説明

改質ポリプロピレン組成物を調製するプロセス

本発明は、改質ポリプロピレン組成物を調製するプロセスにおいて、1:0.4から1:5の過酸化物:助剤の質量比で、少なくとも1種類の有機過酸化物と、助剤としてのn≧2である多(n)官能性アクリレートと、酸捕捉化合物とを、異相プロピレンコポリマーであって、プロピレンホモポリマーおよび/またはマトリクス相のポリマーの総質量に基づいて、少なくとも70質量%のプロピレンおよび30質量%までのエチレンを含むプロピレンコポリマー、および/または少なくとも1種類のC4からC10−アルファオレフィンを含む、異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、50から99質量%のマトリクス相と、分散相のエラストマーの総質量に基づいて、20質量%より多いエチレンおよび80質量%までの少なくとも1種類のC3からC10−アルファオレフィンからなるエチレンアルファオレフィンエラストマーを含む、異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、1から50質量%の分散相とを含む異相プロピレンコポリマーに添加する工程を有してなるプロセスに関する。本発明は、少なくとも1の、弾性指数p=ERλ/y;ここで、ERλが、λでのG’=G”での溶融物弾性であり;G’が貯蔵弾性率であり;G”が損失弾性率であり;λは、G’が決定されるG”の値であり;y=0.5λ+200;および/または50kJ/m2より大きい、ISO 180 4Aにしたがって測定される−20℃でのアイゾット衝撃強度;により特徴付けられる改質ポリプロピレン組成物にも関する。本発明はさらに、改質ポリプロピレン組成物からなる成形物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質ポリプロピレン組成物を調製するプロセスにおいて、少なくとも1種類の過酸化物と、多官能性不飽和助剤とを、プロピレンホモポリマーおよび/またはマトリクス相としてのプロピレンコポリマーおよび非晶性分散相としてのエラストマー成分を含有する異相プロピレンコポリマーに添加する工程を有してなるプロセスに関する。本発明は、改質ポリプロピレン組成物にも関する。本発明はさらに、その組成物からなる成形物品に関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなプロセスが特許文献1から公知である。この文献には、化学修飾されたポリプロピレン組成物を調製するプロセスであって、55から95重量部のポリプロピレン、20から80モル%のプロピレンを有する1から30重量部のプロピレン−エチレン・ランダムコポリマー、および随意的なポリエチレンを含むポリプロピレン系組成物を、有機過酸化物および助剤と混合し;その混合物を加熱し、押し出す、各工程を有してなるプロセスが開示されている。助剤としてのリストに、ジアクリレート化合物、特に、ポリエチレングリコールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレート、アリル化合物、マレイミド系化合物およびキニンジオキシム系化合物が挙げられている。実施例には、具体的に、ポリプロピレン組成物を改質するために、有機過酸化物と共に用いられる助剤としてのジビニルベンゼンおよび1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジンが開示されている。
【0003】
近年、インパクトポリプロピレンコポリマーまたはポリプロピレンブロックコポリマーとしても知られている異相ポリプロピレンコポリマーが、幅広い温度範囲に亘る衝撃強度などの機械的性質および低コストの魅力的な組合せのために、重要な群のポリマーとなっており、このコポリマーには、民生および自動車産業において幅広い用途が見出されている。異相ポリプロピレンコポリマーは、基本的に、プロピレン系半結晶性マトリクスおよび分散したエラストマー相、典型的に、エチレン−プロピレンゴム(EPR)からなる少なくとも二相の構造を有する。これらのポリプロピレンは、一般に、触媒の存在下でのプロピレンの重合、およびその後のプロピレン−エチレン混合物の重合によって、1つ以上の反応装置内で調製される。これにより得られた高分子材料は異相であるが、固有のモルホロジーは、通常、調製方法およびモノマーの比率に依存する。多くの研究により、異相プロピレン系コポリマー系統における4つの相:結晶性ポリプロピレン、非晶性ポリプロピレン、結晶性エチレン−プロピレンゴム、および非晶性エチレン−プロピレンゴムの存在が示された。
【0004】
多数の文献に、異相ポリプロピレンコポリマーを化学修飾するプロセスが開示されている。例えば、特許文献2には、衝撃改善ポリマー、単官能性モノマーである第1の助剤、多官能性モノマーである第2の助剤、オリゴマーまたはポリマー、およびラジカル開始剤を混合し、押し出すことによって、衝撃強度特性が向上したポリプロピレン組成物を調製する方法が開示されている。特許文献3は、70から95重量%のポリプロピレン系マトリクス相;5から30重量%の、エチレンゴムコポリマーを含む分散相;0.01から3重量%の有機過酸化物;および随意的な、0.05から10重量%の、ジビニル化合物、アリル化合物、ジエンおよびこれらの混合物から選択される二官能性不飽和モノマーを混合し;その混合物を加熱し、溶融する;ことによって機械的性質が改善された異相プロピレン組成物を調製するプロセスに関する。特許文献4には、70から100重量%のプロピレン系マトリクス相および0から30重量%のエラストマーエチレンゴムコポリマー分散相を含む、99から90重量%の異相ポリプロピレンコポリマーを1から10重量%の反応改質された異相コポリマーと混合することによって、剛性/衝撃バランスおよび光沢が改善されたポリプロピレン組成物を得るプロセスが開示されている。この反応改質された異相コポリマーは、異相コポリマーを、0.05から3重量%の有機過酸化物および0.01から10重量%の、ジビニル化合物、アリル化合物、ジエンおよびこれらの混合物から選択される二官能性不飽和モノマーと混合し;その混合物を加熱し、溶融することにより生成される。特許文献5は、機械的性質が向上したレオロジー改質熱可塑性エラストマー組成物であって、50から90重量%のエラストマーエチレン/アルファオレフィンポリマーまたはエチレン/アルファオレフィンポリマーブレンド;および50から10重量%の、ポリプレピレンおよびプロピレン−エチレンコポリマーから選択される高融点ポリマーを含み、レオロジー改質が、1:2から2:1の過酸化物と助剤の比率で、0.05から0.3重量%の過酸化物および0.025から0.6重量%の、メタクリレート、アリル化合物およびビニル化合物から選択されるフリーラジカル助剤により誘発されたものであるエラストマー組成物に関する。特許文献6は、染色性が良好であり、高強度かつ高弾性の熱可塑性エラストマーであって、20から80重量%のホモポリマーおよび/またはプロピレンコポリマー、80から20重量%のエラストマー系C4からC12オレフィンコポリマーおよび/またはターポリマー、0.10から4重量%のC8からC12ジアクリレート、0から4重量%の過酸化物、および随意的な、充填剤および加工助剤、すなわち、滑剤としてのステアリン酸カルシウムまたはマグネシウムを混合することによって製造された熱可塑性エラストマーに関する。実施例には、具体的に、3.9重量%のエチレンを含むプロピレン−エチレンコポリマー、エチレン−オクテンコポリマー、36重量%のブチレングリコールジアクリレート、8重量%の過酸化物およびアセトンからなる熱可塑性エラストマーが記載されている。この文献において、熱可塑性エラストマーが、異相ポリプロピレンコポリマーと比べて、際立って異なるいくつかの性質を有することがよく知られている。熱可塑性エラストマーは、例えば、非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−93709号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0004864A1号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1354901A1号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1391482A2号明細書
【特許文献5】欧州特許第1319041B1号明細書
【特許文献6】米国特許第6310140B1号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, G. Holden, Thermoplastic Elastomers, 2002, DOI: 10.1002/0471238961.2008051808151204.a01.pub
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたプロセスの欠点は、異相ポリプロピレンコポリマーを有機過酸化物および助剤で改質する反応が、制御するのが難しく、成形中の加工性が悪い生成物が得られることである。
【0008】
したがって、本発明の課題は、改質ポリプロピレン組成物の調製についてのより良好な制御を可能にし、得られた組成物のその後の成形プロセス中の加工性を向上させるプロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1記載のプロセスであって、異相ポリプロピレンコポリマーを化学修飾するために、1:0.4から1:5の過酸化物:助剤の質量比での有機過酸化物と、助剤としてのn≧2の多(n)官能性アクリレートと、酸捕捉化合物とが用いられるプロセスにより本発明にしたがって達成される。
【0010】
意外なことに、特定の比率での有機過酸化物と、n≧2の多(n)官能性アクリレートと、酸捕捉化合物とのそのような組合せにより、改質ポリプロピレン組成物の調製についてより良い制御が可能になり、その後の成形プロセス中の加工性が向上する。
【0011】
本発明によるプロセスの追加の利点は、このプロセスにより製造された組成物によって、優れた外観を示す、特に、成形品に形成されたときにトラの縞模様(tiger stripes)またはフロー・マークの存在が最小である物品の製造が可能になることである。トラの縞模様の減少により、物品の審美的外観、それゆえ、その商業的価値が向上する。
【0012】
いくつかの公報が、成形品における外観特性を改善する課題に対処しており、様々な解決策が提案されてきた。例えば、米国特許出願公開第2002/0035209A1号明細書では、構造が相互に異なり、各々が特定の固有粘度値により特徴付けられる、2種類の特定のプロピレン−エチレン・ブロックコポリマーを使用することによって得られたポリプロピレン樹脂組成物が用いられている。欧州特許第1328581B1号明細書には、特定のメルトフローレートを有する2つの異なる分画を含有する結晶性ポリプロピレン成分、および高い固有粘度を有するエチレンコポリマーを含むポリオレフィンマスターバッチが開示されている。米国特許第5468808号明細書には、成形品におけるフロー・マークの影響度を減少させるために、ある量のポリプロピレン組成物に低分子量液体ゴムを添加することが記載されている。国際公開第2007/024541号パンフレットには、フロー・マークを改善するためにポリプロピレン組成物にフルオロポリマーを添加することが開示されている。しかしながら、これらの文献のいずれにも、外観特徴を改善するために、特に、そのような組成物から製造された成形品におけるトラの縞模様の存在を最小にするために、ポリプロピレン組成物を、少なくとも1種類の有機過酸化物、多官能性アクリレートおよび酸捕捉化合物により改質することは教示されていない。
【0013】
さらに別の利点は、本発明のプロセスを使用することによって、良好な機械的性質、例えば、高い弾性率および低温での高い衝撃強度を有する改質ポリプロピレン組成物が得られることである。さらに、本発明によるプロセスによって得られたポリプロピレン組成物は、安定な相モルホロジーおよび優れた塗料付着性を示す。
【0014】
改質ポリプロピレン組成物を製造するプロセスは、1:0.4から1:5の過酸化物:助剤の質量比で、少なくとも1種類の有機過酸化物と、助剤としてのn≧2である多(n)官能性アクリレートと、酸捕捉化合物とを、異相プロピレンコポリマーであって、プロピレンホモポリマーおよび/またはマトリクスポリマーの総質量に基づいて、少なくとも70質量%のプロピレンおよび30質量%までのエチレンを含むプロピレンコポリマー、および/または少なくとも1種類のC4からC10−アルファオレフィンを含む、異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、50から99質量%のマトリクス相と、分散エラストマーの総質量に基づいて、20質量%より多いエチレンおよび80質量%までの少なくとも1種類のC3からC10−アルファオレフィンからなるエチレンアルファオレフィンエラストマーを含む、異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、1から50質量%の分散相とを含む異相プロピレンコポリマーに添加する工程を有してなる。
【0015】
産業界において、液相中のポリオレフィンのレオロジーを改善するための方法、特に、その粘度を減少させるための方法が、引き続き探求されている。粘度の減少は、しばしば、「粘度低下(vis-breaking)」、「溶融シフト(melt-shifting)」、「レオロジー改質」または「レオロジー制御」とも記載される。粘度の減少のために有機過酸化物が使用されることが既に知られている。有機過酸化物が、加熱条件と溶融条件の際の従来の分解プロセスにおいて挙動する様々な様式がある。一方では、あるプロセス条件下で、過酸化物は最初に分解して、フリーラジカルを生成し、次いで、これらが、ポリプロピレン主鎖の第3炭素から水素を取り去って、ポリマー上にフリーラジカルを生成し、さらに再結合する。他方で、過酸化物は、ポリマー分子の最長鎖の破壊を開始し、次いで、これにより、ポリマーの粘度が減少し、メルトフローレートが増加し、分子量分布が狭くなり、これらの特徴は、生成物を特定の用途に一層適するようにするために、ポリプロピレンの改善された流動特性の直接的な原因である。各タイプの挙動の範囲は、一般に、過酸化物の性質と濃度により影響を受ける。
【0016】
本発明によるプロセスには、高温でフリーラジカルを形成する有機過酸化物が少なくとも1種類存在することが必要であり、これにより、例えば、助剤によるポリマーのグラフト重合または鎖の伸長がもたらされ得る。改質ポリプロピレン組成物の形成中にプロセスの平均温度で1分未満の分解半減期を有する有機過酸化物が本発明にとって適している。適切な有機過酸化物としては、ジアルキルペルオキシド、例えば、ジクミルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステルおよびペルオキシジカーボーネートが挙げられる。これらの具体的な例としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)−3−ヘキセン、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、α,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(Luperco(登録商標)802)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−3−ヘキセン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−ヘキセン、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルフェニルアセテート、tert−ブチルペル−sec−オクトエート、tert−ブチルペルピバレート、クミルペルピバレート、およびそれらの任意の組合せが挙げられる。本発明によるプロセスにジアルキルペルオキシドを使用することが好ましい。有機過酸化物がα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンであることがより好ましい。本発明の有機過酸化物を、全組成物に基づいて、0.02質量%と0.25質量%の間、好ましくは0.03質量%と0.20質量%の間、より好ましくは0.05質量%と0.15質量%の間の量で適用してよい。
【0017】
粘度低下プロセス中に、分散相のポリマー鎖がより小さな鎖に分解されることも一般に公知である。その不都合な影響は、度々、衝撃強度およびメルトフロー安定性の低下などの、異相系の所望の性質のいくつかが劣化することである。助剤、一般に、1つ以上の不飽和基を含有する化合物の存在は、ラジカルがそのような助剤と、その構造に応じて、異なる様式で反応するかもしれないので、過酸化物により生じた生成ラジカルの作用に影響を与える。
【0018】
本発明のプロセスによれば、n≧2の多(n)官能性アクリレートが助剤として使用される。どのような理論によっても拘束することを意図するものではないが、多官能性アクリレートの助剤も、マトリクスの、特に分散相のポリマー鎖へのグラフト重合によるいくつかの長鎖分岐にも影響を与え、および/または鎖の伸長により高分子量材料の分画を増加させると考えられる。ペルオキシドにより導入されるフリーラジカルの存在が、多官能性アクリレートが異相プロピレンコポリマーと反応し、それゆえ、衝撃強度とメルトフロー安定性の劣化を最小にするのに必須である。
【0019】
この助剤は、ラジカル付加を受けられる不飽和基を2つ以上含有する多官能性アクリレートモノマーである。助剤の適切な例としては、1,4−ブタンジオール−ジメタクリレート(BDDMA)、1,6−ヘキサンジオール−ジメタクリレート(HDDMA)、1,3−ブチレングリコール−ジメタクリレート(BGDMA)、エチレングリコール−ジメタクリレート(EGDMA)、ドデカンジオール−ジメタクリレート(DDDMA)、トリメチロールプロパン−トリメタクリレート(TMPTMA)およびトリメタクリレートエステル(TMA)エステルなどのジ−およびトリ−(メタ)アクリレートが挙げられるであろう。助剤が、1,4−ブタンジオール−ジメタクリレートまたはトリメチロールプロパン−トリメタクリレートであることが好ましい。本発明にしたがって、1,4−ブタンジオール−ジメタクリレート(BDDMA)を使用することが好ましい。何故ならば、BDDMAは、環境に優しい非毒性材料であるからである。
【0020】
本発明によるプロセスに、n≧2の多(n)官能性アクリレートを助剤として適用することによって、成形製品の衝撃強度が減少するどころか、明らかに増加する。本発明による実験により、−20℃で、99.69質量%の異相プロピレンコポリマー、0.06質量%の過酸化物、0.3質量%のBDDMAおよび0.05質量%のステアリン酸カルシウムの組成物からなる成形品が、BDDMAを含まないサンプルについて得られた93kJ/m2の衝撃値および不十分な剛性と比べて、65kJ/m2より大きいアイゾット衝撃強度(ISO 180 4Aによる)および良好な剛性値を示すことが確認される。その上、成形品のトラの縞模様の性能が著しく向上する。多官能性アクリレート、有機過酸化物および酸捕捉剤の組合せは、明らかに、異相プロピレンコポリマー中に存在する相の溶融弾性に影響を与え、相接合を促進し、安定な相モルホロジーおよび良好な塗装との付着性をもたらす。
【0021】
n≧2である多(n)官能性アクリレート助剤は、全改質ポリプロピレン組成物に基づいて、0.01質量%と0.5質量%の間、好ましくは0.05質量%と0.35質量%の間、より好ましくは0.1質量%と0.3質量%の間、最も好ましくは0.15質量%と0.25質量%の間の量で適用してよい。好ましい範囲の利点としては、異相ポリプロピレンコポリマーの相間のより強力な相互作用および成形品の増大したトラの縞模様の性能が挙げられる。
【0022】
本発明のプロセスによれば、有機過酸化物およびn≧2の多(n)官能性アクリレートが、1:0.4から1:5の質量比で、好ましくは1:1から1:4の質量比で加えられる。これらの質量比の範囲内の動作の利点は、衝撃および外観などの他の性質を犠牲にせずに、プロピレン系組成物の流動特性を所望の値まで増加させる可能性にある。
【0023】
酸捕捉剤は、酸捕捉剤以外の化合物との反応に関与する酸の傾向を低減させる役割を有する化合物である。ステアリン酸塩などの金属カルボン酸塩が、重合からの微量の酸性触媒残留物を中和するための酸捕捉剤として、または滑剤として、ポリプロピレン系組成物に一般に加えられることが既に知られてるのが事実であるが、本発明の組成物においては、それには追加の効果がある。本発明によるプロセスに酸捕捉剤として使用される化合物は、よく知られた目的以外に、成形されたプロピレン系組成物のレオロジーに影響を与えるが、この挙動の説明はまだ見つかっていない。
【0024】
適切な酸捕捉剤の例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、乳酸カルシウム、カルシウムステアロイル−2−ラクチレート、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ヒドロキシカルボン酸マグネシウム、ヒドロキシカルボン酸アルミニウム、ジヒドロキシタルサイトおよびペラルゴン酸カルシウムのような金属カルボン酸塩などの金属塩が挙げられるであろう。酸捕捉化合物は、良好な衝撃強度および外観のために、全組成物に基づいて、約0.01から約0.3質量%、好ましくは約0.01から約0.1質量%、より好ましくは約0.02から約0.08質量%の濃度で使用して差し支えない。金属ステアリン酸塩を本発明によるプロセスにおいて酸捕捉化合物として使用することが好ましい。既に知られている機能以外に、反応の良好な制御を可能にするので、ステアリン酸カルシウムを使用することが最も好ましい。
【0025】
有機過酸化物およびn≧2の多(n)官能性アクリレートと共に酸捕捉化合物を使用することにより、本発明によるプロセスのより良好な制御を可能にし、その後の成形工程中のプロピレン系組成物の加工性を向上させる。本発明によるプロセスに、酸捕捉化合物を使用せず、有機過酸化物および助剤のみを使用した場合、成形に適した流動特性を有するポリマー組成物を得ることは難しいであろう。
【0026】
異相プロピレンコポリマーは、典型的に、マトリクス相および分散相を含む。一般に、微粒子分散相またはゴム相は良好な靭性を与えるのに対し、マトリクスは良好な高温性能および適切な剛性を維持することを担う。
【0027】
本発明によるプロセスに使用される異相プロピレンコポリマーは、連続相を形成するマトリクス相を含み、プロピレンホモポリマーおよび/またはプロピレンとエチレンのコポリマーおよび/または少なくとも1種類のC4からC10−アルファオレフィンである。このマトリクスのMFIは、0.4から80g/10分(2.16kg/230℃)の範囲、好ましくは3から70g/10分の範囲、より好ましくは10から60g/10分、さらにより好ましくは15から40g/10分の範囲にあるであろう。
【0028】
このマトリクス相のポリマーは、ポリマーに基づいて、少なくとも70質量%のプロピレンおよび30質量%までのエチレンおよび/または少なくとも1種類のC4からC10−アルファオレフィンを含む。マトリクスに使用してよいC4からC10−アルファオレフィンの適切な例としては、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテンおよび1−オクテンが挙げられ、その中で、1−ブテンが好ましい第3のコモノマーである。プロピレンコポリマーが、15質量%未満、好ましくは10質量%未満、より好ましくは8質量%未満のエチレンを有するプロピレン−エチレンコポリマーであることがより好ましい。
【0029】
異相プロピレンコポリマー中のマトリクス相の量は、異相コポリマーの総質量の50から99質量%である。得られた製品の衝撃と剛性との間の良好なバランスを与えるために、マトリクスが、異相コポリマーの総量の55から85質量%の量のプロピレンホモポリマーであることが好ましく、60から80質量%がより好ましく、65から65質量%がさらにより好ましく、65から70質量%が最も好ましい。
【0030】
分散相は、不連続形態でマトリクス中に埋め込まれており、典型的に、透過型電子顕微鏡(TEM)法によって決定される、0.5から10マイクロメートルの範囲の粒径を有する。分散相のMFIは0.006から5g/10分(2.16kg/230℃)の範囲にあってよく、MFIが0.03から1.5g/10分の範囲にあることが好ましく、0.04から1g/10分の範囲にあることがより好ましい。
【0031】
本発明による組成物中の分散相は、分散相のエラストマーの総量に基づいて、20質量%より多い、好ましくは40質量%より多い、最も好ましくは50質量%より多いエチレン、および80質量%までの、好ましくは60質量%までの、より好ましくは55質量%までの少なくとも1種類のC3からC10−アルファオレフィンからなるエチレン−アルファオレフィンエラストマーを含む。分散相中のエチレンの量が40から60質量%の範囲にあることが最も好ましい。エチレンのコモノマーとして使用してよい適切なC3からC10−アルファオレフィンの例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテンおよび1−オクテンが挙げられる。本発明にプロピレン、1−ブテンおよび1−オクテンを使用することが好ましい。エチレン−プロピレンゴム(EPR)としても知られているエチレン−プロピレンコポリマーを分散相として使用することがより好ましい。EPR中のエチレンの量が40から60質量%の範囲にあることがより好ましく、45から55質量%の範囲にあることが最も好ましい。
【0032】
非晶性分散相の量は、異相プロピレンコポリマーの総量に基づいて、1から50質量%、好ましくは10から45質量%、より好ましくは15から40質量%、さらにより好ましくは20から38質量%、最も好ましくは30から35質量%の範囲にある。量が多すぎると、引張強度と剛性の特性が減少し、量が少なすぎると、衝撃特徴が比較的低くなってしまう。
【0033】
本発明によるプロセスに用いられる異相ポリプロピレンコポリマーは、任意の従来の技法、例えば、バルク重合、気相重合、スラリー重合、溶液重合またはそれらの組合せなどの多段階プロセスを使用することによって製造して差し支えない。どのような従来の触媒系、すなわち、チーグラー・ナッタまたはメタロセンを使用しても差し支えない。そのような技法および触媒が、例えば、国際公開第06/010414号パンフレット;Polypropylene and other Polyolefins, by Ser van der Ven, Studies in Polymer Science 7, Elsevier 1990;米国特許第4399054号明細書および米国特許第4472524号明細書に記載されている。当業者は、そのような異相系を製造するための様々な可能性を認識しており、本発明に使用すべき適切な異相ポリプロピレンコポリマーを製造するための適切な方法を見出すであろう。
【0034】
本発明による異相プロピレンコポリマーはさらに、添加剤、例えば、核剤および清澄剤、安定剤、離型剤、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、引掻き抵抗剤(scratch resistance agent)、高性能充填剤、耐衝撃性改良剤、難燃剤、発泡剤、再利用添加剤(recycling additives)、カップリング剤、抗菌剤、かぶり防止剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、滑剤などのポリマー加工助剤等を含有してもよい。そのような添加剤が当該技術分野においてよく知られている。当業者には、これらの添加剤を従来の効果的な量でどのように使用するかが分かるであろう。
【0035】
本発明によるプロセスにおいて、異相ポリプロピレンコポリマーにポリエチレンをさらに加えても差し支えない。ポリエチレンの量は、全改質ポリプロピレン組成物に基づいて、0から35質量%、好ましくは1から25質量%、より好ましくは5から15質量%であってよい。
【0036】
このポリエチレンは、任意の直鎖または分岐鎖の、置換または未置換の、エチレンホモポリマーおよび/またはエチレンと少なくとも1種類のC3からC10−アルファオレフィンのコポリマーであってよい。このコポリマーは、全コポリマー含有量の少なくとも85質量%の、好ましくは少なくとも90質量%のエチレン含有量を有してよい。前記ポリエチレン中のエチレンのコモノマーとして使用してよい適切なC3からC10−アルファオレフィンの例としては、、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテンおよび1−オクテンが挙げられ、プロピレンおよび1−ブテンが好ましいコモノマーである。
【0037】
前記ポリエチレンは、約0.920g/cm3未満の、好ましくは約0.900g/cm3未満の、より好ましくは0.890g/cm3未満の、最も好ましくは0.870g/cm3未満の密度を有することができる。この密度は0.850g/cm3より大きく、好ましくは0.860g/cm3より大きい(ISO1183/Aによる)。このポリエチレンのMFRは、0.1から100g/10分(2.16kg/230℃)の範囲にあるであろう。ポリエチレンが、良好な寸法安定性、すなわち、高い線熱膨張係数(CLTE)および良好な収縮のために、エチレンホモポリマーであることが好ましい。ポリエチレンが低密度ポリエチレン(LDPE)であることがより好ましい。
【0038】
ポリエチレンは、高圧法または低密度法などの当業者に公知の任意の技法を使用して製造してもよい。そのような技法は、例えば、米国特許第5272236号、同第5278272号、同第4937299号および欧州特許第129368号の各明細書、並びにHandbook of Polyethylene, by A.J. Peacock, ISBN: 0-8247-9546-6に記載されている。
【0039】
本発明によるプロセスに様々な添加剤を使用して差し支えない。これらの添加剤の例としては、核剤、安定剤、無機充填剤、例えば、タルク、顔料、表面張力改良剤、滑剤、熱安定剤、難燃剤、酸化防止剤、染料、可塑剤、帯電防止剤、強化材、および/またはマレイン酸変性ポリプロピレンなどのポリマーと充填剤との間の界面接合を向上させる成分が挙げられる。当業者は、必要以上の実験を行わずに、添加剤の任意の適切な組合せおよび添加剤の量を容易に選択できるであろう。添加剤の量は、その種類と機能に依存し、典型的に、前記組成物に基づいて、0から約30質量%、好ましくは0から約20質量%、より好ましくは0から約10質量%、最も好ましくは0から約5質量%である。
【0040】
本発明のプロセスに使用される様々な成分は、改質ポリプロピレン組成物を得るために、当該技術分野において公知の任意の手段を使用して、任意の順序で組み合わせてもよい。本発明のプロセスにおいて加えられる全ての成分の合計は、100質量%まで加わるべきである。それらの成分のいくつかまたは全ては、押出機に導入する前に、周囲温度で従来の混合装置内で予混しても、または任意の順序での添加により、または押出機の異なる部位での任意の従来の手段により、押出機内で直接的に溶融混合しても差し支えない。成分の質量比をより良く制御するために、有機過酸化物、助剤、酸捕捉化合物およびある安定剤は、一般に、予混され、次いで、異相プロピレンコポリマーに加えられて押出機に導入される。
【0041】
押出プロセスは、二軸スクリュー押出機などの任意の従来の押出機を使用して、ポリプロピレン組成物の融点を最終的には超える温度で行うことができる。その温度は、必要に応じて、押出機の異なる区域で変動して差し支えない。例えば、その温度は、供給区域での180℃からダイでの300℃まで変動して差し支えない。押出機内の温度は200から265℃まで変動することが好ましく;それより低い温度では、有機過酸化物と助剤との間の反応が妨げられ、その結果、好ましい性質を有するプロピレン組成物が得られないかもしれず;温度が高すぎると、望ましくない劣化プロセスが誘発し、機械的性質が不十分なポリプロピレン組成物が得られるかもしれない。同様に、押出機のスクリュー速度は、必要に応じて、変動してよく、典型的に、約100rpmから約400rpmまで変動してよい。
【0042】
押出機内の混合物の滞在時間は1分間より短くてよく、10秒と40秒の間であることが好ましい。短いけれども、この範囲内の滞在時間を適用することによって、改質ポリプロピレン組成物からなる成形品の反応の良好な制御および良好な外観が可能になる。
【0043】
さらに、本発明は、上述したプロセスにより得られる改質ポリプロピレン組成物に関する。
【0044】
本発明は特に、プロピレンホモポリマーおよび/またはマトリクス相のポリマーの総質量に基づいて、少なくとも70質量%のプロピレンおよび30質量%までのエチレンを含むプロピレンコポリマー、および/または少なくとも1種類のC4からC10−アルファオレフィンを含む、異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、50から99質量%のマトリクス相と、分散相のエラストマーの総質量に基づいて、20質量%より多いエチレンおよび80質量%までの少なくとも1種類のC3からC10−アルファオレフィンからなるエチレンアルファオレフィンエラストマーを含む、異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、1から50質量%の分散相とを含む異相プロピレンコポリマー、および酸捕捉化合物を含む改質ポリプロピレン組成物に関し、この組成物は、少なくとも1の、弾性指数p=ERλ/y;ここで、ERλが、λでのG’=G”での溶融物弾性であり;G’が貯蔵弾性率であり;G”が損失弾性率であり;λは、G’が決定されるG”の値であり;y=0.5λ+200;および/または50kJ/m2より大きい、ISO 180 4Aにしたがって測定される−20℃でのアイゾット衝撃強度;により特徴付けられる。
【0045】
改質ポリプロピレン組成物が、少なくとも1の、弾性指数p=ERλ/y;ここで、ERλが、λでのG’=G”での溶融物弾性であり;G’が貯蔵弾性率であり;G”が損失弾性率であり;λは、G’が決定されるG”の値であり;y=0.5λ+200;および50kJ/m2より大きい、ISO 180 4Aにしたがって測定される−20℃でのアイゾット衝撃強度;により特徴付けられることが好ましい。
【0046】
弾性指数は少なくとも1であり、弾性指数が1から4の範囲にあることが好ましい。何故ならば、そのような組成物は、良好なトラの縞模様の性質を示すからである。弾性指数pが1から3の範囲にあることがより好ましく、1から2の範囲にあることが最も好ましい。
【0047】
ISO 180 4Aにより測定した−20℃でのアイゾット衝撃強度は、好ましくは60kJ/m2より高く、より好ましくは65kJ/m2より高く、最も好ましくは70kJ/m2より高い。
【0048】
改質ポリプロピレン組成物は、少なくとも7のトラの縞模様の視認性により特徴付けられることが好ましく、少なくとも7.5がより好ましく、少なくとも8が最も好ましい。
【0049】
本発明による改質ポリプロピレン組成物は向上した加工性を示し、この組成物から製造された成形品は好ましい衝撃挙動を示す。この組成物は、ISO1133(2.16kg/230℃)により測定して、約1から約40g/10分の、好ましくは約1から20g/10分の、より好ましくは約4から10g/10分のメルトフローインデックス(MFI)を有する。
【0050】
本発明は、先に定義した改質ポリプロピレン組成物からなる成形品にも関する。この改質ポリプロピレン組成物は、様々な加工技法を使用して、成形(半)完成品に作りかえてよい。適切な加工技法の例としては、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、および押出圧縮成形が挙げられる。射出成形は、例えば、バンパーのような自動車外装部品、計器盤のような自動車内装部品、またはボンネット下の自動車部品などの物品を製造するために広く使用されている。押出成形は、棒材、シートおよびパイプなどの物品を製造するために広く使用されている。
【0051】
本発明による成形品は、良好な強度と剛性、低温でも高い衝撃特徴の好ましい組合せを示し、優れた外観を示す、特に、トラの縞模様のような欠陥の存在が最小である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】比較実験1による組成物のモルホロジーを示す顕微鏡写真
【図2】本発明による組成物のモルホロジーを示す顕微鏡写真
【実施例】
【0053】
本発明を、以下の非限定的実施例を参照してさらに説明する。
【0054】
実施例1
ミキサを用いて、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.69質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.06質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(「Luperco」802)と、0.10質量%の1,4−ブタンジオール−ジメタクリレート(BDDMA)と、0.05質量%の酸捕捉剤としてのステアリン酸カルシウムと、0.10質量%の安定剤としてのIrganox(登録商標)B225とを周囲温度(約20℃)で混合して、乾燥粉末配合物を得ることによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。次いで、この粉末配合物を、高剪断混合区画を備えた、Werner & Pfleiderer社のZSK30同方向回転二軸スクリュー押出機に投入した。この押出機を、240℃のバレル温度および250rpmのスクリュー速度で動作させて、粉末配合物を効果的に溶融し、均質化して、乾燥ペレットを生成した。得られた押出ペレットを下記に記載するように小板(plaques)に射出成形した。その結果が表1に示されている。
【0055】
実施例2
実施例1と同様であるが、ここでは、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.49質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.06質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.30質量%のBDDMAと、0.05質量%の酸捕捉剤としてのステアリン酸カルシウムと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0056】
実施例3
実施例1と同様であるが、ここでは、20g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.62質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.03質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.15質量%のBDDMAと、0.10質量%の酸捕捉剤としてのステアリン酸カルシウムと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0057】
実施例4
実施例1と同様であるが、ここでは、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、89.59質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、65g/10分のMFI(190℃で測定)を有する、10質量%のLDPEと、0.06質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.20質量%のBDDMAと、0.05質量%の酸捕捉剤としてのステアリン酸カルシウムと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0058】
比較実験A
実施例1と同様であるが、ここでは、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.81質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.04質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.05質量%のステアリン酸カルシウムと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0059】
比較実験B
実施例1と同様であるが、ここでは、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.74質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.06質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.10質量%のBDDMAと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0060】
比較実験C
実施例2と同様であるが、ここでは、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.54質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.06質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.30質量%のBDDMAと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0061】
比較実験D
実施例1と同様であるが、ここでは、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.437質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.063質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.35質量%の1,9−デカジエンと、0.05質量%のステアリン酸カルシウムと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0062】
比較実験E
実施例1と同様であるが、ここでは、4.5g/10分のMFIを有する、65質量%のプロピレンホモポリマーマトリクス相および52質量%のエチレンを有し、0.08g/10分のMFIを有する、35質量%の分散相を含む、99.437質量%の異相プロピレンコポリマー組成物と、0.063質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンと、0.35質量%のジビニルベンゼンと、0.05質量%のステアリン酸カルシウムと、0.10質量%の安定剤「Irganox」B225とを混合することによって、改質ポリプロピレン組成物を調製した。その結果が表1に示されている。
【0063】
アイゾット衝撃強度(ノッチ付き)を、0℃と−20℃でISO 180/4Aにしたがって測定した。65mmの長さ×65mmの幅×3.2mmの厚さの寸法を有する標準的な小板を、Engel45射出成形機を使用して、フィーダからノズルまで約215℃と235℃の温度で射出成形した。ひけマークのない良好な品質の小板を得るために、実験中に保持圧力、時間および射出速度を最適化した。
【0064】
トラの縞模様の評価
290mmの長さ×30mmの幅×3mmの厚さの寸法を有する小板を、Arburg6射出成形機を使用して射出成形した。サンプルは、以下の条件下で成形した:23.4、59.8および257.4mm/分の射出速度および200、240および280℃に設定された溶融物の温度。得られた小板を、肉眼により太陽光の下でトラの縞模様について目視検査した。トラの縞模様の視認性は、1と10の間で等級付けした。1は、トラの縞模様が極めてよく見えることを意味し、10は、目に見えるトラの縞模様が全く観察されないことを意味する。7と10の間のトラの縞模様の視認性を有する材料が、良好なトラの縞模様の性能を有すると考えられる。
【0065】
弾性指数(p)の測定
貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”は、Aresプレート・プレート・レオメータを使用して測定した。このレオメータは、230℃で、0.046と100rad/sの間の周波数の周波数掃引モードで動作させた。25mmの直径および1.8mmの厚さを有するディスクに圧縮成形されたサンプルに測定を行った。
【0066】
モルホロジーの測定
組成物のモルホロジーを、公知の透過型電子顕微鏡(TEM)法を使用して研究した。得られた顕微鏡写真が図1および2に示されている。
【0067】
機械的性質の測定
引張強度、破断点伸びおよび降伏伸びをISO R37/2にしたがって50mm/分の変形速度で測定した。縦弾性率は、23℃でASTM D790にしたがって測定した。収縮は、24時間に亘る23℃での状態調整後にISO 294−4にしたがって測定した。
【表1】

【0068】
表1は、酸捕捉剤の存在下で過酸化物およびBDDMAにより改質された異相プロピレンコポリマーが、質の悪い成形小板を生じた(比較実験BおよびC)過酸化物により改質された異相プロピレンコポリマーと比べて、射出成形中に容易に加工できた(実施例1〜4)ことを示している。実施例1〜3のサンプルは、1より大きい弾性指数、良好な機械的性質、例えば、高い縦弾性率、良好な剛性および50kJ/m2より大きい、さらには65kJ/m2より大きい−20℃での衝撃強度、および7より高い、さらには7.5より高いトラの縞模様の視認性を示す。さらにLDPEを含む実施例4のサンプルは、容易に加工され、良好な剛性および72kJ/m2の−20℃での衝撃強度を示している。図1および2に示されたTEM顕微鏡写真は、比較実験Aの過酸化物グレードの材料と過酸化物およびBDDMAにより改質された材料との相モルホロジーの間の著しい差を示している。これらの図面において、エチレンが豊富なゴム相;エチレン−プロピレンが豊富なゴム相;およびプロピレンが豊富なマトリクス相の3つの相を識別することができる。
【0069】
図1は、0.04質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンにより改質された異相ポリプロピレンコポリマー組成物のモルホロジーを示している。この顕微鏡写真は、表面層のポリマー小板の残りからの剥離を示している。プロピレンが豊富なゴム相の極端な配向性およびPPマトリクス相とゴム相との間の相互作用のないことのために、この種のモルホロジーを有する組成物は、剥離を受けやすくなる。
【0070】
図2は、0.04質量%のα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンおよび0.30質量%のBDDMAにより改質された異相ポリプロピレンコポリマー組成物のモルホロジーを示している。BDDMAは、エチレンが豊富なゴム相とプロピレンが豊富なゴム相の溶融物の弾性に目に見えて大きい影響を与える。明らかに、PPマトリクス、エチレン−プロピレンが豊富なゴム相、およびエチレンが豊富なゴム相の間の相互作用が、BDDMAにより著しく強化されている。
【0071】
異なるポリマー相の間の相互作用が増加したために、BDDMAを含有するサンプル(図2)は、BDDMAを含まないサンプル(図1)のような剥離構造を示さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質ポリプロピレン組成物を調製するプロセスにおいて、1:0.4から1:5の過酸化物:助剤の質量比で、少なくとも1種類の有機過酸化物と、助剤としてのn≧2である多(n)官能性アクリレートと、酸捕捉化合物とを、異相プロピレンコポリマーであって、プロピレンホモポリマーおよび/またはマトリクス相のポリマーの総質量に基づいて、少なくとも70質量%のプロピレンおよび30質量%までのエチレンを含むプロピレンコポリマー、および/または少なくとも1種類のC4からC10−アルファオレフィンを含む、前記異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、50から99質量%のマトリクス相と、分散相のエラストマーの総質量に基づいて、20質量%より多いエチレンおよび80質量%までの少なくとも1種類のC3からC10−アルファオレフィンからなるエチレンアルファオレフィンエラストマーを含む、前記異相プロピレンコポリマーの総質量に基づいて、1から50質量%の分散相とを含む異相プロピレンコポリマーに添加する工程を有してなるプロセス。
【請求項2】
前記有機過酸化物がα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンであることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記多(n)官能性アクリレートが1,4−ブタンジオール−ジメタクリレートであることを特徴とする請求項1または2記載のプロセス。
【請求項4】
前記過酸化物:助剤の質量比が1:1から1:4であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のプロセス。
【請求項5】
前記酸捕捉化合物がステアリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のプロセス。
【請求項6】
前記マトリクスがポリプロピレンホモポリマーであり、前記分散相が40質量%と60質量%の間のエチレンを含むことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のプロセス。
【請求項7】
さらにポリエチレンが加えられることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のプロセス。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載のプロセスにより得られる改質ポリプロピレン組成物において、少なくとも1の、弾性指数p=ERλ/y;ここで、ERλが、λでのG’=G”での溶融物弾性であり;G’が貯蔵弾性率であり;G”が損失弾性率であり;λは、G’が決定されるG”の値であり;y=0.5λ+200;および/または50kJ/m2より大きい、ISO 180 4Aにしたがって測定される−20℃でのアイゾット衝撃強度;により特徴付けられる組成物。
【請求項9】
少なくとも1の、弾性指数p=ERλ/y;ここで、ERλが、λでのG’=G”での溶融物弾性であり;G’が貯蔵弾性率であり;G”が損失弾性率であり;λは、G’が決定されるG”の値であり;y=0.5λ+200;および50kJ/m2より大きい、ISO 180 4Aにしたがって測定される−20℃でのアイゾット衝撃強度;により特徴付けられる請求項8記載の組成物。
【請求項10】
ISO 180 4Aにしたがって測定される−20℃でのアイゾット衝撃強度が65kJ/m2より大きいことを特徴とする請求項8または9記載の組成物。
【請求項11】
7より高いトラの縞模様の視認性によりさらに特徴付けられる請求項8から10いずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
前記弾性指数が1と4の間にあることを特徴とする請求項8から11いずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
請求項8から12いずれか1項記載の改質ポリプロピレン組成物からなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−528733(P2011−528733A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519065(P2011−519065)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005069
【国際公開番号】WO2010/009825
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】