説明

断熱栽培方法

【課題】プランターを不要とすると共に、夏場でも広大な土壌で地温上昇や水分不足を来すことなしに容易にかつ効率的に葉野菜などを断熱栽培可能な方法を実現する。
【解決手段】発泡スチロールなどのように断熱性に富んだ板1を土壌S表面に直接被せる方法によると、土壌S表面と断熱板1との間に隙間が無く、通気不可能なため、土壌S表面の乾燥が困難で、土壌Sの保湿が確保され、野菜などの育成のための水分補給が可能となる。しかも、断熱板1による断熱作用で、土壌Sの温度上昇を抑制でき、暑い夏場でも野菜などの栽培が可能となる。さらに、灌水用の隣接板隙間G又は穴hを設けてあるため、灌水が可能で、土壌S中の毛根の水分不足を防止できる。土壌Sの大部分が断熱板1で覆われているので、灌水後の蒸発乾燥が遅延されて保水性も確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばほうれん草などのような葉野菜などの栽培に適した断熱栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沖縄などのような亜熱帯性気候の地域では、夏場の地温上昇のため、ほうれん草などのような葉野菜の栽培が困難であり、農家は夏場のほうれん草などの出荷ができない。
ハウス栽培において、ハウス内の温度を清涼環境にできるように、海洋深層水などで強制的に温度抑制することも試みられているが、コスト高となり、一般の農家に普及させることは実現性に乏しい。
土壌表面に発泡スチロールなどの断熱板を被せて、土壌表面の温度上昇を抑制する方法を試みたところ、予想以上の好結果を得ることができた。
【0003】
発泡スチロール板を用いる方法として、特開平11−46592 号公報に記載のように、発泡スチロール等の合成樹脂発泡体をもって成形され、内部に客土を収容する中空部を有し、底部に水抜穴を有する栽培容器本体とその上部開口に施蓋するための同じく合成樹脂発泡体をもって成形された蓋体とを有し、蓋体に栽培植物に応じて必要な大きさの開口を切断成形自在とするとともに、合成樹脂発泡体の原料に、虫類が嫌忌する性質のある防虫性材料を混合させて合成樹脂発泡体を成形する構成が提案されている。
【特許文献1】特開平11−46592 号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このように中空部を有し、底部に水抜穴を有するプランター様の栽培容器本体を用いる方法もコスト高となり、農家経営向きの大量栽培には適しない。
この栽培容器に発泡スチロール製の蓋板を取付け支持する方法も、作業性が悪く、能率的でない。しかも、内部の土壌表面と発泡スチロール蓋板との間に間隔ができるため、断熱効果が低減されると共に通気可能となるため、土壌表面が温度上昇すると共に急速に乾燥し、毛根の水分不足を来す。その結果、発泡スチロール蓋板の断熱作用を有効に生かすことができない。
本発明の技術的課題は、このような問題に着目し、プランターを不要とすると共に、夏場でも広大な土壌で地温上昇や水分不足を来すことなしに容易にかつ効率的に葉野菜などを断熱栽培可能な方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の技術的課題は次のような手段によって解決される。請求項1は、断熱性に富んだ板を土壌表面に直接に複数枚被せると共に、隣接する断熱板間の灌水用の隙間又は穴を設けることを特徴とする断熱栽培方法である。
このように、例えば発泡スチロールなどのように断熱性に富んだ板を土壌表面に直接被せる方法によると、土壌表面と断熱板との間に隙間が無く、通気不可能なため、土壌表面の乾燥が困難で、土壌の保湿が確保され、野菜などの育成のための水分補給が可能となる。しかも、断熱板による断熱作用で、土壌の温度上昇を抑制でき、暑い夏場でも野菜などの栽培が可能となる。
さらに、灌水用の隣接板隙間又は穴を設けてあるため、この断熱板間の隙間又は穴から灌水が可能で、土壌中の毛根の水分不足を防止できる。土壌の大部分が断熱板で覆われているので、灌水後の蒸発乾燥が遅延されて保水性も確保される。
【0006】
請求項2は、前記の灌水用の隙間又は穴から土壌に播種したり苗を植え付けて、野菜などを生育させることを特徴とする請求項1に記載の断熱栽培方法である。
このように、前記の灌水用の断熱板隙間や穴から土壌に播種したり苗を植え付けて、野菜などを生育させるため、複数の断熱板を広い土壌に直接被せても、播種や苗の植え付け作業などは容易であり、野菜などの生育に支障を来す恐れも無い。
【0007】
請求項3は、前記の断熱性に富んだ板に針金又は棒体を差し込んで、移動しないように土壌に固定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の断熱栽培方法である。
このように、前記の断熱性に富んだ板に針金や棒体を差し込んで、土壌に固定するため、強風で断熱板が浮いたり移動するような恐れはない。
【0008】
以上のように、本発明によると、プランターを用いることなしに、広大な土壌に断熱板を直接敷き詰めるだけで、夏場でも容易にかつ効率的に葉野菜などを栽培でき、ほうれん草などの栽培に適しない夏場でも栽培し出荷することが可能となる。
【0009】
請求項4は、前記の隣接断熱板の間が、所定の間隔をおいて、列方向に連結紐で連結されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載の断熱栽培方法である。
このように、前記の隣接断熱板の間が、所定の間隔をおいて列方向に連結紐で互いに連結されているため、多数の断熱板を土壌の上に敷き詰める際の作業や、収穫後の回収作業が簡便になる。
また、使用しない間は、整然と折り重ねることができるので、保管も簡便になる。
【0010】
請求項5は、土壌表面に直接に被せる複数枚の断熱板であって、列方向に配列した状態で、隣接する断熱板間が連結紐で、所定の間隔をおいて互いに連結されており、又は連結状態の複数枚の断熱板がジグザグ状に折り重ねてあることを特徴とする断熱栽培用の断熱板である。
このように、土壌表面に直接に被せる複数枚の断熱板は、列方向に配列した状態で、隣接する断熱板間が連結紐で、所定の間隔をおいて互いに予め連結されているため、使用に際して土壌の上で列方向に敷設する作業が楽にでき、特に意識しなくても容易に間隔Gを設定できる。また、収穫後に回収する作業も簡便で、固定手段を引き抜いた後、畝の方向に一方又は両方から連続的に回収しながらジグザグ状に折り重ねることができ、その後の保管も容易になる。
すなわち、使用しない間は、連結紐で連結状態の複数枚の断熱板をジグザグ状に折り重ねて、整然と積み重ねることができるので、保管も便利である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1のように、発泡スチロールなどの断熱板を土壌表面に直接被せる方法によると、土壌表面と断熱板との間に隙間が無く、通気不可能なため、土壌表面の乾燥が困難で土壌の保湿が確保され、野菜などの育成のための水分補給が可能となる。しかも、断熱板による断熱作用で、土壌の温度上昇を抑制でき、暑い夏場でも野菜などの栽培が可能となる。
さらに、灌水用の隣接板隙間又は穴を設けてあるため、この断熱板間の隙間又は穴から灌水が可能で、土壌中の毛根の水分不足を防止できる。土壌の大部分が断熱板で覆われているので、灌水後の蒸発乾燥が遅延されて保水性も確保される。
【0012】
請求項2のように、前記の灌水用の断熱板隙間や穴から土壌に播種したり苗を植え付けて、野菜などを生育させるため、複数の断熱板を広い土壌に直接被せても、播種や苗の植え付け作業などは容易であり、野菜などの生育に支障を来す恐れも無い。
【0013】
請求項3のように、前記の断熱板に針金や棒体を差し込んで土壌に固定するため、強風で断熱板が浮いたり移動するような恐れはない。
【0014】
以上のように、本発明によると、プランターを用いることなしに、広大な土壌に断熱板を直接敷き詰めるだけで、夏場でも容易にかつ効率的に葉野菜などを栽培でき、ほうれん草などの栽培に適しない夏場でも栽培し出荷することが可能となる。
【0015】
請求項4のように、前記の隣接断熱板の間が、所定の間隔をおいて列方向に連結紐で互いに連結されているため、多数の断熱板を土壌の上に敷き詰める際の作業や、収穫後の回収作業が簡便になる。
また、使用しない間は、整然と折り重ねることができるので、保管も簡便になる。
【0016】
請求項5のように、土壌表面に直接に被せる複数枚の断熱板は、列方向に配列した状態で、隣接する断熱板間が連結紐で、所定の間隔をおいて互いに予め連結されているため、使用に際して土壌の上で列方向に敷設する作業が楽にでき、特に意識しなくても容易に間隔Gを設定できる。また、収穫後に回収する作業も簡便で、固定手段を引き抜いた後、畝の方向に一方又は両方から連続的に回収しながらジグザグ状に折り重ねることができ、その後の保管も容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明による断熱栽培方法が実際上どのように具体化されるか実施形態を説明する。図1は、本発明による断熱栽培方法で葉野菜を栽培している状態を示す縦断面図である。1…が断熱板であって、長方形状の例えば発泡スチロール製などが適している。複数枚の発泡スチロール板1…を、間隔Gをおいて、土壌Sの表面に敷き詰めてある。
【0018】
各発泡スチロール板1…には、例えば円形の穴hを数個開けて、播種したり、苗を植え付けたりする。
その結果、内側2枚の発泡スチロール板1・1のように、穴h中で葉野菜2が生育している。
3は針金又は棒体であり、発泡スチロール板1…の上から土壌S中に、例えば30cm程度の深さまで突き刺してある。針金や棒体3の上端は、発泡スチロール板1の上側において、例えばリング状31に曲げることによって、断熱板1を押さえている。したがって、強風が吹いたりしても、軽い発泡スチロール板1…が飛んだり、浮き上がったり、移動する恐れはない。
また、断熱板1と土壌Sとの隙間が生じにくいので、通気を確実に抑制して、土壌の乾燥と温度上昇を効果的に抑えることができる。
【0019】
アーチ状のパイプPは、その両端を土壌Sやコンクリート基礎穴に差し込んで固定してあり、しかも所定の間隔をおいて多数設けてあるため、その上にビニールシートなどを被せて雨除けにしたり、各種のネットnを被せることによって、防虫や防風、遮光などが可能となる。
【0020】
図2は、前記の断熱板1の平面図で、例えば1列4個の穴hを2列開けてある。断熱板1のサイズは、幅18cm、長さ30cmであるが、取り扱い易い寸法であれば、各自の好みや現場に応じたサイズに設定できる。厚さは、例えば2cmであるが、1〜3cmの板厚でもよい。
穴hの直径は、例えば2.2cmであるが、栽培する野菜の種類に応じて、1〜4cm程度を採用できる。
断熱性に富んだ板1は、発泡スチロール板のような合成樹脂の発泡材に代えて、例えば段ボールのような紙製も可能である。あるいは、植物繊維などを板状に圧縮した廃物利用材でもよい。紙製や植物繊維の圧縮板は吸水性があるが、これは一長一短である。
発泡スチロール板も、梱包や展示パネルなどとして使用した後の廃品などを回収して再利用することもでき、資源の有効利用となる。しかも、発泡スチロール板は、乱暴に扱わない限り、繰り返し何度も再利用できるので、コスト高となる恐れもない。
【0021】
31は、前記の針金や棒体3の上端であって、発泡スチロール板1の上側において、例えばリング状や多角形状に折り曲げ形成して、発泡スチロール板1の抜け止めや抑えにする。
図3は、図2のA−A断面図であり、リング状の折り曲げ部31は、発泡スチロール板1の上面に形成されている。
なお、リング状の折り曲げ部31は、発泡スチロール板1の上から土壌中に差し込んでから折り曲げ形成してもよいし、先にリング状31に折り曲げてから、発泡スチロール板1と土壌中に差し込んでもよい。
【0022】
図4は、前記の穴開き断熱板1の敷設状態の平面図であり、複数枚の断熱板1…を縦横に間隔Gをおいて配列してある。
各断熱板1…に針金や棒体3を差し込んで、上端のリング状部31で押さえているので、風で移動したり、相互の位置が狂ったりすることはない。
断熱板1…に開けてある各穴h…から播種したり、苗を植え付けたりするが、各断熱板1…の間の例えば2cm程度の間隔Gから播種したり、苗を植え付けたりすることもできる。間隔Gは、1〜3cmの範囲であれば足りる。
【0023】
穴h…から播種する場合の断熱板1…の配列は、図示のように、矢印a1を畝の方向とすると、片方又は左右両側から手が届いて作業できるように、例えば左右2列とし、畝の方向には何枚でも連続的に配置するのか便利である。
穴h開きの断熱板1…を敷設する場合は、穴h…を利用しないで、間隔Gから播種したり苗を植えると、断熱板1…が広過ぎて無駄になるという問題が生じ、土壌を有効利用できない。
【0024】
したがって、図5のように、図2・図3の断熱板1より幅が狭く長さの長い帯板状の断熱板1Lを使用するのがよい。この場合、幅は例えば8〜15cm、長さは50〜70cm程度が適しているが、この寸法に限定はされない。ただし、長さ寸法は、畝の片側又は左右両側から手が届き、作業し易いサイズが望ましい。
このように、帯板状の断熱板1L…を畝の方向に間隔Gを置いて、連続的に敷き詰める場合は、各断熱板1L…の隙間Gから播種したり、苗を植え付けたりする。したがって、畝の方向と直交する方向に、葉野菜などの列ができる。
【0025】
以上のように、複数枚の長方形状断熱板1…を土壌の上に被せると、各断熱板1…の穴hから灌水したり、葉野菜などを播種したり、苗植えできるが、各断熱板1…の間隔Gからも灌水したり、葉野菜などの播種・苗植えができる。
図4、図5のように、複数枚の断熱板1…や1L…を畝方向に敷設する場合、隣接する断熱板間を間隔Gをおいて連結紐4…で予め連結しておくと、野菜2の収穫後は、針金や棒体3を引き抜いて、断熱板をジグザグ状に折り畳んで積み重ねることで、多数の断熱板の回収や保管が簡便となる。土壌を耕起した後、次の栽培に備えて断熱板を敷く場合も、連結紐4…で連結されているので、多数の断熱板を畝方向に敷設する作業が簡便となり、特に意識しなくても自然と間隔Gが設定される。4h…は、連結紐4を挿通する穴である。
【0026】
このように、隣接する断熱板間の間隔Gが一定の間隔で土壌全面に形成されるので、土壌全面に均一かつ確実に灌水でき、灌水作業も楽になる。
本発明の発明者は、特開2008−61613 号として、自然に立った姿勢で農作業が可能で、しかも水はけや防風、遮光、防虫対策などが容易な嵩上げ土壌台を実現すべく、高さが地面から60〜110cmで、大人の腰高程度の高さの平行壁からなる矩形状その他のコンクリート枠を形成し、その中に、地面と連続して土壌を収納する構成を提案した。この装置と本発明による断熱栽培方法を併用すると、コンクリート枠内の土壌を利用して、本発明の断熱栽培方法によって野菜や花卉などを栽培する際に、自然に立った姿勢で片方又は左右両方から手を延ばして作業できるので、断熱板の敷設や回収、播種、灌水、収穫などの作業が楽にできる。また、断熱板の上を歩いたりする必要もないので、発泡スチロール板を破損する恐れがなく、繰り返し何度も再利用できる。
平行壁の上端に図1のアーチパイプPを取付けて、シートやネットnなどの被覆材を張れば、高さが低いので風当たりが弱く、構造が堅牢なため、台風などの強風対策にも適している。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように、本発明によると、プランターなどを使用するのでなく、広大な土壌に断熱板を縦横に直接敷き詰めるだけで、土壌の温度上昇を抑制して、発芽低下や根焼けを効果的に防ぎ、かつ効果的に乾燥防止できるので、夏場でも容易にかつ効率的に葉野菜などを栽培できる。したがって、ほうれん草などの栽培に適しない夏場でも、各種の野菜類を栽培し出荷することが可能となり、農家経営の改善が期待できる。なお、スイカやカボチャなどの栽培に際しては、果実が断熱板の上で成長するので、敷きワラなどを設ける作業が省ける。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による断熱栽培方法で葉野菜を栽培している状態を示す縦断面図である。
【図2】断熱板の平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】穴開き断熱板の敷設状態の平面図である。
【図5】穴無し断熱板の敷設状態の平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1… 断熱板
h 穴
G 間隔
S 土壌
3 針金又は棒体
31 リング状部
P 支持パイプ
n ネット類
1L 帯板状の穴無し断熱板
4… 連結紐
4h… 連結穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性に富んだ板を土壌表面に直接に複数枚被せると共に、隣接する断熱板間の灌水用の隙間又は穴を設けることを特徴とする断熱栽培方法。
【請求項2】
前記の灌水用の隙間又は穴から土壌に播種したり苗を植え付けて、野菜などを生育させることを特徴とする請求項1に記載の断熱栽培方法。
【請求項3】
前記の断熱性に富んだ板に針金又は棒体を差し込んで、移動しないように土壌に固定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の断熱栽培方法。
【請求項4】
隣接する断熱板が、所定の間隔をおいて、列方向に連結紐で互いに予め連結されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載の断熱栽培方法。
【請求項5】
土壌表面に直接に被せる複数枚の断熱板であって、列方向に配列した状態で、隣接する断熱板間が連結紐で、所定の間隔をおいて互いに連結されており、又は連結状態の複数枚の断熱板がジグザグ状に折り重ねてあることを特徴とする断熱栽培用の断熱板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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