説明

新規なジグリコシダーゼ及びそれをコードする遺伝子

【課題】
安全性と酵素活性が高く耐熱性のある新規なジグリコシダーゼ及びそれをコードする遺伝子を提供すること。
【解決手段】以下の理化学的性質を有するペニシリウム(Penicillium)属の微生物が生産する新規なジグリコシダーゼ。(1)作用及び基質特異性;二糖配糖体に作用して該二糖配糖体より二糖単位の糖とアグリコンとを遊離する活性を有する。(2)至適pH;4.5付近である。(3)pH安定性;37℃、30分間の処理条件において、pH4.0〜8.0の間で安定であり、pH4.0以下でも80%以上の活性が残存する。(4)至適温度;酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)中、60℃付近である。(5)熱安定性;酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)中、50℃以下で安定であり、60℃、40分処理においても45%の活性が残存する。(6)分子量;SDS-PAGEにより測定で40000±5000ダルトンである。(7)等電点;約pI4.3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二糖配糖体に作用して二糖単位の糖とアグリコンとを遊離する酵素活性を有するペニシリウム(Penicillium)属の微生物が生産する新規なジグリコシダーゼ及びそれをコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の香気成分であるゲラニオール、リナロール、ベンジルアルコール、(Z)-3-ヘキセノール、2-フェニルエタノール、C13-ノルテルペノイドアルコールなどのアルコール系香気は、花、茶、果物、ワイン等の香気生成に重要な働きをなしている。これらの香気成分の中で、花の香気に重要な働きを果たすと考えられる、ゲラニオールやリナロール等のβ−プリメベロシド(β-primeveroside、6-O-β-D-xylopyranosyl-β-D-glucopyranoside)からなる二糖配糖体あるいはその類似体は香気前駆体として存在することが確認されている。また、香気以外にも色素、薬理成分など生理活性物質の一部においても二糖配糖体あるいはその類似体として存在していることが明らかになっている。
【0003】
これらの香気成分や生理活性物質の前駆体である二糖配糖体に作用して二糖単位で切断する作用を有する酵素が茶葉等より確認されている(特許文献1参照)。該酵素は、産業的利用が注目され始めているもののその給源が限られるので、工業的に大量に、更に安価に生産する方法の開発が強く望まれていた。他方、これら前駆体の二糖配糖体及びその類似体が、従来知られていたβ−グルコシダーゼでは十分にアグリコンが遊離されないことが判明している。
このような状況下、本願の出願人は微生物に由来しその給源が限定的でない、二糖配糖体に作用して二糖単位の糖とアグリコンとを遊離する酵素活性を有するジグリコシダーゼを提案している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−140675号公報
【特許文献2】国際公開WO 00/18931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献2に記載のアスペルギルス・フミガタスが生産するジグリコシダーゼは、アスペルギルス・フミガタスが日和見感染の原因となることもあり得るため、安全性の点で問題があった。また、酵素活性が十分ではなく、更に55℃で失活して耐熱性も十分ではなかった。
【0005】
本発明は、従来のジグリコシダーゼに比べ、安全性が高い上、酵素活性が高く耐熱性のある新規なジグリコシダーゼ及びそれをコードする遺伝子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行ない、安全性の高い菌株のペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株を変異処理することにより、高活性のジグリコシダーゼ生産能を有するペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株を取得するとともに、該菌株により産生されたジグリコシダーゼは既存のジグリコシダーゼと比較して、耐熱性に優れており、且つ分子量も異にする新規なジグリコシダーゼであることを知見し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の理化学的性質を有するペニシリウム(Penicillium)属の微生物が生産する新規なジグリコシダーゼを要旨とする。
(1)作用及び基質特異性
二糖配糖体に作用して該二糖配糖体より二糖単位の糖とアグリコンとを遊離する活性を有する。
(2)至適pH
4.5付近である。
(3)pH安定性
37℃、30分間の処理条件において、pH4.0〜8.0の間で安定であり、pH4.0以下でも80%以上の活性が残存する。
(4)至適温度
酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)中、60℃付近である。
(5)熱安定性
酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)中、50℃以下で安定であり、60℃、40分処理においても45%の活性が残存する。
(6)分子量
SDS-PAGEにより測定で40000±5000ダルトンである。
(7)等電点
約pI4.3である。
【0007】
上記の発明において、二糖配糖体をβ−プリメベロシド又はその類似する二糖配糖体としても良い。ここで、類似する二糖配糖体は、アピオフラノシル−β−D-グルコピラノシド(apiofuranosyl-β-D-glucopyranoside)、アラビノフラノシル−β−D−グルコピラノシド(arabinofuranosyl-β-D-glucopyranoside)等を例示できる。また、これらの発明において、ペニシリウム(Penicillium)属の微生物はペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)でも良い。また、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)はペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5(FERM P-20232)でも良い。
【0008】
本発明は、以下の(a)、(b)又は(c)の蛋白質を要旨とする。
(a)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質。
(b)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
(c)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列と65%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
【0009】
本発明は、以下の(a)、(b)又は(c)の蛋白質をコードする遺伝子を要旨とする。
(a)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質。
(b)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
(c)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列と65%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
【0010】
本発明は、以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなる遺伝子を要旨とする。
(a)配列表の配列番号5で表される塩基配列を有するDNA。
(b)配列表の配列番号5で表される塩基配列において、1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードしているDNA。
(c)配列表の配列番号5で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードしているDNA。
【0011】
上記の遺伝子を含有する組換えベクターを要旨とする。該組換えベクターにより宿主細胞が形質転換されてなる形質転換体を要旨とする。
【0012】
上記の形質転換体を培地に培養し、ジグリコシダーゼを生成させ、該ジグリコシダーゼを採取することを特徴とするジグリコシダーゼの製造方法を要旨とする。
【0013】
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)を培養し、既述の理化学的性質を有するジグリコシダーゼを生成させ、該ジグリコシダーゼを採取することを特徴とするジグリコシダーゼの製造方法を要旨とする。該製造方法において、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)はペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5(FERM P-20232)でも良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規なジグリコシダーゼは、安全性が高い上、ジグリコシダーゼ活性が高く、耐熱性があり、微生物を給源として安定供給ができるので、各種食品、医薬品、医薬部外品などに広く使用でき、特に、食品などにおいてその香気、色素、生理活性成分を増強あるいは減弱させるのに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のジグリコシダーゼは、既存のβ−グルコシダーゼが基質として利用し難い二糖配糖体に作用して該二糖配糖体より二糖単位の糖とアグリコンとを遊離する活性を有するものである。本明細書において、この活性を有する酵素を「ジグリコシダーゼ」と呼ぶ。
【0016】
本発明のジグリコシダーゼは、ペニシリウム(Penicillium)属の微生物、好適にはペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)、より好適にはペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5から得ることができる。ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5は、以下の通り寄託された。
寄託機関名:茨城県つくば市東1−1−1中央第6独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
寄託日:2004年9月29日、
寄託番号:FERM P-20232
【0017】
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5の菌学的性質は、以下の通りである。
1.形態(ツァペック・ドックス寒天平板又は麦芽エキス寒天で、25℃培養)
(1)分生子柄:長さ20〜240μ、直径1.6〜3.6μ、表面は滑面、先端は膨らむ、3.2〜5.2μ
(2)ペニシリ:単輪生体。
(3)フィアライド:長さ7.2〜12μ、直径2.4〜3.2μ。
(4)分生子:大きさ2.4〜3.2μ、球形〜亜球形、表面は滑面、ゆるいカラム状の連鎖を形成。
(5)子のう胞子:形成しない。
(6)菌核:形成しない。
【0018】
上記のように、本菌株はペニシリが単輪生体である、子のう胞子を形成しない、ツァペック寒天で生育が遅いことから、Raper, K. B., Thom, C. & Fennell, D. I. A Manual of Penicillia. New York & London: Hafner Publishing Company(1968).によれば、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)、ペニシリウム・イムプリカツム(Penicillium implicatum)、ペニシリウム・サブカテリツム(Penicillium subkateritium)が所属するペニシリウム・イムプリカツム(Penicillium implicatum)系に分類される。一方、本菌は、ペニシリが単輪生体、子のう胞子を形成しない、分生子が球形で滑面、生育が遅いこと、Sakaguchi & Wang agar培地で生育が極めて悪いことからAbe, S. Studies on the classification of the Penicillia. J gen appl microbiol 2, 1-344. (1956).によれば、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)、ペニシリウム・ロセオプルプレウム(Penicillium roseopurpureum)、ペニシリウム・テルリコウスキー(Penicillium terlikowskii)が選択される。
【0019】
2.化学分類学的性質
本発明者らは、本菌株がペニシリウム属のどの種に該当するかについて系統解析を行った。この系統解析は、次のように行った。まず、本菌株の28S rDNAのD2領域が配列表の配列番号18のような配列(321塩基)となっていることが判明した。
本発明者らは、ホモロジー検索システムBLASTを利用して、本菌株の28S rDNAのD2領域と既知のペニシリウム属菌株(31株)の28S rDNAのD2領域の各々について、塩基配列の比較を行った。但し、既知のペニシリウム属菌株のうち、ペニシリウム・マルチカラーの4菌株については、アクセッション番号(Accession number)が与えられていないので、本菌株と同様にして28S rDNAのD2領域についての塩基配列を求めたところ、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor) NBRC 5725とペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor) NBRC6042については、本菌株と100%の相同性を有することが分かり、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor) NBRC 7569とペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor) NBRC 7817については、本菌株と98.3%の相同性を有することが分かった。表1に系統分析に用いたアスペルギルロイデス亜属(Subgenus Aspergilloides)の菌株を示した。
【0020】
【表1】

【0021】
また、D2領域に基づく本菌株とアスペルギルロイデス亜属(Subgenus Aspergilloides)の系統樹図を図1に示した。該系統樹図は、パエシロマイセス・ヴァリオッティ(Paecilomyces variotii)をアウトグループにした。スケールバーは、0.01Knucとした。
【0022】
以上の28S rDNAのD2領域の塩基配列による系統分析で,本菌株はペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)とクラスターを形成したのでペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)に関係がある菌であることが分かった。更にペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor) NBRC 5725、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor) NBRC 6042とは同じ配列であることがわかったので、本菌株はペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)に属するものと決定し、本菌株名をペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5と命名した。
【0023】
ペニシリウム(Penicillium)属の微生物の培養は、本発明のジグリコシダーゼの生産に適合した方法や条件を設定でき、これらの方法や条件は特に限定されない。例えば、液体培養、固体培養の何れで培養しても良いが、好ましくは液体培養が利用される。液体培養としては、例えば、以下のように行うことができる。使用する培地としては、本発明のジグリコシダーゼを生産する微生物が生育可能な培地であれば、如何なるものでも良い。
例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいはペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。更に、ジグリコシダーゼを生産蓄積せしめるために培地に各種の誘導物質を添加することができる。誘導物質としては、例えば、糖類を使用でき、好ましくはゲントース(例えば、ゲントース#80、日本食品化工(株))、ゲンチビオース、ゲンチオリゴ糖(例えば、ゲンチオリゴ糖、和光純薬工業(株))等を利用できる。これらの誘導物質の添加量は目的とするジグリコシダーゼの生産能が増大される量であれば特に限定されないが、好ましくは0.01〜5%が添加される。培地のpHは例えば約3〜8、好ましくは約5〜6程度に調整し、培養温度は通常約10〜50℃、好ましくは約30℃程度で、1〜15日間、好ましくは4〜7日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャーファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。しかし、上述した各種の培養条件等は、本発明のジグリコシダーゼが生産される条件等であれば、特に限定されない。
【0024】
得られた培養液からのジグリコシダーゼの単離・精製は、遠心分離、UF濃縮、塩析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーを組み合わせ、常法により処理して行うことができる。本発明のジグリコシダーゼは、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)を培養した培養液そのままでも利用できる。もちろん本培養液は本発明の使用目的に応じてその精製度合いを適宜変更することができる。
【0025】
また、ジグリコシダーゼをコードする遺伝子を分離し、これから発現されるジグリコシダーゼを単離することにより、本発明のジグリコシダーゼを簡便、かつ効率的に得ることもできる。
【0026】
本発明のジグリコシダーゼの別実施態様として、(a)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、(b)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質、あるいは(c)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列と65%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質がある。アミノ酸の欠失、置換若しくは付加の程度については、基本的な特性を変化させることなく、あるいは特性を改善するようにしたものを含む。これらの変異体を製造する方法は、従来から公知の方法に従うことができる。また、相同性は、65%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0027】
本発明のジグリコシダーゼをコードする遺伝子は、好適にはペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5から抽出することができる。また、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成やアマシャムファルマシアバイオテク(Amersham Pharmacia Biotech 社製)などのペプチド合成機等を利用する公知の方法により化学合成もできる。また、ポリメラーゼチェインリアクション(以下、PCR)の利用によりジグリコシダーゼ遺伝子を含む断片を得ることもできる。
【0028】
本発明のジグリコシダーゼをコードする遺伝子は、(a)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする遺伝子、(b)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、
(c)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列と65%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードする遺伝子がある。
【0029】
また、本発明のジグリコシダーゼをコードする遺伝子は、(a)配列表の配列番号5で表される塩基配列を有するDNA、(b)配列表の配列番号5で表される塩基配列において、1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードしているDNA、(c)配列表の配列番号5で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードしているDNAがある。DNAの欠失、置換若しくは付加の程度については、基本的な特性を変化させることなく、あるいは特性を改善するようにしたものを含む。これらの変異体を製造する方法は、ランダム変異法あるいは部位特異的変異法等の従来から公知の方法に従うことができる。ランダム変異を導入する方法は、DNAを化学的に処理する方法として、亜硫酸水素ナトリウムを作用させシトシン塩基をウラシル塩基に変換するトランジション変異を起こさせる方法〔プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザUSA、第79巻、第1408〜1412頁(1982)〕、生化学的方法として、〔α-S〕dNTP存在下、二本鎖を合成する過程で塩基置換を生じさせる方法〔ジーン(Gene)、第64巻、第313〜319頁(1988)〕等を例示できる。部位特異的変異を導入する方法は、アンバー変異を利用する方法〔ギャップド デュプレックス(gapped duplex)法、ヌクレイック アシッズ リサーチ(Nucleic Acids Research)、第12巻、第24号、第9441〜9456頁(1984)〕、制限酵素の認識部位を利用する方法〔アナリティカル バイオケミストリー、第200巻、第81〜88頁(1992)、ジーン、第102巻、第67〜70頁(1991)〕、dUT(dUTase)とung(ウラシルDNAグリコシラーゼ)変異を利用する方法〔クンケル(Kunkel)法、プロシーディングズ オブ ザ ナショナル オブ サイエンシーズ オブ ザUSA、第82巻、第488〜492頁(1985)〕等を例示できる。また、「ストリンジェントな条件」とは、例えば6XSSC, 0.5%SDS,68℃、又は6XSSC, 0.5%SDS, 50%ホルムアミド, 42℃でのハイブリダイゼーションをいう。
【0030】
本発明のジグリコシダーゼをコードするDNAは、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5から、例えば、以下に記載するような方法で該遺伝子のクローニングを行うことによって取得することができる。まず、既述の方法によって本発明のジグリコシダーゼを単離、精製し、その部分アミノ酸配列に関する情報を得る。部分アミノ酸配列決定方法としては、例えば、精製した酵素を直接常法に従ってエドマン分解法〔ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第256巻、第7990〜7997頁(1981)〕によりアミノ酸配列分析装置〔プロテイン−シーケンサ476A、アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製等〕に供しても良いし、あるいはタンパク質加水分解酵素を作用させて限定加水分解を行い、得られたペプチド断片を分離精製し、得られた精製ペプチド断片についてアミノ酸配列分析を行う。こうして得られた部分アミノ酸配列の情報を基に、本発明のジグリコシダーゼをコードするDNAをクローニングする。一般的に、PCRを用いる方法あるいはハイブリダイゼーション法を利用してクローニングを行うことができる。
【0031】
ハイブリダイゼーション法を利用する場合、例えば、モレキュラー クローニング、ア ラボラトリー マニュアル〔Molecular Cloning, A Laboratory Manual , T. マニアティス(T. Maniatis)他著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、1989年発行〕に記載の方法を用いることができる。
【0032】
また、PCR法を利用する場合、以下のような方法を用いることができる。まず、本発明のジグリコシダーゼを産生する微生物のゲノムDNAを鋳型とし、部分アミノ酸配列の情報を基にデザインした合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR反応を行い、目的の遺伝子断片を得る。PCR法は、例えば、PCRテクノロジー〔PCR Technology、エルリッヒ(Erlich)HA編集、ストックトンプレス社(Stockton press)、1989年発行〕に記載の方法に準じて行う。更に、この増幅DNA断片について通常用いられる方法、例えば、ジデオキシチェーンターミネーター法で塩基配列を決定すると、決定された配列中に合成オリゴヌクレオチドプライマーの配列以外に本発明の酵素の部分アミノ酸配列に対応する配列が見出され、目的の本発明の酵素遺伝子の一部を取得することができる。得られた遺伝子断片をプローブとして更にハイブリダイゼーション法等を行うことによって本発明のジグリコシダーゼ全長をコードする遺伝子をクローニングすることができる。また、塩基配列の情報を元にして、化学合成によって目的とする遺伝子を得ることもできる(参考文献:ジーン(Gene)、第60(1)巻、第115−127頁(1987))。
【0033】
目的の本発明のジグリコシダーゼ遺伝子を含む組換えベクターを用いて宿主の形質転換を行い、次いで該形質転換体の培養を通常用いられる条件で行うことによって、本発明の酵素活性を有するタンパク質を生産させることができる。又、異種あるいは同種のプロモーターやシグナル配列を適当に組み合わせて成熟型ジグリコシダーゼをコードするDNAの上流に連結することによって、種々の宿主において本発明のジグリコシダーゼを生産することができる。宿主としては微生物、動物細胞、植物細胞等を用いることができる。微生物としては、大腸菌、バチルス(Bacillus)属、ストレップトマイセス(Streptmyces)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属等の細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属等の酵母、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属等の糸状菌が挙げられる.動物細胞としては、バキュロウイルスの系統が挙げられる。
【0034】
発現の確認や発現産物の確認は、本発明の酵素に対する抗体を用いて行うことが簡便であるが、本発明の酵素活性を測定することにより発現の確認を行うこともできる。
形質転換体の培養物から本発明の酵素を精製するには上述のように、遠心分離、UF濃縮、塩析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーを適宜組み合わせて行うことができる。
【0035】
次いで、本発明のジグリコシダーゼを用いた各種の用途について述べる。
ジグリコシダーゼは、各種成分、例えば植物材料の香気、色、生理活性含有量等を増強したり、これらの成分の抽出効率を調節することに使用できる。従って、より香気の高い食物、飲料やより香りの高いスパイスや香料、香水などの製造に利用でき、更に前述の製造時における処理において適宜利用することにより、好ましくない香りの早期放出にも使用できる。また、色に関しては植物材料、食物、飲料の色合い改善、発色、あるいは色素の製造に利用できる。更には、香気成分と同様に、品質上好ましくない色素前駆体の分解除去にも使用でき、生理活性に関しては生薬、ハーブ、その他植物性成分の薬理成分や有用生理活性成分の増強やあるいは好ましくない成分の分解除去に使用できる。即ち、各種の二糖配糖体成分に本発明のジグリコシダーゼを作用させることによって前述の作用をもたらすことが可能である。
更に、本発明のジグリコシダーゼを上記生理活性物質等と混合して投与する、あるいは、混合せずに同時または短時間の間隔で投与することにより、生理活性物質等のより効率的な体内吸収が可能になる。
【0036】
本発明の対象とする二糖配糖体を含有する物としては、ジグリコシダーゼの作用を受けるものであればいかなるものであってもよく、例えば、食品、化粧品、医薬品、医薬部外品、農薬、飼料等であり、より具体的には各種香気を有する食品、トイレタリー製品、木工製品や畳などの植物性材料から作られる工業製品などの製造にも利用できる。
本発明のジグリコシダーゼが好ましく利用される対象としては、香気成分を有する食品が挙げられる。具体的に述べるとウーロン茶、ジャスミン茶等の製造において、例えば「萎調」の工程で使用したり、紅茶(CTC法によるティーパック用紅茶など)の香気増強、ワインの香気増強に利用できる。また、化粧品の香気保持や香水の香気保持、医薬品における香気の改善や薬理効果の改善にも利用できる。
【0037】
更に、色素の製造においても有用である。例えば、西洋茜からのルベリトリン酸からの染料アリザリンの抽出に用いることによって、従来よりも効率よく色素の抽出を行うことができる。
【0038】
また、ジグリコシダーゼを利用して香気、色素、生理活性成分とプリメベロース等の二糖成分に作用させてその前駆体を製造することも可能である。これら成分は配糖化することにより安定性、保存性の改善や無毒化、薬理成分のDDS化も期待できる。
【0039】
更に、ジグリコシダーゼは既存のβ−グルコシダーゼが基質として利用しがたいアセチルグルコシド、マロニルグルコシド、メチルグルコシド、ホスホグルコシド、アミドグルコシドといった修飾グルコシドを従来のβ−グルコシダーゼより効率よく分解できる。この特性を利用して大豆中に含まれるイソフラボンのアセチルグルコシドやマロニルグルコシドをアグリコンフォームに変換させることにより、イソフラボンの吸収性や収率の改善を行える。
【0040】
また、切り花等に本酵素溶液を吹きかけるか、あるいは、吸収させることで花の香りを増強させることも可能である。
【0041】
ジグリコシダーゼの利用方法としては、その対象とするものの形態によりその添加方法、添加量、反応方法などを適宜変更することができる。具体的な利用方法としては、香気前駆体を含有する植物抽出物あるいは醗酵産物に本発明のジグリコシダーゼを加えてインキュベートする。その条件は、本発明のジグリコシダーゼが香気、色素、生理活性成分前駆体に作用し香気、色素、生理活性成分を遊離できる条件であれば特に限定されないが、その条件については当業者が多大な労力を費やすことなく設定できる。この条件の基で、当該成分濃度を上昇させることができる。
【0042】
また、本発明の酵素を植物中に存在する香気、色素、生理活性成分濃度の上昇にも利用できる。即ち、植物はこれら成分の前駆体を有しているため、植物に有効量の本発明のジグリコシダーゼを与え(遺伝子導入を含む)、当該植物中の前駆体が加水分解できる条件下で栽培することにより植物の香気、色素、生理活性成分を上昇させることができる。また、本発明の酵素組成物を利用することにより、対象となる植物中の香気、色素、生理活性成分等の生成時期を調節することができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、%は特に断らない限りw/v%である。また、以下で述べるβ−プリメベロシダーゼは、ジグリコシダーゼに包含される酵素で、ジグリコシダーゼと同様の活性を有するため、両者を峻別しないで用いることがある。
【0044】
〔参考例〕(酵素活性の測定法)
1.β−プリメベロシダーゼ活性測定法 自動生化学分析装置(島津社製、CL-8000)を用い、所定量の組成物を含む試料溶液27μLをパラニトロフェニル(pNP)−β−プリメベロシド2mMとなるように20mMクエン酸緩衝液(pH4.7)に溶解せしめたもの120μLと混合し、37℃で302秒反応させた後、0.5Mの炭酸ナトリウム水溶液150μLを加え、276秒後に405nmの吸光度を測定する。試料溶液由来のブランク測定は、基質溶液の代わりに20mMクエン酸緩衝液(pH4.7)を用いて同様に測定する。405nmの吸光度とパラニトロフェノール濃度との関係から、自動生化学分析装置での測定値は酵素反応で生じた遊離パラニトロフェノール量へと換算することができる。
この条件下で、反応時間1分間当たりに1μモルのパラニトロフェノールを遊離する酵素量を1単位(unit)とした。
なお、上記のpNP−β−プリメベロシドは、pNP−β−グルコシド(メルク社製)とキシロオリゴ糖(和光純薬社製)を酵素β−キシロシダーゼ(シグマ社製)を用いて反応させ、pNP−β−グルコシドにキシロースをβ−1,6結合で1残基転移させることにより合成した。
【0045】
2.β−グルコシダーゼ活性測定法
自動生化学分析装置(島津社製、CL-8000)を用い、所定量の組成物を含む試料溶液27μLをパラニトロフェニル(pNP)−β−グルコシド2mMとなるように20mM クエン酸緩衝液(pH4.7)に溶解せしめたもの120μLと混合し、37℃で302秒反応させた後、0.5Mの炭酸ナトリウム水溶液150μLを加え、276秒後に405nmの吸光度を測定する。試料溶液由来のブランク測定は、基質溶液の代わりに20mMクエン酸緩衝液(pH4.7)を用いて同様に測定する。405nmの吸光度とパラニトロフェノール濃度との関係から、自動生化学分析装置での測定値は酵素反応で生じた遊離パラニトロフェノール量へと換算することができる。
この条件下で、反応時間1分間当たりに1μモルのパラニトロフェノールを遊離する酵素量を1単位(unit)とした。
【0046】
3.β−キシロシダーゼ活性測定法 自動生化学分析装置(島津社製、CL-8000)を用い、所定量の組成物を含む試料溶液27μLをパラニトロフェニル(pNP)β−キシロシド2mMとなるように20mM クエン酸緩衝液(pH4.7)に溶解せしめたもの120μLと混合し、37℃で302秒反応させた後、0.5Mの炭酸ナトリウム水溶液150μLを加え、276秒後に405nmの吸光度を測定する。試料溶液由来のブランク測定は、基質溶液の代わりに20mMクエン酸緩衝液(pH4.7)を用いて同様に測定する。405nmの吸光度とパラニトロフェノール濃度との関係から、自動生化学分析装置での測定値は酵素反応で生じた遊離パラニトロフェノール量へと換算することができる。
この条件下で、反応時間1分間当たりに1μモルのパラニトロフェノールを遊離する酵素量を1単位(unit)とした。
【0047】
4.擬β−プリメベロシダーゼ活性の測定法
プリメベロースはキシロースとグルコースからなる二糖である。従って、β−キシロシダーゼとβ−グルコシダーゼの共同反応によって擬β−プリメベロシダーゼ活性(見かけのβ−プリメベロシダーゼ活性)を示す。これら夾雑酵素による擬β−プリメベロシダーゼ活性のβ−プリメベロシダーゼ活性への寄与を調べるため、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株の培養ブロスを分画し、β−プリメベロシダーゼは存在せずβ−キシロシダーゼとβ−グルコシダーゼが存在する画分を得た後、両酵素の活性割合とβ−プリメベロシダーゼの活性測定値とを比較して、擬β−プリメベロシダーゼ活性の算出方法を決定した。
その結果、擬β−プリメベロシダーゼ活性は、[β−キシロシダーゼ活性]:[β−グルコシダーゼ活性]=1:1の時、その1/10の値が擬β−プリメベロシダーゼ活性として活性値に反映されると判明したので、これを擬β−プリメベロシダーゼ活性値と定義した。
【0048】
〔実施例1〕(ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株の育種)
ジグリコシダーゼをより効率よく生産する為にペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株の育種を行った。なお、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株は、東京大学分子細胞生物学研究所所蔵のタイプカルチャーで入手可能である。
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株をポテトデキストロース寒天培地(バレイショ浸出液200g/L、ブドウ糖20g/L、寒天15g/L、pH5.6±0.2)含有斜面培地へ接種し10-14日間27〜30℃で培養した。菌体が十分増殖した斜面培地へ滅菌した0.9%ツイーン80溶液10mlを入れ、分生胞子を懸濁した。分生胞子懸濁液を滅菌したグラスフィルターG3(ハリオ社製)を用いて濾過し分生胞子液とした。得られた分生胞子を0.9%ツイーン80溶液10mLにて洗浄、再懸濁した。
【0049】
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株の分生胞子懸濁液に紫外線を照射(15W UVランプ 、距離50cm)した。致死率99.99%の条件でUV照射した胞子懸濁液を適当に希釈してポテトデキストロース寒天培地含有平板培地に塗布した。30℃で7〜10日培養後、出現したコロニーをまずポテトデキストロース寒天培地(バレイショ浸出液200g/L、ブドウ糖20g/L、寒天15g/L、pH5.6±0.2)含有斜面培地に画線し、それらの培地を良好な胞子形成が達成されるまで10-14日間27-30℃で培養した。十分増殖した斜面培地から、滅菌した白金耳で菌体を約5mm四方程度かき取り、これを前培養培地に接種した。
【0050】
次の栄養液を前培養培地として用いた。前培養培地:脱脂大豆(豊年)20g/L、ブドウ糖30g/L、KH2PO4 5g/L、(NH4)2SO4 4g/L、乾燥酵母(キリンビール)3g/L、アデカノールLG-126(旭電化)0.5mL/L、pH調整はしない。500mL容坂口フラスコに100mLの培地を入れ、121℃、20分間滅菌した。これに菌体を接種し、27±1℃、振盪速度140(往復/分)で5日間培養した。
【0051】
次の栄養液を生産用培地として用いた。生産用培地:サンファイバーR(太陽化学(株))10g/L、KH2PO4 20g/L、(NH4)2SO4 10g/L、ミーストP1G(アサヒビール(株)) 31.3g/L、アデカノールLG-126(旭電化)0.5mL/L、pH調整はしない。500mL容坂口フラスコに100mLの培地を入れ、121℃、20分間滅菌した。これに前培養終了液1mLを接種し、27±1℃、140(往復/分)振盪速度で10日間培養した。
【0052】
得られた培養液中のジグリコシダーゼ活性を測定して菌株の酵素生産能力を決定した。 培養液中のジグリコシダーゼ活性が高い菌株を優良菌として選抜した。選抜された菌を更に変異処理し優良菌を得る操作を4回繰り返す事によりペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株よりもジグリコシダーゼ生産性が約100倍上昇したペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株(FERM P-20232)を得た。
【0053】
〔実施例2〕(ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株の産生するジグリコシダーゼの精製)
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株をまずポテトデキストロース寒天培地(バレイショ浸出液200g/L、ブドウ糖20g/L、寒天15g/L、pH5.6±0.2)含有斜面培地に画線し、それらの培地を良好な胞子形成が達成されるまで10-14日間27-30℃で培養した。十分増殖した斜面培地から、滅菌した白金耳で菌体を約5mm四方程度かき取り、これを前培養培地に接種した。
【0054】
次の栄養液を前培養培地として用いた。前培養培地:脱脂大豆(豊年)20g/L、ブドウ糖30g/L、KH2PO4 5g/L、(NH4)2SO4 4g/L、乾燥酵母(キリンビール)3g/L、アデカノールLG-126(旭電化)0.5mL/L、pH調整はしない。500mL容坂口フラスコに100mLの培地を入れ、121℃、20分間滅菌した。これに菌体を接種し、27±1℃、振盪速度140(往復/分)で5日間培養した。
【0055】
次の栄養液を生産用培地として用いた。生産用培地:サンファイバーR(太陽化学(株))10g/L、KH2PO4 20g/L、(NH4)2SO4 10g/L、ミーストP1G(アサヒビール(株)) 31.3g/L、アデカノールLG-126(旭電化)0.5mL/L、pH調整はしない。500mL容坂口フラスコに100mLの培地を入れ、121℃、20分間滅菌した。これに前培養終了液1mLを接種し、27±1℃、140(往復/分)振盪速度で10日間培養した。こうして得られた培養液900mlをTOYOろ紙No.2でろ過後、濾液を17,000G×20分で遠心分離(久保田7700、ローター:KAKB-10.500)し、酵素含有液として遠心上清750mlを得た。
【0056】
酵素含有液を硫酸アンモニウム飽和濃度60%〜80%で分画を行い、生じた沈殿物をpH4.7の20mM酢酸緩衝液に溶解し、フェニルセファロース樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーを行いβ―グルコシダーゼ及びβ―キシロシダーゼ活性の画分と分離させた。フェニルセファロースカラムクロマトグラフィーにより得られたジグリコジダーゼ画分を限外ろ過膜にて脱塩濃縮した後等電点クロマトグラフィー(Mono−P HR5/20(Pharmacia))にて吸着溶離してジグリコシダーゼ画分を得た。得られたジグリコシダーゼ画分をSDS-PAGEにて分析したところシングルバンドとなり、単一にジグリコシダーゼを精製することができた。
【0057】
次いで、上記で得られたジグリコシダーゼの理化学的性質を記載する。
至適pHは以下のようにして測定した。pH2.0-4.0の20mM 酢酸ナトリウム−HC1緩衝液、pH4.0-5.5の20mM 酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.5-8.0の20mM Na2HPO4-KH2PO4緩衝液で各pHに調製した2mM pNP-β−プリメベロシド溶液400μ1に上記で得られた精製ジグリコシダーゼの酵素液90μ1を加え37℃で10分間反応を行った。O.5M炭酸ナトリウム溶液500μ1を加え反応を停止させ、420nmの吸光度を測定し、活性測定を行った。その結果、至適pHは4.5付近であることが分かった(図2を参照)。
【0058】
pH安定性は以下のようにして測定した。pH2.0-4.0の20mM 酢酸ナトリウム-HC1緩衝液、
pH4.0-5.5の20mM 酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.5-8.0の20mM Na2HPO4-KH2PO4緩衝液で精製ジグリコシダーゼの酵素溶液を100倍希釈し、各pHにおいて37℃で30分間処理した後、その90μ1を37℃で5分間予熱した2mM pNP-β−ブリメベロシド溶液(pH4.5)400μ1と混合し、10分聞反応した。0.5M炭酸ナトリウム溶液500μ1を添加して反応を停止させ、420nmの吸光度を測定して活性測定を行い残存活性を求めた。その結果pH安定性は、pH4.0〜8.0であった(図3を参照)。
【0059】
至適温度は以下のように測定した。20mM 酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)で調製した2mM pNP-β−ブリメベロシド溶液400μ1に精製ジグリコシダーゼの酵素溶液を90μ1加え20-80℃で10分間反応を行った。0.5M炭酸ナトリウム溶液500μ1を加え反応を停止させ、420nmの吸光度を測定し、活性測定を行った。その結果、至適温度は60℃付近であることが分かった(図4を参照)。
【0060】
熱安定性は以下のように測定した。20mM 酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解した精製ジグリコシダーゼの酵素溶液を20-80℃の各温度で30分間処理後、残存活性を測定することによって調べた。その結果、50℃以下の温度では、活性は90%以上残存しており、60℃の処理で60%の活性が残存していた(図5を参照)。
【0061】
また、精製ジグリコシダーゼの分子量は、SDS-PAGEにより40000±5000ダルトンで(図6を参照)、等電点pIは約4.3である。
【0062】
上記のペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株の産生するジグリコシダーゼ(本願酵素)の理化学的性質を特許文献1記載の茶由来のジグリコシダーゼ(茶由来酵素)および特許文献2記載のアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)由来のジグリコシダーゼ(Asp.fumigatus由来酵素)のそれとの比較を表2に示した。また、本発明者らは、本願酵素とAsp.fumigatus由来酵素とにおける熱安定性について、同一条件での比較を行った。即ち、それぞれの酵素を20mM 酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)中60℃にて10〜60分処理し、残存活性を測定した。その結果、本願酵素は、60℃、40分の処理でも45%残存したが、Asp.fumigatus由来酵素は60℃、40分処理で完全に失活した(図7を参照)。
【0063】
【表2】

【0064】
表2より明らかなように、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株の産生するジグリコシダーゼは、既存のジグリコシダーゼに比べて、明らかに熱安定において優れており、且つ分子量も異にしていた。それゆえ、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株の産生するジグリコシダーゼは、新規なジグリコシダーゼであることが判明した。
【0065】
〔実施例3〕(ジグリコシダーゼ遺伝子の分離、解析)
1.ジグリコシダーゼのN末端アミノ酸配列の決定
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株の産生するジグリコシダーゼの解析を行った。
実施例2で得られたジグリコシダーゼをプロテインシークエンサー(ヒュレット・パッカード社製)に供し、配列番号1に示す15残基のN末端アミノ酸配列を決定した。
配列番号1
Ser-Thr-Tyr-Leu-Asn-Trp-Thr-Thr-Phe-Asn-Ala-Val-Gly-Ala-Asn
【0066】
2.染色体DNAの抽出
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株をYPD培地で3日間振盪培養後、得られた菌体をブフナー漏斗とNo.2のろ紙(アドバンテック社)で集めて滅菌水で洗浄した。余分な水分を除去したあと、-80℃で凍結し、FREEZONE(LABCONCO社)を用いて凍結乾燥した。乾燥後、海砂と共に乳鉢ですりつぶして微粉末状にし、この菌体破砕物に12mlの抽出溶液〔3.3% SDS、 10mM Tris-HCl(pH7.5)、1mM EDTA〕を加えて撹拌した。得られた溶菌液をフェノール/クロロホルム抽出して、夾雑するタンパク質を除去後、等量のイソプロパノールを加えて、DNAをガラス棒で巻き取った。このDNAを0.1mg/mlのRNaseを含むTE溶液に溶解して、37℃、30分間反応させた後、さらに0.2mg/mlのプロテイナーゼKを含むTE溶液を加え、37℃で30分間反応させた。この溶液をフェノール/クロロホルム抽出した後、2.5倍容の冷エタノールで沈殿させた。この沈殿物を70% エタノールへ浸漬した後乾燥し、TE溶液に溶解した。
【0067】
3.メッセンジャーRNAの調製
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株をアマルティシロップ 3%、大豆粕 1%、バクトペプトン(またはポリペプトン)4%、KH2PO4 2% 〔pH5.5〕の培地にて27℃、4日間振とう培養後、得られた菌体をブフナー漏斗とNo.2のろ紙(アドバンテック社)で集めて滅菌水で洗浄した。余分な水分を除去した後、乳鉢と乳棒を用いて液体窒素中で微粉末状にした。この菌体破砕物に1 mlのトリゾール試薬(インビトロジェン社製)を加えて懸濁し、チューブに移した。5分間静置後、0.2 mlのクロロホルムを加えてよく撹拌し、室温で3分間静置した。これを遠心して上層と下層に分離し、上層を別のチューブに移した。続いて0.5 mlのイソプロパノールを加えて、室温で10分間静置した。遠心処理した後、上清を除き、ゲル状の沈殿物を得た。75%エタノールを1 ml加えて撹拌した後、遠心処理した。沈殿物をRNaseフリーの水に溶かして全RNA溶液を得た。この全RNAからMicro Fast Track Kit 2.0 (インビトロジェン社製)を用いてmRNA精製を行った。
方法はKitに添付されている説明書に従った。
【0068】
4.ジグリコシダーゼ遺伝子特異的DNA断片の取得(3'-RACE)
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株の産生するジグリコシダーゼのN末端アミノ酸配列解析の結果得られた15アミノ酸の配列情報を基に、以下に示す3種類のミックスプライマーを設計した。合成の際には、NをI(イノシン)として合成した。
配列番号2 LD-A: 5’ACNTAYYTNAAYTGGAC 3’
配列番号3 LD-B: 5’TGGACNACNTTYAAYGC 3’
配列番号4 LD-C: 5’TTYAAYGCNGTNGGNGC 3’
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株のmRNAを鋳型とし、上記のプライマーを用いて3'-RACE(3'-Rapid Amplification of cDNA Ends)を行った。3'-RACE反応は、3'-Full RACE Core Set(タカラバイオ株式会社製)を用いて行い、方法は添付のマニュアルに従って行った。いずれのプライマーを用いた場合にも約1400bpのDNA断片が増幅された。
LD-Aプライマーで増幅された断片(DG1400A)を、LD-Bプライマーを用いて塩基配列決定を行い約800bpの塩基配列を決定した。ここで得られた塩基配列情報を基に、アミノ酸配列を推定したところオープンリーディングフレームが認められた。LD-Bプライマーで増幅されたPCR断片をpBluescriptII KS(+)にサブクローニングした。
【0069】
5.遺伝子ライブラリーの構築とジグリコシダーゼ遺伝子のスクリーニング
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株から調製した染色体DNAを各種の制限酵素とBglIIを組み合わせて消化した。得られた各制限酵素処理液を用いてサザンブロット解析を行った。この解析にはプローブとしてLD-Bプライマーで増幅されたPCR断片1.4KbのDNAを用いた。この結果を基に制限酵素地図を作成したところ、EcoRI-SpeI消化によって、約6000塩基対付近に単一のバンドが得られることが確認できた。
染色体DNAをEcoRI-SpeIで完全消化後、アガロースゲル電気泳動に供して約6000塩基対の長さのDNA断片を回収、精製した。これを、ベクターpUC19のマルチクローニングサイトに挿入連結し、これを用いて大腸菌を形質転換し、遺伝子ライブラリーを作製した。
【0070】
上記で作製した遺伝子ライブラリーに対し、LD-Bプライマーで増幅された約1.4KbのPCR断片をプローブとしてコロニーハイブリダイゼーションによるスクリーニングを行った。 コロニーハイブリダイゼーションを行う際のプローブのラベリングおよびシグナルの検出はDIG核酸検出キット(ロシュ社製)を用いて行った。操作は添付の説明書に従った。
【0071】
スクリーニングの結果、2株の陽性クローンが得られた。それぞれのクローンからプラスミド(pBNDG)を調製し、各プラスミドを解析し挿入DNA断片の大きさおよびジグリコシダーゼ遺伝子の存在領域を推定した。ジグリコシダーゼ遺伝子を含むと思われる領域について塩基配列を決定し、ジグリコシダーゼ遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号5に示すように決定した。塩基配列から推定されるアミノ酸配列とジグリコシダーゼのN-末端アミノ酸配列から成熟蛋白質のアミノ酸配列を推定した。成熟蛋白質の推定分子量は39997ダルトンで、推定等電点(pI)は4.52であった。遺伝子配列から推定される成熟型ジグリコシダーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号6に示した。また、この遺伝子のオープンリーディングフレームを示す配列表の配列番号7の通り、全体が389アミノ酸のプレ体としてコードされており、N-末端の23残基がプレ領域と推定され、残りの366残基が成熟蛋白質に対応する。本発明の蛋白質やそれをコードするDNAからなる遺伝子は、配列番号6のアミノ酸配列や配列番号5の塩基配列より長いアミノ酸配列や塩基配列を含むものである(例えば、プレ体)。
【0072】
〔実施例 4〕(ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)形質転換系の確立)
A.オロチジン-5’-リン酸脱炭酸酵素欠損株の取得
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株の分生胞子懸濁液にUV照射後、その胞子を5-フルオロオロト酸(5-fluoro-orotic acid、5-FOA)培地(Boeke他 Mol. Gen. Genet. 197: 345-346, 1984)に塗布し、27℃で6〜8日間培養した。生育した5-FOA耐性株を最少培地(0.3% NaNO3、0.05% KCl、0.05% MgSO4・7H2O、0.001% FeSO4・7H2O、0.1% KH2PO4、2% グルコース、1.5% アガー、pH6.0)、5mM ウラシルを含む最少培地に各々ピックアップし、27℃で3〜5日間培養した。5mM ウラシルを含む最少培地でのみ生育するウラシル要求株を、5mM ウリジンを含むYPM培地(1%酵母エキス、2% ペプトン、2% マルトース、pH6.0)に接種し、27℃ 140(往復/分)3日間振盪培養した。氷上の冷却した乳鉢に菌糸 1g、海砂 1gを加え、菌糸を十分にすりつぶし、10mlの50 mM Tris-HCl, pH8.0を乳鉢に加え懸濁した。
その懸濁液を36,000×g、10分遠心分離により上清を集めた。その上清についてBelser他(Meth.Enzymol. 51: 155-167, 1978)の方法に従い、オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(OPRTase)活性を測定し、活性がある株をオロチジン-5’-リン酸脱炭酸酵素欠損株(IAM7153ΔpyrG株)と判断した(Horiuchi他 Curr. Genet. 27: 472-478, 1995)。
【0073】
B.マーカー遺伝子であるオロチジン-5’-リン酸脱炭酸酵素の遺伝子クローニング
1.pyrG特異的なPCRフラグメントの合成
既知のオロチジン-5’-リン酸脱炭酸酵素遺伝子であるペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum) pyrG (Cantoral他, Nucleic Acid Res. 16 (16) : 8177, 1988)、 アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)pyrG (EMBL Acc. No. Y13811)、 アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)pyrG (Wilson他,Nucleic Acid Res. 16 (5): 2339, 1988)、 アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans )pyrG(Oakley他, Gene 61: 385-399, 1988)、 アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)pyrG(Weidner, Curr.Genet. 33(5): 378-385, 1988)の相同性の高い領域から、以下の6種の混合オリゴヌクレオチドをDNA合成機により合成し、PCRプライマーとした。
配列番号8
センス・プライマー:
5’-GCGCCCTGCAGGATGTC(CGT)TC(CG)AAGTC(CG)CA(AC)(CT)T-3’
配列番号9
センス・プライマー:
5’-GCGCCCTGCAGGCACATCGA(CT)ATCCTC(AT)C(CT)GA-3’
配列番号10
センス・プライマー:
5’-GCGCCCTGCAGGAAGCACAA(CT)TT(CT)(CT)T(CGT)ATCTT-3’
配列番号11
センス・プライマー:
5’-GCGCCCTGCAGGGA(AG)GA(CT)CGCAA(AG)TTCATCGA-3’
配列番号12
アンチセンス・プライマー:
5’-GCGCCCTGCAGGTG(AG)TA(CT)TGCTG(ACT)CC(ACG)AGCTT-3’
配列番号13
アンチセンス・プライマー:
5’-GCGCCCTGCAGGAT(AG)AT(AG)AAGTC(ACGT)GCACC(TCG)CG-3’
【0074】
これらのプライマーと既述のペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5株の染色体DNA抽出の場合と同様の方法により得たペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株の染色体DNAを鋳型として、以下の条件下、GeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社)を用いてPCR反応を行った。
<PCR反応液>
10xPCR反応緩衝液(Perkin Elmer社) 10μl
dNTP混合液(各2mM、Perkin Elmer社) 10μl
25mM MgCl2(Perkin Elmer社) 6μl
染色体DNA溶液(100μg/ml) 1μl
50μM センス・プライマー 2μl
50μM アンチセンス・プライマー 2μl
滅菌水 68.5μl
Amplitaq Gold(5u/μl、Perkin Elmer社) 0.5μl
<PCR反応条件>
ステージ1: 変性(95℃、9分) 1サイクル
ステージ2: 変性(94℃、45秒) 30サイクル
アニール(55℃、1分)
伸長(72℃、2分)
ステージ3: 伸長(72℃、10分) 1サイクル
反応液について0.6% TAE-アガロースゲルで電気泳動を行った。配列番号8と12、8と13、9と12、9と13、10と12、10と13、11と12、11と13の組み合わせにおいてPCR断片を確認した。各PCR断片の塩基配列を決定したところ、プライマー配列以外の領域はすべて一致した。各PCR断片を制限酵素Sse8387Iで消化後、アガロース電気泳動から回収し、puc19(TOYOBO社)のSse8387Iサイトにクローニングした。
【0075】
2.ゲノムライブラリーの作製とスクリーニング
ゲノムDNAライブラリーの作製は、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株の染色体DNAを制限酵素SmaIで消化後、アガロース電気泳動から回収して、pUC19(TOYOBO社)のSmaIサイトに連結して得たプラスミドDNAを用いて、コンピテントセルDH5(TOYOBO社)を形質転換しゲノムDNAライブラリーを得た。
前記1で得たクローン化PCR断片をDIG-High Prime(Roche社製)を用いて標識し、これをDNAプローブとしてスクリーニングした。DIG Easy Hyb Granules(Roche社製)を用いて42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った後、フィルターを2xSSC/0.1% SDS(室温)、0.5xSSC/0.1% SDS(68℃)で洗浄した。次にDIG Nucleic Acid Detection Kit(Roche社製)で4ヶの陽性コロニーを検出した。得られた陽性コロニーから約4.7kbpのゲノムDNAを含むプラスミドpPMPYRGを取得した。
【0076】
3.塩基配列の決定
ゲノムクローンを含むプラスミドpPMPYRGからKpnIで切り出される約2.2kbpのDNA断片の塩基配列を決定して得たペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)pyrG
遺伝子の翻訳領域の塩基配列を配列番号14に示した。翻訳領域(配列表の配列番号14)の塩基配列からイントロンを推定し、pyrG蛋白質のアミノ酸配列を推定した。得られたアミノ酸配列(配列表の配列番号15)はペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum)pyrG (Cantoral他, Nucleic Acid Res. 16 (16) : 8177, 1988)と88%一致した。
【0077】
4.形質転換
上記で得たペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株のオロチジン−5’−リン酸脱炭酸酵素欠損株(IAM7153ΔpyrG株)を完全培地2(0.6% NaNO3、0.052% KCl、0.052% MgSO4・7H2O、0.152% KH2PO4、0.15% Trace-elements sol、1% グルコース、0.1% ウリジン、0.5% イーストエキストラクト、0.5% カザミノ酸、0.5 % カルボキシメチルセルロース、pH6.5)100ml−坂口フラスコ500mlに接種し、27℃ 140(往復/分)4〜6日振盪培養した。テトロン網(230メッシュ)を通したろ過により菌糸を集め、プロトプラスト溶液(0.8M NaCl、10mM NaH2PO4、20mMCaCl2、3.0mg/ml Yatalase、0.3mg/ml Novozyme234)40mlに懸濁後、 30℃ 1時間穏やかに振とうした。テトロン網を通したろ過によりプロトプラストを回収し、440×g、5分遠心分離により、プロトプラストを沈殿物として得た。この沈殿物を0.8M NaCl溶液 10mlに懸濁し、440×g、5分遠心分離により沈殿物を集めた。0.8M NaCl, 50mM CaCl2溶液 10mlに再懸濁し、440×g、5分遠心分離により沈殿物を集めた。適当量の0.8M NaCl、50mM CaCl2溶液に懸濁し、プロトプラスト溶液を得た。次にこのプロトプラスト溶液50μlに、マーカー遺伝子であるオロチジン-5’-リン酸脱炭酸酵素遺伝子(pyrG)を含むプラスミドpPMPYRG 20μg、12.5μlのPEG溶液(25% PEG6000、50mM CaCl210mM Tris-HCl、pH7.5)を加え混合後、氷上に20分静置した。次に0.5mlのPEG溶液を加え混合後、氷上に5分静置した。次に1mlの0.8M NaCl、50mM CaCl2溶液を加え混合した。この混合液0.75mlを、2%アガーを含む再生培地2(0.6% NaNO3、0.152%KH2PO4、0.052% KCl、0.052% MgSO4・7H2O、1% Glucose、1.2M Sorbitol、pH6.5)20ml上に塗布し、27℃で5〜8日培養した。
【0078】
5.形質転換株のサザンブロティング解析
宿主と形質転換体8株についてYPM培地(1% 酵母エキス、2% ペプトン、2% マルトース、pH6.0)100ml−坂口フラスコ500mlに接種し、27℃ 140(往復/分)6日間振盪培養した。Hynes他(Mol. Cell. Biol 3 (8):1430-1439, 1983)の方法に従い染色体DNAを調製した。制限酵素EcoRVで消化後、アガロース電気泳動、ブロッティングを行った。DIG-High Prime(Roche社製)を用いて標識したpyrG遺伝子DNA断片とフィルターを、DIG Easy Hyb Granuls(Roche社製)を用いて42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った後、フィルターを2xSSC/0.1% SDS(室温)、0.1xSSC/0.1% SDS(68℃)で洗浄した。次にDIG NucleicAcid Detection Kit(Roche社製)で検出した。その結果、すべての形質転換株についてpyrGの遺伝子導入を確認した。
【0079】
〔実施例5〕(ジグリコシダーゼ遺伝子のペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)への導入)
pPMPYRGのpyrG遺伝子を含むDNA断片を切り出す為にpyrG遺伝子下流にXhoI認識部位を導入する目的で変異導入用プライマーを作製した。
配列番号16
センス・プライマー(pyrGF):CGGGGTACCTTCTGGCTGG
配列番号17
アンチセンスプライマー(pyrGXhoR):GTTGGCTCGAGGGCTCTTAG
pPMPYRGを鋳型としてプライマーpyrGFとpyrGXhoRを用いてPCR反応を行い約1.8KbのDNA断片を得た。増幅されたPCR断片をXhoIとKpnIで消化して得た約1.8KbのDNA断片をpBluescript II KS(+)をXhoI-KpnIで切断して得たプラスミドと連結しpPYRGKXを作製した。pPYRGKXの挿入断片にはXhoI認識部位が作製されていると共に内部配列に変化が無いことを塩基配列の決定により確認した。
実施例3で得られたpBNDGの挿入DNA断片を解析したところ、ジグリコシダーゼ遺伝子は、SpeIとClaIで切り出される約2.5KbのDNA断片中に存在することが分かった。pBNDG からSpeIとClaIで切り出される約2.5KbのDNA断片をpBluescript II KS(+)のSpeI-ClaI切断部位に挿入連結してpBNDG-SCを得た。pBNDG-SCをXhoI-KpnIで切断したプラスミドとpPYRGKXをXhoI-KpnIで切断して得たpyrG遺伝子を含むDNA断片約1.9Kbとを連結しpBNDGPYRGを得た。pBNDGPYRGをSpeI−KpnIで切断しアガロースゲル電気泳動後、ジグリコシダーゼ遺伝子とpyrG遺伝子を含むDNA断片約4.3Kbを含むゲルを回収しGene CleaneIIIkit(BIO 101, Inc社製)にてDNA抽出した。得られたDNAを用いて実施例4に示した方法で以下のようにTS1ΔpyrG株を形質転換した。
【0080】
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IAM7153株のオロチジン−5’−リン酸脱炭酸酵素欠損株(IAM7153ΔpyrG株)を完全培地2(0.6% NaNO3、0.052% KCl、0.052% MgSO4・7H2O、0.152% KH2PO4、0.15% Trace-elements sol、1% グルコース、0.1% ウリジン、0.5% イーストエキストラクト、0.5% カザミノ酸、0.5 % カルボキシメチルセルロース、pH6.5)100ml−坂口フラスコ500mlに接種し、27℃ 140(往復/分)4〜6日振盪培養した。テトロン網(230メッシュ)を通したろ過により菌糸を集め、プロトプラスト溶液(0.8M NaCl、10mM NaH2PO4、20mM CaCl2、3.0mg/ml Yatalase、0.3mg/ml Novozyme234)40mlに懸濁後、 30℃ 1時間穏やかに振とうした。テトロン網を通したろ過によりプロトプラストを回収し、440 x g、5分遠心分離により、プロトプラストを沈殿物として得た。この沈殿物を0.8M NaCl溶液 10mlに懸濁し、440 x g、5分遠心分離により沈殿物を集めた。0.8M NaCl、50mM CaCl2溶液 10mlに再懸濁し、440 x g、5分遠心分離により沈殿物を集めた。適当量の0.8M NaCl、50mM CaCl2溶液に懸濁し、プロトプラスト溶液を得た。
【0081】
次にこのプロトプラスト溶液50μlに、マーカー遺伝子であるオロチジン-5’-リン酸脱炭酸酵素遺伝子(pyrG)とジグリコシダーゼ遺伝子を含むDNA断片4μg、6.75μlのPEG溶液(25% PEG6000, 50mM CaCl2 、10mM Tris-HCl、pH7.5)を加え混合後、氷上に15分静置した。次に0.5mlのPEG溶液、1mlの0.8M NaCl、50mM CaCl2溶液を加え穏やかに混合した。
この混合液0.75mlを、2%アガーを含む再生培地2(10mM NaNO3、0.1% K2HPO4、0.05% KCl、0.05% MgSO4・7H2O、2% Glucose、1.2M Sorbitol、pH6.5)20ml上に塗布し、27℃で5〜8日培養した。生じたコロニーをPDK寒天培地(ポテトデキストロース寒天培地、2%KCl)に釣菌し、27℃で3〜4日間培養した。生育した菌体を前培養培地(2.0%小麦胚芽、2.0% ぶどう糖、0.3% ミーストP1G(アサヒビール食品製)、0.5% KH2Po4、pH5.5)に接種し、27℃、300rpm、4日間前培養した。前培養液を本培養培地(1.3% 脱脂大豆、2.7% ファーマメテ゛ィア(TRADERS)、4.0% アマルティシロップ(東亜化成社製)、2.0% KH2PO4 pH5.5)に1%接種し、27℃、200rpm、7日間培養した。培養終了後の菌液から得た培養上清中の酵素活性を測定した(表3参照)。形質転換体(TF1〜3)の産生するジグリコシダーゼは18.8〜21.5 U/mlであった。
【0082】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】アスペルギルロイデス亜属(Subgenus Aspergilloides)の系統樹図である。
【図2】至適pHを示すグラフである。
【図3】pH安定性を示すグラフである。
【図4】至適温度を示すグラフである。
【図5】熱安定性を示すグラフである。
【図6】分子量測定を示すグラフである。
【図7】本願酵素とAsp.fumigatus由来酵素との熱安定性を比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の理化学的性質を有するペニシリウム(Penicillium)属の微生物が生産する新規なジグリコシダーゼ。
(1)作用及び基質特異性
二糖配糖体に作用して該二糖配糖体より二糖単位の糖とアグリコンとを遊離する活性を有する。
(2)至適pH
4.5付近である。
(3)pH安定性
37℃、30分間の処理条件において、pH4.0〜8.0の間で安定であり、pH4.0以下でも80%以上の活性が残存する。
(4)至適温度
酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)中、60℃付近である。
(5)熱安定性
酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH5.5)中、50℃以下で安定であり、60℃、40分処理においても45%の活性が残存する。
(6)分子量
SDS-PAGEにより測定で40000±5000ダルトンである。
(7)等電点
約pI4.3である。
【請求項2】
二糖配糖体がβ−プリメベロシド又はその類似する二糖配糖体である請求項1記載のジグリコシダーゼ。
【請求項3】
ペニシリウム(Penicillium)属の微生物がペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)である請求項1又は請求項2に記載のジグリコシダーゼ。
【請求項4】
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)がペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5(FERM P-20232)である請求項3に記載のジグリコシダーゼ。
【請求項5】
以下の(a)、(b)又は(c)の蛋白質。
(a)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質。
(b)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
(c)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列と65%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
【請求項6】
以下の(a)、(b)又は(c)の蛋白質をコードする遺伝子。
(a)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質。
(b)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
(c)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列と65%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質。
【請求項7】
以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列表の配列番号5で表される塩基配列を有するDNA。
(b)配列表の配列番号5で表される塩基配列において、1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードしているDNA。
(c)配列表の配列番号5で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつジグリコシダーゼ活性を有する蛋白質をコードしているDNA。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の組換えベクターにより宿主細胞が形質転換されてなる形質転換体。
【請求項10】
請求項9に記載の形質転換体を培地に培養し、ジグリコシダーゼを生成させ、該ジグリコシダーゼを採取することを特徴とするジグリコシダーゼの製造方法。
【請求項11】
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)を培養し、請求項1に記載のジグリコシダーゼを生成させ、該ジグリコシダーゼを採取することを特徴とするジグリコシダーゼの製造方法。
【請求項12】
ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)がペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)TS-5(FERM P-20232)である請求項11に記載のジグリコシダーゼの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−29040(P2007−29040A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219811(P2005−219811)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【Fターム(参考)】