説明

放射線断層撮影装置

【課題】検出器リングの外部に放射線が発生している場合であっても、正確に数え落とし補正を行うことができる放射線断層撮影装置を提供する。
【解決手段】本発明の構成によれば、同時イベント計数値に対して数え落とし補正を行うようになっている。この数え落とし補正の強度は偶発同時イベントを計数することにより決定されるが、検出器リング12の外部から発した放射線が補正の強度を不正確なものとしてしまう。本発明によれば、検出器リング12の各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング12全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に、補正部23が用いる補正値を検出器リング12の各部分について取得する構成となっている。この2つの計数値を組み合わせて補正の強度(補正値R)を決定すれば、値の過不足が相殺されて正確な数え落とし補正ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検体から照射された放射線をイメージングする放射線断層撮影装置に関し、特に、放射線検出の時間分解能の限界によって生じる放射線の数え落としを補正することができる3D収集用放射線断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線断層撮影装置の具体的な構成について説明する。従来の放射線断層撮影装置50は、図9に示すように被検体Mを載置する天板52と、消滅放射線対を検出する検出器リング62とを備えている。検出器リング62の開口は天板52ごと被検体Mを挿入できるようになっている。
【0003】
従来の放射線断層撮影装置50を用いて、被検体Mの頭部における放射性薬剤の分布を知ろうとする場合は、被検体Mの頭部が検出器リング62の開口の内部に存する位置に移動される。そして、被検体Mの頭部から放出された消滅放射線対の発生位置をイメージングして放射線断層画像が取得される。この様な放射線断層撮影装置をPET(positron emission tomography)装置と呼ぶ。
【0004】
この様なPET装置は、検出器リング62に放射線が入射する頻度が高くなるに従って、放射線の入射の回数が見かけ上少なくなる現象が生じる。検出器リング62において、同時に2つの放射線が入射した直後、これとは別の放射線が検出器リング62に入射したとすると、PET装置は、最初に入射した2つの放射線と次に入射した放射線とを区別することができない。そこで、PET装置は、最初に入射した2つの放射線について入射がなかったものとして放射線の計数を続ける。
【0005】
このように、実際に入射している消滅放射線対をなかったことにして消滅放射線対の計数をすると、検出器リング62が検出する消滅放射線対の回数が少なくなる。この様な現象を消滅放射線対の数え落としと呼ぶ。この数え落としは、検出器リング62に入射する放射線が増加するほど多く発生する。
【0006】
従来の構成によれば、検出器リング62に入射した消滅放射線対の計数に応じた数え落としの発生頻度を事前に収集されたテーブルを用いて取得し、実測の消滅放射線対の計数が多くなるように補正して、数え落としの影響を消去するようにしている。このような計数の補正を数え落とし補正と呼ぶ(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山本誠一他 Deadtime Correction Method Using Random Coincidence for PET. J. Nucl. Med. 27:1925−1928, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の放射線断層撮影装置には次のような問題点がある。すなわち、検出器リングの外部から放射線が飛来するような検査において、これらの放射線の入射を防ぐセプタを備えない3D収集の場合、数え落とし補正を正確に行えないという問題点がある。
【0009】
図9に示すような頭部検査用のPET装置においては、検査対象の頭部が検出器リング62に挿入される。消滅放射線対を発生させる放射性薬剤は、被検体の全身を巡っているので、被検体の頭部以外からも放射線が発生する。この検出器リング62の外部で生じた放射線が検出器リング62に入射してしまう。
【0010】
従来構成においては、検出器リング62を構成する各検出器対で数え落とし補正値を取得する方法がある。この方法において、検出器リング62に外部から放射線が入射すると、消滅放射線対の計数の数え落としが多いように見積もられてしまう。これによって、特に頭頂部における消滅放射線対の計数値は、強く補正され、補正過多となってしまう。
【0011】
また、従来構成において、検出器リング62全体で数え落とし補正値を取得する別の方法もある。この方法において、検出器リング62に外部から放射線が入射すると、消滅放射線対の計数の数え落としが少ないように見積もられてしまう。これによって、特に頭頂部における消滅放射線対の計数値は、弱く補正され、補正不足となってしまう。
【0012】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、検出器リングの外部に放射線が発生している場合であっても、正確に数え落とし補正を行うことができる放射線断層撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線断層撮影装置は、放射線検出器がリング状に配列されることによって構成される消滅放射線対を検出する検出器リングと、2つの放射線が検出器リングに同時に入射する現象である同時イベントを計数する同時計数手段と、検出器リングに入射する放射線の線量が増加するに伴い同時イベント計数の効率が低下することで生じる同時イベント計数値の減少を補正する数え落とし補正を行う補正手段と、数え落とし補正を行う際の補正値を取得する補正値取得手段と、消滅放射線対のペアでない2つの放射線が検出器リングに同時に入射する現象である偶発同時イベントを計数する偶発同時計数手段とを備え、補正値取得手段は、検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に、補正手段が用いる補正値を検出器リングの各部分について取得することを特徴とするものである。
【0014】
[作用・効果]本発明の構成によれば、同時イベント計数値に対して数え落とし補正を行うようになっている。この数え落とし補正の強度は偶発同時イベントを計数することにより決定される。検出器リングの外部から発し、検出器リングに入射する放射線は、偶発同時イベント計数値を変動させてしまい、補正の強度を不正確なものとしてしまう。本発明によれば、検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に、補正手段が用いる補正値を検出器リングの各部分について取得する構成となっている。2つの計測方法で得られた偶発同時イベント計数値は、一方が実際の値よりも大きく、もう一方が実際の値よりも小さい。したがって、この2つの計数値を組み合わせて補正の強度(補正値)を決定すれば、値の過不足が相殺されて正確な数え落とし補正ができるようになる。
【0015】
また、上述の放射線断層撮影装置において、補正値取得手段は、検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを重み付けをして足し合わせた計数値を基に補正値を取得すればより望ましい。
【0016】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。すなわち、2つの方法で取得された偶発同時イベント計数値は、重み付けをして足し合わせられて補正値の取得が行われる。この様にすれば、より確実に正確な数え落とし補正ができるようになる。
【0017】
また、上述の放射線断層撮影装置において、偶発同時計数手段は、検出器リングに放射線が入射したタイミングを示すデータと、このデータを一定時間だけずらした編集データとを比較し、両データの間で同時イベント計数をすることにより偶発同時計数を計数すればより望ましい。
【0018】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。偶発同時イベントの計数は、同時イベント計数の数え落としの頻度を知る上で有効な指標である。時間がずらされたデータ同士を比較し同時イベント計数を行うと、消滅放射線対による同時イベントは計数されないので、無関係の放射線が偶然に同時に検出器リングに入射する事象の発生の頻度を正確に知ることができる。
【0019】
また、上述の放射線断層撮影装置において、偶発同時イベント計数値と、補正値とが関連したテーブルを記憶する記憶手段を備え、補正値取得手段は、検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に参照値を求め、参照値に対応する補正値をテーブルより取得することで補正値を取得すればより望ましい。
【0020】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。偶発同時イベント計数値と数え落とし補正値とはある一定の関係がある。しかし、この関係から偶発同時イベント計数値をそのまま用いて補正値を求めると、正しい補正値が取得できない。偶発同時イベント計数値と補正値との関係は検出器リングの外部から放射線が発生していることを考慮していないからである。上述の構成によれば、2つの計測方法で得られた偶発同時イベント計数値から参照値を求め、参照値に対応する補正値を偶発同時イベント計数値と補正値とが関連したテーブルから求めるようにしているので、より正しい数え落とし補正が可能である。
【0021】
また、上述の放射線断層撮影装置において、記憶手段が記憶するテーブルは、検出器リングの内部に放射性のファントムを挿入して得られたものであればより望ましい。
【0022】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。ファントムを挿入した状態で偶発同時イベント計数値と補正値との関連性を知るようにすれば、より正確な数え落とし補正が可能となる。
【0023】
また、上述の放射線断層撮影装置において、検出器リングの中心軸方向の端部を覆う位置に放射線を吸収するリング状の吸収体を備えればより望ましい。
【0024】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。検出器リングに吸収体を備えるようにすれば、外部から発生した放射線を検出器リングに極力入射させないようにすることができる。
【0025】
また、上述の放射線断層撮影装置において、補正値取得手段は、検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値が検出器リング全体における偶発同時イベント計数よりも小さいときには補正を行わなければより望ましい。
【0026】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。上述のように構成すれば、複雑な補正動作を簡略化することができる。
【0027】
また、頭部用PET装置において、検出器リングにとって被検体の体幹部は、外部となる。本発明を頭部用PET装置に応用すれば、このような検出器リングの外部から放射線が発生しやすい状況下にあっても正確に数え落とし補正をすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の構成によれば、同時イベント計数値に対して数え落とし補正を行うようになっている。この数え落とし補正の強度は偶発同時イベントを計数することにより決定されるが、検出器リングの外部から発した放射線が補正の強度を不正確なものとしてしまう。本発明によれば、検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に、補正手段が用いる補正値を検出器リングの各部分について取得する構成となっている。この2つの計数値を組み合わせて補正の強度(補正値)を決定すれば、値の過不足が相殺されて正確な数え落とし補正ができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。
【図3】実施例1に係る検出器リングの構成を説明する平面図である。
【図4】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図5】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図6】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図7】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図8】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図9】従来構成の放射線断層撮影装置の構成を説明する断面図である。
【実施例1】
【0030】
<放射線断層撮影装置の構成>
以下、本発明に係る放射線断層撮影装置の実施例を図面を参照しながら説明する。実施例1におけるγ線は、本発明の放射線の一例である。図1は、実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。実施例1に係る放射線断層撮影装置9は、被検体Mを載置する天板10と、天板10をその長手方向(z方向)から導入させる開口を有するガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた天板10をz方向に導入させるリング状の検出器リング12とを備えている。検出器リング12に設けられた開口は、z方向(天板10の長手方向、被検体Mの体軸方向)に伸びた円筒形となっている。したがって、検出器リング12自身もz方向に延伸している。ガントリ11は、被検体Mの頭部が収納できる程度の大きさの開口が設けられている。この開口に被検体Mの頭部が挿入されることになる。従って、放射線撮影装置9は、頭部検査用となっている。
【0031】
天板10は、ガントリ11(検出器リング12)の開口をz方向から貫通するように設けられているとともに、z方向に沿って進退自在となっている。この様な天板10の摺動は、天板移動機構15によって実現される。天板移動機構15は、天板移動制御部16によって制御される。天板移動制御部16は、天板移動機構15を制御する天板移動制御手段である。天板10は、その全域が検出器リング12の外側に位置している位置から摺動して、検出器リング12の開口にその一方側から導入される。
【0032】
ガントリ11の内部には、被検体Mから放射される消滅γ線対を検出する検出器リング12が備えられている。この検出器リング12は、被検体Mの体軸方向に伸びた筒状であり、そのz方向の長さは、15cmから26cm程度である。リング状の吸収体13a,13bは、検出器リング12の中心軸方向(z方向)の両端を覆うように設けられている。吸収体13a,13bは、γ線を透過しにくい部材で生成されており、検出器リング12の外部から内部にγ線が入射するのを防いでいる。吸収体13a,13bは、被検体Mの断層画像の撮影に邪魔となる検出器リング12の外部で生じたγ線を除去する目的で設けられている。この吸収体13a,13bの内径は、検出器リング12の内径よりも小さくなっている。
【0033】
クロック19は、検出器リング12にシリアルナンバーとなっている時刻情報を送出する。検出器リング12から出力される検出データは、γ線をどの時点で検出されたかという時刻情報が付与され、後述の同時計数部20,偶発同時計数部21に入力されることになる。同時計数部20は、本発明の同時計数手段に相当し、偶発同時計数部21は、本発明の偶発同時計数手段に相当する。
【0034】
同時計数部20には、検出器リング12から出力された検出データが送られてきている。検出器リング12に同時に入射した2つのγ線は、被検体内の放射性薬剤に起因する消滅γ線対である。同時計数部20は、検出器リング12を構成するシンチレータ結晶のうちの2つの組み合わせ毎に消滅γ線対が検出された回数をカウントし、この結果を補正部23に送出する。この消滅γ線対の回数をカウントする動作を同時イベント計数と呼び、計数によって得られた値を同時イベント計数値と呼ぶことにする。なお、同時計数部20による検出データの同時性の判断は、クロック19によって検出データに付与された時刻情報が用いられる。
【0035】
同時計数は、上記のクロック19による時刻情報を用いず、放射線を検出した時点に発生させるパルス信号を用いてAND回路で判定するような、アナログ式の計数であっても構わない。
【0036】
同時計数部20が同時イベント計数をするときに、消滅γ線対の数え落としを発生させてしまう。すなわち、検出器リング12に入射するγ線が多くなるに従って、消滅γ線対の入射と同時に、これとは無関係のγ線が検出器リング12に入射する事象が増加する。この様な事象が発生すると、γ線の検出データが経時的に重なってしまい、消滅γ線対の検出をすることができなくなる。そしてこの事象は、検出器リング12に入射するγ線が増加するに従ってより頻繁に発生する。数え落としとは、検出器リング12に入射するγ線の線量が増加するに伴い上述の事象により同時イベント計数の効率が低下することで生じる同時イベント計数値の減少をいう。
【0037】
偶発同時計数部21は、同時イベント計数の数え落としの影響を補正する目的で設けられている。偶発同時計数部21は、消滅γ線対のペアでない2つのγ線が同時に検出器リング12に入射する現象である偶発同時イベントを計数する。計数によって得られた値を偶発同時イベント計数値と呼ぶことにする。偶発同時イベント計数値は、同時イベント計数の数え落としがどの程度頻繁に起こるかを示す指標となっている。この偶発同時イベント計数値は、偶発同時計数部21が取得する。すなわち、偶発同時計数部21は、検出器リング12にγ線が入射したタイミングを示すデータと、このデータを一定時間(30nsec〜100nsec)だけずらした編集データとを比較し、両データの間で同時イベント計数をすることにより偶発同時計数を計数する。具体的に偶発同時計数部21が同時イベントの計数をするのは、一方が時間をずらす前のデータに属するγ線であり、もう一方が時間をずらした後の編集データに属するγ線となっているペアのみである。従って、偶発同時計数部21は、2つともが時間をずらす前のデータに属するγ線のペアについては計数しないし、同様に2つともが時間をずらした後の編集データに属するγ線のペアについても計数しない。偶発同時計数部21が計数するγ線のペアは30nsec〜100nsecだけ時間を空けて検出器リング12に検出されたものであり、消滅γ線対ではないことになる。
【0038】
仮に、偶発同時計数を取得しようとして時間をずらす動作なしに同時イベント計数をすると、計数される同時イベント計数には消滅γ線対に由来するものが混在し、これらを区別することができない。そこで偶発同時計数部21は、時間をずらして同時イベント計数をすることにより、消滅γ線対の入射の影響を除去して確実に偶発同時イベント計数をするのである。
【0039】
補正値取得部22は、偶発同時計数部21が出力する偶発同時イベント計数値を基に、数え落とし補正に用いる補正値Hを取得し、補正部23は、この補正値を用いて同時イベント計数値の数え落とし補正を行う。各部の具体的な構成は、後述のものとする。補正部23は、本発明の補正手段に相当する。
【0040】
画像生成部24では、補正部23の出力を基に消滅γ線対の発生位置がマッピングされた断層画像Dを取得する。補正部23は、同時計数部20の出力した消滅γ線対検出の回数を補正して画像生成部24に出力している。画像生成部24は、これらの情報から被検体Mの内部における消滅γ線対の発生強度をマッピングして断層画像Dを生成するのである。
【0041】
検出器リング12を構成する放射線検出器1の構成について簡単に説明する。図2は、実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。放射線検出器1は、図2に示すようにγ線を蛍光に変換するシンチレータ2と、蛍光を検出する光検出器3とを備えている。そして、シンチレータ2と光検出器3との介在する位置には、蛍光を授受するライトガイド4が備えられている。
【0042】
シンチレータ2は、シンチレータ結晶が二次元的に配列されて構成されている。シンチレータ結晶は、Ceが拡散したLu2(1−X)2XSiO(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。そして、光検出器3は、どのシンチレータ結晶が蛍光を発したかという蛍光発生位置を特定することができるようになっているとともに、蛍光の強度や、蛍光の発生した時刻をも特定することができる。また、実施例1の構成のシンチレータ2は、採用しうる態様の例示にすぎない。したがって、本発明の構成は、これに限られるものではない。
【0043】
検出器リング12の構成について説明する。実施例1によれば、図3に示すように8個前後の放射線検出器1がz方向に垂直な平面上の仮想円に配列することで1つの単位リング12bが形成される。この単位リング12bが中心軸方向(z方向)に配列されて検出器リング12が構成される。
【0044】
なお、放射線断層撮影装置9は、各部を統括的に制御する主制御部41と、放射線断層画像を表示する表示部36とを備えている。この主制御部41は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより、各部16,19,20,21,22,23,24を実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。記憶部37は、後述のテーブルTを記憶する。記憶部37は、本発明の記憶手段に相当する。
【0045】
<放射線断層撮影装置の動作>
次に、実施例1に係る放射線断層撮影装置9の動作について説明する。放射線断層撮影装置9を用いて被検体Mの頭部の検診を行うには、図4に示すように、被検体Mが天板10に載置され(載置ステップS1),被検体Mの頭部から放射される消滅γ線対の検出が開始され、同時イベント計数が開始される(同時イベント計数開始ステップS2)。そして、検出器リング12が出力した検出データより偶発同時イベント計数が開始され(偶発同時イベント計数開始ステップS3),得られた偶発同時イベント計数値を用いて補正値Hが取得される(補正値取得ステップS4)。続いて、取得された補正値Hを基に同時イベント計数値が補正され(数え落とし補正ステップS5),補正後の同時イベント計数値を用いて被検体Mの頭部の断層画像が生成される(断層画像生成ステップS6)。以降、これらの各ステップについて順を追って説明する。
【0046】
<載置ステップS1>
まず、被検体Mに放射性薬剤が注射される。この時点から所定の時間が経過した時点で、被検体Mは天板10に載置された後、被検体Mの頭部が検出器リング12に挿入される。図1は、この動作が終了した状態を示している。
【0047】
<同時イベント計数開始ステップS2>
術者が操作卓35を通じて、消滅γ線対の検出の指示を与えると、検出器リング12は、同時計数部20に検出データの送出を開始する。このとき送出された検出データは、γ線の検出器リング12における入射位置と、エネルギーと入射時間とが関連したデータセットとなっている。同時計数部20は、検出データの同時イベント計数を行う。
【0048】
<偶発同時イベント計数開始ステップS3>
検出器リング12が出力する検出データは、偶発同時計数部21にも送られる。偶発同時計数部21は、検査中に検出器リング12で発生している偶発同時イベントの頻度をリアルタイムで知ることができる。
【0049】
<放射線検出器において個別に求められる偶発同時イベント計数値について>
偶発同時計数部21は、二つの様式で偶発同時イベント計数値を出力する。そのうちの一つは、検出器リング12を構成する2つの放射線検出器1の間の偶発同時イベント計数値を求める方法である。この方式によれば、個別に求められた偶発同時イベント計数値を用いて、数え落とし補正の補正値を求めることになる。すなわち、同時計数部20が出力する同時イベント計数は、同時イベントを計数した放射線検出器1の組み合わせに応じて異なる補正値が作用されて数え落とし補正がされることになる。個別に求められる偶発同時イベント計数値は、複数で、これらを計数値A1,A2……Anで表すことにする。
【0050】
計数値A1,A2……Anを用いると、正確な数え落とし補正をすることができない。この理由について説明する。図5は、同時イベント計数を行っている最中の検出器リング12の状態を表している。この状態においては被検体Mの頭部から発した消滅γ線対が検出器リング12によって検出されている。ところで、消滅γ線対を発する放射性薬剤は、被検体Mの全身を巡っているので検出器リング12の外部に位置する被検体Mの体幹部からも消滅γ線対が発し、これが検出器リング12に入射しようとする。
【0051】
検出器リング12における被検体Mの頭頂部側の部分をr1とし、体幹部側の部分をrnとする。部分rnは、体幹部側の吸収体13aに隣接しているので、体幹部発生のγ線の多くは部分rnに進入するまでに吸収体13aによって吸収される。しかし、部分r1は、吸収体13aから離間しているので、体幹部発生のγ線が吸収体13aに十分に遮られない。したがって、部分r1は、部分rnに比べて頭部検査に邪魔な体幹部発生のγ線が入射しやすくなっている。
【0052】
この様な事情があるので、体幹部発生のγ線が入射しやすい部分r1における数え落とし補正が正確なものとならない。部分r1における計数値A1は、体幹部発生のγ線が偶発同時イベントとして計数されている場合も含んで実測されている。従って、体幹部発生のγ線が入射しない場合と比べて偶発イベント計数値が増加している。従って、このような計数値A1は、不正確となっており、これが同時イベント計数値の数え落とし補正に影響する。
【0053】
偶発同時イベント計数値は、同時イベント計数で発生している数え落としの頻度を知る指標となっている。すなわち、偶発同時イベント計数値が大きいほど、数え落としが多くなる関係があり、図6に示すように、偶発同時イベント計数値が大きいほど、同時イベント計数値に強い補正がかけられるように補正値が決定される。部分r1において、体幹部発生のγ線が入射しないときの偶発同時イベント計数値はa1であるとする。従って、部分r1について適正な補正値はa1に対応するc1である。しかし、実際に取得される偶発同時イベント計数値は、体幹部発生のγ線の影響を受けてa1よりも大きなA1となっている。すると、適正な補正値c1よりも大きな補正値であるC1が部分r1についての同時イベント計数値に作用されることになる。数え落しは装置の一部の計数で決定されるわけではなく装置全体としてのイベント計数の影響も受けるため、一部の計数が増えただけの場合の正しい補正値はc1とC1の間に存在することになり、C1を補正値とすると、数え落とし補正が過補正となる。
【0054】
<検出器リング全体で一括に求められる偶発同時イベント計数値について>
偶発同時イベント計数のもう一つの方式は、検出器リング12全体で単一の偶発同時イベント計数値を求めるというものである。この方式よれば、一括に求められた偶発同時イベント計数値を用いて、数え落とし補正の補正値を求めることになる。すなわち、補正値は同時計数対毎に求められるが、補正値を求めるための偶発同時イベント計数は同時計数対によらず同じ偶発同時イベント計数値を用いる。一括に求められる偶発同時イベント計数値を計数値Bで表すことにする。
【0055】
一括に求められた計数値Bを用いても正確な数え落とし補正を行うことができない。この理由について説明する。図7に示すように計数値Bは、数え落とし補正の頻度が検出器リング12全体で、ある一定の値Aveであるものとしたときの偶発同時イベント計数値である。部分r1には、体幹部発生の余計なγ線が入射するので、図7の棒グラフが示すように、それだけ数え落としの頻度は値Aveよりも高いものとなっている。つまり、数え落とし補正が頻発している部分r1について、値Ave程度に数え落とし補正が起こっているものとして同時イベント計数値の補正がなされることになる。すると、部分r1における同時イベント計数値について数え落とし補正が補正不足となる。
【0056】
実施例1の構成によれば、上述の二つの方式で得られた計数値A1,A2……Anおよび計数値Bを用いて参照値R1,R2……Rnを求め、この参照値R1,R2……Rnから補正値を求めるようにしている。これにより二つの方式で問題となっていた過補正と補正不足とが相殺されて、より正確な補正値を取得することができるようになる。
【0057】
一方、図7における部分rnにおいては、数え落としの頻度が値Aveよりも小さいものとなっている。このような場合、後述の補正部23は、数え落とし補正を行わない。すなわち、補正部23は、検出器リング12の各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値A1,A2……Anが検出器リング12全体における偶発同時イベント計数値Bよりも小さいときには補正を行わない。
【0058】
<補正値取得ステップS4>
偶発同時計数部21から出力された計数値A1,A2……Anおよび計数値Bは、補正値取得部22に送出される。補正値取得部22は、計数値A1,A2……Anと計数値Bとをある一定の重み付けをして足し合わせ、参照値R1,R2……Rnを取得する。参照値は、計数値の各々について個別に求められる。このうちの例えば参照値R1を、偶発同時イベント計数値であるものとして、補正値H1を求めると、図8に示すように、補正値H1は計数値A1,および計数値B単独で求めた2つの補正値の間の値となる。この様にして補正値取得部22は、計数値A1,A2……Anおよび計数値Bを基に補正値H1,H2……Hnを取得する。補正値は、参照値の各々について個別に求められる。こうして、補正値は検出器リング12の各部分について取得されることになる。なお、図6,図8に示す偶発同時イベント計数値と補正値との関係は、被検体Mの代わりに放射性のファントムを検出器リング12の内部に挿入して予め取得されたものであり、両値が関連したテーブルTとして記憶部37に記憶されている。このように、補正値取得部22は、参照値Rに対応する補正値HをテーブルTより取得する。
【0059】
補正値取得部22が行う計数値の重み付けの具体的方法は、特に限定されないが、計数値Bの方をより重く重み付けした方が、正確な参照値Rを取得できる。また、重み付けの具体的方法は、計数値A1,A2……Anと計数値Bとの中間の値を求める方法であれば本実施例の効果を実現できる。
【0060】
<数え落とし補正ステップS5>
補正値取得部22は、補正値H1,H2……Hnを補正部23に送出する。補正部23は、同時計数部20より同時イベント計数値を取得し、これに対して補正値H1,H2……Hnを作用させる。補正値H1,H2……Hnは、検出器リング12の位置に応じて個別の値となっている。従って、消滅γ線対を検出した2つの放射線検出器1の組み合わせに応じて異なる補正値H1,H2……Hnが同時イベント計数値に作用されることになる。これにより、同時イベント計数値の数え落とし補正が完了する。補正値取得部22は、検査中リアルタイムに参照値Rおよび補正値Hの取得を繰り返すので、補正部23が行う数え落とし補正の強度は、経時的に変化していくことになる。また、上述のように補正部23は、検出器リング12の各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値A1,A2……Anが検出器リング12全体における偶発同時イベント計数値Bよりも小さいときには補正を行わない。
【0061】
<断層画像生成ステップS6>
補正された同時イベント計数値は、検出器リング12における検出場所を示す位置情報とともに画像生成部24に送出される。画像生成部24は、同時イベント計数値が示す位置情報を基に放射性薬剤の分布を示す断層画像Dを生成する。断層画像Dが表示部36に表示されて検査は終了となる。
【0062】
以上のように、実施例1の構成によれば、同時イベント計数値に対して数え落とし補正を行うようになっている。この数え落とし補正の強度は偶発同時イベントを計数することにより決定される。検出器リング12の外部から発し、検出器リング12に入射するγ線は、偶発同時イベント計数値を変動させてしまい、補正の強度を不正確なものとしてしまう。実施例1によれば、検出器リング12の各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に、補正部23が用いる補正値を検出器リング12の各部分について取得する構成となっている。2つの計測方法で得られた偶発同時イベント計数値は、一方が実際の値よりも大きく、もう一方が実際の値よりも小さい。したがって、この2つの計数値を組み合わせて補正の強度(補正値)を決定すれば、値の過不足が相殺されて正確な数え落とし補正ができるようになる。
【0063】
また、上述の構成における2つの方法で取得された偶発同時イベント計数値は、重み付けをして足し合わせられて補正値の取得が行われる。この様にすれば、より確実に正確な数え落とし補正ができるようになる。
【0064】
そして、上述の構成における偶発同時イベントの計数は、同時イベント計数の数え落としの頻度を知る上で有効な指標である。時間がずらされたデータ同士を比較し同時イベント計数を行うと、消滅γ線対による同時イベントは計数されないので、無関係のγ線が偶然に同時に検出器リング12に入射する事象の発生の頻度を正確に知ることができる。
【0065】
また、上述の構成における偶発同時イベント計数値と数え落とし補正値とはある一定の関係がある。しかし、この関係から偶発同時イベント計数値をそのまま用いて補正値を求めると、正しい補正値が取得できない。偶発同時イベント計数値と補正値との関係は検出器リング12の外部からγ線が発生していることを考慮していないからである。上述の構成によれば、2つの計測方法で得られた偶発同時イベント計数値から参照値Rを求め、参照値Rに対応する補正値を偶発同時イベント計数値と補正値とが関連したテーブルTから求めるようにしているので、より正しい数え落とし補正が可能である。
【0066】
ファントムを挿入した状態で偶発同時イベント計数値と補正値との関連性を知るようにすれば、より正確な数え落とし補正が可能となる。
【0067】
また、頭部用PET装置において、検出器リング12にとって被検体Mの体幹部は、外部となる。実施例1を頭部用PET装置に応用すれば、このような検出器リング12の外部からγ線が発生しやすい状況下にあっても正確に数え落とし補正をすることができる。
【0068】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0069】
(1)本発明は、頭部検診用に限定されずに、被検体Mの全身を診断する検査の全般に応用することができる。
【0070】
(2)上述した実施例のいうシンチレータ結晶は、LYSOで構成されていたが、本発明においては、その代わりに、LGSO(Lu2(1−X)2XSiO)やGSO(GdSiO)などの他の材料でシンチレータ結晶を構成してもよい。本変形例によれば、より安価な放射線検出器が提供できる放射線検出器の製造方法が提供できる。
【0071】
(3)上述した実施例において、光検出器は、光電子増倍管で構成されていたが、本発明はこれに限らない。光電子増倍管に代わって、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオードや半導体検出器などを用いてもよい。
【0072】
(4)上述した実施例において、計数値A1,A2……Anは、放射線線検出器1毎に求めていたが、本発明はこれに限られない。検出器リング12を任意の間隔に分割して、分割区毎に個別に計数値を求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
12 検出器リング
13a,13b 吸収体
20 同時計数部(同時計数手段)
21 偶発同時計数部(偶発同時計数手段)
22 補正値取得部(補正値取得手段)
23 補正部(補正手段)
37 記憶部(記憶手段)
R 参照値
T テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器がリング状に配列されることによって構成される消滅放射線対を検出する検出器リングと、
2つの放射線が前記検出器リングに同時に入射する現象である同時イベントを計数する同時計数手段と、
前記検出器リングに入射する放射線の線量が増加するに伴い同時イベント計数の効率が低下することで生じる同時イベント計数値の減少を補正する数え落とし補正を行う補正手段と、
数え落とし補正を行う際の補正値を取得する補正値取得手段と、
消滅放射線対のペアでない2つの放射線が前記検出器リングに同時に入射する現象である偶発同時イベントを計数する偶発同時計数手段とを備え、
前記補正値取得手段は、前記検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に、前記補正手段が用いる補正値を前記検出器リングの各部分について取得することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線断層撮影装置において、
前記補正値取得手段は、前記検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを重み付けをして足し合わせた計数値を基に補正値を取得することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線断層撮影装置において、
前記偶発同時計数手段は、前記検出器リングに放射線が入射したタイミングを示すデータと、このデータを一定時間だけずらした編集データとを比較し、両データの間で同時イベント計数をすることにより偶発同時計数を計数することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項4】
請求項3に記載の放射線断層撮影装置において、
偶発同時イベント計数値と、補正値とが関連したテーブルを記憶する記憶手段を備え、
前記補正値取得手段は、前記検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値と、前記検出器リング全体で取得された偶発同時イベント計数値とを基に参照値を求め、前記参照値に対応する補正値を前記テーブルより取得することで補正値を取得することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線断層撮影装置において、
前記記憶手段が記憶する前記テーブルは、前記検出器リングの内部に放射性のファントムを挿入して得られたものであることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
前記検出器リングの中心軸方向の端部を覆う位置に放射線を吸収するリング状の吸収体を備えることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
頭部検査用であることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
前記補正値取得手段は、前記検出器リングの各部分について個別に取得された偶発同時イベント計数値が検出器リング全体における偶発同時イベント計数よりも小さいときには補正を行わないことを特徴とする放射線断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−42344(P2012−42344A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183924(P2010−183924)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】