説明

放射能定量装置、放射能定量方法、および放射能定量プログラム

【課題】複数種類の放射性核種を含む対象物における放射性核種毎の放射能を定量する。
【解決手段】放射能定量装置1は、放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する核種毎データ取得部21と、対象物の放射能の測定により得られる、対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する対象物データ取得部22と、上記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、上記対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、対象物における放射性核種毎の放射能を求める放射能定量部23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能を定量する放射能定量装置、放射能定量方法、および放射能定量プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出型断層撮像(PET: Positron Emission Tomography)を用いた核医学画像診断システムがある(例えば、特許文献1)。このシステムでは、短半減期で陽電子を放出する放射性核種が使用される。この放射性核種としては、11C、13N、15O、18F等がある。放射性核種から放出される陽電子は、消滅する際、対称方向に511keVの1対のガンマ線を放出する。PETでは、このガンマ線が捉えられて画像化される。
【0003】
なお、特許文献2には、希ガス核分裂生成物の娘核種がベータ線を放出する際にシンチレーション検出器で検出されるベータ線波高分布を、3つの波高弁別器を用いて、低エネルギー領域、中エネルギー領域、及び高エネルギー領域に分けて計数し、これら3つの領域の計数割合が核種毎に異なることを利用して求めた3元一次連立方程式を解くことにより3つの検出可能核種を分離して測定する技術が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−84432号公報
【特許文献2】特開平4−106492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えばPETの研究開発や利用において、複数種類の放射性核種を含む対象物(例えば放射性薬剤)について、放射性核種毎の放射能を分離定量したいという要望がある。
【0006】
そこで、本発明は、複数種類の放射性核種を含む対象物における放射性核種毎の放射能を定量することが可能な放射能定量装置、放射能定量方法、および放射能定量プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る放射能定量装置は、複数種類の放射性核種を含む対象物における前記放射性核種毎の放射能を定量する放射能定量装置であって、前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する核種毎データ取得手段と、前記対象物の放射能の測定により得られる、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する対象物データ取得手段と、前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める放射能定量手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様では、前記核種毎データ取得手段は、前記放射性核種毎の、経過時間毎の放射能を示すデータを取得し、前記対象物データ取得手段は、前記対象物の前記経過時間毎の放射能を示すデータを取得し、前記放射能定量手段は、前記放射性核種毎のデータと前記対象物のデータとから導かれる連立方程式を解くことにより、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記対象物は、N種類(Nは2以上の整数)の放射性核種を含み、前記核種毎データ取得手段は、前記放射性核種毎の、N個の経過時間毎の放射能を示すデータaij(ここで、iは経過時間を表す1からNまでの番号であり、jは放射性核種の種類を表す1からNまでの番号である)を取得し、前記対象物データ取得手段は、前記対象物の前記N個の経過時間毎の放射能を示すデータbを取得し、前記放射能定量手段は、前記データaijを要素とする行列の逆行列と、前記データbを要素とする列ベクトルとの積により得られる列ベクトルの要素と、特定の経過時間での放射性核種毎の放射能を示す既知のデータとに基づき、前記特定の経過時間での前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める。
【0010】
本発明に係る放射能定量方法は、複数種類の放射性核種を含む対象物における前記放射性核種毎の放射能を定量する放射能定量方法であって、前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、前記対象物の放射能の測定により得られる、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める手順と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る放射能定量プログラムは、複数種類の放射性核種を含む対象物における前記放射性核種毎の放射能を定量する放射能定量プログラムであって、コンピュータに、前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、前記対象物の放射能の測定により得られる、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める手順と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数種類の放射性核種を含む対象物について、放射性核種毎の放射能を定量することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る放射能定量装置1の構成の一例を示すブロック図である。この放射能定量装置1は、複数種類の放射性核種を含む対象物(「混合核種」と呼ばれる)における放射性核種毎の放射能を分離定量するものである。
【0015】
一つの態様では、上記対象物に含まれる放射性核種は、陽電子を放出するポジトロン核種であり、例えば、11C(炭素11)、13N(窒素13)、15O(酸素15)、18F(フッ素18)等である。また、具体的な一態様では、上記対象物は、複数種類のポジトロン核種を含む放射性薬剤であり、例えばPETで利用されるものである。
【0016】
図1において、放射能定量装置1は、測定装置10と情報処理装置20とを有する。
【0017】
測定装置10は、放射能を測定する装置である。測定装置10の測定方式は特に限定されないが、測定装置10としては、例えば電離箱検出装置やシンチレーション検出装置などが挙げられる。
【0018】
情報処理装置20は、測定装置10の測定結果に基づき、複数種類の放射性核種を含む対象物における放射性核種毎の放射能を演算する装置である。例えば、情報処理装置20は、測定装置10を制御して対象物や核種毎の放射能を測定し、その測定結果に基づき、半減期の違いを使って放射性核種毎の放射能を分離定量する。
【0019】
情報処理装置20は、一つの態様では、ハードウェア資源とソフトウェアとの協働により実現され、例えばコンピュータである。具体的には、情報処理装置20の各機能は、記録媒体に記録されたプログラムが主記憶装置(メインメモリ)に読み出されて中央処理装置(CPU: Central Processing Unit)により実行されることによって実現される。上記プログラムは、CD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されることも可能であるし、データ信号として通信により提供されることも可能である。ただし、情報処理装置20は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。また、情報処理装置20は、物理的に1つの装置により実現されてもよいし、物理的に複数の装置により実現されてもよい。
【0020】
情報処理装置20は、核種毎データ取得部21、対象物データ取得部22、および放射能定量部23を有する。
【0021】
核種毎データ取得部21は、対象物に含まれる放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する。例えば、核種毎データ取得部21は、対象物に含まれる放射性核種の各々について、放射能の時間的変化(減衰)を示す時系列データを取得する。ここで、核種毎データ取得部21は、既知である放射性核種の半減期に基づいて時系列データを算出して取得してもよいし、測定装置10により放射性核種から測定された時系列データを取得してもよい。なお、上記の半減期や測定データは、予め記憶装置に記憶されていてもよいし、分離定量の都度、利用者や測定装置10から入力されてもよい。
【0022】
対象物データ取得部22は、測定装置10による対象物の放射能の測定により得られる、対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する。例えば、対象物データ取得部22は、測定装置10により測定された、対象物の放射能の時間的変化(減衰)を示す時系列データを取得する。
【0023】
放射能定量部23は、核種毎データ取得部21により取得された放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、対象物データ取得部22により取得された対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、対象物における放射性核種毎の放射能を求める。
【0024】
具体的には、N種類(Nは2以上の整数)の放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータをf(t),f(t),・・・,f(t)とし、対象物の放射能の時間的変化を示すデータをg(t)とすると、未知数α,α,・・・,αを用いて、
g(t)=α・f(t)+α・f(t)+・・・+α・f(t)
と表すことができる。
【0025】
放射能定量部23は、g(t)と{α・f(t)+α・f(t)+・・・+α・f(t)}とが等しくなるように、または両者の誤差が最小となるように、α,α,・・・,αを算出する。そして、放射能定量部23は、対象物における放射性核種毎の放射能の時間的変化α・f(t),α・f(t),・・・,α・f(t)や、特定の時刻t´における放射性核種毎の放射能α・f(t´),α・f(t´),・・・,α・f(t´)を算出する。
【0026】
なお、上記α(jは放射性核種の種類を表す1からNまでの番号である)は、f(t)と、放射能g(t)のうちj番目の放射性核種の成分との放射能比と言える。
【0027】
具体的な一態様では、核種毎データ取得部21は、放射性核種毎の、経過時間毎の放射能を示すデータを取得し、対象物データ取得部22は、対象物の上記経過時間毎の放射能を示すデータを取得する。そして、放射能定量部23は、上記放射性核種毎のデータと上記対象物のデータとから導かれる連立方程式を解くことにより、対象物における放射性核種毎の放射能を求める。
【0028】
具体的には、対象物がN種類(Nは2以上の整数)の放射性核種を含む場合において、核種毎データ取得部21は、N種類の放射性核種毎の、N個の経過時間t,t,・・・,t毎の放射能を示すデータaijを取得する。ここで、iは経過時間を表す1からNまでの番号であり、jは放射性核種の種類を表す1からNまでの番号である。すなわち、データaijは、j番目の放射性核種の経過時間tにおける放射能を示すデータであり、核種毎データ取得部21は、下記(N×N)個のデータを取得する。
11,a12,・・・,a1N
21,a22,・・・,a2N
・・・
N1,aN2,・・・,aNN
【0029】
対象物データ取得部22は、対象物の上記N個の経過時間t,t,・・・,t毎の放射能を示すデータbを取得する。すなわち、対象物データ取得部22は、下記N個のデータを取得する。
,b,・・・,b
【0030】
放射能定量部23は、下記連立方程式を解いて、未知数α,α,・・・,αを求める。
α・a11+α・a12+・・・+α・a1N=b
α・a21+α・a22+・・・+α・a2N=b
・・・
α・aN1+α・aN2+・・・+α・aNN=b
【0031】
そして、放射能定量部23は、求めたα,α,・・・,αと、特定の経過時間での放射性核種毎の放射能を示すデータc,c,・・・,cとに基づき、下記式の通り、特定の経過時間での対象物における放射性核種毎の放射能d,d,・・・,dを算出する。
=α・c
=α・c
・・・
=α・c
【0032】
ここで、算出対象の特定の経過時間が上記経過時間t,t,・・・tのいずれかである場合には、放射能定量部23は、aijをcとして利用することができる。すなわち、放射能定量部23は、経過時間tでの対象物における放射性核種毎の放射能d,d,・・・,dを、下記式により算出することができる。
=α・ai1
=α・ai2
・・・
=α・aiN
【0033】
一方、算出対象の特定の経過時間が上記t,t,・・・tのいずれでもない場合には、放射能定量部23は、半減期に基づいてcを算出してもよいし、測定装置10の測定によりcを取得してもよいし、aijから求められる減衰特性の関数に基づいてcを算出してもよい。ただし、cはaijと整合するものとする。すなわち、cは、aijと同じ減衰カーブ上の値であるものとする。なお、特定の経過時間、すなわちどの経過時間の放射能を定量するかは、適宜に決められればよいが、例えば利用者により指定される。
【0034】
具体的な一態様では、放射能定量部23は、上記データaijを要素とする行列の逆行列と、上記データbを要素とする列ベクトルとの積により得られる列ベクトルの要素と、特定の経過時間での放射性核種毎の放射能を示す既知のデータとに基づき、上記特定の経過時間での対象物における放射性核種毎の放射能を求める。
【0035】
すなわち、放射能定量部23は、下記式の通り、aijを要素とする行列の逆行列と、bを要素とする列ベクトルとの積を演算することにより、αを要素とする列ベクトルを求める。
【0036】
【数1】

【0037】
そして、放射能定量部23は、上記演算により得られた係数α,α,・・・,αと、特定の経過時間での放射性核種毎の放射能を示すデータc,c,・・・,cとに基づき、下記式の通り、特定の経過時間での対象物における放射性核種毎の放射能d,d,・・・,dを算出する。
=α・c
=α・c
・・・
=α・c
【0038】
なお、本実施の形態に係る放射能定量装置1は、測定装置10で得られる物理量(電離電流や計数値)から放射能への換算定数が互いにほぼ同じである複数種類の放射性核種を含む対象物に適用されてもよいし、換算定数が互いに異なる複数種類の放射性核種を含む対象物に適用されてもよい。換算定数が互いにほぼ同じである複数種類の放射性核種を含む対象物の場合には、例えば、予め校正された測定装置10で放射能を測定して放射能で分離定量計算を行ってもよいし、測定装置10で得られる物理量で分離定量計算を行い、分離定量後の物理量を共通の換算定数で放射能に換算してもよい。換算定数が互いに異なる複数種類の放射性核種を含む対象物の場合には、例えば、測定装置10で得られる物理量で分離定量計算を行い、分離定量後の物理量をそれぞれの核種に対応した換算定数で放射能に換算してもよい。
【0039】
図2は、本実施の形態に係る放射能定量装置1の動作の一例を示すフローチャートである。以下、図2を参照して、放射能定量装置1の動作手順について具体的に説明する。
【0040】
ここでは、放射能定量装置1は、複数種類のポジトロン核種を含む対象物におけるポジトロン核種毎の放射能を分離定量するものとする。
【0041】
測定装置10としては、例えば、放射能に応じた電離電流を検出する電離箱検出装置や、放射能に応じた計数値を検出するシンチレーション検出装置などが用いられる。また、測定装置10としては、例えば、得られる物理量(電離電流や計数値)から放射能への換算ができるように、予め校正されたものが使用される。511keVの消滅ガンマ線のみをほぼ100%の放出率で放出している代表的なポジトロン核種の場合は、物理量(電離電流や計数値)から放射能への換算定数がほぼ同じになるため、測定装置10としては、得られる物理量から放射能への換算ができるように、予め校正されたものを使用してもよい。また、換算定数の異なる核種については、得られる物理量で分離定量を行い、分離定量後の物理量にそれぞれの核種に対応した換算定数を乗じて放射能を求めてもよい。
【0042】
情報処理装置20は、測定対象となり得るポジトロン核種(例えば、11C、13N、15O、18F)の各々の半減期を予め記憶しているものとする。
【0043】
ステップS1では、情報処理装置20は、対象物に含まれるポジトロン核種の種類の指定を利用者等から受け付け、各ポジトロン核種について、予め記憶された半減期に基づき、経過時間毎の放射能を算出し、分離定量計算の基となる基準データを求める。ここでは、ポジトロン核種13N、11C、18Fが指定され、0分後、1分後、2分後の放射能が計算され、図3に示される基準データが得られたものとする。
【0044】
なお、図3の例では、0分後の放射能が核種間で同じ(5000MBq)であるが、核種間で異なっていてもよい。0分後の放射能は、演算誤差を小さくする観点より、対象物の測定範囲の中心付近の値にされることが望ましい。また、本手法は核種の半減期の違いを使って分離定量を行うものであるため、半減期が近い核種の場合は、分離精度を上げるために、経過時間の間隔をその分長くすることが望ましい。
【0045】
ステップS2では、情報処理装置20は、ステップS1で得られた基準データを基に、行を経過時間、列を核種として、基準データの行列を作成する。ここでは、図3の基準データに基づき、下記の行列が作成される。
【0046】
【数2】

【0047】
ステップS3では、情報処理装置20は、ステップS2で得られた行列の逆行列を求める。ここでは、上記(数2)の行列から、下記の逆行列が求められる。
【0048】
【数3】

【0049】
ステップS4では、情報処理装置20は、測定装置10を用いて、分離定量を行いたい対象物(混合核種)の経過時間毎の放射能を取得する。このとき、行列計算を可能にするため、経過時間はステップS1と同じにする必要がある。ここでは、0分後、1分後、2分後の対象物の放射能が測定され、図4に示される測定データが得られたものとする。
【0050】
ステップS5では、情報処理装置20は、ステップS3で求められた逆行列と、ステップS4で測定された測定データの列ベクトルとの積を計算し、各核種の放射能比を要素とする列ベクトルを求める。各核種の放射能比は、ステップS1で取得された当該核種の放射能と、ステップS4で取得された放射能のうち当該核種の放射能との比である。ここでは、下記式の通り、上記(数3)の逆行列と図4の測定データの列ベクトルとの積が計算され、放射能比の列ベクトルが求められる。
【0051】
【数4】

【0052】
ステップS6では、ステップS5で求められた放射能比の列ベクトルの要素と、ステップS1で取得された基準データのうち特定の経過時間における核種毎の放射能とに基づき、当該特定の経過時間での対象物における核種毎の放射能を求める。例えば、特定の経過時間として2分後が指定された場合、上記(数4)で求められた放射能比の列ベクトルと、図3に示される基準データのうちの2分後のデータとに基づき、下記式の通り、対象物に含まれる各ポジトロン核種13N、11C、18Fの、2分後の放射能が算出される。
13N:0.2×4350MBq=870MBq
11C:0.4×4671MBq=1868MBq
18F:0.6×4937MBq=2962MBq
【0053】
なお、上記の例では放射能定量装置1は測定装置10を含んでいるが、放射能定量装置1は測定装置10を含まなくてもよい。すなわち、放射能定量装置1は、外部の測定装置により測定された結果を基に、対象物における放射性核種毎の放射能を算出してもよい。また、上記の例ではコンピュータ等の情報処理装置を用いて分離定量のための計算を行っているが、当該計算の実行方法は特に限定されない。
【0054】
以上のとおり、本実施の形態では、複数種類の放射性核種を含む対象物について、放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、対象物の放射能の時間的変化を示す測定データとを取得し、これらのデータに基づき、対象物における放射性核種毎の放射能を求める。このため、本実施の形態によれば、複数種類の放射性核種を含む対象物における放射性核種毎の放射能を分離定量することが可能となる。
【0055】
具体的には、消滅ガンマ線のみを放出する複数種類のポジトロン核種を含む対象物に適用した場合、次の効果が得られる。
【0056】
複数種類の放射性核種を含む対象物における放射性核種毎の放射能を定量する方法、すなわち混合核種の分離定量方法としては、NaI(Tl)シンチレーション検出器と波高分析器によって得られる放出ガンマ線スペクトルの光電ピークの違いによって分離定量するものが知られている。また、エネルギーの異なる陽電子のスペクトルを使って分離定量する方法も知られている。
【0057】
しかし、消滅ガンマ線のみを放出するポジトロン核種については、ガンマ線エネルギーが511keVと同じであるため、光電ピークの違いによる分離定量が不可能である。また、陽電子のスペクトルはブロード状であるため、陽電子のスペクトルを用いる方法では精度の良い分離定量を行うことができない。
【0058】
これに対し、本実施の形態に係る方法では、ポジトロン核種毎の半減期の違いを利用して良好に混合核種の分離定量を行うことができる。
【0059】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態に係る放射能定量装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る放射能定量装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図3】図2のステップS1で取得される基準データの一例を示す図である。
【図4】図2のステップS4で取得される測定データの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 放射能定量装置、10 測定装置、20 情報処理装置、21 核種毎データ取得部、22 対象物データ取得部、23 放射能定量部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の放射性核種を含む対象物における前記放射性核種毎の放射能を定量する放射能定量装置であって、
前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する核種毎データ取得手段と、
前記対象物の放射能の測定により得られる、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する対象物データ取得手段と、
前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める放射能定量手段と、
を有することを特徴とする放射能定量装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射能定量装置であって、
前記核種毎データ取得手段は、前記放射性核種毎の、経過時間毎の放射能を示すデータを取得し、
前記対象物データ取得手段は、前記対象物の前記経過時間毎の放射能を示すデータを取得し、
前記放射能定量手段は、前記放射性核種毎のデータと前記対象物のデータとから導かれる連立方程式を解くことにより、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める、
ことを特徴とする放射能定量装置。
【請求項3】
請求項1に記載の放射能定量装置であって、
前記対象物は、N種類(Nは2以上の整数)の放射性核種を含み、
前記核種毎データ取得手段は、前記放射性核種毎の、N個の経過時間毎の放射能を示すデータaij(ここで、iは経過時間を表す1からNまでの番号であり、jは放射性核種の種類を表す1からNまでの番号である)を取得し、
前記対象物データ取得手段は、前記対象物の前記N個の経過時間毎の放射能を示すデータbを取得し、
前記放射能定量手段は、前記データaijを要素とする行列の逆行列と、前記データbを要素とする列ベクトルとの積により得られる列ベクトルの要素と、特定の経過時間での放射性核種毎の放射能を示す既知のデータとに基づき、前記特定の経過時間での前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める、
ことを特徴とする放射能定量装置。
【請求項4】
複数種類の放射性核種を含む対象物における前記放射性核種毎の放射能を定量する放射能定量方法であって、
前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、
前記対象物の放射能の測定により得られる、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、
前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める手順と、
を有することを特徴とする放射能定量方法。
【請求項5】
複数種類の放射性核種を含む対象物における前記放射性核種毎の放射能を定量する放射能定量プログラムであって、コンピュータに、
前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、
前記対象物の放射能の測定により得られる、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータを取得する手順と、
前記放射性核種毎の放射能の時間的変化を示すデータと、前記対象物の放射能の時間的変化を示すデータとに基づき、前記対象物における放射性核種毎の放射能を求める手順と、
を実行させることを特徴とする放射能定量プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−139312(P2010−139312A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314499(P2008−314499)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】