説明

改良型トレッド付きのタイヤ

タイヤ(10)であって、平均半径方向高さHB、外縁(45)及び内縁(46)を備えたトレッド(40)を有し、外縁(45)と内縁(46)との間の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lを定め、トレッドは、の第1のゴムコンパウンドで作られた第1の部分(411)を有し、第1の部分は、外縁(45)から第1の軸方向位置まで延び、外縁からの第1の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの20%以上であり且つ40%以下であり、トレッドは、の第2のゴムコンパウンドで作られた第2の部分(412)を有し、第2の部分は、第1の軸方向位置から第2の軸方向位置まで延び、外縁からの第2の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの50%以上であり且つ60%以下であり、トレッドは、第3のゴムコンパウンドで作られた第3の部分(413)を有し、第3の部分は、第2の軸方向位置から第3の軸方向位置まで延び、外縁からの第3の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの80%以上であり且つ90%以下であり、トレッドは、第4のゴムコンパウンドで作られた第4の部分(414)を有し、第4の部分は、第3の軸方向位置からトレッドの内縁(46)まで延び、第1のゴムコンパウンド及び第3のゴムコンパウンドには、主として、カーボンブラック充填剤が充填され、第2のゴムコンパウンド及び第4のゴムコンパウンドには、主として、カーボンブラック充填剤が充填され、第1のゴムコンパウンド及び第3のゴムコンパウンドは、0℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについて、第2のゴムコンパウンド及び第4のゴムコンパウンドの0℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについての値よりも小さい値を有することを特徴とするタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用タイヤに関する。本発明は、特に、スポーティな走行に向いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤが転動している路面に対してタイヤが持つグリップは、タイヤを装着した車両の運転手の安全性の観点から見て最も重要な特徴の1つである。グリップは、スポーティな路上運転の際の車両の性能を定める上で最も重要な特徴でもある。このタイヤがグリップを失った結果として操舵能力を失った場合、車両をもはや操舵することができない。
【0003】
当然のことながら、車両は、スポーティな使用向きに設計されている場合であっても、変わりやすい天候条件の下で運転されなければならない。したがって、タイヤは、乾いた路面及び濡れた路面に対して良好なグリップを提供する手段を備えることが慣例である。特に、例えば水を排出すると共に/或いは貯えることができる凹部を提供することにより又はトレッドと路面との間に形成されている水の膜に切り込むことができるトレッドパターンエッジの数を増やすことによって濡れた路面での使用にトレッドパターンの少なくとも一部を適合させることが可能である。また、トレッドの構成材料を濡れた路面及び/又は乾いた路面での使用に特に適したゴムコンパウンドを用いて設計変更することが可能である。2種類のゴムコンパウンドを有するトレッドは、あらゆる状況下において良好なグリップを達成することができる。このようなタイヤの一例が欧州特許第1308319号明細書に示されている。
【0004】
スポーティな路上運転条件下において、車両のタイヤは、タイヤを装着している車両がコーナリングしているときに相当大きな横方向応力を受ける。コーナーの間、横方向応力により、各タイヤが転動している路面に各タイヤが接触する接触領域上に変形が生じ、この変形の結果として、実質的に台形の形になる。カーブの中心から最も遠くに位置する接触領域の側が長くなり、これに対し、カーブの中心の最も近くに位置する接触領域の側が短くなる。
【0005】
「カーブの中心から最も遠くに位置する接触領域の側」という表現は、タイヤが取り付けられているホイールの中心のドリフト速度の方向においてトレッドの要素が路面に接触する際の側である。この理由で、この側は、「(横方向)前縁」と呼ばれる場合がある。反対の側、即ち、「カーブの中心の最も近くに位置する接触領域の側」は、「(横方向)後縁」と呼ばれる場合がある。
【0006】
この「台形」変形は、トレッドの種々のリブにより支持される荷重と各リブがタイヤにより生じる横方向力に対してなす貢献度の両方を変えてしまう。車両のタイヤが所与のコーナリング状況において支持しなければならない荷重が所与の場合、長い状態になったリブは、タイヤの支持する全荷重の多くの分担割合を支持する。短くなったリブは、これに対応してタイヤによって支持される全荷重の少ない割合を支持する。所与のコーナリング状況下においてタイヤの1本により送り出される横方向力が所与の場合、最も大きな荷重の加わるリブ(一般に、カーブの中心から最も遠くに位置する側のリブ)は、全横方向力に最も大きな貢献度をなすリブであることが推定される。
【0007】
濡れた路面で用いられるのに適したゴムコンパウンドは、一般に、乾いた路面における過酷なコーナリング条件下においてタイヤの接触領域中に生じる極めて大きな熱的及び機械的応力に対して脆い。タイヤのトレッドが乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドで作られた部分及び濡れた路面に対して良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドで作られた部分を備えている場合、乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドがカーブの中心から最も遠くに位置する接触領域の側に配置されるようにすることが好ましい。接触領域が台形になった場合であっても、タイヤは、乾いた路面に対して良好なグリップを維持し、即ち、大きな横方向力を生じさせる良好な能力を維持することになる。さらに、接地圧力が接触領域のこの同じ側(これは、カーブの中心から最も遠くに位置する)では高いので、路面を濡らしている水の排出は、一般に、接触領域のこの側ではかなり満足がいく。その結果、良好なグリップ接触を保証すると共に乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドの使用を可能にする条件は、トレッドのこの領域で確立される。換言すると、タイヤは、この領域では、あたかも乾いた路面を転動しているかのように振る舞う。したがって、トレッドのこの部分に、濡れた路面で良好なグリップをもたらすと共に乾いた路面における性能が乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドの性能よりも低いゴムコンパウンドをもたらす必要がない。ミシュラン(Michelin)社により商業化された”Pilot Sport 2”型タイヤは、トレッド内にこのようなゴムコンパウンドの分布状態を有するタイヤの一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第1308319号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
グリップの面でこのタイヤにより提供される良好な成功にもかかわらず、タイヤ、特にスポーティな走行向きに設計されたタイヤの乾いた路面におけるグリップと濡れた路面におけるグリップの妥協点を向上させる必要性が依然として高まっている。
【0010】
したがって、本発明の目的の1つは、乾いた路面におけるグリップと濡れた路面におけるグリップの良好な妥協点をもたらすタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、所定の取り付け方向を有するタイヤを用いて達成され、このタイヤでは、伝統的に濡れた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドのために確保されているトレッドの部分の一部が乾いた路面において良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドで作られている。換言すると、タイヤがこの所定の取り付け方向で車両に(即ち、タイヤの「内部」に対応のサイドウォールは、一般に、刻印”inside”を備えると共に/或いは反対側のサイドウォールは、一般に、刻印”outside”を備えている)取り付けられたときに車両の方へ向く車両の側に位置したトレッドの部分の一部は、乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドで作られる。
【0012】
より具体的に説明すると、この目的は、車両のホイールの取り付けリムに取り付けられるよう設計されると共に車両への所定の取り付け方向を有するタイヤであって、平均半径方向高さHBを備えたトレッドを有し、トレッドは、タイヤが路面を転動しているときに路面に接触するよう設計された転動面を有し、トレッドは、外縁及び内縁を有し、外縁は、タイヤを所定取り付け方向で車両に取り付けたときに車両の外部の方へ向くタイヤの側に位置し、内縁は、タイヤを所定取り付け方向で車両に取り付けたときに車両の方へ向くタイヤの側に位置し、外縁と内縁との間の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lを定めている形式のタイヤを用いて達成される。
【0013】
トレッドは、少なくとも1つの第1のゴムコンパウンドで作られた第1の部分を有し、第1の部分は、任意の半径方向断面で見て、外縁から第1の軸方向位置まで延び、外縁からの第1の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの20%以上であり且つ40%以下である。
【0014】
トレッドは、少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドで作られた第2の部分を更に有し、第2の部分は、任意の半径方向断面で見て、第1の軸方向位置から第2の軸方向位置まで延び、外縁からの第2の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの50%以上であり且つ60%以下である。
【0015】
トレッドは、更に、少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドで作られた第3の部分を有し、第3の部分は、任意の半径方向断面で見て、第2の軸方向位置から第3の軸方向位置まで延び、外縁からの第3の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの80%以上であり且つ90%以下である。
【0016】
最後に、トレッドは、少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドで作られた第4の部分を有し、第4の部分は、任意の半径方向断面で見て、第3の軸方向位置からトレッドの内縁まで延びる。
【0017】
第1、第2、第3及び第4の部分は、タイヤの周囲全体にわたって延びると共にタイヤが新品であるとき又は遅くとも高さHBの最大で10%が摩滅した後、転動面との交点を有する。
【0018】
少なくとも1つの第1のゴムコンパウンド及び少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及びカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、カーボンブラックは、補強充填剤の全重量の50%以上且つ100%以下の百分率PN1を占め、少なくとも1つの第2のゴムコンパウンド及び少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及びカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、カーボンブラックは、補強充填剤の全重量の0%以上且つ50%以下の百分率PN2を占める。
【0019】
少なくとも1つの第1のゴムコンパウンド及び少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、0℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについて、少なくとも1つの第2のゴムコンパウンド及び少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドの0℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについての値よりも小さい(好ましくは、少なくとも0.05だけ小さい)値を有する。
【0020】
有利な一実施形態によれば、少なくとも1つの第1、第2、第3及び第4のゴムコンパウンドで作られた部分は全て、タイヤが新品であるときに転動面との交点を有する。このため、タイヤは、最初の使用からその潜在的な能力全体を発揮することができる。
【0021】
別の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、少なくとも1つの第1のゴムコンパウンドと同種であり、少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドは、少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドと同種である。この実施形態は、タイヤの製造を単純化すると共に工場でのゴムコンパウンドの在庫管理を単純化するという顕著な利点を有する。
【0022】
第3の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの第1のゴムコンパウンド及び少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、10℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについて、少なくとも1つの第2のゴムコンパウンド及び少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドの10℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについての値よりも大大きい値を有する。実際、10℃における且つ0.7MPaの応力におけるゴムコンパウンドの値tanδは、乾いた路面におけるグリップを適切に特徴付ける。
【0023】
別の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの第1のゴムコンパウンドと少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドについてのtanδの値の差は、0.05以上であり、少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドと少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドについてのtanδの値の差は、0.05以上であり、少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドと少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドについてのtanδの値の差も又、0.05以上である。これは、場合によっては、0℃におけるtanδの値と10℃におけるtanδの値の両方に当てはまる。
【0024】
当然のことながら、上述の実施形態の2つ又は3つ以上を組み合わせることが可能であり、又、そうであることが望ましい場合さえある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】先行技術のタイヤを示す図である。
【図2】先行技術のタイヤの部分斜視図である。
【図3】先行技術のタイヤの1/4の半径方向断面図である。
【図4】トレッドの軸方向エッジがどのようにして定められるかを説明する図である。
【図5】トレッドの軸方向エッジがどのようにして定められるかを説明する図である。
【図6】トレッドの「内縁」及び「外縁」の用語の説明のための図である。
【図7】先行技術のタイヤのクラウンを概略的に示す図である。
【図8】先行技術のタイヤが相当大きな横方向応力を受けたときにこのようなタイヤの変形を概略的に示す図である。
【図9】このようなタイヤの接触領域の台形歪みを示す図である。
【図10】車両がコーナリングしている方向に応じて、車両の同一の車軸に取り付けられた2本のタイヤの接触領域の台形歪みを示す図である。
【図11】車両がコーナリングしている方向に応じて、車両の同一の車軸に取り付けられた2本のタイヤの接触領域の台形歪みを示す図である。
【図12】本発明の一実施形態としてのタイヤのクラウンを概略的に示す図である。
【図13】本発明の一実施形態としてのタイヤのクラウンを概略的に示す図である。
【図14】本発明の一実施形態としてのタイヤのクラウンを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
「半径方向」という用語を用いる場合、当業者がこの用語の幾つかの異なる使い方を区別することが重要である。まず第1に、この用語は、タイヤの半径を意味している。この意味では、箇所P1は、これが箇所P2よりもタイヤの回転軸線の近くに位置する場合、箇所P2「の内側に半径方向に」(又は箇所P2「の半径方向内側に」)位置すると呼ばれる。これとは逆に、箇所P3は、これが箇所P4よりもタイヤの回転軸線から遠くに位置する場合、箇所P4「の外側に半径方向に」(又は箇所P4「の半径方向外側に」)位置すると呼ばれる。「半径方向内方(又は半径方向外方)」に進むとは、進行が小さい半径(又は大きい半径)に向かって進むことを意味している。半径方向距離という用語に関し、これ又、当てはまるのは、このような用語のこの意味である。
【0027】
これとは対照的に、細線又は補強材、細線又は補強材の補強要素が周方向と80°以上且つ90°以下の角度をなす場合に「半径方向」であると呼ばれる。指定されるべきこととして、本明細書においては、「細線」という用語は、全く一般的な意味で理解されなければならず、細線は、細線の構成材料又はゴムとのその結合性を促進するために実施される表面処理とは無関係に、モノフィラメント、マルチフィラメント、コード、糸(ヤーン)又はこれらと同等の集成体の形態をした細線を含む。
【0028】
最後に、「半径方向横断面」又は「半径方向断面」という用語は、本明細書では、タイヤの回転軸線を含む平面に関する横断面又は断面を意味している。
【0029】
「軸方向」は、タイヤの回転軸線に平行な方向である。箇所P5は、これが箇所P6よりもタイヤの中間平面の近くに位置する場合、箇所P6「の内側に軸方向に」(又は箇所P6「の軸方向内側に」)位置すると呼ばれる。これとは逆に、箇所P7は、これが箇所P8よりもタイヤの中間平面から遠くに位置する場合、箇所P8「の外側に軸方向に」(又は箇所P8「の軸方向外側に」)位置すると呼ばれる。タイヤの「中間平面」は、タイヤの回転軸線に垂直であり且つ各ビードの環状補強構造体から等距離のところに位置する平面である。
【0030】
「周方向」は、タイヤの半径と軸方向の両方に対して垂直な方向である。「周方向断面」は、タイヤの回転軸線に垂直な平面に関する断面である。
【0031】
2つの補強要素は、これら2つの要素相互間のなす角度が20°以下である場合、本明細書においては「平行」であると呼ばれる。
【0032】
本明細書において「転動面」と言う用語は、タイヤの転動時に路面に接触するタイヤのトレッド上のあらゆる箇所を意味する。
【0033】
「ゴムコンパウンド」という用語は、少なくとも1種類のエラストマー及び少なくとも1種類の充填剤(フィラー)を含むゴムの配合物を意味している。
【0034】
図示の実施形態に関する説明を読みやすくするため、同一の構造を有する要素を示すのに同一の参照符号が用いられている。
【0035】
図1は、先行技術のタイヤ10の略図である。タイヤ10は、トレッド40を載せたクラウン補強材(図1では見えない)を含むクラウンと、クラウンの半径方向内方の延長部としての2つのサイドウォール30と、サイドウォール30の半径方向内側に設けられた2つのビード20とを有している。
【0036】
図2は、先行技術のタイヤ10の概略部分斜視図であり、このタイヤの種々のコンポーネントを示している。タイヤ10は、ゴムコンパウンドで被覆された細線61で構成されているカーカス補強材60と、各々がタイヤ10をリム(図示せず)上に取り付けた状態に保持する環状補強構造体70を含む2つのビード20とを有している。カーカス補強材60は、ビード20の各々の中に繋留されている。タイヤ10は、2枚のプライ80,90を含むクラウン補強材を更に有している。プライ80,90の各々は、各層中で平行であり且つ或る1つの層から次の層にクロス掛けされていて、周方向と10°〜70°の角度をなす細線状補強要素81,91によって補強されている。タイヤは、クラウン補強材の半径方向外側に配置されたたが掛け補強材100を更に有し、このたが掛け補強材は、周方向に差し向けられると共に螺旋の状態に巻かれた補強要素101で構成されている。トレッド40がたが掛け補強材上に配置されており、タイヤ10が路面と接触するのは、このトレッド40によってである。図示のタイヤ10は、「チューブレス」タイヤであり、このタイヤは、インフレーションガスに対して不透過性であると共にタイヤの内面を覆うゴムコンパウンドで作られた「インナーライナ」50を有する。
【0037】
図3は、ミシュラン(Michelin)社によって商品化された“Pilot Sport 2 ”型の基準タイヤ10の1/4を半径方向断面図で概略的に示している。タイヤ10は、取り付けリム(図示せず)に接触するよう構成された2つのビード20を有し、各ビード20は、ビードワイヤ70を有する。ビード20の半径方向外方の延長部として2つのサイドウォール30が設けられ、これら2つのサイドウォールは、クラウン25に合体し、クラウン25は、補強要素80の第1の層及び補強要素90の第2の層で形成されたクラウン補強材を有し、クラウン補強材の半径方向上にはたが掛け補強材100が載り、たが掛け補強材100それ自体の半径方向上にはトレッド40が載っている。タイヤの中間平面130も又示されている。
【0038】
トレッドの軸方向縁を定めるやり方が図4及び図5に示されており、図4及び図5の各々は、トレッド40の一部分の輪郭形状及びこれに隣接して位置するサイドウォール30の部分の輪郭形状を示している。幾つかのタイヤ設計例では、トレッドからサイドウォールへの移行部は、図4に示されている場合のように明確であり、トレッド40の軸方向縁45がはっきりと分かる。しかしながら、トレッドとサイドウォールとの間の移行部が連続しているタイヤ設計例が存在する。その一例が図5に示されている。この場合、トレッドの縁は、次のようにして判定される。サイドウォール寄りの移行部の付近における転動面上の任意の一点におけるタイヤの転動面の接線をタイヤの半径方向断面上に引く。軸方向縁は、この接線と軸方向とのなす角度α(アルファ)が30°に等しい箇所である。この接線と軸方向とのなす角度α(アルファ)が30°に等しい箇所が幾つか存在する場合、採用されるのは、半径方向最も外側の箇所である。図3に示されているタイヤの場合、軸方向縁45は、このようにして求められる。
【0039】
補強要素80,90の各層は、ゴムコンパウンドで作られたマトリックスで被覆されている細線状補強要素を有する。各層の補強要素は、実質的に互いに平行であり、2つの層の補強要素は、ラジアルタイヤと呼ばれているタイヤに関する当業者には周知であるように、1つの層から次の層に約20°〜30°の角度をなしてクロス掛け関係をなしている。
【0040】
タイヤ10は、ビード20からサイドウォール30を通ってクラウン25まで延びるカーカス補強材60を更に有している。このカーカス補強材60は、この場合、半径方向に差し向けられ、即ち、周方向と80°以上且つ90°未満の角度をなす細線状補強要素を有している。
【0041】
カーカス補強材60は、複数個のカーカス補強要素を有し、このカーカス補強材は、環状補強構造体70相互間で2つのビード20内に繋留されている。
【0042】
図7は、車両のホイールの取り付けリムに取り付けられるよう設計されると共に車両への所定の取り付け方向を有する先行技術のタイヤのクラウンを概略的に示している。このクラウンは、特に、平均半径方向高さHBを備えたトレッドを有している。トレッドは、タイヤが路面を転動しているときに路面に接触するよう設計された転動面47を有する。
【0043】
トレッドは、外縁45及び内縁46を有し、外縁は、タイヤを所定取り付け方向で車両に取り付けたときに車両の外部の方へ向くタイヤの側に位置し(図6参照)、内縁は、タイヤを所定取り付け方向で車両に取り付けたときに車両の方へ向くタイヤの側に位置する(図6参照)。外縁45と内縁46との間の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lを定める。
【0044】
トレッドは、少なくとも1つの第1のゴムコンパウンドで作られた第1の部分411を有し、第1の部分は、任意の半径方向断面で見て、外縁45から第1の軸方向位置41まで延び、外縁45からの第1の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの40%に等しい。第1の部分411は、タイヤの周囲全体にわたって延び、タイヤが新品であるとき(摩耗していないとき)、転動面との交点を有する。
【0045】
トレッドは、第2のゴムコンパウンドで作られた第2の部分412を更に有している。第2の部分412は、任意の半径方向断面で見て、第1の軸方向位置41からトレッドの内縁46まで延びている。第2のゴムコンパウンドは、第1のゴムコンパウンドの濡れた路面におけるグリップよりも優れた濡れた路面におけるグリップ及び第1のゴムコンパウンドの乾いた路面におけるグリップよりも劣った濡れた路面におけるグリップを有する。この部分は、タイヤの周囲全体にわたって延びると共にタイヤが新品であるとき(摩耗していないとき)、転動面との交点を有する。
【0046】
図8及び図9は、3barまでインフレートされると共に大きな荷重(7100Nの荷重)が加えられた先行技術のタイヤが相当大きな横方向応力(キャンバ:−4.4°、横滑り率:3m/s)を受けたときのタイヤの変形状態を概略的に示している。図8は、タイヤの前方移動方向の図に対応している。基準線2は、タイヤ10の回転軸線を示し、基準線3は、タイヤ10が転動している路面を示している。
【0047】
図9は、路面3上におけるタイヤ10のフットプリントを示している。第一近似として、このフットプリントは、台形4の形をしており、この台形の長い方の側部又は底辺5は、タイヤ10が取り付けられた車両の通るカーブの中心から最も遠くに位置する側部である。タイヤのグリップは、濡れた路面よりも乾いた路面の方が大きいので、タイヤの受ける場合のある横方向力も又、乾いた路面の方が大きく、台形変形がより顕著である。したがって、乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドの部分が図7に示されているタイヤの場合のようにカーブの中心から最も遠くに位置する接触領域の側に位置するようにすることが有利である。濡れた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドで作られた部分をカーブの中心の最も近くに位置する接触領域の側に設けることにより、乾いた路面におけるタイヤのグリップと濡れた路面におけるタイヤのグリップとの有利な妥協点に達することができる。
【0048】
本発明のタイヤを説明する際、タイヤがその所定の取り付け方向で車両に取り付けられている場合に、車両の外部の方へ向くタイヤの側とタイヤがその所定の取り付け方向において車両に取り付けられると、車両の方へ向くタイヤの側とが区別されている。これとは対照的に、先の段落では、物理的作用効果をカーブの中心から最も遠くに位置する側及びカーブの中心の最も近くに位置する側に関して説明した。当然のことながら、これら区別は、互いに一致しているわけではない。というのは、カーブの中心と言った場合、これは、カーブの方向で決まり(車両が左側にコーナリングしているにせよ右側にコーナリングしているにせよいずれにせよ)、これに対し、車両の外部の方へ向いた側及び車両の方へ又はその内部の方へ向いた側は、これに準じていない。この見かけの問題は、図10及び図11を用いて説明できる。
【0049】
図10は、タイヤが転動している路面から上方に見て、車両の同一の車軸7に取り付けられた2本のタイヤ11,12の接触領域の台形変形を示している。考察しているこの場合は、右回りカーブ(車両の運転手の視点から判断して)、即ち、矢印151を用いて示された方向のカーブである。タイヤ11,12は、これらの所定の取り付け方向に取り付けられており、即ち、これらのトレッドの内縁46は、車両の車体(車体は、示されていない)の方へ内側に向いた側に位置し、外縁45は、車両の外部の方へ向いている。厳密に言えば、この状況は、タイヤ11についてのみ最も効果的である。というのは、外縁45の側に位置した乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドは、カーブの中心から最も遠くに位置する側に存在するからである。これとは対照的に、タイヤ12の場合、乾いた路面において良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドは、カーブの中心の最も近くに位置する側に存在する。図11に示されているように、状況は、運転手が左側に(自分の視点から見て)、即ち、矢印152を用いて示された方向にコーナリングする場合には逆になる。図11では、最も適しているのは、タイヤ12である。カーブの方向がどちらであるにせよ、「適していない」1本のタイヤが常時存在する。それにもかかわらず、通常の車両は、左側にコーナリングするのと同じほど多く右側にコーナリングするので、カーブの中心から最も遠くに位置する側に存在するタイヤを特別扱いすることが好ましい。というのは、より大きな荷重を支持し、より広い接触面積を有するのがこのタイヤだからである。したがって、車両の全体的グリップにおいて主要な役割を果たすのは、このタイヤである。したがって、このような構成は、右側にコーナリングするのと同じほど左側にコーナリングする車両にとって有利な妥協点に該当する。同一方向に常時旋回する滅多に起こらない場合(例えば、専ら一方向にのみ円形サーキットを走行するために用いられる車両)では、乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドがカーブの中心から最も遠くに位置する側に常時存在するようにするようタイヤの取り付けを最適化することが可能である。
【0050】
本発明の一実施形態では、全体的グリップ性能をより一段と向上させ、特に、乾いた路面におけるグリップと濡れた路面におけるグリップとの間に見出される妥協点を向上させる仕方が提供される。この目的は、所定の取り付け方向を有するタイヤを用いて達成され、このタイヤでは、伝統的に濡れた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドのために確保されているトレッドの部分の一部が乾いた路面において良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドで作られている。換言すると、タイヤがこの所定の取り付け方向で車両に(即ち、タイヤの「内部」に対応のサイドウォールは、一般に、刻印”inside”を備えると共に/或いは反対側のサイドウォールは、一般に、刻印”outside”を備えている)取り付けられたときに車両の方へ向く車両の側に位置したトレッドの部分の一部は、乾いた路面で良好なグリップをもたらすゴムコンパウンドで作られる。
【0051】
図12は、本発明の一実施形態としてのタイヤのクラウンを概略的に示している。このクラウンは、特に、軸方向幅L及び平均半径方向高さHBを備えたトレッドを有する。トレッドは、タイヤが路面を転動しているときに路面に接触するよう設計された転動面47を有する。
【0052】
トレッドは、外縁45及び内縁46を有し、外縁は、タイヤを所定取り付け方向で車両に取り付けたときに車両の外部の方へ向くタイヤの側に位置し(図6参照)、内縁は、タイヤを所定取り付け方向で車両に取り付けたときに車両の方へ向くタイヤの側に位置する(図6参照)。外縁45及び内縁46の正確な位置を求める際に上述したことは、本発明の一実施形態としてのタイヤにも当てはまる。外縁45と内縁46との間の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lを定める。
【0053】
トレッドは、第1のゴムコンパウンドで作られた第1の部分411を有し、第1の部分は、任意の半径方向断面で見て、外縁45から第1の軸方向位置41まで延びている。外縁45からの第1の軸方向位置の軸方向距離は、トレッドの軸方向幅Lの40%に等しい。第1のゴムコンパウンドは、乾いた路面における良好なグリップをもたらすコンパウンドであり、即ち、この第1のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及びカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、カーボンブラックは、補強充填剤の全重量の50%以上且つ100%以下の百分率PN1を占める。
【0054】
トレッドは、第2のゴムコンパウンドで作られた第2の部分412を有し、第2の部分412は、任意の半径方向断面で見て、第1の軸方向位置41から第2の軸方向位置42まで延びている。外縁45からの第2の軸方向位置42の軸方向距離L2は、トレッドの軸方向幅Lの60%に等しい。第2のゴムコンパウンドは、第1のゴムコンパウンドの濡れた路面におけるグリップよりも優れた濡れた路面におけるグリップをもたらし、即ち、この第2のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及び場合によってはカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、カーボンブラックは、補強充填剤の全重量の0%以上且つ50%以下の百分率PN2を占める。
【0055】
トレッドは、第3のゴムコンパウンドで作られた第3の部分413を有し、第3の部分413は、任意の半径方向断面で見て、第2の軸方向位置42から第3の軸方向位置43まで延びている。外縁45からの第3の軸方向位置43の軸方向距離L3は、トレッドの軸方向幅Lの80%に等しい。第3のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及びカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、カーボンブラックは、補強充填剤の全重量の50%以上且つ100%以下の百分率PN1を占める。この実施形態では、第1及び第3のゴムコンパウンドは、同一の組成を有し、このことは、製造上の観点からは有利である。それにもかかわらず、第1のゴムコンパウンドとは異なる第3のゴムコンパウンドを採用することが可能である。
【0056】
最後に、トレッドは、第4のゴムコンパウンドで作られた第4の部分414を更に有し、第4の部分414は、任意の半径方向断面で見て、第3の軸方向位置43からトレッドの内縁46まで延びている。第4のゴムコンパウンドは、第1のゴムコンパウンドの濡れた路面におけるグリップよりも優れた濡れた路面におけるグリップをもたらし、即ち、この第2のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及び場合によってはカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、カーボンブラックは、補強充填剤の全重量の0%以上且つ50%以下の百分率PN2を占める。この実施形態では、第2のゴムコンパウンドと第4のゴムコンパウンドは、同種であり、このことは、製造上の観点から有利である。それにもかかわらず、第2のゴムコンパウンドとは異なる第4のゴムコンパウンドを採用することが可能である。
【0057】
上述の第1、第2、第3及び第4の部分は、タイヤの周囲全体にわたって延びており、タイヤが新品であるとき(摩耗していないとき)、転動面47との交点を有する。
【0058】
第1及び第3のゴムコンパウンドは、0℃において且つ0.7MPaの応力において、第2及び第4のゴムコンパウンドのtanδの値よりも小さい値を有する。
【0059】
図13は、本発明の別の実施形態としてのタイヤのクラウンを概略的に示している。図12に示されているタイヤの場合とは異なり、外縁45からの第2の軸方向位置42の軸方向距離L2は、タイヤの軸方向幅Lの50%に等しく、外縁45からの第3の軸方向位置43の軸方向距離L3は、軸方向幅Lの90%に等しい。この図は又、本発明の実施形態としてのタイヤに関し、種々のコンパウンド相互間の移行が必ずしも周方向溝のところに位置してはいないことを示している。
【0060】
図14は、本発明の別の実施形態としてのタイヤのクラウンを概略的に示している。この場合、外縁45からの第1の軸方向位置41の軸方向距離L1は、軸方向幅Lの30%に等しく、外縁45からの第2の軸方向位置42の軸方向距離L2は、軸方向幅Lの55%に等しく、外縁45からの第3の軸方向位置43の軸方向距離L3は、軸方向幅Lの85%に等しい。
【0061】
表Iは、一例として、使用できるゴムコンパウンドの組成を記載している。この組成は、pce(「パーセントエラストマー」)、即ち、エラストマーの重量で100部当たりの重量部で表される。
【表1】

表I
【0062】
表Iに関する備考
[1]40%スチレン、48%1‐4トランスポリブタジエン群を含むSSBR
[2]カーボンブラック系列230(ASTM)
[3]TDAE(「処理された蒸留芳香族抽出物」)油
[4]N‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N′‐フェニル‐p‐フェニレンジアミン
【0063】
ゴムコンパウンドは、好ましくは、少なくとも、ジエンエラストマー、補強充填剤及び架橋系を主成分としている。
【0064】
「ジエン」エラストマー(又は、区別なく用いられる表現として「ゴム」)という表現は、公知のように、少なくとも一部がジエンモノマー、即ち、2つの共役又は非共役炭素−炭素2重結合を有するモノマーに由来するエラストマー(即ち、ホモポリマー又はコポリマー)を意味するものと理解されたい。用いられるジエンエラストマーは、好ましくは、ポリブタジエン(BR)、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、スチレンブタジエンコポリマー(SBR)、イソプレン‐ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン‐スチレンコポリマー(SIR)、ブタジエン‐スチレン‐イソプレンコポリマー(SBIR)及びこれらエラストマーの配合物から成る群から選択される。
【0065】
好ましい実施形態では、「イソプレン」エラストマー、即ち、イソプレンホモポリマー又はコポリマー、換言すると、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、種々のイソプレンコポリマー及びこれらエラストマーの配合物から成る群から選択されたジエンエラストマーが用いられる。
【0066】
イソプレンエラストマーは、好ましくは、天然ゴム又はシス−1,4型の合成ポリイソプレンである。これら合成ポリイソプレンのうち、好ましくは、シス−1,4結合の含有率(mol%)が90%を超え、より好ましくは98%を超えるポリイソプレンが用いられる。他の好ましい実施形態によれば、ジエンエラストマーは、その全体又は一部が、配合物として用いられ又は例えばBR系の別のエラストマーとは一緒には用いられない別の1つのジエンエラストマー、例えばSBR(E‐SBR又はS‐SBR)エラストマーで構成されるのがよい。
【0067】
ゴムコンパウンドは、タイヤの製造向きのゴムマトリックス中に通常用いられる標準の添加剤、例えば、補強充填剤、例えば上述のカーボンブラック以外のカーボンブラック又は無機充填剤、例えばシリカ、無機充填剤を結合する結合剤、老化防止剤、可塑化剤、又はエキステンダ油(エキステンダ油は、性質上芳香性又は非芳香性のものであり、特に、芳香性ではない或いはほんの僅かに芳香性の油、例えば、粘度の高い又は好ましくは低いナフテン系の油又はパラフィン系の油、MES又はTDAE油、30℃よりも高いTgの可塑化樹脂)、非硬化状態のコンパウンドを処理しやすくする作用剤、粘着性樹脂、硫黄又は硫黄ドナー及び/又は過酸化物、促進剤、加硫活性剤又は遅延剤、加硫戻り防止剤、メチレン受容体及び供与体、例えばHMT(ヘキサメチレンテトラミン)又はH3M(ヘキサメトキシメチルメラミン)、補強樹脂(例えばレソルチノール又はビスマレイミド)を主成分とする架橋系、金属塩系、例えばコバルト、ニッケル又はランタニド塩系の公知の密着性促進(定着)系の幾つか又は全てを更に含むのがよい。
【0068】
コンパウンドを当業者には周知である2つの連続的な準備段階を用いて、即ち、最高110℃〜190℃、好ましくは130℃〜180℃までの高い温度での第1の熱機械加工又は混練段階(「非生産的」段階と呼ばれている)を行い、次に、代表的には110℃以下の低い温度での第2の機械的加工段階(「生産的」段階と呼ばれている)を実施することにより適当な混合機で製造し、最終段階の際に架橋系を混入する。
【0069】
一例を挙げると、非生産的段階は、数分間(例えば、2〜10分間)の単一の熱機械的ステップで実施され、その間、架橋系又は加硫系とは別に必要な成分及び他の添加物を適当な混合機、例えば従来型密閉式混合機内に導入する。次に、このようにして得られた混合物をいったん冷却すると、加硫系を低い温度(例えば30℃〜100℃)に保たれた開放式混合機、例えば開放式ロール機中に投入する。次に、成分全てを数分間(例えば、5〜15分間)混合する(生産的段階)。
【0070】
次に、加硫(又は硬化)を公知の仕方で、一般に130℃〜200℃の温度で、好ましくは圧力下で、特に硬化温度、用いられる架橋系及び問題のコンパウンドの加硫反応速度論に応じて、例えば5分から90分までの様々であって良い十分な期間にわたり実施する。
【0071】
表IIは、組成が表Iに記載されているゴムコンパウンドの性質を記載している。
【表2】

表II
【0072】
これら性質は、規格ASTM・D5992‐96に従って粘度分析装置(Metravib VA4000)で測定される。0.7MPaの一定応力下で0℃〜100℃においてスイープされた温度の間、10Hzの周波数で単純な交番正弦剪断応力を受けた加硫済み組成の試験体(厚さ4mm、断面積400mm2の円筒形試験体)の応答結果、特に0℃で観察されたtanδの値及び10℃で観察されたtanδの値が記録される。
【0073】
思い起こされるように、当業者には周知であるように、0℃におけるtanδの値は、濡れた路面におけるグリップの潜在能力を表し、0℃におけるtanδが大きければ大きいほど、グリップはそれだけ一層良好である。10℃を超える温度でのtanδの値は、材料のヒステリシス及び乾いた路面におけるグリップの潜在能力を表している。
【0074】
組成が表Iに記載されているコンパウンドに戻ると、理解できることとして、第2の組成物は、第1の組成物と比較して高い0℃における(0.7MPaの応力が加えられている)tanδの値を有し、このことは、濡れた路面におけるそのグリップが優れていることを表しており、第2の組成物は、第1の組成物と比較して低い10℃におけるtanδの値を有し、このことは、乾いた路面におけるグリップが劣っていることを表している。
【0075】
“Pilot Super Sport”型タイヤ、即ち、サイズ245/35R20(フロント)及び295/30R20(リヤ)が装着されたポルシェ997を用いて試験を実施した。図12に示されているトレッドを備えたタイヤを図7に示されているトレッドを備えた基準(コントロール)タイヤと比較した。表Iのゴムコンパウンドを用いた。本発明のタイヤは、濡れた路面においてラップ当たりちょうど0.2秒であるという犠牲を払って、乾いた路面においてラップ当たり平均1秒を短くした(サーキット距離が6.2kmのナルド(伊国)所在の「ハンドリング」サーキット上において)。これらタイムの向上は、乾いた路面において良好なグリップを報告し、濡れた路面において実質的に不変のグリップを報告したドライバの主観的評価によって裏付けされた。したがって、本発明は、乾いた路面におけるグリップと濡れた路面におけるグリップの良好な妥協点を提供している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(200)のホイールの取り付けリムに取り付けられるよう設計されると共に前記車両への所定の取り付け方向を有するタイヤ(10)であって、
平均半径方向高さHBを備えたトレッド(40)を有し、前記トレッドは、前記タイヤが路面(3)上を転動しているときに前記路面に接触するよう設計された転動面(47)を有し、前記トレッドは、外縁(45)及び内縁(46)を有し、前記外縁は、前記タイヤを前記所定取り付け方向で前記車両に取り付けたときに前記車両の外部の方へ向く前記タイヤの側に位置し、前記内縁は、前記タイヤを前記所定取り付け方向で前記車両に取り付けたときに前記車両の方へ向く前記タイヤの側に位置し、前記外縁(45)と前記内縁(46)との間の軸方向距離は、前記トレッドの軸方向幅Lを定め、
前記トレッドは、少なくとも1つの第1のゴムコンパウンドで作られた第1の部分(411)を有し、前記第1の部分は、任意の半径方向断面で見て、前記外縁(45)から第1の軸方向位置まで延び、前記外縁からの前記第1の軸方向位置の軸方向距離は、前記トレッドの前記軸方向幅Lの20%以上であり且つ40%以下であり、
前記トレッドは、少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドで作られた第2の部分(412)を有し、前記第2の部分は、任意の半径方向断面で見て、前記第1の軸方向位置から第2の軸方向位置まで延び、前記外縁からの前記第2の軸方向位置の軸方向距離は、前記トレッドの前記軸方向幅Lの50%以上であり且つ60%以下であり、
前記トレッドは、少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドで作られた第3の部分(413)を有し、前記第3の部分は、任意の半径方向断面で見て、前記第2の軸方向位置から第3の軸方向位置まで延び、前記外縁からの前記第3の軸方向位置の軸方向距離は、前記トレッドの前記軸方向幅Lの80%以上であり且つ90%以下であり、
前記トレッドは、少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドで作られた第4の部分(414)を有し、前記第4の部分は、任意の半径方向断面で見て、前記第3の軸方向位置から前記トレッドの前記内縁(46)まで延び、
前記第1、前記第2、前記第3及び前記第4の部分は、前記タイヤの周囲全体にわたって延びると共に前記タイヤが新品であるとき又は遅くとも前記高さHBの最大で10%が摩滅した後、前記転動面との交点を有し、
前記少なくとも1つの第1のゴムコンパウンド及び前記少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及びカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、前記カーボンブラックは、前記補強充填剤の全重量の50%以上且つ100%以下の百分率PN1を占め、前記少なくとも1つの第2のゴムコンパウンド及び前記少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドは、少なくとも1種類のエラストマー及びカーボンブラックを含む少なくとも1種類の補強充填剤を含み、前記カーボンブラックは、前記補強充填剤の全重量の0%以上且つ50%以下の百分率PN2を占め、前記少なくとも1つの第1のゴムコンパウンド及び前記少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、0℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについて、前記少なくとも1つの第2のゴムコンパウンド及び前記少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドの0℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについての値よりも小さい値を有する、
ことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記少なくとも1つの前記第1、前記第2、前記第3及び前記第4のゴムコンパウンドで作られた前記部分(411,412,413,414)は全て、前記タイヤが新品であるときに前記転動面との交点を有する、
請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、前記少なくとも1つの第1のゴムコンパウンドと同種であり、前記少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドは、前記少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドと同種である、
請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1のゴムコンパウンド及び前記少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドは、10℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについて、前記少なくとも1つの第2のゴムコンパウンド及び前記少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドの10℃における且つ0.7MPaの応力におけるtanδについての値よりも大きい値を有する、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1のゴムコンパウンドと前記少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドについてのtanδの値の差は、0.05以上であり、前記少なくとも1つの第2のゴムコンパウンドと前記少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドについてのtanδの値の差は、0.05以上であり、前記少なくとも1つの第3のゴムコンパウンドと前記少なくとも1つの第4のゴムコンパウンドについてのtanδの値の差も又、0.05以上である、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2013−514937(P2013−514937A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545254(P2012−545254)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070054
【国際公開番号】WO2011/076680
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512068547)コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン (169)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)