説明

放射性フッ素標識化合物の製造方法

本発明は、オンカラム法において、高い収率で各種放射性フッ素標識化合物を得ることができる方法を提供する。本発明の製造方法は、標識合成用の陰イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する工程と、該カラムの脱水を行う工程と、該カラムに反応基質を導入し、該カラムに捕集された[18F]フッ化物イオンと該反応基質中の脱離基との間で置換反応させ、放射性フッ素標識化合物を得る工程とを含む放射性フッ素標識化合物の製造方法において、カラムの脱水工程と反応基質導入工程の間に該カラムに炭酸ガスを通気させる工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性フッ素標識化合物の製造方法及び製造装置に関する。更に詳しくは、2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(以下、[18F]−FDGと略す)や各種フッ素化合物を高い収率で得ることができる、放射性フッ素標識化合物の製造方法及びその製造を行うための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、PET(陽電子放射断層画像)用医薬品の有効成分として知られる[18F]−FDG及びその中間体である1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(以下[18F]−TAFDGと略す)を製造する方法は種々提案されており、例えば、反応容器中で標識合成を行うHamacher法と、カラムで標識合成を行うオンカラム法とが知られている。
【0003】
Hamacher法(非特許文献1)は、まず、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を通して[18F]フッ化物イオンを捕集する。次に、このカラムに炭酸カリウム水溶液を導入し、カラム中の[18F]フッ化物イオンを溶離させ、溶液を反応容器に回収する。この反応容器内に相間移動触媒としてアミノポリエーテル(クリプトフィックス222)が溶解したアセトニトリル溶液を加えて蒸発乾固させる。そして、基質の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(以下、TATMという)が溶解したアセトニトリル溶液を加え、放射性フッ素標識化合物中間体[18F]−TAFDGを得、加水分解後、精製して[18F]−FDGを得る。
【0004】
しかしながら、Hamacher法は、操作手順が多く、合成に時間がかかりすぎ、製造途中に時間と共に[18F]が崩壊(半減期109.7分)してしまい、結果的に[18F]フッ素化合物の収量が少なくなるという問題がある。また、この方法は毒性のあるアミノポリエーテルを使用するため、医薬品として使用する場合に、アミノポリエーテルの除去操作が必要となり、操作が煩雑になるという問題がある。
【0005】
一方、オンカラム法は、[18F]フッ化物イオンを捕集したカラムに直接TATMが溶解したアセトニトリル溶液を導入して[18F]−TAFDGを得る方法である。例えば、ホスホニウム塩を有する樹脂をカラムに充填して、このカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集し、更にアセトニトリルで脱水した後、TATMを溶解したアセトニトリルを加え、[18F]−TAFDGを得る方法(特許文献1)が開示されている。
【非特許文献1】Appl.Radiat.Isot.Vol.41,no.1,pp.49−55(1990)
【特許文献1】特開平8−325169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オンカラム法による製造方法は、十分な製造収率を得ることができないという問題を有している。例えば、特許文献1に開示された方法では、FDGの収率は61%と報告されている。放射性フッ素標識化合物を工業的に生産するためには、より製造収率の高い方法を用いる必要があるが、そのような方法は未だ開示されていない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、オンカラム法において、高い収率で各種放射性フッ素標識化合物を得ることができる方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、近年、数グラムの水を処理するスタティック型のターゲットに加え、より多くの水を処理し得る循環式ターゲットが開発されている。これにより、10mL以上の多量の[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を製造することが可能となってきている。このような技術的な背景により、多量の[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を用いた場合においても、高い収率で放射性フッ素標識化合物を製造する方法が求められている。そこで本発明では、多量の[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を用いた場合においても、高い収率で安定して各種放射性フッ素標識化合物を得ることができる方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を行った結果、オンカラム法において、[18F]フッ化物イオンを捕集したカラムの脱水工程と該カラムへの反応基質導入工程との間に、カラムに炭酸ガスを通気させる工程を行うことにより、上記問題点が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、標識合成用の陰イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する工程と、該カラムの脱水を行う工程と、該カラムに反応基質を導入し、該カラムに捕集された[18F]フッ化物イオンと該反応基質中の脱離基との間で置換反応させ、放射性フッ素標識化合物を得る工程とを含む放射性フッ素標識化合物の製造方法において、カラムの脱水工程と反応基質導入工程の間に該カラムに炭酸ガスを通気させる工程を含むことを特徴とする、放射性フッ素標識化合物の製造方法である。
炭酸ガスを通気する条件は、種々の条件を用いることができるが、該カラムを60〜130℃に保持した状態で通気させることが好ましく、さらに流速1.0〜1000mL/minで1〜15分間通気させることが好ましい。
【0010】
本発明で用いる前記標識合成用の陰イオン交換樹脂は、下記一般式(1)〜(3)で示される少なくとも1種であることが好ましく、特に下記一般式(1)〜(3)におけるZがHCO又はCO2−から選択される樹脂であることがより好ましい。

(但し、上記式中Aは担体、Yは炭素数1〜8の一価炭化水素基、Zは交換基を示す。)
【0011】
本発明の別の側面によると、ターゲットボックスから[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を標識合成用樹脂カラムに導入する手段と、該ターゲット水容器から導入された[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水から[18F]フッ化物イオンを捕集し、次いで反応基質と標識反応を行うための標識合成用樹脂カラムとを構成要素に含む放射性フッ素標識化合物の製造装置において、該標識合成用樹脂カラムに炭酸ガスを導入するための炭酸ガス供給源と排出口を有したことを特徴とする放射性フッ素標識化合物の製造装置が提供される。
また、本発明の装置は前記標識反応によって得られた中間生成物の脱保護工程を行うための反応容器と、該脱保護工程によって得られた生成物を精製するためのイオン遅滞樹脂カラムが構成要素として含まれたものであっても良い。
【0012】
炭酸ガスの供給源は、標識合成用樹脂カラムに炭酸ガスを直接導入可能である限り特に限定はされないが、標識合成用樹脂カラムに直接連結されることが好ましい。
さらに本発明の放射性フッ素標識化合物の製造装置は、該標識合成用樹脂カラムの加熱手段を有することが好ましい。
【0013】
本発明の放射性フッ素標識化合物の製造装置では、前記標識合成用樹脂カラムに上記一般式(1)〜(3)で示される少なくとも1種が充填されていることが好ましく、式中ZがHCO又はCO2−から選択される樹脂であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る放射性フッ素標識化合物の製造方法は、[18F]−FDG等の放射性フッ素標識化合物を高い収率で確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の製造方法について、更に詳しく説明する。
本発明の製造方法は、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水をカラムに導入して[18F]フッ化物イオンを捕集し、該カラム内で標識合成を行う、という点から所謂オンカラム法による製造方法に分類される。ここで、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水は、常法に従って製造でき、例えば、[18O]水をターゲットとしてプロトン照射することにより得ることができる。
【0016】
次に、本発明の放射性フッ素標識化合物の製造方法について図面を参照して説明する。図1は本発明に係る装置の一例を示す概略説明図である。図1において、1はターゲットボックス、2はターゲット水容器、3はシリンジポンプ、4は流路切替バルブ、5は標識合成用樹脂カラム、6は回収容器、7は脱水溶媒容器、8は廃液容器、9は反応基質容器、10は反応容器、11はイオン遅滞樹脂カラム、12は精製カラムを示す。
【0017】
図1に示す装置は、ターゲットボックス1から[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を回収するターゲット水容器2と、該ターゲット水容器2から導入された[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水より[18F]フッ化物イオンを捕集し、次いで反応基質と標識反応を行うための標識合成用樹脂カラム5と、該標識反応によって得られた中間生成物の脱保護工程を行うための反応容器10と、該脱保護工程によって得られた生成物を精製するためのイオン遅滞樹脂カラム11、を構成要素として含んでいる。
図1の装置では、脱水溶媒容器7、反応基質容器9がターゲット水容器2と標識合成用樹脂カラム5の間に接続され、回収容器6、廃液容器8が標識合成用樹脂カラム5と反応容器10の間に接続されている。また、炭酸ガスの供給源は標識合成用樹脂カラム5の直ぐ上流側に接続されており、該標識合成用樹脂カラム5に炭酸ガスを直接導入することができる。
また、圧送用ガスを供給する供給口21aが脱水溶媒容器7と反応基質容器9の上流側に、ガスの排出口21bがイオン遅滞樹脂カラム11の下流側に、排出口21cがイオン遅滞樹脂カラム11の上流側に設けられている。
【0018】
本発明の製造方法における第一の工程では、標識合成用樹脂カラム5に[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する。
この工程を図1を参照して説明すると、まず、ターゲットボックス1から[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水がターゲット水容器2に導入される。次いで、流路切替バルブ4を調節し、シリンジポンプ3を操作することによりターゲット水容器2から[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を標識合成用樹脂カラム5に通液する。標識合成用樹脂カラム5では充填された標識合成用の陰イオン交換樹脂に、[18F]フッ化物イオンが捕集される。[18F]フッ化物イオンが捕集された後の[18O]水は、供給口21aから導入されるヘリウムガスや窒素ガス等の圧送用ガスでカラム外に排出され、回収容器6にリサイクルのために収容される。
【0019】
本発明の製造方法において、標識合成用の陰イオン交換樹脂は、公知の樹脂を使用することができ、例えば、下記一般式(1)〜(3)で示される樹脂の少なくとも1種を使用することができる。
【0020】

(但し、上記式中Aは担体、Yは炭素数1〜8の一価炭化水素基、Zは交換基を示す。)
【0021】
本発明に用いる標識合成用の陰イオン交換樹脂のより具体的な例としては、下記式(4)〜(8)で示されるような樹脂を例示することができる。
【0022】

(但し、上記式中nは1〜10までの整数、Yは炭素数1〜8の一価炭化水素基、Rは担体、Zは交換基を示す。)
【0023】
ここで、上記式中nは1〜10までの整数、好ましくは1〜3の整数、最も好ましくは1である。また、Yは炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、好ましくは1〜4の一価炭化水素基、更に好ましくはブチル基である。
Rは特に限定されないが、反応工程中に分解や官能基の脱離を起こさないものを用いる必要がある。また、溶媒等による膨潤や収縮の少ないものを用いることが好ましく、反応基質を溶解させる溶媒中における膨潤率が10倍以下のものを用いることが好ましい。具体的には、シリカゲルや、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体などが好ましく用いられる。
また、交換基であるZとしては、臭素、塩素、HCO、CO2−等を挙げることができ、特に好ましくはCO2−、HCOである。
【0024】
標識合成用樹脂の具体例としては、下記化学式(10)、(12)で示されるTBA(Tributylmethylammonium)樹脂、下記化学式(11)、(13)で示されるTBP(Tributylmethylphosphonium)樹脂、下記化学式(14)で示される4−AP(4−(4−methyl−1−piperidinyl)pyridinium)樹脂、下記化学式(15)で示されるTMA(Trimethylammonium)樹脂を特に好適に挙げることができる。
【0025】

【0026】
上記標識合成用の陰イオン交換樹脂を充填するカラムに制限はなく、通常のオンカラム法で使用されているカラムを使用できる。例えば、出願人が先に提案した特願2003−75650号に記載されたカラムを好適に使用することができる。このカラムは樹脂の膨張や収縮に好適に対応し得ることから、本発明で使用する樹脂をより多く充填することができるため、より[18F]フッ化物イオンを収率よく捕集できる。
【0027】
樹脂の充填量としては特に限定されないが、処理する[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の量及びカラムの内径に応じて適宜選択されれば良い。例えば、内径6mmのカラムを用いて10mLの[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を処理する場合は、0.2mLの樹脂を用いれば充分であり、5mLの[18O]水を処理する場合は、0.1mLの樹脂を用いれば充分である。
【0028】
本発明の製造方法における第二の工程では、標識合成用樹脂カラム5の脱水を行う。該カラムの脱水は公知の方法を採用することができ、具体的には、[18F]フッ化物イオンを捕集した標識合成用樹脂カラム5にアセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の適当な溶媒を通液することにより行うことができる。
【0029】
流路切替バルブ4の操作によって、脱水溶媒容器7と標識合成用樹脂カラム5が連結され、シリンジポンプ3を操作することにより脱水溶媒容器7より脱水溶媒が[18F]フッ化物イオンを捕集した標識合成用樹脂カラム5に通液される。ここで、標識合成用樹脂カラム5に脱水溶媒を通液することでカラム内の脱水が行われる。カラムを通過した脱水溶媒は廃液容器8に回収される。脱水溶媒は種々のものを用いることができ、例えば、[18F]−FDGの合成の場合は、脱水したアセトニトリルを好適に用いることができる。
脱水溶媒を通液する条件としては特に限定されないが、室温下で流速10mL/minで1分程度導入すれば良い。
【0030】
本発明の製造方法における第三の工程では、上記第二工程で脱水した標識合成用樹脂カラム5に炭酸ガスを導入する。
炭酸ガスの供給源と排出口を設置する場所は、標識合成用樹脂カラム5に炭酸ガスを導入可能である限り特に限定はされない。炭酸ガスは目的上、標識合成用樹脂カラム5にのみ導入されれば良く、供給源と排出口が標識合成用樹脂カラム5の上流側と下流側のライン上に設置されるのが好ましい。この時、炭酸ガスの供給源及び排出口はそれぞれ標識合成用樹脂カラム5の上流側、下流側のどちらに設置されても良い。
図1においては、標識合成用樹脂カラム5の直ぐ上流側に炭酸ガスの供給源を流路切替バルブ4を介して設けている。この例において、炭酸ガスの供給源から導入される炭酸ガスは、標識合成用樹脂カラム5を通過した後排出口21cから排出される。また、別途標識合成用樹脂カラム5のすぐ下流側に排出口を設けて炭酸ガスを排出しても良い。
【0031】
炭酸ガスの導入条件は、標識合成用樹脂カラム5に炭酸ガスを十分に導入し得る条件である限り特に限定されないが、圧力を0.01〜1MPaとすることが好ましく、0.1〜0.3MPaとすることがより好ましい。流速は1.0〜1000mL/minとすることが好ましく、400〜500mL/minとすることがより好ましい。
炭酸ガスを通気させている間、市販のオイルヒーターやヒーターブロック、カラムオーブン等の適当な加熱手段によって、標識合成用樹脂カラム5を60〜130℃に加熱することが好ましく、90〜100℃に加熱することがより好ましい。該カラムの温度が低すぎると熱不足となるため好ましくなく、高すぎると樹脂や後に導入される反応基質の分解を生じさせる場合があるため好ましくない。
炭酸ガスの通気時間は、好ましくは1〜15分間、特に好ましくは2〜4分間連続して行う。通気時間が短すぎると、COの補充が不十分となるため好ましくない。
【0032】
標識合成用樹脂カラム5に炭酸ガスを通気させることにより、該カラムに残存している極微量の水分、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の脱水溶剤を除去できると共に、第一及び第二工程で減少した樹脂中のCOを補充することができる。
【0033】
本発明の製造方法における第四の工程では、標識合成用樹脂カラム5に反応基質を導入し、捕集された[18F]フッ化物イオンと反応基質中の脱離基との間で置換反応させる。
18F]−FDGを例にとり説明すると、まず、上記設定温度を保持した状態で、流路切替バルブ4を調節してシリンジポンプ3を操作することにより、標識合成用樹脂カラム5に、反応基質容器9から反応基質であるTATMを溶解させたアセトニトリル溶液を導入する。標識合成用樹脂カラム5中でTATMの脱離基であるO−トリフルオロメタンスルホニル基と[18F]フッ化物イオンの置換反応が起こり、[18F]−FDG中間体である[18F]−TAFDGが生成する。その後、[18F]−TAFDGとアセトニトリル溶液を反応容器10へ導入する。
【0034】
反応容器10では、必要に応じて脱保護を行う。[18F]−FDGの合成の場合は、反応容器10でアセトニトリルを留去し、続いてHClを加え加熱することにより[18F]−TAFDGが加水分解され[18F]−FDGが生成する。
得られた[18F]−FDGは更にイオン遅滞樹脂カラム11及び精製カラム12で精製され、[18F]−FDGが得られる。
【0035】
なお、本発明で製造される種々の放射性フッ素標識化合物とは、中間体及び最終生成物のうちのいずれであってもよい。すなわち、本発明によって製造される放射性フッ素標識化合物とは、本発明の製造方法で捕集された[18F]フッ化物イオンと結合した化合物のことをいい、例えば、[18F]−FDG、アミノ酸やエチレングリコールジトシレートのフッ素化合物及びその中間体を挙げることができ、特に、[18F]−FDG、[18F]−FMACBC(フルオロメチルアミノシクロブタンカルボン酸)中間体、[18F]−FACBC(フルオロアミノシクロブタンカルボン酸)中間体、[18F]−FET(フルオロエチルチロシン)中間体、[18F]−FEtOTs(フルオロトシルオキシエタン)を挙げることができる。
【0036】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
尚、実施例において使用した標識合成用樹脂は、TBP樹脂として商品名;90808:Tributylmethylphosphonium chloride polymer bound(Fluka社製)、TBA樹脂として商品名;90806:Tributylmethylammonium chloride polymer bound(Fluka社製)、4−AP樹脂として4−(4−methyl−1−piperidino)pyridinium functionalized polystyrene resin(GE社製 FDG MicroLab用キット)を使用した。
【実施例1】
【0037】
TBP樹脂を用いた炭酸ガスの効果
以下の1)〜6)の工程に従い、[18F]−TAFDGを製造した。
1)サイクロトロンにおいて[18O]水にプロトン照射し、核反応〔18O(p,n)18F〕によって放射性フッ素−18([18F])を生成させ、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を得、この水の放射能量(a)を測定した。
2)カラム(内径6mm)に表1に示す量を充填したTBP樹脂につき樹脂量の100倍量の1.8M KCOを5mL/minで通液し炭酸型に置換した。工程1)で得られた[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水0.1mL、10mLそれぞれを、流速2mL/minで導入し、[18F]フッ化物イオンを捕集した。使用した[18O]水はバイアルに回収し、放射能量(b)を測定した。
3)[18F]フッ化物イオンを捕集したカラムに、アセトニトリルを24℃、圧力0.1MPa、流量10mL/minの条件下で1分間注入し、脱水を行った。使用したアセトニトリルの放射能量(c)を測定した。
4)カラムをアルミ製ヒーターブロックで95℃に加熱しながら、カラムに炭酸ガスを圧力0.1MPa、流量500mL/minの条件下で3分間導入し、TBP樹脂を乾燥させた。
5)TATM20mgをアセトニトリル1.0mLに溶解させた液を該カラムに通液して、TATMと[18F]フッ化物イオンとを反応させ、カラム下流側より[18F]−TAFDGアセトニトリル溶液を回収した。得られた[18F]−TAFDGの放射能量(d)を測定した。
6)上記工程で測定した各放射能量から、次式を用いて[18F]−TAFDGの収率を算出した。
収率(%)=(d)/〔(a)−(b)−(c)〕×100
また、得られた[18F]−TAFDGの放射化学的純度を下記の条件の薄層クロマトグラフィー(TLC)により求めた。TLCチャートを図2に示す。得られた放射化学的純度の値は100%であり、本法によって[18F]−TAFDGが製造されうることが示された。
(TLC条件)
展開相:クロロホルム/酢酸エチル=4/1
TLCプレート:Silica Gel 60F254(商品名、膜厚:0.25mm、メルク社製)
展開長:10cm
【0038】
比較例1として、上記工程4)の炭酸ガスをヘリウムガス又は窒素ガスに代えた他は実施例1と同様の条件で[18F]−TAFDGを製造し、収率を求めた。ただし、窒素ガスを使用した[18F]−TAFDGの製造は0.1mLの[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を使用した場合のみで行った。
実施例1及び比較例1における収率の値を表1に示す。
【0039】
【表1】

【実施例2】
【0040】
TBA樹脂を用いた炭酸ガスの効果
標識合成用樹脂としてTBA樹脂を用いた他は、実施例1と同様の方法により、[18F]−TAFDGを製造し、収率を求めた。
また、比較例2として、工程4)の炭酸ガスをヘリウムガス又は窒素ガスに代えた他は実施例2と同様の条件とし[18F]−TAFDGを製造した。ただし、窒素ガスを使用した[18F]−TAFDGの製造は10mLの[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を使用した場合のみで行った。
実施例2及び比較例2における収率の値を表2に示す。
【0041】
【表2】

【実施例3】
【0042】
4−AP樹脂を用いた炭酸ガスの効果
標識合成用樹脂として4−AP樹脂を用いた他は、実施例1と同様の方法により、[18F]−TAFDGを製造し、収率を求めた。
また、比較例3として、工程4)の炭酸ガスをヘリウムガス又は窒素ガスに代えた他は実施例3と同様の条件とし[18F]−TAFDGを製造した。
尚、実施例3においては、0.1mLの[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を使用した場合のみで製造を行った。
実施例3及び比較例3における収率の値を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表1乃至表3の結果からわかるように、本発明の放射性フッ素標識化合物の製造方法は[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の使用量が少量(0.1mL)であっても、多量(10mL)であっても、比較例の不活性ガスを使用した場合に比べ、明らかに高い収率で[18F]−TAFDG標識を行うことができた。
とりわけ、その効果が高く現れているのは4−AP樹脂における効果であり、表3からもわかるように窒素ガスを用いた比較例と比べて25%も高い収率で[18F]−TAFDGを製造することができた。また、表1に示した通り、TBP樹脂に対しても炭酸ガスの効果が確認され、10mLのターゲット水を用いた例においては20%もの収率向上が認められた。さらに、表2に示した通り、TBA樹脂においても炭酸ガスを通気させることによる収率向上が確認された。
これらの結果から、炭酸ガスを用いる事によって、[18F]フッ化物イオンを含む多量の[18O]水を使用した場合においてもフッ素標識の収率が向上することがわかった。また、TBP樹脂を用いて製造した場合(表1)に最も収率が高いことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例に係る製造プロセスを示す概略図である。
【図2】TLCチャートの代表例である。
【符号の説明】
【0046】
1 ターゲットボックス
2 ターゲット水容器
3 シリンジポンプ
4 流路切替バルブ
5 標識合成用樹脂カラム
6 回収容器
7 脱水溶媒容器
8 廃液容器
9 反応基質容器
10 反応容器
11 イオン遅滞樹脂カラム
12 精製カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識合成用の陰イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する工程と、該カラムの脱水を行う工程と、該カラムに反応基質を導入し、該カラムに捕集された[18F]フッ化物イオンと該反応基質中の脱離基との間で置換反応させ、放射性フッ素標識化合物を得る工程とを含む放射性フッ素標識化合物の製造方法において、カラムの脱水工程と反応基質導入工程の間に該カラムに炭酸ガスを通気させる工程を含むことを特徴とする放射性フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項2】
炭酸ガスを通気させる工程において、前記カラムを60〜130℃に保持することを特徴とする請求項1に記載の放射性フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項3】
炭酸ガスを通気させる工程において、炭酸ガスを流速1.0〜1000mL/minで1〜15分間通気させることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項4】
前記標識合成用の陰イオン交換樹脂が下記一般式(1)〜(3)で示される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放射性フッ素標識化合物の製造方法。

(但し、上記式中Aは担体、Yは炭素数1〜8の一価炭化水素基、Zは交換基を示す。)
【請求項5】
前記一般式中ZがHCO又はCO2−から選択される少なくとも1種を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の放射性フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項6】
ターゲットボックスから[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を標識合成用樹脂カラムに導入する手段と、
該ターゲット水容器から導入された[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水から[18F]フッ化物イオンを捕集し、次いで反応基質と標識反応を行うための標識合成用樹脂カラムと、
を構成要素に含む放射性フッ素標識化合物の製造装置において、該標識合成用樹脂カラムに炭酸ガスを導入するための炭酸ガス供給源と排出口を有したことを特徴とする放射性フッ素標識化合物の製造装置。
【請求項7】
前記炭酸ガスの供給源が前記標識合成用樹脂カラムに直接連結されていることを特徴とする請求項6に記載の放射性フッ素標識化合物の製造装置。
【請求項8】
前記標識合成用樹脂カラムの加熱手段を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の放射性フッ素標識化合物の製造装置。
【請求項9】
前記標識合成樹脂用カラムに、下記一般式(1)〜(3)で示される樹脂の少なくとも1種が充填されることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の放射性フッ素標識化合物の製造装置。

(但し、上記式中Aは担体、Yは炭素数1〜8の一価炭化水素基、Zは交換基を示す。)
【請求項10】
前記一般式中ZがHCO又はCO2−から選択される少なくとも1種を有するものであることを特徴とする請求項9に記載の放射性フッ素標識化合物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/044758
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515333(P2005−515333)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016533
【国際出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】