説明

放射温度計の指示値異常検出方法及びその検出装置

【課題】 既存の直火型連続加熱炉が備える温度計や制御設備を利用して放射温度計の指示値異常を検する方法及び放射温度計指示値異常の検出装置を提供する。
【解決手段】 加熱帯及びそれに続く均熱帯を備えた直火型連続焼鈍炉の加熱帯の出側に設置され、加熱対象材料の温度を測定する、放射温度計の指示値異常の検出方法であって、前記加熱帯の出側に設置された放射温度計の温度指示値と加熱対象材料の加熱目標温度とが一致するように制御されている状態で、前記均熱帯に設置された熱電対の温度指示値と均熱帯の目標温度との温度差ΔTgを求め、該温度差ΔTgが閾値を超えているとき、放射温度計の指示値に異常があると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射温度計の指示値異常検出方法及び放射温度計指示値異常の検出装置、特に、鋼帯等の焼鈍などのための直火型連続加熱炉の鋼帯温度測定のために用いられる放射温度計の指示値異常検出方法及び放射温度計指示値異常の検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続焼鈍炉では、加熱対象材料、例えば鋼帯の機械的性質や結晶組織等の調整を目的とした熱処理を行うために、鋼帯温度の測定とその結果に基づく加熱炉の制御が行われる。この制御に当たっては、連続焼鈍炉内に複数の放射温度計を設置して鋼帯温度を計測し、その結果に基づいて、炉内の鋼帯が目標の鋼帯温度になるようにフィードバック制御を実施する。しかしながら、連続焼鈍炉内に設置された放射温度計は、設定環境や検出素子の経年劣化等によって計測誤差が大きくなり、指示値異常を生ずることがある。このような場合、連続焼鈍炉内の鋼帯に対する温度制御に不具合が生ずる。
【0003】
この連続焼鈍炉内に設置されている放射温度計の指示値異常は、通常、定期的もしくは臨時に行われる黒体炉検定により発見され、キャリブレーションなど必要な措置が採られる。しかしながら、黒体炉検定は、連続焼鈍炉の操業を停止した上で行う作業であり、頻繁に行うことができないので、指示値異常の発生後、検定までの期間が長引くことがある。このような場合、不良鋼帯の大量発生が生じる可能性がある。
【0004】
このような事態を回避するため、連続焼鈍炉の操業を継続しながら放射温度計の指示値異常を早期検出する手段が提案されている。たとえば、連続焼鈍炉内での温度計測位置のそれぞれに、各2台の放射温度計を設置して、適宜、これら2台の放射温度計の計測値を対比・照合して指示値異常を発見する、いわゆる、二重化の手段が採られることは周知である。
【0005】
また、特許文献1には、放射温度計とは別に、鋼帯のパスライン内のロールに埋設した熱電対によって鋼帯温度を計測し、その計測値を放射温度計の計測値と対比・照合して放射温度計の指示値異常を検出する方法が開示されている。特許文献2には、被測定体である鋼帯が発する放射エネルギーから異なる2種の波長を選択して、それらを光電変換素子で各波長のエネルギー強度に対応した強度の電気信号に変換し、両電気信号の強度比を温度表示させる2色放射温度計を用い、前記電気信号の一方を他方の電気信号との強度比を計算する前に取り出して、その電気信号の強度を温度表示させ、該温度表示と前記強度比の温度表示とを比較しながら2色放射温度計を監視するという発明が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−26315号公報
【特許文献2】特開平09−257590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の各手段のうち、放射温度計を二重化する方法は、温度計測が必要なすべての個所に各2台の放射温度計を設置する必要があるが、温度計測が行われる位置が、炉内設備との関係、あるいは、鋼帯の通板とに関係などのため、2台の放射温度計を設置することが難しい場合が生ずるなど、実施できない場合もある。また、放射温度計の経時変化のため、2台の温度計が常に異なる値を表示してしまうという問題もある。
【0008】
一方、特許文献1に開示の発明は、ロール内に埋設した熱電対を常に検定し、キャリブレーションすることが、その精度を確保するために必要であるが、かかる手段は確立されおらず、信頼性に欠けるという問題がある。特許文献2に開示の発明は、高価な色温度計の使用が前提であるうえ、さらにその監視機構を備えねばならず、設備費が大きくなるという問題がある。いいかえれば、上記いずれの手段も放射温度計の指示値異常検出のために特別の設備などを必要とするという問題があった。
【0009】
本発明は、上記従来の放射温度計の指示値異常検出方法にかかる問題、すなわち、特別の設備などを必要とするという問題を解決することを課題とし、既存の直火型連続加熱炉が備える温度計や制御設備を利用して放射温度計の指示値異常を検する方法及び放射温度計指示値異常の検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、直火型連続加熱炉では、その加熱帯の出側温度が実質的に均熱帯の温度と一致するように設計されていること、および均熱帯の熱容量が小さく設計されており、また、鋼帯の持ち込む入熱量以外の入熱量も小さく設計されているため、加熱帯で生じた放射温度計の指示値異常が、均熱帯での操業異常となって現れる点に着目して本発明を完成した。
【0011】
本発明は、加熱帯及びそれに続く均熱帯を備えた直火型連続焼鈍炉の加熱帯の出側に設置され、加熱対象材料の温度を測定する、放射温度計の指示値異常の検出方法であって、前記加熱帯の出側に設置された放射温度計の温度指示値と加熱対象材料の加熱目標温度とが一致するように制御されている状態で、前記均熱帯に設置された熱電対の温度指示値と均熱帯の目標温度との温度差ΔTgを求め、該温度差ΔTgが閾値を超えているとき、放射温度計の指示値に異常があると判定するものである。
【0012】
上記発明が適用される直火型連続焼鈍炉は、その均熱帯に設置された直火バーナーの入熱量が該均熱帯の長さ当たり、174kW/m(15万kcal/h/m)未満であることが望ましい。
【0013】
上記放射温度計の指示値異常の検出方法は、加熱帯及びそれに続く均熱帯を備えた直火型連続焼鈍炉の加熱帯の出側に設置された放射温度計の温度指示値と加熱対象材料の加熱目標温度とが一致するように制御する加熱帯温度制御手段と、前記加熱帯温度制御手段の作動状態において、前記均熱帯に設置された熱電対の温度指示値と均熱帯の目標温度との温度差ΔTgを算出する均熱帯温度差演算手段と、前記均熱帯温度差演算手段により演算された温度差ΔTgが閾値を超えているとき、放射温度計の指示値に異常があると判定する指示値異常判定手段、とを有する放射温度計指示値異常検出装置によって実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、センサーを殊更に増設することなく、放射温度温度計の作動状態を連続的にチェックし、指示値異常を迅速に検出することが可能になる。それにより、例えば、異常な温度での鋼帯等の加熱やそれによる不良発生を防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、加熱対象材料として鋼帯を直火式連続加熱炉1により焼純する場合を例として説明する。
【0016】
本発明の適用対象である直火型連続焼鈍炉1は、図1に示すように、加熱帯2及び均熱帯3を具備する。本発明を実施するに当たっては、直火型連続加熱炉1が、第1に、加熱帯の出側に設置された放射温度計の温度指示値と加熱対象材料の加熱目標温度とが一致するように制御されていること、第2に、その加熱帯の出側温度が実質的に均熱帯の温度と一致するように設計されていること、第3に、均熱帯の熱容量が小さく設計されており、また、第4に、鋼帯の持ち込む入熱量以外の入熱量も小さく設計されていることが必要である。
【0017】
第1の条件は、図1に示すように、加熱帯2の出側近傍に鋼帯Sの温度を測定する放射温度計4を設け、その測定値を均熱帯の設定温度と比較して、たとえば、燃料の投入量をフィードバック制御する加熱帯制御手段6を設けることによって達成できる。これによって、加熱帯出側での鋼帯温度が安定するとともに、鋼帯Sによって次の均熱帯3に持ち込まれる熱量が一定になる。
【0018】
なお、この場合において、放射温度計4に指示値異常があれば、本発明により検出することができる。指示値異常がある場合には、後述するように、均熱帯6に持ち込まれる熱量が、指示値異常に依存して増減し、その結果、均熱帯の実測温度の異常により指示値異常が確認されることになるからである。また、本例では、放射温度計4は加熱帯2の出側近傍にのみ配置されているが、これを入側から適当な間隔をおいて複数配置し、加熱帯中の温度制御が可能になるようにすることもできる。
【0019】
第2の条件は、通常の直火式加熱炉において達成されており、出側温度が所定の温度にされた鋼帯Sは、加熱帯出側温度を維持したまま、均熱帯に搬送されることになる。なお、加熱帯2と均熱帯3の間には、簡単な仕切りや張力制御のためのブライドルロール等を配置することもできる。
【0020】
第3の条件、すなわち、均熱帯の熱容量が小さいことは、鋼帯Sが加熱帯2から持ち込む熱により均熱帯3の炉温が容易に変動することを意味する。この条件も、通常の直火式加熱炉において充足されているが、たとえば、800℃に設定されている均熱帯にそれより20℃高い温度の鋼帯が搬送されてきたとき、均熱帯の温度が少なくとも10℃上昇する程度の小さい熱容量のものであればよい。
【0021】
第4の条件、すなわち、鋼帯の持ち込む入熱量以外の入熱量も小さく設計されていることは、上記第3の条件により実現される外乱、すなわち、均熱帯3の設定温度より高いあるいは低い鋼帯が搬送されてきたとき、均熱帯3の温度が乱されるのを確実にキャッチするため望ましい条件である。この条件も、通常の直火式連続焼鈍炉において十分満たされているが、好ましくは、均熱帯3の長さ当たり、174kW/m未満(15万kcal/h/m未満)であることとするのが好ましい。
【0022】
なお、均熱帯においても、その温度を制御するため、たとえば、フィードバック制御が可能な均熱帯制御装置7が付設されており、燃料投入、あるいは絞込みにより炉温を目標設定温度に維持しようとするが、前記のように均熱帯の熱容量十分小さくし、かつ上記のように、バーナーによる熱入力を小さくすれば、本発明の目的を十分達成できる。
【0023】
以下、具体的に、本発明による放射温度計の指示値異常検出方法について説明する。
まず、加熱帯3において、放射温度計4により得られた実測温度Tso(異常値があることは容認されている)と加熱対出側での目標加熱温度Tssとの差の絶対値、△Ts、すなわち、
△Ts=|Tss-Tso|・・・(1)
を求める。△Tsが十分小さいとき、たとえば0.5℃以下に収まっており、その状態が安定して継続していると判断されるときは、均熱帯3の温度チェックによる放射温度計の指示異常の検出に進む。なお、△Tsが十分小さくないとき、あるいは、長期間継続していないときには、加熱帯制御装置6による、たとえば、フィードバック制御により安定操業に行われるようにし、その後、均熱帯3の温度チェックによる放射温度計の指示異常の検出に進む。
【0024】
放射温度計の指示異常検出のためには、均熱帯3において均熱帯内に設置された熱電対により均熱帯3の炉温を実測してその温度指示値Tgoを求める。そして、これを均熱帯の目標温度Tgsと比較してこれらの差の絶対値ΔTg、すなわち、
ΔTg=|Tgs-Tgo|・・・(2)
を求める。この操作は、前記均熱帯制御装置7の中に均熱帯温度差演算手段8を組込むことによって可能になる。
【0025】
上記により求めた均熱帯の目標温度と実測温度の差ΔTgが、十分小さいときは、たとえば、3℃未満のときは、加熱帯2の出側温度が、実質的に均熱帯3の設定温度と一致している状態である。いいかえれば、加熱帯2の出側に設置されている放射温度計4が正しく作動していることを示している。したがって、この場合には、「放射温度計の指示値異常はない」と判定され、その旨、表示装置9に表示される。
【0026】
これに対し、均熱帯の目標温度と実測温度の差ΔTgが閾値、たとえば5℃を超えるときは、加熱帯2から搬送される鋼帯Sの温度が高すぎるか、あるいは低すぎる状態である。この状態を生じさせる原因は、加熱帯の放射温度計4の作動が正常でないことによることは明らかである。したがって、均熱帯の目標温度と実測温度の差ΔTgが閾値を超えたときには、加熱帯の放射温度計4に指示値異常が生じていると判定され、表示装置9に判定結果として表示される。
【実施例】
【0027】
公称能力、幅:1200mm、最大通板速度:60m/min、最高加熱温度:900℃の直火式連続加熱炉において、幅:1000mの低炭素鋼鋼板を通板速度:50m/min、加熱帯出側温度及び均熱帯温度を800℃として連続焼鈍する際、本発明を適用して放射温度計の指示値異常検出を行った。
【0028】
(ケース1)
通板の際、加熱帯出側の温度は、30minに亘り800±3℃と安定していた。このとき、均熱帯の実測温度(熱電対による)は800±3℃で経過した。この場合、均熱帯に設置された熱電対の温度指示値と均熱帯の目標温度との温度差ΔTgは実質的に0℃と認められ、放射温度計の指示値異常はないものと判定された。
【0029】
(ケース2)
通板の際、加熱帯出側の温度は、30minに亘り800±3℃と安定していた。このとき、均熱帯の実測温度(熱電対による)は815±3℃で経過した。この場合、均熱帯に設置された熱電対の温度指示値と均熱帯の目標温度との温度差ΔTgは15℃であり、放射温度計に指示値異常(約20℃)があるものと判定された。なお、上記温度差ΔTgは15℃において指示値異常を約20℃と推定したのは、加熱帯における鋼帯温度の目標加熱温度に対する差の約75%が均熱帯における温度変動として現れることが経験的に把握されていることによる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を実施する直火型連続焼鈍炉の概略構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1:直火型連続焼鈍炉 2:加熱帯
3:均熱帯
4:放射温度計
5:熱電対
6:加熱帯制御装置
7:均熱帯制御装置
8:均熱帯温度差演算手段
9:表示装置
S:鋼帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱帯及びそれに続く均熱帯を備えた直火型連続焼鈍炉の加熱帯の出側に設置され、加熱対象材料の温度を測定する、放射温度計の指示値異常の検出方法であって、
前記加熱帯の出側に設置された放射温度計の温度指示値と加熱対象材料の加熱目標温度とが一致するように制御されている状態で、前記均熱帯に設置された熱電対の温度指示値と均熱帯の目標温度との温度差ΔTgを求め、該温度差ΔTgが閾値を超えているとき、放射温度計の指示値に異常があると判定することを特徴とする放射温度計指示値異常の検出方法。
【請求項2】
直火型連続焼鈍炉が、該直火型連続焼鈍炉の均熱帯に設置された直火バーナーの入熱量が該均熱帯の長さ当たり、174kW/m未満であることを特徴とする請求項1に記載の放射温度計指示値異常の検出方法。
【請求項3】
加熱帯及びそれに続く均熱帯を備えた直火型連続焼鈍炉の加熱帯の出側に設置された放射温度計の温度指示値と加熱対象材料の加熱目標温度とが一致するように制御する加熱帯温度制御手段と、
前記加熱帯温度制御手段の作動状態において、前記均熱帯に設置された熱電対の温度指示値と均熱帯の目標温度との温度差ΔTgを算出する均熱帯温度差演算手段と、
前記均熱帯温度差演算手段により演算された温度差ΔTgが閾値を超えているとき、放射温度計の指示値に異常があると判定する指示値異常判定手段、とを有することを特徴とする放射温度計指示値異常の検出装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−248178(P2007−248178A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70304(P2006−70304)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】