説明

放射線センサの出力信号補正および放射線測定のための方法および装置

放射線センサ(20)の出力信号を補正する方法は、2以上の温度信号を、放射線センサの温度に関連する量の、異なる時間および/または異なる位置での、対応する数の測定から取得する工程と、前記温度信号を参照して出力信号を補正する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、放射線センサの出力信号の補正および放射線の測定のための方法および装置に関する。関連する開示が独国特許公開公報DE 102 004 028 032.0号およびDE 102 004 028 022.3号にある。
【0002】
放射線センサは、電磁放射線を電気信号に変換する。これは、たとえば熱電対列、ボロメータなどによって、行われる。これらで検出される放射線は、しばしば、赤外放射線(800nmよりも長い波長)である。この種の放射線センサは、しばしば、非接触温度測定に用いられる。温度が測定される物体は、その温度に依存した放射線を発する。放射線は物体の温度が高いほど高強度になる。したがって、発せられた物体の赤外放射線は、その温度の非接触測定に使用することができる。その詳細を図1を参照して説明する。
【0003】
図1はセンサ素子10を示す。センサ素子10は、膜3の支持体であるフレーム2を有する。フレーム2は、個々の必要性に応じて長方形または円形の断面を有する開口4を取り囲む。膜3は、膜3の上面に形成された実際の検出部1を、周囲からできる限り熱絶縁する役割を果たす。センサ素子10の検出部1は、放射線、好ましくは赤外放射線を、2つの矢印IRnおよびIRsで示したように、上面から受ける。矢印IRsは、物体からの測定すべき所望の信号放射線を表している。しかし、検出部は、矢印IRnで示したノイズ放射線も受ける。これは、検出部のすぐ近くの構成要素、たとえばセンサのハウジング、遮蔽部材などから到来し得る。検出部1自体は、その表面にどちらの種類の放射線が当たるのかを識別し得ない。検出部1はそれらの両方を電気信号に変換することになる。
【0004】
検出部1が、一連の温接点および冷接点で構成される熱電対列を有する場合、測定原理は、入射放射線が温端/温接点1aにおける温度変化(通常は温度上昇)に変わるというものである。図1において、開口4の上方の端部は熱電対列の温端1aであり、一方、フレーム2の上方の端部は冷端1bである。測定感度を高めるために、温端および冷端を補助層で、特に、温端1a上の吸収層5および冷端1b上の反射層6で、覆ってもよい。入射放射線は、温端と冷端との間に温度差を生じさせ、この温度差に依存して、熱電対列は電気信号を生成する。
【0005】
別のノイズ源を太い矢印Taで示す。これは、種々の物体を通る熱伝導である。符号7は、シリコンウェハ、セラミックス基板、またはプリント配線基板などの、図1のセンサ素子10が搭載される基体である。環境温度の変化は、支持基体7、フレーム2および膜3を通る熱伝導によって検出部1に伝わる。熱伝導はまた、周囲の大気とセンサ素子10およびその検出部1との間でも生じるが、通常、基体7を通る熱伝導の方が、影響は実質的にはるかに大きい。冷端は通常、フレーム2に対して、温端とは異なるように位置しているので、冷端は環境温度の変化を温端よりも早く経験する。センサ素子の膜上の温接点は、通常、関連する測定システムの熱的に最も隔絶された部分なので、通常、温度変化を最後に経験する関連要素である。
【0006】
このように、環境温度の変化は最初に冷端によって経験され、その後に検出部1の温端によって経験される。したがって、熱伝導を介して温端と冷端との間に温度差が形成されるが、この温度差は、信号赤外放射線によってもたらされる温度差とは無関係である。熱伝導によってもたらされる温度差は、温度変化が速いほど大きい。ある温度範囲にわたる速やかな変遷においては、センサ素子は、熱平衡に近い状態の温度範囲を超えないからである。センサ上のどこでもがほとんど同じ温度になるわけではない。むしろ、温端と冷端との間に温度差が生じ、これが出力信号に、したがって測定温度に、エラーを生じさせる。
【0007】
本出願人の前述の2つの独国特許出願は、環境の温度衝撃によって引き起こされる誤測定を克服する種々の方法を提案している。1つの提案は、一方で、温端および冷端をフレーム2に対して適切に配置し、他方で、補助層5および6(吸収層および反射層)を適切に設計することによって、温端および冷端に向かう熱の流れを均等化するというものである。しかし、様々な応用において、この方法では誤測定を完全に排除することはできない。多くの場合、冷端をフレーム2の上方に設けることが望ましい。フレーム2が熱質量として機能して、測定がなされるときに冷端を一定温度に保つという効果を奏するからである。したがって、フレーム2に対する温端および冷端の非対称配置への計画的な要求があり、補助層の設計は、これに対して、環境温度の変化を充分に補償し得ない。
【0008】
もう1つの提案は、矢印IRnで表したノイズ放射線が可能な限り検出部から阻止されるように、センサ素子10のハウジングを設計することである。
【0009】
しかし、この提案は、どうしても必要な構成要素(フレーム、膜、熱電対列、補助層、およびセンサのハウジングをも含むセンサ素子10)を適切に設計することによって、顕著な効果を奏するが、それでもなお、特に環境温度変化時(「熱衝撃」)の、エラー源のさらに高度な補償が望まれる状況が存在する。
【0010】
本発明の目的は、放射線センサの出力信号の補正のための、および高精度での放射線測定のための、方法および装置を提供することである。
【0011】
この目的は、独立請求項の特徴に従って達成される。従属請求項は、本発明の好ましい実施形態に向けられている。
【0012】
放射線センサの出力信号を補正する方法は、2以上の温度信号を、放射センサの温度に関連する量の、対応する数の測定から取得する工程と、前記温度信号を参照して前記出力信号を補正する工程とを含む。
【0013】
対象物の温度を測定する方法は、対象物からの放射線を受ける放射線センサから、前記センサへの前記放射線の入射に応じて、出力信号を取得する工程と、上記方法で補正する工程とを含む。
【0014】
放射線を測定する装置は、放射線を受けて電気的出力信号に変換するセンサ素子と、2以上の温度信号を、装置の温度に関連する量の、対応する数の測定から取得する手段とを含む。前記2以上の温度信号は、出力信号の補正に使用される。温度は補正された出力信号から決定することが可能である。
【0015】
本発明に従えば、熱的不均衡の指標を取得するために、センサ、センサ素子または検出部の温度の2以上の温度測定が取得される。2以上の温度測定は、位置的におよび/または時間的に離間してよい。いずれの場合も、それらは、センサ温度に関連する温度動態を反映し、検出部1の温接点1aおよび冷接点1bに生じる熱的不均衡に関する決定を可能にする。
【0016】
適切な評価機構において、前記温度測定からの出力信号用の補正値を提供することによって、および/または、前記温度測定を参照してセンサ素子の出力信号を直接補正することによって、これらの温度測定を評価することが可能である。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に従って形成されたセンサ素子10の断面図を示している。符号2は、たとえばシリコンウェハから、微細機械加工によって形成されたフレームである。フレーム2は、長方形の外形断面を有してよい。長方形の、または部分的もしくは全体的に丸められた断面を有する開口4が、フレーム2によって取り囲まれている。膜3が開口4の端から端にわたっている。膜3の上に検出部1が形成されている。検出部1は、2〜3の温接点1aおよび冷接点1bを有する熱電対列であってよい。温接点1aは、通常、開口4の上方に位置する。冷接点は、個々の必要性に応じて、フレーム2の上方に、またはさらに開口4の上方に位置してもよい。測定においては、温接点1aは温度T2を有し、一方、冷接点1bは温度T1を有する。この温度差から実際の電気信号が決定される。温接点1aの上に吸収を促進するための吸収層5を設け、冷接点1bの上に吸収を妨げる反射層6を設けてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、センサ素子10上に1つ以上の温度センサを設けてもよい。それらは、センサ素子10の任意の位置に設けてよいが、好ましくは、温接点1aから離して、たとえば、冷接点1bの近くに、および/または冷接点1bと温接点1aとの中間に、設けられる。
【0019】
本発明の信号評価の実施形態を説明するために、以下においては、図1に示すように、1つの温度センサ11が冷接点1bの近くに設けられ、別の温度センサが冷接点と温接点との中間に設けられているものとする。熱衝撃によって、太い矢印Taで示すように、センサ素子10を通る温度変化が生じた場合、その温度変化は、まず、冷接点1bおよび対応して配置された温度センサ11aによって経験され、その後、温接点と冷接点との間に位置する温度センサ11bによって経験される。したがって、2つの温度センサは、異なる温度を示し、異なる位置にわたる勾配を示す。この勾配は、測定すべき放射線によってもたらされるものではない。むしろ、それは、センサ素子10によって経験される熱衝撃を反映し、特に、測定すべき対象物からの赤外放射線によってもたらされる熱的不均衡(信号不均衡)に加えて、環境温度の変化によってもたらされる熱的不均衡(ノイズ不均衡)を反映する。
【0020】
温度センサ11は、信号を取り出すことが可能な、それ自体の端子を有してよい。温度センサは、たとえば耐熱性抵抗器または類似の装置であり得る。
【0021】
上記の実施形態は、センサ素子10自体の上の2ヶ所で温度を測定する。しかし、必ずしも、センサ素子自体において熱的不均衡を直接測定する必要はない。そのような不均衡は、環境温度の変化(熱衝撃)によってもたらされる熱的非平衡の指標であるので、むしろ、センサ素子10と基体7などの他の構成要素との間でも測定してもよい。したがって、センサ素子10自体に2つのセンサ素子を設ける必要はない。むしろ、センサ素子10上のどこかに1つを設け、センサの他の構成要素にもう1つを設けてもよい。
【0022】
図2は、センサ20の実施形態を概略的に示している。これは、たとえばキャップ部材などのハウジングに収容することが可能なセンサ20の、そのハウジングを除去した状態での、基板上の平面図である。符号10は、温度センサ11が載置された図1のセンサ素子を表している。符号21は、ASIC(特定用途用集積回路)であってよい評価電子回路を表している。符号29a〜29eは、センサ端子用の接点を表している。センサ素子10、評価電子回路21および接点29a〜29eの間の配線は示していない。符号22はセンサ20の基板上の温度センサを表しており、この基板は図2においては符号25で示されている。これは、図1における構成要素7であってもよい。評価電子回路21は、それ自体が、その上に形成された温度センサ24を有してもよい。
【0023】
図2に示す実施形態においては、温度センサ11,22および24のうちの少なくとも2つを使用することができる。これらは、センサ20上の適切な異なる位置に設けられており、測定すべき信号赤外放射線によってもたらされる温度勾配ではなく、環境温度の変化によってもたらされる位置的温度勾配を示す。ここでも、このような勾配は、センサ素子10の出力信号の補正に使用することが可能である。評価のために、たとえば、センサ素子24と11との間、センサ素子22と11との間、またはセンサ素子24と22との間の温度差を考慮することができる。最後の選択肢では、センサ素子10自体に温度センサを設ける必要は全くない。
【0024】
本発明の一実施形態において、放射線を測定する装置は、図2に概略的に示したセンサのみを含めばよく、このセンサは、センサ素子10と出力信号を補正する手段21を有する。出力信号を補正するためのこの手段21は、センサ20内に形成されたASICでもよい。ASIC21は、センサ素子10の生の出力信号を受けて、温度の測定結果を取得し、センサ素子10の生の出力信号を補正して、補正信号を端子29a〜29eに出力する。
【0025】
センサまたはセンサの1以上の構成要素の温度に関連し、補正に用いられる少なくとも1つの温度信号が、センサの外部での測定、たとえば、センサが搭載される回路基板上での測定から得られる。その信号は、その後、適切な方法でセンサに入力されてもよく、または、センサの外部で、センサからの出力量に対して、もしくはセンサからの出力量と共に、使用されてもよい。
【0026】
本発明の他の実施形態においては、放射線を測定する装置は、センサ素子10からの生の信号が(おそらく、センサ20で増幅および較正されて)、センサ20から離れて外部回路に伝送されて、そこでさらに処理される、より大規模のシステムでもよい。
【0027】
センサ素子10は、3mm×3mm以下、好ましくは2mm×2mm以下の大きさを有する。センサ20は、TO5ハウジングなどの、通常の、すなわち標準化されたハウジングを有してもよい。複数のセンサ素子10を、1つのセンサ内に設けてもよい。それらの各出力信号は、上述のように補正することができる。このためにおよび信号出力のために、信号多重化を用いてもよい。
【0028】
図3は、電子部品の実施形態を示しており、収容された回路を断面図で示している。符号31は基板、たとえばプリント配線基板である。符号32は放射線センサ用のソケットである。符号20は、放射線センサ自体を側面図で表しており、この側面図は、センサ基板25、センサを収容して閉じるキャップ36、レンズおよびミラーなどの焦点調節要素を含む放射線入射窓37、ならびに、ソケット32に嵌るか回路基板31に直接はんだ付けされる端子38を示している。符号39a〜39cは、抵抗、キャパシタなどの他の回路要素を表している。符号33は、ここでもASICまたはマイクロプロセッサなどのデジタル要素である。符号35は、信号を送信し信号を受信するための、および電力供給のための、コネクタを表している。
【0029】
センサ20内の少なくとも2つの測定結果から得られる温度信号は、センサ素子10の生の(および、場合によっては増幅および較正された)出力信号と共に、センサ20から送出される。これらの信号は、たとえばASICまたはマイクロプロセッサ33において処理され、補正された値はさらに使用され、またはコネクタ35を介して出力される。
【0030】
さらに別の不図示の実施形態において、図3に示した回路30は、ある種の前処理、信号書式設定および処理制御の回路でもよく、温度測定に対応する信号およびセンサ素子10の生の(または、おそらく較正および増幅後の)出力信号は、回路30から一般的なコンピュータに送出されて、そこでさらに処理される。
【0031】
以下の説明においては、全ての補正が図2のセンサ20内で行われるものとする。しかし、上述のように、すべての補正を外部の構成要素において行ってもよい。
【0032】
図4は、一般的な信号の流れを示す。符号10はセンサ素子を指し、センサ素子は生の信号(電圧)Vrを出力する。この信号Vrは、増幅器42において増幅されて増幅電圧Vaとされてもよく、増幅電圧はさらに較正器43においてオフセットと感度について線形較正されて、較正電圧Vcとされる。変換手段44が、較正電圧Vcを、測定すべき対象物の温度Vtを反映する電圧へと変換する。好ましくは、変換手段44よりも前に、上述のようにして得られた信号の補正がなされる。図4において、図2に示した補正手段21を表す枠21が概略的に示されており、これは、センサ20内のASICでも、図3に符号33で示した外部要素でも、(不図示の)通常のコンピュータでもよい。
【0033】
補正手段21は、好ましくは、センサ素子10と増幅器42との間、増幅器42と較正器43との間、または、較正器43と変換手段44との間に挿入される。変換手段はボッツマンス(Botzmanns)のT依存を含んでもよい。補正手段21は未補正の(しかし、おそらくすでに増幅および/または較正された)信号を受けて、その信号を、上述のように、センサまたはその特定の構成要素の温度の少なくとも2つの測定結果に応じて補正し、さらなる処理のために出力する。補正手段21は、枠45および46で示されている少なくとも2つの温度測定結果TnおよびTmを受け、さらに較正値47も受ける。
【0034】
補正はアナログ側またはデジタル側で行われる。同様に、較正もアナログまたはデジタルである。
【0035】
増幅42および較正43は、統合された構成要素で行ってもよく、図4に示したものとは逆の順番で行ってもよい。同様に、枠42,43および44の1以上を補正手段21の中に組み込んで、前述のASICなどの統合されたハードウェア要素を形成してもよい。
【0036】
ここまで、位置的温度勾配を説明した。本発明の他の実施形態においては、異なる時間にわたる温度勾配が得られる。2以上の部位における温度測定結果を得ることは必要ない。本実施形態は、時間的温度勾配が位置的温度勾配と強く相関するという事実を反映している。測定装置が温度衝撃を経験するときに測定装置全体を見ると、既に説明したように、この衝撃は、周辺の構成要素がその温度衝撃を最初に経験し、より中央の構成要素がその温度衝撃を遅くに経験するように、位置的温度勾配をもたらし、こうして位置的勾配を提供する。ところで、この点に関して最も内側の構成要素は、通常、センサ素子の膜上の温接点である。なぜなら、この温接点は、通常、問題の測定システムの熱的に最も隔絶された構成要素だからである。
【0037】
しかし、図2に示したセンサ20または図1に示したセンサ素子10の特定の位置を見ると、その位置は、環境温度の変化による温度衝撃を経験するときに、ほとんど常に時間的温度勾配をも経験する。測定システムの全体が熱平衡にある限り、その構成要素は、同一温度を有して、位置的勾配を示すことはなく、それらの温度は安定して、時間的勾配も示すことはない。しかし、温度衝撃が経験されるとき、その温度衝撃は、特定の位置における温度変化をもたらして、新たな熱平衡に達するまで、そこに時間的温度勾配を与え、時間的に隔たった2以上の温度測定結果からの熱勾配もまた、図1のセンサ素子10の検出部1の温接点1aおよび冷接点1bでの温度差に至る状況の検出に、適するようになる。そうすると、図1の温度センサのうちの1つの温度センサ、たとえばセンサ素子10上に設けたセンサ11、放射線センサの基板上に設けたセンサ22、または、たとえばASICの補正手段内に設けたセンサ24のみで充分である。ほとんど全ての応用において、センサ20全体の個々の構成要素の温度変化が相互に大きく相違しないと仮定することは、妥当である。むしろ、それらは類似するであろう。したがって、センサ素子10自体とは異なる位置での時間的な温度勾配の測定は、本発明に従う補正を必要とする状況をよく反映する。
【0038】
上記においては、位置的勾配を得る一実施形態、および時間的勾配を得る別の実施形態を説明した。一般的にいえば、位置依存的測定と時間依存的測定とは、時間的温度差および位置的温度差を評価するために組み合わせることが可能である。そうすると、これらの値は全て、補正手段21における適切な補正に用い得る。
【0039】
一般的に言って、未補正の信号に対する補正を提供する1つの方法は、得られた温度値のうちの少なくとも2つの差を求め、その差に比例する補正を、未補正の信号に加算的または乗算的に施すことである。上記の差を求めるために使用される温度値に代えて、それらの温度値から導き出した値、特に平均値、を使用してもよい。平均化は、有用な信号が加算される一方で、ノイズがそれ自体打ち消し合う傾向にある、という利点を有する。平均化は、温度信号の時間的勾配が評価される場合に、特に使用される。特に、ある時間にわたって測定された温度値の自己回帰平均が、次の式に従って得られる。
va = k × Ta + (1 − k)× vae
ここで、vaは決定すべき平均値、vaeは対応する先の平均値、Taは実際の測定値、kは0〜1の平均化係数である。値kは、Taの先の値を組み込んだ値vaeに関連して現在の温度値Taに加重される加重係数である。合わせて、全体の加重は1である。kが大きい場合には、実際の温度が新たな平均値vaに大きく影響し、先の複合値vaeはそれに対してより小さな影響を有する。一方、kが小さい場合には、実際の温度Taはvaに小さく影響するのみで、vaeに組み込まれた先の値はそれに対してより大きな影響を有する。したがって、kの設定によって、平均値vaの実効時間を現在に近くするか過去に近くするかを、決定することが可能である。極端な場合、kが1であれば、先の値に組み込まれた履歴は、零が乗算されるので、全く影響しない。
【0040】
時間的勾配を得るために異なる時間の温度値が望まれる場合、上述のように、一方を現在値に近くし、他方を強く過去値に近づけた異なる平均化係数kでの2つの自動平均値を用いることが可能である。
【0041】
値kは、センサ素子10の時定数(より詳しくは、フレームの底からの熱伝導を介して加わる温度変化に反応する温接点の時定数)に鑑みて、選択することが可能である。さらに、平均化パラメータkは、補正を行う装置21のサンプリングレートに応じて選択することができる。さらに、サンプリングレートは、上述の時定数に応じて決定することが可能である。
【0042】
図5は、直接の補正を実行する補正手段50のブロック図である。この補正手段は、補正手段21の一部であってもよい。その入力信号Ta,Tsおよび出力信号Tkは、図4の値Tn,Tm,Vr,Va,VcまたはVtのうちの1以上であってよい。補正手段は、図5においてはTsで表されているセンサ素子10からの信号を受ける。信号Tsは、図4に示した増幅および/または較正などの線形処理を好ましくは既に受けている。さらに、補正手段50は、図2の符号11,22および24のいずれかのような、1つの温度センサによって測定された測定温度を表す信号Taを受ける。レジスタ51は現在値を保持し、レジスタ52は過去値を保持する。符号53は、レジスタ52からの先の値を、レジスタ51の後の値から減じる減算器である。差は、好ましくは線形補正を行う較正器54に入る。次いで、枠55内で、未補正温度信号に適用される。それは、枠54を出た較正値に応じた、加算もしくは乗算または一種の非線形の、補正であってよい。例えば、信号Tsを補正するための補正値を出力するテーブルが参照される。こうして補正された信号Tsは、信号Tkとして枠55および補正手段50を出て、さらなる処理を受け、特に、遅かれ早かれ図4の枠44に入る。
【0043】
一実施形態において、保持値の差が求められた後、レジスタ51からの値はレジスタ52に送られ、レジスタ51はTaの新しい値を受けて、処理が再開される。
【0044】
これまで、図5を参照して、直接の温度値Taを補正に使用する処理を説明した。しかし、前述のように、1以上の導出値(温度信号Taから導出)を、代わりに使用してもよい。図6は、例えば図5のブロック51として、および/または図5のブロック52として使用可能な、平均化手段60のブロック図を示している。平均化手段60は、上述のように、自己回帰平均を求める。符号62は、値を保持するレジスタを表す。Taが測定温度の入力である。符号61は、入力値に平均化係数k(0<k≦1)を乗じる乗算器を表しており、その結果は、乗算器63において(1−k)を乗じられたレジスタ62の内容も受ける加算器64に、与えられる。両者の和は再びレジスタ62に書かれて、平均値vaとして出力される。
【0045】
自己回帰平均の使用は、過去の値を保持するための複数のレジスタを必要としないという利点を有する。むしろ、過去の値は全て既に保持されている平均値に含まれ、この平均値は、上書きすることによって以前の値と同じレジスタに保持するために、適切に加重された新しい温度値に加算される。
【0046】
図5において、両レジスタ51,52は、それぞれ、図6に示した1つの平均化器60に置き換えてもよい。ただし、それらの平均化器は異なる平均化係数で動作することになる。図5の上方のものは、より大きい係数(1に近い)を有し、したがってTaの現在値に近く、一方、図5の下方のものは、より小さいkの値(0に近い)を有し、その出力は過去値に近い。1つの温度センサからの同一の入力Taを受けることに代えて、それらの平均化器60は、図2に示した異なる温度センサから異なる入力を受けてもよい。これらの平均化器は、異なる入力を受ける場合には、同一の平均化係数kを有してもよい。
【0047】
同一の入力Taに異なる平均化係数kを適用する図6に示した2つの平均化器60を使用する図5の補正手段50の結果を、図7に示す。曲線T(t)は、図2に示した温度センサ11,22,24が経験する温度の温度変化を表している。曲線va1(t)は、より大きいkでの自己回帰平均(つまり、より速やかにT(t)に追随する)を表しており、一方、va2(t)は、より小さいkでの自己回帰平均の曲線(より遅れてT(t)に追随する)を表している。特定の時点txでのそれぞれの平均値を見ると、曲線va1(t)は、時点tfにおける曲線T(t)の値を有し、一方、より遅い曲線va2(t)は、より前の時点tsの値を有している。したがって、2つの平均化器60で2つの平均化係数kを使用すると、得られる2つの平均値が、それらの実効時間に関してどの程度ずれているかを決定することができる。
【0048】
測定温度の2つの値またはそれらから導出した値を採用する限り、それらの差は1つのみ求められる。この差は、枠61および63でそれぞれ使用する平均化係数を数値的に調節することによって、また、枠42,43および54の係数を調節することによっても、適切に設定することが可能である。しかし、3つ以上の温度値、または温度値から導出した3つ以上の導出値を使用することも可能である。好ましい実施形態においては、センサ20またはセンサ素子10の温度を、異なる測定の異なる時点あるいは上述の異なる自己回帰平均の異なる実効時間のように、2以上の位置で、かつ、2以上の異なる時間基準で測定してもよい。そのようにすると、少なくとも4つの値が得られ、それらの間の少なくとも6つの差を求めることができる。図8は対応する実施形態を示している。
【0049】
符号80は、図5における補正手段50に機能的に対応する補正手段を表す。この補正手段は、第1の位置での温度を表す信号Ta1、および、第2の位置での温度を表す信号Ta2を受ける。両信号は、図6を参照して説明したように、いずれも速い自己回帰平均化処理および遅い自己回帰平均化処理に付され、こうして、異なる位置および異なる時点に関する4つの値が提供される。平均化器60に代えて、適当な更新構造を背後に有する記憶レジスタを使用してもよい。
【0050】
したがって、減算器81でそれらの間の差を計算するための4つの値が得られ、これらの差は位置的勾配および/または時間的勾配を反映する。較正処理において、補正温度信号Tkを生成するために、センサからの補正すべき温度信号Tsを補正するために差が適切に考慮されるように、差それぞれを決定する係数82が存在してもよい。これは、センサをその組み込み状態で環境温度の規定の変化に曝し、個々のセンサ信号(一方側の放射線センサからのTs、および少なくとも他方側のTa1、Ta2)が得られるようにする較正処理において達成される。個々のデータを数値的に処理し比較する発見的最適化処理によって、個々の差のための係数82を得て、図8に示す補正手段に、好ましくはPROM様レジスタに書き込むことによって、恒久的に記憶させることが可能である。加重された差は、加算器83において加算され、Tkを得るために枠84でのTsの補正に使用される。
【0051】
一般的に言えば、上述の手法で使用する係数は、個々のセンサを、できる限り組み込み状態で、それぞれの出力を監視して実測値と目標値との偏差が最小になるように係数を設定する規定の環境で、較正することによって得られる。係数を恒久的に、センサに、例えば、補正手段21に書き込んでもよい。
【0052】
図8の構成に代えて、図9の構成を採用することも可能である。この背景には、図8で求められ線形処理に付される差を、個別に求めて加重し加算するのではなく、それらの入力値に加重して加算することもできるという発想がある。図8の枠60を出るそれぞれの値は、差の(+)側または(−)側において、3つの差に寄与する。値の1つが、それぞれ0.20および0.14で加重された2つの差の(+)側にあり、かつ、0.15で加重された1つの差の(−)側にあると仮定する。その場合、最終結果における総加重は、0.20+0.14−0.15=0.19となる。このようして得られる加重係数は、負になるかもしれない。この加重は、平均化器60の出力に、または、図9に示すように、対応する値に適用可能であり、加重した結果を合計する。計算の観点からは、これは図8の実施形態に比べて複雑さが低く、しかも同一の結果を提供する
補正目的に少なくとも2つの温度測定を使用するために、センサ素子の検出部1が経験する温度変動を反映する補正値を得るために適切なあらゆる方法で、温度測定を評価することができる。これまで、評価として減算を説明した(符号53,83)。しかし、温度変動および、特に、図1を参照して説明したノイズ温度差を反映する結果を提供するために、他の評価を代わりに使用してもよい。
【0053】
個々のタスクを適切に遂行するために、図2の補正手段21は、繰り返し実行される1以上のクロックタスクを有してもよい。必要な全ての処理を、適切な反復速度で実行される1つの大きなタスクにコンパイルしてもよい。そのようなタスクは、上述した(少なくともセンサ素子10からの、および1以上の温度センサ11,22,24からの)データ取得、較正、減算などを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の特徴を組み込んだセンサ素子の実施形態の概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に従って形成されたセンサの概略平面図である。
【図3】温度を測定するための装置の概略断面図である。
【図4】信号処理の概略構成である。
【図5】補正手段における温度信号の処理の方法のブロック図である。
【図6】特定の平均値を得るための方法のブロック図である。
【図7】一般的な信号曲線を示す図である。
【図8】別の補正手段の概略図である。
【図9】さらに別の補正手段の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線センサの出力信号を補正する方法であって、
2以上の温度信号を、放射線センサの温度に関連する、または放射線センサの1以上の部品に関連する量の、対応する数の測定から取得する工程と、
前記温度信号を参照して前記出力信号を補正する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記出力信号の補正は1以上の較正値をも参照して行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定は時間的に離間していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
時間差が前記放射線センサまたは放射線センサ部品の時定数に応じて選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記測定は位置的に離間していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記温度信号を参照して補正値を決定する工程と、
前記補正値を参照して前記出力信号を補正する工程とを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
2つの温度信号の、または前記温度信号から導出した少なくとも1つの導出値の差値を求めて、補正に使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記導出値は平均値であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記平均値は、次式に従って決定され、
va = k × Ta + (1 − k) × vae
vaは平均値、vaeは以前の対応する平均値、Taは実際に測定された温度値、kは0<k<1の平均化係数であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
2つの平均値が決定され、該2つの平均値は異なる平均化係数を有し、補正のために前記2つの平均値の差値が求められることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記温度信号は、前記放射線センサの前記出力信号の外部補正のために、前記放射線センサから外部に送られることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記温度信号の1以上、または前記温度信号から導出した導出値は、前記放射線センサに格納され、前記放射線センサの前記出力信号は、前記放射線センサ内で補正されて,前記放射線センサから出力されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記放射線センサが、好ましくは冷接点および温接点を有し、前記温接点が好ましくは膜上に位置する熱電対列センサ素子を含むことと、
前記放射線センサが、前記2以上の温度信号を取得する、および/または、前記温度信号を参照して前記出力信号を補正するASICを含むことと、
前記放射線センサ素子が、赤外放射線を電気信号に変換するように構成されてなることとのうちの、1以上の特徴を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
温度を測定する方法であって、
放射線センサから出力信号を取得する工程と、
前記出力信号を請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法に従って補正する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
放射線を測定する装置であって、
放射線を受けて電気的出力信号に変換するセンサ素子(10)と、
2以上の温度信号を、装置の温度に関連する量の、対応する数の測定から取得する手段(11,21,22,24)とを含むことを特徴とする装置。
【請求項16】
前記温度信号を参照して前記出力信号を補正する補正手段(21,50,80)を含むことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記出力信号ならびに取得した前記温度信号および/または前記温度信号から導出した1以上の導出値を出力する手段(29a〜29e)を含むことを特徴とする請求項15〜16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記温度信号を提供する1以上の温度センサ(11,22,24)を含むことを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記温度信号を温度センサから繰り返し取り出して取得する取り出し手段(21)を含むことを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
2つの温度信号の、または前記温度信号から導出した少なくとも1つの導出値の差値を求める減算手段(53)と、
前記差値を参照して前記出力信号を補正する手段(55)とを含むことを特徴とする請求項15〜19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記導出値として平均値を求める少なくとも1つの平均化手段(60)を含むことを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記平均化手段は、以前の平均値を保持するレジスタ(62)と、現在の温度信号と前記以前の平均値とから現在の平均値を決定する計算器(61,63,64)とを含むことを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項23】
ASIC(21)とセンサ素子(10)とを含むことを特徴とする請求項15〜22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
前記補正信号から温度を決定する変換手段(44)を含むことを特徴とする請求項15〜23のいずれか1項に記載の装置。
【請求項25】
センサ素子(10)、ASIC(21)、ハウジング(36)、放射線透過性窓(37)および端子(29)を有するセンサ(20)であることを特徴とする請求項15〜24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
前記温度信号は2以上の異なる位置でかつ2以上の異なる時間基準で取得され、前記取得温度信号を参照して補正が行われることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記取得温度信号を対にして各対の差が求められ、前記差は加重を付与されて加算されることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記取得温度信号は加重を付与されて加算されることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記放射線センサの温度に関連する、または前記放射線センサの1以上の部品に関連する少なくとも1つの温度信号が、前記放射線センサの外部で取得されることを特徴とする請求項1〜14および26〜28のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−506333(P2009−506333A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528399(P2008−528399)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008402
【国際公開番号】WO2007/025697
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(505411424)パーキンエルマー オプトエレクトロニクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コー. カーゲー (10)
【氏名又は名称原語表記】PerkinElmer Optoelectronics GmbH & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Wenzel−Jaksch−Strasse 31, Wiesbaden Germany