説明

整髪剤

【課題】 セット用ポリマー単独で、高湿度下であっても、良好な毛髪セット保持力を有し、ベタツキが少なくて済む整髪剤を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂を含有する整髪剤。当該整髪剤は、水溶性に優れているので、水の含有率が40質量%以上の水性ヘアスプレーも提供できる。
【化1】


((1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアスタイリング剤(整髪剤)に関し、特にヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアセットローション、ヘアジェル等の水性ヘアスタイリング剤等に好適なヘアスタイリング剤(整髪剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪にカールなどの所望の形状を付与し、保持する目的で、ヘアスタイリング剤(整髪剤)が用いられる。
このようなヘアスタイリング剤は、通常、毛髪表面に皮膜を形成することで、所望の形状を保持するためのポリマー(セット用ポリマー)を主成分とし、さらに種々の目的で付与される添加剤、剤形に応じて配合される溶剤、基剤などを配合したポリマー組成物である。
【0003】
セット用ポリマーとしては、例えば、特開平5−25025(特許文献1)の段落番号0030〜0037に開示されているように、ポリビニルピロリドン系高分子化合物、酢酸ビニルエーテル系高分子化合物、酸性ポリ酢酸ビニル系高分子化合物、酸性アクリル系高分子化合物、両性アクリル系高分子化合物、塩基性アクリル系高分子化合物、セルロース誘導体、キチン・キトサン誘導体などが用いられる。しかしながら、これらのポリマー単独では、塗布、乾燥により、毛髪表面に形成される皮膜のごわつきなどの問題があることから、撥水性、潤滑性等を付与する目的で、特定の変性シリコーンを併用することを提案している。
【0004】
また、特開平9−175959(特許文献2)では、セット用ポリマーとして、N−メタクリロイルエチルN,N−ジメチルアンモニウム・α−N−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体、ビニルピロリドン・N,N−ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体から選ばれる1種または2種以上のポリマーを使用し、特定の海藻抽出物を併用することを提案している。ここに開示の整髪用組成物は、セット用ポリマーを多量に配合させると、ブローを行う際のくし通りが悪化したり、乾いたときに髪がごわついたり、形成された皮膜の剥離が起こったりする反面、セット用ポリマー量を低減すると、セット力が不足するといった問題を解決するためになされたもので、特定の海藻抽出物が、セット用ポリマーに対して、可塑剤や改質剤などとして働き、なめらかなセット皮膜を与えることで、くし通りがよくなるとともに、保湿性も与えることができるというものである。
【0005】
さらに、特開2003−95893(特許文献3)では、ゲル形成基剤に架橋型カルボキシビニルポリマーを使用する粘性液状、ゲル状の整髪剤において、セット用ポリマーとして、従来、一般に用いられているノニオン性樹脂(ビニルピロリドン重合体、ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体)を用いた場合、吸湿前には、毛髪に形成される皮膜が硬くてフレーキング現象をおこしやすい反面、高温多湿時には吸湿によりべたつきが大きくなるとともに、毛髪のセット保持力が低下するという欠点があり、両性樹脂であるベタイン型アクリル樹脂を用いた場合、高温多湿下で毛髪に付与した所定形状の保持が不十分で、硬さも不十分であることが説明されている(段落番号0003〜0005)。このような欠点改良のために、ゲル形成基剤に架橋型カルボキシビニルポリマーを使用する粘性液状、ゲル状の整髪剤においては、セット用ポリマーとして、1級アミン含有ポリビニルアルコールを用いることを提案している。
【0006】
【特許文献1】特開平5−25025号公報
【特許文献2】特開平9−175959号公報
【特許文献3】特開2003−95893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、セット用ポリマー単独では、所望のセット保持力とべたつき、くし通り等の感触を同時に満足できないため、併用する配合ポリマーにより、補完しているのが現状である。また、剤形により、溶媒やゲル形成基剤などとの組み合わせに応じて、セット用ポリマーの使用が制限されるといった問題もある。
【0008】
例えば、スプレータイプの整髪剤の場合、従来、スプレー後の揮発性を高めるために、揮発性有機溶剤が用いられていたが、近年、環境問題の観点から、揮発性有機溶剤と水の混合溶媒の使用が求められている。この点においても、吸湿によりべたつきやすいセット用ポリマーや、水溶性及び有機溶剤への溶解性に乏しいセット用ポリマーでは、対応が困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、セット用ポリマー単独で、高湿度下であっても、良好な毛髪セット保持力を有し、ベタツキが少なくて済む、整髪剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の整髪剤は、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする。
【0011】
【化1】


((1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示す。)
【0012】
前記側鎖1,2−ジオール構造単位の含有率は、1〜12モル%であることが好ましく、ポリマー成分中の前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有率は、50質量%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の水性ヘアスプレーは、上記本発明の整髪剤を溶解させてなる、水の含有率が40質量%以上のものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の整髪剤は、セット用ポリマーとして、特定構造を有するポリビニルアルコールを用いているので、セット保持力があり、しかも保湿性が高いにもかかわらず、べたつきが少なくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0016】
本発明の整髪剤は、セット用ポリマーとして、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール単位を有するポリビニルアルコール(以下「側鎖1,2−ジオール含有PVA」という)系樹脂を含むことを特徴とする。
【化1】

【0017】
上記一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。R〜Rは、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0018】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合基であり、セット保持力、べたつきのなさ、毛髪とのなじみ等の点から、単結合であることが好ましい。上記結合鎖としては、特に限定しないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CHO)m−、−(OCH)m−、−(CHO)mCH−、−CO−、−COCO−、−CO(CH)mCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等が挙げられるが(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。なかでも、製造時の粘度安定性や耐熱性等の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CHOCH−が好ましい。
【0019】
このような側鎖1,2−ジオール含有PVAの製造方法は特に限定しないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、好ましく製造される。
【0020】
【化2】


【化3】


【化4】


(2)(3)(4)式中、R〜Rは、いずれも(1)式の場合と同様である。R及びRは、それぞれ独立して水素またはR−CO−(式中、Rは、アルキル基である)。R10及びR11は、それぞれ独立して水素原子又は有機基である。
【0021】
(i)、(ii)及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を採用できる。
【0022】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で(i)の方法が好ましく、特にR〜Rが水素原子、Xが単結合、R及びRがR−CO−であり、Rがアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、更にその中でも特にRがメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0023】
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた時の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710,r(3,4−ジアセトキシ−1ブテン)=0.701であり、これは(ii)の方法で用いられる一般式(3)で表される化合物であるビニルエチレンカーボネートの場合のr(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0024】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等が挙げられるが、経済的観点から、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0025】
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(2)(3)(4)で示される化合物)の他に、セット保持力、水溶性、保湿性などの本発明の効果を損なわない範囲であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のαーオレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル、アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物が共重合されていてもよい。
【0026】
以上のような側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、従来、ヘアスタイリング剤の分野で用いられてきたセット用ポリマーと比べて、高湿下でもセット保持力に優れ、しかも吸湿性であるにもかかわらず、べたつきが少ないという特徴がある。特に、ポリアクリル酸系樹脂やポリビニルピロリドン系樹脂では、セット保持力を上げるために、配合量を多くすると、べたつきが大きくなるという点から、配合量を抑制する必要があったが、側鎖1,2−ジオール含有PVAでは、単独でのセット保持力が大きく、べたつきも少ないので、セット用ポリマーとして、セット保持力及びべたつきに関する双方の要求を充足することが可能である。さらに、側鎖1,2−ジオール結合を含有しない他のPVA系樹脂と比べても、保湿力が高いという特徴を有している。この点、従来のPVAでは、アクリル酸系樹脂やポリビニルピロリドン樹脂と比べて、保湿力の点で劣っていたことから、毛髪へのダメージ軽減という点から保湿剤を併用せざるをえなかったが、保湿剤との併用により、べたつきが大きくなり、保湿とサラサラ感といった相反する要求を充足することが困難であった。しかしながら、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂では、保湿力の点で、従来のPVA系樹脂よりも勝っており、保湿剤を併用しなくても、保湿を確保し、しかも毛髪のさらさら感を確保することができる。
また、側鎖1、2−ジオール含有PVA系樹脂は、通常のPVA系樹脂よりも結晶性が小さく、皮膜形成時の収縮がすくないためセットがしやすく、さらに、通常のPVA系樹脂よりも親水性が高いため毛髪へのなじみがよく、滑らかなくし通りが得られる。
【0027】
本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂中の側鎖1,2−ジオール単位の含有率は、通常1〜12モル%が好ましく、より好ましくは2〜10モル%、さらに好ましくは3〜8モル%である。側鎖1,2−ジオール単位の含有率が高くなりすぎると、セット保持力が低下する傾向にあり、少なすぎると、保湿性が小さくなり、毛髪へのダメージ低減効果が乏しくなる傾向にある。
【0028】
尚、PVA系樹脂中の側鎖1,2−ジオール単位の含有率は、PVAを完全にケン化したもののH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には、1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、及びメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0029】
本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の重合度は、300〜3000であることが好ましく、より好ましくは500〜2500、更に好ましくは800〜2000である。重合度が高すぎると、整髪剤の粘度が高くなって使いずらかったり、皮膜が硬くなってごわつきが大きくなったり、フレーキングが増加する傾向にあり、小さすぎると、セット保持力が低下する傾向にある。
【0030】
また、本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂のケン化度は、通常95モル%以上が好ましく、97モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。低すぎると毛髪表面との親和性が低下し、セット保持力が低下する傾向にある。
【0031】
〔他の樹脂〕
本発明の整髪剤は、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の以外に、ポリマー成分として、側鎖1,2−ジオールを含有しないPVA系樹脂や従来からセット用ポリマーとして用いられていた樹脂を含有してもよい。その配合比は剤型、要求物性等によって適宜決定されるが、セット用ポリマーとしての側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の特徴を損なわないように、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の含有率が50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(いずれも固形分比)となるようにする。
【0032】
他のPVA系樹脂としては、未変性PVA、部分ケン化PVA、カルボン酸変性PVA、ウンデシレン酸変性PVA、アセタール変性PVA,アミド変性PVA,ビニルエーテル変性PVA、チオール変性PVA,シラノール変性PVA,カチオン変性PVA,スルホン酸変性PVA、エチレン変性PVAなどのα−オレフィン変性PVA,ビニルエステル変性PVA,アミン変性PVA,オキシアルキレン変性PVA、アセト酢酸エステル基含有PVA、ジアセトンアクリルアミド変性PVA、末端チオール基変性PVA、末端アルキル基変性PVAなどが挙げられる。
【0033】
PVA系樹脂以外の樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸ヒドロキシプロピル/メタクリル酸ブチルアミノエチル/アクリル酸オクチルアミド共重合体などのポリ(メタ)アクリル酸系ポリマー;ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体などのポリビニルピロリドン系ポリマー;ビニルメチルエーテル/マレイン酸ブチル共重合体、水溶性ナイロン、HPMC、CMCなどが挙げられる。
【0034】
〔その他の成分〕
本発明の整髪剤は、セット用ポリマーとして、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を用いるもので、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の特性を損なわない範囲で、必要に応じて、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、又は両性の界面活性剤、各種油剤、アルコール類、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン等のシリコーン誘導体、増粘剤、保湿剤、可塑剤、植物抽出液等の薬効成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ビタミン類、防腐剤、中和剤、pH調節剤、色素、香料等の各種添加剤をを適宜配合してもよい。
【0035】
上記アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、セチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム、N−ミリストイル−L−グルタミン酸ナトリウム、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム等がげられる。
【0036】
上記両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキルアミノアルキレンアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビス(ポリオキシエチレン硫酸)アンモニウムベタイン等が挙げられる。
【0037】
上記カチオン界面活性剤としては、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0038】
上記非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、モノオレイン酸ポリオキシエチレングリコール、ステアリン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ヘキサステアリン酸ポリオキシエチレンソルビット、ショ糖脂肪酸エステル、親油型モノオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリンヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンセチルエーテル、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン等が挙げられる。
【0039】
これらの界面活性剤の整髪剤中の含有量は、通常0.01〜5質量%程度であることが好ましい。油剤としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルシロキサン等のシリコン誘導体、ヒマシ油、ヤシ油、液状ラノリン、ミツロウ、スクアラン、流動パラフィン、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸セチル、アジピン酸ジイソプロピル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、オレイン酸デシル、ラウリン酸ヘキシル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。これらの油剤の整髪剤中の含有量は、通常0.01〜45質量%程度であることが好ましい。
【0040】
アルコール類としては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マンニトール、ソルビトール、ジプロピレングリコール等の多価アルコールやエタノール、イソプロパノール、セタノール、ラウリルアルコール等の1価アルコールが使用できる。中和剤又はpH調整剤としては、塩酸、リン酸、コハク酸、クエン酸、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の酸、アルカリが用いられる。
【0041】
〔剤形〕
本発明の整髪剤は、ヘアフォーム、ヘアミスト、ヘアジェル、セットローションなど、種々の剤形で用いることができる。剤形に応じて、溶剤、ゲル形成剤、噴射剤などが適宜配合される。特に、本発明で用いている側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、水溶性に優れ、さらにアルコール系溶剤にも溶解することから、溶媒として、水、あるいは水/アルコール混合溶媒を用いることができ、しかもセット用ポリマーの含有濃度を高めた整髪剤を提供することができる。
【0042】
従って、エアゾールやポンプ式スプレータイプの整髪剤においても、揮発性有機溶剤のみに代えて、水/アルコール混合溶媒を用いることが可能であり、近年の環境問題への配慮から、揮発性有機溶剤の使用量の低減を図った水性ヘアスプレーを提供できる。
【0043】
好ましいアルコールとしては、エタノール、プロパノール等の低沸点アルコールが挙げられる。水/アルコール混合溶媒を用いた水性ヘアスプレーの場合、全量中の水の含有率が40質量%以上であることが好ましい。
【0044】
なお、エアゾールスプレーの場合、噴射剤を含有することが好ましい。噴射剤としては、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン等のアルカン類やその混合物である液化石油ガス、ジメチルエーテル等の液化ガス、二酸化炭素、窒素、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガスが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのうち、ジメチルエーテル又はこれと液化石油ガスとの混合ガスが好ましく用いられる。特に水含有量が25質量%以上、好ましくは40質量%以上の水性スプレーとするときには、水への溶解性が良好なジメチルエーテルを用いるのが好適である。中でも有機溶剤としてエタノールを使用し、噴射剤としてジメチルエーテルを用いるのが水への溶解性が良好であり好ましい。この場合、水/エタノール混合溶媒を15〜60質量%、ジメチルエーテルを20〜40質量%用いるのが好適である。噴射剤の使用量は、通常、全成分中に10〜60質量%であり、水含有量が40質量%以上の水性ヘアスプレーの場合には、10〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。噴射剤量が10質量%未満では噴射時に霧状にならず、棒状の噴射となってしまい、微細な霧状噴霧が得られない場合があり、一方60質量%を超えて使用すると低温での安定性が不足したり、噴射圧が高くなりすぎて、霧が周囲に飛散したり、吹き付ける勢いでヘアスタイルが崩れる場合があり好ましくない。
【0045】
なお、本発明の整髪剤、水性スプレーを、エアゾール製品の形態で、金属製の容器に充填して用いる場合は、保存中の安定性を確保するために、上記の各成分に加えて腐食防止剤を例えば、全成分に対して0.001〜5質量%添加することが好ましい。
腐食防止剤としては、モノエタノールアミンボレート、モノイソプロパノールアミンボレート、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム等の無機水酸化物、ニトロメタン、ジメチルオキサゾリドン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、及びアミノメチルプロパノール等が例示できる。
【0046】
また、本発明の側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、整髪剤以外にも、シャンプー、リンス、ヘアクリーム、ヘアトリートメントローション、スタイリング剤、カラーリング剤、ヘアマニキュア、カラーリンス、枝毛コート剤などの各種ヘアケア剤や、サンスクリーン、アイライナー、マスカラ、入浴剤、固形ファンデーションの結着剤などにも使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り質量基準を意味する。
【0048】
〔評価測定方法〕
(1)平衡吸湿率
セット用ポリマーの5質量%水溶液を、底面の直径が5.3cmのアルミカップに約5gはかりとり、50℃で5時間乾燥させた。これを30℃、90%RHの恒温恒湿機中に恒量になるまで放置し、その質量(W)を測定した後、これを105℃で3時間乾燥させて絶乾質量(W)を測定し、次式により平衡吸湿率を求めた。
平衡吸湿率(質量%)={(W−W)/W}×100
【0049】
(2)セット保持力
長さ20cm、重さ1.2gの毛束に、セット用ポリマーの3質量%水溶液を均一に塗布し、直径1cmのロッドに巻き付け、50℃で1時間乾燥させた後、カールのついた毛髪からロッドをはずした。これを、30℃、90%RHの恒温恒湿機に垂直につるし、3時間後、これを取り出し、放置前後の毛束の長さから、次式によりカールリテンション(%)を求めた。
カールリテンション(%)={(L−L)/(L−L)}×100
L :毛束の長さ(cm)
:ロッドから外した直後の毛束の長さ(cm)
:恒温恒湿機で3時間放置した後の毛束の長さ(cm)
【0050】
(3)ベタツキ
上記で得られたカールした毛髪を30℃、90%RHの恒温恒湿機内に24時間放置し、指で触ったときのベタツキ感を下記の基準でパネラー評価し、4名の評価結果を平均した。
5点:ベタツキ感なし
3点:ベタツキ感がややある
1点:ベタツキ感が大
【0051】
〔セット用ポリマーの評価〕
実施例1:
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル82.8部、メタノール9.9部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン7.3部(4.4モル%対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.032モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。重合の進行とともに、3,4−ジアセトキシー1−ブテンをHANNA法の条件を用いて1.9部滴下し、重合率が72.5%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
ついで、上記メタノール溶液をメタノールで希釈し、濃度44%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して12.5ミリモルとなる割合で加えて4時間ケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で、固液分離により分離し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中70℃、15時間で乾燥することにより目的の側鎖1,2‐ジオール含有PVA系樹脂を作製した。
【0052】
得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.7モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、1300であった。また、前記構造式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、H−NMR(内部標準物質;テトラメチルシラン)で測定して算出したところ6モル%であった。
【0053】
得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂をセット用ポリマーとして、上記評価方法に基づいて平衡吸湿率、セット保持力、べたつきを評価した。結果を表1に示す。
【0054】
比較例1:
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂に代えて、未変性PVA(重合度:1300、ケン化度:99モル%)を用いた以外は実施例1と同様にして、平衡吸湿率、セット保持力、べたつきを評価した。結果を表1に示す。
【0055】
比較例2:
比較例1で調製した未変性PVAに、保湿剤としてグリセリン(日本油脂社製「RG」)を、樹脂固形分90部あたり、5質量部の割合で配合して得られたサンプルについて、上記評価方法に基づいて平衡吸湿率を測定した。
平衡吸湿率測定後のサンプルフィルム表面はぬるぬるしていた。
【0056】
比較例3:
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂に代えて、ポリアクリル酸(相互化学工業社製『プラサイズL−6330』、樹脂分30質量%、水/エタノール混合溶液)を用いて、樹脂固形分含有率を実施例1と等しく調製したサンプルを作製し、上記評価方法に基づいて平衡吸湿率、セット保持力、べたつきを評価した。結果を表1に示す。
【0057】
比較例4:
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂に代えて、ポリビニルピロリドン(ISPジャパン社製『PVP K−30』)を用いた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、上記評価方法に基づいて平衡吸湿率、セット保持力、べたつきを評価した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1からわかるように、セット用ポリマーとして、ポリビニルピロリドンは、平衡吸湿率は高いが、セット保持力、べたつきが大変劣っており、ポリアクリル酸は、ポリビニルピロリドンと比べて、セット保持力に優れ、べたつきも少なかった。
一方、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を用いた実施例1では、ポリアクリル酸と同程度の平衡吸湿率を有しながら、セット保持力の点でも、べたつきの点でも、ポリアクリル酸よりも優れていた。
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と未変性PVAとを比べた場合、セット保持力、べたつきに関して、同程度の評価結果であったが、平衡吸湿率の点で、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の方が優れていた。未変性PVAと保湿剤を併用することにより、平衡吸湿率を上げることは可能であるが、べたつきがひどくなり、実用上、支障のあるレベルであった。
【0060】
従って、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、従来のセット用ポリマーよりも、さらさら感を確保しつつ、高湿度下でも優れたセット保持力を示すことができ、しかも保湿力も備えているので、毛髪へのダメージも少ない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の整髪剤は、セット用ポリマー単独で、セット保持力及びべたつきに関する双方の要求を充足することが可能なので、併用する他の基材を広範囲から選択することが可能であり、種々の剤形への適用が容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする整髪剤。
【化1】


((1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示す。)
【請求項2】
前記側鎖1,2−ジオール構造単位の含有率は、1〜12モル%である請求項1に記載の整髪剤。
【請求項3】
ポリマー成分中の前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有率は、50質量%以上である請求項1又は2に記載の整髪剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の整髪剤を溶解させてなる、水の含有率が40質量%以上の水性ヘアスプレー。

【公開番号】特開2009−286724(P2009−286724A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140534(P2008−140534)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】