説明

斜板式ピストンポンプ・モータ

【課題】構造の簡素化がはかれる斜板式ピストンポンプ・モータを提供すること。
【解決手段】シリンダブロックの回転に伴ってピストンがシューを介して斜板40に摺接して往復動し、ピストンによって容積室が拡縮するピストンポンプであって、円盤状の斜板40と、この斜板40が嵌合される斜板収容部とを備え、斜板40の外周部に切り欠き部44、45が形成される一方、斜板収容部にこの切り欠き部44、45に対峙する係止面が形成される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業機械に利用される斜板式ピストンポンプ・モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜板式ピストンポンプ・モータは、シリンダブロックの回転に伴って複数のピストンがシューを介して斜板に摺接して往復動し、各ピストンによって容積室が拡縮する。
【0003】
従来、この種の斜板式ピストンポンプ・モータとして、ケースの底部に円盤状の斜板を収容し、ケースに対する斜板の回動を係止する手段として回り止めピンが設けられるものがあった(特許文献1、2参照)。
【0004】
この場合、ケースと斜板のそれぞれに穴を形成され、回り止めピンが各穴に渡って挿入されることによって、ケースに対する斜板の回動が係止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−231300号公報
【特許文献2】特表平8−500883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の斜板式ピストンポンプ・モータにあっては、ケースと斜板の間に回り止めピンを介装する必要があるため、部品点数、組み立て工数が増える。また、ケースと斜板のそれぞれに回り止めピンが挿入される穴を形成する必要があるため、ケースと斜板に対する加工工数が増え、製品のコストアップを招くという問題点があった。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、構造の簡素化がはかれる斜板式ピストンポンプ・モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シリンダブロックの回転に伴ってピストンが斜板に摺接して往復動し、ピストンによって容積室が拡縮する斜板式ピストンポンプ・モータであって、円盤状の斜板と、この斜板が嵌合される斜板収容部とを備え、斜板の外周部に切り欠き部が形成される一方、斜板収容部にこの切り欠き部に対峙する係止面が形成され、切り欠き部が係止面に当接することによって斜板の回動が係止される構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ピストンポンプは、シリンダブロックの回転に伴って、ピストン側の摩擦力が斜板に働くが、切り欠き部が係止面に当接し、その反力によって斜板の回動が係止される。
【0010】
これにより、ピストンポンプは、従来装置のように斜板の回動を係止する回り止めピンを設ける必要がなく、部品点数、組み立て工数、加工工数が削減され、製品のコストダウンがはかれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を示すピストンポンプの断面図。
【図2】同じくシリンダブロックの正面図。
【図3】同じくバルブプレートの正面図。
【図4】同じく斜板の断面図と正面図。
【図5】同じくケースの断面図と正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、回転斜板式の油圧ピストンポンプ10は、ケース30とポートブロック2とにより形成される内部空間にシリンダブロック3および斜板(スラストプレート)40が収装される。
【0014】
シリンダブロック3を支持するシャフト5が設けられる。シャフト5は、シリンダブロック3を貫通し、その途中がケース30にベアリング11を介して支持され、その一端がポートブロック2にベアリング12を介して支持される。
【0015】
シャフト5は、ケース30から外部へ突出されるその一端に図示しない動力源から回転が伝達される。シリンダブロック3は、シャフト5を介して回転駆動される。
【0016】
シリンダブロック3には複数のシリンダ6が形成され、各シリンダ6にピストン8がそれぞれ挿入され、両者の間に容積室7が画成される。
【0017】
各シリンダ6は、シリンダブロック3の回転軸Oと平行に延び、かつ回転軸Oを中心とする同一円周上に一定の間隔を持って配置される。
【0018】
各ピストン8の一端側はシリンダブロック3から突出され、シュー9が回動可能に連結される。なお、これに限らず、シュー9をピストン8に一体的に形成しても良い。
【0019】
シリンダブロック3の内側には、コイル状のスプリング16と、複数のピン17とが収容される。スプリングの付勢力によって各ピン17がシリンダブロック3の端面から突出し、各ピン17が当接する半球状のリテーナホルダ18と、このリテーナホルダ18が摺接する円盤状のリテーナプレート19を介して各シュー9が斜板40に押し付けられる。
【0020】
ピストンポンプ10の作動時に、容積室7からの作動油がピストン8の通孔21とシュー9の通孔22を通ってシュー9と斜板40の間に供給され、シュー9が斜板40の摺接面41(図4参照)上に作動油膜を介して浮遊支持される。
【0021】
ピストンポンプ10の作動時に、シリンダブロック3が回転すると、各ピストン8は、斜板40に摺接するシュー9を介して斜板40に摺接して往復動し、シリンダ6の容積室7を拡縮させる。シリンダブロック3が一方向に回転するのに伴って、ピストン8によって容積室7を拡張する吸込行程と容積室7を収縮する吐出行程が繰り返される。
【0022】
図2に示すように、シリンダブロック3の端面には各容積室7に連通するシリンダポート13が回転軸Oを中心とする円周上に並んで開口する。
【0023】
ケース30にはシリンダブロック3の端面を摺接させるバルブプレート15が介装される。
【0024】
図3に示すように、バルブプレート15には円弧状の吸込ポート25と複数の吐出ポート24がそれぞれ回転軸Oを中心とする円周上に並んで開口する。
【0025】
シリンダブロック3は、図3において矢印で示す方向に回転する。各ピストン8は、バルブプレート15の中心線Cに対峙する位置で摺動方向が切換わる上死点と下死点を迎える。ピストンポンプ10は、中心線Cによって吸込領域Aと吐出領域Bに分けられる。バルブプレート15のシリンダブロック3に対する摺接面20も、中心線Cによって吸込領域Aと吐出領域Bに分けられ、吸込領域Aに吸込ポート25が開口し、吐出領域Bに吐出ポート24が開口している。
【0026】
シリンダブロック3が回転すると、各シリンダポート13が吸込ポート25と吐出ポート24に連通し、各容積室7に対する作動油の給排(吸い込みと吐出)が制御される。
【0027】
これについて詳述すると、吸込領域Aにて、シリンダブロック3の回転に伴って各ピストン8は容積室7を拡張し、図示しないタンクからの作動油が図示しない配管と吸込通路および吸込ポート25を通ってシリンダポート13から各容積室7に吸い込まれる。
【0028】
吐出領域Bにてシリンダブロック3の回転に伴ってピストン8が容積室7を収縮し、容積室7から吐出する加圧作動油が吐出ポート24と吐出通路および図示しない配管を通って油圧機器へと導かれる。
【0029】
図4の(a)は斜板40の断面図であり、(b)は斜板40の正面図である。斜板40は、円盤状に形成され、その中央部にシャフト5を貫通させる穴46が開口している。
【0030】
円盤状の斜板40は、シュー9に摺接する摺接面41と、ケース30に当接する背面42と、円筒面状の外周面43とを有する。
【0031】
図5の(a)はケース30の断面図であり、(b)はケース30の底部を示す正面図である。ケース30の底部には斜板40が嵌合される斜板収容部31が形成される。
【0032】
斜板収容部31は、円筒面状の側面32と、平面状の底面33とを有し、これらによってケース30の底部にて凹状に窪む円盤状の空間を画成する。底面33の中央部にシャフト5を貫通させる穴36が開口している。
【0033】
斜板収容部31は、斜板40に対して所定のハメアイ隙間を持つように形成される。ケース30に斜板40、スプリング16、ピン17、リテーナホルダ18、リテーナプレート19、シュー9、ピストン8、シリンダブロック3等が組み付けられた状態にて、斜板40は、スプリング16の付勢力によって斜板収容部31に押し付けられ、斜板収容部31から脱落しないようになっている。
【0034】
そして本発明の要旨とするところであるが、ケース30に対する斜板40の回動を係止する手段として、斜板40の外周部に第一、第二の切り欠き部44、45が形成される一方、ケース30の斜板収容部31に斜板40の第一、第二の切り欠き部44、45に対峙する第一、第二の係止面34、35が形成される。
【0035】
ピストンポンプ10の作動時に、シリンダブロック3がシャフト5を介して回転駆動されると、各ピストン8は、斜板40に摺接するシュー9を介して斜板40に追従して往復動し、シリンダ6の容積室7を拡縮させる。斜板40は、シュー9が摺接することによって、シュー9の摩擦力が回転軸Oを中心として回動させられる方向に働くが、第一、第二の切り欠き部44、45が斜板収容部31の第一、第二の係止面34、35に当接し、その反力によってケース30に対して回動することが係止される。
【0036】
斜板40の外周部に形成される第一、第二の切り欠き部44、45は、円筒面状の外周面43を平面状に切り欠いた形状を有する。
【0037】
第一、第二の切り欠き部44、45は、それぞれの端面に沿う延長線どうしが互いに略直交するように配置される。
【0038】
第一、第二の切り欠き部44、45の大きさは相異し、回転軸Oに対する第一の切り欠き部44の距離L1が第二の切り欠き部45の距離L2より大きくなっている。
【0039】
ピストンポンプ10の組立時に、斜板40は、その背面42が斜板収容部31の底面33が当接し、その摺接面41がシュー9に対峙するように組み付けられる。第一、第二の切り欠き部44、45の大きさが相異することにより、ピストンポンプ10の組立時に、斜板収容部31に対して斜板40の組み付けられる裏表の向きが限定され、斜板40の背面42がシュー9に対峙するように組み付けられることが回避される。
【0040】
斜板収容部31の第一、第二の係止面34、35は、斜板40の第一、第二の切り欠き部44、45と相似形状に形成され、第一、第二の切り欠き部44、45に対して平行に延びる平面状に形成される。
【0041】
斜板収容部31は、図5の(b)に斜線を入れて示すように、中心線Cによって吸込領域Aと吐出領域Bに分けられる。
【0042】
斜板40の第一、第二の切り欠き部44、45と斜板収容部31の第一、第二の係止面34、35は、吐出領域Bに設けられ、吸込領域Aには設けられない。
【0043】
ピストンポンプ10の作動時に、吐出領域Bにてピストン8によって収縮される容積室7の油圧力が、吸込領域Aにてピストン8によって拡張される容積室7の油圧力に比べて高まり、ピストン8がシュー9を斜板40に押し付ける力は吸込領域Aより吐出領域Bにて大きくなるため、シュー9が斜板40に付与する摩擦力は吸込領域Aより吐出領域Bにて大きくなる。
【0044】
第一、第二の切り欠き部44、45と第一、第二の係止面34、35がシュー9が斜板40に付与する摩擦力が大きくなる吐出領域Bに配置される構成のため、第一、第二の切り欠き部44、45と第一、第二の係止面34、35がシュー9が斜板40に付与する摩擦力が小さくなる吸込領域Aに配置される構成に比べて、斜板40に働く摩擦力の作用点と回動を係止する反力の作用点との距離が短くなり、斜板40に変形が生じることを抑えられ、斜板40の固定が確実に行われる。これにより、斜板40に要求される剛性が低くなり、斜板40の板厚を小さくすることが可能となる。
【0045】
金属製の斜板40は、例えば鋼材等を材質とし、プレス加工によって形成される。
【0046】
第一、第二の切り欠き部44、45は、斜板40がプレス加工される工程にて、一体的に形成される。
【0047】
斜板40は、プレス加工された後に、摺接面41に研磨加工が施される。これにより、摺接面41は、表面の粗さが背面42より小さくなっている。
【0048】
金属製のケース30は、例えばアルミ合金を材質とし、金型によるダイキャスト製法により鋳造される。ケース30は、鋳造された後、斜板収容部31、穴35が切削加工によって形成される。
【0049】
第一、第二の係止面34、35は、斜板収容部31が切削加工される工程にて一体的に形成される。第一、第二の係止面34、35の切削加工は、切削加工機に設定したプログラムに基づいて斜板収容部31と連続して自動的に形成される。これにより、第一、第二の係止面34、35を設けることによって、斜板収容部31に切削加工を施す工数は増えない。
【0050】
以上のように本実施の形態では、シリンダブロック3の回転に伴ってピストン8がシュー9を介して斜板40に摺接して往復動し、ピストン8によって容積室7が拡縮するピストンポンプ10であって、円盤状の斜板40と、この斜板40が嵌合される斜板収容部31とを備え、斜板40の外周部に切り欠き部44、45が形成される一方、斜板収容部31にこの切り欠き部44、45に対峙する係止面34、35が形成される構成とした。
【0051】
上記構成に基づき、ピストンポンプ10は、シリンダブロック3の回転に伴って、ピストン8側(シュー9)の摩擦力が斜板40に働くが、切り欠き部44、45が係止面34、35またはその近傍に当接し、その反力によって斜板40の回動が係止される。
【0052】
これにより、ピストンポンプ10は、従来装置のように斜板40の回動を係止する回り止めピンを設ける必要がなく、部品点数、加工工数、組み立て工数が削減され、製品のコストダウンがはかれる。
【0053】
本実施形態では、斜板40は少なくとも第一、第二の切り欠き部44、45が形成され、第一、第二の切り欠き部44、45の大きさが相異し、斜板収容部31に第一、第二の切り欠き部44、45に対峙する第一、第二の係止面34、35が形成される構成とした。
【0054】
上記構成に基づき、ピストンポンプ10の組立時に、斜板収容部31に対して斜板40の組み付けられる裏表の向きが限定され、斜板40の背面42がシュー9に対峙するように組み付けられることが回避される。
【0055】
本実施形態では、斜板収容部31は、容積室7がピストン8によって拡張される吸込領域Aと、容積室7がピストン8によって収縮される吐出領域Bとに分けられるピストンポンプ10であって、係止面34、35が吐出領域Bに配置される構成とした。
【0056】
上記構成に基づき、斜板40に働く摩擦力の作用点と回動を係止する反力の作用点との距離が短くなり、斜板40の固定が確実に行われる。
【0057】
なお、本発明は、斜板40がケース30に固定される固定容量タイプのピストンポンプ10に限らず、斜板がケースに揺動可能に設けられる可変容量タイプのピストンポンプにも適用できる。
【0058】
また、本発明は、ピストンポンプに限らず、供給される作動流体によって駆動されるピストンモータにも適用できる。
【0059】
また、ピストンポンプ・モータに給排される作動流体は、作動油(オイル)に限らず、例えば水溶性代替液等を用いても良い。
【0060】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【符号の説明】
【0061】
3 シリンダブロック
7 容積室
8 ピストン
9 シュー
10 ピストンポンプ
30 ケース
31 斜板収容部
34、35 係止面
40 斜板
44、45 切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの回転に伴ってピストンがシューを介して斜板に摺接して往復動し、
前記ピストンによって容積室が拡縮する斜板式ピストンポンプ・モータであって、
円盤状の前記斜板と、
前記斜板が嵌合される斜板収容部と、を備え、
前記斜板の外周部に切り欠き部が形成される一方、
前記斜板収容部に前記切り欠き部に対峙する係止面が形成されることを特徴とする斜板式ピストンポンプ・モータ。
【請求項2】
前記斜板は少なくとも第一、第二の切り欠き部が形成され、
この第一、第二の切り欠き部の大きさが相異し、
前記斜板収容部に前記第一、第二の切り欠き部に対峙する第一、第二の係止面が形成されることを特徴とする請求項1に記載の斜板式ピストンポンプ・モータ。
【請求項3】
斜板収容部は、
前記容積室が前記ピストンによって拡張される吸込領域と、
前記容積室が前記ピストンによって収縮される吐出領域と、に分けられ、
前記前記係止面が前記吐出領域に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の斜板式ピストンポンプ・モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−82747(P2012−82747A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229632(P2010−229632)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】