説明

放射温度計

【課題】 正確に測定箇所を指示できるとともに、十分な小型化を実現することができる放射温度計を提供する。
【解決手段】 放射温度計のヘッド部100Aにおいては、測定対象物から放射される赤外線がヘッドケーシングKの前面KFの赤外線集光部KHに設けられた赤外線集光レンズ200Lおよび赤外線通路を通じてサーモパイル10に入射され、サーモパイル10により入射された赤外線のエネルギーが検出される。また、ヘッドケーシングKの下面KDと赤外線通路との間に配置されたレーザダイオード40から出射されるレーザ光RLがミラーM1,M2により前面KFに位置するレーザ光出射孔200Hから測定対象物へと導かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーを検出することによりその物体の温度を測定する放射温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出し、その赤外線エネルギーを測定対象物の放射率で補正することにより測定対象物の実際の温度を測定する放射温度計がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような放射温度計において、測定対象物から放射される赤外線エネルギーは目に見えないため、使用者は測定対象物のどの箇所を測定しているのかを認識することができない。
【0004】
そこで、使用者が測定箇所を認識できるように、レーザダイオード(LD)または発光ダイオード(LED)等の光源を用いて測定箇所を指示できる放射温度計が開発されている。
【0005】
この放射温度計において、測定箇所は、例えば1個のレーザダイオードにより指示される。この場合、レーザダイオードは放射温度計のケーシング内に設けられる。
【特許文献1】特開平7−324981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザダイオードを放射温度計のケーシング内に設けるためには、その配置位置を放射温度計に入射する赤外線エネルギーの経路からずらす必要がある。しかしながら、このようにレーザダイオードを配置すると、レーザダイオードから出射されるレーザ光は実際の測定箇所からずれた箇所を指示することになる。この場合、使用者は正確に測定箇所を認識することができない。
【0007】
ここで、上記の放射温度計においては、実際の測定箇所を正確に指示するために、レーザ光の方向を測定対象物の測定箇所に調整するための機構を設けることも可能である。しかしながら、この場合、放射温度計が大型化する。
【0008】
本発明の目的は、正確に測定箇所を指示できるとともに、十分な小型化を実現することができる放射温度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る放射温度計は、測定対象物の温度を測定する放射温度計であって、互いに対向する第1および第2の面ならびに互いに対向する第3および第4の面を有し、第1の面に測定対象物から放射される赤外線を透過する赤外線透過部を有するケーシングと、ケーシング内に設けられ、赤外線透過部を透過した赤外線エネルギーを検出する検出回路と、ケーシング内の第2の面と検出回路との間で第2の面に沿って設けられ、検出回路の出力信号に基づいて測定対象物の温度を算出する温度算出回路が実装される基板と、ケーシング内に設けられる光源と、光源から出射される光を第1の面の赤外線透過部から測定対象物へと導く光学系とを備え、ケーシング内に赤外線透過部から検出回路に赤外線を導く赤外線通路が形成され、光源は、赤外線通路と第3の面との間に配置されたものである。
【0010】
この放射温度計においては、測定対象物から放射される赤外線がケーシングの第1の面の赤外線透過部およびケーシング内の赤外線通路を通じて検出回路に入射され、検出回路により入射された赤外線のエネルギーが検出される。
【0011】
また、ケーシングの第3の面と赤外線通路との間に配置された光源から出射される光が光学系により第1の面の赤外線透過部から測定対象物へと導かれる。これにより、測定箇所から検出回路に入射される赤外線の経路に沿って、光源の光を出射することができる。その結果、測定箇所が放射温度計により正確に指示される。
【0012】
さらに、測定対象物から検出回路に入射される赤外線の経路と、光源の光を出射する経路とが一致しているので、光源からの光の方向を調整するための機構が不要となる。その結果、放射温度計の十分な小型化が実現される。
【0013】
また、ケーシング内において、基板がケーシングの第2の面と検出回路との間で第2の面に沿って設けられることにより、検出回路と基板との間の距離を短くすることができる。この場合、検出回路と基板との間の配線を短くすることができるので、検出回路の出力信号がノイズの影響を受けにくくなる。その結果、放射温度計は高い精度で測定対象物の温度を算出することができる。
【0014】
さらに、光源はケーシング内で赤外線通路に隣接し、検出回路には隣接しないので、検出素子への局所的な熱の伝達が低減される。
【0015】
検出回路は、赤外線エネルギーを検出することにより信号を発生する赤外線検出素子と、赤外線検出素子により発生された信号を増幅する増幅回路とを含んでもよい。
【0016】
この場合、赤外線検出素子および増幅回路が検出回路に含まれるので、赤外線検出素子により発生された微弱な信号が長い配線を通ることなく増幅回路により増幅される。それにより、赤外線検出素子の信号がノイズの影響を受けにくくなる。その結果、放射温度計はより高い精度で測定対象物の温度を算出することができる。
【0017】
また、赤外線検出素子および増幅回路が検出回路に含まれることにより、増幅回路を他の基板に実装する必要がなくなる。それにより、ケーシング内に設ける基板の点数を十分に低減することができる。その結果、ヘッドケーシング内の省スペース化が実現され、放射温度計のさらなる小型化が実現する。
【0018】
光源は、第3の面に沿うように、かつ第1の面に向かって光が出射されるように設けられ、光学系は、光源から出射される光を赤外線通路に向かうように反射する第1の反射部材と、第1の反射部材により反射された光を赤外線透過部に向かうように反射する第2の反射部材とを含んでもよい。
【0019】
この場合、光源から出射される光が第1の反射部材により赤外線通路に向かうように反射され、第1の反射部材により反射された光が赤外線透過部に向かうように反射される。このように、簡単な構成で測定対象物から検出回路に入射される赤外線の経路と、光源の光を出射する経路とを一致させることができる。
【0020】
第2の反射部材は、赤外線を透過してもよい。この場合、第2の反射部材を赤外線通路に配置することができる。
【0021】
基板には、光源を駆動する駆動回路と、検出回路の増幅回路から与えられる信号に基づいて測定対象物の温度を算出するとともに、駆動回路を制御する制御回路とがさらに実装されてもよい。この場合、駆動回路により光源が駆動される。また、制御回路により検出回路の増幅回路から与えられる信号に基づいて測定対象物の温度が算出され、駆動回路が制御される。
【0022】
基板には、表示素子が実装され、制御回路は算出された測定対象物の温度に基づいて表示素子を制御してもよい。この場合、基板に実装された表示素子が、測定対象物の温度に基づいて制御回路により制御される。
【0023】
表示素子は、ケーシングの第2の面と第4の面との角部に位置してもよい。これにより、表示素子の視認性が向上する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る放射温度計においては、この放射温度計においては、測定対象物から放射される赤外線がケーシングの第1の面の赤外線透過部およびケーシング内の赤外線通路を通じて検出回路に入射され、検出回路により入射された赤外線のエネルギーが検出される。
【0025】
また、ケーシングの第3の面と赤外線通路との間に配置された光源から出射される光が光学系により第1の面の赤外線透過部から測定対象物へと導かれる。これにより、測定箇所から検出回路に入射される赤外線の経路に沿って、光源の光を出射することができる。その結果、測定箇所が放射温度計により正確に指示される。
【0026】
さらに、測定対象物から検出回路に入射される赤外線の経路と、光源の光を出射する経路とが一致しているので、光源からの光の方向を調整するための機構が不要となる。その結果、放射温度計の十分な小型化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一実施の形態に係る放射温度計について図1〜図9に基づき説明する。
【0028】
(1)放射温度計の機能的な構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。図1に示すように、本実施の形態に係る放射温度計100は、ヘッド部100Aおよび本体部100Bを備える。
【0029】
ヘッド部100Aおよび本体部100Bは互いにケーブル80により接続されている。また、本体部100Bはケーブル81を介して図示しない外部装置に接続される。
【0030】
図2は図1のヘッド部100Aのブロック図であり、図3は図1の本体部100Bのブロック図である。
【0031】
図2に示すように、ヘッド部100Aは、サーモパイル10、メイン基板30およびレーザダイオード40を備える。
【0032】
サーモパイル10は、赤外線受光部11、サーミスタ12、第1の信号増幅部21および第2の信号増幅部22を備える。第1の信号増幅部21および第2の信号増幅部22はIC(集積回路)により構成される。
【0033】
メイン基板30には、第3の信号増幅部31、アナログデジタル変換回路(以下、AD変換回路と略記する。)32,33、CPU(中央演算処理装置)34、記憶部35、表示灯36、レーザ駆動回路37、通信回路38および電源回路39が実装される。電源回路39には、電源線および信号線を含むケーブル80が接続されている。
【0034】
サーモパイル10において、赤外線受光部11は測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出する。サーミスタ12はサーモパイル10の内部温度を検出する。第1の信号増幅部21は赤外線受光部11の出力信号を増幅する。第2の信号増幅部22はサーミスタ12の出力信号を増幅する。
【0035】
メイン基板30において、第3の信号増幅部31は第1の信号増幅部21の出力信号を増幅する。AD変換回路32は、第1の信号増幅部21の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を測定対象物の検出温度値としてCPU34へ与える。
【0036】
AD変換回路33は、第2の信号増幅部22の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号をサーモパイル10の内部温度値としてCPU34へ与える。
【0037】
AD変換回路33は、第2の信号増幅部22の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号をサーモパイル10の内部温度値としてCPU34へ与える。
【0038】
記憶部35には、サーモパイル10に関する情報およびCPU34が測定対象物の温度を算出するための演算式等が記憶されている。サーモパイル10に関する情報とは、例えば、赤外線受光部11のゲインおよびオフセット値、サーミスタ12のゲインおよびオフセット値、ならびにサーモパイルの測定温度範囲等である。
【0039】
CPU34には、本体部100Bからケーブル80および通信回路38を通じて測定対象物の放射率および後述する判定信号が与えられる。CPU34は、AD変換回路32から与えられる検出温度値、AD変換回路33から与えられる内部温度値、本体部100Bから与えられた放射率、ならびに記憶部35に記憶された種々の情報および演算式に基づいて測定対象物の実際の温度値(以下、測定温度値と呼ぶ。)を算出する。そして、CPU34は測定温度値を通信回路38およびケーブル80を通じて本体部100Bに与える。
【0040】
また、CPU34は、AD変換回路32の出力信号のレベルに基づいて第3の信号増幅部31のゲインをフィードバック制御する。
【0041】
さらに、CPU34は、表示灯36およびレーザ駆動回路37の動作を制御する。表示灯36は、CPU34の制御により判定信号のオン状態またはオフ状態を点灯または消灯により表示する。レーザ駆動回路37は、CPU34の制御によりレーザダイオード40を駆動する。レーザダイオード40から出射されるレーザ光は測定対象物の測定箇所に照射される。
【0042】
電源回路39は本体部100Bからケーブル80を通じて与えられる電力をヘッド部100Aの各構成部に供給する。通信回路38は、上述のように、ケーブル50を介してCPU34と本体部100Bとの間で通信を行う。
【0043】
図3に示すように、本体部100Bは、電源回路91、通信回路92、CPU93、表示部94、記憶部95、操作設定部96、外部出力回路97およびアナログ出力回路98を備える。
【0044】
電源回路91および通信回路92にはケーブル80が接続されている。電源回路91は、電池等の電力供給源を備え、その電力を本体部100Bの各構成部およびヘッド部100Aに供給する。通信回路92は、ケーブル80を介してCPU93とヘッド部100Aとの間で通信を行う。
【0045】
記憶部95は、測定対象物の放射率、演算式および判定のためのしきい値等を記憶する。使用者は、操作設定部96を操作することにより測定対象物の放射率およびしきい値等を設定することができる。設定された放射率およびしきい値等は記憶部95に記憶される。
【0046】
CPU93は、本体部100Bの各構成部の動作を制御する。また、CPU93は、ヘッド部100Aから与えられる測定温度値と記憶部95に記憶されるしきい値との大小関係を判定し、判定結果を判定信号として外部出力回路97を介してケーブル81に出力する。
【0047】
判定信号は、例えば、測定温度値がしきい値よりも高い場合にオン状態(例えば、ハイレベル)となり、測定温度値がしきい値以下の場合にオフ状態(例えば、ローレベル)となる。
【0048】
さらに、CPU93は、ヘッド部100Aから与えられる測定温度値を外部出力回路97を介してケーブル81に出力するとともに、測定温度値に対応するアナログ信号をアナログ出力回路98を介してケーブル81に出力する。
【0049】
このようにして、本実施の形態に係る放射温度計100は、測定対象物の測定温度値を表示および出力するとともに、測定温度値がしきい値よりも高いか否かの判定結果(オン状態またはオフ状態)を表示および出力することができる。
【0050】
(2)放射温度計のヘッド部の構造
図4〜図6は、本発明の一実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aの構造を説明するための図である。図7は図4のヘッド部100Aの組立て状況を説明するための斜視図である。
【0051】
図4にヘッド部100Aの外観斜視図が示されている。また、図5に図4のA−A線における模式的断面図が示され、図6に図4のB−B線における模式的断面図が示されている。
【0052】
ヘッド部100Aの各構成部は略直方体形状のヘッドケーシングKに内蔵される。ヘッドケーシングKは、上面KU、下面KD、前面KF、背面KBおよび側面KS1,KS2を有する。
【0053】
以下の説明においては、図4の矢印X,Y,Zに示すように、側面KS1,KS2に垂直な方向をX方向と呼び、前面KFおよび背面KBに垂直な方向をY方向と呼び、上面KUおよび下面KDに垂直な方向をZ方向と呼ぶ。図4以降の図面についても同様に方向を定義する。
【0054】
図4において、ヘッドケーシングKの前面KFに赤外線集光部KHが設けられている。赤外線集光部KHには赤外線集光レンズ200Lが設けられている。赤外線集光レンズ200Lの中央にはレーザ光出射孔200Hが形成されている。
【0055】
本体ケーシングKの上面KUと背面KBとの角部には段差部が形成されている。その段差部には表示灯36が設けられている(図4および図5参照)。また、背面KBと下面KDとの角部には、ケーブル50の一端が接続される。このケーブル50の他端は、上述のように本体部100Bに接続される。
【0056】
赤外線集光部KHにおいては、測定対象物から放射される赤外線が取り込まれる。また、図2のレーザダイオード40により発生されたレーザ光が、赤外線集光部KHに設けられた赤外線集光レンズ200Lのレーザ光出射孔200Hから測定箇所へ向けて出射される。
【0057】
ここで、表示灯36は発光ダイオード等の光源を透光性の材料からなるカバー36hにより覆われている。これにより、使用者は表示灯36の点灯および点滅状況を容易に認識することができる。
【0058】
表示灯36を覆うカバー36hの材料としては、光を透過するとともに透過する光を拡散しやすい材料を用いることが好ましい。この場合、使用者は表示灯36の点灯および点滅状況をより容易に認識することができる。このカバー36hの材料は、透光性を有するのであれば、樹脂であってもよく、ガラスであってもよい。
【0059】
本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aの寸法は、例えば次の通りである。図4において、ヘッド部100Aの高さhは約28mmであり、ヘッド部100Aの幅wは約20mmであり、ヘッド部100Aの奥行きlは約48mmである。
【0060】
なお、上記の寸法は、ヘッド部100Aを構成するサーモパイル10およびメイン基板30の大きさ、ならびに赤外線集光レンズ200Lの焦点距離等に応じて設定される。
【0061】
図5および図6に示すように、ヘッドケーシングK内において、サーモパイル10はサーモパイルホルダ110およびレンズホルダ200により保持され、ヘッド部100Aの略中央部に配置されている。サーモパイル10の背面KB側では、サーモパイル10に近接するように、かつ背面BKに平行となるようにメイン基板30が配置されている。サーモパイル10はY方向に延びる複数の端子10Tを有する。
【0062】
図7にサーモパイル10のサーモパイルホルダ110への取り付け状況、およびサーモパイルホルダ110へのレンズホルダ200の装着状況が示されている。
【0063】
図7に示すように、サーモパイルホルダ110は筒状部111および固定用ブロック部112を有する。固定用ブロック部112は略直方体形状を有し、固定用ブロック部112のXZ平面に平行な一面からY方向に延びるように、筒状部111が一体形成されている。
【0064】
固定用ブロック部112には、サーモパイル収容孔112Hが設けられている。サーモパイル収容孔112Hは、筒状部111の内部空間と連通している。
【0065】
筒状部111の内周部には円環状の第1のスリット部材111Sが形成されている。筒状部111の第1のスリット部材111Sの前方側に円環状の第2のスリット部材112Sが取り付けられる。さらに、筒状部111の前端には第3のスリット113Sが取り付けられる。
【0066】
図5および図7に示すように、第1のスリット部材111Sに形成された円形のスリット(孔)の径は、第2のスリット部材112Sに形成された円状のスリット(孔)の径よりも小さい。また、第2のスリット部材112Sに形成された円状のスリット(孔)の径は、第3のスリット部材113Sに形成された円状のスリット(孔)の径よりも小さい。第1のスリット部材111S、第2のスリット部材112Sおよび第3のスリット部材113Sは、赤外線集光レンズ200Lにより集光される赤外線がサーモパイル10に入射されるように赤外線の経路を制限する。
【0067】
これにより、外部から赤外線集光レンズ200Lを介してヘッド部100A内に入射する赤外線が、ヘッド部100A内の種々の部材(サーモパイルホルダ110の内周面およびレンズホルダ200)により反射してサーモパイル10の赤外線受光部11に入射することが防止される。その結果、測定対象物から直接放射された赤外線のみが赤外線受光部11に入射する。
【0068】
固定用ブロック部112のサーモパイル収容孔112Hには、固定用リング120およびサーモパイル10が順に挿入される。これにより、図5に示すように、サーモパイル10がサーモパイルホルダ110内で保持される。
【0069】
サーモパイルホルダ110は銅、銀、アルミニウム、鉄または金等の熱伝導率の高い材料からなる。これにより、サーモパイル10の周囲を均一な温度に保つことが可能となっている。
【0070】
また、上述のように、サーモパイル収容孔112Hには固定用リング120が挿入されている。したがって、固定用リング120の形状およびその材質を調整することにより、サーモパイルホルダ110からサーモパイル10への熱の伝達条件およびサーモパイル10と赤外線集光レンズ200Lとの距離を調整することが可能となっている。
【0071】
サーモパイル10が取り付けられたサーモパイルホルダ110には、円筒形状のレンズホルダ200が装着される。
【0072】
レンズホルダ200の前端には、レンズ固定リング210により赤外線集光レンズ200Lが取り付けられている。レンズホルダ200の略中央部においては、レンズホルダ200の外周面に沿うようにミラー取り付け部材300が取り付けられている。ミラー取り付け部材300の詳細は後述する。
【0073】
レンズホルダ200が装着されたサーモパイルホルダ110の後方においては、サーモパイル10の後部からY方向に延びる複数の端子10Tとメイン基板30とが接続され、メイン基板30が固定される。
【0074】
このように、本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aにおいては、サーモパイル10の複数の端子10Tが直接メイン基板30に接続される。これにより、サーモパイル10の出力信号がノイズの影響を受けにくくなる。その結果、メイン基板30のCPU34は高い精度で測定対象物の温度を算出することができる。
【0075】
上記において、サーモパイルホルダ110は銅、銀、アルミニウム、鉄または金等の熱伝導率の高い材料からなる。これにより、レーザダイオード40が駆動することにより熱が発生された場合であっても、サーモパイル10の周囲を均一な温度に保つことが可能となっている。
【0076】
また、サーモパイルホルダ110の外側に装着されるレンズホルダ200は、例えば、樹脂等の材料からなる。特に、熱伝導率の低い樹脂を用いた場合、レーザダイオード40により発生される熱がサーモパイルホルダ110へ伝達しにくい。それにより、レーザダイオード40により発生される熱のサーモパイル10への伝達が低減される。
【0077】
上述のように、サーモパイル収容孔112Hには固定用リング120が挿入されている。したがって、固定用リング120の形状およびその材質を調整することにより、サーモパイルホルダ110からサーモパイル10への熱の伝達条件およびサーモパイル10と赤外線集光レンズ200Lとの距離を調整することが可能となっている。
【0078】
図5および図6に示すように、図7のサーモパイル10、メイン基板30、サーモパイルホルダ110およびレンズホルダ200からなる組立て集合体がヘッドケーシングK内に収容される。組立て集合体がヘッドケーシングK内に収容された状態で、メイン基板30は背面KBに沿って、上下方向に延びるように配置される。
【0079】
メイン基板30の下部には、外部から中継基板50の一端が接続されるとともに、メイン基板30とレーザダイオード40とを電気的に接続するためのフレキシブル配線回路基板60が接続されている。
【0080】
メイン基板30の上部には、表示灯36が位置する。ヘッドケーシングKの上面KUおよび背面KBとの角部に形成された段差部には、表示灯36の光を透過する孔部36hが形成されている。
【0081】
ヘッドケーシングK内において、レーザ40はレンズホルダ200の下面KD側でレンズホルダ200に沿って設けられ、レーザ光を前方へ出射する。
【0082】
上述のように、レンズホルダ200には、ミラー取り付け部材300が取り付けられている。ミラー取り付け部材300は、その上部にミラー保持部301を備え、その下部にミラー保持部302を備える。ヘッドケーシングK内において、ミラー取り付け部材300はレーザダイオード40の前面KF側に位置する。
【0083】
図5に示すように、レンズホルダ200のミラー取り付け部材300の取り付け箇所には孔部201,202が形成されている。レンズホルダ200の上部に形成された孔部201にミラー保持部301の一部が挿入され、レンズホルダ200の下部に形成された孔部202にミラー保持部302の一部が挿入される。
【0084】
ミラー保持部302は、レンズホルダ200の下面KD側に突出し、レーザダイオード40から出射されるレーザ光RLを上方へ反射するようにミラーM1を保持する。
【0085】
ミラー保持部301は、レンズホルダ200の上部から孔部201を通じてレンズホルダ200の内部中央に延びるように設けられる。ミラー保持部301は、ミラーM1により反射されたレーザ光RLを前方へ反射し、レーザ光出射孔200Hへ導くようにミラーM2を保持する。
【0086】
これにより、レーザダイオード40により発生されるレーザ光RLは、ミラーM1およびミラーM2により反射され、レンズホルダ200の中心軸に沿うように、レーザ光出射孔200Hを通過して測定対象物の測定箇所に照射される。それにより、レーザ光出射孔200Hから出射されるレーザ光RLの経路と測定対象物から放射され、赤外線集光部KHに入射される赤外線の経路とが一致する。その結果、ヘッド部100Aから出射されたレーザ光RLにより測定箇所が正確に指示される。
【0087】
このように、本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aにおいては、測定対象物からサーモパイル10に入射される赤外線の経路と、レーザダイオード40のレーザ光RLの出射する経路とが一致しているので、レーザダイオード40からの光の方向を調整するための機構が不要となる。その結果、放射温度計100の十分な小型化が実現されている。
【0088】
ここで、ミラーM1およびミラーM2は、それぞれ可視光を反射し、赤外線領域の光を透過する材料により形成されている。例えば、ミラーM1およびミラーM2は、ゲルマニウム(Ge)またはシリコン(Si)等の赤外用光学材料により形成されている。
【0089】
この場合、ヘッドケーシングKの赤外線集光部KHに入射される赤外線が、ミラーM2を透過して、サーモパイル10に入射される。これにより、測定対象物から放射される赤外線を十分にサーモパイル10へ入射させることができる。その結果、精度の高い温度測定を行うことが可能となる。
【0090】
本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aにおいては、測定対象物から放射される赤外線を受光するサーモパイル10が、IC(集積回路)により構成される第1の信号増幅部21および第2の信号増幅部22を内蔵する。それにより、第1の信号増幅部21および第2の信号増幅部22を他の基板に実装させる必要がないので、ヘッドケーシングK内に設ける基板の点数を十分に低減することができる。その結果、ヘッドケーシングK内の省スペース化が実現され、放射温度計100のさらなる小型化が実現する。
【0091】
(3)放射温度計のヘッド部の他の構造
本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aは、以下の構成を有してもよい。以下に説明するヘッド部100Aは、以下の点を除き図4〜図7のヘッド部100Aと同じ構成を有する。なお、外観形状は図4のヘッド部100Aと同じである。
【0092】
図8および図9は、本発明の一実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aの他の構成を説明するための図である。図8に図4のA−A線における模式的断面図が示され、図9に図4のB−B線における模式的断面図が示されている。
【0093】
図8および図9に示すように、本例のヘッド部100Aにおいては、サーモパイルホルダ110およびレンズホルダ200を取り囲むように熱拡散部材TWが配置されている。
【0094】
より詳細には、熱拡散部材TWは、サーモパイルホルダ110およびレンズホルダ200の上面KU側、側面KS1側、側面KS2側および下面KD側を取り囲み、前面KF側および背面KB側に開口している。
【0095】
これにより、ヘッドケーシングK内において、レーザダイオード40は熱拡散部材TWの下面KD側に位置する。
【0096】
ここで、熱拡散部材TWは、熱伝導率の高い材料からなる。特に、熱拡散部材TWは銅、銀、アルミニウム、鉄または金等の金属材料により形成されることが好ましい。なお、本実施の形態においては、銅にニッケルめっきを施すことにより熱拡散部材TWを形成した。この場合、銅により高い熱伝導率を得ることができるとともに、ニッケルめっきにより銅の酸化が防止され、耐食性が向上する。
【0097】
さらに、熱拡散部材TWはレーザ40、サーモパイルホルダ110およびレンズホルダ200と直接接触しないように設けられる。これにより、サーモパイルホルダ110およびレンズホルダ200と熱拡散部材TWとの間、ならびにレーザ40と熱拡散部材TWとの間には空気層が存在する。この空気層は断熱層として働く。
【0098】
この場合、空気層によりレーザダイオード40により発生された熱がサーモパイル10に伝達されにくくなる。また、レーザダイオード40から熱拡散部材TWに局所的に伝達された熱は、熱拡散部材TWにより拡散される。これにより、サーモパイル10に熱が伝達されにくくなるとともに、ヘッドケーシングK内の温度雰囲気がほぼ均一に保たれる。
【0099】
それにより、サーモパイル10への局所的な熱の伝達が防止される。その結果、CPU34は高い精度で測定対象物の温度を算出することができる。
【0100】
このように、本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aにおいては、熱拡散部材TWの配置によりサーモパイル10への局所的な熱の伝達を防止することができるので、ヘッドケーシングK内に各構成部を互いに近接して配置することが可能となる。それにより、放射温度計100全体の小型化が実現され、高い精度で測定対象物の温度を算出することが可能となっている。
【0101】
以上、本実施の形態において、前面KFは第1の面に相当し、背面KBは第2の面に相当し、下面KDは第3の面に相当し、上面KUは第4の面に相当し、赤外線集光部KHおよび赤外線集光レンズ200Lは赤外線透過部に相当し、本体ケーシングKはケーシングに相当する。
【0102】
また、サーモパイル10および赤外線受光部11は検出回路に相当し、CPU34は温度算出回路に相当し、メイン基板30は基板に相当し、レーザダイオード40は光源に相当し、ミラーM1,M2は光学系に相当し、レンズホルダ200およびサーモパイルホルダ110の内部空間は赤外線通路に相当する。
【0103】
さらに、赤外線受光部11は赤外線検出素子に相当し、第1の信号増幅部21は増幅回路に相当し、ミラーM1は第1の反射部材に相当し、ミラーM2は第2の反射部材に相当し、レーザ駆動回路37は駆動回路に相当し、CPU34は制御回路に相当し、表示灯36は表示素子に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーを検出することに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。
【図2】図1のヘッド部のブロック図である。
【図3】図1の本体部のブロック図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る放射温度計のヘッド部の構造を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る放射温度計のヘッド部の構造を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る放射温度計のヘッド部の構造を説明するための図である。
【図7】図4のヘッド部の組立て状況を説明するための斜視図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る放射温度計のヘッド部の他の構成を説明するための図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る放射温度計のヘッド部の他の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0106】
10 サーモパイル
11 赤外線受光部
21 第1の信号増幅部
30 メイン基板
34 CPU
36 表示灯
37 レーザ駆動回路
40 レーザダイオード
100 放射温度計
110 サーモパイルホルダ
200 レンズホルダ
200L 赤外線集光レンズ
K 本体ケーシング
KF 前面
KB 背面
KD 下面
KU 上面
KH 赤外線集光部
M1,M2 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の温度を測定する放射温度計であって、
互いに対向する第1および第2の面ならびに互いに対向する第3および第4の面を有し、前記第1の面に前記測定対象物から放射される赤外線を透過する赤外線透過部を有するケーシングと、
前記ケーシング内に設けられ、前記赤外線透過部を透過した赤外線エネルギーを検出する検出回路と、
前記ケーシング内の前記第2の面と前記検出回路との間で前記第2の面に沿って設けられ、前記検出回路の出力信号に基づいて前記測定対象物の温度を算出する温度算出回路が実装される基板と、
前記ケーシング内に設けられる光源と、
前記光源から出射される光を前記第1の面の前記赤外線透過部から前記測定対象物へと導く光学系とを備え、
前記ケーシング内に前記赤外線透過部から前記検出回路に赤外線を導く赤外線通路が形成され、
前記光源は、前記赤外線通路と前記第3の面との間に配置されたことを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記検出回路は、前記赤外線エネルギーを検出することにより信号を発生する赤外線検出素子と、前記赤外線検出素子により発生された信号を増幅する増幅回路とを含むことを特徴とする請求項1記載の放射温度計。
【請求項3】
前記光源は、前記第3の面に沿うように、かつ前記第1の面に向かって光が出射されるように設けられ、
前記光学系は、前記光源から出射される光を前記赤外線通路に向かうように反射する第1の反射部材と、
前記第1の反射部材により反射された光を前記赤外線透過部に向かうように反射する第2の反射部材とを含むことを特徴とする請求項1または2記載の放射温度計。
【請求項4】
前記第2の反射部材は、赤外線を透過することを特徴とする請求項3記載の放射温度計。
【請求項5】
前記基板には、前記光源を駆動する駆動回路と、前記検出回路の前記増幅回路から与えられる信号に基づいて前記測定対象物の温度を算出するとともに、前記駆動回路を制御する制御回路とがさらに実装されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の放射温度計。
【請求項6】
前記基板には、表示素子が実装され、前記制御回路は算出された前記測定対象物の温度に基づいて前記表示素子を制御することを特徴とする請求項5記載の放射温度計。
【請求項7】
前記表示素子は、前記ケーシングの前記第2の面と前記第4の面との角部に位置することを特徴とする請求項6記載の放射温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−226864(P2006−226864A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41596(P2005−41596)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】