説明

改良されたサイトカインの設計

本発明は、タンパク質、特にサイトカインの設計のための新規方法に関する。これらの方法は、そのようなサイトカインの安定化、およびそれらのコグネイト受容体に対するそれらの選択性/特異性の修飾を可能にする。本発明はまた、本発明の方法により設計された種々の修飾タンパク質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質、特にサイトカインの設計のための新規方法に関する。これらの方法は、そのようなサイトカインの安定化、およびそれらのコグネイト(cognate)受容体に対するそれらの選択性/特異性の修飾を可能にする。本発明はまた、本発明の方法により設計された種々の修飾タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインは、主に白血球から分泌される増殖因子のファミリーであり、ナノモル以下の濃度で細胞過程に働きかける強力な制御因子として作用するメッセンジャータンパク質である。それらのサイズは、サイトカインが全身に迅速に輸送され必要に応じて分解されるのを可能にする。広範な細胞機能(特に免疫応答および細胞増殖)の制御におけるそれらの役割が過去20年にわたる精力的な研究により明らかにされている(Boppana, S. B (1996) Indian. J. Pediatr. 63 (4): 447-52)。これらの役割には、免疫応答の調節(Nishihira, J. (1998) Int. J. Mol. Med. 2 : 17-28)、炎症(Kim, P. K.ら (2000) Surg. Clin. North. Am. 80 (3): 885-894)、創傷治癒(Clark, R. A. (1991) J. Cell Biochem. 46: 1-2)、胚形成および発生ならびにアポトーシス(Flad, H. D.ら (1999) Pathobiology. 67 (5-6): 291-293)が含まれる。
【0003】
これまでのサイトカインの臨床用途は、免疫系の制御因子としてのそれらの役割(Rodriguez, F. H.ら (2000) Curr. Pharm. Des. 6 (6): 665-680)、例えば、甲状腺癌に対する応答の促進におけるそれらの役割(Schmutzler, C.ら (2000) 143 : 15-24)に焦点が絞られている。また、サイトカインは細胞の増殖および分化を制御しているため、サイトカインは抗癌標的となっている(Lazar-Molnar, E.ら (2000) Cytokine. 12 (6): 547-554; Gado, K. (2000) 24 (4): 195-209)。サイトカインおよびサイトカイン受容体における新規突然変異は、いくつかの場合に疾患抵抗性を付与することが示されている(van Deventer, S. J.ら (2000) Intensive Care Med. 26 (Suppl 1): S98:S102)。活性をモジュレーションし潜在的副作用を除去するための合成サイトカイン(突然変異タンパク質)の作製も重要な研究方法となっている(Shanafelt, A. B.ら (1998) 95 (16): 9454-9458)。
【0004】
このように、サイトカイン分子は多様な生理機能において何らかの役割を果たしており、それらのうちの多くは疾患過程において何らかの役割を果たしていることが示されている。それらの活性の改変は、疾患表現型を改変するための手段であり、したがって、新規サイトカイン分子の同定は科学的に非常に興味深い。
【0005】
特に興味深いのは、腫瘍壊死因子リガンド(TNF)ファミリーに属するリガンドであり、これらのタンパク質は細胞増殖からアポトーシスに及ぶ広範な生物活性に関与している。
【0006】
TNFリガンドファミリーのメンバーは、それらのコグネイト受容体との相互作用を介して、アポトーシス、すなわちプログラム細胞死(PCD)につながるシグナリング経路を誘導する。リガンド結合受容体は、それらの細胞質部分同士を密接に接近させることにより、膜を越えてシグナルを送り、下流エフェクタータンパク質のリクルートメントおよび活性化を招く。アポトーシスは、多細胞生物の正常な発達および恒常性の基本となる過程である。しかし、アポトーシス調節の欠損は癌およびいくつかの慢性疾患、例えば後天性免疫不全症候群(自己免疫疾患およびエイズ)および神経変性障害(例えば、パーキンソン病)の発病に関わっている。一般的な例としては、慢性移植機能障害、慢性関節リウマチ、慢性塞栓性肺疾患(COPD)および喘息が挙げられる。シグナル伝達における不均衡の逆転を媒介する分子は疾患の有効な治療剤となりうるであろう。
【0007】
TNFリガンドファミリーのメンバーは免疫機能および免疫寛容の主要制御因子でもある。このファミリーにおいては、適当な免疫応答を保証する、免疫促進機能と免疫調節機能との間の複雑な平衡が存在する。TNFリガンド受容体ファミリーにおける遺伝的多型は免疫恒常性の脱調節を引き起こしうる。そのような脱調節は発病を招きうる。
【0008】
TNFリガンドファミリーはそれらのコグネイト受容体と相互作用して、組織に対する防御効果および発病効果の両方に加えて、免疫寛容に対する調節作用および有害な作用において中心的な役割を果たす幾つかのシグナリング経路を誘発する(Rieux-Laucatら, 2003, Current Opinion in Immunology 15: 325; MackayおよびAmbrose, 2003, Cytokine and growth factor reviews, 14: 311; MackayおよびKalled, 2002, Current opinion in Immunology, 14: 783-790)。そのようなタンパク質の具体例には、慢性関節リウマチ、自己免疫糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、炎症性腸疾患(IBD)、自己免疫リンパ増殖症候群(ALPS)および多発性硬化症のような病態に関与しているRANKL、TRAILおよびAPRILのようなリガンドが含まれる。
【0009】
TNFリガンドファミリーメンバーの全単量体サブユニットは、ゼリーロール位相幾何学で組織化された逆平行βシートよりなり、これらのサブユニットは、該リガンドの生物活性形態である釣鐘形ホモ三量体に自己会合する。配列相同性は、三量体形成をもたらす(芳香族)残基間で最高である。三量体はコグネイト受容体の3つのサブユニットに結合し、各受容体サブユニットは2つの隣接単量体サブユニット間の溝内に結合する。該リガンドはII型膜貫通タンパク質であるが、いくつかのメンバーの細胞外ドメインはタンパク質分解により細胞表面から切断されて、該リガンドの生物活性可溶性形態を与えうる。TNFリガンドファミリーの最近の総説が容易に入手可能である(Locksleyら Cell 104, 487-501 (2001); Bodmerら Trends Biochem. Sci. 27,19-26 (2002))。
【0010】
TNFリガンドファミリーのメンバーの知見は、同一または他のファミリー間のリガンド-受容体相互作用により誘発される他のシグナリング経路にも適用されうる。
【0011】
天然に存在するサイトカインは科学界で大きな関心の的となっているが、これらの分子のうちの多くの特性は臨床場面におけるそれらの用途に必ずしも適していない。例えば、製造プロセスの全体にわたってサイトカインの安定性が重要であり、また、最終産物の貯蔵寿命のためにも、そして該タンパク質治療剤の薬物動態学的および薬動力学的特性に影響を及ぼすためにも、サイトカインの安定性が重要である(Marshallら, Drug Discov. Today 8,212-221 (2003))。現在、タンパク質の熱安定性を増強するためには、いくつかの方法が用いられている(Fersht, A. & Winter, G. Protein engineering. Trends 292-295 (1992); Van den Burgら, Opin. Biotechnol. 13,333-337 (2002))。論理的方法(Pantolianoら, Biochemistry 26,2077-2082 (1987); Van den Burgら, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 95,2056-2060 (1998); Villegasら, Fold. Des 1, 29-34 (1996))および定方向進化法(Giverら, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 95,12809-12813 (1998); Jungら, J. Mol. Biol. 294,163-180 (1999))の両方が、安定性を改善するために成功裏に用いられている。論理的アプローチの欠点は、限られた数の潜在的改良変異体しか設計できないことである。これに対して、定方向進化法は非常に多数の変異体の作製およびスクリーニングを可能にする。しかし、適当な選択/スクリーニング法が要求され、それは、しばしば、利用できないか、または非常に労働集約的である。
【0012】
その後、タンパク質の種々の特性のなかでも特に安定性を増強するために、コンピューター再設計アルゴリズム(computational redesign algorithm)が使用されている(DeGradoら, Annu. Rev. Biochem. 68,779-819 (1999))。これらの方法はコンピューターによる設計工程をin silicoスクリーニングと組合せるものであり、ハイスループット技術で実験的に可能なものより遥かに大きな配列スペースのスクリーニングを可能にする。膨大な配列スペースを検索するためには効率的なアルゴリズムが必要であり、最良の設計をランク付け(rank)するためには、正確なスコア関数が要求される(Dantasら, J. Mol. Biol. 332,449-460 (2003))。いくつかの限られた成功が或るタンパク質に関して達成されている。例えば、最近、ストレプトコッカスGβ1ドメインタンパク質の超高熱菌変異体を作製するために(Malakauskas, S. M. & Mayo, S. L. Nat. Struct. Biol. 5,470-475 (1998))、ならびにスペクトリンSH3度メインの安定性を増強するために(Venturaら, Nat. Struct. Biol. 9,485-493 (2002))、ならびに治療上興味深い4ヘリックス束サイトカイン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)およびヒト成長ホルモン(hGH)の(熱)安定性を改善するために、コンピューター再設計が利用されている。しかし、これらの方法の種々の欠点のため、それらの広範な適用は不可能となっている。
【0013】
また、サイトカイン受容体に対するサイトカインの選択性/特異性を改変することが可能であれば非常に有用であろう。例えば、TNFリガンドファミリーの或るメンバーは2以上の受容体に結合し、あるいは細胞内ドメインを欠く又は末端切断型細胞内ドメインを有するデコイ受容体に結合する。具体例としては、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL; TNFSF10)(Wileyら, Immunity. 3,673-682 (1995); Pittiら, J. Biol. Chem. 271,12687-12690 (1996))が挙げられ、これはその可溶性形態で、そのデコイ容体であるDcR1(TRAIL-R3)、DcR2(TRAIL-R4)およびOPGに加えて、その受容体であるDR4(TRAIL-R1)およびDR5(TRAIL-R2)に結合する。受容体DR4(TRAIL-R1)およびDR5(TRAIL-R2)は細胞質Fas結合デスドメイン(FADD)を含有し、これらの受容体へのTRAILの結合はアポトーシスを誘導する。TRAILは腫瘍壊死因子受容体結合デスドメイン(TRADD)を介して増殖性NF-κB経路をも誘導しうるらしい。DR4(TRAIL-R1)およびDR5(TRAIL-R2)シグナリングの選択的誘導物質を得ることは非常に興味深いであろう。なぜなら、両方のデス(死)受容体の架橋要件は恐らく異なっているからである。該架橋に応じて、該シグナリング経路は増殖性経路またはアポトーシス経路を誘導しうるであろう。DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4)は、それぞれ、デスドメインを含有せず、あるいは末端切断型デスドメインを含有する。これらの受容体への結合はアポトーシスを誘導せず、逆に、それは実際には、利用可能なTRAILを隔離することにより、アポトーシスを妨げうる。しかし、DcR2(TRAIL-R4)はNF-κB経路をも誘導しうるらしい。他のアポトーシス誘導性TNFファミリーメンバーとは異なり、TRAILは健常組織に対しては不活性であるらしく、したがって、潜在的癌治療剤として大きな関心を引くものである(Ashkenaziら, J. Clin. Invest 104,155-162 (1999))。しかし、最近の重要な刊行物は、TRAIL-R3が、乳腫瘍細胞において、遺伝毒性薬ドキソルビシンの使用により、p53によりアップレギュレーションされることを示している(Ruiz de Almodovarら, 2003, Nov 17, Manuscript M311243200)。これは、野生型TRAILの有効性が抗腫瘍療法においては低下しうることを示唆している。なぜなら、それはデコイ受容体(これはアポトーシスを始動しない)にも結合するからである。したがって、改変した選択性/特異性を有する、TRAILの変異体は、アポトーシス促進性受容体DR4(TRAIL-R1)またはDR5(TRAIL-R2)に直結しうると考えられ、癌治療における最大限に改良された用途を有するであろう。
【0014】
TNFリガンドファミリーメンバー、例えばTRAIL、APRIL、RANKL BAFF、LIGHT、FasLおよびTNF-aは全て、2以上の受容体に結合する。現在のところ、少なくとも以下の6個のデスドメイン含有受容体が同定されている:Fas、TNF受容体1(TNF-R1)、デス受容体3(DR3;TRAMP、Wsl、APO-3およびLARDとしても公知である)、TNF関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL)に対する2つの受容体TRAIL-R1/DR4およびTRAIL-R2/DR5ならびにDR6。対応デコイ受容体DcR1、DcR2およびOPGに結合するTRAILのように、TNFリガンドファミリーの或るメンバーは、デスドメインを欠く又は末端切断型デスドメインを有するデコイ受容体にも結合する。このように、この分野における最近の知見の蓄積は治療剤の設計への新しい道を開くものである。この点で、種々の受容体の活性化の特異的役割、したがって、いくつかの受容体に結合するリガンドの機能的効果、およびそれに伴う、シグナル活性化に関連した関連疾患の発病に対する影響を理解するためには、新規分子の選択性は非常に重要である。
【0015】
論理的設計は比較的少量の変異体の設計を可能にするに過ぎない。分子進化/ハイスループットスクリーニング(HTS)法では、選択およびスクリーニング法を開発する必要があり、変異体の大ライブラリーをスクリーニングする必要がある。特に安定性の増強に関しては、選択またはスクリーニング法の成功例は比較的少数しか存在しない。
【0016】
定方向進化法は多数の変異体の作製およびスクリーニングを可能にする。しかし、適当な選択/スクリーニング法が要求され、それは、しばしば、利用できないか、または非常に労働集約的である。そのような方法は、特定の鋳型タンパク質のDNA配列の部分的ランダム化に基づくものであり、数百万〜数十億個の変異体を与える。ファージディスプレイのような技術を用いる数ラウンドにわたる反復選択またはスクリーニング法を用いて、この膨大なプールから改良変異体を選択する。
【0017】
DR4およびDR5選択的TRAIL変異体を記載している、発明の名称「APO-2 LIGAND/TRAIL VARIANTS AND USES THEREOF」の特許(WO 2004/001009 A2)が、2003年12月31日に公開された。関連内容を記載しているKelleyらの科学論文が2004年に公開された(Kelley, R. F.ら, 原稿番号M410660200v1、2004年11月1日、印刷前に電子公開された)。
【0018】
これまでに行われたアラニンスキャンから導かれたデータ(Hymowitz, S. G.ら Biochemistry 39, 633-640 (2000))を用いて、Kelleyらは、2億〜25億個のサイズのユニークTRAIL変異体を有するライブラリーを構築した。このアプローチ(例えば、アラニンスキャンから導かれた位置を用いるライブラリーの構築)の潜在的欠点は、アラニンスキャンライブラリーにおいて見出されない位置における受容体選択性/特異性を達成するための他の有利な突然変異が見落とされることである。例えば195位および218位がアラニンスキャンでスクリーニングされたが、アラニンへの突然変異は選択性の変化に関する明らかな指標を与えなかった。したがって、それらの位置は該ライブラリーには加えられなかった。ファージディスプレイを用いて、野生型TRAILに対して平均で〜6個のアミノ酸置換を有する受容体選択的変異体が得られた。受容体選択性を得るためには、複数のアミノ酸置換が必要であると結論づけられた。
【0019】
当技術分野で公知の、コンピューターによる設計法は、比較的小さな単量体分子の安定性を改善するために適用されているに過ぎず、より大きな多量体分子の安定性を改善するためには適用されていない。これらの設計は、しばしば、該分子のコア内のアミノ酸の変化に焦点が絞られる。コア内の残基の変化(コアのリパッキング)は分子を或る程度は安定化するが、モルテングロビュール状態を招きうる。
【0020】
コンピューターによる設計法は、選択性を改変するためにも当技術分野で用いられているが、この場合も、比較的小さな単量体分子が対象であり、それは、より大きな多量体分子の結合相手に対する選択性を改善するためのものではない。
【0021】
本発明の1つの態様は、野生型対応物より安定なタンパク質を設計するために、コンピューター再設計アルゴリズムと、経験に基づく手動入力との組合せを用いる。
【0022】
本発明の第2の態様は、受容体に対するタンパク質の選択性を改変するための、該タンパク質の再設計に関する。
【発明の開示】
【0023】
発明の概要
本発明の第1の態様においては、βシート多量体サイトカインの安定化のための、コンピューターにより実行される方法を提供する。該方法は、その野生型未突然変異単量体成分と比べて該単量体の又は該多量体複合体の自由エネルギーが改善されるよう、該多量体サイトカインタンパク質の単量体成分内の残基を突然変異させる工程を含み、ここで、該突然変異残基は該サイトカインファミリーの相同メンバー間で非保存的である。
【0024】
増強された安定性を有するβシート多量体サイトカインの変異体は多数の利点を有する。それらの利点には、野生型対応物と比較した場合の、in vivoおよびin vitro半減期の延長、タンパク質発現中に得られる収率の増加、精製中の安定性の増大、および貯蔵寿命の延長が含まれる。したがって、これらのタンパク質の安定変異体はタンパク質治療剤または診断剤として使用されうる。該タンパク質は野生型構造に比較的よく類似しており、このことは、タンパク質を安定化するための現在好ましい方法である融合タグにより安定化された変異体と比較した場合に特に、免疫原性のリスクを減少させる。それらは、アゴニストまたはアンタゴニスト抗体と比較した場合にも利点を有する。抗体とは対照的に、変異体は大腸菌(Escherichia coli)内で産生されることが可能であり、シグナリングの様態は、野生型サイトカインタンパク質により用いられるものに、より類似している。
【0025】
本明細書中で用いる「多量体サイトカイン」なる語は、全βシート多量体サイトカインを包含する意である。そのようなサイトカインの具体例は表6に記載されている。他の具体例は当業者に公知であろう。TNFリガンドファミリーの構造に関する最近の総説が入手可能である(Bodmerら, 2002. Trends Biochem. Sci. 27,19)。
【0026】
βシート多量体サイトカインの1つの特徴は、それらが同一単量体サブユニットまたは異なる単量体サブユニットから構成されていることである。方法論は、すべてのサイトカインタンパク質ファミリー、より詳しくは、TNFリガンド-受容体ファミリーのメンバーに適用されうるであろう。サイトカインのスーパーファミリーに包含されるタンパク質のファミリーの他の具体例には、β-トレフォリ(Trefoli)、β-サンドイッチ、EGF様およびシスチンノットサイトカインとして分類されているものが含まれる。
【0027】
本発明の方法論の適用に関して特に興味深いのは、腫瘍壊死因子リガンドファミリーのメンバーであるβシート多量体サイトカインである。このファミリーに属するリガンドは細胞増殖からアポトーシスに及ぶ広範な生物活性に関与しており、それらは、類似した構造的特徴を共有する。これらのリガンドの全単量体サブユニットは、ゼリーロール位相幾何学で組織化された逆平行βシートよりなり、これらのサブユニットは、該リガンドの生物活性形態である釣鐘形ホモ三量体に自己会合する。配列相同性は、三量体形成をもたらす(芳香族)残基間で最高である。三量体はコグネイト受容体の3つのサブユニットに結合し、各受容体サブユニットは2つの隣接単量体サブユニット間の溝内に結合する。該リガンドはII型膜貫通タンパク質であるが、いくつかのメンバーの細胞外ドメインはタンパク質分解により細胞表面から切断されて、該リガンドの生物活性可溶性形態を与えうる。
【0028】
該設計の焦点を非保存残基位置に絞るためにはアライメント情報を用いることが有利であることが判明している。保存残基がファミリー内で妥当な理由で通常は保有されており、保存残基の任意の突然変異がタンパク質の安定性を減少させることが実際にありうるという前提に基づき、タンパク質安定化のためのこの方法はこれらの非保存残基に焦点を絞る。一方、高い配列可変性を有する領域は突然変異に寛容であり、該タンパク質を安定化する変異体はこれらの領域において見出されうると予想されうる。該ファミリーメンバー間で保有されているこれらの残基に関しては、より低い進化圧(evolutionary pressure)が存在する。
【0029】
したがって、該方法の組合せアプローチはファミリーアライメント情報およびコンピューター設計アルゴリズムを用いるものである。これは、調べられているタンパク質における各位置に関する配列スペース検索を軽減し、該方法論に必要な計算時間および労力を軽減する。
【0030】
非保存残基の同定は、当業者に公知の多数の系の任意のものを用いて行われうる。そのような解析は目視により行われうるが、コンピューターにより実行されるアライメントアルゴリズム、例えばBLAST(Altschulら, (1990) J Mol Biol., 215 (3): 403-10)、FASTA(Pearson & Lipman, (1988) Proc Acad Sci USA; 85 (8): 2444-8)、より好ましくはPSI-BLAST(Altschulら, (1997) Nucleic Acids Res., 25(17): 3389-402)、ClustalW(Thompsonら, 1994, NAR, 22(22), 4673-4680)などを用いると、より容易に達成されうる。残基が保存されているか否かの評価は当業者に明らかであり、整列(アライン)された関連タンパク質の数およびそれらの間の関連性の度合に左右されるであろう。例えば、僅か2つのファミリーメンバーが整列され、これらのタンパク質が50%の同一性を有する場合には、保存残基は、それらの2つのタンパク質間で同一位置で共有されているものである。一方、同一ファミリー内の20種のタンパク質が整列されている場合には、これらのタンパク質のうちで最も類似していないものは、これと同じくらい高い相同性を有するとはほとんど考えられない。したがって、好ましくは、突然変異に関する候補と該タンパク質ファミリーの代表メンバーとの間のアライメントにおいては、保存残基は、該ファミリーの少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%の間で共有されているものであり、それは少なくとも60%、好ましくは70%またはそれ以上でありうる。例えば、腫瘍壊死因子リガンドファミリーにおける配列相同性は、三量体形成をもたらす(芳香族)残基間で最高である。したがって、これらの残基は、本発明の方法論の突然変異には不適当な候補である。
【0031】
非保存残基を同定したら、該方法における次の工程は、これらのうちの残基のいずれが突然変異に関する候補であるかの評価を要する。
【0032】
該方法論の好ましい態様においては、多量体サイトカインタンパク質構造体内の単量体成分の表面の位置を占める非保存残基を突然変異させる。これを行うことにより、該多量体構造は全体として安定化される。
【0033】
本明細書中で用いる「表面(に)」なる語は、該単量体内の関心残基が、該多量体複合体において、表面に露出したままであることを意味する。そのような残基は溶媒で露出され、したがって元々、親水性である。もちろん、表面露出残基は各単量体の表面に存在するだけではなく、多量体複合体の表面にも露出しているであろう。タンパク質の構造における個々の残基の位置の知見は構造自体の知見から得られることがあり、あるいは同じファミリー内のタンパク質の構造における同等残基の位置からの推定により導かれうる。
【0034】
該方法論のもう1つの好ましい態様は、該多量体サイトカインタンパク質構造体の2つの単量体成分間の境界に近い位置の近傍の非保存残基を突然変異させることである。これは、鎖間境界の安定化により該タンパク質の多量体構造体を安定化する効果を有する。
【0035】
本明細書中で用いる「2つの単量体成分間の境界に近い位置の近傍」なる語は、該単量体内の関心残基が、多量体タンパク質の2つの単量体成分が一緒に複合体化した場合に形成される境界の近く又は該境界に存在することを意味する。該残基は、その構成原子が単量体-単量体相互作用に(好ましくは、正の様態で)影響を及ぼすのに十分な程度にこの境界の近くに存在しなければならない。疎水性相互作用のためには、その距離は対象原子のファンデルワールス半径と同じくらい近いかもしれない。水素結合のためには、その距離は2.7オングストローム〜3.1オングストロームでありうる。静電的相互作用のためには、その距離は1.4オングストローム〜12オングストロームでありうる。そのような影響は、例えば極性または疎水性溶媒和エネルギー、ファンデルワールス相互作用、水素結合エネルギー、静電学またはバックボーンおよび側鎖エントロピーによりもたらされうる。
【0036】
三量体タンパク質の場合、該方法論の1つの好ましい態様は、該多量体サイトカインタンパク質構造における三量体中心軸に沿った位置を占める残基を突然変異させることである。これは、該三量体を安定化する効果を有する。
【0037】
本明細書中で用いる「三量体中心軸に沿った残基」なる語は、単量体内の関心残基が、三量体タンパク質の3つの単量体成分が一緒に複合体化した場合に形成される境界の近く又は該境界に存在することを意味する。前記のとおり、該残基は、その構成原子が三量体複合体への3つの単量体成分の集合に影響を及ぼすのに十分な程度にこの境界の近くに存在しなければならない。
【0038】
最も好ましくは、本発明の方法では、前記のクラスの2以上において、好ましくは、該クラスの少なくとも2つにおいて、より一層好ましくは、これらのクラスの3つ全てにおいて、残基を突然変異させる。
【0039】
本明細書に記載されている方法論は、本発明者らが知る限りにおいては、大きな(> 100アミノ酸)全βシートタンパク質をより熱安定性の変異体へと再設計するために、計算工学を含む技術が適用された初めての例である。
【0040】
最近まで、多量体βシートサイトカインおよびそれらの受容体に関するタンパク質構造情報が得られなかったため、シグナル伝達の開始(リガンド-受容体相互作用)のレベルでの介入は不可能であった。現在では、これらのサイトカインの多くに関する詳細な結晶構造情報が、信頼しうる相同性モデルと共に入手可能である。したがって、タンパク質-タンパク質相互作用に関する研究ならびにリガンド-受容体相互作用および活性化のメカニズムの解明が現在可能である。例えば、以下のTNFリガンドファミリーメンバーが、複合体化または非複合体化形態で結晶化されている:ヒトBAFF, Blys(Liu Yら, 2002 Cell 108(3):383-94; Oren DAら, 2002 Nat Struct Biol., 9(4):288-92.; Karpusas M.ら, 2002 J Mol Biol. 315(5):1145-54); ヒトCD40L(Karpusas M.ら, 2001, Structure (Camb). Apr 4; 9(4):321-9); マウスRANKL/TRANCE(Lam J.ら, 2001 J Clin Invest. 108(7):971-9); ヒトTNF-a(Banner DW.ら, 1993 Cell. 1993 May 7;73(3):431-45; Eck MJら, 1992 J Biol Chem., 267(4):2119-22); ヒトTRAIL(Mongkolsapaya Jら, 1999 Nat Struct Biol. 6(11):1048-53, Cha SS.ら, 1999,2000 Immunity. 1999 Aug;11(2):253-61.2000 J Biol Chem. 2000 Oct 6;275(40):31171-7; Hymowitz SG.ら, 1999 Mol Cell. 4(4):563-71)、ヒトTNF-α(Reed C.ら, 1997 Protein Eng. 10(10); Cha SS.ら, 1998 J Biol Chem. 1998 Jan 23;273(4):2153-60; Naismith JH.ら, 1996 Structure. 1996 Nov 15;4(11):1251-62, Naismith. JH.ら, 1995, J Biol Chem. 1995 Jun 2;270 (22):13303-7.1996 J Mol Recognit. 1996 Mar-Apr;9(2):113-7; Carter PC.ら, 2001 Proc Acad Sci; 98(21):11879-84. Erratum in: Proc Acad Sci U S A 2001 Dec 18;98(26):15393)。したがって、これらのリガンドとそれらのそれぞれの受容体との間のタンパク質-タンパク質相互作用モチーフに相当するドメインを構成するアミノ酸は現在では公知である。TNFファミリー内のそのような相互作用性ドメインは、癌および慢性疾患、例えば自己免疫疾患のような疾患のモジュレーションに関連したシグナリング経路を始動させる本質的傾向を有し、薬物設計(ドラッグデザイン)のための出発点となる。
【0041】
候補サイトカインタンパク質の構造の可視化は、この目的に利用可能な多数の系(システム)のいずれかを用いてコンピューター(計算)により行われうる。そのような系は、一般には、タンパク質構造を記載したデータ(例えば、Protein Data Bank(PDB)からの構造)を移入し、これを三次元イメージに変換するように設計される。現在では、タンパク質構造に関する情報の最大の公的な保管所はPDBデータベース(http://www.rcsb.org/pdb)であり、これは現在、X線結晶解析および核磁気共鳴の方法を用いて解明された23,000を超えるタンパク質および核酸の構造を含む。タンパク質構造のイメージは、タンパク質構造内の各残基の位置を評価するためのタンパク質の構造の詳細な解析、およびどの残基が他の部分(例えば、受容体または単量体パートナー)との相互作用に関与しているかの評価を可能にする。
【0042】
例えば、本明細書に記載の実施例においては、TRAILタンパク質(アクセッション番号P50591; TN10 HUMAN(本明細書中の配列番号1および2))の構造が、鋳型PDB構造1DU3(Chaら, J. Biol. Chem. 275,31171-31177 (2000))を使用して可視化されている。2.2オングストロームの分解能の結晶構造は、DR5(TRAIL-R2)受容体のエクトドメイン(ectodomain)と複合体化したヒトTRAILの三量体構造を含有する。この場合、TRAIL単量体は、受容体結合および単量体-単量体相互作用に関与しない外部フレキシブルループ(130-146)を欠く。したがって、該分子を完成させるために、このループの原子座標を有する、DR5(TRAIL-R2)受容体と複合体化した単量体TRAILである1D4V(2.2オングストローム)の構造(Mongkolsapayaら, Nat. Struct. Biol. 6,1048-1053 (1999))を使用して、このループをモデル化した。最終的に、該受容体分子を該PDBファイルから取り出すことにより、該TRAIL分子を単離した。
【0043】
アプイニシオ(ab initio)で又は密接に関連した既知構造のタンパク質からの推定によりタンパク質構造の予想を可能にする、コンピューターにより実行されるプログラムは既に存在する。したがって、本発明の方法のためには、候補タンパク質の構造を知ることは厳密には必要でない。関連タンパク質の構造からの類推により、かなりの量の情報が集められうる。例えば、TNFリガンドファミリーメンバーは、類似した三量体構造を示す。
【0044】
例えば、いくつかのβシート多量体サイトカイン、例えばAPRILでは、受容体との複合体の構造は入手できない。しかし、一般には、相同リガンドおよび受容体に関する構造情報が入手可能であり、それはホモロジーモデリングによる複合体の構築を可能にする。配列相同性が40%より高く、リガンドおよび受容体の結合領域内に挿入または欠失が見出されない場合に特に、これが当てはまる。
【0045】
候補タンパク質の単離単量体、単量体-単量体境界および中心コアの可視化は、突然変異誘発の潜在的候補である残基を示す。
【0046】
安定性突然変異体の設計の場合には、突然変異誘発に不適当な残基を除去するために、高度に保存された疎水性残基は突然変異誘発のための潜在的候補の一覧から除かれるべきである。また、受容体結合に関与する残基は、安定性突然変異体の設計の場合には除かれるべきである。これらの残基を突然変異させると必ず、受容体との相互作用が破壊される。好ましくは、関心のあるファミリーに属するタンパク質の多重配列アライメントにおける天然アミノ酸を調べて計算時間を減少させ、ついで非保存残基に焦点を絞ることにより、各位置に関する配列スペース検索を単純化することが可能である。
【0047】
好ましくは、可視化手段と共に、突然変異の候補残基の同定を促進するためのタンパク質設計アルゴリズムを使用する。適当なアルゴリズムの具体例には、「WHATIF」プログラム(Vriend, (1990), J Mol Graph 8(1),52-6,29)または改良プログラム、例えばアルゴリズム「PERLA」(タンパク質工学回転異性体ライブラリーアルゴリズム)(Fisinger S, Serrano L, Lacroix E. Protein Sci. 2001 Apr; 10(4):809-18)が含まれる。後者は、回転異性体ライブラリー検索に基づくものであり、該タンパク質において、異なる位置での同時組合せ探索を可能にし、該タンパク質の構造特性(例えば、その安定性)を改善する最適配列を同定する。このアルゴリズムの詳細な説明は他で入手可能であり(Lacroix, E. Protein design: a computer based approach, Ph. D. thesis. (U. Libre de Bruxelles, 1999))(http://ProteinDesign. EMBL-Heidelberg. DE)、その使用は既に記載されている(Venturaら, Nat. Struct. Biol. 9,485-493 (2002); Fisingerら, Protein Sci. 10,809-818 (2001); Lopezら, J. Mol. Biol. 312,229-246 (2001); Reinaら, Nat. Struct. Biol. 9,621-627 (2002))。他の適当なアルゴリズムには、3D JgisawおよびEasyPredが含まれる。
【0048】
簡潔に説明すると、PERLAアルゴリズムは厳密な逆フォールディングを行う。固定されたバックボーン構造は回転異性体ライブラリーからのアミノ酸側鎖で装飾される。タンパク質構造における歪みの緩和は亜回転異性体(subrotamer)の作製を介して達成される。変性タンパク質を模擬するために、スコア関数のほとんどの項は参照状態に対して釣り合わされる。側鎖コンホーマーはすべて、平均場理論を用いて重み付けされ(weighted)、最終的に、モデル化構造(PDB座標)を有する候補配列が得られる。
【0049】
多量体タンパク質、例えばTNFファミリーリガンドTRAILの場合には、PERLAでのタンパク質設計は以下の工程を要する。
【0050】
第1に、隣接単量体との特異的相互作用を確立しうる単量体の残基を、前記のとおりに同定し選択しなければならない。
【0051】
第2に、該アルゴリズムにより導入された新たな残基を受け入れるのに必要な側鎖移動を可能にするためには、突然変異の候補である残基と接触する側鎖を同定しなければならない。PERLAは、Cα-Cαの距離およびCα-Cβベクトル間の角度を考慮する幾何学的アプローチに基づき、これらの残基を自動的に選択する。
【0052】
第3に、該アルゴリズムは、TNFリガンドファミリーの多重配列アライメントにおける天然アミノ酸のセットから選択された各位置にアミノ酸レパートリーを配置し、該構造の残部に適合しない側鎖コンホメーションおよびアミノ酸を考慮から除外する。
【0053】
第4に、それほど好ましくない組合せを排除するために、すべての可能なペアワイズ(pair-wise)相互作用を調べる。このエネルギー評価は、好ましくは、例えば力場アルゴリズム、例えばプログラムFOLD-X(Gueroisら, J. Mol. Biol. 320,369-387 (2002))またはこのプログラムの修飾形態(Schymkowitz, J., Borg, J. , Rousseau, F. & Serrano, L,“manuscript in preparation”)(http://fold-x.embl-heidelberg.deで入手可能)を使用してコンピューターにより行われる。FOLD-Xの力場モジュールは、該タンパク質の水素結合ネットワークおよび静電ネットワークに加えて、その原子接触地図、その原子および残基の接近可能性ならびにバックボーン二面角のような構造特性を評価する。好ましくは、該タンパク質との2以上の水素結合を与える水分子の寄与も考慮する。ついでFOLD-Xはすべての力場成分、すなわち、極性および疎水性溶媒和エネルギー、ファンデルワールス相互作用、ファンデルワールス衝突(clash)、水素結合エネルギー、静電気ならびにバックボーンおよび側鎖エントロピーの計算へと進む。
【0054】
最後に、最良算出解(エネルギーに関するもの)に対応する配列およびPDB座標の出力を得、例えばFOLD-Xを使用して自由エネルギーに関してランク付けすることが可能である。
【0055】
突然変異を含有する得られたデータファイル(好ましくはPDBファイルまたは類似物)を次いで、エネルギー最小化に付すべきである。これを行うための1つの方法は、Swiss-PdbViewer v3.7b2(Guex & Peitsch; Electrophoresis 18,2714-2723 (1997))において実行されるGROMOS 43B1のようなプログラムを使用し、FOLD-X(http://fold-x.embl-heidelberg.de)により評価することによるものである。ついで該モデルの最終エネルギーを、参照体である野生型構造と比較し、??G(kcal mol-1)として表す。
【0056】
好ましい突然変異は、もちろん、自由エネルギー(kcal mol-1)に関して組合わされ評価されうる。好ましくない組合せ(例えば、高いファンンデルワールス衝突)は排除すべきである。
【0057】
必要に応じて、設計プロセスの後で、更なる設計ラウンドのために、配列および座標の出力を設計アルゴリズムに再導入することが可能である。第2、第3、第4、第5またはそれ以降の設計ラウンドを用いることが可能である。
【0058】
前記方法論は自由エネルギーの計算を促進し、これは、野生型未突然変異単量体の自由エネルギーと比較して、単量体の突然変異により改良されているに違いない。「自由エネルギー」はフォールディングの自由エネルギーを意味する。「フォールディングの自由エネルギー」は、フォールディングした又は部分的にフォールディングした状態のタンパク質とその完全変性状態のタンパク質との間のギブスエネルギー(エンタルピー項およびエントロピー項を含む)における差を意味する。フォールディングの自由エネルギーの計算においては、原子の接近可能性、フォールディングした構造において生じると予想される原子間の静電荷の存在および水素結合の存在、ファンデルワールス相互作用、溶媒和のような因子を考慮すべきであり、主鎖および側鎖エントロピー効果も考慮すべきである。ついでこれらの原子エネルギー計算結果を合計する。したがって、この計算は、理想的には、個々のタンパク質フォールディング経路において固有の位相幾何学的制約と競合する又はそれを促進する安定化相互作用の性質を考慮すべきであり、主鎖、側鎖およびループエントロピーコストならびにタンパク質安定性に対する好ましい寄与を計算する場合には、配列考慮事項を考慮すべきである。したがって、そのような方法は、一方では位相幾何学的制約(エントロピー由来)と他方ではフォールディング安定化相互作用との間の平衡を有効に推定する詳細なエネルギー関数を含むべきである。
【0059】
個々のタンパク質の自由エネルギーは、当業者に明らかな任意の適当な方法を用いて評価されうる。自由エネルギーの自動計算のための多数の適当なコンピュータープログラムが存在する。1つの好ましいプログラムは、与えられたフォールディングに対する配列の適合性に従い配列をランク付けするために最適エネルギー関数を使用するFOLD-Xプログラム(Guerois R, Nielsen JE, Serrano L., J Mol Biol. 2002 Jul 5; 320 (2):369-87)である。
【0060】
本発明において同定されたそのような分子は、アポトーシスまたは自己免疫シグナリング経路が惹起されるリガンド受容体ファミリー境界を特異的に妨げる。そのような実験技術と共に、前記で大まかに記載されている設計アプローチを用いる組合せ法が、本発明の1つの態様として含まれる。
【0061】
前記方法を用いて作製された分子は、βシート多量体サイトカインの作用メカニズムを解明するためにも使用されうる。例えば、TNFファミリーメンバーの結晶構造は公知であるが、該リガンド-受容体複合体による結合およびシグナル始動の厳密なメカニズムはほとんど知られていない。いくつかのTNFリガンドファミリーメンバー、例えばTRAIL、APRILおよびRANKLは、受容体型に応じてシグナル伝達経路を惹起しうる又は惹起し得ない2以上の受容体型に結合する。したがって、リガンド-受容体複合体形成およびそれに続くシグナル伝達始動のレベルにおける癌または自己免疫疾患のような疾患の分子調節に関しては尚も多くの疑問がある。この複合体の特徴づけを目的としたin vitroおよびin vivo研究は、根底にある(病理)生理学的応答の更なる理解に寄与し、特有のリード分子の作製の助けとなるであろう。これらのリード化合物の使用は、in vitroおよびin vivo状況でのタンパク質-タンパク質相互作用、シグナル伝達経路および生物活性に関する、より複雑な基本的疑問の解明を促すであろう。
【0062】
特に、作製されたタンパク質またはペプチド模擬体は、増強または減弱した構造安定性、受容体結合選択性および/または生物活性を有するように操作されうる受容体アゴニスト、アンタゴニストとして作用しうる。特に、そのような化合物はアポトーシスの調節において有用である。TNFリガンドファミリーのメンバーは、それらのコグネイト受容体との相互作用を介して、アポトーシス、すなわちプログラム細胞死(PCD)につながるシグナリング経路を誘導する。リガンド結合受容体は、それらの細胞質部分を密接に接近させることにより、膜を越えてシグナルを送り、下流エフェクタータンパク質のリクルートメントおよび活性化を招く。多細胞生物が、不必要な又は損傷した細胞を、制御された様態で始末するメカニズムであるアポトーシスは、多細胞生物の正常な発達および恒常性の基本となる過程である。しかし、アポトーシス調節の欠損は癌およびいくつかの慢性疾患、例えば後天性免疫不全症候群(自己免疫疾患およびエイズ)および神経変性障害(例えば、パーキンソン病)の発病に関わっている。一般的な例としては、慢性移植機能障害、慢性関節リウマチ、慢性塞栓性肺疾患(COPD)および喘息が挙げられる。シグナル伝達における不均衡の逆転を媒介する分子は疾患の有効な治療剤となりうるであろう。細胞誘発性アポトーシスは、主に、アポトーシスを誘発するようコグネイト受容体と相互作用するTNFリガンドファミリーのメンバーにより引き起こされる。したがって、これらのサイトカインもしくはそれらの受容体またはそれらの模擬体の可溶性部分は、アポトーシス欠損に関連した種々の疾患に対する治療剤として使用される魅力的な候補である。
【0063】
また、リンパ球機能の制御においてTNFリガンドファミリーメンバーの役割の更なる理解が達成されて、自己免疫療法のための新規標的が同定されるかもしれない。活性化誘導性細胞死(AICD)の脱調節が自己免疫を招き、自己免疫に寄与するかもしれない。AICDの欠損は自己反応性および慢性活性化T細胞の蓄積を招く。これらの細胞は、APRILおよびBAFFを含む種々の免疫調節リガンドを発現することが可能であり、それらはB細胞機能を改変して、自己抗体分泌を引き起こし、最終的には自己免疫を招きうる。TNF受容体ファミリーメンバーのライゲーション(ligation)はカスパーゼ8/10の活性化を介してアポトーシスを招くか、あるいはNFκBの活性化を介して炎症性促進反応、細胞増殖および分化を招きうる。活性化T細胞は広範なTNFリガンド-受容体ファミリーメンバーを発現し、すべては、リンパ球の運命に対して異なる影響を及ぼす。APRILはT細胞およびB細胞の共刺激因子として作用し、自己免疫疾患におけるT細胞の生存を増強する。BAFFはB細胞のT1からT2までの段階の成熟に必須であり、したがって免疫グロブリン分泌に必須である。RANKLは、骨脱離(bone desorption)をもたらす破骨細胞前駆体の分化を開始させる。リウマチ様関節においては、白血球の40%がT細胞であり、主にCD4+である。慢性疾患の発生に対するB細胞の寄与は尚も大きいものの、B細胞の比率は僅か1〜5%である。炎症関節におけるこれらの細胞の蓄積は更なるリンパ球活性化および無制御の全身免疫応答を招く。例えば、RAにおいては、関節包内に蓄積しており体内にも循環している免疫細胞および過形成滑液細胞の両方を標的とする必要がある。
【0064】
TNFファミリーメンバーは、末梢T細胞のAICDに関与することによる及び増殖の促進を介した重要な免疫制御因子である。内因性TRAIL機能の抑制は欠損AICD、自己反応性リンパ球および滑液細胞の増殖を招き、関節炎および関節組織破壊を引き起こす(Song Kら, J. Exp. Med., 2000;191(7):1095)。一方、APRILはT細胞の共刺激因子として作用することが可能であり、T細胞の生存を延長しうる。T細胞活性化の及び再活性化により誘導される細胞死の分子経路を切断することにより、自己免疫におけるTNFリガンドファミリーメンバーの厳密な役割を理解することが可能である。
【0065】
例えば、AICDヒト末梢T細胞を健常個体の血液から単離することが可能である。T細胞を抗CD3および抗CD28抗体またはフィトヘマグルチニンにより活性化し、種々の量のIL-2および/またはIL-15の存在下で維持することが可能である。ついで、抗CD3モノクローナル抗体の添加による活性化後に種々の日数を経てから、AICDを誘導する。ついで、CD4+またはCD8+ T細胞集団のAICDを種々のTNFファミリーメンバーが種々の時点で誘導する能力を、アゴニスト性/アンタゴニスト性リガンド(例えば、本明細書に記載のもの)の添加により試験することが可能である。これらはシグナリングと競合するであろう。
【0066】
CD4+およびCD8+集団における細胞死は、例えば7-アミノアクチノマイシン法(Szondy Zら 1998, J. Infectious. Dis. 178:1288)により試験することが可能である。また、TRAIL-RおよびFas媒介死へと活性化T細胞を感作する場合におけるIL-2に対する要求性を調べる。IL-15はAICDを抑制することが示されているため、IL-15が活性化T細胞のTNF受容体ファミリーの発現を妨げてAICDへの感作を妨げるかどうかを調べる(Marks-Konczalik J.ら, PNAS 2000 97(21):11445-11450)。これらの知見に基づき、種々の自己免疫患者における考えられうる欠損を試験するために、機能アッセイが提案されうる。T細胞の生存のモジュレーションにおけるAPRILの機能を理解するように努めるであろう。抗CD3と共にAPRILをコアクチベーターとして使用して、それがTRAIL、FasLまたはTNFシグナリング、IL-2分泌をどのようにモジュレーションするのかを調べ、このようにしてT細胞の生存に対する影響を調べる。TNFリガンドファミリーメンバーまたは変異体が影響を及ぼすことが示された場合には、いくつかの形態の自己免疫におけるこれらの分子の特徴づけに着手する。
【0067】
したがって、本発明のもう1つの態様においては、野生型未改変サイトカインタンパク質より安定なサイトカインを与えるように改変された配列を有するβシート多量体サイトカインを提供する。好ましくは、βシート多量体サイトカインは、野生型未突然変異単量体成分と比べて単量体の又は多量体複合体の自由エネルギーが改善されるよう多量体サイトカインタンパク質の単量体成分内の残基を突然変異させることにより作製し、ここで、該突然変異残基は該サイトカインファミリーの相同メンバー間で非保存的である。
【0068】
本発明の文言に含まれる多量体サイトカインは、前記のとおり、すべてβシートの多量体サイトカインである。具体例を表6に示す。本発明の好ましい多量体サイトカインはTNFリガンドファミリーのメンバー(Bodmerら, 2002. Trends Biochem. Sci. 27,19を参照されたい)である。好ましいTNFリガンドファミリーメンバーはTRAILタンパク質である。
【0069】
好ましくは、そのようなβシート多量体サイトカインは該分子の可溶性C末端部分において突然変異している。突然変異のための適当な残基の具体例は以下の位置におけるものである:
a)該多量体サイトカインの単量体成分の表面の非保存残基(本明細書中では「単量体」セットと称される)、
b)該多量体サイトカインの単量体成分の2つの間の境界の近傍の非保存残基(本明細書中では「二量体」セットと称される)、
c)三量体サイトカインの場合の、三量体中心軸に沿った非保存残基(本明細書中では「三量体」セットと称される)。
【0070】
この一覧は網羅的なものではなく、個々のサイトカインに応じて、前記の3つの範疇のいずれにも含まれない種々雑多の突然変異も施されうる。非保存残基の同定は前記で説明されている。同様に、前記クラスa)〜c)に含まれる残基の同定も前記で説明されている。
【0071】
好ましくは、範疇a)における突然変異は、該サイトカインのCおよびD逆平行β鎖を接続する外部ループ(CDループ)(Eck(Eckら, J. Biol. Chem. 267,2119-2122 (1992))の表記による)に存在する。TRAILタンパク質におけるそのような突然変異の好ましい具体例には、E194およびI196位が含まれる。他のβシート多量体サイトカインにおける同等の突然変異は当業者に明らかであろう。好ましくは、これらの残基に導入される突然変異はE194Iおよび/またはI196Sである。
【0072】
TRAILタンパク質においては、両方のこれらの突然変異が施される場合には、これは、野生型TRAILと比較して、自由エネルギーの、大きな改善をもたらすことが判明している(ΔΔG = -9.7kcal mol-1 単量体-1)。この高いエネルギー値は、突然変異に際して除去される、結晶構造内の有意なファンデルワールス衝突の存在(〜5kcal mol-1 単量体-1)に加えて、三量体が調べられていることによるものである。好ましくは、突然変異はE194およびI196の両方の位置に施される。より好ましくは、突然変異E194IおよびI196Sの両方が施される。Glu194は疎水性基(Trp 231, Phe 192, Ala 235)により包囲されており、該カルボキシル基は未相殺であることに基づいて、この二重突然変異体(本明細書中ではM1と称される)の安定性における予想される増強が説明されうる。Glu194からIleへの突然変異は、荷電残基を中等度サイズの疎水性残基で置換することにより、この状況を矯正する。逆に、Ile196は極性残基(Asn 202, Lys 233)により包囲され、バックボーンに非常に接近していて、生じうるワンデルワールス衝突を引き起こす。Serへの突然変異は衝突を回避させ、CDループの反対部分に位置するAsn 202への水素結合の形成を可能にする。どちらの突然変異も、側鎖およびバックボーンエントロピーの改善に加えて、極性溶媒和エネルギーを改善する。
【0073】
好ましくは、二量体セットにおける突然変異は以下の位置の1以上において施されうる:125、163、185、187、232、234、237、203、205、239、241、271および274。TRAILタンパク質においては、これらの位置の残基は以下のとおりである:H125、F163、Y185、Q187、S232、D234、Y237、D203、Q205、L239、S241、E271およびF274。当業者であれば、例えば多重アライメントまたは構造アライメントにより、他のβシート多量体サイトカインタンパク質における同等位置を同定しうるであろう。このクラスにおける好ましい突然変異には、D203、Q205およびY237における突然変異が含まれる。好ましくは、これらの位置に導入される突然変異はD203I、Q205MおよびY237Fのうちの1以上である。より好ましくは、これらの突然変異のうちの2つ又は3つ全てが施される。
【0074】
これらの3つの突然変異を含む突然変異TRAILタンパク質は本明細書中ではM2と称される。M2の設計は、1つの単量体の残基203および205(D鎖)ならびに隣接単量体の残基237(F鎖)間の相互作用を安定化する疎水性クラスターを与える。Gln205およびTyr237は一緒になって分子間水素結合を形成し、Asp203は単量体-単量体境界内の間隙を向く。Ile(203)、Met(205)およびPhe(237)への突然変異はQ205-Y237水素結合を破壊するが、これらの残基の緊密な詰込みを促し、ファンデルワールス衝突の更なる増加を伴うことなく全TRAIL分子のファンデルワールス相互作用、疎水性および極性溶媒和エネルギーを改善する。
【0075】
好ましくは、三量体セットにおける突然変異は以下の位置の1以上において施されうる:227、230および240。TRAILタンパク質においては、これらの位置の残基は以下のとおりである:R227、C230およびY240。当業者であれば、他のβシート多量体サイトカインタンパク質における同等位置を同定しうるであろう。このクラスにおける好ましい突然変異はR227Mである。
【0076】
この突然変異を含む突然変異TRAILタンパク質は本明細書中ではM4と称される。突然変異体M4のArg 227残基は鎖E内に位置し、TRAIL三量体の縦軸に沿った中心位置に等距離で対向している。それらの3つのアルギニンは疎水性残基(Ile242)、極性残基(Ser241、Ser225)および芳香族残基(Tyr240、Tyr243)により包囲されている。これらのチロシンはヒドロキシル基をArg 227の反対側に向けていて、やや疎水性の腔を形成している。高濃度の正電荷は見かけ上は十分には相殺されていない。なぜなら、それはバックボーン(Ser241のカルボニル基)との水素結合を形成しているに過ぎないからである。したがって、Metへのこれらの位置の突然変異は、該疎水性環境を受け入れるための、および未相殺正電荷による単量体の反発を減少させるための助けとなりうるであろう。
【0077】
C230SとY240との組合せも好ましい。SerによるCys230の置換は亜鉛結合部位を除去し、それにより、不利な相互作用を導入する。第2の突然変異(Y240F)は不利な相互作用を除去して、熱安定性および生物活性を回復させる。
【0078】
好ましくは、種々雑多なセットにおける突然変異は以下の位置の1以上において施されうる:123、272、225、280、163、123および208。TRAILタンパク質においては、これらの位置における残基は以下のとおりである:A123、A272、S225、V280、F163、A123およびV208。当業者であれば、他のβシート多量体サイトカインタンパク質における同等位置を同定しうるであろう。このクラスにおける好ましい突然変異はS225Aである。
【0079】
この突然変異を含む突然変異TRAILタンパク質は本明細書中ではM3と称される。M3の残基225(S225A)は鎖E内に位置し、単量体形態では溶媒で露出される。しかし、三量体化後は、この位置は小さなポケット内に埋もれて、水素結合供与体Serの側鎖は未相殺のままとなる。Alaへの突然変異の後、該モデルのエネルギーは、側鎖エントロピーに加えて、極性および疎水性溶媒和エネルギーの両方に関して、野生型TRAILより良好となる。
【0080】
もう1つの好ましい突然変異βシート多量体サイトカインは、前記の突然変異の組合せ(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のそのような突然変異)を含むものである。そのような突然変異体の一例は、194、196および225位での突然変異が組合されたものである。TRAILタンパク質においては、これらの位置の残基はE194、I196およびS225である。好ましくは、導入される突然変異はE194I、I196SおよびS225Aである。これらの3つの突然変異を含有するTRAIL突然変異体が作製されており、本明細書中でC1と称される。
【0081】
前記突然変異は完全長サイトカイン配列内に導入されうる。しかし、好ましくは、前記突然変異はβシート多量体サイトカインの可溶性形態内に導入される。TRAILタンパク質に関しては、これらの突然変異が導入されうる好ましい可溶性鋳型は完全長TRAILタンパク質のアミノ酸114-281を含む。しかし、当業者に理解されるとおり、この鋳型内の変異はこの可溶性形態の特性を維持する可能性が非常に高く、該ポリペプチド配列内のこれらの境界のC末端および/またはN末端側に追加的残基が含まれる場合には生物活性を示す。例えば、適切にフォールディングして生物活性を示す該ポリペプチド断片の能力を損なうことなく、野生型サイトカイン配列または相同配列からの追加的な1、2、3、4、5、10、20または更には30またはそれ以上のアミノ酸残基がこれらの境界のC末端および/またはN末端側の片方または両方に含まれうる。同様に、生物活性を損なうことなく、C末端またはN末端の片方または両方において1または数個のアミノ酸残基(例えば、1、2、3、4、5、10またはそれ以上)が欠失した、この鋳型の末端切断型変異体も可能である。
【0082】
前記の方法は、例示目的として、典型例であるTRAILに適用したものである。この例は例示であり何ら限定的なものではないと理解されるであろう。該生物活性三量体の安定性を増強するために、TRAILの新規突然変異体を設計した。本明細書に記載の実施例から明らかなとおり、このアプローチを用いて、該βシートタンパク質の見掛け熱安定性を5℃以上向上させることに成功した。これは、実験的に試験されるこれらの突然変異体の生物活性の持続から明らかなとおり、全体的な構造特性の維持と相関する。例えば、73℃で1時間のインキュベーションの後で野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体の残存生物活性を測定したところ、野生型TRAILは〜20分後にほとんど熱不活性化されるが、TRAIL突然変異体M1、M2、M3およびC1は、有意に、改善された安定性を有することが示された。ここでは試験していないが、ある治療上興味深いタンパク質の場合に、熱安定性の改善はin vivo半減期の改善の指標ともなりうることが示されている(Luoら, Protein Sci. 11, 1218-1226 (2002); Filikovら, Protein Sci. 11,1452-1461 (2002))。さらに、熱安定性の増強はM1、M3およびC1の生物活性を損なわなかった。重要なことに、単一単量体内のCDループの安定化が三量体分子全体の安定化をもたらしたことが、本明細書中に示されている。
【0083】
前記のとおり、サイトカインのコグネイト受容体に対する該サイトカインの選択性/特異性を改変することが可能となれば望ましいであろう。本発明において本発明者らは、コンピューター(計算)による再設計を用いて、大きな多量体タンパク質構造体の受容体結合選択性/特異性の改変を初めて達成した。多量体全βシートタンパク質TRAILの受容体結合選択性を改変するために、適当な残基の手動操作および選択と共に、自動コンピューターアルゴリズムを使用した。
【0084】
したがって、本発明のこの態様は、標的受容体に対するβシート多量体サイトカインの選択性の改変のための方法を提供する。該方法は、
該受容体-結合境界に位置する該サイトカイン内のアミノ酸を突然変異の候補として同定し、
該サイトカインタンパク質に結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基を放棄し、
該受容体バックボーンと相互作用する残基を放棄し、
その標的受容体に対する該サイトカインタンパク質の結合アフィニティーの増強をもたらすよう、該サイトカインタンパク質内の1以上の残基のそれぞれを、該標的受容体との結合境界にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換することを含む。
【0085】
あるいは、該サイトカインタンパク質内の1以上の残基を、特定の標的受容体に対する該サイトカインタンパク質の結合アフィニティーを減少させるように置換残基で置換することが可能である。
【0086】
本発明はまた、前記方法論により入手した又は入手可能なβシート多量体サイトカインを提供する。
【0087】
本発明はまた、標的受容体に対する選択性を有するβシート多量体サイトカインを提供し、ここで、その標的受容体に対する該サイトカインタンパク質の結合アフィニティーおよび選択性/特異性の増強をもたらすよう、該受容体-結合境界に位置する該サイトカイン内の1以上のアミノ酸が、該標的受容体との結合境界にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換されており、ただし、これらは、該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基ではない。
【0088】
あるいは、本発明は、2以上の標的受容体に対する選択性を有するβシート多量体サイトカインを提供し、ここで、第1標的受容体に対する選択性は、該サイトカイン内の1以上のアミノ酸を、1以上の異なる標的受容体に対するアフィニティーを減少させるように置換残基で置換することにより得られ、ただし、これらは、該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基ではない。
【0089】
本明細書中で言及されている標的受容体はコグネイト受容体でありうる。
【0090】
前記のとおり、受容体に対する選択性の改変はサイトカインの分野において非常に興味深い。例えば、TNFリガンドファミリーメンバーはTNF受容体ファミリーの受容体に結合し、結合に際して、細胞内シグナリングカスケードが活性化される。細胞亜型が異なれば、それが有するTNF受容体ファミリー発現プロフィールも異なる。多数のTNFリガンドファミリーメンバーは2以上のタイプのTNF受容体ファミリーメンバータンパク質を介してシグナルを送り、該受容体および該細胞表面上のこれらの受容体の発現プロフィールに応じた様々の生物活性を引き起こしうる。タンパク質治療剤/診断剤の場合には、該受容体の1つを選択的に活性化(抑制)して、例えば細胞増殖活性と細胞死誘導活性とを差別化するのが有利かもしれない。前記の本発明の方法を用いることにより、大きな多量体分子の場合であっても今やこれが可能となった。さらに、改善された選択性/特異性は、治療剤変異体が、野生型サイトカインに関して必要となる濃度より低い濃度で投与されることを可能にするであろう。
【0091】
サイトカインのそのような選択的変異体はタンパク質治療剤または診断剤としての使用に有利である。なぜなら、それらは野生型構造に対する比較的よく似た類似性を示し、このことは免疫原性のリスクを減少させる。それらはまた、アゴニストまたはアンタゴニスト抗体と比較した場合にも利点を有する。抗体とは対照的に、変異体は大腸菌(Escherichia coli)内で産生されることが可能であり、シグナリングの様態は、野生型シグナリング様態に、より類似している。
【0092】
本発明のこの態様の方法においては、受容体に対する選択性が最も重要である。したがって、受容体に対するアフィニティーが、選択性/特異性における改善のために若干弱められることがある。
【0093】
本明細書に記載されているような方法を用いて、TRAILタンパク質の新規突然変異体を、その異なる膜受容体(DR4(TRAIL-R1)、DR5(TRAIL-R2)、DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4))へと選択性/特異性が変化するように設計した。前記のとおり、DR4(TRAIL-R1)およびDR5(TRAIL-R2)シグナリングの選択的誘導因子を得ることは、両方のデス(death)受容体の、異なる架橋要件のため、非常に興味深いことである。該架橋に応じて、該シグナリング経路は増殖性経路またはアポトーシス経路を誘導しうるであろう。
【0094】
結合活性および生物活性に重要な幾つかの残基はアラニンスキャニング突然変異誘発(Hymowitzら, Biochemistry. 2000 Feb 1; 39 (4):633-40)によりTRAILにおいて既に同定されているが、この研究において、本発明者らは、選択性のために決定的に重要な残基の同定に焦点を絞るだけでなく、選択性における最大の効果を得るためのこれらの位置における最良のアミノ酸置換を示唆している。本発明者らは、いくつかの残基が受容体結合および選択性に決定的に重要であることを示す。アラニンスキャニング突然変異誘発はこれらを同定し得ないであろう。これらの結果はまた、置換のために選択されるアミノ酸の選択が重要であることを証明している。
【0095】
この例は、本発明の方法が、大きな多量体βシートタンパク質にどのように適用されうるかの典型例として働く。当業者が認識するとおり、この研究に用いた方法は、TNFファミリーリガンドのような他の多量体サイトカインにも適用可能である。
【0096】
例えば、最近の重要な刊行物は、TRAIL-R3が、乳腫瘍細胞において、遺伝毒性薬ドキソルビシンの使用により、p53によりアップレギュレーションされることを示している(Ruiz de Almodovarら, J. Biol. Chem 6; 279 (6): 4093-101 (2003))。これは、野生型TRAILの有効性が抗腫瘍療法においては低下しうることを示唆している。なぜなら、それはデコイ受容体(これはアポトーシスを始動しない)にも結合するからである。したがって、改変した選択性/特異性を有する、TRAILの変異体は、アポトーシス促進性受容体DR4(TRAIL-R1)またはDR5(TRAIL-R2)に直結しうると考えられ、癌治療における最大限に改良された用途を有するであろう。
【0097】
該受容体-結合境界に位置するアミノ酸を同定するための方法は当技術分野で公知である。好ましくは、これは、多数の利用可能な系(システム)のいずれかを用いて、理想的には受容体との複合体形態のリガンドタンパク質の構造体の可視化により行われる。そのような系は、一般には、タンパク質構造を記載したデータ(例えば、Protein Data Bank(PDB)からの構造)を移入し、これを三次元イメージに変換するように設計される。タンパク質構造のイメージは、タンパク質構造内の各残基の位置を評価するためのタンパク質の構造の詳細な解析、およびどの残基が他の部分(例えば、受容体または単量体パートナー)との相互作用に関与しているかの評価を可能にする。選択される側鎖は、受容体と潜在的に相互作用するのに十分な程度に物理的に近いタンパク質リガンド内のものである。
【0098】
タンパク質構造が全く入手できない場合には、1以上の相同リガンドおよび受容体に関する構造情報が入手可能であると考えられ、それはホモロジーモデリングによる複合体の構築を可能にする。配列相同性が40%より高く、リガンドおよび受容体の結合領域内に挿入または欠失が見出されない場合に特に、これが当てはまる。例えば、DR5(TRAIL-R2)またはDR4(TRAIL-R1)へのTRAILタンパク質の選択性の改変の具体的な場合には、DR5(TRAIL-R2)受容体のエクトドメイン(ectodomain)と複合体化したTRAILの結晶モデルが入手可能である(PDB識別子1DU3)。“What If Homology Modeling web interface”(Vriend. WHAT IF: A molecular modeling and drug design program. J. Mol. Graph. (1990) 8, 52-56)(http://www.cmbi.kun.nl/gv/servers/WIWWWI/で入手可能)を使用して、3つの他の膜受容体(DR4(TRAIL-R1)、DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4))と複合体化したTRAILのモデルを得ることが可能である。これらの3つの受容体と複合体化したTRAILのPdbファイルは、Swiss-PdbViewer v3.7b2(Guex & Peitsch. SWISS-MODEL and the Swiss-PdbViewer: an environment for comparative protein modeling. Electrophoresis 18, 2714-2723 (1997))のようなプログラムを使用して、それらのバックボーン原子を受容体DR5(TRAIL-R2)の同一原子上に重ね合わせることにより作製されうる。最後に、作製されたPDBファイルから鋳型受容体DR5(TRAIL-R2)を除去する。
【0099】
前記のタンパク質安定化の方法と同様に、標的受容体内の保存残基位置と相互作用しない残基に該設計の焦点を絞るためにはアライメント情報を使用するのが有利であると考えられる。しかし、時には、保存残基の改変は該受容体に対する選択性の変化にもつながりうる。保存残基位置は、関心のあるタンパク質に結合する異なる受容体間で保存された残基を意味する。例えば、TNFリガンドファミリーTRAILは4つの異なる膜受容体(DR4(TRAIL-R1)、DR5(TRAIL-R2)、DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4))に結合する。それらの異なる受容体間で保存されている受容体結合境界内の残基は該リガンドタンパク質の結合に寄与すると考えられ、このことは、それらの改変が、有効なリガンド-受容体結合に必要な重要なリガンド-受容体相互作用を破壊する可能性が非常に高いことを意味する。同じ理由により、受容体バックボーンと相互作用すると予想されるいずれの残基も突然変異の候補には適していないと考えられる。
【0100】
前記のとおり、非保存残基の同定は、当業者に公知の多数の系のいずれかを用いて行われうるが、好ましくは、コンピューターにより実行されるアライメントアルゴリズム、例えばPSI-BLASTまたはClustalWが好ましい。
【0101】
したがって、該方法の組合せアプローチはファミリーアライメント情報およびコンピューター設計アルゴリズムを用いるものである。これは、調べられているタンパク質における各位置に関する配列スペース検索を軽減し、該方法論に必要な計算時間および労力を軽減する。この方法論は、タンパク質リガンドとその受容体との間で生じる相互作用の論理的設計を可能にする。種々の受容体に対するリガンドの結合境界の全体的な目視検査も行うべきであり、必要に応じて、いくつかの回転異性体を変更すべきである。
【0102】
該方法は、リガンドタンパク質における1以上の残基のそれぞれを、その受容体に対する結合アフィニティーの増加をもたらすよう、標的受容体との結合境界内にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換することを要する。この工程は、好ましくは、逆フォールディングを実行するPERLAのようなコンピューター設計アルゴリズムを使用して行う。簡潔に説明すると、このアルゴリズムは、固定されたバックボーン構造を回転異性体ライブラリーからのアミノ酸側鎖で装飾する。したがって、PERLAは、タンパク質リガンドとその受容体との予想される相互作用をモデル化するために、より良好な側鎖コンホメーションを探す回転異性体検索を行う。タンパク質構造における歪みの緩和は亜回転異性体(subrotamer)の作製を介して達成される。変性タンパク質を模擬するために、スコア関数のほとんどの項は参照状態に対して釣り合わされる。側鎖コンホーマーはすべて、平均場理論を用いて重み付けされ(weighted)、最終的に、モデル化構造(PDB座標)を有する候補配列が得られる。この方法論の一部として該モデル化構造のエネルギー評価も行わなければならない。これは、好ましくは、FOLD-X7または改良形態(例えば、http://fold-x.embl-heidelberg.deで入手可能なもの)のようなプログラムを使用して行う。FOLD-Xの力場モジュールは、該タンパク質の水素結合ネットワークおよび静電ネットワークに加えて、その原子接触地図、その原子および残基の接近可能性、バックボーン二面角のような構造特性を評価する。該タンパク質との2以上の水素結合を与える水分子の寄与も考慮する。ついでFOLD-Xはすべての力場成分、すなわち、極性および疎水性溶媒和エネルギー、ファンデルワールス相互作用、ファンデルワールス衝突、水素結合エネルギー、静電気ならびにバックボーンおよび側鎖エントロピーの計算へと進む。
【0103】
ついで、このプログラムを使用して、すべての可能なアミノ酸置換(好ましくは、グリシン、プロリンおよびシステイン以外)を、残部構造に適合したコンホメーション(側鎖回転異性体)で、該タンパク質リガンド内の選択された残基位置に導入する。グリシン、プロリンおよびシステインは、好ましくは除外される。なぜなら、GlyおよびProは、他のアミノ酸より比較的大きな影響をバックボーンコンホメーションに及ぼしうるからである(Glyはより柔軟であり、Proはそれほどでもない)。また、これらの残基は変性状態において、比較的大きな影響を及ぼす(Glyは高エントロピー、Proはより低い)。Cysも問題となることがあり、タンパク質においては一般に望ましくない不対状態であり、そのため、それらは凝集するなどの傾向がある。ついで、好ましい突然変異を自由エネルギー(kcal mol-1)の点で評価し、好ましくない突然変異(例えば、高いファンデルワールス衝突)を排除する。ついで配列および座標の出力を得、例えばFOLD-Xプログラムを使用して自由エネルギーに関してランク付けする。これらの予想のいくつかは、更なる実験解析に付されることなく、理論的エネルギー計算の直後に放棄されうる。残りのものを突然変異誘発研究に進める。このようにして、本発明のこの態様の方法は、該リガンドタンパク質内の1以上の残基を、その標的受容体に対する結合アフィニティーの増加をもたらすよう、標的受容体との結合境界内にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換する。
【0104】
好ましい突然変異は、もちろん、自由エネルギー(kcal mol-1)に関して組合わされ評価されうる。好ましくない組合せ(例えば、高いファンンデルワールス衝突)は排除すべきである。
【0105】
必要に応じて、設計プロセスの後で、更なる設計ラウンドのために、配列および座標の出力を設計アルゴリズムに再導入することが可能である。第2、第3、第4、第5またはそれ以降の設計ラウンドを用いることが可能である。
【0106】
好ましくは、本発明のこの態様の方法は多量体βシートサイトカインに適用されうる。そのようなサイトカインの具体例を表6に記載する。他の具体例は当業者に公知である。
【0107】
本発明の方法論の適用に関して特に興味深いのは、腫瘍壊死因子リガンドファミリーのメンバーであるβシート多量体サイトカインである。このファミリーに属するリガンドは、細胞増殖からアポトーシスに及ぶ広範な生物活性に関与しており、それらは、類似した構造特性を有する。
【0108】
本発明のもう1つの態様においては、特定の標的受容体に対するアフィニティーを改変するよう改変された配列を有するβシート多量体サイトカインを提供する。
【0109】
したがって、本発明の1つの態様は、これらの位置の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または全12個において突然変異したサイトカインに関する。好ましくは、そのようなサイトカインはTNFリガンドファミリーのメンバーである。より好ましくは、そのようなサイトカインはTRAIL(本明細書中では配列番号1)である。本明細書に記載のTRAILタンパク質配列におけるアミノ酸位置および特定のTRIAL突然変異体に対するすべての言及は、配列番号1に示すアミノ酸配列に基づくものであると意図される。好ましくは、TRAIL配列は、DR4(TRAIL-R1)またはDR5(TRAIL-R2)受容体に対するアフィニティーおよび/または選択性を改変するように改変される。
【0110】
TRAILにおける突然変異のための適当な残基の具体例は以下の位置におけるものである:131、269、130、160、218、220、149、155、214、195、191および267。
【0111】
当業者により同定される同等残基(結晶構造情報を目視により又は分子モデリングの使用により比較した場合)が他のβシート多量体サイトカイン(好ましくは、TNFファミリーのサイトカイン)において突然変異されうるであろう。
【0112】
特定のタイプの残基での前記の位置における同等置換が好ましい。例えば、131位における好ましい突然変異はArgへの突然変異である。269位における好ましい突然変異はHis、LysまたはArgへの突然変異である。130位における好ましい突然変異はGluへの突然変異である。160位における好ましい突然変異はLysおよびMetへの突然変異である。218位における好ましい突然変異はArg、Tyr、Glu、Phe、LysまたはHisへの突然変異である。220位における好ましい突然変異はMetまたはHisへの突然変異である。149位における好ましい突然変異はAspまたはHisへの突然変異である。155位における好ましい突然変異はMetへの突然変異である。214位における好ましい突然変異はArgへの突然変異である。195位における好ましい突然変異はArgへの突然変異である。191位における好ましい突然変異はGluへの突然変異である。267位における好ましい突然変異はArgへの突然変異である。
【0113】
TRAILタンパク質においては、好ましい突然変異はG131R、D269H、D269K、D269R、R130E、G160K、D218R、G160M、D218Y、D218E、D218K、D218H、I220M、I220H、R149D、R149H、D218F、E155M、T214R、E195R、R191EおよびD267Rである。特に好ましいTRAIL突然変異体はG160M、D269H、D218Y、R130EおよびI220Mである。特に、G160M、D269H、D269K、D269R、T214RおよびE195R突然変異体が好ましい。なぜなら、これらはデス受容体5に対して優れた選択性を有することが本明細書中に示されているからである。
【0114】
DR4とDR5(TRAIL-R2)との間の識別を伴わない受容体結合に関してTRAILにおいて同定されたいくつかの決定的に重要な残基はIle 220、Arg 149、Glu 155、Gly 160およびAsp 218であると同定されている。I220HおよびI220M突然変異体は共にDR4結合を著しく増強し、DR5結合には影響を及ぼさない。R149D突然変異体はDR4およびDR5受容体の両方への結合を減弱し、一方、R149HおよびD218R突然変異体はこれらの受容体のいずれへの結合にも影響を及ぼさない。E155突然変異体はDR4およびDR5受容体の両方への結合を著しく減弱し、D218FおよびD218Y突然変異体も、低度ではあるもののアフィニティーを減弱する。さらに、D218Y突然変異体は、DR4アフィニティーの場合より大きな、DR5アフィニティーにおける減弱を示す。野生型TRAILは、DR5に対しては、DR4に対してより高いアフィニティーを有するが、この優位性は該突然変異体においては失われ、D218Y突然変異の全体的な効果は、選択性をDR4(TRAILR1)へと変化させることにある。同様に、D218K、D218R、D218EおよびD218H突然変異体はDR4(TRAIL-R1)に対して優れた選択性を有する。
【0115】
また、同じ位置における異なるアミノ酸置換は受容体結合に対して異なる影響を及ぼしうることが示されている。DR4(TRAIL-R1)とDR5(TRAIL-R2)との間で受容体結合アフィニティーの減少が異なるため受容体選択性に決定的に重要であるいくつかの位置がArg 130、Gly 131およびAsp 269として同定されている。R130EおよびG131R突然変異体はDR4への結合を減弱するが、DR5への結合の減弱は僅かであるに過ぎない。これとは対照的に、D269H突然変異体はDR4への結合を著しく減弱する。初期実験は、D269H突然変異体が、DR5への結合に、観察されうる影響を及ぼさないことを示している。尤も、より最近の実験は、実際にはこの突然変異体はDR5への結合を有意に増強することを証明している。同じ受容体結合優先性が変異体D269KおよびD269Rにより示されている。
【0116】
当業者であれば、例えば多重アライメントプログラムまたは関連配列もしくは構造の手動検査を用いて、他のβシート多量体サイトカインタンパク質における同等位置を同定しうるであろう。
【0117】
好ましくは、受容体に対するアフィニティーは、DR4(TRAIL-R1)またはDR5(TRAIL-R2)に対しては、デコイ受容体DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4)に対するアフィニティーに比べて改善される。より詳しくは、DR5(TRAIL-R2)受容体に対するアフィニティーは、DR4(TRAIL-R1)に対するアフィニティーに比べて改善される。あるいは、DR4(TRAIL-R1)受容体に対するアフィニティーは、DR5(TRAIL-R2)に対するアフィニティーに比べて改善される。
【0118】
前記突然変異は完全長サイトカイン配列内に導入されうる。しかし、好ましくは、前記突然変異はβシート多量体サイトカインの可溶性形態内に導入される。TRAILタンパク質に関しては、これらの突然変異が導入されうる好ましい可溶性鋳型はアミノ酸114-281を含む。他のサイトカインの同等な可溶性形態は当業者に明らかであろう。しかし、当業者に理解されるとおり、この鋳型内の変異はこの可溶性形態の特性を維持する可能性が非常に高く、該ポリペプチド配列内のこれらの境界のC末端および/またはN末端側に追加的残基が含まれる場合には生物活性を示す。例えば、適切にフォールディングして生物活性を示す該ポリペプチド断片の能力を損なうことなく、野生型サイトカイン配列または相同配列からの追加的な1、2、3、4、5、10、20または更には30またはそれ以上のアミノ酸残基がこれらの境界のC末端および/またはN末端側の片方または両方に含まれうる。同様に、生物活性を損なうことなく、C末端またはN末端の片方または両方において1または数個のアミノ酸残基(例えば、1、2、3、4、5、10またはそれ以上)が欠失した、この鋳型の末端切断型変異体も可能である。
【0119】
多量体βシートサイトカイン分子の選択性の改変のための本明細書に記載の方法は組合されうる、と当業者は理解するであろう(特に、増強された選択性を有する変異体を与える、選択性/特異性突然変異の組合せ)。例えば、改変された選択性/特異性を有する変異体は、増強された選択性/特異性を有する変異体と組合されうる。好ましくは、組合せ突然変異の位置は、それらがお互いとの予想されうるいずれの相互作用をも引き起こし得ないのに十分な程度にお互いから遠く離れている。したがって、両方の突然変異は、独立して、選択性に寄与しうる。
【0120】
受容体選択的/特異的突然変異のそのような組合せおよびそれらがコードする変異体は、本発明の特定の態様として含まれる。そのような分子の具体例には、増強された選択性/特異性を有する変異体を与える、D269H、E195R、T214R、D267R、D269K、D269RおよびR191E選択性/特異性突然変異体の1以上の組合せが含まれる。特に好ましい具体例は、R191ED267R変異体を与える、R191E突然変異とD267R突然変異との組合せである。
【0121】
前記の方法は、例示目的として、典型例であるTRAILに適用したものである。この例は例示であり何ら限定的なものではないと理解されるであろう。受容体DR5(TRAIL-R2)への結合と比べて受容体DR4(TRAIL-R1)への結合を増強するために、TRAILの新規突然変異体を設計した。例えば、治療剤としての用途の場合、この選択性/特異性は、該変異体が、野生型TRAILに関して使用される濃度より低い濃度で投与されることを可能にするであろう。
【0122】
多量体βシートサイトカイン分子の安定化のための本明細書に記載の方法および多量体βシートサイトカイン分子の選択性の改変のための本明細書に記載の方法は組合されうる、と当業者は理解するであろう。
【0123】
特に、前記の安定性変異体間の組合せにより、増強された安定性および改変された選択性/特異性を有する変異体を得ることが可能である。安定かつ受容体選択的/特異的なサイトカイン分子のそのような組合せは、本発明の特定の態様として含まれる。そのような分子の具体例には、増強された安定性と改変された選択性/特異性とを有する変異体を与える、D269H、E195R、T214R、D269HE195R、D269HT214R、D269K、D269R、R191ED267R、G160M、D218Y、D218H、D218K、D218R、R130EおよびI220M選択性/特異性突然変異体の1以上と組合されたTRAIL M1、M2、M3およびC1突然変異体のいずれかが含まれる。特に好ましい一例は、選択的かつ安定な変異体であるD269HM1であり、これは、DR5(TRAIL-R2)に対する、増強された選択性/特異性を有し、野生型TRAILに比べて増強された安定性を有する。
【0124】
大部分はコンピューター(計算)による前記アプローチを補足するためには、通常の実験方法を用いることが可能である。例えば、アミノ酸置換を同定したら、これらの置換を、部位特異的突然変異誘発を用いて実験的に生成させ、ついで安定性または選択性/特異性に関して及び生物活性の保有に関して試験すべきである。より特異的な治療用リード分子を開発するためには、分子進化の通常の技術を用いて、同定された分子を更に突然変異させることが可能である。分子進化の場合には、1つの特に有用な技術はファージディスプレイであり、これは、有効なバイオパンニング法と組合された場合および論理的設計法と組合された場合には、新規治療剤の迅速な分子進化をもたらすはずである。
【0125】
本発明はまた、前記の突然変異βシートサイトカインをコードする精製された核酸分子を提供する。本発明の他の態様は、そのような核酸分子を含有するベクター、例えば発現ベクター、およびこれらのベクターで形質転換された宿主細胞を含む。
【0126】
もう1つの態様においては、本発明は、サイトカインが関与している疾患の治療または診断における使用のための、前記の本発明の態様のいずれかに従う方法により改変された配列を有するβシート多量体サイトカイン、またはそのような分子をコードする核酸分子、または前記核酸分子を含有するベクターを提供する。本発明のこの態様は、前記のサイトカイン、核酸またはベクターを、治療上許容される量で患者に投与することを含んでなる、そのような疾患の治療方法を含む。また、そのような分子は、例えば、患者からの組織における遺伝子またはタンパク質(例えば、過剰発現タンパク質)の発現または活性のレベルを評価し、その発現または活性のレベルを対照レベルと比較することによる診断において使用することも可能であり、この場合、該対照レベルと異なるレベルが疾患の指標となる。
【0127】
本発明のもう1つの態様は、前記の突然変異サイトカイン、核酸またはベクターと製薬上許容される担体とを含む医薬組成物を含みうる。
【0128】
本発明の更にもう1つの態様は、前記の突然変異サイトカインを発現するように形質転換されたトランスジェニックまたはノックアウト非ヒト動物を含みうる。そのようなトランスジェニック動物は疾患の研究のための有用なモデルとなり、疾患の治療または診断に有効な化合物の同定のためのスクリーニング法においても使用されうる。
【0129】
重要なことに、突然変異サイトカイン分子(例えば、前記のもの)の作製は、これらのサイトカインが関与している疾患の治療および/または診断において有効な化合物を同定しうるスクリーニング法の設計を可能にする。これらの分子の相互作用性ドメインは、癌および他の慢性疾患(自己免疫疾患を含む)のモジュレーションに関連したシグナリング経路を始動させる本質的傾向を有し、薬物設計(ドラッグデザイン)の出発点となる。そのようなスクリーニング法は本発明の態様として含まれる。
【0130】
つぎに、本発明の種々の態様および実施形態を、実施例により、より詳しく説明する。本発明の範囲から逸脱することなく細部の修飾が施されうると理解されるであろう。
【0131】
図面の簡潔な説明
図1.A)TRAIL三量体複合体の側面図であり、3つの単量体が赤、青および緑で示されている。B)同じ複合体の平面図であるが、縦軸に沿って眺めたものであり、設計に使用する種々のセットが示されている。構造図は、MOLMOL(Koradiら, J. Mol. Graph. 14,51-32(1996))を使用して作成した。
【0132】
図2.DR5(TRAIL-R2)(・・・)およびDR4(TRAIL-R1)(―)受容体への野生型TRAIL(黒丸)、M1(黒正方形)およびM2(白丸)の結合。
【0133】
図3.野生型TRAIL(白丸)、M1(黒丸)、M2(白丸)、M3(白正方形)およびC1(黒三角)の熱変性プロフィール。
【0134】
図4.73℃で60分間の野生型TRAIL(白丸)、M1(黒丸)、M2(白丸)、M3(白正方形)およびC1(黒三角)の安定性。
【0135】
図5.73℃で60分間のインキュベーション後の野生型TRAIL、M1、M3およびC1(左から右)の残存生物活性。
【0136】
図6.A)残基194および196周辺の局所環境の野生型TRAILおよびM1の比較。B)野生型TRAILおよびM2の比較。それらの2つの隣接単量体のバックボーンがそれぞれ緑および青で示されており、DR5(TRAIL-R2)受容体のバックボーンが灰色で示されている。水素結合相互作用は緑色破線で示されている。
【0137】
図7.DR5(TRAIL-R2)結合に対する割合としての受容体結合。
【0138】
図8.DR4(TRAIL-R1)結合に対する割合としての受容体結合。
【0139】
図9.D269Hの細胞傷害性能 - アネキシン(Annexin)V染色。
【0140】
図10.D269HのTRAIL受容体特異的殺傷の試験 - アネキシン(Annexin)V染色。
【0141】
図11.D269HによるDR5(TRAIL-R2)選択的殺傷 - アネキシン(Annexin)V染色。
【0142】
図12.D269HおよびTRAILは、比較しうる細胞傷害性能を有する。A.TRAILおよびD269Hで2時間処理された細胞。(B)このグラフは2つの独立した実験の代表例を示す。
【0143】
図13.DR5の中和は、D269Hにより誘導される細胞死を阻止できたが、DR4の中和はそれを阻止できなかった。
【0144】
図14.60nMの濃度における精製野生型TRAIL(wt1)および種々の精製突然変異体の、DR4(TRAIL-R1)FcおよびDR5(TRAIL-R2)Fcへの受容体結合。
【0145】
図15.パネルAおよびB:DR5(TRAIL-R2)Fcへの結合;パネルCおよびD:DR4(TRAIL-R1)Fcへの結合。野生型TRAIL:正方形(白);D269H:丸(黒);D269HT214R:三角(上向きの白);D269K:菱形(黒);D269R:菱形(白);D269HE195R:三角(下向きの白)。
【0146】
図16.パネルA:DR5(TRAIL-r2)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびR191ED267Rの結合。パネルB:DR4(TRAIL-R1)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびR191ED267Rの結合。パネルC:DR4(TRAIL-R1)FcおよびDR5(TRAIL-R2)FcへのD218Yの結合。
【0147】
図17:競合ELISA。パネルAおよびB:DR5(TRAIL-R2)Fcでの滴定(阻止)。パネルCおよびD:DR4(TRAIL-R1)Fcでの滴定(阻止)。野生型TRAIL:正方形(白);D269H:丸(黒);D269HT214R:三角(上向きの白);D269K:菱形(黒);D269R:菱形(白);D269HE195R:三角(下向きの白)。
【0148】
図18:パネルA:DcR1(TRAIL-R3)Fcへの野生型TRAILおよびD269Hの受容体結合。パネルB:競合ELISA。DcR1(TRAIL-R3)Fcでの滴定。野生型TRAIL:正方形(白);D269H:丸(黒);D269HT214R:三角(上向きの白);D269HE195R:三角(下向きの白)。
【0149】
図19.パネルA:野生型TRAILおよびD269H、D269HE195RおよびD269HT214R突然変異体によるColo205細胞におけるアポトーシスの誘導、ならびに中和抗DR4および抗DR5抗体でのアポトーシスの阻止。パネルB:野生型TRAILおよびD269H、D269HE195RおよびD269HT214R突然変異体によるML-1細胞におけるアポトーシスの誘導、ならびに中和抗DR4および/または抗DR5抗体の添加による、アポトーシスの阻止。
【0150】
図20.A:2つの単量体単位(第3の単量体はこの受容体-結合境界には関与せず、これらの2つの単量体の背後に位置する;受容体はそれらの前方で結合する。該境界が良く見えるよう、受容体は取り除かれている)により形成されるTRAIL受容体-結合境界の側面図。ファンデルワールス半径で修飾して描かれているTRAIL残基は、in silico突然変異誘発スキャニングのための選択された残基であった。B:269位における一重突然変異体のTRAIL-受容体結合アフィニティーにおける最も有意な予想される変化。D269Eは比較のために加えられている。C:218位における一重突然変異体のTRAIL-受容体結合アフィニティーにおける最も有意な予想される変化。D:214位における一重突然変異のTRAIL-受容体結合アフィニティーにおける予想される変化(パネルB〜D:予想される変化は、PERLAおよびFold-Xを使用して計算されたものである)。
【0151】
図21:パネルA:DR5(TRAIL-R2)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびD269HM1の結合。パネルB:DR4(TRAIL-R1)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびD269HM1の結合。パネルC:73℃で50分間のインキュベーション後の野生型TRAIL(wt)およびD269HM1の残存生物活性。生物活性は、0分の時点で観察された値に対して計算されたものである。
【0152】
実施例
【実施例1】
【0153】
安定なTRAILタンパク質
方法
すべての試薬は、特に示さない限り、分析等級のものであった。イソプロピル-β-D-1-チオガラクトシド(IPTG)、アンピシリンおよびジチオトレイトール(DTT)はDuchefaからのものであった。クロマトグラフィーカラムおよび媒体はAmersham Biosciencesからのものであった。使用した制限酵素はNew England Biolabsから購入した。
【0154】
すべての他の化成品はSigmaからのものであった。
【0155】
突然変異体のコンピューター(計算)による設計
タンパク質設計アルゴリズムPERLAの詳細な説明は他で入手可能であり(Lacroix, E. Protein design: a computer based approach, Ph. D. thesis. (U. Libre de Bruxelles, 1999))(http://ProteinDesign. EMBL-Heidelberg. DE)、その使用は既に記載されている(例えば、Venturaら, Nat. Struct. Biol. 9,485-493 (2002)を参照されたい)。TRAILのようなオリゴマータンパク質の場合には、PERLAでのタンパク質設計は以下の工程を要する。第1に、隣接単量体との特異的相互作用を確立しうる単量体の残基を同定し選択しなければならない。第2に、該アルゴリズムにより導入された新たな残基を受け入れるのに必要な側鎖移動を可能にするためには、突然変異させるべき残基と接触する側鎖を同定しなければならない。PERLAは、Cα-Cαの距離およびCα-Cβベクトル間の角度を考慮する幾何学的アプローチに基づき、これらの残基を自動的に選択する。第3に、該アルゴリズムは、TNFリガンドファミリーの多重配列アライメントにおける天然アミノ酸のセットから選択された各位置にアミノ酸レパートリーを配置し、該構造の残部に適合しない側鎖コンホメーションおよびアミノ酸を除外する。第4に、それほど好ましくない組合せを排除するために、すべての可能なペアワイズ(pair-wise)相互作用を調べる。最後に、最良算出解(エネルギーに関するもの)に対応する配列およびPDB座標の出力を得る。該突然変異を含有する得られたPDBファイルを次いで、Swiss-PdbViewer v3.7b2(Guex & Peitsch; Electrophoresis 18,2714-2723 (1997))において実行されるGROMOS 43B1を使用してエネルギー最小化に付し、FOLD-X(http://fold-x.embl-heidelberg.de)により評価した。該モデルの最終エネルギーを、参照体である野生型TRAIL構造と比較し、??G(kcal mol-1)として表す。
【0156】
クローニングおよびPCR
ヒト可溶性TRAIL(aa114-281)に対応するcDNAを、NcoIおよびBamHI制限部位を使用してpET15B(Novagen)内にクローニングした。したがって、Hisタグおよびプロテアーゼ認識部位をコードするN末端配列を除去した。Quick Change Method(Stratagene)またはメガプライマー変法(Picardら, Nucleic Acids Res. 22,2587-2591 (1994))を用いるPCRにより突然変異体を構築した。使用したポリメラーゼは、Stratageneにより供給されたPfu Turboであった。精製された突然変異誘発性オリゴヌクレオチドはInvitorogenから入手した。突然変異の導入はDNA配列決定により確認した。
【0157】
野生型TRAILおよび突然変異体の発現および精製
野生型TRAILおよびTRAIL突然変異構築物を大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)(Invitrogen)内に形質転換した。4×LB培地、1% (w/v)グルコース、100μg/ml アンピシリンおよび追加的な微量元素を使用して、野生型TRAILおよびM1を、7.5リットル発酵槽(Applicon)中、5リットルバッチの規模で増殖させた。該培養を30% 酸素飽和、37℃で中期対数期まで成長させ、ついで1mM IPTGで誘導した。三量体形成を促進するために、ZnSO4を100μMの濃度で加えた。温度を28℃に低下させ、該培養を定常期まで成長させた。同様のプロトコールを用いて、他の突然変異体を振とうフラスコ中、1リットル規模で250rpmで成長させた。該培養がOD600 0.5に達したらタンパク質発現を誘導し、誘導を5時間継続した。この場合、使用した培地は、追加的な微量元素を含有しない2×LBであった。
【0158】
単離されたペレットを3容量の抽出バッファー(PBS pH 8, 10% (v/v)グリセロール, 7mM β-メルカプト-エタノール)に再懸濁させた。細胞を超音波により破壊し、抽出物を40,000gでの遠心分離により清澄化した。ついで上清をニッケル充填IMAC Sepharose高流速(fast-flow)カラムにローディングし、野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体を、以下の修飾を伴うHymowitzら, Biochemistry 39,633-640 (2000)に記載の方法により精製した。すなわち、全バッファー中で10% (v/v)グリセロールおよび最小濃度の100mM NaClを使用した。これは精製中の凝集を防いだ。IMAC分画工程後、20μM ZnSO4および(β-メルカプト-エタノールではなく)5mM DTTを全バッファーに加えた。最後に、Hiload Superdex 75カラムを使用するゲル濾過工程を行った。精製されたタンパク質は、コロイドクーマシーブリリアントブルー染色SDS-PAGEゲルを使用する測定で98%を超える純度を有していた。精製タンパク質溶液を液体窒素中で急速冷凍し、-80℃で保存した。
【0159】
CD分光法
PFD350S Peltier温度制御ユニット(Jasco Inc.)を備えたJasco J-715 CD分光光度計(Jasco Inc.)でCDスペクトルを記録した。光路長0.2cmの長方形石英キュベットを使用した。タンパク質サンプルをPBS(pH 7.3)に対して透析し、100μg/mlの最終濃度に調節した。0.2nmのステップサイズおよび1nmのバンド幅を用いて25℃で250〜205nmの波長スペクトルを記録した。25〜98℃の温度スキャンを222nmで40℃/時間のスキャン速度で行った。熱減衰測定を73℃、222nmで1時間行った。
【0160】
TRAIL突然変異体のin vitro生物活性
生存度アッセイを製造業者の説明(Celltiter Aqueous One, Promega)に従い用いて、野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体の生物活性を測定した。Colo205ヒト結腸癌細胞(ATCC番号CCL-222)を、10% 熱不活化ウシ胎児血清および100単位/ml ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するRPMI 1640 Glutamax内で培養した。すべての試薬はInvitrogenにより供給されたものである。野生型TRAILまたはTRAIL突然変異体の濃度系列を細胞培養培地内で調製した。50μlの各希釈液を96ウェル組織培養マイクロプレート(Greiner)に加え、100μlの細胞懸濁液を1×104細胞/ウェルの最終細胞数まで加えた。5% CO2を含有する湿潤雰囲気下、混合物を37℃で16時間インキュベートした。ついで20μlのMTS試薬を加えた。30分間のインキュベーションの後、490nmで吸光度を測定することにより細胞生存度を測定した。
【0161】
受容体結合
表面プラズモン共鳴に基づくバイオセンサーBiacore 3000(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を使用して、25℃で結合実験を行った。組換え受容体はR&Dシステムズ (R&D systems, Minneapolis, MN, USA)から取り寄せた。Biacore CM5センサーチップのセンサー表面上での該受容体の固定化を、製造業者の説明に従い標準的なアミンカップリング法により行った。参照表面を、受容体注入を行わなかったこと以外は同一の条件下で同時に作製し、装置およびバッファーアーチファクトに関して補正するためのブランクとして使用した。精製された野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体を2μg/mlの濃度および20μl/分の流速で二重(two-fold)に注入した。該受容体へのリガンドの結合をリアルタイムでモニターした。3M 酢酸ナトリウム(pH 5.2)の注入により、受容体/センサー表面を再生させた。
【0162】
コンピューターによるスクリーニング
生物活性三量体の安定性を増強するために、TRAILの新規突然変異体を設計した。予測は、前記のとおり、自動コンピューターアルゴリズムPERLAに基づくものであった。簡潔に説明すると、該プログラムは厳密な逆フォールディングを行う。固定されたバックボーン構造は回転異性体ライブラリーからのアミノ酸側鎖で装飾される。タンパク質構造における歪みの緩和は亜回転異性体(subrotamer)の作製を介して達成される。変性タンパク質を模擬するために、スコア関数のほとんどの項は参照状態に対して釣り合わされる。側鎖コンホーマーはすべて、平均場理論を用いて重み付けされ(weighted)、最終的に、モデル化構造(PDB座標)を有する候補配列が得られる。モデル化構造のエネルギー評価は、FOLD-Xの修飾形態(Schymkowitz, J., Borg, J. , Rousseau, F. & Serrano, L,“manuscript in preparation”)(http://fold-x.embl-heidelberg.deで入手可能)により行った。FOLD-Xの力場モジュールは、該タンパク質の水素結合ネットワークおよび静電ネットワークに加えて、その原子接触地図、その原子および残基の接近可能性ならびにバックボーン二面角のような構造特性を評価する。該タンパク質との2以上の水素結合を与える水分子の寄与も考慮する。ついでFOLD-Xはすべての力場成分、すなわち、極性および疎水性溶媒和エネルギー、ファンデルワールス相互作用、ファンデルワールス衝突(clash)、水素結合エネルギー、静電気ならびにバックボーンおよび側鎖エントロピーの計算へと進む。
【0163】
鋳型配列の選択
選択した鋳型は1DU3(Chaら, J. Biol. Chem. 275,31171-31177 (2000))であった。2.2オングストロームの分解能の結晶構造は、DR5(TRAIL-R2)受容体のエクトドメイン(ectodomain)と複合体化したヒトTRAILの三量体構造を含有する。該TRAIL単量体は、受容体結合にも単量体-単量体相互作用にも関与しない外部フレキシブルループ(130-146)を欠く。該分子を完成させるために、このループの原子座標を有する、DR5(TRAIL-R2)受容体と複合体化した単量体TRAILである1D4V(2.2オングストローム)の構造(Mongkolsapayaら, Nat. Struct. Biol. 6,1048-1053 (1999))を使用して、このループをモデル化した。最終的に、該受容体分子を該PDBファイルから取り出すことにより、該TRAIL分子を単離した。
【0164】
突然変異体のコンピューター設計
TRAILの単離された単量体、単量体-単量体境界および中心コアの目視検査は突然変異誘発のための潜在的候補としていくつかの残基を示した。高度に保存された疎水性残基、および受容体結合に関与する残基を、この一覧から放棄した。これらの残基を突然変異させると、該受容体との相互作用が損なわれうるであろう。しかし、予想される有意な安定性増強を示したが、受容体相互作用に関与する残基をも含有していた1つのTRAIL変異体(M2)は、後続の実験解析のために確保した。
【0165】
TNFリガンドファミリーに属するタンパク質の多重配列アライメントにおける天然アミノ酸を調べて計算時間を減少させ、ついで非保存残基に焦点を絞ることにより、各位置に関する配列スペース検索を単純化することが可能である。タンパク質の論理的設計および力場アルゴリズム(PERLA、FOLD-X)の使用は、TRAILの安定性に潜在的に関連した突然変異体配列の一覧の同定を可能にした。以下の4つのセットの残基を設計のために選択した(図1bおよび表1):(1)該単量体の表面の非保存残基(「単量体」セット)、(2)2つの単量体の間の境界に近い位置の近傍の非保存残基(「二量体」セット)、(3)三量体中心軸に沿った非保存残基(「三量体」セット)、および(4)種々雑多なセット(「種々雑多なセット」)。自動コンピューターアルゴリズムPERLAを、既に記載されているとおり(Angrandら, Biomol. Eng 18,125-134 (2001))に適用した。アミノ酸置換を、残部構造に適合したコンホメーション(側鎖回転異性体)で、該非保存残基位置に導入した。ついで、好ましい突然変異を組合せ、自由エネルギー(kcal mol-1)の点で評価し、好ましくない組合せ(例えば、高いファンデルワールス衝突)を排除した。配列および座標の出力を得、FOLD-Xプログラムを使用して自由エネルギーに関してランク付けし、ついで、必要に応じて、第2、第3または第4ラウンドの設計のための設計アルゴリズム内に再導入した。表1は、TRAILの安定性の増強に関してin silicoでアッセイした突然変異体の一覧を要約する。これらの予測のいくつかは、更なる実験解析を行うことなく理論的エネルギー計算の直後に放棄した。
【0166】
結果
被検突然変異の説明
予想された突然変異体をエネルギー最小化に付し、ついでFOLD-Xで解析した。得られたエネルギー値を野生型構造のものと比較し、候補の識別のために使用した。野生型TRAILと比べた場合の自由エネルギーの改善に基づき、突然変異体を選択した(表2)。単量体セットにおいては、野生型TRAILと比べて大きなエネルギーの改善が認められたことに基づき(ΔΔG = -9.7 kcal mol-1単量体-1)、M1(E194I、I196S)を選択した。この高いエネルギー値は、突然変異に際して除去される、結晶構造内の有意なファンデルワールス衝突の存在(〜5kcal mol-1 単量体-1)に加えて、三量体が調べられていることによるものである。該突然変異は、該サイトカインのCおよびD逆平行β鎖を接続する外部ループ(CDループ)(Eck(Eckら, J. Biol. Chem. 267,2119-2122 (1992))の表記による)に位置する。Glu194は疎水性基(Trp 231, Phe 192, Ala 235)により包囲されており、該カルボキシル基は未相殺であることに基づいて、M1の安定性における予想される増強が説明されうる。Glu194からIleへの突然変異は、荷電残基を中等度サイズの疎水性残基で置換することにより、この状況を矯正する。逆に、Ile196は極性残基(Asn 202, Lys 233)により包囲され、バックボーンに非常に接近していて、生じうるワンデルワールス衝突を引き起こす。Serへの突然変異は衝突を回避させ、CDループの反対部分に位置するAsn 202への水素結合の形成を可能にする(図6a)。どちらの突然変異も、側鎖およびバックボーンエントロピーの改善に加えて、極性溶媒和エネルギーを改善する。
【0167】
二量体セット(表2)においては、M2(D203I, Q205M, Y237F)の設計は、1つの単量体の残基203および205(D鎖)ならびに隣接単量体の残基237(F鎖)間の相互作用を安定化する疎水性クラスターの生成を招く。Gln205およびTyr237は一緒になって分子間水素結合を形成し、Asp203は単量体-単量体境界内の間隙を向く。Ile(203)、Met(205)およびPhe(237)への突然変異はQ205-Y237水素結合を破壊するが、これらの残基の緊密な詰込みを促し、ファンデルワールス衝突の更なる増加を伴うことなく全TRAIL分子のファンデルワールス相互作用、疎水性および極性溶媒和エネルギーを改善する(図6b)。FOLD-Xは、DR5(TRAIL-R2)受容体に対するM2のアフィニティーが、野生型TRAILに対するものより低いこと(ΔΔG結合 = 7.3 kcal mol-1 単量体-1)を予想したが、該方法の精度を評価するための対照としてこの突然変異体を確保した。
【0168】
「種々雑多なセット」に属するM3の残基225(S225A)は鎖E内に位置し、単量体形態では溶媒で露出される。しかし、三量体化後は、この位置は小さなポケット内に埋もれて、水素結合供与体Serの側鎖は未相殺のままとなる。Alaへの突然変異の後、該モデルのエネルギーは、側鎖エントロピーに加えて、極性および疎水性溶媒和エネルギーの両方に関して、野生型TRAILより良好となる。
【0169】
三量体セットの突然変異体(M4)のArg 227残基は鎖E内に位置し、TRAIL三量体の縦軸に沿った中心位置に等距離で対向している。それらの3つのアルギニンは疎水性残基(Ile242)、極性残基(Ser241、Ser225)および芳香族残基(Tyr240、Tyr243)により包囲されている。これらのチロシンは該ヒドロキシル基をArg 227の反対側に向けていて、やや疎水性の腔を形成している。高濃度の正電荷は見かけ上は十分には相殺されていない。なぜなら、それはバックボーン(Ser241のカルボニル基)との水素結合を形成しているに過ぎないからである。したがって、Metへのこれらの位置の突然変異は、該疎水性環境を受け入れるための、および未相殺正電荷による単量体の反発を減少させるための助けとなりうるであろう。
【0170】
突然変異体の突然変異誘発および精製
最高ランク付けの突然変異体M1およびM2を、M3およびM4と共に、更なる実験解析のために選択した(表2)。M1とM3との突然変異を併せ持つ突然変異体(C1)も構築した。設計したTRAIL突然変異体のすべてを大腸菌(E. coli)内で発現させ、それらは0.7以下〜2mg/lのタンパク質収量で成功裏に精製された。遠UV CD波長スペクトルは、すべての突然変異体が、野生型TRAILの場合と同様に、βシート含有タンパク質の特性を伴って適切にフォールディングしていることを示した。ゲル濾過および動的光散乱測定は、すべての突然変異体タンパク質溶液が、三量体オリゴマー化状態と合致して、単一分子種を含有していることを示した。野生型TRAILおよびM1での分析用超遠心分離はこの知見を裏付けた(データ非表示)。
【0171】
設計した突然変異体のin vitro生物活性および結合
MTTに基づく生存度アッセイと共にColo205ヒト結腸癌細胞系を使用して、TRAIL突然変異体の生物活性をin vitroで評価した。対照との比較において漸増濃度の野生型TRAILまたはTRAIL突然変異体を使用して、生存度の減少を測定した。M1、M3およびC1は、野生型TRAILの生物活性(ED50〜5ng/ml)と比較しうる生物活性を示したが、M2は、ほぼ1桁低い生物活性(ED50〜50ng/ml)を示した。デス受容体DR4(TRAIL-R1)およびDR5(TRAIL-R2)への野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体のリアルタイム結合を、Biocore 300装置を使用する表面プラズモン共鳴を用いて評価した。M1、M3およびC1のセンソグラム(sensogram)は野生型TRAILのものと同一であった。これに対して、M2は、両方の受容体への同様のレベルの結合を示したものの、野生型TRAILセンソグラムと比べて増加したオフ率(off-rate)を示した(図2)。
【0172】
熱変性
野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体の熱変性(熱アンフォールディング)を、加熱の際の222nmでのモル楕円率の変化を測定することによりモニターした。図3は、野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体の熱誘発性変化を示す。TRAILは約70℃で変性の開始を示し、77℃の遷移中間点(transition midpoint)を有する。しかし、該TRAIL突然変異体は、より高い温度で変性の開始を示し、より高い遷移中間点を有する(図3)。M1の場合には、変性の開始は約76℃であり、遷移中間点は85℃であった。M2は約74℃で変性の開始を示した。M3は野生型TRAILとM1との中間値を示し、73℃での変性開始および80℃の遷移中間点を示した。M1とM3との組合せ突然変異を表す突然変異体C1は、M1と比較しうる値を示した。しかし、三量体セット(M4)に属する突然変異体は、野生型TRAILより約3℃低い、実験的に測定された安定性を示し、したがって、その使用を中断した。M2に関する76℃付近でのモル楕円率の初期増加は、出発物質の構造特性の喪失を反映する、遠UVスペクトルの全体的変化によるものである(データ非表示)。冷却に際して、すべてのタンパク質溶液は濁り、これは不可逆的凝集を示すものであり、したがって、いずれの熱力学的パラメーターも導き出され得ないであろう。漸増温度での遠および近UV波長CDスキャンは前記知見を証明した(データ非表示)。
【0173】
加速熱安定性研究
TRAILおよびTRAIL突然変異体の経時的安定性を試験するために、加速(accelerated)熱安定性測定を行った。1時間の時間枠内の安定性に対する影響を測定するために、73℃の温度を選択した。野生型TRAILはこの温度で変性し始めるが、該突然変異体は尚も適切にフォールディングされている(図3)。熱変性測定で使用したのと同じ濃度のタンパク質溶液を73℃で1時間インキュベートし、222nmでのモル楕円率の変化を測定した(図4)。野生型TRAILの楕円率は開始時から減少し、約13分間の半減期を示した。M1、M2およびC1突然変異体のシグナルは実質的に一定のままであり、これは熱安定性の増強を示すものである。M3は約24分間の半減期を示した。しかし、これらの測定はTRAIL分子の生物活性三量体構造を示すものではなく、単量体単位の二次構造を示すものである。上昇した温度における、不変の生物活性を有する突然変異体(M1、M3およびC1)の生物活性における付随的増強をモニターするために、熱変性測定において使用したのと同じ濃度を有するタンパク質溶液を73℃でインキュベートし、サンプルを一定間隔で1時間にわたって採取した。ついでサンプルを組織培養培地中で希釈し、100ng/mlの最終濃度となるようColo205細胞に加えた。一晩のインキュベーションの後、MTTアッセイを用いて該細胞の生存度を測定した。野生型TRAILは20分間のインキュベーションの後に生物活性の低下を示したが、M1およびC1は73℃で1時間のインキュベーションの後に完全な生物活性を保有していた(図5)。M3は野生型TRAILとその他の突然変異体との中間的な生物活性を示した。したがって、CDで測定した該突然変異体の熱安定性の増強は、より安定な生物活性三量体分子と相関されうるであろう。
【0174】
考察
αらせんタンパク質または単量体βシート分子の熱安定性を向上させるためにコンピューター工学技術を適用することは、他の研究者によって既に行われている。しかし、しばしば、100アミノ酸未満の単量体タンパク質が標的として使用された。本発明者らが知る限りにおいては、本発明は、大きな三量体全βシートタンパク質を、より高い熱安定性の変異体へと、コンピューター(計算)により再設計した最初の例である。重要なことに、それは、小さなタンパク質の設計および工学的操作から見出された原理が、大きな多量体タンパク質複合体にも適用されうることを示している。
【0175】
野生型TRAIL(114-281)分子は、TNFリガンドファミリーのいくつかのメンバーと比べると比較的高い熱安定性を有する。例えば、ヒト腫瘍壊死因子α(TNF-α)は円偏光二色性(CD)による測定で65℃の見掛けTmを有し(Narhiら, Biochemistry 35,11447-11453 (1996))、CD40L受容体結合性ドメインは示差走査熱量測定(DSC)による測定で60℃の見掛けTmを有する(Morrisら, J. Biol. Chem. 274,418-423 (1999))。一方、平行した研究において、本発明者らは、CDを用いて、RANKLがTRAILより熱安定性である(野生型TRAILより5℃高い見掛けTmを有する)ことを示すことが可能であり、もう1つの研究を裏付けるものである(Willardら, Protein Expr. 20,48-57 (2000))。この研究において、本発明者らは、コンピューター工学の利用により、全βシートタンパク質のモデルとして、TRAILの熱安定性を更に増強する可能性を調べた。
【0176】
本発明者らは、TNFリガンドファミリーアライメント情報と自動コンピューター設計アルゴリズムとの両方を使用する組合せアプローチを用いて、該βシートタンパク質の見掛け熱安定性を5℃以上向上させることに成功した。変性反応の不可逆性のため、見掛けTmは、安定性の増強の、完全な指標ではない。したがって、機能的な観点からは、高温で該タンパク質が変性するのにかかる時間を調べ、これを、生物活性に対する影響と関連づけることも有意義である。加速熱変性研究は、CD分光法での測定による該突然変異体の熱安定性の増強(図4)が、実験時間枠におけるM1の生物活性の持続から明らかなとおり(図5)、全体的な構造的特徴の維持と相関されうることを示した。73℃で1時間インキュベートした後の野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体の残存生物活性を測定したところ、野生型TRAILは〜20分後にほとんど熱不活性化されたが、重要なことに、該突然変異体は、野生型TRAILに比べて改善された安定性を有することが示された(図5)。したがって、73℃での野生型TRAILおよびM1の安定性の測定は、この場合、より一般的な温度、例えば37℃または室温におけるM1に関する安定性の増強を示すものである。この研究では試験していないが、ある治療上興味深いタンパク質の場合に、熱安定性の改善はin vivo半減期の改善の指標ともなりうることが示されている(Luoら, Protein Sci. 11, 1218-1226 (2002); Filikovら, Protein Sci. 11,1452-1461 (2002))。本発明者らは現在、このことを本発明者らの突然変異体に関して調べているところである。
【0177】
該設計の焦点を非保存残基位置に絞るためには、アライメント情報を用いるのが有利である。この理由は、保存残基がファミリー内で妥当な理由で通常は保有されており、いずれかの突然変異がタンパク質の安定性を減少させることが実際にありうることである(Serranoら, J. Mol. Biol. 233,305-312 (1993); Steipeら, J. Mol. Biol. 240,188-192 (1994))。一方、高い配列可変性を有する領域は突然変異に寛容であり、該タンパク質を安定化する変異体はこれらの領域において見出されうると予想されうる(Serranoら, J. Mol. Biol. 233, 305-312 (1993))。したがって、βシートタンパク質TRAILを再設計するという本発明者らの目的を達成するために、および最小数の突然変異を有する安定な変異体を作製するために、三量体境界を形成する保存残基をほとんど、予測(予想)/最適化法から除外した。これは主として、単量体の安定性の改善(鎖内安定化;単量体セット)または単量体-単量体接触(鎖間安定化;二量体セット)に焦点を絞ったアプローチとなった。表1を参照されたい。
【0178】
M1、M2、M3およびC1は、本発明者らの予想に合致して、熱安定性の増強を示した(表2;図3〜5)。M1、M2およびM3の設計においては、異なる基本原理を用いた。M1は鎖内安定化の一例を示す。各TRAIL単量体の表面でのフレキシブルCDループの安定化は三量体全体の安定性の増強をもたらす。このループは受容体結合には直接は関与せず、非複合体化野生型TRAIL構造においては無秩序な状態であるが(Chaら, Immunity. 11,253-261 (1999); Hymowitzら, Biochemistry 39,633-640 (2000))、DR5(TRAIL-R2)と結合すると秩序だった状態となる(Mongkolsapayaら, Nat. Struct. Biol. 6,1048-1053 (1999); Hymowitzら, Mol. Cell 4, 563-571 (1999); Chaら, J. Biol. Chem. 275,31171-31177 (2000))。しかし、M2は2つの隣接単量体間の相互作用の最適化、すなわち、鎖間安定化を例示するものである。M4は、埋もれた満たされていない水素結合供与体を除去することによる三量体分子の安定化を示す。本発明者らの予想に反して、組合せ突然変異体C1(M1とM3との組合せ体)は有意な相加的熱安定性をもたらさなかった。これは、残基194および196の周辺の局所変性の効果が残基225の周辺の変性の効果より優勢であった可能性があることによるものであろう。M4では野生型TRAILに対する予想自由エネルギー変化(-9.1 kcal mol-1 単量体-1)は有利なものであったが、実験的に測定した安定性は野生型TRAILより約3℃低かった。これはおそらく、中心部の3つのアルギニンが、バックボーンとの間で水素結合を形成することに加えて、三量体の中心コア内に水を捕捉することによるものであろう。水架橋がこのように形成されると正電荷が相殺され、これは三量体の更なる安定化をもたらす。突然変異Arg227Metがそれほど安定でないのはおそらく、バックボーンのカルボニル基が相殺されておらず、三量体を不安定化するためであろう。
【0179】
熱安定性の増強はM1、M3およびC1の生物活性を損なわなかった。M2は野生型TRAILより安定であったが、DR5(TRAIL-R2)受容体のGln205とArg154との間の静電的相互作用の形成が妨げられた(図6b)。これに伴って、FOLD-Xによる予想(ΔΔG結合 = 7.3 kcal mol-1 単量体-1)では、野生型TRAILの生物活性(5ng/ml)と比べて生物活性の10倍の減少(50ng/ml)が生じた。本発明者らの知見は、これらの位置におけるアラニン突然変異体の生物活性の減少を示す初期研究を裏付けるものである(Hymowitzら, Biochemistry 39,633-640 (2000))。表面プラズモン共鳴を用いる、DR4(TRAIL-R1)およびDR5(TRAIL-R2)受容体への結合の解析は、M2に関してオフ率(off-rate)の増加を示しており、これは、両方の受容体に対する、野生型TRAILおよびM1の場合より低いアフィニティーを示している。リガンド-受容体結合部位は通常は「高エネルギー領域」であるため、M2突然変異はTRAIL分子を安定化すると予想された。したがって、これは、進化において機能の喪失との引替えで生じる、安定性における可能な増強の一例とみなされうるであろう。
【0180】
コンピューター(計算)による他の再設計研究は、しばしば、熱安定性の改善に関するスクリーニングを分子のコアに限定していた(Malakauskas & Mayo, Nat. Struct. Biol. 5,470-475 (1998); Luoら, Protein Sci. 11,1218-1226 (2002); Filikovら, Protein Sci. 11,1452-1461 (2002))。本発明において、本発明者らは、コンピューターによる再設計技術が分子の鎖間境界および表面残基をも対象として該構造を成功裏に安定化しうることを示すものである。
【0181】
PERLA/FOLD-Xの実施は、鎖内(単量体)セット、鎖間(二量体)セットおよび種々雑多なセットの場合には成功した。これらの設計に対応する実験データは、これらのセットに含まれるすべての変異体が野生型TRAILより安定であることを示した。重要なことに、単一単量体内のCDループの安定化は三量体分子全体の安定化をもたらすことを示すことができた(図6a)。
【0182】
本発明者らの研究は、より熱安定性である多量体全βシートタンパク質の、コンピューターによる再設計が達成可能であることを示した。したがって、コンピューターによるタンパク質再設計は、タンパク質特性を改善するための手段として、定方向進化または実験的ハイスループットアプローチのような他のタンパク質工学方法論に対する貴重な追加手段である。本発明者らの研究において用いたコンピューターによる方法は一般的な物理的原理に基づくものであるため、本発明者らの知見は更に、改善された熱安定性を有する他のTNFリガンドファミリーメンバーの設計に適用されうる。
【実施例2】
【0183】
DR4(TRAIL-R1)またはDR5(TRAIL-R2)受容体に選択的なTRAIL変異体
方法
すべての試薬は、特に示さない限り、分析等級のものであった。イソプロピル-β-D-1-チオガラクトシド(IPTG)、アンピシリンおよびジチオトレイトール(DTT)はDuchefaからのものであった。Complete(登録商標)プロテアーゼインヒビターカクテルはRocheから購入した。クロマトグラフィーカラムおよび媒体はAmersham Biosciencesからのものであった。使用した制限酵素はNew England Biolabsから購入した。すべての他の化成品はSigmaからのものであった。
【0184】
突然変異体のコンピューター(計算)による設計
タンパク質設計アルゴリズムPERLAおよびFOLD-Xを使用する、コンピューターによる設計は、前記で既に説明されている。同様にして、突然変異を含有する得られたPDBファイルを、Swiss-PdbViewer v3.7b2において実行されるGROMOS 43B1を使用してエネルギー最小化に付し、FOLD-X(http://fold-x.embl-heidelberg.de)により評価した。異なる受容体と相互作用するTRAIL突然変異体の設計からの相互作用の最終エネルギーを、4つの膜受容体と複合体化した野生型TRAIL構造(参照体)と比較し、ΔΔG(kcal mol-1)として表す。
【0185】
コンピューターによるスクリーニング
選択性/特異性をその異なる膜受容体(DR4(TRAIL-R1)、DR5(TRAIL-R2)、DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4))へと向かうよう変化させるために、TRAILの新規突然変異体を設計した。これらの受容体は、Panら, Science. 1997 Apr 4; 276 (5309): 111-3 (DR4); Screatonら, Curr Biol. 1997 Sep 1; 7 (9): 693-6; Degli-Espostiら, J Exp Med. 1997 Oct 6; 186 (7): 1165-70 (DcR1 (TRAIL-R3))およびMarstersら, Curr Biol. 1997 Dec 1; 7(12):1003-6 (DcR2 (TRAIL-R4))に記載されている。
【0186】
設計は、前記のとおり、自動コンピューターアルゴリズムPERLAに基づくものであった。簡潔に説明すると、このプログラムは厳密な逆フォールディングを行う。固定されたバックボーン構造は回転異性体ライブラリーからのアミノ酸側鎖で装飾される。タンパク質構造における歪みの緩和は亜回転異性体(subrotamer)の作製を介して達成される。変性タンパク質を模擬するために、スコア関数のほとんどの項は参照状態に対して釣り合わされる。側鎖コンホーマーはすべて、平均場理論を用いて重み付けされ(weighted)、最終的に、モデル化構造(PDB座標)を有する候補配列が得られる。モデル化構造のエネルギー評価は、FOLD-Xの修飾形態(Schymkowitz, J., Borg, J. , Rousseau, F. & Serrano, L,“manuscript in preparation”)(http://fold-x.embl-heidelberg.deで入手可能)により行った。FOLD-Xの力場モジュールは、該タンパク質の水素結合ネットワークおよび静電ネットワークに加えて、その原子接触地図、その原子および残基の接近可能性、バックボーン二面角のような構造特性を評価する。該タンパク質との2以上の水素結合を与える水分子の寄与も考慮する。ついでFOLD-Xはすべての力場成分、すなわち、極性および疎水性溶媒和エネルギー、ファンデルワールス相互作用、ファンデルワールス衝突(clash)、水素結合エネルギー、静電気ならびにバックボーンおよび側鎖エントロピーの計算へと進む。
【0187】
鋳型配列の選択
鋳型はProtein Data Bankから選択した(PDB標識子1DU3)。これは、DR5(TRAIL-R2)受容体のエクトドメイン(ectodomain)と複合体化したヒトTRAILの三量体構造の、2.2オングストロームの分解能の結晶構造である。この構造においては、TRAIL単量体は、受容体結合に関与しない外部フレキシブルループ(130-146)を欠く。この鋳型を完成させるために、このループの原子座標を有する、DR5(TRAIL-R2)受容体と複合体化した単量体TRAILである1D4V(2.2オングストローム)の結晶構造を使用して、このループをモデル化した。
【0188】
TRAIL非結晶化受容体のモデリング
“What If Homology Modeling web interface”(http://www.cmbi.kun.nl/gv/servers/WIWWWI/で入手可能)を使用して、残りの3つのTRAIL膜受容体(DR4(TRAIL-R1)、DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4))のモデルを得た。ついで、これらの3つの受容体と複合体化したTRAILのPdbファイルを、Swiss-PdbViewer v3.7b2を使用して、それらのバックボーン原子を受容体DR5(TRAIL-R2)の同一原子上に重ね合わせることにより作製した。最後に、作製されたPDBファイルから鋳型受容体DR5(TRAIL-R2)を除去した。
【0189】
TRAILとモデル化受容体との間の相互作用のモデル化
TRAILとその他の3つのモデル化受容体との間で生じる相互作用の論理的設計を以下の方法で行った。第1に、TRAILとの受容体結合境界を調べて、回転異性体置換のための標的アミノ酸を探した。選択した側鎖は、TRAILと潜在的に相互作用するのに十分な程度に物理的にTRAILに近いものであった。受容体DR5(TRAIL-R2)に関する保存残基は、この回転異性体置換からは放棄した。第2に、TRAILとこれらの受容体との予想される相互作用をモデル化するために、PERLAを使用して回転異性体検索を行って、より良好な側鎖コンホメーションを探した。最後に、それらの種々の受容体に対するTRAILの結合境界の全体的な目視検査を行い、いくつかの回転異性体を変更した。
【0190】
突然変異体のコンピューターによる設計
受容体-結合境界に位置するTRAILアミノ酸のみを、in silico突然変異誘発のための潜在的候補とみなした。それらの4つの異なる受容体間の保存アミノ酸と又は受容体バックボーンと相互作用する残基をこの一覧から放棄した。タンパク質の論理的設計および力場アルゴリズム(PERLA、FOLD-X)の使用は、TRAILの選択性/特異性に潜在的に関連した突然変異体配列の一覧の同定を可能にした。
【0191】
自動コンピューターアルゴリズムPERLAを、既に記載されているとおりに適用した。すべての可能なアミノ酸置換(グリシン、プロリンおよびシステイン以外)を、残部構造に適合したコンホメーション(側鎖回転異性体)で、予め選択した残基位置に導入した。ついで、好ましい突然変異を自由エネルギー(kcal mol-1)の点で評価し、好ましくない突然変異(例えば、高いファンデルワールス衝突)を排除した。配列および座標の出力を得、FOLD-Xを使用して自由エネルギーに関してランク付けした。これらの予想のいくつかは、更なる実験解析に付すことなく、理論的エネルギー計算の直後に放棄した。
【0192】
クローニングおよびPCR
ヒト可溶性TRAIL(aa114-281)に対応するcDNAを、NcoIおよびBamHI制限部位を使用してpET15B(Novagen)内にクローニングした。したがって、Hisタグおよびプロテアーゼ認識部位をコードするN末端配列を除去した。Quick Change Method(Stratagene)またはメガプライマー変法を用いるPCRにより突然変異体を構築した。使用したポリメラーゼは、Stratageneにより供給されたPfu Turboであった。精製された突然変異誘発性オリゴヌクレオチドはInvitorogenから入手した。突然変異の導入はDNA配列決定により確認した。
【0193】
選択性突然変異体に関するスクリーニング
TRAIL突然変異構築物を大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)(Invitrogen)内に形質転換した。2×LB培地を使用して、突然変異体および野生型TRAILを10mlの規模で増殖させた。培養を37℃および250rpmでOD600 0.5まで成長させ、ついでタンパク質発現を1mM IPTGで誘導した。三量体形成を促進するために、ZnSO4を100μMの濃度で加えた。温度を28℃まで低下させ、誘導を5時間継続した。細胞を遠心分離により集めた。ペレットを元の容量の25%の抽出バッファー(PBS pH 7.3, 10%(v/v)グリセロールおよびComplete(登録商標)プロテアーゼインヒビターカクテル)に懸濁させた。細胞を超音波により破壊し、抽出物を20,000gでの遠心分離により清澄化した。SDS-PAGEを使用して、TRAIL突然変異体タンパク質の発現を評価した。十分に発現された突然変異体の清澄化抽出物を次いで、HBS-EPバッファー中で1:50希釈した。野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体のこれらの希釈液を50μl/分の流速で二重(two-fold)にBiacore 2000上に注入した。TRAIL受容体DR4(TRAIL-R1)、DR5(TRAIL-R2)およびDcR1(TRAIL-R3)で並びに対照表面としてのRANK(受容体)でコートされたBiacore CM5センサーチップを使用した。該受容体へのリガンドの結合をリアルタイムでモニターした。3M 酢酸ナトリウム(pH 5.2)の注入により受容体/センサー表面を再生させた。それらの種々の受容体への結合の比率をそれぞれDR4(TRAIL-R1)またはDR5(TRAIL-R2)への結合に対して計算した。野生型TRAILの結合プロフィールと比べて異なる結合プロフィールを有する突然変異体を後続の分析のために選択した。
【0194】
野生型TRAILおよび突然変異体の発現および精製
選択した突然変異体を、2×LB培地を使用して、振とうフラスコ内で1リットルの規模で250rpmで37℃で増殖させた。該培養がOD600 0.5に達したら、タンパク質発現を1mM IPTGで誘導し、ZnSO4を100μMの濃度で加えた。温度を28℃まで低下させ、誘導を5時間継続した。単離されたペレットを3容量の抽出バッファー(PBS pH 8, 10% (v/v)グリセロール, 7mM β-メルカプト-エタノール)に再懸濁させた。細胞を超音波により破壊し、抽出物を40,000gでの遠心分離により清澄化した。ついで上清をニッケル充填IMAC Sepharose高流速(fast-flow)カラムにローディングし、野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体を、以下の修飾を伴うHymowitzの方法(前記を参照されたい)により精製した。すなわち、全バッファー中で10% (v/v)グリセロールおよび最小濃度の100mM NaClを使用した。これは精製中の凝集を防いだ。IMAC分画工程後、20μM ZnSO4および(β-メルカプト-エタノールではなく)5mM DTTを全バッファーに加えた。最後に、Hiload Superdex 75カラムを使用するゲル濾過工程を行った。精製されたタンパク質は、コロイドクーマシーブリリアントブルー染色SDS-PAGEゲルを使用する測定で98%を超える純度を有していた。精製タンパク質溶液を液体窒素中で急速冷凍し、-80℃で保存した。
【0195】
選択性突然変異体に関するスクリーニング
Biacore 3000装置を使用する表面プラズモン共鳴により、16個の発現突然変異体の抽出物をDR4(TRAIL-R1)、DR5(TRAIL-R2)およびDcR1(TRAIL-R3)受容体への結合に関して評価した。野生型TRAILはマウスRANK(受容体)には結合しないため、マウスRANK(受容体)への結合を対照としてモニターした。過剰発現プラスミドを含有しないBL21(DE3)培養の、およびSH3ドメインを過剰発現するプラスミドを含有するBL21(DE3)の対照抽出物も注入した。これらの抽出物では結合は観察されなかった。DR5(TRAIL-R2)受容体結合に対するDR4(TRAIL-R1)、DcR1(TRAIL-R3)またはRANK(受容体)結合の比率(図7)、およびDR4(TRAIL-R1)受容体結合に対するDR5(TRAIL-R2)、DcR1(TRAIL-R3)またはRANK(受容体)結合の比率(図8)を算出した。TRAIL選択性突然変異体の結合に関して得られた比率値を、野生型TRAILの結合に関して得られた比率と比較した。また、受容体結合曲線を、野生型TRAILのオンおよびオフ率と比較した場合のオンおよびオフ率における変化に関して目視検査した。
【0196】
DR4(TRAIL-R1)への結合が減弱しDR5(TRAIL-R2)受容体への結合が変化しなかった(DR5(TRAIL-R2)に「選択的」な)2つの突然変異体D269HおよびG160Mを更なる解析のために選択した。本発明者らはD269H w.r.t.DR4のオフ率の増加を示しているが、これは、本発明者らがDR5への結合の増強を観察したことを示唆するものではない。本発明者らの現在のデータは、本発明者らがこの突然変異体の結合をDR5結合へ導いたことを示唆しておらず、したがって、それはDR5受容体に対して、より選択的/特異的である。選択性変異体を選択した後では、もちろん、アフィニティーが改善されうる。I220MおよびE195R(示されていない)も選択した。なぜなら、それらもDR4(TRAIL-R1)への結合の減弱およびDR5(TRAIL-R2)受容体への結合の増強を示したからである。しかし、この効果は前記の2つの突然変異体のものより小さかった。D218Yは、野生型TRAILと比べて小さな、DR4(TRAIL-R1)受容体への結合に対する優先性を示したため、D218Yを更なる解析に選択した。R130Eは、DcR1(TRAIL-R3)受容体への結合における僅かな減弱(DcR1(TRAIL-R3)に対する弱い「選択性」)を示したため、R130Eを選択した。
【0197】
受容体結合の測定
突然変異体R130E、G160M、D218Y、I220MおよびD269Hを精製した。該精製突然変異体の結合を、前記のとおり、センサーチップを有するBiacore 3000上での表面プラズモン共鳴を用いて、リアルタイムで評価した。突然変異体および精製野生型TRAILを17.3、34.5、69、138および276nMの濃度系列で70μl/分の流速で注入した。Koffおよび解離の増強が可能となるよう37℃で行った測定を20分間モニターした。測定されたKonおよびKoff率を使用して、それぞれの受容体に対する該突然変異体に関する見掛けKd値を求めた。大域的フィット(global fit)法および1:1ラングミュア相互作用モデルを用いた。KonおよびKoffに関しては二相性挙動が見出された。予備的見掛けKd値を計算し、表3に示す。
【0198】
TRAIL突然変異体D269Hのin vitro研究
実験条件
細胞系および処理:
Colo205結腸癌細胞を、加湿インキュベーター内の5% CO2環境中、RPMI1640培地、10% FCS、1% ペニシリン、1% ストレプトマイシン内で37℃で維持した。TRAILの添加の前に常に、TRAIL受容体インヒビター(中和抗体)を加えた。実験の前日に該Colo205細胞を24ウェルプレート内に105細胞/mlで播き、1ml/ウェルを漸増濃度の抗DR4および抗DR5中和抗体で1時間処理した。20ng/ml D269Hを該細胞に加え、2時間30分インキュベートした。処理後、該細胞を該ウェルから穏やかに剥ぎ取ることにより該細胞を回収し、遠心沈降させた。
【0199】
アネキシン(Annexin)V染色:
対照および処理Colo205細胞を回収し、遠心分離により集め、Annexin Vインキュベーションバッファー中で1回洗浄し、400μlの新鮮なインキュベーションバッファーに再懸濁させた。1μlのAnnexin Vを該サンプルに加え、室温で10分間インキュベートし、直ちにFACSCaliburフローサイトメーター(Beckton Dickinson)で測定し、結果をAnnexin V陽性細胞の比率(%)として表した。
【0200】
カスパーゼアッセイ:
Colo205細胞を6ウェルプレート内に200.000細胞/ml、3ml/ウェルで実験前日にプレーティングした。TRAIL(10ng/ml)の添加の1時間前に、R2C16(100ng/mlおよび500ng/ml)、抗DR4(TRAIL-R1)および抗DR5(TRAIL-R2)中和抗体(Alexis)(200ng/ml)を細胞培地内に加えた。TRAILでの2時間の処理の後、カスパーゼアッセイのために細胞を回収した。
【0201】
細胞をペレット化し、氷冷PBS中で2回洗浄し、50mlのPBSに再懸濁させ、2×25mlの細胞懸濁液を急速冷凍した。蛍光標識DEVD-MCA(カスパーゼ-3および-7様活性に関して)またはIETD-MCA(カスパーゼ-8に関して)テトラペプチドを使用して、カスパーゼ酵素活性を測定した。遊離MCAにより生じた蛍光強度を60秒間隔で25サイクルで速度論的に測定した。1mgの全タンパク質により1分当たりに遊離されたMCAのnmolとして、酵素活性を計算した。
【0202】
MTTアッセイ:
Colo205細胞を96ウェルプレート内に200.000細胞/ml、100μl/ウェルで播いた。各処理を三重に行った。24時間の処理後、500μg/ml MTT色素を該ウェルに加え、37℃で3時間インキュベートした。該反応を停止させ、50% ジメチルホルムアミド中の100μlの20% SDSを加えることによりホルマザン沈殿物を溶解させた。
【0203】
結果
D269H TRAILのアポトーシス誘導能の解析のために、感受性Colo205結腸癌細胞を漸増濃度のTRAIL(aa114-281)またはD269Hで2および3時間処理した。誘発された細胞死のレベルをモニターするためには、アポトーシス細胞のAnnexin V標識を用いた。
【0204】
本発明者らの結果(図9、10および11を参照されたい)は、それらの2つのリガンドが、Colo205細胞において、比較しうる細胞死誘発能を有することを示した。したがって、D269Hにおける設計された突然変異はその細胞傷害性能を有意には減弱しなかった(図12)。
【0205】
どのTRAIL受容体がD269H誘発性死に、より深く関与しているのかを調べるために、Colo205細胞のD269H処理の1時間前に、漸増量の中和抗DR4または抗DR5抗体を投与した。抗DR4抗体の存在は、D269Hにより誘発される死を妨げなかった。一方、抗DR5抗体の最低濃度(200ng/ml)は細胞死をほぼ完全に妨げた(図13)。これらの結果は、主としてTRAIL受容体2(DR5)のライゲーション(ligation)を介してD269Hが細胞死を誘発することを示唆している。この効果が細胞型特異的でないことを証明するためには異なる細胞系に関する同様の研究が必要であり、これは現在進行中である。
【実施例3】
【0206】
受容体特異的TRAIL変異体:SPRによる結合解析
表面プラズモン共鳴に基づくバイオセンサーBiacore 3000(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を使用して、37℃で結合実験を行った。組換え受容体はR&Dシステムズ (R&D systems, Minneapolis, MN, USA)から取り寄せた。Biacore CM5センサーチップのセンサー表面上でのDR4、DR5およびRANK受容体の固定化を、製造業者の説明に従い標準的なアミンカップリング法により行った。受容体を600以下〜800RUのレベルでコートした。精製野生型TRAILおよびTRAIL突然変異体を250nm〜0.1nMの濃度、70μl/分の流速で37℃で三重(three-fold)に注入した。注入間に、30μlの3M 酢酸ナトリウム(pH 5.2)を使用して該受容体/センサー表面を再生させた。
【0207】
突然変異体R130E、G160M、D218Y、I220M、D269H、D269K、D269R、D269HT214RおよびR191ED267Rを実施例2に記載のとおりに精製した。固定化TRAIL-R1、TRAIL-R2およびTRAIL-R3 Fc受容体への該精製突然変異体の結合を、表面プラズモン共鳴を用いてリアルタイムで評価した。突然変異体および精製野生型TRAILを、まず、60nMの濃度で解析した(図14)。ついで、TRAIL-R1(DR4)/TRAIL-R2(DR5)結合比における有意な変化を示す変異体の結合曲線を0.1〜250nMの範囲の濃度で記録した。D269H/R/K置換を含むすべての変異体はTRAIL-R2 Fc選択的であることが判明した。変異体D269H/R/KおよびD269HE195Rは、野生型TRAILに対して、TRAIL-R2 Fcへの結合における10倍を超える改善、およびTRAIL-R1 Fcへの結合における15倍を超える減弱を示した(図15 a、b、cおよびd)。D269HT214R変異体は、TRAIL-R2 Fc結合において、D269H一重突然変異体と比較しうる改善を示したが、TRAIL-R1 Fcへの検出可能な結合は見出されなかった(図15 aおよびc)。変異体R191ED267RもTRAIL-R2に選択的であることが判明し、それはTRAIL-R2 Fcへの結合の減弱を示したが、TRAIL-R1 Fcへの結合の完全な消失を示した。デコイTRAIL-R3 Fc受容体へのD269Hの結合は、野生型TRAILと比べて〜10倍減弱した(図18a)。
【0208】
DR4(TRAIL−R1)特異的TRAIL変異体を得るために、突然変異D218Yを設計した。野生型TRAILは、DR4に対してよりもDR5に対して高いアフィニティーを有するが、該突然変異体においてはこの優先性は消失する(図16c)。
【実施例4】
【0209】
DR5に選択的なTRAIL変異体:競合ELISA
TRAIL-R2受容体に対するTRAIL-R2(DR5)選択的突然変異体の選択性を別のTRAIL受容体の存在下で評価するために、競合ELISA実験を行った。Nunc Maxisorbプレートを0.1M炭酸ナトリウム/水素ナトリウムバッファー(pH 8.6)TRAIL-R2-Fc(100ng/ウェル)で2時間コートし、ついで、残りの結合場所を2% BSAで1時間ブロッキングした。TBST(TBS-0.5% Tween-20 pH 7.5)での6回の洗浄の後、可溶性TRAIL-R1(DR4)、TRAIL-R2(DR5)またはTRAIL-R3 Fc(0〜500ng/ウェル)および10ng/ウェル 精製rTRAILまたは突然変異体(実施例2に記載のとおりに精製されたもの)の、プレインキュベート(30分間)された系列希釈物を該ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。TBSTで6回の洗浄の後、抗TRAIL抗体(R&D systems)の1:200希釈物を加え、室温で1時間インキュベートし、ついで、TBSTで6回の洗浄の後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ブタ抗ヤギ抗体の1:25000希釈物と共にインキュベートした。TBSTでの6回の洗浄の後、100μlの1工程Turbo TMB溶液(Pierce)を加え、〜15分後、該反応を100μlの1M硫酸でクエンチした。マイクロプレートリーダー(Thermolab systems)で450nMの吸光度を測定した。0ng/ウェルの該可溶性受容体の存在下の固定化TRAIL-R2 Fcへの野生型TRAILまたは突然変異体の結合を100%とみなし、可溶性受容体の他の濃度での結合を、0ng/ウェルの可溶性受容体に対して計算した。
【0210】
漸増濃度の可溶性TRAIL-R1 FcまたはTRAIL-R2 Fcは共に、野生型TRAIL結合に関して、固定化TRAIL-R2 Fcと競合することが可能であった。これとは対照的に、可溶性TRAIL-R1 Fcは、TRAIL-R2選択的変異体との結合に関して、固定化TRAIL-R2 Fcと競合し得なかった(図17 a、b、cおよびd)。しかし、可溶性TRAIL-R2 Fcは、結合に関して、固定化TRAIL-R2 Fcと競合することが可能であった。漸増濃度のTRAIL-R3 Fcの存在下のプレインキュベーションは固定化TRAIL-R2 FcへのTRAIL-R2選択的変異体の結合に影響を及ぼさなかった。これとは対照的に、野生型TRAILは、最高濃度のTRAIL-R3 Fcと共にプレインキュベートされた場合には固定化TRAIL-R2への結合における10〜15%の減弱を示した(図18b)。TRAIL-R3 FcとTRAIL-R2 Fcとの間の、野生型TRAILの競合のレベルにおける相違は、それらの2つの受容体に対する野生型TRAILのアフィニティー(それぞれ200nMおよび<2nM)(Trunehら, J. Biol. Chem. 23319-23325 (2000))における100倍を超える相違により引き起こされる。
【実施例5】
【0211】
DR5選択的突然変異体の追加的なin vitro研究
DR5(TRAIL-R2)選択的突然変異体の生物活性を評価するために、アポトーシスのDR5受容体媒介誘発に感受性である細胞系(Colo205)およびアポトーシスのDR4媒介誘発に感受性である細胞系(ML-1)を使用して、Annexin Vに基づくアポトーシスアッセイを行った。
【0212】
細胞系および処理:
Colo205結腸癌細胞およびML-1骨髄性白血病細胞を、加湿インキュベーター内の5% CO2環境中、RPMI1640培地、10% FCS、1% ペニシリン、1% ストレプトマイシン内で37℃で維持した。TRAILの添加の前に常に、TRAIL受容体インヒビター(中和抗体)を加えた。実験の前日に細胞を24ウェルプレート内に2×105細胞/ml(0.5ml/ウェル)で播いた。Colo205細胞を1μg/mlの抗DR4および/または抗DR5中和抗体で1時間処理した。20ng/mlの野生型TRAIL、D269H、D269HE195Rまたは50ng/mlのD269HT214Rを該細胞に加え、2時間30分インキュベートした。TRAILでの処理の前に1時間にわたり、ML-1細胞を1μg/mlの抗DR4および/または抗DR5中和抗体で処理した。100ng/mlの野生型TRAIL、D269H、D269HE195RまたはD269HT214Rを該細胞に加え、12時間インキュベートした。
【0213】
アネキシン(Annexin)V染色:
対照および処理Colo205細胞およびML-1細胞を回収し、遠心分離により集め、Annexin Vインキュベーションバッファー中で1回洗浄し、400μlの新鮮なインキュベーションバッファーに再懸濁させた。3μlのAnnexin V(IQ Corporation)を該サンプルに加え、室温で10分間インキュベートし、直ちにFACSCaliburフローサイトメーター(Beckton Dickinson)で測定し、結果をAnnexin V陽性細胞の比率(%)として表した。
【0214】
MTTアッセイ:
Colo205細胞を96ウェルプレート内に2×105細胞/ml(100μl/ウェル)で播いた。各処理を三重に行った。24時間の処理後、500μg/ml MTT色素を該ウェルに加え、37℃で3時間インキュベートした。該反応を停止させ、50% ジメチルホルムアミド中の100μlの20% SDSを加えることによりホルマザン沈殿物を溶解させた。
【0215】
結果
該MTTアッセイは、野生型TRAILおよびD269H、D269HE195RおよびD269HT214R(実施例1および2に記載のとおりに精製したもの)が生物学的に活性であり、Colo205細胞において細胞死を誘発しうることを示した(データ非表示)。野生型TRAIL、D269H、D269HE195RおよびD269HT214Rの特異的アポトーシス誘発能の解析のために、TRAIL感受性Colo205結腸癌細胞を20ng/mlの精製野生型TRAILまたはD269H、D269HE195RまたはD269HT214Rで2.5時間処理した。誘発された細胞死のレベルをモニターするために、アポトーシス細胞のAnnexin V標識を用いた。
【0216】
本発明者らの結果は、該リガンドが、Colo205細胞においては、野生型TRAILと比較しうる死誘発能を有することを示した。したがって、D269H、D269HE195RおよびD269HT214Rにおける、設計された突然変異は、その細胞傷害性能を有意には減弱しなかった。
【0217】
どのTRAIL受容体が、野生型、D269H、D269HE195RまたはD269HT214Rにより誘発される細胞死に、より深く関与しているのかを調べるために、Colo205細胞の野生型または突然変異体処理の1時間前に、1μg/mlの中和抗DR4または抗DR5抗体を投与した。抗DR4抗体の存在は、D269H、D269HE195RまたはD269HT214Rにより誘発される死を妨げなかった。一方、1μg/mlの抗DR5抗体は細胞死の量を有意に減少させることが可能であった。これとは対照的に、抗DR4抗体および抗DR5抗体は共に、Colo205細胞において、野生型TRAILにより誘発される細胞死の量を有意に減少させることが可能であった。これらの結果は、D269H、D269HE195RおよびD269HT214Rが、主としてTRAIL受容体2(DR5)のライゲーション(ligation)を介して細胞死を誘発することを示唆している。
【0218】
ML-1骨髄腫細胞におけるTRAIL受容体誘発アポトーシスは主としてDR4(TRAIL-R1)受容体により媒介されることが判明した。抗DR4抗体のみが、これらの細胞における野生型TRAIL媒介細胞死を有意に減少させることが可能であった。抗DR5の添加は野生型TRAIL媒介細胞死に有意な影響を及ぼさなかった。突然変異体D269H、D269HE195RまたはD269HT214Rは、この細胞系においては、野生型TRAILと比較しうるレベルのアポトーシスを誘発し得なかった。これらの結果は、D269H、D269HE195RまたはD269HT214Rが、DR4(TRAIL-R1)のライゲーション(ligation)を介して細胞死を誘発し得ないことを示唆している。
【0219】
総合すると、Colo205およびML-1細胞系で得た結果は、D269H、D269HE195RおよびD269HT214R突然変異体の生物活性が主としてDR5(TRAIL-R2)受容体に向けられていることを示している。
【実施例6】
【0220】
第2ラウンドの設計
第1世代の受容体選択的TRAIL突然変異体から得たin vitroおよびin vivoの結果を用いて、DR4受容体相同性モデルを改良し、改良された受容体選択的特性を有する突然変異体を得るために、実施例2に記載の方法論を用いて、TRAILにおける追加的なアミノ酸残基位置を受容体選択性に関してスクリーニングした。図20Aは、PERLA/FOLD-Xを使用する第1および第2ラウンドのin silico突然変異誘発において使用した残基を示す(ファンデルワールス半径で修飾して描かれている)。
【0221】
第1ラウンドで設計した突然変異体D269HはDR5選択性に決定的に重要であることが判明した。269位のアスパラギン酸のin silico突然変異誘発における追加的な第2ラウンドを行った。この第2ラウンドから、D269Hに加えて、D269KおよびD269Rが、受容体選択性をDR5(TRAIL-R2)へ向くよう変化させると予想された(図20B)(負のΔΔG値は結合の改善を示し、正のΔΔGは受容体結合の減弱を示す)。
【0222】
DR5(TRAIL-R2)と複合体化したTRAILの結晶構造から、残基269はDR5受容体とは直接的に相互作用しないらしい。しかし、リシン、ヒスチジンまたはアルギニンでのこの残基の置換はDR5以外のすべての受容体との結合を劇的に悪化させる。
【0223】
これは、保存されたリシンが受容体DR4、DcR1、DcR2上の120位に存在することにより説明されうる。このリシンは、本発明者らのモデルによると、TRAILとは何ら相互作用しないが、ここに記載されているTRAILの269位の置換アミノ酸とのファンデルワールス衝突または少なくとも反発的静電的相互作用を引き起こすのに十分な程度に受容体境界に接近している。
【0224】
この設計データは実験的受容体結合研究および競合ELISAと相関している(実施例3および4を参照されたい)。
【0225】
残基218は、選択性をDR4(TRAIL-R1)へ向くよう変化させるのに重要であると予想された。第1ラウンドにおいて設計された突然変異体D218YはDR4選択性へのこのような変化を証明した。また、218位のアスパラギン酸のin silico突然変異誘発の第2ラウンドを行った。この第2ラウンドから、D218Yに加えてD218K、D218Rおよび特にD218Hが、受容体選択性をDR4(TRAIL-R2)へ向くよう変化させると予想された(図20C)(負のΔΔG値は結合の改善を示し、正のΔΔGは受容体結合の減弱を示す)。
【0226】
214位の残基およびDR5選択性
アルギニンによるTRAILの214位トレオニンの置換は、選択性をDR5へ向くよう変化させると予想された(図20d)。より完全な選択性に達するために、この突然変異と既に試験した突然変異D269Hとの組合せを試験した。これを実験的に確認した。D269HT214RはDR5(TRAIL-R2)への結合の改善、およびDR4(TRAIL-R1)への結合の完全な消失を示した(実施例3および4)。
【0227】
DR5への選択性のための、214位および269位の突然変異体の組合せ
本発明者らは、突然変異体D269H、D269K、D269RおよびT214R-D269Hの実験的特徴づけを既に示している。複数の突然変異の位置が互いに十分遠く離れていて、予想不可能な相互作用をそれらが互いの間で引き起こし得ない場合には、少なくとも恐らくは、選択性に対する突然変異の相加効果が予想されうる。これが214位および269位の場合であり、これらは互いから約20オングストローム離れている。したがって、突然変異体D269HおよびT214R-D269Hからのデータを用いて、両方の突然変異は、独立して、選択性に寄与すると予想することが可能であり、したがって、突然変異体T214RはDR5に選択的であるとみなされる。
【0228】
269位選択性の、もっともらしい構造的根拠は、既に説明されている。269位のそれらの3つの異なる置換が、選択性における、多少類似した変化を与えることは、おそらく、この選択性が、アミノ酸のサイズおよび/電荷に左右される衝突および/または静電反発によってもたらされることを意味しうるであろう。したがって、突然変異体T214R-D269Hの結果を観察した後、T214RとD269RまたはD269Kのいずれかとの組合せは選択性に同様の影響を及ぼすと推定されうる。PERLA/FOLDX計算は、これらの突然変異が実際に同様の影響を及ぼすことを示している。
【実施例7】
【0229】
安定性および選択性突然変異体の組合せ
前記の安定性変異体と選択性変異体との組合せを行って、増強した安定性および改変された選択性/特異性を有する変異体を得ることが可能である。D269H、D269HE195R、D269HT214R、D269K、D269RおよびR191ED267R突然変異体(選択性突然変異体)の1以上と組合されたTRAIL M1およびC1突然変異体(安定性突然変異体)の組合せを、実施例1および2に記載のとおりに構築し精製した。実施例1、2および3に記載のとおりに、突然変異体を受容体結合および生物活性に関して試験した。野生型TRAILとD269HM1との比較を一例として示す。固定化TRAIL-R1およびTRAIL-R2 Fc受容体への精製野生型TRAILおよびD269HM1の結合を、表面プラズモン共鳴を用いてリアルタイムで評価した。0.1〜250nMの範囲の濃度に関して結合曲線を記録した。変異体D269HM1は、野生型TRAILと比べて、TRAIL-R2 Fcへの結合における8倍を超える改善およびTRAIL-R1 Fcへの結合における8倍を超える減弱を示した(図21 aおよびb)。
【0230】
上昇した温度における該突然変異体の生物活性の増強をモニターするために、100μg/mlの濃度を有するタンパク質溶液を73℃でインキュベートし、サンプルを一定間隔で1時間にわたって採取した。ついでサンプルを組織培養培地中で希釈し、100ng/mlの最終濃度となるようColo205細胞に加えた。一晩のインキュベーションの後、MTTアッセイを用いて該細胞の生存度を測定した。野生型TRAILは僅か10分間のインキュベーションの後に生物活性の低下を示したが、D269HM1は73℃で50分間のインキュベーションの後に完全な生物活性を保有していた(図21c)。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【化1】

【図面の簡単な説明】
【0231】
【図1】A)TRAIL三量体複合体の側面図であり、3つの単量体が赤、青および緑で示されている。B)同じ複合体の平面図であるが、縦軸に沿って眺めたものであり、設計に使用する種々のセットが示されている。構造図は、MOLMOL(Koradiら, J. Mol. Graph. 14,51-32(1996))を使用して作成した。
【図2】DR5(TRAIL-R2)(・・・)およびDR4(TRAIL-R1)(―)受容体への野生型TRAIL(黒丸)、M1(黒正方形)およびM2(白丸)の結合。
【図3】野生型TRAIL(白丸)、M1(黒丸)、M2(白丸)、M3(白正方形)およびC1(黒三角)の熱変性プロフィール。
【図4】73℃で60分間の野生型TRAIL(白丸)、M1(黒丸)、M2(白丸)、M3(白正方形)およびC1(黒三角)の安定性。
【図5】73℃で60分間のインキュベーション後の野生型TRAIL、M1、M3およびC1(左から右)の残存生物活性。
【図6】A)残基194および196周辺の局所環境の野生型TRAILおよびM1の比較。B)野生型TRAILおよびM2の比較。それらの2つの隣接単量体のバックボーンがそれぞれ緑および青で示されており、DR5(TRAIL-R2)受容体のバックボーンが灰色で示されている。水素結合相互作用は緑色破線で示されている。
【図7】DR5(TRAIL-R2)結合に対する割合としての受容体結合。
【図8】DR4(TRAIL-R1)結合に対する割合としての受容体結合。
【図9】D269Hの細胞傷害性能 - アネキシン(Annexin)V染色。
【図10】D269HのTRAIL受容体特異的殺傷の試験 - アネキシン(Annexin)V染色。
【図11】D269HによるDR5(TRAIL-R2)選択的殺傷 - アネキシン(Annexin)V染色。
【図12】D269HおよびTRAILは、比較しうる細胞傷害性能を有する。A.TRAILおよびD269Hで2時間処理された細胞。(B)このグラフは2つの独立した実験の代表例を示す。
【図13】DR5の中和は、D269Hにより誘導される細胞死を阻止できたが、DR4の中和はそれを阻止できなかった。
【図14】60nMの濃度における精製野生型TRAIL(wt1)および種々の精製突然変異体の、DR4(TRAIL-R1)FcおよびDR5(TRAIL-R2)Fcへの受容体結合。
【図15】パネルAおよびB:DR5(TRAIL-R2)Fcへの結合;パネルCおよびD:DR4(TRAIL-R1)Fcへの結合。野生型TRAIL:正方形(白);D269H:丸(黒);D269HT214R:三角(上向きの白);D269K:菱形(黒);D269R:菱形(白);D269HE195R:三角(下向きの白)。
【図16】パネルA:DR5(TRAIL-r2)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびR191ED267Rの結合。パネルB:DR4(TRAIL-R1)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびR191ED267Rの結合。パネルC:DR4(TRAIL-R1)FcおよびDR5(TRAIL-R2)FcへのD218Yの結合。
【図17】競合ELISA。パネルAおよびB:DR5(TRAIL-R2)Fcでの滴定(阻止)。パネルCおよびD:DR4(TRAIL-R1)Fcでの滴定(阻止)。野生型TRAIL:正方形(白);D269H:丸(黒);D269HT214R:三角(上向きの白);D269K:菱形(黒);D269R:菱形(白);D269HE195R:三角(下向きの白)。
【図18】パネルA:DcR1(TRAIL-R3)Fcへの野生型TRAILおよびD269Hの受容体結合。パネルB:競合ELISA。DcR1(TRAIL-R3)Fcでの滴定。野生型TRAIL:正方形(白);D269H:丸(黒);D269HT214R:三角(上向きの白);D269HE195R:三角(下向きの白)。
【図19】パネルA:野生型TRAILおよびD269H、D269HE195RおよびD269HT214R突然変異体によるColo205細胞におけるアポトーシスの誘導、ならびに中和抗DR4および抗DR5抗体でのアポトーシスの阻止。パネルB:野生型TRAILおよびD269H、D269HE195RおよびD269HT214R突然変異体によるML-1細胞におけるアポトーシスの誘導、ならびに中和抗DR4および/または抗DR5抗体の添加による、アポトーシスの阻止。
【図20】A:2つの単量体単位(第3の単量体はこの受容体-結合境界には関与せず、これらの2つの単量体の背後に位置する;受容体はそれらの前方で結合する。該境界が良く見えるよう、受容体は取り除かれている)により形成されるTRAIL受容体-結合境界の側面図。ファンデルワールス半径で修飾して描かれているTRAIL残基は、in silico突然変異誘発スキャニングのための選択された残基であった。B:269位における一重突然変異体のTRAIL-受容体結合アフィニティーにおける最も有意な予想される変化。D269Eは比較のために加えられている。C:218位における一重突然変異体のTRAIL-受容体結合アフィニティーにおける最も有意な予想される変化。D:214位における一重突然変異のTRAIL-受容体結合アフィニティーにおける予想される変化(パネルB〜D:予想される変化は、PERLAおよびFold-Xを使用して計算されたものである)。
【図21】パネルA:DR5(TRAIL-R2)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびD269HM1の結合。パネルB:DR4(TRAIL-R1)Fcへの野生型TRAIL(wt)およびD269HM1の結合。パネルC:73℃で50分間のインキュベーション後の野生型TRAIL(wt)およびD269HM1の残存生物活性。生物活性は、0分の時点で観察された値に対して計算されたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型未改変サイトカインタンパク質より安定となるよう、野生型未突然変異単量体成分と比べて単量体の又は多量体複合体の自由エネルギーが改善されるよう多量体サイトカインタンパク質の単量体成分内の残基を突然変異させることにより改変された配列を有するβシート多量体サイトカインであって、該突然変異残基が該サイトカインファミリーの相同メンバー間で非保存的である、βシート多量体サイトカイン。
【請求項2】
TNFリガンドファミリーのメンバーである、請求項1記載のサイトカイン。
【請求項3】
TRAILである、請求項2記載のサイトカイン。
【請求項4】
該分子の可溶性C末端部分において突然変異している、請求項3記載のサイトカイン。
【請求項5】
以下の位置:
a)該多量体サイトカインの単量体成分の表面の非保存残基、
b)該多量体サイトカインの単量体成分の2つの間の境界の近傍の非保存残基、
c)三量体サイトカインの場合の、三量体中心軸に沿った非保存残基、
d)突然変異するとエネルギー的に有利となる種々雑多な残基
の1以上において突然変異している、前記請求項のいずれか1項記載のサイトカイン。
【請求項6】
CおよびD逆平行β鎖を接続する外部ループ(CDループ)(Eck(Eckら, J. Biol. Chem. 267,2119-2122 (1992))の表記による)において突然変異している、請求項5記載のサイトカイン。
【請求項7】
194位および196位の一方または両方において突然変異している、請求項5 a)記載のサイトカイン。
【請求項8】
突然変異E194Iおよび/またはI196Sを含有するTRAIL突然変異体である、請求項7記載のサイトカイン。
【請求項9】
125、163、185、187、232、234、237、203、205、239、241、271、274位の1以上において突然変異している、請求項5 b)記載のサイトカイン。
【請求項10】
突然変異D203I、Q205MおよびY237Fの1以上を含有するTRAIL突然変異体である、請求項9記載のサイトカイン。
【請求項11】
227、230および240位の1以上において突然変異している、請求項5 c)記載のサイトカイン。
【請求項12】
突然変異R227Mを含有するTRAIL突然変異体である、請求項11記載のサイトカイン。
【請求項13】
突然変異C230SおよびY240Fを含有するTRAIL突然変異体である、請求項11記載のサイトカイン。
【請求項14】
123、272、225、280、163、123および208位の1以上において突然変異している、請求項5 d)記載のサイトカイン。
【請求項15】
突然変異S225Aを含有するTRAIL突然変異体である、請求項14記載のサイトカイン。
【請求項16】
請求項5 a)〜d)記載の2以上の位置において突然変異しているサイトカイン。
【請求項17】
突然変異E194I、I196SおよびS225Aを含有するTRAIL突然変異体である、請求項16記載のサイトカイン。
【請求項18】
記載されている突然変異が該サイトカインの可溶性形態内に導入されている、請求項1〜17のいずれか1項記載のサイトカイン。
【請求項19】
残基114-281を含むTRAIL突然変異体である、請求項18記載のサイトカイン。
【請求項20】
標的受容体に対する選択性を有するβシート多量体サイトカインであって、その標的受容体に対する該サイトカインタンパク質の結合アフィニティーおよび選択性/特異性の増強をもたらすよう、該受容体-結合境界に位置する該サイトカイン内の1以上のアミノ酸が、該標的受容体との結合境界にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換されており、ただし、これらが、該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基ではない、βシート多量体サイトカイン。
【請求項21】
特定の標的受容体に対する、改変されたアフィニティーを有する、請求項20記載のβシート多量体サイトカイン。
【請求項22】
2以上の標的受容体に対する選択性を有するβシート多量体サイトカインであって、第1標的受容体に対する選択性が、該サイトカイン内の1以上のアミノ酸を、1以上の異なる標的受容体に対するアフィニティーを減少させるよう置換残基で置換することにより得られ、ただし、これらは、該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基ではない、βシート多量体サイトカイン。
【請求項23】
該サイトカイン内の131、269、130、160、218、220、149、155、214、195、191および267位の1以上において突然変異している、請求項21または請求項22記載のサイトカイン。
【請求項24】
TNFリガンドファミリーのメンバーである、請求項20〜23のいずれか1項記載のサイトカイン。
【請求項25】
TRAILである、請求項24記載のサイトカイン。
【請求項26】
デコイ受容体DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4)に対してよりも、DR5(TRAIL-R2)またはDR4(TRAIL-R1)に対して優れた選択性を有する、請求項25記載のサイトカイン。
【請求項27】
デス(death)受容体4(TRAIL-R1)に対する選択性より優れた、デス受容体5(TRAIL-R2)に対する選択性を有する、請求項25記載のサイトカイン。
【請求項28】
突然変異G131R、D269H、D269K、D269R、R130E、G160K、D218R、G160M、I220M、I220H、R149D、R149H、E155M、T214R、E195R、R191EおよびD267Rの1以上を含有する、請求項27記載のサイトカイン。
【請求項29】
突然変異G160MまたはD269Hを含有する、請求項27記載のサイトカイン。
【請求項30】
突然変異D269HおよびT214Rを含有する、請求項27記載のサイトカイン。
【請求項31】
突然変異D269HおよびE195Rを含有する、請求項27記載のサイトカイン。
【請求項32】
突然変異R191EおよびD267Rを含有する、請求項27記載のサイトカイン。
【請求項33】
デス(death)受容体5(TRAIL-R2)に対する選択性より優れた、デス受容体4(TRAIL-R1)に対する選択性を有する、請求項25記載のサイトカイン。
【請求項34】
突然変異D218Y、D218E、D218K、D218HおよびD218Fの1以上を含有する、請求項33記載のサイトカイン。
【請求項35】
標的受容体に対する選択性を有するβシート多量体サイトカインであって、
a)その野生型未改変サイトカインタンパク質より安定となるよう、野生型未突然変異単量体成分と比べて単量体の又は多量体複合体の自由エネルギーが改善されるよう該多量体サイトカインタンパク質の単量体成分内の残基を突然変異させ、ここで、該突然変異残基は該サイトカインファミリーの相同メンバー間で非保存的であり、
b)その標的受容体に対する該サイトカインタンパク質の結合アフィニティーおよび選択性/特異性の増強をもたらすよう、該受容体-結合境界に位置する該サイトカイン内の1以上のアミノ酸を、該標的受容体との結合境界にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換し、ただし、これらは、該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基ではなく、
それにより、増強された安定性ならびに該標的受容体に対する増強された結合アフィニティーおよび選択性/特異性を有する変異体が得られるよう改変された配列を有するβシート多量体サイトカイン。
【請求項36】
標的受容体に対する選択性を有するβシート多量体サイトカインであって、
a)その野生型未改変サイトカインタンパク質より安定となるよう、野生型未突然変異単量体成分と比べて単量体の又は多量体複合体の自由エネルギーが改善されるよう該多量体サイトカインタンパク質の単量体成分内の残基を突然変異させ、ここで、該突然変異残基は該サイトカインファミリーの相同メンバー間で非保存的であり、
b)該サイトカイン内の1以上のアミノ酸を、1以上の異なる標的受容体に対する結合アフィニティーを減少させるよう置換残基で置換し、ただし、これらは、該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基ではなく、
それにより、増強された安定性および該標的受容体に対する選択性/特異性を有する変異体が得られるよう改変された配列を有するβシート多量体サイトカイン。
【請求項37】
TNFリガンドファミリーのメンバーである、請求項35または36記載のサイトカイン。
【請求項38】
TRAILである、請求項37記載のサイトカイン。
【請求項39】
突然変異D269HおよびT214Rを含有する、請求項38記載のサイトカイン。
【請求項40】
突然変異D269H、E194IおよびI196Sを含有する、請求項38記載のサイトカイン。
【請求項41】
βシート多量体サイトカインの安定化のための、コンピューターにより実行される方法であって、
その野生型未突然変異単量体成分と比べて該単量体の又は該多量体複合体の自由エネルギーが改善されるよう、該多量体サイトカインタンパク質の単量体成分内の残基を突然変異させる工程を含んでなり、
ここで、該突然変異残基が該サイトカインファミリーの相同メンバー間で非保存的である、方法。
【請求項42】
突然変異させる非保存残基が該多量体サイトカインタンパク質の単量体成分の表面に存在する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
突然変異させる非保存残基が、該サイトカインタンパク質構造体の2つの単量体成分間の境界に近い位置の近傍に存在する、請求項41記載の方法。
【請求項44】
三量体サイトカインタンパク質において、突然変異させる非保存残基が、該多量体タンパク質の三量体中心軸に沿った位置に存在する、請求項41記載の方法。
【請求項45】
2以上の非保存残基を突然変異させる、請求項41〜44のいずれか1項記載の方法。
【請求項46】
コンピューターにより実行されるアライメントアルゴリズムを使用して非保存残基を同定する、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項47】
突然変異の候補と、同一タンパク質ファミリーの他のメンバーとの間のアライメントにおいて、保存残基が該ファミリーの少なくとも50%の間で共有されているものである、請求項64記載の方法。
【請求項48】
突然変異の候補残基の同定を促進するためにタンパク質設計アルゴリズムを使用する、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項49】
該方法が、
a)隣接単量体との特異的相互作用を確立しうる単量体の残基を同定し、
b)突然変異の候補である残基と接触する側鎖を同定し、
c)同一タンパク質ファミリーのメンバーの多重配列アライメントにおける天然アミノ酸のセットから選択されたレパートリーにおける各アミノ酸を各残基位置に配置し、該構造の残部に適合しない側鎖コンホメーションおよびアミノ酸を排除し、
d)好ましくない組合せを排除するために、すべての可能なペアワイズ(pair-wise)相互作用を調べる
工程を含むエネルギー計算を行う、請求項48記載の方法。
【請求項50】
該タンパク質の水素結合ネットワークおよび静電ネットワークに加えて、その原子接触地図、その原子および残基の接近可能性、バックボーン二面角、該タンパク質との2以上の水素結合を与える水分子の寄与、極性および疎水性溶媒和エネルギー、ファンデルワールス相互作用、ファンデルワールス衝突、水素結合エネルギー、静電気ならびにバックボーンおよび側鎖エントロピーを含む構造特性を考慮して、コンピューターにより該エネルギー計算を行う、請求項49記載の方法。
【請求項51】
該方法が、最良算出解に対応する配列および/またはPDB座標を出力する、請求項50記載の方法。
【請求項52】
突然変異を含む配列および/またはPDB座標をエネルギー最小化に付し、最終予想エネルギーを、ΔΔG(kcal mol-1)に関して、参照体である野生型構造と比較する、請求項51記載の方法。
【請求項53】
標的受容体に対するβシート多量体サイトカインの選択性の改変のための方法であって、
a)該受容体-結合境界に位置する該サイトカイン内のアミノ酸を突然変異の候補として同定し、
b)該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基を放棄し、
c)該受容体バックボーンと相互作用する残基を放棄し、
d)その標的受容体に対する該サイトカインタンパク質の結合アフィニティーおよび選択性/特異性の増強をもたらすよう、該サイトカインタンパク質内の1以上の残基のそれぞれを、該標的受容体との結合境界にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換することを含んでなる方法。
【請求項54】
特定の標的受容体に対するアフィニティーを改変するために請求項53記載の方法により改変された配列を有するβシート多量体サイトカイン。
【請求項55】
131、269、130、160、218、220、149、155、214、195、191および267位の1以上において突然変異している、請求項54記載のサイトカイン。
【請求項56】
TNFリガンドファミリーのメンバーである、請求項52または53記載のサイトカイン。
【請求項57】
TRAILである、請求項54記載のサイトカイン。
【請求項58】
デコイ受容体DcR1(TRAIL-R3)およびDcR2(TRAIL-R4)に対してよりも、DR5(TRAIL-R2)またはDR4(TRAIL-R1)に対して優れた選択性を有する、請求項57記載のサイトカイン。
【請求項59】
デス(death)受容体4(TRAIL-R1)に対する選択性より優れた、デス受容体5(TRAIL-R2)に対する選択性を有する、請求項57記載のサイトカイン。
【請求項60】
突然変異G131R、D269H、D269K、D269R、R130E、G160K、D218R、G160M、D218Y、D218E、D218K、D218H、I220M、I220H、R149D、R149H、D218F、E155M、T214R、E195R、R191EおよびD267Rの1以上を含有する、請求項58記載のサイトカイン。
【請求項61】
突然変異G160MまたはD269Hを含有する、請求項60記載のサイトカイン。
【請求項62】
増強された安定性ならびに標的受容体に対する増強された結合アフィニティーおよび選択性/特異性を有するβシート多量体サイトカインの変異体を得るための方法であって、
a)その野生型未突然変異単量体成分と比べて単量体の又は多量体複合体の自由エネルギーが改善されるよう該多量体サイトカインタンパク質の単量体成分内の残基を突然変異させ、ここで、該突然変異残基は該サイトカインファミリーの相同メンバー間で非保存的であり、
b)該受容体-結合境界に位置する該サイトカイン内のアミノ酸を突然変異の候補として同定し、該サイトカインタンパク質が結合する受容体間で保存されたアミノ酸と相互作用する残基を放棄し、該受容体バックボーンと相互作用する残基を放棄し、該サイトカインタンパク質内の1以上の残基のそれぞれを、該標的受容体との結合境界にフィットすると予想されるアミノ酸側鎖コンホメーションを含む置換残基で置換する
工程を含んでなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2007−532480(P2007−532480A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542054(P2006−542054)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/IB2004/004335
【国際公開番号】WO2005/056596
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(506188817)ユニバーシティ オブ フローニンゲン (2)
【出願人】(500262197)ユーロペーイシェ ラボラトリウム フュール モレキュラーバイオロジー(イーエムビーエル) (13)
【出願人】(506188264)ナショナル ユニバーシティ オブ アイルランド (1)
【Fターム(参考)】