説明

断熱材並びにその製法及び用途

【課題】 本発明は、高温、特に1150℃以上の温度で使用するために、従来技術の欠点が克服されそして特にその応力許容性のために非常に良好な長期間挙動を示す断熱材の提供。
【解決手段】 この断熱材は、化学量論的に0.1〜10モル%のM1、0.1〜10モル%のLiO並びに残量としてのM2を不可避的に混入してくる不純物と共に含有する第一相を包含し、その際にM1はランタン、ネオディウム、ガドリニウム又はそれらの混合物なる元素から選択されそしてM2はアルミニウム、ガリウム、鉄又はそれらの混合物なる元素から選択され、そして該第一相が磁気亜鉛酸塩構造中に存在している、ものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン、例えば発電所又は飛行機エンジンのための断熱材、特に1150℃以上の温度で使用するための断熱材に関する。更に本発明は断熱材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1000℃以上の高温で使用される古典的な断熱層材料として、従来には、正方晶系の又は安定化されたZrOが有効であった。これらは酸化物被覆層として、金属製基体、特に高合金化されたNiベース材料よりなる金属製基体の上に配置される。この断熱層は基体の上に直接的に又は接着促進層として役立つ追加的な中間層を介して配置されている。セラミック被覆層を適用するためには、大気中プラズマ溶射(APS)又は電子線による蒸着(EB−PVD)が適している。
【0003】
しかしながら、従来に使用され被覆層及び接着促進層は、それの耐熱負荷変動性、それの酸化安定性及びそれの長時間安定性に関して未だ若干の問題を有している。
【0004】
ZrOをベースとする被覆層については、1000℃以上の十分な耐久性がなく、かつ、それの熱伝導性が増加することが知られている。同時に多孔質構造の濃密化が生じる。これら両方の性質はしばしばの温度変動の際に、一般に不利なことに被覆層の剥落をもたらす。
【0005】
標準的な断熱材料として従来に使用されていた、Yで安定化された酸化ジルコニウム(YSZ)は、1200℃以上の温度で相変化を受け、これが不利なことに冷却した際に断熱層の剥落をもたらし得る。YSZは一般に、断熱層の下にある金属層、例えばニッケル超合金よりも熱膨張係数が低い。このことが熱を負荷した際にヒビ割れをもたらすことになる。長期間使用する場合には、YSZは焼結層の重大な焼結挙動及びE−モジュールの上昇を明らかに示す。これによって断熱層が応力許容性を失い、その結果、最後には層全体の剥落をもたらし得る。
【0006】
更にYSZは800℃以上の温度で酸素に対して良好なイオン伝導性を示す。このことが断熱層と金属層との間に配置された接着促進層の不都合な酸化反応を助成する。結果として、接着促進層の熱膨張係数が、断熱層の剥落も同様に助成する様に不利に変化する。
【0007】
新規の断熱材料としてのランタン−ヘキサアルミナートが1400℃まで貯蔵安定性を示すことは公知である。ランタン−ヘキサアルミナートは、この様な高温のもとで、ジルコニウムをベースとする市販の断熱層よりも顕著にゆっくりと変化する。代表的な組成物は、焼結の間に層の緻密化を有利にも阻止する小板片の形成に有利である。この種類の特に適する代表例はLa23、Al23及びMgOを含有している。この場合、結晶構造は磁気亜鉛酸塩(Magnetoplumbit)相に相当する。
【0008】
ドイツ特許第19807163−C1号明細書から、例えば、熱化学的に安定でそして相安定性であり、高温で使用するのに有利に適する断熱材料が公知である。この材料は下記の総合式で表される:
23−xMeO−yAl23
[式中、MがLa又はNdであり、Meがアルカリ土類金属、遷移金属又は希土類金属、特にMg、Zn、Co、Mn、Fe、Ni、Crであり、係数x及びyの有利な範囲は0.2≦x≦3.3、そして10.0≦y≦13である。]
理想的な組成物としては,磁気亜鉛酸塩構造状態で結晶化しそして約7.1モル%のLa23、約14.3モル%のMgO及び約78.6モル%のAl23を有するLaMgAl1119が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高温、特に1150℃以上の温度で使用するために、従来技術の前述の欠点が克服されそして特にその応力許容性のために非常に良好な長期間挙動を示す別の断熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のこの課題は、請求項1の特徴事項の全てを備えた断熱材並びに併合出願請求項の製造方法によって解決される。この断熱材の有利な実施態様は請求項1の従属請求項に記載している。更に本発明の課題は別の併合出願請求項の用途請求項によって解決される。
【0011】
ドイツ特許第19807163−C1号明細書に開示された断熱材の良好な性質から出発して、本発明の範囲において驚くべいきことに、磁気亜鉛酸塩中の結晶化性相に、ドイツ特許第19807163−C1号明細書に記載のアルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属又はそれらの混合物の代わりにリチウムを微量混入することが別の驚くべき有益な性質をもたらすことを見出した。
【0012】
本発明の断熱材は式
M123−xLiO−yM223
に従う組成を有している。その際に、M1はランタン、ネオディウム又はガドリニウム又はそれらの混合物を意味しそしてM2はアルミニウム、ガリウム又は鉄及びそれらの混合物を意味する。この場合、この材料は主としてM2−酸化物よりなる。このM2−酸化物は規則的な間隔でM1及び酸化リチウムよりなる単分子層を有している。酸化アルミニウムの代わりに特にガリウム又は鉄の酸化物もM2として使用してもよい。酸化ランタンも同様に希土類金属酸化物、特にネオジウム又はガドリニウムに交換することもできる。
【0013】
M1の組み入れは、特徴的な小板状結晶構造を持つ層構造物を規則的に生じさせる。非常に狭い材料組成範囲でのみ規則的に生じる磁気亜鉛酸塩相が形成する。磁気亜鉛酸塩構造M1M21118の代表的な組成は、原子が格子構造を通り拡散することを可能とする非常に沢山のカチオン性(約8%のM1−元素)及びアニオン性(約5%の酸素)欠陥場所を結晶格子中に有している。これらの有利な相の典型的代表例には例えばLaAl1118、LaGa1118、LaFe1118、NdAl1118、NdGa1118、NdFe1118、又はGdAl1118、GdGa1118、GdFe1118がある。
【0014】
ドイツ特許第169807163−C1号明細書から公知の通り、相の均一領域は小さいイオン半径の2価のカチオン、例えばMg2+、Mn2+、Co2+、Zn2+等を微量混入することによってLaAl1118〜LaMgAl1119まで拡大する。この最適な組成においては、化合物はその組成物中に殆ど変動領域をもはや有していない。La23及び例えばMgOを更に添加することが構造中に規則的に新たな欠陥をもたらしそして多相領域を生じさせる。
【0015】
ドイツ特許第169807163−C1号明細書に開示された材料は、最適な場合には、格子構造中に決して結晶学上の欠陥を有していないLaMgAl1119である。存在する全ての欠陥場所はMgOの添加によって、即ちMg2+及びO2−イオンによって占められている。正にこの完全な補充が1000℃以上の温度領域における必要な高い熱化学的安定性及び相安定性をもたらす。
【0016】
これに対して本発明の断熱材は、多相で存在していてもよい式
M123−xLiO−yM223
に従う組成を有する化合物に関するものであり、その多相のうち1種類は必ず、Liが微量混入されている磁気亜鉛酸塩―構造中に存在するものである。このことは、ここでは二価のイオン、例えばMg2+、Mn2+、Co2+、Zn2+等が微量混入される代わりに一価のイオンの微量混入が行われることを意味する。
【0017】
従来、磁気亜鉛酸塩―構造で結晶化する化合物は、二価のイオン又は一価と三価のイオンよりなる混合物を取り込むことができることは公知である。
【0018】
驚くべきことに本発明者は、今や、焼結工程でLiを微量混入することで有利にもセグメンテーションひび割れを生じる傾向があることを見出した。LiOは業界において焼結助剤として公知である。しかしながら断熱層の製造する際に強く焼結することは、以前には、一般に不利であると判断されている。強い焼結は一般に強靱性を高めるが、層の剥落を促進させる。Liを微量混入した場合には、MgOを微量混入した場合に比較して確かに強く、かつ、長時間継続して焼結するが、強靱性に不利な影響を及ぼさない。焼結の間に生じる層中の応力ヒビ割れは、隣に配置される構成部材に比べて応力許容限界を通常、高める。
【0019】
断熱材の特に有利な態様は先ず第一に、M1元素としてランタンを含有しそしてM2元素としてアルミニウムを含有する化合物である。Liが微量混入されたこの種のランタン−ヘキサアルミナートの場合には、LaLiAl1118.5の状態が特に有利な組成である。しかしながらこの他にLaLi0.5Al11.519の組成も断熱層として非常に良好に適している。
【0020】
本発明の断熱材を塗布することによって、薄くかつ非常に有効な断熱層を、高い熱が負荷される部材に設けることができ、この層は特に長期間安定しておりそして温度負荷が変動する場合でも層の剥落が通常、阻止される。
【0021】
この材料は原則として中実の部材の製造にも又はセラミックフォームとしても適している。
【0022】
塗布方法としては特に熱溶射法及びPVD/CVD法が適している。この場合には濃度傾斜した層構造も原則として可能であり、適してもいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を実施例及び2つの図面によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0024】
LaLiAl1118.5のプラズマ照射実験のために噴霧乾燥された中空球状粉末を使用した。下側に接合用被覆を持つ単分子層としても使用され、また、YSZとの混合物の状態でも使用される。
【0025】
この場合、最も重要なのは以下の複合体である:
1. 金属製羽根に対して一番下側の位置の接合用被覆(100〜150nm);
2. YSZ(150〜200nm);
3. 一番上側の位置のLaLiAl1118.5(150nm).
プラズマ溶射技術によってこの様に塗布された単分子層のLaLiAl1118.5の顕微鏡写真を図1に示す。
【0026】
LaLiAl1118.5の製造は湿式化学的沈殿法によって又は酸化物の固体反応としても行うことができる。固体反応のためには化学量論量のLa、α−Al及びLiO或いは価格的に有利なLiCOを秤量し、エタノール中で混合しそしてd50=1.5μmの粒度にまで微細粉砕する。この混合物を乾燥しそしてその後に少なくとも1450℃で反応させる。NdLiAl1118.5及びGdLiAl1118.5の製造は前述の説明と同様にして、ただしNd或いはGdを用いて実施する。NdLiAl1118.5は弱い青紫色を有するが、NdLiAl1118.5及びGdLiAl1118.5は白色粉末として存在している。
【0027】
こうして得られた化合物は専ら以下の格子定数を有する六方晶系の磁気亜鉛酸塩―構造で結晶化する:
a, b = 556.33 ± 0.55 pm, c = 2193.07 ± 2,86 pm (La含有);
a, b = 541,21 ± 0.85 pm, c = 2190.01 ± 3,46 pm (Nd含有);
a, b = 514,51 ± 0.76 pm, c = 2193.07 ± 3,24 pm (Gd含有);
α,β = 90° 及び γ = 120°
第2図はLaLiAl1118.5のX線回折図である。矢印は僅かな不純物のLaAlOを表している。
【0028】
LaLiAl1118.5の製造の場合、LaMgAl1119の場合と同様にしばしば沢山の相が生じる。磁気亜鉛酸塩−構造の他に生じ得る代表的な化合物はα−Al、LaAlO及びLiAl(擬似スピネル)である。元の粉末生成物はこれらの成分の一種類又は二種類を非常に僅かな量で含有している。主として副相の発生は、最適でない均一性についての指数及び/又は低過ぎる炉温度にある。
【0029】
副相自体は非常に僅かな量では未だ妨害しない。しかしながら、特にLaAlOは10%より多い量では断熱層の寿命を一般に減少させそしてそれ故にこれは避けるべきである。α−Alの僅かな量の不純物は問題にならない。
【0030】
LaLiAl1118.5の1000℃以上での熱伝導性はYSZ(2.3Wm−1−1)に比べて3.78Wm−1−1と著しく高い。それ故にこの材料は断熱材として有利に使用することができる。ここに挙げた値はバルク材について確かめた。プラズマ溶射された層の場合には、やはり一般に熱伝導性が著しく低下する。
【0031】
LaLiAl1118.5の熱膨張係数は8.5〜10.5×10−6−1であり、YSZに比較して小さい。このことは断熱材として使用するのには少なくとも有利でない。しかしながらこの場合、熱膨張の重要性を失わせる様なセグメント−ヒビ割れが生じるという長所が明らかに勝っているのである。
【0032】
第3図及び4図は、第1図の場合と同じ試料のSEM−(走査電子顕微鏡)写真を異なる倍率で示している。壊れた縁部の微細構造は、例えばプラズマ溶射されたジルコニウム被覆と明らかに相違している。
【0033】
第5図は、(真空状態で)5時間の熱処理後に1200℃で生じる典型的なセグメント−ヒビ割れをLaLiAl1118.5のプラズマ溶射された層中に示している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】はプラズマ溶射技術によって塗布された単分子層のLaLiAl1118.5の顕微鏡写真である。
【図2】はLaLiAl1118.5のX線回折図である。
【図3】はプラズマ溶射技術によって塗布された単分子層のLaLiAl1118.5のSEM−(走査電子顕微鏡)写真を示している。
【図4】はプラズマ溶射技術によって塗布された単分子層のLaLiAl1118.5のSEM−(走査電子顕微鏡)写真を示している。
【図5】は(真空状態で)5時間の熱処理後に1200℃で生じる典型的なセグメント−ヒビ割れをLaLiAl1118.5のプラズマ溶射された層中に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学量論的に0.1〜10モル%のM1、0.1〜10モル%のLiO並びに残量としてのM2を不可避的に混入してくる不純物と共に含有する第一相を包含し、その際にM1はランタン、ネオディウム、ガドリニウム又はそれらの混合物なる元素から選択されそしてM2はアルミニウム、ガリウム、鉄又はそれらの混合物なる元素から選択され、そして該第一相が磁気亜鉛酸塩構造中に存在している、断熱材。
【請求項2】
M1M2O、LiM2、LiM2又はLiOなる組成を有する少なくとも1種類の別の相を有する、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
化学量論的に1〜10モル%のM1、0.5〜10モル%のLiO及び残量としてのM2を不可避的に混入してくる不純物と共に含有する第一相を包含する、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項4】
化学量論的に3〜8モル%のM1、0.5〜8モル%のLiO及び残量としてのM2を不可避的に混入してくる不純物と共に含有する第一相を包含する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の断熱材。
【請求項5】
第一相がM1としてLaを含有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の断熱材。
【請求項6】
第一相が3〜8モル%のLa、0.5〜7.8モル%のLiO及び残量としてのAl、Ga又はFeを含有する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の断熱材。
【請求項7】
第一相がLaLiAl1118.5又はLaLi0.5Al11.519の組成を有する、請求項1〜6のいずれか一つに記載の断熱材。
【請求項8】
第一相が少なくとも80重量%の割合で断熱材中に存在している、請求項1〜7のいずれか一つに記載の断熱材。
【請求項9】
第一相が少なくとも90重量%の割合で断熱材中に存在している、請求項8に記載の断熱材。
【請求項10】
断熱層での請求項1〜9のいずれか一つに記載の断熱材の用途。
【請求項11】
YSZと一緒の、断熱層での請求項10に記載の断熱材の用途。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一つに記載の断熱材を製造する方法において、
− 化学量論量のM1,LiO又はLiCo並びにM2を溶剤中で混合しそして細かく粉砕し、
− この混合物を乾燥しそして少なくとも1450℃の温度で反応させ、
− 次いで固体反応で断熱材を生じる
各段階を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−532896(P2008−532896A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500034(P2008−500034)
【出願日】平成18年2月11日(2006.2.11)
【国際出願番号】PCT/DE2006/000240
【国際公開番号】WO2006/097061
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】