説明

新生児ダミー

【課題】 新生児の腹部に衝撃が生じた場合の、腹部の内部における衝撃の程度を知ることのできる新生児ダミーを提供する。
【解決手段】 動的試験に用いられる新生児ダミーは、頭部11と、頭部11に連結される首部21を含む脊椎部20と、首部21の下部で、脊椎部20に取付けられ、脊椎部20を覆って、脊椎部20との間に間隔を開けて設けられた胴部12とを含む。脊椎部20の、胴部12における腹部に対応する部分には、胴部12との間に間隔をおいて設けられた腹部圧力センサ32が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は新生児ダミーに関し、特に、新生児の腹部に係る圧力を検出可能な新生児ダミーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の新生児ダミーが、たとえば、特開2002−328067号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
同公報によれば、交通事故時の頭部の移動量、胸部、腰部が受ける衝撃の発生メカニズムおよびその値等を解明するために、頭部、頸椎の上部、胸部および腰部に加速度センサが設けられた新生児ダミーが開示されている。
【特許文献1】特開2002−328067号公報(段落番号0011等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された新生児ダミーでは、加速度センサは、頭部、胸部、腰部に設けられていたため、これらの部分が受ける加速度を検出することはできるが、腹部の衝撃の発生メカニズムを知ることができなかった。また、腹部に圧力センサを設けることも考えられるが、その場合でも、新生児ダミーの腹部の内部にはアクセスできないため、腹部の外部に直接圧力センサを取付ける必要があり、新生児の腹部の内部における衝撃発生メカニズムはわからない、という問題があった。
【0005】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、交通事故の発生時等において、新生児の腹部に衝撃が生じた場合の、腹部の内部における衝撃の程度を知ることのできる新生児ダミーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる、動的試験に用いられる新生児ダミーは、頭部と、頭部に連結される首部を含む脊椎部と、首部の下部において脊椎部に取付けられ、脊椎部を覆って設けられた胴部とを含み、胴部における腹部に対応する部分において、脊椎部に設けられた腹部圧力センサとを含む。
【0007】
脊椎部の、胴部における腹部に対応する部分には、腹部圧力センサが設けられるため、腹部に衝撃力のような圧力を受けた場合の、胴部の内部における衝撃圧力を知ることができる。
【0008】
その結果、新生児の腹部に衝撃が生じた場合の、腹部の内部における衝撃の程度を知ることのできる新生児ダミーを提供できる。
【0009】
好ましくは、腹部圧力センサは、柔軟性のある部材を介して脊椎部に取付けられる。さらに好ましくは、首部には、角加速度センサが設けられる。
【0010】
さらに好ましくは、新生児ダミーにおける、角速度センサが設けられた頭部の重量割合は、ダミー全体に対して、ほぼ30%である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明に基いた新生児ダミーの実施の形態における構造について、図面を参照して説明する。図1は、この実施の形態における新生児ダミー10の構造を示す全体斜視図である。この新生児ダミー10は、頭部11と、胴部(腰部を含む)12と、腕部13と、脚部14とを備える。頭部11の下部には、新生児の脊椎に対応する棒状の脊椎部20が設けられ、この脊椎部20の上部領域において首部21が構成されている。
【0012】
頭部11は、胴部12から切離された構造を有し、脊椎部20の上端部分に、前後方向および左右方向に回動可能なように、ユニバーサルジョイント等の公知の技術を用いて首部21に対して軸連結されている。また、頭部11の脊椎部20への回動トルクの設定は、ボルトの締め込み等により容易に設定可能なように構成されている。
【0013】
腕部13は、胴部12に対して、新生児の肩の部分の関節と同様に動くように、軸部41により連結されている。また、腕部13は、上腕部13aと前腕部13bとを備え、上腕部13aと前腕部13bとは、新生児の肘の部分の関節と同様に動くように、軸部42により連結されている。
【0014】
脚部14は、胴部12に対して、新生児の股関節の部分と同様に動くように、軸部43により連結されている。また、脚部14は、大腿部14aとふくらはぎ部14bとを備え、大腿部14aとふくらはぎ部14bとは、新生児の膝の部分の関節と同様に動くように、軸部44により連結されている。
【0015】
図2は、図1に示した新生児ダミーの頭部11および胴部12回りの断面図である。図2を参照して、頭部11と胴部12とは、それぞれを、相互に切り離された状態で保持する脊椎部20で接続される。首部21の上端部で、頭部11の新生児の頸椎の上端部に対応する位置には、3軸方向の測定が可能な角加速度センサ31が設けられている。また、脊椎部20の下部には腰部15が設けられる。
【0016】
図2に示すように、脊椎部20と胴部12との間には空間が設けられている。また、腰部15の上部の脊椎部20には、スポンジのような柔らかい材料で構成された柔軟部材22が設けられ、その上に腹部圧力センサ32が設けられる。この柔軟部材22は新生児の内臓に相当する。腹部圧力センサ32と胴部12との間にも空間が設けられている。なお、脊椎部20と胴部12との間の空間や、腹部圧力センサ32と胴部12との間の空間はなくてもよい。また、胴部12は人体に近い柔らかい材質で構成されている。
【0017】
このような新生児ダミーにおいて腹部に衝撃を受けた場合の様子を図3に示す。図3は、新生児ダミー10の胴部12の腹部に衝撃が生じた状態の一例を示す図である。図3に示すように、外部から棒状の器具55で新生児ダミー10の腹部に衝撃を与えた場合、その衝撃力は、胴部12、空間を経て、脊椎部20に設けられた柔軟部材22の上に設けられた腹部圧力センサ32で検出される。
【0018】
このように、新生児ダミー10を用いて、動的試験を行なった場合、腹部において、胴部12の内部に腹部圧力センサ32を設けたため、動的試験時に腹部の内部の挙動が、実際の新生児の挙動と等しくなるため、新生児の腹部の内部が受ける圧力を把握することが可能になる。
【0019】
また、腹部圧力センサ32は、柔軟部材22を介して脊椎部20に取付けられているため、より正確に、新生児の腹部の内部が受ける圧力を把握することができる。
【0020】
次に、脊椎部20の上端に設けられる、3軸方向の測定が可能な角加速度センサ31について説明する。従来の新生児ダミーにおいては、3軸方向の測定が可能な加速度センサが複数設けられていた。しかしながら、従来のセンサは加速度センサであるため、直線方向の加速度を知ることはできたが、回転方向の加速度を知ることはできなかった。
【0021】
これに対して、実際の交通事故等では、たとえば頭部11だけをみても、直線方向の動きではなく、三次元方向の移動を行なう。したがって、従来は頭部11の回転方向の加速度を知ることができなかった。これに対して、この発明によれば、頭部11に角加速度センサ31を設けたため、頭部の回転方向の動きも知ることができる。
【0022】
次に、新生児ダミー10の頭部11、胴部12等の質量バランスについて説明する。この発明においては、新生児ダミー10の質量バランスは、実際の新生児の質量バランスに合致するように設計されている。たとえば、腹部圧力センサ32を含む新生児ダミー10の全体質量を、約3400gに設定する。このとき、角加速度センサ31を含む、頭部10の質量は、新生児と同様に、全体質量の30%程度である1100gに設定されている。
【0023】
このように、頭部11と全身との重量バランスは、腹部圧力センサ32および角加速度センサ31を含めて、実際の新生児の重量バランスを合わせたので、動的試験時における頭部11および腹部の挙動が、実際の新生児の頭部および腹部の挙動により等しくなるため、頭部および腹部の移動方向、移動量と、頭部および腹部が受ける傷害値とをさらに正確に把握することが可能になる。
【0024】
また上記実施の形態においては、角加速度センサ31を新生児の頸椎の上端部に対応する位置に設けることにより、動的試験時における、新生児の頸椎のずれ量をより正確に測定することが可能になり、首部21の移動量、および首部21が受ける傷害値を正確に把握することが可能になる。その結果、衝撃時の頸椎傷害の発生メカニズムの解明を行なうことが可能になる。
【0025】
なお、上記実施の形態においては、角加速度センサを新生児の頸椎の上端部のみに対応する位置に設けた例について説明したが、これに限らず、頸椎の下端部や、胸部の重心位置や腰部の重心位置に、それぞれ角加速度センサを設けてもよい。
【0026】
また、上記実施の形態における新生児ダミーは、自動車用年少者安全座席に載置され、自動車の衝突における動的試験に適用することを主なる目的として開発したが、ベビーカーその他の育児器具における動的試験に本新生児ダミーを適用することが可能である。
【0027】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係る新生児ダミーを示す斜視図である。
【図2】新生児ダミーの頭部と胴部の断面図である。
【図3】新生児ダミーの腹部に衝撃を与える状態を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 新生児ダミー、11 頭部、12 胴部、13 腕部、14 脚部、15 腰部、20 脊椎部、21 首部、22 柔軟部材、31 角加速度センサ、32 腹部圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的試験に用いられる新生児ダミーであって、
頭部と、
前記頭部に連結される首部を含む脊椎部と、
前記首部の下部において前記脊椎部に取付けられ、前記脊椎部を覆って設けられた胴部とを含み、
前記胴部における腹部に対応する部分において、前記脊椎部に設けられた腹部圧力センサとを含む、新生児ダミー。
【請求項2】
前記腹部圧力センサは、柔軟性のある部材を介して前記脊椎部に取付けられる、請求項1に記載の新生児ダミー。
【請求項3】
前記首部には、角加速度センサが設けられる、請求項1または2に記載の新生児ダミー。
【請求項4】
新生児ダミーにおける、前記角速度センサが設けられた頭部の重量割合は、ダミー全体に対して、ほぼ30%である、請求項3に記載の新生児ダミー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−258752(P2006−258752A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79994(P2005−79994)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(390006231)アップリカ育児研究会アップリカ▲葛▼西株式会社 (97)