新生物組織切片を含む薬剤試験の新規で効果的なプロセス(方法)とその生成物
少なくとも一つの化合物で新生物組織切片システムにおける標本を治療し、特に、その新生物組織切片、または細胞、組織標本もしくは他の試験過程から生じる派生物に対する効果を観察することにより、試験システムにおいて新生物組織を試験する新しい方法は、従来の細胞培養のシステムおよび機能よりも効果的である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、バイオ人工組織切片を利用した試験システムに関連し、主要臓器全てに由来するバイオ人工組織、器官系、体細胞移植を利用したクローン組織、または幹細胞ベースのレジメン、臍帯血、様々な腫瘍を内包している。この試験は、オーダーメイド治療を提供する手段として、薬剤候補、薬剤、および薬物代謝産物を評価、検出、試験するために利用できる。最終的に、この試験は、ナノシステム生物学アプローチを含め、表現型分析や他のプロテオミクス、ゲノミクス、メタボノミクスといった分析方法に基づいて選択された組織における発癌のような疾患の研究に利用されうる。
【0002】
現在の投薬には、市販前・市販後の試験に関して主要な欠点が2つあることが判明している。例えば、VIOXX(登録商標)の大失敗は、ある病状の治療の被験者を選抜しようとするときには、大衆の中に副作用を受ける人がいる可能性を調査する必要があることを明らかにした。現在利用可能なゲノミクスおよびプロテオミクス分析方法によって、高い危険性のある患者ないしそのようにカテゴリー分けされた患者は、潜在的に有害な病毒性化合物に曝される前に、体組織検査を受けられる。
【0003】
同様に、この分析方法は急騰するコストに影響を受け、本発明の内容の必要性を強調する。このことはこの分野で確立されている歴史的数値に照らして非常に明瞭である。
【0004】
タフツ大学医薬品開発研究センターによる調査によれば、2001年に新薬開発のコストは8億ドルを超えた。このため、各社平均で約1,600万ドルが臨床前調査に費やされた。従って、新薬開発における試験の時間とコストを削減することは、ほとんどの製薬会社の生き残りにおいて、生死を決する要素となる。更に、通常一つ以上の会社が同じ薬品について競争しているので、競争力のある有利性はいかなるものも歓迎される。新薬開発コストの大部分はFDA承認過程の間に発生する。しかし、このコストの大部分は臨床前コストで可能であるような方法と同様には上手く削減できない。急上昇する臨床前コストを解決するために、インビボ(体内)・インビトロ(体外)試験および新薬候補の選別におけるより効率的で、低廉で、時機を得た方法が産業界の重要な関心事である。
【0005】
新薬開発において、毒性は常に重要な検討材料である。肝臓はほとんどの薬剤を代謝するので、肝臓障害は大きな関心事である。同様に、他の臓器および器官系、これらが体外物質にどのように反応するかについても、非常に重要である。従って、小動物や細胞培養技術を利用した従来のインビボ・インビトロ試験が、新薬開発における肝臓機能の評価に広く使用されてきた。しかし、これらの従来的試験は特有の欠点として、例えば、個人差、大型動物を使用する際の高コスト、生体内肝臓に自然に存在する特質が欠損するというような欠点がある。同じことは他の臓器にも言える。これらの他の臓器や器官系について我々の知識ベースが拡大するにつれて、哺乳動物が様々なプロドラッグ、薬剤、化合物にどのように反応するかに洞察の目が向けられ、本発明の相対的な重要性がより顕著となり、意義が深くなる。
【0006】
これらの欠点を克服するため、細胞培養システムが使用されてきた。しかし、このモデルを使用した細胞間結合相互作用では、必要とされる時間幅が維持できない。細胞間結合が一旦解けると、試験計画はすぐに失敗することになる。なぜなら、細胞間結合がもはや臓器、器官系もしくは生命体レベルの反応に達しえなくなるからである。
【0007】
バイオ人工臓器機器が現在開発されている。臓器機能はバイオ人工基質、すなわち、例えば肝臓切片もしくは肝臓全体標本(異種または新生物由来の肝臓組織の機能性が必要とされる)、によってのみ置き換えられると考えられている。最近の取り組みの成果として、機械的サポートシステムと生物学的サポートシステムを組み合わせてハイブリッド肝臓サポート装置ができている。このハイブリッド装置の機械部は、毒を除去し、また漿液と肝臓サポート装置の生物学的部分との間にバリアをつくる。ハイブリッド肝臓サポート装置の生物学的部分は、肝臓切片、粒状肝臓または低悪性度の腫瘍細胞由来の肝細胞、ブタの肝細胞などから構成される。これらの生物学的部分はバイオリアクターと呼ばれることの多いチャンバ内に置かれる。しかし、この装置に使用される各細胞株の機能を維持する点に関しては問題が残っている。ほとんどの装置では不死化細胞株を使用する。これらの細胞は時間とともに特有の機能を失っていくことが判っている。
【0008】
バイオ人工肝臓装置を開発しているグループとしては、例えば、Circe Biomedical(登録商標) (レキシントン、マサチューセッツ州)、Vitagen(登録商標)(ラホヤ、カルフォルニア州)、Excorp Medical(オークデール、ミネソタ州)、Algenix(ショアビュー、ミネソタ州)がある。Circe Biomedical社製装置は、生体適合細胞膜のある生存肝臓細胞を体外バイオ人工肝臓アシストシステムに一体化させている。Vitagen社のELAD(登録商標)(Extracorporeal Liver Assist Device)人工肝臓は、二室中空糸カートリッジとなっており、培養された新生物肝臓細胞株(C3A)が中に入っている。カートリッジには特定の分画分子量の半透膜がある。この膜により培養された新生物細胞株と患者の限外濾過液が物理的に区分けされる。Algenix社は、ブタ肝臓細胞を使用した外部肝臓サポートシステムを提供する。各ブタ肝細胞は膜を通過し新生物血球を処理する。Excorp Medical社製装置には、中空糸膜(分画分子量10万)バイオリアクターがあり、この目的のため育てられた無菌豚から培養されている初代ブタ肝細胞約100グラムから患者の血液を分離する。血液は中空ポリマー糸が充填されたシリンダと何十億のブタ肝細胞を内包するサスペンションを通過する。ポリマー糸はバリアの役割を果たし、ブタ細胞の蛋白質や副生成細胞が直接的に患者の血液に接触しないようにして、血液中の毒素が除去できるようにするために必要な細胞間の接触のみが可能となる。
【0009】
これらの装置の様々な面は従来技術の進歩を表しているが、特有の欠点が依然として残っている。個別の肝細胞を利用したこれら全ての装置は、生体内の肝臓に特有の細胞間相互作用が欠落しているために、その有効性が制限される。従って、バイオ人工臓器、例えば新薬開発での使用における効率性、生存率、機能が向上した肝臓が、有益となるだろう。本発明は、バイオ人工組織切片を用いた薬剤試験の提供により、この長年必要とされてきたことに対処している。
【0010】
バイオ人工臓器システムが継続して進歩するにつれて、化合物のスクリーニング方法もまた改良され発展していく。この出願における発明は、バイオ人工臓器システム、特に開発プロトコルを新生物組織に適用するのに最近加えられた改良を活用した方法である。
【0011】
本発明は、バイオ人工の器官系または細胞培養を少なくとも1つの化合物で治療し、バイオ人工の器官系または細胞培養に対する効果を観察することにより、バイオ人工の器官系、細胞培養、および新生物組織における組織を試験する新しい方法である。同様に、本発明の装置および方法を使用して、最先端のゲノム、プロテオミクスおよびメタボミクス分析で補完しながら、患者に組織および器官に特化したスクリーニングを提供するビジネス方法が、更に開示されていることを当業者は容易に理解する。
【0012】
本発明は、インビトロで生体内の組織機能を実質的に再現するためのバイオリアクターを提供すること、バイオリアクターが少なくとも一アリコートの組織サンプルを保持すること、および、少なくとも一アリコートが有用データを生成すること、からなるインビボ条件の模擬実験を提供する方法である。
【0013】
同様に、実質的にインビボ条件をシミュレートする方法は、インビトロで生体内の組織機能を実質的に再現するバイオリアクターを得ること、組織サンプルを得ること、および、有用データを生成する少なくとも一アリコートの組織サンプルを使用すること、からなる。
【0014】
さらに本発明は、新生物組織サンプルを提供すること、組織サンプルを組織切片に分割すること、組織切片をバイオ人工組織システムの一部として含むこと、および、バイオ人工組織システムが有用データを生成するための少なくとも一つの薬剤レジメンで組織切片を処理する事によって使用されること、からなる実質的にインビボ条件をシミュレートする方法である。
【0015】
本発明の同様の方法は、新生物組織切片を含むバイオ人工組織システムを得ること、有用データを生成するための少なくとも一つの薬剤レジメンで組織切片を処理する事によってバイオ人工組織システムを使用すること、データの比較検討に基づいた薬剤レジメンを選択するために、有糸分裂活性、化合物の毒性、または組織病理を決定するためのデータを比較すること、からなる。
【0016】
最後に、新生物試験についてのビジネス方法であり、その試験では、新生物組織切片を保管するバイオリアクターベース・システムを提供し、バイオリアクションベース・システムに新生物組織を投入し、新生物組織に対しレジメンを試験して、結果をまとめる。
【0017】
上述した本発明の特徴および目的は、添付の図面とともに下記の記述を参照することで、より明らかになるだろう。ここで、同種の参照数字は同種の要素を意味する。
【0018】
図1は、バイオ人工臓器システムの実施例におけるシステムの概略図である。
【0019】
図2は、本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例の斜視図である。
【0020】
図3は、本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システム内に設置したバイオリアクターの実施例の斜視図である。
【0021】
図4は、図1‐図3におけるシステムの実施例の斜視図である。
【0022】
図5は、新生物組織切片の配置を示す本システムの実施例の斜視図である。
【0023】
図6は、新生物組織切片を収容する組織切片器材の実施例の分解図である。
【0024】
図7Aは、新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例における組織切片の配置の側断面図である。
【0025】
図7Bは、図7Aの新生物組織切片の配置の斜視図である。
【0026】
図8は、バイオ人工臓器システムを使用した連続的潅流および断続的潅流によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示である。
【0027】
図9は、バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示である。
【0028】
図10は、バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのDMX濃度のグラフ表示である。
【0029】
図11は、バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのアンモニア撤去のグラフ表示である。
【0030】
図12は、本発明の新生物組織切片装置によるプロセスを示す概略図である。
【0031】
図13は、本発明の実施例に従い、有用な結果を得るための新生物組織およびバイオ人工臓器システムを使用する方法を展示する実施例についてのフローチャートである。
【0032】
発明の詳細な説明
本発明では、「レジメン(regimen)」の言葉は、細胞または組織に適用される一以上の薬剤、化合物、治療薬、核酸、ペプチド、代謝産物、ウイルス、バクテリア、または他の薬剤を意味するものと理解される。
【0033】
本発明者は、とりわけ、新生物組織試験システムを創作するための動物の臓器切片についての循環血漿の改良モジュラーシステムを明らかにした。
【0034】
本発明の他の目的は、生存している患者へ実際の化合物投与の前に、プラットフォームを使用した化合物の有効性を試験するための効果的な方法を提供することである。化合物の毒性効果および薬理学的効果は、インビボまたはインビトロでの動物試験を通して理解される。しかし、本発明は、新生物およびヒトの両方の組織が培養でき、組織における化合物の試験のために使用できる。新しい薬剤化合物に対して、FDAは、(1)薬剤の薬理学的な特性の展開、(2)少なくとも2種の動物における薬剤の急性毒性の判定、(3)臨床研究案における提案された期間と薬物の使用によって決まる2週間から3月におよぶ短期間毒性調査の実施のための最小限の新薬志願者の存在を求めるだろう。そのプロセスは、何百、また時には何千もの試験される化合物とともに、複雑で、コストのかかるものである。
【0035】
本開示のさらなる目的は、例えば化学療法レジメンのような、薬剤レジメンが個々のユーザによって個別化できる方法を提供することである。一般的に言えば、化学療法レジメンと同様に、全てのレジメンが全ての患者に対して同じように作用するとは限らない。ある患者に対して効果のある混合薬が、他の患者に対して効果がないかもしれない。本発明は、患者への投与に先立って、薬剤レジメンの有効性を試験する方法を提供し、それにより、それぞれの患者へ最も効果的なレジメンを投与する。
【0036】
本発明は更に、疾病の研究、および特に新生物組織を使用して、化合物が組織に作用する方法について調査するためのプラットフォームおよび方法を提供することを目的としている。
【0037】
本発明の目的のために、組織サンプル、組織切片、または組織アリコートの用語は、バイオ人工臓器システム、またはバイオ人工臓器システムを構成しない組織細胞の細胞培養そして特に新生物組織を参照する。
【0038】
本発明の実施例に従って、参照することにより組込まれるように、評価、検出、そして、薬剤候補、薬剤および薬物代謝性の試験のためにバイオ人工臓器システムを使用する新生物組織試験方法を提供する。このシステムは、新生物組織切片培養装置を有する。新生物組織およびバイオ人工臓器の試験ができる他の類似のシステムも含まれる。さらに、他の実施例では、本発明の方法は標準の組織サンプルに使用できる。しかしながら、新生物組織は、試験でヒト組織と組み合わせたときに、即時の結果および現実的な結果を得るのに最も効果的である。
【0039】
本発明は、個々の患者に化学療法レジメンを個別化する手段、正常組織への化合物の毒性を予測する手段、および、疾病を研究する手段を提供する新生物組織試験の方法を提供する。ある実施例によれば、外科手術時、例えば生体検査で、組織のサンプルが摘出される。このサンプルは、複数の組織切片に薄切りされる。多数の化学療法レジメンがそれぞれの組織切片に適用される。レジメンが完了した後、それぞれのレジメンの有効性を究明するために結果が比較される。多数のレジメンを比較することによって、試験の結果に基づいた個別化された化学療法レジメンが計画可能である。開示された改良試験機の他の用途は、毒性の研究および評価、また、組織病理の研究および評価である。
【0040】
図1は、本発明による薬剤試験システム10の実施例の概略図である。貯蔵器12から培地13がバイオリアクター15の中へ導入される。バイオリアクター15内には、2つの金網21(図7Aおよび7B参照)の間に配置されて、バイオリアクター内に平行で垂直に置かれた少なくとも1つの組織切片23からなる、少なくとも1つの組織切片器材20がある。培地がバイオリアクターの中へ導入されるにつれて、培地レベルが組織切片に接触するまで上昇し、組織切片23が培地を通して導入された無数の化合物と接触するようにする。
【0041】
当業者は、貯蔵器12が複数の関連した解決法、メカニズム、装置およびプロセスと同様に置換可能であることを理解する。同様に、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、同じ機能を実行する機械または手段が貯蔵器12と自由に置換できる。
【0042】
含酸素ガスがガスバルブ151によりチャンバの上部に導入される。ガスバルブはチャンバの上部に図示されているが、液体培地の漏出を防ぐことができる適切なシールであれば、ガスバルブはチャンバの側面または底面に装備することが可能である。ガスは、容積95%のO2と容積5%のCO2の混合であることが好ましく、圧力制御装置(図示しない)によって圧力を制御しながら、1から10気圧(ATM)の範囲の圧力でガスバルブを通してチャンバへ供給され、そこから排出される。初期設定ガス圧を維持するために、ソレノイドバルブ(図示しない)を圧力制御装置と結合することが可能である。ガス殺菌装置18、例えば細孔の大きさが約0.22μmのシリンジフィルタが、細菌を取り除くためにガスバルブ151に設置されることが好ましい。ガス殺菌装置18を伴うガスチェックバルブ11は、培地貯蔵器の上に配置され、貯蔵器と大気との間の圧力を等しくするように働く。
【0043】
新生物組織を含む組織切片の安定化は本発明の重要な特徴である。組織切片は培地および含酸素ガスの供給下で培養される。液体培地または血漿は、貯蔵器を通じてチャンバ内へ供給され、含酸素ガスは、チャンバの上部から供給される。それらは、各新生物組織切片が、約1:1から約1:4の範囲の露出時間比で、交互に培地とガスに曝されるように定期的に供給される。約1:2.5から約1:3.5の比率が効果的であることが分かっており、約1:1または1:3の範囲の比も効果的であることが分っている。とはいえ、これらのパラメータの変更は確実に当業者の通常の技術レベルの範囲内である。ポンプ19は培地の流量を制御する。組織切片がガスと培地に交互に曝される比率は、代謝率とおおむね一致している。
【0044】
本発明では、Waymouth MB 752/1 培地が血漿よりも好まれる。培地種類または血漿種類の特定の選択は、当業者に知られており、細胞種類によって異なるだろう。中心壊死を防ぐために、上記のガス混合物は95%のO2と5%のCO2である。この混合物は、組織培養細胞にしばしば有毒な遊離酸素基を生成するからである。例えば、肝臓試料では、高濃度のグルタチオンとビタミンEが、酸素遊離基スカベンジャおよび抗酸化剤のように、添加され、10%の不活性のウシ胎仔血清およびL‐グルタミン酸が補充される。
【0045】
図2を参照すると、新生物組織およびバイオ人工臓器システム10の実施例が図示されている。バイオ人工臓器システム10は、一以上のバイオリアクター15が、チャンバ内の温度と湿度を調整するインキュベーター32の中に装備されている。インキュベーター32は、バイオ人工臓器が長期にわたって生存可能となる最適条件に曝されるように、使用者がバイオ人工臓器の状態を調節することを可能にする。組織培養に適したインキュベーターシステムの選択は、当業者に知られているため、さらなる詳述を要しないであろう。
【0046】
一以上のバイオリアクター15が培養チャンバ内に配置される。それぞれのバイオリアクター15は、一以上の新生物組織切片またはサンプルを保持する。ロータ30は、バイオリアクター15を湿潤段階および乾燥段階にそれぞれ変化させる。湿潤段階は、組織切片が培地に実質的に曝される時間と一致する。同様に、乾燥段階は、組織切片がガスに実質的に曝される時間と一致する。制御モジュール34は、バイオ人工臓器システム10運転のパラメータを制御する接続器を提供する。例えば、制御モジュールを使用することで、およそ代謝率と一致するように新生物組織切片がガスおよび培地に曝される時間を調整することが可能である。同様に、培地に対するガス比は、他の必要な運転パラメータと同様に、制御モジュール34を用いて調整できる。
【0047】
次に図3をみると、インキュベーター32内に設置されたバイオリアクター15の拡大図が図示されている。出入りを容易にするために、バイオリアクター15とロータ30は、インキュベーター32の内外にスライドするプラットフォームに装着することができる。インキュベーター32の中に設置されると、各バイオリアクター15はガス供給器36および培地供給器38にそれぞれ接続される。図3の実施例に示されるように、(各組織切片器材チャンバ155につき1つの)ガスバルブ151はガス供給器36に接続される。図3に示されるように、マニホールドシステム17はガスバルブ151とガス供給器36との間に配置される。ガスフィルタ18は、前述のように、ガス供給器36とガスバルブ151との間に設置される。同様に、培地バルブ153は培地供給器38に接続される。培地フィルタ18は、前述のように、培地供給器38と培地バルブ153との間に配置される。
【0048】
次に図4を見ると、バイオリアクター15の一実施例が図示されている。多様な配置が利用できるとともに当業者によって理解されるが、図4の実施例では、複数の新生物組織切片器材チャンバ155(図5参照)からなる。それぞれの組織切片器材チャンバ155は、バイオリアクター157とバイオリアクターカバー158が相互連結されると、シールキャビティによって形成される。ガスバルブ151は、通常は、ガス供給器36と接続され、組織切片器材チャンバに含まれる組織切片に好ましいガス混合の供給を提供するために、組織切片器材チャンバ155とガスで連通している。培地バルブ153は、組織切片器材チャンバ155と流体で連通しており、ガスバルブ151がガスにするように、培地へ同じ機能を果たす。実施例によれば、バイオリアクターカバーシーラー159は、バイオリアクターカバー158とバイオリアクターベース157をシールする。バイオリアクターカバーシーラー159はOリング、あるいはバイオリアクターベース157とバイオリアクターカバー158を相互結合した状態で流体が漏れ出すのを防止でき、バイオリアクターカバーシーラー159のように機能する装置を実際には変更して選択しても当業者によって充分に理解されるのであれば、他の類似する装置でもよい。
【0049】
図5に示す実施例では、それぞれの新生物組織切片器材チャンバ155は少なくとも1つの組織切片器材20を収容できる。相互連結されていないときには、組織切片器材20は、バイオリアクターベース157中の組織切片器材チャンバ155の一部を形成しているキャビティの中に設置される。実施例によると、単一の新生物組織切片器材20がそれぞれのキャビティの中に設置される。しかしながら、バイオリアクター15の中に複数の組織切片器材チャンバ155を備えることにより、複数の組織切片器材20を1つのバイオリアクター15の中で用いることができる。しかし、本開示では、多数の組織切片器材チャンバ155および新生物組織切片器材チャンバごとの多数の組織切片器材20とからなるバイオリアクター15の構造を考慮する。それぞれの組織切片器材20が新生物組織切片器材チャンバ155内に設置された後、バイオリアクターカバー158がバイオリアクターベース157に相互連結される。一度、相互連結されると、バイオリアクター15はバイオリアクターカバーシーラー159でシールされる。バイオリアクター15は、その後、インキュベーター32の中に収納され、ガス供給器36および培地供給器38と接続され、実験に応じて処理される。
【0050】
前述のように、また、図6の実施例によって図示されているように、新生物組織切片器材20は、複数の網21からなる構成とすることが可能である。網21は、前述のように、ステンレス鋼または当業者によく知られている他の材料から作られる。一以上の組織切片23が、近接する網21の間に収容され、網21は組織切片器材クリップ24で止められる。新生物組織切片のサイズと厚さは、各々の手順で最適化される必要があり、実験毎、組織毎に変化することは、当業者によって理解されるだろう。
【0051】
図6に示す典型的な実施例によると、2つの網21は新生物組織切片器材20を形成する。組織切片23は、典型的な実施例と合致する新生物組織切片器材20の下方40%内に配置される。組織切片器材20中の組織切片のこの配置は、組織切片が乾燥と湿潤サイクルの両方に十分に曝されるのを確実にする。
【0052】
図7Aおよび図7Bは、新生物組織切片器材20の類似する実施例を示している。チャンバの大きさに基づいてサイズが選択される2つのステンレス鋼網21が含まれる。これらの2つの網は、好ましくは平行に配置される。ある実施例では、網は約0.26mmの細孔サイズを有する。また、ある実施例では、網は確実に平面となるように押圧される。例えば規則正しく配置された肝臓切片など、網21の間には複数の組織切片23がある。2つの網は、新生物組織切片を押し潰さず、培地によって洗い流されないように十分に保持できるように、十分な容量で、新生物組織切片の各側面上に配置される。図7Aおよび7Bでは、網の間に配置された比較的少数の組織切片が図示されているが、当然のことながら、装置の効率は、用いられた組織切片の数および組織切片のサイズによる。さらに、ここでは2つの網21が図示されているが、いくつもの網21が使用可能であると考えられる。例えば単一の網21が使用される場合、少なくとも一部に新生物組織切片23を囲むように形成され、それにより空間を形成し、その空間に組織切片を保持するように形成される。例えば、網は適切な大きさのU字状に形成することができる。
【0053】
本発明で使用される新生物組織切片23は、装置の使用目的に応じて、適当な供給源から得ることができる。特に新生物組織が考えられ、動物組織と同じ意味で使われる。しかしながら、当業者は新生物組織の特有の利点を十分に理解する。組織切片23は、それらの生存能力と必須機能を維持するのに適した全てのサイズまたは形状とすることができる。効果的であることが明らかな本発明の組織切片23の厚さは、約10μmから約2,000μmの範囲の厚さである。特定の実験では、約100μmから約500μmの厚さが効果的であると究明されている。
【0054】
本発明は、理想的には薬剤の毒性および有効性の試験方法に適している。試験は、組織切片を薬剤まはた薬剤候補に曝し、肝臓のような、化合物を代謝する能力の組織を観察することによって達成され、そのことにより、化合物またはその代謝物が検出できる。例えば、アンモニアとリドカインは、健康な肝臓で代謝される一般化合物である。以下の実施例は、肝臓切片を適用した試験を示している。当業者は本開示の有用性が他の臓器に適用されることを認識するだろう。
【0055】
組織切片またはアリコートの化学療法レジメンを試験するために、少なくとも一化合物が、バイオ臓器システム中の少なくとも一組織アリコートに適用される。所定時間の経過後、データが集められる。各実験で、条件が再現可能である。
【0056】
一度、それぞれの組織切片またはアリコートの試験が完了すると、データが比較される。データの比較は、例えば、有糸分裂活性、細胞毒性要因、および組織病理の発見を含む本発明の様々な有効性を提供する。一度データから得られると、これらの結果は、患者への最も効果的な化学療法レジメンの処方、投与された化合物の毒性の一般的予測、または発癌研究、等に役立つ。当然ながら、データから他の推測が得られ、組織切片またはアリコートを使用した実験計画の変更は、生成された情報の変動を可能にする。
【0057】
図8‐11は、組織サンプルとして肝臓切片を使用した本開示の原理および装置の有用性を明示している。図8および9で提示されたデータは、バイオ人工臓器システムが時間とともにリドカインを除去する能力を明示している。同様に、図10は、実質的にサンプルのインビボ生理機能をシミュレートして長時間にわたって管理された濃度の増加を示している。最後に、図11は、アンモニアを解毒するの本開示の教示能力を明示している。図8‐11に提示されたデータは、限定や、本開示の教示が得た実際の結果を証明することを意図するものではなく、本開示の教示によって得られた有用性の実証にすぎない。多様な形態が、ここで提示されたデータと重複しない形態から、類似の結果を成し遂げられることを意味する。
【0058】
次に、図12を見ると、ここで開示された装置の使用方法の実施例を示している。実施例によると、バイオリアクター15は組織切片23を装填し、シールされる。バイオリアクター15はここで開示された実施例と同一であるか、または、他の類似の機能を備えた装置である。バイオリアクターは、培地供給を含む少なくとも一つの培地貯蔵器12に接続される。バイオリアクターが複数の組織切片器材チャンバ155からなる実施例によれば、実験が追求する個別の目的に応じて培地を供給するために、異なる培地貯蔵器が使用される。例えば、ある実施例では、バイオリアクター15は6つの組織切片器材チャンバ155からなる(例えば図5参照)。第一チャンバは、添加物のない培地が供給される制御機器として使用できる。他の5つのチャンバは、組織切片23に試験される化合物、例えば様々な濃度のリドカインまたはアンモニア、を含んだ培地を供給できる。同様に、全ての若しくは幾つかの組織切片器材チャンバ155は、多数の結果のセットを得る、若しくは、特定の組織切片器材チャンバ155のファウリングが結果の修正を阻止するのを回避するために、全く同じ化合物を供給できる。精密な実験計画および実験手順は、当業者によって十分に理解されているように、多くのバリエーションで設定可能である。実施例によると、フィルタ18は培地貯蔵器12とバイオリアクター15の間に配置される。
【0059】
バイオリアクター15はガス供給器40にも接続している。ガス供給器は実験の計画と手順に従って、配合と濃度を様々に変えたガスを供給する。通常、一つのガス供給器40が、組織切片器材チャンバ155全てに接続されている。しかし、実験の計画もしくは手順により必要とされれば、複数のガス供給器40が使用されることもある。実施例として、フィルタ18はガス供給器40とバイオリアクター15との間に配置される。
【0060】
培地とガスが組織切片器材チャンバ155の各々に供給された後、バイオリアクター15は一定期間培養する。培養期間に組織切片は培地とガスに交互に曝される。このことは複数の方法により行うことが可能である。例えば培地とガスは、それぞれがある一定時に組織切片器材チャンバ155内に注入されるように、交互に注入・回収される。組織切片器材チャンバ155内にある培地とガスに組織サンプルが交互に曝されるようにバイオリアクター15は交代で使用される。組織サンプル23が、ある位置では培地の中に完全に埋もれるが、交代することで完全にガスに曝されるように、組織切片器材チャンバ155の中で一定の体積しか占めないことを確保することで、このことは完遂される。図6はこの着想を反映した実施例を表しており、組織切片器材20の40%が組織サンプル23によって占有されている。この着想の他のバリエーションは当業者に理解されるだろう。
【0061】
実験中の様々な時点で、培地のサンプルが試験のため取り除かれる。図12に示される実施例に従い、排水ポンプ60が一定量(アリコート)の培地を取り除く。取り除かれた後、培地から同時にバブルトラップ70に捕らえられたガスが抽出される。その後、一定量(アリコート)の培地は、処理済培地貯蔵器50に置かれ、試験される。試験後、培地はバイオリアクター15に戻されるか、廃棄される。システム内に配置されたフィルタ18は無菌性を保持する。
【0062】
図13に示された実施例は、様々な化合物や薬物を使用した新生物組織の試験方法を図示している。典型的な方法では、組織サンプルが手術中に摘出されている。組織は新生物のものが望ましい。例えば、オーダーメイドの化学療法レジメンをつくり出すために、そのレジメンの対象とする患者から組織が採取される。例えば、癌性組織が採取され、様々な抗癌剤の混合薬に曝して、試験を受ける特定の癌に最適の混合薬を測定する。同様に、毒性試験において、適切な新生物もしくは動物宿主から採取された組織を使用する。実施例によれば、動物組織が最初に使用される。動物組織の実験で、ある化合物が安全とみなされた後、新生物組織サンプルが使用されて、化合物または薬剤の毒性を更に試験する。
【0063】
組織切片は、他の手術に付随して、もしくは組織サンプルを採取するため特別に計画されたプロセス、例えば生検において採取される。オーダーメイドの化学療法レジメンのため、組織は患者から採取されなくてはならず、無関係の手術もしくは組織サンプルを採取するため特別に計画された手術の間に、必然的に患者から組織サンプルを直接採取することになる。他の化学治療感受性試験では、特定の手順に従い、他の組織サンプル源を使用してもよい。
【0064】
実施例によれば、適切なサイズにした組織サンプルが使用され、様々な化合物を試験した結果が得られる。病症に関連したオーダーメイド薬を含んだ、このような結果は研究者の通常の技術水準内にあり、同様のものは少なくともアメリカ特許登録番号6,678,669、6,905,816、6,983,227、6,999,607の中で見つけられる。これら各々は特に参照により、完全に記載されているものとして本明細書に組み込まれる。
【0065】
患者から採取された後、組織サンプルは切片にされ、あるいは少なくとも1アリコートの組織に分割され。実施例において、各切片ないしアリコートはその後、組織切片器材チャンバ155とバイオリアクター15の中で個別に培養されるのは、前述の通りであり、例えば図12で示される方法を利用する。複数の重複した組織切片を使用することで、研究者および医師は同じ組織切片を、臓器レベルで(可変要素を投与するレジメンのみにしている)化合物に曝すことができる。
【0066】
その後、結果が分析される。可変要素が投与されるレジメンのみであり、更に、下記の例で記述されるように、本発明の装置および方法は、臓器、器官系、場合によっては生命体のレベルで試験できるよう計画されているので、本発明により、他の使用可能なレジメンと比較して各レジメンの有効性を評価する強力な手段が提供される。従って、本発明における方法および器具を使用することで、研究者および医師は強力な手段により、有糸分裂活性、細胞毒性パラメータ、組織病理、臓器、器官系、生命体レベルにおけるその他多くの関連する応用を評価できるようになる。
【0067】
実施例に従い、本発明の技術を使用することで、器官系もしくは生命体をインビトロ(生体外)で再形成できる。しかし、器官系内の様々な組織から採取された組織切片を使用し、それらを平行に接続することで、インビボ(生体内)過程を示す結果が得られる。培地をある組織型から次の組織型へと輸送することにより接続され、研究者が様々な臓器サンプルに対するレジメンの段階的な効果を観察することが可能となる。
【0068】
類似の実施例として、組織切片もしくは組織切片から採取された別の組織型を一つの組織切片器材20の中で、様々に置き換えて組み合わせることができる。この種の実験により、研究や治療への応用のため、インビボシステム内もしくはインビトロ環境における組織型を、研究者が管理できるようになる。レジメンの効果および有効性の観察についての本発明の装置および方法を様々に使用する例の多くは、当業者に理解されるだろう。同様に、インビボシステムにおける可変要素をコントロールする様々な方法は、これ以外では新生物実験ないし動物実験でなければ不可能な成果が得られる強力な手段として研究者達に訴求すると思われる。
【0069】
例えば、実施例に従い、多数の新生物肝臓切片を、肝臓組織切片の表面積を最大化するようにバイオリアクター15内でしっかり位置を固定し、培地に曝す。チャンバ内の培地が積もって組織切片に接触するように、組織切片器材チャンバへと選択的に培地を供給・除去する手段がある。培地はチャンバ内に積もり、肝組織切片は完全に埋もれる。また、同様に逆のプロセスにより、組織切片から接触した培地を取り除く。また、組織切片が交互にガスと培地に曝されるように、チャンバ上部よりガスを供給する手段がある。これは前述の通りである。なお、培地がチャンバを出入りする際に収容する貯蔵器がある。チャンバは温度調節されていることが望ましい。新生物組織切片では、できれば約36.5度に温度維持しておく。げっ歯類の組織切片であれば、大体36度から38度の間に維持される。しかし、ブタ組織切片はとても温度変化に敏感で、豚の通常体温である38度に維持されなければならない。
【実施例1】
【0070】
実施例として、医師は本発明の教示することを利用して、癌患者に対する化学療法混合薬の最適な配合を測定することができる。医師は患者から採取した癌性組織の生検を行い、組織サンプルをアリコート単位に分割する。医師はアリコートを2つのグループに分ける。医師は第1グループを使用して、対象患者に最も効果的な混合薬を測定する。医師は、その後アリコートの第2グループを使用して混合薬の最適な配合を測定する。
【0071】
医師は第1グループのアリコートを使用して、最も効果的な混合薬を測定する。組織アリコートは前述の通りに培養される。様々な混合薬が組織アリコートに投与される。アリコート中における癌性組織のアポトーシスの割合は、当業者に一般に知られた方法で計測される。医師はその後、健康な組織と比べて癌性組織に高い割合のアポトーシスを生じさせた混合薬を選択する。
【0072】
医師はその後、組織アリコートの第2グループを使用して、癌性組織に投与する混合薬の最適な配合を測定する。組織アリコートは第1グループの組織アリコートと同様の方法で培養される。医師は様々に配合した混合薬を各組織アリコートに投与して、健康な組織と比べて癌性組織に高い割合のアポトーシスを生じさせた混合薬の配合を選択する。
【0073】
癌治療を受ける患者に投与される化学療法レジメンを最適化した結果、その患者は最善の効果がある一方で副作用が最小化された治療を受けることになる。医師が望めば、多数の混合薬を様々に配合して多数の組織アリコートに投与するという1回の実験で同じ結果を得られる。
【実施例2】
【0074】
別の実施例において、本発明の教示する内容は健康な組織に対する化合物の毒性の予測に使用することもできる。このような結果は、新薬承認申請や医薬品簡略承認申請の手続に基づきFDAに提出されるデータを作成するのに有益だろう。動物もしくは新生物の組織サンプルは生検ないし手術の一環で採取される。薬剤は動物の種によって効果が異なるので、通常は、一方がげっ歯類で他方がそれ以外の2種の動物が使用される。本発明によれば、他の臓器も同様に鍵となるデータを提供できるので、有益である。別の実施例では、死亡した臓器提供者、培養、再生もしくは臍帯血から体細胞移植による幹細胞まで多岐に渡る当業者に知られた技術による提供など様々なものより組織が採取される。
【0075】
組織アリコートは組織サンプルから抽出され、前述の通り培養される。組織は培養された後、ある化合物が各組織アリコートに投与されて、前述のように望ましい成果を達成するため化合物の有効性を測定する。データは集められた後、FDAの規定に従って、または組織における化合物の有効性を測定する際の当業者が設定するパラメータに従って解釈される。
【実施例3】
【0076】
同様に、疾病の研究は様々な化合物を使用して行われる。例えば、組織において抑制剤と促進剤の化合物が、組織での化学経路における効果を研究するために使用される。更に、細胞レベルや生命体レベルと対照して組織レベルでの効果を観察する目的で組織に化合物が投与される。本発明によりバイオ人工器官系の使用方法が提供される。実験パラメータは当業者には、不要な実験を行わなくても容易に理解されるだろう。
【0077】
バイアスの発生を除去するため、独立した第三者によって試験を行うことが可能である。組織サンプルの採取元として使用される動物はできる限り少なくし、新生物的に扱われるよう努力がなされる。また、本発明は新生物組織を使用することを予定しており、その組織は臓器提供者からサンプルを採取する。ほとんどの薬剤は肝臓で代謝されるので、毒性研究は必然的に肝臓に対する効果に焦点が置かれる。
【実施例4】
【0078】
本発明により、器官系間の相互作用を観察する新方法もまた提供される。組織切片は様々な臓器から採取される。その後、これらの組織は平行して複数のバイオリアクターや組織切片器材チャンバに投入される。培地が第一チャンバに添加され、組織切片と一定時間接触する。第一期間の後、培地が組織切片器材チャンバから取り除かれ、第二組織切片器材チャンバに添加される。その第二チャンバには、別の臓器からもしくは同じ臓器だが、例えば代謝が亢進されている、初代細胞型が異なっているあるいは対象の細胞型が異なる濃度となっているなどの別の実験条件下で採取された組織サンプルが投入されている。実施例において、培地を第二チャンバに移すのに先立ちもしくは同時に、培地のサンプルが中間試験のために採取される。培地は第二組織切片器材チャンバに移された後、一定時間反応させる。この手順は実験終了まで各々の組織切片器材チャンバに対して繰り返される。
【0079】
例えば、研究者が蛋白消化に関心を持つ場合には、組織サンプルは口内、食道、胃、小腸の十二指腸、空腸、回腸に連結する部位および大腸から採取される。培地のサンプルは蛋白質サンプルと一緒に、各種の組織型と反応し、器官系のレベルに応じて消化されていく蛋白質について特定の臓器の効果を測定する。
【0080】
以上の装置および方法は、現在最も実践的で望ましい実施例として考えられるという観点で記述されているのであり、本発明はここに開示された実施例のみに限定される必要はないと理解される。本請求項の精神と範囲に含まれる様々な改良、類似のアレンジを保護することを意図しており、そのような改良、類似の構造全てを包含するように本請求項の範囲は最大限に広く解釈されるべきである。本発明は以下の請求項のいかなる実施例も全てを包含している。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】バイオ人工臓器システムの実施例におけるシステムの概略図
【図2】本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例の斜視図
【図3】本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システム内に設置したバイオリアクターの実施例の斜視図
【図4】図1‐図3におけるシステムの実施例の斜視図
【図5】新生物組織切片の配置を示す本システムの実施例の斜視図
【図6】新生物組織切片を収容する組織切片器材の実施例の分解図
【図7A】新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例における組織切片の配置の側断面図
【図7B】図7Aの新生物組織切片の配置の斜視図
【図8】バイオ人工臓器システムを使用した連続的潅流および断続的潅流によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示
【図9】バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示
【図10】バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのDMX濃度のグラフ表示
【図11】バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのアンモニア撤去のグラフ表示
【図12】本発明の新生物組織切片装置によるプロセスを示す概略図
【図13】本発明の実施例に従い、有用な結果を得るための新生物組織およびバイオ人工臓器システムを使用する方法を展示する実施例についてのフローチャート
【背景技術】
【0001】
本発明は、バイオ人工組織切片を利用した試験システムに関連し、主要臓器全てに由来するバイオ人工組織、器官系、体細胞移植を利用したクローン組織、または幹細胞ベースのレジメン、臍帯血、様々な腫瘍を内包している。この試験は、オーダーメイド治療を提供する手段として、薬剤候補、薬剤、および薬物代謝産物を評価、検出、試験するために利用できる。最終的に、この試験は、ナノシステム生物学アプローチを含め、表現型分析や他のプロテオミクス、ゲノミクス、メタボノミクスといった分析方法に基づいて選択された組織における発癌のような疾患の研究に利用されうる。
【0002】
現在の投薬には、市販前・市販後の試験に関して主要な欠点が2つあることが判明している。例えば、VIOXX(登録商標)の大失敗は、ある病状の治療の被験者を選抜しようとするときには、大衆の中に副作用を受ける人がいる可能性を調査する必要があることを明らかにした。現在利用可能なゲノミクスおよびプロテオミクス分析方法によって、高い危険性のある患者ないしそのようにカテゴリー分けされた患者は、潜在的に有害な病毒性化合物に曝される前に、体組織検査を受けられる。
【0003】
同様に、この分析方法は急騰するコストに影響を受け、本発明の内容の必要性を強調する。このことはこの分野で確立されている歴史的数値に照らして非常に明瞭である。
【0004】
タフツ大学医薬品開発研究センターによる調査によれば、2001年に新薬開発のコストは8億ドルを超えた。このため、各社平均で約1,600万ドルが臨床前調査に費やされた。従って、新薬開発における試験の時間とコストを削減することは、ほとんどの製薬会社の生き残りにおいて、生死を決する要素となる。更に、通常一つ以上の会社が同じ薬品について競争しているので、競争力のある有利性はいかなるものも歓迎される。新薬開発コストの大部分はFDA承認過程の間に発生する。しかし、このコストの大部分は臨床前コストで可能であるような方法と同様には上手く削減できない。急上昇する臨床前コストを解決するために、インビボ(体内)・インビトロ(体外)試験および新薬候補の選別におけるより効率的で、低廉で、時機を得た方法が産業界の重要な関心事である。
【0005】
新薬開発において、毒性は常に重要な検討材料である。肝臓はほとんどの薬剤を代謝するので、肝臓障害は大きな関心事である。同様に、他の臓器および器官系、これらが体外物質にどのように反応するかについても、非常に重要である。従って、小動物や細胞培養技術を利用した従来のインビボ・インビトロ試験が、新薬開発における肝臓機能の評価に広く使用されてきた。しかし、これらの従来的試験は特有の欠点として、例えば、個人差、大型動物を使用する際の高コスト、生体内肝臓に自然に存在する特質が欠損するというような欠点がある。同じことは他の臓器にも言える。これらの他の臓器や器官系について我々の知識ベースが拡大するにつれて、哺乳動物が様々なプロドラッグ、薬剤、化合物にどのように反応するかに洞察の目が向けられ、本発明の相対的な重要性がより顕著となり、意義が深くなる。
【0006】
これらの欠点を克服するため、細胞培養システムが使用されてきた。しかし、このモデルを使用した細胞間結合相互作用では、必要とされる時間幅が維持できない。細胞間結合が一旦解けると、試験計画はすぐに失敗することになる。なぜなら、細胞間結合がもはや臓器、器官系もしくは生命体レベルの反応に達しえなくなるからである。
【0007】
バイオ人工臓器機器が現在開発されている。臓器機能はバイオ人工基質、すなわち、例えば肝臓切片もしくは肝臓全体標本(異種または新生物由来の肝臓組織の機能性が必要とされる)、によってのみ置き換えられると考えられている。最近の取り組みの成果として、機械的サポートシステムと生物学的サポートシステムを組み合わせてハイブリッド肝臓サポート装置ができている。このハイブリッド装置の機械部は、毒を除去し、また漿液と肝臓サポート装置の生物学的部分との間にバリアをつくる。ハイブリッド肝臓サポート装置の生物学的部分は、肝臓切片、粒状肝臓または低悪性度の腫瘍細胞由来の肝細胞、ブタの肝細胞などから構成される。これらの生物学的部分はバイオリアクターと呼ばれることの多いチャンバ内に置かれる。しかし、この装置に使用される各細胞株の機能を維持する点に関しては問題が残っている。ほとんどの装置では不死化細胞株を使用する。これらの細胞は時間とともに特有の機能を失っていくことが判っている。
【0008】
バイオ人工肝臓装置を開発しているグループとしては、例えば、Circe Biomedical(登録商標) (レキシントン、マサチューセッツ州)、Vitagen(登録商標)(ラホヤ、カルフォルニア州)、Excorp Medical(オークデール、ミネソタ州)、Algenix(ショアビュー、ミネソタ州)がある。Circe Biomedical社製装置は、生体適合細胞膜のある生存肝臓細胞を体外バイオ人工肝臓アシストシステムに一体化させている。Vitagen社のELAD(登録商標)(Extracorporeal Liver Assist Device)人工肝臓は、二室中空糸カートリッジとなっており、培養された新生物肝臓細胞株(C3A)が中に入っている。カートリッジには特定の分画分子量の半透膜がある。この膜により培養された新生物細胞株と患者の限外濾過液が物理的に区分けされる。Algenix社は、ブタ肝臓細胞を使用した外部肝臓サポートシステムを提供する。各ブタ肝細胞は膜を通過し新生物血球を処理する。Excorp Medical社製装置には、中空糸膜(分画分子量10万)バイオリアクターがあり、この目的のため育てられた無菌豚から培養されている初代ブタ肝細胞約100グラムから患者の血液を分離する。血液は中空ポリマー糸が充填されたシリンダと何十億のブタ肝細胞を内包するサスペンションを通過する。ポリマー糸はバリアの役割を果たし、ブタ細胞の蛋白質や副生成細胞が直接的に患者の血液に接触しないようにして、血液中の毒素が除去できるようにするために必要な細胞間の接触のみが可能となる。
【0009】
これらの装置の様々な面は従来技術の進歩を表しているが、特有の欠点が依然として残っている。個別の肝細胞を利用したこれら全ての装置は、生体内の肝臓に特有の細胞間相互作用が欠落しているために、その有効性が制限される。従って、バイオ人工臓器、例えば新薬開発での使用における効率性、生存率、機能が向上した肝臓が、有益となるだろう。本発明は、バイオ人工組織切片を用いた薬剤試験の提供により、この長年必要とされてきたことに対処している。
【0010】
バイオ人工臓器システムが継続して進歩するにつれて、化合物のスクリーニング方法もまた改良され発展していく。この出願における発明は、バイオ人工臓器システム、特に開発プロトコルを新生物組織に適用するのに最近加えられた改良を活用した方法である。
【0011】
本発明は、バイオ人工の器官系または細胞培養を少なくとも1つの化合物で治療し、バイオ人工の器官系または細胞培養に対する効果を観察することにより、バイオ人工の器官系、細胞培養、および新生物組織における組織を試験する新しい方法である。同様に、本発明の装置および方法を使用して、最先端のゲノム、プロテオミクスおよびメタボミクス分析で補完しながら、患者に組織および器官に特化したスクリーニングを提供するビジネス方法が、更に開示されていることを当業者は容易に理解する。
【0012】
本発明は、インビトロで生体内の組織機能を実質的に再現するためのバイオリアクターを提供すること、バイオリアクターが少なくとも一アリコートの組織サンプルを保持すること、および、少なくとも一アリコートが有用データを生成すること、からなるインビボ条件の模擬実験を提供する方法である。
【0013】
同様に、実質的にインビボ条件をシミュレートする方法は、インビトロで生体内の組織機能を実質的に再現するバイオリアクターを得ること、組織サンプルを得ること、および、有用データを生成する少なくとも一アリコートの組織サンプルを使用すること、からなる。
【0014】
さらに本発明は、新生物組織サンプルを提供すること、組織サンプルを組織切片に分割すること、組織切片をバイオ人工組織システムの一部として含むこと、および、バイオ人工組織システムが有用データを生成するための少なくとも一つの薬剤レジメンで組織切片を処理する事によって使用されること、からなる実質的にインビボ条件をシミュレートする方法である。
【0015】
本発明の同様の方法は、新生物組織切片を含むバイオ人工組織システムを得ること、有用データを生成するための少なくとも一つの薬剤レジメンで組織切片を処理する事によってバイオ人工組織システムを使用すること、データの比較検討に基づいた薬剤レジメンを選択するために、有糸分裂活性、化合物の毒性、または組織病理を決定するためのデータを比較すること、からなる。
【0016】
最後に、新生物試験についてのビジネス方法であり、その試験では、新生物組織切片を保管するバイオリアクターベース・システムを提供し、バイオリアクションベース・システムに新生物組織を投入し、新生物組織に対しレジメンを試験して、結果をまとめる。
【0017】
上述した本発明の特徴および目的は、添付の図面とともに下記の記述を参照することで、より明らかになるだろう。ここで、同種の参照数字は同種の要素を意味する。
【0018】
図1は、バイオ人工臓器システムの実施例におけるシステムの概略図である。
【0019】
図2は、本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例の斜視図である。
【0020】
図3は、本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システム内に設置したバイオリアクターの実施例の斜視図である。
【0021】
図4は、図1‐図3におけるシステムの実施例の斜視図である。
【0022】
図5は、新生物組織切片の配置を示す本システムの実施例の斜視図である。
【0023】
図6は、新生物組織切片を収容する組織切片器材の実施例の分解図である。
【0024】
図7Aは、新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例における組織切片の配置の側断面図である。
【0025】
図7Bは、図7Aの新生物組織切片の配置の斜視図である。
【0026】
図8は、バイオ人工臓器システムを使用した連続的潅流および断続的潅流によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示である。
【0027】
図9は、バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示である。
【0028】
図10は、バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのDMX濃度のグラフ表示である。
【0029】
図11は、バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのアンモニア撤去のグラフ表示である。
【0030】
図12は、本発明の新生物組織切片装置によるプロセスを示す概略図である。
【0031】
図13は、本発明の実施例に従い、有用な結果を得るための新生物組織およびバイオ人工臓器システムを使用する方法を展示する実施例についてのフローチャートである。
【0032】
発明の詳細な説明
本発明では、「レジメン(regimen)」の言葉は、細胞または組織に適用される一以上の薬剤、化合物、治療薬、核酸、ペプチド、代謝産物、ウイルス、バクテリア、または他の薬剤を意味するものと理解される。
【0033】
本発明者は、とりわけ、新生物組織試験システムを創作するための動物の臓器切片についての循環血漿の改良モジュラーシステムを明らかにした。
【0034】
本発明の他の目的は、生存している患者へ実際の化合物投与の前に、プラットフォームを使用した化合物の有効性を試験するための効果的な方法を提供することである。化合物の毒性効果および薬理学的効果は、インビボまたはインビトロでの動物試験を通して理解される。しかし、本発明は、新生物およびヒトの両方の組織が培養でき、組織における化合物の試験のために使用できる。新しい薬剤化合物に対して、FDAは、(1)薬剤の薬理学的な特性の展開、(2)少なくとも2種の動物における薬剤の急性毒性の判定、(3)臨床研究案における提案された期間と薬物の使用によって決まる2週間から3月におよぶ短期間毒性調査の実施のための最小限の新薬志願者の存在を求めるだろう。そのプロセスは、何百、また時には何千もの試験される化合物とともに、複雑で、コストのかかるものである。
【0035】
本開示のさらなる目的は、例えば化学療法レジメンのような、薬剤レジメンが個々のユーザによって個別化できる方法を提供することである。一般的に言えば、化学療法レジメンと同様に、全てのレジメンが全ての患者に対して同じように作用するとは限らない。ある患者に対して効果のある混合薬が、他の患者に対して効果がないかもしれない。本発明は、患者への投与に先立って、薬剤レジメンの有効性を試験する方法を提供し、それにより、それぞれの患者へ最も効果的なレジメンを投与する。
【0036】
本発明は更に、疾病の研究、および特に新生物組織を使用して、化合物が組織に作用する方法について調査するためのプラットフォームおよび方法を提供することを目的としている。
【0037】
本発明の目的のために、組織サンプル、組織切片、または組織アリコートの用語は、バイオ人工臓器システム、またはバイオ人工臓器システムを構成しない組織細胞の細胞培養そして特に新生物組織を参照する。
【0038】
本発明の実施例に従って、参照することにより組込まれるように、評価、検出、そして、薬剤候補、薬剤および薬物代謝性の試験のためにバイオ人工臓器システムを使用する新生物組織試験方法を提供する。このシステムは、新生物組織切片培養装置を有する。新生物組織およびバイオ人工臓器の試験ができる他の類似のシステムも含まれる。さらに、他の実施例では、本発明の方法は標準の組織サンプルに使用できる。しかしながら、新生物組織は、試験でヒト組織と組み合わせたときに、即時の結果および現実的な結果を得るのに最も効果的である。
【0039】
本発明は、個々の患者に化学療法レジメンを個別化する手段、正常組織への化合物の毒性を予測する手段、および、疾病を研究する手段を提供する新生物組織試験の方法を提供する。ある実施例によれば、外科手術時、例えば生体検査で、組織のサンプルが摘出される。このサンプルは、複数の組織切片に薄切りされる。多数の化学療法レジメンがそれぞれの組織切片に適用される。レジメンが完了した後、それぞれのレジメンの有効性を究明するために結果が比較される。多数のレジメンを比較することによって、試験の結果に基づいた個別化された化学療法レジメンが計画可能である。開示された改良試験機の他の用途は、毒性の研究および評価、また、組織病理の研究および評価である。
【0040】
図1は、本発明による薬剤試験システム10の実施例の概略図である。貯蔵器12から培地13がバイオリアクター15の中へ導入される。バイオリアクター15内には、2つの金網21(図7Aおよび7B参照)の間に配置されて、バイオリアクター内に平行で垂直に置かれた少なくとも1つの組織切片23からなる、少なくとも1つの組織切片器材20がある。培地がバイオリアクターの中へ導入されるにつれて、培地レベルが組織切片に接触するまで上昇し、組織切片23が培地を通して導入された無数の化合物と接触するようにする。
【0041】
当業者は、貯蔵器12が複数の関連した解決法、メカニズム、装置およびプロセスと同様に置換可能であることを理解する。同様に、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、同じ機能を実行する機械または手段が貯蔵器12と自由に置換できる。
【0042】
含酸素ガスがガスバルブ151によりチャンバの上部に導入される。ガスバルブはチャンバの上部に図示されているが、液体培地の漏出を防ぐことができる適切なシールであれば、ガスバルブはチャンバの側面または底面に装備することが可能である。ガスは、容積95%のO2と容積5%のCO2の混合であることが好ましく、圧力制御装置(図示しない)によって圧力を制御しながら、1から10気圧(ATM)の範囲の圧力でガスバルブを通してチャンバへ供給され、そこから排出される。初期設定ガス圧を維持するために、ソレノイドバルブ(図示しない)を圧力制御装置と結合することが可能である。ガス殺菌装置18、例えば細孔の大きさが約0.22μmのシリンジフィルタが、細菌を取り除くためにガスバルブ151に設置されることが好ましい。ガス殺菌装置18を伴うガスチェックバルブ11は、培地貯蔵器の上に配置され、貯蔵器と大気との間の圧力を等しくするように働く。
【0043】
新生物組織を含む組織切片の安定化は本発明の重要な特徴である。組織切片は培地および含酸素ガスの供給下で培養される。液体培地または血漿は、貯蔵器を通じてチャンバ内へ供給され、含酸素ガスは、チャンバの上部から供給される。それらは、各新生物組織切片が、約1:1から約1:4の範囲の露出時間比で、交互に培地とガスに曝されるように定期的に供給される。約1:2.5から約1:3.5の比率が効果的であることが分かっており、約1:1または1:3の範囲の比も効果的であることが分っている。とはいえ、これらのパラメータの変更は確実に当業者の通常の技術レベルの範囲内である。ポンプ19は培地の流量を制御する。組織切片がガスと培地に交互に曝される比率は、代謝率とおおむね一致している。
【0044】
本発明では、Waymouth MB 752/1 培地が血漿よりも好まれる。培地種類または血漿種類の特定の選択は、当業者に知られており、細胞種類によって異なるだろう。中心壊死を防ぐために、上記のガス混合物は95%のO2と5%のCO2である。この混合物は、組織培養細胞にしばしば有毒な遊離酸素基を生成するからである。例えば、肝臓試料では、高濃度のグルタチオンとビタミンEが、酸素遊離基スカベンジャおよび抗酸化剤のように、添加され、10%の不活性のウシ胎仔血清およびL‐グルタミン酸が補充される。
【0045】
図2を参照すると、新生物組織およびバイオ人工臓器システム10の実施例が図示されている。バイオ人工臓器システム10は、一以上のバイオリアクター15が、チャンバ内の温度と湿度を調整するインキュベーター32の中に装備されている。インキュベーター32は、バイオ人工臓器が長期にわたって生存可能となる最適条件に曝されるように、使用者がバイオ人工臓器の状態を調節することを可能にする。組織培養に適したインキュベーターシステムの選択は、当業者に知られているため、さらなる詳述を要しないであろう。
【0046】
一以上のバイオリアクター15が培養チャンバ内に配置される。それぞれのバイオリアクター15は、一以上の新生物組織切片またはサンプルを保持する。ロータ30は、バイオリアクター15を湿潤段階および乾燥段階にそれぞれ変化させる。湿潤段階は、組織切片が培地に実質的に曝される時間と一致する。同様に、乾燥段階は、組織切片がガスに実質的に曝される時間と一致する。制御モジュール34は、バイオ人工臓器システム10運転のパラメータを制御する接続器を提供する。例えば、制御モジュールを使用することで、およそ代謝率と一致するように新生物組織切片がガスおよび培地に曝される時間を調整することが可能である。同様に、培地に対するガス比は、他の必要な運転パラメータと同様に、制御モジュール34を用いて調整できる。
【0047】
次に図3をみると、インキュベーター32内に設置されたバイオリアクター15の拡大図が図示されている。出入りを容易にするために、バイオリアクター15とロータ30は、インキュベーター32の内外にスライドするプラットフォームに装着することができる。インキュベーター32の中に設置されると、各バイオリアクター15はガス供給器36および培地供給器38にそれぞれ接続される。図3の実施例に示されるように、(各組織切片器材チャンバ155につき1つの)ガスバルブ151はガス供給器36に接続される。図3に示されるように、マニホールドシステム17はガスバルブ151とガス供給器36との間に配置される。ガスフィルタ18は、前述のように、ガス供給器36とガスバルブ151との間に設置される。同様に、培地バルブ153は培地供給器38に接続される。培地フィルタ18は、前述のように、培地供給器38と培地バルブ153との間に配置される。
【0048】
次に図4を見ると、バイオリアクター15の一実施例が図示されている。多様な配置が利用できるとともに当業者によって理解されるが、図4の実施例では、複数の新生物組織切片器材チャンバ155(図5参照)からなる。それぞれの組織切片器材チャンバ155は、バイオリアクター157とバイオリアクターカバー158が相互連結されると、シールキャビティによって形成される。ガスバルブ151は、通常は、ガス供給器36と接続され、組織切片器材チャンバに含まれる組織切片に好ましいガス混合の供給を提供するために、組織切片器材チャンバ155とガスで連通している。培地バルブ153は、組織切片器材チャンバ155と流体で連通しており、ガスバルブ151がガスにするように、培地へ同じ機能を果たす。実施例によれば、バイオリアクターカバーシーラー159は、バイオリアクターカバー158とバイオリアクターベース157をシールする。バイオリアクターカバーシーラー159はOリング、あるいはバイオリアクターベース157とバイオリアクターカバー158を相互結合した状態で流体が漏れ出すのを防止でき、バイオリアクターカバーシーラー159のように機能する装置を実際には変更して選択しても当業者によって充分に理解されるのであれば、他の類似する装置でもよい。
【0049】
図5に示す実施例では、それぞれの新生物組織切片器材チャンバ155は少なくとも1つの組織切片器材20を収容できる。相互連結されていないときには、組織切片器材20は、バイオリアクターベース157中の組織切片器材チャンバ155の一部を形成しているキャビティの中に設置される。実施例によると、単一の新生物組織切片器材20がそれぞれのキャビティの中に設置される。しかしながら、バイオリアクター15の中に複数の組織切片器材チャンバ155を備えることにより、複数の組織切片器材20を1つのバイオリアクター15の中で用いることができる。しかし、本開示では、多数の組織切片器材チャンバ155および新生物組織切片器材チャンバごとの多数の組織切片器材20とからなるバイオリアクター15の構造を考慮する。それぞれの組織切片器材20が新生物組織切片器材チャンバ155内に設置された後、バイオリアクターカバー158がバイオリアクターベース157に相互連結される。一度、相互連結されると、バイオリアクター15はバイオリアクターカバーシーラー159でシールされる。バイオリアクター15は、その後、インキュベーター32の中に収納され、ガス供給器36および培地供給器38と接続され、実験に応じて処理される。
【0050】
前述のように、また、図6の実施例によって図示されているように、新生物組織切片器材20は、複数の網21からなる構成とすることが可能である。網21は、前述のように、ステンレス鋼または当業者によく知られている他の材料から作られる。一以上の組織切片23が、近接する網21の間に収容され、網21は組織切片器材クリップ24で止められる。新生物組織切片のサイズと厚さは、各々の手順で最適化される必要があり、実験毎、組織毎に変化することは、当業者によって理解されるだろう。
【0051】
図6に示す典型的な実施例によると、2つの網21は新生物組織切片器材20を形成する。組織切片23は、典型的な実施例と合致する新生物組織切片器材20の下方40%内に配置される。組織切片器材20中の組織切片のこの配置は、組織切片が乾燥と湿潤サイクルの両方に十分に曝されるのを確実にする。
【0052】
図7Aおよび図7Bは、新生物組織切片器材20の類似する実施例を示している。チャンバの大きさに基づいてサイズが選択される2つのステンレス鋼網21が含まれる。これらの2つの網は、好ましくは平行に配置される。ある実施例では、網は約0.26mmの細孔サイズを有する。また、ある実施例では、網は確実に平面となるように押圧される。例えば規則正しく配置された肝臓切片など、網21の間には複数の組織切片23がある。2つの網は、新生物組織切片を押し潰さず、培地によって洗い流されないように十分に保持できるように、十分な容量で、新生物組織切片の各側面上に配置される。図7Aおよび7Bでは、網の間に配置された比較的少数の組織切片が図示されているが、当然のことながら、装置の効率は、用いられた組織切片の数および組織切片のサイズによる。さらに、ここでは2つの網21が図示されているが、いくつもの網21が使用可能であると考えられる。例えば単一の網21が使用される場合、少なくとも一部に新生物組織切片23を囲むように形成され、それにより空間を形成し、その空間に組織切片を保持するように形成される。例えば、網は適切な大きさのU字状に形成することができる。
【0053】
本発明で使用される新生物組織切片23は、装置の使用目的に応じて、適当な供給源から得ることができる。特に新生物組織が考えられ、動物組織と同じ意味で使われる。しかしながら、当業者は新生物組織の特有の利点を十分に理解する。組織切片23は、それらの生存能力と必須機能を維持するのに適した全てのサイズまたは形状とすることができる。効果的であることが明らかな本発明の組織切片23の厚さは、約10μmから約2,000μmの範囲の厚さである。特定の実験では、約100μmから約500μmの厚さが効果的であると究明されている。
【0054】
本発明は、理想的には薬剤の毒性および有効性の試験方法に適している。試験は、組織切片を薬剤まはた薬剤候補に曝し、肝臓のような、化合物を代謝する能力の組織を観察することによって達成され、そのことにより、化合物またはその代謝物が検出できる。例えば、アンモニアとリドカインは、健康な肝臓で代謝される一般化合物である。以下の実施例は、肝臓切片を適用した試験を示している。当業者は本開示の有用性が他の臓器に適用されることを認識するだろう。
【0055】
組織切片またはアリコートの化学療法レジメンを試験するために、少なくとも一化合物が、バイオ臓器システム中の少なくとも一組織アリコートに適用される。所定時間の経過後、データが集められる。各実験で、条件が再現可能である。
【0056】
一度、それぞれの組織切片またはアリコートの試験が完了すると、データが比較される。データの比較は、例えば、有糸分裂活性、細胞毒性要因、および組織病理の発見を含む本発明の様々な有効性を提供する。一度データから得られると、これらの結果は、患者への最も効果的な化学療法レジメンの処方、投与された化合物の毒性の一般的予測、または発癌研究、等に役立つ。当然ながら、データから他の推測が得られ、組織切片またはアリコートを使用した実験計画の変更は、生成された情報の変動を可能にする。
【0057】
図8‐11は、組織サンプルとして肝臓切片を使用した本開示の原理および装置の有用性を明示している。図8および9で提示されたデータは、バイオ人工臓器システムが時間とともにリドカインを除去する能力を明示している。同様に、図10は、実質的にサンプルのインビボ生理機能をシミュレートして長時間にわたって管理された濃度の増加を示している。最後に、図11は、アンモニアを解毒するの本開示の教示能力を明示している。図8‐11に提示されたデータは、限定や、本開示の教示が得た実際の結果を証明することを意図するものではなく、本開示の教示によって得られた有用性の実証にすぎない。多様な形態が、ここで提示されたデータと重複しない形態から、類似の結果を成し遂げられることを意味する。
【0058】
次に、図12を見ると、ここで開示された装置の使用方法の実施例を示している。実施例によると、バイオリアクター15は組織切片23を装填し、シールされる。バイオリアクター15はここで開示された実施例と同一であるか、または、他の類似の機能を備えた装置である。バイオリアクターは、培地供給を含む少なくとも一つの培地貯蔵器12に接続される。バイオリアクターが複数の組織切片器材チャンバ155からなる実施例によれば、実験が追求する個別の目的に応じて培地を供給するために、異なる培地貯蔵器が使用される。例えば、ある実施例では、バイオリアクター15は6つの組織切片器材チャンバ155からなる(例えば図5参照)。第一チャンバは、添加物のない培地が供給される制御機器として使用できる。他の5つのチャンバは、組織切片23に試験される化合物、例えば様々な濃度のリドカインまたはアンモニア、を含んだ培地を供給できる。同様に、全ての若しくは幾つかの組織切片器材チャンバ155は、多数の結果のセットを得る、若しくは、特定の組織切片器材チャンバ155のファウリングが結果の修正を阻止するのを回避するために、全く同じ化合物を供給できる。精密な実験計画および実験手順は、当業者によって十分に理解されているように、多くのバリエーションで設定可能である。実施例によると、フィルタ18は培地貯蔵器12とバイオリアクター15の間に配置される。
【0059】
バイオリアクター15はガス供給器40にも接続している。ガス供給器は実験の計画と手順に従って、配合と濃度を様々に変えたガスを供給する。通常、一つのガス供給器40が、組織切片器材チャンバ155全てに接続されている。しかし、実験の計画もしくは手順により必要とされれば、複数のガス供給器40が使用されることもある。実施例として、フィルタ18はガス供給器40とバイオリアクター15との間に配置される。
【0060】
培地とガスが組織切片器材チャンバ155の各々に供給された後、バイオリアクター15は一定期間培養する。培養期間に組織切片は培地とガスに交互に曝される。このことは複数の方法により行うことが可能である。例えば培地とガスは、それぞれがある一定時に組織切片器材チャンバ155内に注入されるように、交互に注入・回収される。組織切片器材チャンバ155内にある培地とガスに組織サンプルが交互に曝されるようにバイオリアクター15は交代で使用される。組織サンプル23が、ある位置では培地の中に完全に埋もれるが、交代することで完全にガスに曝されるように、組織切片器材チャンバ155の中で一定の体積しか占めないことを確保することで、このことは完遂される。図6はこの着想を反映した実施例を表しており、組織切片器材20の40%が組織サンプル23によって占有されている。この着想の他のバリエーションは当業者に理解されるだろう。
【0061】
実験中の様々な時点で、培地のサンプルが試験のため取り除かれる。図12に示される実施例に従い、排水ポンプ60が一定量(アリコート)の培地を取り除く。取り除かれた後、培地から同時にバブルトラップ70に捕らえられたガスが抽出される。その後、一定量(アリコート)の培地は、処理済培地貯蔵器50に置かれ、試験される。試験後、培地はバイオリアクター15に戻されるか、廃棄される。システム内に配置されたフィルタ18は無菌性を保持する。
【0062】
図13に示された実施例は、様々な化合物や薬物を使用した新生物組織の試験方法を図示している。典型的な方法では、組織サンプルが手術中に摘出されている。組織は新生物のものが望ましい。例えば、オーダーメイドの化学療法レジメンをつくり出すために、そのレジメンの対象とする患者から組織が採取される。例えば、癌性組織が採取され、様々な抗癌剤の混合薬に曝して、試験を受ける特定の癌に最適の混合薬を測定する。同様に、毒性試験において、適切な新生物もしくは動物宿主から採取された組織を使用する。実施例によれば、動物組織が最初に使用される。動物組織の実験で、ある化合物が安全とみなされた後、新生物組織サンプルが使用されて、化合物または薬剤の毒性を更に試験する。
【0063】
組織切片は、他の手術に付随して、もしくは組織サンプルを採取するため特別に計画されたプロセス、例えば生検において採取される。オーダーメイドの化学療法レジメンのため、組織は患者から採取されなくてはならず、無関係の手術もしくは組織サンプルを採取するため特別に計画された手術の間に、必然的に患者から組織サンプルを直接採取することになる。他の化学治療感受性試験では、特定の手順に従い、他の組織サンプル源を使用してもよい。
【0064】
実施例によれば、適切なサイズにした組織サンプルが使用され、様々な化合物を試験した結果が得られる。病症に関連したオーダーメイド薬を含んだ、このような結果は研究者の通常の技術水準内にあり、同様のものは少なくともアメリカ特許登録番号6,678,669、6,905,816、6,983,227、6,999,607の中で見つけられる。これら各々は特に参照により、完全に記載されているものとして本明細書に組み込まれる。
【0065】
患者から採取された後、組織サンプルは切片にされ、あるいは少なくとも1アリコートの組織に分割され。実施例において、各切片ないしアリコートはその後、組織切片器材チャンバ155とバイオリアクター15の中で個別に培養されるのは、前述の通りであり、例えば図12で示される方法を利用する。複数の重複した組織切片を使用することで、研究者および医師は同じ組織切片を、臓器レベルで(可変要素を投与するレジメンのみにしている)化合物に曝すことができる。
【0066】
その後、結果が分析される。可変要素が投与されるレジメンのみであり、更に、下記の例で記述されるように、本発明の装置および方法は、臓器、器官系、場合によっては生命体のレベルで試験できるよう計画されているので、本発明により、他の使用可能なレジメンと比較して各レジメンの有効性を評価する強力な手段が提供される。従って、本発明における方法および器具を使用することで、研究者および医師は強力な手段により、有糸分裂活性、細胞毒性パラメータ、組織病理、臓器、器官系、生命体レベルにおけるその他多くの関連する応用を評価できるようになる。
【0067】
実施例に従い、本発明の技術を使用することで、器官系もしくは生命体をインビトロ(生体外)で再形成できる。しかし、器官系内の様々な組織から採取された組織切片を使用し、それらを平行に接続することで、インビボ(生体内)過程を示す結果が得られる。培地をある組織型から次の組織型へと輸送することにより接続され、研究者が様々な臓器サンプルに対するレジメンの段階的な効果を観察することが可能となる。
【0068】
類似の実施例として、組織切片もしくは組織切片から採取された別の組織型を一つの組織切片器材20の中で、様々に置き換えて組み合わせることができる。この種の実験により、研究や治療への応用のため、インビボシステム内もしくはインビトロ環境における組織型を、研究者が管理できるようになる。レジメンの効果および有効性の観察についての本発明の装置および方法を様々に使用する例の多くは、当業者に理解されるだろう。同様に、インビボシステムにおける可変要素をコントロールする様々な方法は、これ以外では新生物実験ないし動物実験でなければ不可能な成果が得られる強力な手段として研究者達に訴求すると思われる。
【0069】
例えば、実施例に従い、多数の新生物肝臓切片を、肝臓組織切片の表面積を最大化するようにバイオリアクター15内でしっかり位置を固定し、培地に曝す。チャンバ内の培地が積もって組織切片に接触するように、組織切片器材チャンバへと選択的に培地を供給・除去する手段がある。培地はチャンバ内に積もり、肝組織切片は完全に埋もれる。また、同様に逆のプロセスにより、組織切片から接触した培地を取り除く。また、組織切片が交互にガスと培地に曝されるように、チャンバ上部よりガスを供給する手段がある。これは前述の通りである。なお、培地がチャンバを出入りする際に収容する貯蔵器がある。チャンバは温度調節されていることが望ましい。新生物組織切片では、できれば約36.5度に温度維持しておく。げっ歯類の組織切片であれば、大体36度から38度の間に維持される。しかし、ブタ組織切片はとても温度変化に敏感で、豚の通常体温である38度に維持されなければならない。
【実施例1】
【0070】
実施例として、医師は本発明の教示することを利用して、癌患者に対する化学療法混合薬の最適な配合を測定することができる。医師は患者から採取した癌性組織の生検を行い、組織サンプルをアリコート単位に分割する。医師はアリコートを2つのグループに分ける。医師は第1グループを使用して、対象患者に最も効果的な混合薬を測定する。医師は、その後アリコートの第2グループを使用して混合薬の最適な配合を測定する。
【0071】
医師は第1グループのアリコートを使用して、最も効果的な混合薬を測定する。組織アリコートは前述の通りに培養される。様々な混合薬が組織アリコートに投与される。アリコート中における癌性組織のアポトーシスの割合は、当業者に一般に知られた方法で計測される。医師はその後、健康な組織と比べて癌性組織に高い割合のアポトーシスを生じさせた混合薬を選択する。
【0072】
医師はその後、組織アリコートの第2グループを使用して、癌性組織に投与する混合薬の最適な配合を測定する。組織アリコートは第1グループの組織アリコートと同様の方法で培養される。医師は様々に配合した混合薬を各組織アリコートに投与して、健康な組織と比べて癌性組織に高い割合のアポトーシスを生じさせた混合薬の配合を選択する。
【0073】
癌治療を受ける患者に投与される化学療法レジメンを最適化した結果、その患者は最善の効果がある一方で副作用が最小化された治療を受けることになる。医師が望めば、多数の混合薬を様々に配合して多数の組織アリコートに投与するという1回の実験で同じ結果を得られる。
【実施例2】
【0074】
別の実施例において、本発明の教示する内容は健康な組織に対する化合物の毒性の予測に使用することもできる。このような結果は、新薬承認申請や医薬品簡略承認申請の手続に基づきFDAに提出されるデータを作成するのに有益だろう。動物もしくは新生物の組織サンプルは生検ないし手術の一環で採取される。薬剤は動物の種によって効果が異なるので、通常は、一方がげっ歯類で他方がそれ以外の2種の動物が使用される。本発明によれば、他の臓器も同様に鍵となるデータを提供できるので、有益である。別の実施例では、死亡した臓器提供者、培養、再生もしくは臍帯血から体細胞移植による幹細胞まで多岐に渡る当業者に知られた技術による提供など様々なものより組織が採取される。
【0075】
組織アリコートは組織サンプルから抽出され、前述の通り培養される。組織は培養された後、ある化合物が各組織アリコートに投与されて、前述のように望ましい成果を達成するため化合物の有効性を測定する。データは集められた後、FDAの規定に従って、または組織における化合物の有効性を測定する際の当業者が設定するパラメータに従って解釈される。
【実施例3】
【0076】
同様に、疾病の研究は様々な化合物を使用して行われる。例えば、組織において抑制剤と促進剤の化合物が、組織での化学経路における効果を研究するために使用される。更に、細胞レベルや生命体レベルと対照して組織レベルでの効果を観察する目的で組織に化合物が投与される。本発明によりバイオ人工器官系の使用方法が提供される。実験パラメータは当業者には、不要な実験を行わなくても容易に理解されるだろう。
【0077】
バイアスの発生を除去するため、独立した第三者によって試験を行うことが可能である。組織サンプルの採取元として使用される動物はできる限り少なくし、新生物的に扱われるよう努力がなされる。また、本発明は新生物組織を使用することを予定しており、その組織は臓器提供者からサンプルを採取する。ほとんどの薬剤は肝臓で代謝されるので、毒性研究は必然的に肝臓に対する効果に焦点が置かれる。
【実施例4】
【0078】
本発明により、器官系間の相互作用を観察する新方法もまた提供される。組織切片は様々な臓器から採取される。その後、これらの組織は平行して複数のバイオリアクターや組織切片器材チャンバに投入される。培地が第一チャンバに添加され、組織切片と一定時間接触する。第一期間の後、培地が組織切片器材チャンバから取り除かれ、第二組織切片器材チャンバに添加される。その第二チャンバには、別の臓器からもしくは同じ臓器だが、例えば代謝が亢進されている、初代細胞型が異なっているあるいは対象の細胞型が異なる濃度となっているなどの別の実験条件下で採取された組織サンプルが投入されている。実施例において、培地を第二チャンバに移すのに先立ちもしくは同時に、培地のサンプルが中間試験のために採取される。培地は第二組織切片器材チャンバに移された後、一定時間反応させる。この手順は実験終了まで各々の組織切片器材チャンバに対して繰り返される。
【0079】
例えば、研究者が蛋白消化に関心を持つ場合には、組織サンプルは口内、食道、胃、小腸の十二指腸、空腸、回腸に連結する部位および大腸から採取される。培地のサンプルは蛋白質サンプルと一緒に、各種の組織型と反応し、器官系のレベルに応じて消化されていく蛋白質について特定の臓器の効果を測定する。
【0080】
以上の装置および方法は、現在最も実践的で望ましい実施例として考えられるという観点で記述されているのであり、本発明はここに開示された実施例のみに限定される必要はないと理解される。本請求項の精神と範囲に含まれる様々な改良、類似のアレンジを保護することを意図しており、そのような改良、類似の構造全てを包含するように本請求項の範囲は最大限に広く解釈されるべきである。本発明は以下の請求項のいかなる実施例も全てを包含している。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】バイオ人工臓器システムの実施例におけるシステムの概略図
【図2】本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例の斜視図
【図3】本発明による新生物組織およびバイオ人工臓器システム内に設置したバイオリアクターの実施例の斜視図
【図4】図1‐図3におけるシステムの実施例の斜視図
【図5】新生物組織切片の配置を示す本システムの実施例の斜視図
【図6】新生物組織切片を収容する組織切片器材の実施例の分解図
【図7A】新生物組織およびバイオ人工臓器システムの実施例における組織切片の配置の側断面図
【図7B】図7Aの新生物組織切片の配置の斜視図
【図8】バイオ人工臓器システムを使用した連続的潅流および断続的潅流によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示
【図9】バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのリドカイン撤去のグラフ表示
【図10】バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのDMX濃度のグラフ表示
【図11】バイオ人工臓器システムを使用した6時間稼働および24時間稼働によるインビトロでのアンモニア撤去のグラフ表示
【図12】本発明の新生物組織切片装置によるプロセスを示す概略図
【図13】本発明の実施例に従い、有用な結果を得るための新生物組織およびバイオ人工臓器システムを使用する方法を展示する実施例についてのフローチャート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法であって、
インビトロでインビボ組織機能を実質的にシミュレートするバイオリアクターを提供すること、
少なくとも一アリコートの組織サンプルを保持するバイオリアクターを提供すること、および、
少なくとも一アリコートが有用データを生成すること、
からなる新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項2】
インビボ条件は、組織内で細胞間相互作用を保持することにより達成されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項3】
新生物組織に基づくデータは、組織サンプルとバイオリアクターの組み合わせを使用することにより生成されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項4】
バイオリアクターは、最適な化学療法レジメンの決定、レジメンの毒性の予測、または、疾病の研究の少なくとも1つに使用されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項5】
データは、集団有糸分裂活性、毒性研究、および、組織病理の少なくとも1つを記述することを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項6】
バイオリアクターは、生命体レベルで、組織機能を実質的に再現することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
バイオリアクターは、システムレベルで、組織機能を実質的に再現することを特徴とする請求項6記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項8】
バイオリアクターは、臓器レベルで、組織機能を実質的に再現することを特徴とする請求項7記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項9】
有用データは、少なくとも1つのレジメンの適用によって生成されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項10】
新生物組織試験のビジネス方法であって、
新生物組織切片を保管するバイオリアクターベースシステムを提供すること、
生物反応ベースシステムに新生物組織を投入すること、
組織に対しレジメンを試験すること、および、
結果をまとめること、
からなる新生物組織試験のビジネス方法。
【請求項1】
新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法であって、
インビトロでインビボ組織機能を実質的にシミュレートするバイオリアクターを提供すること、
少なくとも一アリコートの組織サンプルを保持するバイオリアクターを提供すること、および、
少なくとも一アリコートが有用データを生成すること、
からなる新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項2】
インビボ条件は、組織内で細胞間相互作用を保持することにより達成されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項3】
新生物組織に基づくデータは、組織サンプルとバイオリアクターの組み合わせを使用することにより生成されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項4】
バイオリアクターは、最適な化学療法レジメンの決定、レジメンの毒性の予測、または、疾病の研究の少なくとも1つに使用されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項5】
データは、集団有糸分裂活性、毒性研究、および、組織病理の少なくとも1つを記述することを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項6】
バイオリアクターは、生命体レベルで、組織機能を実質的に再現することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
バイオリアクターは、システムレベルで、組織機能を実質的に再現することを特徴とする請求項6記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項8】
バイオリアクターは、臓器レベルで、組織機能を実質的に再現することを特徴とする請求項7記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項9】
有用データは、少なくとも1つのレジメンの適用によって生成されることを特徴とする請求項1記載の新生物組織を使用した薬剤試験および薬剤スクリーニング方法。
【請求項10】
新生物組織試験のビジネス方法であって、
新生物組織切片を保管するバイオリアクターベースシステムを提供すること、
生物反応ベースシステムに新生物組織を投入すること、
組織に対しレジメンを試験すること、および、
結果をまとめること、
からなる新生物組織試験のビジネス方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2009−506774(P2009−506774A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529287(P2008−529287)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/034100
【国際公開番号】WO2007/027938
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(506135095)ヘパホープ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/034100
【国際公開番号】WO2007/027938
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(506135095)ヘパホープ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
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