説明

放射線治療装置

【課題】照射ヘッドへマイクロ波を伝送する導波管の損失を可及的に少なくした放射線治療装置を提供する。
【解決手段】患部aに対して放射線Xを照射する照射ヘッド5と、照射ヘッド5に対してマイクロ波を供給するクライストロン6と、照射ヘッド5とクライストロン6との間に接続され、マイクロ波を導くための導波管73,75,76とを備え、照射ヘッド5は、走行軸S2回り及び旋回軸S1回りに旋回可能とされた放射線治療装置100において、導波管7は、走行軸S2回りに回動を許容するロータリジョイント79を備え、クライストロン6は、照射ヘッド5と同期して旋回軸S1回りに旋回可能とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波源を備えた放射線治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍等の患部に対してX線等の放射線を照射して治療する医療装置として、定位放射線治療装置が知られている。このような定位放射線治療装置は、同一の患部に対して多方向から放射線を多数回照射するものである。多方向から放射線を照射するためには、患者の周囲の複数位置に移動させて位置決め可能とされ、前記放射線を出射可能な照射ヘッドを備える必要がある。
【0003】
X線を放射する照射ヘッドには、一般に、電子を供給する電子銃と、電子銃からの電子を加速する加速器と、加速器からの電子が衝突してX線を放射するターゲットとが設けられている。そして、電子を加速する加速器には、加速用の投入エネルギとして高周波を供給する必要がある。この高周波を発生させる装置としては、マグネトロン、クライストロン、多極管等が知られている。
マグネトロンは、数kg程度と比較的軽量であるため照射ヘッド近傍に設置することが可能であり、装置全体がコンパクトに構成できる点で有利とされている。しかし、マグネトロンは自励発振のため出力、位相、周波数等(以下「出力等」という。)が不安定であるという欠点を有する。これに対して、クライストロン、多極管等(以下、単にクライストロンのみを表記)は、出力等の安定性に優れている。このため、クライストロンを使用することは、治療用放射線の線量、性状が安定することから、高精度治療を実現するために好適とされている。しかし、クライストロンは、そのトランス部も含めると百kg超といった重量物である。マグネトロンと同様に照射ヘッドの近傍に設置した場合、クライストロンの自重により照射ヘッドを支持する構造物に変形を生じる。これは、クライストロンを照射ヘッドの近傍に設置した場合には任意位置・方向からの位置決めを高精度で行うことが困難となることを意味する。このため、照射ヘッドとは離して別に床等に設置することが必要になる。
クライストロンを照射ヘッドと離して設置する構成を採用する場合、任意位置・方向からの治療用放射線の照射を行うためには、当該照射ヘッドの移動に追随可能な高周波の導波管を形成させる必要がある。
【0004】
このような定位放射線治療装置として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。同文献に記載の放射線治療装置は、2軸回り、例えば水平軸線及び鉛直軸線の回り、に回動可能とされた照射ヘッドが設けられている。この照射ヘッドとクライストロンとの間には導波管が設けられており、この導波管には、水平軸線回りの回動を許容する3つのロータリRFカプラ(ロータリジョイント)と、鉛直軸線回りの回動を許容する1つのロータリRFカプラとが設けられている。これらの導波管及びロータリRFカプラを設けることにより、任意位置・角度からの治療用放射線の照射が可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2006−21046号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ロータリRFカプラは、固定導波管に比して伝送効率が悪く且つ高価である。また可動部を有するため定期的に保守・交換を要する。したがって、ロータリRFカプラの数は少ない方が好ましい。
また、クライストロンは伝送損失、ノイズ発生を低減するために、通常クライストロン用パルス電源と一体に構成される。当該パルス電源部からは、運転時に騒音(磁歪音等)が発生する。本騒音は運転中は連続的に発生し、比較的音量が大きく且つ高音である。このため、クライストロン部(クライストロン及びクライストロン用パルス電源)を患者の近傍に設置した場合、患者の心理に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、クライストロンは、電子管構造を有するため運転時に制動X線が発生する。本対策として、通常はクライストロン部の周囲には鉛板敷設などの遮蔽部が設置されている。しかし、通常はクライストロン部は運転者など人体から隔離した遮蔽室内に設置することを前提としている。このため、一般的な遮蔽対策だけでは、クライストロン部を患者近傍の床などに設置した場合には、人体(特に患者)へ悪影響を及ぼすおそれがある。本遮蔽対策を頑強に行うことは、クライストロン部が高価になるとともに定期的な保守・交換に時間を要することとなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、照射ヘッドへ高周波を伝送する導波管の損失を可及的に少なくした放射線治療装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、安全性に優れ人体の負担が少ない放射線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の放射線治療装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の放射線治療装置は、患部に対して放射線を照射する照射ヘッドと、当該照射ヘッドに対して高周波を供給する高周波源と、前記照射ヘッドと前記高周波源との間に接続され、高周波を導くための導波管とを備え、前記照射ヘッドは、水平軸線回り及び鉛直軸線回りに回動可能とされた放射線治療装置において、前記導波管は、前記水平軸線回りに回動を許容する自由導波管を備え、前記高周波源は、前記照射ヘッドと同期して前記鉛直軸線回りに回動可能とされていることを特徴とする。
【0009】
水平軸線回りの回動を許容する自由導波管が導波管に設けられているので、照射ヘッドが水平軸線回りに回動しても自由導波管を介して当該照射ヘッドに高周波を導くことができる。ここで自由導波管としては回動をコンパクトに実現できる点でロータリジョイントが例示される。ロータリジョイントは蛇腹構造により屈曲及び伸縮が可能とされたフレキシブル導波管にも置換可能である。但し、フレキシブル導波管で軸周りの回動を実現するにはフレキシブル導波管部分を十分長くする必要があるため大型化すること及び回動可能角度に制限を受けるため、自由導波管としてはロータリジョイントを用いることが望ましい。なお、以降は、自由導波管としてロータリジョイントを用いる場合について説明する。
一方、鉛直軸線回りの回動に対しては、高周波源が照射ヘッドと同期して鉛直軸線回りに回動可能とされているので、固定導波管のみで本回動に追従可能である。即ち、従来のように鉛直軸線回りの回動を許容するためのロータリジョイントを設ける必要がない。したがって、鉛直軸線回りの回動を許容するためのロータリジョイントが不要となるため、高周波の伝送損失を低減することができる。更には、前記ロータリジョイントの削減により、低コストで装置を構成できると共に、保守・交換頻度及びその費用も低減できる。
なお、放射線を照射する照射ヘッドとしては、例えばX線を放射する照射ヘッドが挙げられる。このような照射ヘッドは、電子を供給する電子銃と、電子銃からの電子を加速する加速器と、加速された電子が衝突してX線を放出するターゲットとを備えている。
電子を加速するために加速器に供給される高周波としては、マイクロ波が例示される。また高周波源としてはクライストロンや多極管が例示される。クライストロンや多極管は、伝送損失、ノイズ発生を低減するために、通常駆動用パルス電源と一体に構成されることが多く、この場合には本一体構成物自身を高周波源、クライストロン等と呼称することもある。一般に周波数が高いほど照射ヘッドが小型化可能であるため高精度位置決めが容易になることから、Xバンド、Cバンドなどの周波数領域であることが望ましい。しかし、本発明はVHF波など他の高周波を使用する場合にも同様に成立する。
また、照射ヘッドは、患部への照射精度および自由度を向上させるために、独立して2軸の首振り動作(パン及び/又はチルト)が可能とされていることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の放射線治療装置は、前記照射ヘッドと同期して前記鉛直軸線回りに回動可能とされた回動台を備え、前記高周波源は、前記回動台に取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
回動台を設け、この回動台に高周波源を取り付けることとしたので、クライストロンのような重量物である高周波源を確実に設置することができる。
なお、回動台としては、円板形状に限定されるものではなく、高周波源を支持することができる構成であれば良く、例えば骨組み構造とされた枠体であっても良い。
【0012】
さらに、本発明の放射線治療装置は、前記回動台には、前記鉛直軸線を挟んだ前記高周波源の反対側の位置に、電源が取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
重量物である電源を、鉛直軸線を挟んだ高周波源の反対側の位置に取り付けることとしたので、高周波源のみを設置した場合に比べて回動台での重量配分の不均一性を緩和できる。これにより、回動運動が円滑になるとともに、回動台を支持する軸部への負担が軽減される。
なお、電源としては、高周波源用パルス電源を駆動するための高周波源駆動用電源、照射ヘッドの電子銃部から電子を出射し且つ加速するための電子銃用電源が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明の放射線治療装置では、前記高周波源に対して全体を包囲するようにカバーを設置し、当該カバーの内側には多孔質材によってラギング処理が施されていることを特徴とする。
上記発明により、高周波源から放射される制動放射線がカバー材により減衰・遮蔽する。また、高周波源から発生する騒音がラギング処理部及びカバー材で減衰する。このため高周波源の近傍に患者がいる場合に、患者に生じる心的影響を緩和可能となる。
【0015】
さらに、本発明の放射線治療装置では、前記高周波源は、床下に設置されていることを特徴とする。
ここで床とは患者、技師などが本放射線治療装置にアクセスするために使用する歩行用の床を意味する。
高周波源が床下、即ち患者、技師等と隔絶された場所に設置されているので、高周波源及び導波管に患者、技師等が直接接触することを回避できる。このため、当該接触に基づく患者、技師等の転倒、衝突に係る事故を回避し得ると共に装置 (特に導波管) の健全性を担保できる。同時に比較的大型な構造物である高周波源が患者の視野外にあることで患者への圧迫感を排除することができる。また、高周波源が床下に設置されているので、高周波源から放射される制動放射線を遮蔽することができる。更にまた、高周波源が床下に設置されているので、高周波源から発生する騒音を遮蔽することができる。
【0016】
さらに、本発明の放射線治療装置は、前記水平軸線を中心軸線とするように立設されたガイド用リング体と、該ガイド用リング体の円周方向に沿って回動する略円環形状の回動リング体とを備え、前記ガイド用リング体の下部には、該ガイド用リング体を前記鉛直軸線回りに回動可能とする旋回駆動装置が設けられ、前記ガイド用リング体は、前記旋回駆動装置によって一カ所で支持されて回動され、前記照射ヘッドは、前記回動リング体に固定されていることを特徴とする。
【0017】
回動リング体はガイド用リング体の円周方向に沿って回動することにより、水平軸線回りに回動することができる。この回動リング体に照射ヘッドが固定されているので、照射ヘッドも水平軸線回りに回動させられることになる。
また、ガイド用リング体は、旋回駆動装置によって鉛直軸線回りに回動するようになっているので、回動リング体を介してガイド用リング体に支持されている照射ヘッドは、鉛直軸線回りに回動可能とされる。
また、ガイド用リング体は、旋回駆動装置によって一カ所で支持されているので、複数カ所で支持する場合のように他の支持部における設置誤差及び各支持部を固定する建屋施工精度(例えば床面の平面度)の影響を受けることなく、任意旋回角度に対して照射ヘッドの床面からの距離及びアイソセンタへの指向性を精度よく保持することができる。
また、水平軸周り及び鉛直軸周りに回動リング体及びガイド用リング体を回動させるための旋回駆動装置及び走行体駆動部も床下部に設置可能であるため、患者、技師等が本駆動機構に接触することで生じる巻き込まれ事故などを回避することにも繋がると共に、前記床部間という空間を有効に使用することで装置全体をコンパクト化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の放射線治療装置によれば、以下の効果を奏する。
鉛直軸線回りの回動を許容するための自由導波管を割愛することができるため、高周波波の伝送損失を低減できると共に、自由導波管に対する保守頻度及び部品点数の低減による低コスト化を実現できる。
また、安定運転及び高精度な照射位置決めが可能な放射線治療装置を実現できる。
また、高周波源及び導波管に対する患者、技師等の直接接触を回避できるため、人体及び装置の健全性を確保可能である。
また、高周波源部から放射されるX線及び騒音を患者、技師等に対して遮蔽することができるため、安全性に優れ人体の負担が少ない放射線治療装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び図2は、本発明の一実施形態に係る放射線治療装置100が示されている。
図1には放射線治療装置100の正面図、図2には放射線治療装置100の側面図が示されている。
放射線治療装置100は、患者Aの同一の患部a(図2参照)に対して多方向から放射線Xを照射する定位放射線治療装置である。この放射線治療装置100は、中心軸線が水平となるように立設された略円環形状のOリング(ガイド用リング体)21(図2参照)と、このOリング21の円周方向に沿って走行(回動)する走行ガントリ(回動リング体)3と、この走行ガントリに設けられた治療用放射線を出射する照射へッド5と備えている。
【0020】
Oリング21は、その下方に固定されたOリング支持軸体22を介して、旋回駆動装置20に設置されている。本旋回駆動機構は、当該Oリング支持軸体22を、当該Oリング支持軸体22の中心軸周りに走行可能とする部位を具備している。本部位としてはベアリングなどが例示される。すなわち、Oリング21は、下方の一カ所にて旋回駆動装置20によって支持されている。複数箇所での支持には、当該支持箇所は例えば天井部と床部にベアリングを介した設置や、床部に対して滑動可能な多点の支持部で支持する方法が挙げられる。この場合、各支持部の設置精度及び各支持部を固定する建屋施工精度(例えば床面の平面度)の影響により、任意旋回状態で安定した位置精度を確保することが困難である。しかし、本支持を一カ所で行うことで、旋回時における走行ガントリ上の設置物とアイソセンタの位置関係を旋回角度に依存することなく高精度で保持可能となる。旋回駆動装置20は、Oリング21を旋回軸(鉛直軸線)S1軸まわりに旋回駆動する。図1及び図2に示されているように、旋回台(回動台)2の旋回軸S1軸まわりの回転角は角度θ1で表記される。
【0021】
旋回駆動装置20は、患者、技師等が歩行する歩行床FL1よりも下方に位置する設置床FL0上に設置されている。本構造としては、例えば図1に示すように、歩行床FL1に対して設置床FL0が掘り込まれた掘り込み構造が例示される。これは歩行床FL1を設置床FL0よりも高い位置に設ける構造よりも、患者、技師等の放射線治療装置100へのアクセスが容易になる点で好ましい。この旋回駆動装置20の上方には、Oリング支持軸体22に固定されるとともに、旋回駆動装置20によって旋回させられる旋回台2が設けられている。したがって、旋回台2は、Oリング21とともに旋回させられるようになっている。図1に示すように、旋回台2は、歩行床FL1よりも下方に位置している。
【0022】
旋回台2上には、照射ヘッド5へマイクロ波(高周波)を供給するクライストロン(高周波源)6と、旋回軸S1を挟んだクライストロン6の反対側に位置された電源類8(クライストロン駆動用電源、電子銃用電源)が設けられている。したがって、クライストロン6と電源類8とは、旋回軸S1に関してバランスがとれた位置に設けられている。これにより、旋回台2上における重量分布を改善することができるため、旋回軸S1回りの旋回運動が円滑になるとともに、旋回台2を支持するOリング支持軸体22及び当該Oリング支持軸体22等を旋回させる旋回駆動装置20への負担が軽減される。
なお、クライストロン本体は伝送損失、ノイズ発生を低減するために、通常クライストロン用パルス電源と一体に構成されるため、ここでは当該一体構成物を便宜上クライストロンと呼称する。
【0023】
図1に示すように、クライストロン6及び電源類8は、歩行床FL1よりも下方に位置している。そして、これらクライストロン6及び電源類8の上方には、設置床FL0上の空間を歩行床FL1の高さで蓋をするように、旋回床FL2が設けられている。この旋回床FL2は、Oリング21とともに旋回する。したがって、クライストロン6は、旋回床FL2によって床下に収納されることになる。
なお、クライストロン6は定期的に増幅部などの保守・交換が必要になる。前述のようにクライストロン6は重量物であるため、旋回床FL2には、クライストロン6に対応する位置に、保守用の図示しない蓋を設けることが望ましい。本対応で、保守・交換時には本蓋を外して、本蓋用の開口部から、クレーン等の手段によりクライストロンを旋回床FL2よりも上方に吊り上げて、作業が容易な歩行床FL1上に移動させることが可能となる。即ち、本蓋部を設けることで、クライストロンの定期的な保守を容易に行うことが可能となる。このクライストロン電源はパルス運転を行うため、運転時に騒音(磁歪音等)が発生する。またクライストロン6は電子管構造を有するためマイクロ波を増幅する過程で制動放射線を発生する。しかし、上述のように、クライストロン6が患者、技師等と隔絶した床下に設置されているので、患者、技師等に対してクライストロン6から放射される制動放射線及び騒音を遮蔽されることとなる。また、このクライストロン6には、全体を包囲するようにカバーを設置しており、当該カバーの内側にはグラスウール、ロックウール等の多孔質材でラギング処理が施されている。この結果、本多孔質材及びカバー材によりクライストロンから発生する騒音に対する防音効果が発揮される。なお、防音効果を確実に期すために、ラギング処理はクライストロン電源部に直接接触しないように配置されることが有効である。また、ラギング処理に加えて、防振ゴム等の制振材を介在させることで更に防音特性は高まる。カバーの材質としては、防音効果があり且つX線の漏洩を防ぐ材料が用いられ、例えば、鋼板、鋼板の間に鉛を挟み込んだもの等が好ましい。
【0024】
旋回駆動装置20を動作させることにより、Oリング21は、旋回台2やクライストロン6と一体的に旋回軸S1回りに旋回する。ここで、Oリング21の中心軸線としての走行軸(水平軸線)S2は、図2に示すように、水平方向に延在しており、アイソセンタCにおいて旋回軸S1と直交している。
【0025】
走行ガントリ3は、Oリング21に沿って走行軸S2まわりに走行できるようにOリング21に取り付けられている。走行ガントリ3は、図示しない走行体駆動部によって、走行軸S2回りに走行する。図2に示すように、走行ガントリ3のOリング21に対する走行軸S2まわりの回転角が角度θ2で表される。
【0026】
図1に示すように、走行ガントリ3には、照射へッド支持部31を介して、放射線Xを照射する照射へッド5が固定されている。図2に示すように、照射ヘッド支持部31には、走行ガントリ3に対して走行軸S2に平行な軸としての中間体揺動軸S3が固定されている。図3に示すように、中間体4及び照射へッド5は、中間体揺動軸S3方向に間隔を設けて対向する1組の板状部分である照射へッド支持部31の間に配置されている。
【0027】
図3及び図4に示すように、照射へッド支持部31は、中間体4を中間体揺動軸S3軸まわりに揺動可能なように支持している。中間体駆動部40(図2参照)は、中間体4を中間体揺動軸S3まわりに揺動駆動する。照射へッド支持部31に対する中間体4の揺動角が角度θ3で表される。そして、中間体4は、照射へッド5を照射へッド揺動軸S4軸まわりに揺動可能なように支持している。
照射へッド5は、照射ヘッド駆動部50(図1参照)によって、照射へッド揺動軸S4軸まわりに揺動させられる。中間体4に対する照射へッド5の揺動角が角度θ4で表される。
【0028】
ここで、中間体揺動軸S3と、照射へッド揺動軸S4と、照射へッド5が放射線Xを照射する放射線照射軸S5とは、互いに直交している。中間体揺動軸S3まわりの揺動と、照射へッド揺動軸S4まわりの揺動により、照射へッド5の首振り動作が実現される。これにより、患部aへの照射精度および照射自由度が向上することになる。
【0029】
図1及び図2に示すように、患者Aを横臥させるためのカウチ9は、設置床FL0について定義されたX、Y及びZ方向に移動可能なXYZステージとなっている。カウチ9をX、Y及びZ方向に移動して患部aの位置を後述するアイソセンタCに合わせることが可能である。
ここで、X方向及びY方向は、水平方向を向いており、互いに直交している。Z方向は、鉛直上方向を向いており、X方向及びY方向と直交している。
【0030】
図6に示すように、照射へッド5は、電子銃51と、加速器52と、放射線変換ターゲット53と、透過型線量計54と、コリメータ55を備えている。
電子銃51は、電子銃制御部201によって制御される。電子銃制御部201が、所望のフィラメント電力、グリッド電圧及び加速電圧を電子銃51に印加することで、電子銃51から複数の電子e1が射出される。
【0031】
線形加速器のような加速器52は、電子e1を加速して高エネルギの電子e2とする。加速器52には、クライストロン6からのマイクロ波エネルギが入力される。クライストロン6は、クライストロン制御部301によって制御される。
クライストロン制御部301は、所望のマイクロ波MW1をクライストロン6が発生するように直流電圧DCV及びRadio - Frequency 電力(以下「RF電力」という。)REPをクライストロン6に対して出力する。クライストロン6は、RF電力REPが示す周波数のマイクロ波MW1のパルスを発生する。マイクロ波MW1は、導波管7によって伝送される途中で電力が低下し、マイクロ波MW2として加速器52に入力される。主にこの低下は後述するロータリジョイントで生じる。加速器52は、マイクロ波MW2として供給された加速エネルギを用いて電子e1を加速する。このようにして、加速器52が電子e1を加速するためのエネルギは、高周波マイクロ波の形でクライストロン6から導波管7を介して供給される。
【0032】
加速器52にて高エネルギとされた電子e2は、高原子番号材(タングステン、タングステン合金、タンタル等)のような材料から構成される放射線変換ターゲット53に入射する。この際、放射線変換ターゲット53からは、制動放射線X1 が射出する。
透過型線量計54は、放射線X1の照射線量率を検出して検出照射線量率RSを出力する。
コリメータ55は、放射線X1を成形して放射線Xとし、放射線Xを放射線照射軸S5に沿って射出する。
【0033】
図1、図2及び図3に示すように、導波管7は、クライストロン6と照射へッド5との間に設けられており、クライストロン6にて発生したマイクロ波を照射ヘッド5へと導く。
導波管7は、照射ヘッド5からクライストロン6へ向かって、第1導波管71、第2導波管72、第3導波管73、第4導波管74、第5導波管75、及び第6導波管76が順に接続されている。
第1導波管71は、図3に示すように、一端が照射へッド5に固定されている。
第3導波管73は、導波管支持体703によって中間体4に固定されている。
第5導波管75は、導波管支持体705によって照射へッド支持部31に固定されている。この第5導波管75の途中には、図1に示すように、サーキュレータ82が設けられている。
第6導波管76は、図1及び図2に示すように、一端がクライストロン6に固定されている。第6導波管76には、サーキュレータ81が設けられている。
なお、サーキュレータ81は、クライストロン6をマイクロ波反射電力から保護する為に設けられており、反射波電力の影響が小さい条件では、省略する事が可能である。
【0034】
第1導波管71、第3導波管73、第5導波管75、及び第6導波管76は、矩形断面を有し、金属材料で構成されている。したがって、これら導波管71,73,75,76は、伸縮または屈曲のような変形をしない剛体とされている。
【0035】
導波管7は、第5導波管75と第6導波管76とを直列に接続するロータリジョイント79を有している。ロータリジョイント79は、図1及び図2に示すように、走行軸S2上に設けられている。ロータリジョイント79は、図5に示すように、走行軸S2まわりに相対的に回転する第1筒部分79aと、第2筒部分79bとを有している。第1筒部分79aには、第6導波管76のクライストロン6側とは反対の端部が接続されている。第2筒部分79bには、第5導波管75の端部が接続されている。ロータリジョイント79は、第6導波管76から入力された縦モードのマイクロ波MWを円形又は同軸モードのマイクロ波に変換し、縦モードのマイクロ波MWに再変換して第5導波管75に出力する。
【0036】
このようにロータリジョイント79を設けているので、走行ガントリ3が旋回台2に対して走行軸S2まわりに角度θ2だけ走行しても、第5導波管75及び第2筒部分79bは、第6導波管76及び第1筒部分79aに対して角度θ2だけ走行することができる。したがって、導波管7は、走行ガントリ3がOリング21に対して走行してもマイクロ波を伝送することができる。
【0037】
導波管7は、図3に示すように、第3導波管73と第5導波管75とを直列に接続する第4導波管74と、第1導波管71と第3導波管73とを直列に接続する第2導波管72とを有している。第2導波管72及び第4導波管74は、蛇腹構造により屈曲及び伸縮が可能とされたフレキシブル導波管となっている。
したがって、中間体4が走行ガントリ3に対して中間体揺動軸S3回りに揺動した場合であってもマイクロ波を伝送することが可能である。また、照射へッド5が中間体4に対して照射へッド揺動軸S4まわりに揺動した場合であってもマイクロ波を伝送することが可能である。つまり、導波管7は、照射へッド5の首振り動作に対応してマイクロ波を伝送することが可能となっている。中間体4の中間体揺動軸S3まわりの揺動と、照射へッド5の照射へッド揺動軸S4まわりの揺動は、揺動角が数度程度に過ぎないので、フレキシブル導波管が好適に用いられる。
【0038】
上記構成の放射線治療装置100は、以下のように使用される。
先ず、患者Aをカウチ9上に横臥させ、Oリング21の中央に設けられた開口へと導くようにカウチ9を移動させる。
そして、患者Aの患部aがアイソセンタCに位置するように、カウチ9の位置を制御する。必要に応じて、放射線Xが患部を通過するように、中間体揺動軸S3及び照射ヘッド揺動軸S4回りに照射ヘッド5を揺動させる。即ち、患部に放射線Xを照射するために角度θ1、θ2、θ3及びθ4が調整される。
走行ガントリ3は、治療計画によって決定される照射角度に照射ヘッド5が位置するように走行軸S2回りに走行された後に位置決めされる。この状態で、照射ヘッド5から放射線Xが患部に向けて照射される。肺等のように患部が照射時に変位する場合には、照射ヘッド5がその変位に追随するように、中間体揺動軸S3及び照射ヘッド揺動軸S4回りに照射ヘッド5が動的に駆動される。
所定の線量が照射されると、放射線Xの照射を停止した後、走行ガントリ3を走行させ、治療計画によって決定される次の照射角度に照射ヘッド5が位置するように位置決めされる。そして、上記と同様に放射線Xが患部に向けて照射される。
また、必要に応じて、旋回駆動装置20を動作させてOリング21を旋回軸S1回りに旋回させることにより、所望の角度から放射線Xを照射する。このとき、クライストロン3は、旋回台2上に設置されているので、走行ガントリ3に取り付けられた照射ヘッド5と同期して旋回することになる。
【0039】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
走行軸S2回りの走行を許容するロータリジョイント79が導波管7に設けられているので、照射ヘッド5が走行軸S2回りに走行してもロータリジョイント79を介してマイクロ波を導くことができる。また、ロータリジョイント79を走行軸S2上に設けることとしたので、1つのロータリジョイントのみで走行軸S2回りの走行を許容することができる。
一方、旋回軸S1回りの旋回に対しては、クライストロン6が旋回台2上に設けられているため照射ヘッド5と同期して旋回軸S1回りに旋回可能とされているので、旋回軸S1回りの旋回を許容するためのロータリジョイントを設ける必要がない。したがって、旋回軸S1回りの旋回を許容するロータリジョイントが不要となるため、高周波の伝送損失を低減することができる。更には、前記ロータリジョイントの削除により、低コストで装置を構成できると共に、保守・交換頻度及びその費用も低減できる。
また、重量物である電源類8を、鉛直軸S1線を挟んだクライストロン6の反対側の位置に取り付けることとしたので、クライストロン6のみを設置した場合に比べて旋回台2での重量配分の不均一性を緩和できる。これにより、旋回運動が円滑になるとともに、旋回台を支持するOリング支持軸体22への負担が軽減される。
また、クライストロン6には、全体を包囲するようにカバーを設け、そしてその内側にはラギング処理が施されているため、クライストロンから発生する騒音に対する防音効果及びX線に対する遮蔽効果が得られる。
また、クライストロン6が床下、即ち患者、技師等と隔絶された場所に設置されているので、クライストロンから発生する騒音に対する防音効果及びX線に対する遮蔽効果が得られる。更に、クライストロン6及び導波管7に患者、技師等が直接接触することを回避できる。このため、当該接触に基づく患者、技師等の転倒、衝突に係る事故を回避し得ると共にクライストロン6及び導波管7、特に導波管7の健全性を担保できる。同時に比較的大型な構造物であるクライストロン6が患者の視野外にあることで患者への圧迫感を排除することができる。
また水平軸周り及び鉛直軸周りに回動リング体及びガイド用リング体を回動させるための旋回駆動装置及び走行体駆動部も床下部に設置可能であるため、患者、技師等が本駆動機構に接触することで生じる巻き込まれ事故などを回避することにも繋がると共に、前記床部間という空間を有効に使用することで装置全体をコンパクト化できる。

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態にかかる放射線治療装置を示した正面図である。
【図2】図1の放射線治療装置の側面図である。
【図3】照射ヘッドの取付け状態を示した斜視図である。
【図4】中間体が設けられた照射ヘッドを示した斜視図である。
【図5】ロータリジョイントを示した斜視図である。
【図6】照射ヘッドおよびその制御部を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0041】
2 旋回台(回動台)
3 走行ガントリ(回動リング体)
5 照射ヘッド
6 クライストロン
7 導波管
8 電源類(電源)
20 旋回駆動装置
21 Oリング(ガイド用リング体)
79 ロータリジョイント
100 放射線治療装置
FL1 歩行床(床)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部に対して放射線を照射する照射ヘッドと、
該照射ヘッドに対して高周波を供給する高周波源と、
前記照射ヘッドと前記高周波源との間に接続され、高周波を導くための導波管と、を備え、
前記照射ヘッドは、水平軸線回り及び鉛直軸線回りに回動可能とされた放射線治療装置において、
前記導波管は、前記水平軸線回りに回動を許容する自由導波管を備え、
前記高周波源は、前記照射ヘッドと同期して前記鉛直軸線回りに回動可能とされていることを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
前記照射ヘッドと同期して前記鉛直軸線回りに回動可能とされた回動台を備え、
前記高周波源は、前記回動台に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の放射線治療装置。
【請求項3】
前記回動台には、前記鉛直軸線を挟んだ前記高周波源の反対側の位置に、電源が取り付けられていることを特徴とする請求項2記載の放射線治療装置。
【請求項4】
前記高周波源の全体を包囲するカバーが設けられ、
該カバーの内側には、多孔質材によってラギング処理が施されていること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の放射線治療装置。
【請求項5】
前記高周波源は、床下に設置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の放射線治療装置。
【請求項6】
前記水平軸線を中心軸線とするように立設されたガイド用リング体と、
該ガイド用リング体の円周方向に沿って回動する略円環形状の回動リング体と、を備え、
前記ガイド用リング体の下部には、該ガイド用リング体を前記鉛直軸線回りに回動可能とする旋回駆動装置が設けられ、
前記ガイド用リング体は、前記旋回駆動装置によって一カ所で支持されて回動され、
前記照射ヘッドは、前記回動リング体に固定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の放射線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−200091(P2008−200091A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36353(P2007−36353)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】