説明

改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体

【課題】ドライ環境下及び油中で優れた耐摩耗性、低摩擦性及び耐クリープ性を有する改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体を提供する。
【解決手段】ふっ素樹脂と、改質ふっ素樹脂と、ポリアミドとが配合されてなり、改質ふっ素樹脂とポリアミドの合計量が、ふっ素樹脂と改質ふっ素樹脂とポリアミドの合計量に対して5〜50体積%の割合で、かつ改質ふっ素樹脂に対しポリアミドが体積比で0.1〜2の併用比率で配合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐摩耗性、耐クリープ性に優れた改質ふっ素樹脂組成物と、その改質ふっ素樹脂組成物からなる摺動部品、シール品、パッキン、ガスケット、半導体製造用容器・治具・配管等の改質ふっ素樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ふっ素樹脂組成物は、低摩擦性、耐熱性、電気特性、耐薬品性及びクリーン性(非汚染性)に優れており、産業、民生用の各種用途に広く利用されている。
【0003】
しかし、未改質のふっ素樹脂からなる従来のふっ素樹脂組成物は、摺動環境下や高温での圧縮環境下で、摩擦やクリープ変形が大きく、使用できないケースがあった。このため、ふっ素樹脂に充填材を加えることにより、従来のふっ素樹脂組成物において問題であった摩耗やクリープ変形を改善する対策が取られてきた。
【0004】
なお、本発明に係る改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体の先行技術文献情報としては、例えば次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特許第3608406号公報
【特許文献2】特開平9−310281号公報
【特許文献3】特許第3672429号公報
【特許文献4】特開平7−247377号公報
【特許文献5】特開2000−290409号公報
【特許文献6】特開平11−172014号公報
【特許文献7】特開平6−32978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のふっ素樹脂組成物に高耐摩耗性を付与するには、弾性率の高い充填材が効果的であるが、摺動する相手材を損傷したり、摩擦係数を上げ摺動時に発熱しやすくなる等の問題が生じ、その利用範囲が制限されることが多く、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0007】
このような問題を解決する技術として、低酸素濃度雰囲気下、かつ、未改質のふっ素樹脂の融点近傍で該ふっ素樹脂に電離性放射線を照射してなる改質ふっ素樹脂を用いた改質ふっ素樹脂組成物が提案されている。改質ふっ素樹脂は、優れた耐摩耗性、耐クリープ性を有し、しかもふっ素樹脂本来の良好な特性をも有する。
【0008】
しかしながら、この改質ふっ素樹脂組成物では、ドライ雰囲気下や液中の高面圧環境下(油中)では、必ずしも十分な摺動特性が発現できなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ドライ雰囲気及び油中で優れた耐摩耗性、低摩擦性及び耐クリープ性を有する改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の改質ふっ素樹脂組成物は、ふっ素樹脂と、改質ふっ素樹脂と、ポリアミドとが配合されてなり、改質ふっ素樹脂とポリアミドの合計量が、ふっ素樹脂と改質ふっ素樹脂とポリアミドの合計量に対して5〜50体積%の割合であり、かつ改質ふっ素樹脂とポリアミドとの体積の併用比率を、改質ふっ素樹脂に対してポリアミドが0.1〜2としたものである。
【0011】
また、ふっ素樹脂が50〜95体積%、上記改質ふっ素樹脂が3〜30体積%、上記ポリアミドが2〜25体積%であるのが好ましい。
【0012】
ポリアミドは、パラ型或いはメタ型いずれかの芳香族ポリアミドであるのが好ましい。
【0013】
上記ポリアミドは、粒子状或いは繊維状のものであるのが好ましい。
【0014】
また、本発明の改質ふっ素樹脂成形体は、上記改質ふっ素樹脂組成物により成形されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドライ環境下及び油中で優れた耐摩耗性、低摩擦性及び耐クリープ性を呈するという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る改質ふっ素樹脂組成物は、ふっ素樹脂と、改質ふっ素樹脂と、ポリアミドとが配合されてなる。なお、本実施の形態における「ふっ素樹脂」とは、未改質のふっ素樹脂を示すものである。
【0017】
ふっ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン−フルオロアルコキシトリフルエチレン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)が挙げられる。
【0018】
PTFE(第1成分とする)の中には、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン(パーフルオロアルキル)エチレン或いはクロロトリフルオロエチレン等の共重合性モノマーに基づく重合単位を0.2mol%以下含有するもの(第2成分とする)も含まれる。また、これらのふっ素樹脂には、その分子構造中に少量の第3成分を含まれることが有り得る。
【0019】
改質ふっ素樹脂は、ふっ素樹脂を酸素分圧10torr(1.3×10Pa)以下の不活性ガス雰囲気下で、かつその融点以上に加熱された状態において電離性放射線を照射線量1kGy〜10MGyの範囲で照射することにより得られる。電離性放射線としては、γ線、電子線、X線、中性子線或いは高エネルギーイオンビームが挙げられる。
【0020】
電離性放射線の照射を行う際には、ふっ素樹脂をその結晶融点以上に加熱しておく必要がある。例えば、ふっ素樹脂としてPTFEを使用する場合には、PTFEの融点である327℃よりも高い温度で照射し、また、PFAを使用する場合には310℃、FEPを使用する場合には275℃よりも高い温度に加熱して照射する。ふっ素樹脂をその融点以上に加熱することは、ふっ素樹脂を構成する主鎖の分子運動を活発化させることになり、その結果、分子間の架橋反応を効率よく促進させることが可能となる。ただし、過度の加熱は、分子主鎖の切断と分解を招くことがあるので、加熱温度はふっ素樹脂の融点よりも10〜30℃高い温度範囲内に抑えるべきである。
【0021】
このようにして改質した改質ふっ素樹脂は、耐摩耗性や耐クリープ性等に優れるという特徴を有するが、分子中に架橋構造を導入することにより電子密度に偏りが生じ、その結果、熱により第3級ふっ素が外れやすくなり、分子鎖の切断により耐熱性の低下を招く。
【0022】
本発明者らは、このような現象を踏まえ、鋭意検討した結果、改質ふっ素樹脂にポリアミドを添加することが極めて有効であることを見出し、本発明に到った。ポリアミドによるこのような効果(耐熱性の向上)について詳細は不明であるが、熱により脱離した第3級ふっ素を補足し安定化することにより、その後の劣化の連鎖反応を停止させるものと予想される。
【0023】
ポリアミドとしてはパラ型或いはメタ型タイプの芳香族ポリアミドが好ましい。オルト型タイプの芳香族ポリアミドも構造上可能であるが合成が難しく、また、恒温成形時の耐熱性が不十分であるためである。
【0024】
またポリアミドは、その形状が粒子状或いは繊維状のものが好ましい。粒子状或いは繊維状のポリアミドを用いることで摺動特性向上に著しい効果を発揮する。
【0025】
本改質ふっ素樹脂組成物に配合される改質ふっ素樹脂とポリアミドの合計量は、体積換算(体積比)で改質ふっ素樹脂組成物(ふっ素樹脂と改質ふっ素樹脂とポリアミドとの合計量)に対して5〜50%である。改質ふっ素樹脂とポリアミドの合計量が、5%未満では耐摩耗性の著しい向上を実現することが難しく、50%を超えると伸びの著しい低下を招き機械的に脆くなる等の問題が生じるためである。
【0026】
改質ふっ素樹脂とポリアミドとの併用比率は、体積換算(体積比)で、改質ふっ素樹脂に対してポリアミドが0.1〜2である。改質ふっ素樹脂とポリアミドとの併用比率が、0.1未満では耐摩耗性の著しい向上を発現できず、2を超えると機械的強度の低下が大きく脆くなる。
【0027】
また、改質ふっ素樹脂組成物は、ふっ素樹脂の体積比が50〜95%、改質ふっ素樹脂の体積比3〜30%、ポリアミドの体積比が2〜25%であるのが好ましい。
【0028】
以上、本実施形態の改質ふっ素樹脂組成物は、耐熱性、耐摩耗性及び耐クリープ性に優れ、特に、ドライ雰囲気及び油中においてその効果が著しい。
【0029】
また、本実施形態の改質ふっ素樹脂組成物に、着色剤、酸化防止剤、固体潤滑剤等を添加することは可能である。
【0030】
改質ふっ素樹脂成形体は、改質ふっ素樹脂組成物を成形してなるものであり、耐熱性、耐摩耗性及び耐クリープ性に優れる。本実施形態の改質ふっ素樹脂成形体は、産業機械、OA等の摺動部品、半導体関連製造部品等幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施の形態について、実施例に基づいて説明するが、本発明の実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1−7及び比較例1−8の試料を作製し、(1)耐摩耗性、(2)折り曲げ試験について各々評価した。実施例1−7及び比較例1−8の結果を表1及び表2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
実施例及び比較例の試料の作製方法及び試験方法について説明する。
【0036】
PTFEには旭硝子社製のP−63P、及び喜多村社製のTKL−20N(低分子量PEFE)、PFAにはダイキン工業社製のN−20を使用した。
【0037】
PTFE系では、配合剤をミキサで混合した後、ホットホーミングにより成形した。粉体をφ45mm、高さ80mmの金型に充填し、360℃で1.5時間加熱後、圧力50MPaで圧縮成形し、ビレットを作製した。ビレットを厚さ1mmに切削し評価用シートを得た。
【0038】
配合剤に含まれる芳香族ポリアミドは、繊維状のトワロン(登録商標)(パラ型:ポリパラフェニレンテレフタラミド、帝人テクノプロダクツ社製)とした。
【0039】
PFA系では、PFAとその他配合剤を20mm径の2軸混練機により340℃、回転数20rpmで混練した後、360℃のホットプレスにより10MPa、10分の条件でプレスし、厚さ1mmの評価用シートを得た。
【0040】
配合剤に含まれる芳香族ポリアミドは、繊維状のコーネックス(登録商標)(メタ型:ポリフェニレンイソフタラミド、帝人テクノプロダクツ社製)とした。
【0041】
改質PTFEは、PTFE(P−63P)を酸素分圧10Pa(10−5mol/g)、窒素雰囲気下、340℃の温度下で電子線(加速電圧1.5MeV)を120kGy照射することにより作製した。
【0042】
このようにして得られた試料の特性評価方法を次に説明する。ただし測定数は、各試料3点とし、これらの算術平均を平均値とした。
【0043】
(1)耐摩耗性
試験にはスラスト摩耗試験装置を使用し、JISK7218に準じ、SUS304製の円筒リング(外径25.6mm,内径20.6mm)に試験片(外径25.6mm,内径20.6mm,厚さ1mm)を貼り合わせ、相手材にはSUS304板(縦30mm,横30mm,厚さ5mm,平均粗さ0.2μm)を用いた。
【0044】
ドライ中での摺動特性評価としては、圧力0.4MPa、周速2m/秒の条件で行った。50時間後の重量減少を測定し比摩耗量(×10−8mm3/Nm)を算出すると共に、定常状態のトルク曲線から摩擦係数を算出した。
【0045】
油中での摺動特性評価は次のような方法で行った。試験片(外径25.6mm,内径20.6mm,厚さ2mm)を貼り合わせ、相手材にはSUS304板(縦30mm,横30mm,厚さ5mm,平均粗さ0.6μm)を用いた。面圧3MPa、周速0.5m/秒、測定時間50時間、雰囲気をスピンドル油(マグナインダストリアル社製:OMEGA613)に浸漬した状態とし、温度を常温とした。試験後、表面粗さを測定し、この表面粗さから摩擦係数を算出すると共に、トルク曲線から摩擦係数を算出した。
【0046】
(2)折り曲げ試験
上記摩耗試験片と同様の厚さ1mmシートを用い、これを23℃に1昼夜放置後、180°に折り曲げ、その後元に戻し、また180°に折り曲げ、その後元に戻す操作を合計3回繰り返した。試験後、亀裂及び破断を生じないものを合格、どちらか一方を生じたものを不合格とした。
【0047】
表1及び表2に示すように、実施例1〜7によれば、いずれもドライ雰囲気及び油中で比摩耗量が小さく、耐摩耗性、低摩擦性に優れると共に、折り曲げ試験においても亀裂や破断が見られず、良好な屈曲性を有する。
【0048】
これに対し、芳香族ポリアミドと改質PTFEを併用していない比較例1及び2は、特に油中での耐摩耗性に劣る。改質PTFEの代わりにPTFEを使用した比較例3は、ドライ及び油中での比摩耗量が大きく、耐摩耗性に劣る。芳香族ポリアミドの代わりにガラス繊維を配合した比較例4は、油中での比摩耗量が大きいと共に摩擦係数も高く、摺動特性が悪い。
【0049】
改質PTFEと芳香族ポリアミドの合計量が5%未満である比較例5は、ドライ及び油中での耐摩耗性が低く、改質PTFEと芳香族ポリアミドの合計量が50%を超える比較例6は、折り曲げ試験で割れを生じており脆い。改質PTFEと芳香族ポリアミドの併用比率が0.1未満の比較例7は、特に油中での耐摩耗性に劣り、併用比率が2を超える比較例8は、折り曲げ試験で割れを生じており脆い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ素樹脂と、改質ふっ素樹脂と、ポリアミドとが配合されてなり、
上記改質ふっ素樹脂と上記ポリアミドの合計量が、上記ふっ素樹脂と上記改質ふっ素樹脂と上記ポリアミドの合計量に対して5〜50体積%の割合であり、かつ上記改質ふっ素樹脂と上記ポリアミドとの体積の併用比率は、上記改質ふっ素樹脂に対して上記ポリアミドが0.1〜2であることを特徴とする改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項2】
上記ふっ素樹脂が50〜95体積%、上記改質ふっ素樹脂が3〜30体積%、上記ポリアミドが2〜25体積%である請求項1記載の改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項3】
上記ポリアミドは、パラ型或いはメタ型いずれかの芳香族ポリアミドである請求項1または2記載の改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項4】
上記ポリアミドは、粒子状或いは繊維状のものである請求項1〜3いずれかに記載の改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の改質ふっ素樹脂組成物により成形された改質ふっ素樹脂成形体。

【公開番号】特開2009−13402(P2009−13402A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146352(P2008−146352)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】