説明

放射線断層撮影装置

【課題】放射線断層撮影装置における検出効率ムラの補正において、散乱線の混入に由来する検出効率をより高精度に補正することで、結果画像上の偽像を高精度に除去することができる放射線断層撮影装置を提供する。
【解決手段】本発明の構成によれば、散乱線を含んだ消滅放射線対を放射するリングファントムPh2を検出器リング12の開口に挿入した状態で取得された補正データに基づいて検出効率の補正を行うことで断層画像に表れる偽像を除去する。補正データは、散乱線が含まれた条件で取得されたものであるので、補正データは、断層画像に表れる偽像をより忠実に再現している。したがって、補正データを断層画像に作用させれば、断層画像に重畳する偽像は、高精度に消去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体から照射される消滅放射線対を検出して、被検体内の放射線薬剤の分布のイメージングを行う放射線断層撮影装置に関し、特に、ノーマリゼーション(検出効率補正)の精度の不足に起因するアーチファクトを抑制する補正機能を備えた放射線断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関には、放射線薬剤の分布をイメージングする放射線断層撮影装置が配備されている。この様な放射線断層撮影装置の具体的な構成について説明する。従来の放射線断層撮影装置は、図22に示すように、放射線を検出する放射線検出器(非特許文献1参照)が円環状に並んで構成される検出器リング62が備えられている。この検出器リング62は、被検体内の放射性薬剤から照射される互いが反対方向となっている一対の放射線(消滅放射線対)を検出する。
【0003】
検出器リング62には、無数のシンチレータ結晶がリング状に配列されている。対をなす消滅放射線対は、シンチレータ結晶のうちのいずれか2つに入射して、検出器リング62に検出される。シンチレータ結晶に消滅放射線対が入射すると、シンチレータ結晶が蛍光を発する。放射線断層撮影装置においては、この蛍光を検出することで消滅放射線対を検出する構成となっている。
【0004】
ところで、検出器リング62は、リング状となっているので、消滅放射線対の発生位置(消滅点)によって検出のし易さ(検出効率)が異なっている。例えば、検出器リング62の中心部よりも、端部で生じた消滅放射線対のほうが、検出され易い傾向にある。また、シンチレータ結晶における放射線を蛍光に変換する効率は、シンチレータ結晶に応じてまちまちである。この様な事情があるので、検出器リング62から出力された検出データをそのまま用いて放射線断層画像を構成すると、放射線断層画像は薬剤分布を正確に再現できず、検出効率のばらつきに起因した偽像(アーチファクト)が生じてしまう。
【0005】
そこで、従来構成の放射線断層撮影装置は、被検体の診断を行う前に、予め感度のばらつきを除去するための補正データ(ノーマリゼーションデータ)を取得しておくのである。具体的には、棒状の放射線源を検出器リング62の内壁に沿って移動させる。このとき、放射線源は、円の軌跡を描くことになる。放射線源には、消滅放射線対を発生する放射性薬剤が含まれている。検出器リング62は、この消滅放射線対を検出することにより、被検体の診断時に取得される放射線断層画像に表れる偽像のパターンを知ることができる。棒状の放射線源から発する放射線を検出することにより検出器リング62が出力する検出データを基に補正データが生成される。放射線断層撮影装置は、この補正データを放射線断層画像に作用させることにより放射線断層画像に表れる偽像を除去する構成となっている。しかしながら、この方法では直接全ての検出器対の検出効率を取得する必要があるため、棒状線源を回転させて統計精度の高いデータを取得するにはデータ収集に長時間を要する。そこで、日常的な感度の変化を取得するためのデータ収集を短時間に抑えるため、棒状線源を用いたデータ収集は装置構成時やメンテナンス時などに限定して収集し、検出器構造の対象性や周期性を利用して継続的に利用できる同時計数に関わる要素として保持しておき、検出器の個々のばらつきなどは、シングル計数に関わる要素として円柱状の線源を用いて短い周期で更新する、要素別感度補正法が広く利用されている。この点は、非特許文献1−2に詳しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】放射線医学総合研究所 平成16年度次世代PET装置開発研究報告書 第178号 P43−P48
【非特許文献2】Badawi and PK Marsden 1999a "Developments in component-based normalization for 3D PET" Phys. Med. Biol. 44(2):571-594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の要素別感度補正法によれば、次の様な問題がある。
すなわち、従来構成によれば、同時計数に関わる幾何学的要素即ち棒状線源で取得されるデータは、被検体の診断時に発生する散乱線(間接放射線)に対する検出効率の影響を無視した構成となっている。被検体から発した消滅放射線対は、直線的に進行して検出器リング62に入射する。この様な放射線を直接放射線と呼ぶ。しかし、消滅放射線対には、進行中に被検体により散乱されて進行方向が変更されたものも生じている。この様な進行方向が変更された放射線が散乱放射線である。散乱放射線は、直接放射線に比べて検出器リング62に入射するまでの飛行距離が長く、エネルギーも低いので、直接放射線とは異なる物理的性質を有している。
【0008】
この様に、被検体を診断したときに得られる放射線断層画像に重畳する偽像には、直接放射線に由来する成分と、散乱線に由来する成分とを含んでいる。然るに、偽像を除去するために取得された要素別感度補正データのうち幾何学要素は、棒状の放射線源より得られたものであるので、直接放射線のみを検出して取得されたものとなっている。
【0009】
つまり、従来の要素別感度補正データの一部は散乱線を考慮していないため、放射線断層画像に重畳する偽像における散乱線成分を十分に除去することができない。結局、放射線断層画像には偽像が残存してしまう。
【0010】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、放射線断層画像から散乱線に由来する偽像を確実に除去することができる放射線断層撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の課題を解決するために、次の様な構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線断層撮影装置は、放射線を光に変換するシンチレータ結晶が2次元的に配列されたシンチレータと光を検出する光検出器とを備えた放射線検出器が円環状に配列されることにより構成される消滅放射線対を検出する検出器リングと、検出器リングから出力された検出信号の検出効率のムラを補正することで画像上の偽像を除去する偽像除去手段と、偽像除去手段が動作するときに参照する偽像の出現パターンを表した補正データを記憶する補正データ記憶手段と、検出効率が補正された検出信号を基に消滅放射線対の発生位置を空間的にイメージングして断層画像を生成する画像生成手段とを備え、補正データは、偽像を発生する原因に応じた各因子から構成されており、補正データを構成する因子には、消滅放射線対が検出器リングに到達する前に散乱することにより、これらが入射する2つのシンチレータ結晶の間の干渉、および突き抜けの結晶の位置に応じた異なり具合が攪乱されることに起因する偽像を補正させる散乱結晶干渉因子が含まれており、散乱結晶干渉因子は、散乱線を含んだ消滅放射線対を放射する検出器リングの中心軸方向に伸びた円柱または円筒形状のファントムを検出器リングの開口に挿入した状態で取得されることを特徴とするものである。
【0012】
[作用・効果]上述の構成によれば、散乱線を含んだ消滅放射線対を放射する円柱または円筒形状のファントムを検出器リングの開口に挿入した状態で取得された補正データを、従来の要素別感度補正因子に加味することによって断層画像に表れる偽像をより高精度に除去する。断層画像は、検出器リングの内部に被検体を導入した状態で取得される。被検体の体内で発生した消滅放射線対の一部は被検体によって散乱され、散乱線となる。したがって、断層画像は、散乱線を含んだ条件で取得されるのである。本発明によれば、補正データも散乱線が含まれた条件で取得されたものであるので、補正データは、断層画像に表れる偽像をより忠実に再現している。したがって、補正データを断層画像生成時に作用させれば、断層画像に重畳する偽像は、高精度に消去される。
【0013】
また、上述の散乱結晶干渉因子を取得する場合におけるファントムは、検出器リングの中心軸方向に沿って伸びた中空を有するリング状のファントムとなっていればより望ましい。
【0014】
[作用・効果]上述の構成によれば、ファントムの外径をより大きくすることができる。検出器リングの視野範囲を覆うことができる程度に大きなファントムを用意することができるようになるので、より視野全体で正確な散乱結晶干渉因子を求めることができる。このリング状のファントムを用いた測定は、メンテナンス時など大きな検出器特性の変化があったときのみに測定しておけばよい。
【0015】
また、上述の補正データを構成する因子には、個々の放射線検出器の間で放射線の検出感度が異なることに起因して表れる断層画像のムラを補正させる検出器固有因子が含まれており、検出器固有因子を取得する場合におけるファントムは、中空を有しないとともに、検出器リングの中心軸方向に沿って伸びた円柱形となっていればより望ましい。
【0016】
[作用・効果]上述の構成によれば、要素別感度補正データには、個々の放射線検出器の間で放射線の検出感度が異なることに起因して表れる断層画像のムラを補正させるシングル計数に関わる検出器固有因子が含まれている。これにより、断層画像に重畳する偽像を確実に消去することができる。この検出器固有因子は、消滅放射線対を照射するファントムを検出器リングに導入した状態で取得されることになるが、そのファントムは、中空を有していない。検出器固有因子は、後述のファン・サム法によって取得される。ファン・サム法は、特定のシンチレータ結晶が検出した消滅放射線対の検出データを合計することで検出器固有因子を取得する方法である。検出器固有因子の取得の際に、合計される各検出データは、略同一の線量の消滅放射線対を検出していればより望ましい。上述の構成によれば、ファントムに中空を設けていないので、上述の望ましい条件に近い。
【0017】
また、上述の補正データを構成する因子には、幾何学的因子の一種として、消滅放射線対の発生点が検出器リングの中心から内壁に近づくにつれ、放射線の検出感度が変動することに起因して表れる断層画像のムラを補正させる動径方向因子が含まれており、動径方向因子は、消滅放射線対を放射するとともに検出器リングの中心軸に伸びた棒状の線源を検出器リングの開口に挿入して、これを検出器リングの内壁に沿って回転させながら取得されたものであればより望ましい。
【0018】
[作用・効果]上述の構成によれば、補正データには、消滅放射線対の発生点が検出器リングの中心から内壁に近づくにつれ、放射線の検出感度が変動することに起因して表れる断層画像のムラを補正させる動径方向因子が含まれている。これは、消滅放射線対を放射するとともに検出器リングの中心軸に伸びた棒状の線源を検出器リングの開口に挿入して、これを検出器リングの内壁に沿って回転させながら取得されたデータから算出される。このように、幾何学因子は、散乱線が発生しない状態で取得される。幾何学因子は、消滅放射線対を検出する2つのシンチレータ結晶を結ぶ線分が特定の方向となっているもののみを使用する。上述の構成によれば、幾何学因子は直接放射線で求められるので、通常検査時の直接放射線に対しては、放射線検出器間の距離の違いや検出器の向きの違いに起因した感度差を適切に補正できる。
【0019】
また、上述の補正データを構成する因子には、幾何学的因子の一種として、隣接する放射線検出器のシンチレータ結晶間の干渉により検出器リング内で生じる散乱、および突き抜けの影響を補正する結晶干渉因子が含まれており、結晶干渉因子は、消滅放射線対を放射するとともに検出器リングの中心軸に伸びた棒状の線源を検出器リングの開口に挿入して、これを検出器リングの内壁に沿って回転させながら取得されたものであればより望ましい。
【0020】
[作用・効果]上述の構成によれば、補正データには、隣接する検出器結晶間の干渉即ち検出器内散乱や突き抜けの影響を補正する結晶干渉因子が含まれている。これは、消滅放射線対を放射するとともに検出器リングの中心軸に伸びた棒状の線源を検出器リングの開口に挿入して、これを検出器リングの内壁に沿って回転させながら取得されたデータから算出される。このように、幾何学因子は、散乱線が発生しない状態で取得される。幾何学因子は、消滅放射線対を検出する2つのシンチレータ結晶を結ぶ線分が特定の方向となっているもののみを使用する。上述の構成によれば、幾何学因子は直接放射線で求められるので、通常検査時の直接放射線に対しては、検出器間の距離の違いや検出器の向きの違いに起因した感度差を適切に補正できる。
【0021】
また、上述の検出器リングが出力する検出データから幾何学因子を取得する幾何学因子取得手段と、幾何学因子を検出器リングが出力する検出データに作用させることにより散乱結晶干渉因子と、各放射線検出器の時間応答のフラツキに起因する偽像を補正する時間分解能的因子とを取得する散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得手段と、幾何学因子、散乱結晶干渉因子および時間分解能的因子を検出器リングが出力する検出データに作用させることにより検出器固有因子を取得する検出器固有因子取得手段とを備えていればより望ましい。
【0022】
[作用・効果]上述の構成は、各因子の取得方法を示している。すなわち、各因子は、幾何学因子、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子、検出器固有因子の順に求められる。しかも、求められた因子は、次の因子を求める際に使用される。すなわち、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子を求める際には、幾何学因子が使用され、検出器固有因子を求める際には、幾何学因子及び散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子が使用される。この様にすれば、より他の因子の影響を受けない各因子を求めることができるのである。
【0023】
また、上述の被検体を載置するとともに検出器リングの内穴に挿入される天板を備え、さらに、(α)天板に対し中心軸周りに回転可能な放射線源と、(β)天板に対し中心軸周りに回転可能な放射線検出手段と、(γ)放射線源と放射線検出手段とを支持する支持手段と、(δ)支持手段を回転させる回転手段と、(ε)回転手段を制御する回転制御手段を備えた画像生成装置が中心軸を検出器リングの中心軸を共有して中心軸方向から隣接して設けられればより望ましい。
【0024】
[作用・効果]上述の構成によれば、被検体の内部構造と、薬剤分布との両方を取得できる放射線断層撮影装置が提供できる。PET装置は、一般的に薬剤分布に係る情報を得ることができる。しかしながら、被検体の臓器や組織を写しこんだ断層画像を参照しながら診断を行う必要がある場合がある。上述の構成によれば、被検体の内部構造と、薬剤分布との両方を取得できるので、例えば両画像を重ね合わせることで、診断に好適な合成画像を生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図3】実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。
【図4】実施例1に係る検出器リングの構成を説明する平面図である。
【図5】実施例1に係る検出器リングの構成を説明する斜視図である。
【図6】実施例1に係る補正データの取得方法を説明するフローチャートである。
【図7】実施例1に係る動径方向因子の取得方法を説明する概念図である。
【図8】実施例1に係る動径方向因子の取得方法を説明する概念図である。
【図9】実施例1に係る動径方向因子の取得方法を説明する概念図である。
【図10】実施例1に係る動径方向因子の取得方法を説明する概念図である。
【図11】実施例1に係る動径方向因子の取得方法を説明する概念図である。
【図12】実施例1に係る時間分解能的因子の取得方法を説明する概念図である。
【図13】実施例1に係る時間分解能的因子の取得方法を説明する概念図である。
【図14】実施例1に係る時間分解能的因子の取得方法を説明する概念図である。
【図15】実施例1に係る検出器固有因子の取得方法を説明する概念図である。
【図16】実施例1に係る検出器固有因子の取得方法を説明する概念図である。
【図17】実施例1に係る検出器固有因子の取得方法を説明する概念図である。
【図18】実施例1に係る検出器固有因子の取得方法を説明する概念図である。
【図19】実施例1に係る検出器固有因子の取得方法を説明する概念図である。
【図20】実施例2に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図21】本発明の一変形例に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する概念図である。
【図22】従来構成の放射線断層撮影装置の構成を説明する図である。
【実施例1】
【0026】
<放射線断層撮影装置の構成>
以下、本発明に係る放射線断層撮影装置の各実施例を図面を参照しながら説明する。実施例1におけるγ線は、本発明の放射線の一例である。図1は、実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。実施例1に係る放射線断層撮影装置9は、被検体Mを載置する天板10と、天板10をその長手方向(z方向)から導入させる開口を有するガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた天板10をz方向に導入させるリング状の検出器リング12とを備えている。検出器リング12に設けられた開口は、z方向(天板10の長手方向、被検体Mの体軸方向)に伸びた円筒形となっている。したがって、検出器リング12自身もz方向に延伸している。
【0027】
天板10は、ガントリ11(検出器リング12)の開口をz方向から貫通するように設けられているとともに、z方向に沿って進退自在となっている。この様な天板10の摺動は、天板移動機構15によって実現される。天板移動機構15は、天板移動制御部16によって制御される。天板移動制御部16は、天板移動機構15を制御する天板移動制御手段である。天板10は、その全域が検出器リング12の外側に位置している位置から摺動して、検出器リング12の開口にその一方側から導入されるとともに、検出器リング12の内部を貫通して、検出器リング12の開口のもう一方側から突き出ることができる。
【0028】
ガントリ11の内部には、被検体Mから放射される消滅γ線対を検出する検出器リング12が備えられている。この検出器リング12は、被検体Mの体軸方向に伸びた筒状であり、そのz方向の長さは、26cm程度である。クロック19は、検出器リング12にシリアルナンバーとなっている時刻情報を送出する。検出器リング12から出力される検出データは、γ線をどの時点で検出されたかという時刻情報が付与され、後述の同時計数部20に入力されることになる。
【0029】
同時計数部20には、検出器リング12から出力された検出データが送られてきている。検出器リング12に同時に入射した2つのγ線は、被検体内の放射性薬剤に起因する消滅γ線対である。同時計数部20は、検出器リング12を構成するシンチレータ結晶のうちの2つの組み合わせ毎に消滅γ線対が検出された回数をカウントし、この結果を偽像除去部21に送出する。なお、同時計数部20による検出データの同時性の判断は、クロック19によって検出データに付与された時刻情報が用いられる。偽像除去部21は、本発明の偽像除去手段に相当する。
【0030】
同時計数部20が生成した検出データには、放射性薬剤の分布とは関係のない偽像が重畳している。同時計数部20では、消滅γ線対は検出器リング12のいずれの位置でも同様に検出されるものとして検出データを生成する。しかし、実際は、検出器リング12の開口の位置に応じて、消滅γ線対の検出感度は、まちまちなのである。例えば、消滅γ線対の発生位置が検出器リング12の中心に近い程、消滅γ線対が検出されにくかったとすると、検出データにおける検出器リング12の中心部の検出値が小さくなる。
【0031】
実施例1の構成によれば、このような断層画像に重畳した偽像を除去する偽像除去部21が備えられている。この偽像除去部21は、設定記憶部37に記憶された補正データを読み取って、これを断層画像に作用させることにより、検出データに重畳した偽像を除去する。補正データは、被検体の検査に先立って取得されるものであり、断層画像に表れる偽像のパターンを示している。設定記憶部37は、本発明の補正データ記憶手段に相当する。補正済みの検出データは、画像生成部22に送出される。
【0032】
画像生成部22では、偽像除去部21の出力を基に消滅γ線対の発生位置がマッピングされた断層画像を取得する。偽像除去部21は、同時計数部20の出力した検出データ(消滅γ線対を検出した2つのシンチレータ結晶の位置関係と、2つのシンチレータ結晶の組合せ毎に記憶される消滅放射線対検出の回数およびの消滅放射線対エネルギー強度)を補正して画像生成部22に出力している。画像生成部22は、これらの情報から被検体の内部における消滅γ線対の発生強度をマッピングして断層画像を生成するのである。
【0033】
次に、偽像除去部21が用いる補正データの取得に係る各部について説明する。実施例1に係る放射線断層撮影装置9は、図2に示すように、幾何学因子取得部25と、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26と、検出器固有因子取得部27とを備えている。各部は、同時計数部20より取得された検出データA1,A2,A3を基に、補正データを構成する各因子を取得する。注意すべきは、各部が用いる同時計数データは互いに異なっていることにある。幾何学因子取得部25,散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26,検出器固有因子取得部27の間では用いられる検出データがそれぞれ互いに異なっている。つまり、補正データを取得するには、幾何学因子取得部25用、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26用、検出器固有因子取得部27用の3つの異なる条件で消滅γ線対の検出を行う。検出器固有因子取得部27は、本発明の検出器固有因子取得手段に相当し、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26は、本発明の散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得手段に相当する。また、幾何学因子取得部25は、本発明の幾何学因子取得手段に相当する。
【0034】
検出器リング12を構成する放射線検出器1の構成について簡単に説明する。図3は、実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。放射線検出器1は、図3に示すように放射線を蛍光に変換するシンチレータ2と、蛍光を検出する光検出器3とを備えている。そして、シンチレータ2と光検出器3との介在する位置には、蛍光を授受するライトガイド4が備えられている。
【0035】
シンチレータ2は、シンチレータ結晶が二次元的に配列されて構成されている。シンチレータ結晶は、Ceが拡散したLu2(1−X)2XSiO(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。そして、光検出器3は、どのシンチレータ結晶が蛍光を発したかという蛍光発生位置を特定することができるようになっているとともに、蛍光の強度や、蛍光の発生した時刻をも特定することができる。また、実施例1の構成のシンチレータ2は、採用しうる態様の例示にすぎない。したがって、本発明の構成は、これに限られるものではない。
【0036】
検出器リング12の構成について説明する。実施例1によれば、図4に示すように100個前後の放射線検出器1がz方向に垂直な平面上の仮想円に配列することで1つの単位リング12bが形成される。この単位リング12bが図5に示すように、z方向に配列されて検出器リング12が構成される。
【0037】
なお、放射線断層撮影装置9は、各部を統括的に制御する主制御部41と、放射線断層画像を表示する表示部36とを備えている。この主制御部41は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより、各部16,19,20,21,22,25,26,27,28,34を実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。
【0038】
<補正データの取得方法>
次に、画像生成部22が参照する補正データの取得方法について説明する。図6は、補正データの取得方法を示すフローチャートである。図6のフローを大まかに説明すると、まず、棒状の線源を用いて第1の検出を行い、これを基に、幾何学因子の取得を行う。次に、リングファントムを用いて第2の検出を行い、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子の取得を行う。そして、円柱ファントムを用いて第3の検出を行い、検出器固有因子の取得を行う。これらの動作は、被検体の診断に先立って行われるのであり、補正データの取得中は、被検体、および天板10を検出器リング12の開口に挿入させない。
【0039】
本実施例の偽像除去方法である要素別感度補正法は、断層画像に表れる偽像は複数の異なる要因が絡み合うことで発生していると考え、個々の分解された要素を掛け合わせることで、偽像に対する補正を行う方式となっている。
【0040】
まず、偽像の発生する要因のうち、検出器リング12の形状による動径方向因子gを取得する。この動径方向因子gについて簡単に説明する。まず、図7(a)に示すように、互いに平行な複数のLORを考える。LORとは、line of responseの略であり、消滅γ線を検出した2つのシンチレータ結晶を結ぶ線分である。これらのLOR同士を比較したとき、長さが短いLORに比べて、長さが短いLORの方がシンチレータ結晶Cに検出され易いという性質がある。別図の図8の(a)は、長い方のLORに係る消滅γ線対を検出する場合を示している。P1は消滅点を示している。図8(a)においては、シンチレータ結晶Caが消滅γ線対の一方を検出し、シンチレータ結晶Cbがもう一方を検出する。シンチレータ結晶Caで検出できる放射線の進行方向は、図8(a)のθ1の範囲内である必要がある。
【0041】
一方、図8の(b)は、短い方のLORに係る消滅γ線対を検出する場合を示している。P2は消滅点を示している。図8(b)においては、シンチレータ結晶Ccが消滅γ線対の一方を検出し、シンチレータ結晶Cdがもう一方を検出する。シンチレータ結晶Ccで検出できる放射線の進行方向は、図8(b)のθ2の範囲内である必要がある。
【0042】
図8の示すように、θ2>θ1であることからすれば、シンチレータ結晶Ccに入射する放射線の方がシンチレータ結晶Caに入射する放射線よりも多くなる。したがって、LORが短い程、消滅γ線対が検出され易いのである。すなわち、図7(b)に示すように、消滅γ線対の検出感度は、検出器リング12の端部であればあるほど高いものとなっている。この様な傾向が断層画像に写りこむと、断層画像が暗くなるような偽像が生じる。この偽像を発生させないようにするには、図7(c)に示すように、図7(b)と逆のパターンを断層画像に重ね合わせれば良い。
【0043】
<ステップS1,S2:棒状線源を用いた動径方向因子gの取得>
幾何学因子取得部25は、検出器リング12の動径方向のどこで消滅γ線対の発生したかによって異なる放射線の検出感度の変化を取得する。その際には、図9に示すように、検出器リング12の中心軸方向に伸びた棒状線源Ph1を線源回転機構33により回転されながら得られた検出データA1が用いられる。棒状線源Ph1は、検出器リング12の内壁に沿うように円の軌跡を描きながら回転移動する。棒状線源Ph1には、放射性薬剤が含まれているので、棒状線源Ph1からは、消滅γ線対が検出器リング12に向けて放射される。ちなみに、棒状線源Ph1からの消滅γ線は、散乱線成分が含まれていない。線源回転制御部34は、線源回転機構33を制御するものである。動径方向因子gは、本発明の幾何学因子に含まれる。
【0044】
幾何学因子取得部25は、図7(b)に示すようなプロファイルを取得して、この反転パターンを補正データとする。図7(a)における消滅γ線対は、LORが紙面上下方向となっている場合の例であり、図7(b)、(c)については、補正値は、動径位置を等しくする全角度方向のLORの平均として与えられる。幾何学因子取得部25は、このような補正値の導出を全ての動径方向(LOR)について行う。例えば、幾何学因子取得部25は、LORを1度ずつ傾けながら補正値を導出していくとすると、360個の実測のプロファイル〔図7(b)参照〕が得られるが、この360個の補正値のプロファイル〔図7(c)〕は平均化取得される。補正なしの断層画像は、偽像の原因となる様々な因子が含まれるが、上述のようにして得られる偽像の原因の因子を動径方向因子gと呼ぶことにする。動径方向因子gは、幾何学的因子の一種である。
【0045】
<ステップS3:棒状線源を用いた検出による結晶干渉因子dの取得>
幾何学因子取得部25は、動径方向因子gを取得するとともに、別の幾何学因子を取得する。すなわち、上述の動径方向因子gを断層画像に重ね合わせただけでは、偽像を十分に取り除くことができないからである。結晶干渉因子dは、本発明の幾何学因子の一種である。結晶干渉因子dは、図8のθ1,θ2が変動することに起因して変動する幾何学因子である。
【0046】
この幾何学因子を結晶干渉因子dと呼ぶ。結晶干渉因子dは、幾何学因子の一種である。この結晶干渉因子dについて、簡単に説明する。図10に示すように互いに平行で長さが長いLOR1と、短いLOR2があるとする。LOR1に係る消滅γ線対は、シンチレータ結晶Cp,Cqのペアーで観察される。具体的にシンチレータ結晶Cpについていえば、シンチレータ結晶Cpの入射面から結晶内部に進入した放射線は、結晶内部において点線の軌跡を辿る。そして、放射線は、点線上のいずれかの場所で蛍光に変換される。光検出器3は、これを検出するのである。シンチレータCqについても、放射線は点線の軌跡を辿って、点線上のいずれかの場所で蛍光に変換される。LOR1に係る消滅γ線対を検出するのは、シンチレータ結晶Cp,Cqのペア以外にはない。
【0047】
しかし、LOR2に係る消滅γ線対では、事情が異なる。すなわち、消滅γ線対のうちの一方は、シンチレータ結晶Ca,Cc,Ceのいずれかで検出され、もう一方は、シンチレータ結晶Cb,Cd,Cfのいずれかで検出される(図10参照)。すなわち、シンチレータ結晶Caに入射した放射線は、点線の軌跡を辿って、点線上のいずれかのシンチレータ結晶Ca,Cc,Ceで蛍光に変換されるのである。
【0048】
LOR1を検出する時の放射線検出特性と、LOR2を検出する時の検出特性とは同じにならない。この原因としては、点線の長さ(消滅γ線対の進行方向におけるシンチレータ結晶の厚み)が異なる上に、LOR2の場合はシンチレータ結晶を跨いで放射線が進行するので、検出のレスポンスの特性がLOR1の場合と比べて変化していることに起因する。この様な検出特性のムラが存在していることを無視して、断層画像を生成すると、これに伴う偽像が現れる。これが、偽像の一因となっている結晶干渉因子dである。この偽像の出現パターンは、動径方向因子gの場合よりも複雑である。
【0049】
結晶干渉因子dの求め方を簡単に説明する。幾何学因子取得部25は、検出データA1に動径方向因子gを作用させて動径方向因子gの影響を取り除いたあと、図11に示すようにLOR2と回転対称となっている9本のLORの検出データを抜き出し、これらを平均してシンチレータ結晶Ca,Cbを結ぶLOR2の結晶干渉因子dとする。この様な動作をする理由について説明する。図11の図の例では、正十角形に沿って一辺につき4つのシンチレータ結晶が配列されている。時計回りにシンチレータを2a〜2kと番号付けしたとすると、LOR2は、シンチレータ2gの3番目のシンチレータ結晶Caと、シンチレータ2jの2番目のシンチレータ結晶Cbとを結ぶ線分である。シンチレータ結晶Ca,Cbの位置関係を保ったまま、検出器リング12の中心軸を中心に36度だけ回転させると、シンチレータ結晶Caは、シンチレータ2hの3番目(シンチレータ結晶Cm)に移動し、シンチレータ結晶Cbは、シンチレータ2kの2番目(シンチレータ結晶Cn)に移動する。移動後のLORの長さは、移動前のLOR2のそれと同一であり、LORとシンチレータ結晶Caのなす角度と、LORとシンチレータ結晶Cmのなす角度とは同一である。同様に、LORとシンチレータ結晶Cbのなす角度と、LORとシンチレータ結晶Cnのなす角度とは同一である。
【0050】
さらに、シンチレータ結晶Caがシンチレータ2gに占める位置と、シンチレータ結晶Cmがシンチレータ2hに占める位置とは同様であり、シンチレータ結晶Cmがシンチレータ2jに占める位置と、シンチレータ結晶Cnがシンチレータ2kに占める位置とは同様となっている。検出器リング12は、10回回転対称だからである。この様に回転対称となっている各LORに係る結晶干渉因子dには違いはない。
【0051】
この様に、移動前のシンチレータ結晶Ca,Cbの消滅γ線対の検出特性は、移動後のシンチレータ結晶Cm,Cnそれと同じであるはずである。特性に違いがあるとすれば、シンチレータ結晶固有の放射線検出特性のバラツキであり、これは後段ステップで補正される。幾何学因子取得部25は、LOR2と回転対称となっている9本のLORの検出データを抜き出し、これらを平均する。これにより、シンチレータ結晶固有の放射線検出特性が相殺される。幾何学因子取得部25は、全てのLORについて同様の動作を行う。出力された平均値を比較すると、これらは同一となっていない。互いの平均値の間で放射線がシンチレータ結晶を跨いで進行する様式が異なるからである。
【0052】
幾何学因子取得部25は、隣接する検出器結晶間の干渉、すなわち、放射線検出器1の内部でのγ線の散乱や突き抜けの影響による検出特性のムラを動径位置の対称性と回転方向の周期性を考慮して結晶干渉因子dを取得する。例えば、LOR2に関する結晶干渉因子dは、これと回転対称となっている9本のLORについての平均値として求まることになる。
【0053】
この様に、幾何学因子取得部25は、動径方向因子gと結晶干渉因子dとを取得する。これらは、棒状線源から発せされた直接放射線のみから求められたものである。実際には棒状線源のデータを直接用いるのではなく、幾何学因子取得部25は、事前に検出値にステイタイム補正を行って、全てのLOR間に存在する線源の量を規格化した上で、両因子g,dを求めている。ステイタイム補正とは、各LORで得られたカウントを棒状線源Ph1の位置に応じて変化する回転軌道とLORの交差する長さで割ることでLOR上に存在する線源量を規格化する処理である。線源量が規格化されれば、同じ線源量に対する両因子g,dを求めることが出来る。
【0054】
<ステップS4,S5:リング状ファントムを用いた検出による散乱結晶干渉因子Dの取得>
リングファントムPh2から放射された消滅γ線対の検出データA2は、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26に送られる。ここで、検出器リング12に入射する前の消滅放射線対に散乱線が存在するが故に結晶干渉因子dが撹乱する影響を示す散乱結晶干渉因子Dを取得する。この散乱線反映結晶干渉因子Dは、今まで求めた因子とは異なる偽像の原因となっている。散乱線反映部28は、リングファントムPh2から放射された消滅γ線対の検出データA2を検出器リング12より受け取って、これに上述の動径方向因子g,結晶干渉因子dを作用させる。すると、検出データA2の偽像成分に含まれていた各因子g,dが補正される。
【0055】
この状態で、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26は、幾何学因子取得部25が行った結晶干渉因子dの取得と同様の演算を行う。すなわち、動径方向に対称、回転方向に周期的に現れる幾何学的な位置関係を等しくするLORについて検出強度の平均を次々と求めていくのである。
【0056】
検出データA2には、動径方向因子g,結晶干渉因子dが作用されているのであるから、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26が平均値を求めても、平均値同士は同じ値をとるはずである。結晶干渉因子dは、検出データA2から取り除かれているのであるから当然そうなるように思われる。
【0057】
しかし、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26が取得した平均値同士は、直接放射線以外にリングファントムPh2で放射線が散乱することで発生する散乱放射線が含まれるために等しくならない。この分布はデータ収集に用いたファントムが結晶干渉因子dのときのものと異なっていることにより発生している。リングファントムPh2を用いると、棒状線源Ph1を用いた場合と異なり、消滅γ線対に散乱線も含まれている。これが影響して平均値同士は一定でない分布を持つのである。散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26が取得した平均値のムラが散乱結晶干渉因子Dである。
【0058】
散乱線成分を含む被検体の測定においては、直接線のみで取得された結晶干渉因子dだけでは断層画像の結晶干渉因子の全てが消去されない。この上で更に散乱結晶干渉因子Dを作用させることにより、断層画像に含まれる結晶干渉因子が完全に消去されることになる。
【0059】
<ステップS6:リング状ファントムを用いた検出による時間分解能的因子hの取得>
上述の幾何学因子g,d及び散乱結晶干渉因子Dを断層画像に作用させても取り除くことができない偽像がある。それは、消滅γ線対を検出する時間応答レスポンスがシンチレータ結晶のペアによって異なる場合があることに由来する偽像である。時間応答のフラツキがすくないシンチレータ結晶のペアについては、同時計数の時間分解能が高く一定の時間窓内に正しく同時計数される。しかし、時間応答のフラツキが大きいシンチレータ結晶のペアでは、同時計数の時間分解能が低く、同じ時間窓で計数されるイベントが減少する事態が生じうる。この様な事情を参酌しないで断層画像を生成すると、同時計数の時間分解能の違いにより、画像上に画素の濃淡が生じる。この様な偽像の要因を時間分解能的因子hと呼ぶ。
【0060】
時間分解能的因子hを求めるときには、図12に示すような、リング状のリングファントムPh2を検出器リング12の内部に載置することにより行う。リングファントムPh2の外壁、および筒状の中空の中心軸は、検出器リング12の中心軸と一致している。リングファントムPh2には、放射性薬剤が含まれているので、リングファントムPh2からは、消滅γ線対が検出器リング12に向けて放射される。
【0061】
なお、リングファントムPh2は、消滅γ線対の検出中は移動しない。しかも、リングファントムPh2の直径(外径)は、後述の円柱ファントムPh3の直径よりも大きくなっている。
【0062】
シンチレータ結晶のペアで同時計数の時間分解能の違いが生じるのは、光検出器3の時間応答特性にフラツキがあるからである。その変動の具合が光検出器3によってまちまちなのである。これが時間分解能的因子hを必要とする理由である。
【0063】
散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26は、リングファントムPh2から放射された消滅γ線対の検出データA2を検出器リング12より受け取って、これに上述の幾何学因子g,d,散乱結晶干渉因子Dを作用させる。すると、検出データA2の偽像成分に含まれていた幾何学因子g,d,散乱結晶干渉因子Dは補正されるが、画素値の濃淡は完全には除去しきれない。この除去できない分の因子のうちの1つをこれから求めるのである。
【0064】
時間分解能的因子hを求めるには、時間分解能的因子hが光検出器3ごとに異なることを利用する。図13に示すように、時計回りに光検出器3を3a〜3kと番号付けしたとする。散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26は、2つの光検出器3の間で放射線の検出感度の違いを求める。2つの光検出器3の全ての組合せについて、消滅γ線対の検出強度の合計値を取得する。例えば、光検出器3a,3gの間で合計値を取得するとする。そして、光検出器3aに光学的に接続されたシンチレータをシンチレータ2aとし、光検出器3gに光学的に接続されたシンチレータをシンチレータ2gとする。散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26は、一方がシンチレータ2aに属し、もう一方がシンチレータ2gに属しているシンチレータ結晶のペアが検出した消滅γ線対の強度を合計して合計値を求める。散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26は、リングファントムPh2で得られた検出データを基に任意の2つの光検出器の組合せについて合計値を求めるのである。
【0065】
光検出器3aについて合計値を求めた結果が図14(a)に示されている。光検出器3aとそれ以外の光検出器の組合せについて固有に求まる合計値を比較すると、バラツイている。同様に、光検出器3bについて合計値を求めた結果が図14(b)に示されている。光検出器3bとそれ以外の光検出器の組合せについて固有に求まる合計値を比較すると、やはりバラツイている。
【0066】
図14においては、光検出器3aと光検出器3bの2つについて示しているに過ぎず、実際には、散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部26は、同様な合計値のセットを他の光検出器についても生成する。全ての光検出器3の組合せについて合計値が求まった時点で、それぞれのバラツキを時間分解能的因子hとする。図14(a)の状態となっている補正前のデータに時間分解能的因子hを作用させると、図14(c)に示すように、全ての合計値が等しくなる。図14(b)の状態となっている補正前のデータに時間分解能的因子hを作用させると、やはり、図14(d)に示すように、全ての合計値が等しくなる。時間分解能的因子hを断層画像に作用させると、断層画像の部分的に見られる濃淡が除去される。
【0067】
なお、単一の放射線検出器1に設けられた光検出器3が独立した複数のユニットに分けられる場合がある。ユニット毎に時間分解能的因子hが変動する場合は、合計値の算出を光検出器3ごとに求めるのではなく、合計値をユニット毎に求めて、時間分解能的因子hを導出すればよい。
【0068】
<検出器固有因子について>
上述の幾何学因子g,d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子hを断層画像に作用させるだけでは、偽像を完全に取り除くことができない。シンチレータ結晶の放射線検出特性が固有に異なるからである。幾何学因子g,d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子hは、シンチレータ結晶のペアが消滅γ線対を検出する場合における同時計数時の検出効率ムラを表している。これから求めようとするシンチレータ結晶の放射線検出特性の違いは、シンチレータ結晶1つ1つを比較した場合における放射線検出特性のバラツキである。断層画像に表れる偽像のうち、固有のシンチレータ結晶のバラツキに由来する因子を検出器固有因子と呼ぶ。検出器固有因子には、ブロック因子bと、結晶固有因子eがある。ブロック因子b,結晶固有因子eは、本発明の検出器固有因子に相当する。
【0069】
<ステップS7,S8:円柱ファントムPh3を用いたブロック因子bの取得>
ブロック因子bを求めるには、図15に示すような、円柱ファントムPh3を検出器リング12の内部に載置することにより行う。円柱ファントムPh3の伸びる方向は、検出器リング12の中心軸と一致しており、円柱ファントムPh3には、放射性薬剤が含まれているので、円柱ファントムPh3からは、検出器リング12に向けて消滅γ線対が放射される。ちなみに、このとき生じた消滅γ線対の一部は、円柱ファントムPh3の一部に当たって散乱するので、検出器リング12に入射する消滅γ線対には散乱線成分が含まれている。なお、円柱ファントムPh3には中空が設けられておらず、消滅γ線対の検出中は移動しない。
【0070】
ブロック因子bについて説明する。ブロック因子bとは、シンチレータ結晶Cの各々がシンチレータ2のどこに位置しているかで変動する因子である。図16におけるシンチレータ2の中央部に位置するシンチレータ結晶Caで蛍光に変換される放射線は、シンチレータ結晶Caの入射面に入ったもの以外にも、矢印のように、シンチレータ結晶Caの左右に存する他のシンチレータ結晶Cに入射し、シンチレータ結晶Cを横切った後、シンチレータ結晶Caに入射するものも含まれている。シンチレータ結晶Caには、その左右から放射線が飛来する。
【0071】
シンチレータ2の端部に位置するシンチレータ結晶Cbは、シンチレータ結晶Caよりも検出される放射線の線量が少なくなる。シンチレータ結晶Cbの右側にはシンチレータ結晶が並んでいないからである。この様に、シンチレータ2の位置によってシンチレータ結晶Cの放射線の検出感度には、図16の下側のプロファイルで示すような関係がある。すなわち、シンチレータ2の中央部から両端部に向かうにしたがって、放射線の検出感度が低下するのである。このシンチレータ2の位置によって異なる検出感度のムラがブロック因子bである。このブロック因子bは、放射線検出器の間で異なっている。
【0072】
検出器固有因子取得部27は、円柱ファントムPh3から放射された消滅γ線対の検出データA3を検出器リング12より受け取って、これに上述の幾何学因子g,d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子hを作用させる。すると、検出データA3の偽像成分に含まれていた各因子g,d,h,Dが消去される。
【0073】
検出器固有因子取得部27が行う動作について説明する。検出器固有因子取得部27は、ファン・サム法によって検出感度の合計値を取得する。ファン・サム法について説明する。図17におけるシンチレータ結晶Ccについて合計値を求めるときは、シンチレータ結晶Ccを結ぶLORのうち、円柱ファントムPh3を通過するLORについて消滅γ線対の検出強度を合計することで取得される。つまり、図17にファン状に並ぶLORの各々の消滅γ線対の検出強度の合計値がシンチレータ結晶Ccの結晶固有の因子に比例した値であることになる。シンチレータ結晶Ca〜Cdについても同様な合計値を求める。このときの合計値をαとする。シンチレータ2に二次元的に配列されているシンチレータ結晶の各々について合計値αを求めると、図18のようになる。図18では、検出器リング12を構成する3つのシンチレータのうちの1つが6×6のマトリックス状にシンチレータ結晶が配列されているとしている。36個のシンチレータ結晶の各々について合計値αが求められるので、合計値はα11〜α66までの36個求められる。
【0074】
検出器固有因子取得部27は、シンチレータ2内部の位置が同じ4つのシンチレータ結晶の合計値αを加算平均する。例えば、α11,61,66,16は、シンチレータ2内部の位置が同じである。これら平均値をα11〜α66の全てについて求める。この平均値がブロック因子bである。例えば、4つのシンチレータ結晶に係る合計値α11,61,66,16の平均値を求めると、これら4つのシンチレータ結晶についてのブロック因子bが一度に求まることになる。
【0075】
<ステップS9:円柱ファントムPh3を用いた結晶固有因子eの取得>
ブロック因子bをシンチレータ結晶の位置に応じて2次元配列させると図19の上側のようになっている。つまり、b11=b61=b66=b16となっている。検出器固有因子取得部27は、検出データA3に幾何学因子g,d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子hを作用させるとともに、自らが求めたブロック因子bをも作用させ、もう一度ファン・サム法により合計値を取得する。すると、図19の下側のように、6×6のデータマトリックスが取得される。このマトリックスは結晶毎に異なる検出感度のバラツキを表しており、マトリックスを構成するe11〜e66が結晶固有因子eである。
【0076】
結晶固有因子eは、シンチレータ結晶Cが固有に有する検出感度特性である。シンチレータ結晶Cの各々は、同様な製法で製造されるので、品質は一定であるはずである。しかし、実際は、放射線を蛍光に変換する能力、蛍光の強度等にはバラツキがある。結晶固有因子eは、この様な個々のシンチレータ結晶Cに固有の放射線検出のバラツキを示している。この結晶固有因子eは、他のあらゆる因子を取り除いた状態で最後に求められるものである。
【0077】
以上に説明した動径方向因子g,結晶干渉因子d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子h,ブロック因子b,および結晶固有因子eは、補正データとして設定記憶部37に記憶され、断層画像に表れる偽像を除去するのに使用される。
【0078】
<放射線断層撮影装置の動作>
次に、実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作について説明する。まず、被検体Mに放射性薬剤が注射される。この時点から所定の時間が経過した時点で、被検体Mが天板10に載置され、被検体Mが検出器リング12の内穴に挿入される。術者が操作卓35を通じて、消滅γ線対に検出を指示すると、検出器リング12は、同時計数部20に検出データの送出を開始する。同時計数部20は、検出データの同時計数を行い、偽像除去部21は、設定記憶部37に記憶されている補正データに基づいて、偽像が写りこんだ断層画像の補正を行う。偽像除去部21は、動径方向因子g,結晶干渉因子d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子h,ブロック因子b,および結晶固有因子eの全てを断層画像に作用させ、断層画像に写りこんだ偽像を完全に除去して補正済みの検出データを画像生成部22に送出する。
【0079】
画像生成部22は、被検体Mの断層画像を取得する。この断層画像は、被検体の放射性薬剤の分布に重畳する偽像が消去されたものとなっている。この断層画像が表示部36に表示されて実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作は終了となる。
【実施例2】
【0080】
次に、実施例2に係るPET/CT装置について説明する。PET/CT装置とは、実施例1で説明した放射線断層撮影装置PET装置)9と、X線を用いた断層画像を生成するCT装置8とを有する構成で、両者で得られた断層画像を重ね合わせた合成画像を生成することができる医用装置である。
【0081】
実施例2に係るPET/CT装置の構成について説明する。実施例2に係るPET/CT装置におけるPET装置においては、実施例1で説明した放射線断層撮影装置(PET装置)9を用いることができる。したがって、実施例2における特徴的な部分であるCT装置について説明する。図20に示すように、CT装置8は、ガントリ45を有している。ガントリ45には、z方向に伸びた開口が設けられており、この開口に天板10が挿入されている。なお、CT装置8は、放射線断層撮影装置9にz方向から隣接する。z軸は、本発明の中心軸に相当する。
【0082】
ガントリ45の内部には、X線を被検体に向けて照射するX線管43と、被検体を透過してきたX線を検出するFPD(フラット・パネル・ディテクタ)44と、X線管43とFPD44とを支持する支持体47とが備えられている。支持体47は、リング形状となっており、z軸周りに回転自在となっている。この支持体47の回転は、例えばモータのような動力発生手段と、例えば歯車のような動力伝達手段とから構成される回転機構39が実行する。また、回転制御部40は、この回転機構39を制御するものである。X線管43は、本発明の放射線源に相当する。FPD44は、本発明の放射線検出手段に相当し、支持体47は、本発明の支持手段に相当する。回転機構39は、本発明の回転手段に相当し、回転制御部40は、本発明の回転制御手段に相当する。支持体47(X線管43とFPD44)の回転における中心軸は、検出器リング12の中心軸と一致している。すなわち、CT装置8は、その中心軸を検出器リングの中心軸を共有してz方向からPET装置に隣接して設けられている。
【0083】
CT画像生成部48は、FPD44から出力されたX線検出データを基に、被検体MのX線断層画像を生成するものである。また、重ね合わせ部49は、放射線断層撮影装置(PET装置)9から出力された被検体内の薬剤分布を示すPET画像と、上述のX線断層画像とを重ね合わせることで重合画像を生成する構成となっている。
【0084】
主制御部41は、各種のプログラムを実行することにより、実施例1に係る各部の他、回転制御部40,CT画像生成部48,重ね合わせ部49,およびX線管制御部46とを実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。
【0085】
X線透視画像の取得方法について説明する。X線管43とFPD44とは、互いの相対位置を保った状態でz軸周りに回転する。このときX線管43は間歇的にX線を被検体Mに向けて照射し、その度ごとに、CT画像生成部48は、X線透視画像を生成する。この複数枚のX線透視画像は、CT画像生成部48において例えば、既存のバック・プロジェクション法を用いて単一の断層画像に組み立てられる。
【0086】
次に、合成画像の生成方法について説明する。PET/CT装置にて合成画像を取得するには、被検体Mの関心部位をCT装置に導入して、被検体Mとガントリ45との位置を変更しながらX線断層画像を取得する。そして、被検体Mの関心部位を放射線断層撮影装置(PET装置)9に導入してPET画像を取得する。重ね合わせ部49によって両画像が重ね合わせられ、完成した合成画像は、表示部36にて表示される。これにより、薬剤分布と被検体の内部構造とを同時に認識することができるので診断に好適な断層画像が提供できる。
【0087】
実施例2の構成によれば、被検体Mの内部構造と、薬剤分布との両方を取得できる放射線断層撮影装置9が提供できる。PET装置は、一般的に薬剤分布に係る情報を得ることができる。しかしながら、被検体Mの臓器や組織を写しこんだ断層画像を参照しながら診断を行う必要がある場合がある。上述の構成によれば、被検体Mの内部構造と、薬剤分布との両方を取得できるので、例えば両画像を重ね合わせることで、診断に好適な合成画像を生成させることができる。
【0088】
以上のように、上述の構成によれば、散乱線を含んだ消滅γ線対を放射する円柱形のファントムを検出器リング12の開口に挿入した状態で取得された補正データに基づいて断層画像に表れる偽像を除去する。断層画像は、検出器リング12の内部に被検体を導入した状態で取得される。被検体の体内で発生した消滅γ線対の一部は被検体によって散乱され、散乱線となる。したがって、断層画像は、散乱線を含んだ条件で取得されるのである。本発明によれば、補正データも散乱線が含まれた条件で取得されたものであるので、補正データは、断層画像に表れる偽像をより忠実に再現している。したがって、補正データを断層画像に作用させれば、断層画像に重畳する偽像は、高精度に消去される。
【0089】
そして、本発明の補正データを構成する各因子には、シンチレータ結晶Cの間に見られる放射線検出の隣接する結晶との位置関係や突き抜けに起因する偽像を補正させる散乱結晶干渉因子Dが含まれている。この散乱結晶干渉因子Dは、中空の円筒ファントムを用いて取得されたものである。消滅γ線対が散乱すると、放射線の進行方向が変化する。すると、放射線が発生してから検出器リング12に入射するまでの時間も変化する。この様に、結晶干渉因子dは消滅γ線対の散乱により乱される。しかし、本発明によれば、リングファントムPh2を用い、検出器リングに12に入射する前の段階で散乱線が発生する状態で取得された散乱結晶干渉因子Dが得られるので、散乱線の影響を含めて補正することができるのである。リングファントムPh2を用いると、放射線が進行する間にリングファントムPh2の一部で散乱が起こるので、消滅γ線対は、ある割合で散乱する。
【0090】
上述の構成によれば、より高精度な散乱結晶干渉因子Dを取得することができる。ファントムがリング状となっていれば、ファントムの重量を軽くすることができるので、検出器リング12にファントムを導入するのが容易となり、また、ファントムの外径をより大きくすることができる。検出器リング12の視野範囲を覆うことができる程度に大きなリングファントムPh2を用意することができるようになるので、より高精度な散乱結晶干渉因子Dを求めることができる。
【0091】
また、上述の構成によれば、補正データには、個々の放射線検出器1の間で放射線の検出感度が異なることに起因して表れる断層画像のムラを補正させるブロック因子b,結晶固有因子eが含まれている。これにより、断層画像に重畳する偽像を高精度に消去することができる。このブロック因子b,結晶固有因子eは、消滅γ線対を照射する円柱ファントムPh3を検出器リング12に導入した状態で取得されることになるが、円柱ファントムPh3は、中空を有していない。ブロック因子b,結晶固有因子eは、前述のファン・サム法によって取得される。ファン・サム法は、特定のシンチレータ結晶Cが検出した消滅γ線対の検出データを合計することでブロック因子b,結晶固有因子eを取得する方法である。ブロック因子b,結晶固有因子eの取得の際に、合計される各検出データは、略同一の線量の消滅γ線対を検出していればより望ましい。上述の構成によれば、円柱ファントムPh3に中空を設けていないので、上述の望ましい条件に近い。
【0092】
さらに、円柱ファントムPh3を用いると、放射線が進行する間に円柱ファントムPh3の一部で散乱が起こるので、消滅γ線対は、ある割合で散乱する。ブロック因子b,結晶固有因子eは、散乱線が含まれた条件で取得されたものであるので、断層画像に重畳する偽像をより忠実に表したものとなる。
【0093】
そして、上述の構成によれば、補正データには、消滅γ線対の発生点が検出器リング12の中心から内壁に近づくにつれ、放射線の検出感度が変動することに起因して表れる断層画像のムラを補正させる動径方向因子g,結晶干渉因子dが含まれている。これにより、断層画像に重畳する偽像を確実に消去することができる。動径方向因子g,結晶干渉因子dは、消滅γ線対を放射するとともに検出器リング12の中心軸に伸びた棒状の線源を検出器リング12の開口に挿入して、これを検出器リング12の内壁に沿って回転させながら取得されたものである。これにより、動径方向因子g,結晶干渉因子dは、散乱線が発生しない状態で取得される。動径方向因子g,結晶干渉因子dは、消滅γ線対を検出する2つのシンチレータ結晶Cを結ぶLORが特定の方向となっているもののみを使用する。
【0094】
そして、上述の構成は、各因子の取得方法を示している。すなわち、各因子は、動径方向因子g,結晶干渉因子d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子h,ブロック因子b,結晶固有因子eの順に求められる。しかも、求められた因子は、次の因子を求める際に使用される。すなわち、散乱結晶干渉因子D及び時間分解能的因子hを求める際には、動径方向因子g,結晶干渉因子dが使用され、ブロック因子b,結晶固有因子eを求める際には、動径方向因子g,結晶干渉因子d,散乱結晶干渉因子D,時間分解能的因子hが使用される。この様にすれば、より高精度に各因子を求めることができるのである。
【0095】
本発明は上述の実施例に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0096】
(1)上述の構成における棒状線源Ph1の代わりにリングファントムPh2を使用することができる。動径方向因子gの算出は、上述と同様であるが、結晶干渉因子dを求めてしまえば、散乱結晶干渉因子Dを求める必要はない。結晶干渉因子dは、散乱線が発生する条件で求められたものだからである。
【0097】
(2)上述の構成におけるリングファントムPh2の代わりに円柱ファントムPh3を使用することもできる。円柱ファントムPh3も散乱線を発生するので、散乱結晶干渉因子Dを導出するのに好都合である。
【0098】
(3)上述の構成における円柱ファントムPh3の代わりにリングファントムPh2を使用することもできる。図21に示すように、ファントムに中空を有しているのでファン・サム法で合計されるLORのほとんどは、リングファントムPh2の中空を横切る。しかし、ファン状のLORの束のうち、端部のLORに注目すると、リングファントムPh2の中空を通らないものがある。この様なLORに沿う消滅γ線対は、中空を横切るLORに沿う消滅γ線対よりも、多いものとなっている。この様な違いがあるので、リングファントムPh2を用いたブロック因子b,結晶固有因子eの取得は、ファン状のLORの束のうち、リングファントムPh2の中空を横切るものだけ合計するか、LOR毎に検出値の重み付けを行うことで実現される。
【0099】
(4)上述した各実施例のいうシンチレータ結晶は、LYSOで構成されていたが、本発明においては、その代わりに、GSO(GdSiO)などのほかの材料でシンチレータ結晶を構成してもよい。本変形例によれば、より安価な放射線検出器が提供できる放射線検出器の製造方法が提供できる。
【0100】
(5)上述した各実施例において、光検出器は、光電子増倍管で構成されていたが、本発明はこれに限らない。光電子増倍管に代わって、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオードや半導体検出器などを用いていもよい。
【符号の説明】
【0101】
C シンチレータ結晶
D 散乱結晶干渉因子
b,e ブロック因子、結晶固有因子(検出器固有因子)
g,d 動径方向因子、結晶干渉因子(幾何学因子)
h 時間分解能的因子
1 放射線検出器
2 シンチレータ
3 光検出器
12 検出器リング
21 偽像除去部(偽像除去手段)
22 画像生成部(画像生成手段)
25 幾何学因子取得部(幾何学因子取得手段)
26 散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得部(散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得手段)
27 検出器固有因子取得部(検出器固有因子取得手段)
37 設定記憶部(補正データ記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を光に変換するシンチレータ結晶が2次元的に配列されたシンチレータと光を検出する光検出器とを備えた放射線検出器が円環状に配列されることにより構成される消滅放射線対を検出する検出器リングと、
前記検出器リングから出力された検出信号の検出効率のムラを補正することで画像上の偽像を除去する偽像除去手段と、
前記偽像除去手段が動作するときに参照する偽像の出現パターンを表した補正データを記憶する補正データ記憶手段と、
前記検出効率が補正された検出信号を基に消滅放射線対の発生位置を空間的にイメージングして断層画像を生成する画像生成手段とを備え、
前記補正データは、偽像を発生する原因に応じた各因子から構成されており、
前記補正データを構成する因子には、消滅放射線対が検出器リングに到達する前に散乱することにより、これらが入射する2つのシンチレータ結晶の間の干渉、および突き抜けの結晶の位置に応じた異なり具合が攪乱されることに起因する偽像を補正させる散乱結晶干渉因子が含まれており、
前記散乱結晶干渉因子は、散乱線を含んだ消滅放射線対を放射する前記検出器リングの中心軸方向に伸びた円柱または円筒形状のファントムを前記検出器リングの開口に挿入した状態で取得されることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線断層撮影装置において、
前記補正データを構成する因子には、個々の前記放射線検出器の間で放射線の検出感度が異なることに起因して表れる断層画像のムラを補正させる検出器固有因子が含まれており、
前記検出器固有因子を取得する場合におけるファントムは、中空を有しないとともに、前記検出器リングの中心軸方向に沿って伸びた円柱形となっていることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線断層撮影装置において、
前記補正データを構成する因子には、幾何学的因子の一種として、消滅放射線対の発生点が前記検出器リングの中心から内壁に近づくにつれ、放射線の検出感度が変動することに起因して表れる断層画像のムラを補正させる動径方向因子が含まれており、
前記動径方向因子は、消滅放射線対を放射するとともに前記検出器リングの中心軸に伸びた棒状の線源を前記検出器リングの開口に挿入して、これを前記検出器リングの内壁に沿って回転させながら取得されたものであることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
前記補正データを構成する因子には、幾何学的因子の一種として、隣接する放射線検出器のシンチレータ結晶間の干渉により検出器リング内で生じる散乱、および突き抜けの影響を補正する結晶干渉因子が含まれており、
前記結晶干渉因子は、消滅放射線対を放射するとともに前記検出器リングの中心軸に伸びた棒状の線源を前記検出器リングの開口に挿入して、これを前記検出器リングの内壁に沿って回転させながら取得されたものであることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線断層撮影装置において、
前記検出器リングが出力する検出データから前記幾何学因子を取得する幾何学因子取得手段と、
前記幾何学因子を前記検出器リングが出力する検出データに作用させることにより前記散乱結晶干渉因子と、各放射線検出器の時間応答のフラツキに起因する偽像を補正する時間分解能的因子とを取得する散乱結晶干渉因子・時間分解能的因子取得手段と、
前記幾何学因子、前記散乱結晶干渉因子および前記時間分解能的因子を前記検出器リングが出力する検出データに作用させることにより前記検出器固有因子を取得する検出器固有因子取得手段とを備えていることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
被検体を載置するとともに前記検出器リングの内穴に挿入される天板を備え、
さらに、
(α)前記天板に対し中心軸周りに回転可能な放射線源と、
(β)前記天板に対し中心軸周りに回転可能な放射線検出手段と、
(γ)前記放射線源と前記放射線検出手段とを支持する支持手段と、
(δ)前記支持手段を回転させる回転手段と、
(ε)前記回転手段を制御する回転制御手段を備えた画像生成装置が前記中心軸を前記検出器リングの中心軸を共有して前記中心軸方向から隣接して設けられることを特徴とする放射線断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−75419(P2011−75419A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227511(P2009−227511)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】