説明

放熱塗膜材

【課題】ヒートシンクの表面に塗布し、焼成すれば、優れた放熱塗膜が形成され、ヒートシンクの放熱性を向上させることができる放熱効率が高く、使用性が良好な放熱塗膜材を提供する。
【解決手段】シランカップリング剤を含有する溶液又は分散液からなる放熱塗膜材。シランカップリング剤としては、1個のケイ素原子とそれに結合する4個の基からなる有機ケイ素化合物であって、前記4個の基のうち少なくとも1個がアルコキシ基又は水酸基のいずれかであり、かつ前記4個の基のうちの1個がビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アミノ基又はメルカプト基等の官能基である有機ケイ素化合物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクに塗膜形成することにより放熱効果の得られる放熱塗膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンに代表されるように,エレクトロニクス機器では高速化,小型化および薄型化が押し進められ,使用形態も持ち運ぶ形から,究極的には身につける形へと変貌しようとしている.このようなエレクトロニクス機器の高性能化の背景には配線長の短縮,小型化を目指した回路部品のLSI化技術および高密度実装化技術の発展がある.それに伴いパソコンの演算素子であるプロセッサーからの発熱量が増大し,機器の熱対策は実に厳しいものとなっている.その理由は熱対策に大きな制限が課せられるためである.高速化および小型化の他に,低価格化さらには低騒音も課せられてしまう.即ち,冷却ファンも騒音をきらって使用が制限されている.ところがこのために素子の発熱密度は上昇し続けており,そのしわ寄せが熱問題としてエレクトロニクス機器の発展を妨げる要因として表面化している.
【0003】
フィンがLSIパッケージのヒートシンクとして良く用いられており,フィンの伝熱特性については古くから数多く研究がなされている.熱抵抗を軽減する手段として放熱面積をかせぐ冷却フィンは効果的ではあるが,フィンを設けることはパッケージ全体の体積を増加させるという欠点もある.
【0004】
一般にヒートシンクの放熱効果を向上させるために熱伝導率の大きな金属を用いて,その表面積を拡大させ,冷媒(空気等)との接触面積を大きくさせる方法があるが,計算通りの放熱効果の向上は得られていない.この原因としてヒートシンクの金属表面に熱伝導率の小さい空気層が付着して放熱を妨げていることが知られている.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、高い放熱効果を有し、使用性が良好な放熱塗膜材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ヒートシンクに種々の塗膜を形成してその放熱効果を検討してきたところ、シランカップリング剤をヒートシンクの表面に塗布し、焼成すれば、優れた放熱塗膜が形成され、使用性が良好であり、ヒートシンクの基材に悪影響を及ぼさないことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、シランカップリング剤を含有する溶液又は分散液からなる放熱塗膜材を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の放熱塗膜材を用いれば、ヒートシンク表面に塗布し、焼成するだけで、ヒートシンクの放熱効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の放熱塗膜材は、シランカップリング剤を含有する水性溶液又は水分散液からなるものである。シランカップリング剤としては、少なくとも1個のシラノール基形成性のアルコキシ基と、有機官能基とを有するシラン化合物であればよく、例えば下記一般式(1)
【0010】
【化1】

(式中、R、R及びRの少なくとも1個はアルコキシ基又は水酸基を示し、残余はアルコキシ基、水酸基又はアルキル基を示し、Xは有機官能基を示す)で表される化合物が挙げられる。
【0011】
、R及びRで示されるアルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。これらのアルコキシ基は、塗膜を形成するための基材、例えば金属材料表面上で水分と反応して加水分解を受けてシラノールとなり、金属材料の表面に存在する水酸基、金属分子あるいは酸化金属分子との間で水素結合する。あるいは、アルコキシ基の加水分解によって生じたケイ素上のシラノールと金属材料の表面に存在する水酸基あるいは酸化金属分子との間に脱水縮合が起こって共有結合が形成されることによって、金属材料へのシランカップリング剤の吸着が起こる。さらに、金属材料上のシランカップリング剤のシラノール同士においても脱水縮合反応が起こり、金属材料上にシランカップリング剤の透明で強固な膜を形成することができる。
【0012】
なお、式(1)中のR、R及びRのアルコキシ基の一部は水酸基となっていてもよい。R、R及びRで示されるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基、例えばメチル基、エチル基等が挙げられる。R、R及びRのうち少なくとも1個はアルコキシ基又は水酸基であるが、2個以上がアルコキシ基であるものが特に好ましい。
【0013】
Xで表される有機官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、及びこれらの基を含有するアルキル基などが挙げられる。かかるXは、金属材料上に結合したシランカップリング剤の有機官能基同士で水素結合、脱水縮合反応あるいはポリマー化反応を起こし、強固な塗膜を形成する。
【0014】
シランカップリング剤の例としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、信越化学工業、東レ・ダウコーニング社等から市販されているものを使用することができる。
【0015】
これらのシランカップリング剤は、溶液又は分散液として用いられる。シランカップリング剤の溶媒としては、塗布前は、非水系の溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノールあるいはアセトンなどに保存しておくのが好ましい。塗布直前には、これに水を加えて用いてもよい。溶液又は分散液中のシランカップリング剤の濃度は、0.005〜50質量%、さらに0.01〜40質量%、特に0.01〜30質量%が好ましい。
【0016】
本発明の放熱塗膜材の塗膜形成対象として、金属材料があり、金属材料としてはアルミニウム、銅、ニッケル、鉄、及びこれらの合金などが挙げられる。
【0017】
一般に金属表面への空気の付着はファンデルワールス力および静電的相互作用などの物理吸着によって起きている.この物理吸着は活性化エネルギーとして10 kcal/mol弱しか必要としないので,その吸着速度は大きくなり,さらに,空気は熱伝導率が小さいために,この空気が層を成すことで断熱層を形成する.
【0018】
一方,化学吸着は共有結合,静電引力,イオン交換および水素結合によって起り,その活性化エネルギーは10〜100kcal/molが必要であるので,その吸着速度は小さくなる.これらの吸着現象は吸着剤と吸着質との間のエネルギー相互作用であるため,金属表面を改質することによって吸着質の物理吸着と化学吸着の競争的選択が起る.すなわち,金属表面の物理的・化学的状態改質することによって,金属表面に付着している空気の離脱・吸着作用を制御することが可能となる.
【0019】
そこで,ヒートシンクにその表面のイオン化傾向が大きくなる化学的加工を行い,ヒートシンク表面と吸着質との間のエネルギー相互作用を大きくした.すなわち,ヒートシンク表面を正の電荷を有する物質を被膜することによって空気層の物理吸着エネルギーよりも大きなエネルギーが得られやすい状態に化学的に改質した.この加工によって物理吸着している空気(熱伝導率 : 0.0241W/m・K)層と化学吸着する空気中の孤立電子対酸素(熱伝導率 : 0.0267W/m・K)あるいは窒素(熱伝導率 : 0.0260W/m・K)が競争的に置換され,酸素あるいは窒素がヒートシンク表面に化学吸着されることで,空気層が離脱する.すなわち,ヒートシンクの極表面に空気よりも熱伝導率が大きい酸素あるいは窒素があることによって放熱効果が大きくなることが推定される。
【0020】
本発明の放熱塗膜材は基材として使用される金属材料の表面に塗布し、焼成することによって高効率放熱性透明層を形成させるために用いることができる。金属材料上に形成された本発明の放熱塗膜材による塗膜は金属材料から放熱を向上させることができる。
【0021】
本発明の放熱塗膜材を用いた放熱塗膜加工は簡便に行うことができることから、既存のヒートシンクに簡便に放熱加工を行うことができる。さらに、本発明の放熱塗膜材を用いた断熱塗膜加工は、ヒートシンクの構造を変更することなく行うことができる。
【実施例1】
【0022】
以下、実施例により具体的に説明する。
【0023】
市販のピン型ヒートシンク(縦 :80mm、横 :80mm、基板の高さ : 6mm、ピンの高さ :24mm)に信越化学工業株式会社製KBM6123、0.5%水溶液を塗布した後、空気雰囲気下で、200℃にて、2時間加熱し、焼成した。このヒートシンクにヒーターを配設し、送風下でヒートシンクの温度と雰囲気温度を測定した。さらに、ヒートシンクの温度と雰囲気温度の差を使用電力で除法した値を熱抵抗値として算出した。その結果を図1に示す。
【0024】
図1に送風下における放熱塗膜加工したヒートシンクおよび未加工ヒートシンクの熱抵抗値を示した。未加工ヒートシンクの送風下における熱抵抗値は0.357KW−1(回転数1818 r.p.m.)、0.320KW−1(回転数2118r.p.m.)、0.301KW−1 (回転数2418r.p.m.)、0.281KW−1(回転数2727r.p.m.)、0.263KW−1(回転数3027r.p.m.)、および0.250KW−1(回転数2234r.p.m.)となった。 一方,放熱塗膜加工ヒートシンクの送風下における熱抵抗値は0.341KW−1(回転数1833 r.p.m.)、0.310KW−1(回転数2112r.p.m.)、0.284KW−1 (回転数2427r.p.m.)、0.266KW−1(回転数2718r.p.m.)、0.249KW−1(回転数3039r.p.m.)、および0.236KW−1(回転数3261r.p.m.)となった。
【0025】
この結果から放熱塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値は未加工ヒートシンクの熱抵抗値よりも低い傾向にあることが明らかになった.さらに送風量の増加につれて,塗膜加工および未加工ヒートシンクの熱抵抗値は低下した.このことから,空気中の酸素の化学吸着には金属表面との衝突回数も大きな因子となり,送風量の増加によって酸素のヒートシンク表面への化学吸着が促進され,空気層の離脱率が大きくなることが示唆された.
【0026】
ファンの回転数が2400〜3300r.p.m.では,塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値は未加工ヒートシンクのそれより6%低いことが示され,このことは塗膜加工によってヒートシンクの放熱効果が6%上昇したことを示唆している.
【0027】
さらに,ファンの回転数が2100〜2700r.p.m.での塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値は2400〜3300r.p.m.での未加工ヒートシンクの熱抵抗値と等しいことから,放熱塗膜加工によってファンの回転数を減少させることができ,その減少率は約12%と算出された.
【実施例2】
【0028】
市販のフィン型ヒートシンク(縦 :50mm、横 :50mm、基板の高さ : 6mm、フィンの高さ :14mm)に信越化学工業株式会社製KBM6123、0.5%水溶液を塗布した後、空気雰囲気下で、200℃にて、2時間加熱し、焼成した。このヒートシンクにヒーターを配設し、立方体の箱(内部10×10×10cm)に入れ、無風下の密閉状態でヒートシンクの温度と雰囲気温度を測定した。さらに、ヒートシンクの温度と雰囲気温度の差を使用電力で除法した値を熱抵抗値として算出した。その結果を図2に示す。
【0029】
図2に閉鎖系における放熱塗膜加工したヒートシンクおよび未加工ヒートシンクの熱抵抗値を示した。無風下でのヒーターによる加熱開始から、5分、10分、15分20分および15分後の未加工ヒートシンクの熱抵抗値はそれぞれ1.99KW−1、3.12KW−1、3.78KW−1、4.20KW−1、および4.60KW−1となった。 一方,無風下でのヒーターによる加熱開始から、5分、10分、15分20分および15分後の放熱塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値はそれぞれ1.74KW−1、2.81KW−1、3.56KW−1、3.94KW−1、および4.25KW−1となった。
【0030】
この結果から放熱塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値は未加工ヒートシンクの熱抵抗値よりも低い傾向にあることが明らかになった.塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値は未加工ヒートシンクのそれより6%低いことが示され,このことは塗膜加工によってヒートシンクの放熱効果が6%上昇したことを示唆している.
【実施例3】
【0031】
市販のフィン型ヒートシンク(縦 :50mm、横 :50mm、基板の高さ : 6mm、フィンの高さ :14mm)に信越化学工業株式会社製KBM6123、0.5%水溶液を塗布した後、空気雰囲気下で、200℃にて、2時間加熱し、焼成した。このヒートシンクにヒーターを配設し、立方体の箱(内部10×10×10cm)に入れ、無風下において立方体の箱の一方を開放した開放状態でヒートシンクの温度と雰囲気温度を測定した。さらに、ヒートシンクの温度と雰囲気温度の差を使用電力で除法した値を熱抵抗値として算出した。その結果を図2に示す。
【0032】
図3に開放系における放熱塗膜加工したヒートシンクおよび未加工ヒートシンクの熱抵抗値を示した。無風下でのヒーターによる加熱開始から、5分、10分、15分20分および25分後の未加工ヒートシンクの熱抵抗値はそれぞれ1.80KW−1、3.20KW−1、4.15KW−1、4.55KW−1、および4.81KW−1となった。 一方,無風下でのヒーターによる加熱開始から、5分、10分、15分20分および25分後の放熱塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値はそれぞれ1.48KW−1、2.73KW−1、3.67KW−1、4.20KW−1、および4.56KW−1となった。
【0033】
この結果から放熱塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値は未加工ヒートシンクの熱抵抗値よりも低い傾向にあることが明らかになった.塗膜加工ヒートシンクの熱抵抗値は未加工ヒートシンクのそれより8%低いことが示され,このことは塗膜加工によってヒートシンクの放熱効果が8%上昇したことを示唆している.
【0034】
これらの結果から、本発明の放熱塗膜材を用いた放熱塗膜加工は放熱材として有効であり、ヒートシンクの構造を変更することなく、放熱機能を有することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
更に、本発明のシランカップリング剤を用いた放熱塗膜加工は、ヒートシンクの構造を変更することなく行うことができることから、ヒートシンクだけでなく、ガラスの放熱加工にも施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】送風下におけるヒートシンクに対して本発明の放熱加工をした場合 (黒丸) および未加工の場合 (黒三角) の熱抵抗値を示す図である。
【図2】無風下における閉鎖系における本発明の放熱加工をした場合 (黒丸) および未加工の場合 (黒三角) の閉鎖系での熱抵抗値を示す図である。
【図3】無風下における閉鎖系における本発明の放熱加工をした場合 (黒丸) および未加工の場合 (黒三角) の開放系での熱抵抗値を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤を含有する溶液又は分散液からなる放熱塗膜材。
【請求項2】
溶液又は分散液中のシランカップリング剤の濃度が0.005〜50質量%である請求項1記載の放熱塗膜材。
【請求項3】
シランカップリング剤が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R、R及びRの少なくとも1個はアルコキシ基又は水酸基を示し、残余はアルコキシ基、水酸基又はアルキル基を示し、Xは有機官能基を示す)
で表される化合物である請求項1又は2記載の放熱塗膜材。
【請求項4】
ヒートシンク表面塗布用である請求項1〜3のいずれか1項記載の放熱塗膜材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−153968(P2007−153968A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348628(P2005−348628)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(591171943)株式会社押野電気製作所 (3)
【Fターム(参考)】