説明

放射性物質回収材

【課題】液体または気体に含まれる放射性物質の回収に有用であり、従来開発されてきたチャコールフィルタ等に代わり得る放射性物質回収材の提供。
【解決手段】、従来開発されてきたチャコールフィルタ等に代わり得る物質として環状オリゴ糖を捕捉成分として含む放射性物質回収材を得た。また、該放射性物質回収材を用いる放射性物質回収フィルタや放射性物質の回収方法、放射性物質の回収率を把握する方法等を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性物質回収材に関する。さらに詳しくは、環状オリゴ糖を捕捉成分として含む放射性物質回収材、該放射性物質回収材を用いる放射性物質回収フィルタ、または放射性物質を回収する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電の核燃料としてウランやプルトニウムが使用され、甲状腺ガンや甲状腺機能障害の診断薬、治療薬として放射性ヨウ素が使用される等、近年では放射性物質が、医療、農業、工業、学術研究分野等の様々な分野において幅広く活用されている。
放射性物質はこのように有用な物質であるが、ヒトや動物の体内に移行して長期に留まり放射線を放出すると、発ガンや生体機能の低下といった深刻な影響を与えることが懸念されている。そこで、放射性物質の使用には、使用する部屋における放射性物質の濃度限度や、放射性物質を含んだ空気や液体を排出する際の放射性物質の濃度限度等が法令によって厳しく規制されており、特定の認可を受けた施設で放射性物質を使用することが義務付けられている。
【0003】
放射性物質のうち、ヒトや動物の体内に長期間留まる核種としては、トリチウム(3H、半減期:約12年)、ウラン(238U、半減期:約4.5×109年)、プルトニウム(239Pu、半減期:2.4×104年)、アメリシウム(241Am、半減期:約430年)、放射性ヨウ素(131I、半減期:約8日)、放射性炭素(14C、半減期:約5.7×103年)、放射性ストロンチウム(89Sr、半減期:約51日)、放射性イットリウム(90Y、半減期:約64時間)等の同位体が挙げられる。中でも放射性ヨウ素は揮発しやすく、環境中に容易に飛散する核種であるため、濃度限度が他の核種と比べて特に低く設定されており、管理が難しいという問題があった。
【0004】
医療分野において利用されている放射性ヨウ素は、甲状腺ガンや甲状腺機能障害等の患者に投与されている。この放射性ヨウ素は患者の尿や汗、唾液を介して体外に排出され、空気中に飛散することによって、医師や看護師等の医療スタッフ、患者の家族等が継続的な甲状腺の被曝を受ける恐れがある。これを避けるためには、放射性ヨウ素が空気中に飛散することを防止するとともに、空気中の放射性ヨウ素を効率的に除去することが重要となる。
また、放射性ヨウ素を含んだ患者の排泄物の廃棄においても、排泄物に含まれる放射能が減衰して、濃度限度以下になるまで数ヶ月〜1年間に渡って排水貯留槽で保管したり、数トンもの水を使って希釈したりする必要がある。このような排水設備は大掛かりであり、1台増設する際に一般的に4〜5千万円の費用が必要となる。また、このような高価な排水設備であるにもかかわらず、1台あたりで対応できる患者数はひと月に1〜2名程度であるため、早期に治療を受けることが望まれるガン患者であるにも関わらず、数ヶ月間から場合によっては1年間以上も治療を受けられないという問題があった。
【0005】
さらに、放射性ヨウ素は原子力発電において核燃料が燃焼する際にも多く生成されるため、原子力発電所や再処理施設等の原子力施設においても、大がかりなプラントを用いて放射性ヨウ素を含んだ気体および液体の除去処理が行われている。
このプラントが安全に稼動しているかを定期的に点検する必要があるが、プラント内の放射性ヨウ素の空気中濃度が濃度限度以下になるまで内部に作業者が立ち入ることができず、必要なときにスムーズに点検が行えないという問題もあった。
【0006】
従来、気体に含まれる放射性ヨウ素は、チャコールフィルタ(活性炭フィルタ)を用いて吸着除去されるのが主であった。チャコールフィルタには、非焼却型と焼却型のものが市販、流通されており、焼却型のチャコールフィルタは放射性ヨウ素を吸着した後、そのまま焼却処分できるとされてきた。しかし実際は、焼却処分の際に、フィルタ内部に粒状で存在する活性炭が焼却炉内に散乱してしまい、活性炭自体の処分ができないという問題があった。
そこで、使用後のチャコールフィルタを放射能が減衰して濃度限度以下になるまで保管するか、フィルタの外枠と放射性ヨウ素が吸着した活性炭とを分離させ、活性炭を微粉化する粉砕処理を行った上で焼却処理が行われてきた。しかし、この微粉化処理には非常に手間がかかるとともに、放射性ヨウ素の飛散が懸念され、安全なものとはいえなかった(例えば、非特許文献1、参照)。
【0007】
近年、細孔形状を有する活性炭の繊維シート等を用い、焼却処分において、粉砕処理を必要としないチャコールフィルタ等が開発されてきている(例えば、特許文献1〜3、参照)。しかし、活性炭は放射性ヨウ素以外のあらゆるものを吸着してしまうため、有効な使用期間が短いという問題もある。
また、Ca−Ag型ゼオライト、ハイドロタルサイトまたはベーマイト等を担持材として、アパタイトでコーティングしたものにより、気体に含まれる放射性ヨウ素を吸着する技術も開発されており、原子力発電所等で発生する放射性ヨウ素ガスを、直接、Ca−Ag型ゼオライト、ハイドロタルサイトまたはベーマイト等の低溶解性の鉱物に吸着および固定化することで、長期間に亘り安全に処理できるとされている。しかし、高価な銀を使用するため、医療機関や大学等研究施設等の小規模な施設においては導入が困難であり、また、吸着過程において化学処理を必要とする等、処理工程が多いため、必ずしも有効な方法ともいえなかった。
【0008】
さらに、液体に含まれる放射性ヨウ素については、除去自体が困難とされており、上記の様に長時間保管して減衰するのを待つか、大量の水を使用して希釈する以外に有効な処理方法がなかった。液体にヨウ素イオン(I-)とヨウ素酸イオン(IO3-)の形態で含まれている放射性ヨウ素を、次亜塩素酸ナトリウム等を添加することでヨウ素(I2)に変換し、気体として分離する方法(例えば、特許文献5、参照)も開発されているが、気化させた放射性ヨウ素はチャコールフィルタ等で回収するしかなく、十分な処理方法とはいえなかった。
そこで、これらの問題を解決すべく、液体または気体に含まれる放射性物質の回収に有用であり、従来開発されてきたチャコールフィルタ等に代わり得る物質の提供が望まれてきた。
【0009】
本発明者らは、本発明において、このような物質として、環状オリゴ糖(以下、シクロデキストリン、CDと示す場合がある)に着目した。環状オリゴ糖は複数のD−グルコースがα−1,4−結合した環状化合物で、外部が親水性、内部が疎水性であることから、内部の疎水性空洞に物質を取り込む包接特性を有する。環状オリゴ糖のうち、グルコースの数が6個からなるものはα−CD、7個から成るものはβ−CD、8個から成るものはγ−CDと呼ばれ、これらが複数結合したシクロデキストリンポリマー(以下、CDPと示す場合がある)や、水溶性を示すために化学修飾されたもの等も知られている。
このような環状オリゴ糖は、包接した物質を安定に保持でき、また、トウモロコシ等を原料に製造されるため安価で、人体等において安全であることから、近年では安定剤、捕集剤のための添加物として、食品や日用品、医薬品等に利用されている。
【0010】
ヨウ素を環状オリゴ糖へ包接する技術として、α−CDやその誘導体をヨウ素水溶液安定化剤として使用することにより、ヨウ素の揮散を抑制したヨウ素含有組成物水溶液を提供し、ヨウ素入り抗菌消臭スプレー等として利用する技術(例えば、特許文献6、参照)や、カン水等に含まれるヨウ素を回収するために、CDP等をヨウ素吸着剤として活用する技術(例えば、特許文献7、参照)等が開発されている。
また、脂肪酸を放射性ヨウ素で標識したものをα−CD、β−CDまたはγ−CDに包接させてイメージング剤として利用する技術なども開発されている(例えば、特許文献8、参照)。しかし、これらの環状オリゴ糖を、液体または気体に含まれる放射性ヨウ素等の放射性物質の回収材として使用することについては検討されておらず、放射性物質の処理における様々な問題を解決し得る画期的なものであると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−112820号公報
【特許文献2】特開2010−181407号公報
【特許文献3】特開2010−237216号公報
【特許文献4】特開2003−302493号公報
【特許文献5】特開平9−288195号公報
【特許文献6】特開2005−60652号公報
【特許文献7】特開2008−93545号公報
【特許文献8】特許第2715240号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】古川修、放射性ヨウ素汚染物の排気、処理、放射性ヨウ素の安全管理に関する技術指針(その2)、183頁〜185頁、日本放射線安全管理学会誌 第8巻2号、2009年
【非特許文献2】田中順三、放射性ヨウ素の処理処分に関する技術開発(平成15年度)、革新的実用原子力技術開発費補助事業 平成15年度成果報告書概要版、独立行政法人 物質・材料研究機構 平成16年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、液体または気体に含まれる放射性物質の回収に有用であり、従来開発されてきたチャコールフィルタ等に代わり得る放射性物質回収材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、環状オリゴ糖が液体または気体に含まれる放射性物質の回収に有用であり、また、回収した放射性物質の保持にも有用であることを見出し、環状オリゴ糖を捕捉成分として含む放射性物質回収材を得て、本発明を完成するに至った。
さらに、本発明者らは、この放射性物質回収材を用いる放射性物質回収フィルタや放射性物質の回収方法、放射性物質の回収率を把握する方法等も開発するに至った。本発明の放射性物質回収フィルタは、従来開発されてきたチャコールフィルタ等に代わり得る放射性物質回収フィルタとして活用することができる。
本発明の環状オリゴ糖を捕捉成分として含む放射性物質回収材や、これを用いた放射性物質回収フィルタ等は、従来利用されてきたチャコールフィルタよりも有効な使用期間が長く、また、Ca−Ag型ゼオライト、ハイドロタルサイトまたはベーマイト等の鉱物よりも軽量な環状オリゴ糖を使用するため焼却や分解が可能であり、後処理が容易である。また、放射性物質を捕捉し、回収するための工程に化学処理等を必要としないため、より簡便に利用できる。
【0015】
すなわち、本発明は次の(1)〜(16)に記載の放射性物質回収材、該放射性物質回収フィルタ)または放射性物質を回収する方法等に関する。
(1)環状オリゴ糖を捕捉成分として含む放射性物質回収材。
(2)環状オリゴ糖が、α−CD、β−CD、γ−CD、α−CDポリマー、β−CDポリマー、γ−CDポリマー、モノクロロトリアジノα−CD、モノクロロトリアジノβ−CD、モノクロロトリアジノγ−CD、ヒドロキシプロピル化α−CD、ヒドロキシプロピル化β−CD、ヒドロキシプロピル化γ−CD、トリアセチル化α−CD、トリアセチル化β−CDまたはトリアセチル化γ−CDのいずれか一種以上である上記(1)に記載の放射性物質回収材。
(3)環状オリゴ糖を担体に付着させてなる上記(1)または(2)に記載の放射性物質回収材。
(4)担体が繊維状、ビーズ状、糸状または紐状である上記(3)に記載の放射性物質回収材。
(5)担体がセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルまたはポリアミドのいずれか一種以上である上記(3)または(4)に記載の放射性物質回収材。
(6)捕捉される放射性物質がトリチウム、ウラン、プルトニウム、アメリシウム、放射性ヨウ素、放射性炭素、放射性ストロンチウム、放射性イットリウム、放射性セシウム、放射性ナトリウム、放射性マンガン、放射性鉄、放射性コバルト、放射性ニッケル、放射性亜鉛または放射性ユーロピウムのいずれか一種以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の放射性物質回収材。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の放射性物質回収材を用いる放射性物質回収器具。
(8)さらに、プレフィルタ、HEPAフィルタまたはチャコールフィルタのいずれか一種以上を組み合わせて用いる上記(7)に記載の放射射性物質回収器具。
(9)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の放射性物質回収材を含む層に、前処理層を組み合わせて用いる上記(7)に記載の放射射性物質器具。
(10)フィルタユニットの形状をしている上記(7)〜(9)のいずれかに記載の放射性物質回収器具。
(11)放射性物質を含む液体または気体に、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の放射性物質回収材を接触させることにより、放射性物質を回収する方法。
(12)放射性物質を含む液体または気体に、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の放射性物質回収材を接触させた後、さらにチャコールフィルタに接触させる上記(11)に記載の放射性物質を回収する方法。
(13)上記(7)〜(10)のいずれかに記載の放射性物質回収器具を用いて行う上記(11)または(12)に記載の放射性物質を回収する方法。
(14)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の放射性物質回収材に捕捉された放射性物質の放射能を調べることにより、放射性物質の回収率を把握する方法。
(15)放射性物質を含む液体または気体に、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の放射性物質回収材を接触させた後、さらにチャコールフィルタに接触させる上記(14)に記載放射性物質の回収率を把握する方法。
(16)上記(7)〜(10)のいずれかに記載の放射性物質回収器具を用いて行う上記(14)または(15)に記載の放射性物質の回収率を把握する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって得られた放射性物質回収材を用いることにより、医療機関や原子力施設、大学等研究施設等で排出される放射性物質を含む液体、気体等を短時間で安全かつ大量に処理することが可能となる。これに伴い、既存の施設を活用した甲状腺ガン患者の治療や、原子力施設の点検、研究や業務によって発生した放射性廃棄物の一時処理等をスムーズに行うことが可能となる。また、放射性物質による汚染物質を減量することができ、保管スペース等の確保等に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】放射性物質回収器具の概略を示した図である(実施例6)。
【図2】放射性物質回収器具の概略を示した図である(実施例6)。
【図3】α−CDP、β−CDPまたはγ−CDPにおける放射性物質の回収率を示した図である(実施例1)。
【図4】α−CDPまたはβ−CDPにおける放射性物質の回収率を示した図である(実施例2)。
【図5】ヒドロキシル化α−CD(以下、α−CDHPと示すことがある)またはヒドロキシル化β−CD(以下、β−CDHPと示すことがある)における放射性物質の保持率を示した図である(実施例4)
【図6】グルコース(Glc.)における放射性物質の保持率を示した図である(実施例4)。
【図7】α−CDHPまたはβ−CDHPと、αCDPとの組み合わせにおける放射性物質の回収率を示した図である(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の「放射性物質回収材」とは、液体または気体に含まれる放射性物質を環状オリゴ糖に捕捉することで回収できる材のことをいい、さらに、捕捉した放射性物質を保持することもできる。ここで、「回収」とは、放射性物質を含む液体、気体から、放射性物質を捕捉することをいい、「保持」とは、このように「回収」した放射性物質を回収した状態のまま維持することをいう。
本発明の「放射性物質回収材」は、放射性物質の捕捉成分として環状オリゴ糖を含む材であれば、環状オリゴ糖のみからなる材であっても、環状オリゴ糖以外の物質をさらに含む材であっても良い。環状オリゴ糖以外の物質としては、環状オリゴ糖による放射性物質の捕捉を妨げない物質であれば良く、放射性物質を捕捉する能力を有する活性炭、ゼオライト等であっても良い。
【0019】
本発明の「放射性物質回収材」の捕捉成分である「環状オリゴ糖」は、放射性物質を捕捉できる「環状オリゴ糖」であればいずれのものであっても良く、不溶性の「環状オリゴ糖」であっても、水溶性「環状オリゴ糖」であっても良い。
本発明の「放射性物質回収材」に、不溶性の「環状オリゴ糖」を捕捉成分として含ませた場合には、液体中に含まれる放射性物質を捕捉した「放射性物質回収材」を沈殿等させることで、分離、回収することができる。
このような不溶性の「環状オリゴ糖」としては、例えば、α−CDP、β−CDP、γ−CDP、トリアセチル化α−CD、トリアセチル化β−CDまたはトリアセチル化γ−CD等が挙げられる。また、捕捉させる放射性物質が放射性ヨウ素等である場合は、水溶性のα−CD、β−CD等を用いた場合でも、ヨウ素を捕捉したCDの溶解度が低くなる為、沈殿等させて、分離、回収することが可能となる。
【0020】
また、本発明の「放射性物質回収材」に、水溶性の「環状オリゴ糖」を捕捉成分として含ませた場合には、液体中において捕捉した放射性物質を、飛散させにくい状態で保持することができる。
このような水溶性の「環状オリゴ糖」としてはα−CD、β−CD、γ−CD、モノクロロトリアジノα−CD(以下、MCTα−CDと示すことがある)、モノクロロトリアジノβ−CD(以下、MCTβ−CDと示すことがある)、モノクロロトリアジノγ−CD(以下、MCTγ−CDと示すことがある)、α−CDHP、β−CDHPまたはヒドロキシプロピル化γ−CD(以下、γ−CDHPと示すことがある)等が挙げられる。
この液体に、さらに不溶性の「環状オリゴ糖」を捕捉成分として含む本発明の「放射性物質回収材」を投与すれば、放射性物質を飛散させにくい状態のまま、液体中の放射性物質を容易に分離、回収することも可能となる。本発明の「放射性物質回収材」は捕捉成分としてこれらの「環状オリゴ糖」を一種以上含んでいれば良い。
【0021】
本発明の「放射性物質回収材」は環状オリゴ糖を担体に付着させてなるものであっても良い。担体は、環状オリゴ糖が付着できるものであればどのような形状であっても良いが、繊維状、ビーズ状、糸状、紐状等であることが特に好ましい。
また、環状オリゴ糖が付着できる物質であれば、どこのような物質であっても良いが、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルまたはポリアミド等が挙げられ、これらの一種以上を「担体」として用いることが好ましい。
【0022】
本発明の「放射性物質回収材」に捕捉される放射性物質には、従来知られているいずれの放射性物質も該当するが、例えば、トリチウム、ウラン、プルトニウム、アメリシウム、放射性ヨウ素、放射性炭素、放射性ストロンチウム、放射性イットリウム、放射性セシウム、放射性ナトリウム、放射性マンガン、放射性鉄、放射性コバルト、放射性ニッケル、放射性亜鉛または放射性ユーロピウム等が挙げられる。本発明の「放射性物質回収材」は、これらの放射性物質を一種以上捕捉できる材であれば良い。
【0023】
本発明の「放射性物質回収器具」は、本発明の「放射性物質回収材」を用いる器具であり、放射性物質を「放射性物質回収材」に捕捉できる器具であればどのようなものであっても良い。放射性物質を回収した後、本発明の「放射性物質回収材」を取り出すことなく、そのまま焼却処分できる素材からなるものであることが好ましい。
本発明の「放射性物質回収器具」の形状はどのようなものであっても良いが、例えば、フィルタ形状のものであっても良い。
このような、本発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタは、例えば、室内換気口設置型の「放射性物質回収器具」とすることもできる。この場合、図1、A.に示したように、本願発明の「放射性物質回収器具」(図1、c)は、放射性物質を使用する部屋の換気口等に設置しても良く、この器具を通った気体をさらに、図1、A.に示したように、「プレフィルタ」(図1、a)、「HEPAフィルタ」(図1、b)および「チャコールフィルタ」(図1、d)を並べて組み合わせたフィルタユニットの形状のものに通気しても良い。
【0024】
本発明の「放射性物質回収器具」は、本発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタと、「プレフィルタ」、「HEPAフィルタ」または「チャコールフィルタ」のいずれか一種以上を並べて組み合わせたフィルタユニットの形状を示すものとしても良い。また、本発明の「放射性物質回収材」を層として含む形状の物であっても良く、この層に、「前処理層」を組み合わせたフィルタユニットの形状を示すものであっても良い。
【0025】
本発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタに、「プレフィルタ」、「HEPAフィルタ」または「チャコールフィルタ」のいずれか一種以上を並べて組み合わせた、フィルタユニットの形状を示す「放射性物質回収器具」は、放射性物質を含む気体に対して使用することが好ましく、このフィルタユニットに放射性物質を含む気体を通気させることで、気体に含まれる放射性物質を回収することができる。
ここで、「プレフィルタ」とは、放射性物質を含む気体に含まれる埃や比較的大きな粉塵を除くための粗塵用フィルタのことをいい、放射性物質を捕捉する性能を有する「HEPAフィルタ」や、本願発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタの上流に設ける空気濾過器として使用することが好ましい。粒径5μm以上の粉塵を約60〜80%程度捕捉する性能を有していることが好ましく、このような性能によって、気体が流れる方向の下流に組み合わせたフィルタの効果を長時間保つことが可能となる。
【0026】
「HEPAフィルタ」とは、直径0.3μmの粒子ダストを99.97%以上捕捉し、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能(IES規格およびJIS規格)を有する高性能フィルタのことをいう。気体中の放射性ヨウ素を除く微粒子に付着した大半の放射性物質は、この「HEPAフィルタ」によって回収することができる。この「HEPAフィルタ」を「プレフィルタ」の下流に組み合わせることにより、「プレフィルタ」を通過した放射性物質を含む気体に含まれる粒子状のダストを除くことができる。
【0027】
「チャコールフィルタ」とは、放射性物質を含む気体に含まれる放射性物質、特に放射性ヨウ素を除くためのフィルタのことをいう。従来、市販、流通されている「チャコールフィルタ」であればいずれのものも用いることができる。放射性物質を回収した後、焼却処理したい場合には、粉砕処理を必要とせず、そのまま活性炭が焼却処理できる「チャコールフィルタ」を用いることが好ましい。
【0028】
これらのフィルタを組み合わせ、フィルタユニットの形状にする場合、液体または気体に含まれる放射性物質がほぼ回収できる状態で、各フィルタが並べられ、組み合わせられていればよい。
例えば、図1、B.に示したように、放射性物質を含む気体が最初に「プレフィルタ」(図1、a)に接触し、次に「HEPAフィルタ」(図1、b)接触し、その次に本発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタ(図1、c)に接触し、最後に「チャコールフィルタ」(図1、d)に接触するように各フィルタを並べても良い。この場合、放射性ヨウ素等の「放射性物質」の一部が本願発明の「放射性物質回収材」に捕捉され、また、微粒子に付着した「放射性物質」や「放射性物質」以外のものも大幅に除かれた状態で「チャコールフィルタ」を活用することができ、「チャコールフィルタ」の有効な使用期間を延ばすことができる。
また、「HEPAフィルタ」と本発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタとの組み合わせのみで十分に放射性物質を捕捉できる場合には、図1、Cに示したように、あえて「チャコールフィルタ」を組み合わせなくてもよい。このようなフィルタユニット形状の「放射性物質回収器具」は、放射性物質を含む気体に対して使用することが好ましい。
【0029】
また、本発明の「放射性物質回収器具」は、図2に示したように、本発明の「放射性物質回収材」を含む層(図2、b)に、「前処理層」(図2、a)を組み合わせたフィルタユニット形状の「放射性物質回収器具」であってもよい。このようなフィルタユニット形状の「放射性物質回収器具」は、放射性物質を含む液体に対して使用することが好ましく、このフィルタユニットに放射性物質を含む液体を流すことで、液体に含まれる放射性物質を回収することができる。
ここで、「前処理層」とは、放射性物質を含む液体の種類に応じて、例えば液体のpHを中性にするために、酸化または還元の化学処理等を行う層、または放射性物質を「放射性物質回収材」が回収しやすい化学形に変換させる層等が挙げられる。
このような「前処理層」として、イオン交換体を用いる層、もしくは放射性ヨウ素を含む液体中で、ヨウ化メチルの形態で液体中に存在している放射性ヨウ素をヨウ素イオン等に変換するための層等が挙げられる。
【0030】
本発明の「放射性物質を回収する方法」は、放射性物質を含む液体または気体に、本願発明の「放射性物質回収材」を接触させることにより、本願発明の「放射性物質回収材」に含まれる環状オリゴ糖に放射性物質を捕捉することにより、液体または気体に含まれる放射性物質を回収する方法のことをいう。
ここで「接触」とは、放射性物質を含む液体または気体に含まれる放射性物質が、少なくとも本願発明の「放射性物質回収材」の捕捉成分である環状オリゴ糖に捕捉される状態にまで、放射性物質を含む液体または気体と、本願発明の「放射性物質回収材」とを近づけることをいう。
このような状態になれば、「接触」させる方法はどのような方法であっても良く、例えば、放射性物質を含む気体を本願発明の「放射性物質回収材」に通気しても良い。通気後の「放射性物質回収材」は、そのまま放射能が減衰して濃度限度以下になるまで保管しても良いし、焼却処分等をしても良い。また、放射性物質を含む液体に本願発明の「放射性物質回収材」をそのまま、または水等に懸濁して投入したり、投入後さらに振盪したりしても良い。
【0031】
本願発明の「放射性物質回収材」が放射性物質を含む液体に不溶であれば、自然にまたは遠心分離等によって沈殿させ、放射性物質を捕捉した本願発明の「放射性物質回収材」と、放射性物質が低減した上澄み液とを分離したり、吸引ろ過等で分離したりすることで、放射性物質を含む液体から、本願発明の「放射性物質回収材」に放射性物質を回収することができる。回収した「放射性物質回収材」は、そのまま放射能が減衰して濃度限度以下になるまで保管しても良いし、可能であれば焼却処分等をしても良い。
本発明の「放射性物質を回収する方法」には、放射性物質を含む液体または気体に、本願発明の「放射性物質回収材」を接触させることを少なくとも含んでいれば、他の工程を含んでいても良い。このような工程として、放射性物質を含む気体を、本願発明の「放射性物質回収材」に接触させた後、さらにチャコールフィルタに接触させる工程等が挙げられる。なお、本願発明の「放射性物質を回収する方法」は、捕捉成分である環状オリゴ糖に、回収された放射性物質をそのまま保持するための方法としても利用することができる。
【0032】
本発明の「放射性物質の回収率を把握する方法」は、放射性物質を含む液体または気体に、本願発明の「放射性物質回収材」を接触させることにより、本願発明の「放射性物質回収材」に含まれる環状オリゴ糖に捕捉された放射性物質の放射能を調べ、これによって放射性物質を含む液体または気体から回収された放射性物質の割合(回収率)を把握する方法のことをいう。
放射性物質を含む液体または気体における放射性物質の放射能は、従来知られているいずれの機器や方法等によって測定しても良い。このような機器として、例えば、オートウェルガンマカウンタ(COBRA Quantum 5003,Packard社製)(290〜460keV)、ウェル型シンチレーションカウンタ(アキュフレックスガンマ7010,Aloka)またはγ線測定装置(JDC−1812,Aloka社製)等が挙げられる。
【0033】
放射性物質の回収率は、本願発明の「放射性物質回収材」に接触させる前の放射性物質を含む液体または気体に含まれる放射性物質の放射能を基準として求めることができる。
例えば、この基準となる放射能を1とし、本願発明の「放射性物質回収材」に接触させた後の放射性物質を含む液体または気体に含まれる放射性物質の放射能がこの基準に対し、どれだけ減っているかを求めることにより、放射性物質の回収率(割合)を把握することができる。なお、本発明の「放射性物質の回収率を把握する方法」は、本願発明の「放射性物質回収材」に回収され、保持された放射性物質の保持率(割合)を把握する方法としても利用することができる。
【0034】
本発明の「放射性物質の回収率を把握する方法」は、放射性物質を含む液体または気体を、本願発明の「放射性物質回収材」に接触させた後、さらにチャコールフィルタに接触させた後の液体または気体に含まれる放射性物質の放射能を調べ、これによって放射性物質を含む液体または気体から最終的に回収された放射性物質の回収率を把握する方法として用いることもできる。
これらの本願発明の「放射性物質を回収する方法」および「放射性物質の回収率を把握する方法」には、上記のような本願発明の「放射性物質回収器具」を用いて行うことができる。
【0035】
以下、本発明の詳細を実施例等で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
<放射性物質の回収(1)>
α−CDP、β−CDPまたはγ−CDP(全て株式会社環境工学製)をそれぞれ重量比10%、1%、0.1%となるように蒸留水に添加したものを3g作成し、密閉可能な試験管中に入れた。
各試験管に15kBqのNa131I水溶液(Iodine−131 radionuclide(パーキンエルマー株式会社製)を蒸留水で希釈して調製した)を5μl滴下した後、1、3、5、10または20分間、万能シェーカー(AS−1、アズワン株式会社製)(200回/分)で振盪した。
振盪時間ごとに上澄みを0.5ml分取してオートウェルガンマカウンタ(COBRA Quantum 5003,Packard社製)(290〜460keV)により放射能を測定した。
【0037】
測定した放射能より、以下のように131Iの回収率を算出した。
1.Na131I水溶液を滴下後、振盪前に各試験管の試料全体の放射能を測定した。
ここで、振盪前の試験管の放射能をAn,mと表記した。ここで、n=CDの種類および重量比(%)、m=振盪時間である。例えば、CDPを含まない試料の放射能はA0,0、α−CDPを10%含む試料で振盪時間20分間のもの放射能はAα-10,20である。
2.振盪後、CDPを含まない試料から0.5ml分取した溶液の放射能A′0,0を測定した。
ここで、振盪後の試験管の放射能をA′n,mと表記した。なお、放射性ヨウ素は半減期8.021日で時間とともに減衰するため、A′n,mは減衰補正を行った値である。
3.CDPを含まない試料の体積は3.0mlであるので、装置の計数効率(Eと表記する)は、(A′0,0/A0,0)×(3.0/0.5)により求められた。
4.振盪後、CDPを含む試料から0.5ml分取した溶液の放射能を測定した。各試料の溶液中に残る131Iの割合は、{(A′n,m/An,m)×(溶液の体積/0.5)}/Eにより求められた。
ここで、溶液の体積は、CDP10%を含むもの:2.7、CDP1%を含むもの:2.97、CDP0.1%を含むもの:2.997であった。
5.4.で求めた各試料の溶液中に残る131Iの割合を1から引くことで、CDPによる131Iの回収率を算出した。
【0038】
その結果、図3に示したように、重量比0.1%として添加した場合には、α−CDP、β−CDPおよびγ−CDPのいずれも131Iの回収率が10%以下と低かったが、重量比1%として添加した場合には、α−CDPは20分の振盪で約20%の131Iを回収するなど、高い回収率を示した。γ−CDPβおよびβ−CDPは、α−CDPより高い回収率は示さなかったものの、重量比0.1%として添加した場合と比べて回収率が上ることが示された。
さらに、重量比10%として添加した場合には、α−CDPは1分の振盪で約60%の131Iを捕捉し、β−CDPも20分の振盪で約50%の131Iを捕捉するなど高い回収率を示した。また、γ−CDPも20分の振盪で約20%の131Iを捕捉した。
以上の結果から、α−CDP、β−CDPおよびγ−CDPのいずれも、放射性物質の回収材として使用できることが確認でき、特にα−CDPが放射性物質回収材として高い効果を有することが示された。
【実施例2】
【0039】
<放射性物質の回収(2)>
α−CDPまたはβ−CDP(全て株式会社環境工学製)をそれぞれ重量比10%、1%、0.1%となるように蒸留水に添加したもの10gを作成し、密閉可能な試料容器中に入れた。
各試料容器に15kBqのNa131I水溶液(Iodine−131 radionuclide(パーキンエルマー株式会社製)を蒸留水で希釈して調製した)を5μl滴下した後、試料容器のふたを閉めたまま静置した。
2日、6日または8日ごとに沈殿しているCDPを吸い取らないように、上澄みのみを1ml分取してオートウェルガンマカウンタ(COBRA Quantum 5003,Packard社製)(290〜460keV)により放射能を測定した。
【0040】
測定した放射能より、以下のように131Iの回収率を算出し、ヨウ素濃度比の経時変化を調べた。
1.Na131I水溶液を滴下後、直ちに上澄みのみを1ml分取して放射能An,0を測定した。
2.静置後、試料から1ml分取した溶液の放射能An,mを測定した。
ここで、n=CDの種類および重量比(%)、m=経過日数である。例えば、α−CDPを10%含む試料で2日間静置したもの放射能は、Aα-10,2である。
なお、放射性ヨウ素は半減期8.021日で時間とともに減衰するため、m>0の場合のAn,mは減衰補正を行った値である。
3.各試料の溶液中に残る131Iの割合は、An,m/An,0により求められた。
4.3.で求めた各試料の溶液中に残る131Iの割合を1から引くことで、CDPによる131Iの回収率を算出した。
【0041】
その結果、図4に示したように、重量比10%として添加した場合には、α−CDPおよびβ−CDPも高い131Iの回収率を示した。また、重量比1%として添加した場合でも、α−CDPは高い131Iの回収率を示しβ−CDPは一定の回収率を示すことが確認された。従ってこの結果より、α−CDPおよびβ−CDPは、放射性物質を回収するだけでなく、回収された放射性物質を数日〜長期間保持できる保持材としても使用できることが示された。
【実施例3】
【0042】
<放射性物質の回収(3)>
α−CDP(内径154μm)、β−CDP(内径180μm)またはγ−CDP(内径212μm)(全て地方独立行政法人青森県産業技術センター提供品)1gをそれぞれ試験管に充填した。
各試験管に、3−ヨードベンジルグアニジン(131)注射液(131I−MIBG)(2.4kBq/mL)(医薬品、富士フィルムRIファーマ株式会社製)を10mL滴下した。ヨウ素イオン溶液を塩酸酸性において、次亜塩素酸ナトリウムで酸化すると、I-を酸化できることから、1N−HClにてpH2.0に調整し、次に次亜塩素酸ナトリウム溶液100μLを加えて水溶液中のI-を酸化した。
10分間攪拌した後、吸引ろ過し、α−CDP、β−CDPまたはγ−CDPを除いた水溶液1mLを採取した。ウェル型シンチレーションカウンタ(アキュフレックスガンマ7010,Aloka社製)にて各水溶液中の放射能を計測した。
計測値を事前に計測しておいた131I−MIBG(2.4kBq/mL)の計測値で割ることによって水溶液中に残った放射能の残存率(割合)を決定した。この残存率を1から引くことにより、α−CDP、β−CDPおよびγ−CDPによる放射性物質の回収率を求めた。
【0043】
対象患者から排泄された尿を試料として用い、上記と同様にα−CDP、β−CDPまたはγ−CDPによる放射性物質の回収率を調べた。
対象患者は131I甲状腺治療患者2例(46歳女性、77歳女性、131I投与量はいずれも3.7GBq)であった。投与後24時間経過後の尿50mLを採取した。尿中の放射能濃度は46MBq/mLまたは33MBq/mLであった。
蒸留水で希釈して尿の濃度を10kBq/mLとした。5mLを試料としてα−CDP、β−CDPまたはγ−CDPをそれぞれ充填した試験管内に注入し、1N−HClにてpH2.0に調整し、次に次亜塩素酸ナトリウム溶液100μLを加えて水溶液中のI-を酸化した。
10分間攪拌した後、吸引ろ過し、α−CDP、β−CDPまたはγ−CDPを除いた水溶液100μLを採取した。ウェル型シンチレーションカウンタ(アキュフレックスガンマ7010,Aloka社製)にて各水溶液中の放射能を計測した。
計測値を事前に計測しておいた希釈尿(10kBq/mL)100μLの計測値で割ることによって水溶液中に残った放射能の残存率を決定した。水溶液中の残存率を1から引くことにより、α−CDP、β−CDPおよびγ−CDPによる放射性物質の回収率を求めた。
【0044】
その結果、131I−MIBG対するα−CDP、β−CDPまたはγ−CDPによる放射性物質の回収率は、いずれも0.85以上であった。
また、Na131I甲状腺治療患者からの尿に対するα−CDP、β−CDPまたはγ−CDPの2例の患者尿の平均回収率はそれぞれ、α−CDPが0.84、β−CDPが0.75、γ−CDPが0.65であった。
従ってこの結果より、α−CDP、β−CDPおよびγ−CDPのいずれも、放射性物質の回収材として使用できることが確認でき、特にα−CDPまたはβ−CDPを放射性物質の回収材として用いることにより、医療機関や原子力施設、大学等研究施設等における排水中の放射能レベルを現行の1/5程度にできることが示唆された。
【実施例4】
【0045】
<放射性物質の保持(1)>
α−CDHP(CAVASOL(登録商標)W6HP、Wacker社製)またはβ−CDHP(CAVASOL(登録商標)W7HP、Wacker社製)を重量比0%、0.1%、1%、10%となるように蒸留水に溶解させて、CD水溶液を作製し、密閉可能な試験管中に入れた。
各試験管に174.6kBqのNa131I水溶液(Iodine−131 radionuclide(パーキンエルマー株式会社製)を蒸留水で希釈して調製した)を5μl投入して十分に撹拌した後、滑らかなステンレス製試料皿上に0.5mlずつ分注した。
比較のため、蒸留水のみ、または直鎖型の構造を持ったグルコース(D(+)−グルコース、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を重量比0.1%、1%、10%となるように調製した水溶液についても同様に試料皿を作製した。
2〜3週間に渡って試料皿をフード内に静置して自然乾燥させつつ、分注直後から数日おきにγ線測定装置(JDC−1812、Aloka社製)を用いて測定した。この間の各試料皿の減衰補正された計数値の推移から、α−CDHPおよびβ−CDHPによる131Iの保持率を評価した。
【0046】
測定した放射能から、以下のように131Iの保持率を算出した。
1.試料溶液を分注後、直ちに試料皿の放射能An,0を測定した。
2.静置後一定期間が経過した各試皿の放射能An,mを測定した。
ここで、n=CDの種類および重量比(%)、m=経過日数である。例えば、α−CDHPを10%含む試料で2日間静置したもの放射能は、Aα-10,2である。
なお、放射性ヨウ素は半減期8.021日で時間とともに減衰するため、m>0の場合のAn,mは減衰補正を行った値である。
3.131Iの保持率は、An,m/An,0により求められた。
【0047】
その結果、図5に示したように、蒸留水中の131Iの保持率は、時間とともに低下し、分注から2週間経過後には32%、3週間経過後には30%しか131Iが保持されていなかった。一方、CD水溶液中の131Iの保持率は、CDの種類に差なく、濃度が10%のときは3週間後で90%、1%のときは85%、0.1%のときは75%であった。
また、図6に示したように、グルコース水溶液中の131Iの保持率も濃度が10%のときは2週間後で80%であったが、濃度が1%のときには50%、0.1%のときは45%であり、さらに低下して行く傾向が見られた。
従ってこの結果より、溶液中にグルコースの分子が存在するだけでも131Iの飛散は減少するが、α―CDHPおよびβ−CDHPを用いることによってさらに、飛散が大幅に減少することが確認された。従って、これらのCDは放射性物質の保持剤として有効であることが示唆された。
【実施例5】
【0048】
<放射性物質の回収(4)>
α−CDHP(CAVASOL(登録商標)W6HP、Wacker社製)またはβ−CDHP(Wacker CAVASOL(登録商標)W7HP、Wacker社製)を重量比0%、0.1%、1%、10%となるように蒸留水に溶解させて、CD水溶液を作製し、密閉可能な試験管中に入れた。
各試験管に174.6kBqのNa131I水溶液(Iodine−131 radionuclide(パーキンエルマー株式会社製)を蒸留水で希釈して調製した)5μlを投入して十分に撹拌した後、滑らかなステンレス製試料皿上に0.3mlずつ3皿に分注した。分注直後にγ線測定装置(Aloka,JDC−1812)を用いて試料皿の放射能Anを測定した。ここで、n=ヒドロキシプロピル化CDの種類および重量比(%)である。
その後、分注後の各試験管にα−CDP0.2gを投入して静置した。3日後、上澄みのみを0.3mlずつ2皿に分注した。分注直後にγ線測定装置(Aloka,JDC−1812)を用いて試料皿の放射能A′nを測定した。
各試料皿の減衰補正された計数値の比から、α−CDHPおよびβ−CDHP存在下におけるα−CDPによる131Iの回収率を評価した。
各試料の溶液中に残る131Iの割合は、A′n/Anにより求められた。なお、放射性
ヨウ素は半減期8.021日で時間とともに減衰するため、Anは減衰補正を行った値である。各試料の溶液中に残る131Iの割合を1から引くことで、α−CDPによる131Iの回収率を算出した。
【0049】
その結果、図7に示したように、水溶性の環状オリゴ糖であるα−CDHPおよびβ−CDHPで放射性物質を回収した後、これを不溶性の環状オリゴ糖であるα−CDPで回収したところ、不溶性の環状オリゴ糖のみで回収した場合(図7:0%)と比べて、放射性物質の回収率が向上することが示された。従ってこの結果より、不溶性の環状オリゴ糖を用いて溶液中から放射性ヨウ素を回収する際に、水溶性の環状オリゴ糖は回収率を向上させるための添加剤として利用できることが確認された。
【0050】
このような水溶性の環状オリゴ糖と不溶性の環状オリゴ糖との組み合わせは、放射性物質の回収方法として利用することができ、複雑な形状の配管や細い配管、循環装置を伴う配管を流れる可能性がある原子炉の冷却水等から、放射性物質を回収する際に有用であると考えられた。
すなわち、原子炉の冷却水等が配管を通り、貯水槽等へ導出される段階では、水溶性の環状オリゴ糖によって放射性物質を捕捉することで、環状オリゴ糖の沈殿による配管詰まりや循環装置の破損等を起こすことなく水溶性の環状オリゴ糖に放射性物質を回収し、保持できる。
次にこれを、貯水槽等へ導出した段階で、不溶性の環状オリゴ糖によって放射性物質を捕捉することにより、原子炉の冷却水等から放射性物質を捕捉した不溶性の環状オリゴ糖を容易に回収できる。このような放射性物質の回収方法は、放射性物質が水溶性の環状オリゴ糖に保持された状態で貯水槽等へ導出できることから、放射性物質が飛散されにくいという利点もある。
【実施例6】
【0051】
<放射性物質回収器具>
1.図1、A.に本願発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタ(図1、c)を、室内換気口設置型の「放射性物質回収器具」とした場合の概略図を示した。図1、A.の矢印(→)は、放射性物質を含む気体の流れを示し、図1、A.では、この「放射性物質回収器具」を通った気体がさらに、「プレフィルタ」(図1、a)、「HEPAフィルタ」(図1、b)および「チャコールフィルタ」(図1、d)を並べて組み合わせたフィルタユニットの形状のものに通気される場合を示している。
2.図1、B.C.に本願発明の「放射性物質回収材」を用いたフィルタ(図1、c)に、「プレフィルタ」(図1、a)、「HEPAフィルタ」(図1、b)または「チャコールフィルタ」(図1、d)のいずれか一種以上を組み合わせた放射性物質回収器具の概略図を示した。
図1、B.は「チャコールフィルタ」(図1、d)を含まない場合、図1、C.は「チャコールフィルタ」(図1、d)を含む場合の概略図であり、いずれも矢印(→)は、放射性物質を含む気体の流れを示している。
3.図2に本願発明の「放射性物質回収材」を含む層(図2、b)に、「前処理層」(図2、a)を組み合わせた「放射性物質回収器具」の概略図を示した。図2の矢印(→)は、放射性物質を含む液体の流れを示している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によって得られた放射性物質回収材を用いることにより、放射性物質を含む液体、気体等を安全かつ大量に処理できる放射性物質回収器具を提供することが可能となる。この放射性物質回収器具は、回収した放射性物質を保持できることから、そのまま安全に保管でき、また焼却処分できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オリゴ糖を捕捉成分として含む放射性物質回収材。
【請求項2】
環状オリゴ糖が、α−CD、β−CD、γ−CD、α−CDポリマー、β−CDポリマー、γ−CDポリマー、モノクロロトリアジノα−CD、モノクロロトリアジノβ−CD、モノクロロトリアジノγ−CD、ヒドロキシプロピル化α−CD、ヒドロキシプロピル化β−CD、ヒドロキシプロピル化γ−CD、トリアセチル化α−CD、トリアセチル化β−CDまたはトリアセチル化γ−CDのいずれか一種以上である請求項1に記載の放射性物質回収材。
【請求項3】
環状オリゴ糖を担体に付着させてなる請求項1または2に記載の放射性物質回収材。
【請求項4】
担体が繊維状、ビーズ状、糸状または紐状である請求項3に記載の放射性物質回収材。
【請求項5】
担体がセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルまたはポリアミドのいずれか一種以上である請求項3または4に記載の放射性物質回収材。
【請求項6】
捕捉される放射性物質がトリチウム、ウラン、プルトニウム、アメリシウム、放射性ヨウ素、放射性炭素、放射性ストロンチウム、放射性イットリウム、放射性セシウム、放射性ナトリウム、放射性マンガン、放射性鉄、放射性コバルト、放射性ニッケル、放射性亜鉛または放射性ユーロピウムのいずれか一種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の放射性物質回収材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の放射性物質回収材を用いる放射性物質回収器具。
【請求項8】
さらに、プレフィルタ、HEPAフィルタまたはチャコールフィルタのいずれか一種以上を組み合わせて用いる請求項7に記載の放射射性物質回収器具。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の放射性物質回収材を含む層に、前処理層を組み合わせて用いる請求項7に記載の放射射性物質器具。
【請求項10】
フィルタユニットの形状をしている請求項7〜9のいずれかに記載の放射性物質回収器具。
【請求項11】
放射性物質を含む液体または気体に、請求項1〜6のいずれかに記載の放射性物質回収材を接触させることにより、放射性物質を回収する方法。
【請求項12】
放射性物質を含む液体または気体に、請求項1〜6のいずれかに記載の放射性物質回収材を接触させた後、さらにチャコールフィルタに接触させる請求項11に記載の放射性物質を回収する方法。
【請求項13】
請求項7〜10のいずれかに記載の放射性物質回収器具を用いて行う請求項11または12に記載の放射性物質を回収する方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載の放射性物質回収材に捕捉された放射性物質の放射能を調べることにより、放射性物質の回収率を把握する方法。
【請求項15】
放射性物質を含む液体または気体に、請求項1〜6のいずれかに記載の放射性物質回収材を接触させた後、さらにチャコールフィルタに接触させる請求項14に記載の放射性物質の回収率を把握する方法。
【請求項16】
請求項7〜10のいずれかに記載の放射性物質回収器具を用いて行う請求項14または15に記載の放射性物質の回収率を把握する方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−112769(P2012−112769A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261297(P2010−261297)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(503065302)株式会社シクロケム (22)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)