説明

放射能測定による油希釈率の評価方法

本発明は、少なくとも1つのバイオ燃料の少なくとも一部を含有する燃料を使って作動する内燃機関の潤滑油希釈率を評価する方法であって、油サンプルの放射能を測定し、その後に前記燃料による油の希釈率を評価する方法に関する。本発明によれば、この方法は、前記油サンプルに含有されるバイオ燃料の少なくとも1つの構成成分の放射能を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、燃料による内燃機関の潤滑油の希釈率を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、一般に、エンジンブロック下部に配置された油溜めを含む閉じた潤滑油循環回路と、油溜めに収容された油を、管を通してクランクシャフト及びカムシャフトベアリング又はピストン−ピストンリング−シリンダーユニットなどの油を差すべき種々の可動部品に向けて循環させるための油循環ポンプとを含む。
【0003】
この潤滑油の主たる目的は、機関の2つの部品の間に液膜を介在させることによって、これら2部品間の相対的動きを促進することにある。これによって、明らかに2部品間の摩擦を最小化することができる。
【0004】
機関のピストン−ピストンリング−シリンダーユニットの場合、シリンダー内でのピストンの直線的な往復運動を促進するために、ピストンの外表面とシリンダー壁との間に薄い油膜が絶えず存在していなければならない。この油膜が存在しないか又は破断していると、部品の摩耗及び機関のひどい劣化の恐れを増大させる個体・個体接触が生じる。
【0005】
このことは、排気後処理を有する新しい機関種、特にディーゼルエンジンではさらにやっかいである。この種の機関において、燃料噴射戦略は、噴射された燃料の一部をシリンダー内に存在する油膜上に投じようというものであって、これによってシリンダー壁が洗い流され、したがって油膜が洗い流され、或いはまたピストンの連続した往復運動の影響下及びピストンリングの作動下で少なくとも燃料が油溜めの方へ移動させられる。
【0006】
この油の希釈は油の特性を著しく落としめる。
【0007】
特に、燃料添加の結果油の粘度が低下し、これによって油膜のせん断強度が顕著に低下することになる。さらに、耐摩耗性、分散性又は極圧性などのその他の特性も、油中に存在する添加剤が燃料によって希釈されることによって低下する。
【0008】
したがって、この油の希釈率を知り、その結果として、機関の作動パラメータを決定することができること、特にこの希釈現象を予防又は制限するために燃料噴射戦略を決定することができることが必要である。
【0009】
発明の背景
機関から採取される油サンプルと参照用サンプルとの粘度比較、又はクロマトグラフ法などの幾つかの知られている方法によってこの希釈を評価することが可能である。
【0010】
文献WO−2005/071,403には、機関作動時に、油又は燃料に予め供給しておいた短寿命放射性トレーサーの放射能を測定することが開示されている。機関から採取された潤滑油で測定される放射能の差の値によって、サンプル中に含有される燃料の量を推定することが可能となり、単純な計算によって燃料による油希釈率を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2005/071,403号公報
【発明の概要】
【0012】
このような評価方法は、満足できるものであるとは言え、重要でないとは言えない欠点を有している。
【0013】
実際、放射性トレーサーは、トレースすべき物に類似した特定の性質を有する油又は燃料に投入しなければならない。また、これらの放射性元素は、大量に使用する場合、その保管及び取扱いに関して非常にきびしい法律及び規範に適合しなければならない。さらに、これらのトレーサーは、そのコストは決して取るに足らぬと言えるものではないが、油交換又は燃料タンク充填のたびに再投入が必要である。
【0014】
本発明は、何ら特定のトレーサーを添加することなしに燃料による油希釈率の評価を可能にし、それに引き続いて、あり得る噴射戦略の変化を予測可能にしてこの希釈を制御可能にするような方法によって、前記欠点の克服を意図するものである。
【0015】
発明の概要
したがって、本発明は、少なくとも1つのバイオ燃料の少なくとも一部を含有する燃料を使って作動する内燃機関の潤滑油の希釈率を評価する方法であって、油サンプルの放射能を測定し、その後に燃料による油の希釈率を評価する方法であり、油サンプル中に含有されるバイオ燃料の構成成分の少なくとも1つの放射能を測定することを特徴とする方法に関する。
【0016】
本方法では、半減期が5000年を超える放射性元素を含む、前記バイオ燃料の少なくとも1つの構成成分の放射能を測定することが可能である。
【0017】
本方法では、バイオ燃料中に含有される炭素同位体(14C)の放射能を測定することが可能である。
【0018】
有利には、前記燃料がバイオ燃料だけを含むことができる。
【0019】
本方法では、希釈率評価操作時に、少なくとも1種類のバイオ燃料を燃料に添加することも可能である。
【0020】
本発明のその他の特徴及び利点は以下の説明を読めば明らかであろう。
【0021】
詳細な説明
通常、内燃機関の燃焼に使われる燃料は、放射性元素を含まない化石燃料である。
【0022】
石油系エネルギーの不足危機及び大気汚染増大に関連する諸問題を考慮して、このような化石燃料の大部分が1種又はそれ以上のバイオ燃料をかなり大量に含むようになっている。
【0023】
これらバイオ燃料は、アブラナ及びヒマワリ(植物油メチルエステルと呼ばれるバイオ燃料)やサトウキビ及びビーツ(メタノール系若しくはエタノール系バイオ燃料)などの油料作物か、又はバイオマスのいずれからも得られる。
【0024】
現在、少なくとも1種類のバイオ燃料をエネルギー当量で約5%まで、ディーゼル燃料などの化石燃料に組み入れることができる。また、ブラジルなどの一部の国において、内燃機関が、例えばサトウキビから得られるアルコールなどの純粋なバイオ燃料を使って作動していることが認められている。
【0025】
純粋なバイオ燃料又はバイオ燃料部分を含む化石燃料は、したがって、バイオ燃料の生産に使われる植物性材料に由来の、半減期が5570年である炭素14(14C)を含有している。
【0026】
燃料による油希釈率を評価するために、この14Cを天然の放射性トレーサーとして使うことによって14Cの存在を活用する。
【0027】
したがって、燃料による油の希釈率の評価を可能にするために、機関の油溜めの油サンプルを採取する。このサンプリングは、機関作動時に、潤滑回路のバイパスラインを使って決められた時間に又は連続して行うことができる。
【0028】
このサンプルは、サンプル油中に含まれる14Cが発する放射線をキャッチし測定する電離放射線検知器にかけられる。検知器によって発せられるシグナルは、次いで、燃料による油希釈率を評価する演算装置に送られる。この評価は、演算装置に入っているチャート若しくはデータからか、或いはまた純粋なサンプル油すなわち燃料により希釈されていない油との比較のいずれかによって行われる。
【0029】
作動している機関から油の一部を迂回させる(diverting a proportion of oil)ことによってこのような評価を行い、次いで測定後に潤滑回路にこの油を再注入することによって連続的にこの評価を行えば、サンプルの第一の放射線測定を有利に行うことができ、次いでその他の放射線測定も規則正しく行うことができる。各測定の時間間隔は約数秒から数十秒であろうが、これは希釈現象の程度によって決まる。これらの測定の後、放射能の増大をやはり計算によって求め、サンプル中に組み入れられた燃料の比率、したがって燃料による油希釈率を求める。
【0030】
これにより、燃料による油希釈率に関してより高い評価信頼度が得られる。
【0031】
もちろん、本発明は、一例としての前記実施形態に限定されるものではなく、いかなる変形態様及び等価物をも包含するものである。
【0032】
このようにして、人は、油希釈率を決められた時間に評価することが望まれる場合に、最初は14Cを含んでいない基本の化石燃料に添加剤の形態で14Cを添加することによって、天然の放射性トレーサーとして14Cを組み入れることを考えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともバイオ燃料部分を含有する燃料を使って作動する内燃機関の潤滑油の希釈率を評価する方法であって、後に燃料による油の希釈率を評価するために油サンプルの放射能を測定する方法であり、油サンプル中に含有されるバイオ燃料の少なくとも1つの構成成分の放射能を少なくとも1回測定することを特徴とする方法。
【請求項2】
半減期が5000年を超える放射性元素を含むバイオ燃料の前記少なくとも1つの構成成分の放射能を測定することを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油の希釈率を評価する方法。
【請求項3】
バイオ燃料に含有されている炭素同位体(14C)の放射能を測定することを特徴とする、請求項1又は2に記載の潤滑油の希釈率を評価する方法。
【請求項4】
前記燃料がバイオ燃料のみを含有していることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油の希釈率を評価する方法。
【請求項5】
希釈率評価操作時に、前記燃料に少なくとも1つのバイオ燃料を添加することを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油の希釈率を評価する方法。

【公表番号】特表2009−541729(P2009−541729A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515917(P2009−515917)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001019
【国際公開番号】WO2007/147971
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)