放射線断層撮影装置
【課題】断層画像に含まれる散乱線成分を正確に取り除くことにより鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供する。
【解決手段】本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる非散乱線成分を推定している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。この特性を利用して本発明では、γ線のエネルギーの分布スペクトルSaを撮影ごとに生成して、これを用いて図中で示す非散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正する。このようにすることで、撮影ごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像が生成できるので鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供できる。
【解決手段】本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる非散乱線成分を推定している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。この特性を利用して本発明では、γ線のエネルギーの分布スペクトルSaを撮影ごとに生成して、これを用いて図中で示す非散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正する。このようにすることで、撮影ごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像が生成できるので鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体から照射されたγ線をイメージングする放射線断層撮影装置に関し、特にγ線のエネルギーを識別できる放射線断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線断層撮影装置の具体的な構成について説明する。従来の放射線断層撮影装置50は、図15に示すように被検体Mを載置する天板52と、同時入射のγ線を検出する検出器リング62とを備えている。検出器リング62の開口は天板52ごと被検体Mを挿入できるようになっている(例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3,特許文献4参照)。
【0003】
従来の放射線断層撮影装置50を用いて、被検体Mの頭部における放射性薬剤の分布を知ろうとする場合は、被検体Mの頭部が検出器リング62の開口の内部に存する位置に移動される。そして、被検体Mの頭部から放出された対消滅γ線のペアの発生位置をイメージングして放射線断層画像が取得される。この様な放射線断層撮影装置をPET(positron emission tomography)装置と呼ぶ。
【0004】
この様なPET装置により放射線断層画像を取得する際に、被検体から放射される散乱線が鮮明な画像取得の妨げとなる。散乱線とは、被検体から発したγ線が検出器リング62に向かう間に被検体内や天板等で散乱されたγ線である。
【0005】
また、従来のPET装置おいては、この散乱線の発生の様子を予め予想することで断層画像に含まれる散乱線成分を除去するようにしている。この方法では被検体の撮影に先立ち検出器リング62に対消滅γ線のペアを照射する円柱形のファントムが挿入される。そして、ファントムの断層画像が取得される。
【0006】
このとき得られたファントムの断層画像は、ファントムの断層像以外の偽像を含んでいる。実測の断層画像には、散乱成分が含まれているからである。従来の構成によれば、ファントムの断層画像を基にこれに含まれる散乱線成分を抽出する。ファントムの形状は予め分かっているので、散乱線成分の算出は比較的容易である。
【0007】
そして、検出器リング62に被検体Mを導入し、被検体の断層画像を取得する。この断層画像には、散乱線成分が含まれており、これに起因して画質の悪化している。そこで、従来構成によれば、被検体の断層画像からファントムにより得られた散乱線成分を減算することで鮮明な断層画像を取得するようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−212242
【特許文献2】特開平7−301674
【特許文献3】特開2008−196899
【特許文献4】特開平9−145842
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】http://www.nirs.go.jp/usr/medical−imaging/ja/study/jPET_D4_2006/p47_51.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の放射線断層撮影装置には次のような問題点がある。すなわち、従来の放射線断層撮影装置によれば、被検体の断層画像から散乱線成分を十分に除去することができない。
【0011】
従来の放射線断層撮影装置は、ファントムを用いて被検体の断層画像に現れる散乱線成分を予測する構成となっている。つまり、従来方法ではファントムから発する散乱線が被検体から発する散乱線と同じ確率で放射されることが前提となっている。しかし、実際の被検体から発生する散乱線の発生の確率は、ファントムから発生する散乱線の発生の確率と異なる。ファントムと被検体とでは、形状・構成物質・対消滅γ線のペアを生じる放射性薬剤の分布が異なるからである。
【0012】
したがって、従来の放射線断層撮影装置は、被検体の断層画像に対して被検体の散乱線成分の影響を正確に取り除くことができない。したがって、従来装置で取得される断層画像には、画像に含まれる散乱線成分が減算されず残っていたり、逆に画像に存在しない散乱線成分が減算され過ぎたりしてしまう。
【0013】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、断層画像に含まれる散乱線成分を正確に取り除くことにより鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線断層撮影装置は、γ線のエネルギーデータを出力する放射線検出器がリング状に配列されることによって構成されるγ線を検出する検出器リングと、被検体から発した2つのγ線が検出器リングに同時に入射する現象である同時イベントを計数する同時計数手段と、同時計数手段に計数されたγ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、生成されたスペクトルから同時イベント数に含まれる非散乱線成分を推定する非散乱線成分推定手段と、推定された非散乱線成分を基に同時イベント数を補正して検出器リングに入射した散乱線の影響を除去する補正手段と、補正された同時イベント数を基に被検体の断層画像を生成する画像生成手段とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる散乱線成分を推定している。この様にするとファントムを用いて散乱線成分を推定する従来方法と比べて被検体の検出データに含まれる散乱線成分の推定がより正確となる。γ線の散乱線の発生の確率は、γ線を発生させる物体の形や大きさ、構成物質やγ線の発生の違いなどにより変化する。したがって、被検体の撮影を行うときの散乱線を推定するには被検体の撮影するときに得られたデータを用いた方がよいのである。
【0016】
本発明においては、実際の被検体撮影のデータから被検体の散乱線の推定を行う手法としてγ線のエネルギー分布に注目している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。したがって、γ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを撮影ごとに生成して、これを用いて散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正するようにすれば、撮影するごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像が生成できる。これにより、鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供できる。
【0017】
また、上述の放射線断層撮影装置において、非散乱線成分推定手段が推定した非散乱線成分を基に、散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する2つのγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定する割合推定手段と、補正手段は、γ線のエネルギーデータを参照することにより、ある同時イベントにおける2つのγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合を取得して、この同時イベントについての計数に組み合わせに取得した割合を乗じるように動作すればより望ましい。
【0018】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。スペクトルを基に散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定しておいて、同時イベント数をその同時イベントにおける同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合で補正するようにすれば、確実に散乱線成分が消去された断層画像が取得できる。また、散乱線成分の補正に減算処理を用いないので、データのバラツキが増幅することで断層画像の画質が低下することが抑制される。
【0019】
また、上述の放射線断層撮影装置において、割合とエネルギーの組み合わせとを関連させたテーブルを記憶する記憶手段を備えればより望ましい。
【0020】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。テーブルを記憶する記憶手段を備えるようにすれば、より確実に散乱線成分が消去された断層画像が取得できる。
【0021】
また、上述の放射線断層撮影装置において、被検体と検出器リングとの相対位置を変更させる駆動手段と、駆動手段を制御する駆動制御手段とを備え、スペクトル生成手段は、被検体・検出器リングの相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、断層撮影が行われる毎にスペクトルを生成し、非散乱線成分推定手段、補正手段、および画像生成手段は、新たに生成されたスペクトルに基づいて動作すればより望ましい。
【0022】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。断層撮影の撮影様式として、あるポジション(例えば頭部)で被検体を撮影した後、別のポジション(例えば胸部)で被検体を撮影するものがある。このときに1回目の撮影における散乱線発生の確率と、2回目の撮影における散乱線発生の確率とが一致するとは限らない。上述の構成にように、被検体と検出器リングとの相対位置が変更される度に新たに散乱線成分の推定を行うようにすれば、撮影の度に散乱線発生の確率が異なっても正確に散乱線成分を除去して視認性に優れた断層画像が取得できる。
【0023】
また、上述の放射線断層撮影装置において、駆動手段は、天板を検出器リングに対して移動させる天板移動手段であればより望ましい。また、駆動手段として、天板は移動せず、検出器リングを搭載した放射線断層撮影装置を移動させる手段でも構わない。
【0024】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。上述の構成によれば、より確実に被検体と検出器リングの位置関係を変更することができる。
【0025】
また、上述の放射線断層撮影装置において、全身撮影用となっていればより望ましい。
【0026】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。上述の構成によれば、撮影対象によらず正確に散乱線成分を除去して断層画像を取得することができるので、撮影の対象が定まらない全身撮影用の放射線断層撮影装置に適している。
【発明の効果】
【0027】
本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる散乱線成分を推定している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。この特性を利用して本発明では、γ線のエネルギーの分布スペクトルを撮影ごとに生成して、これを用いて散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正する。このようにすることで、撮影ごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像が生成できるので鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。
【図3】実施例1に係る検出器リングの構成を説明する平面図である。
【図4】実施例1に係る非散乱線成分推定部の動作を説明する模式図である
【図5】実施例1に係る非散乱線成分推定部の動作を説明する模式図である。
【図6】実施例1に係る割合推定部の動作を説明する模式図である。
【図7】実施例1に係る割合推定部の動作を説明する模式図である。
【図8】実施例1に係る補正部の動作を説明する模式図である。
【図9】実施例1の効果を説明する模式図である。
【図10】実施例1の効果を説明する模式図である。
【図11】実施例1の効果を説明する模式図である。
【図12】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図13】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図14】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図15】従来の放射線断層撮影装置の構成を説明する模式図である。
【実施例1】
【0029】
<放射線断層撮影装置9の構成>
以下、本発明に係る放射線断層撮影装置9の実施例を図面を参照しながら説明する。図1は、実施例1に係る放射線断層撮影装置9の構成を説明する機能ブロック図である。実施例1に係る放射線断層撮影装置9は、全身撮影用となっており、被検体Mを載置する天板10と、天板10をその長手方向(z方向)から導入させる開口を有するガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた天板10をz方向に導入させるリング状の検出器リング12とを備えている。検出器リング12に設けられた開口は、z方向(天板10の長手方向、被検体Mの体軸方向)に伸びた円筒形となっている。したがって、検出器リング12自身もz方向に延伸している。ガントリ11は、被検体Mの頭部が収納できる程度の大きさの開口が設けられている。この開口に被検体Mが挿入されることになる。
【0030】
天板10は、ガントリ11(検出器リング12)の開口をz方向から貫通するように設けられているとともに、z方向に沿って進退自在となっている。この様な天板10の摺動は、天板移動機構15によって実現される。天板移動機構15は、天板移動制御部16によって制御される。天板移動制御部16は、天板移動機構15を制御する天板移動制御手段である。天板10は、その全域が検出器リング12の外側に位置している位置から摺動して、検出器リング12の開口にその一方側から導入される。天板移動機構15は、本発明の駆動手段に相当し、天板移動制御部16は、本発明の駆動制御手段に相当する。
【0031】
ガントリ11の内部には、被検体Mから放射される対消滅γ線のペアを検出する検出器リング12が備えられている。この検出器リング12は、被検体Mの体軸方向に伸びた筒状であり、そのz方向の長さは、15cmから26cm程度である。リング状の吸収体13a,13bは、検出器リング12の中心軸方向(z方向)の両端を覆うように設けられている。吸収体13a,13bは、γ線を透過しにくい部材で生成されており、検出器リング12の外部から内部にγ線が入射するのを防いでいる。吸収体13a,13bは、被検体Mの断層画像Dの撮影に邪魔となる検出器リング12の外部で生じたγ線を除去する目的で設けられている。この吸収体13a,13bの内径は、検出器リング12の内径よりも小さくなっている。
【0032】
検出器リング12を構成する放射線検出器1の構成について簡単に説明する。図2は、実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。放射線検出器1は、図2に示すようにγ線を蛍光に変換するシンチレータ2と、蛍光を検出する光検出器3とを備えている。そして、シンチレータ2と光検出器3との介在する位置には、蛍光を授受するライトガイド4が備えられている。
【0033】
シンチレータ2は、シンチレータ結晶が二次元的に配列されて構成されている。シンチレータ結晶Cは、Ceが拡散したLu2(1−X)Y2XSiO5(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。そして、光検出器3は、どのシンチレータ結晶が蛍光を発したかという蛍光発生位置を特定することができるようになっているとともに、蛍光の強度や、蛍光の発生した時刻をも特定することができる。放射線検出器1は、蛍光の強度により検出したγ線のエネルギーを求め、エネルギーデータを出力することができる。また、実施例1の構成のシンチレータ2は、採用しうる態様の例示にすぎない。したがって、本発明の構成は、これに限られるものではない。
【0034】
検出器リング12の構成について説明する。実施例1によれば、図3に示すように複数個の放射線検出器1がz方向に垂直な平面上の仮想円に配列することで1つの単位リング12bが形成される。この単位リング12bが中心軸方向(z方向)に配列されて検出器リング12が構成される。
【0035】
クロック19は、検出器リング12にシリアルナンバーとなっている時刻情報を送出する。検出器リング12から出力される検出データは、γ線をどの時点で検出されたかという時刻情報が付与され、後述の同時計数部20に入力されることになる。
【0036】
同時計数部20には、検出器リング12から出力された検出データが送られてきている。検出器リング12に同時に入射した2つのγ線は、被検体内の放射性薬剤に起因する対消滅γ線のペアであると予想される。同時計数部20は、検出器リング12を構成するシンチレータ結晶Cのうちの2つの組み合わせ毎に同時入射のγ線が検出された回数をカウントし、この結果を補正部24に送出する。この同時入射のγ線の計数によって得られた値を同時イベント数と呼ぶことにする。なお、同時計数部20による検出データの同時性の判断は、クロック19によって検出データに付与された時刻情報が用いられる。
【0037】
同時計数部20は同時イベント数をした検出データをスペクトル生成部21に送出する。スペクトル生成部21は、同時計数部20により計数された同時入射のγ線がどの程度のエネルギーを有していたかを検出データに含まれるエネルギーデータを基に認識する。そして、スペクトル生成部21は、γ線検出の点数とγ線のエネルギーとが関連したスペクトルを取得する。つまり、スペクトル生成部21は同時イベントについてγ線のスペクトルを取得することになる。また、スペクトル生成部21は、ある2つの放射線検出器の間で検出されたγ線についてスペクトルを放射線検出器ごとに2つ生成する。この様に一対のスペクトルが2つの放射線検出器の組み合わせ毎に生成されることになる。スペクトル生成部21は、本発明のスペクトル生成手段に相当する。
【0038】
図4は、ある放射線検出器1a,1bの組み合わせについてスペクトルが生成される様子を示している。この放射線検出器1a,1bにおいてスペクトル生成部21がどのように動作するかを説明する。スペクトル生成部21は、放射線検出器1a,1bの間で検出された同時入射のγ線のうち放射線検出器1aに入射したγ線のエネルギーを放射線検出器1aから取得して、γ線のエネルギーと検出点数の関係を示したスペクトルSaを生成する。このとき取得されるスペクトルSaは、同時入射のγ線として同時計数部20により計数されたγ線のみから生成される。断層画像Dは同時入射のγ線のみから生成されることからすれば、スペクトルSaは、断層画像Dの生成に用いられるγ線のエネルギー分布を示していることになる。つまり、スペクトルSaは、一方を検出し損ねた同時入射のγ線やシングルフォトンタイプのγ線など断層画像Dに用いられることのないγ線のエネルギー分布は含まない。
【0039】
同様にスペクトル生成部21は、放射線検出器1a,1bの間で検出された同時入射のγ線のうち放射線検出器1bに入射したγ線のエネルギーを放射線検出器1bから取得して、γ線のエネルギーと検出点数の関係を示したスペクトルSbを生成する。スペクトルSbも、断層画像Dの生成に用いられるγ線のエネルギー分布を示している。
【0040】
スペクトルSa,Sbを比較すると、グラフ形が多少異なっている。これは、放射線検出器1a,1bの間でγ線検出の特性が多少異なることと、スペクトルにγ線検出の統計的なばらつきが現れていることによる。
【0041】
スペクトル生成部21が生成するスペクトルSa,Sbは、天板10に被検体Mを載置した状態で被検体Mから放射される対消滅γ線のペアを測定したときのものである。したがって、スペクトルSa,Sbは、被検体Mを実測したときのγ線のエネルギー分布を表している。
【0042】
スペクトル生成部21は、スペクトルSa,Sbを非散乱線成分推定部22に送出する。図5は、非散乱線成分推定部22がスペクトルSaに対して行う動作について説明している。非散乱線成分推定部22は、スペクトルSaのグラフ形に対して図5における太線で示した所定の分布関数をフィッティングすることにより、スペクトルSaに含まれる直接線成分を求める。直接線成分とは、検出器リング12が検出した同時入射のγ線のうち、被検体内等で散乱せずに検出器リング12に入射したものをいう。本発明の非散乱成分とはこの直接線成分のことである。非散乱線成分推定部22は、本発明の非散乱線成分推定手段に相当する。
【0043】
非散乱線成分推定部22が使用する所定の分布関数は、対消滅γ線のエネルギーが511keVであること、そしてそれは確率論からガウス分布となる事等から、理論的に求まる関数を用いていも良いし、予め対消滅γ線のエネルギーを実測して得られたγ線のエネルギー分布から関数を作成してもよい。ただし、この実測は、散乱線成分が発生しないようにして得られたものである必要がある。対消滅γ線のペアの物理的性質は常に一定なので、被検体Mの撮影時においても対消滅γ線のペアのエネルギー分布はこの分布関数で表すことができる。非散乱線成分推定部22は、スペクトルSaにおけるエネルギーの高い部分について分布関数のフィッティングを行う。このフィッティングはスペクトルSaにおける複数の点を参照して行われるので、フィッティングされた分布関数がスペクトルSaに含まれる直接線成分のエネルギー分布を示している信頼性は高い。
【0044】
同様に、非散乱線成分推定部22は、散乱線成分のエネルギー分布を示す分布関数をフィッティングすることによりスペクトルSaに含まれる散乱線成分を求めてもよいし、直接成分以外の全てを散乱線成分として求めても良い。ただし、散乱成分は多重散乱を含むので散乱成分を関数にしてフィッティングで精度良く求めるのは難しい。そこで、比較的理論的に関数で表現できるガウス分布、およびコンプトンエッジの2つを使って、400〜700keVの範囲のエネルギースペクトルをフィッティングして非散乱成分と散乱成分を同時に推定する。このフィッティングはスペクトルSaにおける複数の点を参照して行われるので、フィッティングされた分布関数がスペクトルSaに含まれる散乱線成分と非散乱線成分のエネルギー分布を示している信頼性は高い。
【0045】
図5の右側は、スペクトルSaに含まれる直接線成分と網掛けで示す散乱線成分が推定された状態を示している。また、非散乱線成分推定部22は、スペクトルSbについても同様に直接線成分と散乱線成分とを推定する。推定された直接線成分と散乱線成分は、割合推定部23に送出される。図5の右側を参照すれば分かるように、スペクトルSaに含まれる直接線成分と散乱線成分の割合は、エネルギー毎に異なる。非散乱線成分推定部22は、推定結果を割合推定部23に送出する。割合推定部23は、本発明の割合推定手段に相当する。
【0046】
割合推定部23は、推定された直接線成分と散乱線成分とを基に、散乱線成分と直接線成分(非散乱線成分)との割合をエネルギーごとに取得する。割合推定部23は、例えば、図5右側の破線で示すように、400keV,511keV,600keVの3点について直接線成分と散乱線成分との割合を求める。図6は、スペクトルSaについての割合を求めた結果を示している。これにより、例えば被検体Mから発したγ線が400keVとして検出されたとすると、このγ線が直接線であった確率は20%であることが分かる。
【0047】
同様に割合推定部23は、スペクトルSbについても割合を推定する。このとき推定された割合はスペクトルSaの結果と一致するものであったとする。こうして2つのスペクトルSa,Sbについて割合が推定される。スペクトルSa,Sbは、被検体Mを測定したときに得られたものであることからすると、割合推定部23が推定する割合は、被検体Mを測定したときにおける直接線と散乱線の割合であることになる。
【0048】
割合推定部23は、スペクトルSa,Sbの割合から図7に示すようなテーブルTを生成する。図7は、同時計数した2本のγ線が共に直接線である確率をエネルギーの組み合わせごとに求めたテーブルとなっている。具体的には、テーブルTは、放射線検出器1aの割合に放射線検出器1bの割合を乗じたものとなっている。例えば、対消滅γ線のペアのうち放射線検出器1aに入射したγ線のエネルギーが400keVで、放射線検出器1bに入射したγ線のエネルギーが600keVであったとすると、この2つのγ線のいずれもが直接線であった確率は18%である。
【0049】
割合推定部23は、図7に示す割合とエネルギーの組み合わせとを関連させたテーブルTを記憶部37に送出する。記憶部37は、テーブルTを記憶する。記憶部37は、本発明の記憶手段に相当する。
【0050】
<散乱線の影響の除去>
次に、断層画像Dを生成する際の散乱線の影響を除去する方法について説明する。散乱線成分の除去は、テーブルTを利用して行う。同時計数部20が出力した同時イベント数は、画像生成部25により画像化されて断層画像Dとなる。しかし、同時イベント数を補正せずに画像化すると、生成された断層画像Dには散乱線の影響が現れてしまう。そこで、本発明によれば、同時イベント数を補正したあと断層画像Dを生成するようにしている。この補正を行うのが補正部24である。補正部24は、本発明の補正手段に相当し、画像生成部25は、本発明の画像生成手段に相当する。
【0051】
補正部24の動作について説明する。補正部24には、同時計数部20より同時イベント数が送出されている。この同時イベント数は、天板10に被検体Mを載置して被検体Mから放射される同時入射のγ線を検出することによって得られたものである。また、この同時イベント数には、γ線を検出した放射線検出器1を特定するデータと、γ線のエネルギーを特定するデータとが関連づけられている。同時イベントは2つのγ線が検出器リング12に同時に入射する事象であるので、同時イベント数に関連づけられるデータは2つのγ線について独立に存在することになる。
【0052】
図8は、消滅点pから生じた対消滅γ線のペアが放射線検出器1a,1bに入射する様子を示している。このとき、放射線検出器1aには400keVのエネルギーを有するγ線が入射し、放射線検出器1bには600keVのエネルギーを有するγ線が入射したものとする。同時計数部20は、放射線検出器1a,1bについての同時イベント数を1としてカウントする。
【0053】
同時イベント数は、補正部24に送出される。補正部24は、同時イベント数に関連づけられたエネルギーデータを参照する。そして、補正部24は、同時イベント数に係る同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせと同じ組み合わせの割合をテーブルT(図7参照)上で探してその割合を読み出す。同時入射のγ線のエネルギーは、放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっているから、読み出される割合は、図7の網掛けで示す18%である。
【0054】
そして、補正部24は、この18%という数値を同時イベント数に乗じる。すると、同時イベント数は、1カウントから0.18カウントに補正されるのである。
【0055】
つまり、例えば、被検体Mから生じるγ線の検出を通じて、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線が20回測定されたとする。従来ならばこれを20カウントとして、断層画像Dの生成に用いる。しかし、本発明によれば図8に示すように20カウントを補正して3.6カウントとするのである。
【0056】
エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線のほとんどは散乱線が関係している。すなわち、放射線検出器1aで検出されたγ線は80%の確率で散乱線であり、放射線検出器1bで検出されたγ線は10%の確率で散乱線となっている。従って、この様なエネルギーとなっている同時入射のγ線がいずれも直接線である確率は僅か18%(20%×90%)である。従って、この様なエネルギーの同時入射のγ線が被検体Mの検出時に例え20カウント得られても、このうちの16.4カウントはγ線の少なくとも一方が散乱線となっており、断層画像Dの生成に用いることができない。補正部24が割合を同時イベント数に乗じることにより、20カウントのうちの散乱線が関係している16.4カウントが除かれる。すなわち、補正部24が20カウントに18%を乗じて算出する3.6カウントは、同時入射のγ線がいずれも直接線となっており、断層画像Dを生成するときに用いることができる正味の同時イベント数であることになる。
【0057】
この様に補正部24により同時イベント数は、補正により、散乱線が関係しているカウントだけ減らされて画像生成部25に送出される。画像生成部25は、この補正値に基づいて断層画像Dを生成することになる。
【0058】
なお、スペクトル生成部21,非散乱線成分推定部22,割合推定部23および補正部24は、上述の放射線検出器1a,1bの組み合わせ以外の放射線検出器の組み合わせについても同様の動作をする。また、補正部24は、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線以外についても同様に同時イベント数の補正を実行する。
【0059】
なお、放射線断層撮影装置9は、各部を統括的に制御する主制御部41と、放射線断層画像を表示する表示部36とを備えている。この主制御部41は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより、各部16,19,20,21,22,23,24,25を実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。
【0060】
<本発明の効果>
本発明の効果について説明する。従来より断層画像Dの散乱線成分を除去するPET装置は知られている。しかし、これらの装置は、ファントムを用いて被検体Mから発する散乱線成分を推定するという方法を採用していたので、被検体Mから発する散乱線成分を正確に推定できているとは言い難い。
【0061】
本発明によれば、同時計数部20が計数するγ線についてのデータと、割合推定部23が推定に用いるデータとは同一のデータとなっている。すなわち、同時計数部20は、被検体Mを検出することで得られたγ線の検出データについて、一方では同時イベント数の計数をする。更にもう一方で、同時計数部20は、同時入射のγ線として認識された検出データをスペクトル生成部21以下の各部に送出して、散乱線と直接線の割合の算出に利用させるようにしている。この様にすることで、被検体Mの測定結果から被検体Mの散乱線成分を推定したうえで断層画像Dに写り込む散乱線の影響を取り除くことができる。
【0062】
また、従来装置とは異なる演算方法を採用することにより、より鮮明な画像を取得できる。従来方法では、被検体Mを画像化した被検体画像から、ファントムを画像化することにより取得された散乱線成分を示す散乱線画像を減算することで散乱線成分の補正をしていた。このときの被検体画像を構成するデータを図9の左側に示す。図9の左側のグラフは画像における位置と同時入射のγ線のカウント数とが関連したものとなっている。図9においては、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線に関するデータのみを抽出して表しているものとする(図8参照)。図9に示すように被検体画像のカウント数は位置に応じてある程度ばらついている。検出の統計的なバラツキがあるからである。
【0063】
散乱線画像を構成するデータを図9の左側に示す。散乱線画像のカウント数も位置に応じてある程度ばらついている。このバラツキの程度は被検体画像におけるバラツキとは何ら関係のない独立したものである。
【0064】
従来法によれば、被検体画像から散乱線画像を減算して散乱線成分を除去する。このとき両画像が有していたカウント数のバラツキは減算することで互いに強められ、図10のように、演算結果の画像のカウント数は大きくばらついてしまう。このように画像のバラツキが大きくなるとそれだけ画像の視認性が悪くなる。
【0065】
これに比べて本発明によれば、減算処理ではなく乗算処理により補正が行われる。図11の左側は、補正前のカウント数を表している。カウント数は、画像の位置に応じてばらついているはずである。図11においては、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線に関するデータのみを抽出して表しているものとする(図8参照)。これが補正部24により補正されると18%の割合がカウント数に乗算され、図11の右側のようになる。本発明では、この時点で散乱線の影響の除去処理は終了している。
【0066】
カウント数に乗算される割合は必ず1以下となっている。カウント数に乗算される値は、検出される同時入射のγ線の全てに対する直接線で構成されるものの割合だからである。したがって、補正部24が算出する補正値は、補正前の値よりも小さくなる。すると、図11の左右を比較すれば分かるように、割合が乗算されることでカウント数のバラツキの幅も小さくなる。このように画像のバラツキの幅が小さくなるとそれだけ画像の視認性が改善することになる。
【0067】
また、図11においては、本発明の効果を説明する目的で補正前の画像を示すグラフを描いているのであり、本発明の実際は、補正前には画像の生成を必ずしも行う必要はない。
【0068】
<放射線断層撮影装置の動作>
次に、図12に示す放射線断層撮影装置9の動作について説明する。以降の動作説明においては、いったん被検体の頭部についての断層画像を撮影した後、続けて被検体の体幹部について断層画像を撮影するものとする。この様な撮影にはまず、被検体Mが天板10に載置され(載置ステップS1),天板10が移動される(天板移動ステップS2)。そして、撮影が開始され(撮影開始ステップS3),被検体Mの断層画像Dが生成される(断層画像生成ステップS4)。以降、天板10が再び移動され、被検体Mの別の部分について断層画像Dが生成される(天板移動ステップS5,撮影開始ステップS6,断層画像生成ステップS7)。以降これらのステップについて順を追って説明する。
【0069】
<載置ステップS1・天板移動ステップS2・撮影開始ステップS3>
まず、被検体Mに放射性薬剤が注射される。この時点から所定の時間が経過した時点で、被検体Mが天板10に載置される。術者が操作卓35を通じて天板10の移動の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、天板10がz方向に移動し、図13に示すように被検体頭部がガントリ11内部に導入される位置まで被検体Mが移動される。さらに術者が操作卓35を通じて撮影開始の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、検出器リング12が同時入射のγ線の検出を開始する。
【0070】
<放射線断層画像生成ステップS4>
同時入射のγ線の検出が終了すると、同時計数部20は、同時入射のγ線と認定されたγ線の検出データをスペクトル生成部21に送出する。スペクトル生成部21,非散乱線成分推定部22および割合推定部23は、この順に動作して最終的に直接線と散乱線の割合を示すテーブルTが放射線検出器の組み合わせごとに生成される。補正部24は、同時イベント数をこのテーブルTを用いて補正する。記憶部37は、同時イベントを検出した2つの放射線検出器の組み合わせに応じてテーブルTを記憶している。例えば図7のテーブルTは、放射線検出器1a,1bについてものである。補正部24は同時イベント数に関連づけられた2つの放射線検出器を特定する情報からこの2つの検出器についてのテーブルTを記憶部37より読み出す。そして補正部24は同時イベント数に関連づけられたγ線のエネルギーデータを基にこの同時イベント数に対応する割合を取得して動作する。
【0071】
補正された同時イベント数(カウント数)は、画像生成部25に送出され、そこで画像化される。生成される画像は、被検体Mの頭部の断層画像Dであり、頭部における放射性薬剤の分布がマッピングされている。この断層画像Dが表示部36に表示される。
【0072】
<天板移動ステップS5・撮影開始ステップS6>
更に、術者が操作卓35を通じて天板10の移動の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、天板10がz方向に移動し、図14に示すように被検体Mの体幹部がガントリ11内部に導入される位置まで被検体Mが移動される。さらに術者が操作卓35を通じて撮影開始の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、検出器リング12が同時入射のγ線の検出を開始する。
【0073】
<放射線断層画像生成ステップS7>
同時入射のγ線の検出が終了すると、同時計数部20は、同時入射のγ線と認定されたγ線の検出データをスペクトル生成部21に送出する。スペクトル生成部21,非散乱線成分推定部22および割合推定部23は、この順に動作して最終的に直接線と散乱線の割合を示すテーブルTが放射線検出器の組み合わせごとに生成される。このとき生成されるテーブルTは、被検体Mの体幹部を撮影に伴って新たに作成されたものとなっている。すなわち、スペクトル生成部21は、被検体・検出器リング12の相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、断層撮影が行われる毎にスペクトルを生成し、非散乱線成分推定部22は、新たに生成されたスペクトルに基づいて動作する。
【0074】
このとき割合推定部23が算出する直接線の割合は、頭部撮影時に算出された割合よりも小さくなっている。被検体の体幹部は頭部に比べてより多くの散乱線を発生させることにより、それだけ検出できる直接線が減少するからである。
【0075】
補正部24は同時イベント数に関連づけられた2つの放射線検出器を特定する情報からこの2つの検出器についてのテーブルTを記憶部37より読み出す。そして補正部24は同時イベント数に関連づけられたγ線のエネルギーデータを基にこの同時イベント数に対応する割合を取得して動作する。このとき参照されるテーブルTは、被検体Mの体幹部を撮影に伴って新たに作成されたものとなっている。このように補正部24および画像生成部25は、被検体・検出器リング12の相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、新たに生成されたスペクトルに基づいて動作する。最後に画像生成部25は、被検体Mの体幹部についての断層画像Dも生成する。この断層画像Dが表示部36に表示されて本発明に係る放射線断層撮影装置9の動作は終了となる。
【0076】
以上のように、本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる散乱線成分を推定している。この様にすると画像を用いて散乱線成分を推定する従来方法と比べて被検体Mの検出データに含まれる散乱線成分の推定がより正確となる。また、発生した対消滅γ線が被検体や天板によって散乱されるかどうかの確率は、被検体や天板の大きさや密度によって異なる。したがって、被検体Mの撮影を行うときの散乱線を推定するには被検体Mの撮影するときに得られたデータを用いた方がよいのである。
【0077】
本発明においては、実際の被検体撮影のデータから被検体Mの散乱線の推定を行う手法としてγ線のエネルギー分布に注目している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。したがって、γ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを撮影ごとに生成して、これを用いて散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正するようにすれば、撮影するごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像Dが生成できる。これにより、鮮明な断層画像Dを取得することができる放射線断層撮影装置9を提供できる。
【0078】
また、本発明は、スペクトルを基に散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定しておいて、同時イベント数をその同時イベントにおける同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合で補正するようしている。これにより確実に散乱線成分が消去された断層画像Dが取得できる。また、散乱線成分の補正に減算処理を用いないので、データのバラツキが増幅することで断層画像Dの画質が低下することが抑制される。
【0079】
ところで、断層撮影の撮影様式として、あるポジションで被検体を撮影した後、別のポジションで被検体を撮影するものがある(ステップアンドシュート)。具体的には、例えば被検体の頭部と体幹部で2回撮影を行うような場合である。このときに1回目の撮影における散乱線発生の確率と、2回目の撮影における散乱線発生の確率とが一致するとは限らない。上述の構成にように、被検体Mと検出器リング12との相対位置が変更される度に新たに散乱線成分の推定を行うようにすれば、撮影の度に散乱線発生の確率が異なっても正確に散乱線成分を除去して視認性に優れた断層画像Dが取得できる。
【0080】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0081】
(1)上述した構成は、ガントリ11に対して天板10が移動する構成となっていたが、本発明はこの構成に限られない。ガントリ11を移動させるガントリ移動機構とこれを制御するガントリ移動制御部によって、天板10に対してガントリ11をz方向に移動させるようにしてもよい。
【0082】
(2)上述した実施例のいうシンチレータ結晶は、LYSOで構成されていたが、本発明においては、その代わりに、LGSO(Lu2(1−X)G2XSiO5)やGSO(Gd2SiO5)などの他の材料でシンチレータ結晶を構成してもよい。本変形例によれば、より安価な放射線検出器が提供できる放射線検出器の製造方法が提供できる。
【0083】
(3)上述した実施例において、光検出器は、光電子増倍管で構成されていたが、本発明はこれに限らない。光電子増倍管に代わって、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオードや半導体検出器などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0084】
12 検出器リング
15 天板移動機構(駆動手段)
16 天板移動制御部(駆動制御手段)
20 同時計数手段
21 スペクトル生成部(スペクトル生成手段)
22 非散乱線成分推定部(非散乱線成分推定手段)
23 割合推定部(割合推定手段)
24 補正部(補正手段)
25 画像生成部(画像生成手段)
37 記憶部(記憶手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体から照射されたγ線をイメージングする放射線断層撮影装置に関し、特にγ線のエネルギーを識別できる放射線断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線断層撮影装置の具体的な構成について説明する。従来の放射線断層撮影装置50は、図15に示すように被検体Mを載置する天板52と、同時入射のγ線を検出する検出器リング62とを備えている。検出器リング62の開口は天板52ごと被検体Mを挿入できるようになっている(例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3,特許文献4参照)。
【0003】
従来の放射線断層撮影装置50を用いて、被検体Mの頭部における放射性薬剤の分布を知ろうとする場合は、被検体Mの頭部が検出器リング62の開口の内部に存する位置に移動される。そして、被検体Mの頭部から放出された対消滅γ線のペアの発生位置をイメージングして放射線断層画像が取得される。この様な放射線断層撮影装置をPET(positron emission tomography)装置と呼ぶ。
【0004】
この様なPET装置により放射線断層画像を取得する際に、被検体から放射される散乱線が鮮明な画像取得の妨げとなる。散乱線とは、被検体から発したγ線が検出器リング62に向かう間に被検体内や天板等で散乱されたγ線である。
【0005】
また、従来のPET装置おいては、この散乱線の発生の様子を予め予想することで断層画像に含まれる散乱線成分を除去するようにしている。この方法では被検体の撮影に先立ち検出器リング62に対消滅γ線のペアを照射する円柱形のファントムが挿入される。そして、ファントムの断層画像が取得される。
【0006】
このとき得られたファントムの断層画像は、ファントムの断層像以外の偽像を含んでいる。実測の断層画像には、散乱成分が含まれているからである。従来の構成によれば、ファントムの断層画像を基にこれに含まれる散乱線成分を抽出する。ファントムの形状は予め分かっているので、散乱線成分の算出は比較的容易である。
【0007】
そして、検出器リング62に被検体Mを導入し、被検体の断層画像を取得する。この断層画像には、散乱線成分が含まれており、これに起因して画質の悪化している。そこで、従来構成によれば、被検体の断層画像からファントムにより得られた散乱線成分を減算することで鮮明な断層画像を取得するようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−212242
【特許文献2】特開平7−301674
【特許文献3】特開2008−196899
【特許文献4】特開平9−145842
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】http://www.nirs.go.jp/usr/medical−imaging/ja/study/jPET_D4_2006/p47_51.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の放射線断層撮影装置には次のような問題点がある。すなわち、従来の放射線断層撮影装置によれば、被検体の断層画像から散乱線成分を十分に除去することができない。
【0011】
従来の放射線断層撮影装置は、ファントムを用いて被検体の断層画像に現れる散乱線成分を予測する構成となっている。つまり、従来方法ではファントムから発する散乱線が被検体から発する散乱線と同じ確率で放射されることが前提となっている。しかし、実際の被検体から発生する散乱線の発生の確率は、ファントムから発生する散乱線の発生の確率と異なる。ファントムと被検体とでは、形状・構成物質・対消滅γ線のペアを生じる放射性薬剤の分布が異なるからである。
【0012】
したがって、従来の放射線断層撮影装置は、被検体の断層画像に対して被検体の散乱線成分の影響を正確に取り除くことができない。したがって、従来装置で取得される断層画像には、画像に含まれる散乱線成分が減算されず残っていたり、逆に画像に存在しない散乱線成分が減算され過ぎたりしてしまう。
【0013】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、断層画像に含まれる散乱線成分を正確に取り除くことにより鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線断層撮影装置は、γ線のエネルギーデータを出力する放射線検出器がリング状に配列されることによって構成されるγ線を検出する検出器リングと、被検体から発した2つのγ線が検出器リングに同時に入射する現象である同時イベントを計数する同時計数手段と、同時計数手段に計数されたγ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、生成されたスペクトルから同時イベント数に含まれる非散乱線成分を推定する非散乱線成分推定手段と、推定された非散乱線成分を基に同時イベント数を補正して検出器リングに入射した散乱線の影響を除去する補正手段と、補正された同時イベント数を基に被検体の断層画像を生成する画像生成手段とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる散乱線成分を推定している。この様にするとファントムを用いて散乱線成分を推定する従来方法と比べて被検体の検出データに含まれる散乱線成分の推定がより正確となる。γ線の散乱線の発生の確率は、γ線を発生させる物体の形や大きさ、構成物質やγ線の発生の違いなどにより変化する。したがって、被検体の撮影を行うときの散乱線を推定するには被検体の撮影するときに得られたデータを用いた方がよいのである。
【0016】
本発明においては、実際の被検体撮影のデータから被検体の散乱線の推定を行う手法としてγ線のエネルギー分布に注目している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。したがって、γ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを撮影ごとに生成して、これを用いて散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正するようにすれば、撮影するごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像が生成できる。これにより、鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供できる。
【0017】
また、上述の放射線断層撮影装置において、非散乱線成分推定手段が推定した非散乱線成分を基に、散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する2つのγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定する割合推定手段と、補正手段は、γ線のエネルギーデータを参照することにより、ある同時イベントにおける2つのγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合を取得して、この同時イベントについての計数に組み合わせに取得した割合を乗じるように動作すればより望ましい。
【0018】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。スペクトルを基に散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定しておいて、同時イベント数をその同時イベントにおける同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合で補正するようにすれば、確実に散乱線成分が消去された断層画像が取得できる。また、散乱線成分の補正に減算処理を用いないので、データのバラツキが増幅することで断層画像の画質が低下することが抑制される。
【0019】
また、上述の放射線断層撮影装置において、割合とエネルギーの組み合わせとを関連させたテーブルを記憶する記憶手段を備えればより望ましい。
【0020】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。テーブルを記憶する記憶手段を備えるようにすれば、より確実に散乱線成分が消去された断層画像が取得できる。
【0021】
また、上述の放射線断層撮影装置において、被検体と検出器リングとの相対位置を変更させる駆動手段と、駆動手段を制御する駆動制御手段とを備え、スペクトル生成手段は、被検体・検出器リングの相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、断層撮影が行われる毎にスペクトルを生成し、非散乱線成分推定手段、補正手段、および画像生成手段は、新たに生成されたスペクトルに基づいて動作すればより望ましい。
【0022】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。断層撮影の撮影様式として、あるポジション(例えば頭部)で被検体を撮影した後、別のポジション(例えば胸部)で被検体を撮影するものがある。このときに1回目の撮影における散乱線発生の確率と、2回目の撮影における散乱線発生の確率とが一致するとは限らない。上述の構成にように、被検体と検出器リングとの相対位置が変更される度に新たに散乱線成分の推定を行うようにすれば、撮影の度に散乱線発生の確率が異なっても正確に散乱線成分を除去して視認性に優れた断層画像が取得できる。
【0023】
また、上述の放射線断層撮影装置において、駆動手段は、天板を検出器リングに対して移動させる天板移動手段であればより望ましい。また、駆動手段として、天板は移動せず、検出器リングを搭載した放射線断層撮影装置を移動させる手段でも構わない。
【0024】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。上述の構成によれば、より確実に被検体と検出器リングの位置関係を変更することができる。
【0025】
また、上述の放射線断層撮影装置において、全身撮影用となっていればより望ましい。
【0026】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の断層撮影装置のより具体的な構成を示すものとなっている。上述の構成によれば、撮影対象によらず正確に散乱線成分を除去して断層画像を取得することができるので、撮影の対象が定まらない全身撮影用の放射線断層撮影装置に適している。
【発明の効果】
【0027】
本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる散乱線成分を推定している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。この特性を利用して本発明では、γ線のエネルギーの分布スペクトルを撮影ごとに生成して、これを用いて散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正する。このようにすることで、撮影ごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像が生成できるので鮮明な断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。
【図3】実施例1に係る検出器リングの構成を説明する平面図である。
【図4】実施例1に係る非散乱線成分推定部の動作を説明する模式図である
【図5】実施例1に係る非散乱線成分推定部の動作を説明する模式図である。
【図6】実施例1に係る割合推定部の動作を説明する模式図である。
【図7】実施例1に係る割合推定部の動作を説明する模式図である。
【図8】実施例1に係る補正部の動作を説明する模式図である。
【図9】実施例1の効果を説明する模式図である。
【図10】実施例1の効果を説明する模式図である。
【図11】実施例1の効果を説明する模式図である。
【図12】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図13】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図14】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図15】従来の放射線断層撮影装置の構成を説明する模式図である。
【実施例1】
【0029】
<放射線断層撮影装置9の構成>
以下、本発明に係る放射線断層撮影装置9の実施例を図面を参照しながら説明する。図1は、実施例1に係る放射線断層撮影装置9の構成を説明する機能ブロック図である。実施例1に係る放射線断層撮影装置9は、全身撮影用となっており、被検体Mを載置する天板10と、天板10をその長手方向(z方向)から導入させる開口を有するガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた天板10をz方向に導入させるリング状の検出器リング12とを備えている。検出器リング12に設けられた開口は、z方向(天板10の長手方向、被検体Mの体軸方向)に伸びた円筒形となっている。したがって、検出器リング12自身もz方向に延伸している。ガントリ11は、被検体Mの頭部が収納できる程度の大きさの開口が設けられている。この開口に被検体Mが挿入されることになる。
【0030】
天板10は、ガントリ11(検出器リング12)の開口をz方向から貫通するように設けられているとともに、z方向に沿って進退自在となっている。この様な天板10の摺動は、天板移動機構15によって実現される。天板移動機構15は、天板移動制御部16によって制御される。天板移動制御部16は、天板移動機構15を制御する天板移動制御手段である。天板10は、その全域が検出器リング12の外側に位置している位置から摺動して、検出器リング12の開口にその一方側から導入される。天板移動機構15は、本発明の駆動手段に相当し、天板移動制御部16は、本発明の駆動制御手段に相当する。
【0031】
ガントリ11の内部には、被検体Mから放射される対消滅γ線のペアを検出する検出器リング12が備えられている。この検出器リング12は、被検体Mの体軸方向に伸びた筒状であり、そのz方向の長さは、15cmから26cm程度である。リング状の吸収体13a,13bは、検出器リング12の中心軸方向(z方向)の両端を覆うように設けられている。吸収体13a,13bは、γ線を透過しにくい部材で生成されており、検出器リング12の外部から内部にγ線が入射するのを防いでいる。吸収体13a,13bは、被検体Mの断層画像Dの撮影に邪魔となる検出器リング12の外部で生じたγ線を除去する目的で設けられている。この吸収体13a,13bの内径は、検出器リング12の内径よりも小さくなっている。
【0032】
検出器リング12を構成する放射線検出器1の構成について簡単に説明する。図2は、実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。放射線検出器1は、図2に示すようにγ線を蛍光に変換するシンチレータ2と、蛍光を検出する光検出器3とを備えている。そして、シンチレータ2と光検出器3との介在する位置には、蛍光を授受するライトガイド4が備えられている。
【0033】
シンチレータ2は、シンチレータ結晶が二次元的に配列されて構成されている。シンチレータ結晶Cは、Ceが拡散したLu2(1−X)Y2XSiO5(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。そして、光検出器3は、どのシンチレータ結晶が蛍光を発したかという蛍光発生位置を特定することができるようになっているとともに、蛍光の強度や、蛍光の発生した時刻をも特定することができる。放射線検出器1は、蛍光の強度により検出したγ線のエネルギーを求め、エネルギーデータを出力することができる。また、実施例1の構成のシンチレータ2は、採用しうる態様の例示にすぎない。したがって、本発明の構成は、これに限られるものではない。
【0034】
検出器リング12の構成について説明する。実施例1によれば、図3に示すように複数個の放射線検出器1がz方向に垂直な平面上の仮想円に配列することで1つの単位リング12bが形成される。この単位リング12bが中心軸方向(z方向)に配列されて検出器リング12が構成される。
【0035】
クロック19は、検出器リング12にシリアルナンバーとなっている時刻情報を送出する。検出器リング12から出力される検出データは、γ線をどの時点で検出されたかという時刻情報が付与され、後述の同時計数部20に入力されることになる。
【0036】
同時計数部20には、検出器リング12から出力された検出データが送られてきている。検出器リング12に同時に入射した2つのγ線は、被検体内の放射性薬剤に起因する対消滅γ線のペアであると予想される。同時計数部20は、検出器リング12を構成するシンチレータ結晶Cのうちの2つの組み合わせ毎に同時入射のγ線が検出された回数をカウントし、この結果を補正部24に送出する。この同時入射のγ線の計数によって得られた値を同時イベント数と呼ぶことにする。なお、同時計数部20による検出データの同時性の判断は、クロック19によって検出データに付与された時刻情報が用いられる。
【0037】
同時計数部20は同時イベント数をした検出データをスペクトル生成部21に送出する。スペクトル生成部21は、同時計数部20により計数された同時入射のγ線がどの程度のエネルギーを有していたかを検出データに含まれるエネルギーデータを基に認識する。そして、スペクトル生成部21は、γ線検出の点数とγ線のエネルギーとが関連したスペクトルを取得する。つまり、スペクトル生成部21は同時イベントについてγ線のスペクトルを取得することになる。また、スペクトル生成部21は、ある2つの放射線検出器の間で検出されたγ線についてスペクトルを放射線検出器ごとに2つ生成する。この様に一対のスペクトルが2つの放射線検出器の組み合わせ毎に生成されることになる。スペクトル生成部21は、本発明のスペクトル生成手段に相当する。
【0038】
図4は、ある放射線検出器1a,1bの組み合わせについてスペクトルが生成される様子を示している。この放射線検出器1a,1bにおいてスペクトル生成部21がどのように動作するかを説明する。スペクトル生成部21は、放射線検出器1a,1bの間で検出された同時入射のγ線のうち放射線検出器1aに入射したγ線のエネルギーを放射線検出器1aから取得して、γ線のエネルギーと検出点数の関係を示したスペクトルSaを生成する。このとき取得されるスペクトルSaは、同時入射のγ線として同時計数部20により計数されたγ線のみから生成される。断層画像Dは同時入射のγ線のみから生成されることからすれば、スペクトルSaは、断層画像Dの生成に用いられるγ線のエネルギー分布を示していることになる。つまり、スペクトルSaは、一方を検出し損ねた同時入射のγ線やシングルフォトンタイプのγ線など断層画像Dに用いられることのないγ線のエネルギー分布は含まない。
【0039】
同様にスペクトル生成部21は、放射線検出器1a,1bの間で検出された同時入射のγ線のうち放射線検出器1bに入射したγ線のエネルギーを放射線検出器1bから取得して、γ線のエネルギーと検出点数の関係を示したスペクトルSbを生成する。スペクトルSbも、断層画像Dの生成に用いられるγ線のエネルギー分布を示している。
【0040】
スペクトルSa,Sbを比較すると、グラフ形が多少異なっている。これは、放射線検出器1a,1bの間でγ線検出の特性が多少異なることと、スペクトルにγ線検出の統計的なばらつきが現れていることによる。
【0041】
スペクトル生成部21が生成するスペクトルSa,Sbは、天板10に被検体Mを載置した状態で被検体Mから放射される対消滅γ線のペアを測定したときのものである。したがって、スペクトルSa,Sbは、被検体Mを実測したときのγ線のエネルギー分布を表している。
【0042】
スペクトル生成部21は、スペクトルSa,Sbを非散乱線成分推定部22に送出する。図5は、非散乱線成分推定部22がスペクトルSaに対して行う動作について説明している。非散乱線成分推定部22は、スペクトルSaのグラフ形に対して図5における太線で示した所定の分布関数をフィッティングすることにより、スペクトルSaに含まれる直接線成分を求める。直接線成分とは、検出器リング12が検出した同時入射のγ線のうち、被検体内等で散乱せずに検出器リング12に入射したものをいう。本発明の非散乱成分とはこの直接線成分のことである。非散乱線成分推定部22は、本発明の非散乱線成分推定手段に相当する。
【0043】
非散乱線成分推定部22が使用する所定の分布関数は、対消滅γ線のエネルギーが511keVであること、そしてそれは確率論からガウス分布となる事等から、理論的に求まる関数を用いていも良いし、予め対消滅γ線のエネルギーを実測して得られたγ線のエネルギー分布から関数を作成してもよい。ただし、この実測は、散乱線成分が発生しないようにして得られたものである必要がある。対消滅γ線のペアの物理的性質は常に一定なので、被検体Mの撮影時においても対消滅γ線のペアのエネルギー分布はこの分布関数で表すことができる。非散乱線成分推定部22は、スペクトルSaにおけるエネルギーの高い部分について分布関数のフィッティングを行う。このフィッティングはスペクトルSaにおける複数の点を参照して行われるので、フィッティングされた分布関数がスペクトルSaに含まれる直接線成分のエネルギー分布を示している信頼性は高い。
【0044】
同様に、非散乱線成分推定部22は、散乱線成分のエネルギー分布を示す分布関数をフィッティングすることによりスペクトルSaに含まれる散乱線成分を求めてもよいし、直接成分以外の全てを散乱線成分として求めても良い。ただし、散乱成分は多重散乱を含むので散乱成分を関数にしてフィッティングで精度良く求めるのは難しい。そこで、比較的理論的に関数で表現できるガウス分布、およびコンプトンエッジの2つを使って、400〜700keVの範囲のエネルギースペクトルをフィッティングして非散乱成分と散乱成分を同時に推定する。このフィッティングはスペクトルSaにおける複数の点を参照して行われるので、フィッティングされた分布関数がスペクトルSaに含まれる散乱線成分と非散乱線成分のエネルギー分布を示している信頼性は高い。
【0045】
図5の右側は、スペクトルSaに含まれる直接線成分と網掛けで示す散乱線成分が推定された状態を示している。また、非散乱線成分推定部22は、スペクトルSbについても同様に直接線成分と散乱線成分とを推定する。推定された直接線成分と散乱線成分は、割合推定部23に送出される。図5の右側を参照すれば分かるように、スペクトルSaに含まれる直接線成分と散乱線成分の割合は、エネルギー毎に異なる。非散乱線成分推定部22は、推定結果を割合推定部23に送出する。割合推定部23は、本発明の割合推定手段に相当する。
【0046】
割合推定部23は、推定された直接線成分と散乱線成分とを基に、散乱線成分と直接線成分(非散乱線成分)との割合をエネルギーごとに取得する。割合推定部23は、例えば、図5右側の破線で示すように、400keV,511keV,600keVの3点について直接線成分と散乱線成分との割合を求める。図6は、スペクトルSaについての割合を求めた結果を示している。これにより、例えば被検体Mから発したγ線が400keVとして検出されたとすると、このγ線が直接線であった確率は20%であることが分かる。
【0047】
同様に割合推定部23は、スペクトルSbについても割合を推定する。このとき推定された割合はスペクトルSaの結果と一致するものであったとする。こうして2つのスペクトルSa,Sbについて割合が推定される。スペクトルSa,Sbは、被検体Mを測定したときに得られたものであることからすると、割合推定部23が推定する割合は、被検体Mを測定したときにおける直接線と散乱線の割合であることになる。
【0048】
割合推定部23は、スペクトルSa,Sbの割合から図7に示すようなテーブルTを生成する。図7は、同時計数した2本のγ線が共に直接線である確率をエネルギーの組み合わせごとに求めたテーブルとなっている。具体的には、テーブルTは、放射線検出器1aの割合に放射線検出器1bの割合を乗じたものとなっている。例えば、対消滅γ線のペアのうち放射線検出器1aに入射したγ線のエネルギーが400keVで、放射線検出器1bに入射したγ線のエネルギーが600keVであったとすると、この2つのγ線のいずれもが直接線であった確率は18%である。
【0049】
割合推定部23は、図7に示す割合とエネルギーの組み合わせとを関連させたテーブルTを記憶部37に送出する。記憶部37は、テーブルTを記憶する。記憶部37は、本発明の記憶手段に相当する。
【0050】
<散乱線の影響の除去>
次に、断層画像Dを生成する際の散乱線の影響を除去する方法について説明する。散乱線成分の除去は、テーブルTを利用して行う。同時計数部20が出力した同時イベント数は、画像生成部25により画像化されて断層画像Dとなる。しかし、同時イベント数を補正せずに画像化すると、生成された断層画像Dには散乱線の影響が現れてしまう。そこで、本発明によれば、同時イベント数を補正したあと断層画像Dを生成するようにしている。この補正を行うのが補正部24である。補正部24は、本発明の補正手段に相当し、画像生成部25は、本発明の画像生成手段に相当する。
【0051】
補正部24の動作について説明する。補正部24には、同時計数部20より同時イベント数が送出されている。この同時イベント数は、天板10に被検体Mを載置して被検体Mから放射される同時入射のγ線を検出することによって得られたものである。また、この同時イベント数には、γ線を検出した放射線検出器1を特定するデータと、γ線のエネルギーを特定するデータとが関連づけられている。同時イベントは2つのγ線が検出器リング12に同時に入射する事象であるので、同時イベント数に関連づけられるデータは2つのγ線について独立に存在することになる。
【0052】
図8は、消滅点pから生じた対消滅γ線のペアが放射線検出器1a,1bに入射する様子を示している。このとき、放射線検出器1aには400keVのエネルギーを有するγ線が入射し、放射線検出器1bには600keVのエネルギーを有するγ線が入射したものとする。同時計数部20は、放射線検出器1a,1bについての同時イベント数を1としてカウントする。
【0053】
同時イベント数は、補正部24に送出される。補正部24は、同時イベント数に関連づけられたエネルギーデータを参照する。そして、補正部24は、同時イベント数に係る同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせと同じ組み合わせの割合をテーブルT(図7参照)上で探してその割合を読み出す。同時入射のγ線のエネルギーは、放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっているから、読み出される割合は、図7の網掛けで示す18%である。
【0054】
そして、補正部24は、この18%という数値を同時イベント数に乗じる。すると、同時イベント数は、1カウントから0.18カウントに補正されるのである。
【0055】
つまり、例えば、被検体Mから生じるγ線の検出を通じて、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線が20回測定されたとする。従来ならばこれを20カウントとして、断層画像Dの生成に用いる。しかし、本発明によれば図8に示すように20カウントを補正して3.6カウントとするのである。
【0056】
エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線のほとんどは散乱線が関係している。すなわち、放射線検出器1aで検出されたγ線は80%の確率で散乱線であり、放射線検出器1bで検出されたγ線は10%の確率で散乱線となっている。従って、この様なエネルギーとなっている同時入射のγ線がいずれも直接線である確率は僅か18%(20%×90%)である。従って、この様なエネルギーの同時入射のγ線が被検体Mの検出時に例え20カウント得られても、このうちの16.4カウントはγ線の少なくとも一方が散乱線となっており、断層画像Dの生成に用いることができない。補正部24が割合を同時イベント数に乗じることにより、20カウントのうちの散乱線が関係している16.4カウントが除かれる。すなわち、補正部24が20カウントに18%を乗じて算出する3.6カウントは、同時入射のγ線がいずれも直接線となっており、断層画像Dを生成するときに用いることができる正味の同時イベント数であることになる。
【0057】
この様に補正部24により同時イベント数は、補正により、散乱線が関係しているカウントだけ減らされて画像生成部25に送出される。画像生成部25は、この補正値に基づいて断層画像Dを生成することになる。
【0058】
なお、スペクトル生成部21,非散乱線成分推定部22,割合推定部23および補正部24は、上述の放射線検出器1a,1bの組み合わせ以外の放射線検出器の組み合わせについても同様の動作をする。また、補正部24は、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線以外についても同様に同時イベント数の補正を実行する。
【0059】
なお、放射線断層撮影装置9は、各部を統括的に制御する主制御部41と、放射線断層画像を表示する表示部36とを備えている。この主制御部41は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより、各部16,19,20,21,22,23,24,25を実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。
【0060】
<本発明の効果>
本発明の効果について説明する。従来より断層画像Dの散乱線成分を除去するPET装置は知られている。しかし、これらの装置は、ファントムを用いて被検体Mから発する散乱線成分を推定するという方法を採用していたので、被検体Mから発する散乱線成分を正確に推定できているとは言い難い。
【0061】
本発明によれば、同時計数部20が計数するγ線についてのデータと、割合推定部23が推定に用いるデータとは同一のデータとなっている。すなわち、同時計数部20は、被検体Mを検出することで得られたγ線の検出データについて、一方では同時イベント数の計数をする。更にもう一方で、同時計数部20は、同時入射のγ線として認識された検出データをスペクトル生成部21以下の各部に送出して、散乱線と直接線の割合の算出に利用させるようにしている。この様にすることで、被検体Mの測定結果から被検体Mの散乱線成分を推定したうえで断層画像Dに写り込む散乱線の影響を取り除くことができる。
【0062】
また、従来装置とは異なる演算方法を採用することにより、より鮮明な画像を取得できる。従来方法では、被検体Mを画像化した被検体画像から、ファントムを画像化することにより取得された散乱線成分を示す散乱線画像を減算することで散乱線成分の補正をしていた。このときの被検体画像を構成するデータを図9の左側に示す。図9の左側のグラフは画像における位置と同時入射のγ線のカウント数とが関連したものとなっている。図9においては、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線に関するデータのみを抽出して表しているものとする(図8参照)。図9に示すように被検体画像のカウント数は位置に応じてある程度ばらついている。検出の統計的なバラツキがあるからである。
【0063】
散乱線画像を構成するデータを図9の左側に示す。散乱線画像のカウント数も位置に応じてある程度ばらついている。このバラツキの程度は被検体画像におけるバラツキとは何ら関係のない独立したものである。
【0064】
従来法によれば、被検体画像から散乱線画像を減算して散乱線成分を除去する。このとき両画像が有していたカウント数のバラツキは減算することで互いに強められ、図10のように、演算結果の画像のカウント数は大きくばらついてしまう。このように画像のバラツキが大きくなるとそれだけ画像の視認性が悪くなる。
【0065】
これに比べて本発明によれば、減算処理ではなく乗算処理により補正が行われる。図11の左側は、補正前のカウント数を表している。カウント数は、画像の位置に応じてばらついているはずである。図11においては、エネルギーが放射線検出器1a側で400keV,放射線検出器1b側で600keVとなっている同時入射のγ線に関するデータのみを抽出して表しているものとする(図8参照)。これが補正部24により補正されると18%の割合がカウント数に乗算され、図11の右側のようになる。本発明では、この時点で散乱線の影響の除去処理は終了している。
【0066】
カウント数に乗算される割合は必ず1以下となっている。カウント数に乗算される値は、検出される同時入射のγ線の全てに対する直接線で構成されるものの割合だからである。したがって、補正部24が算出する補正値は、補正前の値よりも小さくなる。すると、図11の左右を比較すれば分かるように、割合が乗算されることでカウント数のバラツキの幅も小さくなる。このように画像のバラツキの幅が小さくなるとそれだけ画像の視認性が改善することになる。
【0067】
また、図11においては、本発明の効果を説明する目的で補正前の画像を示すグラフを描いているのであり、本発明の実際は、補正前には画像の生成を必ずしも行う必要はない。
【0068】
<放射線断層撮影装置の動作>
次に、図12に示す放射線断層撮影装置9の動作について説明する。以降の動作説明においては、いったん被検体の頭部についての断層画像を撮影した後、続けて被検体の体幹部について断層画像を撮影するものとする。この様な撮影にはまず、被検体Mが天板10に載置され(載置ステップS1),天板10が移動される(天板移動ステップS2)。そして、撮影が開始され(撮影開始ステップS3),被検体Mの断層画像Dが生成される(断層画像生成ステップS4)。以降、天板10が再び移動され、被検体Mの別の部分について断層画像Dが生成される(天板移動ステップS5,撮影開始ステップS6,断層画像生成ステップS7)。以降これらのステップについて順を追って説明する。
【0069】
<載置ステップS1・天板移動ステップS2・撮影開始ステップS3>
まず、被検体Mに放射性薬剤が注射される。この時点から所定の時間が経過した時点で、被検体Mが天板10に載置される。術者が操作卓35を通じて天板10の移動の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、天板10がz方向に移動し、図13に示すように被検体頭部がガントリ11内部に導入される位置まで被検体Mが移動される。さらに術者が操作卓35を通じて撮影開始の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、検出器リング12が同時入射のγ線の検出を開始する。
【0070】
<放射線断層画像生成ステップS4>
同時入射のγ線の検出が終了すると、同時計数部20は、同時入射のγ線と認定されたγ線の検出データをスペクトル生成部21に送出する。スペクトル生成部21,非散乱線成分推定部22および割合推定部23は、この順に動作して最終的に直接線と散乱線の割合を示すテーブルTが放射線検出器の組み合わせごとに生成される。補正部24は、同時イベント数をこのテーブルTを用いて補正する。記憶部37は、同時イベントを検出した2つの放射線検出器の組み合わせに応じてテーブルTを記憶している。例えば図7のテーブルTは、放射線検出器1a,1bについてものである。補正部24は同時イベント数に関連づけられた2つの放射線検出器を特定する情報からこの2つの検出器についてのテーブルTを記憶部37より読み出す。そして補正部24は同時イベント数に関連づけられたγ線のエネルギーデータを基にこの同時イベント数に対応する割合を取得して動作する。
【0071】
補正された同時イベント数(カウント数)は、画像生成部25に送出され、そこで画像化される。生成される画像は、被検体Mの頭部の断層画像Dであり、頭部における放射性薬剤の分布がマッピングされている。この断層画像Dが表示部36に表示される。
【0072】
<天板移動ステップS5・撮影開始ステップS6>
更に、術者が操作卓35を通じて天板10の移動の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、天板10がz方向に移動し、図14に示すように被検体Mの体幹部がガントリ11内部に導入される位置まで被検体Mが移動される。さらに術者が操作卓35を通じて撮影開始の指示を放射線断層撮影装置9に与えると、検出器リング12が同時入射のγ線の検出を開始する。
【0073】
<放射線断層画像生成ステップS7>
同時入射のγ線の検出が終了すると、同時計数部20は、同時入射のγ線と認定されたγ線の検出データをスペクトル生成部21に送出する。スペクトル生成部21,非散乱線成分推定部22および割合推定部23は、この順に動作して最終的に直接線と散乱線の割合を示すテーブルTが放射線検出器の組み合わせごとに生成される。このとき生成されるテーブルTは、被検体Mの体幹部を撮影に伴って新たに作成されたものとなっている。すなわち、スペクトル生成部21は、被検体・検出器リング12の相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、断層撮影が行われる毎にスペクトルを生成し、非散乱線成分推定部22は、新たに生成されたスペクトルに基づいて動作する。
【0074】
このとき割合推定部23が算出する直接線の割合は、頭部撮影時に算出された割合よりも小さくなっている。被検体の体幹部は頭部に比べてより多くの散乱線を発生させることにより、それだけ検出できる直接線が減少するからである。
【0075】
補正部24は同時イベント数に関連づけられた2つの放射線検出器を特定する情報からこの2つの検出器についてのテーブルTを記憶部37より読み出す。そして補正部24は同時イベント数に関連づけられたγ線のエネルギーデータを基にこの同時イベント数に対応する割合を取得して動作する。このとき参照されるテーブルTは、被検体Mの体幹部を撮影に伴って新たに作成されたものとなっている。このように補正部24および画像生成部25は、被検体・検出器リング12の相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、新たに生成されたスペクトルに基づいて動作する。最後に画像生成部25は、被検体Mの体幹部についての断層画像Dも生成する。この断層画像Dが表示部36に表示されて本発明に係る放射線断層撮影装置9の動作は終了となる。
【0076】
以上のように、本発明の構成によれば、γ線のエネルギー分布を用いて同時イベント数に含まれる散乱線成分を推定している。この様にすると画像を用いて散乱線成分を推定する従来方法と比べて被検体Mの検出データに含まれる散乱線成分の推定がより正確となる。また、発生した対消滅γ線が被検体や天板によって散乱されるかどうかの確率は、被検体や天板の大きさや密度によって異なる。したがって、被検体Mの撮影を行うときの散乱線を推定するには被検体Mの撮影するときに得られたデータを用いた方がよいのである。
【0077】
本発明においては、実際の被検体撮影のデータから被検体Mの散乱線の推定を行う手法としてγ線のエネルギー分布に注目している。散乱線は非散乱線に比べてエネルギーが低いという特性がある。したがって、γ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを撮影ごとに生成して、これを用いて散乱線成分を推定し、この推定に基づいて同時イベント数を補正するようにすれば、撮影するごとに異なる散乱線照射の状況に合わせて散乱線成分が消去された断層画像Dが生成できる。これにより、鮮明な断層画像Dを取得することができる放射線断層撮影装置9を提供できる。
【0078】
また、本発明は、スペクトルを基に散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定しておいて、同時イベント数をその同時イベントにおける同時入射のγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合で補正するようしている。これにより確実に散乱線成分が消去された断層画像Dが取得できる。また、散乱線成分の補正に減算処理を用いないので、データのバラツキが増幅することで断層画像Dの画質が低下することが抑制される。
【0079】
ところで、断層撮影の撮影様式として、あるポジションで被検体を撮影した後、別のポジションで被検体を撮影するものがある(ステップアンドシュート)。具体的には、例えば被検体の頭部と体幹部で2回撮影を行うような場合である。このときに1回目の撮影における散乱線発生の確率と、2回目の撮影における散乱線発生の確率とが一致するとは限らない。上述の構成にように、被検体Mと検出器リング12との相対位置が変更される度に新たに散乱線成分の推定を行うようにすれば、撮影の度に散乱線発生の確率が異なっても正確に散乱線成分を除去して視認性に優れた断層画像Dが取得できる。
【0080】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0081】
(1)上述した構成は、ガントリ11に対して天板10が移動する構成となっていたが、本発明はこの構成に限られない。ガントリ11を移動させるガントリ移動機構とこれを制御するガントリ移動制御部によって、天板10に対してガントリ11をz方向に移動させるようにしてもよい。
【0082】
(2)上述した実施例のいうシンチレータ結晶は、LYSOで構成されていたが、本発明においては、その代わりに、LGSO(Lu2(1−X)G2XSiO5)やGSO(Gd2SiO5)などの他の材料でシンチレータ結晶を構成してもよい。本変形例によれば、より安価な放射線検出器が提供できる放射線検出器の製造方法が提供できる。
【0083】
(3)上述した実施例において、光検出器は、光電子増倍管で構成されていたが、本発明はこれに限らない。光電子増倍管に代わって、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオードや半導体検出器などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0084】
12 検出器リング
15 天板移動機構(駆動手段)
16 天板移動制御部(駆動制御手段)
20 同時計数手段
21 スペクトル生成部(スペクトル生成手段)
22 非散乱線成分推定部(非散乱線成分推定手段)
23 割合推定部(割合推定手段)
24 補正部(補正手段)
25 画像生成部(画像生成手段)
37 記憶部(記憶手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ線のエネルギーデータを出力する放射線検出器がリング状に配列されることによって構成されるγ線を検出する検出器リングと、
被検体から発した2つのγ線が前記検出器リングに同時に入射する現象である同時イベントを計数する同時計数手段と、
前記同時計数手段に計数されたγ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、
生成された前記スペクトルから同時イベント数に含まれる非散乱線成分を推定する非散乱線成分推定手段と、
推定された非散乱線成分を基に同時イベント数を補正して前記検出器リングに入射した散乱線の影響を除去する補正手段と、
補正された同時イベント数を基に前記被検体の断層画像を生成する画像生成手段とを備えることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線断層撮影装置において、
前記非散乱線成分推定手段が推定した非散乱線成分を基に、散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する2つのγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定する割合推定手段と、
前記補正手段は、γ線のエネルギーデータを参照することにより、ある同時イベントにおける2つのγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合を取得して、この同時イベントについての計数に組み合わせに取得した割合を乗じるように動作することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線断層撮影装置において、
割合とエネルギーの組み合わせとを関連させたテーブルを記憶する記憶手段を備えることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
前記被検体と前記検出器リングとの相対位置を変更させる駆動手段と、
前記駆動手段を制御する駆動制御手段とを備え、
前記スペクトル生成手段は、被検体・検出器リングの相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、断層撮影が行われる毎に前記スペクトルを生成し、
前記非散乱線成分推定手段、前記補正手段、および前記画像生成手段は、新たに生成された前記スペクトルに基づいて動作することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線断層撮影装置において、
前記駆動手段は、前記天板を前記検出器リングに対して移動させる天板移動手段であることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
全身撮影用となっていることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項1】
γ線のエネルギーデータを出力する放射線検出器がリング状に配列されることによって構成されるγ線を検出する検出器リングと、
被検体から発した2つのγ線が前記検出器リングに同時に入射する現象である同時イベントを計数する同時計数手段と、
前記同時計数手段に計数されたγ線のエネルギーの分布を示すスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、
生成された前記スペクトルから同時イベント数に含まれる非散乱線成分を推定する非散乱線成分推定手段と、
推定された非散乱線成分を基に同時イベント数を補正して前記検出器リングに入射した散乱線の影響を除去する補正手段と、
補正された同時イベント数を基に前記被検体の断層画像を生成する画像生成手段とを備えることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線断層撮影装置において、
前記非散乱線成分推定手段が推定した非散乱線成分を基に、散乱線成分と非散乱線成分との割合を同時イベントを構成する2つのγ線のエネルギーの組み合わせ毎に推定する割合推定手段と、
前記補正手段は、γ線のエネルギーデータを参照することにより、ある同時イベントにおける2つのγ線のエネルギーの組み合わせに対応した割合を取得して、この同時イベントについての計数に組み合わせに取得した割合を乗じるように動作することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線断層撮影装置において、
割合とエネルギーの組み合わせとを関連させたテーブルを記憶する記憶手段を備えることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
前記被検体と前記検出器リングとの相対位置を変更させる駆動手段と、
前記駆動手段を制御する駆動制御手段とを備え、
前記スペクトル生成手段は、被検体・検出器リングの相対位置の変更と断層撮影とを繰り返す撮影において、断層撮影が行われる毎に前記スペクトルを生成し、
前記非散乱線成分推定手段、前記補正手段、および前記画像生成手段は、新たに生成された前記スペクトルに基づいて動作することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線断層撮影装置において、
前記駆動手段は、前記天板を前記検出器リングに対して移動させる天板移動手段であることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
全身撮影用となっていることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−15481(P2013−15481A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149931(P2011−149931)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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