瘍について)、鼻または吸入噴霧によって(例えば、肺腫瘍について)投与することができる。好ましくは、レオウイルスは注射によって投与される。
【0070】
本発明の薬学的組成物を経口投与のために、または注射による投与のために取り込ませることができる液体形態としては、水性の溶液、適切に香味付けしたシロップ、水性または油性懸濁液、および食用油(例えば、トウモロコシ油、菜種油、ゴマ油、ココナッツ油、またはピーナッツ油)で香味付けしたエマルジョン、さらには、エリキシル剤、ならびに同様の薬学的媒介物が挙げられる。
【0071】
錠剤のような固体の組成物を調製するためには、主たる有効成分/レオウイルスは、本発明の化合物の均質な混合物を含む固体の予備処方組成物を形成するように、薬学的賦形剤と混合される。これらの予備処方組成物について均質であると言う場合には、これは、有効成分が組成物全体に均一に分散させられていることを意味する。その結果、組成物は、錠剤、丸剤、およびカプセル剤のような、等しい有効単位投与量形態に容易に分けることができる。
【0072】
本発明の錠剤または丸剤はコーティングすることができ、また別の方法で調合して、長時間にわたる作用の利点を提供する投与量形態を提供することができる。例えば、錠剤または丸剤には、内部投与量成分と外部投与量成分が含まれ得、後者は、前者のまわりの非被包性の形態である。2つの成分は、胃での消化に抵抗するように作用する腸溶性の層によって分離することができ、これによって、内部成分を完全な状態のまま十二指腸にまで通過させるか、または放出を遅らせることができる。種々の材料を、このような腸溶性の層またはコーティングに使用することができる。このような物質としては、多数のポリマー酸、ならびに、シェラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースのような物質とのポリマー酸の混合物が挙げられる。
【0073】
吸入または吹送のための組成物としては、薬学的に許容される水性もしくは有機溶媒、またはその混合物中の溶液および懸濁液、ならびに散剤が挙げられる。液体または固体組成物には、本明細書中に記載される適切な薬学的に許容される賦形剤を含めることができる。好ましくは、組成物は、局所効果または全身的効果のために、経口または鼻呼吸経路によって投与される。好ましい薬学的に許容される溶媒中の組成物は、不活性ガスの使用によってネブライザーで投与することができる。ネブライザーで投与される溶液は、噴霧デバイスから直接吸入することも、また、噴霧デバイスを、フェイスマスクテント(face mask tent)に、もしくは間欠的な陽圧呼吸器に取り付けることもできる。溶液、懸濁液、または粉末組成物は、適切な様式で処方物を送達するデバイスによって、好ましくは、経口または鼻腔に投与することができる。
【0074】
本発明の方法に使用される別の好ましい処方物には、経皮送達デバイス(「パッチ」)が使用される。このような経皮パッチは、管理された量の本発明のレオウイルスの連続的または断続的な注入を提供するために使用することができる。医薬品の送達のための経皮パッチの構成および使用は、当該分野で周知である。例えば、米国特許第5,023,252号(引用により本明細書中に組み入れられる)を参照のこと。このようなパッチは、医薬品の連続的送達、パルス送達、または求めに応じた送達のために構築することができる。
【0075】
本発明で使用される他の適切な処方物は、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに見ることができる。
【0076】
以下の実施例は本発明を説明するために提供され、そして決して本発明の範囲の限定とは解釈されない。
【実施例】
【0077】
以下の実施例では、以下の略語は以下の意味を有する。定義しない略語は、それらの一般的に受け入れられている意味を有する。
【0078】
CIP=定置洗浄
CV=カラム容量
CI=信頼区間
℃=セ氏温度
DF=透析
DTT=ジチオスレイトール(dithiothrietol)
FBS=ウシ胎児血清
g/L=1リットル当たりのグラム数
hr=時間
β−ME=β−メルカプトエタノール
μg=マイクログラム
μl=マイクロリットル
μM=マイクロモル
mAU=ミリ吸光度単位
mg=ミリグラム
ml=ミリリットル
mM=ミリモル
M=モル
MOIまたはm.o.i.=感染多重度
NP−40=NONIDET(登録商標)P−40(オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)
PBS=リン酸緩衝化生理食塩水
PFU=プラーク形成単位
rpm=1分あたりの回転数
SEC=サイズ排除クロマトグラフィー
SDS=ドデシル硫酸ナトリウム
TCID50=組織培養物感染量50
UF=限外濾過
一般的な材料および方法(特に明記しない限り)
細胞およびウイルス
ヒト胚腎臓293(HEK 293)細胞およびマウス線維芽細胞L−929細胞は、製造業者BioReliance Corporation(Rockville,Md)によって提供された。HEK 293細胞は、10%の熱で不活化させたウマ血清と90%の以下の混合物を含む培養培地の中で増殖させた:2mMのL−グルタミンを含むEagle最小必須培地と、1.5g/Lの重炭酸ナトリウム、0.1mMの必須ではないアミノ酸、および1.0mMのピルビン酸ナトリウムを含むように調整したEarle平衡化塩溶液。マウスL−929細胞は、10%のFBSと、90%の以下の混合物を含む培養培地の中で増殖させた:2mMのL−グルタミンを含むEagle最小必須培地と、1.5g/Lの重炭酸ナトリウム、0.1mMの必須ではないアミノ酸、および1.0mMのピルビン酸ナトリウムを含むように調整したEarle平衡化塩溶液。
【0079】
293/SF細胞を、4mMのL−グルタミンを補充した血清を含まない293培地(293 Serum Free Medium(Life Technologies,Rockville,Md.))の中で、36℃±2℃、6%±2%のCOおよび80%±5%の相対湿度で、35〜40rpmの推進速度のスピナーフラスコの中で増殖させた。
【0080】
これらの実験に使用した血清3型レオウイルスのDearing株は、β−メルカプトエタノール(β−ME)を抽出緩衝液から省略したことを除いて、Smith(Smith et al.,1969)にしたがって精製したL−929細胞の懸濁培養物中で、最初に増殖させた。精製したレオウイルスについての粒子/PFU比は、通常は、100/1であった。ウイルス力価をL−929細胞上でのプラークの滴定によって決定し、Log10TCID50/mlとして表した。その後、ウイルスを、293/SF細胞中で大体量に生産させた。
【0081】
懸濁細胞の感染
293/SF細胞を10/mlまで増殖させ、そしてレオウイルスに感染させた。培養物を、培地の色が赤色からオレンジ色に変わるまで、または、細胞の生存性が生存している細胞数によって証明される所望されるレベルに下がるまで、増殖させた。生存している細胞のカウントは、細胞変性効果(これは、細胞が外見において膨張して顆粒状になり、細胞塊が破裂することによって示される)を示さない細胞について顕微鏡下で行うことができる。生存している細胞のカウントはまた、当該分野で一般的に使用されているような、生存能力についての染色によって行うこともできる。
【0082】
所望される細胞の生存性レベルに達した時点で、細胞を遠心分離によってペレット状にし、10mMのTris(pH7.4)、250mMのNaCl、および0.1%のTRITON(登録商標)X−100の中に再度懸濁させた。その後、細胞を、凍結解凍によって溶解させ、定期的にボルテックスして細胞を混合しながら氷上で20〜40分間維持し、細胞を溶解させた。懸濁液を、予め冷却しておいた等量のFREON(登録商標)(1,1,2−トリクロロ−1,1,2−トリフルオロ−エタン)で、10分間ボルテックスすることによって抽出し、その後、4℃で2500rpmで10分間遠心分離して種々の相を分離させた。水相(上部)を取り出し、上記に記載したように2回再度抽出し、そしてウイルスを、4℃で1時間の25,000rpmでの超遠心分離によってペレット状にした。
【0083】
ウイルスの抽出および精製のための従来法
ペレットをPBSに再度懸濁させ、ウイルスを塩化セシウムの段階的勾配によって精製した。勾配には、10mMのTris(pH7.4)の中に調製した2層のCsCl溶液(それぞれ、1.20g/mlおよび1.4g/ml)を含めた。ウイルス懸濁液を勾配の上にロードし、そしてSW 28.1ローターの中で、4℃で2時間、26,000rpmで遠心分離した。ウイルスのバンド(2つのバンドのうちの下の方、なぜなら、上部のバンドには空のキャプシドが含まれているので)を回収し、滅菌したPBSに対して透析した。
【0084】
BENZONASE(登録商標)エンドヌクレアーゼ処理
細胞を界面活性剤で溶解させた後、50mMのMgClの溶液を、1mMのMgClの最終濃度となるように粗溶解物に添加した。その後、BENZONASE(登録商標)エンドヌクレアーゼ(250,000単位/ml、EM Industriesカタログ番号1016979M)を、およそ10単位/mlとなるように添加した。溶解物を36℃で1時間、インキュベーターの中で攪拌した。
【0085】
(実施例1)
明澄化:細胞の破片の除去
本実施例の目的は、細胞を溶解させるために界面活性剤を使用するプロトコールと適合し、さらに将来のスケールアップおよび製造がしやすい、適切な明澄化手順を開発することであった。本実施例においては、溶解物を、3μm/0.8μmのカプセルフィルターを通すか、またはプレフィルター(5μmもしくは8μm)と、その後の3μm/0.8μmのカプセルフィルターの組み合わせを通過させるかのいずれかによって濾過した。本実験に使用したフィルターは全て、0.015ftの表面積を有していた。0.015ft膜を通して濾過した容量に基づいて、膜の能力を、大規模な濾過について決定した。また、濾過効率を、2種類の異なる膜材質(3μm/0.8μmのカプセルフィルターについて酢酸セルロース膜と硝子繊維膜)を比較した。
【0086】
3種類の界面活性剤を試験した。レオウイルスを有する細胞を、試験する以下の3種類の溶解剤についてラベルした3つの滅菌した1Lのボトルに等量に分けた:1%のTRITON(登録商標)X−100、0.3%のTRITON(登録商標)X−100、および0.1%のNa−DOC。92mLと28mLの容量の10%のTRITON(登録商標)X−100をボトル1および2に添加して、これらのボトルの中の作業濃度を、それぞれ、1%および0.3%のTRITON(登録商標)X−100とした。9.2mLの容量の10%のNa−DOCを第3のボトルに添加して、作業濃度を0.1%とした。これらのボトルを全て攪拌プレートの上に置き、室温で30分間、160±20rpmで攪拌した。溶解後の試料を、力価の分析のために個々の溶解条件について採取した。
【0087】
約20mLの50mMのMgClを、個々のボトルの中の粗溶解物に添加して、作業濃度をおよそ1mMのMgClとした。その後、これに40μLのBENZONASE(登録商標)エンドヌクレアーゼ(250,000単位/mL)を添加して、作業濃度をおよそ10単位/mLとした。粗溶解物を、36℃のインキュベーターの中で1時間、5の設定で攪拌した。これらの工程は、宿主細胞のDNAを取り除くため、および溶解物の粘性を低下させ、これによってさらなる処理を容易にするために含めた。
【0088】
Watson−Marlowポンプ(505U)を、ポンプ速度に対して流速を合致させるために調整した。製造供給元による示唆にしたがって、5rpmのポンプ速度(40mL/分の流速)を、明澄化実験全体を通じて使用した。
【0089】
個々の処理条件による溶解物を、以下のフィルターの1つに通過させた:
1)3μm/0.8μmのカプセルフィルター;
2)連結させたプレフィルター5μmのサイズ → 3μm/0.8μmのカプセルフィルター;および
3)連結させた孔サイズ8μmのプレフィルター、3μm/0.8μmのカプセルフィルター。
【0090】
3μm/0.8μmのカプセルフィルターは二重層構造の不均質な膜構成を有しており、これによって、高いダート積載能力と高い処理能力が得られる。第1のフィルターは、第2のフィルター(0.8μm)よりも大きな孔サイズ(3μm)を有するフィルターである。プレフィルターは、多層の、徐々に細かい襞になるように折り畳まれた不織ポリプロピレンデプスフィルター材料が組み合わせられている。本実験で使用したフィルターは全て、0.015ftの表面積を有していた。2種類の膜材質、すなわち、酢酸セルロースと硝子繊維を、3μm/0.8μmのカプセルフィルターについて試験した。
【0091】
溶解剤とフィルター条件の最良の組み合わせを、滴定値とフィルターを通過した容量に基づいて決定した。膜を通過する圧力の低下を、膜の詰まりが生じた時点を決定するためにモニターした。膜付着物の兆候は25psiの圧力低下であり、これを超えるとフィルターは破れる可能性がある。3μm/0.8μmのカプセルフィルターを単独で使用した場合には、膜が詰まるまでに、わずか35mLしかこれらのカプセルフィルターを通過できなかった。3/0.8μmのサイズの膜は5分以内に詰まり、これは、プレフィルターの使用が細胞の破片による膜の凝固をなくすためには不可欠であることを示唆している。3/0.8μmのカプセルフィルターの前に5μmのプレフィルターを使用することによって、得られる濾過量は大幅に大きくなったが、8μmのプレフィルターを通過し、その後に3μm/0.8μmのカプセルフィルターを通過した濾過によっては、膜を通過した容量に関して最も高い膜能力が得られた(0.015ftのフィルターの表面積あたり200mLの平均が回収された)。1%のTRITON(登録商標)X−100が、他の2種類の溶解条件と比較すると最良の結果を生じた。
【0092】
結果はまた、これらの膜を通して濾過した容量に基づくと、酢酸セルロース膜材料が硝子繊維膜よりもうまく作用したことを示している。感染力についての有意なロスは、バルクの回収物(溶解および濾過前の細胞培養物)の感染力と比較しても、濾過のいずれの段階においても観察されなかった。これらの実験の結果に基づくと、20Lのバルクの回収物には、濾過のために1.5ftの膜表面積が必要である。
【0093】
(実施例2)
濃度
明澄化した溶解物を濃縮し透析するための適切なシステムを選択するために、Pall
Filtronの平板枠組み(Plate and Frame)カセット(www.pall.com)とA/G Technologyの中空繊維(Hollow Fiberカートリッジ(www.agtech.com)を比較した。同じポリエーテルスルホン膜材料を両方のシステムに使用した。選択の基準は、使い勝手のよさ、達成される濃縮の程度、および生成物のウイルス力価とした。
【0094】
本実験で使用した平板枠組みカセットは、研究室用のベンチトップ型のユニットであるPallのMINIMシステムと、2つの吊り下げられたスクリーンチャンネル300kD限外濾過膜(Ultrafiltration Membrane(それぞれ、0.2ft))を含むLV Centramateであった。明澄化した溶解物を濃縮する前に、装置を2LのReverse Osmosis(RO)水(USPグレード)でリンスして、保管用ゲルを洗い流した。カセットを2Lの温めた0.1NのNaOHで消毒した。その後、システムを排水し、2LのRO水でリンスし、そしてウイルス用の増殖培地でコンディショニングした。システム全体を排水し、システムと配管のホールドアップ容量を6mLと決定した。
【0095】
本実験で試験した中空繊維カートリッジは、A/G TechnologyのQUIXSTAND(登録商標)Benchtop System、Size 4Mカラム限外濾過カートリッジ(Ultrafiltration Cartridge)(650cmの表面積)である。平板枠組みカセットと同様に、装置を最初に2LのReverse
Osmosis(RO)水(USPグレード)を勢いよく流して、保管用ゲルを洗い流した。カセットを2Lの温めた0.1NのNaOHで消毒した。その後、システムを排水し、2LのRO水でリンスし、そしてウイルスの増殖培地を勢いよく流すことによってコンディショニングした。600mL/分の一定の流速を、実験を通じて使用した。
【0096】
両方のシステムに、明澄化した溶解物を、材料が約250mLに濃縮される(10倍濃縮)まで再循環させ、試料を滴定分析した(1回目の濃縮後(Post I−Concentration))。濃縮物(保持物)を1L(5倍の透析容量)の透析緩衝液(Diafiltration Buffer)(20mMのTris+0.2MのNaCl+1mMのMgCl、pH8.0±0.1)に対して透析し、別の試料を滴定分析のために採取した(透析後(Post−Diafiltration))。保持物をさらに約120mLにまで濃縮した。最後の濃縮の後、生成物をシステムから排出させて、1つの滅菌容器に回収した(最後の濃縮後(Post−final Concentration))。その後、システムを40mLの透析緩衝液でリンスして、最大量の生成物の回収を確実にした。
【0097】
中空繊維システムと平板枠組みシステムの両方を用いた濃縮プロセスの間にモニターした処理パラメーターを表1に示す。
【0098】
【表1】

膜間圧(TMP)は、中空繊維での処理の間は8psi未満に留まったが、平板枠組みで処理した場合には、TMPは30psiには上昇した。中空繊維システムにより大きな膜表面積を使用すると、おそらく、カートリッジの詰まりはあまり生じなかった。
【0099】
約20倍の濃縮が、4時間、平板枠組みカセットを用いることによって達成されたが、中空繊維カートリッジを使用した場合には、3時間で14倍の濃縮が得られ、本発明者らは、さらに30分間で20倍の濃縮を得た。両方のシステムの溶解後の値と比較すると、生成物の45〜50%のロスがあった。中空繊維カートリッジの設定は平板枠組みカセットよりも容易であった。したがって、中空繊維カートリッジが、取り扱いやすさに基づくと、限外濾過および透析工程により適しているシステムである。
【0100】
(実施例3)
イオン交換
ウイルスは、それらの様々な表面分子が原因で異なる表面電荷を有する。したがって、イオン交換クロマトグラフィーを使用してウイルスを精製することが可能であり、条件はウイルスの性質に応じて変化するであろう。したがって、本発明者らは、レオウイルスの精製について、種々のpHのイオン交換クロマトグラフィー条件を試験した。レオウイルスを、上記のように生産させ、抽出し、濾過し、そして様々なpHでのイオン交換クロマトグラフィーを行った。それぞれの工程の後で力価を決定し、これを以下の表2に示す。
【0101】
【表2】

したがって、pH7.0〜9.0によって、他のpHよりも多量のレオウイルスが得られた。この工程で使用するpHは、好ましくは、7.5〜8.5であり、pH8.0が特に好ましい。陽イオン交換体と陰イオン交換体のいずれもがうまくいったが、陰イオン交換体が一般的にはより有効であった。
【0102】
(実施例4)
拡張性のある精製プロトコール
レオウイルスは、ras経路が活性化させられている細胞に特異的に感染するエンテロウイルスである。ras経路の活性化は、多種多様なタイプのガンに共通している特徴であるので、血清3型レオウイルスは、細胞株、動物モデルにおいて、さらには臨床でも、種々の腫瘍の退行を生じることが示されている。臨床第II/III期試験のために大量の感染性ウイルスを生産する要求に応じるために、濾過およびクロマトグラフィーをベースとするアプローチを開発した。本発明者らは、細胞培養物から活性のあるウイルスを精製するための完全に拡張性のあるプロセスの開発を、本明細書中で報告する。3工程のプロセスには、限外濾過工程、陰イオン交換による精製、および処方緩衝液への基の分離から構成される。このプロセスを、20リットルのバイオリアクターのスケールにまでスケールアップし、GMP設備での生産に移行させた。このプロセスの全体の回収率は>50%であり、最終的な純度は2回の連続する塩化セシウム遠心分離工程によって得られる物質に匹敵する。
【0103】
材料および方法
クロマトグラフィー:全ての精製実験は、Akta Explorer 100システ
ムで行い、画分を画分回収装置Frac 950を通じて回収した。280、260、および215nmでのUV,さらには、伝導率とpHを、日常的に行われている方法でモニターした。全てのクロマトグラフィー媒体と装置は、GE Healthcare,Biosciencesから入手した。
【0104】
SDS PAGE:全てのSDS PAGE材料はInvitrogenから入手した。4〜12%のSDS PAGEゲルを使用し、製造業者の説明書にしたがって泳動した。全ての試料を、電気泳動の前に65℃で10分間変性させた。
【0105】
全長のレインボーマーカーを大きさの標準物として使用した(GE Healthcare,Biosciences)。
【0106】
SDS PAGEの染色:銀染色試薬はGE Healthcare Biosciencesから入手した。コロイドクマシー染色は、Invitrogenから入手した。染色試薬のそれぞれについて、製造業者の説明書にしたがった。銀染色の発色工程は、ゲルを過度染色のために8分間そのままの状態を維持して、確実に残っている混入物質が明確に見えるようにした。
【0107】
ウェスタンブロッティング:SDS PAGEゲルは、ゲルの一方をECLニトロセルロースに移動させることができるように、2連で行った。トランスファー緩衝液(Invitrogen)を除いて、全ての試薬とブロッティング装置はGE Healthcare Biosciencesから入手した。ゲルを、20%のメタノールで45Vで40分かけてブロットした。移動の完成度を、染色したマーカーの移動によってチェックした。膜を脱脂乳(その地の食料品店)の中で一晩ブロックし、そして脱脂乳0.2%のTweenの中で1:20000に希釈したポリクローナルヤギ抗体とともにインキュベートした。ブロットを、過剰量のPBS−Tween 0.2%で5分×3回リンスし、その後、1:100000で、モノクローナル抗ヤギHRP抗体(Sigma)ともにインキュベートした。ブロットを上記のようにリンスし、その後、製造業者の説明書にしたがってECL検出試薬で発色させた。その後、ブロットを、Kodak BioMax Lightフィルムに30秒間、1分間、5分間など露光させ、そしてフィルムを、製造業者の説明書にしたがって、GBX現像液および定着剤(Kodak)を用いて手作業で現像した。
【0108】
RNAの単離:試料を、RNAWizard(Ambion)での各画分の0.5mlの試料からのRNAの抽出によって、RT−PCRのために調製した。製造業者のプロトコールにしたがい、そしてRNAのペレットをDEPCで処理した水に再度懸濁させて、最終容量を0.1mlとした。1mlの各試料、ならびに1:10希釈物を、RT−PCRによる増幅に使用した。
【0109】
PCR試料のアガロースゲル電気泳動:PCR反応物を4%のEZゲル(Invitrogen)上で、1:10000希釈でVistraGreen(GE Healthcare,Biosciences)を含む20mlの6×ローディング色素と50%のグリセロールを添加することによって、分析した。20mlをそれぞれのウェルに載せ、そして50bpのラダー(GE Healthcare,Biosciences)を、サイズ標準物として使用した。
【0110】
PCRバンドの検出:全てのゲルを、650 PMTのエチジウムブロマイド設定と、50ミクロンの解像度の通常の感度調整で、Typhoon 9600スキャナー上でスキャンした。
【0111】
Sepharose、AKTAexplorer、Unicorn、HR、Image
Quant,Vistra Green、および Typhoonは、GE Healthcareの登録商標である。GE Healthcareは、General Electricの登録商標である。
【0112】
E−gelおよびNovex gelは、Invitrogen Corpの登録商標である。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、Roche Molecular Systems and F.Hoffman−La Roche Ltdが所有する特許の適用を受けている。
【0113】
プロセスの開発:染色材料についての記載
レオウイルスは、20面体の対称性と周知のタンパク質組成を有する、非被包性の二本鎖のRNAウイルスである。これは、約85nmの直径と、約126,000,000ダルトンの分子量を有する。クロマトグラフィーマトリックスに対するウイルスの結合特性を決定する外側のキャプシドは、76.3kDaの分子量を有する主要な外側のキャプシドタンパク質λ1の600個のコピー、外側のキャプシドのビルディングブロックが実際にμ1σ3のヘテロ6量体を作り上げる主要な外側のキャプシドタンパク質σ3の600個のコピーから構成されている。加えて、36コピーの主要ではない外側のキャプシドタンパク質σ1もまた、ホモ3量体としてウイルスの表面上で見られる。σ1は細胞表面へのウイルスの付着を媒介する。3つの外側のキャプシドタンパク質σ3、σ1、およびμ1は、それぞれ、5.2、5.2、および6.6の等電点を有する。内側のキャプシドは、120コピーのλ1(2量体)、60コピーのλ2(5量体として)、および24コピーのμ1から構成されている。コアは、12コピーのλ3、RNAポリメラーゼ、および120コピーのσ2、主要なコアタンパク質から構成されている。全てのλタンパク質は、およそ120kDa、μタンパク質はおよそ80kDa、そしてσタンパク質はおよそ47〜48kDaの分子量を有する。
【0114】
プロセスの開発に使用した全ての材料を以下のように作成した。20リットルのバイオリアクターに、4mMのグルタミンとフェノールレッドを含む無血清培地の中に、HEK
293に由来する細胞株を接種した。細胞を2〜3日間増殖させ、1×10細胞/mlの細胞数で、0.5のMOIで感染させた。さらに2〜3日間、ウイルスの生産を進行させた。細胞を、1%の最終濃度になるように10%のTriton X−100を添加することによって、120rpmで37℃で30分間溶解させた。粗溶解物の試料濃度を1mMの塩化マグネシウムになるように調整し、10μ/mlのベンゾナーゼで、37℃および120rpmで1時間消化させた。その後、材料を、8マイクロンのフィルター、その後に0.8マイクロンのフィルターを通して濾過した。300kDaの分子量カットオフおよび4800cmの全面積を有するGE Healthcare中空繊維カートリッジ上で材料をさらに濃縮し、緩衝液交換を行った。材料を、5倍容量の20mMのTris緩衝液(pH 7.8)、25mMの塩化ナトリウムに対して交換した。透析後、グリセロールを10%の最終濃度となるように添加した。
【0115】
レオウイルスの精製に許容される作業範囲を決定するためのパラメーター
3型レオウイルスDearingの精製のための安定性ウィンドウは、以下の参考文献に示されている(Floyd et al.,1997;Floyd et al.,1978、p.1079−1083および1084−1094;Floyd et al.,1979;Drayna et al.,1982)。これらの文献に基づいて、5.0〜8.0のpH範囲全体についてのクロマトグラフィー条件と、0〜2Mまでの塩化ナトリウムの塩濃度が良好な開始範囲であると推測した。凝集、および凝集を誘導する可能性がある条件もまた、考えられる要因である。文献(前記)によるデータに基づいて、5.0〜8.0のpHウィンドウと、0.025〜2Mの塩化ナトリウムの塩濃度が許容されると推測した。グリセロールもまた、凝集を防ぐために全ての緩衝液に加えた。グリセロールの省略が、凝集によるウイルスのロスが原因でウイルスの安定性および感染力に悪影響を与えているかどうかは試験しなかった。
【0116】
ビリオンの等電点(pI)は文献(Floyd et al.,1978、p.1084−1079、Taylor et al.,1981)に記載されている。3.8〜3.9の見かけのpIが、クロマト分画、および全粒子(whole−particle)顕微電気泳動を使用して示されている。3型レオウイルスであるDearingの2つの最も豊富に存在している主要なコートタンパク質(σ3、およびμ1)は、低い酸性pIを有する(上記を参照のこと)。これはまた、種々のイオン交換体に対するウイルスの吸着特性と良好に一致している(Zerda et al.,1981)。相違は、クロマト分画が、多くの態様においては、溶液中の全体的な変化よりはむしろ電荷を有するドメインを測定する二次元技術であり、一方、顕微電気泳動は、実験結果にも影響を与える可能性がある緩衝液条件の調整によるいくつかの偏差を生じる可能性があるという事実によって、おそらく説明される。緩衝液処方物中でのマグネシウム塩の使用は、マグネシウムの存在下での凍結の際のウイルスの感染力の低下が報告されている(Estes et al.,1979)ので、避けた。
【0117】
最初の培地の選定
イオン交換体(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー、および固定化金属キレートクロマトグラフィー(IMAC)を、全て最初に評価した。σ3(2つの主要な外側のキャプシドタンパク質のうちの1つ)には、ジンク・フィンガーモチーフが含まれている。したがって、IMACを、このウイルスについての見込みのある捕捉技術と考えた。
【0118】
ビリオンが種々のタイプのクロマトグラフィー媒体にそもそも結合するかどうかを決定するために、ウイルスもまた、Sepharose 4 Fase Flow上でグループ分けして、主要な混入物質の一部を取り除き、ウイルスを結合により適している緩衝液条件に交換した。Sepharose 6および4 Fast Flowの両方を、最初に、20cmのベッド高と150cm/hの線流速で評価した。カラム容量の5〜30%の試料の容量を載せた。Sepharose 6 Fast Flowのサイズ排除限界は、球状分子については200〜500万ダルトンの範囲であり、そしてSepharose 4 Fast Flowは約2000万ダルトンの排除限界を有するので、後者のほうが分解能が高く、したがって、25%のカラム容量までを載せることができた。この値を上回るピークは、もはや分解できなかった。これは、塩またはエチレングリコールの添加によっても抑制することはできなかった。HR5_20 Sepharose 4 Fast Flowカラム上での出発物質のサイズ分離の典型的なクロマトグラムを図1に示す。
【0119】
陽イオン交換媒体を、5.0〜6.0のpH範囲で試験した。弱い(カルボキシメチル)陽イオン交換基および強い(スルホプロピル)陽イオン交換基の双方を使用した(図2)。
【0120】
サイズ排除で予め精製したウイルスについては、ウイルスの良好な結合が、pH5.6のSPおよびCM Sepharose Fast Flowの両方について観察された。しかし、UF/DF材料は、5.0のpHでさえも全く結合しなかった。2.5%のエチレングリコールの添加は、ウイルスの結合を形成し可能にする凝集の崩壊を助けたが、ウイルスの感染力は低下した。
【0121】
カルシウム、亜鉛、およびマグネシウムに荷電したキレート金属セファロースもまた、SECで予備精製した材料とのウイルスの結合について試験した。しかし、25および50cm/hのいずれの試料のアプリケーションでも、ウイルスはカラム上に保持されなかった。Heparin Sepharose 6 Fast Flowもまた、予備精製したウイルスを用いて種々の塩の濃度で評価したが、ここでも、結合は観察されなかった。画分を、記載されている(Spinner et al.,2001)ようにRT PCRによって、ならびに、ウェスタンブロッティングとSDS PAGEによって分析した。
【0122】
全てのHICカラムがある程度ウイルスを保持したように思えたが、選択性は低く、塩化ナトリウムを離液性の塩として使用した場合もなお、沈殿が多かったことが原因で、ロスが多かった。
【0123】
種々の陰イオン交換体もまた、選択性と結合についてスクリーニングした。DEAE、ANX high sub、Q Sepharose Fast Flow、XL、および高速(High Performance(HP))を全て、ウイルスの結合について評価した。SECで予備精製した材料を試験した場合には、選択性が異なるように思えた(図3)。
【0124】
陰イオン交換が、最初の精製工程について最も着実な拡張性のある選択肢であると思われた。したがって、種々の陰イオン交換体を、レオリジン(reolysin)の精製についてさらに評価した。
【0125】
陰イオン交換による捕捉工程の最適化
種々の陰イオン交換体によって、明確に様々な選択性が付与される。Q Sepharose XLは最も顕著に異なり、ウイルスの分裂ピークを生じる。ウイルスはpH8.0を超えると安定ではないので、結合の間の陰イオン交換体の微環境を1pH単位高くし、試料をpH 7.2で載せ、その後の全ての工程は7.0のpHに維持した。試料を、希塩酸で7.2のpHに調整した。
【0126】
Tris−Cl緩衝液中での選択性は低いと考えたので、リン酸緩衝液もまた評価した。結合と選択性の両方がリン酸緩衝液の使用によって改善された(データは示さない)。5種類の陰イオン交換体もまた結合能力について比較した。早い漏出(breakthrough)が、90ミクロンのビーズ(ANX high sub、DEAE、Q Fast Flow,およびXL)の全てについて観察され、この場合、材料は、1〜2倍のカラム容量の後、漏出した。Q Sepharose High Performanceにより、5cmのベッド高および50cm/hの線流速または6分の滞留時間で、漏出が観察されるまでに、12 CVより多くのウイルスを載せることができた(図4)。
【0127】
したがって、最初の工程のプロセスのさらなる開発については、Q Sepharose High Performanceを選択した。1Mの塩化ナトリウムまでの直線勾配を用いたQ Sepharose HPからのウイルスの溶出は、0.5Mでウイルスが溶出され、勾配のそれよりも早い段階でいくらかの残っている混入物質が溶出し、そして勾配のそれよりも遅い段階でいくらかのさらなる混入物質が溶出したことを示している。
【0128】
洗浄、溶出、および再生のための種々の工程の濃度を評価した。最適条件は、カラムを0.24Mの塩化ナトリウムで洗浄し(ウイルスは、約0.26〜0.27Mの塩化ナトリウムまでは溶出しなかった)、0.5Mの塩化ナトリウムで溶出させ、そして2Mの塩化ナトリウムで再生した場合に見られた(図5)。
【0129】
この工程のプロトコールにより、8〜10倍のウイルスの濃縮が可能になり、そして滴定、ならびにウェスタンブロッティングとRT−PCRの両方によって60〜70%の回収率が示された。クリーニングレジュメもまた開発され、上向きの流れ方向(up−flow direction)での、50cm/hの2 CVについての2Mの塩化ナトリウム、その後の25cm/hの2 CVについての1Mの水酸化ナトリウムの再生、それに続く上向きの流れ方向での、50cm/hのさらに2 CVの2Mの塩化ナトリウムの再生の組み合わせによって、カラム最大容量と溶出プロフィールの完全な回収が可能となった(データは示さない)。得られたウイルス力価が最終的な処方物に十分であるほど高い場合には、150cm/hおよび20cmのベッド高でのSepharose 4 Fast Flow上での基分離を、2回目の精製および緩衝液交換工程のために選択した。全カラム容量の35%までの容量をこれらの条件下で載せることができ、ウイルスを最終的な処方緩衝液に交換した。
【0130】
スケールアップ
陰イオン交換による精製の8倍のスケールアップ
拡張性を示すために、プロセスを、HR10_100 Q Sepharose High Performanceカラムに8倍にスケールアップした。全てのパラメーター(例えば、滞留時間、載せる容量、工程の濃度、および1mlの樹脂あたりの試料のmg数)を、スケールアップについて、一定に維持した。混入物質の溶出プロフィール、さらには、ウイルスのピークは、この10倍のスケールアップの間ほぼ同じであった(図6)。
【0131】
このプロセスをパイロットプラント用にさらにスケールアップし、その後、50倍でGMPを行った。5リットルの4×UF/DFで予備精製したウイルスを、同等の回収率および純度で、開発したプロセスを用いて精製した。
【0132】
塩化セシウム勾配で精製した材料と同じ最終的な純度のレベルに達するように、基分離もまた10倍にスケールアップした。第2工程の10倍のスケールアップの溶出プロフィールを図7に示す。
【0133】
最終産物の純度は、銀染色したSDS PAGEによって示すように(図8A)、勾配で精製した材料と同等であった。2工程の手順によってもまた、クマシー染色したSDS
PAGEによって示したように(図8B)、勾配で精製した材料よりも高濃度の物質が生じた。ウェスタンブロット分析によって、ウイルスのバンドの実態を確認し、プロセス全体についてウイルスの回収量を定量した。全体的な回収率は>50%であった。これを、滴定アッセイによっても確認した(図8C)。
【0134】
実施例4のまとめ
精製プロセスを、非被包性ウイルスの精製のために開発し、50倍超にスケールアップした。種々のクロマトグラフィーによる分離の原理のスクリーニングは、レオウイルスの場合には、陰イオン交換とサイズ排除が完全な生物学的活性のある(感染性)ビリオンの精製のための最適な選択肢であることを示していた。それぞれ、第1の工程および第2の工程としての陰イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーについての条件を注意深くスクリーニングし、最適化して、着実な拡張性のあるプロトコールを可能にした。第1の工程については、吸着および脱着工程の流速、ならびに、第2の工程の試料の注入およびアイソクラチック溶出に、特に注意を払った。種々の陰イオン交換体についての結合能力を評価し、そして6%のアガロース媒体上では>2 MD、そして4%のアガロース媒体上では>20 MDの粒子についてのみ表面結合が生じたので、より小さいビーズを使用することによって、ビーズの直径が小さくなることに比例して結合能力が増大した(それぞれ、3倍および9倍)。Trisベースの緩衝液ではなくリン酸緩衝液を使用することにより、ウイルスの溶出の際によりよい選択性が得られ、そしてまた、生物学的活性の回収に関しても優れていることが見られた。さらに、透析および溶出緩衝液の中でのマグネシウム塩の使用は避けた。
【0135】
8倍のスケールアップによって、溶出プロフィールがスケールアップしても再現性があること、および段階的プロトコールによって、約60〜70%の収率で感染性ウイルスが回収ができることが示された。第2工程は、2回の連続する密度勾配遠心分離工程によって精製されたウイルスの最終的な純度に達するために必要であり、これによって同時に最終処方緩衝液へのウイルスの緩衝液交換ができた。最終的な力価は、Q Sepharose High Performance媒体の高い能力の理由から、さらなる限外濾過工程を省略できるほど十分に高かった。可能性のある逆圧の問題が原因である負の衝撃(negative impact)は、34ミクロンのビーズを使用した場合には、BPG100カラムへのスケールアップの際には観察されなかった。ベッド全体の圧力低下は、試料のアプリケーションおよびプロトコール全体の間は、1.5バールよりも低いままであった。
【0136】
しかし、最大容量の不一致が、出発物質の種々のバッチの中のフェノールレッドの量が異なることが原因で、低力価のウイルス出発物質を使用した場合に、スケールアップの際に観察された。これらの条件下では、ウイルス材料の一部が洗浄工程の間に失われ、そしてロスは50%もの高さになり得る。しかし、出発材料の質についてのより良好な管理によって、最初の小規模でのプロセスと匹敵する値にまで、精製プロセスの能力を回復させることができた。
【0137】
まとめると、本発明により、従来の小規模なプロセスの質に匹敵する質の大規模なレオウイルスの生産のための精製プロセスが提供される。
【0138】
記載される本発明の方法およびシステムの種々の改良およびバリエーションが、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態と組み合わせて記載されているが、請求される本発明が、このような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されるはずである。実際、本発明を実施するための記載される方法の様々な改良が、以下の特許請求の範囲に含まれるように意図されることは、当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−40026(P2012−40026A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−258983(P2011−258983)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【分割の表示】特願2007−537090(P2007−537090)の分割
【原出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(501332264)オンコリティクス バイオテク,インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】