説明

放電ランプ

【課題】 放電ランプの箔シール部へのアルカリ金属イオンの侵入を抑制し、ランプ寿命期間に亘って金属箔とガラスの密着性を確保できて、発光管の耐圧強度をいっそう高くできる放電ランプを提供すること。
【解決手段】 発光管部に一対の電極を備え、電極を支持する電極棒が封止管部内に配置されたガラス製の筒体に支持されると共に、この封止管部に金属箔と柱状のガラス部材とを備えた箔シール構造を備え、当該封止管部の外周面上に導電性部材が形成されてなる放電ランプにおいて、前記導電性部材を陰極側電極と電気的に接続するとともに、前記ガラス製の筒体の発光管部側の一端面にそって電極棒に電気的に接続されたアルカリ金属誘引部材を配置する。アルカリ金属誘引部材は、タングステン、モリブデン及びタンタルから選ばれた少なくとも1種よりなるのが好ましく、板状体又は層状に形成するのが良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶や半導体、プリント基板などの露光装置の光源に用いられる放電ランプに関し、特に、封止管部が金属箔によって封止された箔シール構造を有する放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプの給電構造として、電極が封止管部の内部に気密に埋設された金属箔に接続され、金属箔の他端に外部リードが接続されて導通をとるものが知られている。
図7は、このような箔シール構造を備えたショートアーク型の放電ランプ(以下、「放電ランプ」という。)の一例である。放電ランプは、発光管部61と、この発光管部61の両端から外方に伸びるよう設けられた封止管部62とにより構成されたガラス製の発光管60における発光管部61内に、陰極63および陽極64が互いに対向して配置されている。
陰極63、この陰極63が先端に設けられた陰極側軸部631を具えてなる陰極マウントと、陽極64、この陽極64が先端に設けられた陽極側軸部641を具えてなる陽極マウントとは、それぞれ封止管部62に挿入され、シール部において気密に溶着されて保持される。
陰極63、陽極64のマウント構造は、それぞれの軸部631、641が挿通されたガラス製筒体65およびこのガラス製筒体65の外方位置に設けられたガラス部材66を有し、ガラス部材66が封止管部62の内部において気密に溶着されて構成されている。
このガラス部材66の外周面には、各々、当該ガラス部材66の軸方向に伸びる帯状の、例えばモリブデンからなる複数枚の金属箔67が、周方向に互いに離間して配置され、これらの金属箔67の各々の一端部67Aが、ガラス部材66の内端面に配置された金属板68を介して、電極軸部631,641に電気的に接続されると共に、当該金属箔67の各々の他端部が、金属板69を介してガラス部材66の外端部から外方に突出して伸びる外部リード棒70に電気的に接続されている。
【0003】
箔シール構造の封止部(以下、簡単に「箔シール部」ともいう。)を有する放電ランプは、金属箔67周囲に配置されたガラスの部材(62,66)と、当該金属箔67との間の密着強度が、放電空間内に封入されるガスの膨張に対する耐圧性能を決める上で重要な役割を果たしている。
しかしながら、このようなガラスと金属箔67との結合は、化学的な機構によるものであり、アルカリ金属が侵入することによって切断されることが一般に知られている。
【0004】
この耐圧性低下を引き起こす原因となるアルカリ金属は、電極部材やガラス部材の表面や内部に不純物として存在しており、不可避なコンタミネーションとして、放電空間内に侵入する性質がある。従って、図7で示した放電ランプにおいて、電極軸部(631,641)の周囲に配置されるガラス製の筒体65は、封止管部62内に電極軸部631,641を安定的に保持するという役割を担うと同時に、放電空間中で対流しているアルカリ金属を封止管部62に直接的に流入することを回避する上で、有用の構成となっている。仮に、ガラス製の筒体65がなく、金属板68が放電空間に露出している場合には、バルブ内表面を移動してきたアルカリ金属が直接的に金属箔67の先端部に流れ込むため、早期に金属箔67が汚染されて気密性を失ってしまう。
【0005】
ところで、放電空間内に浸入したアルカリ金属は、ガラス内に溶け込むという性質を備えている。このため、ランプ内を対流した後、ガラス中に溶け込んだアルカリ金属は、容易にイオン化して電気的に陰極と同電位の場所へと誘引されて堆積する。而して、ガラス中のアルカリ金属イオンの幾らかが、陰極側の電極棒と金属箔の間に介在する集電用円板や金属箔の周囲に到達すると、箔シール部の近傍においてガラスと金属箔との結合を切断する事態に至る。
この結果、金属箔とガラス部材との間の結合が切断された場合には、箔シール部の密着強度が低下して、放電ランプの耐圧性を低下させ、封止管部の破損が引き起されることになる。
【0006】
このような問題に対し、アルカリ金属イオンの箔シール部への侵入を防ぐ方法として、導電性部材、例えば導電膜や導電性ワイヤ(線材)を発光管の外周面に配置して、陰極側電位と同電位にすることにより、アルカリ金属イオンを分散させる方法が知られている(特許文献1等)。
【0007】
この従来技術を、図8を参照して説明する。
図8は、陰極側の封止管部における絞込み部の近傍を拡大して示す図である。
封止管部62における絞込み部62A近傍の外周面、具体的には、金属箔67の先端部67Aと集電用の金属板68の接続部の近傍に、導電性部材としての導電膜71を形成する。この導電膜71に例えばリード線Wを接続し、これを陰極63側の外部リード棒(不図示)等に対して電気的に接続すると、導電膜71が形成されている部分においては、63陰極と同電位をもつことになるので、アルカリ金属イオンの正の電荷は導電膜71の電界と金属箔67および集電用金属板68の電界の間で移動が困難になり、金属箔67の周囲にアルカリ金属イオン(M)が近付くことが防止される。
このような導電膜71は、より高い効果を得るために、金属箔67の先端部67Aよりもわずかに発光管部61(電極63)側に移動した位置から、少なくともこの金属箔67の先端部67Aと集電用金属板68の接合部領域の、同図において破線で囲んだ部分を覆うように形成される。
以上のような技術を採用することで、ガラスに溶け込んだアルカリ金属イオン(M)を分散して捕獲することができ、金属箔67近傍に集中して堆積することを防止することができる。
【0008】
【特許文献1】特公平4−40828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような技術を採用しても、集電用金属板68と導電膜71とは同電位であり、アルカリ金属(M)のうち幾らかは集電用金属板68や金属箔67に向かって移動し、箔シール部に到達して堆積する。
そして、点灯時間が経過するに従って、金属箔67とガラスとの結合が切断され、ついには金属箔67が剥れると、箔浮きを生じることにつながる。
このように従来の技術においては、金属箔とガラスの密着性を十分に確保することができず、その結果、発光管の耐圧強度を高く維持することができない。
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、放電ランプの箔シール部へのアルカリ金属イオンの侵入を抑制し、ランプ寿命期間に亘って金属箔とガラスの密着性を確保できて、発光管の耐圧強度をいっそう高くできる放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、発光管部およびこれに続く封止管部よりなるガラス製の発光管と、
発光管部の内部に配置された、陰極および陽極からなる一対の電極と、
前記陰極を先端に有する電極棒と、
この電極棒の外周と前記封止管部の内周との間に配置されたガラス製の筒体と、
このガラス製の筒体の外端面に沿って配置され、電極棒の外方の端部が接続された金属板と、
この金属板の外方において、前記封止管部の内部に配置された柱状のガラス部材と、
このガラス部材における、前記封止管部の外端側に面する他端側に配置された外部リード棒と、
前記ガラス部材の外周に沿って伸び、その一端部が前記金属板に接続され、その他端部が前記外部リード棒に電気的に接続されるとともに、封止管部の内部に埋設された金属箔と、
前記発光管の外周面上において、前記金属箔の発光管側の先端部近傍から後方に向かって形成された導電性部材とを有する放電ランプにおいて、
前記導電性部材を陰極側電極と電気的に接続するとともに、
前記ガラス製筒体の発光管部側の一端面にそって、陰極側電極棒に電気的に接続されたアルカリ金属誘引部材を配置した
ことを特徴とする。
また、前記ガラス製筒体を複数備え、この複数のガラス製筒体を、前記封止管部の内部に長さ方向に並べて配置し、
前記複数のガラス製筒体のうち、少なくとも一つのガラス製筒体の発光管部側の一端面にそって、前記アルカリ金属誘引部材を配置した構成とするのがよい。
また、前記ガラス製筒体を複数備え、この複数のガラス製筒体を、前記封止管部の内部に長さ方向に並べて配置し、前記複数のガラス製筒体のうち、前記金属板に当接して配置されたガラス製筒体の発光管部側の一端面にそって、前記アルカリ金属誘引部材を配置した構成とするのがよい。
ここに、アルカリ金属誘引部材は、タングステン、モリブデンおよびタンタルから選ばれた少なくとも1種よりなる板状体により形成されているのがよい。
また、アルカリ金属誘引部材は、タングステン、モリブデンおよびタンタルから選ばれた少なくとも1種よりなる層により形成されているのがよい。
以上において、アルカリ金属誘引部材は、発光管の長さ方向において前記導電性部材よりも発光管部側に配置されているのが良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放電ランプの箔シール部へのアルカリ金属イオンの侵入を抑制することができ、ランプ寿命期間に亘って金属箔とガラスの密着性を確保できて、発光管の耐圧強度をいっそう高くすることができる放電ランプを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の放電ランプの実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係るショートアーク型の放電ランプの一例における構成の概略を示す説明用断面図である。
この放電ランプにおいて、発光管10は、石英ガラスにより形成され、放電空間Sを囲繞する略楕円球形の発光管部11と、この発光管部11の両端から外方に伸びるよう連設された筒状の封止管部12とにより構成されており、当該発光管部11に続く封止管部12の発光管部11に接近した個所に、封止管部12の一部が縮径された状態の絞り込み部12aが形成されている。
【0013】
発光管10の発光管部11内には、それぞれタングステンよりなる陽極13および陰極14からなる一対の電極が互いに対向するよう配置されており、その各々は、その外方における端部が第1の金属板21に固定されて封止管部12から発光管部11に向かうように管軸に沿って伸びる円柱状の電極棒15の先端に固定されて支持されている。電極棒15は例えばタングステンよりなり、その外方における端部が第1の金属板21に当接した状態(あるいは貫通した状態でもよい)で溶接等の適宜の手段によって固定され、当該金属板21に電気的に接続されている。また、発光管10の発光管部11内には、キセノン、アルゴン、クリプトン等の希ガス若しくはこれらの混合物よりなる封入ガスおよび水銀などの発光物質が封入されている。封入ガスの圧力は、封入時において例えば0.1〜10atmであり、水銀の封入量は、例えば発光管10における放電空間Sの内容積当たりの重量で1〜70mg/ccである。
【0014】
封止管部12の内部には、略円柱状の封止用ガラス部材17が配置されている。封止用ガラス部材17には、その外端面から軸方向に沿って伸びる有底孔17aが中心軸上に形成されており、この有底孔17aには、その内径に適合する外径の外部リード棒18が挿入されている。
【0015】
この封止用ガラス部材17の外周面には、モリブデンよりなる複数の帯状の金属箔20が、当該封止用ガラス部材17の周方向に互いに離間した状態で、当該封止用ガラス部材17の内端から外端に向かって伸びるように配置され、封止用ガラス部材17の外周面が金属箔20を介して封止管部12の内面に気密に溶着されることによって、当該金属箔20が封止管部12内に埋設されている。
【0016】
金属箔20の各々の先端部20aは、封止用ガラス部材17の内端面に沿って配置された第1の金属板21を介して電極棒15に電気的に接続されている。そして、一方の、金属箔20の各々の外端部20bは、外部リード棒18に接続されると共に封止用ガラス部材17の外端面に沿って配置された第2の集電用金属板22に接続されている。これにより、電極棒15と外部リード棒18とは、電極棒15、第1の金属板21、金属箔20、第2の金属板22、外部リード棒18の順に電気的に接続された構造となっている。
【0017】
封止管部12の外端側の近傍においては、第2の金属板22の外端面にそって、石英ガラスよりなる外部リード棒保持用のガラス製筒体19が、当該外部リード棒18が挿通された状態で配置されており、この外部リード棒保持用のガラス製筒体19の外周面は、封止管部12の内周面に気密に溶着されている。
なお、図1に示す放電ランプにおいては、外部リード棒保持用ガラス製筒体19と封止管部12との構成上の相違が明瞭となるよう境界部分について実線で示し、区別しているが、実際の放電ランプでは、ガラス同士が溶着することにより一体化された状態になっている。
【0018】
図1または図2で示すように、陰極14側の封止管部12の外面には、当該封止管部12内部に埋設された金属箔20の先端部20aの近傍を取り囲むように、導電性を有する部材が膜状に形成されている。このような導電性を有する膜(以下、導電膜23という。)は、具体的には金、白金等の金属と樹脂とを混練、混合した懸濁液を油脂等で薄め、発光管10(発光管部11および封止管部12)の所定の位置に塗付し、乾燥後、高温で焼成することにより形成したものであり、厚さが0.01〜50μmである膜として形成されたものである。
【0019】
この導電膜23は、例えば、模式的に示すリード線W1によって外部リード棒18に電気的に接続されており、放電ランプの動作中は電気的にマイナスの極性を帯びることになる。このような構成を標準的に備えることにより、石英ガラス中に存在するアルカリ金属イオンを発光管10の外表面においてトラップし、アルカリ金属イオンが電極棒15、第1の金属板21、金属箔20のマイナスの極性に誘引されて、これらの部材の近傍に集約されることを抑制する。
【0020】
本実施形態に係る放電ランプにおいては、陰極側に位置されたガラス製筒体16の前端面に沿って、アルカリ金属誘引部材25が配置されている。
アルカリ金属誘引部材25は、図2に示すように、電極棒15の軸に対して垂直な面方向に広がる円板状(ディスク状)の金属板よりなり、その中心部に形成された孔の内部に電極棒15が挿通された状態で、電極棒15に対して溶接等の手段で電気的に接続されている。
【0021】
ここで、図2に示すように、封止管部12およびガラス製筒体16により構成されるガラスについて、導電膜23の発光管側先端部近傍をa、アルカリ金属誘引部材25の外周部の近傍をb、中心孔の近傍をc、電極棒15と金属板21の接合部の近傍をd、金属箔20の発光管側先端部の近傍をe、導電膜23の後端部近傍をfとすると、符号a,b,c,d,e,fにより囲まれる略筒状の部分においては、アルカリ金属誘引部材25が金属箔20の周辺に形成された電界を包み込むように新たな電界を形成することにより、導電膜23、アルカリ金属誘引部材25、電極棒15、金属板21および金属箔20の全てが、実質的に陰極(14)と同電位となるため、この領域における電位差が小さくなり、この内部に存在するアルカリ金属イオンMは移動することができなくなる。
【0022】
この結果、金属箔20と第1の金属板21との接合部近傍に向かって移動するアルカリ金属イオンMを十分に減ずることができ、箔シール部分においてアルカリ金属イオンMが堆積することを抑制し、金属箔20とガラス部材(12、17)の間の結合が切断されることを効果的に回避することができる。
従って、箔剥れの発生を抑制でき、封止管部12における耐圧強度を長期に亘って高い状態に維持することができるようになる。
【0023】
アルカリ金属誘引部材25を構成する材質としては、金属であればタングステン、モリブデン、タンタルなどを好適に使用することができる。また、発光管の内部に水銀を備えていない放電ランプであれば、この他に例えば白金なども使用可能である。
【0024】
図3は本発明の他の実施形態を説明する、ショートアーク型の放電ランプの一例における構成の概略を示す説明用断面図、図4は図3においてガラス製筒体の近傍を拡大して示す説明図である。これらの図において、先に図1,2で説明した構成については同符号で示して、詳細な説明については省略する。
発光管10の発光管部11内には、陽極13および陰極14が対向配置されている。その各々は、その外方における端部が、第1の金属板21に固定されて封止管部12から発光管部11に向かうように管軸に沿って伸びる円柱状の電極棒15の先端に固定されて支持されている。この実施形態において、電極棒15は、外方における端部が第1の金属板21に貫通した状態(あるいは、当接した状態でもよい)で溶接等の適宜の手段によって金属板21に固定され、電極棒15の外方端部は封止用ガラス部材17の前方の端面に形成された有底穴17b内に挿入されている。
また、発光管10の発光管部11内には、キセノン、アルゴン、クリプトン等の希ガス若しくはこれらの混合物よりなる封入ガスおよび水銀などの発光物質が封入されている。封入ガスの圧力は上記実施形態と同様である。
【0025】
この実施形態係る放電ランプは、ガラス製筒体16が、第1のガラス製筒体16aと第2のガラス製筒体16bとからなる複数の筒体により構成されている。これら複数のガラス筒体16a,16bはその長さ方向に並んで封止管部12の内部に配置され、その外周部分が封止管部12の内周部分に溶着されて構成されている。
そして、この第1と第2のガラス製筒体16a,16bに挟まれるように、陰極14側の電極棒15と電気的に接続されたアルカリ金属誘引部材25が、封止管部12内に配置されている。
【0026】
図4は、アルカリ金属誘引部材25の近傍を拡大して示す図である。同図のように封止管部12およびガラス製筒体16により構成されるガラスについて、導電膜23の発光管側先端部近傍をa’、アルカリ金属誘引部材25の外周部の近傍をb’、中心孔の近傍をc’、電極棒15と金属板21の接合部の近傍をd’、金属箔20の発光管側先端部の近傍をe’、導電膜23の後端部近傍をf’とした場合には、a’,b’,c’,d’,e’,f’により囲まれる略筒状の部分においては、アルカリ金属誘引部材25が金属箔20の周辺に形成された電界を包み込むように新たな電界を形成することによって、導電膜23、アルカリ金属誘引部材25、電極棒15、金属板21および金属箔20の全てが、実質的に陰極(14)と同電位となって、この領域においては電位の高低差をほとんど有さなくなり、内部に存在するアルカリ金属イオンMは移動することができなくなる。
とりわけ、この実施形態によれば、アルカリ金属誘引部材25が、第1、第2のガラス製筒体16a,16bの間に介在するため、双方のガラス内に存在するアルカリ金属イオンを誘引することができ、金属箔20側に移動可能なアルカリ金属イオンMを減らすことができる。また、図1,2で示した実施形態に係るものよりも、導電膜23の先端部(a’)およびアルカリ金属誘引部材25(b’,C’)と、金属箔20の発光管側先端部の近傍(e’)の離間距離を比較的小さくできるため、ガラス内部における電界を密に形成することができ、アルカリ金属イオンMの移動をいっそう抑制することができる。
この結果、金属箔20先端部に蓄積されるアルカリ金属イオンMを十分減らすことができ、箔剥れの発生やこれに起因して生じる封止管部12のリークを確実に抑制することができる。
【0027】
ここで、上記放電ランプに関して具体的数値例を挙げると、発光管(10)の全長が、450mmであり、発光管部(11)の長さが162mm、発光管部(11)の最大外径が124mm、最大内径が113mmである。電極(13,14)間距離は、10mmである。封止管部(12)の外径は、29mmであり、内径は23mmである。電極は、陽極(13)は例えば径29mmであり、陰極(14)は20mmであって、電極棒(15)の径は陽極側が8mm、陰極側が6mmである。
アルカリ金属誘引部材(25)は、例えば、円板の厚みが0.015〜5mmであり、好ましくは0.03〜0.15mmである。
【0028】
無論、このようなアルカリ金属誘引部材(25)は、上記の板厚のものに限定されるものではなく、適宜設定可能である。ただし、これを金属で構成する場合には、石英ガラスに対して熱膨張差を有しているため、熱膨張したときの変形量の差異を吸収できるような寸法または構造とする必要がある。
また、アルカリ金属誘引部材(25)における面方向の大きさは、導電膜(23)との間の最短距離が小さいことが、ガラス内の電界を均一化してアルカリ金属イオンの流れを止めるという機能を発揮する上で好ましい。従って、その外径(外縁部)は、熱膨張が生じた場合でも封止管部を破損しないような範囲で、可及的に大きい方が好ましい。
更に、アルカリ金属誘引部材(25)がガラス製筒体(16)とほぼ同径となるよう半径方向に広がることにより、当該ガラス製筒体(16)内においてアルカリ金属イオンMの軸方向における移動が妨げられるため、すなわち、アルカリ金属イオンMが箔シール部側に侵入する経路が実質的に封止管部12の肉厚部分に制限されるため、箔シール部分近傍に誘引される絶対数を、確実に減らすことができるようになる。
なお、このようなアルカリ金属誘引部材は、ガラス(16)と密着していることは必須ではないが、誘引されたアルカリ金属イオンがガラスに接触することで電荷を中和し、周辺の電位の上昇を防ぐ機能を発揮させるとした観点から、密着していている方がより望ましい。
【0029】
また、図3,4で示した放電ランプのように、ガラス製筒体(16)として複数のものが並べて配置されている場合には、電界を密に形成するためにもアルカリ金属誘引部材(25)は、金属板(21)に当接したガラス製筒体(16)の発光管部(11)側の端面に沿って設けられるのが好ましい。無論、全てのガラス製筒体(16)前端面に沿って設けても構わない。
【0030】
以上においては、アルカリ金属誘引部材として、金属よりなる円形板状(ディスク状)の形態のもので説明したが、アルカリ金属誘引部材の形態としては、このようなものに限定されず、種々変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、図5(a)のように金属線を編んだメッシュで構成しても良いし、図5(b)のようにワイヤをほぼ同一面上に螺旋状に巻いて円盤状に成形したものでも良い。なお、このような形態においては、電界の染み出しを防ぐ意味で線同士の間隔はできるだけ小さく密な状態であることが望ましい。更に、図5(c)のように円板の内径部分と外径部分を板の伸びる方向に対して垂直に折り曲げて縁部を備えた構造としてもよい。このような折り返し部分を内径側に備えてたものにおいては、電極棒に対して大きな接触面積を得ることができてより好ましい。
要は、封止管部外表面に形成された導電膜および金属板と共に、ガラス製筒体ならびに封止管部を構成するためのガラスを包みこむような形状を備えていればよい。
なお本発明において、板状の部材とは、自己成形性を維持してほぼ同一面方向に広がる形状を有するものであればよく、面が全領域でつながっていることは必須でない。上記したようなメッシュ状のものでも良いし線材を同一面上に巻回して形成したものでもよい。
【0031】
また、ディスク状のアルカリ金属誘引部材においては、電気的に接続が確保できさえすれば単に電極棒を挿通するのみでも良いが、アルカリ金属誘引部材の中心部に中間部材を介したり、アルカリ金属誘引部材と電極棒とを、溶接、半田あるいはロウ付けなど適宜の接続手段によって接続することがより好ましい。
【0032】
また、本発明においてアルカリ金属誘引部材は、電界に対して変化を生じさせることができれば、上記実施形態のような板状体に限定されず、金属の層のようなものであっても可能である。
例えば、図6は、本発明の他の実施形態に係る電極マウントの構成図である。同図において先に図1〜図5の説明で述べた構成については同じ符号を用いて説明し、その詳細については省略する。
図6に示す実施形態において、電極棒15の周囲には、長さ方向に第1と第2のガラス製筒体16a,16bが並んで配置され、ガラス製筒体16が構成される。
これらガラス製筒体16a,16bのうち、金属板21に当接している側、すなわち第2のガラス製筒体16bにおける、電極側に位置された端面上に、金属層26が形成されると共に、この金属層26が陰極14側電極棒に電気的に接続されることによってアルカリ金属誘引部材を構成する。
このような実施形態にかかる放電ランプによれば、第1ガラス製筒体16aと第2の16bとの間に、電極棒15に電気的に接続された金属層26を備えているため、この金属層26が、放電ランプの金属箔(不図示)の周辺に形成された電界を包み込むように新たな電界を形成し、上記実施形態と同様、第2のガラス製筒体16bの周囲に、第1の金属板21、金属層26および封止管部の外側に位置される導電膜(不図示)のすべての部材が、電極棒15と実質的に同電位になるため、第1の金属板21と金属箔(不図示)との間における電場強度を小さくすることができ、ガラス製筒体16bや封止管部12を構成する周囲のガラスの中に存在するアルカリ金属イオンMの移動を、効果的に防止することができる。
【0033】
なおここで、本実施形態にかかる金属層26を形成する場合には、ガラス製筒体16bの断面上に、例えば蒸着方法や化学気相法などの手段を採用することができる。また、白金と樹脂とを混練、混合した懸濁液を油脂等で薄め塗付、焼成することにより、形成してもよい。また、金属製の箔をガラス製筒体の端面の形状に成形して、一方と他方のガラス製筒体16a,16bで挟むようにして構成しても良い。
更には、金属の層と、金属の板やワイヤなど適宜の部材とを組み合わせ、アルカリ金属誘引部材を構成することも可能である。
【0034】
なお、ここではガラス製筒体として複数の筒体を並べて構成した例で説明したが、単一のもので構成されたものであっても構わない。その際は当然、ガラス製筒体における電極先端側に位置された端面上に導電膜が形成されることになる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について種々説明をしたが、本発明は上記内容に限定されず、適宜変更可能であることは言うまでもない。例えば、図3〜図6ではガラス製筒体を2つの部材で構成した例を説明したが、それ以上、例えば3つの部材で構成しても構わない。更には、アルカリ金属誘引部材を配置する位置は、例えば全てのガラス製筒体の端面であってもかまわない。ただし、少なくとも金属板に当接したガラス製筒体における電極先端側に位置された端面にそって配置されるのが好ましい。
【0036】
〔実施例〕
図3および図4に示す構成に従って、本発明に係るショートアーク型の放電ランプを作製した。以下、この放電ランプを「ランプA」という。このランプAの具体的な構成および仕様は以下に示すとおりである。
発光管(10):発光管部最大外径;約124mm、内容積;1000cc、陰極側封止管部(シール部)外径;約29mm
陰極(14)材質;エミッタ物質としてトリウムが含有されたトリエーテッドタングステン、全長(軸方向長さ); 40 mm、胴部の直径;20mm
陰極(14)と陽極(13)との電極間距離;10mm
陰極側電極棒(15):材質;トリエーテッドタングステントリタン、直径;6mm
封入ガス:キセノンガス、封入ガス圧;0.90×10Pa
水銀量:30mg/cc
入力電力:12kW
封止用ガラス部材:材質;石英ガラス、陰極側直径;23mm
金属箔(20):材質;モリブデン、厚さ;40μm、全長(軸方向長さ);55mm、幅(周方向長さ);10mm、枚数5枚
第1のガラス製筒体(16a):材質;石英ガラス、全長(軸方向長さ);15mm
第2のガラス製筒体(16b):材質;石英ガラス、全長(軸方向長さ);13mm
アルカリ金属誘引部材(25)(ディスク状):材質;モリブデン、厚さ(軸方向長さ);0.015mm、内径6mm、外径23mm
アルカリ金属誘引部材(25)を第1と第2のガラス製筒体(16a,16b)の間に配置した状態で、第1と第2のガラス製筒体(16a,16b)の側面部分を封止管部(12)内周面に溶着して固定した。
このようにして、本発明にかかるランプAを製作した。
【0037】
〔比較例〕
ガラス製筒体を一体的に構成してアルカリ金属誘引部材を用いなかったことを除いて、上記実施例の仕様と同様に「ランプB」を製作した。
なおガラス製筒体の全長(軸方向長さ)は、26mmであった。
【0038】
上記ランプAおよびランプBを用いて、以下の実験を行った。
〔実験例〕
以上により作製されたランプAおよびランプBを電力12000Wの点灯条件下で点灯させ、点灯時における金属箔の浮きの有無および箔浮きがある場合には箔浮き量(軸方向の長さ)を調べた。なお箔浮き量は、金属箔における、初期のガラスと箔の密着部のバルブ側端部から、点灯後に剥離した箔軸上における距離で示した。複数枚で箔浮き(箔剥がれ)が発生している場合は、その最も箔浮き量が大きいものを代表値として採用した。
その実験例の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
本実施例に係るランプAにおいては、2000時間点灯後も箔浮きが発生することなく金属箔とガラスとの密着性が良好に維持できることが判明した。一方、本発明に係るアルカリ金属誘引部材を用いなかったランプBにおいては、点灯後500時間後の観測において箔浮きが認められ、点灯時間の増大と共にその量(軸方向長さ)が増すことが確認された。
上記実験例の結果から明らかなように、本発明によれば従来技術に比較して箔浮きの発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態にかかる箔シール構造を備えたショートアーク型の放電ランプを示す間軸方向断面図である。
【図2】図1の放電ランプの絞り込み部近傍を拡大して示す説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態にかかる箔シール構造を備えたショートアーク型の放電ランプを示す間軸方向断面図である。
【図4】図3の放電ランプの絞り込み部近傍を拡大して示す説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態にかかるアルカリ金属誘引部材の説明用斜視図である。
【図6】本発明の他の実施形態にかかる陰極側マウントを取り出して示す説明用斜視図である
【図7】従来技術にかかる箔シール構造を備えたショートアーク型の放電ランプの一例を示す間軸方向断面図である。
【図8】従来技術にかかる図7の放電ランプの変形例であり、放電ランプの絞り込み部近傍を拡大して示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
10 発光管
11 発光管部
12 封止管部
12a 絞り込み部
13 陽極
14 陰極
15 電極棒
16 ガラス製筒体
16a 第1のガラス製筒体
16b 第2のガラス製筒体
17 封止用ガラス部材
17a 有底孔
17b 有底孔
18 外部リード棒
19 ガラス製筒体
20 金属箔
20a 先端部
21 第1の金属板
22 第2の金属板
23 導電膜
25 アルカリ金属誘引部材
26 金属層
S 放電空間
W1 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管部およびこれに続く封止管部よりなるガラス製の発光管と、
発光管部の内部に配置された、陰極および陽極からなる一対の電極と、
前記陰極を先端に有する電極棒と、
この電極棒の外周と前記封止管部の内周との間に配置されたガラス製の筒体と、
このガラス製の筒体の外端面に沿って配置され、電極棒の外方の端部が接続された金属板と、
この金属板の外方において、前記封止管部の内部に配置された柱状のガラス部材と、
このガラス部材における、前記封止管部の外端側に面する他端側に配置された外部リード棒と、
前記ガラス部材の外周に沿って伸び、その一端部が前記金属板に接続され、その他端部が前記外部リード棒に電気的に接続されるとともに、封止管部の内部に埋設された金属箔と、
前記発光管の外周面上において、前記金属箔の発光管側の先端部近傍から後方に向かって形成された導電性部材とを有する放電ランプにおいて、
前記導電性部材を陰極側電極と電気的に接続するとともに、
前記ガラス製筒体の発光管部側の一端面にそって、陰極側電極棒に電気的に接続されたアルカリ金属誘引部材を配置した
ことを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記ガラス製筒体を複数備え、この複数のガラス製筒体を、前記封止管部の内部に長さ方向に並べて配置し、
前記複数のガラス製筒体のうち、少なくとも一つのガラス製筒体の発光管部側の一端面にそって、前記アルカリ金属誘引部材を配置した
ことを特徴とする請求項1記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記ガラス製筒体を複数備え、この複数のガラス製筒体を、前記封止管部の内部に長さ方向に並べて配置し、
前記複数のガラス製筒体のうち、前記金属板に当接して配置されたガラス製筒体の発光管部側の一端面にそって、前記アルカリ金属誘引部材を配置した
ことを特徴とする請求項1記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記アルカリ金属誘引部材は、タングステン、モリブデンおよびタンタルから選ばれた少なくとも1種よりなる板状体により形成されていることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記アルカリ金属誘引部材は、タングステン、モリブデンおよびタンタルから選ばれた少なくとも1種よりなる層により形成されていることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記アルカリ金属誘引部材は、発光管の長さ方向において前記導電性部材よりも発光管部側に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−118166(P2010−118166A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288634(P2008−288634)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】