説明

放射化コンクリート切断工事の施工方法

【課題】 海洋などに放流される放射能の量を工事全体として低減し、一般公衆への影響を低減することができる放射化コンクリート切断工事の施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 切断部分に冷却水を注水しつつ放射化コンクリートを切断する湿式切断工程S1と、湿式切断工程S1時に生じる放射化コンクリートスラッジを含む切断廃液1を、放射性物質を含有する固形分3と放射性物質が溶解された濾液2とに分離させる固液分離処理工程S2と、濾液2を中和して中和濾液4にする中和処理工程S3とを備える放射化コンクリート切断工事の施工方法において、固液分離処理工程S2によって生じた濾液2を、湿式切断工程S1時の冷却水として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射化されているコンクリートを切断するとともに、放射化されたコンクリートスラッジを含む切断廃液から放射性物質を除去する放射化コンクリート切断工事の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を解体する際、ワイヤーソー切断工法が用いられることが多い。ワイヤーソー切断工法を用いた解体作業では、切断中に冷却材として水を使用することから、コンクリートスラッジと水とが混ざり合ったスラリー状の切断廃液が発生する。一般のコンクリート構造物の解体作業においては、切断廃液は浮遊物質(SS)や水素イオン濃度(pH)等を一般環境放流基準に合致した性状に処理されてから河川や海洋に放流される。
【0003】
原子力発電所などの放射性物質を扱う施設のコンクリート構造物を解体する場合、コンクリートは放射化されているため、切断作業で発生した切断廃液中には放射性物質が含有されている。切断廃液中の放射性物質には、多量に存在する粒子状の核種(粒子状核種)と、水に溶解している核種(溶解性核種)とがある。したがって、切断作業で発生した切断廃液は、放射性物質除去後に所定の処理をしてから放流しなければならない。
【0004】
一方、通常、原子力施設には、放射性の廃液を処理する設備が設置されている(例えば、特許文献1参照。)。これによって、廃液中の放射性物質を除去することができるが、コンクリートの切断廃液は、施設運転中に発生する廃液と性状が大きく異なるとともに、施設運転中に発生する廃液に比べて大量に発生することから、前記設備では切断廃液を処理することが困難である。
【0005】
従来、放射化コンクリートを切断した際に発生する切断廃液を処理する方法が提案されている。この方法は、まずフィルタープレスを用いて切断廃液の固形分を除去して濾液とする固液分離処理工程(脱水工程)を行い、その後に固液分離処理により固形分が除去された濾液を中和する中和処理工程を行う方法である(例えば、特許文献2参照。)。この方法によれば、廃液の固形分を除去して濾液とする固液分離処理後に、この濾液のpHを下げる中和処理を行うので、切断廃液中の溶解していない放射性物質(粒子状核種)を固形分として取り出すことができる。そして、放射性物質が十分に除去された濾液を中和処理することによって一般環境に悪影響を与えない性状にすることができる。
【特許文献1】特開平9−230095号公報
【特許文献2】特開2002−333496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の処理方法で切断廃液を処理した場合、切断廃液中に多量に存在する粒子状核種については99.99%以上除去することができるものの、水に溶解した溶解性核種については15%程度しか除去することができずに処理後の濾液中に残存する。従来の処理方法を備えた放射化コンクリート切断工事の施工方法では、海洋などに放流される濾液の放射能濃度は微少であっても、工事全体で切断廃液が多量に生じる場合、海洋などに放流される放射能の全体量は多くなるという問題が存在する。したがって、冷却水を多量に用いる大規模工事の場合には、海洋などに放流される放射能の全体量が多くなり、一般公衆に影響を及ぼす虞が生じる。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、海洋などに放流される放射能量を工事全体として低減し、一般公衆への影響を低減することができる放射化コンクリート切断工事の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、切断部分に冷却水を注水しつつ放射化コンクリートを切断する湿式切断工程と、湿式切断工程時に生じる放射化コンクリートスラッジを含む切断廃液を、放射性物質を含有する固形分と放射性物質が溶解された濾液とに分離させる固液分離処理工程と、該濾液を中和して中和濾液にする中和処理工程とを備える放射化コンクリート切断工事の施工方法において、固液分離処理工程によって生じた前記濾液を、再び湿式切断工程時の冷却水として用いることを特徴としている。
【0009】
このような特徴により、濾液を冷却水として再利用することで、放射性物質が溶解された濾液は、一定量の放射性物質が溶解されて其れ以上溶解しなくなる状態(飽和状態)となり、飽和された濾液を冷却水として用いて湿式切断工程を行っても、濾液には放射性物質が溶解しなくなる。また、濾液を冷却水として再利用するため、中和されて最終的に放流されることになる中和濾液は、放射化コンクリート切断工事全体として少量となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法によれば、濾液を冷却水として再利用することで、放射性物質が溶解された濾液は、飽和状態となって湿式切断工程時に放射性物質が溶解しなくなるとともに、中和されて最終的には放流される中和濾液は、放射化コンクリート切断工事全体として少量となるため、濾液(中和濾液)の放射能濃度は増加するが、放流される放射能の全体量を減少させることができる。これによって、放射化コンクリート切断工事に伴う一般公衆への影響を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法の実施の形態について、図面に基いて説明する。図1は本発明の廃液処理方法の一実施形態を示すフローチャート図、図2は脱水処理で用いるフィルタープレス装置の概略図、図3は中和処理で用いる中和装置の構成図である。
【0012】
図1に示すように、放射化コンクリート切断工事の施工方法は、切断部分に冷却水を注水しつつ放射化コンクリートを切断する湿式切断工程S1と、湿式切断工程S1時に生じる放射化コンクリートスラッジを含む切断廃液1を、放射性物質を含有する固形分3と放射性物質が溶解された濾液2とに分離させる固液分離処理(脱水処理)工程S2と、濾液2を中和して中和濾液4にする中和処理工程S3とを有している。
【0013】
先ず始めに、湿式切断工程S1では、一般的に知られているワイヤーソー切断工法によって放射化コンクリートを切断する。切断部分に最初に注水される冷却水は清水5であり、この清水5と切断時に発生するコンクリートスラッジとが混合されてスラリー状の切断廃液1が生成される。切断時に発生するコンクリートスラッジには放射性物質が含まれており、このコンクリートスラッジを含む切断廃液1は、放射性物質が含まれているとともに、固形分濃度が高く、セメントに含まれる水酸化カルシウム溶解の影響から高pHである。
【0014】
次いで、固液分離処理工程S2では、切断廃液1をフィルタープレス装置10(図2参照)によって脱水処理し、固形分3と濾液2とに分離する。フィルタープレス装置10は、図2に示すように、締込板11と、締込板11に対向する位置に設けられている受板12と、締込板11と受板12との間に設けられた複数の濾過板13とを有している。締込板11は受板12に対して進退可能に設けられている。濾過板13どうしの間には濾室14が形成されるとともに、濾過板13のそれぞれの中央を貫通するように切断廃液1を通過させる流路15が設けられている。また、濾過板13どうしは連結部材16によって連結されている。
【0015】
フィルタープレス装置10を用いて切断廃液1を固形分3と水分2とに分離するには、図2(a)に示すように、締込板11と受板12とを接近させ、複数の濾過板13どうしを締め込みつつ、流路15を介して濾室14に切断廃液1を圧送する。
すると、切断廃液1中に含まれているコンクリートスラッジは固形分3として濾布に捕集される。一方、切断廃液1の水分は、濾液2として濾室14外に排出される。こうして、切断廃液1は固形分3と濾液2とに分離される。濾室14内の固形分3は、図2(b)に示すように、締込板11と受板12とを離間して濾室14を開放することにより排出される。この際、固形分3は容易にハンドリング可能である。
【0016】
切断廃液1中に含まれている放射性物質のうち粒子状核種は、フィルタープレス装置10を用いて分離された固形分3に含まれているため、濾液2中には、水に溶解した放射性物質(溶解性核種)のみが残存する。
【0017】
次いで、上記した固液分離処理工程S2によって生じた濾液2を冷却水として用いて、上述した湿式切断工程S1を行う。具体的には、濾室14外に排出された濾液2を切断部分に導いて、切断部分に濾液2を注水しつつ引き続き放射化コンクリートを切断する。このとき、放射化コンクリートへの染込み等による喪失量を補充すべく、切断部分に注水する濾液2に少量の清水を追加する。無論、喪失量が微少な場合は清水を追加する必要はない。
【0018】
次いで、冷却水として濾液2を用いた湿式切断工程S1によって発生した切断廃液1をフィルタープレス装置10によって固形分3と濾液2とに分離する固液分離処理工程S2を行う。
このように、上記した工程を繰り返し行い、濾液2を再利用して放射化コンクリートを切断する。このとき、濾液2の再利用を繰り返すことで、溶解性核種を含有する濾液2は飽和状態となる。
【0019】
ここで、溶解性核種を含有する濾液2は飽和状態となることを確認することができる試験データについて説明する。図4は例えば溶解性核種C−14(炭素14)を含有する切断廃液及び濾液の固形分濃度と放射能濃度との関係の一例を表すグラフである。図4に示すように、固液分離処理(脱水処理)工程S2前の切断廃液は、固形分濃度が上昇することで放射能濃度も上昇するが、各固形分濃度の切断廃液について固液分離処理工程S2を行うと、分離された濾液の放射能濃度はほとんど変化していない。この試験データにより、一定量の放射性物質が溶解すると溶解性核種起因の物質(炭酸塩や炭酸ガス等)が水に溶解しきれなくなって飽和状態となり、溶解されない放射性物質は粒子状核種として固形分と一緒に取り除かれたと考察される。したがって、飽和状態の濾液2を冷却水として用いると、飽和状態の濾液2に放射性物質が溶解することはない。
【0020】
次いで、放射化コンクリートを切断し終えた後、中和処理工程S3を行う。中和処理工程S3では、フィルタープレス装置10を用いた固液分離処理工程S2によって生成された濾液2を、図3に示すような中和装置20によって中和処理する。具体的には、セメントに含まれる水酸化カルシウム溶出の影響から高pHとなっている濾液2を炭酸ガスを用いて中和する。中和装置20は、ラインミキサー21と、ミキサー21に濾液2を送るポンプ22と、ミキサー21に炭酸ガスを圧送する炭酸ガス供給装置23とを備えている。本実施形態において、炭酸ガス供給装置23は炭酸ガスボンベである。ミキサー21では、濾液2と多量の炭酸ガスと混合することにより、濾液2を中和する。
【0021】
濾液2を炭酸ガスを用いて中和することにより、pHが一般環境へ悪影響を及ぼさない程度(海洋放流基準値pH5.0〜9.0の範囲内)の中和濾液4となる。また、炭酸ガスを用いた通常の中和処理では、濾液2中の溶解カルシウムが炭酸ガスと反応して炭酸カルシウム沈殿を生成して浮遊物質を増加させるが、本実施形態のように、濾液2と多量(所定量以上)の炭酸ガスとをラインミキサー21で強制混合して反応させることにより、炭酸カルシウムを重炭酸カルシウムとして再溶解させ、浮遊物質を100mg/リットル程度まで低減することができ、一般環境へ放出する際の基準値200mg/リットルを満足する。
【0022】
このように、固液分離処理工程S2及び中和処理工程S3を経て処理された中和濾液4は、浮遊物質(SS)を基準値以下とし、水素イオン濃度(pH)を基準値以下とし、且つ放射能量を低減させてから、一般環境(海洋など)に放流される。
【0023】
ここで、従来の施工方法のように、最初から最後まで清水5を切断箇所に注水し続けて湿式切断工程S1を行う場合と、上記した発明に係る施工方法のように、最初は清水5を切断箇所に注水し、その後は濾液2を再利用して湿式切断工程S1を行う場合とを比較する。
図5は、放流される中和濾液4の放射能濃度,放流される中和濾液4の量,及び放流される放射能量について、従来の施工方法と本発明に係る施工方法とを比較した一例を示す表である。図5に示すように、本発明の施工方法は、最終的に放流される中和濾液4の放射能濃度が従来の施工方法と比べて4倍程度増加するが、放流される中和濾液4の量が従来の施工方法と比べて10分の1程度になり、結果的に放流される放射能量は従来の方法と比べて2分の1程度になる。この結果により、本発明に係る施工方法では、従来の施工方法よりも多くの放射性物質が除去されたことが確認できる。
【0024】
上記した構成からなる放射化コンクリート切断工事の施工方法によれば、濾液2を冷却水として再利用することで、図4に示すように、放射性物質が溶解された濾液2は、飽和状態となって湿式切断工程時に放射性物質が溶解しなくなるとともに、中和されて最終的には放流される中和濾液4は、放射化コンクリート切断工事全体として少量となる。このため、図5に示すように、濾液2(中和濾液4)の放射能濃度は増加するが、放流される放射能の全体量を減少させることができる。これによって、放射化コンクリート切断工事に伴う一般公衆への影響を低減することができる。
【0025】
以上、本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記した実施の形態では、切断廃液1を濾液2と固形分3とを分離する際にフィルタープレス装置10が用いられているが、スラッジを含む廃液の水分と固形分とを十分に分離可能な装置であればなんでもよい。一方、フィルタープレス装置10を用いることにより、高い固液分離性能を得ることができるとともに、脱水処理後の固形分のハンドリングを容易にすることができる。
【0026】
また、上記した実施の形態では、中和処理工程S3に炭酸ガスを用いるが、本発明は、塩酸や硫酸等の他の酸を用いてもよい。ただし、炭酸ガスは、塩酸・硫酸を用いる場合に比べて安全であり、更に、中和処理に塩酸を用いた場合には腐食性ガスが生成され、硫酸を用いた場合には溶解しない沈殿物が生成されて浮遊物質の量が上昇する恐れがあるため添加量を管理しなければならないが、炭酸ガスでは所定量(溶解カルシウムを重炭酸カルシウムにするのに必要な量)以上を添加すればよく添加量管理が非常に容易なので、作業効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法の実施の形態を説明するためのフローチャート図である。
【図2】本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法の実施の形態を説明するための固液分離処理工程を行う装置を示す図である。
【図3】本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法の実施の形態を説明するための中和処理工程を行う装置を示す構成図である。
【図4】本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法の実施の形態を説明するための固形分濃度と放射能濃度との関係を表すグラフである。
【図5】本発明に係る放射化コンクリート切断工事の施工方法の実施の形態を説明するための本発明に係る施工方法と従来の施工方法とを比較した表である。
【符号の説明】
【0028】
1 切断廃液
2 濾液
3 固形分
4 中和濾液
S1 湿式切断工程
S2 固液分離処理工程
S3 中和処理工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断部分に冷却水を注水しつつ放射化コンクリートを切断する湿式切断工程と、
湿式切断工程時に生じる放射化コンクリートスラッジを含む切断廃液を、放射性物質を含有する固形分と放射性物質が溶解された濾液とに分離させる固液分離処理工程と、
該濾液を中和して中和濾液にする中和処理工程とを備える放射化コンクリート切断工事の施工方法において、
固液分離処理工程によって生じた前記濾液を、湿式切断工程時の冷却水として用いることを特徴とする放射化コンクリート切断工事の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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