説明

放射線検出器及びその製造方法

【課題】防湿体とアレイ基板との間の接着層の健全性を向上させる。
【解決手段】放射線検出器に、アレイ基板12とシンチレータ膜13と防湿体15と接着層40とを備える。アレイ基板12には、蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層が設けられる。シンチレータ膜13は、アレイ基板12の表面に光電変換素子層を覆うように設けられ、放射線を蛍光に変換する。防湿体15は、アレイ基板12と対向してシンチレータ膜13を囲む鍔部50を備えていて、シンチレータ膜13を覆う。接着層40は、鍔部50とアレイ基板12とを接着する。接着層40の内縁43は、鍔部50の内縁53よりも内側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出する放射線検出器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用検出器として、アクティブマトリクスを用いた平面形のX線検出器が開発されている。このX線検出器に照射されたX線を検出することにより、X線撮影像、あるいはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。このX線検出器では、X線をシンチレータ層により可視光すなわち蛍光に変換させ、この蛍光をアモルファスシリコン(a−Si)フォトダイオードあるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子で信号電荷に変換することで画像を取得している。
【0003】
シンチレータ層の材料としては、一般的に、ヨウ化セシウム(CsI):ナトリウム(Na)、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、あるいは酸硫化ガドリニウム(GdS)などが用いられる。シンチレータ層は、ダイシングなどにより溝を形成したり、柱状構造が形成されるように蒸着法で堆積したりすることで、解像度特性を向上させることができる。シンチレータの材料としては上記の通り種々のものがあり、用途や必要な特性によって使い分けられる。
【0004】
シンチレータ層の上面には、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために、反射膜を形成する場合がある。すなわち、シンチレータ層で発光した蛍光のうち光電変換素子の反対側に向かう蛍光を反射膜で反射させて、光電変換素子側に到達する蛍光を増大させる。
【0005】
反射膜は、銀合金やアルミニウムなど蛍光反射率の高い金属層をシンチレータ層上に成膜する方法や、TiOなどの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る光散乱反射性の反射膜を塗布形成する方法などで形成される。また、シンチレータ膜上に形成するのではなく、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ層に密着させてシンチレータ光を反射させる方式も実用化されている。
【0006】
シンチレータ層や反射層(あるいは反射板など)を外部雰囲気から保護して湿度などによる特性の劣化を抑えるための防湿構造は、検出器を実用的な製品とする上で重要な構成要素である。特に、湿度に対して劣化の大きい材料であるCsI:Tl膜やCsI:Na膜をシンチレータ層とする場合には高い防湿性能が要求される。防湿構造としては、たとえばアルミニウム箔などの防湿層を周辺部で基板と接着封止して防湿性能を保つ構造や、アルミニウム箔や薄板などの防湿層と基板とを周囲のリング状構造物を介して接着封止する構造などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−128023号公報
【特許文献2】特開平5−242841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
防湿体としてハット形状の金属箔または薄板を用い、ハットの鍔部とアレイ基板表面とを接着封止する方法が一般的に知られている。アレイ基板は、ガラス基板にTFTやフォトダイオードの画素を形成したものである。これら防湿体と基板との接着には、紫外線硬化型または熱硬化型の樹脂接着剤が用いられる。接着剤塗布、圧着、硬化する際に接着層薄膜化や幅狭化が発生し、基板に形成されている金属配線と金属性防湿体の間に絶縁接着層が十分な厚さ確保できず、電気的に短絡する危険がある。
【0009】
また、防湿体の基板への接着を減圧雰囲気下で行い、防湿体内部を減圧状態とすることによって、飛行機輸送などの減圧下での機械的強度を保持する方法がある。この場合、防湿体は、外部大気圧で基板側に押され、基板の金属配線と防湿体とが近接する傾向にある。防湿体が過度に基板に近接した場合には、電気的短絡の危険が増すとともに、防湿体の変形により接着層に負荷がかかり接着層が剥がれる危険もある。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、防湿体とアレイ基板との間の接着層の健全性を向上させた放射線検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、実施の形態の放射線検出器は、蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けたアレイ基板と、前記アレイ基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように設けられて放射線を蛍光に変換するシンチレータ膜と、前記アレイ基板と対向して前記シンチレータ膜を囲む鍔部を備えて前記シンチレータ膜を覆う防湿体と、前記鍔部と前記アレイ基板とを接着し内縁が全周にわたって前記鍔部よりも内側に位置する接着層と、を具備することを特徴とする。
【0012】
また、実施形態の放射線検出器の製造方法は、蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けた基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を形成する工程と、周囲に帯状の鍔部が形成された防湿体の前記鍔部および前記防湿体の前記鍔部よりも内側に少なくとも2重に接着剤を塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後に、前記鍔部の前記接着剤が塗布された面を前記基板の前記シンチレータ膜よりも外側の部分に減圧雰囲気下で押し付ける接着工程と、前記接着剤を硬化させる硬化工程と、を具備することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態による防湿体の鍔部近傍の拡大断面図である。
【図2】一実施形態による防湿体の鍔部近傍の拡大平面図である。
【図3】一実施形態による防湿体への接着剤の塗布方法を示す平面図である。
【図4】一実施形態による防湿体への接着剤の塗布方法を示す一部拡大平面図である。
【図5】一実施形態による防湿体への接着剤の塗布方法を示す一部拡大断面図である。
【図6】一実施形態による放射線検出装置の模式的斜視図である。
【図7】一実施形態による放射線検出器の回路図である。
【図8】一実施形態による放射線検出装置のブロック図である。
【図9】一実施形態による放射線検出器の一部拡大断面図である。
【図10】一実施形態による放射線検出器の上面図である。
【図11】一実施形態による放射線検出器の側面図である。
【図12】アレイ基板の表面の保護膜と防湿体が接触した状態の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下一実施形態の放射線検出器を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図6は、一実施形態による放射線検出装置の模式的斜視図である。
【0016】
本実施形態の放射線検出器11は、放射線像であるX線画像を検出するX線平面センサであり、たとえば一般医療用途などに用いられる。放射線検出装置10は、この放射線検出器11と、支持板31と、回路基板30と、フレキシブル基板32とを有している。放射線検出器11は、アレイ基板12とシンチレータ膜13とを有している。放射線検出器11は、入射したX線を検出して蛍光に変換し、その蛍光を電気信号に変換する。放射線検出装置10は、放射線検出器11を駆動し、放射線検出器11から出力された電気信号を画像情報として出力する。放射線検出装置10が出力した画像情報は、外部のディスプレイなどに表示される。
【0017】
アレイ基板12は、ガラス基板16を有している。ガラス基板16の表面には、複数の微細な画素20が正方格子状に配列されている。それぞれの画素20は、薄膜トランジスタ22とフォトダイオード21とを有している。また、ガラス基板16の表面には、画素20が配列された正方格子の行と同数の制御ライン18が各画素20の間を延びている。さらに、ガラス基板16の表面には、画素20が配列された正方格子の列の数と同数のデータライン19が各画素20の間を延びている。シンチレータ膜13は、アレイ基板12の画素20が配列された領域の表面に形成されている。
【0018】
シンチレータ膜13は、アレイ基板12の表面に設けられ、X線が入射すると可視光領域の蛍光を発生する。発生した蛍光は、アレイ基板12の表面に到達する。
【0019】
シンチレータ膜13は、たとえばヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などを真空蒸着法で柱状構造に形成したものである。CsI:Tlの柱状構造結晶の柱(ピラー)の太さは、最表面でたとえば8〜12μm程度である。あるいは、酸硫化ガドリニウム(Gd2O2S)蛍光体粒子をバインダ材と混合し、アレイ基板12上に塗布して焼成および硬化し、ダイサによりダイシングするなどで溝部を形成して四角柱状に形成してシンチレータ膜13を形成してもよい。これらの柱間には、大気、あるいは酸化防止用の窒素(N2)などの不活性ガスが封入され、あるいは真空状態としてもよい。
【0020】
アレイ基板12は、シンチレータ膜13で発生した蛍光を受光して電気信号を発生する。その結果、入射したX線によってシンチレータ膜13で発生した可視光像は、電気信号で表現された画像情報に変換される。
【0021】
放射線検出器11は、シンチレータ膜13が形成された面の反対側の面と支持板31とが接触するように、支持板31に支持されている。回路基板30は、支持板31の放射線検出器11に対して反対側に配置されている。放射線検出器11と回路基板30との間は、フレキシブル基板32で電気的に接続されている。
【0022】
図7は、本実施形態による放射線検出器の回路図である。
【0023】
それぞれのフォトダイオード21は、スイッチング素子である薄膜トランジスタ22を介して制御ライン18およびデータライン19に接続されている。また、それぞれのフォトダイオード21には、蓄積キャパシタ27が並列に接続されている。なお、蓄積キャパシタ27は、フォトダイオード21の容量が兼ねる場合もあり、必ずしも必要ではない。
【0024】
フォトダイオード21およびそれに並列に接続された蓄積キャパシタ27は、薄膜トランジスタ22のドレイン電極25に接続されている。薄膜トランジスタ22のゲート電極23は、制御ライン18に接続されている。薄膜トランジスタ22のソース電極24は、データライン19に接続されている。
【0025】
配列の同じ行に位置する画素20の薄膜トランジスタ22のゲート電極23は、同一の制御ライン18に接続されている。配列の同じ列に位置する画素20の薄膜トランジスタ22のソース電極24は、同一のデータライン19に接続されている。
【0026】
同じ行の画素20中の薄膜トランジスタ22のゲート電極23は、同じゲート線13に接続されている。同じ列の画素20中の薄膜トランジスタ22のソース電極24は、同じデータライン19に接続されている。
【0027】
各薄膜トランジスタ22は、フォトダイオード21への蛍光の入射にて発生した電荷を蓄積および放出させるスイッチング機能を担う。薄膜トランジスタ22は、結晶性を有する半導体材料である非晶質半導体としてのアモルファスシリコン(a−Si)、あるいは多結晶半導体であるポリシリコン(P−Si)などの半導体材料にて少なくとも一部が構成されている。
【0028】
なお、図6および図7において、画素は5行5列あるいは4行4列分しか記載していないが、実際にはもっと多く、解像度、撮像面積に応じて必要な画素が形成されている。
【0029】
図8は、本実施形態による放射線検出装置のブロック図である。
【0030】
放射線検出装置10は、放射線検出器11と、ゲートドライバー39と、行選択回路35と、積分アンプ33と、A/D変換器34と、並列/直列変換器38と、画像合成回路36とを有している。ゲートドライバー39は、放射線検出器11の各制御ライン18に接続されている。ゲートドライバー39は、各薄膜トランジスタ22の動作状態、すなわちオンおよびオフを制御する。積分アンプ33は、放射線検出器11の各データライン19に接続されている。
【0031】
行選択回路35は、ゲートドライバー39に接続されている。並列/直列変換器38は、積分アンプ33に接続されている。A/D変換器34は、並列/直列変換器38に接続されている。A/D変換器34は、画像合成回路36に接続されている。
【0032】
積分アンプ33は、たとえば放射線検出器11と回路基板30とを接続するフレキシブル基板32上に設けられている。その他の素子は、たとえば回路基板30上に設けられている。
【0033】
ゲートドライバー39は行選択回路35からの信号を受信して、制御ライン18の電圧を順番に変更していく。行選択回路35は、X線画像を走査する所定の行を選択するための信号をゲートドライバー39へと送る。積分アンプ33は、放射線検出パネル21からデータライン19を通じて出力される極めて微小な電荷信号を増幅し出力する。
【0034】
図9は、本実施形態による放射線検出器の一部拡大断面図である。
【0035】
アレイ基板12の表面には、フォトダイオード21および薄膜トランジスタ22などの検出素子、並びに、制御ライン18およびデータライン19などの金属配線を覆う絶縁性の保護膜28が形成されている。シンチレータ膜13は、保護膜28の表面に、画素20が配列された領域を覆うように形成されている。
【0036】
シンチレータ膜13の表面には、反射膜14が設けられている。反射膜14は、シンチレータ膜13で発生した蛍光のうちアレイ基板12から遠ざかっていくものをアレイ基板12側へ反射させる。これにより、フォトダイオード21に到達する蛍光光量が増大する。
【0037】
反射膜14は、銀合金やアルミニウムなど蛍光反射率の高い金属をシンチレータ膜上に成膜する方法で形成される。あるいは、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ膜13に密着させたもの、TiOなどの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る拡散反射性の反射膜14を塗布形成してもよい。なお、反射膜14は、放射線検出器11に求められる解像度、輝度などの特性により、必ずしも必要ではない。
【0038】
放射線検出器11には、シンチレータ膜13および反射膜14を覆うように、防湿体15が設けられている。
【0039】
図10は、本実施形態による放射線検出器の上面図である。図11は、本実施形態による放射線検出器の側面図である。
【0040】
防湿体15は、中央部が盛り上がったハット状に形成されている。防湿体15の周辺部分は、平坦な帯状の鍔部50となっている。鍔部50は、アレイ基板12の表面のシンチレータ膜13が形成された領域の外側を取り囲む帯状に形成される。鍔部50の内側には、天板部51が形成されている。天板部51は、シンチレータ膜13よりも若干大きい平板状の部分である。鍔部50と天板部51との間には、斜面部52が形成されている。
【0041】
鍔部50は、アレイ基板12と対向している。鍔部50とアレイ基板12との間は接着されている。アレイ基板12上に形成されたシンチレータ膜13および反射膜14は、防湿体15の天板部51および斜面部52で覆われている。防湿体15は、シンチレータ膜13および反射膜14を外気や湿度から保護する。
【0042】
防湿体15は、たとえば厚さ0.1mmのアルミニウム合金箔で形成されている。防湿体15は、A1N30−O材などのアルミニウム合金箔やアルミニウム箔で形成される。鍔部50の幅は、たとえば5mmである。
【0043】
アレイ基板12には、制御ライン18およびデータライン19のそれぞれの端部が露出した端子群26が設けられている。端子群26は、アレイ基板12の辺に沿って配列されている。制御ライン18につながる端子群26と、データライン19につながる端子群26は、異なる辺に沿って配列されている。これらの端子群26は、フレキシブル基板32を介して、回路基板30と電気的に接続されている。
【0044】
図1は、本実施形態による防湿体の鍔部近傍の拡大断面図である。図2は、本実施形態による防湿体の鍔部近傍の拡大平面図である。
【0045】
防湿体15の鍔部50とアレイ基板12との間には、接着層40が介在している。接着層40は、鍔部50に沿って、アレイ基板12の表面のシンチレータ膜13が形成された領域の外側を取り囲む帯状に設けられている。接着層40の内縁、すなわち、アレイ基板12の表面のシンチレータ膜13が形成された領域に近い方の縁43は、全周にわたって鍔部50の内縁53よりも内側に位置している。接着層40は、加熱硬化型または紫外線硬化型のエポキシ系の接着剤で形成されている。
【0046】
次に、本実施形態の放射線検出器の製造方法について説明する。
【0047】
まず、ガラス基板16の表面に、光電変換部17、ゲートライン18およびシグナルライン19などを形成して、アレイ基板12を得る。次に、このアレイ基板12上に、シンチレータ膜13および反射膜14を順次形成する。また、アルミニウム合金箔などをハット状にプレス成型することによって、防湿体15を製造する。
【0048】
次に、このようにして得られたシンチレータ膜13および反射膜14と一体化したアレイ基板12と、防湿体15を接着する。
【0049】
図3は、本実施形態による防湿体への接着剤の塗布方法を示す平面図である。図4は、本実施形態による防湿体への接着剤の塗布方法を示す一部拡大平面図である。図5は、本実施形態による防湿体への接着剤の塗布方法を示す一部拡大断面図である。
【0050】
アレイ基板12への防湿体15の接着では、まず、防湿体15の鍔部50のアレイ基板12と対向する面に紫外線硬化型の接着剤41,42をディスペンサーを用いて塗布する。接着剤41,42は、鍔部50の全周にわたって少なくとも2重に塗布される。これらは、少なくとも鍔部50のほぼ中央に塗布される接着剤41と、鍔内縁に接するように塗布される接着剤42とを含む。
【0051】
次に、接着剤41,42を塗布された防湿体15を減圧雰囲気下でアレイ基板12に押し付けて両者を圧着する。この圧着の際の雰囲気は、たとえば0.1気圧程度の減圧雰囲気である。また、接着層40の厚さの均一化および接着剤41,42の鍔部50の内側へのはみ出しの確保のため、圧着時の接着剤41,42の粘度はある程度高い方が好ましい。そこで、接着剤41,42の防湿体15への塗布の前、あるいは塗布の後で、圧着前に接着剤をある程度硬化させてもよい。
【0052】
このようにして、放射線検出器11を製造することにより、接着層40の内縁43が鍔部50の内縁53よりも内側に位置するようにすることができる。
【0053】
このようにして、防湿構造を形成することによって、放射線検出器11が完成する。この放射線検出器11の制御ライン18、データライン19の各端子部26にTAB接続により配線を繋いで、アンプ以降の回路に接続し、さらに筐体に組み込んで放射線検出装置が完成する。
【0054】
防湿体15の鍔部50への接着剤の塗布量および鍔部50の幅方向での塗布位置を鍔部50の周方向全体にわたって、完全に均一にすることは困難である。また、塗布量および塗布位置の不均一性および防湿体15とアレイ基板12との傾きなどによって、防湿体15とアレイ基板12とを圧着した際に、接着剤の潰れの態様が不均一になる場合がある。さらに、接着剤が完全に硬化していない状態で減圧雰囲気から大気圧に解放された場合、外部の大気圧によって接着剤が内側すなわちシンチレータ膜13に近づく方向に動く可能性もある。
【0055】
このような接着剤の塗布量、塗布位置、潰れの不均一性、あるいは、圧力差による接着剤の移動、さらにこれらの組み合わせによって、アレイ基板12と防湿体15を接着する接着剤の幅や厚さが不均一になる場合がある。このような幅や厚さの不均一性が顕著になると、鍔部50とアレイ基板12との接着部の周方向の一部で接着力が低下したり、耐湿性能が劣化したりする可能性がある。さらに、接着層40の厚さが薄くなると、アレイ基板12の表面の保護膜28と防湿体15が接触する可能性もある。
【0056】
また、アレイ基板12、シンチレータ膜13および反射体14と、防湿体15との間の空間54は減圧雰囲気であるから、大気圧によって防湿体15がアレイ基板12側に押されて、防湿体15にはアレイ基板12およびシンチレータ膜13に密着する方向の力が働く。この力などによって鍔部50の内縁53の曲げ加工部がアレイ基板12側に押されて変形すると、接着層40に引張応力が生じる。この引張応力により、接着層40が破壊される可能性がある。
【0057】
接着剤潰れの不均一性、未硬化接着剤の大気圧による流動、あるいは、大気圧などに起因する力による接着層の破壊が生じると、絶縁性の接着層40を介さずに、防湿体15とアレイ基板12とが直接接触する可能性がある。
【0058】
図12は、アレイ基板の表面の保護膜と防湿体が接触した状態の例を示す断面図である。
【0059】
防湿体15とアレイ基板12とが直接接触すると、保護膜28が破壊されて、アレイ基板12に形成された金属配線29と防湿体15とが直接接触し、アレイ基板12上の配線が短絡してしまう可能性がある。シンチレータ膜13が形成されたアレイ基板12と防湿体15の鍔部50を紫外線硬化型などの接着剤を介して、たとえば減圧雰囲気下で接着封止する防湿構造では、防湿体15の鍔部50とアレイ基板12との間に絶縁性接着剤を確実に形成し、応力緩和のためALハット自体の変形を抑えることが、機械的・電気的に安定させる上で重要となる。
【0060】
本実施形態では、防湿体15とアレイ基板12とを接着する接着層40が、接着層40の内縁43が防湿体15の鍔部50の内縁53よりも内側に位置するように広がっている。このため、接着層40の鍔部50の内縁53よりも内側にはみ出して硬化した部分が、防湿体15のアレイ基板12への近接を抑制する。
【0061】
さらに、このようにはみ出して硬化した接着剤によって、防湿体15の鍔部50の内縁53近傍の斜面部52とアレイ基板12との間の空隙が埋められる。その結果、鍔部50の内縁53よりも内側には、接着層40の厚さが鍔部50とアレイ基板12との間よりも厚い部分が形成される。この接着層40の厚い部分は、斜面部52に沿って盛り上がった形状となる。このため、防湿体15の鍔部50の近傍の曲げ加工部が固定され、外部大気圧などによる防湿体15の変形が抑制される。その結果、接着層40に発生する引張応力が低減される。このように接着層40に発生する応力が抑制されるため、接着層40が剥がれる可能性が低減される。
【0062】
また、接着層40の内縁43がシンチレータ膜13に接するようにすることにより、シンチレータ膜13の外縁と防湿体15の鍔部50との間でアレイ基板12の表面が接着層40で覆われることとなり、防湿体15のアレイ基板12との接触の可能性が極めて小さくなる。特に、接着層40の内縁43が全周にわたってシンチレータ膜13に接するようにすると、シンチレータ膜13の外縁と防湿体15の鍔部50との間のアレイ基板12の表面が全て接着層40で覆われるため、効果が大きい。
【0063】
このように、本実施形態では、接着層40の機械強度が増加するため、高信頼性の防湿構造となる。また、特に防湿体15としてアルミニウムなどの金属を用いた場合に、防湿体15とアレイ基板12上の配線間の電気的短絡の可能性が抑制される。その結果、放射線検出器11の製造時およびその後の使用中の健全性が向上する。
【0064】
また、本実施形態の製造方法のように、防湿体15の鍔部50への接着剤塗布を鍔部50の中央部と鍔部50の内縁53の少なくとも2重に塗布する多重塗布法にて行うことにより、接着剤同士の繋がりが改善される。さらに、防湿体15の鍔部50の外側および内側への接着剤のはみ出し量を、より精度よく制御することができる。
【0065】
接着剤を多重塗布した防湿体15をシンチレータ膜13および反射膜14と一体化されたアレイ基板12と減圧雰囲気下で接着封止すると、鍔部50の中央部に塗布した接着剤41は鍔部50で押し広げられて均一厚の接着層40を形成し、鍔部50の内縁53に塗布された接着剤42は、鍔部50の中央方向に広がって中央部に塗布した接着剤に繋がると共に、鍔部50の内側にはみ出すこととなる。
【0066】
また、このように接着剤41,42を2重に塗布する方法を用いることにより、接着剤未硬化状態で大気開放された場合であっても、接着剤流動による接着層薄膜化を抑制できる。接着剤を1重に塗布する方法では、圧着時に十分接着剤を拡げて接着層の幅を確保するために、接着剤の粘度をある程度小さくしておく必要がある。
【0067】
しかし、本実施の形態のように接着剤を多重に塗布する方法では、圧着前の接着剤形成面積を広くとる事ができるため、高粘度の接着剤でも良好な接着層40の形成が可能である。接着剤の粘度の高い方が流動性は低くなり、外部大気圧による接着剤流動は抑えられる。接着剤の粘度は、材料自体の樹脂粘度を調整することによって高めることができる。あるいは、紫外線硬化型接着剤の場合には、圧着前の紫外線照射量を増やすことによって高粘度化することができる。
【0068】
接着剤を防湿体15の鍔部50に単に1重に塗布した場合と2重に塗布した場合とで、同等の圧着力で圧着したときの接着層40の厚さを観察した。その結果、1重に塗布した場合には、接着層の厚さの平均値が50μmであったのに対して、最薄部で厚さが15μm程度の部分が観察された。一方、本実施の形態のように接着剤を2重に塗布した場合には、接着層40の厚さのばらつきは小さく、最薄部でも50μm以上の膜厚が確保されていた。このように、本実施の形態では、接着層40に薄い部分が生じにくく、十分な厚さの接着層40を鍔部50の全周にわたって形成できることがわかった。
【0069】
以上のように、接着剤の多重塗布により、接着層40を防湿体内側にはみ出した構成とする事で、機械的強度増加と、基板金属配線との絶縁性確保が可能となり、高い防湿性能と信頼性を持った放射線検出器を提供できる。
【0070】
このように、接着剤多重塗布により、接着剤をALハット内側にはみ出した構成とする事で、機械的強度増加と、基板金属配線との絶縁性確保が可能となり、高い防湿性能と信頼性を持った放射線検出器を提供できる。
【0071】
また、防湿体15の材料としてアルミニウムやアルミニウム合金を用いた場合だけでなく、他の金属材料を用いた場合も同様である。特に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金の箔の場合には、金属材料としてはX線吸収係数が小さいため、防湿体15内でのX線吸収ロスを抑えることができる点でメリット大きく、ハット状に加工する場合にも加工性に優れる。
【0072】
防湿体15のアレイ基板12への接着を減圧雰囲気にて行うことは、飛行機輸送を想定した減圧下での機械的強度に優れた防湿構造を形成できる点でも有効である。防湿体15のアレイ基板12への接着を大気圧下で行う場合でも、十分な接着層厚と接着層幅を確保するために、本実施の形態のような2重塗布の方法は有効である。
【0073】
接着剤41,42を防湿体15に塗布する代わりに、アレイ基板12側に塗布してもよい。このような方法であっても、防湿体15の鍔部50の中央部と鍔部50の内縁53に対応する場所に多重塗布を行う事で、防湿体15に接着剤41,42を塗布した場合と同様の効果を得ることができる。ただし、アレイ基板12側に接着剤を塗布する場合は、防湿体15とアレイ基板12との貼り合わせの位置ずれによる影響が大きいため、防湿体15側へ接着剤を塗布する方法の方が、プロセス安定化の点で優れている。
【0074】
本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
10…放射線検出装置、11…放射線検出器、12…アレイ基板、13…シンチレータ膜、14…反射膜、15…防湿体、16…ガラス基板、17…光電変換部、18…制御ライン、19…データライン、20…画素、21…フォトダイオード、22…薄膜トランジスタ、23…ゲート電極、24…ソース電極、25…ドレイン電極、26…端子群、27…蓄積キャパシタ、28…保護膜、29…金属配線、30…回路基板、31…支持板、32…フレキシブル基板、33…積分アンプ、34…A/D変換器、35…行選択回路、36…画像合成回路、38…並列/直列変換器、39…ゲートドライバー、40…接着層、41…接着剤、42…接着剤、50…鍔部、51…天板部、52…斜面部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けたアレイ基板と、
前記アレイ基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように設けられて放射線を蛍光に変換するシンチレータ膜と、
前記アレイ基板と対向して前記シンチレータ膜を囲む鍔部を備えて前記シンチレータ膜を覆う防湿体と、
前記鍔部と前記アレイ基板とを接着し内縁が全周にわたって前記鍔部よりも内側に位置する接着層と、
を具備することを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記接着層の前記鍔部よりも内側の部分は前記鍔部と前記アレイ基板との間の部分よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記防湿体は金属で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記接着層は紫外線硬化型の絶縁性樹脂接着剤および熱硬化型の絶縁性樹脂接着剤のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の放射線検出器。
【請求項5】
蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けた基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を形成する工程と、
周囲に帯状の鍔部が形成された防湿体の前記鍔部および前記防湿体の前記鍔部よりも内側に少なくとも2重に接着剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後に、前記鍔部の前記接着剤が塗布された面を前記基板の前記シンチレータ膜よりも外側の部分に減圧雰囲気下で押し付ける接着工程と、
前記接着剤を硬化させる硬化工程と、
を具備することを特徴とする放射線検出器の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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