説明

故障復旧支援システム

【課題】故障設備の近くに大容量の通信回線を敷設することなく、設備情報を短時間に携帯情報端末に伝送する故障復旧支援システムを提供する。
【解決手段】製鉄設備の故障を検出して故障信号を発生する故障検出手段と、前記故障信号を受信して故障設備情報を生成する故障情報処理手段と、製鉄所内の各工場の各設備部位に対応した設備情報を予め格納しておくデータ蓄積手段と、前記故障設備情報に基づいて故障した設備部位を判断し故障設備情報送信を発令する設備監視手段と、携帯情報端末を有し、データ蓄積手段と前記携帯情報端末との間は通信容量が100Mbps〜10Gbpsである通信回線で接続可能であり、設備監視手段の指令により故障設備情報の全てをデータ蓄積手段から携帯情報端末に短時間に伝送する故障復旧支援システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製鉄設備の故障復旧支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄設備の故障復旧にあたっては、故障が発生した設備の保全マニュアル及び設備図面をもった設備保全員が設備に赴き故障部位の特定及び故障復旧作業を行ってきた。しかしながら、保全マニュアルや設備図面のみで故障部位の特定及び故障復旧作業を行う迄に至るには十分に経験を積む必要がある。
【0003】
特許文献1には、経験の浅い設備保全員を支援するために、中央計算機に設備のレイアウト図やフロー図等を蓄積し、経験の浅い設備保全員は可搬型端末を用いて電話回線を通じて、中央計算機に蓄積された情報を適宜引き出して故障部位の特定並びに故障復旧作業を行える故障復旧支援装置を開示されている。
【0004】
特許文献2には、故障部位特定が困難なサイリスタレオナード装置を対象として、故障波形から故障部位を特定する装置を開示している。
【0005】
特許文献3には、特許文献1に開示された装置に格納する故障復旧に関するデータの構造に工夫を加えた装置が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1ないし3に開示された故障復旧支援装置では、通信回線は電話回線程度のものを使用しており、取り扱える情報量が限られおり、経験の浅い設備保全員を十分に支援することはできなかった。
【0007】
特許文献4には、障害が生じたプラントの設備の保守対策を迅速に行えるプラント用作業支援システムを提供することを目的として、携帯用情報端末からの要求に応じて障害情報データベースの情報を読み出す障害情報検索手段を設ける等の機能を有するプラント用作業支援システムを開示している。
【0008】
特許文献5には、携帯情報端末の小さなキーボードを押す回数を減らすことにより操作性を向上させた保守サービス支援システムの接続支援システムを開示している。
【0009】
特許文献4ないし5に開示されたシステムは、高機能化された携帯情報端末を可搬型パソコンに代えて使用することで故障復旧業務を迅速かつ円滑に実施するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−041974号公報
【特許文献2】特開平02−051385号公報
【特許文献3】特開平02−285423号公報
【特許文献4】特開2007−233562号公報
【特許文献5】特開2010−020725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4ないし5に開示されたシステムでは以下のような問題がある。
【0012】
経験の浅い設備保全員が早期に製鉄設備の故障部位を特定し、かつ、故障復旧を行わせしめるには、必要十分な設備情報を短時間に提供する必要がある。しかし、設備情報は故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データと多岐にわたることから、設備情報の容量は一つの設備部位であっても膨大である。したがって、製鉄所全体の設備情報を中央計算機に格納しておき、必要に応じて携帯情報端末に取り込んで使用する方式(以下、「PULL型」という。)を用いていたのでは、無線ないし電気通信回線を通じて設備情報を取り込むまでに多大な時間を要してしまい、故障復旧業務を遅延させる結果となる。
【0013】
設備情報をPULL型で携帯情報端末に取り込んで使用する方式で迅速かつ円滑に故障復旧業務を支援するには、故障設備の近くにまで大容量の通信回線を敷設する必要があり、多くのコストを要する。
【0014】
一方、全ての設備情報を携帯情報端末に格納しておけば伝送時間は不要となるが、全ての設備情報から必要な設備情報を引き出す作業をキーボードやタッチパネル操作が不自由な携帯情報端末でおこなうのは設備保全員には困難である。また、全ての設備情報を携帯情報端末に格納するためには、携帯情報端末の必要情報格納容量が過大となり、現実的でない。
【0015】
このような問題により、製鉄設備の故障復旧支援に携帯情報端末を用いることは開発途上の段階にあった。
【0016】
本発明は、故障設備の近くに大容量の通信回線を敷設することなく、設備情報を短時間に携帯情報端末に伝送する故障復旧支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者らは、鋭意研究開発の結果、設備情報を整理し、製鉄設備のある設備部位が故障した場合に、故障した設備部位に対応する故障設備情報の全体を携帯情報端末に伝送し(以下、「PUSH型」という。)、当該携帯情報端末をシステム全体から切り離して故障設備に携帯して故障復旧作業を行うことで経験の浅い設備保全員であっても効率的に故障部位特定並びに故障復旧作業を実行せしめることを見出した。
【0018】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)製鉄設備の故障を検出して故障信号を発生する故障検出手段と、
前記故障信号を受信して工場名、設備部位、故障・異常種類から構成される故障情報を生成する故障情報処理手段と、
製鉄所内の各工場の各設備部位毎に故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データから構成される設備情報を予め格納しておくデータ蓄積手段と、
前記故障情報に基づいて故障した設備部位と故障程度(重故障、中故障、軽故障)を判断して前記データ蓄積手段に故障した設備の設備部位の設備情報(以下、「故障設備情報」という。)を送信する旨の指令を発する設備監視手段と、
前記故障設備情報を格納可能な携帯情報端末とを有し、
前記データ蓄積手段と前記携帯情報端末との間は通信容量が100Mbps〜10Gbpsである通信回線で接続可能であり、
前記設備監視手段が故障程度を重故障あるいは中故障と判断した場合には、該設備監視手段は前記故障設備情報を前記携帯情報端末に伝送する旨の故障設備情報伝送指令を前記データ蓄積手段に送信し、
前記故障設備情報伝送指令を受けて、当該データ蓄積手段が当該故障設備情報の全てを前記携帯情報端末に伝送することを特徴とする故障復旧支援システム。
(2)前記設備情報を修正する設備情報修正手段を有することを特徴とする(1)に記載の故障復旧支援システム。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシステムにより、故障復旧の対象となる製鉄設備の近くに大容量の通信回線を敷設することなく、経験の浅い設備保全員であっても、早期に故障部位を特定でき、かつ、故障復旧作業をおこなうことができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の故障復旧支援システム
【図2】フロチャート
【図3】故障情報
【図4】設備情報
【図5】設備情報配置テーブルとデータ蓄積手段内部
【図6】故障情報(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、製鉄設備の故障復旧支援システムである。図1、図2を用いて本発明のシステムの動作を説明する。
【0022】
具体的には、製鉄設備の故障を検出して故障信号を発生する故障検出手段2と、前記故障信号を受信して工場名、設備部位、故障・異常種類から構成される故障情報を生成する故障情報処理手段3と、製鉄所内の各工場の各設備部位毎に故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データから構成される設備情報を予め格納しておくデータ蓄積手段5と、前記故障情報に基づいて故障した設備部位と故障程度(重故障、中故障、軽故障)を判断して故障設備情報を送信する旨の指令を発する設備監視手段4と、前記故障設備情報を格納可能な携帯情報端末6とを有し、データ蓄積手段5と携帯情報端末6との間は通信容量が100Mbps〜10Gbpsである通信回線で接続可能であり、設備監視手段4が故障程度を重故障あるいは中故障と判断した場合には、設備監視手段4は前記故障設備情報を携帯情報端末6に伝送する旨の故障設備情報伝送指令をデータ蓄積手段5に送信し、前記故障設備情報伝送指令を受けて、データ蓄積手段5が当該故障設備情報の全てを携帯情報端末6に伝送することを特徴とする故障復旧支援システムである。
【0023】
(設備情報データの構造)
本発明の故障復旧支援システムは、製鉄設備を対象としている。製鉄所は、高炉工場、製鋼工場、熱延工場、冷延工場、メッキ工場等の複数の工場から構成されており、各工場に複数の設備が設置されている。各工場の設備は設備部位に分けられる。さらに複数の設備部位を統合した上位の分類として、各工場に複数の設備区分を設けることもできる。
【0024】
高炉工場の設備について詳細に説明する。
【0025】
高炉工場においては、炉体を冷却するための設備である「炉体冷却設備」、原料等を燃焼させ送風を行う設備である「燃焼・送風設備」、高い圧力のガスを吹き付けて清浄を行う設備である「高圧ガス清浄設備」、高炉原料を高炉に装入する設備である「原料装入設備」、高炉ガス等を用いて発電を行う設備である「発電設備」、高炉工場に付帯している電気設備である「電気付帯設備」等の設備が設置されており、これらの名称は設備区分とされ、設備部位の上位の分類に属する。
【0026】
設備区分はいくつかの設備部位により構成されるので、炉体冷却設備区分を例にとって詳細に説明する。
【0027】
炉体冷却設備区分はさらに高炉最上部に取り付けられた冷却設備である「炉口冷却部位」、高炉中段部に取り付けられた冷却設備である「炉体冷却部位」、高炉下部に取り付けられた冷却設備である「炉底冷却部位」、これらの冷却設備に水を供給かつ還流する設備である「水補給設備部位」という設備部位から構成される。
【0028】
データ蓄積手段5に蓄積される設備情報は、少なくとも製鉄所内の各工場の各設備部位毎に階層構造で格納されている。また設備情報のデータ構造は、故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データから構成されている。故障部位特定マニュアルは、設備メーカー等が提供する一般的なトラブルシューティングマニュアルをベースに故障復旧事例を考慮して再構築されたマニュアルであり、故障復旧作業が有る毎にその内容が見直されて改訂されている。設備図面は、設備メーカー等が提供する一般的な設備図面をベースに日々の設備改善内容を取り込んで再構築された設備図面である。過去の故障復旧履歴は、当該故障復旧業務が終了した後に設備保全員によりその詳細が加筆修正されたものである。設備傾向データは、当該設備部位が有する部位ごとに故障の頻度を整理したデータであり、故障部位の特定が困難な場合には、設備保全員はこれを手掛かりに故障した部位について見当をつける場合が多い。
【0029】
(システムの動作)
製鉄設備を構成する各設備1には、故障検出手段2が装備されている。故障検出手段2は、設備故障を検出した場合には故障信号を発生する。故障検出手段2は一つの設備部位の中に複数設置されている。図1には、設備1に3つの故障検出手段(2a、2b、2c)が接続された様子を示している。一つの故障について一つあるいは複数の故障検出手段2から一つあるいは複数の故障信号が発生する。故障検出手段2は故障情報処理手段3と通信可能に接続されている。故障検出手段2から発信した故障信号は、故障情報処理手段3に集約される。
【0030】
故障情報処理手段3ないし設備管理手段4はプログラマブル・ロジック・コントローラ(Programmable Logic Controller:PLC)等を用いることができる。設備管理手段4はいわゆるプロセスコンピューターによって実現することもできる。
【0031】
故障情報処理手段3は故障検出手段2から一つあるいは複数の故障信号を受信する。故障検出手段2により検出された故障信号は故障情報処理手段3により故障情報に変換される。図3に示すように、故障情報は少なくとも工場名、設備部位、故障・異常種類から構成されており、複数の故障信号が発生した場合には故障信号の数とほぼ同数の設備部位並びに故障・異常種類が含まれることとなる。なお、故障情報は、図3に示すように故障信号毎に故障1、故障2のように分類して設備部位並びに故障・異常種類を表示可能なデータ構成とすることもできる。
【0032】
図1に示す例では、故障情報処理手段3、設備監視手段4、データ蓄積手段5、設備情報修正手段7は電気通信回線A10に接続されている。電気通信回線A10の通信容量は少なくとも1Mbps〜1Gbpsである。また、データ蓄積手段5と携帯情報端末6とは通信容量は100Mbps〜10Gbpsの電気通信回線B11により接続されている。故障情報処理手段3、設備監視手段4、データ蓄積手段5、設備情報修正手段7は、図1に示すようにそれぞれ別々のコンピュータシステムとすることも可能であり、あるいは、これらのうちのいくつかの手段を単一のコンピュータシステムとして構成することも可能である。例えば、設備監視手段4、データ蓄積手段5、設備情報修正手段7を単一のコンピュータシステムとすることができる。
【0033】
故障情報処理手段3から故障情報を受信した設備監視手段4は、工場名、設備部位並びに故障・異常種類より、故障した設備部位を特定するとともに、少なくとも中故障ないし重故障が存在するか否かを判断する。設備監視手段は、中故障ないし重故障が有る場合には、故障した設備部位を選んで当該区分の設備の設備情報の一部、好ましくは全てを携帯情報端末に送信する旨の故障設備情報伝送指令をデータ蓄積手段5に送信する。この場合、複数の設備部位が選ばれる場合がある。ここで中故障ないし重故障とは、本発明において故障設備情報を携帯情報端末に伝送する必要を有する故障をいう。具体的には 設備の運転を継続できない、設備能力・性能を満足できない、あるいは安全上の問題がある、場合である。また中故障よりも軽微な故障は軽故障となる。故障程度によらず、すべての故障において故障設備情報伝送指令をデータ蓄積手段5に送信することとしてもよい。
【0034】
データ蓄積手段5には、製鉄所内の各工場の各設備部位毎に故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データのうちの1又は2以上、好ましくはすべてから構成される設備情報を予め格納しておく。データ蓄積手段5として例えばハードディスクを備え、電気通信回線A10を通じて他の手段と通信を行うことができ、電気通信回線B11を通じて携帯情報端末6と通信を行うことのできる装置を用いることができる。
【0035】
待機時には、図1に示すように、携帯情報端末6は電気通信回線B11に接続され、データ蓄積手段5との間でデータ通信が可能な状態に置かれている。携帯情報端末6を電気通信回線B11に接続する場所については、当該製鉄所内の1箇所に設けることも可能であり、あるいは、製鉄所内のそれぞれの工場毎に設けることもできる。複数の工場をまとめた整備部門ごとに設けることもできる。原則として設備保全員の詰め所ごとに携帯情報端末6待機位置が設定される。
【0036】
設備監視手段4から故障設備情報伝送指令を受信したデータ蓄積手段5は、故障設備情報(故障した設備の設備部位の設備情報)の一部、好ましくは全てを、通信回線B11を通じて携帯情報端末6に伝送する。伝送に許される時間は3秒程度であり、設備保全員は携帯情報端末6を電気通信回線B11から切り離してこれを携帯して故障が発生した設備に急行する。
【0037】
伝送時間が3秒程度である理由を述べる。
【0038】
製鉄設備が故障していわゆる生産等が停止してしまうと、1時間あたり1000万円程度の損失が発生してしまうことから、故障が発生した場合、設備保全員は直ちに故障した設備の下に急行しなければならないので、転送時間はできるだけ短い方がよい。しかしながら転送時間を0とすることは不可能である。
【0039】
そこで、設備保全員が故障発見から現地に向けて出発するまでに要する時間から伝送に許される時間を検討する。
【0040】
まず、故障検出手段によって故障が検出されてから設備保全員が現地に向けて発進するまでに許される時間は5分程度とされている。これは、必要機材等を準備するまでに要する時間として認められているものである。必要機材等には工具の他に、設備情報として故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データ含まれ、これらを過不足なく取りそろえるためには5分程度の時間が必要とされているからである。
【0041】
さて、本発明のシステムを用いた場合であっても、携帯情報端末6に伝送される故障設備情報に過不足がないかを確認し、不足するものがあればデータ蓄積手段5に再送を要求して故障設備情報を補充する作業に十分な時間をとることが必要となる。
【0042】
発明者らは鋭意研究開発の結果、故障設備情報の過不足確認と故障設備情報を補充に十分な時間を確保するためには、伝送時間は10秒以内、望ましくは3秒以内とすれば円滑な故障復旧作業支援ができることを見出した。
【0043】
さて、故障設備情報は30MB〜3GB程度の容量を有する。故障設備情報が最小の30MBの容量を見込んだ場合であっても、電気通信回線B11の通信容量が100Mbpsであれば3秒以内の伝送が可能である。故障設備情報が最大の3GBの容量を見込んだ場合であっても、電気通信回線B11の通信容量が10Gbpsであれば3秒以内の伝送が可能である。さらに、将来、故障設備情報が30GB程度になることを見込むならば、電気通信回線B11の通信容量が100Gbpsであれば3秒以内の伝送が可能である。さらに、電気通信回線の設置コストをも考慮すると、電気通信回線B11の通信容量は、100Mbps〜10Gbps、望ましくは、1Gbps〜8Gbpsである。
【0044】
なお、10Gbpsの通信速度を有する伝送系の例としては、10GBASE−Tは、IEEE 802.3an−2006規格で定められた通常のアンシールデッド、またはシールデッドのツイストペアケーブルによって最大100mまで10Gbps(正確には9.42Gbps)の速度で接続する新しいイーサネット(登録商標)規格である。
【0045】
(携帯情報端末)
携帯情報端末6としては、携帯が可能であり、所要の情報格納容量を有し、必要な情報をディスプレイに表示することができ、簡単に操作可能であり、電気通信回線B11に接続して必要な速度で通信が可能である各種の端末を用いることができる。操作については、キーボード操作によるもの、あるいはディスプレイがタッチパネルを構成するものを用いることができる。10インチ前後のタッチパネル型ディスプレイを備えた端末(いわゆるタブレット型端末)を好ましく用いることができる。4インチ前後のタッチパネル型ディスプレイを備えた携帯電話(いわゆるスマートフォン)を用いても良い。一般的な携帯電話ばかりでなく、PHS(Personal Handyphone System)やPDA(Personal Digital Assistant)等のデータ通信が可能な各種の携帯用機器を用いることができる。ノート型パーソナルコンピュータを用いても良い。
【0046】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態において、前記設備情報を修正する設備情報修正手段を有する故障復旧支援システムである。
【0047】
(設備情報修正)
図1を用いて説明する。設備情報修正手段は7であり、デスクトップパソコンを用いることもできる。故障が発生しないときは、設備情報修正手段7により、データ蓄積手段5に格納されている故障復旧履歴、設備保全マニュアル、設備の傾向データ、設備図面等をメンテナンスすることができる。
【0048】
設備情報は、少なくとも製鉄所内の各工場の各設備部位毎に階層構造で、データ蓄積手段5に格納されている。設備情報データは、故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データから構成されている。前述のとおり、故障部位特定マニュアルは、設備メーカー等が提供する一般的なトラブルシューティングマニュアルをベースに故障復旧事例を考慮して再構築されたマニュアルであり、故障復旧作業が有る毎にその内容が見直されて改訂されている。設備図面は、設備メーカー等が提供する一般的な設備図面をベースに日々の設備改善内容を取り込んで再構築された設備図面である。過去の故障復旧履歴は、当該故障復旧業務が終了した後に設備保全員によりその詳細が加筆修正したものである。設備傾向データは、当該設備部位が有する部位ごとに故障の頻度を整理したデータであり、故障部位の特定が困難な場合には、設備保全員はこれを手掛かりに故障した部位について見当をつける場合が多い。
【0049】
以上説明したように、設備情報は設備技術者や設備保全員により日々修正が加えられており、修正にあたっては設備情報修正端末7を用いることができる。
【0050】
(設備情報管理)
製鉄所内各工場の設備部位毎の設備情報は30MB〜3GB(将来は30GB)程度の容量を有することとなる。そこで、データ蓄積手段5に図5(a)に示すように設備情報配置テーブルを装備する。データ蓄積手段5に備えられたハードディスクなどのストレージに設備情報を格納するに際し、当該テーブルにはある設備部位の設備情報を格納する先頭アドレスと末尾アドレスが格納されており、これにより設備部位毎に格納できる設備データの容量が割り当てられている。
【0051】
例えば、設備部位1はアドレス1を先頭アドレスとしてそこから1GBに相当する容量に対応するアドレスを末尾アドレスとして、設備情報の容量が1GBを超えないように制御している。例えば、設備部位1の設備情報を設備情報修正手段7で修正した場合に、設備データ容量が増加するが、もし、末尾アドレスを超えるようなことが有る場合には、警告を発してデータの圧縮ないし削除を保全作業員に求めることとなる。このように、設備情報は自由に修正できるものの、設計された容量以上とならないように調整することで、伝送時間を3秒以内で可能なようにしている。
【0052】
例えば、図5(b)に示すように、各設備部位毎に1GBを割りあてておく。これは、設備情報はおよそ200〜700MB程度であるから、故障復旧に要する設備情報は最大3〜5区分程度であることが経験的に知られており、5区分で有したとしても設備情報の容量が1GB〜3.5GBである。この場合には、5Gbps〜10Gbpsの伝送速度を有する電気通信回線B11を用いることにより、伝送時間を3秒以内とすることができる。
【実施例】
【0053】
高炉工場、製鋼工場、熱延工場、冷延工場、メッキ工場から構成される製鉄設備において、図1に示す本発明の故障復旧支援システムを構成した。故障情報処理手段3としてプログラマブル・ロジック・コントローラ(Programmable Logic Controller:PLC)を用い、設備管理手段4にはプロセスコンピューターを用いた。データ蓄積手段5としてネットワーク接続ハードディスクストレージを用い、製鉄所内の各工場の各設備部位毎に故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データから構成される設備情報を予め格納しておく。電気通信回線A10の通信容量は10Mbps、電気通信回線B11としてUSB3.0を用い、通信容量は5Gbpsである。携帯情報端末6として、10インチのタッチパネル液晶ディスプレイを有し、USB3.0規格の外部接続端子を有するタブレット型端末を用いた。待機時において、携帯情報端末6は電気通信回線B11に接続され、データ蓄積手段5との間でデータ通信が可能な状態に置かれている。
【0054】
高炉工場において故障が発生し、高炉工場の設備に接続した故障検出手段2が故障信号を発生した。故障検出手段2から故障信号を受信した故障情報処理手段3は図6に示す故障情報を生成した。故障情報は、故障1として炉底冷却部位のモーター重故障、故障2として水補給設備部位のモーター軽故障を示すものであった。
【0055】
故障情報処理手段3から電気通信回線A10を通じて故障情報を受信した設備監視手段4は、重故障があることから、炉底冷却部位と水補給設備部位の設備情報をデータ蓄積手段5から携帯情報端末6に伝送する旨の故障設備情報伝送指令を送信した。
【0056】
設備監視手段4から電気通信回線A10を通じて故障設備情報を受信したデータ蓄積手段5は、電気通信回線B11を通じて携帯情報端末6に炉底冷却部位と水補給設備部位の設備情報(故障設備情報)を伝送した。故障設備情報の容量は1GBであり、3秒以内で伝送が完了した。
【0057】
設備保全員は炉底冷却部位と水補給設備部位の設備情報(故障設備情報)が搭載された携帯情報端末を電気通信回線B11から切り離してこれを携帯し、故障した設備に急行した。
【0058】
表1では本発明のシステムを用いた場合(本発明例1)と、紙媒体のマニュアルを用いた場合(比較例1)、携帯情報端末を用いるがいわゆるPULL型(中央に所在する中央計算機内に格納された設備情報を用いる)で故障復旧作業を行った場合(比較例2)の故障復旧所要時間を比較した。比較例2においては、中央計算機から各設備の現場との間に通信容量10Mbps〜100Mbpsの通信回線が引かれており、故障現場に到着した設備保全員は、故障現場において携帯情報端末をその通信回線に接続し、中央計算機の格納情報の中から今回の故障に関連する設備情報を特定し、その後に当該設備情報を携帯情報端末に伝送する。
【0059】
【表1】

【0060】
表1により、本発明のシステムを用いた場合には紙媒体のマニュアルを用いた比較例1より故障復旧に要する時間が半分以下となった。比較例2のPULL型では、所要時間がほとんど紙媒体のマニュアルを用いた場合と変わらなかった。これは、PULL型では携帯情報端末の操作性が悪く、今回の故障に関連する設備情報を特定するのに時間を要し、さらに通信回線の通信容量が低いために中央計算機からのデータの引き出しに多くの時間を要していたことによる。
【符号の説明】
【0061】
1:設備
2:故障検出手段
3:故障情報処理手段
4:設備監視手段
5:データ蓄積手段
6:携帯情報端末
7:設備情報修正手段
10:電気通信回線A
11:電気通信回線B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄設備の故障を検出して故障信号を発生する故障検出手段と、
前記故障信号を受信して工場名、設備部位、故障・異常種類から構成される故障情報を生成する故障情報処理手段と、
製鉄所内の各工場の各設備部位毎に故障部位特定マニュアル、設備図面、過去の故障復旧履歴並びに設備傾向データから構成される設備情報を予め格納しておくデータ蓄積手段と、
前記故障情報に基づいて故障した設備部位と故障程度(重故障、中故障、軽故障)を判断して前記データ蓄積手段に故障した設備の設備部位の設備情報(以下、「故障設備情報」という。)を送信する旨の指令を発する設備監視手段と、
前記故障設備情報を格納可能な携帯情報端末とを有し、
前記データ蓄積手段と前記携帯情報端末との間は通信容量が100Mbps〜10Gbpsである通信回線で接続可能であり、
前記設備監視手段が故障程度を重故障あるいは中故障と判断した場合には、該設備監視手段は前記故障設備情報を前記携帯情報端末に伝送する旨の故障設備情報伝送指令を前記データ蓄積手段に送信し、
前記故障設備情報伝送指令を受けて、当該データ蓄積手段が当該故障設備情報の全てを前記携帯情報端末に伝送することを特徴とする故障復旧支援システム。
【請求項2】
前記設備情報を修正する設備情報修正手段を有することを特徴とする請求項1に記載の故障復旧支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−45281(P2013−45281A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182568(P2011−182568)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】