説明

放射線治療システム

【課題】治療回数を減らすことができるとともに治療の際の操作者の負担を減少させることができる放射線治療システムを提供する。
【解決手段】治療用放射線ビーム照射装置3は複数の照射源3aを有している。各照射源3aから照射される治療用放射線ビーム2は一の焦点領域3bに集束するようになっている。人体内撮像装置20によって撮像された人体7内の画像に基づいて、焦点領域3bに人体7内の治療対象部分9が常に含まれるように載置台11を経時的に移動させるよう、制御装置15は載置台駆動装置30の制御を行うようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体内の治療対象部分に対して放射線ビームを照射することにより当該治療対象部分の治療を行う放射線治療システムに関し、とりわけ、治療回数を減らすことができるとともに治療の際の操作者の負担を減少させることができる放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人体内の治療対象部分、具体的には例えば腫瘍に対して放射線ビームを照射することにより当該腫瘍の治療を行う放射線治療システムについて、様々な種類のものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
従来の放射線治療システムにおいては、人体を載置するための寝台と、この寝台の周りに設けられたいわゆるドーナツ型のガントリ機構とが配設されている。ここで、人体が寝台に載置されたときに、この人体は回転ガントリ機構の中心軸に沿って位置するようになっている。そして、回転ガントリ機構は、このような位置に配置された人体を中心として回転するようになっている。
【0004】
回転ガントリ機構には、寝台に載置された人体に放射線ビーム(例えばガンマ線ビーム)を照射する放射線ビーム照射器が取り付けられている。そして、人体に対して治療を行う際に、回転ガントリ機構が常時人体の周りを回転することにより、当該回転ガントリ機構に取り付けられた放射線ビーム照射器から人体に対して様々な方向(360°の方向)から放射線ビームが照射されることとなる。このように様々な方向から放射線ビームを人体に照射することにより、人体の正常組織を保護することができるようになる。
【0005】
【特許文献1】特開2006−51064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の放射線治療システムにおいては、回転ガントリ機構に放射線ビーム照射器が一つしか設けられていないため、1回の治療では十分な放射線ビームの吸収線量が得られないという問題があった。このため、従来の放射線治療システムでは例えば20〜30回の治療を行う必要があった。なお、1回の治療における放射線ビームの吸収線量を大きくするために放射線ビーム照射器から照射される放射線ビームの線量を大きくしたときには、人体そのものに対してダメージを与えるおそれがある。
【0007】
また、回転ガントリ機構に放射線ビーム照射器が一つしか設けられていないような従来の放射線治療システムでは、放射線ビームを人体内の腫瘍等に的確に当てるために、医者等の操作者が放射線ビーム照射器からの放射線ビームの照射方向を的確に調整する必要がある。しかしながら、このような放射線ビームの照射方向の調整は手間のかかるものであり、操作者に対して大きな負担となっていた。
【0008】
なお、人体の頭部にある腫瘍等を治療するために、多数の照射源を有するような頭部専用のヘッドギアが既に開発されている。このようなヘッドギアを人体の頭部に装着し、この頭部の周囲に位置された多数の照射源から頭部に向かって放射線ビームを様々な方向(360°の方向)から照射することにより、頭部にある腫瘍等の治療を行うことができるようになる。しかしながら、このような多数の照射源を有するような頭部専用のヘッドギアを全身用の放射線治療システムにそのまま適用することは困難である。なぜならば、人体の頭部にある腫瘍等はこの頭部自体に対してほとんど位置が変動しないのに対し、人体の肺腫瘍等は呼吸によってその位置が周期的に変動してしまい、人体の呼吸に伴う位置の変動幅が2〜3cmを超える場合もある。このような全身用の放射線治療システムに、前述の多数の照射源を有するような頭部専用のヘッドギアの仕組みを適用しても、腫瘍等の周期的な位置変動に伴って各照射源からの放射線ビームの照射方向をそれぞれ照射源毎に常時調整しなければならず、実際にはこのような照射源毎の放射線ビームの照射方向の調整はほぼ不可能であった。
【0009】
また、上述のような人体の呼吸に伴う肺腫瘍等の腫瘍の位置の周期的な変動に係る問題に対応するため、人体の呼吸を一時的に止めてその間に放射線ビームを腫瘍に照射したり、あるいは呼吸に伴う人体の皮膚表面の変動を検出してこの皮膚表面の変動に応じて放射線ビームの照射位置を変動させる呼吸同期照射法を行ったりすることが知られている。ここで、上述のような呼吸同期照射法に必要な呼吸位相検出手段として、従来は歪みゲージを人体の皮膚表面に貼着し、呼吸による人体の皮膚表面の変動を当該歪みゲージによって圧力変化として検出し、この圧力変化から呼吸位相を検出するものが採用されていた。
【0010】
しかしながら、人体の呼吸を一時的に止めてその間に放射線ビームを腫瘍に照射する方法では、患者の個人差により腫瘍位置が安定的に静止しないおそれがある。また、呼吸同期照射法において歪みゲージを用いる場合には、人体の皮膚表面への歪みゲージの貼着状態によってこの皮膚表面の位置変動に対応する圧力の検出特性が変化するため、安定的な呼吸位相の検出が困難であるという問題があった。
【0011】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、複数の照射源を有する治療用放射線ビーム照射装置を用いて様々な方向から腫瘍等の治療対象部分に複数の治療用放射線ビームを照射することにより1回の治療における治療対象部分に対する治療用放射線ビームの吸収線量を大きくすることができ、このため治療回数を減らすことができ、しかも治療対象部分に対する各照射源からの治療用放射線ビームの照射方向を調整する必要がなく治療の際の操作者の負担を減少させることができる放射線治療システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、人体内の治療対象部分に対して放射線ビームを照射することにより当該治療対象部分の治療を行う放射線治療システムであって、人体を載置するための移動自在の載置台と、前記載置台に載置された人体に治療用放射線ビームを照射する治療用放射線ビーム照射装置であって、複数の照射源を有し、各照射源から照射される治療用放射線ビームが一の焦点領域に集束するようになっているような治療用放射線ビーム照射装置と、前記載置台に載置された人体に撮像用放射線ビームを照射することにより当該人体内における治療対象部分の位置を示すような人体内の画像を生成する人体内撮像装置と、前記載置台を移動させる載置台駆動装置と、前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて、前記治療用放射線ビーム照射装置における治療用放射線ビームの焦点領域に人体内の治療対象部分が常に含まれるように前記載置台を経時的に移動させるよう前記載置台駆動装置の制御を行う制御装置と、を備えたことを特徴とする放射線治療システムである。
【0013】
このような放射線治療システムによれば、治療用放射線ビーム照射装置が複数の照射源を有し、各照射源から照射される治療用放射線ビームが一の焦点領域に集束するようになっており、さらに当該焦点領域に人体内の腫瘍等の治療対象部分が常に含まれるように載置台を経時的に移動させるよう載置台駆動装置の制御を行うようになっている。このため、様々な方向から腫瘍等の治療対象部分に複数の治療用放射線ビームを照射することにより1回の治療における治療対象部分に対する治療用放射線ビームの吸収線量を大きくすることができる。また、治療用放射線ビーム照射装置の各照射源から照射される治療用放射線ビームの照射方向は予め固定されており、この治療用放射線ビームの焦点領域は位置固定されたものとなり、この位置固定された焦点領域に人体内の治療対象部分が常に含まれるよう載置台を経時的に移動させているので、操作者は治療対象部分に対する各照射源からの治療用放射線ビームの照射方向を調整する必要がなく、治療の際の操作者の負担を減少させることができる。
【0014】
本発明の放射線治療システムにおいては、前記人体内撮像装置は、前記載置台に載置された人体を挟むよう配設されたX線管およびX線検出器を有し、前記X線管および前記X線検出器は前記人体の周りで一体的に回転するようになっており、前記X線管から前記人体に向けて常時照射されたX線ビームが前記X線検出器で検出されることによって人体内の画像を経時的に生成するようになっていることが好ましい。この場合には、X線管およびX線検出器からなる組合せ体を人体の周りで回転させることにより、様々な方向からの人体内の画像を得ることができるようになり、治療対象部分を含む人体内の3次元画像の形成が可能となる。
【0015】
ここで、前記X線管は、前記人体における治療対象部分を含むような制限された領域にのみX線ビームを照射するようになっていることが特に好ましい。このことにより、制御装置において画像の処理を行う際にX線ビームによる人体の正常組織への放射線被曝を抑制することができる。
【0016】
本発明の放射線治療システムにおいては、前記治療用放射線ビーム照射装置の各照射源は、前記人体の周りにある横長の楕円形の軌跡に沿って一体的に回転するようになっていることが好ましい。ここで、載置台に載置される人体は概ね仰向け状態となりこの人体の断面は横長の楕円形となるので、各照射源が人体の周りにある横長の楕円形の軌跡に沿って回転するようにしたときには、人体の真上にある照射源と人体との間の距離を小さくすることができ、各照射源からの治療用放射線ビームの線量を比較的少なくした場合であっても治療対象部分において十分な治療用放射線ビームの吸収線量を得ることができる。
【0017】
本発明の放射線治療システムにおいては、前記制御装置は、前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて前記載置台駆動装置の制御を行う際に、前記画像に対して当該画像のうち治療対象部分を含まない領域を除外するようなマスク処理を行い、このマスク処理が行われた画像を用いて前記載置台駆動装置の制御を行うようになっていることが好ましい。このことにより、制御装置において画像の処理を行う際に当該画像における画素数を大幅に低減させることができ、制御装置において高速処理を行うことができるようになる。
【0018】
本発明の放射線治療システムにおいては、前記制御装置は、前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて前記載置台駆動装置の制御を行う際に、前記画像に対して2値化処理を行い、この2値化処理が行われた画像を用いて前記載置台駆動装置の制御を行うようになっていることが好ましい。このことにより、制御装置において画像の処理を行う際において処理の対象となるデータ量を低減させることができ、制御装置において高速処理を行うことができるようになる。
【0019】
本発明の放射線治療システムにおいては、前記制御装置は、前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて前記治療対象部分を含む3次元画像を形成し、前記3次元画像に対して当該3次元画像のうち前記治療対象部分を含まない領域を除外するようなマスク処理を行い、このマスク処理が行われた3次元画像に対して2値化処理を行い、この2値化処理された3次元画像により前記治療対象部分の重心の3次元位置を算出し、前記治療対象部分の重心が前記治療用放射線ビーム照射装置における治療用放射線ビームの焦点領域に常に含まれるように前記載置台を経時的に移動させるよう前記載置台駆動装置の制御を行うことが好ましい。この場合には、治療対象部分を含む3次元画像を用いることにより当該治療対象部分の位置をより的確に検出することができるようになり、この際にマスク処理を行うことにより制御装置において画像の処理を行う際に当該画像における画素数を大幅に低減させることができ、さらに2値化処理を行うことにより制御装置において画像の処理を行う際において処理の対象となるデータ量を低減させることができ、その結果、制御装置において高速処理を行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の放射線治療システムによれば、治療回数を減らすことができるとともに治療の際の操作者の負担を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一の実施の形態について説明する。図1乃至図3は、本発明による放射線治療システムの一の実施の形態を示す図である。
このうち、図1は、本発明の一の実施の形態における放射線治療システムの構成を示す概略斜視図であり、図2は、図1に示す放射線治療システムの概略側面図であり、図3は、図1、図2に示す放射線治療システムの制御装置における制御内容を示すフローチャートである。
【0022】
本実施の形態による放射線治療システムは、人体7の内部の治療対象部分、具体的には例えば肺腫瘍や肝腫瘍等の腫瘍9に対して放射線ビームを照射することにより、この腫瘍9の治療を行うものである。ここで、肺腫瘍や肝腫瘍等は人体7の呼吸によりその位置が周期的に変動するものであるが、本実施の形態による放射線治療システムにおいては、呼吸による周期的な移動を伴わないような腫瘍を治療対象部分とすることもできる。
【0023】
図1および図2、とりわけ図2に示すように、放射線治療システムは、人体7を載置するための移動自在の寝台11と、寝台11に載置された人体7に対して治療用放射線ビーム2を照射する照射源(コバルト線源)3aを複数有するような治療用放射線ビーム照射装置3と、人体7にX線ビーム(撮像用放射線ビーム)4を照射するX線管5と、X線管5から照射され人体を透過したX線ビーム4を受容し、この受容したX線ビーム4から人体7内の透視画像を生成するようなX線検出器6と、寝台11を移動させる寝台駆動装置30と、を備えている。ここで、X線管5およびX線検出器6により、人体7内の撮像を行うためのX線CT装置(人体内撮像装置)20が構成されている。また、寝台駆動装置30の制御を行うための制御装置15が放射線治療システムに設置されている。
【0024】
このような放射線治療システムの各構成要素について、図1および図2を用いて以下に詳述する。
【0025】
図1および図2に示すように、治療用放射線ビーム照射装置3は、回転ガントリ機構1およびこの回転ガントリ機構1に取り付けられた複数(例えば約200個)の照射源(コバルト線源)3aを有しており、各照射源3aからそれぞれ治療用放射線ビーム2が照射されるようになっている。回転ガントリ機構1は、略球形の中空構造体からなり、治療を行う際に人体7は回転ガントリ機構1の中心軸に沿って寝台11上に載置されるようになっており、回転ガントリ機構1は、このような位置に配置された人体7を中心として図1および図2の矢印方向に回転するようになっている。
【0026】
より具体的に説明すると、照射源3aは回転ガントリ機構1の内面壁において複数設けられており、これらの照射源3aは例えば図1および図2の例によれば各々が鉛直面に沿った6つのリング形状に配置されている。ここで、各照射源3aから照射される治療用放射線ビーム2が略球形状の焦点領域3bに集束するよう、回転ガントリ機構1に対する各照射源3aの取り付け位置が設定されているとともに各照射源3aからの治療用放射線ビーム2の照射方向が固定されている。また、各照射源3aにはそれぞれ治療用放射線ビーム2の発散角を絞るためのコリメータが取り付けられており、このコリメータが治療用放射線ビーム2の発散角を絞ることにより人体7内の特定部位に高い線量を集めることができるようになる。また、各照射源3aから照射される治療用放射線ビーム2が集束する焦点領域3bは、回転ガントリ機構1が回転した場合であってもその3次元位置(空間座標)は常に略同一となっている。
【0027】
治療用放射線ビーム2としては、例えばエネルギーが約1MeV(百万ボルト)であるガンマ線(放射線同位元素であるコバルト60など)ビームが使用される。
【0028】
X線CT装置20のX線管5は、人体7に対して撮像用放射線ビームであるX線ビーム4を照射するものである。具体的には、X線管5は、照射範囲に人体7内の腫瘍9を含むようX線ビーム4の照射を行う。ここで、X線管5は、内部に設けられた電子加速部により100kV程度の電圧で電子を加速し、この加速された電子を金属ターゲットに衝突させることによりX線ビーム4を発生させ、このX線ビーム4を人体7に照射することが好ましい。
【0029】
X線CT装置20のX線検出器6は、X線管5から照射され人体7を透過したX線ビーム4を受容するものであり、例えばアモルファスシリコンを有するフラットパネル型の半導体2次元アレイ検出器からなる。また、X線検出器6は、受容したX線ビーム4から人体7内の透視画像を生成するようになっている。
【0030】
また、図1および図2に示すように、寝台11には当該寝台11を移動させるための寝台駆動装置30が取り付けられており、この寝台駆動装置30によって寝台11がX方向、Y方向およびZ方向に自在に移動するようになっている。
【0031】
さらに、前述のように、放射線治療システムには寝台駆動装置30を制御するための制御装置15が設けられている。この制御装置15は、ケーブルを介してX線CT装置20のX線検出器6および寝台駆動装置30にそれぞれ通信接続されている。図3に、制御装置15による制御内容がフローチャートで示されている。制御装置15の制御内容について大まかに説明すると、当該制御装置15は、X線CT装置20によって撮像された人体7内の透視画像に基づいて、治療用放射線ビーム照射装置3における治療用放射線ビーム2の焦点領域3bに人体7内の腫瘍9が常に含まれるように、寝台11を経時的に往復移動させるよう寝台駆動装置30の制御を行うようになっている。
【0032】
次に、このような構成からなる放射線治療システムの動作について以下に説明する。あわせて、制御装置15による寝台駆動装置30の制御内容についても説明する。
【0033】
まず、人体7を寝台11上に載置し、この寝台11を寝台駆動装置30によって移動させることにより人体7を回転ガントリ機構1の中心軸に位置させる。そして、回転ガントリ機構1を図1および図2の矢印方向に回転させながら、治療用放射線ビーム照射装置3の各照射源3aから人体7に向かって複数の治療用放射線ビーム2を様々な方向(360°の方向)から同時に照射する。同時に、X線管5およびX線検出器6からなる組合せ体を人体7の周りで一体的に回転させ、X線管5から人体7に向けて常時照射されるX線ビーム4がX線検出器6で検出されることによって人体7内の画像を経時的に生成する。この際に、X線管5およびX線検出器6からなる組合せ体を人体7の周りで回転させているので、様々な方向からの人体7内の画像を得ることができるようになり、腫瘍9を含む人体7内の3次元画像の形成が可能となる。
【0034】
そして、制御装置15が図3に示すような方法に従って寝台駆動装置30を常時制御することにより、人体7の呼吸によって腫瘍9が周期的に移動する場合であってもこの腫瘍9の3次元位置を常にほぼ一定にし、しかもこの腫瘍9が常に治療用放射線ビーム2の焦点範囲3b内に位置するようにするように、寝台駆動装置30が寝台11を往復移動させている(図2における点線部分の寝台11参照)。
【0035】
まず、図3のStep1に示すように、制御装置15において、X線CT装置20により経時的に得られた、人体7に対する様々な角度からの透視画像に基づいて人体7内の3次元画像の形成を行う。この際に、3次元画像に腫瘍9が含まれるようにする。次に、図3のStep2に示すように、得られた3次元画像に対して当該3次元画像のうち腫瘍9を含まない領域を除外するようなマスク処理を行う。このように、マスク処理によって3次元画像のうち関心がない領域を画像処理対象から除外することにより、制御装置15において3次元画像の処理(後述)を行う際に当該3次元画像における画素数を大幅に低減させることができ、制御装置15において高速処理を行うことができるようになる。
【0036】
そして、図3のStep3に示すように、マスク処理が行われた3次元画像に対して2値化処理を行う。ここで、2値化処理とは、3次元画像の全画素に対して、予め設定された閾値に基づいて0または1のデータのみを含むように加工することである。このことにより、制御装置15において3次元画像の処理(後述)を行う際において処理の対象となるデータ量を低減させることができ、制御装置15において更に高速処理を行うことができるようになる。
【0037】
その後、図3のStep4に示すように、2値化処理された3次元画像により腫瘍9の重心の3次元位置(空間座標)を算出する。具体的には、3次元画像における0または1からなる各画素について処理を行うことで、腫瘍9の重心の3次元位置を算出する。そして、図3のStep5に示すように、腫瘍9の重心が治療用放射線ビーム照射装置3における治療用放射線ビーム2の焦点領域3bに常に含まれるように寝台11を経時的に移動させるよう、寝台駆動装置30の制御が行われる。具体的には、腫瘍9の重心の3次元位置が常に略同一になるように、寝台駆動装置30によって寝台11を経時的に移動させるようにする。さらに詳細に説明すると、略球形の焦点領域3bの中心を座標の原点(0,0,0)とし、上記算出により得られる腫瘍9の重心の3次元位置が常に焦点領域3bの中心の座標(0,0,0)に復帰するように寝台11を移動させる。
【0038】
そして、図3のStep6に示すように、放射線治療システムによる放射線治療が終了するまで、寝台駆動装置30によって寝台11を経時的に移動させる。
【0039】
以上のように図1乃至図3に示すような本実施の形態の放射線治療システムによれば、治療用放射線ビーム照射装置3が複数の照射源3aを有し、各照射源3aから照射される治療用放射線ビーム2が一の焦点領域3bに集束するようになっている。さらに当該焦点領域3bに人体7内の腫瘍9が常に含まれるように寝台11を経時的に移動させるよう寝台駆動装置30の制御を行うようになっている。このため、様々な方向から腫瘍9に複数の治療用放射線ビーム2を照射することにより1回の治療における腫瘍9に対する治療用放射線ビーム2の吸収線量を大きくすることができる。また、治療用放射線ビーム照射装置3の各照射源3aから照射される治療用放射線ビーム2の照射方向は予め固定されており、この治療用放射線ビーム2の焦点領域3bはほぼ位置固定されたものとなり、このほぼ位置固定された焦点領域3bに人体7内の腫瘍9が常に含まれるよう寝台11を経時的に移動させているので、操作者は腫瘍9に対する各照射源3aからの治療用放射線ビーム2の照射方向を調整する必要がなく、治療の際の操作者の負担を減少させることができる。
【0040】
なお、本実施の形態による放射線治療システムは、上記の態様に限定されるものではなく、様々の変更を加えることができる。図4は、本発明における放射線治療システムの他の構成を示す概略縦断面図である。
【0041】
図4に示すような放射線治療システムにおいては、回転ガントリ機構1は略球形の中空構造体ではなくその断面が横長の楕円形となっているような中空構造体となっており、その内面壁において複数の照射源3aが設けられている。このため、人体7を取り囲むような横長の楕円形の軌跡に沿って各照射源3aが一体的に回転するようになっている。
【0042】
ここで、寝台に載置される人体7は概ね仰向け状態となるのでこの人体7の断面は横長の楕円形となる。このため、各照射源3aが人体7の周りにある横長の楕円形の軌跡に沿って回転するようにしたときには、人体7の真上にある照射源3aと人体7との間の距離を小さくすることができ、各照射源3aからの治療用放射線ビーム2の線量を比較的少なくした場合であっても腫瘍9において十分な治療用放射線ビーム2の吸収線量を得ることができる。
【0043】
なお、図4では複数の照射源3aの組合せ体について1つのリングのみを示したが、回転ガントリ機構1としてその断面が横長の楕円形となっているような中空構造体からなるものを用いた場合には、図1および図2に示すような全てのリング配置が横長の楕円形となる。
【0044】
本実施の形態の放射線治療システムの更に他の構成について、図5を用いて説明する。図5は、本発明における放射線治療システムの更に他の構成を示す概略縦断面図である。
【0045】
図5に示すように、X線管5およびX線検出器6からなる組合せ体は人体7の周りで一体的に回転するようになっており、X線管5から人体7に向けて常時照射されるX線ビーム4がX線検出器6で検出されることによって人体7内の画像を経時的に生成する。ここで、X線管5は、人体7における腫瘍9を含むような制限された領域にのみX線ビーム4を照射するようになっている。そして、X線検出器6は、腫瘍9を含むような制限された領域にのみ照射されたX線ビーム4を受容するよう、その一部分6AのみでX線ビーム4の検出を行うようになっている。
【0046】
図5に示すようなX線CT装置20によれば、制御装置15において画像の処理を行う際に、X線ビーム4による人体の正常組織への放射線被曝を抑制することができる。
【0047】
また、更に他の放射線治療システムにおいては、治療用放射線ビーム照射装置の各照射源から照射される治療用放射線ビームの焦点領域の空間座標は位置固定されておらず経時的に変動するようになっており、寝台駆動装置は、人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて、人体内の腫瘍がこの経時的に変動する焦点領域に常に含まれるように寝台を経時的に移動させるようになっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一の実施の形態における放射線治療システムの構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す放射線治療システムの概略側面図である。
【図3】図1、図2に示す放射線治療システムの制御装置における制御内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明における放射線治療システムの他の構成を示す概略縦断面図である。
【図5】本発明における放射線治療システムの更に他の構成を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 回転ガントリ機構
2 治療用放射線ビーム(ガンマ線ビーム)
3 治療用放射線ビーム照射装置
3a 照射源(コバルト線源)
3b 焦点領域
4 X線ビーム
5 X線管
6 X線検出器
7 人体
9 腫瘍
11 寝台
15 制御装置
20 X線CT装置
30 寝台駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体内の治療対象部分に対して放射線ビームを照射することにより当該治療対象部分の治療を行う放射線治療システムであって、
人体を載置するための移動自在の載置台と、
前記載置台に載置された人体に治療用放射線ビームを照射する治療用放射線ビーム照射装置であって、複数の照射源を有し、各照射源から照射される治療用放射線ビームが一の焦点領域に集束するようになっているような治療用放射線ビーム照射装置と、
前記載置台に載置された人体に撮像用放射線ビームを照射することにより当該人体内における治療対象部分の位置を示すような人体内の画像を生成する人体内撮像装置と、
前記載置台を移動させる載置台駆動装置と、
前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて、前記治療用放射線ビーム照射装置における治療用放射線ビームの焦点領域に人体内の治療対象部分が常に含まれるように前記載置台を経時的に移動させるよう前記載置台駆動装置の制御を行う制御装置と、
を備えたことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項2】
前記人体内撮像装置は、前記載置台に載置された人体を挟むよう配設されたX線管およびX線検出器を有し、前記X線管および前記X線検出器は前記人体の周りで一体的に回転するようになっており、前記X線管から前記人体に向けて常時照射されたX線ビームが前記X線検出器で検出されることによって人体内の画像を経時的に生成するようになっていることを特徴とする請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項3】
前記X線管は、前記人体における治療対象部分を含むような制限された領域にのみX線ビームを照射するようになっていることを特徴とする請求項2記載の放射線治療システム。
【請求項4】
前記治療用放射線ビーム照射装置の各照射源は、前記人体の周りにある横長の楕円形の軌跡に沿って一体的に回転するようになっていることを特徴とする請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて前記載置台駆動装置の制御を行う際に、前記画像に対して当該画像のうち治療対象部分を含まない領域を除外するようなマスク処理を行い、このマスク処理が行われた画像を用いて前記載置台駆動装置の制御を行うようになっていることを特徴とする請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて前記載置台駆動装置の制御を行う際に、前記画像に対して2値化処理を行い、この2値化処理が行われた画像を用いて前記載置台駆動装置の制御を行うようになっていることを特徴とする請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記人体内撮像装置によって撮像された人体内の画像に基づいて前記治療対象部分を含む3次元画像を形成し、前記3次元画像に対して当該3次元画像のうち前記治療対象部分を含まない領域を除外するようなマスク処理を行い、このマスク処理が行われた3次元画像に対して2値化処理を行い、この2値化処理された3次元画像により前記治療対象部分の重心の3次元位置を算出し、前記治療対象部分の重心が前記治療用放射線ビーム照射装置における治療用放射線ビームの焦点領域に常に含まれるように前記載置台を経時的に移動させるよう前記載置台駆動装置の制御を行うことを特徴とする請求項1記載の放射線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−237714(P2008−237714A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85036(P2007−85036)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(500321704)エレクタ、アクチボラグ (18)
【氏名又は名称原語表記】ELEKTA AB
【Fターム(参考)】