説明

新種微生物及びグルコシルセラミドの製造方法

【課題】グルコシルセラミド生産能を有する新種微生物、及び該微生物を利用するグルコシルセラミドの製造方法を提供する。
【解決手段】キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)が属する種に属する微生物;26S rDNA−D1/D2の塩基配列が、特定の塩基配列と96%以上の相同性を有し、グルコシルセラミド生産能を有するキャンディダ(Candida)属に属する微生物;キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571);かかる微生物を培養する工程を有するグルコシルセラミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新種微生物、及び該微生物を利用するグルコシルセラミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ糖脂質は、スフィンゴイド塩基(sphingoid base)を基本骨格として脂肪酸と糖鎖とが結合したものであり、哺乳類、植物、微生物に存在し(非特許文献1参照)、糖鎖や脂肪酸の炭素数、並びに二重結合や水酸基の有無などの違いに基づく種々の構造が報告されている(非特許文献2参照)。
スフィンゴ糖脂質の構成成分であるセラミド(Cer)は、ヒトの角質層の細胞間脂質の主成分として40〜60%を占めており、その親水性部分に水分子を保持することで水分の蒸発を抑えると共に、細菌などの体外刺激物が体内へ侵入することを防止する役割を担っていると考えられている。そして、セラミドは加齢に伴い減少し、しわ、肌荒れの原因となることが報告されている。セラミドや、セラミドにグルコースが付加した構造のグルコシルセラミド(GlcCer)は、ヒトの乾燥落屑性皮膚への塗布による水分保持機能改善効果、経口摂取による経皮水分蒸発量の低減効果を有するが報告されており、化粧品や健康食品の原料として注目されている。例えば、セラミドやグルコシルセラミドの日本国内の市場規模は、グルコシルセラミド5%含有の粗抽出物として2005年では5.8トン、金額にすると約13.5億円であり、毎年約20%の伸びが見込まれている。
【0003】
従来は、スフィンゴ糖脂質の原料として、セラミドとガラクトースとが結合した構造を有するガラクトシルセラミド(GalCer)が使用され、これを豊富に含む牛脳が抽出源として利用されてきた。しかし、2001年の狂牛病の大流行を受け、牛脳由来物質に関する安全性評価の確立が未だ不十分であることから、抽出源として他の生物を利用することが求められるようになってきた。化学合成品は、安全性の観点から食品素材としての利用が制限されるからである。このような背景から、現在では米糠や小麦胚芽などの植物が、グルコシルセラミドの主な抽出源として利用されている。
【0004】
しかし、植物の乾燥単位質量あたりから抽出可能なグルコシルセラミドの量は非常に少なく、例えば、精米からは0.0025質量%、小麦からは0.021質量%程度にとどまる(非特許文献3参照)。したがって、抽出・精製工程に多大なコストと労力を要する。そのため、グルコシルセラミドの市場価格は、3%含有品で200〜300円/g、すなわち、グルコシルセラミド純品に換算して6700〜10000円/gとなっており、非常に高価である。そこで、安価なグルコシルセラミドの製造技術の開発が強く望まれている。
【0005】
このような中、生育速度が速く、大量培養による物質の大量生産が可能な微生物の利用が注目されている。そして、グルコシルセラミド生産能を有する微生物の探索も開始されており(非特許文献4参照)、これまでに、例えば、クルブロマイセス ラクチス(Kluyveromyces lactis)、デバリオマイセス ハンセニ(Debaryomyces hanseni)等、いくつかの酵母がグルコシルセラミド生産能を有していることが報告されている。これら酵母は、培養時間が24〜48時間程度と短いこと、植物と比較してグルコシルセラミドの抽出が容易であること、消費者に好印象で捉えられていること、等の理由から、グルコシルセラミドの抽出源として期待される。
【非特許文献1】D.Warnecke and E.Heinz(2003) Recently discovered functions of glucosylceramides in plants and fungi.CMLS,Cell.Mol.Life Sci.60,919−941.
【非特許文献2】R.X.Tan and J.H.Chen(2003) The cerebrosides Nat Prod Rep.20:509−34.
【非特許文献3】Sugawara,T.and Miyazawa,T.(1999) Separation and determination of glycolipids from edible plant sources by high−performance liquid chromatography and evaporative light−scattering detection.Lipids,34:1231−1237.
【非特許文献4】Masahiko Tamura,Osamu Matsumoto,Naoya Takakuwa,Yuji Oda,Masao Ohnishi(2005) Production of Cerebroside from Beet Molasses by the Yeast Saccharomyces kluyveri Food Biotechnology 19:95−105.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、グルコシルセラミド生産能を有する酵母は、まだ十分に探索されているとは言えず、より生産性の高いグルコシルセラミドの製造方法の開発が強く望まれている。
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、グルコシルセラミド生産能を有する新種微生物、及び該微生物を利用するグルコシルセラミドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)が属する種に属する微生物である。
請求項2に記載の発明は、26S rDNA−D1/D2の塩基配列が、配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、グルコシルセラミド生産能を有するキャンディダ(Candida)属に属する微生物である。
請求項3に記載の発明は、キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を培養する工程を有するグルコシルセラミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高品質のグルコシルセラミドを簡便且つ大量に製造できる。その結果、安価なグルコシルセラミドを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく説明する。
なお、以下において、「キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)」のことを「JPCCY0024」と略記することがある。
また、本発明において「グルコシルセラミド」とは、例えば、下記式(1)で表されるように、スフィンゴシン骨格(a)中のアミノ基と、脂肪酸骨格(b)中のカルボキシ基とがアミド結合を形成した構造を有するセラミド骨格(a+b)中のうち、前記スフィンゴシン骨格(a)の分子末端の1級水酸基に相当する水酸基が、グルコースの1位の炭素原子に結合した構造を有する化合物の総称を指すものとする。したがって、「グルコシルセラミド」には、前記スフィンゴシン骨格(a)に由来する炭化水素基の種類や、前記脂肪酸骨格(b)に由来する炭化水素基の種類、あるいは構造式中のいずれかの基の立体配置等が異なる複数の化合物を含む。
【0010】
【化1】

【0011】
<JPCCY0024の獲得>
JPCCY0024は、以下の手順に従って獲得した。
まず、下記手順で分離培地を作製した。
分離培地:酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、人工海水37g、クロラムフェニコール0.3g、ストレプトマイシン0.15g、アンピシリン0.1g、粉末寒天12gを純水1Lに添加し、121℃で10分間滅菌処理した後、適量を滅菌済み平板に分取して、寒天平板を作製した。
次いで、奄美大島の原生林から採取した土壌を100倍量(質量比)の生理食塩水で激しく撹拌し、上澄みを前記分離培地に塗布し、25℃でインキュベーションを行なった。植菌後3日目に確認できたコロニーを滅菌済み爪楊枝で釣菌し、新たな酵母培地に植菌し、生育を繰り返すことで単菌化を行った。
【0012】
<JPCCY0024の同定>
JPCCY0024の同定は、株式会社テクノスルガに委託して実施した。そして取得した検体を用いて、「簡易形態観察」、「生理・生化学的性状試験(以下、生理性状試験と略記する)」、「26S rDNA−D1/D2塩基配列の同定」を行った。なお、供試菌体としては、下記条件で培養した菌株を使用した。
[培養条件]
培地;Yeast extract−malt agar(YM agar)(Becton Dickinson)
培養温度;温度耐性試験を除き25℃
培養期間;1週間〜1ヶ月間
その他の培養条件;好気培養
【0013】
[簡易形態観察]
以下のものを使用して観察を行なった。
顕微鏡;光学顕微鏡BX51(オリンパス株式会社製)(微分干渉観察)
マウント液;滅菌蒸留水
(1) 巨視的観察(コロニー観察)
YM平板培地上で25℃の温度条件下、培養7日間でコロニーは表1に示す性状を示した。
【0014】
【表1】

【0015】
(2) 微視的観察(形態性状観察)
YM平板培地上で25℃の温度条件下、培養開始10日目に、栄養細胞は球形から広楕円形であり、増殖は多極出芽によることが確認された。培養開始から1ヶ月経過した平板で、有性生殖器官の形成は認められなかった。
【0016】
[生理性状試験]
試験方法は、Barnet et al.(2000)及びKurtzman and Fell(1998)に準拠し、培養は温度耐性試験を除き25℃で行った。結果を表2〜6に示す。なお、表中、「+」は反応が陽性であることを、「−」は反応が陰性であることを、「W(week)」は弱い陽性反応であることをそれぞれ示す。また、「S(slow)」は試験開始後に2週間から3週間以上かけて徐々に陽性反応が認められたことを、「L(latent)」は試験開始2週間以降に急速に陽性反応が認められたことをそれぞれ示す。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
【表5】

【0021】
【表6】

【0022】
[26S rDNA−D1/D2塩基配列の同定]
DNA抽出からサイクルシークエンスまでの各操作は、下記の各プロトコールに基づいて行った。
DNA抽出;物理的破壊及びMarmur(1961)の改変法
PCR;puReTaq Ready−To−Go PCR beads(Amersham Biosciences)
サイクルシークエンス;BigDye Terminator v3.1 Kit(Applied Biosystems)
プライマー;NL1、NL2、NL3及びNL4(O’Donnell,1993)
シークエンス;ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System(Applied Biosystems)
配列決定;ChromasPro 1.4(Technelysium Pty Ltd)
相同性検索及び簡易分子系統解析;アポロン2.0(ソフトウェア、テクノスルガ・ラボ)、アポロンDB−FU2.0(データベース、テクノスルガ・ラボ)、国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)
【0023】
JPCCY0024の26S rDNA−D1/D2の塩基配列を同定した結果、配列番号1に示す塩基配列であることが判った。
【0024】
アポロンDB−FU2.0に対するBLAST(Altschul et al.,1997)相同性検索の結果、JPCCY0024の26S rDNA−D1/D2塩基配列は、子嚢菌系アナモルフ(無性時代)酵母の一種であるキャンディダ ヴァルディヴィアナ(Candida valdiviana)の基準株NRRLY−7791(アクセッション番号:U45835)と8塩基の相違で98.6%の相同率を示した。GenBank/DDBJ/EMBL等の国際塩基配列データベースに対する相同性検索の結果でも、JPCCY0024の26S rDNA−D1/D2塩基配列は、キャンディダ ヴァルディヴィアナの基準株NRRLY−7791(アクセッション番号:U45835及びDQ438220)に対し8塩基の相違を有し、98.6%の相同率を示した。一般に酵母の26S rDNA−D1/D2塩基配列を使用した解析では、基準株との相違塩基数が0〜3塩基であれば、同種又は姉妹種である可能性が高く、相違が1%以上である場合には、別種である可能性が高いとされている(Kurtzman and Robnett,1998)。本同定試験では、99%以上の相同率を示す既知種が存在しなかったことから、JPCCY0024は新種である可能性が示唆された。図1は、アポロンDB−FU2.0に対する相同性検索で得られた上位10塩基配列を基に作成した系統樹であり、JPCCY0024は、キャンディダ属の種で構成される系統群に含まれたことから、キャンディダ属に帰属する可能性が示唆された。また、JPCCY0024が含まれる系統群を構成するキャンディダ属の種において、JPCCY0024は、キャンディダ ヴァルディヴィアナの基準株NRRLY−7791(アクセッション番号:U45835)とクラスターを形成し、その信頼性を表すブートストラップ値は100%で支持されたことから、JPCCY0024と最も近縁な菌種は、キャンディダ ヴァルディヴィアナであると考えられた。しかし、JPCCY0024と、キャンディダ ヴァルディヴィアナの基準株NRRLY−7791(アクセッション番号:U45835)には距離が存在し、異なる分子系統学的位置を示した。以上より、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果において、JPCCY0024は、キャンディダ ヴァルディヴィアナに近縁なキャンディダ属の新種であると推定された。
【0025】
また、簡易形態観察の結果、JPCCY0024の栄養細胞は、球形から広楕円形であり、栄養増殖は多極出芽により、子嚢及び子嚢胞子の形成は認められず、ことが確認され、キャンディダ属の形態学的特徴を示した。
26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果において、JPCCY0024が帰属すると推定したキャンディダ属には、「The Yeasts,a taxonomic study第4版(Kurtzman and Fell,1998)」において163種が記載されており、これら163種は生理性状に基づき12のグループに分けられている。生理性状試験の結果、JPCCY0024は、炭素源としてイノシトールを資化することから、「キャンディダ属生理性状グループI(Kurtzman and Fell,1998)」に分類される推定された。一方、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果において、JPCCY0024が近縁であると推定したキャンディダ ヴァルディヴィアナもまた、「キャンディダ属生理性状グループI」に分類されている。さらに、「キャンディダ属生理性状グループI」に分類されている10種の区別に有効とされる生理・生化学的特徴において、JPCCY0024は、ラフィノース及び硝酸塩を資化し、L−ラムノース及びエリスリトールを資化せず、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果においてJPCCY0024が近縁であると推定したキャンディダ ヴァルディヴィアナの特徴と良く一致した。その一方で、「The Yeasts,a taxonomic study第4版(Kurtzman and Fell,1998)」及び「YEASTS:Characteristics and identification第3版(Barnet et al.,2000)」を参考に、JPCCY0024とキャンディダ ヴァルディヴィアナについて、その他の生理・生化学的特徴を比較したところ、キャンディダ ヴァルディヴィアナは、グリセロール、コハク酸、クエン酸を資化し、ビタミン欠乏培地において生育性を示さないとされているのに対し、JPCCY0024は、グリセロール、コハク酸、クエン酸を資化せず、ビタミン欠乏培地において生育し、異なる特徴を示した。したがって、生理性状試験の結果において、JPCCY0024は、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果において近縁である推定したキャンディダ ヴァルディヴィアナと類似した性状を示すものの、グリセロール、コハク酸及びクエン酸の資化能、並びにビタミン要求性において異なる特徴を示すことが明らかとなり、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果を支持した。
【0026】
以上より、「簡易形態観察」、「生理性状試験」及び「26S rDNA−D1/D2塩基配列解析」の結果から、JPCCY0024は、キャンディダ ヴァルディヴィアナに近縁であり、キャンディダ属の新種であると推定された。そして、Kirk et al.(2001)に基づく分類学的位置から、JPCCY0024は、子嚢菌系アナモルフ(無性時代)酵母であるキャンディダ ヴァルディヴィアナ グリンブ.& ヤロウ(Candida valdiviana Grinb.& Yarrow)に近縁であり、キャンディダ属の新種であると推定された。
【0027】
JPCCY0024は、平成20年5月14日付けで受託番号NITE P−571として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。
【0028】
本発明の微生物は、キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)である。そして本発明は、キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)が属する種に属する微生物、及び26S rDNA−D1/D2の塩基配列が、配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、グルコシルセラミド生産能を有するキャンディダ(Candida)属に属する微生物を包含する。このような微生物は、キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)と同種の微生物であると考えられる。
また、本発明のグルコシルセラミドの製造方法は、上記本発明の微生物を培養する工程を有するものである。
【0029】
上記微生物を培養して得られる培養物中には、該微生物により生産されたグルコシルセラミドが含有される。該培養物は、そのまま目的の用途に使用しても良いし、適宜任意の精製操作を行ってから使用しても良い。
JPCCY0004等のキャンディダ属に属する微生物は、公知の手法で培養すれば良い。JPCCY0004であれば、例えば、上記の獲得手順に記載した分離培地や、酵母エキス、バクト トリプトン(Bacto Trypton)、グルコース等を含有する培地を使用すると良い。なかでも糖類としては、前記の資化性を有するものであればいずれも使用し得るが、グルコースが特に好ましい。
【0030】
また、培地中には、所定濃度の塩類を含有させることが好ましく、該塩類としては塩化ナトリウムが好ましい。塩類の濃度は0.1〜3質量%であることが好ましく、0.3〜2.5質量%であることがより好ましく、2質量%程度であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、グルコシルセラミドの生産性が一層向上する。
【0031】
培地は中性〜弱アルカリ性であることが好ましい。具体的には、培地のpHは6.5〜10.5であることが好ましく、7.0〜10.3であることがより好ましく、10程度であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、グルコシルセラミドの生産性が一層向上する。
【0032】
培地は固形培地及び液体培地のいずれでも良い。
培養時の温度は、18〜36℃であることが好ましく、23〜33℃であることがより好ましい。
培養時間は、培養温度にもよるが、12時間以上であることが好ましく、20時間以上であることがより好ましい。培養時間の上限は特に限定されず、目的に応じて適宜選択すれば良いが、通常は、50時間程度で十分である。
培養方法は、静置培養、振とう培養、撹拌培養等、培地の種類に応じて適宜選択すれば良い。そして、好気培養することが好ましい。
【0033】
生産されたグルコシルセラミドは、公知の手法で培養物から分離すれば良い。例えば、培養物から遠心分離等の手法でJPCCY0024等の菌体を回収し、必要に応じて洗浄後、凍結乾燥等の手法で乾燥菌体を得る。そして、得られた乾燥菌体をホモジナイズし、次いで、有機溶媒/水の混合溶媒を使用して、有機溶媒中にグルコシルセラミドを抽出する。さらに、溶媒を除去することでグルコシルセラミドが得られる。ホモジナイズは、クロロホルム/メタノール混合溶媒等の有機溶媒とアルカリ性水溶液とを併用して行うことが好ましく、抽出時の有機溶媒も同様のものを使用することが好ましい。
【0034】
従来の微生物のうち、例えば、クルブロマイセス ラクチス(Kluyveromyces lactis) NBRC 1090株は、高いグルコシルセラミド生産性を有することが知られている。そして、JPCCY0024は、クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株よりもさらに高いグルコシルセラミド生産性を有する。これは、JPCCY0024が、クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株と同等の増殖能を有し、さらに、クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株よりも、一菌体あたりのグルコシルセラミド生産性に優れることが理由であると推測される。
【0035】
JPCCY0024は種々のグルコシルセラミドを生産する。そのうち生産量が多い代表的なものとして、下記式(1)で表されるものが例示できる。
そして、JPCCY0024が生産するその他のグルコシルセラミドとしては、下記式(1)中のスフィンゴシン骨格に由来する炭化水素基の種類が異なるもの、脂肪酸骨格に由来する炭化水素基の種類が異なるもの、あるいは構造式中のいずれかの基の立体配置が異なるものが例示できる。ここで、「炭化水素基の種類が異なる」とは、例えば、炭素数、側鎖の有無、側鎖の位置、二重結合の有無、二重結合の位置等が異なることを指す。
クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株も、同様のグルコシルセラミドを生産することが知られている。
【0036】
【化2】

【0037】
JPCCY0024は、酵母の一種であり、容易に大量培養でき、しかもグルコシルセラミドの生産性が高い。また、生産されたグルコシルセラミドの分離も容易である。したがって、本発明によれば、高品質のグルコシルセラミドを簡便且つ大量に製造でき、安価なグルコシルセラミドを提供できる。
【実施例】
【0038】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
<JPCCY0024を使用したグルコシルセラミドの製造>
(グルコシルセラミドの定量)
酵母エキス1質量%、バクト ペプトン(Bacto Peptone)2質量%、グルコース2質量%、バクト アガー(Bacto Agar)1質量%を含有する固形培地を使用して2日間、試料を静置培養し、コロニー形成が確認された酵母(アルカリ耐性株)18株を選別した。これらの中には、JPCCY0024が含まれていた。
次いで、酵母エキス1質量%、バクト トリプトン(Bacto Trypton)2質量%、グルコース2質量%、塩化ナトリウム2質量%を含有し、pHを10に調整した液体培地50mlを使用して、500mlの坂口フラスコ中で上記18株の酵母を30℃、120rpmの条件で48時間振とう培養した。振とう培養後、8000rpmで1分間遠心分離することで菌体を回収し、さらに蒸留水で2回洗浄した。得られた菌体を凍結乾燥し、乾燥菌体の質量を測定した。
得られた乾燥菌体100mgに対して、クロロホルム/メタノール(1/1, v/v) 1mlと、0.8M水酸化カリウム水溶液1mlを加え、5分間超音波によりホモジナイズした後、42℃で30分間インキュベートした。次いで、クロロホルム2.5mlと水1.12mlを加えて混合した後、有機層を分取し、エバポレーターを使用して40℃で減圧乾固後、凍結乾燥した。得られたサンプルをクロロホルム/メタノール(2/1, v/v)100μlに溶解させ、そのうち10μlをTLC分析し、オルシノール硫酸試薬(硫酸/水/エタノール(5/13/27,v/v/v)の混合溶液45mlにオルシノール0.1gを溶解させた試薬)を噴霧後、ホットプレートを使用して110℃で5分間加熱し、呈色させた。この時、TLCの展開溶媒としては、クロロホルム/メタノール/水(65/16/2,v/v/v)を使用した。さらに、グルコシルセラミドの標準物質として、下記式(2)で表される大豆由来の粉末グルコシルセラミド(Avanti polar lipids)をクロロホルム/メタノール(2/1,v/v)に溶解させたものを使用した。また、画像解析ソフトScion Imageを使用してスポットの大きさとその呈色の平均強度を求め、これらを掛け合わせてスポットの呈色強度を算出することで、検量線を作成した。そして、この検量線を使用して、乾燥菌体1gあたりから抽出可能なグルコシルセラミドを定量した。
【0040】
【化3】

【0041】
定量結果より、JPCCY0024の乾燥菌体量は、培養液1Lあたり4.5gであり、JPCCY0024乾燥菌体1gあたりの前記式(1)で表されるグルコシルセラミドの含有量は0.72mgであることが確認された。以上より、JPCCY0024の前記式(1)で表されるグルコシルセラミドの生産性は、培養液1Lあたり3.2mgであることが確認された。
【0042】
(グルコシルセラミドの同定)
得られたグルコシルセラミドの構造を、下記二種類の手法で決定した。
(1)ESI−MS/MS
グルコシルセラミドの標準物質として、前記式(2)で表される大豆由来の粉末グルコシルセラミド(Avanti polar lipids)を使用し、検出条件を最適化した。
具体的には、前記大豆由来グルコシルセラミドをクロロホルム/メタノール(2/1,v/v)に溶解させ、濃度を0.1mg/mlに調整し、流速1.0ml/min、正イオンモードの条件で、ESI−MS及びESI−MS/MS分析を行った。ESI−MS/MS分析では、衝突エネルギーを30%から70%まで5%間隔で増大させ、そのスペクトルパターンから、グルコシルセラミドの構造を最も正確に反映したスペクトルが得られるエネルギーを決定することで、検出条件を最適化した。
【0043】
(2)LC−MS/MS
上記グルコシルセラミド定量時に調製したサンプル20μlを使用して、LC−MS分析を行った。分析には、前記大豆由来のグルコシルセラミドと、下記式(3)で表されるグルコシルセラミドC12β−D−GlucosylCeramide(Avanti polar lipids)の化学合成品を使用した。カラムとしてはAminopropyl−bonded silica gel column(4.6mmI.D×250mmL)を使用した。また、移動層Aとして5mM酢酸アンモニウムを含むアセトニトリル/メタノール/酢酸(97/2/1,v/v/v)、移動層Bとして5mM酢酸アンモニウムを含むメタノール/酢酸(99/1,v/v/v)を使用し、下記グラジエント条件(A.H.Merrill Jr.et al.,2005参照)で、移動層の流速を1.0ml/minとし、正イオンモードで検出を行った。
グラジエント条件:0%B(0分)−0%B(5分)−10%B(7.5分)−10%B(12分)−18%B(16分)−18%B(22分)−100%B(26分)−停止(26.01分)。「%」はいずれも「容量%」を示す。
MS/MS分析の親イオンとしてはナトリウム付加物のイオンを選択し、衝突エネルギーを40%に設定した。最適化した検出条件に基づいて対象酵母由来の脂質を含むサンプル20μlをLC−MS/MS分析に供した。
【0044】
[比較例1]
<クルブロマイセス ラクチス(Kluyveromyces lactis) NBRC 1090株を使用したグルコシルセラミドの製造>
JPCCY0024の代わりに、クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株を使用したこと以外は、実施例1と同様にグルコシルセラミドを製造し、得られたグルコシルセラミドの構造を確認した。クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手した。
その結果、本菌株の乾燥菌体量は、培養液1Lあたり4.8gであり、本菌株の乾燥菌体1gあたりの前記式(1)で表されるグルコシルセラミドの含有量は0.42mgであることが確認された。以上より、本菌株の前記式(1)で表されるグルコシルセラミドの生産性は、培養液1Lあたり2.0mgであることが確認された。
【0045】
上記結果より、JPCCY0024は、クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株よりもグルコシルセラミドの生産性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、化粧品や健康食品の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】JPCCY0024の26S rDNA−D1/D2塩基配列を使用して得られた分子系統樹を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)が属する種に属する微生物。
【請求項2】
26S rDNA−D1/D2の塩基配列が、配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、グルコシルセラミド生産能を有するキャンディダ(Candida)属に属する微生物。
【請求項3】
キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を培養する工程を有するグルコシルセラミドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−22218(P2010−22218A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184034(P2008−184034)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】