説明

新規なテトラクロロエチレン・デハロゲナーゼ遺伝子(pceA)

【課題】環境中の有機ハロゲン化合物、特にテトラクロロエチレンをトリクロロエチレンに短時間のうちに分解し、エタンまでの分解を促進して、これらの化合物が人体に及ぼす影響を軽減する技術を提供すること。
【解決手段】配列表の特定のアミノ酸配列を含むタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含むベクターおよびベクターで形質転換した形質転換体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デハロゲナーゼをコードする新規な遺伝子に関する。詳細には、本発明は、新規なテトラクロロエチレン・デハロゲナーゼ(以下、PCEデハロゲナーゼと略す)をコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ハロゲン化合物の有用性と需要が拡大するなか、それらによる環境汚染が問題視されており、かかる化合物の野生生物や人体への蓄積も指摘されている。
現在のところ、これら環境中に放出された有機ハロゲン化合物は、回収した後に高熱を加えて分解する熱分解法などによって処理されている。しかしながら、広範囲にわたって汚染された土壌、地下水などに含まれる有機ハロゲン化合物は、その回収に手間がかかり、また、回収後の処理には多大な費用を要する。
【0003】
なかでも、代替フロン用の合成の原料、ドライクリーニング溶剤、化学繊維、金属機械部品の洗浄剤などの目的で工業的に生産されている化合物であるテトラクロロエチレン(パークロロエチレン、四塩化エチレンと呼ばれる場合もある)は、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルを経て最終的にエタンまで分解されるが、それらの中で最も低い予測無影響濃度(PEEC)を有し、半減期が最も長いため、人体に与える影響が最も大きいと考えられる物質である。また、テトラクロロエチレンは、土壌への吸着性が弱いために、土壌に原液のままで排出された場合には、地下浸透して地下水を汚染し、長期間にわたって残留すると考えられ、汚染された地下水を長期間にわたって飲用する場合には人体に深刻な影響を及ぼすおそれがある(非特許文献1)。
【0004】
そこで、近年、微生物を利用した環境中の有機ハロゲン化合物の分解除去が提唱されている。微生物を利用した分解は、土壌の掘削、地下水の回収、遮蔽物の除去などが不要であり、経済面および技術面の双方から有利である。このような微生物を利用する環境浄化はバイオレメディエーションと呼ばれている。
【0005】
かかる有機ハロゲン化合物のバイオレメディエーション技術として、ハロゲン化ダイオキシン類を分解する技術がある(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−278433公報
【非特許文献1】環境省、「化学物質の環境リスク評価第2巻」、[online]、2005年5月、[2006年4月16日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/chemi/report/h15-01/pdf/chap01/02-3/40.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、環境中の有機ハロゲン化合物、特にテトラクロロエチレンをトリクロロエチレンに短時間のうちに分解し、エタンまでの分解を促進して、これらの化合物が人体に及ぼす影響を軽減する技術は存在していなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有機ハロゲン化合物、詳細にはテトラクロロエチレンをトリクロロエチレンに分解する技術を開発すべく鋭意検討した結果、かかる反応を触媒する遺伝子のクローニングに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1] 配列表の配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
[2] 配列表の配列番号:1で表されるアミノ酸配列において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつテトラクロロエチレン(PCE)デハロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
[3] 前記[1]または[2]記載のタンパク質をコードするDNA;
[4] 配列番号:2のヌクレオチド配列を有する前記[3]記載のDNA;
[5] 前記[4]記載のDNAに相補的なDNAに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつPCEデハロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
[6] 前記[4]記載のDNAに対して80%以上の相同性を有し、かつPCEデハロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
[7] 前記[3]ないし[6]のいずれか1に記載のDNAを含む発現ベクター;
[8] 前記[7]記載の発現ベクターで形質転換された形質転換体;
[9] 細菌である前記[8]記載の形質転換体;
[10] 前記[8]または[9]記載の形質転換体により産生されるタンパク質;
[11] 前記[10]記載のタンパク質に特異的に結合する抗体;
[12] 前記[9]記載の形質転換体を適当な培地で培養して該DNAがコードするタンパク質を発現させ、
形質転換体から培地に分泌されたタンパク質または形質転換体内に蓄積されたタンパク質を該形質転換体を破砕することによって得たタンパク質を精製することを特徴とするタンパク質の製造方法;
を提供する。
【0010】
本願の特許請求の範囲および明細書中で「1ないし数個のアミノ酸」という場合は、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜13個、さらに好ましくは1〜10個、よりさらに好ましくは1〜7個、なおよりさらに好ましくは1〜5個のアミノ酸を意味する。
【0011】
本願の特許請求の範囲および明細書中で用いる「ストリンジェントな条件」とは、ある塩基配列に対して高い相同性を有する他の核酸配列が特異的にハイブリダイズすることができる条件を意味し、このような条件下であれば特に限定されるものではないが、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc. (1995), セクション2、4および6に見出すことができる。さらなるストリンジェントな条件は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrookら、Cold Spring Harbor Press (1989), 第7、9および11章に記載されている。
【0012】
本発明において好ましいストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、約30℃にて約1×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中のハイブリダイゼーションにつづく、約30℃にて約1×SSC中の1回以上の洗浄が挙げられる。
【0013】
また、本発明において好ましいよりストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、約45℃にて0.5×SSC中のハイブリダイゼーションにつづく、約45℃にて約0.5×SSC中の1回以上の洗浄が挙げられる。
【0014】
また、本発明において好ましい最もストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、約50℃にて約0.2×SSC中のハイブリダイゼーションにつづく、約50℃にて約0.2×SSC中の1回以上の洗浄が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境中に存在する有機ハロゲン化合物、特にテトラクロロエチレンからトリクロロエチレンへの分解を促進することによって、塩素系有機ハロゲン化合物の分解反応を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、第1の態様において、新規なPCEデハロゲナーゼおよびそれをコードするDNAならびにそれらの相等物を提供する。
かかる新規なPCEデハロゲナーゼは、配列表の配列番号:1で表されるアミノ酸配列の一部分または全体を含むタンパク質である。また、本発明の新規なPCEデハロゲナーゼには、配列表の配列番号:1で表されるアミノ酸配列において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列の一部分または全体を含み、かつPCEデハロゲナーゼ活性を有するタンパク質が含まれる。
【0017】
また、本発明は、上記のPCEデハロゲナーゼをコードするDNAを提供する。該DNAには、上記のアミノ酸配列の一部分または全体をコードするすべての縮重関係のDNAが含まれるが、好ましくは配列番号:2で表されるヌクレオチド配列を有するDNAである。さらに、該DNAには、配列番号:2で表されるヌクレオチド配列を有するDNAに相補的なDNAに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつPCEデハロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが含まれる。ここで、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは上記の定義と同じである。
【0018】
また、本発明のPCEデハロゲナーゼをコードするDNAには、配列番号:2で表されるヌクレオチド配列を有するDNAに対して、少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、よりさらに好ましくは95%以上、なおよりさらに好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有し、かつPCEデハロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。
【0019】
本発明のPCEデハロゲナーゼをコードするDNAは、公知のデスルフィトバクテリウム属菌KBC1(Desulfitobacterium sp. KBC1)、スルフロスピリラム・マルチボランス(Sulfurospirillum multivorans)、スルフロスピリラム・ハロレスピランス(Sulfurospirillum halorespirans)、デスルフィトバクテリウム属菌PCE−S(Desulfitobacterium sp. PCE-S)およびクロストリジウム・ビファーメンタンス(Clostridium bifermentans)のPCEデハロゲナーゼ遺伝子領域のアミノ酸配列のマルチアライメントを行い、比較的保存性の高い領域に基づいて設計したプライマーを用いて試料から公知の手法を用いて直接増幅することにより得ることができる。
【0020】
本発明のPCEデハロゲナーゼをコードするDNAを増幅するのに好適な試料としては、土壌、地下水、河川水、工場廃水、湖沼水、活性汚泥などを挙げることができる。
【0021】
簡単には、図1に示す遺伝子領域のアミノ酸配列のマルチアライメントから比較的保存性が高い2の領域(図1中の太枠で囲んだ領域)に基づいて、以下のプライマー対を設計/合成した:
FWプライマー:GAYAARCCNATHGAYTTYGG(配列番号:3)
RVプライマー:CCRTANCCNARNGCRTCRTC(配列番号:4)。
【0022】
ついで、種々のサンプリング試料から公知の手法、例えばISOFECAL for Beads Beating Kit(NIPPON GENE社)を用いて試料からDNAを抽出する。ついで、上記のプライマー対を用いたPCR法により、抽出したDNAを増幅して本発明のPCEデハロゲナーゼをコードするDNAをクローニングすることができる。
【0023】
クローニングしたDNAは公知の方法に従って種々の発現系において発現させて本発明のPCEデハロゲナーゼをイン・ビトロ(in vitro)で得ることができる。例えば、本発明のDNAは、公知の方法に従って、pBR322, pQE-60, pUC18/19, pIJ61,Arp1,pAM82などの適当なプラスミドベクターに組み込んだ後に、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌(Aspergillus oryzae)を形質転換することにより発現させることができる。
【0024】
配列番号:2で表されるポリヌクレオチドを組み込んだプラスミドは、ppceADと命名し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)に寄託した。受託番号は、FERM P−21656である。
【0025】
また、本発明は、第2の態様において、新規なPCEデハロゲナーゼに対する抗体を提供する。
本発明の新規なPCEデハロゲナーゼに対する抗体は、精製したPCEデハロゲナーゼを公知の方法に従って哺乳動物を免疫することにより得ることができる。これらの抗体には、ポリクローナル抗体のほか、ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体も含まれる。また、この抗体を酵素消化処理して得られるような抗体の反応性フラグメントも含まれる。抗体フラグメントの例には、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(v)フラグメント、H鎖モノマーまたはダイマー、L鎖モノマーまたはダイマー、1個のH鎖と1個のL鎖とからなるダイマーなどが含まれる。これらのフラグメントは、例えばペプシンやパパインなどのプロテアーゼにより完全抗体を消化するか、消化後、必要に応じて還元剤で処理することにより得ることができる。H鎖およびL鎖モノマーは、完全抗体をジチオスレイトールなどの還元剤で処理した後、精製した鎖状体を分離することにより得ることもできる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、常法にしたがって作製することができる。
【0026】
また、本発明は、第3の態様において、かかるPCEデハロゲナーゼ遺伝子で形質転換した形質転換体からタンパク質を精製することを特徴とするPCEデハロゲナーゼの製造方法を提供する。
【0027】
簡単には、上記したPCEデハロゲナーゼをコードするDNAで形質転換した形質転換体を適当な培地で培養して該DNAがコードするタンパク質を発現させ、形質転換体から培地に分泌されたタンパク質または形質転換体内に蓄積されたタンパク質を該形質転換体を破砕することによって得たタンパク質を精製することを特徴とする。ここで、形質転換体内で生成したタンパク質を形質転換体外に分泌する方法、形質転換体外に分泌されたタンパク質の精製方法、生成タンパク質を形質転換体内に蓄積させる方法、形質転換体を破砕することにより蓄積したタンパク質を形質転換体外に放出する方法は、公知の方法を用いることができる。
【0028】
また、本発明は、第4の態様において、かかるPCEデハロゲナーゼ遺伝子で形質転換した形質転換体を用いて環境中のテトラクロロエチレンをトリクロロエチレンに変換する方法を提供する。
【0029】
環境中に残存するテトラクロロエチレンは、テトラクロロエチレンをコードするDNAで形質転換した形質転換体または該形質転換体から精製もしくは粗精製した酵素タンパク質をテトラクロロエチレンが残留している対象物、例えば土壌、地下水、河川水、工場廃水、湖沼水、活性汚泥などに適当な割合、例えば、該形質転換体の生育に好適条件の25〜37℃、または該酵素タンパク質の至適条件のpH7.0-8.0および30〜37℃に1〜5時間置くことによりテトラクロロエチレンからトリクロロエチレンへの変換を促進させ、他の分解酵素の作用によって最終的にエタンを生成することができる。
【実施例】
【0030】
1.サンプリングとDNA抽出方法
1)地下水のサンプリング方法
観測用井戸50ヶ所から、地下水採取装置を用いてそれぞれ約1000 mlずつ地下水を摂取した。微生物のコンタミネーションを避けるために、地下水採取装置は採水前および各観測井戸の採水後に滅菌蒸留水で洗浄した。以下の菌体の濃縮は、採水後1時間以内に完了した。
【0031】
2)ろ過による菌体の濃縮方法
採取した地下水は、1時間以内に50 mlのテルモシリンジを用いて、孔径0.45 μmのニトロセルロースフィルター MF-MEMBRANE FILTERS HAWP04700(MILLIPORE社)に通すことで、地下水中の菌体を濃縮した。通液後、フィルターを取り出しファルコンチューブに入れ、速やかにドライアイスを用いて保存した。DNA抽出は、このろ過サンプルを出発材料として行った。
【0032】
3)サンプルからのDNA抽出
DNAの抽出には、ISOFECAL for Beads Beating Kit(NIPPON GENE社)を使用した。詳細には、試料を通したフィルターが入ったファルコンチューブに0.85 %生理食塩水5 mlを入れ、ボルテックスをかけてフィルターの付着物をよく落とした。そしてフィルターを取り除き4℃、3,500 rpmで10分遠心分離を行いその上清を除去した。そこに、1 mlのLysis Solution Fを添加しよくピペッティングしたものをビーズ入りバイアルに入れ、MINI-BEAD-BEATER(BioSpec Products社)で4,800 rpm、1分間でBeads Beating処理した後4℃、12,000 rpmで10分間遠心分離を行い、上清600 μlをそれぞれファルコンチューブに回収した。回収した上清にPurification Solution 400 μlを添加し、軽く攪拌した。さらに、クロロホルム600 μlを添加し、15秒間ボルテックスで混和した後4℃、15,000 rpmで10分間遠心分離を行った。ついで、中間層を入れないように水層700 μlをエッペンドルフチューブに取り出し、Precipitation Solution 700 μlと混合し、4℃、15,000 rpmで30分間遠心分離を行い上清を廃棄した。ついで、Wash Solution 1 mlを添加し転倒混和でリンス後、4℃、15,000 rpmで20分間遠心分離を行い、上清を廃棄した。最後に、70%エタノール 1 mlとEthachinmate 2 μlを添加し転倒混和でリンス後、4℃、15,000 rpmで10分間遠心分離を行って上清を廃棄し乾燥させた後、沈殿物を100 μlのTE bufferに溶解して、精製DNAを得た。
【0033】
2.DNAのクローニング方法
1)プライマーの設計および完全長遺伝子
図1に示す公知のPCEデハロゲナーゼ遺伝子のアミノ酸配列のマルチアライメントの結果に基づき、公知のオリゴヌクレオチド合成方法に従って以下のプライマー対を設計/合成した:
FWプライマー:GAYAARCCNATHGAYTTYGG(配列番号:3)
RVプライマー:CCRTANCCNARNGCRTCRTC(配列番号:4)
【0034】
2)PCR方法
PCR反応液の調製
PCR反応は、TaKaRa Ex Taq(商標)(宝酒造社)のKitを使用して行った。PCRのサイクル条件を、表1に示す。予め行った実験により、40サイクルが最も適当なサイクル数であった。
【0035】
【表1】

【0036】
PCRによるTarget DNAの増幅方法
0.2 mlのPCRチューブに全量が50 μlになるように10×PCR buffer 5 μl、TaKaRa Ex Taq(商標) 0.5 μl(10 units/reaction)、Template DNA 2.5 μl、プライマー 0.5 μl×2、dNTP 5 μlを添加し、thermal cyclerにてPCR増幅反応を行った。配列決定用のPCR増幅に用いたプライマーは以下のとおりである。

FPU-pceA-FW1(BglII); ATGGAAAAGAAAAAAAAGCCTGAACTC(配列番号:5)
FPU-pceA-FW2(BglII); GGTGTACCAGGTGCAAATGCAGC(配列番号:6)
pceA1-N(BamHI); GCTGAAAAAGAGAAAAATGCAGCTGA(配列番号:7)
pceB1-N(BamHI); ATGAAATTATTAAATATTTTAAATTATAAAGC(配列番号:8)
pceB1-C-His(EcoRI); ACGCTTAAGCTTTTCCCATAAAATATATG(配列番号:9)
FPU-pceA-SQ1; ATGTGGGCACCAGTAGGGTT(配列番号:10)
FPU-pceA-SQ2; ATCAGTTGCCTTTGCTGTTGAAG(配列番号:11)
pceA-FW4; GTGGGCACCAGTAGGGTTAG(配列番号:12)
pceA-RV4; ATTCCACCCAATAATCTAAG(配列番号:13)
FPU-pceA-RV1(EcoRI); TCATGATTTTTTAACCCTATCCTTTC(配列番号:14)
FPU-pceA-RV2(EcoRI); GAAATTAACGCTTAAGCTTTTCCC(配列番号:15)
【0037】
アガロースゲル電気泳動方法
5%アガロースゲル濃度になるように0.5×TBE buffer(Tris-base 10.8%(w/v)、ホウ酸5.5%(w/v)) 200 mlにアガロースを3 g添加し、電子レンジにて溶解させた。よく攪拌し完全に溶け切ったことを確認した。ゲルが60〜50℃になったら、ゲル形成トレイに流し込み、しばらく放置してゲルを固化させた。電気泳動装置にゲルをセットし0.5×TBE bufferを満たした。ついで、泳動するPCR産物をLording bufferと (5:1 v/v) 混ぜ、その後ウェルの中に静かに試料10μlを添加した。100 V, 40 minで泳動を行った後、ゲルを取り出しエチジウムブロマイド溶液に浸し5 min静置した。さらに、染色したゲルを蒸留水にて洗浄 (1〜2 min) し写真撮影機能付きUV遮断フィルターにてバンドを観察した。その結果を図2に示す。
【0038】
PCR産物からのDNA抽出方法
PCR産物からのDNAの抽出にはQI Aquick PCR Purification Kit (QIAGEN社)を用いた。まず、PCR産物50 μlに5倍量のPB buffer 250 μlを入れてよくピペッティングした。DNA結合のためそれをQI Aquickカラムに4℃、13,000 rpmで30秒遠心分離をして通した。そして、コレクションチューブのフロースルーを除きカラムをチューブに戻した。洗浄のためPE buffer 0.75 ml を4℃、13,000 rpmで60秒遠心分離をすることでカラムに通した。ついで、コレクションチューブのフロースルーを除き、カラムをチューブに戻してさらに4℃、13,000 rpmで30秒遠心分離を行い完全にPE bufferを取り除いた。その後カラムを新しいエッペンドルフチューブにセットし、DNAを抽出するためにEB buffer 30 μlをメンブレンの中央に入れ1分間放置した後、4℃、13,000 rpmで60秒遠心分離を行って下のエッペンドルフチューブにDNAを回収した。
【0039】
3.遺伝子配列決定方法
Sanger-dideoxy法およびその変法であるDye‐terminator法、Maxam-Gilbert法の3種類を検討し、OPCカラム精製のプライマーを用いたSanger-dideoxy法による遺伝子配列決定方法に決定した。決定したPCEデハロゲナーゼをコードするヌクレオチド配列を配列番号:2に示す。
【0040】
4.遺伝子発現方法
WakoPURE system(和光純薬工業社)のキットを用いて、解析した遺伝子より酵素を合成した。操作はキットの説明書に従った。
1)テンプレートDNAの作製
テンプレートDNAを、2段階PCRで調整を行った。
1段階目のPCRで、目的遺伝子の5’側にSD配列を含むアダプター配列を導入した。ついで、2段階目のPCRでT7プロモーター配列を含む領域を付加した。Forward(FW)プライマーとReverse(RV)プライマーのプライマー対は下記の配列に参照して設計した。
【0041】
プライマー配列
FWプライマー: 5’-AAGGAGATATACCA-ATG-N14-20-3’(配列番号:16)
RVプライマー: 5’-TATTCA-TTA-N14-20-3’(配列番号:17)
Universalプライマー:5’-GAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGGTTTCCCTCTAGAAATAATTTTGTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACCA-3’(配列番号:18)
【0042】
ついで、目的の遺伝子を含むDNAを鋳型とし、設計したプライマー対を用いて1段階目のPCRを行い、PCR産物がシングルバンドであることをアガロースゲル電気泳動により確認した。ついで、1段階目のPCR産物を鋳型として、キットに添付されているT7プロモーター配列をもつユニバーサルプライマーと上記Reverseプライマーを用いて2段階目のPCRを行い、PCR産物がシングルバンドであるとことをアガロースゲル電気泳動で確認した。
このPCR反応液をそのままWakoPURE systemでのタンパク質合成でのテンプレートDNAとして使用した。
【0043】
2)タンパク質合成反応
WakoPURE systemの溶液Aおよび溶液Bのマイクロ遠心チューブを-80℃から取り出して氷上で融解させ、準備したマイクロ遠心チューブにヌクレアーゼフリー水を適量(反応液の全量が50 μlになるように)加えた。ついで、融解した溶液Aを25 μLおよび溶液Bを10 μL添加し、テンプレートDNAを1 μL(1.13 pmol)添加して、PCEデハロゲナーゼを翻訳した。ここまでの操作は氷上で行った。
【0044】
5.酵素反応速度の測定
生成したPCEデハロゲナーゼの酵素反応時間における生成トリクロロエチレンの変化を求めた。SP水295 μlにTris-pyrvate緩衝溶液pH 7.3を50 μl、メチルビオロゲン溶液50 μl、テトラクロロエチレン 50 μl、10 mg/ml BSA 5 μlを加え、全量450 μlのアッセイ溶液とした。
活性測定用バイアルにアッセイ溶液450 μlとWakoPURE system溶液全50 μlを加え、30℃の水浴中にて1〜4時間インキュベートし、活性測定用バイアルを65℃の温浴にて加熱し、ヘッドスペースガス1 mlをGC/MSを用いて定量し、予め作製した検量線との対比から酵素活性を求めた。
その結果、本発明のPCEデハロゲナーゼは、WakoPURE system溶液50 μlあたり、0.115 mM/hのトリクロロエチレンを生成した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明はバイオレメディエーションに適用可能な遺伝子工学の分野に属し、新規なPCEデハロゲナーゼ遺伝子のクローニング、および該遺伝子の遺伝子工学的手法による形質転換、形質転換体、形質転換体または無細胞翻訳系で生成したPCEデハロゲナーゼ酵素タンパク質、ならびに該形質転換体または酵素タンパク質を用いた対象環境物質中のハロゲン化合物の分解方法に関し、環境に残留するハロゲン化合物の分解に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は公知のPCEデハロゲナーゼのアミノ酸配列のマルチアライメントの結果を示す表である。
【図2】種々のプライマー対を用いてPCR増幅したPCEデハロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド断片の電気泳動図である。
【配列表フリーテキスト】
【0047】
SEQ ID NO: 1
Amino acid sequence of PCA dehalogenase.
SEQ ID NO: 2
Polynucleotide sequence of PCA dehalogenase.
SEQ ID NO: 3
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 4
Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 5
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 6
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 7
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 8
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 9
Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 10
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 11
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 12
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 13
Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 14
Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 15
Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 16
Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 17
Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.
SEQ ID NO: 18
Universal primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of tetrachloroethylene dehalogenase gene.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【請求項2】
配列表の配列番号:1で表されるアミノ酸配列において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつテトラクロロエチレン(PCE)デハロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1または2記載のタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
配列番号:2のヌクレオチド配列を有する請求項3記載のDNA。
【請求項5】
請求項4記載のDNAに相補的なDNAに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつPCEデハロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
請求項4記載のDNAに対して80%以上の相同性を有し、かつPCEデハロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項7】
請求項3ないし6のいずれか1項に記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項7記載の発現ベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項9】
細菌である請求項8記載の形質転換体。
【請求項10】
請求項8または9記載の形質転換体により産生されるタンパク質。
【請求項11】
請求項10記載のタンパク質に特異的に結合する抗体。
【請求項12】
請求項9記載の形質転換体を適当な培地で培養して該DNAがコードするタンパク質を発現させ、
形質転換体から培地に分泌されたタンパク質または形質転換体内に蓄積されたタンパク質を該形質転換体を破砕することによって得たタンパク質を精製することを特徴とするタンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−119338(P2010−119338A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295964(P2008−295964)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】