説明

放射温度計

【課題】 使用者が測定対象物の実際の温度および測定対象物の温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果を容易かつ正確に知ることができる放射温度計を提供する。
【解決手段】 本体部100Bには外部信号が入力される。外部信号のオン/オフ状態の切り替わりは、ベルトコンベアBRによる測定対象物Wの搬送に同期しており、測定対象物Wの温度を測定するヘッド部100Aの直下に測定対象物Wの中央部が位置するタイミングでオン状態となり、それ以外のタイミングでオフ状態となる。本体部100Bは、外部信号がオン状態である場合、表示部94に測定温度値を表示するとともに、測定温度値が所定の条件を満たすか否かの判定結果の出力を行う。また、本体部100Bは、外部信号がオフ状態である場合、表示部94に測定温度値を表示しないとともに、測定温度値が所定の条件を満たすか否かの判定結果の出力を行わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーを検出することによりその物体の温度を測定する放射温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出し、その赤外線エネルギーを測定対象物の放射率で補正することにより測定対象物の実際の温度を測定し、その温度値を表示する放射温度計がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
放射率は、測定対象物の材料およびその表面状態等に基づいて算出される固有の値である。したがって、放射温度計においては、予め測定対象物に応じて放射率を設定する必要がある。
【特許文献1】特開平7−324981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射温度計を用いた測定対象物の温度測定時においては、必ずしも測定対象物から放射される赤外線エネルギーのみが検出されるとは限らない。例えば、測定対象物の温度測定時に放射温度計と測定対象物とが相対的に移動すると、放射温度計は測定対象物以外の物体(以下、対象外物体と呼ぶ。)からの赤外線エネルギーを検出する場合がある。これにより、使用者は放射温度計に表示される温度値が測定対象物の温度値であるか否かを識別する必要があった。
【0005】
また、対象外物体の放射率と測定対象物の放射率とが異なる場合、放射温度計は、対象外物体の赤外線エネルギーを測定対象物の放射率で補正し、誤った温度値を表示する。したがって、使用者は対象外物体の誤った温度値を対象外物体の実際の温度値と認識してしまう。
【0006】
ところで、測定対象物の温度の異常を判定する放射温度計も開発されている。この放射温度計においては、測定対象物の温度が所定の温度よりも高いまたは低い場合に、判定結果として温度の正常/異常が表示される。
【0007】
このような機能を有する放射温度計においても、上記の理由で、正確な判定結果が表示される一方で、上記の誤った温度値に基づく判定結果が表示される場合がある。この場合、使用者は所望の判定結果を知ることが困難である。
【0008】
本発明の目的は、使用者が測定対象物の実際の温度および測定対象物の温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果を容易かつ正確に知ることができる放射温度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る放射温度計は、測定対象物の温度を測定する放射温度計であって、測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、赤外線検出手段の出力信号に基づいて測定対象物の温度を測定温度として算出する演算手段と、測定温度を表示する表示手段と、測定温度が所定の条件を満たすか否かを判定して出力する判定出力手段と、測定対象物の測定タイミングを示す外部信号に応答して、表示手段により測定温度が表示されるとともに、判定出力手段により判定結果が出力されるように表示手段および判定出力手段を制御する制御手段とを備えたものである。
【0010】
その放射温度計においては、赤外線検出手段により測定対象物からの赤外線エネルギーが検出され、演算手段により測定対象物の温度が測定温度として算出され、算出された測定温度が表示手段により表示される。また、測定温度が所定の条件を満たすか否かが判定出力手段により判定されるとともに、出力される。
【0011】
ここで、制御手段は測定対象物の測定タイミングを示す外部信号に応答して、表示手段による測定温度の表示、ならびに、判定出力手段による測定温度が所定の条件を満たすか否かの判定結果の出力を制御する。これにより、測定対象物の測定温度が算出されるタイミングで、測定温度が表示されるとともに判定結果が出力されるので、使用者は、測定対象物の測定タイミングを容易に知ることができるとともに、測定対象物の実際の温度および測定対象物の温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果を容易かつ正確に知ることができる。
【0012】
判定出力手段は、測定温度および予め設定された温度のしきい値に基づいて、測定温度が所定の条件を満たすか否かを判定する判定動作を行う判定手段と、判定手段による判定結果を出力する出力動作を行う出力手段とを含んでもよい。
【0013】
この場合、判定出力手段においては、測定温度が所定の条件を満たすか否かが、測定温度および予め設定された温度のしきい値に基づいて判定手段により判定される。また、判定手段による判定結果が出力手段により出力される。これにより、使用者は測定温度の所定の条件をしきい値により容易に設定することができる。
【0014】
制御手段は、外部信号が測定タイミングを示しているときに、判定手段が判定動作を行い、外部信号が測定タイミングを示していないときに、判定手段が判定動作を行わないように判定手段を制御してもよい。
【0015】
この場合、外部信号が測定タイミングを示しているときに、判定手段により判定動作が行われ、外部信号が測定タイミングを示していないときに、判定手段により判定動作が行われない。これにより、使用者は、外部信号が測定タイミングを示しているときに測定温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果を知ることができる。
【0016】
制御手段は、外部信号が測定タイミングを示しているときに、出力手段が出力動作を行い、外部信号が測定タイミングを示していないときに、出力手段が出力動作を行わないように出力手段を制御してもよい。
【0017】
この場合、外部信号が測定タイミングを示しているときに、出力手段により出力動作が行われ、外部信号が測定タイミングを示していないときに、出力手段により出力動作が行われない。これにより、使用者は、外部信号が測定タイミングを示しているときに測定温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果を知ることができる。
【0018】
外部信号が測定タイミングを示す期間において、測定温度の最大値を保持する保持手段をさらに備え、制御手段は、保持手段により保持された測定温度が表示されるように表示手段を制御し、保持手段により保持された測定温度が所定の条件を満たすか否かが判定されるように判定出力手段を制御してもよい。
【0019】
この場合、外部信号が測定タイミングを示す期間において、測定温度の最大値が保持手段により保持され、保持された測定温度が表示手段により表示されるとともに、保持された測定温度が所定の条件を満たすか否かが判定出力手段により判定される。これにより、使用者は、外部信号が測定タイミングを示す期間における測定温度の最大値を容易に知ることができる。
【0020】
外部信号が測定タイミングを示す期間において、測定温度の最小値を保持する保持手段をさらに備え、制御手段は、保持手段により保持された測定温度が表示されるように表示手段を制御し、保持手段により保持された測定温度が所定の条件を満たすか否かが判定されるように判定出力手段を制御してもよい。
【0021】
この場合、外部信号が測定タイミングを示す期間において、測定温度の最小値が保持手段により保持され、保持された測定温度が表示手段により表示されるとともに、保持された測定温度が所定の条件を満たすか否かが判定出力手段により判定される。これにより、使用者は、外部信号が測定タイミングを示す期間における測定温度の最小値を容易に知ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る放射温度計によれば、測定対象物の測定温度が算出されるタイミングで、測定温度が表示されるとともに、測定対象物の温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果が出力されるので、使用者は、測定対象物の測定タイミングを容易に知ることができるとともに、測定対象物の実際の温度および測定対象物の温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果を容易かつ正確に知ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態に係る放射温度計について図1〜図9に基づき説明する。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。図1に示すように、第1の実施の形態に係る放射温度計100は、ヘッド部100Aおよび本体部100Bを備える。
【0025】
ヘッド部100Aおよび本体部100Bは互いにケーブル80により接続されている。また、本体部100Bはケーブル81,82を介して図示しない外部装置に接続される。
【0026】
図2は、図1のヘッド部100Aのブロック図であり、図3は図1の本体部100Bのブロック図である。
【0027】
図1に示すように、ヘッド部100Aは、サーモパイル10、プリアンプ基板20、メイン基板30、電源基板40および2つのレーザダイオード60,70を備える。
【0028】
サーモパイル10は、赤外線受光部11およびサーミスタ12を備える。プリアンプ基板20には、第1の信号増幅部21および第2の信号増幅部22が実装される。メイン基板30には、第3の信号増幅部31、アナログデジタル変換回路(以下、AD変換回路と略記する。)32,33、CPU(中央演算処理装置)34、記憶部35、表示灯36およびレーザ駆動回路37が実装される。
【0029】
電源基板40には、電源回路41、通信回路42およびレーザ駆動回路43が実装される。電源基板40には、電源線および信号線を含むケーブル80が接続されている。
【0030】
サーモパイル10において、赤外線受光部11は測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出する。サーミスタ12はサーモパイル10の内部温度を検出する。
【0031】
プリアンプ基板20において、第1の信号増幅部21は赤外線受光部11の出力信号を増幅する。第2の信号増幅部22はサーミスタ12の出力信号を増幅する。
【0032】
メイン基板30において、第3の信号増幅部31は第1の信号増幅部21の出力信号を増幅する。AD変換回路32は、第3の信号増幅部31の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を測定対象物の検出温度値としてCPU34へ与える。
【0033】
AD変換回路33は、第2の信号増幅部22の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号をサーモパイル10の内部温度値としてCPU34へ与える。
【0034】
記憶部35には、サーモパイル10に関する情報およびCPU34が測定対象物の温度を算出するための演算式等が記憶されている。サーモパイル10に関する情報とは、例えば、赤外線受光部11のゲインおよびオフセット値、サーミスタ12のゲインおよびオフセット値、ならびにサーモパイルの測定温度範囲等である。
【0035】
CPU34には、本体部100Bからケーブル80および通信回路42を通じて、測定対象物の放射率および後述の判定信号等が与えられる。CPU34は、AD変換回路32から与えられる検出温度値、AD変換回路33から与えられる内部温度値、本体部100Bから与えられた放射率、ならびに記憶部35に記憶された種々の情報および演算式に基づいて測定対象物の実際の温度値(以下、測定温度値と呼ぶ。)を算出する。そして、CPU34は測定温度値を通信回路42およびケーブル80を通じて本体部100Bに与える。
【0036】
また、CPU34は、AD変換回路32の出力信号のレベルに基づいて第3の信号増幅部31のゲインをフィードバック制御する。
【0037】
さらに、CPU34は、表示灯36、レーザ駆動回路37および電源基板40のレーザ駆動回路43の動作を制御する。表示灯36は、CPU34の制御により後述の判定信号のオン状態またはオフ状態を点灯または消灯により表示する。レーザ駆動回路37は、CPU34の制御によりレーザダイオード60を駆動する。
【0038】
電源基板40において、電源回路41は本体部100Bからケーブル80を通じて与えられる電力をヘッド部100Aの各構成部に供給する。
【0039】
通信回路42およびレーザ駆動回路43は、メイン基板30のCPU34と接続されている。
【0040】
通信回路42は、上述のように、ケーブル80を介してCPU34と本体部100Bとの間で通信を行う。レーザ駆動回路43は、CPU34の制御によりレーザダイオード70を駆動する。レーザダイオード60,70から出射されるレーザ光は測定対象物の測定箇所に照射される。
【0041】
図3に示すように、本体部100Bは、電源回路91、通信回路92、CPU93、表示部94、記憶部95、操作設定部96、外部出力回路97、アナログ出力回路98および外部入力回路99を備える。
【0042】
電源回路91および通信回路92にはケーブル80が接続されている。電源回路91は、電池等の電力供給源を備え、その電力を本体部100Bの各構成部およびヘッド部100Aに供給する。通信回路92は、ケーブル80を介してCPU93とヘッド部100Aとの間で通信を行う。
【0043】
記憶部95は、測定対象物の放射率、演算式および判定のためのしきい値等を記憶する。使用者は、操作設定部96を操作することにより測定対象物の放射率およびしきい値等を設定することができる。設定された放射率およびしきい値等は記憶部95に記憶される。
【0044】
CPU93は、本体部100Bの各構成部の動作を制御する。また、CPU93は、ヘッド部100Aから与えられる測定温度値と記憶部95に記憶されるしきい値との大小関係を判定し、判定結果に基づく判定信号を生成し、外部出力回路97を介してケーブル81に出力する。また、CPU93は、判定信号を通信回路92を介してケーブル80に出力する。
【0045】
判定信号は、例えば、測定温度値がしきい値よりも高い場合にオン状態(例えば、ハイレベル)となり、測定温度値がしきい値以下の場合にオフ状態(例えば、ローレベル)となる。以下、CPU93が測定温度値およびしきい値に基づいて判定信号を生成する処理を判定処理と呼ぶ。本実施の形態において、CPU93による判定処理は、後述の外部信号に基づくタイミングで行われる。
【0046】
また、CPU93は、表示部94に測定温度値を表示させる。ここで、表示部94の測定温度値の表示は、判定処理と同様に、後述の外部信号に基づくタイミングで行われる。
【0047】
さらに、CPU93は、ヘッド部100Aから与えられる測定温度値を外部出力回路97を介してケーブル81に出力するとともに、測定温度値に対応するアナログ信号をアナログ出力回路98を介してケーブル81に出力する。
【0048】
外部入力回路99は、CPU93に接続されるとともに、ケーブル82を介して図示しない外部装置に接続されている。外部入力回路99には、外部装置から外部信号が入力される。
【0049】
本体部100Bは、例えば外部信号がオン状態(例えば、ハイレベル)の場合に測定温度値の表示および判定処理を行い、外部信号がオフ状態(例えば、ローレベル)の場合に測定温度値の表示および判定処理を行わない。詳細は後述する。
【0050】
図4は、本体部100Bの表示部94の一例を示す模式図である。
【0051】
図4に示すように、表示部94は、入力部102および表示パネル103を備える。
【0052】
表示部94の入力部102は、モード設定キー101d、セットキー101e、上キー101fおよび下キー101gを含む。また、表示パネル103は、出力表示灯101aおよび7セグメントLED101b,101cを含む。
【0053】
セットキー101eは、例えば各種操作の確定を行う場合等に用いられる。また、使用者は、モード設定キー101d、上キー101fおよび下キー101gをそれぞれ操作することにより、測定対象物の放射率およびしきい値等を設定することができる。
【0054】
出力表示灯101aは、判定信号のオン/オフ状態を点灯および非点灯により表示する。
【0055】
7セグメントLED101bは、例えば測定温度値を表示する。7セグメントLED101cは、例えば上述のしきい値を表示する。
【0056】
第1の実施の形態に係る放射温度計100は、例えば以下のように用いられる。
【0057】
図5は、第1の実施の形態に係る放射温度計100の一適用例を説明するための図である。
【0058】
図5の例では、ベルトコンベアBRの上方の所定位置にヘッド部100Aを設置し、ベルトコンベアBRにより搬送される直方体形状の測定対象物Wの温度を測定する。
【0059】
図5(a)および図5(b)に示すように、ベルトコンベアBR上では複数の測定対象物Wが互いに所定の間隔を保ちつつ矢印Tの方向に搬送されている。
【0060】
本例において、ヘッド部100Aはその直下に位置する測定対象物WまたはベルトコンベアBRから放射される赤外線を受光し、測定温度値を算出する。ベルトコンベアBRにより測定対象物Wが搬送されると、ヘッド部100Aには測定対象物Wから放射される赤外線Rと、ベルトコンベアBRから放射される赤外線Rとが交互に入射される。
【0061】
それにより、ヘッド部100AのCPU34(図2)は、測定対象物Wから放射される赤外線Rが入射された場合に、予め設定された測定対象物Wの放射率に基づいて測定対象物Wの正確な測定温度値を算出する。一方、CPU34はベルトコンベアBRから放射される赤外線Rが入射された場合に、測定対象物Wの放射率に基づいて誤った測定温度値を算出する。
【0062】
ここで、本体部100Bには、図示しない外部装置からケーブル82を介して外部信号が入力される。この外部信号は、所定のタイミングでオン/オフ状態を繰り返す。本例において、外部信号のオン/オフ状態の切り替わりはベルトコンベアBRによる測定対象物Wの搬送に同期している。本例において、外部信号はヘッド部100Aの直下に測定対象物Wの中央が位置するタイミングでオン状態となり、それ以外のタイミングでオフ状態となる。
【0063】
そこで、図5(a)に示すように、本体部100Bは外部信号がオン状態である場合に表示部94に測定温度値およびしきい値を表示する。すなわち、ヘッド部100Aに測定対象物Wからの赤外線Rが確実に入射し、測定対象物Wの測定温度値が正確に算出されるタイミングで測定温度値およびしきい値が表示される。図5(a)においては、本体部100Bの表示部94に測定温度値108℃およびしきい値100℃が表示されている。
【0064】
また、図5(b)に示すように、本体部100Bは外部信号がオフ状態である場合に表示部94に測定温度値およびしきい値を表示しない。すなわち、ヘッド部100AにベルトコンベアBRからの赤外線Rが入射し、測定対象物Wの測定温度値が正確に算出されない期間では測定温度値およびしきい値が表示されない。
【0065】
これにより、使用者は、測定対象物Wの正確な測定温度値を容易に認識することができる。
【0066】
なお、図5の例では説明していないが、上述のように本体部100BのCPU93における判定処理も外部信号のオン/オフ状態に応じて行われる。
【0067】
図6は、図5の適用例における外部信号、測定温度値および判定信号の一例を示す図である。
【0068】
図6(a)に示すように、本体部100Bに入力される外部信号は、測定対象物Wの搬送に同期するタイミングでオン/オフ状態を繰り返す。
【0069】
図6(b)にヘッド部100Aにより算出される測定温度値の変化が示されている。ここで、図6(c)に示すように、本体部100Bには、外部信号がオン状態の場合にのみ測定温度値が表示される。さらに、上述のように、本体部100Bにおいては、外部信号がオン状態の場合にのみ判定処理が行われる。
【0070】
本例の判定処理において、判定信号は、測定温度値がしきい値THよりも大きい場合にオン状態となり、測定温度値がしきい値TH以下である場合にオフ状態となるものとする。この場合、図6(d)の判定信号が得られる。
【0071】
このように、第1の実施の形態に係る放射温度計100においては、測定対象物Wの測定温度値が算出されるタイミングで本体部100Bに測定温度値が表示されるとともに、判定処理が行われる。したがって、測定対象物W以外の測定温度値に基づいて判定処理が行われないので、使用者は、測定対象物Wの正確な測定温度値、および測定対象物Wの温度が所定の条件を満たすか否かの正確な判定結果を容易に知ることができる。
【0072】
図7に基づいて、放射温度計100の本体部100Bの動作について説明する。図7は、第1の実施の形態に係る放射温度計100の本体部100Bの動作を説明するためのフローチャートである。
【0073】
初めに、本体部100BのCPU93は、ヘッド部100Aから測定温度値を受信するとともに、ケーブル82を介して接続された外部装置(図示せず)から外部信号を受信する(ステップS21)。そこで、CPU93は、外部信号がオン状態であるか否かを判別する(ステップS22)。
【0074】
CPU93は、外部信号がオン状態である場合、表示部94に測定温度値を表示させる(ステップS23)。なお、ステップS23において、CPU93は、表示部94に予め設定されたしきい値THを表示させてもよい。
【0075】
次に、CPU93は受信した測定温度値に関する判定処理を行う(ステップS24)。そして、CPU93は生成した判定信号をヘッド部100Aへ送信するとともに、ケーブル81を介して接続された外部装置(図示せず)へ送信する(ステップS25)。
【0076】
上記ステップS22において、外部信号がオン状態でない場合(オフ状態である場合)、CPU93は、表示部94に測定温度値を表示させない(ステップS26)。この場合、CPU93は、測定温度値の判定処理も行わない。
【0077】
以上、第1の実施の形態に係る放射温度計100によれば、測定対象物Wの測定温度値が算出されるタイミングで本体部100Bに測定温度値が表示されるとともに、判定処理が行われる。これにより、使用者は、測定対象物の実際の温度および測定対象物の温度が所定の条件を満たしているか否かの判定結果を容易かつ正確に知ることができる。
【0078】
なお、上記では外部信号がオフ状態である場合に判定処理は行われていないが、本体部100Bは常に判定処理を行い、外部信号がオフ状態である場合に生成された判定信号をヘッド部100Aおよび外部装置に送信しなくてもよい。
【0079】
第1の実施の形態に係る放射温度計100において、外部信号を本体部100Bに入力する外部装置は、図3の点線で示すように、測定対象物Wを検出する光電センサ99xであってもよい。光電センサ99xは測定対象物Wを検出するタイミングでオン状態となる外部信号を容易に生成することができる。それにより、使用者は、外部信号のオン/オフ状態の切り替わりを測定対象物Wの搬送に同期させることが容易となる。なお、測定対象物Wを検出する光電センサ99xの代わりに、他の種々のセンサを用いることができる。
【0080】
また、外部装置は、ベルトコンベアBRの搬送速度を制御する制御装置であってもよい。この場合においても、外部信号のオン/オフ状態の切り替わりを測定対象物Wの搬送に同期させることが容易となる。
【0081】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る放射温度計100は以下の点で、第1の実施の形態に係る放射温度計100と動作が異なる。
【0082】
第2の実施の形態に係る放射温度計100において、本体部100Bは、外部信号のオン時に算出される測定温度値が増加するごとにピーク値を保持し、そのピーク値をヘッド部100Aに表示させるピークホールドモードを有する。また、本体部100Bは、外部信号のオン時に算出される測定温度値が増加するごとにボトム値を保持し、そのボトム値をヘッド部100Aに表示させるボトムホールドモードを有する。
【0083】
第2の実施の形態に係る放射温度計100は、例えば以下のように用いられる。
【0084】
図8は第2の実施の形態に係る放射温度計100の適用例を説明するための図であり、図9は図8の適用例における外部信号および測定温度値の一例を示す図である。図8の適用例は、以下の点で第1の実施の形態に係る図5の適用例と異なる。
【0085】
図8の例では、測定対象物Wが球形状を有する。一般に、測定対象物Wの放射率は赤外線の放射方向に応じて変化する。
【0086】
例えば、図8(a)に示すように、測定対象物Wの中央部から垂直方向に放射される赤外線に関する放射率と、図8(b)に示すように、測定対象物Wの中央部以外の部位から垂直方向に対して傾斜した方向に放射される赤外線に関する放射率とは異なる。
【0087】
ここで、測定対象物Wの所定の箇所から垂直方向に放射される赤外線に関する放射率は、垂直方向に対して傾斜した方向に放射される赤外線に関する放射率よりも高い。また、測定対象物Wの所定の箇所から垂直方向に放射される赤外線の強度は、垂直方向に対して傾斜した方向に放射される赤外線に関する放射率の強度よりも高い。
【0088】
したがって、複数の測定対象物Wの測定温度値を正確に得たい場合、測定温度値は各測定対象物Wの特定の部位から垂直方向に放射される赤外線により算出することが好ましい。そこで、放射温度計100に予め測定対象物Wの特定の部位から垂直方向に放射される赤外線に関する放射率を設定する。
【0089】
この場合、放射温度計100の直下を測定対象物Wが通過する期間における測定温度値の最大値が、測定対象物の実際の温度値であるとみなすことができる。
【0090】
本例において、外部信号は、図9(a)に示すように、ヘッド部100Aの直下を測定対象物Wが通過する期間中オン状態となり、その他の期間オフ状態となる。なお、図9(b)には、放射温度計100のヘッド部100Aにより算出される測定温度値が示されている。
【0091】
本体部100Bは、図9(c)に示すように、ピークホールドモード時には、測定対象物Wが通過する期間において測定温度値が増加するごとにその測定温度値を記憶部95に記憶する。
【0092】
すなわち、本体部100Bは、測定対象物Wの通過期間に記憶部95に記憶された測定温度値よりも高い測定温度値が算出された場合に、記憶部95に記憶された測定温度値を新たな測定温度値に更新する。
【0093】
そして、図8(a)および図8(b)に示すように、本体部100BのCPU93は記憶部95に記憶された測定温度値を表示部94に表示させる。
【0094】
その後、CPU93は次の外部信号の立ち下がりタイミング(外部信号のオン状態からオフ状態への切り替わりタイミング)で表示部94への測定温度値の表示を停止する。また、CPU93は次の外部信号の立ち上がりタイミング(外部信号のオフ状態からオン状態への切り替わりタイミング)で記憶部95に記憶された測定温度値をリセットする。
【0095】
一方、本体部100Bは、図9(d)に示すように、ボトムホールドモード時には、測定対象物Wが通過する期間において測定温度値が減少するごとにその測定温度値を記憶部95に記憶する。
【0096】
すなわち、本体部100Bは、測定対象物Wの通過期間に記憶部95に記憶された測定温度値よりも低い測定温度値が算出された場合に、記憶部95に記憶された測定温度値を新たな測定温度値に更新する。
【0097】
そして、図8(a)および図8(b)に示すように、本体部100BのCPU93は記憶部95に記憶された測定温度値を表示部94に表示させる。
【0098】
その後、CPU93は次の外部信号の立ち下がりタイミング(外部信号のオン状態からオフ状態への切り替わりタイミング)で表示部94への測定温度値の表示を停止する。また、CPU93は次の外部信号の立ち上がりタイミング(外部信号のオフ状態からオン状態への切り替わりタイミング)で記憶部95に記憶された測定温度値をリセットする。
【0099】
図8の例においては、放射温度計100のピークホールドモードを用いることにより、使用者は測定対象物Wの実際の温度を容易かつ正確に知ることができる。
【0100】
このように、第2の実施の形態に係る放射温度計100においては、ピークホールドモードおよびボトムホールドモードを有する。これにより、算出される測定温度値の最大値または最小値が本体部100Bに表示されるので、使用者は容易かつ正確に測定対象物Wの測定温度値の最大値および最小値を知ることができる。
【0101】
以上、第1および第2の実施の形態に係る放射温度計100において、サーモパイル10および赤外線受光部11は赤外線検出手段に相当し、測定温度値は測定温度に相当し、ヘッド部100AのCPU34は演算手段に相当し、本体部100Bの表示部94は表示手段に相当する。
【0102】
また、本体部100Bの通信回路92、CPU93、外部出力回路97およびアナログ出力回路98は判定出力手段に相当し、本体部100BのCPU93は制御手段および判定手段に相当する。
【0103】
さらに、本体部100Bの通信回路92、外部出力回路97およびアナログ出力回路98は出力手段に相当し、本体部100Bの記憶部95は保持手段に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーを検出することに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】第1の実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。
【図2】図1のヘッド部のブロック図である。
【図3】図1の本体部のブロック図である。
【図4】本体部の表示部の一例を示す模式図である。
【図5】第1の実施の形態に係る放射温度計の一適用例を説明するための図である。
【図6】図5の適用例における外部信号、測定温度値および判定信号の一例を示す図である。
【図7】第1の実施の形態に係る放射温度計の本体部の動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】第2の実施の形態に係る放射温度計の適用例を説明するための図である。
【図9】図8の適用例における外部信号および測定温度値の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
10 サーモパイル
11 赤外線受光部
34 CPU
92 通信回路
93 CPU
94 表示部
95 記憶部
97 外部出力回路
98 アナログ出力回路
100 放射温度計
100A ヘッド部
100B 本体部
TH しきい値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の温度を測定する放射温度計であって、
前記測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、
前記赤外線検出手段の出力信号に基づいて前記測定対象物の温度を測定温度として算出する演算手段と、
前記測定温度を表示する表示手段と、
前記測定温度が所定の条件を満たすか否かを判定して出力する判定出力手段と、
前記測定対象物の測定タイミングを示す外部信号に応答して、前記表示手段により前記測定温度が表示されるとともに、前記判定出力手段により判定結果が出力されるように前記表示手段および前記判定出力手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記判定出力手段は、
前記測定温度および予め設定された温度のしきい値に基づいて、前記演算手段により算出された前記測定温度が所定の条件を満たすか否かを判定する判定動作を行う判定手段と、
前記判定手段による判定結果を出力する出力動作を行う出力手段とを含むことを特徴とする請求項1記載の放射温度計。
【請求項3】
前記制御手段は、前記外部信号が測定タイミングを示しているときに、前記判定手段が前記判定動作を行い、前記外部信号が測定タイミングを示していないときに、前記判定手段が前記判定動作を行わないように前記判定手段を制御することを特徴とする請求項2記載の放射温度計。
【請求項4】
前記制御手段は、前記外部信号が測定タイミングを示しているときに、前記出力手段が前記出力動作を行い、前記外部信号が測定タイミングを示していないときに、前記出力手段が前記出力動作を行わないように前記出力手段を制御することを特徴とする請求項2または3記載の放射温度計。
【請求項5】
前記外部信号が測定タイミングを示す期間において、測定温度の最大値を保持する保持手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記保持手段により保持された前記測定温度が表示されるように前記表示手段を制御し、前記保持手段により保持された前記測定温度が所定の条件を満たすか否かが判定されるように前記判定出力手段を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の放射温度計。
【請求項6】
前記外部信号が測定タイミングを示す期間において、測定温度の最小値を保持する保持手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記保持手段により保持された前記測定温度が表示されるように前記表示手段を制御し、前記保持手段により保持された前記測定温度が所定の条件を満たすか否かが判定されるように前記判定出力手段を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の放射温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−226783(P2006−226783A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39518(P2005−39518)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】