説明

斜板式液圧回転機

【課題】斜板の摺動面とシューとの間に潤滑用の油膜を保持することができ、長期に亘って摩耗、焼き付き等の発生を防止することができるようにした斜板式液圧回転機を提供する。
【解決手段】ケーシング内にて、シリンダブロック(5)と斜板(10)とが相対的に回転することにより、ピストン(8)がシリンダ(6)内で往復動しながら、ピストンの一端側に球面継手(9C)を介して揺動自在に設けられたシュー(9)が、斜板の摺動面上を摺動するように構成された斜板式液圧回転機において、シリンダブロックと斜板とが相対的に回転することによって、シューと斜板の摺動面との間に形成されている油膜に動圧を発生させ、その動圧により、シューを、球面継手を中心に傾動させることが可能なシュー傾動手段(16A,B)を備える構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン、ホイールローダ等の建設機械において、油圧ポンプまたは油圧モータとして用いられる斜板式液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、可変容量型または固定容量型の斜板式液圧回転機は、例えば油圧ショベル等の建設機械において、その油圧源を構成する斜板式の油圧ポンプとして用いられる。また、油圧アクチュエータとして用いる場合には、それは、例えば旋回用、走行用の油圧モータ等を構成するものである。
【0003】
この種の斜板式液圧回転機は、一般に、中空なケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と一体に回転するようにケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側がシリンダから突出した複数のピストンと、該各ピストンの突出端部に装着されたシューと、シリンダブロックと対向してケーシング内に設けられシリンダブロックと対向する面に各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、各シューと各ピストンの突出端部との間に位置して回転軸に挿通され各シューを斜板の摺動面に当接させる環状なリテーナと、該リテーナとシリンダブロックとの間に位置して回転軸に挿嵌され外周面によってリテーナを斜板に向けて押圧するリテーナガイドとを備えて構成されている。
【0004】
各シューは、静圧軸受を介して斜板の摺動面と接触している。具体的には、各シューの中央部には静圧ポケットが設けられ、この静圧ポケットと連通する油路が、各ピストンと各シューとに設けられている。そして、シリンダ内の潤滑油がこの油路を介して静圧ポケットに供給されると、ピストンからの押し付け力とバランスして、適正な厚みの油膜がシューと斜板の間に形成され、各シューは斜板と直接接触することなく円滑に摺動することができる。この構成の場合、シリンダブロックの回転に伴って複数のピストンと一緒に各シューが連れ回されるように斜板に対して相対回転するため、各シューが斜板の摺動面上で回転軸を中心としたリング状軌跡を描くように摺動変位することになる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−255215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、リテーナがシューと平坦な面同士で接触しているため、シューと斜板との接触面間に形成された油膜に十分な動圧を発生させることが困難な構成となっている。そのため、上記従来の技術では、シューと斜板の摺動面とが静圧軸受を介して良好な接触状態が保持されている間は良いが、長期間の使用等によって当該摺動面に油膜が保持されなくなると、動圧による潤滑が見込めないから、シューと斜板とが金属同士で直接接触してしまうことになる。そして、場合によっては、斜板式液圧回転機が破損して、運転を継続できないといった事態が生じることも考えられる。そのため、斜板式液圧機の更なる信頼性の向上が求められているのが実情である。
【0007】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、斜板の摺動面とシューとの間に潤滑用の油膜を保持することができ、長期に亘って摩耗、焼き付き等の発生を防止することができるようにした斜板式液圧回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、中空なケーシングと、該ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側がシリンダから突出した複数のピストンと、該各ピストンの突出端部に球面継手を介して揺動自在に装着されたシューと、シリンダブロックと同軸上で、かつ、シリンダブロックと対向するようにケーシング内に設けられると共に、シリンダブロックと対向する面に各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、各シューと各ピストンの突出端部との間に位置して各シューを斜板の摺動面に当接させる環状なリテーナと、該リテーナとシリンダブロックとの間に位置してリテーナを斜板に向けて押圧するリテーナガイドとを備え、シリンダブロックと斜板とが同軸上で相対的に回転することにより、各シューが斜板の摺動面上を摺動するように構成された斜板式液圧回転機において、前記シリンダブロックと前記斜板とが相対的に回転することによって、前記シューと前記斜板の摺動面との間に形成されている油膜に動圧を発生させ、その動圧により、前記シューを、前記球面継手を中心に傾動させることが可能なシュー傾動手段を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、シュー傾動手段が、動圧により、シューを球面継手を中心に傾動させることを可能としているので、シューと斜板の摺動面との間に形成された油膜反力が向上し、耐荷重性が向上する。より詳細に言うと、本発明は、シリンダブロックと斜板とが相対的に回転することで、シューと斜板の摺動面との間に形成されている油膜に動圧を発生させ、その動圧によりシューと斜板との間に外部から潤滑油が引き込まれてシューを傾けることにより、シューと斜板との接触を小さくしている。こうして、シューと斜板との間の油膜が良好に保持され、長期の使用に際しても、トラブルが発生し難くなり、機械の信頼性が高まることとなる。
【0010】
なお、本発明は、シリンダブロックと斜板とが同軸上で相対的に回転することにより、各シューが斜板の摺動面上を摺動するように構成されたものであれば良く、例えば、固定した斜板に対してシリンダブロックを回転させる構成と、固定したシリンダブロックに対して斜板を回転させる構成の両方を含むものである。
【0011】
また、上記構成において、前記シュー傾動手段は、前記リテーナの前記シューとの接触部に設けられ、前記シューを点で支持する点支持部を備える構成とするのが好ましい。簡単な構成で、シューを傾動させることができるからである。
【0012】
さらに、前記点支持部は、前記シューを2点で支持する2つのピボット部を有して成る構成とするのが好ましい。2点でシューを支持することでシューの傾動動作が安定するから、シューと斜板との間の油膜を良好に保つことができる。
【0013】
さらに好ましくは、前記リテーナには、前記各ピストンの挿通が可能な挿通穴が設けられると共に、当該挿通穴の周囲部が前記シューと接触する前記接触部とされ、前記2つのピボット部は、前記挿通穴の中心を通る同一直線上で、かつ、前記挿通穴の周囲部に、互いに間隔を空けて配置されている構成である。このように構成すると、斜板式液圧回転機が正回転と逆回転の何れの方向に回転しても、シューの傾動動作を同じように行うことができるから、例えば、斜板式液圧回転機としての油圧ポンプ・モータに好適なものとなる。
【0014】
また、上記構成において、前記斜板式液圧回転機は、一方向への回転が許容された液圧ポンプとされ、前記リテーナには、前記各ピストンの挿通が可能な挿通穴が設けられると共に、当該挿通穴の周囲部が前記シューと接触する前記接触部とされ、前記2つのピボット部は、前記挿通穴の中心を通る直線からオフセットされた同一直線上で、かつ、前記挿通穴の周囲部に、互いに間隔を空けて配置される構成とすることもできる。このように構成すると、シューが一方向にのみ傾動動作することを考慮して、液圧ポンプに好適な位置、即ち、挿通穴の中心を通る直線からオフセットされた同一直線上の位置に2つのピボット部を配置することができるから、液圧ポンプの信頼性を高めることができる。
【0015】
また、上記構成において、前記2つのピボット部は、前記リテーナの径方向に延在する蒲鉾形状の部材から成ることが好ましい。構造が簡単なうえ、シューの傾動動作をスムーズに行うことができるからである。
【0016】
また、上記構成において、前記挿通穴には、前記シューが沈み込むための座ぐり穴部が形成され、前記座ぐり穴部に前記2つのピボット部が配置される構成としても良い。この構成によれば、座ぐり穴部に潤滑油の油溜まりを形成することができるから、その油溜まりがダンパーとなって、シューのばたつきを低減することができる。
【0017】
また、上記構成において、前記2つのピボット部は、それぞれ前記挿通穴の周縁から中心を向くように配置されているものであっても良い。構造が簡単なうえ、シューの傾動動作をスムーズに行うことができるからである。
【0018】
また、上記構成において、前記斜板式液圧回転機は、一方向への回転が許容された液圧ポンプとされ、前記挿通穴の周囲部のうち略半周分の領域には、前記シューが接触する前記接触部としての平坦面が形成され、前記周囲部の残りの略半周分の領域には、前記シューが沈み込むための凹部が形成され、前記凹部と平坦面との境界の部分が前記2つのピボット部となる構成とすることもできる。この構成によれば、リテーナの挿通穴の周囲部に凹部を形成するだけで、凹部と平坦面との境界の部分が2つのピボット部となるため、ピボット部を形成するためのリテーナの加工が簡単である。
【0019】
また、上記構成において、前記2つのピボット部は、前記リテーナと別部材で構成されるようにしても構わない。このようにすると、ピボット部をリテーナより高強度の部材にすることができるから、耐久性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、動圧によりシューが傾動して斜板から浮上し、その浮上した部分に外部から潤滑油が引き込まれるため、シューと斜板の摺動面との間に潤滑用の油膜を保持することができる。よって、長期に亘って摩耗、焼き付き等の発生を防止することができる。特に、機械の回転が高速になると、潤滑油の動圧の効果が大きくなるから、シューと斜板との接触を小さくすることができ、より一層の長寿命化を図ることができる。このように、本発明により、信頼性の高い斜板式液圧回転機の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態例に係る斜板式液圧回転機としての油圧ポンプ1の断面図である。
【図2】図1に示すシュー9とリテーナ11との接触部分を拡大した図であって、(a)は、その接触部分の概略斜視図であり、(b)は、シュー9が挿通穴15に挿通された状態においてピボット部16Aが中央に位置するようにして挿通穴15の半周分の内周面を平面に展開して、シュー9とピボット部16Aの接触状態を示した図である。
【図3】図2に示すシュー9が動圧により傾動する仕組みを説明するための図である。
【図4】変形例1に係るシュー傾動手段を含むシュー9とリテーナ11との接触部分を拡大した図であって、(a)は、その接触部分の概略斜視図であり、(b)は、シュー9が挿通穴15に挿通された状態においてピボット部116Aが中央に位置するようにして挿通穴15の半周分の内周面を平面に展開して、シュー9とピボット部116Aの接触状態を示した図である。
【図5】図4に示すシュー9が動圧により傾動する仕組みを説明するための図である。
【図6】変形例2に係るシュー傾動手段を含むシュー9とリテーナ11との接触部分を拡大した図であって、(a)は、その接触部分の概略斜視図であり、(b)は、シュー9が挿通穴15に挿通された状態においてピボット部216Aが中央に位置するようにして挿通穴15の半周分の内周面を平面に展開して、シュー9とピボット部216Aの接触状態を示した図である。
【図7】変形例3に係るシュー傾動手段を含むシュー9とリテーナ11との接触部分を拡大した図であって、(a)は、シュー9が挿通穴15に挿通された状態においてピボット部316Aが中央に位置するようにして挿通穴15の半周分の内周面を平面に展開して、シュー9とピボット部316Aの接触状態を示した図であり、(b)は、(a)の挿通穴15とその周囲を上面から見た部分拡大上面図である。
【図8】変形例4に係るシュー傾動手段を含むシュー9とリテーナ11との接触部分を拡大した概略斜視図である。
【図9】変形例5に係るシュー傾動手段を含むシュー9とリテーナ11との接触部分を拡大した概略斜視図である。
【図10】図1に示す油圧ポンプ1が搭載された油圧ショベルHSの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態による斜板式液圧回転機を、可変容量型の斜板式油圧ポンプに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態で採用した可変容量型の斜板式油圧ポンプ1(以下、油圧ポンプ1という)は、フロントケーシング2とリアケーシング3とから構成される中空のケーシング内に、回転軸4が回転自在に収納され、この回転軸4には、シリンダブロック5が一体に連結されている。また、ケーシング内には、詳しくは後述する斜板10が傾転可能に取り付けられている。そして、回転軸4の一側は、フロントケーシング2から外部に突出する突出端となっており、この突出端は、例えば油圧ショベルHS(図10参照)の原動機となるエンジンが動力伝達機構(いずれも図示せず)等を介して連結される。これにより、油圧ポンプ1は、エンジンで回転軸4を回転駆動することにより、図示しない給排通路から高圧油(圧油)を吐出させる所謂ポンプ作用を行うことができる。
【0024】
シリンダブロック5には、図1に示す如く、周方向に離間して軸方向に延びる複数(例えば、合計9個)のシリンダ6,6,…が穿設されている。そして、各シリンダ6内には、円柱状のロッドとして形成されたピストン8が、各シリンダ6内に摺動可能に挿入されている。このピストン8は、シリンダブロック5の回転に伴って夫々のシリンダ6内を往復動し、弁板7の吸入ポート側から各シリンダ6内に作動油を吸込みつつ、これを弁板7の高圧ポート側から高圧の圧油として吐出させるものである。即ち、これらのピストン8は、図1に例示するように回転軸4の下側となる位置でシリンダ6から大きく突出(伸長)した下死点位置となり、回転軸4の上側となる位置ではシリンダ6内へと縮小した上死点位置となる。そして、シリンダブロック5が1回転する間に、各ピストン8はシリンダ6内を上死点から下死点に向けて摺動変位する吸入行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位する吐出行程とを繰返すことになる。
【0025】
また、ピストン8には、図2に示すように軸方向の一側(突出端側)に位置する球形凹部8Aと、当該ピストン8の軸方向他側から一側の球形凹部8A内に向けて軸方向に延びる内孔としての潤滑用油路8Bとが設けられている。そして、ピストン8の球形凹部8Aには、後述のシュー9が取付けられている。また、潤滑用油路8Bは、シリンダ6内に流入した油液の一部をシュー9側に向けて潤滑油として供給するものである。
【0026】
次に、各ピストン8の軸方向一側(突出端側)には、シュー9が揺動可能に設けられている。該各シュー9は、図2に示すように、後述するリテーナ11の挿通穴15よりも大径な円板状に形成され、斜板10の平滑面10A(図3参照)上を摺接する摺接部として円板状の台座部9Aと、該台座部9Aよりも小径となって該台座部9Aに一体形成され、リテーナ11の挿通穴15内に挿入される円形の段差部9Bと、該段差部9Bと共に挿通穴15内に挿通され、ピストン8の突出端側に揺動可能に取付けられる球面継手としての球形部9C等とにより構成されている。
【0027】
ここで、シュー9の台座部9A、段差部9Bおよび球形部9Cは、例えば機械構造用炭素鋼(S45C)またはクロム・モリブデン鋼(SCM435)等の鉄系金属材料からなる母材を用いて一体的に形成されている。そして、シュー9の台座部9Aのうち斜板10の平滑面10Aとの摺接部には、静圧軸受を形成するための静圧ポケット14が設けられている。一方、シュー9内には、球形部9C側から台座部9Aの静圧ポケット14と連通するように略直線状に延びる油路としての通油孔13が穿設されている。この通油孔13は、シリンダ6内に流入した油液の一部がピストン8の潤滑用油路8Bを介して導かれることにより、これを潤滑油としてシュー9の台座部9A(正確には静圧ポケット14)と斜板10の平滑面10Aとの間に供給するものである。
【0028】
シュー9の台座部9Aは、ピストン8からの押付力(油圧力)で後述のリテーナ11等を介して斜板10の平滑面10Aに押付けられた状態に保持される。そして、各シュー9は、この状態で回転軸4、シリンダブロック5およびピストン8と一緒に回転することにより、回転軸4を中心としたリング状軌跡を描くように後述の平滑面10A上を摺動する。
【0029】
次に、斜板10は、各シュー9を摺動可能に案内する平滑面(摺動面)10Aが表面側に形成されている。この斜板10の中央部には、回転軸4が隙間をもって挿通される軸挿通穴が穿設されている。そして、斜板10は、その裏面(背面)側がフロントケーシング2に図示しない斜板支持体を介して傾転可能に取付けられている。
【0030】
ここで、斜板10は、シュー9の母材よりも硬質な金属材料である母材、例えば球状黒鉛鋳鉄(FCD材)または軸受鋼(SUJ2)等の鉄系金属材料からなる母材を用いて形成されている。そして、斜板10の平滑面10Aは、母材の表面側に硬化処理を含めた仕上げ加工が施されて、凹凸の少ない滑らかな滑面が形成されている。
【0031】
リテーナ11は、リテーナガイド12により押圧されて、各シュー9を斜板10の平滑面10A上で摺動可能に保持するためのものであり、環状板として形成される。また、リテーナ11には、その周方向に間隔をもって例えば9個の挿通穴15が形成される。これらの挿通穴15に、シュー9が取り付けられたピストン8を挿入すると、シュー9の段差部9Bが挿通穴15内に位置し、挿通穴15の周囲部20が、シュー9の台座部9Aの表面のうち斜板10の平滑面10Aと摺接する面と反対側の面と接触するようになっている。即ち、この周囲部20がシュー9との接触部となっている。
【0032】
このように、リテーナ11は、シュー9を挿通穴15内に保持して、シュー9の台座部9Aをリテーナ11と斜板10との間に挟むようすることで、運転時にシュー9が暴れるのを抑制すると共に、各シュー9が斜板10の平滑面10A上でリング状軌跡を描くように摺動変位するのを補償している。なお、リテーナガイド12は、図示しないスプリングによって斜板10側に押圧されている。
【0033】
ここで、リテーナ11に設けられた挿通穴15の周囲部20には、挿通穴15の中心を通る同一直線上で、かつ、その中心から離れた位置に、点支持部としての2つのピボット部16A,Bが設けられている。これら2つのピボット部16A,Bは、プレス加工等により、頂部が丸みを帯びた蒲鉾形状を成し、リテーナ11と一体的に形成されている。なお、この蒲鉾形状のピボット部16A,Bは、挿通穴15の周縁から前記同一直線上に沿って、即ち、挿通穴15の径方向に延在している。なお、シュー9は、その中心軸が挿通穴15の中心を通るように配置されている。
【0034】
シュー9の台座部9Aは、これら2つのピボット部16A,Bによって2点支持されており、シュー9は、2点支持された状態で球形部9Cを中心として傾動することが可能となっている。即ち、2つのピボット部16A,Bは、本発明のシュー傾動手段に相当するものである。続いて、シュー9が傾動する仕組みについて、図3を参照しながら詳しく説明する。
【0035】
シリンダブロック5が回転すると、シリンダブロック5と一体となって、ピストン8およびリテーナ11が図3の矢印A方向に回転する。このとき、シュー9と斜板10の平滑面10Aとの間の油膜に動圧が生じ、図3の矢印Bの方向に外部から潤滑油が引き込まれていく。この動圧によりシュー9がピボット部16A,Bに支持された状態で、球形部9Cを中心に図3の矢印Cの方向に傾動する。
【0036】
ここで、上記従来の技術では、シュー9がリテーナ11に押圧されているため、シュー9と斜板10との間の接触面に形成された油膜に動圧を生じさせることができず、シュー9は、常に静圧軸受を介して斜板10に支持された(接触した)状態であった。しかしながら、本実施形態では、シュー9が、リテーナ11に形成されたピボット部16A,Bにより2点支持されているため、シリンダブロック5を回転させると、斜板10の平滑面10Aとシュー9との間に動圧が発生する。この動圧により、外部から潤滑油を引き込んで、シュー9を斜板10の平滑面Aから浮上させることができるのである。
【0037】
このように、本実施形態では、動圧によりシュー9を傾動させることができる構造であるため、静圧軸受を介してシュー9と斜板10とが接触する従来の構成と比べて、シュー9と斜板10との接触を低減することができる。よって、シュー9と斜板10とが金属接触するなどのトラブルを低減でき、信頼性を高めることができる。また、動圧により潤滑油がシュー9と斜板10との間に入り込むため、潤滑用油路8Bから静圧ポケット14へ供給する油量は従来に比べて少なくて済む。潤滑用油路8Bからの供給が少なくて済むということは、潤滑用油路8Bおよび通油孔13の径を小さくできる。そして、このことは、シリンダ6からの液油の漏れを抑えることができるということであるから、ポンプ効率の向上を図ることもできる。
【0038】
また、本実施形態例に係るピボット部16A,Bは、プレス等により、簡単に、しかも、安価に製作できるため、コスト面においても優れている。なお、ピボット部16A,Bは、高硬度な材料を別部材として接合等によりリテーナ11に取り付けても良い。この場合、ポンプの使用環境に応じて好適なピボット部16A,Bの材料を選択できるため、長寿命化を図ることができる。
【0039】
さらに、2つのピボット部16A,Bが、挿通穴15の中心を通る同一直線上に配置されているため、油圧ポンプ1だけでなく、油圧ポンプ・モータのように回転が正逆2方向の機械に適用することもできる。
【0040】
ここで、本発明のシュー傾動手段の構成は、上記した蒲鉾形状の2つのピボット部16A,Bの構成だけでなく、種々の変形が可能である。そこで、以下に、シュー傾動手段の変形例を説明する。なお、上記の実施形態例と同一構成については、同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0041】
<変形例1>
図4は、変形例1に係るシュー傾動手段の構成を示したものである。図4(a)に示すように、変形例1では、リテーナ11の挿通穴15の周囲部20に座ぐり穴部121を設け、この座ぐり穴部121に、シュー傾動手段としての2つのピボット部116A,Bが設けられた構成となっている。より詳細に説明すると、座ぐり穴部121は、その深さがリテーナ11の厚さの略半分であり、その直径がシュー9の台座部9Aの直径より若干大きく形成された有底の穴である。
【0042】
そして、座ぐり穴部121の底面は、図4(b)に示すように、ピボット部116Aが中央に位置するようにして挿通穴15の内周面を半周分展開した状態において、ピボット部116Aを頂点として左右にそれぞれ下り傾斜した傾斜面122A,Bが形成されている。ピボット部116Bも、ピボット部116Aと同じ構成となっている。即ち、傾斜面122C,Dの頂部がピボット部116Bとなっている。また、2つのピボット部116A,Bは、挿通穴15の中心を通る同一直線上に配置されている。なお、シュー9は、その中心軸が挿通穴15の中心を通るように配置されている。
【0043】
シュー9の台座部9Aは、座ぐり穴部121内に半分程度沈み込んだ状態で、2つのピボット部116A,Bによって2点支持されており、シュー9は、2点支持された状態で球形部9Cを中心として傾動することが可能となっている。シュー9が傾動する仕組みについて説明すると、図5に示すように、まず、シリンダブロック5が回転すると、シリンダブロック5と一体となって、ピストン8およびリテーナ11が図5の矢印A方向に回転する。このとき、シュー9と斜板10の平滑面10Aとの間の油膜に動圧が生じ、図5の矢印Bの方向に外部から潤滑油が引き込まれていく。この動圧によりシュー9がピボット部116A,Bに支持された状態で、球形部9Cを中心に図5の矢印Cの方向に傾動する。
【0044】
ここで、変形例1では、図5に示すように、シュー9が一方向(図5では左側)に傾くと、その反対の方向(図5では右側)にシュー9と座ぐり穴部121の傾斜面との間に潤滑油が溜まる。この油溜まりPがダンパーの役目をするので、シリンダブロック5が回転したことに伴ってシュー9が傾動する際のばたつきを抑止することができる。よって、変形例1では、動圧によりシュー9と斜板10との接触を低減することができるといった上記の実施の形態例が奏する効果に加えて、シュー9の傾動動作のばたつきを抑止する効果をも奏し得る。
【0045】
なお、変形例1において、傾斜面122A〜Dが形成されるように座ぐり穴部121を機械加工するようにして、ピボット部116A,Bを形成するようにしても良いし、座ぐり穴部121を機械加工した後に、別部材のピボット部116A,Bを座ぐり穴部121の底面に取り付けるようにしても良い。
【0046】
<変形例2>
図6は、変形例2に係るシュー傾動手段の構成を示したものである。図6(a)に示すように、変形例2では、リテーナ11の挿通穴15の周囲部20に、互いに挿通穴15の中心に向かうようにして、シュー傾動手段としての2つのピボット部216A,Bが設けられている。これら2つのピボット部216A,Bは、挿通穴15の中心を通る同一直線上に離れて配置されている。また、ピボット部216A,Bの表面のうちシュー9の台座部9Aと接触する面は、リテーナ11の表面と同じ平面内に形成されている。つまり、ピボット216A,Bの表面とリテーナ11の表面とは凹凸なく繋がっている。そして、シュー9の段差部9Bが挿通穴15内に装着された状態で、図6(b)に示すように、シュー9の台座部9Aを2つのピボット部216A,Bが支持している。つまり、シュー9の台座部9Aは、ピボット部216A,Bによって2点支持されている。なお、シュー9は、その中心軸が挿通穴15の中心を通るように配置されている。
【0047】
この変形例2の構成によっても、シュー9がピボット部216A,Bに支持されながら動圧により傾動するから、上記の実施の形態例と同様に、シュー9と斜板10との接触を低減することができるといった効果を奏し得る。さらに、ピボット部216A,Bがシュー9の台座部9Aと接触する面は、リテーナ11と同じ面内に形成されているため、変形例2は、ピボット部216A,Bの高さ調整を行う必要がない点においても優れている。
【0048】
なお、変形例2において、挿通穴15を機械加工しながらピボット部216A,Bを形成するようにしても良いし、挿通穴15を機械加工した後に、別部材のピボット部216A,Bを挿通穴15の内周面に取り付けるようにしても良い。
【0049】
<変形例3>
図7は、変形例3に係るシュー傾動手段の構成を示したものである。図7に示すように、変形例3では、挿通穴15の周囲部20のうち略半周分(図7(b)では左半分)の領域には、シュー9の台座部9Aが接触する平坦面323が形成されている。そして、挿通穴15の周囲部20のうち、平坦面323が形成されている部分を除いた略半周分(図7(bb)では右半分)の領域には、シュー9の台座部9Aが沈み込む凹部322が形成されている。平坦面323と凹部322とは面が連続しており、平坦面323と凹部322との境界の部分(角部)が、シュー傾動手段としてのピボット部316A,Bとなっている。
【0050】
平坦面323は、リテーナ11の表面の一部を構成するものである。また、凹部322は、傾斜面322Aと傾斜面322Bとから成り、平坦面323の両端部から挿通穴15の周囲に沿って表面を機械加工することにより形成されている。より詳細に言えば、傾斜面322Aは、平坦面323の一方の端部(ピボット部316Aが形成されている部分)から挿通穴15の周囲に沿って図7(b)の反時計回りを示す矢印の方向に下り傾斜した傾斜面であり、傾斜面322Bは、平坦面323の他方の端部(ピボット部316Bが形成されている部分)から挿通穴15の周囲に沿って図7(b)の時計回りを示す矢印の方向に下り傾斜した傾斜面である。そして、傾斜面322Aおよび傾斜面322Bは、それぞれ凹部323の全長の1/2の長さとなっている。よって、凹部323は、ピボット316Aから挿通穴15に沿って周方向にピボット316Bの方に向かっていくにつれて徐々に深くなり、凹部323の全長の半分の長さまできた位置が最も深く、そこからピボット316Bに近づいてくると、徐々に深さが浅くなるような形状であると言うこともできるものである。
【0051】
この変形例3の構成によっても、シュー9がピボット部316A,Bに支持されながら動圧により傾動するから、上記の実施の形態例と同様に、シュー9と斜板10との接触を低減することができるといった効果を奏し得る。なお、変形例3の場合、凹部322が挿通穴15の半周分しか形成されていないため、シュー9が傾くことができる方向は一方向のみである。よって、変形例3の構成は、シリンダブロック5が図7のD方向にのみ回転する油圧ポンプに対して適用可能である。
【0052】
<変形例4>
図8は、変形例4に係るシュー傾動手段の構成を示したものである。この変形例4の構成は、上述した実施の形態例に係るピボット部16A,Bを、挿通穴15の中心を通る中心線CLからX1だけ同一面内でオフセットした直線上に配置したものである。この変形例4の構成によっても、シュー9がピボット部16A,Bに支持されながら動圧により傾動するから、上記の実施の形態例と同様に、シュー9と斜板10との接触を低減することができるといった効果を奏し得る。ところが、この変形例4の構成では、シリンダブロック5が回転する方向が正方向と逆方向とで、シュー9が傾動したときの状態が異なるものとなるから、変形例4はなるべく一方向のみ回転する油圧ポンプに適用することが好ましい。
【0053】
<変形例5>
図9は、変形例5に係るシュー傾動手段の構成を示したものである。この変形例5の構成は、上述した実施の形態例に係るピボット部16Aのみを挿通穴15の中心を通る中心線上に配置したものである。即ち、変形例5は、シュー9が1つのピボット部16Aにより1点支持された構成となっている。この変形例5の構成によっても、シュー9がピボット部16Aに支持されながら動圧により傾動するから、上記の実施の形態例と同様に、シュー9と斜板10との接触を低減することができるといった効果を奏し得る。
【0054】
なお、上記の例では、ピボット16A,Bは蒲鉾形状のものであったが、この形状以外にも、例えば、半球体形状のものや、錐体形状のものなどを用いても良い。また、上記の例では、座ぐり穴部121に傾斜面122A〜Dを形成して、その頂点をピボット部116A,Bとする構成であったが、この構成に代えて、座ぐり穴部121の底面に、蒲鉾形状、半球体形状、錐体形状などの部材を取り付けて、その部材をピボット部とする構成としても良い。
【符号の説明】
【0055】
1…斜板式油圧ポンプ(斜板式液圧回転機)、2…フロントケーシング(ケーシング)、3…リアケーシング(ケーシング)、4…回転軸、5…シリンダブロック、6…シリンダ、7…弁板、8…ピストン、8A…球形凹部、8B…潤滑用油路、9…シュー、9A…台座部、9B…段差部、9C…球形部(球面継手)、10…斜板、10A…平滑面、11…リテーナ、12…リテーナガイド、13…通油孔、14…静圧ポケット、15…挿通穴、16A,B…ピボット部(シュー傾動手段、点支持部)、20…周囲部(接触部)、116A,B…ピボット部(シュー傾動手段、点支持部)、121…座ぐり穴部、122A,B,C,D…傾斜面、216A,B…ピボット部(シュー傾動手段、点支持部)、316A,B…ピボット部(シュー傾動手段、点支持部)、322…凹部、322A,B…傾斜面、323…平坦面、HS…油圧ショベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空なケーシングと、該ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側がシリンダから突出した複数のピストンと、該各ピストンの突出端部に球面継手を介して揺動自在に装着されたシューと、シリンダブロックと同軸上で、かつ、シリンダブロックと対向するようにケーシング内に設けられると共に、シリンダブロックと対向する面に各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、各シューと各ピストンの突出端部との間に位置して各シューを斜板の摺動面に当接させる環状なリテーナと、該リテーナとシリンダブロックとの間に位置してリテーナを斜板に向けて押圧するリテーナガイドとを備え、シリンダブロックと斜板とが同軸上で相対的に回転することにより、各シューが斜板の摺動面上を摺動するように構成された斜板式液圧回転機において、
前記シリンダブロックと前記斜板とが相対的に回転することによって、前記シューと前記斜板の摺動面との間に形成されている油膜に動圧を発生させ、その動圧により、前記シューを、前記球面継手を中心に傾動させることが可能なシュー傾動手段を備える
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項2】
請求項1の記載において、
前記シュー傾動手段は、前記リテーナの前記シューとの接触部に設けられ、前記シューを点で支持する点支持部を備える
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項3】
請求項2の記載において、
前記点支持部は、前記シューを2点で支持する2つのピボット部を有して成る
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項4】
請求項3の記載において、
前記リテーナには、前記各ピストンの挿通が可能な挿通穴が設けられると共に、当該挿通穴の周囲部が前記シューと接触する前記接触部とされ、
前記2つのピボット部は、前記挿通穴の中心を通る同一直線上で、かつ、前記挿通穴の周囲部に、互いに間隔を空けて配置される
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項5】
請求項3の記載において、
前記斜板式液圧回転機は、一方向への回転が許容された液圧ポンプとされ、
前記リテーナには、前記各ピストンの挿通が可能な挿通穴が設けられると共に、当該挿通穴の周囲部が前記シューと接触する前記接触部とされ、
前記2つのピボット部は、前記挿通穴の中心を通る直線からオフセットされた同一直線上で、かつ、前記挿通穴の周囲部に、互いに間隔を空けて配置される
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項6】
請求項4の記載において、
前記2つのピボット部は、前記リテーナの径方向に延在する蒲鉾形状の部材から成る
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項7】
請求項4の記載において、
前記挿通穴には、前記シューが沈み込むための座ぐり穴部が形成され、
前記座ぐり穴部に前記2つのピボット部が配置される
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項8】
請求項4の記載において、
前記2つのピボット部は、それぞれ前記挿通穴の周縁から中心を向くように配置される
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項9】
請求項4の記載において、
前記斜板式液圧回転機は、一方向への回転が許容された液圧ポンプとされ、
前記挿通穴の周囲部のうち略半周分の領域には、前記シューが接触する前記接触部としての平坦面が形成され、前記周囲部の残りの略半周分の領域には、前記シューが沈み込むための凹部が形成され、
前記凹部と平坦面との境界の部分が前記2つのピボット部となる
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項10】
請求項6〜8の何れか1項の記載において、
前記2つのピボット部は、前記リテーナと別部材で構成される
ことを特徴とする斜板式液圧回転機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−2411(P2013−2411A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136281(P2011−136281)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】