説明

放電ランプ

【課題】封着材の加熱溶融前から、封止部材の一部を発光管の開口端面に当接させることにより、封止工程において封着材の加熱溶融によっても封止部材が発光管側に移動しないことにより、電極間距離を確実に所定の距離に確保することができるとともに、電極が管軸に対して偏心しない放電ランプを提供すること。
【解決手段】透光性セラミックスよりなる発光管1の開口端部に電極構造体4が取り付けられた封止部材2を封着材3で封着してなる放電ランプにおいて、封止部材2は、封着材3による封着前にその一部が発光管1の開口端面において周方向の一部で当接し、封止部材2と発光管1の開口部間に形成される空隙5に封着材3が充填されることを特徴とする放電ランプである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電ランプに係わり、特に、発光管が透光性セラミックスよりなるフラッシュ放電ランプやセラミックメタルハライド放電ランプの封止部における構造を改善した放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、透光性セラミックスからなる直管状の発光管を有するフラッシュ放電ランプの構成を示す断面図である。
同図に示すように、発光管101の両端の各々には、発光管101と同質の材料よりなる略円柱状の封止部材102が挿入されている。封止部材102の各々には、電極構造体104を構成する先端に電極1042を有する電極棒1041が発光管101の軸方向に沿って貫通して伸びるように設けられており、発光管101と封止部材102とは封着材103によって気密に封着されている。
【0003】
このようなフラッシュ放電ランプは、半導体の製造工程等において、シリコンウエハ表層に浅い拡散層(pn接合)を形成する際のランプアニール等に用いられている。
ランプアニールは、シリコンウエハを1000℃から1400℃にまで昇温して加熱する必要があり、具体的には、700μsの短時間に30J/cm以上のエネルギーを有する光を被照射物である半導体基板に照射するものである。その際、フラッシュ放電ランプに投入されるピークエネルギーは5×10Wにまで達するため、フラッシュ放電ランプにとっては過酷な条件下での点灯が強いられことになる。
このような条件では発光管材料として、シリカガラスを用いると発光管の内壁が白濁し、被照射面における照度が極端に低下する問題が発生する。
このような不具合を解消するために、発光管101に透光性セラミックスを用いることが知られている。
【0004】
また、図4は、透光性セラミックスよりなるセラミックメタルハライド放電ランプの構成を示す断面図である。
同図に示すように、発光管の両側の開口端面において、電極構造体204を構成する内部リード棒2042の先端に電極2043が取り付けられた封止部材202が、封着材203によって封着されている。
このようなセラミックメタルハライド放電ランプは、店舗照明等において、商品を華やかに演出するためのスポットライト用光源として利用されている。
セラミックメタルハライド放電ランプは、寿命途中における演色変化が少なく高演色性に優れ、石英発光管と比べて融点が高いためより高い温度での使用が可能であり、高効率、省エネルギー化が可能である。さらには、精度の高い発光管を加工できるためランプ特性のバラツキが少ないという利点がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−109537号公報
【特許文献2】特開平11−329360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のフラッシュ放電ランプやセラミックメタルハライド放電ランプには封止構造上共通した問題がある。
以下に、フラッシュ放電ランプを例にして封止構造上の問題点について説明する。
図5は従来技術に係るフラッシュ放電ランプの封止構造を示す断面図であり、図5(a)は発光管に封止部材を封着する前のフラッシュ放電ランプの封止構造を示す断面図、図5(b)は正常な状態で発光管に封止部材が封着されたフラッシュ放電ランプの封止構造を示す断面図、図5(c)及び図5(d)は異常な状態で発光管に封止部材が封着されたフラッシュ放電ランプの封止構造を示す断面図である。
【0007】
発光管に封止部材を封着する前は、図5(a)に示すように、電極構造体104を構成する電極棒1041が封止部材102を気密に貫通しており、発光管101と封止部材102との間にはリング状の封着材103が挟まれた状態にあり、発光管101と封止部材102とは直接接していない状態にある。
【0008】
このような状態から正常な状態で発光管101に封止部材102が封着された場合は、図5(b)に示すように、封着材103が加熱溶融され、封止部材102が封着材103を均一に押しつぶすように鉛直下方向に落ち、発光管101と封止部材102とが封着材によって封止される。
ここで、封着材103には酸化ビスマスを主成分としたガラス材が用いられ、加熱方法は、窒素置換された容器内に未封止状態のランプを入れ、電気炉で550℃で約5分、封着材103を加熱することによって行われる。
【0009】
しかし、異常な状態で発光管103に封止部材102が封着された場合の一例としては、図5(c)に示すように、封着材103の粘度が大きく、封着材103が加熱によっても十分溶けないと、封止部材102の発光管方向への移動量が少ないため、発光管101と封止部材102とが当接されない状態で封着され、電極間距離が所定距離以上となってしまう。
【0010】
また、他の異常な状態で発光管103に封止部材102が封着された場合の一例としては、図5(d)に示すように、電気炉の中心に未封止状態のランプが位置せず、偏った位置にランプが配置されたような場合には、封着材103への加熱が均一に行われず、封止部材102の発光管101方向への移動量に差が生じてしまい、封止部材102が発光管101に当接する箇所と当接しない箇所とが生じてしまう。
これは、複数本のランプを同時に加熱する場合、電気炉内でのランプ位置が加熱炉の発熱部に近い箇所と遠い箇所との違いによって、封着材103の温度分布に偏りが生じてしまうためである。温度が高く封着材103の粘度の小さい部分に位置する封止部材102は発光管101の方向に十分に下方に移動するが、温度が低く封着材103の粘度の大きい部分に位置する封止部材102が発光管101の方向に十分に下方に移動しない場合は、電極1042が発光管101に対して大きく偏心してしまう。最悪の場合には、電極1042が発光管101の内壁に接してしまい、フラッシュ放電ランプの点灯時、アーク放電の偏りのためランプの性能を大きく低下させてしまう。
【0011】
このような不具合は、セラミックメタルハライド放電ランプの封止工程においても同様に生じる。
【0012】
本発明の目的は、上記の種々の問題点に鑑み、透光性セラミックスよりなる発光管の開口端部に電極構造体が取り付けられた封止部材が封着材によって封止される放電ランプにおいて、封着材の加熱溶融前から、封止部材の一部を発光管の開口端面に当接させることにより、封止工程において封着材の加熱溶融によっても封止部材が発光管側に移動させないことにより、電極間距離を確実に所定の距離に確保することができるとともに、電極が管軸に対して偏心しない放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、透光性セラミックスよりなる発光管の開口端部に電極構造体が取り付けられた封止部材を封着材で封着してなる放電ランプにおいて、前記封止部材は、前記封着材による封着前にその一部が前記発光管の開口端面において周方向の一部で当接し、前記封止部材と前記発光管の開口部間に形成される空隙に前記封着材が充填されることを特徴とする放電ランプである。
【0014】
第2の手段は、第1の手段において、前記封止部材は、発光管の開口内径より小径の閉塞部と該閉塞部から径方向に伸びる当接部とを有し、該当接部が発光管の開口端面に当接し、前記閉塞部と前記発光管の開口部間に形成される空隙に前記封着材が充填されることを特徴とする放電ランプである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、透光性セラミックスよりなる発光管の開口端部に電極構造体が取り付けられた封止部材を封着材で封着してなる放電ランプにおいて、前記封止部材は、前記封着材による封着前にその一部が前記発光管の開口端面において周方向の一部で当接し、前記封止部材と前記発光管の開口部間に形成される空隙に前記封着材が充填されるので、封止工程において封着材の加熱溶融によっても封止部材が発光管側に移動することがなく、電極間距離を確実に所定の距離に確保することができるとともに、電極が管軸に対して偏心しないようにすることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、前記封止部材は、発光管の開口内径より小径の閉塞部と該閉塞部から径方向に伸びる当接部とを有し、該当接部が発光管の開口端面に当接し、前記閉塞部と前記発光管の開口部間に形成される空隙に前記封着材が充填されているので、封止部材の当接部を発光管の開口端面に当接させているので、封止工程において封着材の加熱溶融によっても封止部材が発光管側に移動することがなく、電極間距離を確実に所定の距離に確保することができるとともに、電極が管軸に対して偏心しないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
はじめに、本発明の第1の実施形態を図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態の発明に係るフラッシュ放電ランプの封止構造を示す断面図である。図1(a)は発光管に封止部材を封着する前のフラッシュ放電ランプの封止構造を示す側面断面図、図1(b)は図1(a)のA−A’から見たフラッシュ放電ランプの封止構造を示す平面断面図、図1(c)は発光管に封止部材を封着した後のフラッシュ放電ランプの封止構造を示す側面断面図である。
これらの図において、1はフラッシュ放電ランプの発光管、2は発光管1の開口端面を封止する封止部材、21は封止部材2の閉塞部、22は封止部材2の当接部、3は当接部22の上部に配置されたリング状の封着材、4は電極構造体、41は電極構造体4を構成する電極棒、42は電極棒41の先端に取り付けられる電極、5は封止部材2の閉塞部21と発光管1との間に形成され封着材3が充填される封着材充填空間(例えば、その間隙距離は0.4mm)である。
【0018】
図1(a)、(b)示すように、封止部材2は、発光管1の開口内径より小径の閉塞部21と閉塞部21から径方向に伸び発光管1の開口端面の周方向の一部で当接する当接部22を有しており、封止部材2の中心には電極構造体4の電極棒41が気密に貫通している。
【0019】
ここで、フラッシュ放電ランプは、一例として外径が13mm、内径が10.4mmのものが用いられ、発光管1内には60kPaのキセノンガスが封入されている。また発光管1としては透光性セラミックスの一種であるサファイアやイットリウム−アルミニウム−ガーネット単結晶体が用いられる。電極構造体4は、電極棒41としてニオブ、ニッケル、コバール合金等の導電体を用い、電極42はタングステンを用いる。また封止部材2はアルミナを用いる。また封止部材2と電極構造体4はロウ材で固定し、ロウ材としては封着材3より融点が高いものを用いる。また封着材3には酸化ビスマスを主成分としたガラス材を用いる。
【0020】
発光管1に封止部材2を封止する場合は、図1(a)に示す状態で封着材3を加熱して溶かす。加熱方法は、窒素置換された容器内に未封止状態のランプを入れ、電気炉で550℃で約5分間、封着材3を加熱溶融する。
溶けた封着材3は、図1(c)に示すように、封止部材2と発光管1の開口との隙間である封着材充填空間5の封止部材2の閉塞部21と発光管1の開口内面に沿って垂れるように流れ込み固化する。
【0021】
本実施形態の発明によれば、透光性セラミックスよりなる発光管1の開口端部に電極構造体4が取り付けられた封止部材2を封着材3で封止するフラッシュ放電ランプにおいて、封着材3の加熱溶融前から、封止部材2の当接部22を発光管1の開口端面に当接させているので、封止工程において封着材3の加熱溶融によっても封止部材2が発光管1側に移動することがなく、電極間距離を確実に所定の距離に確保することができるとともに、電極42を管軸に対して偏心しないようにすることができる。
【0022】
次に、本発明の第2の実施形態を図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態の発明に係るセラミックメタルハライド放電ランプの封止構造を示す断面図である。図2(a)は発光管に封止部材を封着する前のセラミックメタルハライド放電ランプの封止構造を示す側面断面図、図2(b)は図2(a)のB−B’から見たセラミックメタルハライド放電ランプの封止構造を示す平面断面図、図2(c)は発光管に封止部材を封着した後のセラミックメタルハライド放電ランプの封止構造を示す側面断面図である。
これらの図において、51はセラミックメタルハライド放電ランプの発光管、52は発光管51の開口端面を封止する封止部材、521は封止部材52の閉塞部、522は封止部材52の当接部、53は当接部522の上部に配置されたリング状の封着材、54は電極構造体、541は電極構造体54を構成する外部リード棒、542は電極構造体54を構成する内部リード棒、543は内部リード棒542の先端に取り付けられる電極コイル、55は封止部材52の閉塞部521と発光管51との間に形成され封着材53が充填される封着材充填空間である。
【0023】
図2(a)、(b)示すように、封止部材52は発光管51の開口内径より小径の閉塞部521と閉塞部521から径方向に伸び発光管51の開口端面の周方向の一部で当接する当接部522を有している。
【0024】
ここで、セラミックメタルハライド放電ランプは、一例としてランプ全長が36mm、電極間距離が6mm、定格電力が75Wのものを用いる。また発光管51としてはアルミナ多結晶体、イットリア多結晶体、イットリウム−アルミニウム−ガーネット多結晶体、マグネシア多結晶体等のいずれかの透光性セラミックスを用い、発光管51の最大外径は8.7mm、内容積は0.3mmであり、発光管51の両側の封止管部の外径は2.5mm、内径は0.8mmである。電極構造体54は、タングステン製の外部リード棒541とタングステン製の内部リード棒542と内部リード棒542の先端に設けられたモリブデン製の電極コイル543からなる。また封止部材52は、発光管51の材質である透光性セラミックスと線膨張率が同等又は近似したサーメットを用いる。また封止部材52の一端側には先端に電極コイル543を有する内部リード棒542と他端側には外部リード棒541が固定されている。また封着材3には希土類酸化物−アルミナ−シリカ系の材料を用いる。
【0025】
発光管51に封止部材52を封止する場合は、図2(a)に示す状態で封着材53を加熱して溶かす。加熱方法は、窒素置換された容器内に未封止状態のランプを入れ、電気炉で1400℃で約1分間、封着材53を加熱溶融する。
溶けた封着材53は、図2(c)に示すように、封止部材52と発光管51の開口との隙間である封着材充填空間55の封止部材52の閉塞部521と発光管51の開口内面に沿って垂れるように流れ込み固化する。
【0026】
本実施形態の発明によれば、透光性セラミックスよりなる発光管51の開口端部に電極構造体54が取り付けられた封止部材52を封着材53で封止するセラミックメタルハライド放電ランプにおいて、封着材53の加熱溶融前から、封止部材52の当接部522を発光管51の開口端面に当接させているので、封止工程において封着材53の加熱溶融によっても封止部材52が発光管51側に移動することがなく、電極間距離を確実に所定の距離に確保することができるとともに、電極543を管軸に対して偏心しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態の発明に係るフラッシュ放電ランプの封止構造を示す断面図である。
【図2】第2の実施形態の発明に係るセラミックメタルハライド放電ランプの封止構造を示す断面図である。
【図3】透光性セラミックスよりなる直管状の発光管を有するフラッシュ放電ランプの構成を示す断面図である。
【図4】透光性セラミックスよりなるセラミックメタルハライド放電ランプの構成を示す断面図である。
【図5】従来技術に係るフラッシュ放電ランプの封止構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 フラッシュ放電ランプの発光管
2 封止部材
21 閉塞部
22 当接部
3 封着材
4 電極構造体
41 電極棒
42 電極
5 封着材充填空間
51 セラミックメタルハライド放電ランプの発光管
52 封止部材
521 閉塞部
522 当接部
53 封着材
54 電極構造体
541 外部リード棒
542 内部リード棒
543 電極コイル
55 封着材充填空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性セラミックスよりなる発光管の開口端部に電極構造体が取り付けられた封止部材を封着材で封着してなる放電ランプにおいて、
前記封止部材は、前記封着材による封着前にその一部が前記発光管の開口端面において周方向の一部で当接し、前記封止部材と前記発光管の開口部間に形成される空隙に前記封着材が充填されることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記封止部材は、発光管の開口内径より小径の閉塞部と該閉塞部から径方向に伸びる当接部とを有し、該当接部が発光管の開口端面に当接し、前記閉塞部と前記発光管の開口部間に形成される空隙に前記封着材が充填されることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−216286(P2006−216286A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25905(P2005−25905)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】