説明

新規な害虫忌避剤

【課題】新しい防虫忌避剤の提供。
【解決手段】アミリスオイルを有効成分とする防虫忌避剤。本発明は、特に強いにおいもなく、安全で害虫一般に幅広く適用可能な防虫忌避剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
忌避剤(Repellents)とは生物がある種の行動を起こす場合の性状または生物の走化性のうち負の走化性を利用したもので、有害な生物を寄せ付けない物質である。本発明は、かかる忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の住宅の気密性の向上により、年間を通じて生活空間を一定範囲の快適温度に保つことが可能となった。加えて、地球環境の変化による温暖化は食品害虫、不快害虫、衛生害虫、衣類害虫および木材害虫等にとって繁殖を助長する環境が整ったといえる。
季節を問わず繁殖するダニはその例であり、また、家庭の居住エリアのみならず、製造工場、食品売り場などにもこれらの害虫が見られる。
【0003】
以下に害虫の分類と被害状況を示す(一部の害虫は重複する)。
1.食品害虫
食品害虫とは、穀類、乾麺、乾燥食品、製粉、インスタント食品、菓子類、魚・肉製品、果物等の多種の食品を直接食害するものや包装材料を食い破って進入して食害するもの、または衛生性を損なう害虫をいい、ゴキブリ類、ハエ類、メイガ類、イガ類、コクヌスト類、コクゾウムシ類、チャタテムシ類、カツオブシムシ類、シバンムシ類、ゴミムシダマシ類、アリ類等を挙げることができる。具体的には、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、メイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シバンムシ、コクゾウムシ、コナナガシンクイ、コナダニ、ガイマイゴミムシダマシ等が例示される。
2.衛生害虫
人間の生活環境を悪化させる害虫であり、一部の害虫は食品害虫や不快害虫と重複する。蚊やサシバエの吸血行動により、病原体を媒介して感染が広がること、またダニがアレルゲンとなること等は一般によく知られている。具体的な衛生害虫としては、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ハエ、蚊、ムカデ、イエダニ、ツメダニ、マダニ、ドクグモ類、シラミ、ノミ等が例示される。
3.不快害虫
不快害虫とは人間に対して不快感を与える害虫のことを云い、一部の害虫は食品害虫、衛生害虫と重複する。具体的な不快害虫としては、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、アリ類、ハエ類、コバエ、チョウバエ、チャタテムシ、ヤスデ、チリダニ等が例示される。
4.衣類害虫
衣類害虫とは衣類、繊維類を食害する害虫であり、カツオブシムシ類とイガ類の幼虫によりウールやカシミアの衣類または繊維類が特に食害されること、又、合成繊維でも食べ物汚れのあとが食害されることが知られている。具体的な衣類害虫としては、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等が例示される。
5.木材害虫
住宅、建材または建具類に食害被害を及ぼす害虫であり、主にイエシロアリやヤマトシロアリであったが、最近では海外より進入してきた木部のみに棲息するアメリカカンザイシロアリの被害も見られるようになった。
【0004】
有機リン系、カーバメイト系、ピレスロイド系などの殺虫剤は優れた殺虫力を持ち、かつ安価であることから、現在多用されている。しかし、これらの殺虫剤は人体への直接の影響や、天然魚介類等の生態系に与える影響等が懸念されていて、使用において厳重に管理される必要がある。
特に人間の生活環境では人の触れやすいところや、家屋内、特に抵抗性の無い幼児の生活エリアなどでの使用には厳重な注意が必要であり、安全性の面から有害な薬剤を用いることは避けられる傾向にある。現在、住環境における健康問題となっているシックハウスの原因物質として厚生労働省指針値該当成分である13物質等も含まない安全性の高い害虫忌避剤が求められる。従って、害虫駆除を行なう際に発生する弊害などを考慮すれば、穏便且つ平和的な手段という点で忌避剤の使用が最も望ましい。なかでも、天然物由来のより安全性の高い忌避活性物質による忌避成分の使用と、界面活性剤、保留剤等の添加剤についても、食品、医薬品、香粧品に使用される安全性の高い添加剤の使用が好ましい。
天然に存在するある種の植物は多感作用物質として他種の昆虫、生物に作用する化学物質を持っており、この作用を応用した植物精油(及び精油成分)を有効成分とする忌避剤が既に知られている。具体的には、ゴキブリ忌避剤(下記特許文献1)、衣類害虫忌避剤(下記特許文献2)、食品害虫忌避剤(下記特許文献3)、アリ忌避剤(下記特許文献4)、ダニ(下記特許文献5)、カ忌避剤(下記特許文献6)、飛翔害虫忌避剤(下記特許文献7)、衛生害虫忌避剤(下記特許文献8)等が知られている。
【0005】
植物精油を有効成分とする忌避剤は殺虫剤と比べると一時的かつ決定的な防虫効果は低いので、忌避作用を持続させて防虫効果を発揮させる必要があり、例えば多孔性微粒子に活性成分を吸着させる等の手法が知られている(下記特許文献9)。
アミリスオイルはミカン科植物(アミリス・バルサミフェラ Amyris Balsamifera L.)を原料として水蒸気蒸留法によって得られ、主なオイルの生産地はハイチ、ドミニカ、ジャマイカおよびベネゼエラである。成分はセスキテルペン類を約70%含み、主要成分としてバレリアノール(Valerianol;22.1%)、β−ユーデスモール(β-Eudesmol;16.8%)、10−エピ−γ−ユーデスモール(10-Epi-γ-Eudesmol;10.9%)の他微量成分を多数含む。これらの割合は産地、樹齢、採取季節によって異なる。香りの特徴はかすかにウッディー・サンダルウッド様で僅かにオイリィー・スイート、バルサミックノートを持っており、ボディーノートは非常に持続的である。
アミリスオイルの用途は温和な石鹸香料として他の精油とブレンドして用いられており、フレグランス用に保留剤として利用されている。今までにアミリスオイルは消臭剤としての利用が知られているが(下記特許文献10)、害虫忌避性に関しては全く報告がない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−312641号公報
【特許文献2】特開2000−154107号公報
【特許文献3】特開2005−97165号公報
【特許文献4】特開平11−209208号公報
【特許文献5】特開平06−16515号公報
【特許文献6】特開平07−138106号公報
【特許文献7】特開2002−173407号公報
【特許文献8】特開2004−99535号公報
【特許文献9】特開2002−308705号公報
【特許文献10】特許第3612203号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
過去に安全性の高い植物精油を用いた忌避剤も開発されているが、問題点はその殆どが匂いの強い精油(シナモンオイル、シトロネラオイル、ユーカリオイル、ベチバーオイル、レモングラスオイル、ミントオイル、ラベンダーオイル等)またはこれらの精油成分であることである。植物精油は一般にエッセンシャルオイルとして芳香、消臭、癒し等の用途に、又香粧品、食品添加物に使用されているが、その芳香は個人によって好き嫌いの差が大きく、忌避剤として広く適用するためにはさらなる忌避剤が求められている。本発明の目的は、天然物由来の新規な忌避剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
アミリスオイルが消臭性効果を有することは既に知られているが、害虫忌避性に関しては全く知られていない。本発明者らは害虫忌避活性の強い物質を鋭意検討しているうち、天然植物精油であるアミリスオイルが食品害虫、不快害虫、衛生害虫、衣類害虫、木材害虫に対して害虫忌避活性に優れているとの知見を得、さらにこの忌避作用が消臭により餌の誘因効果を減弱させることに起因する間接的な作用ではなく、害虫に対する直接的作用であることを確認して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アミリスオイルを単独で、または目的に応じて、他の天然植物精油および/または精油成分と組み合わせて、必要に応じて界面活性剤、保留剤、担持剤、抗菌剤、香料、比重調整剤、粘度調整剤、沈降防止剤、低級アルコール等を添加することにより、容易に防虫忌避剤を得ることができる。当該防虫忌避剤は、印刷用インキに添加して防虫忌避活性印刷用インキとする他、スプレー、ゲル、ワックス等任意の剤形で安全性の高い防虫忌避剤として広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
アミリスオイルは一切の添加剤を加えずそのもの単独で忌避剤として使用することが可能であるが、よく、使用方法、利便性、コスト、持続性等からそれぞれの用途に適した剤形にすることが望ましい。本発明の忌避剤は、必要に応じて、アミリスオイルに界面活性剤、保留剤、担持剤、抗菌剤、香料、比重調整剤、粘度調整剤、沈降防止剤、低級アルコール等を添加し、スプレー液、含浸コート剤、印刷インキ、ゲル、合成樹脂、ワックスおよび粘着剤等任意の剤形とすることができる。
【0011】
例えば、防虫忌避活性印刷用インキを製造する場合は、アミリスオイルまたはアミリスオイルを含む分散液を市販されている印刷用インキと混合すればよい。ここで用いられるインキは、当分野で通常用いられるインキであれば特に限定されない。印刷方式としては平板印刷、凸版印刷、凹版印刷が知られていて、主な印刷用インキとして平板インキ、グラビアインキ、樹脂凸版フレキソインキ、シルクスクリーンインキ、新聞インキがあり、特殊なものではインクジェット用インキ、EB(エレクトロンビーム)硬化フレキソインキ等もあるが、特に限定はされない。
これらインキは溶剤の違いによって水、アルコールを使用する水性インキとトルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸n−プロピル、イソプロピルアルコール等の有機溶剤を使用する油性インキに大別される。しかしながら、環境・安全・健康面より環境対応型インキと呼ばれるアロマフリー(芳香族系溶剤を含まない)インキが望ましく、例えば大豆油インキ、ノンVOC(揮発性有機化合物を含まない)インキ、ノントルエン(アロマフリー)インキ、水性インキ、グリコールインキ、UV(紫外線硬化型)インキが例示される。これらのインキにアミリスオイル及び必要に応じて他の精油或いは精油成分を添加した忌避活性成分を混合することにより防虫忌避活性印刷用インキが製造される。
【0012】
防虫忌避活性インキが利用される素材としては、一般紙類、段ボール、包装ケース、アルミフィルムラミネートシート、不織布、プラスチック成形品類、軟包装用プラスチックフィルム類、木材類、金属類等の印刷が可能なものであれば特に制限はない。
適用分野には、食品害虫類忌避用途として、食品包装材に印刷した段ボール、カートンケース、菓子箱、ストレッチフィルム、シュリンクフィルム、インスタント食品包装フィルム、穀物・穀物製粉・配合飼料用重袋、或いは食器棚等に使用される防虫キッチンシート等がある。また、衣類害虫忌避用途として、衣類・寝具の包装材、収納ボックス、衣類ケース、ふとん袋等がある。また、衛生害虫忌避用途として不織布に印刷した防ダニ畳用シート、防ダニカーペット等がある。その他の害虫忌避用途としてエアコンフィルターに印刷すれば室内防虫性を得ることができる。
【0013】
印刷用インキに直接アミリスオイル及び他の精油或いは精油成分を添加する方法も可能であるが、多色インキに対応することは技術的、コスト的に問題が生じることもある。その対策として、UVインキ、油性インキ、水性インキ、で通常印刷した表面にアミリスオイル及び必要であれば精油或いは精油成分を添加した透明性のニスをオーバーコートすることにより防虫忌避活性印刷物が得られる。
アミリスオイル及び必要であれば他の精油或いは精油成分と界面活性剤、保留剤、抗菌剤を添加して、防虫忌避活性スプレー液を得ることができる。又、エタノール等の低級アルコールを添加してもよい。
当該防虫忌避活性スプレーの用途としてゴキブリ、アリ、ダニ、蚊、ハエ類、チャタテムシ等の忌避剤として、台所等の家屋内或いは出没エリアにおいて忌避活性スプレー液をスプレーして忌避効果を得ることができる。
【0014】
含浸コート忌避剤は、含浸紙等の紙類、天然ゼオライト若しくは合成ゼオライト、シリカ、珪酸カルシウム等の担持剤に含浸コート液を用いて含浸または表面コートさせることによって製造することができる。ここで含浸コート液は、アミリスオイル及び必要に応じて他の精油もしくは精油成分と担持剤を少量ずつ混合し、界面活性剤、保留剤を加えて必要に応じて固着剤とし、水性アクリルオーバーコートニス或いは各種の水性アクリルメジウム、水性ポリエステルメジウム及び、担持剤としてマイクロカプセル又はサイクロデキストリン等を添加し、水を加えてホモディスパー(プライミックス(株))で攪拌することにより得られる。
含浸コート忌避剤は一部が開放可能な容器に収容するか、或いは通常の不織布、又は厚さ20μ程度のPEフィルムをラミネートした、忌避剤成分が適度に透過する不織布に収容しても忌避性能に悪影響はなく使用できる。これらの透過性材質に収容した場合は、更にアルミパック或いは耐透過性フィルムの袋に入れて密封し、使用時まで二重包装することが望ましい。
【0015】
また別の方法として、用時に部分的に開封可能なアルミパック或いは耐透過性フィルムの袋に入れて密封包装する方法もある。耐透過性フィルムの袋の例として12μPET、15μPE、7μアルミニウム、50μPEフィルムをラミネートした材料の袋は、使用時に開封するまで忌避活性成分を透過することなく保存ができる。これらは使用時に取り出し、又は部分開封して害虫の出没エリアに1箇所又は数箇所に置き、忌避剤として使用することができる。含浸コート忌避剤は、ゴキブリ、アリ、ダニ、蚊、ハエ類、チャタテムシ、コクゾウムシ、コイガ等の忌避剤として好適に用いられるが、これらに限定されない。
ゲル忌避剤もまた、ゴキブリ、コクゾウムシ、ダニ、蚊、ハエ類、コイガ等の忌避剤として、好適に用いられる。これらのゲルの製造においては、ゲル化剤として、カラギーナン、ジェランガム、ローカストビーンガム等を用いる方法、又高吸水性樹脂を用いる方法等がある。これらのゲル忌避剤はプラスチックス製又はガラス製の容器に入れて、使用時に蒸散孔を開口して忌避剤を蒸散させて用いることができる。
【0016】
本発明に従い、アミリスオイル及び必要であれば他の精油或いは精油成分を、通常使用されるワックスに添加して、防虫忌避効果を有するワックスを得ることもできる。ここで使用されるワックスは通常市販されているフロアー用、家具用等の水性又は固形ワックスであればよく、特に制限はない。
上記の各剤形中のアミリスオイルの添加量は0.01%〜30%であり、更に好ましくは0.05%〜20%である。
また、アミリスオイルに加えて他の天然植物精油および/または精油成分を使用する場合の全添加量は0.1〜50%である。
またアミリスオイルを布、不織布に含浸したもので、床、テーブル等拭った後、乾燥した面においても忌避効果が得られる。
【0017】
(アミリスオイルと併用される精油)
天然植物精油は植物の全草、花、枝葉、実、果皮、樹皮、球根、根茎、木材チップを原料として水蒸気蒸留、溶剤抽出、圧搾等によって製造されるものや直接樹木に穴をあけて採取する方法等で製造される。本発明において、アミリスオイルと適宜組み合わせて使用される天然植物精油としては、アニス油、スターアニス油、イランイラン油、ウイキョウ油、エレミ油、オークモス油、オレンジ油、オレンジフラワー油、ガイアックウッド油、カシア油、カユプテ油、カラシ油、カルダモン油、ガーリック油、カモミール油、キャットニップ油、グレープフルーツ油、クローブ油、コパイバオイル、コリアンダー油、サンダルウッド油、シダーウッド油、シトロネラ油、シナモン油、ジンジャー油、スペアミント油、ゼラニウム油、タイムホワイト油、タイムレッド油、ティツーリー油、トルーバルサム油、ニーム油、ネロリ油、パイン油、バジル油、パチョウリ油、ハッカ油、パルマローザ油、ヒバ油、ベチバー油、ブラックペッパー油、ペパーミント油、ペニーロイヤル油、ペルーバルサム油、ベルガモット油、マンダリン油、ミント油、ラベンダー油、レモングラス油、レモンユーカリ油、ローズマリー油、ローレル油、ユーカリ油、ワームウッド油等が例示される。
【0018】
(アミリスオイルと併用される精油成分)
精油成分は、天然植物精油から分留、分離、化学処理などを行って製造されるものや有機合成法で製造されるものがある。本発明において、アミリスオイルと適宜組み合わせて使用される精油成分としては、例えば、アセチルセドレン、アニスアルデヒド、アネトール、安息香酸メチル、イソチオシアン酸アリル、オイゲノール、オクチルアルデヒド、カフェイン、カプサイシン、カリオフィレン、カリオフィレンオキサイド、カルバクロール、カンファー、キャラウェー、クミンアルデヒド、桂皮アルコール、ゲラニオール、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、サーフロール、サンタロール、シトラール、シトロネロール、シトロネラール、シンナミックアルデヒド、シンナミックアシッド、シンナミルアルコール、チモール、ツヨン、テルピネン、バニリン、パチュリアルコール、プレゴン、ベチベロール、ペリルアルデヒド、ベンジルアルコール、ベンジルアセテート、メチルチャビコール、メチルイソオイゲノール、メチルオイゲノール、リナロール、ネロール、ネロリドール、α−ピネン、β−ピネン、d−リモネン、l−メントール、サリチル酸メチル、d−カルボン、l−カルボン、1−8シネオール、テルピネン−4−オール、p−メンタン等が例示される。
【0019】
(界面活性剤)
乳化または可溶化するために添加する界面活性剤は食品添加物基準、飼料添加物基準、化粧品原料基準、化粧品品種別配合成分規格等に適合する安全性の高い非イオン性界面活性剤が望ましい。非イオン性界面活性剤にはエーテル型、多価アルコールエーテル型、エステル型、多価アルコールエステル型があり、特に多価アルコールエステル型のショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが好ましい。
(保留剤)
忌避成分および香料の蒸散速度を遅らせて忌避効果の持続性を保つ蒸散遅延剤として添加される保留剤には、水溶性多価アルコールのグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1.3ブチレングリコール等がある。他にステアリン酸グリセリド類、流動イソパラフィン等も使用できる。またこれらの中には精油の乳化剤および/または溶剤としての作用があるものもある。保留剤は必要に応じて任意に添加される。
【0020】
(担持剤)
忌避成分、香料の蒸散速度を遅くして忌避成分よりなる液剤の持続性を延ばす目的で担持剤が使用される。また、忌避成分よりなる液剤を粉体、粒状、固形の剤形とすることもできる。
無機物粉体・粒状物質として多孔質シリカマイクロカプセル、サイクロデキストリン、ゼオライト、珪藻土、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、活性炭等があり、これらのものは多孔質構造、大きな比表面積を有して忌避剤を含浸、吸着させることにより忌避効果の持続性を得るものである。
また、天然パルプ、コットンリンター等の天然素材からなる含浸紙も忌避活性成分を吸水して保液することにより担持剤として用いることができる。
剤形を決定する以外の担持剤は必要に応じて添加され、使用にこだわるものではない。
持続性を得る方法としては上記の保留剤や担持剤を添加する方法の他、忌避成分をゲルとする方法や含浸紙にコートする方法がある。また、蒸散性を適度に抑える手法も知られている。
【0021】
(抗菌剤)
グレープフルーツ種子抽出物はサルモネラ菌、大腸菌等の多種の細菌類に対して殺菌および/または菌発育防止効果があり、安全な天然抗菌成分としてスプレー液、ゲル等に必要に応じて添加される。
上記の添加物は食品添加物基準、飼料添加物基準、化粧品原料基準、化粧品品種別配合成分規格等に適合する安全性の高いものが望ましい。
アミリスオイル及び他の精油或いは精油成分を乳化、可溶化する際に保留剤、界面活性剤、担持剤、粘度調整剤等を添加して乳化又は分散液とする方法、或いはアミリスオイルを直接、基材に添加することによりスプレー液、含浸コート剤、印刷インキ、ゲル、ワックス、粘着剤として製剤化することができる(後記実施例参照)。
【実施例】
【0022】
試験例1 チャバネゴキブリ忌避試験
(1)供試験体
アミリスオイルを有機溶剤アセトンに溶解し(濃度:0.05、0.5、1、5および/または10%)、厚さ0.2mmの上質紙に含浸させて風乾して検体シートを作成した。アミリスオイル溶解アセトン液の上質紙含浸量は各試験濃度で60g/1m当たりである。対照としてアセトンのみに浸漬した上質紙を風乾してブランクシートとした。
(2)試験方法
餌(ビスケット片1個)と水を供給したプラスティック製の円筒状容器(底面φ29×15cm)容器の底面直径上に、上記検体シート(φ10cm)およびブランクシート(φ10cm)を均等に貼付し、両試験エリアを2箇所の出入り口(2×1cm)を設けたステンレス製シェルター(開口面φ12×5.5cm)で被覆したものを、試験装置とした(後記図1参照)。試験エリアとなるシェルター内への虫体移動要因として、ゴキブリの負の走光性(光から隠れようとする性質)を利用するため、常時明期条件下に曝して試験を実施した。雌成虫・雄成虫・幼虫を各10個体、合計30個体を供試虫とし、両試験エリアから同一距離に位置する場所に投入した。なお、円筒容器側面にはゴキブリ脱出防止のため、タルク粉を塗布した。25℃程度の室温下で24時間放飼した後、両試験エリア内で静止している虫体数を記録し、下式(I)に従って忌避率を算出した。
【数1】

Ev :忌避率(%)
Csi :ブランク側シェルターへの各侵入個体数
Tsi :検体側シェルターへの各侵入個体数
n:試験の繰り返し数(n=5)
(3)試験結果
後記表1参照。
【0023】
試験例2 クロゴキブリ
(1)供試験体
上記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
餌として、実験動物用飼料ペレット1個を用いる他は上記試験例1と同じ試験装置を用いた。試験例1と同様、常時明期条件下に曝して試験を実施した。雌成虫・雄成虫・幼虫を各5個体、合計15個体を供試虫とし、両試験エリアから同一距離に位置する場所に投入した。25℃程度の室温下で24時間放飼した後、両試験エリア内で静止している虫体数を記録し、試験例1と同様にして忌避率を算出した。
(3)試験結果
後記表1参照。
既に記載の通り試験例1および2では、ゴキブリの負の走光性を利用して忌避作用を判定しており、消臭作用は関与していない。念のため、餌を入れないで同じ試験を実施してもアミリスオイルの忌避作用は全く影響を受けなかった。
【0024】
試験例3 ショウジョウバエ忌避試験
(1)供試験体
ゼオライトにアミリスオイルのアセトン希釈液を浸漬処理し、24時間放置後、メッシュ袋に詰めて供試験体とした。同様にアセトンのみで処理してブランクとした。
(2)試験方法:
野外でショウジョウバエ類の飛翔の認められる場所で、試験を実施した。試験装置には、市販される2リットルペットボトル入り清涼飲料水の空きボトルを加工したトラップ型容器を用いた。ショウジョウバエトラップを作成するにあたり、東京都立大学生命科学コースHPの「ショウジョウバエのページ」(http://dept.biol.metro-u.ac.jp/fly/www/index.html)を参考にした。ペットボトル(全長30cm)の注ぎ口から13cm程下でボトルを二つに切り分け、下半分の容器内には誘引餌として野菜屑を配置した。なお、検体区のトラップの内側には忌避剤を浸漬処理したゼオライトを、ブランク区のトラップの内側には無処理のゼオライトを封入した樹脂製メッシュ袋(4×5cm)を、針金で吊るした。注ぎ口のある上部分は逆さにし、漏斗状になるようにして下部分の容器に隙間なくはめ込み、 これを試験装置とした(後記図2参照)。一定期間後、試験装置を社内に持ち帰り、検体側とブランク側のハエの侵入数を記録し、前記式(I)により忌避率を算出した。
但し、各変数は以下のとおりである。
Ev :忌避率(%)
Csi :ブランク区トラップへの各侵入個体数
Tsi :検体区シェルターへの各侵入個体数
n:試験の繰り返し数(n=2)
(3)試験結果
後記表1参照。
【0025】
試験例4 ノシメマダラメイガ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法
試験容器のガラス製シャーレ(内径φ9.4×1.5cm)の底面全面に、半円形(φ9.3cm)の検体下敷とブランク下敷を、境界部で約1mm幅のスペースが空くように貼付した。忌避剤処理済の検体シートと無処理のブランクシートの境界部から等距離になる場所に、誘引餌(フスマ)0.2gを置いた(後記図3参照)。ノシメマダラメイガ3〜4齢幼虫30個体を、1個体ずつ下敷の境界部中央に、胴部が沿うように供試し、両試験エリアへの移動を選択させた。誘引餌に向けての移動が確認できた時点で、虫を取り除き新しい個体を供試し、これを30回繰り返した。両試験エリアへの移動体数を記録し、前記式(I)により忌避率を算出した。
但し、各変数は以下のとおりである。
Ev :忌避率(%)
Csi :ブランク側への各移動確認数
Tsi :検体側への各移動確認数
n:試験の繰り返し数(n=30)
(3)試験結果
後記表1参照。
【0026】
試験例5 コイガ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法
プラスティック製容器(縦80mm×幅180mm×高さ65mm)の両側底面に、忌避剤処理済の検体シート及び無処理のブランクシート(80×40mm)を貼付した。半円形(φ7mm)の出入り口を設けた仕切り板により、両端の検体区、ブランク区と中央の供試虫投入エリアに区切った。検体区・ブランク区に誘因餌として羊毛を配置した後、天面にも仕切り板を被せ、検体区及びブランク区をシェルター状にした。中央区画の供試虫投入エリアにコイガ幼虫を10個体供試した(後記図4参照)。飼育中のコイガ幼虫は吐糸と餌粉末で綴られた筒状の巣の中に潜んでいるため、供試する際には巣から取り出して虫体のみを投入した。なお脱出防止のため、容器上面はメッシュなどで被覆した。25℃程度、常時暗期下で24時間放飼した後、両試験エリアに分布する虫体数を記録し、前記式(I)により忌避率を算出した。
但し、各変数は以下のとおりである。
Ev :忌避率(%)
Csi :ブランク側シェルターへの各侵入個体数
Tsi :検体側シェルターへの各侵入個体数
n:試験の繰り返し数(n=5)
【0027】
試験例6 コクゾウムシ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
ガラス製シャーレ(内径φ9.4×1.5cm)の底面全面に、半円形(φ9cm)の忌避剤処理済の検体シートおよび無処理のブランクシートを重ならないように貼付した。両試験エリア中央に誘引餌(小麦8粒)を配置した。また虫による小麦持ち運び防止のため、5mm画の出入り口を2箇所開けた樹脂性円筒型シェルターにより小麦配置箇所を被覆した(後記図5参照)。雌雄関係なく10個体を供試虫として用い、両試験エリアから同一距離に位置する場所に投入した。なお、シャーレ側面にはゾウムシ脱出防止のため、タルク粉を塗布した。25℃程度、常時暗期下で24時間放飼した後、両試験エリアのシェルター内で静止している虫体数を記録し、試験例5と同様にして忌避率を算出した。
(3)試験結果
後記表1参照。
【0028】
試験例7 チャタテムシ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
ガラス製シャーレ(内径φ9.4×1.5cm)の底面全面に、半円形(φ9cm)の忌避剤処理済の検体シートおよび無処理のブランクシートを重ならないように貼付した。また正方形(5×5cm)の検体シートおよびブランクシートを折り幅5mmのジャバラ形のシェルターに成形し、忌避試験対象側の面を上側にして、各試験エリア上の中央部に配置した。各シェルターの中央上面に誘因餌として実験動物用飼料粉末0.5gを置き、約50個体のチャタテムシをシャーレの中央部に供試した(後記図6参照)。なおチャタテムシ脱出防止のため、シャーレはメッシュで被覆した。25℃程度、常時暗期下で24時間放飼した後、両試験エリアに分布する虫体数を記録し、前記式(I)により忌避率を算出した。
但し、各変数は以下のとおりである。
Ev :忌避率(%)
Csi :ブランク側への各移動個体数
Tsi :検体側への各移動個体数
n:試験の繰り返し数(n=5)
(3)試験結果
後記表1参照。
【0029】
試験例8 ヒメカツオブシムシ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
プラスティック製容器(縦80mm×幅180mm×高さ65mm)の両側底面に、忌避剤処理済みの検体シート及び無処理のブランクシート(80×40mm)を貼付した。半円形(φ7mm)の出入り口を設けた仕切り板により、両端の検体区、ブランク区と中央の供試虫投入エリアに区切った。検体区・ブランク区に誘因餌として羊毛を配置した後、天面にも仕切り板を被せ、検体区及びブランク区をシェルター状にした(後記図7参照)。中央区画の供試虫投入エリアにヒメカツオブシムシ幼虫を10個体供試した。25℃程度、常時暗期下で24時間放飼した後、両試験エリアに分布する虫体数を記録し、試験例5と同様にして忌避率を算出した。
(3)試験結果
後記表1参照。
【0030】
試験例9 コナナガシンクイ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
ガラス製シャーレ(内径φ9×2cm)の底面全面に、半円形(φ8.8cm)の忌避剤処理済の検体および無処理のブランクを重ならないように貼付した。それぞれの試験エリア中央に誘引餌(小麦10粒)を配置した。また虫による小麦持ち運び防止のため、5mm画の出入り口を2箇所開けた樹脂性円筒型シェルターにより小麦配置箇所を被覆した(後記図8参照)。雌雄関係なく10個体を供試虫として用い、両試験エリアから同一距離に位置する場所に投入した。なお、コナナガシンクイの飛翔による脱出防止のため、シャーレには蓋をした。25℃程度、常時暗期下で24時間放飼した後、両試験エリアのシェルター内で静止している虫体数を記録し、試験例5と同様にして忌避率を算出した。
(3)試験結果
後記表1参照。
【0031】
試験例10 ガイマイゴミムシダマシ忌避試験
(1)供試験体
アキレス(株)製ウレタン断熱材(40×50×20mm)にアミリスオイルのアセトン希釈液を表面に1.5g塗付して24時間室内で風乾し試験体とした。同様にアセトンのみを塗布して風乾したブランクを作製した。
(2)試験方法:
プラスティック製容器(縦80mm×幅180mm×高さ65mm)の両側に、忌避剤処理済みのウレタンフォーム(検体区)と無処理のウレタンフォーム(ブランク区)を1片(縦40mm×幅50mm×高さ20mm)づつ配置し、底面を両面テープで固定した。試験容器中央部には、グラハムと魚粉を4:1の割合で混合した餌と吸水用の水を供給し、試験期間中に水分の干上がりの確認される場合は随時水を補給した(後記図9参照)。供試虫には、老齢幼虫を10個体使用し容器中央部に投入した。全暗状態、25℃程度の室温下で、2週間放飼した後、両ウレタンフォーム表面に対する穿孔痕数を記録し、前記式(I)により忌避率を算出した。
但し、各変数は以下のとおりである。
Ev :忌避率(%)
Csi :ブランク区の穿孔痕数
Tsi :検体区の穿孔痕数
n:試験の繰り返し数(n=5)
(3)試験結果
後記表1参照。
【0032】
試験例11 アリ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
野外でアリの生息の認められる場所で、試験を実施した。地面に残存するアリの道しるべフェロモンやその他の匂いが、忌避試験に極力影響を及ぼさないよう、清潔な下敷(上質紙を使用)上に、試験装置を設置した。1枚の下敷上の試験装置は、1基とした。
忌避剤処理済みの検体(φ10cmの円形シート)またはブランク(φ10cmの検体と同材質の無処理品)を下敷中央に配置し、陶器製のシェルター(φ10cm)で被覆した。なお、シェルターを被覆する際、シェルターの縁4ヶ所に支え棒(割り箸や竹串など)を挟んで浮かせ、アリの侵入口とした。そしてシェルター内の検体・ブランク上に誘引餌(角砂糖1個)を置いたものを試験装置とした(後記図10参照)。一定時間後における検体側とブランク側のアリの侵入数を記録し、試験例1と同様にして忌避率を算出した。
(3)試験結果
後記表1参照。
【0033】
試験例12 コナヒョウダニ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
JISL1920に規定されるダニ侵入阻止法に準じ、試験装置の準備やダニ飼育・密度の調整等を行った。供試するダニ培地は、ダニの生存数が多く培地からダニの這い出しが十分に確認できるものを選び、供試の際にはよく攪拌した。
小型ガラス製シャーレ(内径φ4.2cm×1.5cm)の底に、試験体となる忌避剤処理済みの検体シート(φ4cm)または無処理のブランクシート(φ4cm)を敷き詰めたものを、個々に密閉容器に入れて8時間以上静置した。その後シャーレ内の試験体中央部(直径10mmの範囲内)に誘引餌0.05gを設置し、生存ダニ数が10000匹になるように調整したダニ培地を均一にばらまいた大型ガラス製シャーレ(内径φ9cm×2cm)の中央に重ね置いたものを試験装置とした(後記図11参照)。なお、誘引餌には篩いがけを行った実験動物用飼料粉末と乾燥酵母とを質量比1:1で混合したものを使用した。検体用試験装置とブランク用試験装置を別々の密閉容器(容器内:温度25℃、相対湿度75%、全暗条件化)に入れ、24時間静置後の小型シャーレ内に侵入した生存ダニ数を計測し、前記式(I)により忌避率を算出した。
但し、各変数は以下のとおりである。
Ev:忌避率(%)
Csi:ブランクへの各侵入ダニ数
Tsi:検体への各侵入ダニ数
n :試験の繰り返し数(n=5)
(3)試験結果
後記表1参照。
【0034】
試験例13 ヒトスジシマカ忌避試験
(1)供試験体
前記試験例1に同じ。
(2)試験方法:
上部の開口部をメッシュで被覆した樹脂製容器(縦60cm×幅30cm×高さ35cm)を用意し、その容器底面の両端付近にガラス製シャーレ大サイズ(内径φ9.4×1.5cm)を配置した。一方のシャーレに薬剤処理済の検体シート(φ9cm)を、もう一方には無処理のブランクシート(φ9cm)を敷いた。それぞれのシャーレ中央に、カの誘引餌となる5%砂糖水2gを含浸させた清潔な脱脂綿シート(3×3cm)を入れたシャーレ小サイズ(φ4.7cm×1.5cm)を載置き、これを試験装置とした(後記図12参照)。この試験装置内に6時間程絶食させたヒトスジシマカ100個体(雌雄無選別)を供試し、2時間内に、検体エリアおよびブランクエリア(誘引餌入りの小型シャーレだけではなく、試験体を敷いている大サイズシャーレ内を含む)において、カの静止が確認できた述個体数を記録し、下式(II)に従って忌避率を算出した。
【数2】

Ev:忌避率(%)
B:ブランクエリアで静止が確認できた述個体数
A:検体エリアで静止が確認できた述個体数
(3)試験結果
試験例1〜13の結果をまとめて下記の表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
試験例14 イエシロアリ忌避試験
(1)供試験体
半月状にカットした上質紙をアミリスオイルのアセトン希釈液(濃度1%)に含浸し、24時間室内で風乾し試験体(アミリスオイル量0.6g/m2)とした。同様にアセトンのみに含浸した上質紙を風乾してブランクを作製した。
(2)試験方法:
「(社)日本木材保存協会規格第11号(1992)塗布・吹付け・浸せき処理用木材防蟻剤の防蟻効力試験方法(1)室内試験方法」に規格される、「4.1接触試験」を参考にし、下記の方法で忌避試験を実施した。
ガラス製シャーレ(内径φ6cm×高さ1.8cm)の底面の直径部分に、両面テープで試験体とブランクを5mm離して貼り付けた。即ち、幅5mmの溝ができるように、一方の半円部全面に忌避剤処理済の検体上質紙を、もう一方の半円部全面に無処理のブランク上質紙を貼付したものを試験装置とした(後記図13参照)。巣から無作為に取り出したイエシロアリの職蟻10個体を試験装置中央に設けた溝部分に供試し、蓋をした。試験装置を 28±2℃、常時暗期下に14日間静置し、1日目は2時間毎に8時間、2日目以降は24時間毎に、両試験エリアに分布する虫体数を記録し、前記式(I)に従って忌避率を算出した。
但し、各変数は以下の通りである。
Ev :忌避率(%)
Csi :ブランクへの移動数
Tsi :検体への移動数
n :試験の繰り返し数(n=3)
また観察毎の忌避効果の確認とともに、シロアリの健康状態を「健康」「転倒」「死亡」に分類して記録し、下式により死虫率の算出もおこなった。
【数3】

M :死虫率(%)
Di:職蟻の死亡数
n :試験の繰り返し数(n=3)
試験体である上質紙に対する活動反応を確認する場合、14日目における穿孔状況を記録しておいた。なお試験装置内の乾燥予防のため、観察毎に両試験エリアに適当な水分の補給を行った。
(3)結果
試験結果を下記の表2に示す。
【表2】

表に示すとおり、アミリスオイルには殺虫剤のような速攻的な殺虫効果は無いが、高い忌避性が認められた。また、この試験では、餌は与えない過酷な試験条件であるため、イエシロアリはブランク上質紙を食害したが、アミリスオイルを塗付した試験体は食害されていなかった。
【0037】
試験例15 忌避活性水性フレキソインキの忌避試験
(1)供試験体
後記実施例1〜3の水性フレキソインキを用いて、上質紙にバーコーターで印刷した(印刷インキの量10g/m)。印刷直後のもの(初期品とする)、及び半年促進経時したものについてチャバネゴキブリに対する忌避活性を試験した。
(2)試験方法
前記試験例1と同様。
(3)結果
下記の表に示した。
【表3】

試験結果より、半年経時品においても高い忌避活性を示すことが明らかである。忌避活性インキ印刷物の匂いは実施例1では、極僅かにウッディーな匂いであり、実施例2、3においても僅かにミント臭がするのみであり、食品包装材、衣類包装材に使用しても匂い移り等の問題もなく、又、室内の使用においても何ら問題とならない匂いであった。
【0038】
試験例16 忌避活性スプレー剤の忌避試験(1)
(1)供試験体
後記実施例4〜6で製造したスプレー剤0.3〜0.5gを直径10cmの上質紙にスプレー塗付してこれを風乾したものについてチャバネゴキブリに対する忌避活性を試験した。
(2)試験方法
前記試験例1と同様。
(3)結果
下記の表に示した。
【表4】

試験結果より、本発明のスプレー剤を噴霧した検体は極めて高い忌避活性を示すことが分かる。忌避活性スプレーの匂いは実施例4では、極僅かにウッディーな匂いであり、実施例5、6においても僅かにミント臭がするのみであり、台所、室内等の使用においても何ら問題とならない匂いであった。
【0039】
試験例17 忌避活性スプレー剤の忌避試験(2)
(1)供試験体
後記実施例7〜9で製造したスプレー剤0.3〜0.5gを直径10cmの上質紙にスプレー塗付してこれを風乾したものについてアリに対する忌避活性を試験した。
(2)試験方法
前記試験例11と同様。
(3)結果
下記の表に示した。
【表5】

忌避試験より、実施例7、8および9のスプレー剤を噴霧した検体は高いクロアリ忌避活性を示した。
忌避活性スプレーの匂いは実施例7では、極僅かにウッディーな匂いであり、実施例8、9においても僅かに桂皮油臭がするのみであり、室内等の使用においても何ら問題とならない匂いであった。
【0040】
試験例18 含浸コート剤の忌避試験(1)
(1)供試験体
後記実施例10〜12の含浸コート液にてゼオライトを含浸処理し、得られた含浸処理コート剤3.5gをメッシュの袋に入れたものを試験容器の上部から吊り下げた。同様にブランクは無処理のゼオライトを用いた。
(2)試験方法
前記の試験例3に従ってコバエ類に対する忌避活性を試験した。誘引餌としてはキャベツ90gを入れた。本試験ではコバエ類としてショウジョウバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類が観察され、ブランクにはこれらのコバエと少数のクロバエが確認された。
(3)結果
下記の表に示した。
【表6】

実施例10、11および12の忌避活性含浸コート液で含浸処理したゼオライトでは高い忌避活性が認められた。忌避活性含浸コート液の匂いは実施例10では、僅かにウッディーな匂いであり、実施例11、12はラベンダー臭であり、使用上何ら問題とならない匂いである。
【0041】
試験例19 含浸コート剤の忌避試験(2)
(1)供試験体
後記実施例13〜15の含浸コート液0.1〜0.2gにて厚さ2mm、1×1cmにカットした上質紙を含浸処理し、得られた含浸紙を試験した。同様にブランクは無処理の含浸紙を用いた。
(2)試験方法
前記の試験例5に従ってコイガに対する忌避活性を試験した。
(3)結果
下記の表に示した。
【表7】

実施例13、14および15の忌避活性含浸コート液で処理した検体では高い忌避活性が認められた。忌避活性含浸コート液の匂いは実施例13では、僅かにウッディーな匂いであり、実施例14および15はラベンダー臭であり、使用上何ら問題とならない匂いである。
【0042】
試験例20 ゲル剤の忌避試験(1)
(1)供試験体
後記実施例16〜18で調製したゲル剤の中から、初期品として未開封容器及び開封後2ヶ月経過した容器より各ゲル0.5gをシャーレに取り試験を行った。
(2)試験方法
前記試験例1に従ってチャバネゴキブリに対する忌避活性を試験した。
(3)結果
下記の表に示した。
【表8】

カラギーナンゲルの実施例−16、−17、−18では高い忌避活性が認められた。
ゲルの匂いは実施例16では、僅かにウッディーな匂いであり、実施例17はハッカ臭、18はハッカ臭に僅かにシナモン臭が混ざった匂いであり、使用上何ら問題とならない匂いであった。
【0043】
試験例21 ゲル剤の忌避試験(2)
(1)供試験体
後記実施例19〜21で調製したゲル剤の中から、初期品として未開封容器及び開封後2ヶ月経過した容器より各ゲル0.5gをシャーレに取り試験を行った。
(2)試験方法
前記試験例1に従ってチャバネゴキブリに対する忌避活性を試験した。
(3)結果
下記の表に示した。
【表9】

高吸水性樹脂ゲルの実施例19、20および21においても、カラギーナンゲルと同様に高い忌避活性が認められた。又、ゲルの匂いも同様に実施例19では、僅かにウッディーな匂いであり、実施例20はハッカ臭、実施例21はハッカ臭に僅かにシナモン臭が混ざった匂いであり、使用上何ら問題とならない匂いであった。
【0044】
試験例22 ワックス剤の忌避試験(1)
(1)供試験体
直径4cmの上質紙を後記実施例22〜24のワックス剤0.1〜0.2gにて塗工して
風乾させたもの、及び2ヶ月間室内放置したものを検体とした。
(2)試験方法
前記の試験例12に従ってコナヒョウヒダニに対する忌避活性を試験した。
(3)結果
下記の表に示した。
【表10】

実施例22、23および24の忌避活性水性ワックスを塗工した検体では、初期品および2ヶ月経過後のいずれも高い忌避活性が認められた。また、忌避活性水性ワックスの匂いは実施例21では、僅かにウッディーな匂いであり、実施例22はハッカ臭、実施例23はハッカ臭に僅かにシナモン臭が混ざった匂いであり、使用上何ら問題とならない匂いであった。
【0045】
試験例22 ワックス剤の忌避試験(2)
(1)供試験体
直径10cmの上質紙に実施例22〜24の水性ワックス忌避剤を0.5〜0.6g塗工して風乾させたもの、及びこれを2ヶ月間室内放置したものについて試験した。
(2)試験方法
前記試験例1に従って、チャバネゴキブリに対する忌避活性を試験した。
(3)結果
下記の表に示した。
【表11】

実施例22、23および24の忌避活性水性ワックスを塗工した検体では、初期品および2ヶ月経過後のいずれも高い忌避活性が認められた。
【0046】
実施例1〜3 忌避活性水性フレキソインキの製造
アミリスオイル及び他の精油或いは精油成分と保留剤、マイクロカプセルを混合し、これに少量ずつ界面活性剤を加えて攪拌し、更に精製水を加えて全量を100とし、ホモディスパー(プライミックス(株))で混合攪拌し、5倍希釈用の50%コンク分散液1〜3を得た。
【表12】

【0047】
一方、固着剤の水性アクリル系樹脂(ツインコートF)および精製水に増粘剤(ニトロセルロース)を少量ずつ加えながら増粘した水性アクリル系インキを得た。上記50%コンク分散液に増粘した水性アクリル系インキを加えて4倍に希釈し、ホモディスパー(プライミックス(株))で混合攪拌して水性フレキソインキを製造した。
【表13】

【0048】
実施例4〜6 スプレー剤の製造(1)
アミリスオイル及び他の精油若しくは精油成分に界面活性剤および保留剤を混合し、次に抗菌剤と精製水を添加してホモディスパー(プライミックス(株))で攪拌し、忌避活性スプレー液を製造した。
【表14】

実施例7〜9 スプレー剤の製造(2)
実施例4〜6と同様にして以下の忌避活性スプレーを製造した。
【表15】

【0049】
実施例10〜12 含浸コート液の製造(1)
アミリスオイル及び他の精油または精油成分と保留剤、シリカマイクロカプセルおよびサイクロデキストリンを加えて混合し、次いで少量ずつ界面活性剤を加えて攪拌し、更に固着剤と精製水を加えて全量を100とし、ホモディスパー(プライミックス(株))で混合攪拌して30%含浸コート液を得た。
【表16】

【0050】
実施例13〜15 含浸コート液の製造(2)
アミリスオイル及び他の精油或いは精油成分と担持剤及び保留剤、増粘剤を加えて全量を100とし、ホモディスパー(プライミックス(株))で混合攪拌し、30%含浸コート液を得た。
【表17】

【0051】
実施例16〜18 ゲル状忌避剤の製造(1)
アミリスオイル及び他の精油或いは精油成分と界面活性剤、溶剤を撹拌して忌避成分の溶解液を得た。一方、蒸留水を撹拌しながら、通常用いられる酸化防止剤、抗菌剤、ゲル化剤(カラギーナン)を順番に添加し、分散液を得た。この分散液を撹拌しながら90℃まで加熱し、その後、時々撹拌しながら、70℃まで冷却した。冷却後に上記の忌避成分溶解液を添加し、撹拌後得られた溶液80gをPET製芳香消臭剤用の容器に充填し、静置状態で常温まで冷却して、ゲル状忌避剤を得た。
【表18】

【0052】
実施例19〜21 ゲル状忌避剤の製造(2)
上記実施例16〜18記載の方法で下表の分散液19〜21を製造した。
【表19】

次いで上記の方法で製造した各分散液80gに高吸水性樹脂1gの割合で加えてゲル状忌避剤とした(それぞれ実施例19〜21)。高吸水性樹脂としては三洋化成(株)アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物・商品名「サンフレッシュST−500*」を使用した。
【0053】
実施例22〜24
アミリスオイル及び他の精油若しくは精油成分と界面活性剤に、抗菌剤、保留剤を加えて混合し、これを市販のワックス剤「コニシ(株)製水性フロアーポリッシュ 商品名グリーンコート」に添加してホモディスパー(プライミックス(株))を用いて常温で撹拌することにより忌避活性水性ワックスを製造した。
【表20】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の防虫忌避剤は、特有の臭いもなく安全性の高い忌避剤として、害虫一般に対し幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】チャバネゴキブリ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図2A】ショウジョウバエ忌避活性試験を実施するための試験装置を製造する工程を示す図である。切断した上半分のボトルを逆さにして下半分の容器にはめ込む。
【図2B】上記図2Aで製造した装置を用いてショウジョウバエ忌避活性試験を実施している図である。
【図3】ノシメマダラメイガ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図4】コイガ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図5】コクゾウムシ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図6】チャタテムシ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図7】ヒメカツオブシムシ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図8】コナナガシンクイ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図9】ガイマイゴミムシダマシ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図10】アリ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図11】コナヒョウダニ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図12】ヒトスジシマカ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。
【図13】イエシロアリ忌避活性試験を実施するための試験装置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミリスオイルを有効成分とする防虫忌避剤。
【請求項2】
更に天然植物精油成分を添加した請求項1の防虫忌避剤。
【請求項3】
更に精油成分を添加した請求項1または2の防虫忌避剤。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−126486(P2010−126486A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302636(P2008−302636)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(508351808)有限会社バイオ・エコ (1)
【出願人】(594006220)
【Fターム(参考)】