説明

放電ランプおよび放電ランプの製造方法

【課題】放電容器中のアルカリ金属に起因する失透を抑制し、放電空間の気密性を維持する。
【解決手段】点灯時の封入水銀蒸気圧が高いショートアーク型放電ランプにおいて、発光部および封止部から構成される放電容器の金属濃度を、0.2ppm以下にする。このようなアルカリ金属濃度の放電容器を得るため、その製造工程において、素材となる石英ガラス管に不活性ガスを流した状態で、素管の端から端に渡って順に軟化領域となるように加熱し、その後、素管中央部に発光部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置やプロジェクタなどに使用される放電ランプに関し、特に、ショートアーク型放電ランプの放電容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプでは、石英ガラスから成る放電容器のバルブ状発光管部分において陰極、陽極が対向配置されており、発光管両端には封止部が一体的に連設されている。各電極は、封止管内まで延びる電極支持棒によって支持されており、封止管内は、金属箔と封止部とを溶着させて放電空間を気密状態にした箔シール構造になっている。
【0003】
放電容器の素材となる石英ガラス管の表面、内部には、通常、Na、K、Liなどのアルカリ金属などの不純物が含まれている。不純物を除去するため、細長いガラス管の中間部を軟化領域まで加熱してバルブ状の発光管部分を成形するとき、不活性ガスをガラス管内に流し込み、軟化したガラス管から分離、蒸発した不純物がガラス管外へ排出、除去する(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このような不純物除去処理を行っても、石英ガラス管内部にはアルカリ金属が残留している。そのため、放電ランプの点灯中、放射熱や電極熱によって石英ガラス管が加熱されると、石英ガラス管中のアルカリ金属が発光管内表面に析出し、石英ガラスが結晶化する。ガラス管の結晶化は、発光管表面において失透を生じさせる。
【0005】
また、放電空間内に析出したアルカリ金属は、点灯中に発光管内部で生じる対流に乗って、高温状態の電極(タングステンなど)と反応して蒸発し、発光管内表面に付着して黒化させる。そのため、ランプ点灯時間の経過に伴い、発光管の透過率の低下が生じる。
【0006】
一方、放電ランプの点灯中、電極間で生じる電場により、石英ガラス管中に溶け込んで陽イオン化しているアルカリ金属が、マイナス電位の陰極側に誘引され、堆積する。陰極側封止管に金属イオン等が移動することにより、石英ガラスが反応して結晶化する。特に、放電ランプが高温になると、石英ガラス管中のアルカリ金属イオンの移動が大きい。
【0007】
アルカリ金属イオンの陰極側への誘引、堆積は、封止管内部における金属箔とガラス管との結合を切断させる。その結果、封止管内部の密着強度が弱まることによって耐圧強度が低下し、ランプ破損の恐れが生じる。
【0008】
このようなアルカリ金属イオンの析出、移動、そして石英ガラスの結晶化を防止するため、様々な対策がなされている。その一つとして、陰極側の封止管周囲、もしくは封止部内のバルブ近くに導電部材を配置する構成が知られており、陰極電位と同じ、もしくはそれよりも低い電位状態にすることによって、アルカリ金属イオンが封止管の金属箔とガラス管との溶着部分へ移動、堆積するのを防ぐ(特許文献2、3、4参照)。
【0009】
また、超高圧水銀ランプの発光管内面を化学エッチングすることによって、発光管内表面から深さ4μmまでのアルカリ金属濃度を10wt.ppm以下にし、失透を抑制するランプ構造が知られている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−1945号公報
【特許文献2】特開平9−231945号公報
【特許文献3】特開2005−56599号公報
【特許文献4】特開2010−118166号公報
【特許文献5】特開2003−338263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
放電ランプにアルカリ金属誘引用の導電部材を設ける構成は、ランプ構造を複雑化させる。特に、ショートアーク型放電ランプ等の定格電力の増大に伴って放電ランプ自身も大型化するため、作業効率をより一層悪化させる。
【0012】
また、ガラス管内表面をエッチングする工程処理を行っても、アルカリ金属濃度を0.2ppm以下まで抑えることはできない。また、このような工程は、ランプ生産効率を悪化させるとともに、ランプ点灯時の発光管高温化によって、管内表面にひび割れ等が生じる恐れがある。
【0013】
したがって、煩雑な製造工程を伴うことなく、アルカリ金属を十分に除去した放電容器を備える放電ランプを提供することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の放電ランプの製造方法は、両端の開口した石英ガラス管に不純物除去用ガスを流しながら、石英ガラス管を加熱して不純物を除去する不純物除去処理工程と、不純物除去後、石英ガラス管の中間部に発光部を形成する成形工程とを含む。
【0015】
本発明では、バーナーなどの加熱機器を用いた発光部成形工程と、アルカリ金属などの不純物除去処理の工程が工程上密接に関連しており、ガラス管全体に対する不純物除去処理工程を放電容器生成過程の中に組み込んでいる。
【0016】
不純物除去処理工程においては、軟化点まで加熱される軟化領域が石英ガラス管の軸方向に沿って移動するように、石英ガラス管を加熱する。すなわち、石英ガラス管の一部を軟化領域にまで加熱しながら加熱対象となる領域を軸方向に移行させ、ガラス管を順に加熱する。加熱の程度としては、例えば、およそ1700℃にまでガラス管を加熱して軟化せればよい。その後、発光部を形成するようにガラス管中間部を加熱する。
【0017】
一般的に、石英ガラス管を広範囲で軟化させると、石英ガラス管が変形してしまう。石英ガラス管を変形させると、肉厚が不均一な放電容器が形成され、放電ランプの破損のおそれが生じる。本発明では、加熱対象となった石英ガラス管の一部領域を軟化領域まで加熱し、加熱対象部分が移動していく。軟化領域が移動していくことにより、加熱対象領域以外の部分は軟化点以下の温度となる。したがって、ガラス管を順に加熱している間において、ガラス管全体に渡って軟化が進行しない。
【0018】
このような部分的、集中的加熱をガラス管軸方向に沿って相対的に移動させることにより、ガラス管の全体的変形を最小限にとどめながら、ガラス管全体において管壁中、あるいは表面に存在していたアルカリ金属(特にNa、K、Li)がガラス管内に放出される。
【0019】
そして、加熱している間、不活性ガスなどの不純物除去用ガスをガラス管内に流す、すなわち、ガラス管の端から端までガスを流し通すことにより、ガラス管内に放出されたアルカリ金属がガラス管外部へ排出される。
【0020】
不純物除去処理工程では、ガラス管に対し様々な加熱方法が適用可能である。例えば、バーナーなどの加熱機器を1つガラス管周囲に配置してもよく、あるいは、複数のガスバーナーを所定間隔でガラス管周方向に沿って配置してもよい。
【0021】
一方、加熱対象部分を移動させる構成としては、石英ガラス管に対して加熱機器を移動させるようにしてもよく、あるいは、加熱機器を固定させた状態で石英ガラス管を移動させてもよい。1つまたは複数の加熱機器を石英ガラス管の端から端まで順に移動させてもよく、あるいは、石英ガラス管を軸方向に区分けし、セクションごとに加熱機器を配置してもよい。
【0022】
このように様々な方法、構成によって軟化領域を軸方向に移動させることが可能であるが、製造工程の効率化、製造装置の簡素化、不純物除去の効果等を考慮して加熱の構成を考えるのがよい。1つの加熱機器で加熱する場合、ガラス旋盤などによって保持される石英ガラス管を回転させ、石英ガラス管周方向全体に渡って加熱させるようにするのが望ましい。
【0023】
特に、石英ガラス管に対し、周方向かつ軸方向に沿って満遍なく軟化領域を順に形成するため、加熱中の間、軟化領域を軸方向に沿って螺旋状に移動するように、石英ガラス管を回転させるのがよい。軟化領域の移動速度(加熱機器の相対移動速度)、石英ガラス管の回転速度は、加熱機器の特性によって定まる実際の有効加熱範囲、加熱能力等を考慮して適宜設定すればよい。
【0024】
一度放出されたアルカリ金属は、ガラス管外部へ流出する前に再び石英ガラス管内に吸収される場合がある。特に、今現在加熱対象となっているガラス管部分に隣り合う領域に吸収されやすい。この場合、不純物除去用ガスを加熱順方向に流す、すなわち、軟化領域が移動していく方向に向けて不純物除去ガスを流すのが望ましい。放出されたアルカリ金属は、まだ加熱されていないガス流出端側へ流れていくため、アルカリ金属が石英ガラス管に吸収されにくい。
【0025】
本発明の他の局面におけるショートアーク型放電ランプは、放電ランプの製造方法によって製造されるショートアーク型放電ランプであって、石英ガラス管によって成形され、発光部とその両端に一体的に連設された封止部とを有する放電容器と、放電容器の発光部内に配置される電極対とを備える。
【0026】
ショートアーク型放電ランプとしては、例えば、定格電力が1kW以上であって、放電容器の封止部が、箔シール構造であるショートアーク型放電ランプが適用可能である。特に、放電空間内に水銀が封入され、点灯時に放電空間内の水銀蒸気圧がきわめて高い高圧水銀ランプもしくは超高圧水銀ランプが適用される。
【0027】
本発明では、放電容器のアルカリ金属濃度が、発光部成形後において、0.2ppm以下になっていることを特徴とする。例えば、素材としてアルカリ金属濃度が少なくとも0.3ppm以上ある石英ガラス管を加熱し、発光部と封止部とを有する放電容器を成形したとき、アルカリ金属濃度が、0.2ppm以下に抑えられている。
【0028】
ただし、発光部成形後とは、放電ランプの製造工程において放電容器を成形し、マウント部品を封入する前の段階を意味する。また、アルカリ金属濃度は、ICP発光分光分析法に従って測定される濃度であり、封止部もしくは発光部において測定されたアルカリ金属濃度を表す。
【0029】
放電容器のアルカリ金属濃度が0.2ppm以下になることにより、点灯中におけるアルカリ金属の析出等に起因する透過率の低下を極力抑えることができる。また、金属箔とガラス管との溶着強度を維持することが可能となる。なお、放電容器成形後から最終的に放電ランプが製造されるまでの工程中に、処理内容の影響等によってアルカリ金属濃度が多少微増する場合もあるが、その量は非常にごくわずかであり、最終的に製造される放電ランプのアルカリ金属濃度についても、実質的に0.2ppm以下に抑えられる。
【0030】
特に、Na、K、Liのアルカリ金属においては、アルカリ金属濃度が0.1ppm以下になることによって、アルカリ金属イオンの陰極側への誘引、堆積、また、アルカリ金属の析出、石英ガラスの結晶化を効果的に抑え、長期間に渡って照度維持可能となる。Liは空気中の窒素と反応し、Kはイオン化傾向が大きいが、これらアルカリ金属濃度が0.05ppm以下に抑えられることにより、アルカリ金属残留による悪影響がより一層抑えられる。
【0031】
本発明の他の局面における放電容器製造装置は、放電ランプの製造方法に使用される放電容器製造装置であって、両端が開口し、管内に不純物除去用ガスが流れる石英ガラス管を、回転可能に保持する回転保持部と、発光部成形前、石英ガラス管を部分的に軟化点まで加熱可能な加熱部と、軟化領域が石英ガラス管の軸方向に沿って移動するように、加熱部を石英ガラス管に対して相対移動させ、その後、前記石英ガラス管の中間部を加熱するように前記加熱部を相対移動させる移動部とを備えたことを特徴とする。
【0032】
本発明の他の局面におけるプログラムは、放電ランプの製造方法に使用される放電容器製造装置のプログラムであって、放電容器製造装置を、石英ガラス管を部分的に軟化点まで加熱する加熱部を、石英ガラスの加熱開始位置に位置決めする加熱対象領域設定手段と、発光部成形前、軟化領域が石英ガラス管の軸方向に沿って移動するように、加熱部を石英ガラス管に対して相対移動させ、その後、前記石英ガラス管の中間部を加熱するように前記加熱部を相対移動させる移動制御手段として機能させることを特徴とする。
【0033】
本発明の他の局面における放電ランプは、放電ランプの製造方法に対応、関連する放電ランプであり、石英ガラス管によって成形され、発光部と、発光部両側に一体的に連設した封止管とを有する放電容器と、発光部内に配置される電極対とを備え、放電容器のアルカリ金属濃度が、発光部成形後において、0.2ppm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、放電容器中のアルカリ金属に起因する失透を抑制し、放電空間の気密性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的断面図である。
【図2A】放電容器の製造工程、特に不純物除去処理工程を示した図である。
【図2B】放電容器の製造工程、特に不純物除去処理工程を示した図である。
【図2C】放電容器の製造工程、特に不純物除去処理工程を示した図である。
【図2D】放電容器の製造工程、特に発光部成形工程を示した図である。
【図3】不純物除去処理工程におけるガラス旋盤の動作制御処理を示したフローチャートである。
【図4】本実施例と従来の放電ランプの照度維持率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0037】
図1は、本実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的断面図である。
【0038】
ショートアーク型放電ランプ10は、点灯時の水銀蒸気圧が約10気圧以上の超高圧水銀ランプであり、石英ガラス管によって成形された放電容器10Aの中間部に発光部12が形成され、その内部には陰極20、陽極30が対向配置されている。バルブ状発光部12の両側には、相対する管状の封止部14A、14Bが一体的に連設されている。
【0039】
封止部14A、14Bの管内は、箔シール構造(以下、マウント部という)40A、40Bが採用されており、マウント部40A、40Bは、陰極20、陽極30を支持するとともに、発光部12内の放電空間11を封止して気密性を維持し、また、陰極20、陽極30へ電力供給する。封止部14A、14Bの端部は、口金80A、80Bによって覆われている。
【0040】
マウント部40Aには、陽極30を連結支持する電極支持棒50が設けられ、電極軸(ランプ軸)方向に沿って配設されている。電極支持棒50は、マウント部40Aの発光部側に設けられた中空状肉厚のガラス筒体60に挿通されており、ガラス筒体60によって保持されている。さらに、電極支持棒50は、マウント部40Aの封止端部側にある肉厚ガラス筒体70にまで延在し、軸挿されている。
【0041】
また、ガラス筒体70の封止端側にはリード棒95が軸挿されており、リード棒95は外部の電源部(図示せず)と接続されている。ガラス筒体70の周囲には、モリブデンなどの帯状金属箔65が周方向に沿って互いに離間配置されており、金属箔65はガラスである封止部14Aと溶着している。
【0042】
電極支持棒50、およびリード棒95には、それぞれ金属リング75、85が軸装されており、電極支持棒50とリード棒95は金属箔65と電気的に接合している。これにより、外部の電源部からリード棒95、金属リング85、金属箔65、金属リング75、そして電極支持棒50を介して電流が陽極30へ流れる。陰極側のマウント部40Bも同様の構成である。
【0043】
ランプ点灯のため陰極20、陽極30に電流が流れると、陰極20、陽極30との間でアーク放電が生じる。発光部12の放電空間内には、水銀、およびアルゴンガス、キセノンガスなど点灯始動用の希ガスが封入されており、点灯中、水銀の蒸発に伴って発光管11の外部へ光が放射される。
【0044】
希ガスの封入圧は、室温で0.5〜5atmの範囲(例えば、5atm)に設定されており、定常点灯時には20atm以上になる。封入する水銀量は、ここでは3〜40mg/cmの範囲に定められており、例えば5mg/cmに定められる。陰極20、陽極30の電極間距離は、ここでは5mm程度に定められている。
【0045】
本実施形態のショートアーク型放電ランプ10では、放電容器10Aの素材となった石英ガラス管壁中、表面に存在していた不純物であるアルカリ金属が製造工程において十分に除去されている。具体的には、Na、K、Liについて、放電容器10Aにおける各アルカリ金属濃度が0.2ppm以下になっている。
【0046】
図2A〜2Dは、放電容器の製造工程を示した図である。図2A〜2Dを用いて、石英ガラス管中のアルカリ金属除去処理について説明する。
【0047】
放電容器を成形するために用意された細長い素管100は、両端部100A、100Bが開口した石英ガラス管であり、アルカリ金属(ここでは、Na、K、Liとする)が不純物として管壁内部、あるいは壁面に存在する。素管100におけるいずれの上記アルカリ金属濃度も、0.3ppm以上に達している。
【0048】
ガラス旋盤300は、回転保持機構220A、220B、移動機構240を備え、素管100の両端部100A、100Bは、回転保持機構220A、220Bによって保持されている。また、放電容器の成形工程の間、素管100は、回転保持機構220A、220Bによって回転させられる。
【0049】
制御装置500は、動作制御プログラムが格納されたROMなどのメモリ、およびCPUを含むシステムコントロール回路510を備え、回転保持機構220A、220Bの回転、移動機構240Aの移動は、システムコントロール回路510によって制御される。
【0050】
移動機構240は、螺旋状溝が表面に形成された棒状のガイド部材250に螺合する形で取り付けられており、移動機構240は、モータ(図示せず)の駆動によってガイド部材250に沿って移動する。ガイド部材250は、回転保持機構220A、220Bの軸方向に沿って設置されている。
【0051】
移動機構240には、酸素−水素ガスバーナー110が搭載されおり、ガスバーナー110は、素管100に向けて強い燃焼ガスが放出されるように位置決めされている。素管100は回転保持機構220A、220Bに対して同軸配置となっており、ガスバーナー110は、素管100の軸方向に沿って相対的に移動可能である。
【0052】
ガス供給装置200は、不活性ガスGMを供給可能であり、ガラス旋盤300に設置された素管100の一端100Aに対し、ポンプによって不活性ガスGMを供給する。ここでは、アルゴンなどの乾燥不活性ガスが供給される。
【0053】
本実施形態では、放電容器を成形する過程において、不純物除去処理工程と発光部成形工程が含まれる。不純物除去処理工程では、まず、素管100の端部100Aから端部100Bに向けて不活性ガスGMを流し、それとともに素管100を回転させる。このような状態の中で、素管100の一方の端部100Aに対し加熱を始める(図2A参照)。
【0054】
ガスバーナー110は、素管100の燃焼ガス放射領域を強力に加熱する。素管100の加熱対象部分115は、軟化点(ここでは1700℃)に達するまで加熱させられる。素管100が回転していることにより、素管100の加熱対象部分115は周方向全体に移動する。
【0055】
その一方で、ガスバーナー110は、移動機構240により、素管100の他方の端部100Bに向けて低速度で移動していく。ガスバーナー110が移動すると、それまで加熱されていた部分は、軟化点以下にまで温度が下がる。その結果、加熱対象となって軟化した領域(以下、軟化領域という)は、螺旋状に軸方向に沿って移動していく(図2B参照)。
【0056】
酸素−水素ガスバーナー110は、最終的に素管100の端部100Bまで移動する(図2C参照)。このように加熱対象部分115を端部100Aから端部100Bまで軸方向に沿って順に移動させていくことにより、軟化領域は素管100の端部100Aから端部100B全体を移動することになる。
【0057】
加熱対象部分115を軟化点にまで温度上昇させる必要があるため、素管100は比較的低速回転している。一方、移動機構240の移動速度は、素管100の一回転で加熱対象部分115が軸方向に沿って隣接部分に移るように定められている。
【0058】
すなわち、加熱対象部分100が素管115の周方向および軸方向に隈なく移動し、加熱対象とならない素管部分が存在しないようにしている。その一方で、ガラス変形を極力抑える必要があるため、軟化領域が広がることなく移動するように移動機構240の移動速度が定められている。
【0059】
このような素管全体に渡る部分加熱の連続的移動により、アルカリ金属などの素管100にふくまれていた不純物が、素管100の軸方向全体に渡って放出される。加熱中、不活性ガスGMが管内を絶えず流れているため、アルカリ金属を含む不純物は、そのまま管外へ排出される。
【0060】
不純物除去処理の後、次に発光部成形工程が行われる。発光部成形工程では、素管100を回転させながら素管100の中間部130をガスバーナー110により加熱し、中間部130が膨張することでバルブ状発光部が形成される(図2D参照)。
【0061】
このような不純物除去処理工程、発光部成形工程を経ることによって成形された放電容器では、その壁中、表面に残留するアルカリ金属濃度が、いずれにおいても0.2ppm以下となり、点灯時に影響がない量まで除去される。本実施形態のように超高圧水銀ランプの場合、アルカリ金属濃度が0.1ppm以下となるように不純物除去処理が行われる。
【0062】
放電容器が成形されると、あらかじめ組み立てられたマウント部を放電容器の両端に封入する。そして、封止部を加熱して縮径し、金属箔およびガラス筒体と封止部を溶着させ、箔シール構造を形成する。そして、従来周知の方法によって放電空間内に水銀、希ガスを放電空間に封入する。
【0063】
図3は、不純物除去処理工程におけるガラス旋盤の動作制御処理を示したフローチャートである。
【0064】
まず、素管100の端部100Aから加熱を開始するように、移動機構240が位置決めされる。それとともに、素管100は、回転保持機構220A、220Bによって回転させられる(ステップS1)。ただし、素管100には、不活性ガスが流入されている。
【0065】
ガスバーナー110から燃焼ガスを放出させると、移動機構240は、所定速度で素管端部100Bに向けて移動するように制御される(ステップS2)。素管100の回転速度、移動機構240の移動速度は、素管100が一回転するのに合わせて軸方向に軟化領域分だけ移動するように定められており、ピッチ間隔は、ガスバーナー110の燃焼ガス照射特性、燃焼火力等に従う。
【0066】
ガスバーナー110が素管端部100Bまで移動すると、不純物部除去処理工程が終了する。そして、発光部成形のため、移動機構240が素管100の中間部に移動させられる(ステップS3)。
【0067】
このように本実施形態によれば、点灯時の封入水銀蒸気圧が高いショートアーク型放電ランプにおいて、発光部および封止部から構成される放電容器の金属濃度が、0.2ppm以下になっている。このようなアルカリ金属濃度の特性をもつ放電容器を得るため、放電容器製造工程において、不純物除去処理工程をまず行い、その後、発光部成形工程を行っている。
【0068】
不純物除去処理工程では、素材となる石英ガラス管の端から端に渡って順に加熱し、軟化領域を順に軸方向に沿ってスパイラル移動させる。この間、加熱方向、すなわち軟化領域の移動方向(端部100Aから端部100Bに向けた方向)に沿って不活性ガスを管内に流し続け、アルカリ金属成分などの不純物を管外へ放出させる。
【0069】
本実施形態では、素管となる石英ガラス管の一部を軟化点まで強力に加熱し、その軟化領域を管軸方向に移動させ、素管を軸方向に沿って順に加熱する。これにより、ガラス変形を最大限抑えながら、壁中、壁面に存在していたアルカリ金属成分などの不純物を管内へ放出させることができる。一方、素管を順に加熱している間は不活性ガスを絶えず流し続けるため、放出されたアルカリ金属が再び管内へ吸収されることなく管外へ放出される。
【0070】
素管の回転およびガスバーナーの移動により、軟化領域が螺旋状に軸方向に沿って移動するため、素管の周方向かつ軸方向に沿って隈なく軟化領域を順に形成することが可能となる。それとともに、軟化領域が過度の加熱によって広がっていくことを防ぐ。
【0071】
また、本実施形態では、不純物除去のため供給される不活性ガスが加熱方向に沿って管内を流れる。すでに軟化点に一度達して不純物が放出された素管部分は、軟化領域よりもガス流入側に位置し、不純物の含まれるまだ軟化されていない素管部分は、軟化領域よりもガス流出側に近い。
【0072】
その結果、管内に放出されたアルカリ金属は、一度軟化して高温状態にあるガス流入側の素管部分、特に軟化領域に近い(先ほどまで軟化領域であった)素管部分を通過しない。これにより、石英ガラスから放出されたアルカリ金属が再び石英ガラスに吸収されるのを確実に抑えることができる。
【0073】
このような不純物除去処理工程の結果、点灯中の失透が抑えられるとともに、陰極側へのアルカリ金属誘引、堆積が生じず、封止部内の箔シール構造が崩れて耐圧強度が低下する恐れがない。その結果、ランプを長期間点灯し続けても、照度が維持される。また、アルカリ金属を誘引する導電部材などを封止部周囲、あるいは封止部内部に別途設ける必要がなく、放電ランプの構成が複雑化しない。
【0074】
また、本実施形態では、放電容器の成形工程の過程において、特に、発光部成形前に、素材となる石英ガラス管から不純物を除去している。発光部成形の工程は、加工成形としてガラスを変形させる工程であるが、そのような工程の中に、ガラス管を実質的に変形させない加熱による不純物除去処理工程が組み込まれている。
【0075】
そのため、その工程前後において不純物除去用に独自の工程(例えば、放電ランプ全体に対する長時間真空加熱処理など。ただし、製造コスト、作業効率、設備スペース等を考慮すると、石英ガラス管を変形させることなく、真空加熱炉により軟化領域までの強力な加熱処理を行うような工程を設けることは実質的に不可能。)を設ける必要がなく、作業効率が上がる。
【0076】
なお、わずかに残留するアルカリ金属の影響を取り除くため、封止部の外周に金属ワイヤーなどの導電部材を設置し、封止部表面を陰極よりも低い電位にし、封止部表面にアルカリ金属陽イオンを移動させてもよい。
【0077】
この場合、ランプ点灯停止後も導電部材に所定時間電圧を印加することによって、バルブ温度が所定温度(例えば、ナトリウム移動が増える300℃など)以上の高温状態を維持するようにするのがよい。これによって、アルカリ金属イオンが再び発光部に移動するのを防ぐ。
【0078】
放電容器の不純物除去処理工程においては、1つのガスバーナーの代わりに、複数の酸素−水素ガスバーナーを使って加熱していってもよい。例えば、酸素−水素ガスバーナーをリング状に配置し、素管を回転させることなく素管軸方向に沿って順に加熱するように構成してもよい。あるいは、素管を軸方向に複数の区画に分け、区画ごとに1つあるいは複数の酸素−水素ガスバーナーを配置させて加熱するように構成してもよい。なお、加熱温度は、軟化領域に到達するように適宜設定すればよい。
【実施例】
【0079】
以下、図4を用いて、本実施例であるショートアーク型放電ランプについて説明する。
【0080】
本実施例のショートアーク型放電ランプは、上記実施形態に対応する超高圧水銀ランプであり、電極間距離が5mm、封入水銀量が5mg/mm、指導用希ガスの封入圧が5atmであり、点灯時水銀蒸気圧は、20atmである。上記実施形態に示した工程に従って放電容器を成形している。ランプ定格電力は1kWであり、封止部において箔シール構造になっている。
【0081】
放電容器の素材となる石英ガラス管について、加熱前と発光部成形後のアルカリ金属濃度を検出した。その結果、以下の表のようになった。ただし、アルカリ金属濃度をppb(=1×10ppm)で表している。また、アルカリ金属濃度は、ICP発光分光分析法に従って測定した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示すように、発光部成形直後のNa(ナトリウム)、K(カリウム)、Li(リチウム)の濃度は、90ppb、50ppb、10ppbであり、いずれも0.1ppm(100ppb)以下になっている。特に、K、Liについては、0.05ppm以下になっている。なお、発光部成形後の製造工程の影響によってアルカリ金属が石英ガラス管内に吸収される場合もがあるが、その量は微量であり、放電ランプ製造終了時における残留アルカリ金属成分も実質的に0.1ppmを超えるようなことはない。
【0084】
次に、従来工程によって放電容器を成形したショートアーク型放電ランプと、本実施例の放電ランプについて、照度維持率の比較実験を行った。
【0085】
従来工程に基づく2つの放電ランプ(ここでは、従来ランプ1、従来ランプ2という)は、素管を端から端全体に渡って加熱することはなく、素管を回転させながら中間部を加熱し、中間部が軟化領域まで加熱されると、不活性ガスを素管内に流し込んで不純物を除去し、その後発光部を成形している。ランプ形状、水銀量、希ガス封入圧は、本実施形態の放電ランプと同じである。
【0086】
図4は、照度維持率を示したグラフである。横軸は点灯開始からの時間を表す。縦軸は、ランプ点灯初期の光照度を100%とした場合の、時間経過に伴う照度維持率を表す。
【0087】
図4に示すように、従来ランプ1、2に比べ、本実施例の放電ランプの照度維持率は、長時間使用しても変化せず、安定した点灯状態を示す高い照度が維持された。また、本実施例の放電ランプでは、封止部の箔シール構造において点灯中箔浮き現象は生じず、機密性が維持されてランプ破損は生じなかった。一方、従来ランプ1では、点灯中に箔浮き現象が生じ、長時間点灯させた結果、発光部が破損した。
【0088】
このように表1および図4のグラフを参照すると、放電容器のアルカリ金属濃度が0.1ppm以下であることによって、失透の抑制、放電空間の気密性維持がランプ点灯中も持続されることが確認される。しかしながら、石英ガラス管の材料特性、ガスバーナーによる加熱状態等を考慮し、また、図4に示すような従来ランプに対する本実施例の放電ランプの優位性を見れば、アルカリ金属濃度が0.2ppm以下であることによって同様な特徴をもつ放電ランプが提供されると言える。
【符号の説明】
【0089】
10 放電ランプ
12 発光部
14A 封止部
14B 封止部
20 陰極
30 陽極
40A マウント部
40B マウント部
100 素管
110 酸素−水素ガスバーナー
115 加熱対象部分
200 ガス供給装置
220 回転保持機構
240 移動機構
250 ガイド部材
300 ガラス旋盤
500 制御装置
510 システムコントロール回路
GM 不活性ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した石英ガラス管に不純物除去用ガスを流しながら、前記石英ガラス管を加熱して不純物を除去する不純物除去処理工程と、
不純物除去処理後、前記石英ガラス管の中間部を加熱して発光部を形成する発光部成形工程とを含み、
前記不純物除去処理工程において、軟化点まで加熱される軟化領域が前記石英ガラス管の軸方向に沿って移動するように、前記石英ガラス管を加熱することを特徴とする放電ランプの製造方法。
【請求項2】
前記不純物除去処理工程において、
前記軟化領域が軸方向に沿って螺旋状に移動するように、前記石英ガラス管を回転させることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプの製造方法。
【請求項3】
前記不純物除去処理工程において、
前記不純物除去用ガスを加熱順方向に流すことを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の放電ランプの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載された放電ランプの製造方法によって製造されるショートアーク型放電ランプであって、
放電容器のアルカリ金属濃度が、発光部成形後において、0.2ppm以下であることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項5】
アルカリ金属濃度が、発光部成形後において、0.1ppm以下であることを特徴とする請求項4に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項6】
定格電力が1kW以上であって、
前記発光部内の水銀封入量が3mg/cm〜40mg/cmであって、
希ガスの封入圧が0.5atm〜5atmであって、
前記放電容器の封止部が、箔シール構造であることを特徴とする請求項4乃至5のいずれかに記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項7】
請求項1に記載された放電ランプの製造方法に使用される放電容器製造装置であって、
両端が開口し、管内に不純物除去用ガスが流れる石英ガラス管を、回転可能に保持する回転保持部と、
前記石英ガラス管を部分的に軟化点まで加熱可能な加熱部と、
前記加熱部を前記石英ガラス管に対して相対移動させる移動部とを備え、
前記移動部が、発光部成形前、軟化領域が前記石英ガラス管の軸方向に沿って移動するように、前記加熱部を相対移動させ、その後、前記石英ガラス管の中間部を加熱するように前記加熱部を相対移動させることを特徴とする放電容器製造装置。
【請求項8】
前記保持部が、前記加熱部の相対移動中、前記石英ガラスを回転させることを特徴とする請求項7に記載の放電容器製造装置。
【請求項9】
前記移動部が、不純物除去用ガスの流れる方向に沿って、前記加熱部を相対移動させることを特徴とする請求項7乃至8のいずれかに記載の放電容器製造装置。
【請求項10】
請求項1に記載された放電ランプの製造方法に使用される放電容器製造装置のプログラムであって、
前記放電容器製造装置を、
前記石英ガラス管を部分的に軟化点まで加熱する加熱部を、前記石英ガラスの加熱開始位置に位置決めする加熱対象領域設定手段と、
発光部成形前、軟化領域が前記石英ガラス管の軸方向に沿って移動するように、前記加熱部を前記石英ガラス管に対して相対移動させ、その後、前記石英ガラス管の中間部を加熱するように前記加熱部を相対移動させる移動制御手段と
して機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
前記加熱部の相対移動中、前記石英ガラス管を回転させるように、前記加熱対象領域設定手段として機能させることを特徴とする請求項10に記載のプログラム。
【請求項12】
前記加熱部が、不純物除去用ガスの流れる方向に沿って相対移動するように、前記移動制御手段として機能させることを特徴とする請求項10乃至11のいずれかに記載のプログラム。
【請求項13】
石英ガラス管によって成形され、発光部と、前記発光部両側に一体的に連設した封止管とを有する放電容器と、
前記発光部内に配置される電極対とを備え、
前記放電容器のアルカリ金属濃度が、0.2ppm以下であることを特徴とする放電ランプ。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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